特許第6383493号(P6383493)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許63834932−メトキシメチル−p−フェニレンジアミンのテレスコーピング合成
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6383493
(24)【登録日】2018年8月10日
(45)【発行日】2018年8月29日
(54)【発明の名称】2−メトキシメチル−p−フェニレンジアミンのテレスコーピング合成
(51)【国際特許分類】
   C07C 213/02 20060101AFI20180820BHJP
   C07C 217/76 20060101ALI20180820BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20180820BHJP
【FI】
   C07C213/02
   C07C217/76
   !C07B61/00 300
【請求項の数】15
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-524401(P2017-524401)
(86)(22)【出願日】2015年10月29日
(65)【公表番号】特表2017-534642(P2017-534642A)
(43)【公表日】2017年11月24日
(86)【国際出願番号】US2015058028
(87)【国際公開番号】WO2016073274
(87)【国際公開日】20160512
【審査請求日】2017年6月30日
(31)【優先権主張番号】62/074,945
(32)【優先日】2014年11月4日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】502355808
【氏名又は名称】ノクセル・コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】アーベル、ハイケ・ゲルトルート
(72)【発明者】
【氏名】オーザン、アルミン
(72)【発明者】
【氏名】スペックバッヒャー、マルクス
(72)【発明者】
【氏名】ヴェーヴァー、インゴ・ラインホルト
(72)【発明者】
【氏名】ギャレット、ギャリー・スティーブン
【審査官】 齋藤 光介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−151739(JP,A)
【文献】 特表2013−544774(JP,A)
【文献】 特開昭57−122047(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
CAplus/REGISTRY/CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2−メトキシメチル−p−フェニレンジアミン(I)、化粧品として許容可能なその塩又はそれらの混合物を調製するテレスコーピング方法であって、
a)2−メトキシメチルアニリン(II)を用いたジアゾ化によって、式(III)の中間体を得た後、該式(III)の中間体と2−メトキシメチルアニリン(II)との間のジアゾカップリングによって中間体2−(メトキシメチル)−4−{3−[2−(メトキシメチル)フェニル]トリアザ−1−エン−1−イル}アニリン(IV)を合成する工程と、
【化1】
b)中間体2−(メトキシメチル)−4−{(E)−[2−(メトキシメチル)フェニル]ジアゼニル}アニリン(V)を、工程a)において得られる前記中間体2−(メトキシメチル)−4−{3−[2−(メトキシメチル)フェニル]トリアザ−1−エン−1−イル}アニリン(IV)の転位によって合成する工程と、
【化2】
c)2−メトキシメチル−p−フェニレンジアミン(I)及び2−メトキシメチルアニリン(II)を、式(V)の化合物の水素化によって合成する工程と、
【化3】
d)任意に2−メトキシメチル−p−フェニレンジアミン(I)を、化粧品として許容可能な塩であって、塩化物塩、硫酸塩、硫酸水素塩又はマロン酸塩から選択される、化粧品として許容可能な塩へと変換する工程と、
を含む、方法。
【請求項2】
工程a)を、少なくとも1つのニトロソ化剤であって、亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウム、五酸化二窒素、ニトロシル硫酸及びそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1つのニトロソ化剤の存在下で行う、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程a)を、少なくとも1つのラジカル捕捉剤であって、アクリロニトリル、メタクリレート、尿素及びそれらの混合物からなる群から選択される、少なくとも1つのラジカル捕捉剤の存在下で行う、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
工程a)及び/又はb)を、少なくとも1つの鉱酸又は有機酸であって、塩化水素、トリフルオロ酢酸、硫酸、亜硫酸、炭酸、硝酸、酢酸、プロピオン酸、リン酸及びそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1つの鉱酸又は有機酸の存在下で行う、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
工程a)及び/又はb)において使用される溶媒が1,2−ジメトキシエタン、ペンタン、シクロペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、1,4−ジオキサン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、メチル−テトラヒドロフラン、n−ペンタノール、n−ブタノール、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、マロン酸、硫酸、リン酸、イソペンタノール、t−ブタノール、イソプロパノール、n−プロパノール、エタノール、メタノール、グリコール、塩化水素、水及びそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
工程c)をFe、Pd/C、Pd/(OH)、ラネーNi、Pt/C、PtO及びそれらの混合物からなる群から選択される金属触媒を伴うヒドラジン又はH2から選択される水素源の存在下で行う、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
工程c)において使用される溶媒が1,2−ジメトキシエタン、ペンタン、シクロペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n−プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸n−ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸n−プロピル、プロピオン酸イソプロピル、プロピオン酸n−ブチル、1,4−ジオキサン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、メチル−テトラヒドロフラン、n−ブタノール、イソプロパノール、n−プロパノール、エタノール、メタノール、水及びそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
2−ニトロ−ベンジルアルコール(VI)のメチル化によって中間体2−ニトロ−メトキシメチル−ベンゼン(VII)を得た後、該中間体2−ニトロ−メトキシメチル−ベンゼン(VII)の水素化によって2−メトキシメチル−アニリン(II)を調製する、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【化4】
【請求項9】
メチル化剤がクロロメタン、ブロモメタン、ヨウ化メチル、硫酸ジメチル及びそれらの混合物からなる群から選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記メチル化を、ベンジルトリアルキルアンモニウム塩からなる群から選択される少なくとも1つの相間移動触媒を用いて行う、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
前記メチル化を1,2−ジメトキシエタン、ペンタン、シクロペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、1,4−ジオキサン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、メチル−テトラヒドロフラン、n−ペンタノール、イソペンタノール、t−ブタノール、イソプロパノール、n−プロパノール、エタノール、メタノール、水、グリコール及びそれらの混合物からなる群から選択される溶媒を用いて行う、請求項8〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
2−ブロモメチル−ニトロベンゼン(VIII)のメトキシル化によって中間体2−ニトロ−メトキシメチル−ベンゼン(VII)を得た後、該中間体2−ニトロ−メトキシメチル−ベンゼン(VII)の水素化によって2−メトキシメチルアニリン(II)を調製する、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【化5】
【請求項13】
メトキシル化剤がメタノール、ナトリウムメチレート及びそれらの混合物からなる群から選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記メトキシル化を1,2−ジメトキシエタン、ペンタン、シクロペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、1,4−ジオキサン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、メチル−テトラヒドロフラン、n−ペンタノール、イソペンタノール、t−ブタノール、イソプロパノール、n−プロパノール、エタノール、メタノール、水、グリコール及びそれらの混合物からなる群から選択される溶媒を用いて行う、請求項12又は13に記載の方法。
【請求項15】
前記中間体2−ニトロ−メトキシメチル−ベンゼン(VII)の水素化を、1,2−ジメトキシエタン、ペンタン、シクロペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n−プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸n−ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸n−プロピル、プロピオン酸イソプロピル、プロピオン酸n−ブチル、1,4−ジオキサン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、メチル−テトラヒドロフラン、n−ブタノール、イソプロパノール、n−プロパノール、エタノール、メタノール、水及びそれらの混合物からなる群から選択される溶媒を用いて行う、請求項8〜14のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、式(I)による2−メトキシメチル−p−フェニレンジアミン又はその塩の新たなテレスコーピング合成に関する。この化合物は、従来のp−フェニレンジアミン染料前駆体又はp−トルエンジアミン染料前駆体の代替として酸化毛髪染料組成物中に使用される低刺激の(low sensitizing)主要な染料前駆体として当業界に既知である。
【0002】
【化1】
【背景技術】
【0003】
p−フェニレンジアミン誘導体は酸化染毛にとって重要な前駆体である。これらは通常、暗い色合いを生じるために使用される。p−フェニレンジアミン誘導体は数十年にわたって染毛に使用されてきた。p−フェニレンジアミン誘導体の中でも、特に有益な候補、すなわち2−メトキシメチル−p−フェニレンジアミンが同定されている。この染料前駆体は、通例従来のp−フェニレンジアミン染料前駆体又はp−トルエンジアミン染料前駆体よりも低い刺激性を特徴とするという点で特に有利である。
【0004】
これまで、2−メトキシメチル−p−フェニレンジアミン(I)又はその塩を製造する種々の合成経路が当業界で既に公開されている。
【0005】
例えば特許文献1は、2−メトキシメチル−p−フェニレンジアミン(I)を、中間工程の1つにおけるスマイルス転位によって調製する方法を開示している。
【0006】
考え得る別の合成経路が特許文献2に開示されている。この合成経路は、2−クロロベンジルクロリド及びメタノールから出発してメトキシメチル中間体を形成する工程の組合せを含む。ニトロ化が4位で生じ、脱離基としてクロリドが活性化される。好ましくはベンジルアミンを用いたアミノ供与体によるクロリドの置換には、アニリン中間体を得るための相間移動触媒が必要とされる。最終水素化により所望の2−メトキシメチル−p−フェニレンジアミンがもたらされる。この方法の欠点の1つは、全収率が比較的低い可能性があり、場合によっては不十分な炭素収支が観察され得るということである。
【0007】
アニリンの自己カップリングによってp−フェニレンジアミンを調製する代替的な合成経路が特許文献3に開示されている。しかしながら、この合成経路の欠点の1つは、アミノビフェニル等の幾つかの副生成物が生じる可能性があることである。これらの化合物は、それらの毒性プロファイルのために危険であり、したがってこの合成経路の使用が制限される。
【0008】
【化2】
【0009】
最後に、ジアゾ化合成経路が非特許文献1に開示されている。しかしながら、この合成経路は純度結果の点で満足の行くものではなく、アミノビフェニル等の幾つかの副生成物が同様に生じる可能性がある。
【0010】
【化3】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許出願公開第2003/0041392号
【特許文献2】国際公開第2012044758号
【特許文献3】欧州特許出願公開第0013643号
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Rajaganesh, Ramanathan et al; Organic Letters, 14(3), 748-751; 2012
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
したがって、2−メトキシメチル−2−フェニレンジアミン(I)、化粧品として許容可能なその塩又はそれらの混合物を調製する、特に費用効果の高い新たな方法を提供する必要性が依然として存在している。この方法は不純物レベルの低い物質をもたらすことが可能であるべきである。さらに、この方法では統制不能な副反応のリスクを低減するべきである。
【0014】
本発明者らは驚くべきことに、文献から既知の重要中間体2−メトキシメチルアニリン(II)の経済的な再循環を含む本発明による方法によって、これらの必要性の少なくとも一部を満たし得ることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、2−メトキシメチル−p−フェニレンジアミン(I)、化粧品として許容可能なその塩又はそれらの混合物を調製するテレスコーピング方法であって、
a)2−メトキシメチルアニリン(II)を用いたジアゾ化によって式(III)の中間体を得た後、該式(III)の中間体と2−メトキシメチルアニリン(II)との間のジアゾカップリングによって中間体2−(メトキシメチル)−4−{3−[2−(メトキシメチル)フェニル]トリアザ−1−エン−1−イル}アニリン(IV)を合成する工程と、
【0016】
【化4】
【0017】
b)中間体2−(メトキシメチル)−4−{(E)−[2−(メトキシメチル)フェニル]ジアゼニル}アニリン(V)を、工程a)において得られる前記中間体2−(メトキシメチル)−4−{3−[2−(メトキシメチル)フェニル]トリアザ−1−エン−1−イル}アニリン(IV)の転位によって合成する工程と、
【0018】
【化5】
【0019】
c)2−メトキシメチル−p−フェニレンジアミン(I)及び2−メトキシメチルアニリン(II)を、式(V)の化合物の水素化によって合成する工程と、
【0020】
【化6】
【0021】
d)任意に2−メトキシメチル−p−フェニレンジアミン(I)を、化粧品として許容可能な塩、好ましくは塩化物塩、硫酸塩、硫酸水素塩又はマロン酸塩から選択される、化粧品として許容可能な塩へと変換する工程と、
を含む、方法に関する。
【発明を実施するための形態】
【0022】
テレスコーピング合成及び大規模プロセスに関わる、同定された全ての中間体を含む一連の工程をここで詳細に説明する。本開発技術(this development)で特定の構造に言及する場合、合理的なその他の互変異性構造の全てが含まれることを理解されたい。当該技術分野では互変異性構造は或る単一の構造によって表されることが多く、本発明はこの一般慣行に従う。
【0023】
式(I)による2−メトキシメチル−p−フェニレンジアミンを調製する記載の工程が、試薬を1つずつ反応器に添加し、合間に後処理(work-up:ワークアップ)を行わない逐次ワンポット合成において行われることを理解されたい。反応工程には下記に示すような好適な溶媒が必要とされる。
【0024】
本発明は、以下に記載される工程a)、b)及びc)を含む、式(I)の2−メトキシメチル−p−フェニレンジアミン、化粧品として許容可能なその塩又はそれらの混合物を調製するテレスコーピング方法に関する。
【0025】
a)2−メトキシメチルアニリン(II)を用いたジアゾ化によって式(III)の中間体を得た後、該式(III)の中間体と2−メトキシメチルアニリン(II)との間のジアゾカップリングによって中間体2−(メトキシメチル)−4−{3−[2−(メトキシメチル)フェニル]トリアザ−1−エン−1−イル}アニリン(IV)を合成する工程:
【0026】
【化7】
【0027】
この工程は、2−メトキシメチルアニリン(II)を式(III)の中間体へと変換するために少なくとも1つのニトロソ化剤の存在下で行われる。ニトロソ化剤(複数の場合もある)は亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウム、五酸化二窒素、ニトロシル硫酸及びそれらの混合物からなる群から選択することができる。
【0028】
この工程は少なくとも1つの鉱酸又は有機酸の存在下で行われる。鉱酸又は有機酸は塩化水素、トリフルオロ酢酸、硫酸、亜硫酸、炭酸、硝酸、酢酸、プロピオン酸、リン酸及びそれらの混合物からなる群から選択することができる。代替的には、鉱酸又は有機酸は塩化水素、硫酸、亜硫酸、酢酸及びそれらの混合物からなる群から選択することができる。代替的には、鉱酸又は有機酸は酢酸であり得る。
【0029】
この工程は少なくとも1つのラジカル捕捉剤の存在下で行ってもよい。ラジカル捕捉剤はアクリロニトリル、メタクリレート、尿素及びそれらの混合物からなる群から選択することができる。少なくとも1つのラジカル捕捉剤の使用は、化合物(IV)の全収率に悪影響を及ぼす可能性があるアゾタール(azotars)の形成のリスクを低減するために特に有利であり得る。
【0030】
この工程において使用される溶媒(複数の場合もある)は1,2−ジメトキシエタン、ペンタン、シクロペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、1,4−ジオキサン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、メチル−テトラヒドロフラン、n−ペンタノール、n−ブタノール、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、マロン酸、硫酸、リン酸、イソペンタノール、t−ブタノール、イソプロパノール、n−プロパノール、エタノール、メタノール、グリコール、塩化水素、水及びそれらの混合物からなる群、代替的にはn−ブタノール、イソプロパノール、n−プロパノール、エタノール、メタノール、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、マロン酸、塩化水素、硫酸、リン酸及びそれらの混合物からなる群、代替的にはn−プロパノール、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、マロン酸、塩化水素、硫酸、リン酸及びそれらの混合物からなる群から選択することができる。
【0031】
b)式(V)の中間体2−(メトキシメチル)−4−{(E)−[2−(メトキシメチル)フェニル]ジアゼニル}アニリンを、工程a)において得られる中間体2−(メトキシメチル)−4−{3−[2−(メトキシメチル)フェニル]トリアザ−1−エン−1−イル}アニリン(IV)の転位によって合成する工程:
【0032】
【化8】
【0033】
この工程は少なくとも1つの鉱酸又は有機酸の存在下で行われる。鉱酸又は有機酸は塩化水素、トリフルオロ酢酸、硫酸、亜硫酸、炭酸、硝酸、酢酸、プロピオン酸、リン酸及びそれらの混合物からなる群から選択することができる。代替的には、鉱酸又は有機酸は塩化水素、硫酸、亜硫酸、酢酸及びそれらの混合物からなる群から選択することができる。代替的には、鉱酸又は有機酸は酢酸であり得る。
【0034】
混合物のpHは塩基を添加することによって増大する。塩基は酢酸ナトリウムであり得る。
【0035】
この工程において使用される溶媒(複数の場合もある)は1,2−ジメトキシエタン、ペンタン、シクロペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、1,4−ジオキサン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、メチル−テトラヒドロフラン、n−ペンタノール、n−ブタノール、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、マロン酸、硫酸、リン酸、イソペンタノール、t−ブタノール、イソプロパノール、n−プロパノール、エタノール、メタノール、グリコール、塩化水素、水及びそれらの混合物からなる群、代替的にはn−ブタノール、イソプロパノール、n−プロパノール、エタノール、メタノール、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、マロン酸、塩化水素、硫酸、リン酸及びそれらの混合物からなる群、代替的にはn−プロパノール、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、マロン酸、塩化水素、硫酸、リン酸及びそれらの混合物からなる群から選択することができる。
【0036】
c)2−メトキシメチル−p−フェニレンジアミン(I)及び2−メトキシメチルアニリン(II)を、式(V)の化合物の水素化によって合成する工程:
【0037】
【化9】
【0038】
この工程は水素源の存在下で行われる。水素源はFe、Pd/C、Pd/(OH)、ラネーNi、Pt/C、PtO及びそれらの混合物からなる群から選択される金属触媒を伴うヒドラジン又はHから選択することができる。代替的には、水素源はPd/C触媒を伴うHであり得る。
【0039】
この工程において使用される溶媒(複数の場合もある)は1,2−ジメトキシエタン、ペンタン、シクロペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n−プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸n−ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸n−プロピル、プロピオン酸イソプロピル、プロピオン酸n−ブチル、1,4−ジオキサン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、メチル−テトラヒドロフラン、n−ブタノール、イソプロパノール、n−プロパノール、エタノール、メタノール、水及びそれらの混合物からなる群、代替的にはメタノール、エタノール、酢酸エチル、トルエン及びそれらの混合物からなる群から選択することができる。
【0040】
反応手順の工程c)の後、反応混合物は完全な水素化によるアゾ化合物(V)の開裂断片、すなわちその形成時に、又は反応混合物を溶媒でトリチュレートする(triturating)ことによって沈殿する遊離塩基としての2−メトキシメチル−p−フェニレンジアミン(I)と、残存母液に可溶であることが観察される、再形成された出発物質の式(II)とを含む。溶媒はトルエン及び/又はヘキサンから選択することができる。
【0041】
反応混合物は、遊離塩基としての2−メトキシメチル−p−フェニレンジアミン(I)を単離するために単純濾過を用いて濾過してもよい。収率は濾液の蒸留及び出発物質(II)の再循環によって増大させることができる。
【0042】
更なる工程において、2−メトキシメチル−p−フェニレンジアミン(I)を化粧品として許容可能な塩へと変換することができる。化粧品として許容可能な塩は任意の無機又は有機の化粧品として許容可能な塩であり得る。化粧品として許容可能な塩は塩化物塩、硫酸塩、硫酸水素塩又はマロン酸塩から選択することができる。2−メトキシメチル−p−フェニレンジアミン(I)は塩化水素、硫酸、リン酸、酢酸、リンゴ酸及びそれらの混合物からなる群から選択される鉱酸又は有機酸を用いて、化粧品として許容可能な塩へと変換することができる。
【0043】
本発明による方法は、特別な装置又は高価な触媒を必要とする高度に複雑な化学的工程が回避され、出発物質の1つ、すなわち2−メトキシメチルアニリンの再循環工程を含む、2−メトキシメチル−p−フェニレンジアミン(I)、化粧品として許容可能なその塩又はそれらの混合物を調製する特に費用効果の高い方法である。
【0044】
驚くべきことに、メトキシのような不安定な官能基が安定しており、アニリンの自己カップリング又はo−トルイジンの自己カップリングから既知の副反応を引き起こさないことが見出された。さらに、本発明による方法は不純物レベルの低い物質をもたらす。最後に、この方法は炭素において効率的であり、すなわち保護基が必要とされず、ひいては廃棄物(例えば、通常は廃棄され得る保護基に由来する)が最小限に抑えられる。
【0045】
本発明による方法の出発物質は2−メトキシメチルアニリン(II)である。この化合物は市販されている。しかしながら、この化合物は以下に開示される合成経路A)又はB)等の種々の合成経路に従って調製することができる。
【0046】
A)2−ニトロ−ベンジルアルコール(VI)から出発した2−メトキシメチルアニリン(II)の調製
2−ニトロ−ベンジルアルコール(VI)のメチル化によって中間体2−ニトロ−メトキシメチル−ベンゼン(VII)を得た後、該中間体2−ニトロ−メトキシメチル−ベンゼン(VII)の水素化によって2−メトキシメチルアニリン(II)を調製することができる。
【0047】
【化10】
【0048】
メチル化剤はクロロメタン、ブロモメタン、ヨウ化メチル、硫酸ジメチル及びそれらの混合物からなる群から選択することができる。代替的には、メチル化剤は硫酸ジメチルであり得る。
【0049】
メチル化は少なくとも1つの相間移動触媒を用いて行うことができる。相間移動触媒(複数の場合もある)はベンジルトリアルキルアンモニウム塩からなる群、代替的にはベンジルトリメチルアンモニウム、ベンジルトリエチルアンモニウム、ベンジルトリプロピルアンモニウム、ベンジルトリブチルアンモニウムの塩化物塩、臭化物塩又は硫酸塩及びそれらの混合物からなる群から選択することができる。代替的には、相間移動触媒はベンジルトリブチルアンモニウムクロリドであり得る。
【0050】
メチル化に使用される溶媒(複数の場合もある)は1,2−ジメトキシエタン、ペンタン、シクロペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、1,4−ジオキサン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、メチル−テトラヒドロフラン、n−ペンタノール、イソペンタノール、t−ブタノール、イソプロパノール、n−プロパノール、エタノール、メタノール、水、グリコール及びそれらの混合物からなる群、代替的にはトルエン、水及びそれらの混合物からなる群から選択することができる。
【0051】
B)2−ブロモメチル−ニトロベンゼン(VIII)から出発した2−メトキシメチルアニリン(II)の調製
2−ブロモメチル−ニトロベンゼン(VIII)のメトキシル化によって中間体2−ニトロ−メトキシメチル−ベンゼン(VII)を得た後、該中間体2−ニトロ−メトキシメチル−ベンゼン(VII)の水素化によって2−メトキシメチルアニリン(II)を調製することができる。
【0052】
【化11】
【0053】
メタノールの存在下でナトリウムメチレートをメトキシル化剤として用いる、かかる合成経路は文献内、例えばJournal of Molecular Catalysis A: Chemical, 273(1-2), 118-132; 2007に既に記載されている。
【0054】
メトキシル化剤はメタノール、ナトリウムメチレート及びそれらの混合物からなる群から選択することができる。代替的には、メトキシル化剤はナトリウムメチレートであり得る。
【0055】
メトキシル化に使用される溶媒(複数の場合もある)は1,2−ジメトキシエタン、ペンタン、シクロペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、1,4−ジオキサン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、メチル−テトラヒドロフラン、n−ペンタノール、イソペンタノール、t−ブタノール、イソプロパノール、n−プロパノール、エタノール、メタノール、水、グリコール及びそれらの混合物からなる群、代替的にはメタノール、エタノール、イソプロパノール、グリコール、水及びそれらの混合物からなる群から選択することができる。
【0056】
合成経路A)及びB)のどちらにおいても、中間体2−ニトロ−メトキシメチル−ベンゼン(VII)の水素化に使用される溶媒(複数の場合もある)は1,2−ジメトキシエタン、ペンタン、シクロペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n−プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸n−ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸n−プロピル、プロピオン酸イソプロピル、プロピオン酸n−ブチル、1,4−ジオキサン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、メチル−テトラヒドロフラン、n−ブタノール、イソプロパノール、n−プロパノール、エタノール、メタノール、水及びそれらの混合物からなる群、代替的にはメタノール、酢酸エチル、トルエン及びそれらの混合物からなる群から選択することができる。
【0057】
合成経路A)及びB)のどちらにおいても、中間体2−ニトロ−メトキシメチル−ベンゼン(VII)の水素化は、Fe、Pd/C、Pd/(OH)、ラネーNi、Pt/C、PtO及びそれらの混合物からなる群から選択される金属触媒を伴うヒドラジン又はHから選択される水素源の存在下、代替的にはPd/C触媒を伴うHの存在下で行うことができる。
【実施例】
【0058】
以下は、本発明の組成物の非限定的な実施例である。これらの実施例は、説明のために挙げているに過ぎず、本発明を限定するように解釈されるものではないため、本発明の趣旨及び範囲を逸脱することなく、それらの多くの変更形態も実行可能であり、このような変更形態は当業者によって認識されるものと考えられる。他に指定のない限り、全ての濃度を重量パーセントとして記載する。
【0059】
A)2−ニトロ−ベンジルアルコール(VI)から出発した2−メトキシメチルアニリン(II)の調製
)2−ニトロ−メトキシメチル−ベンゼン(VII)の合成
以下のエマルションを調製した。
【0060】
【表1】
【0061】
12lのトルエン中の12.8kgの硫酸ジメチルの溶液を、およそ20℃で90分かけて上記のエマルションに添加した。次いで、得られた混合物を3時間かけて撹拌し、13.9kgの濃縮アンモニアを混合物に添加した。次いで、混合物を24.0kgの水で希釈した。
【0062】
1時間後に相を分離し、水相を15lのトルエンで2回抽出した。合わせたトルエン相を15lの水で3回洗浄した。次いで、トルエンを減圧下で除去し、12.97g(99%)の粗物質を透明清澄な(transparent clear)油として得た。
【0063】
)2−メトキシメチルアニリン(II)の合成
3lのメタノールに懸濁した50%の水を含有する300gの10%Pd/C触媒の混合物を、15lのメタノール中の6.0kgの2−ニトロ−メトキシメチル−ベンゼンの溶液に添加した。水素化を2bar abs〜3bar absの圧力下、20℃で行った。
【0064】
水素化によるニトロ基の完全な変換の後、溶液を濾過し、メタノールで洗浄し、減圧下で濃縮して、4.73g(96%)の粗物質を透明清澄な油として得た。
【0065】
B)2−メトキシメチル−p−フェニレンジアミン(I)のテレスコーピング合成:
a)2−(メトキシメチル)−4−{3−[2−(メトキシメチル)フェニル]トリアザ−1−エン−1−イル}アニリン(IV)の合成:
以下の溶液を調製した:
【0066】
第1の溶液
【表2】
【0067】
第2の溶液
【表3】
【0068】
第2の溶液を第1の溶液に3分間にわたって添加し、1.05kgの酢酸を第1の溶液に60分間にわたって添加した。第1及び第2の溶液並びに酢酸の温度は約0℃とした。得られた混合物を約0℃〜5℃の温度で更に60分間撹拌した。
【0069】
化合物(IV)をこの段階でサンプリングによって特性化したが、反応混合物からは単離しなかった。続いて工程b)により反応を継続した。
【0070】
b)2−(メトキシメチル)−4−{(E)−[2−(メトキシメチル)フェニル]ジアゼニル}アニリン(V)の合成
2.10kgの酢酸を、得られた工程a)の混合物に約0℃〜5℃の温度で60分間にわたって添加した。次いで、反応混合物を更に約4時間にわたって約10℃の温度で撹拌した。次いで、1.5kgの氷と1.5kgの水との混合物を添加した。次いで、650gの酢酸ナトリウムを得られた混合物に添加した。温度は10℃を超えないように維持した。反応混合物を更に10分間にわたって約10℃の温度で撹拌した。得られた混合物を1.2lの酢酸エチルで3回抽出した。抽出層を合わせ、1.2lの水で2回洗浄した。次いで、溶媒を減圧下で除去し、563gの粗物質を得た。
【0071】
c)2−メトキシメチル−p−フェニレンジアミン(I)の合成(及び2−メトキシメチルアニリン(II)の回収)
50gの粗2−(メトキシメチル)−4−{(E)−[2−(メトキシメチル)フェニル]−ジアゼニル}−アニリン(V)と、300mlのメタノールに懸濁した50%の水を含有する0.5gの10%Pd/C触媒との混合物を、2bar abs〜3bar absの圧力下、約20℃〜25℃で水素化した。水素化による還元的アゾ開裂の終了後に、溶液を濾過し、減圧下で濃縮した。得られた油を5.6lのトルエンと共に60℃へと5分間加熱し、2時間かけて0℃まで冷却した。沈殿物を真空濾過によって採取し、50mlの冷トルエンで洗浄し、炉内で乾燥させて、総収率15gの2−メトキシメチル−p−フェニレンジアミン(I)を得た。2−メトキシメチルアニリン(II)を濾液/母液から蒸留によって単離し、工程a)において出発物質として再び使用するために再循環させた。
【0072】
本明細書中に開示される寸法及び値は、列挙される正確な数値に厳密に限定するように理解されるものではない。むしろ、別段の定めがない限り、各かかる寸法は、列挙した値と、その値周辺の機能的に等価な範囲の両方を意味することが意図される。例えば、「1%」と開示される濃度は、「約1%」を意味するものと意図される。