(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6383505
(24)【登録日】2018年8月10日
(45)【発行日】2018年8月29日
(54)【発明の名称】特性の異なる領域を含むレンズを有する光学システム
(51)【国際特許分類】
G02B 17/08 20060101AFI20180820BHJP
G02B 13/16 20060101ALI20180820BHJP
G02B 13/18 20060101ALI20180820BHJP
G03B 21/14 20060101ALI20180820BHJP
【FI】
G02B17/08 A
G02B13/16
G02B13/18
G03B21/14 Z
【請求項の数】16
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2017-556270(P2017-556270)
(86)(22)【出願日】2017年4月28日
(86)【国際出願番号】JP2017017089
(87)【国際公開番号】WO2017188449
(87)【国際公開日】20171102
【審査請求日】2018年1月17日
(31)【優先権主張番号】特願2016-90399(P2016-90399)
(32)【優先日】2016年4月28日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000227364
【氏名又は名称】株式会社nittoh
(74)【代理人】
【識別番号】100102934
【弁理士】
【氏名又は名称】今井 彰
(72)【発明者】
【氏名】松尾 恭彦
【審査官】
堀井 康司
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−300526(JP,A)
【文献】
特開2012−253602(JP,A)
【文献】
特開2005−300928(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 9/00−17/08
G02B 21/02−21/04
G02B 25/00−25/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
共通の光軸に沿って配置された複数のレンズを有する光学システムであって、
前記複数のレンズは、前記光軸に対して偏心した区域を結像のための光束が前記光軸に対して偏って通過する第1のレンズを含み、
前記第1のレンズの少なくとも一方の面は、前記光軸を回転軸として当該第1のレンズを回転することにより切り替えられる、光学的な特性の異なる複数の領域を含み、前記複数の領域は、像を近距離に結像するための第1の領域と、像を遠距離に結像するための第2の領域とを含む、光学システム。
【請求項2】
請求項1において、
前記第1のレンズは、焦点調整のために前記光軸に沿って移動される焦点調整用レンズの少なくとも1つである、光学システム。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記第1のレンズは、焦点調整のために前記光軸に沿って移動しないレンズである、光学システム。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかにおいて、
前記少なくとも一方の面は、回転非対称な領域を含む、光学システム。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかにおいて、
前記複数の領域は、曲率半径が同一の非球面を含む、光学システム。
【請求項6】
請求項1ないし4のいずれかにおいて、
前記少なくとも一方の面は、自由曲面を含む、光学システム。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかにおいて、
前記複数の領域は、前記光軸を跨がない領域である、光学システム。
【請求項8】
請求項1ないし6のいずれかにおいて、
前記少なくとも一方の面は、前記光軸を跨ぎ、前記複数の領域のいずれかとともに前記光束が通過する共通の領域を含む、光学システム。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれかにおいて、
前記少なくとも一方の面は、像を近距離および遠距離に結像するために共通に用いられる第3の領域を前記光軸の回りに含む、光学システム。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれかにおいて、
前記少なくとも一方の面の面積SA0のうち、前記光束が偏って通過する面積SA1の比率は以下の条件を満たす、光学システム。
0.25≦SA1/SA0≦0.7
【請求項11】
請求項1ないし10のいずれかにおいて、
前記第1のレンズは、他方の面が平面である、光学システム。
【請求項12】
請求項1ないし11のいずれかにおいて、
前記複数のレンズは、第1の中間像を結像する第1のサブシステムを含む、光学システム。
【請求項13】
請求項12において、
前記複数のレンズは、前記第1の中間像を第2の中間像として結像する第2のサブシステムを含み、さらに、
前記第2の中間像を最終像として結像する第2の光学システムを有する、光学システム。
【請求項14】
請求項1ないし13のいずれかにおいて、
前記第1のレンズを回転駆動する駆動ユニットを有する光学システム。
【請求項15】
請求項1ないし14のいずれかに記載の光学システムと、
前記光学システムにより投影される画像を出力する画像ユニットとを有するプロジェクタ。
【請求項16】
請求項1ないし14のいずれかに記載の光学システムと、
前記光学システムにより結像される画像を撮像するユニットとを有する撮像装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特性の異なる領域を含むレンズを有する光学システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
国際公開WO2013/005444号公報には、縮小側の第1の像面から拡大側の第2の像面へ投射する投射光学系であって、8枚のレンズを含み、縮小側から入射した光により拡大側に第1の中間像を結像する第1の屈折光学系と、6枚のレンズを含み、縮小側の第1の中間像を拡大側に第2の中間像として結像する第2の屈折光学系と、第2の中間像よりも拡大側に位置する正の屈折力の第1の反射面を含む第1の反射光学系とを有する投射光学系を提供することが記載されている。
【発明の開示】
【0003】
レンズを有する光学システムにおいて、諸収差の補正や、焦点位置の調整のためには複数のレンズ面が必要となり、レンズの枚数が増える傾向にある。一方、低コスト、軽量、コンパクトな光学システムを実現するためには簡易な構成で高性能のシステムが望ましい。
【0004】
本発明の一態様は、
共通の光軸に沿って配置された複数のレンズを有し、複数のレンズは、光軸に対して偏心した区域を結像のための光束が光軸に対して偏って通過する第1のレンズを含み、第1のレンズの少なくとも一方の面は、光軸を回転軸として第1のレンズを回転することにより切り替えられる、光学的な特性の異なる複数の領域を含
む。
【0005】
光軸に対して斜めに光が入射されたり、出射されたりする設計の光学システムなどにおいては、光学システムの内部を通過する光束(光路)が光軸に対して偏った位置(片寄った位置)を通過するように設計される場合がある。光束が偏った位置を通過する位置に配置されたレンズにおいては、レンズの一部が結像に用いられ、他の部分(他の領域)は結像に用いられない。本発明の光学システムにおいては、第1のレンズに光学的な特性の異なる複数の領域を設け、第1のレンズを回転することにより、光束が通過する偏心した区域の光学的特性を切り替えられるようにしている。したがって、簡易な構成で、例えば、少ない枚数のレンズで、所望の性能を備えた光学システムを提供できる。
【0006】
複数の領域は、像を近距離に結像するための第1の領域と、像を遠距離に結像するための第2の領域とを
含む。第1のレンズは、焦点調整のために光軸に沿って移動される焦点調整用レンズ(フォーカシングレンズ)の少なくとも1つであってもよい。第1のレンズは、焦点調整のために光軸に沿って移動しないレンズであってもよく、その場合は、レンズを回転する機構と焦点調整用レンズを光軸に沿って移動する機構とを分けることができる。このため、レンズを駆動する機構を簡略化できる。
【0007】
第1のレンズの少なくとも一方の面は、回転非対称な領域を含んでいてもよい。光学的特性の異なる領域同士は、回転非対称になる。複数の領域は、回転非対称で、曲率半径が同一(共通)の非球面を含んでいてもよい。複数の領域は、さらに、回転非対称で、曲率半径およびコーニック係数が共通の非球面を含んでいてもよく、曲率半径、コーニック係数および低次の非球面係数が同一(共通)の非球面を含んでいてもよい。少なくとも一方の面は、自由曲面を含んでいてもよい。また、第1のレンズは、他方の面が平面であってもよい。
【0008】
複数の領域は、光軸を跨がない領域であってもよい。少なくとも一方の面は、光軸を跨ぎ、複数の領域のいずれかとともに光束が通過する共通の領域を含んでもよい。少なくとも一方の面は、近用の領域と、遠用の領域と、遠近両用の領域の第3の領域とを含んでもよい。
【0009】
複数の領域を設定するためには、少なくとも一方の面の面積SA0のうち、光束が偏って通過する面積SA1の比率は以下の条件(1)を満たすことが望ましい。
0.25≦SA1/SA0≦0.7・・・(1)
【0010】
複数のレンズは、第1の中間像を結像する第1のサブシステムを含んでいてもよく、第1の中間像を第2の中間像として結像する第2のサブシステムを含んでいてもよい。光学システムは、さらに、第2の中間像を最終像として結像する第2の光学システムを有してもよい。
【0011】
光学システムは、第1のレンズを回転駆動する駆動ユニットを有するものであってもよい。また、光学システムは、第1のレンズを、焦点調整のために光軸に沿って移動する移動ユニットを有するものであってもよい。
【0012】
本発明の異なる態様の1つは、上記の光学システムと、光学システムにより投影される画像を出力する画像ユニットとを有するプロジェクタである。本発明のさらに異なる態様の1つは、上記の光学システムと、光学システムにより結像される画像を撮像するユニットとを有する撮像装置である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】レンズL21の面S15を示す図であり、
図2(a)は近距離用の領域を使用している状態、
図2(b)は中遠距離用の領域を使用している状態を示す。
【
図12】レンズL15−2の面S12を示す図であり、
図12(a)は近距離用の領域および遠近共用の領域を使用している状態、
図2(b)は中遠距離用の領域および遠近共用の領域を使用している状態を示す。
【
図14】距離によるフォーカシングの状態を示す図。
【
図16】レンズL16の面S13を示す図であり、
図2(a)は近距離用の領域および遠近共用の領域を使用している状態、
図2(b)は中遠距離用の領域および遠近共用の領域を使用している状態を示す。
【
図18】距離によるフォーカシングの状態を示す図。
【
図20】光学システムを含む撮像装置の一例を示す図。
【0014】
図1に、本発明に係る光学システムの一例を含むプロジェクタの一例の概略構成を示す。このプロジェクタ100は、投影用の光学システム1と、縮小側に配置され、投影される画像を出力する画像ユニット5とを含む。光学システム1は、縮小側の画像ユニット(光変調器、ライトバルブ)5の像面に出力された画像を、拡大側のスクリーン9または壁面へ投射する投射光学系10を含む。画像ユニット5は、LCD、デジタルミラーデバイス(DMD)あるいは有機ELなどの画像を形成できるものであればよく、単板式であっても、各色の画像をそれぞれ形成する方式であってもよい。画像ユニット5は発光タイプであってもよく、照明タイプであってもよい。照明タイプの場合は、プロジェクタ100はさらに照明光学系(不図示)を含んでもよい。スクリーン9は、壁面やホワイトボードなどであってもよく、プロジェクタ100はフロントプロジェクタであっても、スクリーン9を含むリアプロジェクタであってもよい。
【0015】
投射光学系10は、複数のレンズを含む第1の光学系(第1のシステム)S1と、第1の光学系S1から出力された光を反射して投影光8としてスクリーン9に投射する正の屈折力の第1の反射面M1を含む第2の光学系(第2のシステム)S2とを含む。第1の光学系S1は、縮小側から入射した光により第1の光学系S1の内部に結像される第1の中間像IM1を第1の光学系S1よりも拡大側に第2の中間像IM2として結像する屈折光学系(レンズシステム)である。第1の光学系S1は、縮小側(入力側)に配置され、画像ユニット5の画像を第1の中間像IM1として結像する第1のサブシステム(第1のレンズ群、第1の屈折光学系)SS1と、第1の中間像IM1を挟んで拡大側(出力側)に配置された第2のサブシステム(第2のレンズ群、第2の屈折光学系)SS2とを含む。第2のサブシステムSS2は、第1の中間像IM1を第1の反射面(ミラー)M1の縮小側に第2の中間像IM2として結像する。ミラーM1は、第2の中間像IM2をスクリーン9に拡大投影する。
【0016】
第1のサブシステムSS1は、縮小側から両凸のレンズL11、両凸のレンズL12および両凹のレンズL13からなる接合レンズBL1、両凸のレンズL14およびL15、拡大側に凸の負のメニスカスレンズL16を含む。第2のサブシステムSS2は、縮小側に凸の正のメニスカスレンズL21、両凸のレンズL22、縮小側に凸の正のメニスカスレンズL23、縮小側に凸の負のメニスカスレンズL24および両凸のレンズL25からなる接合レンズBL2を含む。
【0017】
光学システム1は、さらに、フォーカシングのためにレンズL21およびL22を光軸7に沿って移動する第1のフォーカシングユニット51と、レンズL21を回転(回転駆動)する第2のフォーカシングユニット(駆動ユニット)52とを含む。レンズL21およびL22は焦点調整用レンズであり、これらのレンズL21およびL22を動かすフォーカシングユニット51および52の協調制御により、光学システム1は、ミラーM1からスクリーン9までの距離が450mmという短い距離(近傍、近距離)Dnで結像できる。さらに、結像範囲をミラーM1からスクリーン9までの距離が1000mmと遠方(遠距離)Dfまで広げることができる。したがって、この光学システム1により、スクリーンまでの距離が数10cmという短焦点のプロジェクタでありながら、結像範囲である近距離Dnに対する遠距離Dfの比が2倍以上(2.22倍)という結像性能を備えたプロジェクタ100を提供できる。
【0018】
図2(a)および
図2(b)に示すように、レンズL21の縮小側(画像ユニット5の側、画像ユニット側)の面S15は回転非対称な面であり、像を近距離Dnで結像するための領域(第1の領域、近用領域、近距離用の領域)55と、像を遠距離Dfおよび中距離で結像するための領域(第2の領域、遠用領域、中遠距離用の領域)56とを含む。第2のフォーカシングユニット52は、光軸7を回転軸として、第1のレンズであるレンズL21を回転する駆動ユニットとして機能する。フォーカシングユニット52は、レンズL21を回転することにより、光束6が通過する区域と、近距離の領域55と中遠距離の領域56とを切り替える。レンズL21の拡大側(スクリーン側)の面S16も回転非対称な面であり、近距離の領域55および中遠距離の領域56を含み、第2のフォーカシングユニット52が光軸7を回転軸としてレンズL21を180度回転することで、光束6が通過する領域を切り替えることができる。
【0019】
レンズL21は、第2のサブシステムSS2の最も縮小側に配置されたレンズであり、第1のサブシステムSS1が結像する第1の中間像IM1の拡大側に、中間像IM1に隣接して配置されるレンズである。第1の中間像IM1は、画像ユニット5に形成された画像が光軸7に対して反転した(倒立した)画像であり、第1の中間像IM1は光軸7を跨がず、光軸7に対して偏った位置に形成される。したがって、拡大側に結像するための光束6が、レンズL21の両面S15およびS16の、光軸7を跨がない、光軸7に対して偏心した区域を偏って通過する。このため、スクリーン9が近距離にある場合は、第2のフォーカシングユニット52が、レンズL21を回転して、両面S15およびS16の近距離用の領域55を光束6が通過するように設定する。スクリーン9が中距離または遠距離にある場合は、第2のフォーカシングユニット52が、レンズL21を回転して、両面S15およびS16の中遠距離用の領域56を光束6が通過するように設定する。
【0020】
図3に、投射光学系10の各エレメントのデータを示している。
図4および
図5は各エレメントのうちの非球面データを示している。
図6は、焦点調整のためにレンズL21およびL22の移動をレンズ間隔で示している。なお、
図6において、S24は、ミラーM1とスクリーン9との距離である。
図3において、ri(iは整数であり、順番を示す。以下同様)は縮小側から順に並んだ各エレメント(レンズの場合は各レンズ面)の曲率半径(mm)、diは縮小側から順に並んだ各エレメントの面の間の距離(間隔,mm)、Hiは各エレメントの有効径(mm)、さらに、各エレメントがガラスの場合は、ガラス種と、屈折率(d線)nd、アッベ数(d線)vdを示している。
【0021】
レンズL12の縮小側の面S6、レンズL16の両面S13およびS14、レンズL21の両面S15およびS16、さらに、ミラーM1の面s24は非球面である。非球面は、Xを光軸方向の座標、Yを光軸と垂直方向の座標、光の進行方向を正、Rを近軸曲率半径とすると、
図4および
図5に示した係数RDY、K、ARi(iは3〜14)を用いて次式(A)で表わされる。なお、「En」は、「10のn乗」を意味する。
X=(1/R)Y
2/[1+{1−(1+K)(1/R)
2 Y
2}1/2]
+ΣARiY
i ・・・(A)
【0022】
図5に示すように、レンズL21の両面S15およびS16は、近距離用の領域55を形成する非球面Aと、遠距離用の領域56を形成する非球面Bとを有する。本例においては、それぞれの面の非球面AおよびBは、曲率半径RDYと、コーニック係数Kと、低次の非球面係数(本例では、AR3〜AR7)とが共通し、AR8以上の高次の非球面係数が異なる。
【0023】
この実施例において、レンズL21は、
図2に示すように、光束6が光軸7を跨がない、光軸7に対して偏心した区域を光軸7に対して偏って通過する。したがって、レンズL21の両面S15およびS16を中央の光軸(中心軸)7を含む直線により2つの領域に分けて光軸7を回転軸としてレンズL21を回転させることにより、2つの異なる光学的特性を備えたレンズとして使用できる。レンズL21は、近距離用の領域55と中遠距離用の領域56とに2分割されており、近距離用の領域55は非球面Aで構成され、中遠距離用の領域56は非球面Bにより構成され、レンズL21を180度回転することによりこれらの領域55および56を切り替えて使用する。近距離用の領域55および中遠距離用の領域56は、半円形であってもよく、少なくとも光束6が通過する面積を備えた多角形、楕円形などの形状であってもよい。
【0024】
図7に、スクリーン9に結像される像のドットの収束状態を示している。
図7(a)は、近距離用の領域55を用いて、近距離(450mm)、中距離(750mm)および遠距離(1000mm)にスクリーン9とミラーM1との距離をセットし、レンズL21およびL22を第1のフォーカシングユニット51により前後に動かしてフォーカスを調整した状態を示している。
図7(b)は、中遠距離の領域56を用いて、近距離、中距離および遠距離にスクリーン9とミラーM1との距離をセットし、レンズL21およびL22を第1のフォーカシングユニット51によりフォーカスを調整した状態を示している。
【0025】
図7(a)に示すように、近距離用の領域55を用いた場合は、全ての距離において低角度(低画角)のドットの集光状態は良好である。一方、広角度(高画角)のドットの集光状態は、近距離では良好であるが、中距離および遠距離においては良好とは言えない。
【0026】
図7(b)に示すように、遠距離用の領域56を用いた場合は、全ての距離において低角度(低画角)のドットの集光状態は良好である。一方、広角度(高画角)のドットの集光状態は、中距離および遠距離においては良好であるが、近距離においては良好とは言えない。したがって、近距離においては、レンズL21を回転して近距離用の領域55を光束6が通過するようにセットし、中遠距離においては、レンズL21を回転して中遠距離用の領域56を光束6が通過するようにセットすることにより、近距離から遠距離のすべてのレンジにおいて良好はフォーカシング性能を得ることができる。
【0027】
近距離用の領域55および中遠距離用の領域56を備えた面は、
図5に示す非球面を備えた領域55および56が、連続して、明確な境界を持たずに連接された、回転非対称な自由曲面により形成することも可能である。異なる非球面を備えたレンズを製造する1つの方法は、それぞれの非球面を備えたレンズをカットして貼り合せる方法である。一方、レンズL21の両面S15およびS16を自由曲面で形成することにより、1つの金型で異なる特性の領域を備えたレンズを一体成型でき、偏心などの問題を未然に防止できるというメリットがある。このため、複数の異なる領域を備えたレンズを精度良く製造できる。
【0028】
自由曲面を定義する方法の一例は、以下のXY多項式(2)を使用することである。
【0029】
図8に、
図5に示した非球面AおよびBを備えたS15を、連続した自由曲面で形成する係数(自由曲面係数)を示している。
図9に、
図5に示した非球面AおよびBを備えたS16を、連続した自由曲面で形成する係数(自由曲面係数)を示している。
【0030】
図10に、光学システムの異なる例を示している。この光学システム1aの基本的な構成は上記の光学システム1と共通する。この光学システム1aは、投射光学系10の屈折光学系(第1のシステム)S1の第1のサブシステムSS1の両凸のレンズL15が、縮小側に配置された縮小側に凸で拡大側が平面のレンズL15−1(d11−1)と、レンズL15−1の拡大側に最少空気間隔(d11−2)で配置された拡大側に凸で縮小側が平面のレンズL15−2(d11−3)とで構成されている。さらに、光学システム1aは、第2のサブシステムSS2のレンズL21およびL22をフォーカシングのために光軸7に沿って移動する第1のフォーカシングユニット51と、第1のサブシステムSS1のレンズL15−2を、レンズL15−2の光軸(中心軸)7を回転軸として回転して近距離用と中遠距離用との領域を切り替える第2のフォーカシングユニット52とを含む。光学システム1aの第2のサブシステムSS2のレンズL21は回転駆動されず、両側の面S15およびS16は、光学システム1の近距離用の非球面Aにそれぞれ固定されている。
【0031】
図11に、光学システム1aのレンズデータのうち、光学システム1と相違するレンズL15−1およびレンズL15−2およびその前後のレンズに関するデータを示す。レンズL15−2の拡大側(スクリーン側)の面S12は、
図12に示すように3つの機能の異なる領域を含む自由曲面であり、
図13に、面S12の自由曲面係数を示す。
【0032】
図12(a)および(b)に示すように、レンズL15−2においては、光束6が、光軸7を含んで面S12の
図10の上側の偏心した区域を偏って通過する。面S12は、光軸7を含む中央の遠近共用の領域(共通の領域、第3の領域)57と、その外側に配置された近距離用の領域55と、近距離用の領域55に対し遠近共用の領域57を挟んで反対側に配置された中遠距離用の領域56とを含む。レンズL15−2を回転して近距離用の領域55を上側にセットすると、光束6は近距離用の領域55と遠近共用の領域57とを通過する。レンズL15−2を180度回転して中遠距離用の領域56を上側にセットすると、光束6は中遠距離用の領域56と遠近共用の領域57とを通過する。
【0033】
図14に、スクリーン9に結像される像のドットの収束状態を示している。
図14(a)は、近距離用の領域55および遠近共用の領域57を用いて、近距離(450mm)、中距離(750mm)および遠距離(1000mm)にスクリーン9とミラーM1との距離をセットし、レンズL21およびL22を第1のフォーカシングユニット51により前後に動かしてフォーカスを調整した状態を示している。
図14(b)は、中遠距離の領域56および遠近共用の領域57を用いて、近距離、中距離および遠距離にスクリーン9とミラーM1との距離をセットし、レンズL21およびL22を第1のフォーカシングユニット51によりフォーカスを調整した状態を示している。
【0034】
これらの図を比較するとわかるように、中遠距離の領域56および遠近共用の領域57を用いることにより、中距離および遠距離のフォーカシング性能が改善され、近距離の領域55および遠近共用の領域57を用いることにより近距離のフォーカシング性能が改善されている。
【0035】
レンズL15−2のように、光束6が光軸7を跨いで通過するレンズにおいても、光束6が面S12の偏った領域を通過する場合は、光束6が通過しない領域に異なる光学的な特性を与えて、レンズを回転して使用することにより、同一のレンズを、異なる光学的性質を備えたレンズとして使用することができる。レンズL15−2においては、距離の差によりフォーカシングの性能に差がでる、仰角の大きな(高画角の)光束が面S12の周辺の光軸7から離れた部分を通過する。したがって、面S12の周辺部分に近距離用の領域55と、中遠距離用の領域56とを配置し、フォーカシングの性能に差が出にくい光軸7の周辺には遠近共用の領域57を配置し、レンズL15−2を180度回転することにより遠近のフォーカシング性能を改善している。また、面S12を自由曲面とし、これらの領域55、57および56を境界のない連続した面とすることにより、スクリーンに投影される画像に、特性の異なる領域を通過している影響が見られないようにすることができる。
【0036】
さらに、この光学システム1aにおいては、フォーカシングのために光軸7に沿って動くレンズL21およびL22とは異なるレンズL15−2に、近距離用の領域55および遠距離用の領域56を設け、レンズL15−2を回転することにより遠近の切り替えを可能としている。したがって、レンズを光軸7に沿って移動する機構(第1のフォーカシングユニット)51と、光軸7を回転軸としてレンズを回転する機構(第2のフォーカシングユニット)52とを分離することができ、光学システム1aの構成を簡易にできる。また、レンズL15を、縮小側のレンズL15−1と、非球面S12を備えた拡大側のレンズL15−2とに分離して、レンズL15−2のみを回転することにより、レンズを回転駆動する第2のフォーカシングユニット52の負荷および構成を簡易にすることができる。また、レンズL15−2は、複数の領域55、56および57を備えた面S12の反対側の面(他方の面)は平面であり、製造が容易である。
【0037】
なお、光学システム1と同様に、レンズL21に遠近の異なる領域55および56を設け、レンズL15−2とレンズL21とを同期して回転することにより、近距離のフォーカシング性能と、中遠距離のフォーカシング性能とをさらに向上することも可能である。
【0038】
図15に、光学システムのさらに異なる例を示している。この光学システム1bの基本的な構成は上記の光学システム1と共通する。この光学システム1bは、第2のサブシステムSS2のレンズL21およびL22をフォーカシングのために光軸7に沿って移動する第1のフォーカシングユニット51と、第1のサブシステムSS1のレンズL16をレンズL16の光軸(中心軸)7を回転軸として回転して近距離用と中遠距離用との領域を切り替える第2のフォーカシングユニット52とを含む。光学システム1bの第2のサブシステムSS2のレンズL21は回転駆動されず、両側の面S15およびS16は、光学システム1の近距離用の非球面Aにそれぞれ固定されている。
【0039】
光学システム1bのレンズデータは、レンズL21の両側の面S15およびS16が近距離用の非球面Aにそれぞれ固定されていることと、レンズL16の縮小側の面S13が
図16に示すように3つの機能の異なる領域を含む自由曲面であることとを除き、光学システム1と共通する。
図17に、面S13の自由曲面係数を示す。
【0040】
図15に示すように、レンズL16は、第1のサブシステムSS1の最も拡大側に配置されたレンズであり、第1の中間像IM1の縮小側に隣接するレンズである。第1の中間像IM1は、光軸7の上側に形成される。このため、
図16(a)および(b)に示すように、レンズL16においては、光束6が、光軸7を含んで(跨いで)面S13の上側の偏心した区域を偏って通過する。面S13は、光軸7を含む中央の遠近共用の領域57と、その外側に配置された近距離用の領域55と、近距離用の領域55に対し遠近共用の領域57を挟んで反対側に配置された中遠距離用の領域56とを含む。レンズL16を回転して近距離用の領域55を上側にセットすると、光束6は近距離用の領域55と遠近共用の領域57とを通過する。レンズL16を180度回転して中遠距離用の領域56を上側にセットすると、光束6は中遠距離用の領域56と遠近共用の領域57とを通過する。
【0041】
図18に、スクリーン9に結像される像のドットの収束状態を示している。
図18(a)は、近距離用の領域55および遠近共用の領域57を用いて、近距離(450mm)、中距離(750mm)および遠距離(1000mm)にスクリーン9とミラーM1との距離をセットし、レンズL21およびL22を第1のフォーカシングユニット51により前後に動かしてフォーカスを調整した状態を示している。
図18(b)は、中遠距離の領域56および遠近共用の領域57を用いて、近距離、中距離および遠距離にスクリーン9とミラーM1との距離をセットし、レンズL21およびL22を第1のフォーカシングユニット51によりフォーカスを調整した状態を示している。
【0042】
これらの図を比較するとわかるように、中遠距離の領域56および遠近共用の領域57を用いることにより、中距離および遠距離のフォーカシング性能が大幅に改善され、近距離の領域55および遠近共用の領域57を用いることにより近距離のフォーカシング性能が大幅に改善されている。
【0043】
光束6は、レンズL15と同様に、レンズL16においても光軸7を含む(跨ぐ)偏心した領域(区域)を通過するが、レンズL15に対して、光束6は、レンズL16のより偏った領域(区域)を通過する。このため、光軸7を含む遠近共用の領域57の面積に対して、近距離用の領域55および中遠距離用の領域56の面積を広く確保でき、それぞれの距離にフォーカシングさせるために、より適した収差補正を行うことができる。また、レンズL16はフォーカシングの際に光軸7に沿って前後に移動しないレンズであり、遠近を切り替えるために回転する機構(第2のフォーカシングユニット)52の構成を簡易にできる。
【0044】
1つのレンズに複数の光学的な機能の異なる領域を設けるためには、レンズの一方の面の面積SA0のうち、光束が偏って通過する面積SA1の比率は以下の条件(1)を満たすことが望ましい。なお、光束が偏って通過する面積とは、レンズの一方の面へ光軸に対して偏った状態で通過する光束が、レンズの一方の面に入射した際の、面上における光束の面積のことである。
0.25≦SA1/SA0≦0.7・・・(1)
この比が0.25未満になるとレンズの使用効率が著しく低下してしまう。また、この比が0.7を超えると、異なる光学的特性を設ける面積が少なすぎて、光束6を補正する能力に差を設けることができにくい。この条件の下限は0.3であることがさらに望ましく、上限は0.6であることがさらに望ましく、0.5であることがさらに好ましい。
【0045】
図19に、レンズL15、L16およびL21の各面のレンズ面積(SA0)、光路面積(SA1)、および比(SA1/SA0)を示している。レンズL21は、
図1に示した光学システム1で光軸7を回転軸として回転させたレンズであり、レンズL16は、
図10に示した光学システム1aで光軸7を回転軸として回転させたレンズであり、レンズL15は、
図15に示した光学システム1bで光軸7を回転軸として回転させたレンズに対応するレンズである。いずれのレンズにおいても、レンズ面積(SA0)に対する光路面積(SA1)の比は、上記の条件(1)を満足する。
【0046】
図20に、本発明に係る光学システムの一例を含む撮像装置の一例の概略構成を示す。撮像装置の一例は、カメラであり、汎用のカメラであってもよく、監視用のカメラ、映画撮影用などの特殊な目的に特化したカメラであってもよい。また、撮像装置は、監視システムや、警報システム、情報処理装置、携帯端末などに組み込まれたもの、または、それらの機能を組み込んだものであってもよい。この撮像装置101は、撮像用の光学システム110と、縮小側に配置され、光学システム110に含まれる結像光学系111により結像される画像を撮像するユニット(撮像ユニット)120とを含む。撮像ユニット120の一例は、CCD、CMOSなどの撮像素子を含むユニットである。撮像ユニット120は可視光に限らず、近赤外光、赤外光などによる画像を撮像できるものであってもよい。
【0047】
結像光学系111は、1または複数のレンズを含み、拡大側(対物側)から入射した光を縮小側(撮像側)に第1の中間像IM1として結像する第1のサブシステムSS11と、1または複数のレンズを含み、第1の中間像IM1を縮小側の撮像ユニット120に最終像として結像する第2のサブシステムSS12とを含む。これら第1のサブシステムSS11および第2のサブシステムSS12は、パワーのない、またはパワーを備えた反射面を含んでもよい。中間像を結像するタイプの撮像レンズシステムの一例は、日本国特許公開公報2015−179270に開示されている。
【0048】
本例の第2のサブシステムSS12は、第1の中間像IM1の側に配置され、フォーカシングの際に、フォーカシングユニット152により、光軸7を中心として回転駆動されるレンズL201と、レンズL201の縮小側(撮像側)に配置された撮像側のレンズ群SS202とを含む。撮像側の光学系(レンズ群)SS202は、1または複数のレンズを含み、変倍(ズーミング)のために光軸7に沿って複数のレンズを含んでもよい。レンズL201が焦点調整用レンズである。
【0049】
レンズL201は、第2のサブシステムSS12の最も拡大側に配置されたレンズであり、第1のサブシステムSS1が結像する第1の中間像IM1の縮小側に、中間像IM1に隣接して配置されるレンズである。第1の中間像IM1は、光軸7に対して一方の側に結像することが可能である。例えば、拡大側(対物側)において光軸7を中心として上下一方の側(一方の高画角側)の領域(画像、画面、対象物)を撮像するような撮像装置においては、第1の中間像IM1を光軸7の一方の側、例えば、下側に限って結像することが可能である。この場合、第1の中間像IM1は光軸7を跨がず、光軸7に対して偏った位置に形成される。したがって、縮小側に結像するための光束108がレンズL201の両面の光軸7を跨がない、または、光束108が光軸7を跨いでも、光軸7に対して偏心した区域を偏って通過する。このため、上述した光学システム1のレンズL21と同様に、駆動ユニットであるフォーカシングユニット152によりレンズL201を回転することにより、両面の異なる領域を光束が通過するように設定できる。
【0050】
例えば、撮像側のレンズ群SS202がズーム機能を含む場合、レンズL201の一方の領域を望遠側の撮像に適したフォーカスが得られる領域として使用し、レンズL201の他方の領域を広角側の撮像に適したフォーカスが得られる領域として使用できる。また、光学システム110が監視カメラ用の場合、レンズL201の一方の領域を可視光の画像の撮像に適したフォーカスが得られる領域として使用し、レンズL201の他方の領域を近赤外光、または可視光と近赤外光とを含む画像の撮像に適したフォーカスが得られる領域として使用できる。
【0051】
上記に開示した光学システムは、光軸に対して斜めに光が入射されたり、出射されたりする設計のレンズを含む光学システムの一例であり、光学システムはミラーを含まない光学システムであってもよく、中間像を含まない光学システムであってもよい。本発明は、光学システムの内部を通過する光束(光路)が光軸に対して偏った位置(片寄った位置)を通過するように設計される光学システムに適用でき、光学システムを構成するレンズ枚数は1枚であってもよい。複数枚のレンズを含む光学システムであって、特に、広角なレンズシステムにおいてはレトロフォーカスと呼ばれる非対称な配置(構造)が採用されることが多い。また、超短焦点の光学システムにはミラーを用いることが多く、非対称性が大きくなりやすい。さらに、ライトバルブとなるディスプレイ(画像ユニット)を光軸7に対してオフセットしてレンズに対して斜入射する光学システムも多い。台形補正を行うプロジェクタ用の光学システムは、光学システム内を通過する光束が台形またはそれに近い形状になる部分が多く、本発明を適用しやすい。
【0052】
そのような光学システムの、光束が偏った位置を通過する位置に配置されたレンズにおいては、レンズの一部が結像に用いられ、他の部分(他の領域)は結像に用いられない。そのレンズの結像に用いられない部分に、光学的な特性の異なる複数の領域を設け、レンズを回転することにより、光束が通過する偏心した区域の光学的特性を切り替えられることができる。上記においては、フォーカシングに注目し、1つのレンズに、解像性能(SPOT DIAGRAM・MTF)の異なる、近距離に集光する性能を重視した領域と、中遠距離に集光する性能を重視した領域との2つの領域を設けているが、近中距離用の領域と、遠距離用の領域とに分けてもよく、さらに、近距離用、遠距離用および中距離用の3つの領域を設けて切り替えることも可能である。また、上記の例では、レンズの特性を切り替えることにより、フォーカシングが可能な範囲を拡大しているが、レンズの特性を切り替えることにより光軸に沿って移動するレンズの移動距離を短縮したり、移動するレンズの数を抑制したり、フォーカスカムの設計に自由度を与えたりすることも可能である。
【0053】
また、レンズに複数の光学的性能の異なる領域を設けて切り替えることにより、1つのレンズの波長特性を変えることも可能である。たとえば、監視用途の光学システムにおいては、システム内の1つまた複数のレンズを可視光の収差補正を重視した領域と、近赤外光の収差補正を重視した領域とに分けて切り替えて使うようにしてもよい。また、画面歪曲形状の距離変動を抑えるような光学的特性を備えた複数の領域を設けてもよい。
【0054】
さらに、1つの光学システムの中に含まれる、複数の異なる光学的特性を備えたレンズの枚数は1枚に限らず複数枚であってもよく、光学システム内の位置は最も広角側であってもよく、最も縮小側であってもよく、中間のいずれの位置であってもよい。たとえば、広角な投射光学系のレンズシステムの最も広角側(最もスクリーン側)のレンズに複数の特性の異なる領域を設けて、焦点距離を変えたり、投射する画像の大きさを変えたりすることができる。また、それぞれが複数の異なる光学的特性の領域を備えた複数枚のレンズを用途などに合わせて回転することにより、1つの光学システムであって様々な光学的特性を備えた光学システムを提供できる。そのような光学システムは、汎用性の高い光学システムであってもよく、特定の条件で特定の光学的性能が要求される光学システムであってもよく、アプリケーションの要求に対してユーザー側で光学的性能あるいは特性を制御できるような光学システムであってもよい。