(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態の水位計測装置および水位計測方法ならびに原子力プラントについて図面を参照しながら説明する。
【0011】
(第1の実施形態)
図1は本発明の第1の実施形態にかかる水位計測装置の構成図である。
【0012】
本実施形態にかかる水位計測装置100は、それぞれ測温部50を収納し伝熱物質が充填された水位計測管10、11、12、13、14、15と、発熱手段1に接続されて発熱手段1を発熱させる電源8と、電源8で発熱手段1を発熱させた時の差動型熱電対6の出力を測定して測温部50と水面(液面)との位置関係からその出力を3値に分類し記録する出力測定手段9と、3値の出力から測温部50の気中状態または水中状態(液中状態)の判定と水面が通過した測温部50の判定を行って水面位置(液面位置)を特定する水位特定手段7と、を備える。
【0013】
水位計測管10、11は、計測対象の容器等に測温部50の深さ方向の位置が同一となるように配置される。同様に、水位計測管12、13および水位計測管14、15についても、測温部50の深さ方向の位置が同一となるように配置される。本実施形態においては、水位計測管10、11、12、13、14、15を、測温部50の深さ方向の位置が同一となるように2つずつを対として3つの異なる高さに設けている。このように水位計測管10、11、12、13、14、15を配置することで、深さ方向の位置が同一となる測温部50での計測の信頼性を向上させている。例えば
図1に示すように、水位計測管10、11の測温部50は水面Aの上方に、水位計測管12、13の測温部50は水面Cの上方で水面Bの位置に、水位計測管14、15の測温部50は水面Cの下方に配置される。
【0014】
発熱手段1は電流が流れることでジュール発熱する材料であり、金属発熱体やセラミック発熱体で構成される。例えば、金属発熱体の材料としては、ニッケルクロム線、鉄クロム線などの電熱線、カンタル線、白金線などがある。発熱手段1は水位計測管10、11、12、13、14、15の内部の測温部に配置すればよいが、水位計測管10、11、12、13、14、15の深さ方向の全長にわたって配置してもよい。
【0015】
水位計測管10、11、12、13、14,15の管部は耐熱性や耐食性を持つ金属で構成される。このような金属には、チタン、さらにはクロムやニッケルの合金として、マルテンサイト系、フェライト系、オーステナイト系、析出硬化系のステンレス鋼などが挙げられる。また、水位計測管10、11、12、13、14、15の外側表面に腐食防止のメッキを施してもよい。そして、内部は、電気的絶縁に優れる熱伝導率の高い粉末状物質で充填される。このような粉末物質には、例えば、窒化珪素、窒化アルミ、窒化炭素、マグネシア、アルミナ、チタン酸アルミニウム、シリカ、ジルコニアセラミック等が挙げられる。なお、水位計測管10、11、12、13、14、15の長さや直径、管壁の厚さに特に制約はない。さらに、水位計測管10、11、12、13、14、15の深さ方向および同一深さ位置の設置間隔についても制約はない。
【0016】
電源8は、水位計測管10、11、12、13、14、15の発熱手段1と接続され、発熱手段1に電流を供給する電流源である。電源8は、直流電源や交流電源、パルス電源等で構成される。
【0017】
出力測定手段9は、水位計測管10、11、12、13、14、15の測温部50に設けられる差動型熱電対6と接続され、差動型熱電対6の出力を測定して記憶する記録装置である。出力測定手段9はA‐D変換器を備えた記録装置で構成される。また、出力測定手段9では、水位計測管10、11、12、13、14、15の差動型熱電対6の出力を3値に分類する。分類方法としては、閾値で分類する方法、測定時の相対的強度から分類する方法、予め測定した値から分類する方法、ベースラインからの差分で分類する方法などが挙げられる。
【0018】
水位判定手段7は、出力測定手段9と接続され、水位計測管10、11、12、13、14、15の測温部50に設けられる差動型熱電対6の出力から、すなわち差動型熱電対6の後述する接点の間の温度差に基づいて測定対象の水面の位置を判定する信号処理部である。水位判定手段7は専用のデジタル回路やアナログ回路、汎用のFPGAやPLA、処理ソフトウエアを備えた汎用計算機で構成される。
【0019】
図2は
図1における水位計測管10、11、12、13、14、15の測温部50の構成図である。以下測温部50の構成について
図2を用いて説明する。
図2において、
図1で示した構成要件に対応する構成要件については同一の符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0020】
図2に示すように測温部50には、深さ方向に配線される発熱手段1と、発熱手段1の深さ方向の一部の周囲を周方向に囲む断熱層5と、断熱層5によって周囲を囲まれる断熱部分と断熱層5に周囲を囲まれない非断熱部分の温度差を計測する差動型熱電対6が設けられる。
【0021】
差動型熱電対6は、3つの接点を深さ方向の高い側から、上側の冷接点2、温接点3、下側の冷接点4の順に有し、接点毎に異種金属が結線されるように配線され、温接点3と上側の冷接点2の温度差と、温接点3と下側の冷接点4の温度差に基づき起電力を出力する。本実施形態において温度差計測部を構成する差動型熱電対6は水位計測管10、11、12、13、14、15内の測温部50に配置されることで、測温部50の断熱層5とともに液面の位置を計測しようとする計測対象となる原子炉圧力容器等の容器内の深さ方向に設置される。差動型熱電対6に設けられる3つの接点のうち、中央の温接点3は断熱層5が設置される位置に断熱層5に囲まれて設けられ、温接点3の上下の2つの冷接点の周囲には断熱層が設置されない。
【0022】
差動型熱電対6は接点毎に2種類の異種金属を交互に接続して構成してもよいし、多種の異種金属で構成することもできる。
【0023】
差動型熱電対6としては、B‐Type、R‐Type、S‐Type、N‐Type、K‐Type、E‐Type、J‐Type、T‐Typeなどの公知の種類のものが適用できる。
【0024】
断熱層5は、気体が封入された空間、または熱伝達率が低い材料で構成される。封入される気体には、例えば、キセノン、クリプトン、アルゴン等の希ガス、酸素、窒素、二酸化炭素、或いは空気、エチレンやアセチレンが挙げられる。さらには断熱層5を真空にしてもよい。
【0025】
断熱層5は温接点3と水位計測管壁との間に、水位計測管内の周方向の全周にわたって設けてもよく、あるいは周方向に部分的に設けてもよい。温接点3の熱伝達率は、断熱層5へ封入する気体の種類と量、断熱層5の厚さや周方向の位置などの配置によって決定される。
【0026】
このような構成からなる本実施形態にかかる水位計測装置100の作用について
図3をさらに参照して以下に述べる。
【0027】
図3は第1の実施形態にかかる水位計測装置100の水面位置と出力電圧の関係を示す図である。
図3において、
図1から
図2で示した構成要件に対応する構成要件には同一の符号を付しその詳細な説明を省略する。
【0028】
電源8を一定時間だけ通電して水位計測管10、11、12、13、14、15の測温部50の発熱手段1を発熱させることで、計測対象の容器等の深さ方向に設置された測温部50の断熱層5と温度計測部である差動型熱電対6を一様に加熱する。本実施形態は、測温部50が一様に加熱された時に生じる差動型熱電対6の接点の間の温度差に基づいて計測対象の液面の位置を判定するものである。この判定の詳細について以下に説明する。
【0029】
発熱手段1の発熱時の差動型熱電対6の上側の冷接点2の温度をT
CU、温接点3の温度をT
H、下側の冷接点4の温度をT
CD、差動型熱電対6の出力電圧をEとすると、水面と差動型熱電対6の出力の関係は以下となり、3値に分類できる。なお差動型熱電対6の出力電圧EはT
CUとT
Hの温度差に基づく第1の出力電圧と、T
HとT
CDの温度差に基づく第2の出力電圧の和となる。
【0030】
(1)水面の位置が下側の冷接点4の位置よりも低い場合
水面の位置が下側の冷接点4の位置よりも低い場合、上側の冷接点2、温接点3、下側の冷接点4の3点の位置は全て気中であり、3つの接点での熱伝達の状態は同一となる。そのため、上側の冷接点2、温接点3、下側の冷接点4の温度は全て同一となり、T
CU=T
CD≒T
Hとなる。従って、差動型熱電対6の出力電圧Eはゼロ、もしくは相対的に小さな値となる。この時の出力電圧Eの値をE
Aとする。
【0031】
(2)水面の位置が温接点3と下側の冷接点4の間の位置である場合
水面の位置が温接点3と下側の冷接点4の間の位置である場合、上側の冷接点2および温接点3の2点の位置は気中であり、2つの接点での熱伝達の状態は同一となる。一方、下側の冷接点4の位置は水中となり、気中時と比べて熱伝達が大きい。そのため、発熱手段1の発熱時には、T
CU≒T
H>T
CDとなる。この時の差動型熱電対6には温接点3と下側の冷接点4との温度差に応じた出力電圧Eが生じる。この時の出力電圧Eの値をE
Mとする。
【0032】
(3)水面の位置が上側の冷接点2と温接点3の間の位置である場合
水面の位置が上側の冷接点2と温接点3の間の位置である場合、上側の冷接点2の位置は気中に、残りの温接点3および下側の冷接点4の位置は水中となる。しかし、温接点3の周囲には断熱層5が配されていることにより、温接点3における熱伝達率は温接点3の位置が気中である時の熱伝達率と同一と見なすことができ、したがって温接点3の位置は気中状態と考えることができる。
【0033】
このため、発熱手段1の発熱時には、T
CU≒T
H>T
CDとなる。従って、差動型熱電対6の出力電圧Eは上記(2)の場合と同一となり、出力電圧E=E
Mとなる。
【0034】
(4)水面の位置が上側の冷接点2の位置よりも高い場合
上側の冷接点2、温接点3、下側の冷接点4の3点の位置は全て水中となるが、上記(3)の場合と同様に断熱層5の存在により温接点3の位置は気中と考えることができる。
【0035】
このため、発熱手段1の発熱時には、T
H>T
CU=T
CDとなる。この時の差動型熱電対6には、温接点3と上側の冷接点2との温度差と、温接点3と下側の冷接点4との温度差との和で出力電圧Eが生じる。この時の出力電圧の値をE
Wとする。
【0036】
上記(2)の場合と(3)の場合におけるT
CUまたはT
HとT
CDの温度差は、(4)の場合におけるT
HとT
CUまたはT
CDの温度差よりも大きくなる。したがって差動型熱電対6における出力電圧EはE
MのほうがE
Wと比較して大きな値となる。
【0037】
水面位置が
図1の水面Aの時、水位計測管10、11の測温部50は気中にあることから、出力測定手段9での水位計測管10、11の差動型熱電対6の出力はE
Aとなる。また、水位計測管12、13、14、15の測温部50は水中にあることから、出力測定手段9での水位計測管12、13、14、15の差動型熱電対6の出力電圧EはE
Wとなる。
【0038】
次に水位が低下して水面位置が
図1の水面Bの時、電源8を一定時間だけ通電して水位計測管10、11、12、13、14、15の発熱手段1を発熱させる。水位計測管10、11、14、15の測温部50には水位変化がないことから、水位計測管10、11の差動型熱電対6の出力電圧EはE
A、水位計測管14、15の差動型熱電対6の出力電圧EはE
Wである。水位計測管12、13では水面Bが上側の冷接点2と下側の冷接点4の間になることから、出力測定手段9での水位計測管12、13の差動型熱電対6の出力電圧EはE
Mになる。
【0039】
さらに水位が低下して水面位置が
図1の水面Cの時、電源8を一定時間だけ通電して水位計測管10、11、12、13、14、15の発熱手段1を発熱させる。水位計測管10、11、14、15の測温部50には水位変化がないことから、水位計測管10、11の差動型熱電対6の出力電圧EはE
A、水位計測管14、15の差動型熱電対6の出力電圧EはE
Wである。水位計測管12、13は測温部50が気中になったことから、出力測定手段9での水位計測管12、13の差動型熱電対6の出力電圧EはE
Aになる。
【0040】
以上から水面がA→B→Cと変化した時、
図3に示すように出力測定手段9では水位計測管10、11、12、13、14、15の差動型熱電対6の出力電圧Eが時間推移と共に記録される。
【0041】
水位判定手段7では、第一に、水位計測管10、11、12、13、14、15の測温部50の差動型熱電対6の出力電圧Eからそれぞれの水位計測管の測温部50が水中または気中のどちらに存在するかの状態判定を行なう。
【0042】
図3で水面がA→B→Cと変化した時、水面Cにおいて水位計測管10、11、12、13の差動型熱電対6の出力電圧EはE
Aであることから、水位計測管10、11、12、13の測温部50は気中にある。一方、水位計測管14、15の差動型熱電対6の出力電圧EはE
Wであることから、水位計測管14、15は水中にある。これから、水位は水位計測管14、15の測温部50と水位計測管12、13の測温部50の間にあると判定できる。状態判定を行うときは、各測温部50における出力電圧Eの値があれば水位の位置を判定可能であり、時間推移の情報はなくても良い。
【0043】
水位判定手段7は、第二に水位計測管10、11、12、13、14、15のそれぞれの測温部50の差動型熱電対6の出力電圧Eの時間推移を記録し、水面が水位計測管10、11、12、13、14、15のいずれかの測温部50の位置を通過した時に測温部50の差動型熱電対6の出力電圧EがE
Mとなることを検出して水面の通過判定を行なう。例えば、
図1において、水面がA→B→Cへと低下していく場合には、
図3に示すように水位計測管12、13の測温部50の差動型熱電対6の出力電圧Eだけに値E
Mが現れるため、水面は水位計測管12、13の測温部50をこの時間に通過していると判定できる。したがって、水位判定手段7は、水位計測管10、11、12、13、14、15の測温部50の作動電圧の出力電圧Eの時間推移を用いた通過判定を組み合わせることで、
図1において、水面がA→B→Cへと低下した場合の水位が水位計測管12、13の測温部50より下側で水位計測管14、15の測温部50より上側と判定することができる。このように、本実施形態においては、温度差計測部を構成する作動熱電対6の温接点とその上下の2つの冷接点からなる3つの接点の間の温度差により発生する出力電圧Eに基づいて、水位計測管10,11,12,13,14および15の各測温部50において液面の位置を判定する。
【0044】
すなわち、本実施形態においては、深さ方向の位置が異なる複数の水位計測管10、11,水位計測管12、13および水位計測管14、15による状態判定に加えて、水位計測管10,11,12,13,14および15のいずれか一つだけでも通過判定により水面(液面)の通過を判定することができる。このため、水位計測管10,11,12,13,14および15のいずれかに損傷や劣化が生じ、あるいは振動や電磁波ノイズなどにより出力電圧が異常となった場合でも、水位計測管10,11,12,13,14および15のうち正常なものの通過判定により水面(液面)の通過を確実に検出することができ、水面(液面)の位置を高い信頼性で特定できる。
【0045】
以上の通り、水位判定手段7は、状態判定および通過判定の2種類の判定を行うことで、水位が水位計測管10、11、水位計測管12、13および水位計測管14、15のどの測温部50の間にあるかを高い信頼性で特定できる。
【0046】
以上説明したように、本実施形態によれば、水面位置の変化に伴う水位計測管10、11、12、13、14、15の差動型熱電対6の出力電圧の時間推移を出力測定手段9で測定し分類した後、水位判定手段7で状態判定および通過判定を行うことで、水位を高い信頼性で特定することができる。
【0047】
本実施形態において、
図1では測温部50の深さ方向の位置が同一となるように設置される水位計測管を信頼性向上のために2つであるとしているが、設置される水位計測管の数は1つでもよく、あるいは3つ以上でも構わない。
【0048】
また、
図1では測温部50の深さ方向の位置が異なるように設置されるのは水位計測管10、11、水位計測管12、13、水位計測管14、15の3種類であるが、設置される水位計測管の深さ方向の位置に制限はなく、3種類未満もしくは3種類以上設置しても良い。深さ方向の測温部50の位置が異なるように水位計測管を数多く設置することで、多数の出力を得ることができ、このような多数の出力を用いることで高い信頼性で水位を特定できる。
【0049】
さらに本実施形態において、水位計測管10、11は測温部50の深さ方向の位置が同一であることから、水位計測管10、11の差動型熱電対6の出力電圧Eについて平均値や中間値、標準偏差、最大値や最小値などの統計量を求めて出力電圧Eとすることで出力の信頼性を向上できる。また、水位計測管10、11のそれぞれについて気中または水中のどちらに存在するかを判定した後、多数決、N/M(N:事象数、M:総数)あるいはN、論理積や論理和(例えば、水中:1、気中:0に割り当てるなど)の論理値、を求めることで信頼性を向上できる。
【0050】
同様にして、水位計測管12、13、水位計測管14、15についても差動型熱電対6の出力電圧Eの統計量や多数決、N/MあるいはN、論理値などを求めて出力電圧Eとすることで出力の信頼性を向上できる。そして、これら統計量や多数決、N/MあるいはN、論理値から求めた出力電圧Eを出力測定手段9で測定して分類し、水位判定手段7で状態判定および通過判定を行うことで、水位が水位計測管12、13と水位計測管14、15の測温部50の間にあることが高い信頼性で特定できる。
【0051】
また、本実施形態において、測温部50に配置される発熱手段1を、電流が流れることでジュール発熱するとともに温度に比例して抵抗値が変化する測温抵抗体とし、その抵抗値を測定して温度を求めることでそれぞれの測温部5が水中または気中のどちらに存在するかを判定するように構成してもよい。このような測温抵抗体となる発熱手段1の線材としては、例えば、白金、ニッケル、銅等がある。
【0052】
なお本実施形態においては、出力電圧EについてE
M>E
Wとなる例を示したが、水面位置による出力電圧Eは、差動型熱電対6に用いる金属の種類や接続方法により変化するため、差動型熱電対6に用いる金属の種類や接続方法によっては必ずしもE
M>E
Wとはならない。本実施形態においては、水面位置に伴う出力電圧Eの変化を検知できる範囲において、E
WとE
Mの大小関係にかかわらず、差動型熱電対6に用いる金属の種類や接続方法を任意に選択できる。
【0053】
図4は
図1乃至
図3で説明した本実施形態の水位計測装置を沸騰水型の原子力プラントに適用した一例を示す、本実施形態に係る原子力プラントの概要図である。
【0054】
本実施形態にかかる原子力プラント60は、炉心61と、炉心61に配置される中性子計装管62と、炉心61と中性子計装管62を内部に格納する原子炉圧力容器63、および水位計測装置100を備える。
【0055】
炉心61には図示しない燃料や中性子計装管62などが設置されており、核分裂反応によってエネルギーを生成する炉である。
【0056】
中性子計装管62は図示しない中性子測定器を炉心61内に案内する円筒部材である。本実施形態にかかる原子力プラント60では、さらに中性子計装管62の内部に水位計測装置100の水位計測管65が複数設置される。水位計測管65は水位計測管10、11、12、13、14、15と寸法や本数は異なるが、材料や構造は同一である。原子炉圧力容器63は炉心61、中性子計装管62、冷却材64、水位計測管100を有する耐圧容器である。原子炉圧力容器63の内部には炉心61を冷却するための水などの冷却材64を収容するように構成されている。
【0057】
中性子計装管62の中には、水位計測装置100の水位計測管65が、原子炉圧力容器63の底面部から原子炉圧力容器63の上部に向かって配置されており、水位計測装置100により原子炉圧力容器63内における冷却材64の水位(液面位置)を計測することができる。
【0058】
このように、本実施形態に係る原子力プラント60によれば、
図1乃至
図3の水位計測装置100を用いて原子炉圧力容器63の内部の水位を計測するように構成したので、原子炉圧力容器63内の冷却材の水位(液面位置)を高い信頼性で特定することができる。
【0059】
本実施形態においても、
図1乃至
図3で説明した場合と同様に、中性子計装管62の内部に備えられる水位計測管65の本数や、深さ方向の位置について制限はなく、好適なものを用いることができる。
図4の例では、中性子計装管62として中性子計装管62aから62dを設けており、中性子計装管62a、62bにはそれぞれ2つの水位計測管65を、中性子計装管62cには1つの水位計測管65を、中性子計装管62dには3つの水位計測管65を設けている。
【0060】
さらに本実施形態においては、原子炉圧力容器63の底面部から原子炉圧力容器63の上部に向かって水位計測管を配置したが、水位計測管65の配置方向は測定対象となる原子力プラントに合わせて、適宜変えてもよい。
【0061】
(第2の実施形態)
図5は本発明の第2の実施形態にかかる水位計測装置の構成図である。この第2の実施形態の各部について、
図1から
図4の第1の実施形態の各部と同一部分は同一符号で示し、その詳細な説明は省略する。
【0062】
本実施形態は測温部51において発熱手段として測温抵抗体16と、温度差計測部として差動型熱電対20をさらに設け、発熱手段と温度差計測部をそれぞれ二重化したものである。特に本実施形態においてはさらに、一対の発熱手段のうち一方を測温抵抗体16とし、測温抵抗体16の抵抗値から温度を演算する温度演算手段21を電源8に接続するものである。
【0063】
すなわち本実施形態にかかる水位計測装置100は、それぞれ測温部51を収納し伝熱物質が充填された水位計測管22、23、24と、発熱手段1と平行して配線された測温抵抗体16と、出力判定手段9に接続される差動型熱電対20と、電源8と接続されて測温抵抗体16の抵抗値を測定して抵抗値から水位計測管22、23、24の測温部51の温度を求める温度演算手段21と、を備えている。
【0064】
水位計測管22、23、24は、測温部51の深さ方向の位置が異なるように配置される。また水位計測管22、23、24は水位計測管10、11、12、13、14、15と寸法は異なるが、材料や構造は同一である。
【0065】
測温部51は発熱手段1、測温抵抗体16、差動型熱電対6、差動型熱電対20を収納する。
図6は第2の実施形態にかかる水位計測装置100の測温部51の構成図である。
図6において、
図1から
図5で示した構成要件に対応する構成要件には同一の符号を付しその詳細な説明を省略する。
【0066】
測温抵抗体16は電源8に接続され水位計測管22、23,24の内部の測温部51に配置される線材であり、電流が流れることでジュール発熱し、温度に比例して抵抗値が変化する。すなわち、測温抵抗体16は、その抵抗値を測定することで温度を求めることができ、温度センサーとして用いることがきる。測温抵抗体16の線材としては、例えば、白金、ニッケル、銅等がある。
【0067】
差動型熱電対20は差動型熱電対6と平行に配線され、3つの接点は深さ方向の高い側から、上側の冷接点17、中間位置の温接点18、下側の冷接点19の順に配置される。差動型熱電対20の各接点は差動型熱電対6の上側の冷接点2、中間位置の温接点3、下側の冷接点4と対応して同じ高さである。差動型熱電対20は差動型熱電対6と同一の構造であり、同様の金属や種類のものを用いることができる。水面と差動型熱電対20の出力の関係は差動型熱電対6と同様である。
【0068】
温度演算手段21は、電源8と接続され、測温抵抗体16の抵抗値を測定し、予め記憶している測温抵抗体16の抵抗値と温度の関係から温度を求める演算部である。抵抗値の測定方法としては2端子法や4端子法などの公知の方法が使用できる。
【0069】
このような構成からなる本実施形態にかかる水位計測装置100の作用について以下に述べる。
【0070】
電源8を一定時間だけ通電して水位計測管22、23、24の発熱手段1および測温抵抗体16を発熱させる。水位計測管22、23、24では差動型熱電対6および20の2つからの水位変化に伴う出力電圧Eを得ることができるため、第1の実施形態と同様に状態判定と通過判定を行うことで水位を判定できる。
【0071】
さらに温度測定手段21では、水位計測管22、23、24の測温抵抗体16の抵抗値を測定し、予め記憶している測温抵抗体16の抵抗値と温度との関係からそれぞれの測温部51の温度を求める。温度測定手段21は、水位計測管22、23、24の測温部51における測温抵抗体16により求めた温度からそれぞれの測温部51が水中または気中のどちらに存在するかを判定する。水位計測管22、23、24の温度が異なる測温部51の間に位置に水面があることから、水位判定を行うことができる。
【0072】
水位判定手段7の状態判定および通過判定に加えて、測温抵抗体16により測定した測温部51の温度を用いて水位を判定することにより、高い信頼性で水位を特定できる。
【0073】
以上説明したように、本実施形態によれば、第1の実施形態と同様の効果を奏するとともに、発熱手段として測温抵抗体16を用いることで抵抗の測定値から測温部51の温度を測定できる。そして、状態判定と通過判定に加え、さらに測温部51の温度から測温部51が気中または水中のどちらに存在するかを求めて水位を判定することで、高い信頼性で水位を特定できる。
【0074】
また水位計測管22、23、24内に発熱手段1に加え測温抵抗体16を配置することで、発熱手段1に損傷や劣化が生じた場合でも、測温抵抗体16が発熱することで水位計測管22、23、24内の差動型熱電対6および20から出力電圧Eを得られ、測温部51の出力電圧Eを求めることができる。このため、高い信頼性で水位が特定できる。
【0075】
さらに、深さ方向の測温部51の位置が同一となるように差動型熱電対を数多く設置し、平均値や中間値、標準偏差、最大値や最小値などの統計量や多数決、N/MあるいはN、論理値を求めて出力とすることで出力の信頼性を向上できる。そして、これら統計量や多数決、N/MあるいはN、論理値から求めた出力を用いることで高い信頼性で水位を特定できる。
【0076】
(第3の実施形態)
図7は本発明の第3の実施形態にかかる水位計測装置100の構成図である。この第3の実施形態の各部について、
図1から
図6の第1、第2の実施形態の各部と同一部分は同一符号で示し、その詳細な説明は省略する。
【0077】
本実施形態は測温部52において断熱層26の熱伝達率を調整することで、差動型熱電対6による出力を4値に分類するものである。
【0078】
すなわち本実施形態にかかる水位計測装置100は、電源8で発熱手段1を発熱させた時の測温部52の差動型熱電対6の出力を測定して測温部52と水面との位置関係で4値に分類する出力測定手段9と、4値の出力から測温部52の気中状態、水中状態の判定、水面が通過した測温部52の判定および水面の変化方向の判定をすることで水面位置を特定する水位判定手段25と、測温部52内に配置される断熱層26が構成される。
【0079】
図8は第3の実施形態にかかる水位計測装置100の測温部52の構成図である。
図8において、
図1から
図7で示した構成要件に対応する構成要件は同一の符号を付しその詳細な説明を省略する。
【0080】
測温部52において、断熱層26は第1、第2の実施形態の断熱層5と同様の構成となっている。つまり断熱層26は気体が封入された空間、または熱伝達率が低い材料または真空で構成される。本実施形態にかかる水位計測装置100では、断熱層26へ封入する気体の種類と量、あるいは断熱層26の厚さを調整し、差動型熱電対6の温接点3における熱伝達率を設定する。すなわち水中状態での温接点3の熱伝達率を気中状態での冷接点2、4の熱伝達率よりも大きく、かつ水中状態での冷接点2,4の熱伝達率よりも小さな値となるように設定する。
【0081】
水位判定手段25は、出力測定手段9と接続され、水位計測管10、13、14の差動型熱電対6の出力から測定対象の水位を判定する信号処理部である。水位判定手段25は専用のデジタル回路やアナログ回路、汎用のFPGAやPLA、処理ソフトウエアを備えた汎用計算機で構成される。
【0082】
このような構成からなる本実施形態にかかる水位計測装置100の作用について以下に述べる。
【0083】
図9は第3の実施形態にかかる水位計測装置100の水面位置と出力電圧の関係を示す図である。
図9において、
図1から
図8で示した構成要件に対応する構成要件には同一の符号を付しその詳細な説明を省略する。
【0084】
電源8を一定時間だけ通電して水位計測管10、13、14の発熱手段1を発熱させる。水面と差動型熱電対6の出力の関係は以下となり、4値に分類できる。
【0085】
(1)水面の位置が下側の冷接点4の位置よりも低い場合
水面の位置が下側の冷接点4の位置よりも低い場合、上側の冷接点2、温接点3、下側の冷接点4の3点の位置は全て気中であり、3つの接点での熱伝達の状態は同一となる。
【0086】
そのため、上側の冷接点2、温接点3、下側の冷接点4は全て同一となり、T
CU=T
CD≒T
Hとなる。従って、差動型熱電対6の出力電圧Eはゼロ、もしくは相対的に小さくなる。この時の出力電圧Eの値をE
Aとする。
【0087】
(2)水面の位置が温接点3と下側の冷接点4の間の位置である場合
水面の位置が温接点3と下側の冷接点4の間の位置である場合、上側の冷接点2および温接点3の2点は気中であり、2つの接点での熱伝達の状態は同一でとなる。一方、下側の冷接点4の位置は水中となり、気中時と比べて熱伝達が大きい。
【0088】
そのため、発熱手段1の発熱時には、T
CU≒T
H>T
CDとなる。この時の差動型熱電対6には温接点3と下側の冷接点4との温度差で出力電圧Eが生じる。この時の出力電圧Eの値をE
Mとする。
【0089】
(3) 水面の位置が上側の冷接点2と温接点3の間の位置である場合
水面の位置が上側の冷接点2と温接点3の間の位置である場合、上側の冷接点2は気中で、温接点3および下側の冷接点4の2点は水中となる。この時、下側の冷接点4は水中にあるため気中時と比べて熱伝達が大きくなる。また温接点3の熱伝達の状態は気中に置かれた上側の冷接点2より大きく、水中に置かれた下側の冷接点4より小さくなる。
【0090】
そのため、発熱手段1の発熱時には、T
CU>T
H>T
CDとなる。この時の差動型熱電対6には温接点3と下側の冷接点4の温度差と、さらに上側の冷接点2と温接点3の温度差の和に応じた出力電圧Eが生じる。この時の出力電圧Eの値をE’
Mとする。
【0091】
(4)水面位置が上側の冷接点2の位置よりも高い場合
水面位置が上側の冷接点2の位置よりも高い場合、上側の冷接点2、温接点3、下側の冷接点4の3点は全て水中なるが、温接点3の熱伝達の状態は水中に置かれた冷接点2、4より小さく、気中に置かれた冷接点2、4より大きくなる。
【0092】
そのため、発熱手段1の発熱時には、T
H>T
CU=T
CDとなる。この時の差動型熱電対6には温接点3と上側の冷接点2の温度差と、温接点3と下側の冷接点4の温度差の和である出力電圧Eが生じる。この時の出力電圧Eの値をE’
Wとする。
【0093】
上記の(2)の場合におけるT
CUまたはT
HとT
CDの温度差は、(3)の場合におけるT
CUとT
Hの温度差とT
HとT
CDの温度差の和よりも大きい。したがって差動型熱電対6における出力電圧Eは、E
MのほうがE’
Mと比較して大きな値となる。
【0094】
水面位置が
図7の水面Aの時、水位計測管10の測温部52は気中にあることから、出力測定手段9での水位計測管10の差動型熱電対6の出力はE
Aとなる。また、水位計測管13、14の測温部52は水中にあることから、出力測定手段9での水位計測管13、14の差動型熱電対6の出力はE’
Wとなる。
【0095】
次に水位が低下して水面位置が
図7の水面Dの時、電源8を一定時間だけ通電して水位計測管10、13、14の発熱手段1を発熱させる。水位計測管10、14の測温部52では水位変化がないことから、水位計測管10、14の差動型熱電対6には出力変化はないが、水位計測管13では水面Dが上側の冷接点2と温接点3の間になることから、出力測定手段9での水位計測管13の差動型熱電対6の出力はE’
Mになる。
【0096】
続いて水位が低下して水面位置が
図7の水面Bの時、電源8を一定時間だけ通電して水位計測管10、13、14の発熱手段1を発熱させる。水位計測管10、14の測温部52では水位変化がないことから、水位計測管10、14の差動型熱電対6には出力変化はないが、水面Bが下側の冷接点4と温接点3の間になることから、出力測定手段9での水位計測管13の差動型熱電対6の出力はE
Mになる。
【0097】
さらに水位が低下して水面位置が
図7の水面Cの時、電源8を一定時間だけ通電して水位計測管10、13、14の発熱手段1を発熱させる。水位計測管10、14の測温部52では水位変化がないことから、水位計測管10、14の差動型熱電対6には出力変化はないが、水位計測管13は測温部52が気中になったことから、出力測定手段9での水位計測管13の差動型熱電対6の出力はE
Aになる。
【0098】
以上から水面がA→D→B→Cと変化した時、
図9に示すように出力測定手段9では水位計測管10、13、14の差動型熱電対6の出力電圧Eが記録される。
【0099】
水位判定手段25では、第1、第2の実施形態と同様に水位計測管10、13、14の差動型熱電対6の出力電圧Eから、それぞれの水位計測管の測温部52が水中または気中のどちらに存在するかの状態判定を行なう。
【0100】
図7で水面がA→D→B→Cと変化した時、水面Cでは水位計測管10、13の差動型熱電対6の出力電圧EはE
A、水位計測管14の差動型熱電対6の出力電圧EはE’
Wであることから、水位は水位計測管13と水位計測管14の測温部52の間にあると判定できる。状態判定を行うときは、各測温部52における出力電圧Eの値があれば水位の位置を判定可能であり、時間推移の情報はなくても良い。
【0101】
水位判定手段25は、水位計測管13のみに差動型熱電対6の出力E
MおよびE’
Mが現れて水面が測温部52を通過していることから、水位は水位計測管13と水位計測管14の測温部52の間にあると通過判定を行なう。
【0102】
水位判定手段25ではさらに水位計測管10、13、14の差動型熱電対6に現れるE
MおよびE’
Mの時間的順序から水面変化の方向判定を行う。
図9に示すように、水位計測管13の差動型熱電対6による出力電圧EはE’
M→E
Mの時間順で現れる。E
Mは温接点3と下側の冷接点4の間に水面がある時の差動型熱電対6の出力電圧Eであり、E’
Mは温接点3と上側の冷接点2の間に水面がある時の差動型熱電対6の出力電圧Eである。従って、E’
M→E
Mの時間順で現れると、水面が水位計測管13の深さ方向を高い側から低い側へ変化したことになり、これより水面がA→D→B→Cと変化していると方向判定が可能である。
【0103】
以上のように水位判定手段25による状態判定および通過判定に加えて水面変化の方向判定を行うことにより、水位が水位計測管10、13、14のどの測温部52の間にあるかを高い信頼性で特定できる。
【0104】
以上説明したように、本実施形態によれば、第1、第2の実施形態と同様の効果を奏するとともに、水面位置の変化に伴う水位計測管10、13、14の差動型熱電対6の出力電圧Eの変化を出力測定手段9で測定し4値に分類した後、水位判定手段25において水位の状態判定を行い、また記録された出力電圧Eの値から水面が通過した測温部52を検出する通過判定を行って高い信頼性で水位を特定できる。
【0105】
さらに測温部52の上側の冷接点2と温接点3の間に水面がある時と、測温部52の温接点3と下側の冷接点4の間に水面がある時とで出力電圧Eが異なることから、記録された出力電圧Eの値と時間推移から水位変化の方向判定を行える。
【0106】
本実施形態において、
図7では測温部52の深さ方向の位置が異なるように設置される水位計測管は3つであるが、設置される水位計測管の数は3つ以上でも3つ未満でも良い。
【0107】
なお本実施形態においては、出力電圧EについてE
M>E’
M>E’
Wとしたが、水面位置による出力電圧Eの大小関係は、差動型熱電対6に用いる金属の種類や接続方法により変化する。そのため水面位置に伴う出力電圧Eの変化を検知できればよく、E
M>E’
W>E’
MやE’
W>E’
M>E
Mなどその他の大小関係となっても良い。
【0108】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。