【実施例】
【0068】
次に、本発明の作用効果を確認するために行った実施例について説明する。
【0069】
実施例1:抗原性ペプチド/ポリヌクレオチドコンジュゲートの作製
本実施例において、デオキシアデニン40量体中のリン酸ジエステル結合が全てホスホロチオエート結合に置換された構造を有するポリヌクレオチド誘導体(以下、「dA40(S)」という。)の5’側にアルキンを導入したポリヌクレオチド誘導体(以下、「dA40(S)(alkyne)」という。)(株式会社 ジーンデザイン社より購入)とオボアルブミン(OVA)由来の抗原性ペプチド(アミノ酸配列:SIINFEKL(配列番号1))のC末端にアジド基を導入した抗原性ペプチド(以下、「OVA(N3)」)(株式会社 ジーンデザイン社より購入)との抗原性ペプチド/ポリヌクレオチドコンジュゲート体(以下、「OVAペプチド−dA40(S)」)の作製について検討を行った。化学構造を
図1にそれぞれ示す。
【0070】
OVA(N3)(最終濃度:10μM〜800μM、溶媒:水+DMSO)、dA40(S)(alkyne)(最終濃度:10μM、溶媒:水)、硫酸銅(II)五水和物(最終濃度:1.5mM、溶媒:水)、アスコルビン酸ナトリウム(最終濃度:3.0mM、溶媒:水)、(トリス(1−ベンジル−1H−1,2,3−トリアゾール−4−イル)メチル)アミン(最終濃度:0.6mM、溶媒:DMSO)となるように混合し、室温で1時間、銅触媒を用いたクリックケミストリーを行った。反応後、キレート剤であるpH7.4のエチレンジアミン四酢酸(EDTA)溶液(最終濃度:20mM以上)でサンプル溶液を希釈した後、HPLC測定を行った。dA40(S)とHPLCカラムの相互作用が強力で溶出されにくいため、EDTAを添加することでその相互作用を弱め、溶出されやすいようにした。
【0071】
HPLC測定では、カラムとしてInertsil ODS−3(ジーエルサイエンス社)、溶離液として0.1Mトリエチルアミン−酢酸(TEAA)バッファー(pH7.0)とアセトニトリル、検出器としてダイオードアレイを用い、260nmでのdA40(S)(alkyne)のUV吸収変化を追跡した。結果を
図2に示す。dA40(S)(alkyne)のピークがペプチドを加えることで、17分付近から20分付近へペプチド量依存的にシフトしていることが確認された。逆相カラムを用いた測定において、溶出時間が遅くなることは分子がより疎水的になったことを示唆する。この結果から、OVAペプチド−dA40(S)が生成したことがわかった。
【0072】
実施例2:抗原性ペプチド/ポリヌクレオチドコンジュゲートとβ−1,3−グルカン骨格を有する多糖の複合化
本実施例において、β−1,3−グルカン骨格を有する多糖として用いたシゾフィラン(SPG)は、特開2010−174107号公報の実施例に記載の方法を用いて得た。これを所定の方法にて、精製した。GPCにより分子量を算出したところ、1本鎖状態では15万で、3本鎖では45万であった。このSPGと、実施例1で調製したOVAペプチド−dA40(S)との複合化について検討を行った。
【0073】
上述したとおり、SPG等のβ−1,3−グルカンは、アルカリ水溶液中では1本鎖に解離しているが、リン酸緩衝液を添加することにより、β−1,3−グルカンを含む溶液が中和されると、β−1,3−グルカン3分子が水素結合を介して会合し、三重螺旋構造が再生される。このとき、混合物中にdA40(S)等のポリヌクレオチド又はポリヌクレオチド誘導体が存在すると、ポリヌクレオチド又はポリヌクレオチド誘導体1分子とβ−1,3−グルカン2分子とが、水素結合及び疎水性相互作用を介して会合し、三重螺旋構造を有する複合体が生成することは、本発明者により見出された。本実施例では、ポリヌクレオチド又はポリヌクレオチド誘導体の一例であるdA40(S)に抗原性ペプチドが結合した抗原性ペプチド−DA40(S)とSPGとの組み合わせにおいても、同様に三重螺旋構造を有する複合体が生成するかについて検証を行った。
【0074】
0.25N NaOH溶液にSPGを溶解し(15mg/mL)、完全に1本鎖に解離させるために2日以上放置したものを用いた。OVAペプチド−dA40(S)の10%ジメチルスルホキシド(DMSO)水溶液(10体積%のDMSOを含む水を溶媒とする溶液。以下同じ。)と、リン酸緩衝液(330mM NaH
2PO
4、pH4.5)を混合後、上述のSPG溶液を添加し、撹拌した。なお、SPGとOVAペプチド−dA40(S)の混合比はモル比で3:1であり、SPG溶液とリン酸緩衝液の体積比は1:1となるよう、各溶液の濃度を調整した。4℃で一晩静置させた後、撹拌後の反応混合物のアクリルアミドゲル電気泳動を行った。比較のため、抗原性ペプチド−dA40(S)についてもアクリルアミド電気泳動を行った。
【0075】
電気泳動後、アクリルアミドゲルをSYBR Goldで染色し、蛍光画像を撮影した結果を
図3に示す。撹拌後の反応混合物のレーン(レーン2:complex(peptide/SPG))では、レーン1(peptide−dA40S)において観測されるOVAペプチド−dA40(S)のバンドが消失していることが確認された。この結果から、OVAペプチド−dA40(S)がSPGと複合化し、より高分子量の複合体(OVAペプチド−dA40(S)/SPG複合体)が生成したことがわかった。
【0076】
実施例3:マウス脾細胞における、抗原性ペプチドによる抗原特異的免疫応答に抗原性ペプチドとSPGとの複合化が及ぼす影響の評価
(1)オボアルブミン(OVA)由来のアミノ酸配列(配列番号1)を有する抗原性ペプチド(OVAペプチド)(5μg)、(2)OVAペプチド(5μg)及びCpG DNA(塩基配列:ATCGACTCTCGAGCGTTCTC(配列番号2))(30μg)、(3)OVAペプチド−dA40(S)/SPG複合体(実施例1参照、5μg)、(4)OVAペプチド−dA40(S)/SPG複合体(実施例1で調製、5μg)及びCpG DNA(30μg)、(5)OVAペプチド−dA40(S)/SPG複合体(5μg)及びフロイトの不完全アジュバント(IFA)(30μg)のいずれかを、マウス(C57BL/6マウス、雄性、7週齢)皮内に投与(1回)した。投与から1週間後に、マウスより脾細胞を採取後、96ウェルに播種し(1.0×10
6 cells/ウェル)、OVAペプチドで刺激(10μg/mL)し、抗原特異的なインターフェロン−γ(IFN−γ)が誘導されるかについて検討した。
【0077】
OVAペプチドによる脾細胞への刺激24時間後に、酵素結合免疫測定(ELISA)を用いて、培地中のIFN−γ量を定量した。結果を
図4に示す。OVAペプチドのみ投与した場合、OVAペプチド及びCpG DNAを同時投与した場合、OVAペプチド−dA40(S)/SPG複合体のみを投与した場合については、OVAペプチドに特異的なインターフェロン応答は見られなかった。OVAペプチド−dA40(S)/SPG複合体を市販のアジュバントであるフロイトの不完全アジュバント(IFA)と同時投与した場合においても、その応答は非常に小さいものであった。しかし、OVAペプチド−dA40(S)/SPG複合体をCpG DNAと同時に投与した場合、顕著な免疫応答(IFN−γの産生量の増大)が誘起できることが確認された。OVAペプチドのみを投与した場合には、体内から速やかに排除されてしまうのに対し、OVAペプチド−dA40(S)をSPGと複合化させることにより、抗原提示細胞への取り込みが促進され、そこに、TLR9に対するCpG DNAの刺激が加わることにより、抗原特異的T細胞の割合が増加したためと考えられる。
【0078】
実施例4:抗原性ペプチド特異的細胞傷害性T細胞の誘導能に抗原性ペプチドとSPGとの複合化が及ぼす影響の評価
実施例3において、(1)OVAペプチド、(2)OVAペプチド及びCpG DNA、(3)OVAペプチド−dA40(S)/SPG複合体、(4)OVAペプチド−dA40(S)/SPG複合体及びCpG DNAのいずれかを皮内投与したマウスより採取し、OVAペプチド−dA40(S)/SPG複合体で刺激したマウス脾細胞を6日間培養し、抗体染色後、フローサイトメーターを用いて、OVAペプチドに特異的な細胞傷害性(CD8陽性)T細胞の割合を評価した。
【0079】
脾細胞中のOVAペプチドに特異的なCD8陽性T細胞の割合を
図5に示す。OVAペプチドのみ投与した場合(peptide)、OVAペプチド及びCpG DNAを同時投与した場合(peptide+CpG)、OVAペプチド−dA40(S)/SPG複合体のみを投与した場合(peptide/SPG)のいずれについても、OVAペプチドに特異的なCD8陽性T細胞の割合は少ないが、OVAペプチド−dA40(S)/SPG複合体をCpG DNAと同時に投与した場合(peptide/SPG+CpG)には、OVAペプチドに特異的なCD8陽性T細胞の割合が有意に増加していることが確認された。
【0080】
実施例5:抗原性ペプチド、免疫賦活活性を有する部分塩基配列を有するポリヌクレオチド誘導体及びβ−1,3−グルカン骨格を有する多糖の複合化
SPGと、OVAペプチド−dA40(S)、CpG DNA−dA40(S)との同時複合化について検討を行った。
【0081】
0.25N NaOH溶液にSPGを溶解し(15mg/mL)、完全に1本鎖に解離させるために2日以上放置したものを用いた。CpG DNA−dA40(S)(CpG DNAの3’−末端側にdA40(S)が結合した構造を有するポリヌクレオチド誘導体)の水溶液と、OVAペプチド−dA40(S)の10%DMSO水溶液と、リン酸緩衝液(330mM NaH
2PO
4,pH4.5)を混合し、上述のSPG溶液を添加し、撹拌した。なお、SPGとOVAペプチド−dA40(S)の混合比、SPGとCpG DNA−dA40(S)の混合比は、共にモル比で3:1であり、SPG溶液とリン酸緩衝液の体積比は1:1となるよう、各溶液の濃度を調整した。
【0082】
電気泳動後、アクリルアミドゲルをSYBR Goldで染色し、蛍光画像を撮影した結果を
図6に示す。撹拌後の反応混合物のレーン(レーン3:complex(peptide/CpG/SPG))では、レーン1において観測されるOVAペプチド−dA40(S)のバンド及びレーン2において観測されるCpG DNA−dA40(S)のバンドが共に消失していることが確認された。この結果から、抗原性ペプチド−dA40(S)及びCpG DNA−dA40(S)の両者がSPGと複合化し、より高分子量の複合体(OVAペプチド−dA40(S)/CpG DNA−dA40(S)/SPG三元複合体)が生成したことがわかった。本実施例では、三元複合体1分子当たり、最大7本のdA40(S)の分子鎖が含まれるよう、SPG、OVAペプチド−dA40(S)及びCpG DNA−dA40(S)のモル比を調節している。また、OVAペプチド−dA40(S)及びCpG DNA−dA40(S)のモル比は1:1であり、両者の間にSPGとの複合体形成能に差はないと考えられることから、三元複合体が生成していると考えられる。
【0083】
OVAペプチド以外の抗原性ペプチドとして、下記のアミノ酸配列を有する抗原性ペプチド/ヌクレオチドコンジュゲートについて、上述の方法により三元複合体を調製した。
【0084】
【表1】
【0085】
実施例6:抗原性ペプチド/CpG/SPG三元複合体によるペプチド特異的免疫応答の評価
(1)実施例2で調製したOVAペプチド−dA40(S)/SPG複合体(5μg)、(2)OVAペプチド−dA40(S)/SPG複合体(5μg)及びCpG DNA(30μg)、(3)OVAペプチド−dA40(S)/SPG複合体(5μg)及びCpG DNA−dA40(S)/SPG複合体(OVAペプチド−dA40(S)の10%DMSO水溶液を用いない以外は、実施例5と同様の方法により調製:30μg)、(4)実施例5で調製したOVAペプチド−dA40(S)/CpG DNA−dA40(S)/SPG三元複合体(5μg)のいずれかを、マウス(C57BL/6マウス、雄性、7週齢)皮内に投与(1回)した。投与から1週間後に、マウスより脾細胞を採取後、96ウェルに播種し(1.0×10
6 cells/ウェル)、OVAペプチドで刺激(10μg/mL)し、抗原特異的なインターフェロン−γ(IFN−γ)が誘導されるかについて検討した。
【0086】
OVAペプチドによる脾細胞への刺激24時間後に、酵素結合免疫測定(ELISA)を用いて、培地中のIFN−γ量を定量した。結果を
図7に示す。実施例3に示したように、OVAペプチド−dA40(S)/SPG複合体のみではOVAペプチドに特異的なインターフェロン応答が誘導できないが、OVAペプチド−dA40(S)/SPG複合体及びCpG DNAを同時に投与すると、強いインターフェロン応答が誘導された。さらに、OVAペプチド−dA40(S)/CpG DNA−dA40(S)/SPG三元複合体の投与によっても、OVAペプチド−dA40(S)/SPG複合体及びCpG DNAを同時に投与した場合と同程度のインターフェロン誘導が確認された。興味深いことには、OVAペプチド−dA40(S)/SPG複合体及びCpG DNA−dA40(S)/SPG複合体を同時に投与した場合に、強いインターフェロン応答が誘導されることが確認された。これらの結果より、OVAペプチド−dA40(S)/CpG DNA−dA40(S)/SPG三元複合体の投与によっても、抗原提示細胞へのOVAペプチドの取り込み及びCpG DNAによるTLR9を介した細胞刺激のそれぞれの効果が発揮できていることがわかる。
【0087】
実施例7:抗原性ペプチド/CpG/SPG三元複合体によるペプチド特異的細胞傷害性T細胞の誘導能の評価
実施例6において、(1)OVAペプチド、(2)OVAペプチド及びCpG DNA、(3)OVAペプチド及びCpG DNA−dA40(S)/SPG複合体、(4)実施例5で調製したOVAペプチド−dA40(S)/CpG DNA−dA40(S)/SPG三元複合体のいずれかを皮内投与したマウスより採取し、OVAペプチド−dA40(S)/SPG複合体で刺激したマウス脾細胞を6日間培養し、抗体染色後、フローサイトメーターを用いて、OVAペプチドに特異的な細胞傷害性(CD8陽性)T細胞の割合を評価した。
【0088】
CD8陽性T細胞中のうち、OVAペプチドに特異的なCD8陽性T細胞の割合を
図8に示す。OVAペプチドのみ投与した場合(peptide)、OVAペプチド及びCpG DNAを同時投与した場合(peptide+CpG)と比較して、OVAペプチド−dA40(S)/SPG複合体及びCpG DNA−dA40(S)/SPG複合体を投与した場合(peptide+CpG/SPG)、或いはOVAペプチド−dA40(S)/CpG DNA−dA40(S)/SPG三元複合体を投与した場合(peptide/CpG/SPG)に、OVAペプチドに特異的なCD8陽性T細胞の割合を増大させることができた。
【0089】
実施例8:メラノーマ細胞特異的抗原タンパク質由来ペプチドに対する免疫応答(抗原性ペプチド/CpG/SPG三元複合体によるペプチド特異的免疫応答の評価)
(1)マウスメラノーマ細胞特異的抗原タンパク由来のアミノ酸配列(EGSRNQDWL(配列番号3))を有する抗原性ペプチド(gp100)を用いて実施例1、2に従い同様に調製したgp100ペプチド−dA40(S)/SPG複合体(5μg)及びCpG DNA−dA40(S)/SPG複合体(30μg)、(2)実施例5に従い同様に調製したgp100ペプチド−dA40(S)/CpG DNA−dA40(S)/SPG三元複合体(5μg)のいずれかを、マウス(C57BL/6マウス、雄性、7週齢)皮内に投与(1回)した。投与から1週間後に、マウスより脾細胞を採取後、96ウェルに播種し(1.0×10
6 cells/ウェル)、gp100ペプチドで刺激(10μg/mL)し、抗原特異的なインターフェロン−γ(IFN−γ)が誘導されるかについて検討した。
【0090】
gp100ペプチドによる脾細胞への刺激24時間後に、酵素結合免疫測定(ELISA)を用いて、培地中のIFN−γ量を定量した。結果を
図9に示す。実施例3に示したように、gp100ペプチド−dA40(S)/SPG複合体のみではgp100ペプチドに特異的なインターフェロン応答が誘導できなかった(data not shown)。しかし、gp100ペプチド−dA40(S)/SPG複合体及びCpG DNA−dA40(S)/SPG複合体を同時に投与すると、強いインターフェロン応答が誘導された。さらに、gp100ペプチド−dA40(S)/CpG DNA−dA40(S)/SPG三元複合体の投与によっても、同様にインターフェロン誘導が確認された。これらの結果より、OVAペプチド以外の抗原性ペプチドを含む抗原性ペプチド/CpG/SPG三元複合体をマウスに投与することによっても、ペプチド特異的な免疫応答が誘導されたことがわかる。
【0091】
実施例9:異なる抗原性ペプチドでの免疫応答
OVAペプチド以外の抗原性ペプチドを用いて、実施例5に記載の方法により、抗原性ペプチド−dA40(S)/CpG DNA−dA40(S)/SPG三元複合体を調製し、実施例6に記載の手順により、ペプチド特異的免疫応答の評価を行った。用いた抗原性ペプチドのアミノ酸配列及び実験結果(抗原性ペプチドに特異的なIFN−γの誘導の有無)を、下記の表2に示す。なお、No.2に示したアミノ酸配列(配列番号28)は、OVAペプチド(No.1)のランダム配列である。表2中の、No.1、3、4では、マウスより採取後、ウェルに播種した脾細胞の刺激に、三元複合体に含まれる抗原性ペプチドを用いたが、No.2については、アミノ酸組成は同一であるがアミノ酸配列の異なるOVAペプチドを用いた。また、表2のIFN応答の列中、「+」は、IFN−γの産生が観測されたことを示し、「−」は、IFN−γの誘導が観測されなかったことを示す。マウスに投与した三元複合体に用いた抗原性ペプチドと同一のアミノ酸配列を有するペプチドで脾細胞を刺激した場合(No.1、3、4、5)には、抗原性ペプチド特異的なIFN応答が観察されたのに対し、異なるアミノ酸配列を有するペプチドで脾細胞を刺激した場合(No.2)には、全くIFN産生が観測されなかった。これらの結果より、マウスに投与した三元複合体により、ペプチド特異的な免疫応答が誘導されたことがわかる。
【0092】
【表2】
【0093】
実施例10:SPGの主鎖又は側鎖上のグルコース残基への抗原性ペプチドの導入によるペプチド/β−1,3−グルカン複合体の調製(1)
アルキンとアジド化合物の「クリック反応」(フイスゲン反応)を利用したSPGの主鎖又は側鎖上のグルコース残基への抗原性ペプチドの導入を検討した。反応スキームを以下に示す。カルボニルジイミダゾール(CDI)とプロパルギルアミン(PA)をSPGのグルコース残基の6−位に存在する第1級アルコールと反応させ、生成するカルバメート結合を介して、SPGの主鎖又は側鎖グルコース残基上に位置選択的にアルキンを導入した(SPG−PA)。SPGに導入されたアルキン残基数のグルコース残基数に対する比が10〜20%であったことから、主鎖のグルコース残基周りの立体障害により、大部分が側鎖のグルコース残基上に導入されていると考えられる。このようにして得られたSPG誘導体を、胴触媒の存在下、C末端がアジド基で修飾された抗原性ペプチド(peptide(N3):ジーンデザイン(株)より購入。本実施例では、アジド修飾OVAペプチドを使用した。)と反応させ、クリック反応により、ペプチド/β−1,3−グルカン複合体を調製した。
【0094】
【化3】
【0095】
実施例11:SPGの主鎖又は側鎖上のグルコース残基への抗原性ペプチドの共有結合を介した導入によるペプチド/β−1,3−グルカン複合体の調製(2)
α,β−不飽和ケトンとチオールのマイケル
付加反応を利用したSPGの主鎖又は側鎖上のグルコース残基への抗原性ペプチドの導入を検討した。反応スキームを以下に示す。N,N−ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)の存在下、SPGの側鎖のグルコース残基の6−位に存在する第一級アルコールに対し、カルボニルジイミダゾール(CDI)と2−アミノエチルメタクリレート(AEMA)を反応させ、生成するカルバメート結合を介して、メタクリロイル基を導入した(SPG−AEMA)。その後、C末端にシステインを導入した抗原性ペプチド(peptide(−SH):ジーンデザイン(株)より購入。)を、トリス(2−カルボカイシエチル)ホスフィン塩酸塩(TCEP)の存在下、SPG−AEMAと反応させ、ペプチド/β−1,3−グルカン複合体を調製した。
【0096】
【化4】
【0097】
実施例12:共有結合を介して、β−1,3−グルカン骨格を有する多糖の側鎖上のグルコース残基に抗原性ペプチドが結合した、抗原性ペプチド/CpG/SPG三元複合体による抗原性ペプチド特異的免疫応答の評価
実施例10、11で調製したペプチド/β−1,3−グルカン複合体を、実施例2、5に記載の方法と同様の方法を用いて、CpG DNA−dA40(S)と複合化させ、抗原性ペプチド/CpG/SPG三元複合体を調製した。これを、C57BL/6マウス(雄性、7週齢)の皮内に1回投与(CpG DNA30μg相当量)した。投与から1週間後に、マウスより脾細胞を採取後、96ウェルに播種し(1.0×10
6 cells/ウェル)、OVAペプチドで刺激(10μg/mL)し、抗原特異的なインターフェロン−γ(IFN−γ)が誘導されるかについて検討した。用いた抗原性ペプチドのアミノ酸配列及び実験結果(抗原性ペプチドに特異的なIFN−γの誘導の有無)を、下記の表3に示す。なお、実施例9と同様、No.2に示したアミノ酸配列(配列番号28)は、OVAペプチド(No.1)のランダム配列である。表3中の、No.1、3、4では、マウスより採取後、ウェルに播種した脾細胞の刺激に、三元複合体に含まれる抗原性ペプチドを用いたが、No.2については、アミノ酸組成は同一であるがアミノ酸配列の異なるOVAペプチドを用いた。また、表3のIFN応答の列中、「+」は、IFN−γの産生が観測されたことを示し、「−」は、IFN−γの誘導が観測されなかったことを示す。実施例9の結果と同様、マウスに投与した三元複合体に用いた抗原性ペプチドと同一のアミノ酸配列を有するペプチドで脾細胞を刺激した場合(No.1、3、4)には、抗原性ペプチド特異的なIFN応答が観察されたのに対し、異なるアミノ酸配列を有するペプチドで脾細胞を刺激した場合(No.2)には、全くIFN産生が観測されなかった。これらの結果より、マウスに投与した三元複合体により、ペプチド特異的な免疫応答が誘導されたことがわかる。
【0098】
【表3】
【0099】
なお、本発明は、本発明の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施形態及び変形が可能とされるものである。また、上述した実施形態は、本発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。つまり、本発明の範囲は、実施形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。そして、特許請求の範囲内及びそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、本発明の範囲内とみなされる。
【0100】
本出願は、2014年2月6日に出願された日本国特許出願2014−21333号に基づくものであり、その明細書、特許請求の範囲、図面および要約書を含むものである。上記日本国特許出願における開示は、その全体が本明細書中に参照として含まれる。