(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6383677
(24)【登録日】2018年8月10日
(45)【発行日】2018年8月29日
(54)【発明の名称】かご型回転電機の回転子および回転子製造方法
(51)【国際特許分類】
H02K 17/16 20060101AFI20180820BHJP
H02K 15/02 20060101ALI20180820BHJP
【FI】
H02K17/16 A
H02K15/02 J
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-23257(P2015-23257)
(22)【出願日】2015年2月9日
(65)【公開番号】特開2016-146715(P2016-146715A)
(43)【公開日】2016年8月12日
【審査請求日】2017年6月7日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】東芝三菱電機産業システム株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】特許業務法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】若杉 直
(72)【発明者】
【氏名】松下 真琴
(72)【発明者】
【氏名】三須 大輔
(72)【発明者】
【氏名】竹内 活徳
(72)【発明者】
【氏名】長谷部 寿郎
【審査官】
池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】
特開2014−108005(JP,A)
【文献】
特開2010−081675(JP,A)
【文献】
特開2004−007949(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2014/0285050(US,A1)
【文献】
中国特許出願公開第102299602(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 17/16
H02K 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転可能に軸支されたロータシャフトと、
前記ロータシャフトに固定され、周方向に互いに間隔をあけて軸方向貫通孔が形成された回転子鉄心と、
前記軸方向貫通孔の前記回転子鉄心の外周側に空間が形成されるように設けられた複数の回転子バーと、
前記回転子鉄心の軸方向の両側の外部にあって前記複数の回転子バーの端部のいずれとも電気的に結合する2つの環状の短絡環と、
前記空間に設けられた非磁性かつ非導電性の先端部挿入部材と、
を備えたかご型回転電機の回転子。
【請求項2】
かご型回転電機の回転子の製造方法であって、
回転子鉄心に形成された軸方向貫通孔の外周側に先端部挿入部材を設定する先端部挿入部材設定ステップと、
前記先端部挿入部材設定ステップの後に、前記回転子鉄心と端部の鋳型とを一体化する鋳型組立てステップと、
前記鋳型組立てステップの後に、前記鋳型に回転子バー用の熔解した金属を流し込む充填ステップと、
前記充填ステップの後に鋳型を取り外す鋳型解体ステップと、
から成る回転子製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、
かご型回転電機の回転子
および回転子製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
かご型回転電機のうち、特に小容量のものについては、アルミダイキャストにより製造したものが多く用いられている。アルミダイキャストは、回転子バーが設けられる部分を空洞として、この空洞にアルミニウムを注入し鋳造によって、アルミニウム製のかごを形成する方法である。この際、通常、短絡環も一体で鋳造される。
【0003】
また、回転子鉄心のかご型巻線用の孔およびエンドリング成形金型内に銅製の微粉末をそれぞれ加圧充填して燒結することによりかご型巻線とエンドリングを一体で形成する技術が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−65934号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
回転子バーのブリッジ部すなわち、回転子バーの径方向外側端部と回転子鉄心の径方向外側との間の部分の径方向の幅を狭めることによって漏れインダクタンスが低減される。したがって、この間隔をできるだけ狭めることによって励磁電流を低減し、効率の向上を図っている。
【0006】
一方、ロータ表面の周方向にこの回転子バーの領域が広がることによって回転子バーと鎖交する高調波磁束が増加する。高調波磁束によって渦電流が流れ、高調波2次銅損が増加する。この結果、全体としての効率改善効果が低減してしまう。
【0007】
そこで、本発明は、回転子バーを有するかご型回転電機の効率の向上を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の目的を達成するため、本発明に係るかご型回転電機の回転子は、回転可能に軸支されたロータシャフトと、前記ロータシャフトに固定され、周方向に互いに間隔をあけて軸方向貫通孔が形成された回転子鉄心と、前記軸方向貫通孔の前記回転子鉄心の外周側に空間が形成されるように設けられた複数の回転子バーと、前記回転子鉄心の軸方向の両側の外部にあって前記複数の回転子バーの端部のいずれとも電気的に結合する2つの環状の短絡環と、前記空間に設けられた非磁性かつ非導電性の先端部挿入部材と、を備えたことを特徴とする。
【0010】
また、本発明は、かご型回転電機の回転子の製造方法であって、回転子鉄心に形成された軸方向貫通孔の外周側に先端部挿入部材を設定する先端部挿入部材設定ステップと、前記先端部挿入部材設定ステップの後に、前記回転子鉄心と端部の鋳型とを一体化する鋳型組立てステップと、前記鋳型組立てステップの後に、前記鋳型に回転子バー用の熔解した金属を流し込む充填ステップと、前記
充填ステップの後に鋳型を取り外す鋳型解体ステップと、から成る。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、回転子バーを有するかご型回転電機の効率の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施形態に係るかご型回転電機の構成を示す縦断面図である。
【
図2】
図1のII−II線矢視横部分断面図である。
【
図3】実施形態に係る回転子製造方法の手順を示すフロー図である。
【
図4】実施形態に係るかご型回転電機と従来のかご型回転電機のそれぞれの周波数ごとのジュール損失を比較したグラフである。
【
図5】実施形態に係るかご型回転電機と従来のかご型回転電機のそれぞれの合計のジュール損失を比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係るかご型回転電機について説明する。
【0014】
図1は、実施形態に係るかご型回転電機の構成を示す縦断面図である。かご型回転電機100は、回転子10、固定子20、軸受31およびフレーム32を有する。
【0015】
回転子10は、ロータシャフト11、回転子鉄心12、回転子バー13、短絡環(エンドリング)14、エンドリングファン15を有する。ロータシャフト11は、軸まわりを回転可能に軸支され、軸方向に延びている。回転子鉄心12は、中央にロータシャフト11を貫通させる中心開口が形成され、たとえば強磁性体のケイ素鋼鋼板を軸方向に積層した円筒形状である。また、回転子鉄心12には、中心開口の径方向外側であって回転子鉄心12の径方向外側近傍に周方向に互いに間隔をあけて軸方向貫通孔50(
図2)が形成されている。
【0016】
回転子バー13は、導電体であり、回転子鉄心12に形成された軸方向貫通孔50のそれぞれに設けられている。短絡環14は、回転子鉄心12の軸方向の両端から突出する回転子バー13同士を電気的に接続する環状の導電体である。
【0017】
固定子20は、固定子鉄心21および固定子コイル22を有する。固定子鉄心21は、主に強磁性体材料製であり、回転子鉄心12の径方向外側に設けられ、間隙をあけて回転子鉄心12に対向している。固定子コイル22は、固定子鉄心21に形成され軸方向に延びた図示しないスロット内に収納された導体と固定子鉄心21外の接続部を有する。
【0018】
フレーム32は、回転子鉄心12、および固定子20を収納する。軸受31は、ロータシャフト11の軸方向の両側を回転可能に軸支する。軸受31は、フレーム32により静止固定されている。
【0019】
エンドリングファン15は、短絡環14と一体に成形されたファンであり、フレーム32内の冷却用気体を撹拌する。フレーム32内で生じた熱は、エンドリングファン15により撹拌された冷却用気体によりフレーム32に至り、フレーム32外の外扇35により駆動され外気に放出される。
【0020】
図2は、
図1のII−II線矢視横部分断面図である。回転子鉄心12に形成された軸方向貫通孔50は、径方向に延びた段付きでほぼ長方形の断面形状の矩形部分50aおよび径方向先端の径方向先端部50bを有する。径方向先端部50bは、周方向の中央において回転子鉄心12の外周との距離が最も小さく、ほぼ径方向外側に頂点を有する三角形の断面形状である。なお、径方向先端部50bを中心にした形状は三角形には限定されない。回転子鉄心12内の漏れ磁束をできるだけ制限するために径方向外周との間隔を極力小さくすることと、この部分の回転子鉄心の構造強度を確保することの両者を考慮して設定すればよい。したがって、この両方の目的が達成できれば、たとえば、この部分の断面形状は円弧を有する形状でもよい。
【0021】
矩形部分50aには、回転子バー13が収納されている。具体的には、矩形部分50aを鋳型として導電性のある金属が鋳造により充填されている。また、径方向先端部50bには、非導電性かつ非磁性体である先端部挿入部材51が設けられている。回転子バー13の鋳造の際は、先端部挿入部材51を径方向先端部50bに取り付けた状態で行う。
【0022】
鋳造の際は、回転子バー13の回転子鉄心12外の部分、短絡環14およびエンドリングファン15などの端部の鋳型を回転子鉄心12と接合させて、回転子鉄心12内の回転子バー13、短絡環14およびエンドリングファン15を一体で行う。
【0023】
なお、回転子バー13は、鋳造によるものに限定されない。すなわち、矩形部分50aの形状に合わせた断面形状を有する導電性金属の棒を矩形部分に挿入することにより組み立ててもよい。この場合は、先端部分に先端部挿入部材51を取り付けずに、空間のままとしてもよい。
【0024】
図3は、回転子製造方法の手順を示すフロー図である。まず、回転子鉄心12の軸方向貫通孔50の径方向外側に向かっての先端の部分である径方向先端部50bに先端部挿入部材51を配置する(ステップS01)。次に、径方向先端部50bに先端部挿入部材51が配置され、回転子バー13形成用の空洞部分が形成された回転子鉄心12と、両方の端部の鋳型、すなわち短絡環14およびエンドリングファン15の鋳型とを組み立てる(ステップS02)。
【0025】
次に、回転子鉄心12の軸方向貫通孔50の矩形部分50aおよび両端部の鋳型に、導体バー用金属を流し込む(ステップS03)。この結果、端部に短絡環14およびエンドリングファン15が形成されるとともに、回転子鉄心12の軸方向貫通孔50内は径方向先端部50bが設けられている部分を除く空間が導体バー用金属で満たされる。ここで、導体バー用金属は導電滞在量であり、たとえばアルミニウムである。あるいは、銅でもよい。所定の時間経過後に、両端の鋳型を取り外し、鋳造部分の表面仕上げを行う(ステップS04)。次に、回転子10以外の部分の製作およびかご型回転電機への組み立てを行う(ステップS05)。
【0026】
従来は、回転子バーのブリッジ、すなわち回転子バーの先端から回転子鉄心の径方向外側表面までの距離を小さくすることにより、この部分を通過する磁力線を制限して漏れインダクタンスを低減していた。一方、ロータ表面近傍に回転子バーの領域が広がることは、高調波磁束が多く鎖交することになり、これによって渦電流が流れ高調波の2次銅損が増加してしまう。この結果、トータルとしての効率改善効果が薄かった。
【0027】
本実施形態においては、軸方向貫通孔50の径方向先端部50bに非磁性かつ非導電性の先端部挿入部材51を設けることによって、ロータ表面近傍に回転子バー13の領域が広がることを抑制している。また、漏れ磁束の通過する径方向先端部50bは先端部挿入部材51から回転子鉄心12の径方向外側表面までの距離を制限している。この結果、トータルとしての効率の改善を図ることができる。
【0028】
図4は、実施形態に係るかご型回転電機と従来のかご型回転電機のそれぞれの周波数ごとのジュール損失を比較したグラフである。横軸は、周波数の次数である。次数が1は基本周波数すなわち電源周波数である。縦軸は、解析結果による損失であり、単位はジュール(J)である。それぞれの次数において、左は従来型試作機のジュール損失、右は改良機のジュール損失である。
【0029】
ここで、従来型試作機とあるのは、従来方式、すなわち、軸方向貫通孔50の径方向先端部50bにも回転子バー13が存在するかご型回転電機の試作品である。また、改良機とあるのは、本実施形態による軸方向貫通孔50の径方向先端部50bに先端部挿入部材51を有するかご型回転電機100である。なお、それぞれの試作機についての解析結果は、4P−132kW−400V−50Hzの定格仕様について示している。
【0030】
従来型試作機と改良機の各周波数の次数でのジュール損失を比較すると、
図4に示すように、特に1次周波数において、改良機は従来型試作機に比べて約88%と、10%以上ジュール損失が低下している。
【0031】
図5は、実施形態に係るかご型回転電機と従来のかご型回転電機のそれぞれの合計のジュール損失を比較したグラフである。従来型試作機と改良機のそれぞれの全ジュール損失を比較すると、
図5に示すように、改良機は従来型試作機に比べて約76%、すなわち約3/4へとジュール損失が大幅に低下している。
【0032】
以上のように、本発明によれば、回転子バーを有するかご型回転電機の効率の向上を図ることができる。
【0033】
以上、本発明の実施形態を説明したが、実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。たとえば、実施形態では、径方向先端部50bに先端部挿入部材51を設けている場合を示したが、磁場が弱い場合等は、空間は基本的には非導電性、非磁性であるので、鋳造の場合を含め、径方向先端部50bに先端部挿入部材51を設けずに空間のままとしてもよい。
【0034】
また、実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。
【0035】
たとえば、実施形態では、導体バー用金属を注入し鋳造によって回転子バー13および短絡環14を一体で形成する場合を示したが、これに限定されない。たとえば、鋳造と同様の体系に導体バー用金属の微粉末を加圧充填して燒結することにより回転子バー13および短絡環14を一体で形成する方法であってもよい。実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0036】
10…回転子、11…ロータシャフト、12…回転子鉄心、13…回転子バー、14…短絡環、15…エンドリングファン、20…固定子、21…固定子鉄心、22…固定子コイル、31…軸受、32…フレーム、35…外扇、50…軸方向貫通孔、50a…矩形部分、50b…径方向先端部、51…先端部挿入部材、100…かご型回転電機