(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明者らは、粒子線照射計画における体内での線量分布の計算において、入射粒子が体内で起こす核反応確率が水中で起こす核反応確率と異なることに起因する線量誤差を排除するべく鋭意研究を行った。
【0017】
そして、この線量誤差を、簡便かつ高精度に補正する方法を開発した。まず、この補正方法の基本原理について説明する。
【0018】
<炭素線治療の場合>
炭素線治療において、炭素線が体内に入射すると、炭素イオンの一部は体内の原子核との核破砕反応を通してその数を減らしていく。逆に、核破砕反応により生成されるフラグメント粒子は徐々にその数を増していき、炭素線が停止する位置を超えて広く拡散していく。
【0019】
図1(A)は、モンテカルロ計算により導出した炭素線の水中での深部粒子数分布を原子番号ごとに示した図である。横軸は体表からの深さ、縦軸はフルエンスを示している。炭素線の線量分布d
j(x,y,z)は、入射粒子(炭素イオン)とフラグメント粒子からの線量寄与によるが、横方向の広がりの違いから、3つの成分の重ね合わせとして次の[数1]と表現できる。
【0020】
【数1】
※d
n,j(x,y,z)は、n番目の成分の線量分布を表す。
I
nは、n番目の成分の線量分布をビーム軸と垂直な面内で積分した深部線量分布(Integrated Depth Dose: IDD)を表す。
G(x,y,σ
n,j(z))は、標準偏差σをもつ2次元正規分布を表す。
※詳細は、Inaniwa T, Furukawa T, Nagano A, Sato S, Saotome N, Noda K and Kanai T, 2009, Field−size effect of physical doses in carbon−ion scanning using range shifter plates. Med. Phys. 36, 2889−97 参照。
【0021】
ここで、第1成分(第1の領域)は入射粒子(炭素線治療なら炭素イオン)、第2成分(第2の領域)は原子番号1,2以外の重いフラグメント、第3成分(第3の領域)は原子番号が1,2の軽いフラグメントによる寄与であると近似する。
【0022】
図1(B)は、一例として290MeV/uのエネルギーを持つ炭素線の深部線量分布を示すグラフ図である。横軸は体表からの深さ、縦軸は線量を示している。グラフ101は、炭素線の水中での深部線量分布IDD
totalを示し、グラフ102は、第1成分(Z=6)の線量寄与を示し、グラフ103は第2成分(Z=3〜5)の線量寄与を示し、グラフ104は第3成分(Z=1〜2)の線量寄与を示している。
【0023】
粒子線の照射計画では、予め用意した換算表を用いて、患者のCT画像の画素値(CT値)を、物質の水に対する阻止能比ρ
Sに変換することで、人体という不均質媒質を阻止能比の分布として表現する。ここで、阻止能比ρ
Sは、水に対して着目する物質がどれくらい入射粒子を減速させる能力があるかを表す物理量である。一般に粒子線照射計画では、変換で得られた阻止能比の分布に対し、
図1(B)に示したような水中で測定した線量分布を当てはめることで体内での線量分布を計算する。
【0024】
発明者らは、ICRUレポート(ICRU Report 1992)に纏められた人体組織の組成一覧から、各組織の阻止能比ρ
Sと核反応実効密度ρ
Nの普遍的な相関関係を導いた。ここで、核反応実効密度ρ
Nは、水に対して着目する物質がどれくらい入射粒子を砕きやすいかを表す物理量である。
【0025】
本発明では、まず、粒子線とは異なる放射線であるX線を用いてCT装置により3次元スキャニングを行って得たCT値の3次元分布から阻止能比ρ
Sの3次元分布を得て、さらにρ
Sとρ
Nの相関関係を用いて、核応実効密度ρ
Nの3次元分布を作成する。
【0026】
体表から着目する深さzまでの、粒子の減速に関する実効的な距離S
S(z)は、阻止能比ρ
Sを着目する深さzまで線積分することで、次の[数2]と与えられる。
【0027】
【数2】
一方、深さzまでの、粒子を砕く(核反応を起こす)ことに関する実効的な距離S
N(z)は、核反応実効密度ρ
Nをzまで線積分することで、次の[数3]と与えられる。
【0029】
ここで、炭素線の水中での粒子束(フルエンス)を測定したHaettner等の実験がある。(詳細は、Haettner E, Iwase H, Kramer M, Kraft G and Schardt D, 2013, Experimental study of nuclear fragmentation of 200 and 400 MeV/u 12C ions in water for applications in particle therapy Phys. Med. Biol. 58, 8265−79 参照。)
【0030】
Kanematsu等は、炭素線フルエンスの指数関数的減衰モデルのもとで、炭素線の平均自由行程(mean free path)λを255 mmと導いている。(※詳細は、Kanematsu N, Koba Y and Ogata R, 2013, Evaluation of plastic materials for range shifting, range compensation, and solid phantom dosimetry in carbon−ion radiotherapy Med. Phys. 40, 041724−1−6 参照)
この関係を用いれば、着目する深さzまでに生じる、水中と体内での核反応による炭素線フルエンスの変化を、次の[数4]で表すことができる。
【0031】
【数4】
ここで、φ
wp(z)を減弱補正係数(Attenuation Correction Factor)と呼ぶことにする。
【0032】
減弱補正係数はその定義より、水よりも阻止能あたりに起こす核反応確率が高い物質を通過してきた場合には、S
S(z)<S
N(z)となる関係からφ
wp(z)<1.0となる。
【0033】
逆に、水よりも阻止能あたりに起こす核反応確率が低い物質を通過してきた場合には、S
S(z)>S
N(z)となる関係からφ
wp(z)>1.0となる。
【0034】
この補正係数を用いて、[数1]で示した深部線量分布を補正する式は、次の[数5]に示す式で得られる。
【0035】
【数5】
入射粒子の線量は、入射粒子のフルエンスに比例するため、I
1,jをφ
wp(z)で補正する。フラグメント粒子は入射粒子の減弱の程度が多いほど増えるため、第3成分の線量寄与I
3,jを1/φ
wp(z)で補正する。第2成分I
2,jの補正をしないのは、経験的なものによる。
【0036】
図2は、本線量分布補正を簡単に示したグラフによる説明図である。
図2(A)、(C)、(E)は、縦軸を炭素線フルエンス、横軸を体表からの深さとし、
図2(B)、(D)、(F)は、ブラッグ曲線を示し、縦軸を深部線量、横軸を体表からの深さとしている。
【0037】
図2(A)および
図2(B)は、いずれも水中での炭素線フルエンスまたは深部線量を示している。図示するように、グラフ111は、深さに応じて炭素線フルエンスが低くなっており、グラフ116は、深さ1.0付近でピークを示している。
【0038】
図2(C)および
図2(D)は、いずれも水よりも阻止能あたりに核反応を起こしにくい物質中(φ
wp(z)>1.0)での炭素線フルエンスまたは深部線量を示している。図示するように、グラフ112はグラフ111より全体的に少し高くなっており、グラフ117もグラフ116より全体的に少し高くなっている。
【0039】
図2(E)および
図2(F)は、いずれも水よりも阻止能あたりに核反応を起こしやすい物質中(φ
wp(z)<1.0)での炭素線フルエンスまたは深部線量を示している。図示するように、グラフ113はグラフ111より全体的に少し低くなっており、グラフ118もグラフ116より全体的に少し低くなっている。このように核反応を起こしやすい物質であればフルエンスおよび深部線量は低くなり、逆に、核反応を起こしにくい物質であればフルエンスおよび深部線量は高くなる。
【0040】
図3は、一連の変換の様子を示す画像図である。
図3(A)は、減弱係数μを用いたCT値の画像を示し、
図3(B1)は、阻止能比ρ
Sによって補正した阻止能比画像を示し、
図3(C1)は、さらに核反応実効密度ρ
Nによって補正した核反応実効密度画像を示す。また、
図3(B2)は縦軸を阻止能比、横軸を減弱係数とし、CT値の画像から阻止能比画像を求めるのに使用する変換表を示す図である。
図3(C2)は、縦軸を核反応実効密度、横軸を阻止能比とし、阻止能比画像から核反応実効密度画像を求めるのに使用する変換表を示す図である。このように、CT値から核反応実効密度画像を求め、前記補正を適用することで、精度のよい粒子線照射計画を作成することができる。
【0041】
<陽子線治療の場合>
陽子線が水中を通過すると、水分子の電子または原子核との間で、水分子の電子(体内であれば体内の電子)に対してエネルギーを与えながら陽子線がエネルギーを失って減速していく電磁相互作用(electromagnetic interaction: EM)、全体の運動エネルギーが保存されながらエネルギーを渡すだけで原子核の種類が変化しない弾性散乱(elastic interaction: EL)、エネルギーを渡すことで原子核の種類は変わらないが励起する非弾性散乱(inelastic interaction: IE)、それ以外(EM、EL、IE以外)の反応である核反応(nonelastic interaction: NE)を起こす。ここで、ELまたはIEを起こした陽子は、その反応で僅かにエネルギーを失うが、EMのみを起こす陽子束とほぼ同じ深さまで到達する。ELとIEを起こした陽子束をまとめて扱えば、陽子線が水中に付与する線量分布D(s)は、次の[数6]に示すように、各相互作用の寄与(D
EM(s)、D
EL/IE(s)、D
NE(s))の加算で表すことができる。
【0042】
【数6】
※D
EM(s)は、EM相互作用のみを起こした入射粒子による水の吸収線量を表す。
D
EL/IE(s)は、EL相互作用またはIE相互作用を起こした入射粒子による水の吸収線量を表す。
D
NE(s)は、NE相互作用に起因する水の吸収線量を表す。
【0043】
一方、陽子束が水以外の物質を通過した場合に、物質中の深さz(水等価深s)に付与する線量(dose to water in material)は、次の[数7]により表される。
【0044】
【数7】
ここで、[数7]における各成分(ターム)を説明する。
【0045】
<第1成分 EM系統>
1−Asは水の中でのEM相互作用のみを起こした陽子数(フルエンス)の変化を示す。Aは傾きを表し、1−Asは水について深さsにおいてEM相互作用のみを起こした陽子数(フルエンス)がどれくらい減っているかを表す。
1−A’sは、水ではないものが、水と同じ深さまできたときにフルエンスがどれだけ減っているかを表す。
つまり、(1−A’s)/(1−As)は、深さsにおいてEMの反応がどれだけ水と違ったかという補正をかけている。
【0046】
<第2成分 EL/IE系統>
Yは傾きを示し、水について深さsにおいてEL相互作用またはIE相互作用を起こした陽子数(フルエンス)がどれだけ増えているかを表す。
Y’は、水ではないものが、水と同じ深さまできたときにEL相互作用またはIE相互作用を起こした陽子数(フルエンス)がどれだけ増えているかを表す。
つまり、Y’/Yは、深さsにおいてELおよびIEの反応がどれだけ水と違ったかという補正をかけている。なお、本来はY’s/Ysと表現されるが、深さsが分子と分母にあるためにキャンセルされてY’/Yで表されている。
【0047】
<第3成分 NE系統>
A−Yは、水の中でNEの反応がどれだけ起こっているかを表す。
A’−Y’は、物質中で、水と同じ深さ(水等価深)まできたときにNEの反応がどれだけ起こっているかを表す。
つまり、A’−Y’/A−Yは、物質中の水等価深sにおいてNEの反応がどれだけ水と違ったかという補正をかけている。
γは、水について、入射陽子が核反応をおこした際にどれだけ荷電粒子にエネルギーを与えたかを示している。詳述すると、核反応で生じた荷電粒子は反応が起こったところの近傍でエネルギーを落とすので線量計算に含めるが、核反応で生じた中性子やガンマ線は反応が起こったところの近傍にエネルギーをそれほど落とさないので線量計算に含めない。このため、γが大きければ荷電粒子に受け渡されるエネルギーの割合が大きいことを示し、γが小さければ中性子やガンマ線に受け渡されるエネルギーの割合が大きく荷電粒子に受け渡されるエネルギーの割合が小さいことを示す。
γ’は、水以外のものが、どれだけ核反応をおこしてどれだけ荷電粒子にエネルギーを与えたかを示している。
つまり、γ’/γは、深さsにおいてNEの反応により荷電粒子に受け渡されるエネルギーの割合がどれだけ水と違ったかを示す。
【0048】
ここで、D
EMの補正係数(1−A’s(z))/(1−As(z)))は、EM相互作用のみをおこす一次陽子数の物質中と水中との比を、D
El/IEの補正係数Y’/Yは、EL/IE相互作用を起こす陽子数の物質中と水中との比を表す。
【0049】
また、D
NEの補正係数γ’/γと(A’−Y’)/(A−Y)はそれぞれ“核反応を起こした陽子のエネルギーが標的の荷電粒子に与えられる割合”および“核反応を起こす陽子数”の物質中と水中との比を表す。物質が深さzに応じて連続的に変化する場合、上記[数7]は、次の[数8]とすることで一般性を失わない。
【0050】
【数8】
すなわち、物質毎に補正係数A,A’,Y,Y’,γ’/γと阻止能比ρsがわかっていれば、水中での各相互作用の線量寄与D
EM、D
EL/IE、D
NEを[数8]の式にしたがって補正して足し合わせることで、物質中での線量分布を計算することが可能になる。
【0051】
図4は、エネルギー216MeVの陽子線の水中での深部線量分布Dと各相互作用の寄与D
EM、D
EL/IE、D
NEを示したグラフ図である。縦軸は線量を示し、横軸は深さを示している。
【0052】
粒子線の照射計画では、予め用意した換算表を用いて、患者のCT画像の画素値(CT値)を、物質の水に対する阻止能比ρ
Sに変換することで、人体という不均質媒質を阻止能比の分布として表現する。ここで、阻止能比ρ
Sは、水に対して着目する物質がどれくらい入射粒子を減速させる能力があるかを表す物理量である。一般に粒子線照射計画では、変換で得られた阻止能比の分布に対し、水中で測定した線量分布を当てはめることで体内での線量分布を計算する。
【0053】
発明者らは、ICRUレポート(ICRU Report 1992)に纏められた人体組織の組成一覧をもとに、モンテカルロシミュレーションコードGEANT4内に人体組織ファントムを作成し、ファントムへの陽子線照射を模擬することで、各組織の阻止能比ρsと各補正係数A’/A,Y’/Y,γ’/γの普遍的な相関関係を導いた。基準物質である水についてもGEANT4で陽子線照射を模擬することで、EM減弱係数AとEL/IE収率Yを求めた。
【0054】
図5は、ICRU人体組織の阻止能比ρsと各補正係数A’/A,Y’/Y,γ’/γの関係を示す説明図である。各図において、縦軸は補正係数、横軸は阻止能比(粒子線の止めやすさ)を示している。また、各図にプロットされている「+」は、ICRU人体組織における各組織(各物質)のパラメータを拾い出して一つずつプロットしたものである。図において、阻止能比が1.0より大きいものは粒子線を水より止めやすい組織(物質)であることを示し、1.0より小さいものは粒子線を水より止めにくい組織(物質)であることを示す。
【0055】
図5(a)は、EMについての補正係数A’/Aのグラフを示し、
図5(b)は、EL/IEについての補正係数Y’/Yのグラフを示し、
図5(c)は、NEについての補正係数A’/Aのグラフを示す。図示するように、各補正係数のグラフは、
図5(a),
図5(b)に示すEMおよびEL/IEについては正の相関を示し、
図5(c)に示すNEについては負の相関を示している。
【0056】
粒子線の治療計画装置では、X線の実効的な線減弱係数を表すCT値を(CT装置と撮影条件毎に校正された)変換テーブルを介して阻止能比ρsに変換する。すなわち、治療計画装置では、線量計算を行う際に、患者体内の阻止能比分布ρsが予め決定されている。したがって、
図5に示した阻止能比ρsと各補正係数A’/A,Y’/Y,γ’/γの普遍的な相関関係および水のEM減弱係数AとEL/IE収率Yから体内での線量計算に[数8]の式の補正を適用することが可能になる。
【0057】
図6は、一連の変換の様子を示す画像図とヒストグラムである。
図6(a)は、補正前の線量分布の画像を示し、
図6(b)は、補正後の線量分布の画像を示し、
図6(c)は、補正前(非補正)と補正後の線量差の画像を示す。また、
図6(d)は縦軸を体積、横軸を線量とする線量体積ヒストグラムである。このように、CT値から核反応実効密度画像を求め、前記補正を適用することで、精度のよい粒子線照射計画を作成することができる。
【0058】
以下、本発明の一実施形態を図面と共に説明する。
【実施例1】
【0059】
図7は、本発明の第1実施形態に係る粒子線照射システム1の全体構成を示す説明図である。
【0060】
粒子線照射システム1は、イオン源2から照射された荷電粒子ビーム3を加速して出射する加速器4と、該加速器4から出射された荷電粒子ビーム3を輸送するビーム輸送系5と、該ビーム輸送系5を経た荷電粒子ビーム3を患者7の照射対象であるターゲット部8(例えば、腫瘍部)に照射する照射装置(スキャニング照射装置)6と、前記粒子線照射システム1を制御する制御装置10と、粒子線照射システム1の照射パラメータを決定するコンピュータとしての照射計画装置20とを備えている。なお、この実施例では、イオン源2から照射する荷電粒子ビーム3として炭素線ビームを使用するが、これに限らず様々な荷電粒子ビーム(荷電重粒子ビームを含む)を照射する粒子線照射システム1に本発明を適用できる。
【0061】
前記加速器4は荷電粒子ビーム3の強度を調整するようになっている。
前記照射装置6は、荷電粒子ビーム3をビーム進行方向(Z方向)に垂直な平面を形成するX−Y方向に偏向させるスキャニングマグネット(図示省略)と、荷電粒子ビーム3の位置を監視する線量モニタ(図示省略)と、Z方向の荷電粒子ビーム3の停止位置を調整するレンジシフタ(図示省略)とを備え、ターゲット部8に対しスキャン軌道沿って荷電粒子ビーム3をスキャンするようになっている。
【0062】
前記制御装置10は、加速器4からの荷電粒子ビーム3の強度や、ビーム輸送系5内での荷電粒子ビーム3の位置修正や、照射装置6のスキャニングマグネット(図示省略)によるスキャニングや、レンジシフタ(図示省略)によるビーム停止位置等を制御するようになっている。
【0063】
前記照射計画装置20は、キーボードおよびマウス等で構成される入力装置21、液晶ディスプレイまたはCRTディスプレイ等で構成される表示装置22、CPUおよびROMおよびRAMで構成される制御装置23、CD−ROMおよびDVD−ROM等の記憶媒体29に対するデータの読み書きを行うディスクドライブ等で構成される媒体処理装置24、および、ハードディスク等で構成される記憶装置25を備えている。
【0064】
制御装置23は、記憶装置25に記憶されている照射計画プログラム39aおよび照射計画補正プログラム39bを読み込み、領域設定処理部31、処方データ入力処理部32、演算部33、出力処理部34、3次元CT値データ取得部36、阻止能比変換部37、および核反応実効密度変換部38として機能する。
【0065】
記憶部25は、3次元CT値データ(3次元スキャニングデータ)を阻止能比に変換する第1変換データ41と、この阻止能比を核反応実効密度に変換する第2変換データ42を記憶している。第1変換データ41は、CT値を阻止能比に変換する従来技術による換算表のデータである。第2変換データ42は、阻止能比を核反応実効密度に変換する本発明による換算表のデータであり、減弱補正係数φ
wp(z)は、各変換で得られた阻止能比と核反応実効密度の3次元分布から上述した[数2]〜[数4]から求められる。
【0066】
このように構成された照射計画装置20は、照射計画プログラム39aおよび照射計画補正プログラム39bに従って、各機能部が次のように動作する。
【0067】
まず、3次元CT値データ取得部36は、別途のCT装置から照射対象(患者)の3次元CT値データを取得する。すなわち、照射対象の各3次元位置におけるX線に対する実効的な線減弱係数を3次元CT値データとして取得する。
【0068】
領域設定処理部31は、表示装置22に3次元CT値データを画像表示し、計画作成者が入力装置21で入力する領域指定(ターゲット部8の指定)を受け付ける。
【0069】
処方データ入力処理部32は、表示装置22に処方入力用画面を表示し、計画作成者が入力装置21で入力する処方データを受け付ける。この処方データは、3次元CT値データの各座標における粒子線の照射位置と照射量を示すデータである。なお、この処方データには、粒子線の種類(例えば炭素原子核または水素原子核等)も含めて種類別の照射位置と照射量とし、複数種類の粒子線を用いる処方データとしてもよい。
【0070】
阻止能比変換部37は、一般的な粒子線照射計画装置で行われているように、予め用意されている第1変換データ(変換テーブル)を用いて、3次元CT値データを各3次元位置における阻止能比ρ
Sに変換する。この変換により、阻止能比ρ
Sの3次元分布である阻止能比データが得られる。この阻止能比データへの変換は、予め用意した換算表によって変換する既存の技術で行えば良い。
【0071】
核反応実効密度変換部38は、人体組織における阻止能比ρ
Sと核反応実効密度ρ
Nの相関関係を示す第2変換データを用いて、阻止能比データを各3次元位置における核反応実効密度ρ
Nに変換し、核反応実効密度ρ
Nの3次元分布を導出する。この変換により、核反応実効密度の3次元分布である核反応実効密度データが得られる。これにより、体内での線量計算に、水中で測定された線量分布をそのまま適用するのではなく、上述した[数2]〜[数4]で得られた減弱補正係数φ
wp(z)を用いて、[数5]に従って深さ毎に線量分布を補正して適用する。
【0072】
演算部33は、処方データ、阻止能比データ、および核反応実効密度データを受け取り、これらに基づいて照射パラメータおよび線量分布を作成する。すなわち、処方データの照射位置に処方データの照射量の照射を行うために、粒子線照射システム1から照射すべき粒子線の量(粒子数)を阻止能比データおよび核反応実効密度データを用いて逆算し、粒子線照射システム1から照射する粒子線の照射パラメータを算出する。また、演算部33は、算出した照射パラメータで粒子線を照射対象に照射した場合の線量分布を算出する。
【0073】
出力処理部34は、算出した照射パラメータおよび線量分布を表示装置22に出力して表示する。また、出力処理部34は、照射パラメータおよび線量分布を、粒子線照射システム1を制御する制御装置10に送信する。
【0074】
以上に説明した照射計画装置20により、粒子線照射システム1は、水で近似して計画した照射パラメータよりも照射対象に合わせて高精度に補正された照射パラメータを用いて高精度なビームを照射することができる。ビームの照射は、例えばターゲット領域に対して一様な線量分布の照射を与えるスキャニング照射法を用いたスポットビームの照射(線量分布はスポットビームの総和となる)など、適宜の照射とすることができる。
【0075】
第2変換データ42を阻止能比に対する核反応実効密度の補正としたため、既存の様々な粒子線照射システム1の照射計画装置20に即座に導入して利用できる。詳述すると、CT値はCT装置および撮影環境によって異なり、このCT値から阻止能比に変換する換算表もCT装置および撮影環境によって異なる。このため、CT値から直接核反応実効密度の補正を行う場合、CT装置や撮影環境毎に換算表を作成する必要が生じる。これに対して、既存の粒子線照射システム1においては、既に設置されたCT装置および撮影環境における阻止能比への換算表が存在しているため、これを利用して装置や環境に個別の設定を不要とすることができる。すなわち、1つの第2変換データ42を作成しておけば、どのようなCT装置および撮影環境であっても、個別調整済みの換算表で計算された阻止能比から第2変換データ42により核反応実効密度による補正を実施できる。このように補正するための第2変換データ42を共通化することで、インストール時に誤ったデータを用いることも防止でき、安全に高精度の照射計画作成を実現することができる。
【0076】
また、体内の線量分布計算に、水中で測定された線量分布(上述した[数1])をそのまま適用するのではなく、通過する物質の核反応確率の程度により線量分布を補正して適用することで、核反応に起因する線量誤差を簡便に補正できる。
【0077】
また、この照射計画装置20により、粒子線照射計画の線量分布計算において、体内で入射粒子が起こす核反応の影響を正確に反映させることができる。これにより、体内組成を加味した、より正確な線量分布計算が可能になる。しかも、この方法は、簡便かつ人体組成の普遍的な性質を用いるものであり、どの照射計画装置にも搭載可能である。このため、この方法は、今後、炭素線を用いた粒子線照射計画の線量計算アルゴリズムの中で標準となりうる。
【実施例2】
【0078】
図8は、本発明の第2実施形態に係る粒子線照射システム1Aの全体構成を示す説明図である。第1実施形態と異なる構成として、核反応実効密度変換部38(
図7参照)の代わりにEM補正部38a、EL/IE補正部38b、およびNE補正部38cが設けられ、照射計画補正プログラム39b(
図7参照)の代わりに照射計画補正プログラム39cが設けられ、第2変換データ42の代わりに第2変換データ42aが設けられている。
【0079】
EM補正部38a、EL/IE補正部38b、およびNE補正部38cは、阻止能比変換部37から阻止能比データを受け取り、第2変換データ42aから補正係数A’/A,Y’/Y,γ’/γを受け取って、それぞれの補正を行う。
【0080】
EM補正部38aは、電磁相互作用(EM)の補正を行う部分であり、EL/IE補正部38bは、弾性散乱(EL)及び非弾性散乱(IE)の補正を行う部分であり、NE補正部38cは、核反応(NE)の補正を行う部分である。
【0081】
照射計画補正プログラム39cは、第1実施形態と同様に、照射計画装置20Aの各機能部を動作させる。特に、この第2実施形態においては、EM補正部38a、EL/IE補正部38b、およびNE補正部38cにより、上述した[数8]の式と第2変換データ42aを用いて照射計画の補正を行う。
【0082】
第2変換データ42aは、各組織の補正係数A’/A,Y’/Y,γ’/γを記憶している。
【0083】
その他の構成および動作は、第1実施形態と同一であるため、同一要素に同一符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0084】
以上の構成および動作により、第2実施形態の粒子線照射システム1Aは、水で近似して計画した照射パラメータよりも照射対象に合わせて高精度に補正された照射パラメータを用いて高精度なビームを照射することができる。ビームの照射は、例えばターゲット領域に対して一様な線量分布の照射を与えるスキャニング照射法を用いたスポットビームの照射(線量分布はスポットビームの総和となる)など、適宜の照射とすることができる。
【0085】
第2変換データ42aによって阻止能比から補正係数を導出するため、既存の様々な粒子線照射システム1Aの照射計画装置20Aに即座に導入して利用できる。詳述すると、CT値はCT装置および撮影環境によって異なり、このCT値から阻止能比に変換する換算表もCT装置および撮影環境によって異なる。このため、CT値から直接補正を行う場合、CT装置や撮影環境毎に換算表を作成する必要が生じる。これに対して、既存の粒子線照射システム1Aにおいては、既に設置されたCT装置および撮影環境における阻止能比への換算表(X線の減弱を粒子線のストッピングパーレーションに変換する換算表)が存在しているため、これを利用して装置や環境に個別の設定を不要とすることができる。すなわち、1つの第2変換データ42aを作成しておけば、どのようなCT装置および撮影環境であっても、個別調整済みの換算表で計算された阻止能比を第2変換データ42aを用いて、電磁相互作用(EM)、弾性散乱(EL)、非弾性散乱(IE)、及び核反応(NE)に関わる補正係数の分布に変換し、各相互作用の水との違いを考慮した補正を実施できる。このように補正するための第2変換データ42aを共通化することで、インストール時に誤ったデータを用いることも防止でき、安全に高精度の照射計画作成を実現することができる。
【0086】
また、体内の線量分布計算に、水中で測定された線量分布(第1実施形態で説明した[数1])をそのまま適用するのではなく、通過する物質の核反応確率の程度により線量分布を補正して適用することで、核反応に起因する線量誤差を簡便に補正できる。
【0087】
また、この照射計画装置20Aにより、粒子線照射計画の線量分布計算において、体内で入射粒子が起こす核反応の影響を正確に反映させることができる。これにより、体内組成を加味した、より正確な線量分布計算が可能になる。しかも、この方法は、簡便かつ人体組成の普遍的な性質を用いるものであり、どの照射計画装置にも搭載可能である。このため、この方法は、今後、陽子線を用いた粒子線照射計画の線量計算アルゴリズムの中で標準となりうる。
【0088】
この発明と実施の形態の対応において、
この発明の粒子線は、実施の形態の荷電粒子ビーム3に対応し、
以下同様に、
照射対象は、患者7に対応し、
領域は、ターゲット部8に対応し、
照射計画装置,コンピュータは、照射計画装置20に対応し、
処方データ取得部は、処方データ入力処理部32に対応し、
線量分布算出部は、演算部33に対応し、
3次元スキャニングデータ取得部は、3次元CT値データ取得部36に対応し、
反応物理量分布データ作成部は、阻止能比変換部37および核反応実効密度変換部38に対応し、
阻止能比補正処理部は、阻止能比変換部37に対応し、
照射対象物質補正処理部は、核反応実効密度変換部38、EM補正部38a、EL/IE補正部38b、およびNE補正部38cに対応し、
核反応実効密度補正処理部は、核反応実効密度変換部38に対応し、
粒子線作用補正処理部は、EM補正部38a、EL/IE補正部38b、およびNE補正部38cに対応し、
反応物理量分布データは、第1変換データ41および第2変換データ42,42aに対応し、
3次元阻止能比データは、第1変換データ41に対応し、
3次元核反応実効密度データは、第2変換データ42に対応し、
成分は、第1成分、第2成分、および第3成分に対応するが、
これに限られるものではない。
【0089】
なお、上述した第1実施形態における実施例の補正における各成分の原子番号は、原子番号が6の炭素線治療に特化したものであるが、これに限らず、原子番号が異なる他の核種を用いる場合に、各成分に含まれる原子番号の範囲を適宜の範囲とすることができる。
【0090】
また、第2実施形態においては、[数8]を用いた補正処理において、「EM」「EL/IE」「NE」の3成分に対してそれぞれ補正し加算したが、これに限らず、「EM+EL/IE」「NE」の2成分とする、あるいは、「EM」「EL」「IE」「NE」の4成分とする等、適宜の構成とすることができる。この場合も、水で近似して計画した照射パラメータよりも精度を向上させた照射計画を照射対象に合わせて作成することができる。
【0091】
また、阻止能比補正処理部(阻止能比変換部37)と照射対象物質補正処理部(核反応実効密度変換部38、EM補正部38a、EL/IE補正部38b、およびNE補正部38c)は、演算の概念として2系統の演算に分かれていればよいのであって、実際の演算は2つの補正処理をまとめて1つの演算で実行する構成にしてもよい。