(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6383355
(24)【登録日】2018年8月10日
(45)【発行日】2018年8月29日
(54)【発明の名称】画像診断システム及び作動方法
(51)【国際特許分類】
G01N 23/041 20180101AFI20180820BHJP
A61B 6/03 20060101ALI20180820BHJP
【FI】
G01N23/041
A61B6/03 310Z
【請求項の数】14
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-519418(P2015-519418)
(86)(22)【出願日】2013年6月20日
(65)【公表番号】特表2015-522154(P2015-522154A)
(43)【公表日】2015年8月3日
(86)【国際出願番号】IB2013055060
(87)【国際公開番号】WO2014001975
(87)【国際公開日】20140103
【審査請求日】2016年6月17日
(31)【優先権主張番号】61/664,950
(32)【優先日】2012年6月27日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】590000248
【氏名又は名称】コーニンクレッカ フィリップス エヌ ヴェ
【氏名又は名称原語表記】KONINKLIJKE PHILIPS N.V.
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100091214
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 進介
(74)【代理人】
【識別番号】100112759
【弁理士】
【氏名又は名称】藤村 直樹
(72)【発明者】
【氏名】プロクサ,ローラント
【審査官】
越柴 洋哉
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2010/0074395(US,A1)
【文献】
特開2012−035050(JP,A)
【文献】
特開2012−005820(JP,A)
【文献】
特開2010−063646(JP,A)
【文献】
特表2011−515143(JP,A)
【文献】
特開2011−045655(JP,A)
【文献】
特表2009−543080(JP,A)
【文献】
特表2013−513417(JP,A)
【文献】
特開2011−189118(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00−23/2276
A61B 6/00− 6/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
格子に基づくDPCIのために形成される画像診断システムであって、
検査領域の周囲を回転することが可能な回転ガントリと、
前記回転ガントリにより支持され、前記検査領域を横切る放射線を放出するように形成された放射線源と、
前記回転ガントリにより支持され、前記検査領域を横切る放射線を検出するように形成されたディテクタアレイであって、前記検査領域内の客体又は対象によって減衰させられていない放射線を受信する少なくとも1つのディテクタピクセルを含む、ディテクタアレイと、
前記ディテクタピクセルの出力信号に基づいて、位相格子及び吸収格子の間の相対的なグローバル位相を少なくとも決定するリファレンスデータ判断部と、
前記回転ガントリにより支持され、ソース格子、前記位相格子及び前記吸収格子を含む干渉計と
を有し、前記位相格子及び前記吸収格子は、積分期間の間に、互いに反対向きに連続的に並進するように形成され、前記ディテクタアレイは、検出された放射線を表す電気信号を生成及び出力するように形成され、前記電気信号は吸収成分、コヒーレンス成分及び位相成分を含む、画像診断システム。
【請求項2】
前記位相格子及び前記吸収格子の方向が、位相ステッピング期間の各々において反転される、請求項1に記載の画像診断システム。
【請求項3】
前記位相格子及び前記吸収格子の方向が、位相ステッピング期間の各々において同一である、請求項1に記載の画像診断システム。
【請求項4】
積分期間が、複数の位相ステッピング期間を含む、請求項1〜3の内の何れか1項に記載の画像診断システム。
【請求項5】
前記吸収格子を一定の速度で並進させるように制御するコントローラを更に有し、前記コントローラは、サンプリング期間の各々についてガントリ角度位置を判定し、前記ガントリ角度位置を利用して、前記吸収格子の速度変動を補正する、請求項1〜4のうちの何れか1項に記載の画像診断システム。
【請求項6】
所定の積分期間に対して前記吸収格子の速度を適応的に制御するコントローラを更に有する請求項1〜4のうちの何れか1項に記載の画像診断システム。
【請求項7】
実際のガントリ角度位置に対して前記吸収格子の速度を適応的に制御するコントローラを更に有する請求項1〜4のうちの何れか1項に記載の画像診断システム。
【請求項8】
放射線源、干渉計及びディテクタアレイを支持するガントリを検査領域の周りで回転させるステップであって、回転の各々は複数の積分期間を含む、ステップと、
視野の外で前記検査領域を横切る検出された放射線に対応するリファレンス信号を取得するステップと、
前記リファレンス信号に基づいて、位相格子及び吸収格子の間の相対的なグローバル位相を判定するステップと、
積分期間の間に、前記ガントリを回転させながら、前記干渉計の位相格子及び吸収格子を互いに反対向きに連続的に並進させるステップと、
前記積分期間の間に、前記ガントリを回転させながら、前記ディテクタアレイを所定の回数サンプリングするステップと、
前記積分期間の間に、前記ガントリを回転させながら、前記位相格子又は前記吸収格子のうちの少なくとも一方の並進する位置を追跡するステップと、
前記ディテクタアレイにより、吸収成分、コヒーレンス成分及び位相成分を含む信号を生成するステップと
を有する方法。
【請求項9】
前記吸収成分、前記コヒーレンス成分又は前記位相成分のうちの少なくとも1つを前記信号から抽出するステップを更に有する請求項8に記載の方法。
【請求項10】
吸収画像、コヒーレンス画像又は位相画像のうちの1つ以上を、前記吸収、コヒーレンス又は位相成分のうちの抽出された少なくとも1つに基づいて再構築するステップを更に有する請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
前記位相格子又は前記吸収格子のうちの少なくとも一方は、各々の積分期間の間に、前記位相格子又は前記吸収格子のうちの少なくとも一方における1つ以上の格子ライン周期にわたって、連続的に並進する、請求項8〜10のうちの何れか1項に記載の方法。
【請求項12】
サンプリング期間の各々についてガントリ角度位置を判定し、前記ガントリ角度位置を利用して、前記吸収格子の速度変動を補正することにより、前記吸収格子を一定の速度で並進させるように制御を行うステップを更に有する請求項8〜11のうちの何れか1項に記載の方法。
【請求項13】
所定の積分期間に対して前記吸収格子の速度を適応的に制御するステップを更に有する請求項8〜11のうちの何れか1項に記載の方法。
【請求項14】
実際のガントリ角度位置に対して前記吸収格子の速度を適応的に制御するステップを更に有する請求項8〜11のうちの何れか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
以下の内容は一般に回折格子に基づく位相差コントラスト画像処理(differential phase contrast imaging:DPCI)に関連し、様々な用途のうちの特定の例としてコンピュータ断層撮影(computed tomography:CT)に関連して説明される。
【背景技術】
【0002】
従来のCT画像診断では、スキャンされた対象の構成物質の吸収断面積の相違によりコントラストが得られる。これは、例えば人体を包む組織のように吸収性の低い材料の母体の中に、骨のような吸収性の高い構造が組み込まれているような場合には、適切な結果をもたらす。しかしながら、類似する吸収断面積を有する異なる形態の組織が検査される場合(例えば、マンモグラフィや血管造影法等の場合)には、X線吸収コントラストは比較的貧弱になる。従って、現在の病院のX線システムで行われる吸収放射線撮影において、病気の組織と病気でない組織とを区別することは、組織の構造によっては困難である。
【0003】
格子ベースのDPCI又は回折格子に基づくDPCI(grating-based DPCI)は上記の制限を克服する。格子ベースのDPCI装置の一例は、コーニンクレッカフィリップスエレクトロニクスエヌヴィに譲渡された「Phase Contrast Imaging」と題する2012年6月8日付けで出願された出願番号第13/514,682号に示されており、その内容全体は本願のリファレンスに組み入れられる。13/514,682号に関連する装置が
図1に示されている。装置はX線ソース102とディテクタ104とを有し、ディテクタ104は検査領域106を超える側(ソース102と反対側)に位置する。ソース格子部108はソース102とディテクタ104との間でソース102に隣接する側に設けられ、吸収(又は分析)格子部110はソース102とディテクタ104との間でディテクタ104に隣接する側に設けられ、位相格子部112は検査領域106内の対象114と吸収格子部110との間に設けられる。
【0004】
ソース格子部108は位相格子部112から距離116(「l(エル)」)だけ隔てられている。位相格子部112は吸収格子部110から距離118(「d」)だけ隔てられており、距離118(d)はタルボット距離(Talbot distance)に対応する(d=p
12/8λであり、λは入射放射線の波長である)。ソース格子部108、位相格子部110及び吸収格子部112はそれぞれp
0、p
1及びp
2という格子ライン周期を有し、ここで、p
2=(1/d)p
0及びp
2=(1/2)p
1・(d+l)/lである。ソース格子部108は、個別的にはコヒーレントであるが、相互間では非コヒーレントなソースのアレイを形成する。ビーム経路の中で対象114はX線のコヒーレントな集まり各々に対して僅かな回折を生じさせ、その回折量は対象のローカルな位相勾配に比例する。この僅かな角度変化は、位相格子部112と吸収格子部114との組み合わせによる局所的に伝送される強度の変化をもたらす。
【0005】
位相格子部112は、ビームスプリッタとして機能し、入射するX線ビームを、2つの1次回折ビームに実質的に分割する。回折したビームは、干渉し、タルボット距離の位置において、或る周期とともに線形な周期的なフリンジパターン(干渉縞のパターン、縞模様の干渉パターン)を形成し、その周期はl/(l+d)により決定される幾何学的倍率が乗算された位相格子の半分に等しい。ビームの対象114による回折により生じるような入射波面のゆらぎ(perturbation)は、縞模様(フリンジ)の局所的な変位を招く。吸収格子110は、ディテクタのための通過マスク(transmission mask)として機能し、局所的なフリンジの位置(パターン)を信号強度変化に変換する。従って、検出される信号特性は、対象114により生じる位相シフトに関する定量的な情報を含む。位相情報を符号化及び抽出するために、位相ステッピング法が使用される。
【0006】
US2009/0092227(A1)は格子ベースのDPCIのための位相ステッピング法を議論している。この方法の場合、位相格子112又は吸収格子110のうちの一方が他方の格子に対して進行方向に沿って並進させられ、その並進運動は、格子ラインの周期を超える所定のステップサイズで格子ラインに垂直である。例えば、吸収格子はK個の離散ステップだけ並進させられ、ステップサイズの各々はp
2/Kであり、各々の照射方向(又は投影方向)において、格子110又は112はK個全てのステップにわたってステップの段階を進める。従って、L個の照射によるスキャンの場合、K×L個の捕捉が考えられ、L個の照射の各々についてK個の捕捉が可能である。US2010/0220832(A1)は、回転ガントリ及び格子ベースのDPCIとともにコンピュータ断層撮影の観点から位相ステッピング法を説明している。
【0007】
US2009/0092227(A1)は、位相ステッピング法がサブミクロンの精度で実行されなければならないこと、及び、双方の格子のラインのうち完全に平行な方向は欠落するかもしれないことを述べている。US2010/0220832(A1)は、サブミクロンのオーダに関する機械的な精度及び安定性の制約を考慮すると、ガントリが回転する場合に、何れかの格子のステップ進行をそのような精度で進め続けることは困難である旨を述べている。そこで、US2009/0092227(A1)は、何れの格子も並進させない代替的な方法を議論している。その代替的な方法は、位相格子/吸収格子のペアをピボット運動させること、或いは、ソース格子を並進させることを含む。「ピボット運動」は「回動」、「軸の周りのに回る運動」等と言及されてもよい。US2010/0220832(A1)は何れのガントリも並進させない代替方式を提案する。この方式の場合、それぞれが異なる一定の位相オフセットを有する位相/吸収格子のペアが、対象から検出部に至るビーム経路の中で回転させられる。
【0008】
位相ステップを進めながら、個々の測定の各々について、格子112又は110は離散的な位置に正確にステップを進める必要があり、各々の積分周期又は積分区間(integration period)で測定が行われることが、非常に強く求められる。一例として、例えばIP=100μsのような数マイクロ秒(ms)のオーダーの一般的な積分期間の場合において、K=8である場合に、各々の測定では、格子112又は110は12.5マイクロ秒の間に正確に場所をステップさせ、測定を行う。この例の場合、回転の各々について、回転毎に1000回の照射があり、格子112又は110は、サブミクロンステップで正確に8000ステップの歩を進める必要があり、各々のステップは12.5マイクロ秒の間になされる。なかなか進まない過密な力学的又は機械的な制約は、回転ガントリが重力(g)の力の影響を受けることを招き、各々の回転の間に動的な構造的な変化を招いてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許出願公開第2009/0092227号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2010/0220832号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2010/074395号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記の考察から、少なくとも1つの格子が並進運動させられる格子ベースのDPCIに対する別の方法及び装置等が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
一実施形態による画像診断システムは、
格子に基づくDPCIのために形成される画像診断システムであって、
検査領域の周囲を回転する回転ガントリと、
前記回転ガントリにより支持され、前記検査領域を横切る放射線を放出する放射線源と、
前記回転ガントリにより支持され、前記検査領域を横切る放射線を検出するディテクタアレイと、
前記回転ガントリにより支持され、ソース格子、位相格子及び吸収格子を含む干渉計と
を有し、前記位相格子又は前記吸収格子のうちの少なくとも一方は、積分期間の間に、他方に対して連続的に並進し、前記ディテクタアレイは、検出された放射線を表す電気信号を生成及び出力し、前記電気信号は吸収成分、コヒーレンス成分及び位相成分を含む、画像診断システムである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】格子ベースのDPCI装置の従来例を概略的に示す図。
【
図2】格子ベースのDPCI装置の一例を概略的に示す図。
【
図2A】格子ライン周期の中で位相格子に対して吸収格子が連続的に並進する様子を示す図。
【
図2B】格子ライン周期の中で位相格子に対して吸収格子が連続的に並進する様子を示す図。
【
図2C】格子ライン周期の中で位相格子に対して吸収格子が連続的に並進する様子を示す図。
【
図3】リファレンスデータ決定装置の一例を概略的に示す図。
【
図4】格子ベースのDPCI装置のための方法の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<実施形態の概要>
本願により説明される実施形態は、上記及び他の問題に対処する。
【0014】
一実施形態では、画像処理システムは、格子に基づくDPCIのために形成される。画像診断システムは、
検査領域の周囲を回転する回転ガントリと、
前記回転ガントリにより支持され、前記検査領域を横切る放射線を放出する放射線源と、
前記回転ガントリにより支持され、前記検査領域を横切る放射線を検出するディテクタアレイと、
前記回転ガントリにより支持され、ソース格子、位相格子及び吸収格子を含む干渉計と
を有する。前記位相格子又は前記吸収格子のうちの少なくとも一方は、積分期間の間に、他方に対して連続的に並進し、前記ディテクタアレイは、検出された放射線を表す電気信号を生成及び出力し、前記電気信号は吸収成分、コヒーレンス成分及び位相成分を含む。
【0015】
別の実施形態による方法は、
放射線源、干渉計及びディテクタアレイを支持するガントリを検査領域の周りで回転させるステップであって、回転の各々は複数の積分期間を含む、ステップと、
積分期間の間に、前記ガントリを回転させながら、前記干渉計の位相格子又は吸収格子のうちの少なくとも一方を他方に対して連続的に並進させるステップと、
前記積分期間の間に、前記ガントリを回転させながら、前記ディテクタアレイを所定の回数サンプリングするステップと、
前記積分期間の間に、前記ガントリを回転させながら、前記位相格子又は前記吸収格子のうちの少なくとも一方の並進する位置を追跡するステップと、
前記ディテクタアレイにより、吸収成分、コヒーレンス成分及び位相成分を含む信号を生成するステップと
を有する方法である。
【0016】
別の形態による方法は、
格子に基づくDPCIスキャンの間に、位相格子又は吸収格子のうちの少なくとも1つを連続的に並進させ、位相符号化及び検出を同期させるステップと、
吸収成分、コヒーレンス成分及び位相成分を含むディテクタアレイ出力信号を生成するステップと
を有する方法である。
【0017】
<図面>
本発明は、様々な構成要素及び構成要素の集まり並びに様々なステップ及びステップの集まり等の形態をとってよい。図面は好適な実施形態を示しているに過ぎず、本発明を限定するように解釈されるべきでない。
【0018】
図1は格子ベースのDPCI装置の従来例を概略的に示す。
【0019】
図2は格子ベースのDPCI装置の一例を概略的に示し、位相及び吸収格子が互いに対して連続的に並進する。
【0020】
図2A、2B、2Cは格子ライン周期の中で位相格子に対して吸収格子が連続的に並進する様子を示す。
【0021】
図3はリファレンスデータ決定装置の一例を概略的に示す。
【0022】
図4は、格子ベースのDPCI装置のための方法の一例を示し、位相及び吸収格子が互いに対して連続的に並進する。
【0023】
<実施形態の詳細な説明>
図2は例えばCTスキャナのような画像診断システム200を概略的に示しており、画像診断システム200は格子ベースのDPCI用に形成されている。画像診断システム200は回転ガントリ204を収容する基礎的な固定ガントリ202を含み、回転ガントリ204は、固定ガントリ202により回転可能に支えられ(支持され)、検査領域206の周囲をz軸を中心に回転する。焦点210とともに放射線源又は放射線ソース208(例えば、X線管)は、回転ガントリ204により回転可能に支えられ、回転ガントリ204とともに回転し、検査領域206を横断する放射線を放射する。放射線検出ディテクタアレイ212は検査領域206を介して放射線ソース208の反対側に設けられる。放射線検出ディテクタアレイ212は、検査領域206を横断する放射線を検出し、それを示す信号を生成する。
【0024】
X線画像診断干渉計も回転ガントリ204により回転可能に支えられ、回転ガントリ204とともに回転する。X線画像診断干渉計は、ソース格子214、位相格子218及び吸収格子220という3つの格子構造を含む。ソース格子214、位相格子218及び吸収格子220は、それぞれ、或る距離だけ隔てられる格子ライン周期を有し、この点については、例えば、コーニンクレッカフィリップスエレクトロニクスエヌヴィに譲渡された「Phase Contrast Imaging」と題する2012年6月8日付けで出願された出願番号第13/514,682号に示されており、その内容全体は本願のリファレンスに組み入れられる。概して、ソース格子214は、放射線の経路上で焦点210に隣接し、通過スリット(transmitting slits)とともに吸収マスクとして機能し、放射された放射線ビームをフィルタリング又は選別し、それぞれがコヒーレントである(が相互には非コヒーレントである)複数のソースを形成し、それらのソースはDPCIに対して十分な空間コヒーレンスを有する。
【0025】
対象216はコヒーレントなX線を僅かに回折させ、その回折は対象216の屈折率の実部(real part)の局所的な勾配(gradient)に比例しており、角度変化は、位相格子218を通過して局所的に伝送される強度の変化をもたらす。位相格子218は、対象216に隣接して設けられ、ビームスプリッタとして機能し、入射したX線を、干渉する回折した複数のビームに分割し、線形で周期的な干渉縞のパターンを形成する。吸収格子220は、ディテクタのための通過マスク(transmission mask)として機能し、局所的な干渉縞の位置(パターン)を信号強度変化に変換する。位相格子218及び吸収格子220は、角度変動を、局所的に通過した強度の変化に変換するマルチコリメータと考えることが可能であり、その強度変化は標準的な又は他の画像診断ディテクタアレイとともに検出されることが可能である。
【0026】
位相格子218及び吸収格子220は、z軸に垂直な横断方向において互いに(相対的に)並進運動するように形成される。「並進運動」は「平行移動」又は「滑動」等と言及されてもよい。これは、位相格子218及び吸収格子220のうちの一方又は双方を横断方向に並進させることを含む(並進は、同じ方向に異なる速度で移動させること、及び、同じ又は異なる速度で反対方向に移動させることを含む)。コントローラ222は、駆動システム226を駆動するモータ224を制御し、駆動システム226は格子218及び/又は220の並進を促す。非限定的な一例として、支持部材が吸収格子220を回転可能に支えていてもよい。そのような動きはベアリング又は軸受等により行われてもよい。例えば、ベアリングの第1部分が支持部材に固定的に取り付けられ、ベアリングの第2部分が吸収格子220に取り付けられてもよい。この例の場合、第2部分は、駆動システムによる制御の下で第1部分に対して自由に動く(例えば、滑動する)。
【0027】
図示の実施形態では、コントローラ222は継続的な制御アルゴリズムを利用してモータ224、すなわち吸収格子220の並進運動を制御する。このアルゴリズムにより、コントローラ222は、ほぼ一定の速度で吸収格子220を並進させるようにモータ224を制御する。一般に、吸収格子220の速度、位相符号化モーション(phase coding motion)はサンプリングを規定することになる。速度変動は、様々な方法により回避又は補正されることが可能である。例えば、各々のサンプリングインターバルに対するガントリ角度位置が、変動を補正するために、再構築部に保存され使用されることが可能である。別の実施形態では、位相符号
化速度が、所定の積分インターバルに対して適応的に制御される或いは実際の角度位置により適応的に制御されることが可能である。これに対して、従来のCTスキャナでは、角度サンプリングは、通常、ガントリ位置についての角度ディテクタにより又は一定のサンプリング時間によりトリガを受ける。
【0028】
図2A、
図2B、
図2Cの各々は、格子ライン252、254の1つ以上の周期の部分に関し(この周期は、「位相ステッピング期間(phase stepping period)」と言及される)、積分周期又は積分時間間隔の間に吸収格子が連続的に通過する様子を示す。格子ラインのピッチが十分に小さい場合、格子の数ミリメートルの移動は、何百もの位相ステッピング期間をカバーする。連続的な積分期間の間に、並進する格子(複数)は反対方向に並進することが可能であり、従って積分期間の関数として振動し、すなわち各々の積分期間の間に同じスタート位置に戻る。別の例では、並進する格子(複数)は、方向を反転する前に又はスタート位置に戻る前に、複数の積分期間にわたって同じ方向に並進する。
【0029】
信号プロセッサ230はディテクタアレイ212の出力を処理する。一般に、検出アレイ212の出力信号Sは以下の数式1のように表現することが可能である。
【0030】
【数1】
ここで、I
0は放射線の経路に対象215が存在しない場合の信号強度を表し、Aは従来の吸収を表し、Cは入射放射線のコヒーレンスの測定値を表し、φは位相差(differential phase)を表し、vtは格子218及び220の間の相対的な位相シフトを表し(vは速度を表し、tは時間を表す)、kは格子218、220のピッチを表し、φ
0は放射線の経路に対象215が存在しない場合の位相を表す。出力信号Sは、DC成分(A)、位相の正弦波オフセット(φ)及び振幅(C)を含む、と考えることが可能である。
【0031】
信号処理部又は信号プロセッサ230はリファレンスデータ判断部232を含み、リファレンスデータ判断部232は、少なくとも、格子218及び220の間の相対的な位相(位相差)を示す信号Pと、積分期間を決定するのに使用可能な信号PMとを、リファレンスディテクタからの信号Sに基づいて決定する。リファレンスディテクタは、ディテクタアレイ212のうちの任意のディテクタピクセルとすることが可能である。このピクセルから出力される信号は、関連する入射放射線がスキャン対象215を通過する場合には、未知の位相変調(成分)を有する。この場合、補正が施される。別の例では、入射X線ビーム及び追加的なソース(例えば、光)が位相格子218のディテクタピクセルを照射してしまうことを遮るために、放射線シールド部(遮蔽部)が使用される。図示の例の場合、リファレンスディテクタは、スキャン視野236の外側にあるピクセル234である。リファレンスディテクタは単独のピクセル又は複数のピクセルを含んでよい。
図3は例示的なリファレンスデータ判断部232及びリファレンスディテクタ302を概略的に示す。
【0032】
ハイパスフィルタ304は、リファレンスディテクタ302から出力されたアナログ信号を受信する。ハイパスフィルタ304は、所定のカットオフ周波数に基づいてアナログ信号をフィルタリング又は選別する。ADC306は、アナログ信号を、アナログ信号のディジタル表現(すなわち、ディジタル信号)に変換する。位相識別部308はディジタル信号の位相を識別する。この場合における「識別」は「区別」、「特定」、「決定」等と言及されてもよい。電圧制御発信部VCO310は、フィルタリングされたディジタルリファレンス信号の位相に基づいて、Pの周波数をN倍した出力信号PNを生成し、ここで、Nは位相検出部の解像度でありかつ1以上の正の整数である。位相ステッピング期間の各々について(0ないし2πの位相符号化の際に)、信号PはN個の区間(期間又は周期)を有する。位相は、考察対象の信号が正の方向でゼロと交わるまで、信号Pの期間の数を数えることにより、測定されることが可能である。一例として、これは0ないしN-1の全ての数をカウントすることを含む。カウントされた値は相対的な位相を表す(例えば、カウント値=0は、双方の信号が同位相であることを意味し、カウント値=N/4は90度の相対的な位相シフト(位相差)を有することを意味する)。
【0033】
第1のディバイダ312は、VCO310の出力をNで分割し、信号Pに変換し、これは相対的なグローバル位相を表しかつ位相識別部308にフィードバックされる。位相識別部308は、フィルタリングされたディジタルのリファレンス信号の位相とPとを比較し、2つの入力された位相が一致するようにVCO310の周波数を調整する。第2のディバイダ314は、積分期間PMを決定するために、PをMで分割する。Mは、1つの積分期間の間に、どれだけ多くの完全な位相ステッピング期間(0ないし2π)が対象とされる可を決定する。簡易な例として、M=Nは、全ての位相ステッピング期間が積分期間表現することを意味する。M=2Nである場合、2つのステッピング期間が統合され、1つの積分期間を形成する。一般に、Mは積分期間が位相ステッピング速度(整数個分のステップ)と独立であることを可能にする。
【0034】
連続的に並進する格子118又は120とリファレンスディテクタ302との組み合わせは、位相符号化及び検出の自動的な同期をもたらす。この自立的な同期又は自己同期(self-synchronization)は、位相ステッピング方式に関連する厳しい機械的な精度的制約(サブミクロン単位での制御に関する制約)を緩和し、例えば、回転の最中に強い重力(g)に委ねられながら、サブミクロン時間インターバルでサブミクロンの離散的増加分だけ格子が正確にステップを進めなければならないような場合に、制約を緩和する。従って、位相ステッピング方式とは異なり、本願による方式は、機械的な制度的な制約が緩和されるので、高速に回転するガントリの場合も含めて、回転する干渉計の形態に良く適している。
【0035】
図2を参照すると、ディテクタアレイ212のピクセル各々について、信号処理部230は、通常の積分処理部又はインテグレータ234と、コヒーレンス判断部236と、位相判断部238とを含む。
【0036】
通常の積分処理部又はインテグレータ234は、それぞれ積分期間PMにわたって信号Sを積分することによりAを決定する。一実施形態において、通常の積分処理部234はアナログディジタル(A/D)変換部を含み、A/D変換部はインテグレータ(例えば、増幅部及び積分キャパシタ)と比較部とを含み、A/D変換部は電流対周波数(I/F)変換部である。そのような変換部の非限定的な具体例は、(1)2001年11月7日付けで出願された「Data Acquisition for Computed Tomography」と題する米国特許第6,671,345(B2)及び(2)1975年11月28日付で出願された「Data Acquisition for Computed Tomography」と題する米国特許第4,052,620号に示されており、これらの内容全体は何れも本願のリファレンスに組み入れられる。本願では他の積分器も想定されている。積分期間が位相ステッピング期間の整数倍をカバーし又は含み、位相符号化の影響を排除できる場合に限り、吸収測定値Aは正しい。検出信号の位相が急激に変化すると、積分期間が信号PMによって決定される場合には、エラー又は誤差が導入されてしまう。このエラーは、φを測定するディジタル位相判断部を活用することで補正可能である。ゼロ交差回数が計測されるので、非同期の積分期間のエラーが推定され補正されることが可能である。
【0037】
コヒーレンス判断部236はS、P及びPMに基づいてCを決定する。一実施形態において、コヒーレンス判断部236は、振幅変調(AM)復調部とアナログディジタル変換部とを含む。この例では、AM復調部は、信号Sを受信し、信号Sに基づくPを復調する。これは、請求器(電流を1つの方向のみに流す任意の手段を含む)及びローパスフィルタ又は他の回路を有する包絡線検出部により実行可能である。別の例は乗算検出部又はプロダクトディテクタであり、入射する信号の搬送波と同じ周波数及び位相を有する局部発振器の信号と入射する信号とを乗算する。フィルタリングの後、オリジナルの信号(元の信号)が得られる結果となる。
【0038】
位相判断部238は、ディテクタピクセル信号と位相信号Pとの間の位相差を表す信号を生成する。これは、アナログ又はディジタル判断部とともに実行可能であり、結果の信号は位相φを表現する。簡易で堅牢な高性能なディジタル位相判断部238は、PN信号を受けるモジュロNカウンタを含む。DC成分のないディテクタ信号がゼロをまたぐ場合は常に、基準信号Pに対するディテクタ信号の相対的な位相を表現するために、実際のカウンタ値のコピーが保存される。(正から負への遷移及びその逆の遷移である)双方の遷移に関するカウント値が保存される場合、位相ラッピング(phase wrapping)の問題を軽減することが可能である。M/N>1である場合、位相判断部238は、そのフレーム時間の中で入力信号の位相ステッピング期間の総数を追加的にカウントすることができる。これは、位相が1フレームの中で急速に変化するような場合に、位相ラッピングの問題を緩和する。
【0039】
再構築部240は、信号処理部230により生成された信号を再構築する。これは、それぞれが異なる情報を有するA、C及びφの各々を個別的に及び組み合わせにより再構築することを含む。一般に、Aを再構築することは通常のCT画像となり、Cを再構築することは暗視野像(dark field image)となり、φを再構築することは隣接する画像間の位相差画像となる。図示の実施形態において、再構築部240は、A再構築部242、C再構築部244及びφ再構築部246を含み、それぞれA、C及びφを再構築する。別の実施形態では、1つの再構築部が、A、C、φのうちの2つ以上を再構築するために使用される。
【0040】
長いすやカウチのような対象支持部248は、客体又は対象をスキャンする前、途中及び/又は後に、検査領域206の中で対象215を支持する。汎用コンピュータシステム又はコンピュータは、オペレータコンソール又は操作部250として機能する。コンソール250は、モニタのような人間が読み取ることの可能な出力装置と、キーボードやマウス等のような入力装置とを含む。コンソール250に常駐するソフトウェアは、オペレータが、グラフィカルユーザインタフェース(GUI)又はその他の手段を介して画像処理システム100とやり取りをしたり及び/又は操作することを可能にする。これは、格子ベースのDPCI画像診断プロトコルを選択すること、再構築アルゴリズムを選択すること、スキャニング又は診断を開始すること等を含む。
【0041】
図4は、格子ベースのDPCIを意図して形成された画像診断システムによりスキャニングを行う方法例を示す。
【0042】
処理の順序は図示の例に限定されないことが理解されるべきである。従って本願では他の順序も想定されている。更に、1つ以上の処理が省略されてもよいし、及び/又は1つ以上の追加的な処理が含められてもよい。
【0043】
ステップ402において、回転ガントリ(放射線ソース、干渉計及びディテクタアレイを支持する)が、検査領域の周囲で回転させられる。
【0044】
ステップ404において、積分期間の間に、回転ガントリを回転させながら、位相格子又は吸収格子のうちの少なくとも一方が、格子ラインの1つ以上の周期にわたって、他方に対して連続的に並進する。
【0045】
ステップ406において、格子を連続的に並進させかつガントリを回転させながら、積分期間の間に、所定数の位相ステッピング期間について所定の数のサンプルが取得される。積分期間当たりの位相ステッピング期間の適切な数の具体例は、3、4、...、8、...、12、...であるが、本願は限定されない。
【0046】
ステップ408において、次の積分期間について処理404〜408が反復される。
【0047】
ステップ410において、結果のディテクタ信号から、吸収成分、コヒーレンス成分又は位相成分のうちの1つ以上が抽出される。
【0048】
ステップ412において、抽出した吸収、コヒーレンス又は位相成分に基づいて、吸収画像、コヒーレンス画像又は位相画像のうちの1つ以上が再構築される。
【0049】
以上、本発明は好適な実施形態に関連して説明されてきた。上記の詳細な説明を参照及び理解した者にとって、変形例及び代替例も明らかであろう。添付の特許請求の範囲又はその均等の範囲に属する限り、本発明はそのような変形例や代替例の全てを包含するように解釈されることが意図されている。