特許第6383354号(P6383354)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6383354ポリグリセリンジ脂肪族カルボン酸エステル
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6383354
(24)【登録日】2018年8月10日
(45)【発行日】2018年8月29日
(54)【発明の名称】ポリグリセリンジ脂肪族カルボン酸エステル
(51)【国際特許分類】
   C07C 69/58 20060101AFI20180820BHJP
   C07C 67/29 20060101ALI20180820BHJP
   C08G 65/332 20060101ALI20180820BHJP
   C11D 1/74 20060101ALN20180820BHJP
【FI】
   C07C69/58CSP
   C07C67/29
   C08G65/332
   !C11D1/74
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-517016(P2015-517016)
(86)(22)【出願日】2014年4月24日
(86)【国際出願番号】JP2014061535
(87)【国際公開番号】WO2014185245
(87)【国際公開日】20141120
【審査請求日】2017年3月15日
(31)【優先権主張番号】特願2013-102440(P2013-102440)
(32)【優先日】2013年5月14日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】100101362
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 幸久
(72)【発明者】
【氏名】坂西 裕一
【審査官】 斉藤 貴子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/146871(WO,A1)
【文献】 米国特許第04515775(US,A)
【文献】 特開平09−249615(JP,A)
【文献】 特開平07−145104(JP,A)
【文献】 特開平06−271895(JP,A)
【文献】 特開2011−168548(JP,A)
【文献】 特開2013−194209(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 1/00−409/44
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】
(式中、R1、R2は同一又は異なって、ヒドロキシル基を有していてもよい直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基又はアルケニル基である。nはグリセリン単位の数を示し、2以上の整数である)
で表されるポリグリセリンジ脂肪族カルボン酸エステル。
【請求項2】
HLBが6〜16である、請求項1に記載のポリグリセリンジ脂肪族カルボン酸エステル。
【請求項3】
下記式(2)
【化2】
(式中、R1、R2は同一又は異なって、ヒドロキシル基を有していてもよい直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基又はアルケニル基である)
で表される2級ヒドロキシル基を有するグリセリンジ脂肪族カルボン酸エステル1モルに対して、グリシドールnモル(nは2以上の整数である)を反応させて、下記式(1)
【化3】
(式中、R1、R2は前記に同じ。nはグリセリン単位の数を示し、2以上の整数である)
で表されるポリグリセリンジ脂肪族カルボン酸エステルを得るポリグリセリンジ脂肪族カルボン酸エステルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なポリグリセリンジ脂肪族カルボン酸エステルに関する。前記ポリグリセリンジ脂肪族カルボン酸エステルは2鎖型界面活性剤として有用である。本願は、2013年5月14日に日本に出願した、特願2013−102440号の優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
2鎖型界面活性剤は、2分子のモノメリック型界面活性剤(一疎水基一親水基型界面活性剤)が短いスペーサーで結合した形状を有する化合物であり、短いスペーサーで結合した2つの疎水基は反発すること無く、水相と油相の界面に密に吸着する。そのため、モノメリック型界面活性剤と、その半分のモル数の2鎖型界面活性剤を比較すると、疎水基の数は等しいにもかかわらず、2鎖型界面活性剤の方が優位に高い界面活性能を示し、界面活性剤の使用量を従来の半分以下にまで低減することができ環境に優しいことが知られている。
【0003】
上記のように優れた性能を有する2鎖型界面活性剤は、オレイン酸から合成されるものや、天然物から抽出されるもの等が知られている。しかし、オレイン酸からの合成や、天然物からの抽出には複雑な工程を要する上、低収率である。そのため、非常に高価なことが問題であった。また、所望するHLB値を有する2鎖型界面活性剤を選択的に製造することは非常に困難であった(引用文献1〜2等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭59−105073号公報
【特許文献2】特開2001−354998号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の目的は、HLB値を容易に調整することができる2鎖型界面活性剤として新規なポリグリセリンジ脂肪族カルボン酸エステルを提供することにある。
本発明の他の目的は、前記ポリグリセリンジ脂肪族カルボン酸エステルを選択的に製造するポリグリセリンジ脂肪族カルボン酸エステルの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記課題を解決するため鋭意検討した結果、グリセリンジ脂肪族カルボン酸エステル1モルにグリシドールを2モル以上反応させて得られる化合物は2つの疎水基(アルキル基又はアルケニル基)が短いスペーサーで結合し、更に水溶性の高いポリグリセリン部分を親水基として有するため、優れた界面活性能を有すること、グリセリンジ脂肪族カルボン酸エステルに反応させるグリシドール量を調整することにより得られるポリグリセリンジ脂肪族カルボン酸エステルのHLB値を制御することができることを見いだした。本発明はこれらの知見に基づいて完成させたものである。
【0007】
すなわち、本発明は、下記式(1)
【化1】
(式中、R1、R2は同一又は異なって、ヒドロキシル基を有していてもよい直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基又はアルケニル基である。nはグリセリン単位の数を示し、2以上の整数である)
で表されるポリグリセリンジ脂肪族カルボン酸エステルを提供する。
【0008】
本発明は、また、下記式(2)
【化2】
(式中、R1、R2は同一又は異なって、ヒドロキシル基を有していてもよい直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基又はアルケニル基である)
で表される2級ヒドロキシル基を有するグリセリンジ脂肪族カルボン酸エステル1モルに対して、グリシドールnモル(nは2以上の整数である)を反応させて、下記式(1)
【化3】
(式中、R1、R2は前記に同じ。nはグリセリン単位の数を示し、2以上の整数である)
で表されるポリグリセリンジ脂肪族カルボン酸エステルを得るポリグリセリンジ脂肪族カルボン酸エステルの製造方法を提供する。
【0009】
尚、本明細書において、第2級炭素原子(2個の炭素原子と結合する炭素原子)に結合するヒドロキシル基を「2級ヒドロキシル基」、第1級炭素原子(1個の炭素原子と結合する炭素原子)に結合するヒドロキシル基を「1級ヒドロキシル基」と称する。
【発明の効果】
【0010】
本発明のポリグリセリンジ脂肪族カルボン酸エステルは上記構成を有するため、極めて優れた界面活性能を示す。そのため、界面活性剤として本発明のポリグリセリンジ脂肪族カルボン酸エステルを使用すると、従来に比べて少ない量でも十分な効果を発揮することができ、環境負荷を低減することができる。更に、HLB値を所望する範囲に容易に調整することができる。そのため、本発明のポリグリセリンジ脂肪族カルボン酸エステルは、消泡剤、W/O型乳化剤、O/W型乳化剤、湿潤剤、洗浄剤、可溶化剤等として好適に使用することができる。また、本発明のポリグリセリンジ脂肪族カルボン酸エステルの製造方法によれば、前記ポリグリセリンジ脂肪族カルボン酸エステルを容易且つ選択的に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[ポリグリセリンジ脂肪族カルボン酸エステル]
本発明のポリグリセリンジ脂肪族カルボン酸エステルは、上記式(1)で表される。式(1)中、R1、R2は同一又は異なって、ヒドロキシル基を有していてもよい直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基又はアルケニル基である。nはグリセリン単位の数を示し、2以上の整数である。
【0012】
式(1)の括弧内のC362は、下記式(1-1)及び(1-2)で示される両方の構造を有する。
−CH2−CHOH−CH2O− (1-1)
−CH(CH2OH)CH2O− (1-2)
【0013】
1、R2における直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基としては、例えば、n−ヘキシル、n−ヘプチル、n−オクチル、n−ノニル、n−デシル、n−ウンデシル、n−ドデシル(ラウリル)、n−トリデシル、n−テトラデシル(ミリスチル)、n−ペンタデシル、n−ヘキサデシル、n−ヘプタデシル、n−ステアリル、n−ノナデシル、n−エイコシル、n−ヘンエイコシル、n−ドコシル基等のC6-22直鎖状アルキル基;イソヘキシル、s−ヘキシル、t−ヘキシル、イソヘプチル、s−ヘプチル、t−ヘプチル、イソオクチル、s−オクチル、t−オクチル、イソノニル、s−ノニル、t−ノニル、イソデシル、s−デシル、t−デシル、イソウンデシル、s−ウンデシル、t−ウンデシル、イソドデシル、s−ドデシル、t−ドデシル、イソトリデシル、s−トリデシル、t−トリデシル、イソテトラデシル、s−テトラデシル、t−テトラデシル、イソペンタデシル、s−ペンタデシル、t−ペンタデシル、イソヘキサデシル、s−ヘキサデシル、t−ヘキサデシル、イソヘプタデシル、s−ヘプタデシル、t−ヘプタデシル、イソステアリル、イソノナデシル、s−ノナデシル、t−ノナデシル、イソエイコシル、s−エイコシル、t−エイコシル、イソヘンエイコシル、s−ヘンエイコシル、t−ヘンエイコシル、イソドコシル、s−ドコシル、t−ドコシル等のC6-22分岐鎖状アルキル基等を挙げることができる。
【0014】
1、R2におけるヒドロキシル基を有している直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基としては、例えば、前記C6-22直鎖状若しくは分岐鎖状アルキル基に1以上のヒドロキシル基を有する、C6-22直鎖状若しくは分岐鎖状ヒドロキシアルキル基を挙げることができる。
【0015】
1、R2における直鎖状若しくは分岐鎖状のアルケニル基としては、例えば、n−ヘキセニル、n−ヘプテニル、n−オクテニル、n−ノネニル、n−デセニル、n−ウンデセニル、n−ドデセニル、n−トリデセニル、n−テトラデセニル、n−ペンタデセニル、n−ヘキサデセニル、n−ヘプタデセニル、n−オレイル、n−ノナデセニル、n−エイコセニル、n−ヘンエイコセニル、n−ドコセニル基等のC6-22直鎖状アルケニル基;イソヘキセニル、s−ヘキセニル、t−ヘキセニル、イソヘプテニル、s−ヘプテニル、t−ヘプテニル、イソオクテニル、s−オクテニル、t−オクテニル、イソノネニル、s−ノネニル、t−ノネニル、イソデセニル、s−デセニル、t−デセニル、イソウンデセニル、s−ウンデセニル、t−ウンデセニル、イソドデセニル、s−ドデセニル、t−ドデセニル、イソトリデセニル、s−トリデセニル、t−トリデセニル、イソテトラデセニル、s−テトラデセニル、t−テトラデセニル、イソペンタデセニル、s−ペンタデセニル、t−ペンタデセニル、イソヘキサデセニル、s−ヘキサデセニル、t−ヘキサデセニル、イソヘプタデセニル、s−ヘプタデセニル、t−ヘプタデセニル、イソオレイル、イソノナデセニル、s−ノナデセニル、t−ノナデセニル、イソエイコセニル、s−エイコセニル、t−エイコセニル、イソヘンエイコセニル、s−ヘンエイコセニル、t−ヘンエイコセニル、イソドコセニル、s−ドコセニル、t−ドコセニル等のC6-22分岐鎖状アルケニル基等を挙げることができる。
【0016】
1、R2におけるヒドロキシル基を有している直鎖状若しくは分岐鎖状のアルケニル基としては、例えば、前記C6-22直鎖状若しくは分岐鎖状アルケニル基に1以上のヒドロキシル基を有する、C6-22直鎖状若しくは分岐鎖状ヒドロキシアルケニル基を挙げることができる。
【0017】
本発明におけるR1、R2としては、なかでも、界面上に強固な柵層を形成することができ、それにより、ラメラ液晶相を形成することができる点で、炭素数8〜20(特に好ましくは炭素数8〜18、最も好ましくは10〜18)の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基又はアルケニル基が好ましい。
【0018】
本発明のポリグリセリンジ脂肪族カルボン酸エステルは、グリセリン単位の数(n)を調整することにより、HLB(Hydrophile-Lipophile Balance;親水親油バランス)を6〜16の範囲で適宜調整することができる。本発明のポリグリセリンジ脂肪族カルボン酸エステルを洗浄剤として使用する場合はHLB値を例えば8〜15程度(好ましくは10〜15)に調整することが好ましい。HLB値は、例えば下記式により算出することができる(有機概念図法)。
HLB値=無機性/有機性×10
【0019】
nはグリセリン単位の数を示し、2以上の整数である。本発明のポリグリセリンジ脂肪族カルボン酸エステルを洗浄剤として使用する場合は、nを例えば2〜25程度(好ましくは2〜10、特に好ましくは2〜8、最も好ましくは4〜8)に調整することが水性成分への溶解性が高く、油性成分への親和性が高い点で好ましい。また、特にnが6以上である場合は、親水基であるポリグリセリンの2級ヒドロキシル基が水と水素結合を形成するため水への溶解度が高く、クラフト点が低い(例えば10℃以下、好ましくは0〜5℃)。そのため、低温でも優れた溶解性、及び可溶化力を発揮することができる。
【0020】
本発明のポリグリセリンジ脂肪族カルボン酸エステルとしては、例えば、トリグリセリンジオクタン酸エステル、トリグリセリンジデカン酸エステル、トリグリセリンジドデカン酸エステル、トリグリセリンジミリスチン酸エステル、トリグリセリンジオレイン酸エステル、トリグリセリンジステアリン酸エステル、トリグリセリンジイソステアリン酸エステル、テトラグリセリンジオクタン酸エステル、テトラグリセリンジデカン酸エステル、テトラグリセリンジドデカン酸エステル、テトラグリセリンジミリスチン酸エステル、テトラグリセリンジオレイン酸エステル、テトラグリセリンジステアリン酸エステル、テトラグリセリンジイソステアリン酸エステル、ペンタグリセリンジオクタン酸エステル、ペンタグリセリンジデカン酸エステル、ペンタグリセリンジドデカン酸エステル、ペンタグリセリンジミリスチン酸エステル、ペンタグリセリンジオレイン酸エステル、ペンタグリセリンジステアリン酸エステル、ペンタグリセリンジイソステアリン酸エステル、ヘキサグリセリンジオクタン酸エステル、ヘキサグリセリンジデカン酸エステル、ヘキサグリセリンジドデカン酸エステル、ヘキサグリセリンジミリスチン酸エステル、ヘキサグリセリンジオレイン酸エステル、ヘキサグリセリンジステアリン酸エステル、ヘキサグリセリンジイソステアリン酸エステル、ヘプタグリセリンジオクタン酸エステル、ヘプタグリセリンジデカン酸エステル、ヘプタグリセリンジドデカン酸エステル、ヘプタグリセリンジミリスチン酸エステル、ヘプタグリセリンジオレイン酸エステル、ヘプタグリセリンジステアリン酸エステル、ヘプタグリセリンジイソステアリン酸エステル、オクタグリセリンジオクタン酸エステル、オクタグリセリンジデカン酸エステル、オクタグリセリンジドデカン酸エステル、オクタグリセリンジミリスチン酸エステル、オクタグリセリンジオレイン酸エステル、オクタグリセリンジステアリン酸エステル、オクタグリセリンジイソステアリン酸エステル、ノナグリセリンジオクタン酸エステル、ノナグリセリンジデカン酸エステル、ノナグリセリンジドデカン酸エステル、ノナグリセリンジミリスチン酸エステル、ノナグリセリンジオレイン酸エステル、ノナグリセリンジステアリン酸エステル、ノナグリセリンジイソステアリン酸エステル、デカグリセリンジオクタン酸エステル、デカグリセリンジデカン酸エステル、デカグリセリンジドデカン酸エステル、デカグリセリンジミリスチン酸エステル、デカグリセリンジオレイン酸エステル、デカグリセリンジステアリン酸エステル、デカグリセリンジイソステアリン酸エステル、ポリ(11)グリセリンジオクタン酸エステル、ポリ(11)グリセリンジデカン酸エステル、ポリ(11)グリセリンジドデカン酸エステル、ポリ(11)グリセリンジミリスチン酸エステル、ポリ(11)グリセリンジオレイン酸エステル、ポリ(11)グリセリンジステアリン酸エステル、ポリ(11)グリセリンジイソステアリン酸エステル等を挙げることができる。
【0021】
本発明のポリグリセリンジ脂肪族カルボン酸エステルは、短いスペーサーで結合した2つの基(R1、R2)が反発すること無く界面に密に吸着することにより極めて優れた界面活性能を発揮することができる。そのため、使用量を従来の半分以下にまで低減することができ、環境負荷が少なく、また、皮膚等への刺激性も極めて低く抑制することができる。特に、nが6以上の親水性に優れたポリグリセリンジ脂肪族カルボン酸エステルは、クラフト点が低く、低温でも優れた溶解性、及び可溶化力を発揮できることができる。
【0022】
本発明のポリグリセリンジ脂肪族カルボン酸エステルは上記特性を有するため、例えば、消泡剤、W/O型乳化剤、O/W型乳化剤、湿潤剤、洗浄剤、可溶化剤等として好適に使用することができる。
【0023】
[ポリグリセリンジ脂肪族カルボン酸エステルの製造方法]
下記式(1)で表されるポリグリセリンジ脂肪族カルボン酸エステルは、例えば、下記式(2)で表される2級ヒドロキシル基を有するグリセリンジ脂肪族カルボン酸エステル1モルに対して、グリシドールnモル(nは2以上の整数である)を反応させること(=グリシドールの付加重合反応)により製造することができる。尚、下記式中のR1、R2、nは前記に同じ。
【0024】
【化4】
【0025】
式(2)で表される2級ヒドロキシル基を有するグリセリンジ脂肪族カルボン酸エステルは、例えば、下記式(3)で表される脂肪族カルボン酸と下記式(4)で表されるグリシジル脂肪族カルボン酸エステルを反応させることにより製造することができる。尚、下記式中のR1、R2は前記に同じ。
【0026】
【化5】
【0027】
その他、式(2)で表される2級ヒドロキシル基を有するグリセリンジ脂肪族カルボン酸エステルは、高度不飽和脂肪族カルボン酸又はその低級アルキルエステルとグリセリンとを、固定化部分グリセリドリパーゼの存在下に、生成水を反応系外に除去しながら反応させる方法(特開2004−208539号公報)や、グリセリンと脂肪族カルボン酸を反応させる(エステル化する)方法、グリセリンと脂肪族カルボン酸エステルのエステル交換法(特公平6−65311号公報)等によっても製造することができる。
【0028】
尚、上記式(2)で表される2級ヒドロキシル基を有するグリセリンジ脂肪族カルボン酸エステルには、通常下記式(2')
【化6】
で表される1級ヒドロキシル基を有するグリセリンジ脂肪族カルボン酸エステルも含有される。そのため、上記ポリグリセリンジ脂肪族カルボン酸エステルの製造方法では、下記式(1')
【化7】
で表されるポリグリセリンジ脂肪族カルボン酸エステルが副生するが、その副生率は40%以下(好ましくは30%以下)が望ましい。式(1')及び(2')中、R1、R2、nは前記に同じ。
【0029】
上記グリシドールの付加重合反応は溶媒の存在下又は非存在下で行うことができる。前記溶媒としては、例えば、トリエチルアミン、ピペリジン、N−メチルピペリジン、ピリジン、N−メチルピロリドン等のアミン類(特に、第3級アミン)や含窒素複素環化合物等が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0030】
上記グリシドールの付加重合反応の反応雰囲気は反応を阻害しない限り特に限定されず、例えば、空気雰囲気、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気等の何れであってもよい。また、反応はバッチ式、セミバッチ式、連続式等の何れの方法で行うこともできる。
【0031】
上記グリシドールの付加重合反応の反応温度としては、例えば0〜100℃程度、好ましくは40〜80℃である。反応時間は、例えば5〜20時間程度、好ましくは8〜14時間である。
【0032】
グリシドールの付加重合反応終了後、反応生成物は、例えば、濾過、濃縮、蒸留、抽出等の分離手段や、これらを組み合わせた分離手段により分離精製できる。
【0033】
本発明のポリグリセリンジ脂肪族カルボン酸エステルの製造方法によれば、式(2)で表される2級ヒドロキシル基を有するグリセリンジ脂肪族カルボン酸エステルに反応させるグリシドールの量を調整することにより、所望のHLB値を有するポリグリセリンジ脂肪族カルボン酸エステルを容易且つ選択的に製造することができる。
【実施例】
【0034】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0035】
実施例1(ポリ(11)グリセリンジオレン酸エステルの製造)
グリセリンジオレン酸エステルは、特公平6−65311号公報に記載の方法に従って合成した。
得られたグリセリンジオレイン酸エステル621.0gに対し、N−メチルピロリドン400mLを加えた。
その後、上記グリセリンジオレイン酸エステル1モルに対して10モルとなる量のグリシドール(740.8g)を、70℃を維持しつつ、10時間かけて滴下して1時間の熟成を行った。その後、190℃、1torrにて溶媒を除去し、さらに2mmHgで他の低沸成分を留去することによりポリ(11)グリセリンジオレイン酸エステル(HLB:10.2)1200gを得た。
1H-NMR (270MHz, DMSO-D6):δ0.76-0.85(m,6H), 1.08-1.35(m,40H), 1.41-1.56(m,4H), 1.86-1.95(m,8H), 2.14-2.25(m,4H), 3.22-3.84(m,55H), 4.34-4.81(m,11H), 5.25-5.35(m,4H)
【0036】
実施例2(テトラグリセリンジオレイン酸エステルの製造)
グリシドールの使用量を、グリセリンジオレイン酸エステル1モルに対して10モルから3モルに変更した以外は実施例1と同様にして、テトラグリセリンジオレイン酸エステル(HLB:6.0)を得た。
【0037】
実施例3(ペンタグリセリンジオレイン酸エステルの製造)
グリシドールの使用量を、グリセリンジオレイン酸エステル1モルに対して10モルから4モルに変更した以外は実施例1と同様にして、ペンタグリセリンジオレイン酸エステル(HLB:6.8)を得た。
【0038】
実施例4(ヘプタグリセリンジオレイン酸エステルの製造)
グリシドールの使用量を、グリセリンジオレイン酸エステル1モルに対して10モルから6モルに変更した以外は実施例1と同様にして、ヘプタグリセリンジオレイン酸エステル(HLB:8.2)を得た。
【0039】
評価
実施例で得られた各ポリグリセリンジ脂肪族カルボン酸エステル20重量部に対して水を80重量部混合して洗浄剤1〜4を調製し、得られた洗浄剤について、下記試験方法により洗浄力及び起泡力を評価した。
【0040】
<洗浄力試験>
洗浄剤の0.2%水溶液700mL(液温:30℃)に、人工汚巧を付着させた平面20cm2のガラス板を専用台にセットして沈め、撹拌羽を回転数250rpmで3分間回転させた。
回転終了後、ガラス板を取り出し、乾燥させた後の重量を測定し、下記式を用いて洗浄率を算出し、下記基準で洗浄力を評価した。
洗浄率={(洗浄前の重量−洗浄後の重量)/(洗浄前の重量−ガラス板重量)}×100
評価基準
◎:洗浄率95%以上
○:洗浄率85%以上、95%未満
△:洗浄率50%以上、85%未満
×:洗浄率50%未満
【0041】
<起泡力試験>
洗浄剤の20倍希釈水溶液を調製し、この溶液100mL(液温:30℃)を500mLメスシリンダーに注入した。次いで、撹拌羽根を上記溶液中に設置し、1000rpmの回転数で1分間撹拌した。その後、生じた泡の体積(mL)を測定し泡立ち量とした。前記泡立ち量から、下記基準により起泡力を評価した。
評価基準
◎:泡立ち量が300mL以上
○:泡立ち量が250mL以上、300mL未満
△:泡立ち量が200mL以上、250mL未満
×:泡立ち量が200mL未満
【0042】
上記結果を下記表にまとめて示す。
【表1】
【0043】
表1より、本発明のポリグリセリンジ脂肪族カルボン酸エステルは優れた界面活性能を有し、洗浄剤として使用した場合は優れた洗浄力及び起泡力を発揮できることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明のポリグリセリンジ脂肪族カルボン酸エステルは、極めて優れた界面活性能を示す。そのため、界面活性剤として本発明のポリグリセリンジ脂肪族カルボン酸エステルを使用すると、従来に比べて少ない量でも十分な効果を発揮することができ、環境負荷を低減することができる。更に、HLB値を所望する範囲に容易に調整することができる。そのため、本発明のポリグリセリンジ脂肪族カルボン酸エステルは、消泡剤、W/O型乳化剤、O/W型乳化剤、湿潤剤、洗浄剤、可溶化剤等として好適に使用することができる。また、本発明のポリグリセリンジ脂肪族カルボン酸エステルの製造方法によれば、前記ポリグリセリンジ脂肪族カルボン酸エステルを容易且つ選択的に製造することができる。