(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
ポリアセタールは、バランスのとれた機械物性と優れた疲労特性を有していることから、広く自動車、電子機器、電気機器等の部品等に利用されている。ポリアセタール共重合体は、ホルムアルデヒド又はその環状三量体であるトリオキサン等の環状アセタールと、環状エーテル及び環状ホルマールのいずれか又は両方とを共重合させることにより製造される。しかし、このような共重合によって得られるポリアセタール共重合体は一部の分子末端に−(OCH2)n−OH基を持ち、この末端基は熱的に不安定であるため成形加工時の加熱等により容易に分解し、多量のホルムアルデヒドを発生するので、このままでは実用に供することはできない。すなわち、多量のホルムアルデヒドが発生すると、成形時に樹脂が発泡したり、成形品の表面にガス状のホルムアルデヒドが抜けたラインが残って外観が不良になる等の不都合を生ずる。さらに、発生したホルムアルデヒドは、成形機中の酸素により酸化されて蟻酸となり、ポリアセタール共重合体の主鎖分解を促進することになる。
特に、近年ではホルムアルデヒドが人体にとって好ましくない物質であるという観点から、成型後の製品からのホルムアルデヒドの発生量が極端に低い材料が求められ、ホルムアルデヒドの発生量の少ないポリアセタールが発明されてきている。
【0003】
近年、生物の体内にも接触する用途等の極めて要求の厳しい領域においては、従来のレベルより一段と低いホルムアルデヒド発生量に抑制した材料が要求されている。また、ホルムアルデヒドのみならずアセトアルデヒド、さらには微生物のへの毒性の強いアクロレインの低減が求められるようになってきている。従い、上述のホルムアルデヒドのみならず、アセトアルデヒドやアクロレインの発生量が極端に低い材料が切望されている。
【0004】
ポリアセタールは一般的に熱などによる安定性が低いため、熱安定剤等の添加された樹脂組成物であることが一般的である。ベース樹脂となるポリアセタール自体のホルムアルデヒドの発生量が少ないことが、上記ホルムアルデヒドの発生量が極端に低い材料を得る上で不可欠である。
【0005】
ポリアセタールは重合後、不安定末端部を持つことで、ホルムアルデヒドが発生する。ポリアセタール共重合体(以後、粗ポリアセタールということがある。)を安定化する方法としては、末端をアセチル化、エーテル化、又はウレタン化する方法や、不安定末端部を分解する方法等が知られている。
その中でも、不安定末端部を分解して安定化する方法が有利である。この不安定末端部を分解する方法としては、この不安定末端部を分解することのできる塩基性物質の存在下、粗ポリアセタール共重合体を水中また有機溶剤中で加熱し安定化する方法、粗ポリアセタール共重合体を加熱溶融状態で安定化する方法などが知られている。粗ポリアセタール共重合体を水中または有機溶剤中で加熱し安定化する方法は、分離(濾過)、回収、洗浄等の操作を必要とするのに対して、加熱溶融状態で安定化する方法は、直接安定化したポリアセタール共重合体が得られる為、工業的に最も有利な方法である。
従来知られている加熱処理方法としては、粗ポリアセタール共重合体をポリアセタール共重合体が溶解しない媒体(例えば水、水/メタノール混合液)中で不均一系を保ちつつ、加熱処理して不安定な末端部を除去する方法が知られている(例えば特許文献1、特許文献2)。しかし、この方法では不安定な末端部の分解速度を上げるためにポリアセタール共重合体の融点に近い温度で操作する必要があるとともに不安定な末端部を少なくするために長時間の処理を行う必要があった。このような処理を行っても、得られたポリアセタール共重合体は不安定な末端部の分解除去が充分でなく、高温での長時間処理によりポリアセタール共重合体が着色しやすいという問題もあった。
【0006】
また、特許文献3には、揮発性有機溶剤、揮発性塩基及び水からなる飽和蒸気混合物中に粗ポリアセタール共重合体を100℃以上の温度にて大気圧以上の圧にさらすことによって不安定な末端部を除去する方法が開示されている。しかし、この方法でも不安定末端部の除去は充分ではなかった。また、粗ポリアセタール共重合体を加熱し溶融状態に保って不安定な末端部を分解除去する方法が知られている。
例えば、特許文献4には、溶融共重合体を一定時間ロールミル上で混練する方法、特許文献5または特許文献6には、水、アルコール等又は更にアルカリ成分の存在下で押出機等を用いて加熱溶融処理を行う方法、特許文献7には、粗ポリアセタール共重合体を加熱溶融した後、特殊な表面更新混合機を用いて減圧下において不安定な部分を分解除去する方法、特許文献8には、粗ポリアセタール共重合体を溶融するための1軸スクリュー押出機、流動分割と再配列の原理により粗ポリアセタール共重合体と水及び水の存在下で水酸化物を生成する化合物からなる反応剤とを混合しながら不安定な部分を分解する反応域を有する静混合機及び静混合機のすぐ後に配置された揮発分除去のためのベント式スクリュー押出機より構成される反応装置において不安定部分を分解除去する方法、また、特許文献9には、粉状または粉状粗ポリアセタール共重合体を溶融温度より5〜35℃低い温度で減圧下で処理したあと、押出機で加熱溶融処理する方法がそれぞれ提案されている。
これら粗ポリアセタール共重合体を加熱し溶融状態に保って熱的に不安定な末端部のみを分解除去する方法でもかなりの安定化が可能であり、斯かる処理を行ったポリアセタール共重合体は実用に供し得るものであるが、なお、熱的に不安定な末端部が残り、これが成形加工等において、モールドデポジット(金型付着物)の発生等の好ましからざる現象を引き起こす原因となる場合があるため、より一層安定な重合体が強く望まれている。
【0007】
これら公知の方法では、分解速度を上げるためには、前記塩基性物性、アルカリ成分、又は水の存在下で水酸化物を生成する化合物等(例えばこの種の用途に汎用されるアミン類等)をポリアセタール共重合体に添加し、その添加量を増やす必要があった。しかし、アミン類等の添加量を増やしすぎるとポリマーが着色する。更に、不安定な末端部を少なくするためには長時間又は複数回の処理を行う必要があった。このため、安定化後のポリアセタール共重合体が着色劣化するばかりではなく、装置が大型化、複雑化することになる。更に、粗ポリアセタール共重合体の不安定な末端部の分解除去が必ずしも充分でないという問題もある。
特許文献10には、これらの問題を解決すべく、簡便な方法で不安定な末端部の非常に少ないポリアセタール共重合体を得る安定化方法として、熱処理を特定構造の第4級アンモニウム化合物の存在下で行うことが開示されている。この方法によれば、ポリアセタール共重合体の熱的に不安定な末端部の飛躍的な安定化が実現し、上記の安定化方法に伴なう種々の問題を解消できるとされるが、成型等の加熱溶融後に発生するアセトアルデヒドやアクロレインの発生抑制には至っていない。
【0008】
さらに、特許文献11には、不安定な末端を除去しつつ、臭気特性を改善する方法として、主にポリアクリル酸の第4級アンモニウム化合物を用いた安定化方法が開示されている。しかしながら、この方法においては、実質的な加工温度での臭気評価には至っておらず、加工温度以上での臭気評価として課題が残る。またポリアクリル酸は沸点が高くポリマー中にも残るため、加熱時の分解挙動の他、着色性への懸念がないとは言いきれず、成型等の加熱溶融後に発生するアセトアルデヒドやアクロレインの発生抑制には至らない。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」と言う。)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0015】
<第4級アンモニウム化合物(A)>
本実施形態の第4級アンモニウム化合物(A)は下記式(1)であらわされる。
[(R1)
m(R2)
4-mN
+]
nX
n- (1)
式中、R1は、各々独立して、炭素数1〜30の非置換アルキル基または置換アルキル基;炭素数6〜20のアリール基;炭素数1〜30の非置換アルキル基または置換アルキル基が少なくとも1個の炭素数6〜20のアリール基で置換されたアラルキル基;又は炭素数6〜20のアリール基が少なくとも1個の炭素数1〜30の非置換アルキル基または置換アルキル基で置換されたアルキルアリール基を表わし、非置換アルキル基または置換アルキル基は直鎖状、分岐状、または環状であり、置換アルキル基の置換基は、ハロゲン、水酸基、アルデヒド基、カルボキシル基、アミノ基、又はアミド基であり、非置換アルキル基、アリール基、アラルキル基、アルキルアリール基は水素原子がハロゲンで置換されていてもよい。
R2は、各々独立して、炭素数が2〜60、酸素数が2〜30である、以下の式で表される基を表す。
−(RO)k―H (ただし、Rは置換又は非置換のアルキル基を表し、kは2以上の自然数を表す。)
m及びnは、1〜3の整数を表わす。nが大きくなるほど副反応が多くなる可能性が高いため、純度の高いものを得るため、さらには入手のしやすさやの観点からnは1であることが特に好ましい。
Xは、水酸基、又は、炭素数1〜20のモノカルボン酸、水素酸、オキソ酸、無機チオ酸及び炭素数1〜20の有機チオ酸からなる群から選ばれる化合物の酸残基であって、窒素原子を含まない基を表す。
Xが窒素原子を含むと、加熱時におけるアセトアルデヒド及びアクロレインの発生抑制に効果的に働かない。
【0016】
式(1)において、R1は、入手のしやすさや製造のしやすさの観点から、炭素数1〜5のアルキル基または炭素数2〜4のヒドロキシアルキル基であることが好ましい。
【0017】
また、式(1)において、R2は、各々独立して、炭素数が2〜60、酸素数が2〜30である、以下の式で表される基を表す。
−(RO)k―H (ただし、Rは置換又は非置換のアルキル基を表し、kは2以上の自然数を表す。)
R2として、このような基を選択することにより、加熱溶融等の高温加熱を行った場合のポリアセタールからのホルムアルデヒド、アセトアルデヒド及びアクロレインの発生を抑制することができる。
炭素数が60を超えるまたは、酸素数が30を超えると、第4級アンモニウム化合物を単離生成するのに時間を要する可能性がある。
第4級アンモニウム化合物の合成の観点から、R2の炭素数は2〜10、酸素数は2〜5であることが好ましく、溶融加熱後の着色性の観点から、炭素数が2〜6、酸素数が2〜3であることがより好ましい。
【0018】
式(1)において、Xは、入手の容易さから、モノカルボン酸の酸残基であることが好ましい。中でも取扱い性の容易さから、蟻酸、酢酸及びプロピオン酸からなる群から選ばれる少なくとも一種の酸残基であることが好ましい。
【0019】
<ポリアセタール>
本実施形態の第4級アンモニウム化合物(A)が有効に作用するポリアセタールは、オキシメチレン基を主鎖に有する重合体であり、ホルムアルデヒド単量体又はその3量体(トリオキサン)や4量体(テトラオキサン)等のホルムアルデヒドの環状オリゴマーと、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、エピクロルヒドリン、1,3−ジオキソランや1,4−ブタンジオールホルマールなどのグリコールやジグリコールの環状ホルマール等の環状エーテル、環状ホルマールとを共重合させて得られたポリアセタールコポリマーを代表例としてあげることができる。また、単官能グリシジルエーテルを共重合させて得られる分岐を有するポリアセタールコポリマーや、多官能グリシジルエーテルを共重合させて得られる架橋構造を有するポリアセタールコポリマーも用いることができる。さらに、両末端または片末端に水酸基などの官能基を有する化合物、例えばポリアルキレングリコールの存在下、ホルムアルデヒド単量体又はホルムアルデヒドの環状オリゴマーを重合して得られるブロック成分を有するポリアセタールホモポリマーや、同じく両末端または片末端に水酸基などの官能基を有する化合物、例えば水素添加ポリブタジエングリコールの存在下、ホルムアルデヒド単量体又はその3量体(トリオキサン)や4量体(テトラオキサン)等のホルムアルデヒドの環状オリゴマーと環状エーテルや環状ホルマールとを共重合させて得られるブロック成分を有するポリアセタールコポリマーも用いることができる。
以上のように、本実施形態の第4級アンモニウム化合物(A)は、ポリアセタールホモポリマー、コポリマーいずれに対しても用いることが可能である。
【0020】
ところで、ポリアセタールは、一般に、熱的に不安定な末端部(−CH
2OH基や−(OCH
2)n−OH基等のヒドロキシメチル基を含む基)を含んでおり、そのため、加熱を施すと、ホルムアルデヒドや、場合によってはアセトアルデヒド、アクロレインを発生する。本実施形態においては、式(1)で表される第4級アンモニウム化合物(A)を利用して、加熱時にポリアセタールの不安定末端部を分解除去し、これによりホルムアルデヒド等の発生を抑制する。
特に、ポリアセタールコポリマーは不安定末端部を多く含むため、本実施形態の第4級アンモニウム化合物(A)は、ポリアセタールコポリマーに対して効果的に使用できる。
【0021】
そこで、以下に、ポリアセタールコポリマーについて詳述する。
ポリアセタールコポリマー中の1,3−ジオキソラン等のコモノマーの割合は、一般的にはトリオキサン1molに対して0.01〜60mol%、好ましくは0.03〜20mol%であり、更に好ましくは0.05〜15mol%、最も好ましくは0.1〜10mol%用いられる。
ポリアセタールコポリマーを重合する際に使用する重合触媒としては、特に限定はないが、ルイス酸、プロトン酸及びそのエステル又は無水物等のカチオン活性触媒が好ましい。
ルイス酸としては、例えば、ホウ酸、スズ、チタン、リン、ヒ素及びアンチモンのハロゲン化物が挙げられ、具体的には三フッ化ホウ素、四塩化スズ、四塩化チタン、五フッ化リン、五塩化リン、五フッ化アンチモン及びその錯化合物又は塩が挙げられる。また、プロトン酸、そのエステルまたは無水物の具体例としては、パークロル酸、トリフルオロメタンスルホン酸、パークロル酸−3級ブチルエステル、アセチルパークロラート、イソポリ酸類、ヘテロポリ酸類、トリメチルオキソニウムヘキサフルオロホスフェート等が挙げられる。中でも、三フッ化ホウ素;三フッ化ホウ素水和物;及び酸素原子又は硫黄原子を含む有機化合物と三フッ化ホウ素との配位錯化合物が好ましく、具体的には、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル、三フッ化ホウ素ジ−n−ブチルエーテルを好適例として挙げることができる。
ポリアセタールコポリマーの重合方法としては、特に限定されるものはなく、一般には塊状重合で行われ、バッチ式、連続式いずれも可能である。
重合装置としては、例えば、コニーダー、2軸スクリュー式連続押出混錬機、2軸パドル型連続混合機等のセルフクリーニング型押出混錬機が使用でき、溶融状態のモノマーが重合機に供給され、重合の進行とともに固体塊状のポリアセタールコポリマーが得られる。
【0022】
上述のような不安定末端基を有するポリアセタールは、本実施形態の第4級アンモニウム化合物(A)と共存させた組成物の形で使用すると、加熱処理によるホルムアルデヒド等の発生を低減できる。
この場合、ポリアセタール樹脂組成物中の、第4級アンモニウム化合物(A)の濃度は、下記式で表される第4級アンモニウム化合物(A)に由来する窒素の濃度nに換算して質量基準で0.1ppb以上30ppm以下であることが好ましい。
この範囲にあると、効率的にアクロレイン及びアセトアルデヒドの生成を抑制できる0.1ppb以上であると、効果的にアクロレインを抑制することができ、30ppm以下であると、アセトアルデヒドの発生、及び、ポリアセタール樹脂の黄変を効果的に抑制することができる。より好ましい範囲は、0.01ppm以上30ppm以下であり、さらに好ましくは1ppm〜20ppmであり、特に好ましくは5ppm〜15ppmである。
【0023】
上述の第4級アンモニウム化合物(A)の窒素換算含有量nは、下記式(2)で表わされる。
n=P×14/Q (2)
(式中、Pは、第4級アンモニウム化合物(A)の、ポリアセタール及び第4級アンモニウム化合物(A)の合計質量に対する量(質量ppb又はppm)を表し、14は窒素の原子量であり、Qは第4級アンモニウム化合物の分子量を表す。)
ここで、第4級アンモニウム化合物(A)の含有量を、窒素換算量で規定するのは、第4級アンモニウム化合物(A)の分子量によって樹脂組成物中に含まれる第4級化合物のモル数が大きく変わってしまうことを回避するためである。
【0024】
なお、ポリアセタール樹脂組成物中の第4級アンモニウム化合物(A)由来の窒素量は、例えば、以下のようにしてNMR解析により定量することができる。
15kgのポリアセタール樹脂組成物ペレットをリンレックスミル等で凍結粉砕した後、100Lの撹拌機付SUS製オートクレーブに入れ、50Lの蒸留水を入れる。その後、120℃に設定したオーブンの中に入れ、24時間放置後室温にし、吸引濾過により固体液分離する。得られた液体をエバポレーターにて濃縮し、5ml程度にまで濃縮した液2.5ml程度と重水を1:1(体積比)で混合した液をNMR解析を行い、3.5ppm付近と3.9ppm付近のピーク面積から、第4級アンモニウム化合物(A)由来の窒素量の定量を行う。
また、窒素源が第4級アンモニウム化合物(A)のみであることが明らかである場合には、窒素分析計(例えば、三菱アナリテック製窒素分析計TN−2100H)により窒素原子量を定量することによって定量することもできる。
【0025】
以上のとおり、不安定末端基を有するポリアセタールであっても、本実施形態の第4級アンモニウム化合物(A)を共存させた樹脂組成物の形で使用すれば、加熱処理によるホルムアルデヒド等の発生を低減できる。
また、ポリアセタールをこのような樹脂組成物の形態で使用するのではなく、本実施形態の第4級アンモニウム化合物(A)を用いて事前に安定化した形で(安定化ポリアセタールとして)製造することもできる。
【0026】
以下に、本実施形態の第4級アンモニウム化合物(A)を用いたポリアセタールの安定化方法を、具体例を挙げて説明する。
熱的に不安定な末端部を有するポリアセタールを本実施形態の第4級アンモニウム化合物(A)の存在下で熱処理を行うことにより安定化することができる。ここで、熱処理の態様に限定はないが、例えば、以下の2つを挙げることができる。
その1つは、第4級アンモニウム化合物(A)の存在下、粗ポリアセタールを加熱して溶融させるものであり、他の1つは、第4級アンモニウム化合物(A)の存在下、粗ポリアセタールをスラリー状態で加熱するものである。
【0027】
初めに、粗ポリアセタールを溶融させた状態で行う場合の熱処理について説明する。
粗ポリアセタールの溶融は、例えばベント付単軸スクリュー式押出機、ベント付2軸スクリュー式押出機等によって行うことができる。熱処理は、ポリアセタールの融点以上であって260℃以下である温度で行うことが好ましい。260℃を超えると、着色の問題、及びポリマー主鎖の分解(低分子量化)の問題が生ずる恐れがある。この場合、粗ポリアセタールを溶融する前に、第4級アンモニウム化合物(A)を粗ポリアセタールにあらかじめ添加してもよいし、また粗ポリアセタールを溶融させた後に、第4級アンモニウム化合物(A)を、溶融させた粗ポリアセタールに添加してもよい。
【0028】
溶融前の粗ポリアセタールに第4級アンモニウム化合物(A)をあらかじめ添加する方法としては、例えば、水又は第4級アンモニウム化合物(A)を溶解し得る有機溶剤、具体的には、低級脂肪族アルコール等(例えばメタノール)、に第4級アンモニウム化合物(A)を溶解させた溶液を、粗ポリアセタールに対して0.1〜5質量%添加した後に混合することを挙げることができる。この場合、その混合は、水平円筒型、V型、リボン型、パドル型、高速流動型等の一般的な固体混合機を用いて行ってもよい。また、第4級アンモニウム化合物(A)を含有した溶液を、ポリアセタールを押出機へ供給するシュート部分に直接添加するか、又は押出機の供給口からポリアセタールが溶融されるまでの間に押出機本体に直接添加してもよい。
【0029】
また、溶融前の粗ポリアセタールに第4級アンモニウム化合物(A)をあらかじめ添加する他の方法としては、例えば、第4級アンモニウム化合物(A)の、水又は前記有機溶剤(例えばメタノール等の低級脂肪族アルコール)の溶液中に、粗ポリアセタールを投入していったんスラリーとし、このスラリーを濾過、乾燥することにより第4級アンモニウム化合物(A)を、溶融前のポリアセタールに残留させるといった方法を挙げることができる。この場合、溶液に用いられる溶媒は、粗ポリアセタールを溶解しないものが好ましい。このような溶媒を用いることによって、濾過、乾燥等の後処理を容易に行うことが可能となる。
粗ポリアセタール及び第4級アンモニウム化合物(A)の合計質量に対する第4級アンモニウム化合物(A)の使用量は、前記溶液中の第4級アンモニウム化合物(A)の濃度及び濾過した後のポリアセタールの含液率を制御することによって特定の使用量となるよう制御できる。
以上の方法により、所定量の第4級アンモニウム化合物(A)が添加された粗ポリアセタールは、そのままで、又は必要に応じて乾燥された後、押出機等で溶融され、熱処理に供される。溶融時に、従来から公知の分解促進剤であるアミン類等、水及びメタノール等のうちの少なくとも1種を添加して安定化してもよいし、また、他に何も添加せずに熱処理に供してもよい。アミン類等、水、メタノール等の従来から用いられている分解促進剤の添加量は、ポリアセタール100質量部に対して0.1〜5質量部添加することが好ましい。また、必要に応じて、第4級アンモニウム化合物(A)を更に添加してもよい。これらの、アミン類、水、メタノール、第4級アンモニウム化合物(A)等の分解促進剤は、各々単独で、又は2種以上を組み合わせて添加することができる。
【0030】
一方、粗ポリアセタールを溶融させた後に、第4級アンモニウム化合物(A)を溶融状態の粗ポリアセタールに添加する方法としては、水又は第4級アンモニウム化合物(A)を溶解し得る有機溶剤、具体的には、低級脂肪族アルコール等(例えばメタノール)、に第4級アンモニウム化合物(A)を溶解させた溶液を添加することや、第4級アンモニウム化合物(A)と、水又は第4級アンモニウム化合物(A)を溶解し得る有機溶剤とを、各々別々に、押出機等で溶融したポリアセタールに添加することなどを挙げることができる。
水やメタノール等の有機溶剤の添加量は粗ポリアセタール100質量部に対して0.1〜5質量部程度であることが好ましい。また、第4級アンモニウム化合物(A)に加えて、従来から公知のアミン類、後述の第4級アンモニウム化合物(B)等を添加してもよい。
【0031】
本実施形態において、上記熱処理工程における第4級アンモニウム化合物(A)の使用量に限定はないが、下記式(2''')で表わされる第4級アンモニウム化合物(A)由来の窒素濃度n'''に換算して、0.1質量ppb〜30質量ppmであることが好ましく、より好ましくは0.01質量ppm〜25質量ppm、さらに好ましくは1質量ppm〜20質量ppmであり、特に好ましくは5ppm〜10ppmである。
n'''=P'''×14/Q''' (2''')
(式中、P'''は第4級アンモニウム化合物(A)の粗ポリアセタール及び第4級アンモニウム化合物(A)の合計質量に対する量(質量ppb又はppm)を表わし、14は窒素の原子量であり、Q'''は第4級アンモニウム化合物(A)の分子量を表す。)
第4級アンモニウム化合物(A)由来の窒素濃度n'''が0.1質量ppb以上であると、短時間で不安定な末端部を分解することができ、30質量ppm以下であると、安定化後もポリアセタールの色調が損なわれない。
ここで、第4級アンモニウム化合物(A)の濃度を窒素濃度に換算したもので表現したのは、前記と同様に第4級アンモニウム化合物(A)の分子量に依存することを回避するためである。
【0032】
次に、粗ポリアセタールが溶融していない、スラリー状態で行う場合の熱処理について説明する。
このような熱処理としては、例えば、ポリアセタールを溶解しない媒体中に第4級アンモニウム化合物(A)を溶解させた溶液中に、ポリアセタールを投入し、ポリアセタールが溶融していないスラリーの状態で加熱処理するプロセスを挙げることができる。
この場合、溶液に用いられる溶媒として粗ポリアセタールを溶解しないものを用いるのは、前述と同じように、このような溶媒を用いることによって、濾過、乾燥等の後処理を容易に行うことが可能となるからである。ポリアセタールを溶解しない媒体としては、例えば、水や、メタノールを10〜30質量%程度含有している水溶液等が挙げられる。
加熱温度に限定はないが、80℃以上であってポリアセタールの融点未満である温度で行うことが好ましい。
また、スラリー中のポリアセタールの濃度(スラリー濃度)は、通常5〜50質量%が選ばれる。スラリー濃度が5質量%未満であると、ポリアセタールを溶解しない媒体が多量に必要となり装置が大型化する。また、スラリー濃度が50質量%を超えると、攪拌混合が不十分になりポリアセタールが沈降しスラリーが二相分離するという問題が発生する。
【0033】
この際、ポリアセタールを溶解しない媒体中に第4級アンモニウム化合物(A)を溶解させた溶液中における第4級アンモニウム化合物(A)の濃度は、下記式(2")で表わされる第4級アンモニウム化合物(A)由来の窒素濃度n"に換算して、0.5質量ppb〜500質量ppmであることが好ましく、より好ましくは0.05質量ppm〜500質量ppm、さらに好ましくは1質量ppm〜300質量ppmである。
n"=P"×14/Q" (2")
(式中、P"は第4級アンモニウム化合物(A)の前記溶液中の濃度(質量ppb又はppm)を表わし、14は窒素の原子量であり、Q"は第4級アンモニウム化合物の分子量を表す。)
第4級アンモニウム化合物(A)由来の窒素濃度n"が0.5質量ppb以上であると、短時間で不安定な末端部の分解することができ、500質量ppm以下であると、安定化後もポリアセタールの色調が損なわれない。
ここで、第4級アンモニウム化合物(A)の濃度を窒素濃度に換算したもので表現したのは、前記と同様に第4級アンモニウム化合物(A)の分子量に依存することを回避するためである。
なお、ポリアセタールを溶解しない媒体中に第4級アンモニウム化合物(A)を溶解させた溶液には、従来から用いられているアミン類、後述の第4級アンモニウム化合物(B)等を併用してもよい。
【0034】
粗ポリアセタールを溶融させずにスラリー状態で安定化する場合においては、熱処理後のポリアセタールは、後処理として、濾過、洗浄により、その末端部から分解によって発生したホルムアルデヒドや未反応のモノマーを除去した後、乾燥される。また、溶融状態で安定化する場合においては、熱処理後のポリアセタールは、前述のホルムアルデヒド、未反応モノマー、過剰な第4級アンモニウム化合物(A)等をベントより減圧下で除去した後、ペレタイズされる。
得られた安定なポリアセタールは、必要に応じて酸化防止剤、ホルムアルデヒド捕捉剤、蟻酸捕捉剤、紫外線吸収剤、光安定剤、離型剤、補強材、電材、熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー、顔料等の配合剤の一種以上と押出機等で混合された後実用に供される。配合剤の配合時期については特に制限はなく、その種類によって、例えば、不安定な末端部が分解除去される前の粗ポリアセタールにあらかじめ添加しておいてもよく、また、不安定な末端部が分解除去されたポリアセタールに添加してもよい。
【0035】
次に、本実施形態の第4級アンモニウム化合物(A)により安定化できるポリアセタールに含まれる末端基について述べる。
ポリアセタールを構成する複数のポリアセタール(共)重合体鎖が全体として有する末端基としては、上述の−CH
2OH基や−(OCH
2)
n−OH基等のヒドロキシメチル基を含む基以外に、メトキシル基(−OCH
3)等のアルコキシル基、ヒドロキシエチル基(−CH
2CH
2OH)等のヒドロキシアルキル基、及びホルメート基が挙げられる。
末端アルコキシル基は、一般に、重合段階で添加される分子量調整剤であるホルマールにより形成される。例えば、メチラール((CH
3O)
2CH
2)が分子量調整剤として用いられた場合は、末端基としてメトキシル基が形成される。末端アルコキシル基の炭素数は、分子量調整剤であるホルマールの合成及び精製面から、炭素数1〜10であることが一般的であり、炭素数1〜3であることが好ましい。
【0036】
ヒドロキシエチル基やヒドロキシブチル基のような末端ヒドロキシアルキル基は、ポリアセタールの原料コモノマーとして用いられる前述の記環状エーテル又は環状ホルマールに由来し、以下のような過程で形成される。
即ち、環状エーテル又は環状ホルマールに由来するオキシアルキレン基がポリアセタール単位の繰返し中に挿入されたポリアセタールを重合する際には、まず、原料中の微量な水等により、熱的に不安定な末端ヒドロキシメチル基(−CH
2OH)が生成する。この末端の不安定部分が安定化処理によって分解し、この分解が、ポリアセタール単位及びオキシアルキレン単位を含む主鎖中を内へ向かって進行し、オキシアルキレン単位の部位に到達すると、その部位のオキシアルキレン単位はヒドロキシエチル基やヒドロキシブチル基等の安定な末端ヒドロキシアルキル基に変わる。ヒドロキシアルキル基の炭素数は、少なくとも2個であり、2〜10個であることが環状エーテル及び環状ホルマールの合成及び精製面から好ましい。
一方、ポリアセタールに末端基としてヒドロキシメチル基が存在すると、成形時の加熱によりヒドロキシメチル基が末端から脱離しホルムアルデヒドを生成する。そのため末端ヒドロキシメチル基多く存在すると、生成するホルムアルデヒドが過剰になる。
この生成を抑制する役割を担うのが、本実施形態の第4級アンモニウム化合物(A)であり、この末端ヒドロキシメチル基が第4級アンモニウム化合物(A)の作用によって分解除去され、これによりホルムアルデヒドの生成が抑制されると考えられる。
さらに、本実施形態の第4級アンモニウム化合物(A)は、上述の末端ヒドロキシメチル基の分解除去に加え、ポリアセタール中に除去されずに残った微量な不安定末端由来から発生した微量のホルムアルデヒド、アセトアルデヒド及びアクロレインを、成型等の加熱溶融後の冷却時にアニオン重合によりポリマー化し、ポリアセタール樹脂組成物に固定化することにも関与し、これによってホルムアルデヒド、アセトアルデヒド及びアクロレイン等の発生を低減していると考えられる
ただし、本実施形態の効果の機序はこれらに限定されない。
【0037】
本実施形態の第4級アンモニウム化合物(A)を用いたポリアセタールの安定化方法は、前記の重合反応によって得られた粗ポリアセタール中に残留している重合触媒を失活させた後に行ってもよいし、また、重合触媒を失活させずに行ってもよい。更に、本実施形態の第4級アンモニウム化合物(A)を用いた安定化方法は、公知の安定化処理を受けたが未だ不安定な末端部の残留しているポリアセタールにも適用可能である。
【0038】
重合触媒の失活は、重合反応によって得られた粗ポリアセタールを、アンモニア、トリエチルアミン、トリ−n−ブチルアミン等のアミン類、又はアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の水酸化物、無機酸塩、有機酸塩等の触媒中和失活剤の少なくとも一種を含む水溶液または有機溶剤溶液中に投入し、スラリー状態で一般的には数分〜数時間撹拌することにより行うことができる。この場合、触媒中和失活後のスラリーは濾過、洗浄により、未反応モノマーや触媒中和失活剤、触媒中和塩が除去された後、乾燥される。
また、アンモニア、トリエチルアミン等の蒸気と粗ポリアセタールとを接触させて重合触媒を失活させる方法や、ヒンダードアミン類、トリフェニルホスフィン及び水酸化カルシウム等のうちの少なくとも一種と粗ポリアセタールとを混合機で接触させて触媒を失活させる方法も用いることができる。また、重合触媒の失活を行わずに、粗ポリアセタールの融点以下の温度で、不活性ガス雰囲気下において加熱することによって、重合触媒が揮発低減されたポリアセタールを用いて上述の安定化方法を行ってもよい。
以上の重合触媒の失活操作及び重合触媒の揮発低減操作は、必要に応じて、重合反応によって得られた粗ポリアセタールを粉砕した後で行ってもよい。
【0039】
本実施形態の第4級アンモニウム化合物(A)は、前記式(1)で表わされるものであり、式(1)で表されるものであれば、いずれも上述の安定化方法に使用できる。
【0040】
本実施形態の第4級アンモニウム化合物(A)の具体例としては、例えば、1−ヒドロキシメトキシ−N−((ヒドロキシメトキシ)メチル)−N,N−ジメチルメタンアンモニウム、2−(2−ヒドロキシエトキシ)−N−(2−(2−ヒドロキエトキシ)エチル)−N,N−ジメチルエタンー1−アンモニウム、N−エチルーN、N−ビス((ヒドロ木メトキシ)メチル)エタンアンモニウム、2−(2−ヒドロキシエトキシ)−N−(2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチル)−N,N−ジメチルエタンー1−アンモニウムN,N,N−トリエチルー2−(2−(2−ヒドロキシ)エトキシ)エタンー1−アンモニウム、N−(2−(2−(ヒドロキシメトキシ)エトキシ)エチル)−N,N−ジプロピルプロパンー1−アンモニウム、N−(((ヒドロキシメトキシ)メトキシ)メチル)−N,N−ジプロピルプロパンー1−アンモニウム、N−(2−(2−(2−ヒドロキシエトキシ)エトキシ)エチル)−N,N−ジプロピルプロパンー1−アンモニウム等の、水酸化物;塩酸、臭酸、フッ酸などの水素酸塩;硫酸、硝酸燐酸、炭酸、硼酸、塩素酸、よう素酸、珪酸、過塩素酸、亜塩素酸、次亜塩素酸、クロロ硫酸、アミド硫酸、二硫酸、トリポリ燐酸などのオキソ酸塩;チオ硫酸などのチオ酸塩;蟻酸、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、イソ酪酸、ペンタン酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、安息香酸などのモノカルボン酸塩等が挙げられる。
これらのうち、水酸化物は強アルカリであり取り扱いに注意することが必要であるため、塩の形で使用することが好ましく、特にモノカルボン酸塩が好ましい。
【0041】
また、本実施形態の第4級アンモニウム化合物(A)を用いてポリアセタールを安定化するにあたり、下記式(3)で表される第4級アンモニウム化合物(B)を併用してもよい。
[R3R4R5R6N+]
lY
l- (3)
(式中、R3、R4、R5、R6は、各々独立して、炭素数1〜30の非置換アルキル基または置換アルキル基;炭素数6〜20のアリール基;炭素数1〜30の非置換アルキル基または置換アルキル基が少なくとも1個の炭素数6〜20のアリール基で置換されたアラルキル基;又は炭素数6〜20のアリール基が少なくとも1個の炭素数1〜30の非置換アルキル基または置換アルキル基で置換されたアルキルアリール基を表わし、非置換アルキル基及び置換アルキル基は、直鎖状、分岐状、または環状であり、置換アルキル基の置換基は、ハロゲン、水酸基、アルデヒド基、カルボキシル基、アミノ基、又はアミド基であり、非置換アルキル基、アリール基、アラルキル基、及び、アルキルアリール基は、水素原子がハロゲンで置換されていてもよい。
lは、1〜3の整数を表わす。
Yは、水酸基、又は、炭素数1〜20のカルボン酸、水素酸、オキソ酸、無機チオ酸及び炭素数1〜20の有機チオ酸からなる群から選ばれる化合物の酸残基を表わす。
【0042】
このような第4級アンモニウム化合物(B)としては、例えば、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラプロピルアンモニウム、テトラ−n−ブチルアンモニウム、セチルトリメチルアンモニウム、テトラデシルトリメチルアンモニウム、1,6−ヘキサメチレンビス(トリメチルアンモニウム)、デカメチレン−ビス−(トリメチルアンモニウム)、トリメチル−3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルアンモニウム、トリメチル(2−ヒドロキシエチル)アンモニウム、トリエチル(2−ヒドロキシエチル)アンモニウム、トリプロピル(2−ヒドロキシエチル)アンモニウム、トリ−n−ブチル(2−ヒドロキシエチル)アンモニウム、トリメチルベンジルアンモニウム、トリエチルベンジルアンモニウム、トリプロピルベンジルアンモニウム、トリ−n−ブチルベンジルアンモニウム、トリメチルフェニルアンモニウム、トリエチルフェニルアンモニウム、トリメチル−2−オキシエチルアンモニウム、モノメチルトリヒドロキシエチルアンモニウム、モノエチルトリヒドロキシエチルアンモニウム、オクタデシルトリ(2−ヒドロキシエチル)アンモニウム、テトラキス(ヒドロキシエチル)アンモニウム等の、水酸化物;塩酸、臭酸、フッ酸などの水素酸塩;硫酸、硝酸燐酸、炭酸、硼酸、塩素酸、よう素酸、珪酸、過塩素酸、亜塩素酸、次亜塩素酸、クロロ硫酸、アミド硫酸、二硫酸、トリポリ燐酸などのオキソ酸塩;チオ硫酸などのチオ酸塩;蟻酸、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、イソ酪酸、ペンタン酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、安息香酸、シュウ酸などのカルボン酸塩等が挙げられる。これらのうち、水酸化物は強アルカリであり取り扱いに注意することが必要であるため、塩の形で使用することが好ましく、特にカルボン酸塩が好ましい。
上述の安定化方法においては、第4級アンモニウム化合物(A)と共に、上記第4級アンモニウム化合物(B)を各々単独で、又は、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0043】
上述のポリアセタールの安定化方法は、従来から公知の装置や操作方法を適宜用いて行うことができる。また、さらに、従来から公知のアンモニアやトリエチルアミン等のアミン類等を併用してもよい。
【0044】
上述の安定化方法において、第4級アンモニウム化合物(B)の使用量は、ポリアセタール及び第4級アンモニウム化合物の合計質量に対する、下記式(2')で表わされる第4級アンモニウム化合物(B)由来の窒素の量n'に換算して、好ましくは0.5質量ppb〜500質量ppm、より好ましくは0.05〜50質量ppmである。
n'=P'×14/Q' (2')
(式中、P'は第4級アンモニウム化合物(B)のポリアセタール及び第4級アンモニウム化合物(B)の合計質量に対する量(質量ppb又はppm)を表し、14は窒素の原子量であり、Q'は第4級アンモニウム化合物(B)の分子量を表す。)
第4級アンモニウム化合物(B)の使用量n'が0.5質量ppb以上であると、第4級アンモニウム化合物(B)の併用によるポリアセタールの不安定な末端部の分解速度が向上する。また、500質量ppm以下であると安定化後もポリアセタールの色調が損なわれない。
ここで、第4級アンモニウム化合物(B)の使用量を窒素換算量で規定するのは、第4級アンモニウム化合物(B)の分子量によってポリアセタールに対する第4級アンモニウム化合物(B)のモル数が変わってしまうことを回避するためである。
【0045】
本実施形態の第4級アンモニウム化合物(A)はさらに、特定の金属原子を共存させて使用することが好ましい。
本実施形態において、第4級アンモニウム化合物(A)を、特定の金属原子と共存させると、不安定末端の安定化を実施した後のポリアセタールのアクロレイン発生量の低減効果が向上する。このような金属原子としては、マグネシウム、ナトリウム、カルシウムが挙げられる。さらに、マグネシウム、ナトリウム、カルシウムが共存していると、第4級アンモニウム化合物(A)を濃縮する際の着色を抑制することも可能となる。
金属原子は、第4級アンモニウム化合物(A)(第4級アンモニウム化合物(B)を併用する場合は両者の合計)に対し、0.001ppm以上存在させることが好ましい。もっとも、金属原子は一般的に沸点が高く、除去が容易ではないため、10ppm以下であることが好ましい。10ppmを超えて含まれている場合は、ポリアセタールの熱安定性が低下するおそれもある。
一方で、第4級アンモニウム化合物(A)を、カリウム原子と共存させると第4級アンモニウム化合物(A)を濃縮する際の着色は悪化する可能性がある。
【0046】
本実施形態において、第4級アンモニウム化合物(A)は、特に、水に溶解した状態で用いることが好ましい。
粗ポリアセタールの安定化の際に第4級アンモニウム化合物(A)の水溶液を用いると、ホルムアルデヒドは水と共沸することから、ポリアセタールから発生するホルムアルデヒドの除去を促進することができる。
また、第4級アンモニウム化合物(A)を水溶液として用いる場合には、その製造の際に、水を絶乾させる工程を設ける必要がなく、そのための熱エネルギーを節約することができ、また、第4級アンモニウム化合物(A)の変質・変色を防ぐことができる。
【0047】
上述のとおり、本実施形態の第4級アンモニウム化合物(A)は、ポリアセタールからの揮発性有機化合物発生抑制剤として用いることができる。
本実施形態のポリアセタールからの揮発性有機化合物発生抑制剤は、さらに、上述の式(3)で表される第4級アンモニウム化合物(B)、マグネシウム、ナトリウム及びカルシウムからなる群から選ばれる少なくとも一つの金属原子、溶媒、並びに、任意の添加剤を含有することができる。
また、本実施形態のポリアセタールからの揮発性有機化合物発生抑制剤の剤形に限定はなく、例えば、固体(粉末状)であってもよいし、任意の溶媒(水等)も第4級アンモニウム化合物(A)を溶解させた溶液であってもよい。
【実施例】
【0048】
以下、本発明について、具体的な実施例と、これとの比較例を挙げて説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0049】
<ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド及びアクロレインの定量>
1.ペレット(加熱溶融前)の場合
バルブを有する10Lのテドラー(登録商標)バッグに、ポリアセタール樹脂組成物ペレットを20.00g入れ密封し、窒素置換を十分に行った。その後、内部の窒素を全て排出した後に、該テドラー(登録商標)バッグ中に窒素を5.00L封入した。これを2つ用意した。
その後、内部の上部に、外部に連通したサンプリング口を2つ有するオーブン中に前記テドラー(登録商標)バッグを入れ、前記テドラー(登録商標)バッグをサンプリング口に接続後、90℃で2時間放置した。
その後、1つのテドラー(登録商標)バッグと接続したサンプリング口の外部側にDNPH(2,4−ジニトロフェニルヒドラジン)カートリッジを接続し、テドラー(登録商標)バッグのバルブを開き、ポリアセタール組成物から発生したガス4.00Lを、DNPHカートリッジに通過させた。
DNPHカートリッジに一定速度で5mLのアセトニトリルを通液し、ホルムアルデヒド及びアセトアルデヒドを10mLメスフラスコに回収した。
その後、水により10mLまでメスアップし、十分に混合した。
この混合液をバイアル瓶に分注し、島津製作所製HPLCを用い、標準液にDNPH標準液を用い、分離液には水/アセトニトリル(52/48)を用い、流量1mL/分、カラム温度40℃にて定量し、ポリアセタール樹脂組成物ペレットの質量当たりに発生したホルムアルデヒド及びアセトアルデヒドをppmで測定した。
測定上限は15ppm以下であり、測定上限を超えたものについてはO.D.(測定不可)とし、0.01ppmを下回る場合はN.D.とした。
【0050】
残る1つのテドラー(登録商標)バッグと接続したサンプリング口の外部側にCNET(O−(4−シアノ−2−エトキシベンジル)ヒドロキシルアミン)カートリッジを接続し、テドラー(登録商標)バッグのバルブを開き、ポリアセタール組成物から発生したガス4.00Lを、CNETカートリッジに通過させた。
CNETカートリッジに一定速度で5mLのアセトニトリルを通液し、アクロレインを10mLメスフラスコに回収した。
その後、水により10mLまでメスアップし、十分に混合した。
この混合液をバイアル瓶に分注し、島津製作所製HPLCを用い、標準液にCNET標準液を用い、分離液には水/アセトニトリル(40/60)を用い、流量1mL/分、カラム温度40℃にて定量し、ポリアセタール樹脂組成物ペレットの質量当たりに発生したアクロレインをppbで測定した。
測定上限は30ppb以下であるが、20ppbを超えたものはO.D.とし、1.0ppbを下回る場合はN.D.とした。
【0051】
2.成型片(加熱溶融後)の場合
東芝(株)製IS−100GN射出成形機を用いて、ポリアセタール樹脂組成物ペレットから、シリンダー温度200℃、射出圧力60MPa、射出時間15秒、冷却時間20秒、金型温度80℃にて、組成物を加熱溶融して、寸法130mm×110mm×3mmの平板状の成型片を作製した。
23℃で50%の湿度に保たれた恒温室で、24時間放置後、アルミ袋に入れ、パッキングをした。成型後14日に開封し、バルブを有する10Lテドラー(登録商標)バッグに、この成型片を1枚入れ密封し、窒素置換を十分に行った。その後、内部の窒素を全て排出した後に、テドラー(登録商標)バッグ中に窒素を5.00L封入した。これを2つ用意した。
その後、内部の上部に、外部に連通したサンプリング口を有するオーブン中にテドラー(登録商標)バッグを入れ、該テドラー(登録商標)バッグをサンプリング口に接続後、80℃で2時間放置した。
以降はペレットの場合と同様にして、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド及びアクロレインを定量した。
【0052】
<ポリアセタールの色調特性>
東芝(株)製IS−100GN射出成形機を用いて、ポリアセタール樹脂組成物ペレットから、シリンダー温度200℃、射出圧力60MPa、射出時間15秒、冷却時間20秒、金型温度80℃にて、寸法130mm×110mm×3mmの平板状の試験片を作製した。
この試験片を、ミノルタ製ハンディカラーテスター(CR−200)を用いて、試験片を2枚重ねて、D65の光源にて黄度(b値)を測定した。
b値が−0.8以下の値であればおおむね良しとし、b値が−1.6以下の値であれば良しと判断した。
【0053】
<第4級アンモニウム化合物の色調評価>
第4級アンモニウム化合物(A)の水溶液を、直径10cm、高さ1cmのアルミ製容器に10cc測りとり、150℃に設定したホットプレートの上にアルミ製容器を置き、水分がなくなると同時に、さらに10cc測りとり追添した。その後、水分がなくなると同時にアルミ製容器底の残渣の色を目視確認し、色を評価した。
褐色に近いものを×、淡黄色〜無色に近いものを○、その中間を△とした。
これを、製造例1、7、8、及び、12〜19で得られた第4級アンモニウム化合物(A)の水溶液に対し実施した。
【0054】
<粗ポリアセタールの製造方法>
熱媒を通すことのできるジャケット付き2軸パドル型連続重合反応機(栗本鐵工所製、径2B(2インチ)、L(重合反応機の原料供給口から排出口までの距離)/D(重合反応機の内径)=14.8)を80℃に調整した。
次いで、重合触媒として三フッ化ホウ素−ジ−n−ブチルエーテラートを0.20g/hr、低分子量アセタールとしてメチラールを1.53g/hr、シクロヘキサン6.50g/hr、環状エーテル及び/又は環状ホルマールとして1,3−ジオキソランを120.9g/hr、トリオキサンを3500g/hrを配管にて重合反応機に連続的に供給し重合を行い、粗ポリアセタール共重合体(P−1)を得た。
この粗ポリアセタール共重合体(P−1)をトリエチルアミン0.1質量%水溶液中に投入し触媒の失活を行った。その後、濾過・洗浄後120℃で乾燥し、粗ポリアセタール共重合体(P−2)を得た。
【0055】
<式(1)で表される第4級アンモニウム化合物(A)の製造>
以下の製造例1〜11で用いた水はすべて脱イオン水を用いた。
〔製造例1〕
密閉可能な内容積60mlの耐圧容器に、2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチルアセテート14.1g、トリメチルアミン5.6g、メタノール15.0g、水0.1gを導入し、振とう機にて撹拌しながら、120℃に加熱した。その後6時間反応させた後、冷却し内容物を得た。内容物の分析を行った結果、収率95%で2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチル−N,N,N−トリメチルエタン−1−アンモニウムアセテートが得られた。
この溶液30gに水15gを入れた後、80℃のエバポレーターにて30gになるまで濃縮し、水を入れて60gにする。再度、30gになるまで濃縮し、次いで水を入れて60gにする。この操作を10回繰り返し、15gになるまで濃縮した後、水を入れて80gにした。この液をA−1とした。
NMRによって確認されたA−1液中の第4級アンモニウム化合物(A)の構造式(R1、R2及びX)は表1に示す通りであり、その濃度は約20質量%であった。
【0056】
〔製造例2〕
2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチルアセテート14.1gの代わりに、2−(2−(2−ヒドロキシエトキシ)エトキシ)エチルアセテート18.2gを使用した以外は実施例1と同様に実施した。この液をA−2とした。
NMRによって確認されたA−2液中の第4級アンモニウム化合物(A)の構造式(R1、R2及びX)は表1に示す通りであり、その濃度は約22質量%であった。
〔製造例3〕
トリメチルアミン5.6gの代わりに、トリエチルアミン7.8gを用い、2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチルアセテートを11.4g用いた以外は、製造例1と同様に実施した。この液をA−3とした。
NMRによって確認されたA−3液中の第4級アンモニウム化合物(A)の構造式(R1、R2及びX)は表1に示す通りであり、その濃度は約20質量%であった。
〔製造例4〕
トリメチルアミン5.6gの代わりに、トリエチルアミン7.8gを用い、2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチルアセテートの代わりに、2−(2−(2−ヒドロキシエトキシ)エトキシ)エチルアセテート14.8gを用いた以外は製造例1と同様に実施した。この液をA−4とした。
NMRによって確認されたA−4液中の第4級アンモニウム化合物(A)の構造式(R1、R2及びX)は表1に示す通りであり、その濃度は約21質量%であった。
〔製造例5〕
トリメチルアミン5.6gの代わりに、2−[2−(ジメチルアミノ)エトキシ]エタノール9.4gを用い、2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチルアセテートを10.5gを用いた以外は製造例1と同様に実施した。この液をA−5とした。
NMRによって確認されたA−5液中の第4級アンモニウム化合物(A)の構造式(R1、R2及びX)は表1に示す通りであり、その濃度は約20質量%であった。
【0057】
〔製造例6〕
10mlのマイクロウェーブリアクションチューブにトリメチルアミン5.0gと2−(2−クロロエトキシ)エタノール2.63gを入れ、マイクロウェーブを照射しながら150℃で1時間撹拌した。反応終了後、反応液を減圧乾燥して粉末結晶を得た。反応終了後の反応液をHPLCにより分析した結果、反応率が100%であることが確認された。得られた粉末結晶にジクロロエタンを加え撹拌した後、結晶を濾過した。この操作を3回繰り返し、減圧乾燥して粉末結晶を2.58g得た。
この粉末を40℃の水酸化ナトリウムの100gを溶解した1kgエタノール溶液を5.62g添加し、塩化ナトリウムをろ別してろ液を採取した。このろ液にギ酸/水=10/90(質量比)からなるギ酸水溶液を6.46g添加した後、エバポレーターにより5gになるまで濃縮し、水を10g添加した。
濃縮と水10gの添加を3回繰り返した後、最終的に15gになったものをA−6とした。
NMRによって確認されたA−6液中の第4級アンモニウム化合物(A)の構造式(R1、R2及びX)は表1に示す通りであり、その濃度は約17質量%であった。
【0058】
〔製造例7〕
トリメチルアミンを4.5g、2−(2−クロロエトキシ)エタノールのかわりに2−[2−(2−クロロエトキシ)エトキシ]エタノール3.21gを用いた以外は、製造例6と同様に実施し、粉末結晶を3.10g得た。
この粉末に製造例6で用いた水酸化ナトリウムのエタノール溶液5.44gと、ギ酸水溶液6.26gを用いて、製造例6と同様に塩化ナトリウムのろ別と濃縮を行い、最終的15gになったものをA−7とした。
NMRによって確認されたA−7液中の第4級アンモニウム化合物(A)の構造式(R1、R2及びX)は表1に示す通りであり、その濃度は約20質量%であった。
〔製造例8〕
トリメチルアミンのかわりにトリエチルアミンを5.8g、2−(2−クロロエトキシ)エタノール1.79gを用いた以外は、製造例6と同様に実施し、粉末結晶を1.76g得た。
この粉末に製造例6で用いた水酸化ナトリウムのエタノール溶液3.11gと、ギ酸水溶液3.58gを用い製造例6と同様に塩化ナトリウムのろ別と濃縮を行い、最終的15gになったものをA−8とした。
NMRによって確認されたA−8液中の第4級アンモニウム化合物(A)の構造式(R1、R2及びX)は表1に示す通りであり、その濃度は約12質量%であった。
〔製造例9〕
トリメチルアミンのかわりにトリエチルアミンを5.4g、2−(2−クロロエトキシ)エタノールのかわりに2−[2−(2−クロロエトキシ)エトキシ]エタノール2.25gを用いた以外は、製造例6と同様に実施し、粉末結晶を2.18g得た。
この粉末に製造例6で用いた水酸化ナトリウムのエタノール溶液3.24gと、ギ酸水溶液3.72gを用い製造例6と同様に塩化ナトリウムのろ別と濃縮を行い、最終的15gになったものをA−9とした。
NMRによって確認されたA−9液中の第4級アンモニウム化合物(A)の構造式(R1、R2及びX)は表1に示す通りであり、その濃度は約14質量%であった。
〔製造例10〕
トリメチルアミンを4.0g、2−(2−クロロエトキシ)エタノールのかわりに2−[2−[2−(2−クロロエトキシ)エトキシ]エトキシ]エタノール3.60gを用いた以外は、製造例6と同様に実施し、粉末結晶を3.41g得た。
この粉末に製造例6で用いた水酸化ナトリウムのエタノール溶液5.02gと、ギ酸水溶液5.77gを用い製造例6と同様に塩化ナトリウムのろ別と濃縮を行い、最終的15gになったものをA−10とした。
NMRによって確認されたA−10液中の第4級アンモニウム化合物(A)の構造式(R1、R2及びX)は表1に示す通りであり、その濃度は約22質量%であった。
〔製造例11〕
トリメチルアミンの代わりにトリエチルアミンを5.0g、2−(2−クロロエトキシ)エタノールのかわりに2−[2−[2−(2−クロロエトキシ)エトキシ]エトキシ]エタノール2.63gを用いた以外は、製造例6と同様に実施し、粉末結晶を2.50g得た。
この粉末に製造例6で用いた水酸化ナトリウムのエタノール溶液3.19gと、ギ酸水溶液3.67gを用い製造例6と同様に塩化ナトリウムのろ別と濃縮を行い、最終的15gになったものをA−11とした。
NMRによって確認されたA−11液中の第4級アンモニウム化合物(A)の構造式(R1、R2及びX)は表1に示す通りであり、その濃度は約16質量%であった。
【0059】
〔製造例12〕
製造例1で得られた水溶液A−1に、第4級アンモニウム化合物に対して0.05質量ppmの水酸化マグネシウムを添加した。これをA−12とした。
〔製造例13〕
製造例1で得られた水溶液A−1に、第4級アンモニウム化合物に対して0.1質量ppmの水酸化マグネシウムを添加した。これをA−13とした。
〔製造例14〕
製造例1で得られた水溶液A−1に、第4級アンモニウム化合物に対して0.7質量ppmの水酸化マグネシウムを添加した。これをA−14とした。
〔製造例15〕
製造例1で得られた水溶液A−1に、第4級アンモニウム化合物に対して0.4質量ppmの水酸化ナトリウムを添加した。これをA−15とした。
〔製造例16〕
製造例1で得られた水溶液A−1に、第4級アンモニウム化合物に対して1.6質量ppmの水酸化マグネシウムを添加した。これをA−16とした。
〔製造例17〕
製造例1で得られた水溶液A−1に、第4級アンモニウム化合物に対して0.28質量ppmの水酸化カルシウムを添加した。これをA−17とした。
〔製造例18〕
製造例7で得られた水溶液A−7に、第4級アンモニウム化合物に対して0.28質量ppmの水酸化マグネシウムを添加した。これをA−18とした。
〔製造例19〕
製造例8で得られた水溶液A−8に、第4級アンモニウム化合物に対して10.0質量ppmの水酸化ナトリウムを添加した。これをA−19とした。
〔製造例20〕
製造例1で得られた水溶液A−1に、第4級アンモニウム化合物に対して8.0質量ppmの水酸化カリウムを添加した。これをA−20とした。
【0060】
【表1】
【0061】
<式(3)で表される第4級アンモニウム化合物(B)>
B−1:コリン酢酸塩(アルドリッチ製)
B−2:水酸化コリン(多摩化学工業製)
を使用した。
【0062】
〔実施例1〜29〕
粗ポリアセタール共重合体(P−1)をトリエチルアミン0.5%水溶液中に投入し重合触媒の失活を行った。その後、濾過・洗浄し、粗ポリアセタール共重合体(P−1)100質量部に対して各製造例で作製した第4級アンモニウム化合物(A)の溶液を窒素濃度nが表2に示すようになる量添加し、均一に混合した後130℃で乾燥した。
得られた第4級アンモニウム化合物(A)を含有した粗ポリアセタール共重合体組成物100質量部に対して、酸化防止剤として2,2'−メチレンビス−(4−メチル−t−ブチルフェノール)を0.2質量部添加し、ベント付き2軸スクリュー式押出機に供給した。
押出機中の溶融している粗ポリアセタール共重合体組成物に必要に応じて水を添加し、押出機の設定温度210℃、押出機における滞留時間5分で粗ポリアセタール共重合体の不安定末端部の分解を行った。不安定末端部の分解されたポリアセタール共重合体をベント真空度20Torrの条件下で脱揮し、押出機ダイス部よりストランドとして押出しペレタイズした。
用いた第4級アンモニウム化合物(A)の種類、及び、ポリアセタール共重合体及び第4級アンモニウム化合物(A)の合計質量に対する第4級アンモニウム化合物(A)の使用量(含有量)(第4級アンモニウム化合物(A)由来の窒素濃度n)、押出機に添加した水、トリエチルアミンの粗ポリアセタール共重合体組成物100質量部に対する添加量、ホルムアルデヒド(FA)、アセトアルデヒド(AA)及びアクロレイン(AL)の量、並びに、色調、を表2にまとめて示す。
【0063】
〔比較例1〜3〕
第4級アンモニウム化合物(A)を用いなかったことと、(B)の使用量を変更した以外は実施例16と同様に実施した。結果を表3にまとめて示す。
〔比較例4、5〕
第4級アンモニウム化合物(A)を用いなかったことと、(B)の使用量を変更した以外は実施例17と同様に実施した。結果を表3にまとめて示す。
[比較例6]
第4級アンモニウム化合物(A)を用いず、水/トリエチルアミンの添加量を変更した以外は、実施例1と同様に実施した。結果を表3にまとめて示す。
〔比較例7〕 第4級アンモニウム化合物(A)の代わりにエチレンジアミンテトラ酢酸のテトラキス[(2−ヒドロキシエチル)トリメチルアンモニウム]塩(D−1)を用い、水/トリエチルアミンの添加量を変更した以外は、実施例1と同様に実施した。結果を表3にまとめて示す。
【0064】
〔比較例8〕
エチレンジアミンテトラ酢酸のテトラキス[(2−ヒドロキシエチル)トリメチルアンモニウム]塩(D−1)の代わりに、ポリアクリル酸の(2−ヒドロキシエチル)トリメチルアンモニウム塩(アクリル酸ユニットの等モル塩、ポリアクリル酸の数平均分子量=7000)(D−2)を用いた以外は、比較例7と同様に実施した。結果を表3にまとめて示す。
【0065】
【表2】
【0066】
【表3】
【0067】
表2に示すように、実施例1〜28においては、加熱溶融加工前後(ペレット、成形片)ともに、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド及びアクロレインの発生が抑制されたポリアセタールを得ることができ、色調にも優れるものが得られた。
実施例4、14、15及び20においては、若干b値が高くなったが、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド及びアクロレインの発生が抑制されたポリアセタール樹脂組成物が得られた。なお、実施例4においてb値が若干高くなった理由は使用した第4級アンモニウム化合物(A)の量が多かったためと推測され、また、実施例14、15及び20においてb値が若干高くなった理由は、使用した第4級アンモニウム化合物(A)におけるR2が長いため、安定化処理後もポリアセタール樹脂組成物中に第4級アンモニウム化合物(B)が残存しやすく、これが加熱溶融時に着色したためと推測される。第4級アンモニウム化合物(A)にマグネシウム、カルシウム又はナトリウムを共存させた実施例21〜28では、より色調に優れるポリアセタールが得られた。これに対して、第4級アンモニウム化合物(A)にカリウムを共存させた実施例29においては、加熱溶融加工後に僅かに色調低下が見られた
【0068】
表3に示すように、第4級アンモニウム化合物(A)を使用せず、第4級アンモニウム化合物(B)のみを使用した比較例1〜5では、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド及びアクロレインの発生が抑制されたポリアセタールペレットを得ることができたが、加熱溶融時のホルムアルデヒド、アセトアルデヒド及びアクロレインの発生を抑制することが十分にできなかった。
第4級アンモニウム化合物を一切使用しなかった比較例6では、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド及びアクロレインの発生が抑制されたポリアセタールを得ることもできなかった。
また、第4級アンモニウム化合物(A)の代わりに、式(1)のXに相当する基に窒素原子を含む第4級アンモニウム化合物(D−1)、(D−2)を用いた比較例7、8では、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド及びアクロレインの発生を抑制することが十分にできなかった。