特許第6383346号(P6383346)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6383346新規なハイフォミクロビウム属微生物及びこれを利用したピロロキノリンキノンの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6383346
(24)【登録日】2018年8月10日
(45)【発行日】2018年8月29日
(54)【発明の名称】新規なハイフォミクロビウム属微生物及びこれを利用したピロロキノリンキノンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/20 20060101AFI20180820BHJP
   C12P 17/18 20060101ALI20180820BHJP
【FI】
   C12N1/20 AZNA
   C12P17/18 A
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-237312(P2015-237312)
(22)【出願日】2015年12月4日
(65)【公開番号】特開2016-106633(P2016-106633A)
(43)【公開日】2016年6月20日
【審査請求日】2015年12月4日
(31)【優先権主張番号】10-2014-0173838
(32)【優先日】2014年12月5日
(33)【優先権主張国】KR
【微生物の受託番号】KCTC  KCTC 12695BP
(73)【特許権者】
【識別番号】515337604
【氏名又は名称】スンウン バイオ カンパニー, リミテッド
【氏名又は名称原語表記】SUNGWUN BIO CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100090022
【弁理士】
【氏名又は名称】長門 侃二
(72)【発明者】
【氏名】イン ワ ジュン
(72)【発明者】
【氏名】フン ウーク ジャン
(72)【発明者】
【氏名】ジューン キ ジュン
(72)【発明者】
【氏名】イン ギュ リー
(72)【発明者】
【氏名】チャン ジェ マン
(72)【発明者】
【氏名】ジ フン バン
(72)【発明者】
【氏名】セオク ソーク ナ
【審査官】 上村 直子
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2009/0191320(US,A1)
【文献】 特許第2751183(JP,B2)
【文献】 特開昭63−267287(JP,A)
【文献】 特開2014−193838(JP,A)
【文献】 Applied and Environmental Microbiology,1992年,58(12),3970-3976
【文献】 International Journal of Systematic Bacteriology,1995年,45(3),528-532
【文献】 Research in Microbiology,2011年,Vol.162,p.869-876
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00−7/00
C12P 17/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
WPIDS/WPIX(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピロロキノリンキノン(pyrrolo-quinoline quinone)高生産能を有するハイフォミクロビウム(Hyphomicrobium sp.)属変異菌株SWB−P91(KCTC12695BP)。
【請求項2】
ハイフォミクロビウム(Hyphomicrobium sp.)属変異菌株SWB−P91(KCTC12695BP)を培養する段階と、
前記培養発酵液から吸着樹脂を利用して発酵液内のピロロキノリンキノンを吸着する段階と、
前記吸着されたピロロキノリンキノンを溶離液で脱離する段階と、
前記脱離されたピロロキノリンキノン溶液を減圧濃縮し、ピロロキノリンキノンを回収する段階と、
を含む、ピロロキノリンキノンの大量生産方法。
【請求項3】
前記培養は、流加式培養で行うことを特徴とする、請求項2に記載のピロロキノリンキノンの大量生産方法。
【請求項4】
前記流加式培養を通じて培養液のメタノール濃度を0.1〜0.5重量%に維持させることを特徴とする、請求項3に記載のピロロキノリンキノンの大量生産方法。
【請求項5】
前記溶離液は、アンモニア水であることを特徴とする、請求項2に記載のピロロキノリンキノンの大量生産方法。
【請求項6】
前記吸着樹脂は、ダイヤイオン(登録商標)HP−20(DIAION(登録商標) HP-20)樹脂であることを特徴とする、請求項2に記載のピロロキノリンキノンの大量生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピロロキノリンキノン(pyrrolo-quinoline quinone)高生産能を有するハイフォミクロビウム(Hyphomicrobium sp.)属変異菌株SWB−P91(KCTC12695BP)及びその生産方法並びにピロロキノリンキノンを大量で生産する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ピロロキノリンキノン(pyrrolo-quinoline quinone)は、NAD、FADに次ぐ第3の酸化還元助酵素であって、1979年に微生物から構造が確認された。メタン、メタノール資化菌のメタノールジヒドロゲナーゼ(methanol dehydrogenase)、酢酸菌のアルコールジヒドロゲナーゼ(alcohol dehydrogenase)、グルコノバクター(Gluconobacter)菌株のグルコースジヒドロゲナーゼなどとの非共有結合された助酵素として作用する。ヒトの母乳を含んでパセリ、豆、じゃがいも、キウイ、パパヤなど多様な食品においてその存在が確認されており、栄養的に摂取しない場合、生育が低下し、免疫機能の損傷、記憶力の低下などの問題を引き起こすことがあり、必須栄養源に分類される新しいビタミンとして注目を集めている(非特許文献1)。
【0003】
ピロロキノリンキノンに用いられる微生物としては、パラコーカス(Paracoccus)、プロタミノバクター(Protaminobacter)、シュドモナス(Pseudomonas)[米国特許第4,994,382号]、メチロバクテリウム(Methylobacterium)、アンシロバクター(Ancylobacter)、ハイフォミクロビウム(Hyphomicrobium)、ザントバクター(Xanthobacter)、チオバチルス(Thiobacillus)、ミクロシクルス(Microcyclus)とアクロモバクター (Achromobacter)(特許文献1)などがあり、ハイフォミクロビウムとチロバクテリウム属微生物のピロロキノリンキノンの生産に関与する遺伝子を利用して遺伝子の複製数を増やすことによって、生産量を増加させる方法であって、ピロロキノリンキノンを生産することがある(特許文献2)。
【0004】
ハイフォミクロビウム属微生物を利用したピロロキノリンキノン生産の例として、特許文献3では、ハイフォミクロビウム属微生物を、メタノール8g/Lを含む培地で2日間培養し、培養上清液に最大7mg/L濃度でピロロキノリンキノンを生産する方案を提示し、また、非特許文献2によれば、ハイフォミクロビウム属微生物から最大1.98mg/Lまで生産し、非特許文献3では、培地内の鉄成分の濃度とマグネシウム成分の濃度を調節し、15日間の培養で約900mg/Lまでピロロキノリンキノンを生産した例を開示している。
【0005】
メタノールを炭素源として利用する微生物は、メタノール(Methanol)を吸収し、ホルムアルデヒド(formaldehyde)に酸化される。その後、炭素源同和機作であるセリン経路によってホルムアルデヒドは、細胞内グリシンとともにセリンに転換される。セリン経路の一番目の機作であるホルムアルデヒドとグリシンのセリンへの転換がセリン経路の率速段階として作用するようになって、結局、生育速度を調節するようになり、微生物の初期生育で生育誘導期(lag phase)が長くなって、2日間の生育誘導期に停止する問題を有している。また、メタノールから生成されたホルムアルデヒドは、細胞内の毒性成分として作用し、結局、培地内のメタノール濃度が高くなる場合、これから生産されたホルムアルデヒドによって生育が阻害を受けるようになって、メタノール濃度1%から生育が低下し始め、5%濃度で生育が完全に阻害される結果を示す。
【0006】
なお、ピロロキノリンキノンを発酵工程によって短時間に大量生産するためには、生育誘導期が指数増殖期に速く転換されなければならならず、このためには、率速段階である菌体内のセリン形成段階が円滑に始まらなければならず、菌体の生育速度を維持するためには、培地内のメタノール濃度を高濃度に維持しなければならないが、メタノールが一定の濃度以上である場合、生育が阻害を受けるため、メタノールを低濃度(0.1%)に維持しなければならない問題を有している。このような問題に起因してピロロキノリンキノンを大量生産するには、製造コストを低減することが難しいだけでなく、長期間の培養期間を通じて大量生産が可能であるという問題点を有している。
【0007】
また、ピロロキノリンキノンを精製するために、DEAEセファデックスA−25(DEAE-Sephadex A-25)樹脂を利用してピロロキノリンキノンを吸着させ、これを1.0M塩化カリウム溶液で脱離させる過程を経て精製を進行する。その後、酸沈澱法によって溶離液からピロロキノリンキノンを沈澱回収する。しかし、この際、使用するDEAE(Diethyl aminoethyl)樹脂は、高価なので、大量生産のための条件に生産コストを上昇させる問題があり、産業的な使用に困難があるため、酸沈澱法を利用する場合、回収時間が長くかかって、収率が低下する問題点を有している。
【0008】
これより、本発明者は、ハイフォミクロビウム(Hyphomicrobium)属の微生物を利用してピロロキノリンキノンを発酵的に生産するにあたって、前記の問題点が改善された発酵工程を開発するために研究を重なった結果、過量のメタノール濃度に対する耐性を有し、培養培地内のメタノール濃度を高濃度に維持しても、微生物の生育が維持され、短期間に大量のピロロキノリンキノンを生産することができる突然変異菌株を確保し、ピロロキノリンキノンを大量生産することができる方法を開発するに至った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第4994382号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2013/0337511号明細書
【特許文献3】米国特許第5344768号明細書
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Alternative Medicine Review Volume 14(3),268〜277,2009
【非特許文献2】Applied and Environmental Microbiology,55(5)1209〜1213,1989
【非特許文献3】Applied and Environmental Microbiology,58(12)3970〜3976,1992
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、ピロロキノリンキノン(pyrrolo-quinoline quinone)高生産能を有するハイフォミクロビウム(Hyphomicrobium sp.)属変異菌株SWB−P91(KCTC12695BP)を提供することにある。
【0012】
本発明の他の目的は、ピロロキノリンキノン(pyrrolo-quinoline quinone)高生産能を有するハイフォミクロビウム(Hyphomicrobium sp.)属変異菌株SWB−P91(KCTC12695BP)の製造方法を提供することにある。
【0013】
本発明のさらに他の目的は、ハイフォミクロビウム(Hyphomicrobium sp.)属変異菌株SWB−P91(KCTC12695BP)を利用してピロロキノリンキノン(pyrrolo-quinoline quinone)の大量生産方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記目的を達成するために、本発明は、ピロロキノリンキノン(pyrroloquinoline quinone)高生産能を有するハイフォミクロビウム(Hyphomicrobium sp.)属変異菌株SWB−P91(KCTC12695BP)を提供する。
【0015】
本発明の用語、「流加式培養」は、回分式培養とは異なって、培養液を取り出すことなく、培地を連続あるいは間欠的に供給する培養法を言い、用語、「回分式培養」は、初期に一度培地を満たした後、これ以上の栄養物質の供給や除去なしに反応器で細胞を培養する方法を言う。
【0016】
本発明の用語、「高生産能」は、本発明の変異菌株が従来知られた野生型微生物が生産するピロロキノリンキノンに比べて高いピロロキノリンキノンの生産能を有することを言う。
【0017】
本発明は、また、ハイフォミクロビウム属母菌株にN−メチル−N'−ニトロ−N−ニトログアニチン(NTG)及び紫外線を処理し、突然変異を誘発する段階と、前記突然変異された菌株を培地で培養し、ピロロキノリンキノンを高生産する変異株を選別する段階と、を含むハイフォミクロビウム(Hyphomicrobium sp.)属変異菌株SWB−P91(KCTC12695BP)の製造方法を提供する。
【0018】
前記ハイフォミクロビウム属SWB−P91(KCTC12695BP)の製造方法は、まず、ハイフォミクロビウム属微生物をN−メチル−N'−ニトロ−N−ニトログアニチン(NTG)及び紫外線で処理した後、メタノールを含有する培地に培養した。次に、生育した変異株を、ホルムアルデヒドを含有する培地で培養し、最も生育速度に優れた突然変異株を選別し、このうち高濃度メタノール培地でピロロキノリンキノンを最も多く生産する突然変異株を選別する過程で製造された新菌株である。
【0019】
前記ハイフォミクロビウム属SWB−P91(KCTC12695BP)は、高濃度のメタノール及びホルムアルデヒド濃度で菌体生長率が増加するものであることができる。
【0020】
前述したように、高濃度のメタノールに耐性を示すハイフォミクロビウム属突然変異菌株を利用してピロロキノリンキノンを生産するときには、まず、高濃度のメタノールが存在する種菌培地で菌株を培養し、耐性を維持させることができる。この際、種菌培地は、1〜5%のメタノールを含有することができ、ホルムアルデヒド濃度0.06mg/L〜30mg/Lを含むことができるが、これに制限されるものではない。また、培養温度は、28〜31℃が好ましく、培養時間を48〜72時間とすることができるが、これに制限されるものではない。培地内のセリンは、菌体生育誘導期を短くするために添加することができ、好ましくは、0.1〜1g/Lの濃度で添加し、指数増殖期に進行されるように誘導することができる。
【0021】
本発明は、また、ハイフォミクロビウム(Hyphomicrobium sp.)属変異菌株SWB−P91(KCTC12695BP)を培養する段階と、前記培養発酵液から吸着樹脂を利用して発酵液内のピロロキノリンキノンを吸着する段階と、前記吸着されたピロロキノリンキノンを溶離液に脱離する段階と、前記脱離されたピロロキノリンキノン溶液を減圧濃縮し、ピロロキノリンキノンを回収する段階と、を含むピロロキノリンキノンの大量生産方法を提供する。
【0022】
前記ピロロキノリンキノンの生産に使用することができる微生物は、高濃度のメタノールと高濃度のホルムアルデヒドに耐性を有するハイフォミクロビウム(Hyphomicrobium)属菌株であり、好ましくは、ハイフォミクロビウム属SWB−P91(KCTC12695BP)を使用することができる。
【0023】
前述したように、高濃度メタノールに耐性を示すハイフォミクロビウム属突然変異菌株を利用してピロロキノリンキノンを生産するときには、まず、高濃度のメタノールが存在する種菌培地で菌株を培養し、耐性を維持させることができる。この際、種菌培地は、1〜5%のメタノールを含有することができ、培養温度は、28〜31℃が好ましく、培養時間を48〜72時間とすることができるが、これに制限されるものではない。培地内のセリンは、0.1〜1g/Lの濃度で添加し、指数増殖期に進行されるように誘導することができる。前記セリンの濃度が0.1g/L未満の場合、生育が低下し、指数増殖期への進入が難しく、1g/L超過の場合、培地費用が過多に高くなることができる。
【0024】
次に、前記成長した変異菌株を主発酵槽に接種し、生育を誘導した後、流加式で培養しつつ、培地中のメタノール濃度を調節し、菌株のピロロキノリンキノンの生産能力及び代謝活性を発酵末期まで維持させる段階を通じてピロロキノリンキノンの生産性を増加させることができる。この際、ピロロキノリンキノン生産用培地の供給速度は、培養液のメタノール濃度が0.1〜0.5%に維持するのに適当な速度で供給することが好ましく、28〜31℃で100〜150時間続いて培養することができるが、これに制限されるものではない。発酵液からキノリンキノンを精製回収する工程では、まず、遠心分離機を利用して菌体を除去し、培養液の上清液を回収することができる。その後、前記回収した培養液は、強酸を利用してpHを1.0〜3.5に調整することができる。その後、前記培養液は、ダイヤイオンHP−20(DIAION HP−20)に通過させてピロロキノリンキノンを吸着させることができる。その後、ピロロキノリンキノンが吸着された吸着樹脂は、溶離液で脱離することができる。好ましくは、前記溶離液は、0.1〜0.5N濃度のアンモニア水を利用して使用することができる。その後、減圧濃縮方法でピロロキノリンキノンを大量回収することができる。前記の方法によれば、7日以内に600mg/L以上のピロロキノリンキノンを生産することができる。
【0025】
前記発酵工程によって生産されたピロロキノリンキノンを純粋精製する過程で利用するダイヤイオンHP−20(DIAION HP-20)樹脂は、従来のDEAEセファデックスA−25(DEAE-Sephadex A-25)樹脂に比べて低価ながらも、効率的に発酵液内のピロロキノリンキノンを吸着することができる。また、アンモニア水を利用してピロロキノリンキノンを脱離することによって、回収収率を向上させることができ、脱離されたピロロキノリンキノンを含有するアンモニア水を減圧濃縮することによって、アンモニア水を除去し、ピロロキノリンキノンを回収する工程を通じて工程の単純化可能であり、生産コストを低減することができる。
【0026】
本発明の具体的な実施例では、高濃度のメタノールで生育するハイフォミクロビウム(Hyphomicrobium)属微生物を利用して流加式発酵によってピロロキノリンキノンを大量生産することができた。具体的に、(1)生長培地内にセリンを添加することによって、生育誘導期を短くし、指数増殖期に進行することができるように誘導し、(2)高濃度のメタノール耐性変異菌株及び(3)高濃度ホルムアルデヒドに耐性を有する変異菌株を選別した。また、(4)前記変異菌株をピロロキノリンキノン生産の主発酵槽用培地に接種し、生産菌体を成長させ、培地においてメタノール濃度を高濃度に維持しながら、ピロロキノリンキノンの大量生産を誘導した。また、(5)生産された発酵液からピロロキノリンキノンを精製する工程でダイヤイオンHP−20(DIAION HP-20)吸着樹脂を利用して発酵液内のピロロキノリンキノンを吸着させ、前記吸着樹脂にアンモニア水を流して、ピロロキノリンキノンを吸着樹脂から脱離させた。また、(6)脱離されたピロロキノリンキノンを含有するアンモニア水を減圧濃縮することによって、ピロロキノリンキノンを大量回収することができた。
【発明の効果】
【0027】
本発明のハイフォミクロビウム属SWB−P91(KCTC12695BP)は、高濃度のメタノールで菌体生長量が増加し、短期間に大量のピロロキノリンキノンを生産することができる効果を提供する新菌株である。また、前記変異菌株を利用したピロロキノリンキノン生産方法は、経済的であり、工程の単純化が可能であり、大量のピロロキノリンキノンを精製することができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1は、セリンを添加した培地においての指数増殖期への進入を確認するために、培養後に菌体生育程度がOD値の範囲(グラフX軸)に該当する実験数(グラフY軸)を通じてハイフォミクロビウム属SWB−P91(KCTC12695BP)菌株の生育程度を比較したグラフである。
図2は、セリンを添加しない培地での指数増殖期への進入を確認するために、ハイフォミクロビウム属SWB−P91(KCTC12695BP)菌株の生育程度を比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の理解を助けるために実施例をあげて詳細に説明する事にする。ただし下記の実施例は、本発明の内容を例示することであるだけ本発明の範囲が下記実施例に限定されるのではない。本発明の実施例はこの技術分野で平均的な知識を持った者に本発明をより完全に説明するために提供されるのである。
【0030】
実施例1:ハイフォミクロビウム属SWB−P91(KCTC12695BP)変異菌株の製造
完全平板培地(メタノール0.2%、硫酸アンモニウム0.3%、リン酸水素カリウム0.14%、リン酸二ナトリウム0.21%、セリン0.02%、硫酸マグネシウム0.1%、第1鉄クエン酸塩0.003%、塩化カルシウム0.003%、硫酸マンガン0.0001%、硫酸亜鉛0.002%、硫酸銅0.00001%、寒天1.5%、pH 7.0)で30℃、72時間培養されたハイフォミクロビウム属母菌株Hyphomicrobium denitrificans(ATCC51888)を完全液体培地に接種し、30℃で48時間培養した。本明細書で培地の濃度において「%」は、重量%を意味する。培養後、12000rpmで15分間遠心分離した後、生理食塩水で2回水洗した。同一の液で菌体濃度が約1 OD(600nm)となるように適切に希釈した後、N−メチル−N'−ニトロ−N−ニトログアニチン(NTG)250μg/mlとなるように加えて、30℃で30分から80分間処理した。
【0031】
処理された菌体を生理食塩水で2〜3回水洗した後、メタノール濃度5%を含む同一培地に塗抹した後、30℃で4〜7日間培養し、成長が速いコロニーを分離した。これをフラスコ培地(メタノール5%、硫酸アンモニウム0.3%、リン酸水素カリウム0.14%、リン酸二ナトリウム0.21%、セリン0.02%、硫酸マグネシウム0.1%、第1鉄クエン酸塩0.003%、塩化カルシウム0.003%、硫酸マンガン0.0001%、硫酸亜鉛0.002%、硫酸銅0.00001%、pH 7.0)で30℃で72時間培養した。かくして得られた突然変異株を、ホルムアルデヒド1mMを含む前記寒天培地に塗抹した後、30℃で4〜7日間培養し、成長が速いコロニーを分離した。これをさらにフラスコ培地(メタノール5%、ホルムアルデヒド1mM、硫酸アンモニウム0.3%、リン酸水素カリウム0.14%、リン酸二ナトリウム0.21%、セリン0.02%、硫酸マグネシウム0.1%、第1鉄クエン酸塩0.003%、塩化カルシウム0.003%、硫酸マンガン0.0001%、硫酸亜鉛0.002%、硫酸銅0.00001%、pH 7.0)で30℃で72時間培養した。かくして培養された菌株をピロロキノリンキノン測定法を利用してピロロキノリンキノン生産性に優れた菌株を選別した後、ハイフォミクロビウム(Hyphomicrobium)SWB−P91と命名し、これを2014年10月21日付けで韓国生命工学研究院の生物資源センター(KCTC)に寄託し、受託番号KCTC12695BPを付与された。また、ハイフォミクロビウム(Hyphomicrobium)SWB−P91の塩基配列を分析し、Hyphomicrobium sp.SWB−P91 16S rRNA sequence(配列番号1)を同定した。
【0032】
ピロロキノリンキノン測定法は、アジレント(Agilent)社の1100高速液体クロマトグラフィーとシセイドー(Shiseido)社のC18カラム(4.6x250mm、5um)を使用し、移動相としてアセトニトリル緩衝液(acetonitrile buffer) 1:9(v/v)で緩衝液(buffer、0.1M KH2PO4 and 0.1M HClO4:pH 2.2−8N NaOH)で1.0ml/min.の流速とし、254nmで吸光度を測定し、ピロロキノリンキノンを検出した。
【0033】
表1及び表2では、高濃度のメタノール及びホルムアルデヒドを処理し、母菌株と本発明の変異菌株SWB−P91の生育度を比較した。その結果、本発明の変異菌株SWB−P91の場合、母菌株に比べてメタノール濃度0.5%以上及びホルムアルデヒド濃度1.5mg/Lの高濃度でも増加した生育度を示すことを確認した。
【0034】
【表1】
+++:72時間培養後、OD 3.0以上の生育を示す。
++:72時間培養後、OD 2.0〜3.0の生育を示す。
+:72時間培養後、OD 1.0〜2.0の生育を示す。
-:72時間培養後、OD 1.0以下の生育を示す。
【0035】
【表2】
+++:72時間培養後、OD 3.0以上の生育を示す。
++:72時間培養後、OD 2.0〜3.0の生育を示す。
+:72時間培養後、OD 1.0〜2.0の生育を示す。
-:72時間培養後、OD 1.0以下の生育を示す。
【0036】
実施例2:ハイフォミクロビウム属SWB−P91(KCTC12695BP)変異菌株と母菌株のピロロキノリンキノンの生産性比較
発酵生産培地(メタノール1%、硫酸アンモニウム0.3%、リン酸水素カリウム0.14%、リン酸二ナトリウム0.21%、セリン0.02%、硫酸マグネシウム0.1%、第1鉄クエン酸塩0.003%、塩化カルシウム0.003%、硫酸マンガン0.0001%、硫酸亜鉛0.002%、硫酸銅0.00001%、pH 7.0)1.8Lを5L規模の小型発酵槽に入れ、121℃、20分間殺菌を実施した後、同一培地で30℃、120rpm、48時間培養された種菌培養液200mlを接種し、500rpm、1vvmの条件で30℃で150時間発酵を行った。発酵液においてpHは、アンモニア水で7に調節し、追加メタノールは、発酵中に添加する流加式発酵工程で菌株のピロロキノリンキノン生産性を測定した。流加式培養において培養液内のメタノール濃度は、0.5%に維持し、この際、発酵時間150時間後に、最終菌体生育度及びピロロキノリンキノン生産性を母菌株と比較した。母菌株は、流加式培養において培地内のメタノール濃度が0.2%以上で生育が阻害を受けるため、0.1%に維持し、同一条件で発酵を進行した。表3のように、発酵実験で本発明の変異菌株は、母菌株に比べて培地中メタノール濃度0.5%で生育が維持さ、母菌株に比べて生産性に優れた安定的な菌株であることを確認した。
【0037】
【表3】
【0038】
実施例3:培地内のセリン添加による生育くらい比較
培地成分にセリンを添加することによって生育誘導期(lag phase)から指数増殖期への進入が安定的に進行されるかを調べる比較実験を行った。このために、完全液体培地(メタノール0.2%、硫酸アンモニウム0.3%、リン酸水素カリウム0.14%、リン酸二ナトリウム0.21%、硫酸マグネシウム0.1%、第1鉄クエン酸塩0.003%、塩化カルシウム0.003%、硫酸マンガン0.0001%、硫酸亜鉛0.002%、硫酸銅0.00001%、pH 7.0)にセリンを添加しない培地と、セリンを0.002%で添加した培地それぞれ30個のフラスコにハイフォミクロビウムSWB−P91菌株を10%の量で種菌接種し、30℃で30時間120rpmで培養し、生育程度を比較した。
【0039】
セリンを添加しない培地では、図1のように、低い生育程度を示すか、指数増殖期への進行が一定でないものと現われ、セリンを添加した培地では、図2のように、ほぼ安定的な生育程度と指数増殖期への速い進行程度を示した。このような結果は、母菌株であるハイフォミクロビウム属菌株を使用した実験でも、類似の結果を示した。これにより、メタノール利用菌株の炭素源同和機作のうち一番目の段階であるセリン形成段階が生育誘導期に率速段階として作用することによって発生する初期生育の不安定性と指数増殖期への進行が遅延される問題を、セリンを添加することによって解決することができることを示す結果である。
【0040】
実施例4:ピロロキノリンキノンの大量精製
実施例4−1:ダイヤイオンHP−20(DIAION HP−20)によるピロロキノリンキノンの吸着
実施例2の発酵培養液でピロロキノリンキノン精製を進行した。培養液0.5Lを遠心分離機を利用して菌体を除去し、上清液を5N HClを利用してpH 1.8に調整した。これをダイヤイオンHP−20(DIAION HP-20) 樹脂100mlが充填されたカラムに流して、ピロロキノリンキノンを樹脂に吸着させた。吸着が完了したカラムにpH 1.5に調節された蒸留水を樹脂量の3倍数で流して洗浄を実施した後、0.2Nアンモニア水を利用して脱離を進行した。アンモニア水が樹脂に通過しつつピロロキノリンキノンの赤色の帯が脱離液に沿って移動することが認められ、赤色部分が溶離される部分を分取した。その後、1Nアンモニア水を利用して追加脱離を進行したが、これ以上ピロロキノリンキノンは溶離されなかった。また、100mlのDEAEセファロース(DEAE sepharose)樹脂で充填されたカラムに培養上清液(pH7.0)0.5Lを流して吸着を実施した。その後、0.2M塩化ナトリウム溶液3倍数で洗浄を実施した後、0.65M塩化ナトリウム溶液で脱離を進行した。赤色ピロロキノリンキノン部分が溶離される部分を分取した。その後、1M塩化ナトリウム溶液で再溶離を進行したが、これ以上ピロロキノリンキノンは溶離されなかった。比較実施したDEAEセファロース(DEAE-sepharose)樹脂を利用したピロロキノリンキノン分離精製した結果は、表4に示された通りである。
【0041】
【表4】
【0042】
実施例4−2:減圧濃縮によるピロロキノリンキノンの回収
実施例4−2でダイヤイオンHP−20(DIAION HP-20)樹脂を利用して吸着したピロロキノリンキノン及び0.2Nアンモニア水で溶離されたピロロキノリンキノン溶液に対して減圧濃縮を実施した。減圧濃縮によって全量のアンモニア水を除去することができ、約210mgのピロロキノリンキノンを回収することができた。回収率は、68.9%を示した。
【0043】
なお、既存の DEAEセファロース(DEAE-sepharose)樹脂を利用して溶離されたピロロキノリンキノン溶液からピロロキノリンキノンを回収するために、強酸を利用してpHを2.5に調整し、酸沈澱法を実施した。かくして得られたピロロキノリンキノンは、149mgであって、回収率48.6%であった。比較実施した結果は、表5に示された通りである。
【0044】
【表5】
【受託番号】
【0045】
寄託機関名:韓国生命工学研究院
受託番号:KCTC12695BP
受託日付:20141021
図1
図2
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]