特許第6383732号(P6383732)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6383732ビニルピロリドンポリマーおよび酸性ポリマーを含んでいる層を備えた、粒子が少ない潤滑性コーティング
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6383732
(24)【登録日】2018年8月10日
(45)【発行日】2018年8月29日
(54)【発明の名称】ビニルピロリドンポリマーおよび酸性ポリマーを含んでいる層を備えた、粒子が少ない潤滑性コーティング
(51)【国際特許分類】
   A61L 29/04 20060101AFI20180820BHJP
   C09D 139/06 20060101ALI20180820BHJP
   C09D 133/00 20060101ALI20180820BHJP
   C09D 7/40 20180101ALI20180820BHJP
   A61L 31/04 20060101ALI20180820BHJP
【FI】
   A61L29/04 100
   C09D139/06
   C09D133/00
   C09D7/40
   A61L31/04 110
【請求項の数】16
【全頁数】45
(21)【出願番号】特願2015-551812(P2015-551812)
(86)(22)【出願日】2014年1月6日
(65)【公表番号】特表2016-511646(P2016-511646A)
(43)【公表日】2016年4月21日
(86)【国際出願番号】US2014010358
(87)【国際公開番号】WO2014107670
(87)【国際公開日】20140710
【審査請求日】2016年12月21日
(31)【優先権主張番号】61/748,859
(32)【優先日】2013年1月4日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】61/783,179
(32)【優先日】2013年3月14日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】506112683
【氏名又は名称】サーモディクス,インコーポレイティド
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】バブコック,デビッド イー.
(72)【発明者】
【氏名】クロケ,ティモシー エム.
(72)【発明者】
【氏名】マクゴニグル,ジョセフ エス.
【審査官】 石井 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2009−525176(JP,A)
【文献】 特開2009−107176(JP,A)
【文献】 特開昭64−040421(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/123441(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 15/00−33/18
C09D 7/40
C09D 133/00
C09D 139/06
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビニルピロリドンポリマーおよび光反応性基を含んでいる第1のコート層であって、上記光反応性基は、上記ビニルピロリドンポリマーからのペンダント基であるか、もしくは少なくとも2つの光反応性基を有する第1の架橋剤上に存在しているか、またはその両方である、第1のコート層と、
アクリル酸ポリマーを含んでいる最上層のコーティングである第2のコート層であって、上記第2のコート層は、上記第1のコート層と直接的に接しており、上記第1のコート層は、上記第2のコート層と基材の表面との間に存在する、第2のコート層と、を備えている潤滑性コーティング。
【請求項2】
上記第2のコート層は、少なくとも1つの光反応性基を含んでいるアクリルアミドポリマーをさらに含んでいる、請求項1に記載のコーティング。
【請求項3】
上記アクリルアミドポリマーは、アクリルアミド含有サブユニット、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホネート(AMPS)含有サブユニットおよびポリ(エチレングリコール)含有サブユニットを含んでいる、請求項2に記載のコーティング。
【請求項4】
上記ビニルピロリドンポリマーおよび上記アクリルアミドポリマーは、それぞれ約3:1〜1:3(重量/重量)の範囲の重量比にて、上記コーティング中に存在している、請求項2に記載のコーティング。
【請求項5】
第1の架橋剤を含んでおり、上記ビニルピロリドンポリマーおよび上記第1の架橋剤は、約8:1〜約20:1(重量/重量)の範囲の重量比にて、上記コーティング中に存在している、請求項1に記載のコーティング。
【請求項6】
第1の架橋剤または第2の架橋剤を含んでおり、上記第1の架橋剤および上記第2の架橋剤の少なくとも一方は、式「フォト1−LG−フォト2」で表される化合物であり、上記フォト1および上記フォト2は、独立して少なくとも1つの光反応性基を表し、LGは、少なくとも1つのケイ素原子または少なくとも1つのリン原子を含んでいる連結基を表し、上記少なくとも1つの光反応性基と上記連結基との間には共有結合が存在し、上記少なくとも1つの光反応性基と上記連結基との間の共有結合には、少なくとも1つのヘテロ原子が介在しており、
上記第1の架橋剤および上記第2の架橋剤の少なくとも一方は、
【化1】

(ここで、R1、R2、R8およびR9は、任意の置換基であり;R3、R4、R6およびR7は、アルキル基、アリール基、またはそれらの組み合わせであり;R5は、任意の置換基であり;かつ、Xは、それぞれ独立してO、N、Se、S、もしくはアルキル基、またはそれらの組み合わせである);
【化2】

(ここで、R1およびR5は、任意の置換基であり;R2およびR4は、OHを除く任意の置換基であってもよく;R3は、アルキル基、アリール基、またはそれらの組み合わせであってもよく;かつ、Xは、それぞれ独立してO、N、Se、S、アルキル基またはそれらの組み合わせである);
【化3】

(ここで、R1、R2、R4およびR5は、任意の置換基であり;R3は、任意の置換基であり;R6およびR7は、アルキル基、アリール基、またはそれらの組み合わせであり;かつ、Xは、それぞれ独立してO、N、Se、S、アルキル基、またはそれらの組み合わせである);および、
【化4】

から選択される式で表される化合物である、請求項1に記載のコーティング。
【請求項7】
上記第1の架橋剤および上記第2の架橋剤の少なくとも一方は、ナトリウムビス(4−ベンゾフェニル)ホスフェートである、請求項6に記載のコーティング。
【請求項8】
上記アクリル酸ポリマーは、150kDa以上の平均分子量を有する、請求項1に記載のコーティング。
【請求項9】
上記コーティングは、10ミクロンを超える3,000個未満の粒子を放出する、請求項1に記載のコーティング。
【請求項10】
上記第1のコート層および上記第2のコート層を合わせた厚さは、乾燥状態において約100〜1000nmである、請求項1に記載のコーティング。
【請求項11】
(a)上記コーティングは、少なくとも10回の連続した試験サイクルの間、湿潤状態において0〜30グラムの力の潤滑性を示すか、もしくは(b)上記コーティングは、試験の1〜5回目のサイクルの平均と試験の10〜15回目のサイクルの平均との間で測定された摩擦において30パーセント未満の増加がある潤滑性の耐久性を示すか、または(a)および(b)の両方である、請求項1に記載のコーティング。
【請求項12】
上記第1のコート層のみを有する対照コーティングと比較して、(a)上記コーティングは、血小板の集積の減少を示すか、(b)上記コーティングは、フィブリンの集積の減少を示すか、または(a)および(b)の両方である、請求項1に記載のコーティング。
【請求項13】
請求項1に記載のコーティングを備えた、医療デバイス。
【請求項14】
上記基材は、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルブロックアミド(PEBAX)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリエチレン、ポリウレタン、またはポリエチレンビニルアセテートを含んでいる、請求項13に記載の医療デバイス。
【請求項15】
上記医療デバイスは、カテーテルを備えている、請求項14に記載の医療デバイス。
【請求項16】
医療デバイス上にコーティングを形成する方法であって、以下の工程を含む方法:
医療デバイスの表面上に直接的または間接的に第1のコーティング溶液を塗布し、そして第1のコーティング溶液を乾燥させる工程であって、上記第1のコーティング溶液は、ビニルピロリドンポリマーおよび光反応性基、並びに第1の溶媒、を含んでおり、上記光反応性基は、上記ビニルピロリドンポリマーからのペンダント基であるか、もしくは少なくとも2つの光反応性基を有する第1の架橋剤上に存在している、工程;
上記第1のコーティング溶液を化学線に曝露して第1の層を形成する工程;
上記第1の層上に第2のコーティング溶液を塗布し、そして第2のコーティング溶液を乾燥させる工程であって、上記第2のコーティング溶液は、アクリル酸ポリマーおよび第2の溶媒、並びに任意に、少なくとも2つの光反応性基を含んでいる第2の架橋剤を含んでいる、工程;および、
上記第2のコーティング溶液を化学線に曝露して第2の層を形成する工程。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
〔関連出願の相互参照〕
当該非仮出願は、出願人を同じくする仮出願である出願番号61/748,859(出願日:2013年1月4日、発明の名称:LUBRICIOUS COATINGS WITH LOW PARTICULATES)、および出願番号61/783,179(出願日:2013年3月14日、発明の名称:LUBRICIOUS COATING WITH LOW PARTICULATES)の利益を主張するものであり、これらの仮出願は、その全体が参照によって本明細書に引用される。また、2014年1月6日に作成された「SRM0161WO_Sequence_Listing_ST25.txt」というタイトルの、9キロバイトのサイズを有するASCIIテキストファイルの全体の内容は、参照によって本明細書に引用される。
【0002】
〔技術分野〕
本開示は、潤滑性コーティングに関する。より具体的には、本開示は、粒子の発生が少ない潤滑性の医療デバイスコーティング、並びにこれに関連する医療デバイスおよび方法に関する。
【0003】
〔背景技術〕
医療デバイスは、特に、慢性的に移植されているデバイス、一時的に移植されているデバイス、および、全く移植されていないデバイスを含む。多くのタイプの医療デバイスは、特にデバイスを挿入する間に、当該デバイスと、当該医療デバイスの周囲の環境との摩擦を減少させることにより、改善される。1つの例として、少なくとも一時的に、被験体の体内へ挿入されるカテーテルが挙げられる。摩擦の減少は、他にも利益をもたらすが、患者の痛みの緩和、介護者の処理の軽減、感染の機会の減少とともに、組織の破壊の減少をもたらし得る。医療デバイスと、当該医療デバイスの周囲の環境との摩擦を減少させるための1つのアプローチは、当該医療デバイスに潤滑性コーティングを塗布することである。
【0004】
〔発明の概要〕
本開示の実施形態は、潤滑性コーティングを含む。一般的に、当該コーティングは、ビニルピロリドンポリマーおよび光反応性基を含んでいる第1のコート層と、酸性基含有ポリマーを含んでいる最上層コートである第2のコート層とを備えており、上記第1のコート層は、上記第2のコート層と基材の表面との間に存在する。
【0005】
一実施形態において、上記潤滑性コーティングは、ビニルピロリドンポリマーおよび光反応性基を含んでいる第1のコート層を備えている。当該第1のコート層において、上記光反応性基は、ビニルピロリドンポリマーからのペンダント基であってもよく、第1の架橋剤上のペンダント基であってもよく、またはその両方であってもよい。上記コーティングはまた、アクリル酸ポリマーを含んでいる最上層のコーティングである第2のコート層を備えている。当該第2のコート層は、任意に、第2の架橋剤上に存在する光反応性基等の光反応性基を含み得る。上記コーティングにおいて、上記第2のコート層は、上記第1のコート層に直接的に接しており、上記第1のコート層は、上記第2のコート層と基材の表面との間に存在している。いくつかの実施形態において、上記第1のコート層は、基材の表面上の基部コートである。
【0006】
上記コーティングは、上記第1のコート層のビニルピロリドンポリマーと、上記第2のコート層の酸性基含有ポリマー(例えば、アクリル酸ポリマー)との間の水素結合を含み得る。上記第1層の材料と上記第2層の材料との間に水素結合を含むことにより、分裂(粒子の放出)せずに強い圧縮力が維持されること、および、潤滑性が向上することが反映され、別個のコーティングは、機械的強度の向上等の利益を得る。
【0007】
有利なことに、上記ビニルピロリドンポリマーおよび酸性基含有ポリマー(例えば、アクリル酸ポリマー)を含んだ第1のコート層および第2のコート層を含んでいるコーティングは、非常に数が少ない粒子(例えば、10μm以上)を有し得る。低粒子濃度の親水性コーティングを有する医療デバイスは、in vivoでの使用において非常に好ましい。いくつかの実施形態において、上記コーティングは、コーティングされた表面600mm2あたり20,000以下、10,000以下、または5,000以下の粒子数を有し、上記コーティングは、100nm〜10μmの範囲の厚さを有し、上記粒子数は、10μm以上のサイズを有する粒子に基づく。
【0008】
別の実施形態において、本開示は、デバイス材料と接するコート層を含んでいるコーティングを有する移植可能または挿入可能な医療デバイスを提供し、上記デバイス材料は、ビニルピロリドンポリマーおよび熱可塑性エラストマーを含んでいる溶融押出組成物から形成されており、上記コート層は、アクリル酸ポリマー等の酸性基含有ポリマーを備えている。上記コート層中の酸性基含有ポリマーは、押出デバイス材料中のビニルピロリドンポリマーとの水素結合を形成し得る。任意に、押し出された、コーティングされたデバイスは、以下の材料のうちの1つ以上を含み得る:光反応性基を含んでいるビニルピロリドンポリマー、少なくとも2つの光反応性基を含んでいる第1の架橋剤、および/または、少なくとも2つの光反応性基を含んでいる第2の架橋剤。
【0009】
別の実施形態において、本開示は、医療デバイスをコーティングするための方法であって、ビニルピロリドンポリマーおよび熱可塑性エラストマーを含んでいる組成物を溶融押し出しすることにより、表面を有する移植可能または挿入可能な医療デバイスの一部または全てを形成する工程を含む方法を提供する。次に、アクリル酸ポリマー等の酸性基含有ポリマーを含んでいるコーティング組成物を上記デバイスの表面に塗布する工程が実施される。上記コーティングの塗布は、酸性基含有ポリマーを含んでいるコーティング槽中にて、押し出されたデバイスを移動させること、または、水性の冷却槽中にて、押し出されたデバイスを移動させた後に当該デバイスの表面へ酸性基含有ポリマーを塗布することにより、実施される。UV照射によってコーティングデバイスを処理する任意の工程は、押出成形材料(extruded material)および/またはコーティングが、UVによって活性化し得る光反応基を、例えば第1のUV活性化架橋剤および/または第2のUV活性化架橋剤の形態にて含んでいる場合に、実施され得る。
【0010】
いくつかの実施形態において、上記光反応性基は、第1の架橋剤、第2の架橋剤、または第1の架橋剤と第2の架橋剤との両方に、存在し得る。上記第1の架橋剤および上記第2の架橋剤は、ナトリウムビス(4−ベンゾフェニル)ホスフェートを含み得る。他の実施形態において、上記第1の架橋剤および上記第2の架橋剤は、式「フォト1−LG−フォト2」を有する連結剤を含んでいてもよく、上記フォト1および上記フォト2は、独立して少なくとも1つの光反応性基を表し、LGは、少なくとも1つのケイ素原子または少なくとも1つのリン原子を含んでいる連結基を表し、上記少なくとも1つの光反応性基と上記連結基との間には共有結合が存在し、上記少なくとも1つの光反応性基と上記連結基との間の共有結合には、少なくとも1つのヘテロ原子が介在している。
【0011】
上記第1の架橋剤および上記第2の架橋剤は、(a):
【0012】
【化1】
【0013】
(ここで、R1、R2、R8およびR9は、任意の置換基であり;R3、R4、R6およびR7は、アルキル基、アリール基、またはそれらの組み合わせであり;R5は、任意の置換基であり;かつ、Xは、それぞれ独立してO、N、Se、S、もしくはアルキル基、またはそれらの組み合わせである);
(b):
【0014】
【化2】
【0015】
(ここで、R1およびR5は、任意の置換基であり;R2およびR4は、OHを除く任意の置換基であってもよく;R3は、アルキル基、アリール基、またはそれらの組み合わせであってもよく;かつ、Xは、それぞれ独立してO、N、Se、S、アルキル基またはそれらの組み合わせである);
(c):
【0016】
【化3】
【0017】
(ここで、R1、R2、R4およびR5は、任意の置換基であり;R3は、任意の置換基であり;R6およびR7は、アルキル基、アリール基、またはそれらの組み合わせであり;かつ、Xは、それぞれ独立してO、N、Se、S、アルキル基、またはそれらの組み合わせである);
および(d):
【0018】
【化4】
【0019】
から選択される式を有する連結剤を含み得る。
【0020】
他の実施形態において、上記第1の架橋剤および/または上記第2の架橋剤は、式I:X1−Y−X2で表される、イオン性の光活性化可能な架橋剤であってもよく、上記Yは少なくとも1つの酸性基、塩基性基、または酸性基もしくは塩基性基の塩、を含んでいるラジカルであり、X1およびX2はそれぞれ独立して、潜在的な光反応性基を含んでいるラジカルである。酸性基としては、スルホン酸、カルボン酸およびホスホン酸等が挙げられ、それらの基の塩としては、例えば、スルホン酸塩、カルボン酸塩、およびリン酸塩が挙げられる。塩基性基としては、例えば、アンモニウム基、ホスホニウム基およびスルホニウム基、並びにそれらの塩が挙げられる。
【0021】
他の実施形態において、上記第1の架橋剤および/または上記第2の架橋剤は、下記式を有する、イオン性の光活性化可能な架橋剤であり得る:
【0022】
【化5】
【0023】
(ここで、X1は、第1の光反応性基を含み;X2は、第2の光反応性基を含み;Yは、コア分子を含み;Zは、少なくとも1つの電荷を帯びた基を含み;D1は、第1の分解性リンカーを含み;D2は、第2の分解性リンカーを含む)。
【0024】
他の実施形態において、上記第1の架橋剤および/または上記第2の架橋剤は、式XR1234を有する、非イオン性の光活性化可能な架橋剤であってもよく、上記Xは、非イオン性の化学的骨格(chemical backbone)であり、R1、R2、R3およびR4は、潜在的な光反応性基を含んでいるラジカルである。
【0025】
他の実施形態において、上記第1の架橋剤および/または上記第2の架橋剤は、式:PG2−LE2−X−LE1−PG1を有する、非イオン性の光活性化可能な架橋剤であってもよく、上記PG1およびPG2は独立して、1つ以上の光反応性基を含んでおり;上記LE1およびLE2は独立して、尿素、カルバメート、またはそれらの組み合わせを含む連結成分であり;Xは、重合体または非重合体のコア分子を表す。
【0026】
他の実施形態において、上記第1の架橋剤および/または上記第2の架橋剤は、一般式R1−X−R2を有する、非イオン性の光活性化可能な架橋剤であってもよく、上記R1は、ビニル基を含んでいるラジカルであり、Xは、約1〜約20の炭素原子から構成されるラジカルであり、R2は、光反応性基を含んでいるラジカルである。
【0027】
他の実施形態において、上記第1の架橋剤および/または上記第2の架橋剤は、下記構造(I)を有する化合物であり得る:
【0028】
【化6】
【0029】
(ここで、R1は、光反応性基を含んでいるラジカルであり;R2は、OH、並びに、光反応性基、アルキル基およびアリール基を含んでいるラジカルから選択され;R3は、OH、および、光反応性基を含んでいるラジカルから選択される)。
【0030】
別の実施形態において、上記コーティング中の上記第1層および/または上記第2層は、少なくとも1つの光反応性基を含んでいるアクリルアミドポリマーをさらに含み得る。例えば、アクリルアミド感光性樹脂は、アクリルアミド、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホネート(AMPS)、光反応基(photogroup)によって誘導体化されたアクリルアミドモノマー、および、ポリ(エチレングリコール)含有モノマーを含むモノマー成分から形成され得る。例示的なアクリルアミド感光性樹脂は、N−アセチル化ポリ[アクリルアミド−co−ナトリウム−2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホネート−co−N−(3−(4−ベンゾイルベンズアミド)プロピル)メタクリルアミド]−co−メトキシポリ(エチレングリコール)モノメタクリレートである。
【0031】
いくつかの実施形態において、上記コーティングは、所定の量のビニルピロリドンポリマーおよびアクリルアミドポリマーを提供する。例えば、上記コーティングは、光反応性基を含んでいるビニルピロリドンポリマーと光反応性基を含んでいるアクリルアミドポリマーとを、それぞれ約3:1〜約1:3(重量/重量)の範囲の重量比である量にて含んでいる。
【0032】
いくつかの実施形態において、上記コーティングは、所定の量のビニルピロリドンポリマーおよび第1の架橋剤を提供する。例えば、上記コーティングは、光反応性基を含んでいるビニルピロリドンポリマーと少なくとも2つの光反応性基を含んでいる第1の架橋剤とを、それぞれ約8:1〜約16:1(重量/重量)の範囲である量にて含んでいる。
【0033】
いくつかの実施形態において、上記コーティングは、所定の量の酸性基含有ポリマー(例えば、アクリル酸ポリマー)およびアクリルアミドポリマーを提供する。例えば、最上層コートである上記第2のコート層は、アクリル酸ポリマーと光反応性基を含んでいるアクリルアミドポリマーとを、それぞれ約2:1〜約1:2(重量/重量)の範囲の重量比である量にて含んでいる。
【0034】
いくつかの実施形態において、上記コーティングは、所定の量の酸性基含有ポリマー(例えば、アクリル酸ポリマー)および第2の架橋剤を提供する。例えば、最上層コートである上記第2のコート層は、ポリアクリル酸と少なくとも2つの光反応性基を含んでいる第2の架橋剤とを、それぞれ約13:1(重量/重量)の重量比である量にて含んでいる。
【0035】
別の実施形態において、本開示は、本開示の第1のコート層および第2のコート層を含んでいるコーティングを備えている医療デバイスを含む。
【0036】
コーティングが形成されている医療デバイスは、ポリマー、金属、ガラス、セラミック、またはそれらの混合物から製造され得る。いくつかの実施形態において、上記コーティングが形成されている医療デバイスは、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルブロックアミド(PEBAX)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリエチレン、ポリウレタン、またはポリエチレンビニルアセテートから製造され得る。
【0037】
別の実施形態において、本開示は、医療デバイスを製造する方法であって、医療デバイスの表面上に直接的または間接的に基部のコーティング溶液、すなわち第1のコーティング溶液を塗布して第1層を形成する工程であって、上記第1のコーティング溶液は、ビニルピロリドンポリマー、光反応性基、および第1の溶媒、を含んでいる工程を含む方法を提供する。上記光反応性基は、上記ビニルピロリドンポリマーからのペンダント基であってもよく、第1の架橋剤上のペンダント基であってもよく、またはその両方であってもよい。上記第1層を乾燥させ、そして当該第1層を化学線に曝露する工程もまた実施される。次に、上記第1層上に最上層のコーティング溶液、すなわち第2のコーティング溶液を塗布して第2層を形成する工程であって、上記第2のコーティング溶液は、第2の溶媒中に、酸性基含有ポリマー(例えば、アクリル酸ポリマー)を含んでおり、任意に光反応性基を含んでいる工程が実施される。上記方法はまた、上記第2層を乾燥させ、そして当該第2層を化学線に曝露する工程を含む。
【0038】
いくつかの実施形態において、上記第1のコーティング溶液は、イソプロピルアルコール(IPA)および水を、約95%のIPA:5%の水〜約10%のIPA:90%の水の範囲の体積比である量にて含んでいる。いくつかの実施形態において、上記第2のコーティング溶液は、イソプロピルアルコール(IPA)および水を、約0%のIPA:100%の水〜約100%のIPA:0%の水の範囲の体積比である量にて含んでいる。さらに他の実施形態において、上記第2のコーティング溶液は、少なくとも2つの光反応性基を含んでいる第2の架橋剤をさらに含んでいる。
【0039】
さらに別の実施形態において、本開示は、コーティングを有する移植可能または挿入可能な医療デバイスであって、上記コーティングは、アクリル酸ポリマーおよび細胞外マトリクス(ECM)のタンパク質、またはECMタンパクの活性部位を含んでいるペプチド、または別の生物活性ペプチド(例えば、これに限定されないがビバリルジン等の、トロンビン阻害ペプチド)を含んでいる、医療デバイスを提供する。当該タンパク質またはペプチドは、酸性基含有ポリマー(例えば、アクリル酸ポリマー)と共有結合しており、上記デバイスは、上記アクリル酸ポリマーとデバイスの表面との間のコート層に存在するビニルピロリドンポリマーか、または溶融押出組成物から形成されたデバイス材料に存在するビニルピロリドンポリマーを含んでおり、上記アクリル酸ポリマーは、上記ビニルピロリドンポリマーと水素結合を形成している。
【0040】
上記ECMタンパク質もしくはペプチド、アクリル酸ポリマー、およびビニルピロリドンポリマーを含んでいる上記デバイスは、任意にUV光反応性基を含み得る。例えば、上記UV光反応性基は、酸性基含有ポリマー(例えば、アクリル酸ポリマー)および/またはビニルピロリドンポリマーからのペンダント基であり得る;あるいは、第1の架橋剤(例えば、少なくとも2つの光反応性基を含んでいる架橋剤)および/または第2の架橋剤(例えば、少なくとも2つの光反応性基を含んでいる架橋剤)は、上記コーティング中に存在し得る。
【0041】
上記ECMタンパク質またはペプチドを含んでいるコーティングを備えたデバイスは、被験体を処置する方法において使用され得る。被験体が上記デバイスによって処置された場合に、上記タンパク質またはペプチドのコーティングは、細胞増殖の促進、血液適合性(hemocompatibility)の改善および感染の減少からなる群より選択される1つ以上の性質を提供し得る。
【0042】
本開示の当該局面によれば、上記タンパク質またはペプチドを含んでいるコーティングは、以下の有利な性質のうちの1つ以上を有する:高密度のペプチド/タンパク質の結合、種々の組み合わせのペプチドを有するコーティングを即座に形成して分析する能力、上記ペプチド/タンパク質によって与えられた性質に伴う高い潤滑性および低濃度の粒子の提供。
【0043】
本開示の上述の要約は、本開示にて議論されている実施形態のそれぞれを記載することを意図しているものではない。このことは、以下の図面および詳細な説明の目的である。
【0044】
〔図面の簡単な説明〕
本開示は、以下の図面とともに、より完全に理解され得る:
図1は、2つの成分のコーティングの一実施形態を示す概略図である。
【0045】
図2は、コーティングされた医療デバイスの一実施形態を示す概略図である。
【0046】
図3は、本開示の種々の実施形態における、垂直ピンチテスト(a vertical pinch test)にて測定された摩擦力の平均と、試験サイクル数とを示すグラフである。
【0047】
図4は、本開示の種々の実施形態における、垂直ピンチテストにて測定された摩擦力の平均と、試験サイクル数とを示すグラフである。
【0048】
図5は、UVなしの最上層コーティングと30秒間UVの最上層コーティングとの比較において、垂直ピンチテストにて測定された摩擦力の平均と、試験サイクル数とを示すグラフである。
【0049】
図6は、デバイスを形成およびコーティングする方法、並びに、それに関連した、溶融押出機、コーティングバス、照射領域および巻取りステーション(winding station)を含む機器を示す図である。
【0050】
図7は、デバイスを形成およびコーティングする方法、並びに、それに関連した、溶融押出機、冷却槽、コーティングエリア、照射エリアおよび巻取りステーションを含む機器を示す図である。
【0051】
図8は、押し出されたチューブ状のデバイスの断面図(端面図)であり、当該デバイスは、その外表面上にコーティングを有する。
【0052】
図9は、押し出されたチューブ状のデバイスの断面図(端面図)であり、当該デバイスは、その内表面上にコーティングを有する。
【0053】
図10は、チューブ状のデバイスの断面図(端面図)であり、当該デバイスは、その外表面上に中間押出成形層およびコーティングを有する。
【0054】
図11は、チューブ状のデバイスの断面図(端面図)であり、当該デバイスは、その内表面上に中間押出成形層およびコーティングを有する。
【0055】
図12は、アクリル酸ポリマー含有層上に共有結合によって固定されたペプチドを有するコーティングの一部の断面図である。
【0056】
図13Aおよび図13Bは、種々のペプチドが固定されたアクリル酸ポリマー含有コーティングにおける細胞接着を反映したグラフである。
【0057】
図14は、コーティングされていない対照と比較した、種々のコーティングされた基材上の血小板の存在(量)を測定した血液適合性アッセイの結果を示すグラフである。
【0058】
図15は、ヒト乏血小板血漿から種々のコーティングされた基材への吸収を測定したin vitroにおけるフィブリノーゲンの免疫学的検定の結果を示すグラフである。
【0059】
図16は、第1のコート層のビニルピロリドンポリマーと、第2のコート層のアクリル酸ポリマーとの間の水素結合を示す図である。
【0060】
本開示は、種々の修正および代替形態を許容するが、その詳細は、実施例および図面を通じて示されており、そして、詳細に記載されるであろう。しかしながら、本開示は、記載された特定の実施形態に限定されないと理解されるべきである。一方、本開示の精神および範囲に含まれる修正、同等物および代替物に及ぶことが意図される。
【0061】
〔例示的実施形態の詳細な説明〕
上述したように、医療デバイスと、当該医療デバイスの周囲の環境との間の摩擦を低減するための1つのアプローチは、上記医療デバイスの上へ潤滑性コーティングを形成することである。しかしながら、潤滑性コーティングの多くは、上記デバイスと、上記デバイスの周囲の環境(一例として、血管内の空間)との間の摩擦を低減する効果が比較的低い。さらに、潤滑性コーティングの多くは十分な耐久性を有しておらず、使用中の摩擦の急速な増加をもたらす。最後に、潤滑性コーティングの多くは、水性の環境(患者の体内等)に曝された後に、好ましくない粒子状物質を放出する。
【0062】
本実施形態は、非常に滑らかであって、優れた耐久性を有するコーティングを含む。さらに、本実施形態は、粒子状物質の放出が比較的少ない、または低減された、潤滑性コーティングを含む。図1は、本実施形態に関連する、基材上のコーティングの概略断面図である。上記コーティングは、基部のコーティングすなわち第1層102と、最上層のコーティングすなわち第2層104とを含み得る。第2層104は、第1層102の上に配置され得る。第1層102は、基材106の上に配置され得る。代表的な基材の材料を、以下により詳細に示す。いくつかの実施形態において、第1層102は基材106の上に直接的に配置される。他の実施形態においては、他の成分を、第1層102と基材106との間に配置し得る。
【0063】
第1層102の厚さと第2層104の厚さとは、合わせて、乾燥状態で約100nmから約1000nmまでであり得る。いくつかの実施形態において、上記厚さは約200nmから約400nmまでであり得る。いくつかの実施形態において、上記厚さは約300nmであり得る。例えば、上記第1のコート層の厚さは、乾燥状態で、約500nm〜約5.0μmの範囲、約500nm〜約2.0μmの範囲、または約1.0μm〜約2.0μmの範囲であり得る。例えば、上記第2のコート層の厚さは、乾燥状態で、約100nm〜約5.0μmの範囲、約250nm〜約5.0μmの範囲、約250nm〜約1.0μmの範囲、または約1.0μm〜約5.0μmの範囲であり得る。
【0064】
上記コーティングは、任意に、第1のビニルピロリドン含有コート層の厚さの、第2のアクリル酸ポリマー含有コート層に対する割合に換算して記載され得る。例えば、上記厚さの割合は、約50:1〜約1:10の範囲(第1層:第2層)(すなわち、上記第1のコート層が、上記第2のコート層の約50倍の厚さを持つ、または、上記第1のコート層が、上記第2のコート層の約1/10の厚さを持つ、または、上記第1のコート層が、上記第2のコート層の50倍と1/10との間の厚さを持つ)の範囲、約20:1〜約1:2、約10:1〜約1:1、または約7.5:1〜約2.5:1の範囲にあり得る。
【0065】
いくつかの実施形態では、上記第1層がビニルピロリドンポリマーを含んでいる。本明細書にて用いる場合、「ビニルピロリドンポリマー」は、ビニルピロリドンの単量体単位を含んでいるポリマーを意味する。
【0066】
いくつかの実施形態では、コーティングはビニルピロリドンポリマーを含む第1層を有する。本明細書にて用いる場合、「ビニルピロリドンポリマー」は、ビニルピロリドンの単量体単位を含んでいるポリマーを意味する。上記ビニルピロリドンポリマーは、ビニルピロリドンホモポリマー、または、ビニルピロリドンおよびビニルピロリドンとは異なる1つ以上(例えば、2つ,3つ,4つ,5つ等)の他の単量体単位を含んでいるビニルピロリドンコポリマーであり得る。実施形態では、ポリ(ビニルピロリドン)コポリマーにおいて、上記ビニルピロリドンは主要なモノマー(モル量)であり得る。上記ビニルピロリドンは、ポリ(ビニルピロリドン)コポリマーにおいて、例えば、50%(モル)より多い量、55%(モル)以上の量、60%(モル)以上の量、65%(モル)以上の量、70%(モル)以上の量、75%(モル)以上の量、80%(モル)以上の量、85%(モル)以上の量、90%(モル)以上の量、92.5%(モル)以上の量、95%(モル)以上の量、97.5%(モル)または99%(モル)以上の量で存在する。代表的な実施形態において、ビニルピロリドンは、上記コポリマー中に約75%(モル)〜約97.5%(モル)の範囲、約85%(モル)〜約97.5%(モル)の範囲、または約90%(モル)〜約97.5%(モル)の範囲で存在する。
【0067】
ビニルピロリドンのポリマーを提供するためのビニルピロリドンと共重合し得る他のモノマーは、限定されるものではないが、アクリルアミド、メタクリルアミド、アクリル酸、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホネート(AMPS)、メタクリル酸、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドロキシエチル、アクリル酸グリセリル、メタクリル酸グリセリル、エチレングリコール、およびこれらのモノマーの誘導体を含む。
【0068】
例えば、いくつかの実施形態では、上記第1のコート層は、光反応性基(例えば、フォト−PVP)を含んでいるビニルピロリドンポリマーを含んでいる。フォト−PVPの調製に用いる試薬および方法は、米国特許第4,979,959号;米国特許第5,002,582号;米国特許第5,263,992号;米国特許第5,414,075号;米国特許第5,512,329号;および米国特許第5,637,460号等の文献に見出すことができ、これらの文献の開示は、参照によって本明細書に引用される。いくつかの実施形態において、フォト−PVPは1−ビニル−2−ピロリドンとN−(3−アミノプロピル(メタ)アクリルアミド)との共重合によって形成することができ、次に、ショッテン−バウマン反応により、酸塩化物(例えば、4−ベンゾイルベンゾイルクロリド)を用いて誘導体化することができる。すなわち、酸塩化物は上記コポリマーのN−(3−アミノプロピル)部分のアミノ基と反応する。アミドは、上記ポリマーにアリールケトンを付加することによって形成される。
【0069】
光反応性基を含んでいるビニルピロリドンポリマーは、光反応性基を用いて誘導体化したモノマーを用いてビニルピロリドンを共重合することによっても調製することができる。代表的なモノマー誘導体は、アクリルアミド、メタクリルアミドおよびAMPS等の、親水性かつフリーラジカル重合性であるモノマーのアリールケトン誘導体を含む。ペンダント基である光反応性基を備えた、1つの代表的なメタクリルアミド系モノマーは、N−[3−(4−ベンゾイルベンズアミド)プロピル]メタクリルアミド(BBA−APMA)であり、その合成法は、米国特許第5,858,653号(Duran et al.)の実施例1−3に記載されている。ペンダント基である光反応性基を備えた、別の代表的なメタクリルアミド系モノマーは、N−[3−(7−メチル−9−オキソチオキサンテン−3−カルボキシアミド)プロピル]メタクリルアミド(MTA−APMA)である。その合成法は、米国特許第6,156,345号(Chudzik et al.)の実施例1−2に記載されている。
【0070】
少なくとも2つの光反応性基を含んでいる、代表的な架橋剤は、本明細書中により詳細に記載されている。いくつかの実施形態において、上記第1のコート層の内部に、成分が均質に混合され得る。
【0071】
いくつかの実施形態において、上記第1のコート層は、少なくとも2つの光反応性基を含んでいる第1の架橋剤を含んでおり、上記ビニルピロリドンポリマーと、少なくとも2つの光反応性基を含んでいる第1の架橋剤とを、それぞれ重量比で約2:1〜約30:1(重量/重量)の範囲の量で含んでいる。いくつかの実施形態では、上記第1のコート層において、ビニルピロリドンポリマーと、少なくとも2つの光反応性基を含んでいる上記第1の架橋剤との量は、重量比で、それぞれ約2:1〜約20:1(重量/重量)の範囲の量である。いくつかの実施形態では、上記第1のコート層において、ビニルピロリドンポリマーと、少なくとも2つの光反応性基を含んでいる上記第1の架橋剤との量は、重量比で、それぞれ約8:1〜約20:1(重量/重量)の範囲の量である。いくつかの実施形態では、上記第1のコート層において、ビニルピロリドンポリマーと、少なくとも2つの光反応性基を含んでいる上記第1の架橋剤との量は、重量比で、それぞれ約8:1〜約16:1(重量/重量)の範囲の量である。いくつかの実施形態では、上記第1のコート層において、ビニルピロリドンポリマーと、少なくとも2つの光反応性基を含んでいる上記第1の架橋剤との量は、重量比で、それぞれ約18:1(重量/重量)である。いくつかの実施形態では、基部のコーティングの全ての成分は光反応性基を含んでいる。
【0072】
いくつかの実施形態において、上記第1のコート層は、光反応性基を有さないビニルピロリドンポリマー(例えば、非イオン性の、誘導体化されていないPVP)を含んでいる。上記誘導体化されていないPVPは、種々の分子量であり得る。いくつかの実施形態において、上記第1のコート層は、光反応性基を含んでいるビニルピロリドンポリマー、誘導体化されていないビニルピロリドンポリマー、および少なくとも2つの光反応性基を含んでいる第1の架橋剤を、それぞれ、約8:0.1:0.1〜13:8:1(重量/重量/重量)の範囲の重量比で有する。いくつかの実施形態において、上記第1のコート層は、光反応性基を含んでいるビニルピロリドンポリマー、誘導体化されていないビニルピロリドンポリマー、および少なくとも2つの光反応性基を含んでいる第1の架橋剤を、約13:5:1(重量/重量/重量)の重量比で有する。いくつかの実施形態において、上記第1のコート層は、誘導体化されていないビニルピロリドンポリマーおよび少なくとも2つの光反応性基を含んでいる第1の架橋剤を、それぞれ約0.1:0.5〜約8:1(重量/重量)の範囲の重量比で有する。
【0073】
さらなる他の実施形態において、上記第1のコート層は、他の非イオン性の、代表的なポリマーを有し得る。当該ポリマーは、限定されるものではないが、ポリ(N−ビニルカプロラクタム)、エーテル基を含んでいるポリマー(例えば、ポリ(エチレンオキシド)(PEO)、ポリ(プロピレンオキシド)(PPO),ポリ(プロピレングリコール)(PPG)、ポリ(ビニルメチルエーテル)等)、またはこれらの混合物、またはこれらのコポリマー、および、非イオン性のアクリル系ポリマー(例えば、ポリアクリルアミド、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)、およびポリ(N,N−ジメチルアクリルアミド)等)を含む。
【0074】
他の代表的な非イオン性のポリマーは、限定されるものではないが、多価アルコール(例えば、ポリ(ビニルアルコール)(PVA)、ポリ(2−ヒドロキシエチルアクリレート)(PHEA)、およびポリ(2−ヒドロキシエチルビニルエーテル)(PHEVE)等)、ポリ(2−エチル−2−オキサゾリン)(PEOX)、ポリ(n−アセチルイミノエチレン)(PAIE)、および水溶性多糖(例えば、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、およびヒドロキシエチルセルロース等)("Hydrogen-Bonded Interpolymer Complexes; Formation, Structure and Applications" Chapters 1 and 7, Eds. Vitaliy V. Khutoryanskiy and Georgios Stalkos (2009)を参照)を含む。
【0075】
「酸性基含有ポリマー」は、ポリマー鎖上に存在する酸性基を有するポリマーを意味する。酸性基は、例えば、スルホン酸、カルボン酸、ホスホン酸等を含む。そのような基の代表的な塩には、例えば、スルホン酸塩、カルボン酸塩、およびリン酸塩が含まれる。代表的なカウンターイオンには、アルカリ、アルカリ土類金属、アンモニウム、プロトン化されたアミン等が含まれる。1つ以上のカウンターイオンを用いる場合、酸性基含有ポリマーの酸性基は部分的に中和される。例えば、酸性基のモル百分率は、カウンターイオンを用いて、例えばx〜yの範囲に中和することができる。x〜yは、約1%、5%、10%、15%、20%、25%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、または90%から選択され、xはyよりも小さい。
【0076】
酸性基含有ポリマーの調製に用いることができる、代表的なカルボン酸基含有モノマーには、限定されるものではないが、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、モノメチルイタコン酸、無水マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、およびこれらの塩が含まれる。酸性基含有ポリマーの調製に用いることができる、代表的なスルホン酸基含有モノマーとしては、限定されるものではないが、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(AMPS)、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、ビニルスルホン酸、2−スルホエチルメタクリレートおよびこれらの塩が含まれる。2つ以上の異なる酸性基含有モノマーの組み合わせから製造されるコポリマー、または、1つ以上の酸性基含有モノマーと、1つ以上の非酸性基含有モノマーとから製造されるコポリマーを用いることができる。これらのコポリマーは、所望の結果を得るために、ランダムコポリマー、ブロックコポリマー、グラフトコポリマー、またはこれらの混合物であってよい。
【0077】
酸性基含有コポリマーの調製に用いることができる、他の代表的なカルボン酸含有モノマーには、スチレン−無水マレイン酸コポリマー(PSMA)を製造するために共重合される、スチレンと無水マレイン酸とが含まれる。さらなる他の代表的なカルボン酸含有モノマーは、"Hydrogen-Bonded Interpolymer Complexes; Formation, Structure and Applications" Chapters 1 and 7, Eds. Vitaliy V. Khutoryanskiy and Georgios Stalkos (2009)に記載されている。
【0078】
酸性基含有ポリマーは、任意にそのpHを参照して記載され得る。例えば、酸性基含有ポリマーは約1〜約5の範囲、約1.2〜約5の範囲、約1.5〜約5の範囲、約2.5〜約5の範囲、約2.75〜約4.5の範囲、または約3〜約4.25の範囲のpHを有し得る。
【0079】
最上層のコーティングである上記第2のコート層は、アクリル酸ポリマーを含み得る。本明細書にて用いる場合、「アクリル酸ポリマー」は、アクリル酸単量体単位を含んでいるポリマーを意味する。上記アクリル酸ポリマーは、アクリル酸ホモポリマー、または、アクリル酸、および、アクリル酸と異なる1つ以上(例えば、2つ,3つ,4つ,5つ等)の他の単量体単位を含んでいるアクリル酸コポリマーであり得る。実施形態では、ポリ(アクリル酸)コポリマーにおいて、アクリル酸は主要なモノマー(モル量)であり得る。アクリル酸は、ポリ(アクリル酸)コポリマーにおいて、例えば50%(モル)より多い量、55%(モル)以上の量、60%(モル)以上の量、65%(モル)以上の量、70%(モル)以上の量、75%(モル)以上の量、80%(モル)以上の量、85%(モル)以上の量、90%(モル)以上の量、92.5%(モル)以上の量、95%(モル)以上の量、97.5%(モル)または99%(モル)以上の量で存在する。代表的な実施形態において、アクリル酸は、上記コポリマー中に約75%(モル)〜約100%(モル)の範囲、約85%(モル)〜約100%(モル)の範囲、約95%(モル)〜約100%(モル)の範囲、または約98%(モル)〜約100%(モル)の範囲で存在する。
【0080】
いくつかの実施形態において、上記最上層のコーティング中の上記アクリル酸ポリマーは、150kDa以上の平均分子量を有し得る。さらなる他の実施形態において、上記最上層のコーティング中の上記アクリル酸ポリマーは、250kDa以上、350kDa、450kDa、550kDa、650kDa以上の平均分子量を有し得るし、いくつかのケースでは750kDa以上の平均分子量さえ有し得る。
【0081】
いくつかの調製法において、上記アクリル酸ポリマーは、脱イオン水中、(例えば約0.8Mの濃度で)アクリル酸のフリーラジカル重合によって調製される。酸性基の一部分を中和する方法では、水酸化ナトリウムのような濃縮された塩基をアクリル酸溶液に添加する。次に、過硫酸アンモニウムのような開始剤を攪拌しながら添加する。重合溶液は窒素を用いて脱気することができ、昇温した温度(例えば、50℃より高い温度)で、例えば12〜24時間攪拌され得る。上記ポリマーは、次に、12−14Kの透析チューブを用いて、連続的に流した脱イオン水に対して重合することができ、続いて凍結乾燥することによって分離することができる。
【0082】
上記第2層の上記アクリル酸ポリマーは、上記第1のコート層の上記ビニルピロリドンポリマーと水素結合を形成することができる。より具体的には、図16に示すように、上記ポリマー間の水素結合は、上記ピロリドンの環のカルボニル酸素と、カルボン酸のカルボニル酸素との双方を含み得る。
【0083】
他の実施形態において、最上層のコーティングである上記第2のコート層は、少なくとも2つの光反応性基を含んでいる第2の架橋剤、または、少なくとも1つの光反応性基を含んでいるアクリルアミドポリマーをも含んでいる。上記第2の架橋剤は、上記第1の架橋剤と同じであってもよいし、異なっていてもよい。いくつかの実施形態では、上記アクリルアミドポリマーは、アクリルアミド、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホネート基(AMPS)、およびポリ(エチレングリコール)基を含み得る。例えば、特定の一実施形態では、上記アクリルアミドポリマーは、N−アセチル化ポリ[アクリルアミド−co−ナトリウム−2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホネート−co−N−(3−(4−ベンゾイルベンズアミド)プロピル)メタクリルアミド]−co−メトキシポリ(エチレングリコール)モノメタクリレートであり得る。本実施形態に従って、ポリアクリルアミドを含むポリマーを調製するための試薬および方法は、米国特許第4,979,959号、米国特許第5,002,582号、米国特許第5,263,992号、米国特許第5,414,075号、米国特許第5,512,329号、米国特許第5,637,460号等の文献に見出すことができ、これらの文献の開示は、参照によって本明細書に引用される。
【0084】
いくつかの実施形態において、上記最上層のコーティングである上記第2のコート層の成分は、光反応性基を含んでいる。いくつかの実施形態において、上記表面コーティングである上記第2のコート層は、アクリル酸ポリマーと、アクリルアミドポリマーとを、それぞれ、約2:1〜約1:2(重量/重量)の範囲の比の量で有する。いくつかの実施形態において、上記最上層のコーティングである上記第2のコート層は、アクリル酸ポリマーと、少なくとも2つの光反応性基を含んでいる第2の架橋剤とを、約13:1(重量/重量)の比の量で有する。上記最上層のコーティングである上記第2のコート層の内部において、上記成分は、いくつかの実施形態において均質に混合され得る。
【0085】
所望する場合、上記コーティングを解析することによって、1つ以上のコーティングの特性を決定し得る。例えば、顕微鏡による観察を行うことによって、コーティングの品質およびコーティングの厚さを決定することができる。いくつかの実施形態において、上記コーティングは約500nm〜約10μmの範囲、約750nm〜約7.5μmの範囲、または約1μm〜約5μmの範囲の厚さを有する。潤滑性等のコーティングの特性も、粒子の濃度の分析と同様に測定することができる。
【0086】
上記コーティングは潤滑性を示し、当該潤滑性は、比較的低い摩擦として観察され得る。いくつかの実施形態において、上記コーティングは水に曝された後に滑らかであり得る。上記コーティングは、湿潤状態で、例えば後述する垂直ピンチテストによって測定されるように、0グラムから30グラムまでの間の力の潤滑性を示し得る。いくつかの実施形態において、上記コーティングは、湿潤状態で、約20グラムの力より弱い潤滑性を示し得る。いくつかの実施形態において、上記コーティングは、湿潤状態で、約15グラムの力より弱い潤滑性を示し得る。
【0087】
種々の実施形態では、上記コーティングは、上記潤滑性を耐久性に換算して記載し得る。例えば、上記潤滑性は、上記コーティングが摩擦力に曝される長時間に渡って維持され得る。例えば、いくつかの実施形態において、潤滑性は、摩擦テストの複数回のサイクルに渡って維持され得る。いくつかの実施形態において、上記コーティングは、少なくとも10サイクルの連続テストで湿潤状態であった場合に、0グラムから30グラムまでの間の力の潤滑性を示し得る。いくつかの実施形態において、例えば、少なくとも15サイクルの摩擦テストを行った場合、潤滑性の測定値は、上記テストの1〜5回目のサイクルの平均値と、10〜15回目のサイクルの平均値との間での増加は、30%未満であろう。
【0088】
上記コーティングは、水性の環境に曝された場合、比較的少ない量の粒子を放出し得る。粒子の濃度は、コーティングの所定の面積および厚さに基づいて記載され得る。一測定法において、上記粒子の計数は、500nm〜10μmの範囲のコーティングの厚さを有するコーティングされた表面の面積600mm2に基づいて行われる。しかしながら、上記粒子の計数は、600mm2より大きいコーティング面積、または600mm2より小さいコーティング面積に基づいて行われ得ることが理解される。例えば、上記コーティングは、水性の環境下において、10ミクロンよりも大きいサイズの粒子を20,000個未満生成するであろう。いくつかの実施形態において、上記コーティングは、水性の環境下において、10ミクロンよりも大きいサイズの粒子を10,000個未満生成するであろう。いくつかの実施形態において、上記コーティングは、水性の環境下において、10ミクロンよりも大きいサイズの粒子を5,000個未満生成するであろう。いくつかの実施形態において、上記コーティングは、水性の環境下において、10ミクロンよりも大きいサイズの粒子を3,000個未満生成するであろう。いくつかの実施形態において、上記コーティングは、水性の環境下において、10ミクロンよりも大きいサイズの粒子を1,000個未満生成するであろう。本明細書中の種々の実施形態のとおり、潤滑性および少ない粒子の放出という特性が共に存在することが理解されるであろう。
【0089】
いくつかの実施形態において、上記コーティングは、100nm〜10μmの範囲のコーティング厚さを有するコーティングされた表面の面積600mm2あたり、500〜10,000の範囲、500〜7500の範囲、500〜6000の範囲、500〜5000の範囲、500〜4500の範囲、500〜4000の範囲、500〜3750の範囲、500〜3500の範囲、500〜3250の範囲、500〜3000の範囲、800〜1500の範囲、1200〜2000の範囲、1500〜3000の範囲、2000〜4500の範囲、3000〜4000の範囲、100〜500の範囲、または、3000〜5000の範囲の粒子数(粒子のサイズの測定値は10μmより大きい)を有する。
【0090】
本明細書中の実施例において水溶液中に生成された上記粒子の試験は、以下の手順に従って行った。ASTM F2394に記載された方法の変法として、基材は、水溶液中で蛇行した経路を通過させた。
【0091】
上記ビニルピロリドンポリマーを含んでいる上記第1のコート層と、上記アクリル酸ポリマーを含んでいる上記第2のコート層とを有する上記コーティングは、血液適合性(血液への適合性)を有し得る。例えば、血液適合性のコーティングを備えた医療製品は、血液成分と接触する異物を配置することと結び付き得る影響を低減することができる。当該影響としては、例えば血栓または塞栓(放出し、下流に流れる血餅)の形成がある。上記コーティングの血液適合性は、上記コーティングを有さない医療デバイスと比較した場合に観察することができる。任意に、上記コーティングは、本明細書にて考察しているように、血液適合性(血液への適合性)を増強するために、血液適合性のタンパク質もしくはペプチドを用いて更に改変することができる。
【0092】
コーティングされた表面の血液適合性を測定するアッセイは、種々の試験のうちいずれか1つを用いて行うことができる。血小板を用いて増強した全血を用いる人工循環(チャンドラー・ループ)(例えば、Robbie, L.A., et al. (1997) Thromb Haemost. 77:510-5を参照)、またはin vitroでのウシ血液ループ(bovine blood loop)のような、血餅に基づく試験、発色性もしくは呈色アッセイ、直接的な化学的測定、およびELISA法を含むような技法が、凝血試験に用いられる(例えば、Bates, S.M., and Weitz, J.I. (2005) Circulation, 112:53-60;およびWalenga, J.M., et al. (2004) Semin Thromb Hemost. 30:683‐695を参照)。凝血アッセイは凝血機能の包括的な評価を提供するが、発色性試験は特定の因子のレベルまたは機能を測定するためにデザインされる。
【0093】
本明細書中で用いる場合、文言「潜在性の光反応性基」と「光反応性基」とは、交換可能に用いられ、通常の貯蔵条件下では不活性状態(すなわち、基底状態)にとどまり、十分に安定であるが、適切なエネルギー源で処理すると不活性状態から活性化状態へ転換することができる化学成分を意味する。特記しない限り、本明細書において光反応性基に言及する場合、当該言及には、光反応性基の反応産物も含まれる。光反応性基は、特異的に付与された外因性の刺激に応答し、隣接する化学構造への共有結合を結果的に伴う活性種を産生する。例えば、一実施形態において、光反応性基は活性化され、アルキル基から水素原子を引き抜くことができる。次に、共有結合は、光反応性基を備えた化合物と、C−H結合を備えた化合物との間に形成され得る。適切な光反応性基は、その開示が参照によって本明細書に引用される米国特許第5,002,582号に記載されている。
【0094】
光反応性基は、種々の部分への化学線の照射に対して応答性であるように選択することができる。一般的に、光反応性基は、紫外線照射または可視光線照射のいずれかによって光活性化することができるものが選択される。好適な光反応性基は、例えばアジド、ジアゾ、ジアジリン、ケトンおよびキノンを含む。上記光反応性基は、例えばニトレン、カルベン、および電磁エネルギーの吸収による励起状態のケトンを含むフリーラジカルのような活性種を産生する。
【0095】
いくつかの実施形態において、上記光反応性基は、アセトフェノン、ベンゾフェノン、アントロンおよびアントロン様の複素環(すなわち、例えば10位にN,O,またはSを有するアントロンの複素環式アナログ)またはこれらの置換(例えば環置換)誘導体等のアリールケトンである。アリールケトンの例としては、アクリドン、キサントン、およびチオキサントン、並びにこれらの環置換誘導体を含む、アントロンの複素環式誘導体が含まれる。他の好適な光反応性基としては、例えば、アントラキノン等のキノンが含まれる。
【0096】
そのようなアリールケトンの官能基は、複数の活性化/不活性化/再活性化のサイクルを経ることができる。例えば、ベンゾフェノンは、三重項状態への系間移行を経る励起一重項状態の初期形成を伴った光化学励起を行うことができる。励起三重項状態は、(例えば重合体であるコーティング層からの)水素原子の引き抜きによって炭素−水素結合中に挿入することができ、その結果ラジカル対を生じる。続くラジカル対の崩壊により、新たな炭素−炭素結合が形成される。反応性の結合(例えば炭素/水素)が結合に利用できない場合、紫外光によって誘導したベンゾフェノン基の励起は可逆的であり、エネルギー源を除去すると、分子は基底状態のエネルギーレベルに戻る。ベンゾフェノンおよびアセトフェノン等の光反応性アリールケトンは、水中で複数の再活性化を経ることができ、それゆえ、コーティングの効率を向上させることができる。
【0097】
アジドは別のクラスの光反応性基を構築し、フェニルアジドおよび4−フルオロ−3−ニトロフェニルアジド等のアリールアジド(C653);ベンゾイルアジドおよびp−メチルベンゾイルアジド等のアシルアジド(−CO−N3);エチルアジドホルマートおよびフェニルアジドホルマート等のアジドホルマート(−O−CO−N3);ベンゼンスルホニルアジド等のスルホニルアジド(−SO2−N3);並びにジフェニルホスホリルアジドおよびジエチルホスホリルアジド等のホスホリルアジド((RO)2PON3)を含む。
【0098】
ジアゾ化合物は、別のクラスの光反応性基を構築し、ジアゾメタンおよびジフェニルジアゾメタン等のジアゾアルカン(−CHN2);ジアゾアセトフェノンおよび1−トリフルオロメチル−1−ジアゾ−2−ペンタノン等のジアゾケトン(−CO−CHN2);t−ブチルジアゾアセテートおよびフェニルジアゾアセテート等のジアゾアセテート(−O−CO−CHN2);およびt−ブチル−α−ジアゾアセトアセテート等のβ−ケト−α−ジアゾアセテート(−CO−CN2−CO−O−)を含む。
【0099】
他の光反応性基は、3−トリフルオロメチル−3−フェニルジアジリン等のジアジリン(−CHN2);並びに、ケテンおよびジフェニルケテン等のケテン(−CH=C=O)を含む。
【0100】
特定の実施形態において、上記光反応性基は、ベンゾフェノン等のアリールケトンである。
【0101】
本明細書の実施形態で用いられる架橋剤は、少なくとも2つの光反応性基を備えた架橋剤を含み得る。架橋剤は、例えば、米国特許公開公報第2011/0245367号に記載されている架橋剤を用いることができ、上記公報はその全文が参照として本明細書に引用される。いくつかの実施形態では、上記第1の架橋剤および/または上記第2の架橋剤は約1500kDa未満の分子量を有する。いくつかの実施形態において、上記架橋剤は約1200、1100、1000、900、800、700、600、500、または400未満の分子量を有し得る。
【0102】
いくつかの実施形態において、上記第1の架橋剤および/または上記第2の架橋剤は、「フォト1−LG−フォト2」の式で表される架橋剤を含み得る。ここで、フォト1およびフォト2は、独立して少なくとも1つの光反応性基を表し、LGは、少なくとも1つのケイ素原子、または、少なくとも1つのリン原子を含む連結基を表す。上記少なくとも1つの光反応性基と上記連結基との間には共有結合が存在し、上記少なくとも1つの光反応性基と上記連結基との間の共有結合は、少なくとも1つのヘテロ原子によって介在される。
【0103】
いくつかの実施形態において、上記第1の架橋剤および/または上記第2の架橋剤は、式(a):
【0104】
【化7】
【0105】
(ここで、R1,R2,R8およびR9は任意の置換基であり、R3,R4,R6およびR7はアルキル基、アリール基またはこれらの組み合わせであり、R5は任意の置換基であり、Xはそれぞれ独立してO,N,Se,Sもしくはアルキル基、またはこれらの組み合わせである);
式(b):
【0106】
【化8】
【0107】
(ここで、R1およびR5は任意の置換基であり、R2およびR4は、OH以外の任意の置換基であり得、R3はアルキル基、アリール基またはこれらの組み合わせであり得、Xはそれぞれ独立してO,N,Se,S、アルキル基、またはこれらの組み合わせである);
式(c):
【0108】
【化9】
【0109】
(ここで、R1,R2,R4およびR5は任意の置換基であり、R3は任意の置換基であり、R6およびR7はアルキル基、アリール基またはこれらの組み合わせであり、Xはそれぞれ独立してO,N,Se,S、アルキル基、またはこれらの組み合わせである);
および式(d):
【0110】
【化10】
【0111】
から選択される1つの式を有する架橋剤を含む。
【0112】
他の実施形態において、上記第1の架橋剤および/または上記第2の架橋剤は、例えば上記第1層および/または上記第2層を調製するために用いた上記第1のコーティング組成物および/または上記第2のコーティング組成物等の水性の組成物中で高い安定性を示すイオン性の光架橋剤であり得る。それゆえ、いくつかの実施形態では、少なくとも1つのイオン性の光活性化可能な架橋剤が、上記コーティングを形成するために用いられる。いくつかのケースでは、イオン性の光活性化可能な架橋剤は、コーティングの耐久性を改良することもできる上記第2のコーティング層の内部で、ポリマーを架橋することができる。
【0113】
任意の好適なイオン性の光活性化可能な架橋剤を用いることができる。いくつかの実施形態において、上記イオン性の光活性化可能な架橋剤は、式I:X1−Y−X2で表される化合物であり、ここで、Yは少なくとも1つの酸性基、塩基性基、または酸性基もしくは塩基性基の塩を含有するラジカルである。X1およびX2は、それぞれ独立して、潜在性の光反応性基を含有するラジカルである。上記光反応性基は、本明細書中に記載したものと同じものであり得る。スペーサーは、上記潜在性の光反応性基に沿ってX1またはX2の一部となり得る。いくつかの実施形態において、上記潜在性の光反応性基は、アリールケトンまたはキノンを含む。
【0114】
式I中の上記ラジカルYは、上記イオン性の光活性化可能な架橋剤に、水に対する所望の溶解度を与え得る。上記水に対する溶解度(室温および最適なpHにおいて)は、少なくとも約0.05mg/mLであり得る。いくつかの実施形態において、上記溶解度は約0.1mg/mL〜約10mg/mL、または、約1mg/mL〜約5mg/mLである。
【0115】
式Iのいくつかの実施形態において、Yは、少なくとも1つの酸性基またはその塩を含有するラジカルである。そのような光活性化可能な架橋剤は、上記コーティング組成物のpHに依存するアニオン性であり得る。好適な酸性基は、例えば、スルホン酸、カルボン酸、ホスホン酸等を含む。上記基の好適な塩は、例えば、スルホン酸塩、カルボン酸塩およびリン酸塩の塩を含む。いくつかの実施形態において、上記イオン性の架橋剤は、スルホン酸またはスルホネート基を含む。好適なカウンターイオンには、アルカリ、アルカリ土類金属、アンモニウム、プロトン化されたアミン等が含まれる。
【0116】
例えば、式Iの化合物は、スルホン酸またはスルホネート基を含有するラジカルYを有することができ、X1およびX2はアリールケトン等の光反応性基を含有することができる。そのような化合物には、4,5−ビス(4−ベンゾイルフェニルメチレンオキシ)ベンゼン−1,3−ジスルホン酸またはその塩;2,5−ビス(4−ベンゾイルフェニルメチレンオキシ)ベンゼン−1,4−ジスルホン酸またはその塩;2,5−ビス(4−ベンゾイルメチレンオキシ)ベンゼン−1−スルホン酸またはその塩;N,N−ビス[2−(4−ベンゾイルベンジルオキシ)エチル]−2−アミノエタン−スルホン酸またはその塩、等が含まれる。米国特許第6,278,018号公報を参照のこと。上記塩のカウンターイオンは、例えば、アンモニウム、または、ナトリウム、カリウム、もしくはリチウム等のアルカリ金属であり得る。
【0117】
式Iの他の実施形態において、Yは塩基性基またはその塩を含有するラジカルであり得る。そのようなYで表されるラジカルは、例えば、アンモニウム基、ホスホニウム基、またはスルホニウム基を含み得る。上記基は、上記コーティング組成物のpHに依存して、中性または正に荷電した状態であり得る。いくつかの実施形態において、上記ラジカルYは、アンモニウム基を含む。好適なカウンターイオンは、例えば、カルボン酸塩、ハロゲン化物、硫酸塩、およびリン酸塩を含む。例えば、式Iの化合物はアンモニウム基を含有する、Yで表されるラジカルを有し得る。X1およびX2は、アリールケトンを含む光反応性基を包含し得る。そのような光活性化可能な架橋剤は、エチレンビス(4−ベンゾイルベンジル−ジメチルアンモニウム)塩;ヘキサメチレンビス(4−ベンゾイルベンジルジメチル−アンモニウム)塩;1,4−ビス(4−ベンゾイルベンジル)−1,4−ジメチルピペラジンジイウム塩、ビス(4−ベンゾイルベンジル)ヘキサメチレンテトラミンジイウム塩、ビス[2−(4−ベンゾイルベンジル−ジメチルアンモニオ)エチル]−4−ベンゾイルベンジルメチルアンモニウム塩;4,4−ビス(4−ベンゾイルベンジル)モルホリニウム塩;エチレンビス[2−(4−ベンゾイルベンジルジメチルアンモニオ)エチル)−4−ベンゾイルベンジルメチルアンモニウム]塩;および1,1,4,4−テトラキス(4−ベンゾイルベンジル)ピペラジンジイウム塩を含む。米国特許第5,714,360号を参照のこと。カウンターイオンは、一般的にはカルボン酸塩イオンまたはハロゲン化物である。一実施形態において、上記ハロゲン化物は臭化物である。
【0118】
他の実施形態において、上記イオン性の光活性化可能な架橋剤は、下記式を有する化合物であり得る。
【0119】
【化11】
【0120】
ここで、X1は第1の光反応性基を含み;X2は第2の光反応性基を含む;Yはコア分子を含む;Zは少なくとも1つの電荷を帯びた基を含む;D1は第1の分解性リンカーを含む;D2は第2の分解性リンカーを含む。分解性かつイオン性の光活性化可能な架橋剤の例は、米国特許公開公報US2011/0144373号(Swan et al., "Water Soluble Degradable Crosslinker")に記載されており、当該開示は参照によって本明細書に引用される。
【0121】
いくつかの局面において、非イオン性の光活性化可能な架橋剤を用い得る。一実施形態において、上記非イオン性の光活性化可能な架橋剤は、式XR1234を有する。ここでXは非イオン性の化学的骨格であり、R1、R2、R3およびR4は潜在性の光反応性基を含むラジカルである。非イオン性架橋剤の例は、例えば、米国特許5,414,075号および5,637,460号(Swan et al., "Restrained Multifunctional Reagent for Surface Modification")に記載されている。化学的には、上記第1および第2の光反応性基、並びにそれぞれのスペーサーは、同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0122】
他の実施形態において、非イオン性の光活性化可能な架橋剤は、式PG2−LE2−X−LE1−PG1によって表され得る。ここで、PG1およびPG2は、独立して、1つ以上の光反応性基、例えば、アリールケトンの光反応性基を含み、当該アリールケトンの光反応性基は、限定されるものではないが、アセトフェノン、ベンゾフェノン、アントラキノン、アントロン、アントロン様複素環、これらの置換誘導体またはこれらの組み合わせ等のアリールケトンを含む;LE1およびLE2は、独立して、連結成分であり、例えば、尿素、カルバメートまたはこれらの組み合わせを含むセグメントを含む;Xは、重合体または非重合体のいずれかであり得るコア分子を表し、コア分子は、限定されるものではないが、炭化水素を含む。炭化水素は、直鎖、分岐鎖、環状、もしくはこれらの組み合わせである炭化水素;芳香族、非芳香族もしくはこれらの組み合わせ;単環式、多環式、炭素環式、複素環式、もしくはこれらの組み合わせ;ベンゼンもしくはその誘導体;またはこれらの組み合わせ、を含む。非イオン性架橋剤の例は、例えば、2011年12月9日出願の米国特許出願番号13/316,030(米国特許公開公報2012/0149934号)(Kurdyumov, "Photocrosslinker")に記載されており、当該開示は参照によって本明細書に引用される。
【0123】
非イオン性の光活性化可能な架橋剤のさらなる実施形態は、例えば、2011年6月8日に出願された米国特許仮出願61/494,724号(現在、米国特許出願番号13/490,994)(Swan et al., "Photo-Vinyl Primers/Crosslinkers")に記載されている架橋剤を含むことができ、当該開示は参照によって本明細書に引用される。架橋剤の例には、一般式R1−X−R2(R1はビニル基を含むラジカルであり、Xは約1〜約20の炭素原子を含むラジカルであり、R2は光反応性基を含むラジカルである)を有する非イオン性の光活性化可能な架橋剤が含まれ得る。
【0124】
非イオン性架橋剤の他の例には、化学的な骨格分子(例えばペンタエリスルトール)と、過剰量の光反応性基の誘導体(例えば4−ブロモメチルベンゾフェノン)との混合物によって形成される架橋剤が含まれる。生成物の例には、ペンタエリスリトール(テトラキス(4−ベンゾイルフェニルメトキシメチル)メタン)のテトラキス(4−ベンゾイルベンジルエーテル)である。米国特許第5,414,075号および5,637,460号を参照のこと。
【0125】
上記コーティングの形成には、単一の光活性化可能な架橋剤、または光活性化可能な架橋剤の任意の組み合わせを用いることができる。いくつかの実施形態において、例えばペンタエリスリトールのテトラキス(4−ベンゾイルベンジルエーテル)等の、少なくとも1つの非イオン性架橋剤を、少なくとも1つのイオン性架橋剤と共に用いることができる。例えば、少なくとも1つの非イオン性の光活性化可能な架橋剤を、少なくとも1つのカチオン性の光活性化可能な架橋剤(例えば、エチレンビス(4−ベンゾイルベンジルジメチルアンモニウム)塩)、または、少なくとも1つのアニオン性の光活性化可能な架橋剤(例えば、4,5−ビス(4−ベンゾイルフェニルメチレンオキシ)ベンゼン−1,3−ジスルホン酸もしくは塩)と共に用いることができる。別の実施例では、少なくとも1つの非イオン性架橋剤を、少なくとも1つのカチオン性架橋剤、および、少なくとも1つのアニオン性架橋剤と共に用いることができる。さらなる別の実施例では、少なくとも1つのカチオン性架橋剤を、非イオン性架橋剤と共にではなく、少なくとも1つのアニオン性架橋剤と共に用いることができる。
【0126】
代表的な架橋剤は、ジナトリウム4,5−ビス[(4−ベンゾイルベンジル)オキシ]−1,3−ベンゼンジスルホネート(DBDS)である。この試薬は、以下のように調製することができる。すなわち、4,5−ジヒドロキシベンジル−1,3−ジスルホネート(CHBDS)を、4−ブロモメチルベンゾフェノン(BMBP)と、THFおよび水酸化ナトリウム中で結合させ、次に還流させ、上記混合物を冷却し、精製および再結晶化することによって調製することができる(本明細書に参照によって引用される米国特許第5,714,360号にも記載されている)。
【0127】
さらなる代表的な架橋剤は、エチレンビス(4−ベンゾイルベンジルジメチルアンモニウム)ジブロミドである。この架橋剤は、その内容が参照によって本明細書に引用される米国特許第5,714,360号に記載されている方法によって調製することができる。
【0128】
さらなる架橋剤は、その全ての内容が参照によって本明細書に引用される米国特許公開公報第2010/0274012号および米国特許第7,772,393号に記載されている架橋剤を含み得る。
【0129】
いくつかの実施形態において、架橋剤はホウ素含有架橋剤を含むことができ、ホウ素含有架橋剤は、限定されるものではないが、Kurdyumovらによる米国特許仮出願61/666,516号(発明の名称:"Boron-Containing Linking Agents")に記載された架橋剤を含む。当該仮出願は、その内容が参照によって本明細書に引用される。実施例として、ホウ酸塩、ボラジン、またはボロン酸基を含む架橋剤、並びに、そのような架橋剤を組み込んだコーティング、およびデバイスを、関連する方法と共に含むことができる。一実施形態において、上記架橋剤は構造(I)を有する化合物を含む。
【0130】
【化12】
【0131】
ここで、R1は光反応性基を含むラジカルであり、R2はOHと、光反応性基、アルキル基、およびアリール基を含むラジカルとから選択され、R3はOHと、光反応性基を含むラジカルとから選択される。いくつかの実施形態において、B−R1結合、B−R2結合、およびB−R3結合は、独立して、O,N,S等のヘテロ原子またはこれらの混合物によって介在されるように選択され得る。
【0132】
本明細書の実施形態において用いられるさらなる架橋剤は、スチルベン系の反応性化合物を含み得る。スチルベン系の反応性化合物としては限定されるものではないが、Kurdyumovらによる米国特許仮出願61/736,436号(発明の名称:"Stilbene-Based Reactive Compounds, Polymeric Matrices Formed Therefrom, and Articles Visualizable by Fluorescence")に記載されている化合物が含まれる。上記仮出願は、その内容が参照によって本明細書に引用される。
【0133】
さらなる光反応性剤、架橋剤、親水性コーティング、および関連する試薬は、US2011/0059874、US2011/0046255およびUS2010/0198168に開示されており、これらの内容の全てが本明細書中において参照によって引用される。
【0134】
いくつかの実施形態において、基部のコーティング溶液すなわち第1のコーティング溶液は、溶媒中にビニルピロリドンポリマーを、必要に応じて1つ以上の他の化合物を含むことによって生成される。例えば、溶媒は、ペンダント光反応性基を有するビニルピロリドンポリマーを含むか、あるいは、溶媒は、誘導体化されていないビニルピロリドンポリマーと、少なくとも2つの光反応性基を含んでいる第1の架橋剤とを含んでいる。いくつかの実施形態において、第1のコーティング溶液はまた、誘導体化されていないビニルピロリドンポリマーと、ペンダント光反応性基を有するビニルピロリドンポリマーとを含み得る。
【0135】
いくつかの実施形態において、第1のコーティング溶液のための溶媒は、水とイソプロピルアルコール(IPA)とを含み得る。IPAの水に対する割合(体積:体積)は、約95%IPA−約5%水〜約10%IPA−約90%水の範囲内であり得る。例えば、いくつかの実施形態において、IPA:水の量は、約95:5、90:10、85:15、80:20、75:25、70:30、65:35、60:40、55:45、50:50、45:55、40:60、35:65、30:70、25:75、20:80、15:85または10:90(体積:体積)の値であり得るか、あるいは、IPAと水との相対的な部分の合計が100に等しくなるようにこれらの値の任意の2つを含む終点を有する範囲内であり得る。いくつかの実施形態において、溶媒は、約75%イソプロピルアルコールと約25%水とを含み得る。
【0136】
いくつかの実施形態において、最上層のコーティング溶液すなわち第2のコーティング溶液は、溶媒中にアクリル酸ポリマーを含むことによって生成される。他の化合物が、必要に応じて、溶媒中に含まれ得る。例えば、化合物は、アクリル酸ポリマー、少なくとも2つの光反応性基を含む第2の架橋剤、ポリアクリルアミドを含むポリマー、または少なくとも1つの光反応性基で誘導体化されたポリマーを含み得る。
【0137】
いくつかの実施形態において、第2のコーティング溶液のための溶媒は、水とイソプロピルアルコール(IPA)とを含み得る。IPAの水に対する割合(体積:体積)は、約0%IPA−約100%水〜約60%IPA−約40%水の範囲内であり得る。例えば、いくつかの実施形態において、IPA:水の量は、約0:100、5:95、10:90、15:85、20:80、25:75、30:70、35:65、40:60、45:55、50:50、55:45、60:40(体積:体積)の値であり得るか、あるいは、IPAと水との相対的な部分の合計が100に等しくなるようにこれらの値の任意の2つを含む終点を有する範囲内であり得る。いくつかの実施形態において、溶媒は、約15%イソプロピルアルコールと約85%水を含み得る。
【0138】
溶媒の粘度は、変化し得る。いくつかの実施形態において、第2の溶液の粘度は、約100センチポイズ(cP)未満である。いくつかの実施形態において、第2の溶液の粘度は、約90cP以下、約80cP以下、約70cP以下、約60cP以下、約50cP以下、約40cP以下、約30cP以下、約20cP以下または約10cPである。
【0139】
第1のコーティング溶液は、基材に塗布され得る。第1のコーティング溶液の基材への塗布の前に、1つ以上の多くの種々の前処理工程が採られ得る。いくつかの実施形態において、基材の表面は清浄化され得る。例えば、表面は、拭かれるか、あるいは、イソプロピルアルコールのようなアルコールへ浸される。いくつかの実施形態において、基材は、界面活性剤溶液(例えばVALTRON溶液)中に置かれ、超音波処理され得る。いくつかの実施形態において、化合物が基材の表面上に配置されて、つなぎ層(tie layer)として機能する。いくつかの実施形態において、基材の表面は滅菌され得る。
【0140】
多くの種々の技術を使用して、基材へ溶液を塗布し得る。例示の目的で、典型的な技術として、ドロップコーティング、ブレードコーティング、ディップコーティング、スプレーコーティング等が挙げられる。種々の実施形態において、溶液はディップコーティングによって塗布される。ディップコーティングの速度は変化し得る。例えば、基材が基部のコーティング溶液中へ浸され、次いで0.01〜10cm/sの速度で回収され得る。いくつかの実施形態において、基材が基部のコーティング溶液中へ浸され、次いで0.1〜4cm/sの速度で回収され得る。いくつかの実施形態において、基材が第1のコーティング溶液中へ浸され、次いで0.1〜2cm/sの速度で回収され得る。いくつかの実施形態において、基材が第1のコーティング溶液中へ浸され、次いで0.1〜1.5cm/sの速度で回収され得る。いくつかの実施形態において、基材が第1のコーティング溶液中へ浸され、次いで0.1〜1cm/sの速度で回収され得る。いくつかの実施形態において、基材が第1のコーティング溶液中へ浸され、次いで0.1〜0.5cm/sの速度で回収され得る。いくつかの実施形態において、基材が0.2〜0.4cm/sの速度で回収され得る。いくつかの実施形態において、基材が約0.3cm/sの速度で回収され得る。
【0141】
第1のコーティング溶液が基材に塗布される後に、化学線(例えばUV照射)を適用して、基部層を形成する第1のコーティング溶液の成分内の光反応性基を活性化し得る。化学線は、光反応性基の活性化を促進する任意の好適な光源によって提供され得る。好ましい光源(例えばDymax Corp.から市販されているもの)は、190nm〜360nmの範囲のUV照射を提供する。典型的なUV光源は、400ワットメタルハライド電球を備えたDymax 2000−ECシリーズのUVフラッドランプである。好適な照射量は、約0.5mW/cm2〜約2.0mW/cm2の範囲である。必要に応じて、基部のコーティング溶液は、化学線の適用の前または後に乾燥され得る。
【0142】
第2のコーティング溶液は、第1のコート層(coated layer)の上へ塗布され得る。多くの種々の技術を使用して、基材へ溶液を塗布し得る。特定の実施形態において、溶液は、ディップコーティングによって塗布される。ディップコーティングの速度は変化し得る。例えば、基材が第2のコーティング溶液中へ浸され、次いで0.01〜10cm/sの速度で回収され得る。いくつかの実施形態において、基材が第2のコーティング溶液中へ浸され、次いで0.1〜4cm/sの速度で回収され得る。いくつかの実施形態において、基材が第2のコーティング溶液中へ浸され、次いで0.1〜0.5cm/sの速度で回収され得る。いくつかの実施形態において、基材が0.2〜0.4cm/sの速度で回収され得る。いくつかの実施形態において、基材が約0.3cm/sの速度で回収され得る。
【0143】
他の実施形態において、アクリル酸ポリマーを含むコーティング組成物は、ビニルピロリドンポリマーと熱可塑性物質(thermoplastic)(例えばPEBAX)とを含む組成物の押し出しによって形成されるデバイス材料へ塗布される。押し出しプロセスを用いて作製された、移植可能でありかつ挿入可能な医療デバイスまたはその一部が本明細書中に記載されており、そして当該分野において公知である。
【0144】
押出成形材料に塗布されるコーティング組成物は、少なくとも2つの光反応性基を含んでいる第2の架橋剤、ポリアクリルアミドを含むポリマー、または少なくとも1つの光反応性基で誘導体化されたポリマーを含んでもよい。本実施形態において、本明細書中の他の実施形態に従って、ビニルピロリドンポリマーを含む押出成形材料(その上に、アクリル酸ポリマーコーティングが塗布される)は、ビニルピロリドンポリマーを含む「第1層」すなわち「基部コート」に対向する「デバイス材料」とみなされ得る。
【0145】
本実施形態において、アクリル酸ポリマーを含んでいるコート層は、デバイスの押出成形材料(ビニルピロリドンポリマーおよび熱可塑性物質を含んでいる)と直接的に接触している。押出成形材料上のポリアクリル酸コーティングは、ポリアクリル酸を含んでいる単一のコート層から構成され得るか、あるいは、必要に応じて、押し出されたビニルピロリドンポリマー/熱可塑性物質のデバイス材料と、上記コーティング中の任意の他の層との間に存在するポリアクリル酸含有層を伴う、2つ以上のコート層を含み得る。
【0146】
アクリル酸ポリマーを含むコート層は、1つ以上の技術を用いて、押し出されたビニルピロリドンポリマー/熱可塑性物質のデバイス材料の上に形成され得る。いくつかの実行様式において、コーティング組成物は、ディップコーティングによって、例えば、本明細書中に記載されるようなディップコーティング技術に従って、押し出されたビニルピロリドンポリマー/熱可塑性物質の材料から形成されるディップコーティングデバイスによって、塗布される。
【0147】
他の実行様式において、アクリル酸ポリマーを含むコート層は、押出成形デバイスが押出装置(extrusion apparatus)を抜け出るときに、押出成形材料の表面に形成され得る。例えば、図6を参照して、コートデバイスを調製するための1つの方法は、ビニルピロリドンポリマーと熱可塑性ポリマーとを含んでいる組成物を押し出す工程を包含し、押出機器(extrusion equipment)60を用いて押出成形デバイス62の全体または一部を形成する。例えば、押出成形デバイスは、チューブの形態でもよく、押し出しは、予め形成されたまたは共押出しされたチューブの上に押し出された薄層を形成してもよい。押出成形デバイス62は、ポリアクリル酸を含んでいる溶液64(例えば「コーティングバス」)と接触する、ビニルピロリドンポリマーおよび熱可塑性物質から形成される部分(表面)を備えている。この溶液は、このプロセスにおいて2つの役割(押出成形材料を冷却すること、およびポリアクリル酸のコーティングバスを提供すること)を提供し得る。ポリアクリル酸のコーティングバスを通過する押出成形材料の移動速度は、ディップコーティングについて記載されたような範囲であり得る。
【0148】
必要に応じて、UVで活性化可能な光反応基が、ビニルピロリドンポリマー/熱可塑性ポリマーの材料を含む押出組成物に、または、ポリアクリル酸のコーティングバスに、あるいは両方に含まれ得る。UVで活性化可能な光反応基は、架橋化合物の上に存在するか、ポリマー材料からのペンダント基であり得るか、あるいは両方であり得る。コーティングを有するデバイスが、UVで活性化可能な基を用いて形成される場合、図6にも示されるように、UV硬化の工程が、押し出しおよびコーティングに続き得る。ここで、押し出されかつコーティングされたデバイスは、UV照射領域66を通って移動する。UV硬化の工程を実施して、例えば、押出成形材料、塗布されたアクリル酸ポリマー含有コーティング、またはその両方において、UVで活性化可能な基を介する共有結合を促進し得る。
【0149】
押し出されかつコーティングされたデバイスが可撓性チューブ(flexible tubing)の形態である場合、上記方法は、必要に応じて、図6に例示された、チューブを収集する装置(例えば自動回転装置(automated rolling apparatus)68)を含み得る。
【0150】
他の実行様式において、アクリル酸ポリマーを含むコーティングは、押出成形デバイスが水槽中で冷却された後に、押出成形材料の表面に塗布され得る。例えば、図7を参照して、コーティングされたデバイスを調製するための別の方法は、ビニルピロリドンポリマーおよび熱可塑性物質を含んでいる組成物を、押出機器70を用いて押し出す工程、水槽74にて押出成形デバイスを冷却する工程、および、次いで冷却され押し出されたデバイス72を、アクリル酸ポリマーを含んでいる組成物でコーティングする工程を包含する。コーティング組成物は、米国特許第7,192,484号(Chappa et al.)に記載されているような回転する特徴(feature)77を有する塗布を用いて塗布され得る。
【0151】
自動回転装置78を用いるUV照射におけるUV硬化およびチューブ収集の任意の工程が行われ得る。
【0152】
他の実行様式において、1つ以上のコーティング組成物(例えば第1の、第2の)が、米国特許出願公開番号2013/0337147(Chappa et al.)に記載されるようなコーティング装置を用いて塗布される。この文献は、コーティング方法、およびコーティング塗布ユニットを有する装置を記載している。この装置は、移動制限構造、流体アプリケータ、空気ノズル、回転機構、および軸方向運動機構を備えている。この軸方向運動機構は、少なくとも1つのコーティング塗布ユニットおよび回転機構の互いに対する移動を生じるように構成されている。
【0153】
いくつかの実行様式において、コーティングは、細胞外マトリクス(ECM)タンパク質、またはECMタンパク質の活性部分を含むペプチドを含み、ここで、このタンパク質またはペプチドは、コーティング中のアクリル酸ポリマーに共有結合している。アクリル酸ポリマーはまた、このビニルピロリドンポリマーと水素結合している。ビニルピロリドンポリマーが、例えば、アクリル酸ポリマーとデバイス表面との間のコート層に存在するか、あるいは本明細書中に記載されているような溶融押出組成物から形成されたデバイス材料に存在する。
【0154】
ECMタンパク質またはペプチド、アクリル酸ポリマー、およびビニルピロリドンポリマーを含んでいるデバイスは、必要に応じて、UV光反応性基を含み得、例えば、アクリル酸ポリマーおよび/またはビニルピロリドンポリマーからのペンダント基を提示するか、あるいは、少なくとも2つの光反応性基を含んでいる架橋剤のような第1の架橋剤、および/または、少なくとも2つの光反応性基を含んでいる架橋剤のような第2の架橋剤に存在する。
【0155】
当該分野において知られているように、ECMタンパク質は、細胞に対する構造的な支持を提供する、および/またはECM中に存在する細胞を付着する。細胞表面の分子(例えば、インテグリン、糖鎖(carbohydrate)、および他の細胞接着分子)は、ECMタンパク質と相互作用して細胞接着を促進し得る。典型的なECMタンパク質としては、フィブロネクチン、ラミニン、コラーゲン、プロコラーゲン、エラスチン、ビトロネクチン、テナスシン、エンタクチン、フィブリノーゲン、トロンボスポンジン、オステオポンチン(骨シアロプロテイン)、オステオカルシン、Von Willibrand因子、およびこれらの活性ドメインが挙げられる。
【0156】
ECMタンパク質の活性部分(または活性ドメイン)は、ECMタンパク質の内部に見出されるアミノ酸配列をいい、それ自身において、そのECMタンパク質の特性の1つ以上(例えば、細胞に対する構造的な支持の提供および/または細胞の接着)に従う機能を提供する。活性部分はまた、「ドメイン」または「モチーフ」ともいわれる。ECMタンパク質の活性部分を含んでいるペプチドは、アミノ酸残基の「コア配列」を有し得、必要に応じて、そのコア配列に隣接する(すなわち、C末端上、N末端上、またはその両方に)1つ以上のさらなるアミノ酸残基を有し得る。コア配列に隣接する1つ以上のさらなるアミノ酸は、そのタンパク質の関連領域における野生型ECM配列に対応し得るか、または、野生型配列から分かれるアミノ酸(例えば「バリアントアミノ酸または配列」)であり得る。バリアントアミノ酸または配列は、そのペプチドの特性を増強し得る(例えば、増強したリガンド相互作用を提供する)ものであり得る、および/またはコーティングの形成を容易にし得る。
【0157】
ECMタンパク質の活性部分は当該分野において公知であるか、または、市販のアッセイもしくは参考文献に記載されたアッセイを実施することによる日常的な実験を用いて決定され得る。例えば、プラスチックに接着するかまたは支持体上に共有結合によって固定化されたペプチドまたはタンパク質を用いる細胞接着アッセイが記載されており、細胞の接着を促進するための所望のペプチドの活性を決定するために使用され得る(例えば、Malinda, K.M., et al. (1999) FASEB J. 13:53-62;またはKato, R., et al. (2006) J. Biosci. Bioeng. 101:485-95参照)。
【0158】
本明細書にて使用される場合、「ペプチド」は、ペプチド結合によって連結された25個以下のアミノ酸の短いポリマーである。本明細書にて使用される場合、「ポリペプチド」は、ペプチド結合で連結された25個を超えるアミノ酸のポリマーであり、全長タンパク質を含む。ECMタンパク質の活性部分を有するペプチドは、標準的な技術を用いる固相ペプチド合成(SPPS)技術(例えばFmoc合成)によって合成され得る。例えば、Carpin, et al. (1970), J. Am. Chem. Soc. 92:5748-5749を参照のこと。本明細書中に記載されたペプチドもまた市販されている。
【0159】
いくつかの局面において、コラーゲンI型(コラーゲンI)は、外面のコート層に存在し得る。コラーゲンI型は、脊椎動物において最も一般的なコラーゲンであり、哺乳動物の骨格の90%にまで及び、瘢痕組織、腱、皮膚、動脈壁、繊維軟骨、骨および歯に見出される。COL1A1は、コラーゲンIα1(1464AA)をコードするヒト遺伝子であり、UniProtKB/Swiss-Protにおけるアクセッション番号P02452 (CO1A1_HUMAN)を有する。ヒト配列は、少なくとも、チンパンジー(UPI0000E24950)、イヌ(UPI0000EB21D9)およびウシ(P02453)と少なくとも90%配列同一性を有する。
【0160】
プロコラーゲンI型は、他の線維性コラーゲンと類似し、独特な3重ヘリックス構造を形成する3つのポリペプチド鎖(α鎖)を有する。これは、2つのα1(I)鎖と1つのα2(I)鎖とのヘテロトリマーである。種の中で、α1(I)鎖はα2(I)鎖よりも保存されている(Kimura 1983)。コラーゲンI型分子は、短い非ヘリックステロペプチドに隣接される、長さ約300nmで直径1.5nmの分断されていない3重ヘリックスを含む。ヘリックス領域は、種の中で高度に保存されている(Chu et al. (1984) Nature 310:337-340)。
【0161】
コラーゲンペプチドはまたコーティングに使用され得る。このようなペプチドとしては、RGD、YIGSR(配列番号1)および(GPN1)リピートが挙げられる(例えば、Johnson, G. (2000) J. Biomed. Mat. Res., 51:612-624参照)。コラーゲンペプチド、ならびにECMタンパク質の一部を含む他のペプチドは、線状形態または環状形態であり得る(例えば、Peptides International, Inc., Louisville, KYから市販されている)。
【0162】
リコンビナントのコラーゲン(例えば、リコンビナントヒトコラーゲン)は、必要に応じてコーティングに使用され得る。リコンビナントコラーゲンは、単細胞生物(例えば酵母)に発現され得、ここで、コラーゲン鎖がトランスジェニック核酸配列から発現される。リコンビナントのヒトコラーゲンIおよびヒトコラーゲンIIIが(例えばFibroGen, Inc. San Francisco, CAから)市販されており、Pichia pastorisに同時発現されたヒトのプロα1(I)、プロα2(I)およびプロリルヒドロキシラーゼ遺伝子のαサブユニットとβサブユニットとの両方から調製され得、そしてプロテイナーゼ消化によって(プロコラーゲンIからの)成熟コラーゲンへ変換される。ヒトプロα1(III)は、(プロコラーゲンIIIから)成熟コラーゲンを調製するために、いくつかの方法で発現されかつ消化され得る。
【0163】
アテロコラーゲンは、必要に応じてコーティングに使用され得る。アテロコラーゲンは、タンパク質分解酵素(例えばペプシン)を用いてコラーゲンI分子の両末端で抗原性のテロペプチドを除去することによって調製され得る。テロペプチドの除去は、一般的にコラーゲンの安定性を改善し、酸性(例えば約3.0〜4.5の範囲内)の溶液中で可溶性にさせる。アテロコラーゲンは、動物供給源(例えばブタの組織)からのコラーゲンから調製され得る。アテロコラーゲンの調製方法は、当該分野において公知であり(例えば、米国特許番号3,949,073号および同4,592,864号参照)、商品名TheracolTM(Regenerative Medical Systems, Hertfordshire, UK)で市販されている。
【0164】
加水分解したコラーゲン(ゼラチンとしても知られている)は、必要に応じてコーティングに使用され得る。ゼラチンは、熱、ならびに/あるいは酸性溶液および/またはアルカリ性溶液を用いてコラーゲンの加水分解から形成され、コラーゲンよりも低い分子量を有するコラーゲンポリペプチドまたはペプチドを生じる。100kDaまたは8.5kDaのサイズを有するリコンビナントのゼラチンが(例えばFibroGen, Inc. San Francisco, CAから)市販されている。
【0165】
コラーゲン配列に由来するペプチドはまた、外面のコーティングに使用され得る。典型的なコラーゲンペプチドは、DGEA(配列番号2)、KDGEA(配列番号3)、GERおよびGFOGER(配列番号4)を含む(例えば、Keely, P.J., and Parise, L.V. (1996) J Biol Chem. 271:26668-26676; Kotite, N.J., and Cunningham, L.W. (1986) J Biol Chem. 261:8342-8347; およびStaatz, W.D., et al. (1991) J Biol Chem. 266:7363-7367参照)。
【0166】
ラミニンまたはその活性部分は、コーティングに使用され得る。ラミニンタンパク質ファミリーは、基底膜に天然に見出される糖タンパク質のマルチドメインを含む。ラミニンは、3つの非同一の鎖(1つのα鎖、β鎖およびγ鎖)のヘテロトリマーであり、これらは、C末端でコイルドコイル構造に結びついてジスルフィド結合によって安定化されたヘテロトリマーな分子を形成する。各ラミニン鎖は、異なる遺伝子によってコードされるマルチドメインのタンパク質である。各鎖のいくつかのアイソフォームが記載されている。種々のα鎖、β鎖およびγ鎖のアイソフォームが結合して、種々のヘテロトリマーなラミニンアイソフォームを生成する。一般的に用いられるラミニンは、α1、β1およびγ1(すなわちラミニン−111)、ならびにα5、β1およびγ1(すなわちラミニン−511)である。ラミニン配列はUniProtKB/Swiss-Protにて利用可能であり、これはラミニンサブユニットα−1(P25391 ;LAMA1_HUMAN)、ラミニンサブユニットα−5(O15230; LAMA5_HUMAN)、ラミニンサブユニットβ−1(P07942; LAMB1_HUMAN)およびラミニンサブユニットγ−1(P11047; LAMC1_HUMAN)を含む。
【0167】
ラミニン配列に由来するペプチドはまたコーティングに使用され得る。典型的なラミニンペプチドは、LRGDN(配列番号5)およびIKVAV(配列番号6)、YFQRYLI(配列番号7)(Laminin A)、YIGSR(配列番号1)、CDPGYIGSR(配列番号8)およびPDSGR(配列番号9)(Laminin B1)およびRNIAEIIKDA(配列番号10)(Laminin B2)の配列を含む。ラミニン配列に基づく合成ペプチドはまた、ラミニンα1鎖からのRQVFQVAYIIIKA(配列番号11)およびRKRLQVQLSIRT(配列番号12)を含む(Kikkawa, Y., et al. (2009) Biomaterials 30:6888-95;およびNomizu, M., et al. (1995) J Biol Chem. 270:20583-90)。ラミニンのB1鎖からのF9ペプチドは、RYVVLPRPVCFEKK(配列番号47)を有している。
【0168】
いくつかの局面において、コーティングは、コラーゲンまたはラミニンのポリペプチドまたはペプチド、あるいはRGDモチーフを含むペプチドを含み得る。好ましいペプチドは、RGDモチーフを含むペプチド(例えば、フィブロネクチンからのGRGDSP(配列番号13)配列、ならびにコラーゲンI、コラーゲンIVおよびラミニンI−IIIからの細胞接着ドメイン)である。
【0169】
フィブロネクチンは、インテグリンに結合しかつ細胞の接着、移動、分化および増殖に役割を有する糖タンパク質(〜440kDa)である。フィブロネクチンは、UniProtKB/Swiss-Protにアクセッション番号P02751 (FINC_HUMAN)を有する。
【0170】
トリペプチドArg−Gly−Asp(RGD)は、フィブロネクチンおよび他のタンパク質に見出され、細胞接着を媒介し得る。特定のインテグリンは、そのリガンド内のRGDモチーフを認識し、結合が細胞−細胞相互作用を媒介する。RGDペプチドおよびRGDモチーフを含むペプチドはコーティングに使用され得る。RGD含有ペプチドとしては、コアRGD配列に隣接するさらなるアミノ酸を有するペプチド、例えば、RGDS(配列番号14)、RGDT(配列番号15)、GRGD(配列番号16)、GRGDS(配列番号17)、GRGDG(配列番号18)、GRGDSP(配列番号13)、GRGDSG(配列番号19)、GRGDNP(配列番号20)、GRGDSPK(配列番号21)、GRGDSY(配列番号22)、YRGDS(配列番号23)、YRGDG(配列番号24)、YGRGD(配列番号25)、CGRGDSY(配列番号26)、CGRGDSPK(配列番号27)、YAVTGRGDS(配列番号28)、RGDSPASSKP(配列番号29)、GRGDSPASSKG(配列番号30)、GCGYGRGDSPG(配列番号31)、GGGPHSRNGGGGGGRGDG(配列番号32)が挙げられる。いくつかの場合において、RGD含有ペプチドは、アスパラギン酸(D)に隣接する親油性アミノ酸残基を1つ以上有する(例えば、RGDV(配列番号33)、RGDF(配列番号34)、GRGDF(配列番号35)、GRGDY(配列番号36)、GRGDVY(配列番号37)およびGRGDYPC(配列番号38))(Lin, H.B., et al. (1994) J. Biomed. Mat. Res. 28:329-342)。フィブロネクチンに由来しRGDモチーフを含まないペプチドもまた、第2のコート層に使用され得る。他の非RGDペプチドは、NGR、LDV、REDV(配列番号39)、EILDV(配列番号40)またはKQAGDV(配列番号41)のような配列を有するかまたは含む。フィブロネクチン配列WQPPRARI(配列番号45;FN−C/H−Vとしても知られている)はフィブロネクチンの33/66kDフラグメントに由来し、濃度依存的様式でのRCE細胞の接着、伸展および移動を促進することが知られている(例えば、Moordian, D.L., et al. (1993) Invest Ophthalmol Vis Sci. 34:153-164参照)。
【0171】
エラスチン(トロポエラスチンとしても知られている)は、弾性繊維の成分であり、疎水性アミノ酸のグリシンおよびプロリンを多量に含んでいる。エラスチンは、UniProtKB/Swiss-Protにアクセッション番号P15502 (ELN_HUMAN)を有する。エラスチン配列に由来するペプチドはまたコーティングに使用され得る。典型的なエラスチンペプチドは、VAPG(配列番号42)、VGVAPG(配列番号43)、VAVAPG(配列番号44)の配列を含む。
【0172】
オステオポンチンは、骨再モデル化、免疫機能、走化性、細胞活性化およびアポトーシスにおける役割が調査されている(例えば、Mazzali, M. et al. (2002) QJM, 95:3-13参照)。オステオポンチン配列に由来するペプチドはまたコーティングに使用され得る。典型的なオステオポンチンペプチドは、SVVYGLR(配列番号46)であり、これは、内皮細胞に対する接着活性および移動活性を有することが報告されており、血管新生を刺激していくつかの虚血状態を改善することが期待されている(例えば、Hamada, Y., et al. (2003) Biochem Biophys Res Commun. 310:153-157参照)。
【0173】
コーティングの調製のいくつかの様式において、ECMタンパク質またはペプチドは、共有結合(架橋)剤を用いてアクリル酸ポリマー含有層に結合され得る。共有結合剤は、アクリル酸ポリマーおよびECMタンパク質(またはペプチド)のそれぞれの上の基と反応性である2つ以上の種々の化学基を含み得る。例えば、結合剤は、アクリル酸ポリマーのカルボキシル基をECMタンパク質またはペプチドの一級アミンに結合し得る。
【0174】
いくつかの実行様式において、共有結合剤は、EDC(1−エチル−3−[3−ジメチルアミノプロピル]カルボジイミドヒドロクロリド)である。EDCは、アクリル酸ポリマー上のカルボキシル基と反応して、アミン反応性o−アクリソウレア中間体を形成する。この中間体は、次いで、ECMタンパク質またはペプチドの上のアミンと結合する。EDC結合試薬は、NHS(N−ヒドロキシスルホスクシニミド)試薬(例えばスルホ−NHS)と組み合わせて使用され得る。EDSによって作製されたo−アクリソウレアエステル色素中間体は、NHS基と置換されて、アミン反応性NHSエステルに変換することによってアミノ反応性中間体を安定化させる。このアミン反応性NHSエステル中間体は、実施されるべき2工程の架橋を可能にし、このタンパク質またはペプチド所の任意のカルボキシル基を変化しないままにし得る。
【0175】
よって、いくつかの実施形態において、コーティングは、アクリル酸ポリマーとECMタンパク質またはペプチド、およびアクリル酸ポリマーとECMタンパク質またはペプチドとをアミド結合を介して共有結合する結合成分を含む。
【0176】
いくつかの実行様式において、ECMタンパク質またはペプチドを含んでいるコーティングは、先ず、移植可能でありかつ挿入可能な医療デバイスを提供することによって形成される。このデバイスは、アクリル酸ポリマー含有層を含むコーティングを有しかつビニルピロリドンポリマーを含み、ビニルピロリドンポリマーは、アクリル酸ポリマー含有層とデバイス表面との間のコート層に存在するか、または溶融押出組成物から形成されるデバイス材料に存在し、ここで、アクリル酸ポリマーはビニルピロリドンポリマーと水素結合する。
【0177】
タンパク質またはペプチドを含有するコーティング組成物(EDCのような結合剤を含んでいる)は、次いで、アクリル酸ポリマー層の一部または全体へ塗布され得る。典型的なペプチドおよびタンパク質は、分子のN末端で一級アミンを含み、1つ以上のリジン残基が存在する場合、時折、さらなる一級アミンを含む。よって、アミン反応性の特性を使用して、治療における利点を有し得る目的の任意の生物活性タンパク質またはペプチドを固定化し得る。典型的なタンパク質またはペプチドを含有するコーティング組成物は、所望の濃度(例えば、0.1mg/mL〜約5mg/mLまたは約0.25mg/mL〜約1mg/mLの範囲で)タンパク質またはペプチドを含み得る。コーティング組成物はまた、結合剤(例えばEDC)を所望の濃度で含み得る。反応しないタンパク質またはペプチドは、デバイスの表面から洗浄され得る。
【0178】
図12は、デバイス表面130、ビニルピロリドンポリマー含有基部層132、アクリル酸ポリマー含有層134、およびペプチド分子136を有するデバイス部分を有するコーティング態様を示す。上記ペプチド分子は、層134上にて高密度で存在し、層134においてアクリル酸ポリマーに共有結合されている。
【0179】
改善された血液適合性を提供するタンパク質およびペプチドは、コーティングの表面に結合され得る。血液適合性分子は、凝集カスケードに関与するタンパク質を阻害することによって作用し得る。典型的な血液適合性タンパク質は、アンチトロンビンIIIであり、これはトロンビンの活性を特異的に阻害する。トロンビンは、凝集カスケードに関与する最終タンパク質であり、不溶性のフィブリン栓の生成を担う。他の典型的な血液適合性タンパク質は、抗トロンビン抗体であり、これは、トロンビン活性を標的化し、そして阻害する。他の典型的な血液適合性タンパク質としては、トロンボモジュリン(強力な抗凝集活性を有する内皮の糖タンパク質)が挙げられるがこれに限定されない。凝集を阻害する別の典型的な血液適合性タンパク質は、コーントリプシンインヒビタであり、これは、固有の凝集カスケードの引き起こす第XIIa因子を阻害する、コーンから単離される小タンパク質である。トロンビンを直接的または間接的に阻害するいくつかのペプチドもまた知られている。例えば、ヒルジンは、トロンビン活性を直接的に阻害する、浸出液(leach)に由来するペプチドである。ビバリルジンはヒルジンに基づく短い合成ペプチドであり、また、強力なトロンビン阻害活性を有し、抗凝血剤として治療的に用いられる。トロンビンの他のペプチドインヒビタは、s−バリエジン、およびKoh, C.Y. et al. (2011) PLOS One. 6(10):e26367に記載されたようなその配列に基づく他の改変体を含むことも知られている。他の公知のトロンビンインヒビタとしては、D−フェニルアラニル−L−プロリル−L−アルギニンクロロメチルケトン(PPACK)およびGlu−Gly−Arg−クロロメチルケトン(GGACK)のようなペプチドクロロメチルケトンが挙げられ、これらはHaematologic Technologies, Inc. (Essex Junction, VT)から市販されている。
【0180】
コーティングは、血小板の集積の減少を示し得る。この減少は、対照の20%よりも大きく、対照の30%よりも大きく、対照の40%よりも大きく、対照の50%よりも大きく、対照の60%よりも大きく、対照の70%よりも大きい。あるいは、(b)コーティングは、フィブリンの集積の減少を示し得る。この減少は、対照の25%よりも大きく、対照の50%よりも大きく、対照の60%よりも大きく、対照の70%よりも大きく、対照の80%よりも大きく、または対照の90%よりも大きい。コーティングは、(a)血小板の集積の減少および(b)フィブリンの集積の減少の両方を示し得る。
【0181】
コーティングがその上に形成され得る基材は、部分的または完全に、金属、セラミック、ガラス等、またはこれらの組み合わせから製造されていてもよい。基材は、ポリマー(例えばポリウレタンおよびポリウレタンコポリマー)、ポリエチレン、ポリオレフィン、スチレン−ブタジエンコポリマー、ポリイソプレン、イソブチレン−イソプレンコポリマー(ブチルラバー)(ハロゲン化ブチルラバーを含む)、ブタジエン−スチレン−アクリロニトリルコポリマー、シリコーンポリマー、フロオロシリコーンポリマー、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリエステル、ポリビニルクロリド、ポリエーテル−ポリエステルコポリマー、ポリエーテル−ポリアミドコポリマー等が挙げられる。基材は、単一の材料から、または材料の組み合わせから作製され得る。
【0182】
基材ポリマーはまた、合成ポリマー(オリゴマーを含む)、ホモポリマー、および、付加重合または縮重合によって生じるコポリマーから作製されたものを含み得る。付加重合ポリマーの好適な例としては、アクリル(例えば、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、アクリル酸、メタクリル酸、グリセリルアクリレート、グリセリルメタクリレート、メタクリルアミド、およびアクリルアミドから重合されたアクリル);ビニル(例えば、エチレン、プロピレン、ビニルクロリド、ビニルアセテート、ビニルピロリドン、ビニリデンジフルオリドおよびスチレン)が挙げられるがこれらに限定されない。縮重合ポリマーの好適な例としては、ナイロン(例えば、ポリカプロラクタム、ポリラウリルラクタム、ポリヘキサメチレンアジパミド、およびポリヘキサメチレンドデカンジアミド)、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリスルフォン、ポリ(エチレンテレフタレート)、ポリジメチルシロキサン、およびポリエーテルケトンが挙げられるがこれらに限定されない。
【0183】
いくつかの実施形態において、基材としては、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルブロックアミド(PEBAX)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリエチレン、ポリウレタンおよびポリエチレンビニルアセテートからなる群より選択されるポリマーが挙げられる。
【0184】
医療器具(medical article)における基材として使用され得る金属は、白金、金またはタングステン、ならびに他の金属(レニウム、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、チタニウム、ニッケル、およびこれらの金属の合金(例えば、ステンレス鋼、チタニウム/ニッケル、ニチノール合金、コバルトクロム合金、非鉄合金、および白金/イリジウム合金))が挙げられる。典型的な合金の1つがMP35である。
【0185】
いくつかの実施形態において、基材または基材の一部が、熱可塑性エラストマーをビニルピロリドンポリマーとともに溶融押し出しすることによって形成される。「熱可塑性エラストマー」(または「熱可塑性ラバー」)は、熱可塑性材料のように処理され得るラバー様の材料をいう。熱可塑性エラストマーとしては、コポリマーおよびポリマーブレンドが挙げられ、これらには、本明細書中に特に記載された、エラストマー特性および熱可塑性特性を有するものが含まれる。熱可塑性エラストマーとしては、スチレンベースのブロックコポリマー、ポリオレフィンポリマー、熱可塑性ポリウレタン、熱可塑性コポリエステル、および熱可塑性ポリアミド(例えばポリエステルブロックアミド(PEBAX)ポリマー)が挙げられる。
【0186】
溶融押し出しは、熱可塑性エラストマーのような生のポリマー材料(例えばPEBAX)およびビニルピロリドンポリマー(例えばポリ(ビニルピロリドン)(PVP))を結合させることによって行われる。いくつかの実行態様において、押し出しは、熱可塑性エラストマーの量よりも少ない量のビニルピロリドンポリマー(例えば、低い比のPVP/PEBAX)を有する混合物を使用する。例えば、いくつかの実施形態において、ビニルピロリドンポリマーは、押出組成物中に、約45%(重量)以下、約40%(重量)以下、約35%(重量)以下、約30%(重量)以下で存在し、例えば、約5%(重量)〜約45%(重量)の範囲内、または約10%(重量)〜約40%(重量)の範囲内で存在する。いくつかの実施形態において、熱可塑性エラストマー(例えばPEBAX)は、押出組成物中に、約55%(重量)以上、約60%(重量)以上、約65%(重量)以上、約70%(重量)以上で存在し、例えば、約55%(重量)〜約95%(重量)の範囲内、または約60%(重量)〜約90%(重量)の範囲内で存在する。
【0187】
ポリマー材料の溶融押し出しは、当該分野において公知の方法および溶融押出機器を用いて実施され得る。例えば、ポリマー開始材料(例えばペレットまたは顆粒の形態)が、1つ以上の加熱区域を有する混合樽へペレット/顆粒を供給するフィーダーへ送り込まれ得る。溶融押出機は、ダイを介する押し出しの前の加熱および混合のためのスクリューを備え得る。溶融押出プロセスは、例えばWO07/081603に記載されており、医療デバイスを形成するための方法に使用され得る。
【0188】
いくつかの実施形態において、溶融押し出しされたポリマー材料は、デバイス材料のほとんどまたは全てを形成する。例えば、溶融押し出しされたPVP/PEBAXは、本明細書中に記載されるかまたは当該分野で公知のカテーテルアセンブリの一部であり得る導管(例えばチューブ)を形成する。溶融押し出しされたPVP/PEBAXは、次いで、外表面または内表面、または外表面と内表面との両方の上にアクリル酸ポリマーを備えた組成物で、本明細書に記載されるような技術を用いてコートされ得る。図8は、PVP/PEBAXで形成された溶融押出チューブ80、およびチューブの外表面上にアクリル酸ポリマーを備えたコーティング82を有する実施形態を示す。図9は、PVP/PEBAXで形成された溶融押出チューブ90、およびチューブの内表面上にアクリル酸ポリマーを備えたコーティング92を有する実施形態を示す。
【0189】
他の場合において、溶融押し出しされたPVP/PEBAXは、PVP/PEBAX部分と接触したアクリル酸ポリマーを備えたコーティングを有する医療デバイスの一部を形成し得る。例えば、PVP/PEBAXは、デバイスの第1部を、コーティングに接して形成し得、このデバイスは、種々の材料または種々の材料の組み合わせから作製されるデバイスの種々の部分である第2部等を備え得る。
【0190】
構成のいくつかの様式において、押し出されたPVP/PEBAXは、デバイスの第1部として存在し、そのデバイスの別の部分(例えば第2部)の上への押し出しによって形成される。デバイスの第2部は、別の熱可塑性物質、または金属から作製され得る。デバイスの第2部は、第2部上にPVP/PEBAXを押し出す前に所望の形状または構成に形成され得る。
【0191】
構成の他の様式において、PVP/PEBAXは、異なる熱可塑性物質または異なる熱可塑性物質の組み合わせとともに共押し出しされ得る。そして、PVP/PEBAXはデバイスの第1部を形成し、異なる熱可塑性物質はデバイスの第2部を形成する。例えば、PVP/PEBAXは、ナイロンまたはPTFEとともに共押し出しされ得る。
【0192】
いくつかの構成において、PVP/PEBAXはデバイスの第2部上に薄層(第1部)として押し出される。ここで、第2部は、第1部よりも実質的に薄い。例えば、PVP/PEBAXはデバイスの第2部の内表面、外表面、または内表面と外表面との両方の上に薄層として押し出される。これは、異なる熱可塑性物質(例えばナイロン、PTFEまたは金属)から作製されるチューブである。溶融押し出しされたPVP/PEBAXは薄層を形成し、次いで、本明細書に記載される技術を用いてアクリル酸ポリマーを含んでいる組成物でコートされ得る。図10は、熱可塑性物質または金属材料から形成されたチューブ116、チューブの外表面上のPVP/PEBAX薄層110、およびPVP/PEBAX層上にアクリル酸ポリマーを備えたコーティング112を有する実施形態を示す。図11は、熱可塑性物質または金属から形成されたチューブ126、チューブの内表面上のPVP/PEBAX薄層120、およびPVP/PEBAX層上にアクリル酸ポリマーを備えたコーティング122を有する実施形態を示す。
【0193】
必要に応じて、UVで活性化可能な光反応基が、押し出されたPVP/PEBAXデバイス(例えば、図8および図9におけるそれぞれ80および90)、押し出されたPVP/PEBAX層(例えば、図10および図11におけるそれぞれ110および120)、アクリル酸ポリマー含有コーティング(例えば、図8図9図10および図11におけるそれぞれ82、92、112および122)、あるいはこれらの組み合わせに備えられ得る。UVで活性化可能な光反応基は、架橋化合物上に存在しても、ポリマー材料からのペンダント基であっても、これらの両方であってもよい。
【0194】
本明細書に開示される方法及び材料は、表面上に親水性で潤滑性のコーティングを提供するために所望される任意の医療デバイスを視覚的にコーティングするために用いられ得る。特に、コーティングは、身体内に挿入されかつ移動され得る医療器具に特に有用である。
【0195】
典型的な医療器具としては、管系インプラントやグラフト、グラフト、外科用デバイス;人工プロテーゼ;内部人工器官、ステントグラフト、及び血管内ステントの組み合わせを含む血管プロテーゼ;小径グラフト、腹部大動脈瘤グラフト;創傷被覆材並びに創傷処置用デバイス;止血バリア;メッシュ及びヘルニアプラグ;子宮出血パッチ、心房中隔欠損(ASD)パッチ、卵円孔開存(PFO)パッチ、心室中隔欠損(VSD)パッチ、及び他の一般的な心臓パッチを含むパッチ;ASDクロージャー、PFOクロージャーおよびVSDクロージャー;経皮的クロージャーデバイス、僧帽弁修復用デバイス;左心耳フィルタ;弁輪形成用デバイスやカテーテル;中心静脈アクセスカテーテル、血管アクセスカテーテル、膿瘍ドレナージカテーテル、医薬品注入カテーテル、非経口的栄養補給カテーテル、(例えば、抗血栓剤で処置された)静脈内カテーテル、脳卒中治療用カテーテル、血圧ステントグラフトカテーテル;吻合用デバイス及び吻合クロージャー;動脈瘤空置デバイス;ブドウ糖センサを含むバイオセンサ;心臓センサ;避妊デバイス;胸部インプラント;感染制御デバイス;膜;組織骨格;組織に関連する材料;脳脊髄液(CSF)シャント、緑内障ドレナージシャントを含むシャント;歯科用デバイス及び歯科用インプラント;耳ドレナージチューブ、鼓膜切開ベントチューブ等の耳用デバイス;眼用デバイス;ドレナージチューブカフ、移植後医薬品注入チューブカフ、カテーテルカフ、ソーイングカフ等のカフ及びカフ部分;脊椎デバイス並びに神経デバイス;神経再生導管;神経カテーテル;神経パッチ;整形外科的関節インプラント、骨修復/増強デバイス、軟骨修復デバイス等の整形外科的デバイス;泌尿器系インプラント、膀胱用デバイス、腎臓用デバイス、血液透析デバイス等の泌尿器用デバイスおよび尿道用デバイス、結腸瘻バッグ装着デバイス;胆汁ドレナージ製品、静脈・大静脈フィルタ、並びに塞栓防止用のフィルタおよびデバイス、電気生理学的マッピングおよびアブレーションカテーテルが挙げられる。
【0196】
いくつかの実施形態において、本明細書に開示されるコーティングは、典型的な医療デバイス(例えば編組カテーテル(braided catheters))に使用され得る。なお、他の実施形態において、コーティングは、編組カテーテル(例えばPEBAX(登録商標))にて有利に使用され得る。
【0197】
図2は、特定の実施形態に従う、典型的なデバイスの概略図を示す。デバイス200は、例えば、カテーテル(例えば血管形成バルーンカテーテル)であり得る。バルーンカテーテル構造は、当該分野において周知であり、種々の刊行物(例えば、米国特許第4,195,637号、同第5,041,089号、同第5,087,246号、同第5,318,587号、同第5,382,234号、同第5,571,089号、同第5,776,101号、同第5,807,331号、同第5,882,336号、同第6,394,995号、同第6,517,515号、同第6,623,504号、同第6,896,842号、同第7,163,523号)に記載されている。デバイス200は、カテーテルシャフト202およびマニホールド端205を備えている。デバイス200はまた、カテーテルシャフト202の周りに配置された膨張可能なバルーン204を備えている。図2において、バルーン204は、膨らんだ構成で示されている。カテーテルシャフト202は、カテーテルシャフト202を介して、バルーン204までまたはバルーン204からエアを運ぶためのチャネルを備えており、これにより、バルーン204は、収縮した構成から膨らんだ構成へ選択的に変化し得、そして再度戻り得る。カテーテルシャフトおよび/またはバルーンは、本明細書中に記載されるようなコーティングをその上に配置して有し得る。
【0198】
本明細書の開示は、以下の実施例を参照してより理解され得る。これらの実施例は、本明細書の開示の特定の実施形態の例示の目的であり、本明細書の開示の範囲を限定することを意図しない。
【0199】
〔実施例〕
以下の試薬、コーティング溶液および基材が、実施例の生成において使用された。
【0200】
<PA−BBA−AMPS−PEG>
N−アセチル化ポリ[アクリルアミド93.6%−co−ナトリウム−2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホネート4.9%−co−N−(3−(4−ベンゾイルベンズアミド)プロピル)メタクリルアミド0.9%]−co−メトキシポリ(エチレングリコール)1000モノメタクリレート0.6%(パーセンテージはモル%である)を得た(PA−BBA−AMPS−PEG)。PA−BBA−AMPS−PEGの調製のための試薬および方法は、米国特許第4,979,959号;第5,002,582号;第5,263,992号;第5,414,075号;第5,512,329号;および第5,637,460号等の参考文献中に見出され得る。これらの教示は、参照によって本明細書に引用される。
【0201】
<フォト−PVP>
平均分子量が約1,450kDaであり、ベンゾフェノン光反応性基を有するポリビニルピロリドンを、米国特許第5,637,460号に記載の方法に従って調製した。
【0202】
<BPP>
架橋剤であるナトリウムビス(4−ベンゾイルフェニル)ホスフェートを、米国特許出願公開第2012/0046384号に記載の方法に従って調製した。
【0203】
<PAA>
450kDaの平均分子量を有するポリ(アクリル酸)を、Sigma-Aldrichから得た。
【0204】
<PVP−K30>
50kDaの平均分子量を有するPVP−K30を、BASFから得た。
【0205】
<コーティング溶液A>
75%がイソプロピルアルコールであり、25%が水である溶媒において、18g/Lのフォト−PVP;および1g/LのBPPを共に混合することによって、コーティング溶液を調製した。
【0206】
<コーティング溶液B>
15%がイソプロピルアルコールであり、85%が水である溶媒において、10.5g/Lのフォト−PVP;10.5g/LのPA−BBA−AMPS−PEG;0.1g/LのBPPを共に混合することによって、コーティング溶液を調製した。
【0207】
<コーティング溶液C>
15%がイソプロピルアルコールであり、85%が水である溶媒において、10.5g/LのPAA;10.5g/LのPA−BBA−AMPS−PEG;0.1g/LのBPPを共に混合することによって、コーティング溶液を調製した。
【0208】
<コーティング溶液D>
15%がイソプロピルアルコールであり、85%が水である溶媒において、20g/LのPAAを溶解することによって、コーティング溶液を調製した。
【0209】
<コーティング溶液E>
15%がイソプロピルアルコールであり、85%が水である溶媒において、20g/LのPVP−K30を溶解することによって、コーティング溶液を調製した。
【0210】
<試験基材>
試験基材は、Minnesota MedTec, Maple Grove, MNから得た30%硫酸バリウムおよび40D PEBAX(登録商標)編組カテーテル材料(0.105''のO.D.、40PPI);Medicine Lake Extrusion, Plymouth, MNから得たPEBAX(登録商標)ロッド(O.D. 0.039'';72D);並びにSolomon Scientific, San Antonio, TXから得たポリウレタンカテーテル(O.D. 0.92'';カタログ番号PU−C70)を含む。
【0211】
<摩擦(潤滑性)および耐久性の試験方法>
国際出願番号WO03/055611に記載の垂直ピンチ法を以下のように修正して用いた摩擦測定によって、実施例のコーティングされた基材の潤滑性/耐久性を評価した。コーティングされた基材のサンプルを、リン酸緩衝生理食塩水(PBS、pH7.4)中で1分間以上、水和させ、その後、ロッドホルダーの端部へ挿入した。当該ロッドホルダーをピンチテスターの2つの顎の間に配置して、そしてPBSのシリンダーへ浸漬した。上記ピンチテスターの顎を閉じてサンプルを移動速度1cm/sにて垂直方向へ10cm引っ張り、そしてコーティングされたサンプルが元の位置Aに戻った時点で顎を開いた。
【0212】
コーティングされた基材を、挟んだ顎によって引っ張りながら、500gの力を加えた。その後、基材上に加えられた引張力を測定した(グラム)。引張力(g)は、摩擦係数(COF)にピンチ力(g)を乗じた値に等しい。垂直ピンチテスト法に使用された装置は、米国特許第7,348,055号に記載されており、その内容は参照によって本明細書に引用される。
【0213】
<粒子の試験法>
本明細書の実施例における水溶液中に生成された粒子の試験は、次の手順によって実施された。ASTM F2394に記載の手順の派生として、基材を、以下に記載の水溶液中にて蛇行した経路を通過させた。
【0214】
6フレンチガイドカテーテル(Vista Brite Tip, Cordis)の遠位部を、カテーテルの長さが30cmになるように切断および廃棄した。当該ガイドカテーテルをASTM F2394−07モデルへと挿入した。止血バルブコネクタ(Qosina)を上記ガイドカテーテルに接続した。当該モデルを、60mLシリンジを用いて120mLのアイソトン(Becton, Dickinson, and Company)を流すことによって洗浄し、そして流したアイソトンを廃棄した。60mLのアイソトンを用いたベースラインフラッシュを光遮断方式によって分析して粒子のバックグラウンド濃度を決定した。20cmのコーティングが施された60cmのロッド(直径1mm)を、アイソトン中で1分間以上、水和させた。当該ロッドをガイドカテーテル中に挿入し、ロッドの遠位部が上記モデルから出るまで進めた。アイソトンを用いた30mLの洗い流しを実施し、ガラスビーカー中に収集した。当該ロッドを除去し、さらにアイソトンを用いた30mLの洗い流しを実施し、同じガラスビーカー中に収集した。収集したアイソトンを、10ミクロン以上の粒子について光遮断方式によってすぐに分析した。当該モデルを120mlのアイソトンを用いて洗浄し、そして次のコーティングされたロッドについて試験を行った。
【0215】
〔実施例1:−PVP/PAAコーティング相互作用−トルイジンブルー染色〕
フォト−PVP溶液(20g/L、水)をPAA溶液へ加えた(40g/L、水)。溶液を混合したときに、調製物はゲルを形成した。このことから、これらのフォト−PVP溶液とPAA溶液との間に相互作用が存在することが実証された。
【0216】
予めフォト−PVP(20g/L、水)をディップコートしてUV硬化させたポリウレタンカテーテルに、さらにPAA(水中に20g/L)をディップコートした。当該PAA層をUV硬化させず、乾燥させなかった。コーティングされたカテーテルをすぐに脱イオン水を用いてすすいだ。コーティングされたカテーテルを0.1%w/vトルイジンブルー水溶液中で1分間保持することによってトルイジン染色を行い、その後、脱イオン水を用いて当該サンプルを完全にすすいで余剰の染色を除去した。コーティングされたカテーテルは、濃い紫色に染色されており、このことはコーティング中にPAAが高濃度で存在していることを示している。
【0217】
コーティングされていないポリウレタンカテーテルに、上述のように、PAAをディップコートした。当該PAA層をUV硬化させず、乾燥させなかった。上述のように、コーティングされたカテーテルをすぐに脱イオン水を用いてすすぎ、トルイジンを用いて染色した。コーティングされたカテーテルは、非常に淡い青色に染色されており、このことはコーティング中に残存したPAAがほんのわずかに存在していることを示している。
【0218】
〔実施例2:最上層コート中のフォト−PVPの、PAAによる置換〕
コーティングを、PEBAX(登録商標)編組カテーテル材料(40D、40PPI、30%BaSO4)に塗布した。具体的には、コーティング溶液Aを、ディップコート法を用いて基部コートとして基材へ塗布した。当該基材を5秒間の滞留時間にてコーティング溶液A中に浸漬した。その後、当該基材を、1.5cm/sの速度にて、溶液から抜き出した。その後、当該基部層を少なくとも10分間空気乾燥させた。さらに、コーティングされた基材を、400ワットメタルハライド電球を備えたDymax 2000−ECシリーズのUVフラッドランプの前で30秒間、光源から約20cmの位置で回転させることにより、上記基部層をUV硬化させた。1つのケースにおいて、上記基部コート層の塗布を、合計3コート分、反復した。次に、同様に0.3cm/sの速度のディップコーティングによって、コーティング溶液Bまたはコーティング溶液Cの層を基部コート層へ塗布して第2層を形成した。その後、上記基部コート層と同じ条件を用いて、上記第2層を空気乾燥させ、そしてUV硬化させた。その後、上で概説した試験手順に従い、コーティングの摩擦を調べた。結果を図3に示す。
【0219】
その後、上で概説した試験手順に従い、コーティングにおける粒子の生成を調べた。1コートA、1コートBコーティングは、1つのロッドあたり、10ミクロン以上の粒子を平均4,441個生成した。一方、1コートA、1コートCコーティングは、1つのロッドあたり、10ミクロン以上の粒子を平均2,801個生成した。
【0220】
〔実施例3:PAA最上層コートとPVP最上層コートとの対比〕
コーティングを、PEBAX編組カテーテル材料(40D、40PPI、30%BaSO4)に塗布した。具体的には、コーティング溶液Aを、ディップコート法を用いて基部コートとして基材へ塗布した。当該基材を5秒間の滞留時間にて基部コートコーティング溶液中に浸漬した。その後、当該基材を、1.5cm/sの速度にて、溶液から抜き出した。その後、当該基部層を少なくとも10分間空気乾燥させた。さらに、上記基部層をUV硬化させた。具体的には、コーティングされた基材を、400ワットメタルハライド電球を備えたDymax 2000−ECシリーズのUVフラッドランプの前で30秒間、光源から約20cmの位置で回転させた。次に、同様に0.3cm/sの速度のディップコーティングによって、コーティング溶液Dまたはコーティング溶液Eの層を基部コート層へ塗布して第2層を形成した。その後、上記基部コート層と同じ条件を用いて、上記第2層を空気乾燥させ、そしてUV硬化させた。その後、上で概説した試験手順に従い、コーティングの摩擦を調べた。結果を図4に示す。
【0221】
〔実施例4:最上層コートのUV硬化と、UV硬化なしとの対比〕
コーティングを、PEBAX(登録商標)編組カテーテル材料(40D、40PPI、30%BaSO4)に塗布した。具体的には、コーティング溶液Aを、ディップコート法を用いて基部コートとして基材へ塗布した。当該基材を5秒間の滞留時間にて基部コートコーティング溶液中に浸漬した。その後、当該基材を、1.5cm/sの速度にて、溶液から抜き出した。その後、当該基部層を少なくとも10分間空気乾燥させた。さらに、上記基部層をUV硬化させた。具体的には、コーティングされた基材を、400ワットメタルハライド電球を備えたDymax 2000−ECシリーズのUVフラッドランプの前で30秒間、光源から約20cmの位置で回転させた。次に、同様に0.3cm/sの速度のディップコーティングによって、コーティング溶液Dの層を基部コート層へ塗布して第2層を形成した。その後、全てのロッドにおいて上記第2層を空気乾燥させた。あるセットのロッドには、30秒間のUV硬化を施し、一方、他のセットのロッドにはUV硬化を施さなかった。その後、上で概説した試験手順に従い、コーティングの摩擦を調べた。結果を図5に示す。
【0222】
〔実施例5:PAAペプチドコーティング〕
厚さ0.5mmのPEBAX 6333 SA01シートを、Specialty Extrusions, Inc (Royersford, PA)から得た。アミノ酸配列がCKKRGDSP、GWQPPRARI、GYIGSR、GIKVAV、およびGSVVYGLRであるペプチドを、BioBasic, Inc. (Amherst, NY)にて95%の純度で合成した。コーティングの前に、PEBAXシートを1×8cmのストリップへと切断した。PEBAXストリップをコーティング溶液A中に浸し、その後、1.5cm/sの速度にて除去した。上記ストリップを10分間乾燥させ、その後、30秒間UVに曝露した。その後、ストリップをコーティング溶液D中に浸し、0.3cm/sの速度にて除去し、10分間乾燥させ、30秒間UVに曝露した。2−(N−モルホリノ)エタンスルホン酸(Sigma-Aldrich, Saint Loiuis, MO)を水中に0.1M(1L中に19.5g)にて溶解させ、pHを6.0に調整してMESバッファーを調製した。1−エチル−3−[3−ジメチルアミノプロピル]カルボジイミド(EDC)塩酸塩およびN−ヒドロキシスクシニミド(NHS)を両方ともThermo Scientific (Rockford, IL)から得た。EDCおよびNHSをMESバッファー中に各成分が1mg/mlの濃度となるように溶解させた。その後、EDCおよびNHSを含んでいるMESバッファーまたはMESバッファーのみを用いて、ペプチドをMESバッファー中に1mg/mlにて溶解させた。EDC/NHSあり、またはなしの、ペプチドを含んだMESバッファーを、PAAがコーティングされたPEBAXストリップとともに、一晩、室温にて振盪しながらインキュベートした。一晩の振盪後、PEBAXストリップを、0.05%Tween−20を含んでいるリン酸緩衝生理食塩水中で3回すすぎ、その後、水中ですすいだ。その後、上記ストリップを乾燥させた。細胞接着試験の前に、ストリップを30秒間UV光に曝露することによって滅菌した。
【0223】
〔実施例6:PAAペプチドの内皮細胞接着アッセイ〕
ヒト冠状動脈内皮細胞(HCAECs)および内皮細胞増殖培地2微小血管(EGM−2MV)をLonza (Walkersville, MD)から得た。HCAECsを組織培養ポリスチレンフラスコ中にてコンフルエンシー(confluency)まで増殖させ、トリプシン処理によって収集した後、EGM−2MVを用いてトリプシンを中和した。コーティングされたPEBAX上に播く前に、細胞を、血球計を用いて数えた。PEBAXストリップ(1×1cm)を24ウェル細胞培養プレート中に配置し、その後、100,000個のHCAECsを含んでいる1mlのEGM−2MVを上記プレートへ加え、2時間インキュベートした。24ウェル細胞培養プレートの1ウェルあたり100,000個から1,563個までの範囲のHCAECsの標準曲線もまた、連続希釈法によって調製した。2時間のインキュベーションの後、PEBAXストリップをダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(DPBS, Lonza)中で3回すすぎ、その後、1mlの新鮮なEGM−2MVを含んでいる新しい24ウェルプレートへ、移した。その後、0.2mLのCellTiter−Blue(登録商標)(Promega, Madison, WI)を、PEBAXおよび細胞標準を含んだプレートに加え、1.5時間インキュベートし、その後、収集して、蛍光プレートリーダーにて560nmの励起光および590nmの蛍光を用いて読み取った。その後、PEBAXをDPBS中にてすすぎ、さらに4日間、EGM−2MVを含んでいる新しい培養プレートへ配置し、この時点で、接着した細胞の数を、再度CellTiter−Blue(登録商標)を用いて定量した。初期の接着および4日目の定量の結果を図13Aおよび13Bに示す。コーティングされていないPEBAX、またはコーティング溶液Aのみを受けたPEBAX(BCのみ)もしくはコーティング溶液AおよびDのみを受けたPEBAX(BC PAAのみ)では、HCAECsは接着を示さなかった。全てのペプチドコーティングは細胞接着を増加させ、また、接着は、ペプチドコーティング溶液にEDC/NHSが含まれている場合(EDCあり)に、より増加した。
【0224】
〔実施例7:血液適合性アッセイ〕
ポリ(アクリル酸)(PAA)最上層コーティングおよび比較コーティングを有するコーティングを、血液適合性について調べた。編組ニチノール塞栓防止デバイスを、IPA中で洗浄し、その後、熱い10%Valtron SP2200(Valtech, Corp., Pottstown, PA)の溶液によって洗浄した。メチルヒドロシロキサン−ジメチルシロキサンコポリマー(Gelest, Morrisville, PA)のつなぎ層を、ディッピングによってデバイス上に配置し、その後、120℃にて35分間乾燥させ、IPA中ですすいだ。フォト−PVPおよびBBPの基部コートを、それぞれ10mg/mlおよび0.2mg/mlにて、75%IPA/25%水中で調製し、EFDスプレイヤー(Nordson EFD, Westlake, OH)を用いたスプレーコーティングによって塗布した。スプレーコーティング後、部品を1分間UVに曝露した。その後、部品をPAAコーティング溶液D中に浸し、乾燥させ、そして1分間UVに曝露した。
【0225】
コーティングされたデバイスおよびコーティングされていないデバイスを、in vitroでの分岐型ウシ血液ループにて調べた。インジウム−111を用いて血小板の放射性同位体標識を行い、血栓の定量化を可能にした。血液の流速を40mL/分に設定し、いずれか1つのデバイスにおける流量が50%減少した場合(一般的に20〜40分間かかる)に実験を終了した。実験の最後に、各デバイスをガンマカウンターに配置し、付着した血栓を測定した。フォト−PVPおよびフォト架橋剤から形成された基部コート上に、ポリ(アクリル酸)最上層コートを用いてコーティングしたフィルタは、フォト−PVPおよびフォト架橋剤のみをコーティングしたデバイスに比べて、より良く血栓の形成を減少させた(図14)。
【0226】
コーティングされたデバイスおよびコーティングされていないデバイスを、免疫学的検定を用いたフィブリノーゲン吸収について調べた。デバイスを、ヒト乏血小板血漿中で2時間インキュベートし、その後、tweenを含んでいるリン酸緩衝生理食塩水中ですすいだ。その後、デバイスを、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)で標識した抗ヒトフィブリノーゲン抗体(Rockland Immunochemicals, Gilbertsville, PA)に曝し、再度すすいだ。その後、デバイスをテトラメチルベンジジン(TMB)基材(SurModics BioFx, Eden Prairie, MN)中に15分間配置し、分光光度計を用いて650nmにて吸光度を測定した。フォト−PVPおよびフォト−架橋剤の基部コートのみと比較して、ポリ(アクリル酸)最上層コートを用いたコーティングにおいて、フィブリノーゲンの吸収は有意に少なかった(図15)。
【0227】
なお、本明細書および添付の特許請求の範囲において使用されている場合、その内容が明らかに別の意味を示していない限り、単数形「a」、「an」および「the」は、複数形の意味を含む。従って、例えば、「化合物(a compound)」を含む組成物の参照は、2つ以上の化合物の混合物を含む。同様に用語「または」は、その内容が明らかに別の意味を示していない限り、一般的に「および/または」を含む意味で用いられる。
【0228】
同様に、本明細書および添付の特許請求の範囲において使用されている場合、語句「構成される」は、特定の課題を実施するため、または特定の構成を採用するために構築または構成されたシステム、装置、または他の構造を表現している。語句「構成される」は、他の同様の語句と交換可能に使用され得る(例えば、配置されるおよび構成される、構築されるおよび配置される、構築される、製造されるおよび配置される等)。
【0229】
本明細書における全ての刊行物および特許出願は、本開示が属する技術分野における通常の技量レベルを示している。個々の刊行物または特許出願が具体的にかつ個別に参照によって示されているのと同程度に、全ての刊行物および特許出願は、本明細書において参照によって引用される。本明細書に引用されたいずれの刊行物および/または特許を含むいずれの刊行物および/または特許に先行する資格が発明者にはないという承認として解釈されることは、本明細書において全くない。
【0230】
本開示は、種々の特定の、および、好ましい実施形態および技術を参照して記載されている。しかしながら、本開示の精神および範囲の中で、多くの変更および修正がなされ得ることは理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0231】
図1】2つの成分のコーティングの一実施形態を示す概略図である。
図2】コーティングされた医療デバイスの一実施形態を示す概略図である。
図3】本開示の種々の実施形態における、垂直ピンチテスト(a vertical pinch test)にて測定された摩擦力の平均と、試験サイクル数とを示すグラフである。
図4】本開示の種々の実施形態における、垂直ピンチテストにて測定された摩擦力の平均と、試験サイクル数とを示すグラフである。
図5】UVなしの最上層コーティングと30秒間UVの最上層コーティングとの比較において、垂直ピンチテストにて測定された摩擦力の平均と、試験サイクル数とを示すグラフである。
図6】デバイスを形成およびコーティングする方法、並びに、それに関連した、溶融押出機、コーティングバス、照射領域および巻取りステーション(winding station)を含む機器を示す図である。
図7】デバイスを形成およびコーティングする方法、並びに、それに関連した、溶融押出機、冷却槽、コーティングエリア、照射エリアおよび巻取りステーションを含む機器を示す図である。
図8】押し出されたチューブ状のデバイスの断面図(端面図)であり、当該デバイスは、その外表面上にコーティングを有する。
図9】押し出されたチューブ状のデバイスの断面図(端面図)であり、当該デバイスは、その内表面上にコーティングを有する。
図10】チューブ状のデバイスの断面図(端面図)であり、当該デバイスは、その外表面上に中間押出成形層およびコーティングを有する。
図11】チューブ状のデバイスの断面図(端面図)であり、当該デバイスは、その内表面上に中間押出成形層およびコーティングを有する。
図12】アクリル酸ポリマー含有層上に共有結合によって固定されたペプチドを有するコーティングの一部の断面図である。
図13A】種々のペプチドが固定されたアクリル酸ポリマー含有コーティングにおける細胞接着を反映したグラフである。
図13B】種々のペプチドが固定されたアクリル酸ポリマー含有コーティングにおける細胞接着を反映したグラフである。
図14】コーティングされていない対照と比較した、種々のコーティングされた基材上の血小板の存在(量)を測定した血液適合性アッセイの結果を示すグラフである。
図15】ヒト乏血小板血漿から種々のコーティングされた基材への吸収を測定したin vitroにおけるフィブリノーゲンの免疫学的検定の結果を示すグラフである。
図16】第1のコート層のビニルピロリドンポリマーと、第2のコート層のアクリル酸ポリマーとの間の水素結合を示す図である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図9
図10
図11
図12
図13A
図13B
図14
図15
図16
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]