特許第6383577号(P6383577)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6383577-空気入りタイヤ 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6383577
(24)【登録日】2018年8月10日
(45)【発行日】2018年8月29日
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 9/00 20060101AFI20180820BHJP
   B60C 17/00 20060101ALI20180820BHJP
   D02G 3/48 20060101ALI20180820BHJP
   D02G 3/40 20060101ALI20180820BHJP
   D02G 3/26 20060101ALI20180820BHJP
【FI】
   B60C9/00 B
   B60C17/00 B
   D02G3/48
   D02G3/40
   D02G3/26
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-119020(P2014-119020)
(22)【出願日】2014年6月9日
(65)【公開番号】特開2015-231772(P2015-231772A)
(43)【公開日】2015年12月24日
【審査請求日】2017年4月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100096714
【弁理士】
【氏名又は名称】本多 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100124121
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 由美子
(74)【代理人】
【識別番号】100176566
【弁理士】
【氏名又は名称】渡耒 巧
(74)【代理人】
【識別番号】100180253
【弁理士】
【氏名又は名称】大田黒 隆
(72)【発明者】
【氏名】小山 祐司
【審査官】 市村 脩平
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/048086(WO,A1)
【文献】 特開2001−098245(JP,A)
【文献】 特表2014−524992(JP,A)
【文献】 特開平02−182914(JP,A)
【文献】 特開2000−062410(JP,A)
【文献】 特開昭52−126806(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C1/00−19/12
B29D30/00−30/72
D02G1/00−3/48
D02J1/00−13/00
D06M13/00−15/715
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1枚のカーカスプライからなるカーカスを骨格とする空気入りタイヤにおいて、
前記カーカスプライの補強コードが、1.5cN/dtex負荷時における中間伸度が4.2%以下であって、スティフネスが50mN以上の有機繊維コードであり、かつ、前記補強コードの熱処理後の熱収縮率が、0.5〜1.8%であることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記補強コードが、(A)熱可塑性重合体、(B)熱反応型水性ウレタン樹脂および(C)エポキシド化合物からなる群のうち、少なくとも一種を含む接着剤を1浴処理液として用いるとともに、レゾルシン・ホルマリン・ラテックス系接着剤を2浴処理液として用いて接着剤処理なされたものであり、かつ、
前記(A)熱可塑性重合体の主鎖が、付加反応性のある炭素間2重結合を実質的に有さず、直鎖状構造を主体としたエチレン性付加重合体およびウレタン系高分子重合体のうち少なくとも一方からなり、ペンダント基として架橋性を有する官能基を少なくとも1つ有する請求項1記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記補強コードのスティフネスが、60mN以上である請求項1または2記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記補強コードのタフネスが、45cN・%/dtex以上である請求項1〜のうちいずれか一項記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記補強コードの撚り係数が、0.30〜0.50である請求項1〜のうちいずれか一項記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記補強コードが、ポリエチレンテレフタレートからなる請求項1〜のうちいずれか一項記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
前記サイド部にサイド補強ゴムが配置されてなる請求項1〜のうちいずれか一項記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤ(以下、単に「タイヤ」とも称する)に関し、詳しくは、カーカスの補強コードとして、低熱収縮のコードを用いつつ、タイヤ耐久性と操縦安定性とをより一そう向上させた空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、タイヤの耐久性や操縦安定性を向上させる技術として、カーカスの補強材の剛性を向上させることが知られている。従来は、引張剛性が高いアラミドやレーヨンを用いて、耐久性の向上を図っていたが、アラミドやレーヨンは高価であるため、製造コストの観点からは好ましくない。そこで、カーカスの補強材として、安価なポリエチレンテレフタレート(PET)コードが注目されている。しかしながら、汎用のPETは、アラミドやレーヨン対比で引張剛性は高くない。そのため、汎用のPETよりも引張剛性を高めた低熱収縮のPETを用いてタイヤ耐久性を向上させている。
【0003】
カーカスの補強材として、低熱収縮のPETを用いた技術としては、例えば、特許文献1を挙げることができる。この特許文献1では、低熱収縮のPETをカーカスの補強材として用いることで、サイド部のカーカス巻き上げ端に発生する表面凹凸を抑えることができ、これによってタイヤの軽量化・生産性の向上を可能にした空気入りラジアルタイヤが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−301910号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1では、低熱収縮のPETコードをカーカスの補強材として用いたタイヤに関しては、耐久性や操縦安定性について、十分に検討されてはいなかった。タイヤの耐久性や操縦安定性を向上させることができれば、サイド部の薄ゲージ化も可能になり、製造コストに関して有利になると考えらる。したがって、低熱収縮のPETコードをカーカスの補強材として用いタイヤにあっては、耐久性や操縦安定性については、さらなる改良の余地が残されているのが現状である。
【0006】
そこで、本発明の目的は、カーカスの補強コードとして、低熱収縮のコードを用いつつ、タイヤ耐久性と操縦安定性とをより一そう向上させた空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解消するために鋭意検討した結果、以下の知見を得た。すなわち、従来、タイヤの耐久性や操縦安定性を改善するために、カーカスプライの補強コードの引張剛性を高め、コーナリングフォースに対する補強コードの伸びを小さくする検討がなされてきた。さらに、これに加え、カーカスプライの補強コードのスティフネス(曲げ剛性)を高めることで、サイド部の曲げ剛性が向上させ、耐久性と操縦安定性とをさらに良好に向上させることができることを見出した。かかる知見の下、本発明者はさらに鋭意検討した結果、補強コードの中間伸度およびスティフネスが下記の関係を満足する場合に、上記課題を解消することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明のタイヤは、少なくとも1枚のカーカスプライからなるカーカスを骨格とする空気入りタイヤにおいて、
前記カーカスプライの補強コードが、1.5cN/dtex負荷時における中間伸度が4.2%以下であって、かつ、スティフネスが50mN以上の有機繊維コードであることを特徴とするものである。ここで、中間伸度とはJIS L 1017に準拠し、ディップ処理後の補強コードから、コード1本を採取し、1.5cN/dtexの張力下、145℃で3分間加熱し、冷却後に25±2℃の温度条件で、引張荷重1.5cN/dtexで引張試験を実施した時の伸度(%)のこという。また、スティフネス(曲げ剛性)とは、ディップ処理後の補強コードを、150℃で1分間乾燥器に設置し、真直に引き伸ばした状態に固定した後、JIS L 1096に準拠し、ガーレ式柔軟度試験機(ガーレ式スティフネステスター)で測定して得られた値をいう。
【0009】
本発明のタイヤにおいては、前記補強コードは、(A)熱可塑性重合体、(B)熱反応型水性ウレタン樹脂および(C)エポキシド化合物からなる群のうち、少なくとも一種を含む接着剤を1浴処理液として用いるとともに、レゾルシン・ホルマリン・ラテックス系接着剤を2浴処理液として用いて接着剤処理なされたものであり、かつ、
前記(A)熱可塑性重合体の主鎖が、付加反応性のある炭素間2重結合を実質的に有さず、直鎖状構造を主体としたエチレン性付加重合体およびウレタン系高分子重合体のうち少なくとも一方からなり、ペンダント基として架橋性を有する官能基を少なくとも1つ有することが好ましい。
【0010】
また、本発明のタイヤにおいては、前記補強コードの熱処理後の熱収縮率は、0.5〜3.0%であることが好ましい。さらに、本発明のタイヤにおいては、前記補強コードのスティフネスは、50mN以上であることが好ましい。さらにまた、本発明のタイヤにおいては、前記補強コードのタフネスは、45cN・%/dtex以上であることが好ましい。また、本発明のタイヤにおいては、前記補強コードの撚り係数は、0.30〜0.50であることが好ましい。さらに、本発明のタイヤにおいては、前記補強コードは、ポリエチレンテレフタレートからなることが好ましい。本発明のタイヤは、前記サイド部にサイド補強ゴムが配置されてなるランフラットタイヤに好適に適用することができる。
【0011】
なお、熱収縮率とは、ディップ処理後の補強コードに対して、オーブン中で177℃、2分の乾熱処理を行ない、熱処理前後のコード長を、0.015g/dtexの荷重をかけて計測して下式、
乾熱処理時熱収縮率(%)={(Lb−La)/Lb}×100
により求められる値である。ここで、Laは熱処理後のコード長、Lbは熱処理前のコード長である。また、タフネスとは、ディップ処理後の補強コードに対して、25±2℃の温度条件で引張試験を行い、歪−応力曲線(S−S曲線)を求め、原点からコードが破断するまでのS−S曲線の下側の面積をいうものとする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、カーカスの補強コードとして、低熱収縮のコードを用いつつ、タイヤ耐久性と操縦安定性とをより一そう向上させた空気入りタイヤを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の空気入りタイヤの一好適例の右半分の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面を用いて詳細に説明する。
図1は、本発明の空気入りタイヤの一好適例の右半分の断面図である。図示するタイヤ10は、接地部を形成するトレッド部1と、このトレッド部1の両側部に連続してタイヤ半径方向内方へ延びる一対のサイド部2と、各サイド部2の内周側に連続するビード部3と、を備え、トレッド部1、サイド部2およびビード部3は、一方のビード部3から他方のビード部3にわたってトロイド状に延びる一枚のカーカスプライからなるカーカス4により補強されている。図示するように、本発明のタイヤ10においては、カーカス4のトレッド部1のタイヤ半径方向外側には2層のベルト層5a、5bからなるベルト5が配置されていてもよく、ベルト5のタイヤ半径方向外側には、ベルト補強層6が配置されていてもよい。さらに、図示するように、サイド部2のカーカス4の内側に断面三日月状サイド補強ゴム7が配置されていてもよいが、この限りではない。
【0015】
本発明のタイヤ10においては、カーカスプライの補強コードは、1.5cN/dtex負荷時における中間伸度が4.2%以下の有機繊維コードである。カーカスプライの補強コードとして、中間伸度が4.2%以下という、寸法変化の小さい補強コードを用いることで、タイヤ走行時の連続歪による補強コードの伸びを抑えることができ、タイヤ耐久性および操縦安定性を改善することができる。通常、補強コードは、ゴムとの接着性を改善するためにディップ処理が行われているが、中間伸度の高い補強コードでは、タイヤ走行時の連続歪により補強コード表面の接着剤層に亀裂が入ったりして劣化してしまう場合がある。しかしながら、本発明のタイヤ10では、カーカスプライの補強コードとして、中間伸度の小さい補強コードを用いるので、タイヤ走行時の連続歪による接着剤層の劣化を防止することができる。カーカスプライの補強コードの中間伸度は、好ましくは4.0%以下、より好ましくは3.8%以下である。なお、ここでいう補強コードは、タイヤ製造前における補強コードを意味する。
【0016】
また、本発明のタイヤにおいては、カーカスプライの補強コードのスティフネスは50mN以上である。スティフネスを50mN以上とすることにより、サイド部2の剛性も向上し、より操縦安定性を向上させることができる。好ましくは、60mN以上、より好ましくは80mN以上、さらに好ましくは120mN以上である。なお、補強コードのスティフネスは、ディップ液の種類、ディップ温度およびディップ時間を適宜設定することで調整することができる。
【0017】
上記スティフネスを満足する補強コードは、有機繊維コードに対して、(A)熱可塑性重合体、(B)熱反応型水性ウレタン樹脂および(C)エポキシド化合物からなる群のうち、少なくとも一種を含む接着剤を1浴処理液として用いるとともに、レゾルシン・ホルマリン・ラテックス系接着剤を2浴処理液として用いて接着剤処理することにより得られる。ここで、(A)熱可塑性重合体としては、その主鎖が、付加反応性のある炭素間2重結合を実質的に有さず、直鎖状構造を主体としたエチレン性付加重合体およびウレタン系高分子重合体のうち少なくとも一方からなり、ペンダント基として架橋性を有する官能基を少なくとも1つ有するものを用いる。
【0018】
特に、(B)、(C)を配合することによって、補強コードとゴムとの接着性を高めることができる。なお、スティフネスが高くなると、連続歪下での接着耐久性が低下してしまうが、上述のとおり、本発明のタイヤ10は、カーカスプライの補強コードとして、中間伸度の小さい補強コードを用いているため、補強コード全体の変形量が抑えられ、接着剤層の劣化を防止し、接着耐久性の低下を防止している。なお、上記(A)〜(C)組成を有する接着剤組成物としては、特許第4928661号公報で提案されている接着剤組成物を用いることができる。
【0019】
(A)熱可塑性重合体のエチレン性付加重合体を構成する単量体として、炭素−炭素二重結合を1つ有するエチレン性不飽和単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、ブチレン、イソブチレン等のα−オレフィン類;スチレン、α−メチルスチレン、モノクロルスチレン、ビニルトルエン、ビニルナフタレン、スチレン、スルホン酸ナトリウム等のα,β−不飽和芳香族単量体類;イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、アクリル酸、メタクリル酸、ブテントリカルボン酸などのエチレン性カルボン酸類およびその塩;無水マレイン酸、無水イタコン酸などの酸無水物;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸メトキシポリエチレングリコール、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−アミノエチル等の不飽和カルボン酸のエステル類;イタコン酸モノエチルエステル、フマル酸モノブチルエステル、マレイン酸モノブチルエステルなどのエチレン性ジカルボン酸のモノエステル類;イタコン酸ジエチルエステル、フマル酸ジブチルエステルなどのエチレン性ジカルボン酸のジエステル類;アクリルアミド、マレイン酸アミド、N−メチロールアクリルアミド、N−(2−ヒドロキシエチル)アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、N−(2−ヒドロキシエチル)メタクリルアミド、マレイン酸アミド等のα,β−エチレン性不飽和酸のアミド類;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等の水酸基含有モノマー;アクリロニトリル、メタアクリロニトリル、フマロニトリル、α−クロロアクリルニトリル等の不飽和ニトリル類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;ビニルケトン;ビニルアミド;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン等の含ハロゲンα,β−不飽和単量体類;酢酸ビニル、吉草酸ビニル、カプリル酸ビニル、ビニルピリジン等のビニル化合物;2−イソプロペニル−2−オキサゾリンなどの付加重合性オキサゾリン類;ビニルピロリドン等の複素環式ビニル化合物;ビニルエトキシシラン、α−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等の不飽和結合含有シラン化合物などが挙げられ、これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの単量体のラジカル付加重合により熱可塑性重合体(A)を得ることが好ましい。
【0020】
また、主鎖骨格を構成する単量体として、炭素−炭素二重結合を2つ以上含有する単量体としては、1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、クロロプレンなどのハロゲン置換ブタジエンなどの共役ジエン系単量体などが挙げられる。非共役ジエン系単量体としては、ビニルノーボルネン、ジシクロペンタジエン、1,4−ヘキサジエン等の非本役ジエン系単量体等が挙げられ、これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0021】
(A)熱可塑性重合体のウレタン系高分子重合体は、主としてポリイソシアネートと2個以上の活性水素を有する化合物とを重付加反応させて得られるウレタン結合やウレア結合などの、イソシアネート基と活性水素との反応に起因する結合を、分子内に多数有する高分子重合体である。なお、イソシアネート基と活性水素との反応に起因する結合のみならず、活性水素化合物分子内に含まれるエステル結合、エーテル結合、アミド結合、および、イソシアネート基同士の反応で生成するウレトジオン、カルボジイミド等を含んでいてもよい。
【0022】
上記ペンダント基としての架橋性を有する官能基としては、オキサゾリン基、ビスマレイミド基、(ブロックド)イソシアネート基、アジリジン基、カルボジイミド基、ヒドラジノ基、エポキシ基およびエピチオ基のうち少なくとも1つであり、より好適には、オキサゾリン基である。
【0023】
熱反応型水性ウレタン樹脂(B)としては、一分子中に、複数個以上の熱解離性のブロックされたイソシアネート基を有する樹脂が好ましく用いられる。例えば、下記の一般式で表される熱反応型水性ポリウレタン化合物等が最適である。
(式中、Aは官能基数3〜5の有機ポリイソシアネート化合物のイソシアネート残基を示し、Yは熱処理によりイソシアネート基を遊離するブロック剤化合物の活性水素残基を示し、Zは分子中、少なくとも1個の活性水素原子および少なくとも1個のアニオン形成性基を有する化合物の活性水素残基を示し、Xは2〜4個の水酸基を有し平均分子量が5000以下のポリオール化合物の活性水素残基であり、nは2〜4の整数であり、p+mは2〜4の整数(m≧0.25)である。)
【0024】
エポキシド化合物(C)としては、1分子中に2個以上、好ましくは4個以上のエポキシ基を含む化合物であれば本発明の目的を達成できるが、好適には、エポキシ基を含む化合物、または、多価アルコール類とエピクロルヒドリンとの反応生成物である。エポキシ化合物の具体例としては、例えば、ジエチレングリコール・ジグリシジルエーテル、ポリエチレン・ジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコール・ジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコール・ジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオール・ジグリシジルエーテル、グリセロール・ポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパン・ポリグリシジルエーテル、ポリグリセロール・ポリグリシジルエーテル、ペンタエリチオール・ポリグリシジルエーテル、ジグリセロール・ポリグリシジルエーテル、ソルビトール・ポリグリシジルエーテル、などの多価アルコール類とエピクロルヒドリンの反応生成物;フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂などのノボラック型エポキシ樹脂;ビスフェノールA型エポキシ樹脂などが挙げられる。エポキシド化合物としては、好適には、ソルビトールポリグリシジルエーテルまたはポリグリセロールポリグリシジルエーテルを用いる。
【0025】
本発明においては、上記(A),(B)および(C)成分の混合液を1浴処理液として用いる。これら各成分の比率は、接着剤組成物中の乾燥重量比率で、(A)成分が2〜75%、(B)成分が15〜87%、(C)成分が11〜70%であることが好ましい。
【0026】
さらに、本発明のタイヤ10においては、補強コードの熱処理後の熱収縮率は、0.5〜3.0%であることが好ましい。カーカスプライの補強コードの熱収縮率を上記範囲とすることで、タイヤ成型時から加硫時における補強コードの熱収縮による位置の乱れを防止することができる。そのため、タイヤの剛性を確保しやすくなり、その結果、タイヤ耐久性や操縦安定性を安定して得ることができる。好ましくは、1.0〜2.5%である。
【0027】
さらにまた、本発明のタイヤ10においては、カーカスプライの補強コードのタフネスは、45cN・%/dtex以上であることが好ましい。補強コードのタフネスを45cN・%/dtex以上とすることで、サイド部2の耐カット性を同時に向上させることができる。補強コードのタフネスは、より好ましくは、50cN・%/dtex以上であり、さらに好ましくは55cN・%/dtex以上である。なお、補強コードのタフネスも、ディップ液の種類、ディップ温度およびディップ時間を適宜設定することで調整することができる。
【0028】
また、本発明のタイヤ10においては、カーカスプライの補強コードの撚り係数は0.30〜0.50であることが好ましい。撚り係数を上記範囲とすることで、補強コードへの圧縮入力が緩やかになり、カーカスプライの疲労耐久性の低下を防止することができる。また、補強コードの引張弾性率の低下も防止することができ、タイヤ剛性を十分に確保することができる。さらに、補強コードの撚り係数が0.50より大きくなると、撚糸工程でのコードの生産性が悪化してしまうおそれもあるので好ましくない。なお、撚り係数Tは次式、
T=N×√{(0.125×D/2)/ρ}×10−3
(ただし、Nは上撚り数(回/10cm)、Dはトータル表示デシテックス(繊度)、ρはコード材料の比重である。)で表される。
【0029】
本発明のタイヤ10は、カーカスプライの補強コードの中間伸度が小さく、かつ、スティフネスが大きいため、タイヤ耐久性および操縦安定性が向上しているため、サイド部2を薄くして軽量化を図ることができる。特に、空気圧がゼロとなるランフラット条件においては、サイド部2にサイド補強ゴム7の圧縮剛性と同様にカーカスプライの補強コードの引張剛性が顕著に表れるために、ランフラットタイヤでないスタンダードタイヤ以上に熱処理後中間伸度の効果が発揮される。
【0030】
本発明のタイヤ10は、カーカスプライの補強コードとして、1.5cN/dtex負荷時における中間伸度が4.2%以下であって、かつ、スティフネスが50mN以上の有機繊維コードであれば、いずれでも用いることができるが、ポリエステルからなるコード、特に、安価なPETからなるコードが好ましい。また、タイヤのその他の構造については、既知の構造を採用することができる。
【0031】
例えば、図示する本発明のタイヤ10においては、カーカス4は1枚のカーカスプライからなっているが、カーカスプライは2枚以上であってもよい。また、カーカスプライの補強コードは、タイヤ周方向に対し実質的に90°をなす角度で配置することができ、補強コードの打ち込み数は、35〜65本/50mmとすることができる。また、カーカス4のクラウン領域のタイヤ径方向外側に、2層の第1ベルト層5aと第2ベルト層5bとからなるベルト5が配設されているが、ベルト層の枚数もこれに限られるものではない。なお、第1ベルト層5aと第2ベルト層5bは、撚り合わされることなくタイヤ幅方向に並列に引き揃えられた複数本のスチールコードがゴム中に埋設されてなるものを用いることができ、例えば、第1ベルト層5aと第2ベルト層5bは、層間で互いに交差するように配置されて、交差ベルトを形成してもよい。
【0032】
さらに、図示するタイヤ10は、ベルト5のタイヤ径方向外側には、ベルト補強層6が配置されている。ベルト補強層6の補強コードは、タイヤ周方向における引張剛性の確保が目的であるので、高弾性の有機繊維からなるコードを用いることが好ましい。有機繊維コードとしては、芳香族ポリアミド(アラミド)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレンテレフタレート、レーヨン、ザイロン(登録商標)(ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)繊維)、脂肪族ポリアミド(ナイロン)等の有機繊維コード等を用いることができる。
【0033】
さらにまた、本発明のタイヤにおいては、図示はしないが、インサート、フリッパー、サイド補強層等の補強部材を配置してもよい。ここで、インサートとは、ビード部3からサイド部2にかけて、タイヤ周方向に配置される、複数本の高弾性の有機繊維コードを並べてゴムコーティングした補強材である(図示せず)。フリッパーとは、カーカスプライの、ビードコア8間に延在する本体部と、ビードコア8の周りに折り返された折り返し部との間に配設され、ビードコア8およびそのタイヤ径方向外側に配置されるビードフィラー8の少なくとも一部を内包する、複数本の高弾性の有機繊維コードを並べてゴムコーティングした補強材である。インサートおよびフリッパーの角度は、好ましくは周方向に対して30〜60°である。
【0034】
また、図示するタイヤは、一対のビード部3にはそれぞれビードコア8が埋設され、カーカス4はこのビードコア8の周りにタイヤ内側から外側に折り返して係止されているが、カーカス4の係止方法についても、これに限られるものでもない。例えば、カーカス4を構成するカーカスプライのうち、少なくとも1枚のカーカスプライは、ビードコア8の周りにタイヤ幅方向内側から外側に向かって折り返されて、その折返し端がベルト3とカーカス4のクラウン部との間に位置する、いわゆるエンベロープ構造としてもよい。さらにまた、トレッド部1の表面には適宜トレッドパターンが形成されていてもよく、最内層にはインナーライナー(図示せず)が形成されていてもよい。本発明のタイヤ10において、タイヤ内に充填する気体としては、通常のまたは酸素分圧を変えた空気、もしくは窒素等の不活性ガスを用いることができる。本発明のタイヤは、乗用車用空気入りタイヤに好適である。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を、実施例を用いてより詳細に説明する。
<実施例1〜3、5〜7、参考例、比較例1〜4>
図1に示すタイプのタイヤをタイヤサイズ:215/55R17にて作製した。カーカスプライの補強コードは、下記表1および2に示す物性のコードを用いた。また、使用した接着剤は、A、Bの2種類であって、その調整方法は以下のとおりである。得られた各タイヤにつき、タイヤ耐久性、操縦安定性、および生産性について評価した。評価方法は、以下のとおりである。
【0036】
<接着剤A>
1浴目のディップ液がA−1であり、エポクロスK1010E(日本触媒(株)製)16.5質量%(固形分重量)、エラストロンBN27(第一工業製薬(株)製6質量%(固形分重量)、デナコールEX614B(ナガセ化成工業(株)製7.5質量%(固形分重量)および水70質量%よりなる。また、2浴目のディップ液がA−2であり、水524.01質量部、レゾルシン15.12質量部、ホルマリン(37%)16.72質量部および苛性ソーダ(10%)4.00質量部、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体ラテックス(JSR0655、JSR(株)製、固形分濃度41%)233.15質量部、スチレン−ブタジエン共重合体ラテックス(JSR2108、JSR(株)製、固形分濃度40%)207.00質量部よりなる。
【0037】
<接着剤B>
従来からPETに用いられている2浴のディップ液の配合である。1浴目のディップ液B−1はエポキシ系接着剤であり、ジグリセロールトリグリシジルエーテル1.20質量部、ナトリウムジオクチルスルホサクシネート0.02質量部、苛性ソーダ(10%水溶液)0.14質量部および軟水98.64質量部よりなる。また、2浴目のディップ液B−2はRFL系接着剤であり、軟水518.59質量部、レゾルシン15.12質量部、ホルムアルデヒド(37%水溶液)16.72質量部、苛性ソーダ(10%水溶液)11.00質量部、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエンラテックス(41%濃度)216.58質量部およびスチレン−ブタジエンラテックス(40%濃度)221.99質量部よりなる。
【0038】
なお、カーカスプライコードはポリエステルマルチフィラメントであり、マルチヤーン収束体2本を下撚り、上撚りで撚り合わせた。このポリエステル撚りコードを1浴処理液に浸漬し、160℃でのトライゾーンで0.6g/dtexのテンション下で60秒間、240℃のホットゾーンで0.6g/dtexのテンション下で60秒間処理した後、再度ディップ張力200gでRFL系接着剤よりなる2浴処理液に浸漬し、再度、180℃のドライゾーンで0.6g/dtexのテンション下で60秒間、ホットゾーンで60秒間、計240秒間の熱処理を施し接着剤を塗布したコードを作成した。なお、ディップ処理工程最後のホットゾーンの温度を240〜250℃の間で微調整し、テンションを0.2〜0.5g/dtexの間で微調整し、中間伸度を調整した。
【0039】
<タイヤ耐久性>
各タイヤを規定リムに装着し、空気圧を230kPaとし、正規荷重を負荷し、一定速度、ステップロード条件のドラムテストを実施し、タイヤが破壊したときの走行距離でタイヤ耐久性を評価した。得られた結果を、比較例1のタイヤを基準として、上回った場合もしくは同等の場合を○、下回った場合を×として表1、2に併記する。
【0040】
<操縦安定性>
各タイヤを規定リムに装着し、空気圧を230kPaとし、正規荷重を負荷し、サーキットで走行させ、テストドライバーによるフィーリング試験により評価を行った。結果は、比較例1のタイヤを5.0とした、相対的な評価とした。なお、この数値は、大きいほど操縦安定性に優れていることを示す。得られた結果を表1および2に併記する。
【0041】
<生産性>
ディップコードの撚糸工程での生産性を調査した。比較例1のディップコードを基準として、生産性が向上する場合を◎、同等の場合を○、低下する場合を×として表1、2に併記する。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
表1、2より、本発明の空気入りタイヤは、耐久性および操縦安定性に優れていることがわかる。また、タイヤ生産性に関しても優れている。
【符号の説明】
【0045】
1 トレッド部
2 サイド部
3 ビード部
4 カーカス
5 ベルト
6 ベルト補強層
7 サイド補強ゴム
8 ビードコア
10 空気入りタイヤ(タイヤ)
図1