(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
上記第2の放射素子は、長辺が上記第2の方向と平行になるように配置された長方形の、上記他方の給電点側の2つの角を丸めることにより得られる釣鐘型の頭部と、該頭部と上記他方の給電点との間に介在する長方形の首部とからなる導体である、
ことを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の車載用アンテナ装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の車載用アンテナ装置には、車体前方への放射利得が小さいという問題がった。
【0007】
すなわち、特許文献1に記載の車載用アンテナ装置においては、アンテナを構成する放射素子を水平に配置する構成が採用されている。このため、特許文献1に記載の車載用アンテナ装置から放射される電磁波は、水平偏波を主たる偏波成分とする電磁波になる。そして、ルーフの後端に配置された車載用アンテナ装置からルーフの前端に向かって放射された水平偏波は、偏波面と平行に延在する金属体であるルーフを横断する過程で減衰される。したがって、特許文献1に記載の車載用アンテナ装置においては、車体前方への放射利得が小さくなるという問題を生じる。
【0008】
更に、このルーフによる減衰効果は、アンテナが放射する電磁波の波長が短くなるほど顕著になる。電磁波の波長が短くなるほど回折が生じ難くなるためである。近年、無線通信を用いて伝送する情報量は増加の一途をたどっており、無線通信に用いる電磁波の波長は短波長化される傾向がある。例えば、LTEの規格に準拠した電磁波の波長は、FM/AM放送の伝送に用いる電磁波の波長より短いため、ルーフによる減衰効果の影響をより大きく受けやすい。GPS(Global Positioning System:全地球測位システム)のように天頂方向から送信される電磁波を受信するアンテナシステムの場合には、ルーフによる電磁波の減衰効果を無視し得る。しかし、3GやLTEなどのように地上に設置された基地局との通信を要するアンテナシステムの場合には、ルーフによる減衰効果に起因する利得低下は、大きな問題であり無視できない。
【0009】
なお、ここでは、車載用アンテナ装置をルーフの後端に配置した場合に生じる問題について説明したが、車載用アンテナ装置をルーフの前端、右端、又は左端に配置した場合にも同様の問題を生じる。すなわち、車載用アンテナ装置をルーフの前端に配置した場合には、車体後方への放射利得が小さくなるという問題を生じ、車載用アンテナ装置をルーフの右端/左端に配置した場合には、車体左方/右方への放射利得が小さくなるという問題を生じる。すなわち、何れの場合においても、車載用アンテナ装置から見てルーフを横断する方向への放射利得が小さくなるという問題を生じる。
【0010】
本発明は、以上の問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、車体のルーフの端部に搭載した場合に、ルーフを横断する方向への放射利得が従来よりも大きい車載用アンテナ装置を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために、本発明に係るは、車体のルーフの端部に配置される車載用アンテナ装置において、一方の給電点から上記ルーフに沿う方向である第1の方向に引き出された第1の放射素子と、他方の給電点から上記ルーフに交わる方向である第2の方向に引き出された第2の放射素子とを有するアンテナを備え、上記第1の放射素子は、上記ルーフを構成する、又は、上記ルーフに取り付けられた金属部材に重畳する重畳区間であって、該第1の放射素子の先端を含む重畳区間を有し、上記重畳区間の長さは、上記第1の放射素子の全長の64.5%以下である、
ことを特徴とする。
【0012】
上記の構成によれば、上記車載用アンテナ装置から見て上記ルーフを横断する方向に対する利得(例えば、上記車載用アンテナ装置が上記ルーフの車体後方の端部に配置される場合には、車体前方に対する利得)を、上記第1の放射素子が上記金属部材と重畳しない場合よりも大きくすることができる。
【0013】
本発明の一態様に係る車載用アンテナ装置において、上記重畳区間の長さは、上記第1の放射素子の全長の26.0%以上55.2%以下である、ことがより好ましい。
【0014】
上記の構成によれば、上記車載用アンテナ装置から見て上記ルーフを横断する方向に対する利得を、更に大きくすることができる。
【0015】
本発明の一態様に係る車載用アンテナ装置において、上記重畳区間における上記第1の放射素子と上記金属部材との間隔は、18mm未満である、ことが好ましい。
【0016】
上記の構成によれば、上記車載用アンテナ装置から見て上記ルーフを横断する方向に対する利得を、上記第1の放射素子が上記金属部材と重畳しない場合よりも大きくすることができる。
【0017】
本発明の一態様に係る車載用アンテナ装置において、上記重畳区間における上記第1の放射素子と上記金属部材との間隔は、11mm未満である、ことがより好ましい。
【0018】
上記の構成によれば、上記車載用アンテナ装置から見て上記ルーフを横断する方向に対する利得を、更に大きくすることができる。
【0019】
本発明の一態様に係る車載用アンテナ装置において、上記第1の放射素子は、例えば、長辺が上記第1の方向と平行になるように配置された長方形の導体である。
【0020】
本発明の一態様に係る車載用アンテナ装置において、上記第2の放射素子は、長辺が上記第2の方向と平行になるように配置された長方形の、上記他方の給電点側の2つの角を丸めることにより得られる釣鐘型の頭部と、該頭部と上記他方の給電点との間に介在する長方形の首部とからなる導体である、ことが好ましい。
【0021】
上記の構成によれば、第1の放射素子と第2の放射素子との間隔を連続的に変化させることができる。その結果、アンテナの共振周波数を調整することができ、動作帯域を調整することができる。
【0022】
本発明の一態様に係る車載用アンテナ装置において、上記第2の放射素子は、折り曲げられている、ことが好ましい。
【0023】
上記の構成によれば、上記第2の放射素子の配置に要する空間の体積を小さくすることができる。したがって、上記第2の放射素子が折り曲げられていない場合と比べて、より小型な車載用アンテナ装置を実現することができる。
【0024】
本発明の一態様に係る車載用アンテナ装置は、上記車体のスポイラーとして用いられる、ように構成されていてもよい。
【0025】
上記の構成によれば、上記車体の外観に全く影響を与えることなく、電磁波を送受信する機能を上記車体に付与することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明は、車体のルーフの端部に搭載した場合に、ルーフを横断する方向への放射利得が従来よりも大きい車載用アンテナ装置を実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。なお、本実施形態においては、車体のルーフの後端に配置される車載用アンテナ装置であって、この車体のスポイラーとして用いられる車載用アンテナ装置について説明する。しかし、本発明は、これに限定されない。すなわち、本発明は、ルーフの前端、右端、又は左端に配置される車載用アンテナ装置にも適用することができる。
【0029】
〔車載用アンテナ装置10の概要〕
始めに
図1を参照して、本発明の実施形態に係る車載用アンテナ装置の概要について説明する。
図1の(a)は、本実施形態に係る車載用アンテナ装置の一例である、車載用アンテナ装置10を搭載する車体1の外観を示す斜視図である。
図1の(b)は、本実施形態に係る車載用アンテナ装置10を搭載する車体1の一部を拡大した平面図である。具体的には、車体1が搭載する車載用アンテナ装置10を拡大した平面図である。
【0030】
なお、以降の説明では、車体1の前進方向(
図1におけるy軸正方向)を「前方向」と称し、その後進方向(
図1におけるy軸負方向)を「後方向」と称する。また、車体1に搭乗する搭乗者の右手方向(
図1におけるx軸正方向)を「右方向」と称し、その左手方向(
図1におけるx軸負方向)を「左方向」と称する。また、車体1のシャシーからルーフへと向かう方向(
図1におけるz軸正方向)を「上方向」と称し、車体1のルーフからシャシーへと向かう方向(
図1におけるz軸負方向)を「下方向」と称する。また、左方向及び右方向を、向きを区別せずに指すとときには、「左右方向」といい、上方向及び下方向を、向きを区別せずに指すときには、「上下方向」という。
【0031】
図1の(a)に示す車体1は、ハッチバック型の車体である。車体1において、ルーフ20を含む外板(ボディパネル)は、鋼板及びアルミ板によって構成されている。本実施形態に係る車載用アンテナ装置10は、ルーフ20の後端に搭載されており、車体1のスポイラーとして用いられる。したがって、以下では、車載用アンテナ装置10のことをスポイラー10と呼称する。
【0032】
図1の(b)に示すように、車体1のハッチゲート21は、ハッチゲートパネル21aと、ハッチゲートパネル21aの上方に配置されたリヤガラス21bと、ハッチゲートパネル21aと共にリヤガラス21bを支持する枠体21cとにより構成されている。リヤガラス21bは、運転手からの後方視界を確保すると共に、ウィンドシールドとしても機能する。ハッチゲート21の上端に位置する枠体21cの横柱は、図示しないヒンジによってルーフ20の後端に取り付けられている。
【0033】
ハッチゲート21の上端に位置する枠体21cの横柱には、スポイラー固定部21d(特許請求の範囲に記載のルーフに取り付けられた金属部材)が設けられている。スポイラー固定部21dは、枠体21cの横柱から後方に迫り出した金属部材である。スポイラー固定部21dは、枠体21cと一体に形成された金属部材でもよいし、枠体21cとは別体に成形され枠体21cにボルト等によって固定された金属部材であってもよい。
【0034】
スポイラー固定部21dには、図示しない固定手段(例えばボルトやクリップ、ファスナー等)によってスポイラー10が取り付けられている。スポイラー固定部21dに固定されることによって、スポイラー10の上面とルーフ20とが面一に並ぶ。スポイラー10は、車載用アンテナ装置として機能するほかに、車体1の美観を向上させる、車体1の空力特性を改善するなどの機能を有する。スポイラー10には、アンテナ11とストップランプ19とが内蔵されている。スポイラー10は、誘電体(例えば樹脂等)からなり、電磁波を透過する。
【0035】
アンテナ11は、スポイラー10の内部のストップランプ19に干渉しない位置に配置されている。具体的には、スポイラー10の左右方向の中心に配置されたストップランプ19を避けて、アンテナ11は、ストップランプ19の左側にオフセットして配置されている。
【0036】
〔スポイラー10〕
スポイラー10の構成について、
図2を参照して具体的に説明する。
図2は、本実施形態に係るスポイラー10の構成を示す。
図2の(a)は、スポイラー10を搭載する車体1の一部を拡大した矢視断面図であり、
図1の(b)に示したA−A’線に沿う矢視断面図である。
図2の(b)は、スポイラー10が備えているアンテナ11を平面に展開した展開図である。
【0037】
図2の(a)に示すように、スポイラー10は、その内部に、アンテナ11を折り曲げられた状態で載置するように構成されている。スポイラー10の内部にアンテナ11を固定する固定手段の例としては、粘着シート、両面テープや樹脂製のファスナー等が挙げられる。固定手段は、限定されるものではないが、電磁波の送信及び受信を妨げないために導体ではないものからなることが好ましい。アンテナ11の具体的な折り曲げ方などについては、
図2の(b)を参照しながら後述する。
【0038】
なお、本実施形態においては、ルーフ20の後端にスポイラーとして用いられる車載用アンテナ装置10が搭載される例を用いて説明する。しかし、車載用アンテナ装置10を搭載するルーフ20の端部は、後端に限定されず、車体の形状及び車載用アンテナ装置10の筐体の形状(本実施形態においてはスポイラー10の形状)に応じて適宜変更することができる。
【0039】
〔アンテナ11〕
図2の(a)に示すように、車載用アンテナ装置10を車体1の後端に搭載したときに、アンテナ11の第1の放射素子14は、一方の給電点である第1の給電点13aからルーフ20に沿う方向である車体1の前方向(請求の範囲に記載の第1の方向に相当する)に引き出されており、第2の放射素子15は、他方の給電点である第2の給電点13bからルーフ20に交わる方向である車体1の下方向(請求の範囲に記載の第2の方向に相当する)に引き出されている。
【0040】
第1の放射素子14は、ルーフ20に取り付けられた金属部材であるスポイラー固定部21dに重畳する重畳区間14aであって、第1の放射素子14の先端を含む重畳区間14aを有する。
【0041】
重畳区間14aの長さLxは、第1の放射素子14の全長の64.5%以下であり、より好ましくは、第1の放射素子14の全長の26.0%以上55.2%以下である。
【0042】
スポイラー10において、長さLxを第1の放射素子14の全長の64.5%以下となるように構成することによって、スポイラー10から見てルーフ20を横断する方向(本実施形態では、車体1の前方向)に対する利得を、第1の放射素子14がスポイラー固定部21dと重畳しない場合よりも大きくすることができる。また、長さLxを第1の放射素子14の全長の26.0%以上55.2%以下となるように構成することによって、車体1の前方向に対する利得を、更に大きくすることができる。
【0043】
重畳区間14aにおける第1の放射素子14とスポイラー固定部21dとの間隔Dzは、18mm未満であり、より好ましくは、11mm未満である。
【0044】
スポイラー10において、重畳区間14aがスポイラー固定部21dに重畳しており、且つ、重畳区間14aにおける第1の放射素子14とスポイラー固定部21dとの間隔Dzが18mm未満となるように構成することによって、車体1の前方向に対する利得を、第1の放射素子14がスポイラー固定部21dと重畳しない場合よりも大きくすることができる。また、間隔Dzが11mm未満となるように構成することによって、車体1の前方向に対する利得を、更に大きくすることができる。
【0045】
なお、本実施形態において、スポイラー10は、第1の放射素子14の重畳区間14aがスポイラー固定部21dに重畳するように構成されている。しかし、スポイラー10は、ルーフ20に固定されていてもよい。この場合、スポイラー10は、第1の放射素子14の重畳区間14aがルーフ20を構成する金属部材に重畳するように構成されていればよい。
【0046】
第1の放射素子14の全長及び第2の放射素子15の全長は、特に限定されるものではなく、アンテナ11から放射させたい電磁波の周波数に応じて、それぞれの全長を適宜定めることができる。長さLxは、アンテナ11から放射させたい電磁波の周波数に応じて定められた第1の放射素子14の全長に基づいて、上述した範囲内に収まるように決定すればよい。
【0047】
なお、長さLxの好ましい範囲の根拠については、本発明の実施例及び第1〜第5の変形例(
図3)を参照して後述する。また、間隔Dzの好ましい範囲については、本発明の実施例及び第6〜第9の変形例(
図4)を参照して後述する。
【0048】
〔アンテナ11の構成〕
アンテナ11は、フィルムアンテナである。
図2の(b)に示すように、アンテナ11は、アンテナ基板としてのFPC(Flexible printed circuits)基板12にアンテナパターンが形成されたものである。FPC基板の一例としては、誘電体フィルム(例えば、ポリイミド)が挙げられるが、これに限定されない。
【0049】
図2の(b)の例では、FPC基板12の表面に、給電部13と、第1の放射素子14及び第2の放射素子15からなる放射素子とが形成されている。第1の放射素子14及び第2の放射素子15は、導体からなる薄板状の部材である。例えば、第1の放射素子14及び第2の放射素子15としては、銅箔が用いられるが、これに限定されない。
【0050】
給電部13は、図示しない同軸線と放射素子14,15とを接続する部位であり、2つの給電点からなる。給電部13には、同軸線の一方の端部が接続可能である。同軸線の他方の端部をチューナーなどの車載機器に接続することによって、車載用アンテナ装置10は、無線を送受信可能になる。
【0051】
給電部13の第1の給電点である給電点13aは、第1の放射素子14に接続されており、給電部13の第2の給電点である給電点13bは、第2の放射素子15に接続されている。本実施形態においては、アンテナ11としてダイポールアンテナを採用しているが、ループアンテナ、モノポールアンテナ、及び逆F型アンテナをアンテナ11として使用してもよい。また、それぞれの放射素子は、本実施形態の放射素子14,15のように面状の放射素子であってもよいし、線状の放射素子であってもよい。
【0052】
本実施形態において、第1の放射素子14は、長方形の導体によって構成されており、スポイラー10が車体1に搭載されたときに、長方形の長辺が車体1の前後方向と平行になるように配置されている。
【0053】
本実施形態において、第2の放射素子15は、釣鐘型の頭部15aと、この頭部15aと第2の給電点13bとの間に介在する長方形の首部15dとからなる導体である。頭部15aは、スポイラー10が車体1に搭載されたときに、長辺が車体1の上下方向と平行になるように配置された長方形の、第2の給電点13b側の2つの角を丸めることにより得られる。言い換えれば、頭部15aの第2の給電点13b側の2つの角を含む領域15b及び領域15cの各々は、それぞれ、四分楕円によって構成されている。
【0054】
第2の放射素子15が頭部15aを備えていることによって、第1の放射素子14と第2の放射素子15との間隔を連続的に変化させることができる。その結果、アンテナ11の共振周波数を調整することができ、動作帯域を調整することができる。
【0055】
アンテナ11は、
図2の(b)に示すB−B’線及びC−C’線に沿って谷折りされる。その結果、外側にFPC基板12が配置され、内側に放射素子14,15が配置されたU字型(あるいはコの字型)に折り曲げられたアンテナ11が形成される。
図2の(a)に示すように、スポイラー10は、U字型に折り曲げられたアンテナ11を、スポイラー10の内壁に沿って固定する構成を採用している。
【0056】
このように第2の放射素子15が折り曲げられていることによって、第2の放射素子15の配置に要する空間の体積を小さくすることができる。したがって、第2の放射素子15が折り曲げられていない場合と比べて、より小型なスポイラー10を実現することができる。
【0057】
なお、第1の放射素子14及び第2の放射素子の形状は、これらに限定されるものではない。例えば、第1の放射素子14として、釣鐘型の頭部とこの頭部と、第1の給電点13aとの間に介在する長方形の首部とからなる導体を採用することもできる。また、第2の放射素子15として、長方形の導体を採用することもできる。また、領域15b及び領域15cの形状は、第2の給電点13bから第2の放射素子の長辺に近づくにしたがって、第1の放射素子14と第2の放射素子15との間隔が広くなるように構成されていればよく、四分楕円でなくてもよい。
【0058】
〔実施例〕
以下、本発明の実施形態に係るスポイラー10の実施例を説明する。本実施例に係るスポイラー10は、本発明の実施形態に係るスポイラー10において、第1の放射素子14の全長を120mmとし、第2の放射素子15の全長を44mmとし、重畳区間14aの長さLxを60mmとし、間隔Dzを10mmとしたものである。すなわち、本実施例において、長さLxは、第1の放射素子14の全長の50.0%である。
【0059】
本発明の実施形態に係るスポイラー10と同様に、本実施例に係るスポイラー10は、ハッチバック型の車体1のルーフ20の後端、より具体的には、ハッチゲートの上部に搭載されている。アンテナ11から放射させる電磁波としては、LTE用の800MHz帯と呼ばれる周波数(具体的には832MHz)の電磁波を用いた。
【0060】
また、本発明の実施形態に係るスポイラー10の比較例として、重畳区間の長さLxを0mmとしたスポイラーを用いる。比較例に係るスポイラーにおいて、第1の放射素子の全長、第2の放射素子の全長、及び間隔Dzの各々は、本実施例に係るスポイラー10と同一とした。
【0061】
車体1の前方(
図1の(a)に図示したy軸方向)に対する放射利得を、本実施例に係るスポイラー10及び比較例に係るスポイラーの各々に対して、数値計算により求めた。その結果、比較例に係るスポイラーの車体1の前方に対する放射利得が−6.35dBだったのに対して、本実施例に係るスポイラー10の車体1の前方に対する放射利得は、−4.57dBであった。
【0062】
以上の結果より、本実施例に係るスポイラー10は、比較例に係るスポイラーと比較して、車体1の前方に対する放射利得を高められることが分かった。すなわち、長さLxが60mmであるスポイラー10は、車体1のルーフ20の端部に搭載した場合に、ルーフ20を横断する方向への放射利得が、長さLxが0mmである比較例に係るスポイラーよりも高められることが分かった。
【0063】
〔変形例の第1のグループ〕
本発明の実施形態に係るスポイラー10の変形例の第1のグループについて、
図3を参照して説明する。この第1のグループは、本発明の第1〜第5の変形例に係るスポイラー10によって構成されている。
【0064】
第1〜第5の変形例に係るスポイラー10の各々は、それぞれ、間隔Dzを10mmとしたうえで、長さLxを30mm,40mm,50mm,70mm,90mmと変形したものである。このように構成された第1〜第5の変形例に係るスポイラー10を用いて、xy平面における、車体1の前方に対する放射利得及び後方に対する放射利得を、それぞれ、数値計算により得た。
【0065】
図3の(a)は、本発明の、実施例、第1〜第5の変形例、及び比較例に係るスポイラー10によって得られた放射利得であって、xy平面における、車体1の前方に対する放射利得及び後方に対する放射利得の各々と、長さLxとの相関関係を示すグラフである。
【0066】
比較例に係るスポイラーによって得られた放射利得は、車体1の前方に対して−6.35dBであり、車体1の後方に対して−1.21dBであった。
【0067】
図3の(a)によれば、車体1の前方に対する放射利得及び後方に対する放射利得は、何れも、長さLxが0mmから長くなるにしたがって、増大傾向を示した後に減少傾向に転ずることが分かった。
【0068】
図3の(b)は、
図3の(a)に示した放射利得を多項式、より具体的には、f(x)=ax
2+bx+cで表される二次関数によってフィッティングした結果を示したグラフである。フィッティングを行った結果、第1の変形例に係るスポイラー10及び比較例に係るスポイラーによって得られた放射利得は、実施例及び第2〜第5の変形例に係るスポイラー10によって得られた放射利得と異なる関数系によってよりよくフィッティングされることが分かった。そこで、
図3の(b)には、実施例及び第2〜第5の変形例に係るスポイラー10によって得られた放射利得をフィッティングした結果のみを示している。
【0069】
なお、
図3の(b)の縦軸は、スポイラー10に入力した入力電力に対するスポイラー10から放射された放射電力の比として、スポイラー10の放射利得をプロットしている。
【0070】
図3の(b)に示したフィッティングの結果、得られた二次関数f(x)の係数a,b,cの各々は、それぞれ、a=−1.66×10
−4,b=1.61×10
−2,c=−2.58×10
−2であった。
【0071】
比較例に係るスポイラーによって得られた車体1の前方に対する放射利得−6.35dBは、スポイラー10に入力した入力電力に対するスポイラー10から放射された放射電力の比として表すと0.2316である。
図3の(b)によれば、0.2316に対応する長さLxは、77.35mmであることが分かった。したがって、本発明に係るスポイラー10における長さLxは、第1の放射素子14の全長の64.5%以下となるように定める。
【0072】
また、長さLxがこの範囲に含まれるように構成されたスポイラー10によって得られた放射利得であって、車体1の後方に対する放射利得は、比較例に係るスポイラーによって得られた放射利得であって、車体1の後方に対する放射利得を上回ることが分かった(
図3の(a)参照)。したがって、本発明のスポイラー10は、比較例のスポイラーと比較して、車体1の後方に対する放射利得を悪化させることなく、車体1の前方に対する放射利得を大きくすることができる。
【0073】
また、スポイラー10としてより好ましい放射利得である−5.0dBは、スポイラー10に入力した入力電力に対するスポイラー10から放射された放射電力の比として表すと0.3162である。
図3の(b)によれば、0.3162に対応する長さLxは、31.18mm以上66.28mm以下であることが分かった。したがって、本発明の一態様に係るスポイラー10における長さLxは、第1の放射素子14の全長の26.0%以上55.2%以下であることが好ましい。
【0074】
〔変形例の第2のグループ〕
本発明の実施形態に係るスポイラー10の変形例の第2のグループについて、
図4を参照して説明する。この第2のグループは、本発明の第6〜第9の変形例に係るスポイラー10によって構成されている。
【0075】
第6〜第9の変形例に係るスポイラー10の各々は、それぞれ、長さLxを60mmとしたうえで、間隔Dzを2.5mm,5.0mm,20mm,40mmと変形したものである。このように構成された第6〜第9の変形例に係るスポイラー10を用いて、xy平面における、車体1の前方に対する放射利得及び後方に対する放射利得を、それぞれ、数値計算により得た。
【0076】
図4の(a)は、本発明の、実施例及び第6〜第9の変形例に係るスポイラー10によって得られた放射利得であって、xy平面における、車体1の前方に対する放射利得及び後方に対する放射利得の各々と、間隔Dzとの相関関係を示すグラフである。
【0077】
図4の(a)によれば、車体1の前方に対する放射利得及び後方に対する放射利得の各々は、間隔Dzが大きくなればなるほど減少することが分かった。言い換えれば、スポイラー10において、間隔Dzをできるだけ小さくする、理想的には、間隔Dzを0mmにすることが好ましいことが分かった。しかし、現実的には、第1の放射素子14とスポイラー固定部21dとの間には、少なくともスポイラー10の底面が介在し、場合によっては、スポイラー10をスポイラー固定部21dに固定するための固定手段も介在する。以上のことから、間隔Dzは、スポイラー10をスポイラー固定部21dに固定可能な範囲内において可能な限り小さいことが好ましい。
【0078】
図4の(b)は、
図4の(a)に示した放射利得をg(x)=dlog
e(x)+eで表される対数関数によってフィッティングした結果を示したグラフである。フィッティングを行った結果、第6〜第7の変形例に係るスポイラー10によって得られた放射利得は、実施例及び第8〜第9の変形例に係るスポイラー10によって得られた放射利得と異なる関数系によってよりよくフィッティングされることが分かった。そこで、
図4の(b)には、実施例及び第8〜第9の変形例に係るスポイラー10によって得られた放射利得をフィッティングした結果のみを示している。
【0079】
なお、
図4の(b)の縦軸は、スポイラー10に入力した入力電力に対するスポイラー10から放射された放射電力の比として、スポイラー10の放射利得をプロットしている。
【0080】
図4の(b)に示したフィッティングの結果、得られた対数関数g(x)の係数d,eの各々は、それぞれ、d=−1.71×10
−1,e=7.26×10
−1であった。
【0081】
間隔Dzの範囲を定める場合の判断基準にも、比較例に係るスポイラーによって得られた放射利得であって、車体1の前方に対する放射利得、すなわち、−6.35dBを用いた。
【0082】
この放射利得−6.35dBは、スポイラー10に入力した入力電力に対するスポイラー10から放射された放射電力の比として表すと0.2316である。
図4の(b)によれば、0.2316に対応する間隔Dzは、18mm(有効数字2桁。有効数字4桁で言えば17.94mm)であることが分かった。したがって、本発明に係るスポイラー10における間隔Dzを18mm未満と定める。
【0083】
また、スポイラー10としてより好ましい放射利得である−5.0dBは、スポイラー10に入力した入力電力に対するスポイラー10から放射された放射電力の比として表すと0.3162である。
図4の(b)によれば、0.3162に対応する間隔Dzは、11mm(有効数字2桁。有効数字4桁で言えば10.94mm)であることが分かった。したがって、本発明の一態様に係るスポイラー10における間隔Dzは、11mm未満であることが好ましい。
【0084】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。