特許第6383334号(P6383334)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6383334β‐セクレターゼ阻害剤、並びに該阻害剤を含む医薬製剤及び飲食品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6383334
(24)【登録日】2018年8月10日
(45)【発行日】2018年8月29日
(54)【発明の名称】β‐セクレターゼ阻害剤、並びに該阻害剤を含む医薬製剤及び飲食品
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/216 20060101AFI20180820BHJP
   A61K 31/36 20060101ALI20180820BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20180820BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20180820BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20180820BHJP
   C12N 9/99 20060101ALI20180820BHJP
【FI】
   A61K31/216
   A61K31/36
   A61P43/00 111
   A61P25/28
   A23L33/105
   C12N9/99
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-146208(P2015-146208)
(22)【出願日】2015年7月23日
(65)【公開番号】特開2017-25032(P2017-25032A)
(43)【公開日】2017年2月2日
【審査請求日】2017年5月1日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 公開日(開催日):平成27年4月18日(平成27年度近畿大学薬医療薬学科卒業研究発表会) 公開された場所:学校法人近畿大学内
(73)【特許権者】
【識別番号】000125347
【氏名又は名称】学校法人近畿大学
(73)【特許権者】
【識別番号】390019460
【氏名又は名称】稲畑香料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082072
【弁理士】
【氏名又は名称】清原 義博
(72)【発明者】
【氏名】松田 秀秋
(72)【発明者】
【氏名】松村 晋一
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 百合
【審査官】 伊藤 清子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−189385(JP,A)
【文献】 特開2011−092115(JP,A)
【文献】 特表2006−517910(JP,A)
【文献】 J. Nutr., 1998, Vol.128, No.6, pp.1018-1022
【文献】 東京衛研年報,2002, Vol.53, pp.35-39
【文献】 Zhongguo Zhongyao Zazhi, 2002, Vol.27, No.7. pp.522-524,(abstract)CAPLUS[online][retrieved on 20 Dec 2017] CAPLUS accession no.2003:505714
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/216
A23L 33/105
A61K 31/36
A61P 25/28
C12N 9/99
CAplus(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セサモリン、エチル4−メトキシシンナメート、ピパタリンからなる群から選択される1以上の化合物のみを有効成分として含有するβ‐セクレターゼ阻害剤。
【請求項2】
セサモリンが、ゴマの抽出物から得られるものであることを特徴とする請求項1記載のβ‐セクレターゼ阻害剤。
【請求項3】
エチル4−メトキシシンナメートが、ガランガルの抽出物から得られるものであることを特徴とする請求項1記載のβ‐セクレターゼ阻害剤。
【請求項4】
ピパタリンが、ヒハツの抽出物から得られるものであることを特徴とする請求項1記載のβ‐セクレターゼ阻害剤。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載のβ‐セクレターゼ阻害剤を含む、β‐セクレターゼ阻害用の医薬製剤。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれかに記載のβ−セクレターゼ阻害剤を含む、β‐セクレターゼ阻害用の飲食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カレースパイス等の天然植物由来の化合物を有効成分として含有するβ‐セクレターゼ阻害剤、並びに該阻害剤を含む医薬製剤及び飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の急速な高齢化社会の到来に伴い、老人性痴呆症は、医学的、社会的にも重大な問題となっており、それにより有効な抗認知症薬の開発が強く望まれている。老人性痴呆症の代表的な疾患であるアルツハイマー型痴呆症(アルツハイマー病)は、脳の萎縮、老人班の沈着及び神経原繊維の形成を特徴とする変性疾患で、神経細胞の脱落によって痴呆症状が引き起こされると考えられている(非特許文献1)。
【0003】
アルツハイマー型痴呆症の原因について未だ定説はないが、病理組織学的研究により、老人班が沈着しそれにより神経細胞が脱落し脳の萎縮が生じると考えられている。老人班の主成分であるβ‐アミロイドは細胞毒性作用を有しており、アルツハイマー型痴呆症における神経細胞死を引き起こしていると考えられている(非特許文献2〜5)。β‐アミロイドは、アミロイド前駆体タンパク質(APP)からβ‐セクレターゼという酵素の作用によって生成される。従って、このβ‐セクレターゼに対し阻害作用を有する化合物は、アルツハイマー型痴呆症の治療に有用であると考えられる。β‐セクレターゼに対し阻害作用を有する化合物に関する研究が、近年活発に行われている(特許文献1)。
【0004】
このようなβ‐セクレターゼに対して阻害活性を持つ化合物は、β‐アミロイドの生成のみならず、他の生体内での反応をも阻害する可能性がある。他の生体内での反応を阻害するような物質は、β‐アミロイドの生成を阻害したとしても、患者に深刻な副作用をもたらす虞があるため、アルツハイマー型痴呆症等の治療に利用することは困難である。よって、アルツハイマー型痴呆症の治療に使用することができる、安全性の高いβ‐セクレターゼ阻害剤が求められている。
【0005】
安全性の高いβ−セクレターゼ阻害剤を探索した例として、本発明者らによる特許文献2記載の発明が挙げられる。
特許文献2では、安全性の高いβ−セクレターゼ阻害剤を得るために、例えばコショウ、ゴマ、ターメリック等のスパイスとして一般的に用いられる天然物からβ−セクレターゼ阻害剤が抽出されている。特許文献2ではさらに抽出物に含まれる化合物の内β−セクレターゼ阻害活性を示す化合物が特定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−137914号公報
【特許文献2】特開2013−189385号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Alzheimer, A (1907) Central Bl. Nervenheilk. Phychiatr. 30, 177-179
【非特許文献2】Yankner,B. et al. Science, 245, 417-429 (1989)
【非特許文献3】Cai,X., Gold, T. & Younkin,S. Science, 259, 514-516 (1993)
【非特許文献4】Rose, A. Nature Med. 2, 267-269 (1996)
【非特許文献5】Scheuner,D. et al. Nature Med. 2, 864-869 (1996)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、安全性が高く、β‐セクレターゼ活性に対する優れた阻害作用を有するβ‐セクレターゼ阻害剤、並びに該阻害剤を含む医薬製剤及び飲食品を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係る発明は、セサモリン、エチル4−メトキシシンナメート、ピパタリンからなる群から選択される1以上の化合物のみを有効成分として含有するβ‐セクレターゼ阻害剤に関する。
【0010】
請求項2に係る発明は、セサモリンが、ゴマの抽出物から得られるものであることを特徴とする請求項1記載のβ‐セクレターゼ阻害剤に関する。
【0011】
請求項3に係る発明は、エチル4−メトキシシンナメートが、ガランガルの抽出物から得られるものであることを特徴とする請求項1記載のβ‐セクレターゼ阻害剤に関する。
【0012】
請求項4に係る発明は、ピパタリンが、ヒハツの抽出物から得られるものであることを特徴とする請求項1記載のβ‐セクレターゼ阻害剤に関する。
【0013】
請求項5に係る発明は、請求項1乃至4のいずれかに記載のβ‐セクレターゼ阻害剤を含む、β‐セクレターゼ阻害用の医薬製剤に関する。
【0014】
請求項6に係る発明は、請求項1乃至4のいずれかに記載のβ−セクレターゼ阻害剤を含む、β‐セクレターゼ阻害用の飲食品に関する。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に係る発明によれば、β‐セクレターゼ活性に対する優れた阻害作用を有するので、アルツハイマー型痴呆症等の老人性痴呆症を予防又は進行を停止することができる。
【0016】
請求項2乃至4に係る発明によれば、カレースパイス等の天然植物の抽出物から得られた化合物を有効成分とするため、人体に対する安全性が高く、アルツハイマー型痴呆症等の老人性痴呆症を予防又は進行を停止することができるβ‐セクレターゼ阻害剤を提供することができる。
【0017】
請求項5に係る発明によれば、β‐セクレターゼ活性に対する優れた阻害作用を有するβ‐セクレターゼ阻害剤を含む、β‐セクレターゼ阻害用の医薬製剤であるため、使用者の症状や状態に合わせてβ‐セクレターゼ阻害剤を摂取することができ、アルツハイマー型痴呆症等の老人性痴呆症を予防又は進行を停止することができる。
【0018】
請求項6に係る発明によれば、β‐セクレターゼ活性に対する優れた阻害作用を有するβ‐セクレターゼ阻害剤を含む、β‐セクレターゼ阻害用の飲食品であるため、β‐セクレターゼ阻害剤を日常的に容易に摂取することができ、アルツハイマー型痴呆症等の老人性痴呆症を予防又は進行を停止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】エチル4−メトキシシンナメートをガランガルのヘキサン抽出物から単離する工程を示す図である。
図2】ピパタリンをヒハツのヘキサン抽出物から単離する工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係るβ−セクレターゼ阻害剤、並びに該阻害剤を含む医薬製剤及び飲食品について説明する。
【0021】
本発明のβ‐セクレターゼ阻害剤は、セサモリン、エチル4−メトキシシンナメート、ピパタリンからなる群から選択される1以上の化合物を有効成分として含有する。
【0022】
セサモリンは、CAS番号526−07−8であって、下式(化1)に示す構造を有している。
【0023】
【化1】
【0024】
エチル4−メトキシシンナメートは、CAS番号24393−56−4であって、下式(化2)に示す構造を有している。
【0025】
【化2】
【0026】
ピパタリンは、CAS番号18634‐87‐2であって、下式(化3)に示す構造を有している。
【0027】
【化3】
【0028】
本発明において、セサモリンは標準品を用いることができる。また、カレースパイス等の抽出物から得たものを用いることができ、特にゴマの抽出物から得たものを用いることができる。
【0029】
ゴマ(英名:Sesame、学名:Sesamum indicum)は、ゴマ科ゴマ属の一年草である。草丈は約1mになり、葉腋に薄紫色の花をつけ、実の中に多数の種子を含む双子葉植物である。野生種はアフリカで多く自生しているが、世界中で栽培されている。主に種子が食材、食用油など油製品の材料とされる。種子の色により、黒色の黒ゴマ、白色の白ゴマ、黄色の黄ゴマや金ゴマのように区別される。
【0030】
本発明のβ‐セクレターゼ阻害剤には、セサモリンを有効成分とするもの、及びゴマの抽出物を有効成分とするものを用いることができる。
セサモリンはゴマの種子からヘキサン及び酢酸エチルによって好適に抽出される。その理由は、ゴマの種子をヘキサン及び酢酸エチルで抽出することにより、セサモリンを多く溶出させることができるからである。
【0031】
本発明において、エチル4−メトキシシンナメートは標準品を用いることができる。また、カレースパイス等の抽出物から得たものを用いることができ、特にガランガルの抽出物から得たものを用いることができる。
【0032】
ガランガル(英名:Galangal、学名:Alpinia officinarum L.)は、ショウガ科の多年生草本である。原産地は中国南部であり、インドをはじめ東南アジア一帯に自生し、ジャワ、マライなどで栽培されている。ジンジャーに似た香味をもつが、ガランガルの方が土臭くなく、ややコショウに似たさわやかな辛味感がある。一般的には、根茎部をカレーの風味づけなどに利用する。花は、サラダとして生で食されることもある。
【0033】
本発明のβ‐セクレターゼ阻害剤には、エチル4−メトキシシンナメートを有効成分とするもの、及びガランガルの抽出物を有効成分とするものを用いることができる。
エチル4−メトキシシンナメートはガランガルの根茎からヘキサンによって好適に抽出される。その理由は、ガランガルの根茎をヘキサンで抽出することにより、エチル4−メトキシシンナメートを多く溶出させることができるからである。
【0034】
本発明において、ピパタリンは標準品を用いることができる。また、カレースパイス等の抽出物から得たものを用いることができ、特にヒハツの抽出物から得たものを用いることができる。
【0035】
ヒハツ(英名:Long Pepper、学名:Piper longum L.)は、コショウ科コショウ属の双子葉植物である。果実はコショウに似た風味を持っており、コショウと同様にスパイスとして利用される。原産地はインドである。
【0036】
本発明のβ‐セクレターゼ阻害剤には、ピパタリンを有効成分とするもの、及びヒハツの抽出物を有効成分とするものを用いることができる。
ピパタリンはヒハツの果実からヘキサン及び酢酸エチルによって好適に抽出される。その理由は、ヒハツの果実をヘキサン及び酢酸エチルで抽出することにより、エチル4−メトキシシンナメートを多く溶出させることができるからである。
【0037】
上記化合物は、1種単独で又は2種以上を混合して使用してもよい。下記実施例で詳述するように、上記化合物は強いβ‐セクレターゼ阻害活性を有しているので、これらを有効成分として含有する本発明のβ‐セクレターゼ阻害剤は、各種用途に使用することができる。
【0038】
例えば、本発明のβ‐セクレターゼ阻害剤を医薬製剤として用いる場合、哺乳動物(特にヒト)における老人性痴呆症の予防薬、特にアルツハイマー型痴呆症の予防薬として用いられる。
【0039】
本発明のβ‐セクレターゼ阻害剤は、慣用されている方法により錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、被覆錠剤、カプセル剤、シロップ剤、トローチ剤、吸入剤、坐剤、注射剤、軟膏剤、眼軟膏剤、点眼剤、点鼻剤、点耳剤、バップ剤、ローション剤等の医薬製剤に製剤化することができる。
【0040】
製剤化に通常使用される賦形剤、結合剤、滑沢剤、着色剤、矯味矯臭剤、および必要により安定化剤、乳化剤、吸収促進剤、界面活性剤、pH調整剤、防腐剤、抗酸化剤などを使用することができ、一般に医薬製剤の原料として使用される成分及び配合量を適宜選択して定法により製剤化される。
【0041】
本発明の医薬製剤を投与する場合、その形態は特に限定されず、通常使用される方法であればよく、経口投与でも非経口投与でもよい。本発明に係る医薬製剤の投与量は、症状の程度、年齢、性別、体重、投与形態、疾患の具体的な種類等に応じて、製剤学的な有効量を適宜選択することができる。投与量の一例を挙げると、経口投与の場合、通常、成人において、有効成分量として0.001〜1000mg/kg程度が適当であり、これを1日1回〜数回に分けて投与すればよい。
【0042】
本発明のβ‐セクレターゼ阻害剤は、食品添加剤として、例えば清涼飲料水、乳製品(加工乳、ヨーグルト)、菓子類(ゼリー、チョコレート、ビスケット、ガム、錠菓)又はサプリメント等の各種飲食品に配合することもできる。
【0043】
食品添加剤として使用する場合、その添加量については、特に限定されず、食品の種類に応じて適宜決定すればよい。一例としては、上記した抽出物の乾燥重量として、含有量が0.0005〜50重量%程度の範囲となるように添加すればよい。
【0044】
上記飲食品は、本発明のβ‐セクレターゼ阻害剤の他に、賦形剤、呈味剤、着色剤、保存剤、増粘剤、安定剤、ゲル化剤、酸化防止剤等を含有してもよい。
このうち、賦形剤としては、これらに限定されないが例えば、微粒子二酸化ケイ素のような粉末類、ショ糖脂肪酸エステル、結晶セルロース・カルボキシメチルセルロースナトリウム、リン酸水素カルシウム、小麦デンプン,米デンプン,トウモロコシデンプン,バレイショデンプン,デキストリン,シクロデキストリン等のでんぷん類、結晶セルロース類、乳糖,ブドウ糖,砂糖,還元麦芽糖,水飴,フラクトオリゴ糖,ガラクトオリゴ糖,大豆オリゴ糖,イソマルトオリゴ糖,キシロオリゴ糖,マルトオリゴ糖,乳果オリゴ糖などの糖類、ソルビトール,エリストール,キシリトール,ラクチトール,マンニトール等の糖アルコール類が挙げられる。これらの賦形剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用することができる。
【0045】
呈味剤としては、これらに限定されないが例えば、果汁エキスであるボンタンエキス、ライチエキス、リンゴ果汁、オレンジ果汁、ゆずエキス、ピーチフレーバー、ウメフレーバー、甘味剤であるアセスルファムK、エリストール、オリゴ糖類、マンノース、キシリトール、異性化糖類、茶成分である緑茶、ウーロン茶、バナバ茶、杜仲茶、鉄観音茶、ハトムギ茶、アマチャヅル茶、マコモ茶、昆布茶、及びヨーグルトフレーバー等が挙げられる。
【実施例】
【0046】
以下、本発明の実施例を説明することにより、本発明の効果をより明確なものとする。但し、本発明は以下の実施例には限定されない。
【0047】
(ヘキサン抽出物の調製)
ゴマの種子1kgを粉砕し、40℃のヘキサン5000mlで1時間の攪拌抽出を行い、上澄み液4200mlをろ紙でろ過した。
次いで、その残渣に40℃のヘキサン2500mlで0.5時間の攪拌抽出を行い、ろ紙でろ過した。得られた抽出液に含まれる溶媒をエバポレーター(40℃)で留去し、ゴマのヘキサン抽出物を得た。
ヒハツの果実及びガランガルの根茎からも、同様の方法でヘキサン抽出物を得た。
【0048】
(酢酸エチル抽出物の調製)
ゴマのヘキサン抽出後の残渣を乾燥させ、40℃の酢酸エチル5000mlで1時間撹拌抽出し、上澄み液4800mlをろ紙でろ過した。次いで、残渣に40℃の酢酸エチル2500mlを加えて0.5時間撹拌抽出し、ろ紙でろ過した。得られた抽出液に含まれる溶媒をエバポレーター(40℃)で留去し、ゴマの酢酸エチル抽出物を得た。
ヒハツの果実からも、同様の方法で酢酸エチル抽出物を得た。
それぞれのヘキサン抽出物及び酢酸エチル抽出物の収率を以下の表1に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
(β‐セクレターゼ阻害率の測定)
上記のように抽出したヘキサン抽出物及び酢酸エチル抽出物の酵素阻害活性を、以下の方法により検討した。また、Lys-Thr-Glu-Glu-Ile-Ser-Glu-Val-Asn-Sta-Val-Ala-Glu-Pheを陽性対照として用いた。
具体的には、まず各抽出物及び陽性対照について、それぞれを含むDMSO溶液2μlを、0.02M酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.5、0.1%Triton X−100)78μlとともに0.6mlサンプルチューブに入れた。コントロールとして2μlのDMSOを上記の78μlの0.02M酢酸ナトリウム緩衝液とともに0.6mlサンプルチューブに入れた。
その後、酵素溶液(β−セクレターゼ、17.4 μg protein/ml)10 μlを入れて混合し、37℃で10分間前培養した。
基質としてMOCAc-Ser-Glu-Val-Asn-Leu-Asp-Ala-Glu-Phe-Arg-Lys(Dnp)-Arg-Arg-NH2 0.1 mmol/l溶液を10 μl加えて混合し、37℃で1時間培養した。反応後,2.5 M 酢酸ナトリウム溶液50 μlを加え、反応を停止させた。
【0051】
反応液100 μlを、水900 μlが入ったバイアル瓶に添加し、以下の条件の蛍光HPLC分析に供した。
・カラム;L-column ODS (4.6 id × 250 mm)
・移動相;water / 0.1% formic acid : acetonitrile(9:1 v/v)→17.50 min(11:9,v/v)→17.51 min(1:19,v/v)→22.50 min(1:19,v/v)→22.51(9:1,v/v)→27.50 min(STOP)
・カラム温度;40℃
・検出;Ex. 325 nm / Em. 395 nm
・注入量;20 μl
生成した蛍光ペプチド断片のピーク面積値から,下記の式より阻害率(%)を算出した。
β−セクレターゼ阻害率(%)= 100−〔(各抽出物由来のピークの面積値/コントロール由来のピーク面積値)×100〕
【0052】
上記計算より各ヘキサン抽出物及び酢酸エチル抽出物のβ−セクレターゼ阻害率を算出した結果、以下の通りであった。
【0053】
【表2】
【0054】
【表3】
【0055】
上記阻害率により、ゴマ、ガランガル及びヒハツの抽出物が、非常に高いβ‐セクレターゼ阻害活性を有することがわかった。
【0056】
(セサモリンの単離)
ゴマの酢酸エチル抽出物から、以下のHPLC条件でセサモリンを単離した;L-column ODS(4.6 i.d. × 20 mm),カラム温度:40℃,移動相 水:メタノール(30:70,v/v),流速:18.9 ml/分,検出:286 nm。セサモリンの保持時間(tR)は16.15分であり、収率は0.23%であった。
【0057】
(エチル4−メトキシシンナメートの単離)
図1は、エチル4−メトキシシンナメートをガランガルのヘキサン抽出物から単離する工程を示す図である。
図1に示す如く、エチル4−メトキシシンナメートの単離を行った。
具体的には、ガランガルのヘキサン抽出物(5.0g)をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(No. 107734 silica gel 60,Merck,5.0 i.d. × 50 cm)に付した。以下のヘキサン/酢酸エチル混合溶媒系で溶出し、各画分を得た。
・画分1(ヘキサン:酢酸エチル(1:0,v/v))
・画分2(ヘキサン:酢酸エチル(20:1,v/v))
・画分3(ヘキサン:酢酸エチル(10:1,v/v))
・画分4(ヘキサン:酢酸エチル(5:1,v/v))
・画分5(ヘキサン:酢酸エチル(2:1,v/v))
・画分6(ヘキサン:酢酸エチル(0:1,v/v))
【0058】
得られた画分の内、画分5(1.86g)を以下の条件でのGCMSを用いて分析した。
・カラム;Intertcap Pure Wax (0.25 i.d. × 0.25 μm × 60 m)
・注入量;1.0 μl
・昇温;50℃で2分保持、2.5℃昇温/分→240℃まで
・気化室温;250℃
・キャリーガス流量;ヘリウム 1.2 ml/分
・スプリット比;1/80
GCMS分析の結果から付属のライブラリー検索(wiley7nおよびNIST08)で化合物をエチル4−メトキシシンナメートと同定した。
画分5は、エチル4−メトキシシンナメートを90%含有していた。
【0059】
(ピパタリンの単離)
図2は、ピパタリンをヒハツのヘキサン抽出物から単離する工程を示す図である。
図2に示す如く、ピパタリンの単離を行った。
具体的には、まずヒハツのヘキサン抽出物(5.0g)をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(No. 107734 silica gel 60,Merck,5.0 i.d. × 50 cm)に付した。以下のヘキサン/酢酸エチル混合溶媒系で流出し、各画分を得た。
・画分1(ヘキサン:酢酸エチル(1:0,v/v))
・画分2(ヘキサン:酢酸エチル(20:1,v/v))
・画分3(ヘキサン:酢酸エチル(10:1,v/v))
・画分4(ヘキサン:酢酸エチル(5:1,v/v))
・画分5(ヘキサン:酢酸エチル(2:1,v/v))
・画分6(ヘキサン:酢酸エチル(0:1,v/v))
【0060】
得られた画分の内、画分2(0.29 g)を以下のHPLC条件で精製した。
カラム:YMC-Pack ODS-AM323(10 i.d. × 250 mm),カラム温度:40℃,移動相 水:アセトニトリル(1:1,v/v),→15.00分(0:1,v/v)→20.00分(0:1,v/v)→25.00分(1:1,v/v)→30.00分(1:1,v/v)→30.01(停止),流速:1.0 ml/分,検出;260 nm。
画分2の有効成分として無色結晶を単離した。
【0061】
上記無色結晶について800 MHz NMR解析を用いて化合物の同定を行った。
1H-NMRより、δ =5.84 (2H,s) にジオキソ−ル、6.81 (1H,d,J =1.6 Hz)、6.72 (2H,m,J =1.6 Hz) にベンゼン環プロトン、δ = 6.21 (1H,t,J =1.2 Hz)、5.97 (1H,m,J =3 Hz) に二重結合、δ =0.79 (3H,t,7.6 Hz) にメチルを示したため、文献値(Chibuike C他、Glutathion S-Transferase Inhibitiong Chemical Constituents of Caesalpinia bonduc ,Chem.Pharm.Bull.55(3)442-445(2007))との比較からピパタリンと同定した。
【0062】
上記で同定した化合物(セサモリン、ピパタリン及びエチル4−メトキシシンナメート)の標準品の酵素阻害活性を、上記の(β‐セクレターゼ阻害率の測定)と同様の方法で検討し、各標準品についてIC50値を算出した結果、以下の通りであった。
セサモリン:0.14mM
エチル4−メトキシシンナメート:0.676mM
ピパタリン:0.304mM
上記IC50値により、セサモリン、ピパタリン及びエチル4−メトキシシンナメートが、非常に高いβ‐セクレターゼ阻害活性を有することがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、アルツハイマー型痴呆症を予防するための医薬製剤に好適に使用することができ、清涼飲料水、乳製品、菓子類又はサプリメント等の各種飲食品の添加剤に好適に使用することができる。
図1
図2