(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6383364
(24)【登録日】2018年8月10日
(45)【発行日】2018年8月29日
(54)【発明の名称】距離範囲分類を有するFMCWレーダ
(51)【国際特許分類】
G01S 13/34 20060101AFI20180820BHJP
G01S 7/35 20060101ALI20180820BHJP
G01S 13/93 20060101ALN20180820BHJP
【FI】
G01S13/34
G01S7/35
!G01S13/93 220
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-552010(P2015-552010)
(86)(22)【出願日】2013年12月3日
(65)【公表番号】特表2016-507046(P2016-507046A)
(43)【公表日】2016年3月7日
(86)【国際出願番号】EP2013075357
(87)【国際公開番号】WO2014114391
(87)【国際公開日】20140731
【審査請求日】2015年7月14日
(31)【優先権主張番号】102013200951.8
(32)【優先日】2013年1月22日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】501125231
【氏名又は名称】ローベルト ボッシュ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100177839
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 玲児
(74)【代理人】
【識別番号】100172340
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 始
(72)【発明者】
【氏名】ショア,ミヒャエル
【審査官】
吉田 久
(56)【参考文献】
【文献】
特開平11−30663(JP,A)
【文献】
特表2008−533495(JP,A)
【文献】
特表2009−541719(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0309968(US,A1)
【文献】
特表2008−503739(JP,A)
【文献】
特開平10−253753(JP,A)
【文献】
特表2012−522999(JP,A)
【文献】
特表2012−518795(JP,A)
【文献】
特開2001−166044(JP,A)
【文献】
特表2008−514936(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0289692(US,A1)
【文献】
特開2008−111743(JP,A)
【文献】
特開平11−287854(JP,A)
【文献】
特開2009−216680(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 13/00−13/95、
7/00−7/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
位置測定された対象物の距離および相対速度に関する情報をFMCWレーダにより決定するための方法において、
1回の測定サイクル内で送信信号の周波数(f)が周波数ランプ(26)の様々な連続の形に変調され、この際に、その都度の連続内において、前記周波数ランプ(26)の中心点が上位のランプ(28)上に位置し、前記測定サイクルが、異なるランプ勾配を有する少なくとも2つの上位のランプ(28)を有しており、
1つの連続の前記周波数ランプ(26)内で受信された信号がベースバンド分割信号(s)に低減混合され、この際に、連続するそれぞれの周波数ランプ(26)に分割信号が時間的に割り当てられており、
前記ベースバンド分割信号(s)の周波数スペクトル(An)内の少なくとも1つの周波数状態(k)のために、前記ベースバンド分割信号(s)の連続の周波数スペクトル(An)内の前記周波数状態(k)における振幅の時間的な連続に亘って上位の周波数スペクトル(A(k))が決定され、
少なくとも1つの前記上位のスペクトル(A(k))内におけるピークが、距離/速度空間内の、その都度のランプ勾配が前記上位のランプ(28)のそれぞれのランプ勾配に依存する直線(44,46,48,50)によって表わされ、
ピークが上位のスペクトル(A(k))において発生する前記ベースバンド分割信号(s)の前記周波数スペクトル(An)内の様々な周波数状態(k)が少なくとも1つの距離範囲に限定された距離/速度空間の様々な帯域(40,42)によって表わされ、
前記距離/速度空間内で直線(44,46,48,50)によって表わされた前記上位のスペクトル(A(k))内のピークを対象物に割り当てるために、一方では周波数ランプ(26)の連続に亘る上位のスペクトル(A(k))内の周波数によって前記距離/速度空間内の直線が前記ピークに割り当てられ、他方では前記ベースバンド分割信号(s)の前記周波数スペクトル(An)内の前記周波数状態(k)を表わす前記距離/速度空間のその都度の前記帯域(40,42)が考慮され、これらの帯域(40,42)が、前記ベースバンド分割信号(s)の前記周波数スペクトル(An)内のピークの前記周波数状態(k)によって前記ピークに割り当てられ、
前記距離/速度空間内で位置測定が行われる際、公差範囲の枠内で4つのランプセットからなる、得られた周波数に属する直線(44、46、48、50)が交差する2つの位置(52、54)が検出される
位置測定された対象物の距離および相対速度に関する情報を決定するための方法。
【請求項2】
前記上位のスペクトル内の前記距離/速度空間内の直線によって表わされたピークを対象物に割り当てるために、1つのピークに属する前記ベースバンド分割信号(s)の前記周波数スペクトル(An)内の周波数状態(k)に割り当てられた帯域(40,42)に相当する距離(d)および速度(v)の可能な値として、前記ベースバンド分割信号(s)の前記周波数スペクトル(An)内の所属の周波数状態(k)によって前記帯域に割り当てられた前記上位のスペクトル(A(k))内で得られたピークだけが考慮される
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
対象物に対する前記上位のスペクトル内で発生したピークの割り当てが前記ベースバンド分割信号(s)の前記周波数スペクトル(An)のその都度の様々な周波数状態(k)に割り当てられた帯域(40,42)のために個別に実施される
請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
少なくとも1つの走行パラメータに基づいて、前記ベースバンド分割信号(s)の前記周波数スペクトル(An)内の少なくとも1つの可能な周波数状態(k)に割り当てられた少なくとも1つの適切な帯域(40;42)の選択が行われ、
上位のスペクトル内で発生した前記ピークのうち、選択されるべき帯域(40,42)が前記ベースバンド分割信号(s)の前記周波数スペクトル(An)内の所属の周波数状態(k)によって割り当てられているピークだけが対象物に割り当てられる
請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記測定サイクル内で、様々な連続の前記周波数ランプ(26)が同じランプ勾配を有している
請求項1に記載の方法。
【請求項6】
1回の測定サイクルの前記周波数ランプ(26)の少なくとも1回の連続のために、前記周波数ランプ(26)が、絶対値が前記ベースバンド分割信号(s)の前記周波数スペクトル(An)内の所属の上位のランプ(28)の勾配の絶対値よりも大きいランプ勾配を有している
請求項1から5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
1回の測定サイクルの周波数ランプ(26)の少なくとも1回の連続のために、前記周波数ランプ(26)が、絶対値が前記ベースバンド分割信号(s)の前記周波数スペクトル(An)内の所属の上位のランプ(28)の周波数偏移(Fslow)の絶対値よりも小さいかまたはこれと同じである周波数偏移(Ffast)を有している
請求項1から6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記ベースバンド分割信号(s)の前記周波数スペクトル(An)内のその都度の周波数状態(k)が、少なくとも10mの距離(d)に対応する距離分解能に相当する分解能で決定される
請求項1から7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
FMCWレーダセンサであって、請求項1から8のいずれか1項に記載の方法を実行する制御および評価装置(14)を備える
FMCWレーダセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位置測定された対象物の距離および相対速度に関する情報をFMCWレーダにより決定するための方法であって、送信信号の周波数を周波数ランプの形に変調し、前記周波数ランプ内で受信された信号をベースバンド信号に低減混合する方法に関する。
【0002】
また本発明は、この方法を実行する、例えば自動車のための運転者支援システムに使用されるFMCWレーダセンサに関する。
【背景技術】
【0003】
FMCWレーダセンサ(frequency modulated continuous wave;周波数変調連続波)の機能の基本原理は、送信されたレーダ信号の周波数をランプ状に変調し、対象物から反射されてセンサによって再び受信された信号を、受信時点で送信された信号の一部と混合してベースバンド信号を発生させる、という点にある。次いで、ベースバンド信号は、送信された信号と受信された信号との間の周波数差に相当する周波数成分を有している。周波数は、一方では信号到達時間中に発生した送信周波数の変化に基づいて対象物の距離に依存しているが、他方ではドップラー効果に基づいて対象物の相対速度にも依存している。
【0004】
ベースバンド信号は、一般的な形式で高速のフーリエ変換によってその周波数スペクトルに分析され、このスペクトル内でそれぞれ位置測定された対象物が、対象物の距離および相対速度に依存する周波数のピークによって表わされる。この場合、得られたピークの周波数によって、相対速度と距離との関係が、距離/速度空間内の直線に相当する一次関数的な関係の形で決定される。この場合、用語「一次関数的」とは、これによって表わされた関係が、直線性ファクターおよび加法項を含んでいてよい、と理解される。
【0005】
従って、個別に得られた周波数を用いて、対象物の実際の距離および実際の速度を明確に決定することはまだできない。このためにはむしろ、同じ対象物を、送信された信号の少なくとも2つの周波数変調ランプ上で位置測定する必要があり、この場合、これら2つの周波数変調ランプは、異なる勾配を有していなければならない。
【0006】
個別の周波数変調ランプ内で得られたベースバンド信号の周波数を対象物に割り当てることは、2つの周波数に所属する、距離と相対速度との可能な値間の一致によって行われる。これは、距離/速度空間内の2つの直線において2つの直線の交点に相当する。このような仮想対象物に対する周波数または直線の割り当ては、マッチングまたは周波数マッチングと呼ばれる。個別の周波数変調ランプにおいて得られた異なる一次関数的な関係を調整することによって、レーダ対象物の距離および相対速度が演算される。FMCW法は特に、僅かなレーダ対象物しか検出されない場合に効果的である。
【0007】
複数の対象物が同時にレーダセンサの位置測定範囲内に存在する場合、2つの変調ランプを評価する際にも、どのピークがどの対象物に所属するのかを明確に決定することはもはやできない、という問題がある。例えば距離/速度空間内に2つの対象物が存在する状況下で、以下ではd−v空間とも呼ばれる、互いに4つの交差点を形成する、2対の平行な直線が得られる。しかしながら、これら交差点のうちの2つだけが実際の対象物に相当し、これに対してその他の交差点はいわゆる見せかけの対象物を表わす。
【0008】
従って一般的には、異なる勾配を有する2つ以上の変調ランプ、例えば4つの変調ランプが使用される。実際の対象物は、d−v空間内で、ベースバンド信号の、4つの異なる周波数ランプを有する周波数に属する距離−速度対の間で一致が生じることによって認識される。
【0009】
しかしながら、ピークの周波数は、限定的な正確さでしか決定することができないので、実際の対象物のために、4つの変調ランプに属する4つの直線が精確に1つの点で交差することを期待することもできない。むしろ、6つまでの異なる交差点が得られるが、これらの交差点は比較的互いに近くに隣り合わせて位置している。従って、様々な一次関数的な関係を一致の検索に従って調整する際に、所定の公差が認められる。実際の対象物のための基準は、例えば、様々な変調ランプより得られるすべての直線が許容限界の範囲内で1つの点で交差するということにある。
【0010】
しかしながら、多数のレーダ標的、例えば複数のガードレールポストの形の複数の対象物を有する状況、または位置測定範囲内に多数の自動車が存在する状況、例えば自動車が渋滞の終わりまたは駐車場にある状況において、対象物を検出するために必要なコストは高くなる。従って、対象物の数および変調ランプの数が増えるにつれて、位置測定コストは高くなる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、位置測定された対象物の距離および相対速度に関する情報を決定するための方法で、改善された検出能力を有し、かつ/または低減された計算コストを要求する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この課題は本発明によれば、位置測定された対象物の距離および相対速度に関する情報をFMCWレーダにより決定するための方法によって解決され、この方法によれば、
送信信号の周波数が周波数ランプの連続の形に変調され、この際に、その都度の連続内において、周波数ランプの中心点が上位のランプ上に位置し、
1つの連続の周波数ランプ内で受信された信号がベースバンド分割信号に低減混合され、この際に、連続するそれぞれの周波数ランプに分割信号が時間的に割り当てられており、
ベースバンド分割信号の周波数スペクトル内の少なくとも1つの周波数状態のために、ベースバンド分割信号の連続の周波数スペクトル内の周波数状態における振幅の時間的な連続に亘る上位の周波数スペクトルが決定され、
少なくとも1つの上位のスペクトル内におけるピークが、距離/速度空間内の、その都度の勾配が上位のランプの勾配に依存する直線によって表わされ、
ピークが上位のスペクトルにおいて発生する、分割信号の周波数スペクトル内の様々な周波数状態が、少なくとも1つの距離範囲に限定された、距離/速度空間の様々な帯域によって表わされ、
距離/速度空間内で直線によって表わされた、上位のスペクトル内のピークを対象物に割り当てるために、ベースバンド分割信号の周波数スペクトル内の周波数状態を表わす、距離/速度空間のその都度の帯域が考慮され、これらの帯域が、ベースバンド分割信号の周波数スペクトル内のピークの周波数状態によってピークに割り当てられている。
【0013】
これによって、好適な形式で、周波数マッチング、つまり、距離/速度空間内の直線によって表わされた、上位のスペクトル内のピークの、対象物に対する割り当てが、少なくとも1つの上位のスペクトル内のピークを表わす、距離/速度空間内の直線に基づいて、およびベースバンド分割信号の周波数スペクトル内の周波数状態を表わす、ベースバンド分割信号の周波数スペクトル内のピークの周波数状態によってピークに割り当てられた、距離/速度空間のその都度の帯域に基づいて、実施される。特に、好適な形式で、周波数マッチングは、距離/速度空間の帯域を、上位のスペクトル内のピークに割り当てることに基づいて行われる。
【0014】
上位のランプは、例えば、もちろんその都度短い周波数ランプの連続によって再現される従来形式の変調ランプとして解釈することができる。好適には、互いに連続する、1つの連続の短いランプのために、大きい周波数ジャンプは必要ない。これによって、周波数発生に課せられる要求は低く維持される。
【0015】
ベースバンド信号のスペクトル分析時に、例えば2次元のフーリエ変換が実施される。この場合、第1の次元は、個別の短い周波数ランプに割り当てられたその都度のベースバンド分割信号の周波数スペクトルの決定に相当する。周波数スペクトルは、例えばその都度の周波数状態における複雑な振幅より成っている。フーリエ変換の第2の次元は、上位のランプに亘る経過時間に相当し、この場合、各ランプに1つの時点が割り当てられる。2次元の周波数スペクトル内のピークは、短いランプに割り当てられたベースバンド分割信号の周波数スペクトル内の周波数状態、並びにこれらの周波数スペクトルの値の、分割信号周波数スペクトル内の当該の周波数状態における、上位のランプに亘る経過時間中の周波数を表わす。換言すれば、所定の周波数状態における上位のスペクトル内の周波数におけるピークは、分割信号周波数スペクトル内にある。
【0016】
好適な形式で、上位のスペクトルは、ベースバンド分割信号の連続の周波数スペクトル内の振幅の所属の位相を考慮して決定される。これは例えば、ベースバンド分割信号の周波数スペクトル内の少なくとも1つの周波数状態のための上位の周波数スペクトルを決定するステップで、ベースバンド分割信号の連続の周波数スペクトル内の周波数状態における複雑な振幅の時間的な連続に亘る上位の周波数スペクトルが決定されることによって、行われる。複雑な振幅は、例えば大きさおよび位相によって表わされる。このように、その都度の上位のスペクトルを正確な位相で形成することは、上位のスペクトル内のピークを精確に検出するために好都合である。
【0017】
上位のスペクトル内で発生する周波数は、その都度d−v空間内の、上位のランプの勾配に依存する直線によって表わされる。これは、従来のFMCW変調ランプにおいて、d−v空間内のピーク周波数によって表わされる直線に相当する。
【0018】
本発明によれば、ベースバンド分割信号の周波数スペクトル内の様々な周波数状態が、d−v空間の、その都度の距離範囲に限定された様々な帯域によって表わされる。帯域はd−v空間の分割面を表わす。例えば、分割信号は個々の周波数空間において少ない走査個所で走査される。これによって、d−v空間は複数の帯域に大まかに分類されるが、これは、距離と相対速度との間の明確な関係を決定するためにはまだ不十分である。これらの帯域は、その都度の距離範囲に限定されている。特に、これらの帯域はその都度の速度値のために、帯域の距離幅に相当する距離範囲を有している。例えば、これらの帯域の距離幅は、その都度少なくとも10m、好適には少なくとも20m、例えば少なくとも30mである。
【0019】
従って、2次元の周波数スペクトル内のピークに、一方では、周波数ランプの連続に亘る上位のスペクトル内の周波数によってd−v空間内の直線が割り当てられ、他方では、短い周波数ランプの分割信号周波数スペクトル内の周波数状態によってd−v空間内の帯域が割り当てられている。本発明に従って、このように、d−v空間内の帯域をd−v空間内のその都度の直線に割り当てることを、周波数マッチングの際に考慮することによって、マッチングのためのコストを低減することができる。例えば、d−v空間のその都度の帯域の一致の検索を別個に実施することができる。従って、例えばd−v空間の調べようとする帯域のために、一致の検索は、ピークがベースバンド信号の周波数スペクトル内の相応の周波数位置を有している直線若しくは周波数に限定され得る。
【0020】
これらの帯域を考慮することによって、周波数範囲内のレーダ対象物と、静止している別のレーダ標的とのオーバーラップを良好に評価することができる。好適な形式で、複数のアンテナローブ、特に多チャンネル式のFMCWレーダを備えたレーダセンサにおいて、対象物間の距離および相対速度の改善された検出によって、位置測定された対象物の方位角の改善された決定を期待することができる。さらに、フーリエ変換の第1の次元による距離範囲分類のための計算コストは、走査個所若しくは周波数ビンの必要数が少ないことに基づいて、採算が取れるものであり、これに対して、周波数マッチングのための計算コストは低減され、かつ/または多くのレーダ標的を有する状況における検出性能および検出確実性は著しく改善される。
【0021】
本発明の別の好適な実施態様は、従属請求項に記載されている。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】自動車用のレーダセンサシステムの概略的なブロック制御回路図である。
【
図2】上位のランプを形成する、送信信号の周波数変調ランプの連続を示す概略図である。
【
図4】距離/速度空間内における直線と距離範囲の関係を示す概略図である。
【
図5】距離/速度空間内における直線と距離範囲の配置の別の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の実施例を以下に図面を用いて詳しく説明する。
【0024】
図1は、自動車のレーダセンサシステムの構成を概略的に示す。このシステムは、送信信号を発生させるための電圧制御高周波(HF)発振器10を有している。HF発振器10の周波数fは、周波数変調装置12によって制御され、この周波数変調装置12は制御および評価ユニット14によって制御される。HF発振器のアウトプットは、レーダセンサシステムの送信信号を放射するために、少なくとも1つの送信アンテナエレメント16に接続されている。
【0025】
さらに、HF発振器10のアウトプットはミキサ18に接続されている。このミキサは、受信アンテナエレメント20によって受信された受信信号を送信信号と混合し、それによってベースバンド信号を発生させる。ベースバンド信号は、アナログデジタル変換器22によってデジタル化されて、制御および評価ユニット14に供給される。混合およびデジタル化は、送信信号と受信された信号との間の位相関係を受信することによって行われる。制御および評価ユニット14は、ベースバンド信号の周波数スペクトルを評価し、かつ受信したピークを仮想対象物またはレーダ標的に割り当てるためのマッチングを行うデジタル式の信号処理ユニット24を有している。
【0026】
周波数変調装置12は、レーダセンサシステムの測定サイクル内で、それぞれ周波数変調ランプの連続を含むランプセットを有する送信信号を変調するように調整されている。
【0027】
図2は、ランプセットの例として、時間tに亘る送信信号の周波数fの経過を概略的に示す。
【0028】
図2の拡大した切り抜き部内に、連続する同じ形の短い周波数ランプ26の短い時間間隔を示す。短い周波数ランプ26の中心点は、それぞれの周波数ランプ26の時間的な中心点を通る、短い周波数ランプ26のそれぞれの平均周波数に相当し、上位のランプ28上に位置する。この上位のランプ28は、拡大した切り抜き部内で点線によって示されていて、上位のランプ28の全体を示す図面では、実線で示されている。従って、短い周波数ランプ26の連続は、上位の周波数ランプ28を形成する。上位のランプ28は、複数の短いランプ26より構成されている。
【0029】
上位のランプ28の複数の短いランプ26は、それぞれ同じ勾配を有していて、この勾配は、高速の短いランプ26の経過時間T
fastに亘る周波数偏移F
fastから得られる商に相当する。しかも、上位のランプ28の短いランプ26は、同じ周波数偏移F
fastを有していて、ひいては同様に同じランプ経過時間T
fastを有している。さらに、上位のランプ28の短いランプ26はそれぞれ、2つのランプ26の時間的な間隔に相当する同じランプ繰り返し時間T
r2rを有している。図示の実施例では、ランプ間隔T
r2rはランプ経過時間T
fastに等しい。
【0030】
上位のランプ28は、周波数偏移F
slowとランプ28のランプ経過時間T
slowとから得られる商に相当するランプ勾配を有している。上位のランプ26の平均周波数はf
0で表わされている。
【0031】
送信信号の平均的な周波数は76GHzの大きさであって、周波数がそれぞれ上位のランプ28の経過中に変化する周波数偏移F
slowは、数100MHzの大きさである。短いランプの周波数偏移は数MHzの大きさであって、短いランプのランプ経過時間は数マイクロ秒の大きさである。短いランプ26が互いに連続する側方の間隔T
r2rは、数マイクロ秒の大きさである。上位のランプ28の周波数F
slowは、数100MHzの大きさであって、上位のランプ28のランプ勾配F
slow/T
slowは、100MHz/msの大きさである。
【0032】
上位のランプ28のランプ勾配およびランプ偏移は、例えば、得られた周波数を検出された対象物に割り当てるための周波数マッチングを実施するFMCWレーダセンサの、複数の周波数ランプより成る変調サイクルの従来の周波数ランプに相当する。
【0033】
ベースバンド信号の周波数は、送信信号と、対象物で反射後に受信アンテナエレメント20によって受信されかつ同様にミキサ18に入射する信号との間の周波数差に相当する。この周波数差は、距離に依存する成分f
dと速度に依存する成分f
vとの加算的な合計より成っている。
【0034】
短いランプ26内において、周波数の距離に依存する成分f
dは、短いランプ26を有する周波数変調から、以下の式により得られる:
f
d=2dF
fast/(cT
fast) (1)
この式中、cは光速度、dは対象物距離を表わす。速度に依存する成分は、ドップラー効果の結果として生じ、短いランプ26内において近似的に次の式によって得られ、
f
v=2f
0,fastv/c (2)
この式中、f
0,fastは、短いランプ26の連続に亘って変化する、それぞれ短いランプ26の平均周波数である。短いランプ26の平均周波数は、上位のランプ28の直線的な経過に従って、ランプ26の連続に亘って変化する。
【0035】
図3は、それぞれ短いランプ26に与えられたベースバンド信号の処理を概略的に示す。それぞれの短いランプ26のベースバンド分割信号は、少数の走査個所N
fastでA/D変換器22によって走査される(30)。それぞれランプ指数n,n=0,…,N−1を有する各短いランプ26において、高速のフーリエ変換(FFT)の形の第1のフーリエ変換32によって、複素値の周波数スペクトル(A
n(k
0),…,A
n(k
M−1))が決定される。走査個所の数は、例えばM=N
fast=16である。一連の短いランプ26の数は、例えばN=N
slow=512である。
【0036】
短いランプ26の短い偏移F
fastに基づいて、比較的低い距離分解能R=c/(2F
fast)が得られる。例えば、周波数偏移F
fast=5MHzでは、R=30mの距離分解能が得られる。従って、第1のFFT32の周波数スペクトルにおけるピークの周波数状態は、対象物の距離dに関する正確な情報を提供するのではなく、対象物の相対速度vおよび距離dの可能な値のためのパラメータ範囲の特徴を示すだけであり、この場合、それぞれの相対速度vのためのパラメータ範囲は、少なくとも前記距離分解能Rに相当する幅を有する距離範囲に限定されている。従って、このパラメータ範囲は、以下ではd−v空間とも呼ばれている距離/速度空間内の帯域の形の分割面に相当する。
【0037】
短いランプ26が急勾配になればなるほど、得られた周波数の距離に依存する成分f
dがより優勢となる。第1のFFT32内の周波数状態、つまり分割信号周波数スペクトル内の周波数状態は、d−v空間内において、幅Rの少なくとも1つの距離範囲に限定された帯域に相当する。短いランプ26の勾配が大きくなるにつれて、測定の明瞭性範囲内の帯域の形は、距離方向で幅Rの矩形に近くなる。
【0038】
第1のフーリエ変換30の分割信号周波数スペクトルは、各帯域のために統合されて、FFTの形の第2のフーリエ変換34に提供される。この統合は、距離ゲートの形成とも呼ばれる。例えば第1のFFT32は、周波数ビンまたは距離ゲートm=0.1,…,M−1の数Mに関するそれぞれ1つの周波数スペクトルを提供する。上位のランプ28のすべての短いランプ26において、それぞれの距離ゲートmのために、FFT34によって、短いランプ26の連続の周波数ビンの複素値A
0(k
m),…,A
N−1(k
m)の経過時間に亘って、上位の周波数スペクトル(A(k
m)(l
0),…,A(k
m)(l
N−1))が演算される。
【0039】
従来の周波数ランプにおけるベースバンド信号の周波数スペクトルの、従来の演算によれば、例えばフーリエ変換が実施され、次いでそれぞれd−v空間内の直線に相当する周波数ピークが検出される。これに対して、ここでは、第2のFFT34において、それぞれ、距離dおよび相対速度vが、その都度の距離ゲートmに相当する、つまり距離/速度空間のその都度の帯域内に位置し、ひいてはその都度の距離範囲に近似的に相当する、その都度検出された対象物だけが考慮される。
【0040】
従って、距離ゲートmの第2のFFT34の上位の周波数スペクトル(A(k
m)(l
0),…,A(k
m)(l
N−1))内の周波数ビンlのピークは、対象物から受信された信号に相当し、この信号は、第1のFFT32で、周波数ビンmの周波数状態を有していて、距離/速度空間内の対応する帯域に位置し、同時に上位のランプ26のためのFMCW方程式の条件も満たす。つまり、短いランプ26の連続に亘って発生し、かつ第2のFFT34で決定された周波数f
2は、距離に依存する成分f
2dと速度に依存する成分f
2vとから成っており、次の式が適用される:
f
2d=2dF
slow/(cT
slow)、および (3)
f
2v=2f
0v/c (4)
【0041】
それに応じて、上位のランプ28のためのFMCW方程式は、d−v空間内で直線d(v)を描く:
d=T
slow/F
slow(f
2c/2−f
0v) (5)
【0042】
第1および第2のFFT32,34の直列回路は、2次元のフーリエ変換に相当する。第2のFFT34の周波数スペクトル内におけるピークの周波数のピーク検出36後に得られた、位置測定された対象物の距離および相対速度に関する情報が、ステップ38で周波数マッチングに供給される。周波数マッチングは、v−d空間内のその都度の直線に相当する、第2のFFT34から得られた情報の他に、追加的に、第1のFFT32を用いて得られた、v−d空間の割り当てられた帯域に関する情報を使用する。
【0043】
距離ゲートで得られた情報を用いた周波数マッチングの実施について、以下に4つの異なるランプセットを有する測定サイクルを用いて説明されており、この場合、各ランプセットは、
図2を用いて説明された、短いランプ26の連続より成る構成を有している。測定サイクルのランプセットの上位のランプ28は、好ましくはそのランプ勾配および/または平均周波数において異なっている。図示の実施例では、その都度のランプセットによって形成された、ランプ勾配に関する上位のランプ28が異なっているので、v−d空間内において位置測定されたそれぞれの対象物のために、異なる勾配を有する直線が得られる。
【0044】
図4は、距離/速度空間の表示を用いて、検出された対象物に対する、得られたピーク周波数の割り当てを概略的に示す。図示の実施例では、測定サイクルは複数の特に4つのランプセットを有している。
【0045】
好適な形式で、測定サイクルの周波数ランプ26の少なくとも1つの連続のために、周波数ランプ26は、絶対値が所属の上位のランプ28の勾配の絶対値よりも大きいランプ勾配を有している。
【0046】
好適な形式で、測定サイクルの周波数ランプ26のうちの少なくとも1つの連続の周波数ランプ26は、周波数偏移F
fastを有しており、この周波数偏移の絶対値は、割り当てられた上位のランプ28の周波数偏移F
slowの絶対値よりも小さいかまたはこれと同じであり、特に好適には、割り当てられた上位のランプ28の周波数偏移F
slowの絶対値の1/10より小さいかまたはこれと同じである。
【0047】
図4の実施例では、4つのランプセットの短いランプ26は、上位のランプ28の経過によってその都度決定された平均周波数が異なっているだけである。短いランプ26のパラメータは、F
fast=5MHz、T
fast=0.008ms、T
r2r=0.008ms、および短いランプに相当するベースバンド信号は、N
fast=8において走査個所で走査される。これは、それぞれのランプセットにおいて得られた、第1のFFT内の様々な周波数状態に相当する、d−v空間の帯域が、ランプセットのために近似的に同じである、という利点を有している。特に、このd−v空間の帯域は、距離方向で同じ幅Rを有し、距離方向で原点d=0,v=0に対して同じオフセットを有している。
【0048】
ランプセットの上位のランプ28のパラメータは、その周波数偏移F
slowだけが異なっている。4つのランプセットのための周波数偏移F
slowは:F
slow=(425MHz,−400MHz,−100MHz,200MHz)である。上位のランプ28の平均周波数は、例えばそれぞれのランプセットにおいてf
0=76.5GHzである。上位のランプ28のランプ継続時間は、例えば4つのランプセットのためにT
slow=4.096msと同じであり、ランプセットは、それぞれN
slow=512の短いランプ26の連続を有している。
【0049】
特に、ランプセットの短いランプ26の勾配は、所属の上位のランプ28の勾配とは異なっている。特に、短いランプ26の勾配の絶対値も、測定サイクルの上位のランプ28の勾配のすべての絶対値よりも大きい。
【0050】
図示の実施例では、第1の標的は、相対速度v=−10m/sで距離d=20mにおいて位置測定され、第2の対象物は、やはり相対速度v=−10m/sで距離d=80mにおいて、位置測定されるものとする。
【0051】
距離dと相対速度vとを有するd−v空間を示す
図4の線図で、ハッチングを施した面によって、2つの対象物に割り当てられた帯域40,42の、d−v空間内における位置が示されている。直線44,46,48,50として、その都度の第2のFFT34より得られた、速度vと距離dとの間の一次関数的な関係に基づく周波数が示されている。
【0052】
マッチングにおいてv−d空間内で位置測定が行われ、この際に、公差範囲の枠内で4つのランプセットから成る、得られた周波数に属する直線44,46,48,50が、位置(v,d)52若しくは54で交差する。周波数マッチングは、第1のFFTの様々な周波数状態のために、およびひいてはd−v空間の図示の面40,42のために別個に実施されることによって、著しく簡略化される。この場合、所定の距離ゲートのために、つまり第1のFFTにおける所定の帯域40,42のために、マッチングがそれぞれ、第1のFFTの、帯域に相当する周波数状態において得られた直線、および相応の第2のFFTの周波数で実施される。これによって、例として挙げられた2つの対象物は、確実に検出される。
【0053】
図4の図面では、上位のランプ28のための距離の限定された明瞭性範囲に基づいて、直線44,46,48,50が図示の距離範囲内で繰り返される。これらの直線に割り当てられた帯域40,42によって、それぞれの直線の評価が、その都度割り当てられた帯域に限定されて可能であるので、前記曖昧さを解消することができる。
【0054】
図5は、1つのランプセット内の2つの対象物が、d−v空間内で同じ直線50上に位置している場合のd−v空間の別の例を概略的に示す。異なって割り当てられた帯域40,42は、2つの対象物に対する割り当てを可能にする。2つの対象物のために共通に得られた直線50は、第2のFFT34において2つの異なる距離ゲートで得られた周波数に相当する。それに応じて、この周波数は、第1のFFT32の2つの異なる周波数状態において、図示の帯域40,42に対応して発生する。
【0055】
交通状況に応じて、得られた周波数の評価は、d−v空間の該当する帯域に限定される。例えば、走行パラメータ例えば自車の走行速度を用いて、当該の帯域が選択され得る。従って、例えば速度限界を下回る低速走行時に、選択は、距離限界を下回る距離dを有する帯域に限定される。それによって、例えば車両の停止状態では、遠い対象物は位置測定のために重要ではなく、評価しようとする帯域を相応に選択することによって考慮されない。走行パラメータとして、例えば、変速レバーの選択された変速段も考慮されてよい。
【符号の説明】
【0056】
10 高周波発振器
12 周波数変調装置
14 制御および評価ユニット
16 送信アンテナエレメント
18 ミキサ
20 受信アンテナエレメント
22 アナログデジタル変換器
24 信号処理ユニット
26 周波数ランプ
28 上位のランプ
32 第1のフーリエ変換
34 第2のフーリエ変換
36 ピーク検出
38 ステップ
40,42 帯域
44,46,48,50 直線
d 距離
f 周波数
f
0 平均周波数
F
fast 周波数偏移
F
slow 周波数偏移
s ベースバンド分割信号
t 時間
T
fast 経過時間
T
r2r ランプ繰り返し時間
T
slow ランプ経過時間
v 相対速度