特許第6383570号(P6383570)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 旭化成株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6383570-ポリウレタン弾性繊維 図000003
  • 特許6383570-ポリウレタン弾性繊維 図000004
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6383570
(24)【登録日】2018年8月10日
(45)【発行日】2018年8月29日
(54)【発明の名称】ポリウレタン弾性繊維
(51)【国際特許分類】
   D01F 6/94 20060101AFI20180820BHJP
   D03D 15/08 20060101ALI20180820BHJP
   D04B 1/18 20060101ALI20180820BHJP
【FI】
   D01F6/94 A
   D03D15/08
   D04B1/18
【請求項の数】8
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-108511(P2014-108511)
(22)【出願日】2014年5月26日
(65)【公開番号】特開2015-224399(P2015-224399A)
(43)【公開日】2015年12月14日
【審査請求日】2017年4月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 均
(72)【発明者】
【氏名】山本 太郎
【審査官】 清水 晋治
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−307409(JP,A)
【文献】 特開2010−150676(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/004549(WO,A1)
【文献】 米国特許第08920922(US,B1)
【文献】 韓国公開特許第2010−1163270(KR,A)
【文献】 中国特許出願公開第101484620(CN,A)
【文献】 特開2006−124841(JP,A)
【文献】 特開2005−330617(JP,A)
【文献】 特開平07−097560(JP,A)
【文献】 特開2009−019292(JP,A)
【文献】 特開2008−184722(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 1/00−6/96
9/00−9/04
D03D 1/00−27/18
D04B 1/00−1/28
21/0−21/20
C08G 18/00−18/87
71/00−71/04
C08K 3/00−13/08
C08L 1/00−101/14
Japio−GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリウレタン化合物とポリウレタンウレア重合体を含有するポリウレタン弾性繊維であって、該ポリウレタン化合物は、高分子量ポリオール、ジイソシアネート、及び低分子量ジオールを反応させて得られ、分子量が60000以上150000以下であり、かつ、該ポリウレタン化合物及び該ポリウレタンウレア重合体を構成する全てのジイソシアネート由来のユニットのうち、脂肪族ジイソシアネート由来のユニットが5モル%以上50モル%以下である、前記ポリウレタン弾性繊維。
【請求項2】
前記ポリウレタン化合物を5重量%以上50重量%以下含有し、前記ポリウレタンウレア重合体を50重量%以上含有する、請求項1に記載のポリウレタン弾性繊維。
【請求項3】
前記ポリウレタン化合物のフローテスターによる流出開始温度が80℃以上160℃以下である、請求項1又は2に記載のポリウレタン弾性繊維。
【請求項4】
前記脂肪族ジイソシアネートが、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、1,3−ビス(イソシアナートメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(イソシアナートメチル)シクロヘキサン、及びイソホロンジイソシアネートからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリウレタン弾性繊維。
【請求項5】
98℃の湿熱処理をした際のポリウレタン弾性繊維同士の熱接着剥離応力が0.1cN/dt以上である、請求項1〜のいずれか1項に記載のポリウレタン弾性繊維。
【請求項6】
180℃の乾熱処理をした際のポリウレタン弾性繊維同士の熱接着剥離応力が0.2cN/dt以上である、請求項1〜のいずれか1項に記載のポリウレタン弾性繊維。
【請求項7】
98℃の湿熱処理をした際の解編応力が0.2cN/dt以上である、請求項1〜のいずれか1項に記載のポリウレタン弾性繊維。
【請求項8】
請求項1〜のいずれか1項に記載のポリウレタン弾性繊維を少なくとも一部に用いた布帛。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主にポリウレタン弾性繊維を混用した衣料製品のほつれ防止に有用な熱合着性を有するポリウレタン弾性繊維、及び該弾性繊維を用いた編地又は織物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリウレタン弾性繊維は、優れた弾性機能を有する繊維であり、ナイロンやポリエステル等の合成繊維から再生繊維、天然繊維まで様々な繊維と交編織して使用される。その用途は、ファンデーションやソックス、パンティーストッキング、水着、近年需要が急速に高まっているコンプレッションウェア等の衣料用途から、オムツや包帯、ネット、テープ、自動車内装材まで非常に幅広く使用されている。
通常、ポリウレタン弾性繊維の使用された布帛は、裁断、縫製、仕上げ加工等の製造工程を経て製品となるが、裁断して縫製する際に、布帛の設計によっては、裁断部がほつれやすく縫製しにくい、さらにほつれた縁部で布帛の編地組織からポリウレタン弾性繊維が抜けて、その部分の布帛の伸縮性が低下するという問題が起こる。
また、ポリウレタン弾性繊維を使用した製品、例えば、パンティーストッキングなどにおいては、使用時に生地中の一部の糸が切れた場合に、その部分から組織が崩れる「ラン」いわゆる「伝線」と呼ばれる現象が起こる。着用時に「ラン」が発生すると外観を大きく損なうため、履き替えを余儀なくされるなど、ポリウレタン弾性繊維を使用した製品の耐久性の観点や、使用者に対する経済的な面から問題があった。
【0003】
これらの問題に対処するため、以下の特許文献1では、ポリウレタンウレアに特定のポリウレタン化合物を添加し、ポリウレタン弾性繊維に熱接着性能を持たせることで、加工時の熱処理により、生地の裁断部のほつれを改善することが開示されている。しかし、特許文献1に記載された方法では、180℃という高温をかけた場合でなければ、十分な熱接着性能を発現することができず、例えば、パンティーストッキングにおいては、一般的なプレセット温度である90℃から120℃の処理温度では十分なほつれ防止機能を得ることができない。特許文献1に記載された技術では、十分なほつれ防止機能を得るためには、加工する際のプレセット温度を上げざるを得ず、加工業者にとって高いプレセット温度のかけられる設備が必要となり、設備的な負担が大きくなる。また、高温をかけるためエネルギーコストも高くなってしまうだけでなく、製品の風合いが低下するという問題があった。
【0004】
また、以下の特許文献2には、低融点のポリウレタン弾性繊維を使用することが開示されている。しかし、特許文献2に記載された技術によって得られたポリウレタン弾性繊維は、低温での熱処理でもほつれ防止機能が得られるものの、低融点の特性のために染色やセットといった編地加工時の熱による糸の物性低下が大きく、パンティーストッキング以外の一般的なポリウレタン弾性繊維の使用条件である170℃以上のプレセット温度では、布帛の回復性の大幅な低下や糸切れが起こるなどの耐熱性の面で問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−177359号公報
【特許文献2】特開2006−307409号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来技術の問題点に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、高い回復性、耐熱性を有し、かつ低い加工処理温度でも熱合着し、高いほつれ防止機能を有するポリウレタン弾性繊維を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、従来より低い加工温度で衣料製品のほつれ防止性を発現するポリウレタン弾性繊維として、特定の分子量のポリウレタン化合物をポリウレタンウレア重合体に添加することで、上記課題を解決できることを見出し、本発明をなすに至った。
【0008】
すなわち本発明は、以下のとおりのものである。
[1]ポリウレタン化合物とポリウレタンウレア重合体を含有するポリウレタン弾性繊維であって、該ポリウレタン化合物は、高分子量ポリオール、ジイソシアネート、及び低分子量ジオールを反応させて得られ、分子量が60000以上150000以下であり、かつ、該ポリウレタン化合物及び該ポリウレタンウレア重合体を構成する全てのジイソシアネート由来のユニットのうち、脂肪族ジイソシアネート由来のユニットが5モル%以上50モル%以下である、前記ポリウレタン弾性繊維。
【0009】
[2]前記ポリウレタン化合物を5重量%以上50重量%以下含有し、前記ポリウレタンウレア重合体を50重量%以上含有する、前記[1]に記載のポリウレタン弾性繊維。
【0010】
[3]前記ポリウレタン化合物のフローテスターによる流出開始温度が80℃以上160℃以下である、前記[1]又は[2]に記載のポリウレタン弾性繊維。
【0012】
]前記脂肪族ジイソシアネートが、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、1,3−ビス(イソシアナートメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(イソシアナートメチル)シクロヘキサン、及びイソホロンジイソシアネートからなる群から選ばれる少なくとも1種である、前記[〜[3]のいずれかに記載のポリウレタン弾性繊維。
【0013】
]98℃の湿熱処理をした際のポリウレタン弾性繊維同士の熱接着剥離応力が0.1cN/dt以上である、前記[1]〜[]のいずれかに記載のポリウレタン弾性繊維。
【0014】
]180℃の乾熱処理をした際のポリウレタン弾性繊維同士の熱接着剥離応力が0.2cN/dt以上である、前記[1]〜[]のいずれかに記載のポリウレタン弾性繊維。
【0015】
]98℃の湿熱処理をした際の解編応力が0.2cN/dt以上である、前記[1]〜[]のいずれかに記載のポリウレタン弾性繊維。
【0016】
]前記[1]〜[]のいずれかに記載のポリウレタン弾性繊維を少なくとも一部に用いた布帛。
【発明の効果】
【0017】
本発明のポリウレタン弾性繊維を生地、衣料製品に用いることで、従来よりも低い加工処理温度で、ポリウレタン弾性繊維同士、又はポリウレタン弾性繊維と相手糸とで接着が起こるため、ほつれが抑制された生地、衣料製品を得ることができる。加工時のエネルギーコストも低く抑えることができるだけでなく、高温での熱処理による相手素材の風合い低下や劣化などを避けることができる。また。本発明のポリウレタン弾性繊維は、低い加工温度だけでなく、高い加工処理温度でも十分な弾性性能を保持するだけの耐熱性を備えているため、加工処理における熱的条件の制約が少なく、ポリウレタン弾性繊維が使用される繊維製品で一般的に用いられるあらゆる相手糸との組合せの製品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】ポリウレタン弾性繊維同士の熱接着剥離応力測定方法を説明する図である。
図2】ナイロン糸でカバリングされたポリウレタン弾性繊維からなる一口編地中での熱接着剥離応力測定方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。
本発明のポリウレタン弾性繊維は、ポリウレタン化合物とポリウレタンウレア重合体を含有する又は両者から本質的になる。但し、他の添加剤が含有されることを排除するものではない。
【0020】
本実施形態に用いるポリウレタンウレア重合体は、例えば、高分子ポリオール、ジイソシアネート、2官能性アミン、及び単官能性活性水素原子を有する末端停止剤を反応させて得ることができる。
【0021】
高分子ポリオールとしては、実質的に線状のホモ又は共重合体からなる各種ジオール、例えば、ポリエステルジオール、ポリエーテルジオール、ポリエステルアミドジオール、ポリアクリルジオール、ポリチオエステルジオール、ポリチオエーテルジオール、ポリカーボネートジオール又はこれらの混合物又はこれらの共重合物等が挙げられる。好ましくはポリアルキレンエーテルグリコールであり、例えば、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリオキシペンタメチレングリコール、テトラメチレン基と2,2−ジメチルプロピレン基から成る共重合ポリエーテルグリコール、テトラメチレン基と3−メチルテトラメチレン基から成る共重合ポリエーテルグリコール又はこれらの混合物等である。中でも、優れた弾性機能を示す、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、テトラメチレン基と2,2−ジメチルプロピレン基から成る共重合ポリエーテルグリコールが好適であり、数平均分子量としては500〜5,000が好ましい。より好ましい数平均分子量は1,000〜3,000である。
【0022】
ジイソシアネートとしては、脂肪族、脂環族、芳香族のジイソシアネートが挙げられる。例えば、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4−及び2,6−トリレンジイソシアネート、m−及びp−キシリレンジイシシアネート、α,α,α’,α’−テトラメチル−キシリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルエーテルジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、1,3−ビス(イソシアナートメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(イソシアナートメチル)シクロヘキサン、3−(α−イソシアナートエチル)フェニルイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート又はこれらの混合物又はこれらの共重合物等が挙げられる。
【0023】
本実施形態のポリウレタンウレア重合体を製造する方法に関しては、プレポリマー法やワンショット法等の公知のポリウレタン化反応の技術を用いることができる。例えば、ポリアルキレンエーテルグリコールとジイソシアネートをジイソシアネート過剰の条件下で反応させ、末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを合成し、次いで、このウレタンプレポリマーを2官能性アミンで鎖伸張反応を行い、ポリウレタンウレアを得ることができる。
【0024】
ポリウレタン化反応の操作に関しては、ウレタンプレポリマー合成時やウレタンプレポリマーと活性水素含有化合物との反応時に、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド等のアミド系極性溶媒を用いることができる。好ましくはジメチルアセトアミドである。
また、ポリウレタンウレア重合体の合成の際には、公知の金属系触媒やアミン系触媒を1種類又は2種以上混合して使用することができる。金属系触媒としては、ジブチルスズジラウレートやスタナスオクトエートなどの有機スズ触媒の他、亜鉛、チタン、ビスマスなどの有機金属触媒が挙げられる。アミン系触媒としては、トリエチレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルヘキサメチレンジアミン、N,N,N’,N”,N”−ペンタメチルジエチレントリアミン、N−メチル−N’−(2−ジメチルアミノエチル)ピペラジン、N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリン、トリエチルアミン、N,N−ジメチルアミノエタノール、1,8−ジアザ−ビシクロ[5,4,0]ウンデセン−7(DBU)、その有機酸塩等が挙げられる。
【0025】
本実施形態に用いるポリウレタン化合物は、高分子ポリオール、ジイソシアネート、低分子ジオールを反応させて得ることができる。また、単官能性活性水素原子を有する末端停止剤を反応させてもよい。
【0026】
高分子ポリオールとしては、実質的に線状のホモ又は共重合体からなる各種ジオール、例えば、ポリエステルジオール、ポリエーテルジオール、ポリエステルアミドジオール、ポリアクリルジオール、ポリチオエステルジオール、ポリチオエーテルジオール、又はこれらの混合物又はこれらの共重合物等が挙げられる。ポリエーテルジオールとしては、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリオキシペンタメチレングリコール、テトラメチレン基と2,2−ジメチルプロピレン基から成る共重合ポリエーテルグリコール、テトラメチレン基と3−メチルテトラメチレン基から成る共重合ポリエーテルグリコール又はこれらの混合物等である。ポリエステルジオールとしては、アジピン酸、フタル酸などの二塩基酸とエチレングリコール、1,4−ブタンジオールなどのグリコール類との縮合脱水反応によるアジペート系ポリエステルジオール、ε−カプロラクトンの開環重合によるポリカプロラクトンジオール、ポリカーボネートジオール等である。高分子ポリオールは、数平均分子量として500〜2,500のものが好ましい。より好ましくは600〜2,200である。
【0027】
ジイソシアネートとしては、脂肪族、脂環族、芳香族のジイソシアネートが挙げられる。例えば、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4−及び2,6−トリレンジイソシアネート、m−及びp−キシリレンジイシシアネート、α,α,α’,α’−テトラメチル−キシリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルエーテルジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、1,3−ビス(イソシアナートメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(イソシアナートメチル)シクロヘキサン、3−(α−イソシアナートエチル)フェニルイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート又はこれらの混合物又はこれらの共重合物等が挙げられる。
【0028】
鎖延長剤として用いる低分子ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、ヘキサメチレングリコール、ジエチレングリコール、1,10−デカンジオール、1,3−ジメチロールシクロヘキサン、1,4−ジメチロールシクロヘキサンを用いることができる。好ましくは、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオールである。
【0029】
単官能性活性水素原子を有する末端停止剤としては、例えば、メタノール、エタノール、2−プロパノール、2−メチル−2−プロパノール、1−ブタノール、2−エチル−1−ヘキサノール、3−メチル−1−ブタノール等のモノアルコールや、イソプロピルアミン、n−ブチルアミン、t−ブチルアミン、2−エチルヘキシルアミン等のモノアルキルアミンや、ジエチルアミン、ジメチルアミン、ジ−n−ブチルアミン、ジ−t−ブチルアミン、ジイソブチルアミン、ジ−2−エチルヘキシルアミン、ジイソプロピルアミン等のジアルキルアミンが挙げられる。これらは単独で又は混合して用いてもよい。
【0030】
本実施形態のポリウレタン化合物を製造する方法に関しては、プレポリマー法やワンショット法といった公知のポリウレタン化反応の技術を用いることができる。例えば、高分子ポリオールとジイソシアネートをジイソシアネート過剰の条件下で反応させ、末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを合成し、次いで、このウレタンプレポリマーを低分子ジオールで鎖伸長反応を行い、ポリウレタン化合物を得ることができる。
【0031】
ポリウレタン化反応の操作に関しては、ウレタンプレポリマー合成時やウレタンプレポリマーと低分子ジオールとの反応時に、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド等のアミド系極性溶媒を用いることができる。好ましくはジメチルアセトアミドである。
また、ポリウレタンウレア重合体の合成の際には、公知の金属系触媒やアミン系触媒を1種類または2種以上混合して使用することができる。金属系触媒としては、ジブチルスズジラウレートやスタナスオクトエートなどの有機スズ触媒の他、亜鉛、チタン、ビスマスなどの有機金属触媒が挙げられる。アミン系触媒としては、トリエチレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルヘキサメチレンジアミン、N,N,N’,N”,N”−ペンタメチルジエチレントリアミン、N−メチル−N’−(2−ジメチルアミノエチル)ピペラジン、N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリン、トリエチルアミン、N,N−ジメチルアミノエタノールなどや、1,8−ジアザ−ビシクロ[5,4,0]ウンデセン−7(DBU)、その有機酸塩等が挙げられる。
【0032】
本実施形態で用いるポリウレタン化合物は、分子量が60000以上150000以下であることを特徴とする。ここで述べる分子量とは後述のGPCによって測定されるポリスチレン換算の分子量を指す。ポリウレタン化合物の分子量が60000未満の場合、ポリウレタン弾性繊維の強力が低下し、また、染色やセット時の熱に対する耐熱性も大きく低下する。またポリウレタン化合物の分子量が150000を超えると十分な熱合着性能が得られない。ポリウレタン弾性繊維の強度・耐熱性と熱接着剥離応力の両方を備える好ましいポリウレタン化合物の分子量としては80000以上130000以下であり、より好ましくは90000以上120000以下である。
【0033】
本実施形態のポリウレタン弾性繊維は、ポリウレタン化合物とポリウレタンウレア重合体を含有するか又は両者からなるが、ポリウレタン弾性繊維中に占めるポリウレタン化合物の割合が5重量%以上50重量%以下であることが好ましい。ポリウレタン化合物の割合が5重量%未満であると、加工処理時の熱によって十分な熱合着性能を発現することができず、50重量%を超えると、ポリウレタン弾性繊維の強度や耐熱性が大幅に低下してしまう。ポリウレタン弾性繊維の強度や耐熱性と熱接着剥離応力の両方を備える好ましいポリウレタン化合物の含有量としては10重量%以上40重量%以下がより好ましい。
【0034】
本実施形態のポリウレタン弾性繊維に含有されるポリウレタン化合物は後述のフローテスターによる流出開始温度が80℃以上160℃以下の範囲内にあることが好ましい。ポリウレタン化合物の流出開始温度が80℃より低いと、加工時の熱で糸切れが発生したり、ポリウレタン弾性繊維を生産する際に紡糸が不安定になるなどの問題があり、160℃を超えると熱接着性能を発揮しない。ポリウレタン弾性繊維の強度・耐熱性と熱接着剥離応力の両方を備えるポリウレタン化合物のフロー温度としては90℃以上150℃以下であることがより好ましい。
【0035】
本実施形態のポリウレタン弾性繊維は、ポリウレタン弾性繊維を中のポリウレタン化合物とポリウレタンウレア重合体を構成する全てのジイソシアネート由来のユニットのうち、5モル%以上50モル%以下が脂肪族ジイソシアネートであることが好ましい。脂肪族イソシアネート由来ユニットの含有量が5モル%未満だと熱合着性能が不十分となり、50モル%を超えるとポリウレタン弾性繊維の強力低下や熱処理後の糸切れ等の問題が発生する場合がある。
ここで述べる脂肪族ジイソシアネートとしては、鎖状構造でも環状構造でも構わない。
【0036】
鎖状構造を有する脂肪族ジイソシアネートの具体例としては、エチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、ドデカメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、2,6−ジイソシアナトメチルカプロエート、ビス(2−イソシアナートエチル)カーボネート、2−イソシアナートエチル−2,6−ジイソシアナートヘキサノエートなどが挙げられる。
【0037】
環状構造を有する脂肪族ジイソシアネートの具体例としては4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H12MDI)、1,3−ビス(イソシアナートメチル)シクロヘキサン(1,3−HXDI)、1,4−ビス(イソシアナートメチル)シクロヘキサン(1,4−HXDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、シクロヘキシレンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート、ビス(2−イソシアナートエチル)−4−シクロヘキシレン−1,2−ジカルボキシレート、2,5−ノルボルナンジイソシアネート、2,6−ノルボルナンジイソシアネート、メチルシクロヘキサン−2,4−ジイソシアネート、メチルシクロヘキサン−2,6−ジイソシアネート、シクロヘキサン−1,4−ジイソシアネート、ヘキサヒドロキシリレンジイソシアネート、ヘキサヒドロトリレンジイソシアネート、オクタヒドロ−1,5−ナフタレンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0038】
本実施形態のポリウレタン弾性繊維には、上記の鎖状、環状構造の脂肪族ジイソシアネートのうち、1,6−HDI、IPDI、H12MDI、1,3−HXDI、及び1,4−HXDIからなる群から選択される少なくとも1種であることがより好ましい。これらは単独で用いても2つ以上を組み合わせてもよい。
上述のように、本発明のポリウレタン弾性繊維中のポリマーを構成する脂肪族ジイソシアネート由来のユニットは、ポリウレタン化合物とポリウレタンウレア重合体のどちらか一方に含まれても、ポリウレタン化合物とポリウレタンウレア重合体の両方に含まれてもよいが、ポリウレタン弾性繊維の耐熱性、伸長回復性の面から、ポリウレタン化合物のみに含まれる方が好ましい。
【0039】
本実施形態のポリウレタン弾性繊維では、熱加工処理を行いポリウレタン弾性繊維同士を熱合着させた際の剥離応力が、それぞれ特定の性能以上あることが好ましい。例えば、パンティーストッキングの加工を想定した場合、後述の評価方法にて、湿熱98℃で処理し、ポリウレタン繊維同士を熱接着させた際の剥離応力が0.1cN/dt以上であることが好ましい。この熱接着剥離応力が0.1cN/dt以上であれば、本実施形態のポリウレタン弾性繊維を使用した製品、例えば、パンティーストッキングにおいて、十分なラン防止機能を発揮することができる。ラン防止機能を発現させる観点から、この熱接着剥離応力が0.2cN/dt以上であることがより好ましく、0.3cN/dt以上であることがさらに好ましい。
【0040】
また、後述の評価方法にて、作製した丸編地をプレセット湿熱98℃で処理した際、編地からポリウレタン弾性繊維を引き抜く際の解編応力が0.2cN/dt以上であることが好ましい。編地の解編応力が0.2cN/dt以上であれば、各種衣料において、十分なほつれ防止機能を発現する。ほつれ防止機能を発現させる観点からは、この編地解編応力は0.3cN/dt以上であることがより好ましく、0.4cN/dt以上であることがさらに好ましい。
【0041】
一般衣料向け布帛を想定した場合、後述の評価方法にて、乾熱180℃でポリウレタン繊維同士を熱接着させた際の糸の剥離応力が0.2cN/dt以上であることが好ましい。この熱接着剥離応力が0.2cN/dt以上であれば、本実施形態のポリウレタン弾性繊維を使用した布帛において、十分なほつれ防止機能を発揮することができる。ほつれ防止機能を発現させる観点からは、この熱接着剥離応力が0.2cN/dt以上であることがより好ましく、0.3cN/dt以上であることがさらに好ましい。
【0042】
本実施形態のポリウレタン弾性繊維は、分子量が60000以上150000以下のポリウレタン化合物とポリウレタンウレア重合体からなるポリウレタン組成物を、アミド系極性溶媒に溶解して得られたポリウレタン紡糸原液を紡糸し、繊維状に加工することによって得られる。紡糸方法は、公知の紡糸方法であればいずれでも構わないが、ポリウレタン弾性繊維の強度の観点から乾式紡糸が好ましい。アミド系極性溶媒としては、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミドが挙げられる。
【0043】
ポリウレタン化合物とポリウレタンウレア重合体を混合する方法としては、どのような手段をとってもよく、例えば、ポリウレタン化合物とポリウレタンウレア重合体を直接混ぜ合わせる方法、ポリウレタン化合物、ポリウレタンウレア重合体のいずれか又は両方を溶媒に溶解した後に混合する方法、紡糸時にポリウレタンウレアとポリウレタン化合物を別々のノズルから吐出して巻き取った後に糸を合わせる方法、繊維表面にポリウレタン化合物を局在化させて鞘芯構造をとる方法のいずれでも構わない。但し、生産工程性の観点から、ポリウレタン化合物とポリウレタンウレア重合体を均一に混合した紡糸原液を紡糸することが好ましい。
ポリウレタン紡糸原液中で均一に混合させるには、アミド系極性溶媒中で合成したポリウレタン化合物及び/又はポリウレタンウレア重合体を混合する方法、無溶媒で重合したポリウレタン化合物をアミド系極性溶媒に溶解させた後にポリウレタンウレア溶液中に添加する方法、溶融したポリウレタンポリマーをポリウレタンウレア溶液に添加する方法、粉末又はペレット状としたポリウレタン化合物をポリウレタン組成物のアミド系極性溶媒中で溶解させる方法等が挙げられる。
【0044】
本実施形態のポリウレタン弾性繊維には、ポリウレタン弾性繊維に通常使用される公知の添加剤、例えば、紫外線吸収材、酸化防止剤、光安定剤、耐ガス着色防止剤、耐塩素剤、着色剤、艶消し剤、滑剤、充填剤等を添加してもよい。
【0045】
本実施形態のポリウレタン弾性繊維は、ジメチルシリコーンを1.0重量%以上6.0%以下含有することが好ましい。1.0重量%以上のジメチルシリコーンを含有することで、ポリウレタンウレア弾性繊維を使用する際に、パッケージからの糸の解じょ性が良好となり、経時での解じょ性の低下を抑制することができる。また、ジメチルシリコーンの含有量を6.0重量%以下とすることで、パッケージから糸の巻き崩れを防止することができる。
【0046】
本実施形態のポリウレタン弾性繊維には、油剤として、ジメチルシリコーン、鉱物油等を含有させることができ、ポリエステル変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーン、アミノ変性シリコーン等の変性シリコーンを含有させてもよい。さらに油剤には、タルク、コロイダルアルミナ等の鉱物性微粒子、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム等の高級脂肪酸金属塩粉末、高級脂肪族カルボン酸、高級脂肪族アルコール、パラフィン、ポリエチレン等の常温で固体のワックス等を単独又は必要に応じて任意に組み合わせて用いてもよい。
【0047】
本実施形態のポリウレタン弾性繊維は、他の繊維素材と組み合わせて、編地、織物などの布帛を得ることができる。これらは、例えば、ガードル、ブラジャー、インティメント商品、肌着等の各種ストレッチファンデーションや、タイツ、パンティストッキング、ボディスーツ、スパッツ、水着、スポーツウェア、アウター、ストレッチ裏地等の衣料製品であることができる。本実施形態のポリウレタン弾性繊維を使用した布帛は、プレセット、染色、ファイナルセットといった熱加工処理工程を経て、布帛中のポリウレタン弾性繊維がポリウレタン弾性繊維又は相手糸と熱合着することで高いほつれ防止機能を発現する。本実施形態のポリウレタン弾性繊維を使用した布帛に使用される繊維素材は特に制限がなく、例えば、ナイロン6やナイロン66などのポリアミド繊維、ポリエチレンテレフタレートやポリトリメチレンテレフタレートなどのポリエステル繊維、銅アンモニア再生レーヨン、ビスコースレーヨン、アセテートレーヨン、綿、絹、羊毛、麻等の天然繊維が挙げられる。
【実施例】
【0048】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
まず、ポリウレタン化合物の分析方法とポリウレタン弾性繊維の性能評価のための各種評価方法について述べる。
【0049】
(1)ポリウレタン化合物の分子量測定
LiBrを0.02mol/L含有するジメチルアセトアミド溶液にて、固形分濃度が0.25重量%になるようにポリウレタン化合物を溶解し、測定サンプルとする。
作製したサンプルをShodex社製GPC−101にて、以下に示す条件で測定する。尚、ポリウレタン化合物の分子量は、Shodex社製のポリスチレン標準サンプル(SM−105)を全サンプル測定し、ピークトップ分子量から求めた検量線から算出した数平均分子量のことを指す。
カラム:(サンプル側)→KD−G→KD−806M→KD−806M→KD−802.5→KD−801×3→RI−71S(検出器)(以上は全てShodex社製)
カラムオーブン温度:60℃
流量:1.0ml/min
溶離液:LiBrを0.02mol/Lの濃度で含有するジメチルアセトアミド溶液
【0050】
(2)ポリウレタン化合物の流出開始温度測定
ポリウレタン化合物をフローテスターCFT−500D型((株)島津製作所製)を使用して測定する。ポリウレタン化合物がペレットなどの粒子形状の場合、最大外径が2mmを超える際は、2mm以下になるように細化した後に測定する。また、ポリウレタン化合物がジメチルアセトアミド等の溶媒に溶解している場合は、乾燥後の厚みが100μm程度になるようにその溶液をガラスの平板にキャストし、50℃の乾燥庫で12時間以上乾燥させてフィルム化した後に5mm幅の短冊上に切り出し、さらに1mm間隔に切り刻み、1mm×5mm×100μm程度に細化して測定する。
一回の測定に必要なサンプルの量は1.5gで、ダイ(ノズル)は直径0.5mm、厚み1.0mmのものを使用し、5kgの押出荷重を加え、初期設定温度80℃で予熱時間240秒後、3℃/分の速度で250℃まで等速昇温した時のストローク長(mm)と温度の曲線を求める。温度上昇に伴い、トナー内部のポリマーが加熱され、ダイからポリマー流出し始める。この時の温度を流出開始温度とする。
【0051】
(3)熱接着剥離応力(湿熱98℃でのポリウレタン弾性繊維同士)
5cm幅でサンプリング(両端は両面テープに挟んで固定)した2本の試験糸を、図1に示すように中心で交絡させ、1cmの間隔を空けて金型に固定する。原糸が100%伸長となるように伸長させた状態で、98℃のスチームで20分間処理する。処理後、金枠からサンプルを外し、交絡を解除して、融着部だけで2本が接する状態にする。各々の試験糸両端は重ねておく。
引張試験機(オリエンテック(株)社製UTM−III−100型(商品名))を用い、各々の試験糸両端を試験機上下チャックにあわせてつかみセットする。50cm/分で引張り接着部が剥がれる際の最大応力P(cN)を測定し、ポリウレタン弾性繊維サンプルの繊度(dt)で除する。
【0052】
(4)熱接着剥離応力(乾熱180℃でのポリウレタン弾性繊維同士)
5cm幅でサンプリング(両端は両面テープに挟んで固定)した2本の試験糸を、図1のように中心で交絡させ、1cmの間隔を空けて金型に固定する。原糸が100%伸長となるように伸長させた状態で、湯洗を90℃10分間行った後、乾熱で180℃1分間処理する。処理後、金枠からサンプルを外し、交絡を解除して、融着部だけで2本が接する状態にする。各々の試験糸両端は重ねておく。
引張試験機(オリエンテック(株)社製UTM−III−100型(商品名))を用い、各々の試験糸両端を試験機上下チャックにあわせてつかみセットする。50cm/分で引張り接着部が剥がれる際の最大応力P(cN)を測定し、ポリウレタン弾性繊維サンプルの繊度(dt)で除する。
【0053】
(5)編地解編応力
本実施形態のポリウレタン弾性繊維をナイロン66糸13dT/7fで1600T/m、カバリングドラフト2.3でカバリングした後、その糸を24ゲージ/2.54cmの一口丸編機で、1g荷重の編み張力で一口丸編地を作製する。作製した丸編地を98℃のスチームで20分間プレセット処理した後、100℃の水で30分間ボイルし、120℃のスチームで20秒間ファイナルセットする。熱処理した編地を編目に沿って切断し、引張試験機(オリエンテック(株)社製UTM−III−100型(商品名))を用い、図2のように上部チャックに編地をセットし、編地の端から引き出したポリウレタン弾性繊維の端を下部チャックにセットし、50cm/分の速度で引張り、編地の一端からポリウレタン弾性繊維を抜き出す際の応力T(cN)を測定し、ポリウレタン弾性繊維サンプルの繊度(dt)で除する。
【0054】
(6)ラン評価
前項で作製した処理後の編地を膝部の直径33cmの足型に履かせ、膝部の糸を二目半切断した後、屈伸運動を50回させ、ランの長さ(cm)を測定し、全くランしない場合を「○」、1cm未満のランの場合を「△」、1cm以上ランした場合を「×」とした。
【0055】
参考例1]
数平均分子量2000のポリテトラメチレンエーテルグリコールに対し、1.6倍モル当量の4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートを乾燥窒素雰囲気下、80℃において3時間、攪拌下で反応させて、末端がイソシアネートでキャップされたポリウレタンプレポリマーを得た。これを室温まで冷却した後、ジメチルアセトアミドを加え、溶解してポリウレタンプレポリマー溶液とした。
一方、エチレンジアミン及びジエチルアミンを乾燥ジメチルアセトアミドに溶解した溶液を用意し、これを前記プレポリマー溶液に室温下添加して、ポリウレタン固形分濃度30重量%、粘度450Pa・s(30℃)のポリウレタンウレア溶液PA1を得た。
【0056】
また、別に、数平均分子量2000のポリテトラメチレンエーテルグリコールと、それに対し2.5倍モル当量の4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートを、乾燥窒素雰囲気下、80℃において3時間、攪拌下で反応させて、末端がイソシアネートでキャップされたポリウレタンプレポリマーとした後、1,4−ブタンジオールを前記プレポリマーに室温下添加して、ポリスチレン換算で分子量110000、流出開始温度154℃のポリウレタンを得た。これにジメチルアセトアミドを加え、固形分濃度30重量%のポリウレタン溶液PU1を得た。
【0057】
得られたポリウレタンウレア溶液とポリウレタン溶液をPA1:PU1=80:20の重量比で混合し、ポリウレタンウレアとポリウレタンを合わせた固形分に対し、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)を1重量%、2−(2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾールを0.5重量%をポリウレタン溶液と混合して、均一な溶液とした後、室温減圧下で脱泡して、これを紡糸原液とした。
【0058】
この紡糸原液を紡糸速度800m/分、熱風温度310℃で乾式紡糸し、得られたポリウレタン弾性繊維をパッケージに巻き取られる前に、仕上げ剤として、ポリジメチルシロキサン80重量%、鉱物油18重量%、ステアリン酸マグネシウム2重量%からなる油剤を、ポリウレタン弾性繊維に対して4重量%付与し、紙製の紙管に巻き取ることで、22デシテックス/2フィラメントのポリウレタン弾性繊維を得た。
【0059】
[実施例2]
参考例1のポリウレタン溶液PU1の代わりに、数平均分子量2000のポリテトラメチレンエーテルグリコールと、それに対し2.5倍モル当量の1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)を、乾燥窒素雰囲気下、80℃において3時間、攪拌下で反応させて、末端がイソシアネートでキャップされたポリウレタンプレポリマーとした後、1,4−ブタンジオールを前記プレポリマーに室温下添加して、分子量65000、流出開始温度133℃のポリウレタンを得た。これにジメチルアセトアミドを加え、固形分濃度30重量%のポリウレタン溶液PU2を得た。
得られたポリウレタン溶液をPA1:PU2=80:20で混合し、参考例1と同様にして22デシテックス/2フィラメントのポリウレタン弾性繊維を得た。
【0060】
参考例3]
参考例1のPU1の代わりに、実施例2のPU2をPA1:PU2=40:60の重量比で混合し、参考例1と同様にして22デシテックス/2フィラメントのポリウレタン弾性繊維を得た。
【0061】
[実施例4]
参考例1のポリウレタン溶液PU1の代わりに、数平均分子量2000のポリテトラメチレンエーテルグリコールと、それに対し2.5倍モル当量の4,4’−ジシクロメタンジイソシアネート(H12MDI)を、乾燥窒素雰囲気下、80℃において3時間、攪拌下で反応させて、末端がイソシアネートでキャップされたポリウレタンプレポリマーとした後、1,4−ブタンジオールを前記プレポリマーに室温下添加して、分子量100000、流出開始温度118℃のポリウレタンを得た。これにジメチルアセトアミドを加え、固形分濃度30重量%のポリウレタン溶液PU3を得た。
得られたポリウレタン溶液をPA1:PU2=80:20で混合し、参考例1と同様にして22デシテックス/2フィラメントのポリウレタン弾性繊維を得た。
【0062】
[実施例5]
参考例1のポリウレタン溶液PU1の代わりに、数平均分子量2000のポリテトラメチレンエーテルグリコールと、それに対し4倍モル当量の4,4’−ジシクロメタンジイソシアネート(H12MDI)を、乾燥窒素雰囲気下、80℃において3時間、攪拌下で反応させて、末端がイソシアネートでキャップされたポリウレタンプレポリマーとした後、1,4−ブタンジオールを前記プレポリマーに室温下添加して、分子量135000、流出開始温度184℃のポリウレタンを得た。これにジメチルアセトアミドを加え、固形分濃度30重量%のポリウレタン溶液PU4を得た。
得られたポリウレタン溶液をPA1:PU4=80:20で混合し、参考例1と同様にして22デシテックス/2フィラメントのポリウレタン弾性繊維を得た。
【0063】
[実施例6]
参考例1のポリウレタン溶液PU1の代わりに、数平均分子量2000のポリテトラメチレンエーテルグリコールと、それに対し2.5倍モル当量のイソホロンジイソシアネート(IPDI)を、乾燥窒素雰囲気下、80℃において3時間、攪拌下で反応させて、末端がイソシアネートでキャップされたポリウレタンプレポリマーとした後、1,4−ブタンジオールを前記プレポリマーに室温下添加して、分子量120000、流出開始温度145℃のポリウレタンを得た。これにジメチルアセトアミドを加え、固形分濃度30重量%のポリウレタン溶液PU5を得た。
得られたポリウレタン溶液をPA1:PU5=70:30で混合し、参考例1と同様にして22デシテックス/2フィラメントのポリウレタン弾性繊維を得た。
【0064】
[実施例7]
数平均分子量2000のポリテトラメチレンエーテルグリコールとそれに対し、1.6倍モル当量の混合ジイソシアネート(MDI:1,3−ビス(イソシアナートメチル)シクロヘキサン(1,3−H6XDI)=7:3(モル比))を乾燥窒素雰囲気下、80℃において3時間、攪拌下で反応させて、末端がイソシアネートでキャップされたポリウレタンプレポリマーを得た。これを室温まで冷却した後、ジメチルアセトアミドを加え、溶解してポリウレタンプレポリマー溶液とした。
一方、エチレンジアミン及びジエチルアミンを乾燥ジメチルアセトアミドに溶解した溶液を用意し、これを前記プレポリマー溶液に室温下添加して、ポリウレタン固形分濃度30重量%、粘度430Pa・s(30℃)のポリウレタンウレア溶液PA2を得た。
得られたポリウレタンウレア溶液PA2と参考例1のPU1をPA2:PU1=80:20(重量比)で混合し、参考例1と同様にして22デシテックス/2フィラメントのポリウレタン弾性繊維を得た。
【0065】
[実施例8]
実施例5において、ポリウレタン溶液PU1の代わりに、参考例3で用いたPU3を、PA2:PU3=80:20(重量比)で混合し、参考例1と同様にして22デシテックス/2フィラメントのポリウレタン弾性繊維を得た。
【0066】
[比較例1]
数平均分子量2000のポリテトラメチレンエーテルグリコールに対し、1.6倍モル当量の4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートを乾燥窒素雰囲気下、80℃において3時間、攪拌下で反応させて、末端がイソシアネートでキャップされたポリウレタンプレポリマーを得た。これを室温まで冷却した後、ジメチルアセトアミドを加え、溶解してポリウレタンプレポリマー溶液とした。
一方、エチレンジアミン及びジエチルアミンを乾燥ジメチルアセトアミドに溶解した溶液を用意し、これを前記プレポリマー溶液に室温下添加して、ポリウレタン固形分濃度30重量%、粘度450Pa・s(30℃)のポリウレタンウレア溶液PA1を得た。
得られたポリウレタンウレア溶液PA1中の固形分に対し、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)を1重量%、2−(2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾールを0.5重量%をポリウレタン溶液と混合して、均一な溶液とした後、室温減圧下で脱泡して、これを紡糸原液とした。
この紡糸原液を紡糸速度800m/分、熱風温度310℃で乾式紡糸し、得られたポリウレタン弾性繊維をパッケージに巻き取られる前に、仕上げ剤として、ポリジメチルシロキサン80重量%、鉱物油18重量%、ステアリン酸マグネシウム2重量%からなる油剤を、ポリウレタン弾性繊維に対して4重量%付与し、紙製の紙管に巻き取ることで、22デシテックス/2フィラメントのポリウレタン弾性繊維を得た。
【0067】
[比較例2]
数平均分子量2000のポリテトラメチレンエーテルグリコールと、それに対し2.5倍モル当量の4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートを、乾燥窒素雰囲気下、80℃において3時間、攪拌下で反応させて、末端がイソシアネートでキャップされたポリウレタンプレポリマーとした後、1,4−ブタンジオールを前記プレポリマーに室温下添加して、ポリスチレン換算で分子量110000、流出開始温度154℃のポリウレタンを得た。これにジメチルアセトアミドを加え、固形分濃度30重量%のポリウレタン溶液PU1を得た。
得られたポリウレタン溶液PU1中の固形分に対し、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)を1重量%、2−(2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾールを0.5重量%をポリウレタン溶液と混合して、均一な溶液とした後、室温減圧下で脱泡して、これを紡糸原液とした。
この紡糸原液を紡糸速度800m/分、熱風温度310℃で乾式紡糸し、得られたポリウレタン弾性繊維をパッケージに巻き取られる前に、仕上げ剤として、ポリジメチルシロキサン80重量%、鉱物油18重量%、ステアリン酸マグネシウム2重量%からなる油剤を、ポリウレタン弾性繊維に対して4重量%付与し、紙製の紙管に巻き取ることで、22デシテックス/2フィラメントのポリウレタン弾性繊維を得た。
【0068】
[比較例3]
参考例1のポリウレタン溶液PU1の代わりに、数平均分子量2000のポリテトラメチレンエーテルグリコールと、それに対し2.5倍モル当量のMDIを、乾燥窒素雰囲気下、80℃において3時間、攪拌下で反応させて、末端がイソシアネートでキャップされたポリウレタンプレポリマーとした後、1,4−ブタンジオールを前記プレポリマーに室温下添加して、分子量160000、流出開始温度177℃のポリウレタンを得た。これにジメチルアセトアミドを加え、固形分濃度30重量%のポリウレタン溶液PU6を得た。
得られたポリウレタン溶液をPA1:PU6=80:20で混合し、参考例1と同様にして22デシテックス/2フィラメントのポリウレタン弾性繊維を得た。
【0069】
[比較例4]
参考例1のPU1の代わりに、数平均分子量2000のポリテトラメチレンエーテルグリコールと、それに対し2.5倍モル当量の1,6−ヘキサメチレンジイソシアネートを、乾燥窒素雰囲気下、80℃において3時間、攪拌下で反応させて、末端がイソシアネートでキャップされたポリウレタンプレポリマーとした後、1,4−ブタンジオールを前記プレポリマーに室温下添加して、分子量30000、流出開始温度118℃のポリウレタンを得た。これにジメチルアセトアミドを加え、固形分濃度30重量%のポリウレタン溶液PU7を得た。
参考例1のPU1の代わりにPU6をPA1:PU7=80:20の重量比で混合し、参考例1と同様にして22デシテックス/2フィラメントのポリウレタン弾性繊維を得た。
【0070】
[比較例5]
参考例1のポリウレタン溶液PU1の代わりに、数平均分子量2000のポリテトラメチレンエーテルグリコールと、それに対し2.5倍モル当量の4,4’−ジシクロメタンジイソシアネート(H12MDI)を、乾燥窒素雰囲気下、80℃において3時間、攪拌下で反応させて、末端がイソシアネートでキャップされたポリウレタンプレポリマーとした後、1,4−ブタンジオールを前記プレポリマーに室温下添加して、分子量160000、流出開始温度155℃のポリウレタンを得た。これにジメチルアセトアミドを加え、固形分濃度30重量%のポリウレタン溶液PU8を得た。
得られたポリウレタン溶液をPA1:PU8=80:20で混合し、参考例1と同様にして22デシテックス/2フィラメントのポリウレタン弾性繊維を得た。
以上の各参考例、実施例及び比較例における組成、性能を以下の表1に示す。
【0071】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0072】
本実施形態に係るポリウレタン弾性繊維を用いることにより、ほつれが抑制され、条件の制約の少ない加工性に優れた生地を得ることができ、また、従来よりも低い加工温度でも、ほつれ防止性能を発揮するため、これまで高温のかけられる設備を持っていなかった加工業者でも使用することができる。さらに、加工時の熱により、縁始末不要とした生地を用い、ガードル、ブラジャー、インティメイト商品、肌着等の各種ストレッチファンデーションや、タイツ、パンティーストッキング等において着用感に優れる好適な製品を提供できる。本実施形態のポリウレタン弾性繊維は、その他、ウェストバンド、ボディスーツ、スパッツ、水着、ストレッチスポーツウェアー、ストレッチアウター、医療用ウェア、ストレッチ裏地等衣料製品の他、熱接着機能を生かしたオムツ、ベルト等の非衣料用途にも好適に利用可能である。
図1
図2