特許第6383740号(P6383740)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6383740ペプチド/β−1,3−グルカン複合体及びそれを含む医薬組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6383740
(24)【登録日】2018年8月10日
(45)【発行日】2018年8月29日
(54)【発明の名称】ペプチド/β−1,3−グルカン複合体及びそれを含む医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   C07K 7/06 20060101AFI20180820BHJP
   C07K 7/08 20060101ALI20180820BHJP
   C12N 15/117 20100101ALI20180820BHJP
   C08B 37/00 20060101ALI20180820BHJP
   C07H 21/00 20060101ALI20180820BHJP
   C07H 21/04 20060101ALI20180820BHJP
   A61K 39/00 20060101ALI20180820BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20180820BHJP
   A61K 31/7125 20060101ALI20180820BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20180820BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20180820BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20180820BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20180820BHJP
【FI】
   C07K7/06ZNA
   C07K7/08
   C12N15/117 Z
   C08B37/00 C
   C07H21/00
   C07H21/04 Z
   A61K39/00 H
   A61K31/7088
   A61K31/7125
   A61P37/04
   A61P31/04
   A61P31/12
   A61P35/00
【請求項の数】14
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2015-561185(P2015-561185)
(86)(22)【出願日】2014年12月25日
(86)【国際出願番号】JP2014084374
(87)【国際公開番号】WO2015118789
(87)【国際公開日】20150813
【審査請求日】2016年8月1日
(31)【優先権主張番号】特願2014-21333(P2014-21333)
(32)【優先日】2014年2月6日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】503360115
【氏名又は名称】国立研究開発法人科学技術振興機構
(74)【代理人】
【識別番号】100139262
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 和昭
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 和朗
(72)【発明者】
【氏名】望月 慎一
(72)【発明者】
【氏名】森下 博美
【審査官】 高山 敏充
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第96/014873(WO,A2)
【文献】 特開2010−174107(JP,A)
【文献】 特表2001−503254(JP,A)
【文献】 Immunobiology of Proteins and Peptides VIII (Advances in Experimental Medicine and Biology),1995年,Vol.383,pp.13-22
【文献】 化学と工業,2007年10月,Vol.60, No.10,pp.976-980
【文献】 Pharmaceutical Research,2008年10月,Vol.25, No.10,pp.2216-2230
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K
PubMed
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/BIOSIS/WPIDS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
β−1,3−グルカン骨格を有する多糖と、
アミノ酸残基数が8〜12の抗原性を有するペプチドが、ポリヌクレオチド又はポリヌクレオチド誘導体と共有結合を介して結合したペプチド/ポリヌクレオチドコンジュゲートとを含み、
前記ペプチド/ポリヌクレオチドコンジュゲートのポリヌクレオチド又はポリヌクレオチド誘導体が、前記β−1,3−グルカン骨格を有する多糖と、水素結合を介して結合し、前記ポリヌクレオチド又はポリヌクレオチド誘導体の分子鎖1本と前記β−1,3−グルカン骨格を有する多糖の分子鎖2本とからなる三重螺旋構造を有する複合体を形成していることを特徴とするペプチド/β−1,3−グルカン複合体。
【請求項2】
前記β−1,3−グルカン骨格を有する多糖が、シゾフィラン、レンチナン、スクレログルカン及びカードランのいずれかであることを特徴とする請求項記載のペプチド/β−1,3−グルカン複合体。
【請求項3】
前記ポリヌクレオチド又はポリヌクレオチド誘導体がポリデオキシアデノシンであることを特徴とする請求項又は記載のペプチド/β−1,3−グルカン複合体。
【請求項4】
前記ポリヌクレオチド又はポリヌクレオチド誘導体が、DNA又はRNAのホスホジエステル結合の少なくとも一部がホスホロチオエート基で置換されたポリヌクレオチド誘導体であることを特徴とする請求項からのいずれか1項記載のペプチド/β−1,3−グルカン複合体。
【請求項5】
前記DNA又はRNAのホスホジエステル結合のうち少なくとも一部がホスホロチオエート基で置換されたポリヌクレオチド誘導体において、ホスホジエステル結合の50%以上がホスホロチオエート基で置換されていることを特徴とする請求項記載のペプチド/β−1,3−グルカン複合体。
【請求項6】
前記ペプチド/ポリヌクレオチドコンジュゲートを構成する前記抗原性を有するペプチドと前記ポリヌクレオチド又はポリヌクレオチド誘導体とが、アルキンとアジド誘導体との付加環化反応、マレイミド基とチオール基との反応、ペプチドC末端のシステイン残基のチオール基とチオール修飾核酸のチオール基との反応のいずれかにより生成した共有結合を介して結合していることを特徴とする請求項からのいずれか1項記載のペプチド/β−1,3−グルカン複合体。
【請求項7】
請求項1からのいずれか1項記載のペプチド/β−1,3−グルカン複合体において、
免疫賦活活性を有する部分塩基配列を有するポリヌクレオチド又はポリヌクレオチド誘導体を更に含み、
前記ポリヌクレオチド又はポリヌクレオチド誘導体が、前記β−1,3−グルカン骨格を有する多糖と、水素結合を介して結合し、前記ポリヌクレオチド又はポリヌクレオチド誘導体の分子鎖1本と前記β−1,3−グルカン骨格を有する多糖の分子鎖2本とからなる三重螺旋構造を有する複合体を形成していることを特徴とするペプチド/β−1,3−グルカン複合体。
【請求項8】
前記ポリヌクレオチド又はポリヌクレオチド誘導体の、前記三重螺旋構造を有する複合体を形成する部分がポリデオキシアデノシンであることを特徴とする請求項記載のペプチド/β−1,3−グルカン複合体。
【請求項9】
前記ポリヌクレオチド又はポリヌクレオチド誘導体の、前記三重螺旋構造を有する複合体を形成する部分が、DNA又はRNAのホスホジエステル結合の少なくとも一部がホスホロチオエート基で置換されたポリヌクレオチド誘導体であることを特徴とする請求項又は記載のペプチド/β−1,3−グルカン複合体。
【請求項10】
前記ポリヌクレオチド又はポリヌクレオチド誘導体の、前記三重螺旋構造を有する複合体を形成する部分において、DNA又はRNAのホスホジエステル結合の50%以上がホスホロチオエート基で置換されていることを特徴とする請求項記載のペプチド/β−1,3−グルカン複合体。
【請求項11】
免疫賦活活性を有する部分塩基配列を有するポリヌクレオチド又はポリヌクレオチド誘導体と、
請求項1からのいずれか1項記載のペプチド/β−1,3−グルカン複合体とを含む医薬組成物。
【請求項12】
前記ポリヌクレオチド又はポリヌクレオチド誘導体が、β−1,3−グルカン骨格を有する多糖と、水素結合を介して結合し、前記ポリヌクレオチド又はポリヌクレオチド誘導体の分子鎖1本と前記β−1,3−グルカン骨格を有する多糖の分子鎖2本とからなる三重螺旋構造を有するポリヌクレオチド/β−1,3−グルカン複合体を形成していることを特徴とする請求項11記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記ポリヌクレオチド/β−1,3−グルカン複合体を構成する前記β−1,3−グルカン骨格を有する多糖が、シゾフィラン、レンチナン、スクレログルカン及びカードランのいずれかであることを特徴とする請求項12記載の医薬組成物。
【請求項14】
請求項から10のいずれか1項記載のペプチド/β−1,3−グルカン複合体を含む医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なペプチド/β−1,3−グルカン複合体及びその製造方法並びにそれを含む医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ワクチンによる感染予防の基本的な原理は、人為的な擬似感染により、獲得免疫を誘導し、特定の病原体に対する抗体産生や細胞性免疫を誘導することにある。獲得免疫においては、免疫の「記憶」を担当するT細胞やB細胞が中心的な役割を果たし、DNAの再構成による抗体の可変領域の多様性が、無数の抗原への特異的な免疫反応を可能にしていることが知られている。一方、白血球、マクロファージ、樹状細胞等の食細胞が中心的な役割を果たしている自然免疫は、従来、病原体や異物を貪食する非特異的なプロセスであり、獲得免疫成立までの「一時しのぎ」としての役割のみを果たしていると考えられていたが、自然免疫の分子機構に関する研究の進展により、自然免疫においても、自己・非自己の特異的な認識が行われていることや、自然免疫が獲得免疫の成立に必須であることが明らかにされた。より具体的には、樹状細胞、マクロファージ、B細胞等の抗原提示細胞に存在するToll様受容体(TLR)ファミリーが、様々な病原体と反応し、サイトカインの産生を誘導し、ナイーブT細胞のTh1細胞への分化の促進、キラーT細胞の活性化等を通して、獲得免疫を誘導することが、最近の研究により明らかにされた。
【0003】
一連のTLRファミリーにより認識される病原体の構成成分は多岐にわたるが、その中の1つに、TLR9のリガンドである、CpG配列を有するDNA(CpG DNA)がある。CpG配列は、中心部にシトシン(C)とグアニン(G)が並ぶ6個の塩基を基本とする配列で、ほ乳類には少なく、微生物には多く見られる塩基配列である。また、ほ乳類においては、少数存在するCpG配列の殆どがメチル化を受けている。ほ乳類中に殆ど存在しない非メチル化CpG配列は、強力な免疫賦活活性を有している(例えば、非特許文献1〜3参照)。エンドサイトーシスにより細胞内に取り込まれたCpG DNAは、ファゴソーム様小胞体に存在するTLR9により認識され、Th1反応を強く誘導する。Th1反応は、Th2反応が優位なアレルギー反応を抑制すると共に、強い抗腫瘍活性を有する。そのため、CpG DNAは、感染予防に加え、アレルギー疾患、腫瘍性疾患に対するアジュバントとしても期待されている(例えば非特許文献4参照)。
【0004】
しかし、CpG DNAを免疫療法のアジュバントとして使用する場合、細胞質や血漿中のヌクレアーゼによる分解や、タンパク質との非特異的な結合を回避しつつ、いかに標的細胞の内部にCpG DNAを到達させるかが問題となる。
【0005】
本発明者らは、新規な遺伝子キャリアとしてβ−1,3−グルカン骨格を有する多糖(以下、「β−1,3−グルカン」と略称する場合がある。)に着目し、これまでに、β−1,3−グルカンが核酸医薬(アンチセンスDNA、CpG DNA)をはじめとする種々の核酸と新しいタイプの複合体を形成することを見出してきた(例えば、特許文献1、2、非特許文献5〜7参照)。
【0006】
天然では3重らせんで存在するβ−1,3−グルカンを、ジメチルスルホキシド(DMSO)等の非プロトン性極性有機溶媒、或いは0.1N以上のアルカリ溶液に溶解して1本鎖に解離させた後に、1本鎖の核酸を加え、溶媒を水或いは中性に戻すことによって、核酸1分子とβ−1,3−グルカン2分子とからなる3重らせん複合体が形成することを見出した。この場合、3重らせん複合体におけるβ−1,3−グルカン分子と核酸分子とは、主として水素結合と疎水性相互作用により分子間結合を形成しているものと考えられている(非特許文献8参照)。
【0007】
上述のように、核酸をβ−1,3−グルカンと複合化することにより、ヌクレアーゼによる核酸分子の加水分解や、血漿タンパク質と核酸との非特異的な結合等の、核酸分子と生体内タンパク質との望ましくない相互作用を抑制しつつ、核酸を細胞の内部に到達させることが可能になった。β−1,3−グルカンと核酸との複合体、さらには抗原性を有するタンパク質を含む3元複合体を利用して、CpG DNAの細胞内へのデリバリーに成功した(例えば、特許文献3、4、非特許文献9〜11参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第01/34207号
【特許文献2】国際公開第02/072152号
【特許文献3】特開2007−174107号公報
【特許文献4】特開2010−70307号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Bacterial CpG DNA Activates Immune Cells to Signal Infectious Danger, H. Wagner, Adv. Immunol., 73, 329-368 (1999).
【非特許文献2】CpG Motifs in Bacterial DNA and Their Immune Effects, M. Krieg, Annu. Rev. Immunol., 20, 709-760 (2002).
【非特許文献3】The discovery of immunostimulatory DNA sequence, S. Yamamoto, T. Yamamoto, and T. Tokunaga, Springer Seminars in Immunopathology, 22, 11-19 (2000).
【非特許文献4】「標準免疫学」第2版、医学書院、2002年、333頁
【非特許文献5】Molecular Recognition of Adenine, Cytosine, and Uracil in a Single-Stranded RNA by a Natural Polysaccharide: Schizophyllan. K. Sakurai and S. Shinkai, J. Am. Chem. Soc., 122, 4520-4521 (2000).
【非特許文献6】Polysaccharide-Polynucleotide Complexes. 2. Complementary Polynucleotide Mimic Behavior of the Natural Polysaccharide Schizophyllan in the Macromolecular Complex with Single-Stranded RNA and DNA. K. Sakurai, M. Mizu and S. Shinkai, Biomacromolecules, 2, 641-650 (2001).
【非特許文献7】Dectin-1 targeting delivery of TNF-α antisense ODNs complexed with β-1,3-glucan protects mice from LPS-induced hepatitis. S. Mochizuki and K. Sakurai, J. Control. Release, 151 (2011) 155-161.
【非特許文献8】Structural Analysis of the Curdlan/Poly (cytidylic acid) Complex with Semiempirical Molecular Orbital Calculations. K. Miyoshi, K. Uezu, K. Sakurai and S. Shinkai, Biomacromolecules, 6, 1540-1546 (2005).
【非特許文献9】A Polysaccharide Carrier for Immunostimulatory CpG DNAs to Enhance Cytokine Secretion, M. Mizu, K. Koumoto, T. Anada, T. Matsumoto, M. Numata, S. Shinkai, T. Nagasaki and K. Sakurai, J. Am. Chem. Soc., 126, 8372-8373 (2004).
【非特許文献10】Protection of Polynucleotides against Nuclease-mediated Hydrolysis by Complexation with Schizophyllan, M. Mizu, K. Koumoto, T. Kimura, K. Sakurai and S. Shinkai, Biomaterials, 25, 15, 3109-3116 (2004).
【非特許文献11】Synthesis and in Vitro Characterization of Antigen-Conjugated Polysaccharide as a CpG DNA Carrier, N. Shimada, K. J. Ishii, Y. Takeda, C. Coban, Y. Torii, S. Shinkai, S. Akira and K. Sakurai, Bioconjugate Chem., 17 1136-1140 (2006).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記従来の技術は、以下のような課題を有していた。例えば、非特許文献11記載のβ−1,3−グルカン/抗原性を有するタンパク質/CpG DNAの3元複合体の製造方法においては、過ヨウ素酸酸化により、β−1,3−グルカンの側鎖のグルコース残基上にホルミル基を生成させ、還元的アミノ化反応により、ホルミル基と抗原性を有するペプチド(以下、「抗原性ペプチド」と略称する場合がある。)のアミノ基とを反応させ、β−1,3−グルカンと抗原性ペプチドとが共有結合した複合体を形成するが、収率がきわめて低いという課題を有していた。かかる事情に鑑みて、例えば、特許文献4記載のβ−1,3−グルカン/抗原性タンパク質(抗原性ペプチド)/CpG DNAの3元複合体の製造方法においては、側鎖にホルミル基を有するβ−1,3−グルカンと抗原性ペプチドとを、アルカリ水溶液中で反応させると同時に中和を行なう、或いはアルカリ水溶液中で反応させて逐次中和を行なうことにより、β−1,3−グルカンの側鎖上のホルミル基と抗原性ペプチドのアミノ基との反応性及び収率を向上させている。しかしながら、ペプチドには複数のアミノ基が存在するため、反応点の制御が困難である。したがって、抗原性ペプチドの反応位置による免疫原性の違いや、β−1,3−グルカンとの反応生成物が複雑な混合物となることに起因する分離精製の困難性等の問題の発生が懸念される。また、水素結合による複合体形成を利用したβ−1,3−グルカンとDNAとの複合体の形成に比べ、β−1,3−グルカンと抗原性ペプチドの共有結合の形成に基づく複合体の形成は煩雑である。これらの点において、特許文献4記載のβ−1,3−グルカン/抗原性ペプチド/CpG DNAの3元複合体の製造方法は、生産性等の点で依然として課題を有している。
【0011】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、生産性に優れ、高い免疫賦活活性を有するペプチド/β−1,3−グルカン複合体及びその製造方法並びにそれを含む医薬組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の第の態様は、β−1,3−グルカン骨格を有する多糖と、アミノ酸残基数が8〜12の抗原性を有するペプチドが、ポリヌクレオチド又はポリヌクレオチド誘導体と共有結合を介して結合したペプチド/ポリヌクレオチドコンジュゲートとを含み、前記ペプチド/ポリヌクレオチドコンジュゲートのポリヌクレオチド又はポリヌクレオチド誘導体が、前記β−1,3−グルカン骨格を有する多糖と、水素結合を介して結合し、前記ポリヌクレオチド又はポリヌクレオチド誘導体の分子鎖1本と前記β−1,3−グルカン骨格を有する多糖の分子鎖2本とからなる三重螺旋構造を有する複合体を形成していることを特徴とするペプチド/β−1,3−グルカン複合体を提供することにより上記課題を解決するものである。
【0015】
本発明の第の態様に係るペプチド/β−1,3−グルカン複合体において、前記β−1,3−グルカン骨格を有する多糖が、シゾフィラン、レンチナン、スクレログルカン及びカードランのいずれかであることが好ましい。
【0016】
本発明の第の態様に係るペプチド/β−1,3−グルカン複合体において、前記ポリヌクレオチド又はポリヌクレオチド誘導体がポリデオキシアデノシンであってもよい。
【0017】
本発明の第の態様に係るペプチド/β−1,3−グルカン複合体において、前記ポリヌクレオチド又はポリヌクレオチド誘導体が、DNA又はRNAのホスホジエステル結合の少なくとも一部がホスホロチオエート基で置換されたポリヌクレオチド誘導体であることが好ましい。
【0018】
本発明の第の態様に係るペプチド/β−1,3−グルカン複合体において、ホスホジエステル結合の50%以上がホスホロチオエート基で置換されていてもよい。
【0019】
本発明の第の態様に係るペプチド/β−1,3−グルカン複合体において、前記ペプチド/ポリヌクレオチドコンジュゲートを構成する前記抗原性を有するペプチドと前記ポリヌクレオチド又はポリヌクレオチド誘導体とが、アルキンとアジド誘導体との付加環化反応、マレイミド基とチオール基との反応、ペプチドC末端のシステイン残基のチオール基とチオール修飾核酸のチオール基との反応のいずれかにより生成した共有結合を介して結合していてもよい。
【0022】
本発明の第の態様は、本発明の第の態様に係るペプチド/β−1,3−グルカン複合体において、免疫賦活活性を有する部分塩基配列を有するポリヌクレオチド又はポリヌクレオチド誘導体を更に含み、前記ポリヌクレオチド又はポリヌクレオチド誘導体が、前記β−1,3−グルカン骨格を有する多糖と、水素結合を介して結合し、前記ポリヌクレオチド又はポリヌクレオチド誘導体の分子鎖1本と前記β−1,3−グルカン骨格を有する多糖の分子鎖2本とからなる三重螺旋構造を有する複合体を形成していることを特徴とするペプチド/β−1,3−グルカン複合体を提供することにより上記課題を解決するものである。
【0023】
本発明の第の態様に係るペプチド/β−1,3−グルカン複合体において、前記ポリヌクレオチド又はポリヌクレオチド誘導体の、前記三重螺旋構造を有する複合体を形成する部分がポリデオキシアデノシンであることが好ましい。
【0024】
本発明の第の態様に係るペプチド/β−1,3−グルカン複合体において、前記ポリヌクレオチド又はポリヌクレオチド誘導体の、前記三重螺旋構造を有する複合体を形成する部分が、DNA又はRNAのホスホジエステル結合の少なくとも一部がホスホロチオエート基で置換されたポリヌクレオチド誘導体であることが好ましい。
【0025】
本発明の第の態様に係るペプチド/β−1,3−グルカン複合体において、前記ポリヌクレオチド又はポリヌクレオチド誘導体の、前記三重螺旋構造を有する複合体を形成する部分において、DNA又はRNAのホスホジエステル結合の50%以上がホスホロチオエート基で置換されていてもよい。
【0027】
本発明の第の態様は、免疫賦活活性を有する部分塩基配列を有するポリヌクレオチド又はポリヌクレオチド誘導体と、本発明の第の態様に係るペプチド/β−1,3−グルカン複合体とを含む医薬組成物を提供することにより上記課題を解決するものである。
【0028】
本発明の第の態様に係る医薬組成物において、前記ポリヌクレオチド又はポリヌクレオチド誘導体が、β−1,3−グルカン骨格を有する多糖と、水素結合を介して結合し、前記ポリヌクレオチド又はポリヌクレオチド誘導体の分子鎖1本と前記β−1,3−グルカン骨格を有する多糖の分子鎖2本とからなる三重螺旋構造を有するポリヌクレオチド/β−1,3−グルカン複合体を形成していてもよい。
【0029】
本発明の第の態様に係る医薬組成物において、前記ポリヌクレオチド/β−1,3−グルカン複合体を構成する前記β−1,3−グルカン骨格を有する多糖が、シゾフィラン、レンチナン、スクレログルカン及びカードランのいずれかであることが好ましい。
【0030】
本発明の第の態様は、本発明の第の態様に係るペプチド/β−1,3−グルカン複合体を含む医薬組成物を提供することにより上記課題を解決するものである。
【発明の効果】
【0031】
本発明によると、以下のような有利な効果が得られる。
(1)β−1,3−グルカン及び抗原性ペプチドの種類、分子量、組み合わせ等に応じて、β−1,3−グルカンと抗原性ペプチドとの結合様式を、β−1,3−グルカンと抗原性ペプチドとの共有結合、β−1,3−グルカンとペプチド/ポリヌクレオチドコンジュゲートのポリヌクレオチド又はポリヌクレオチド誘導体との間の水素結合から選択できるので、広範なβ−1,3−グルカンと抗原性ペプチドの組み合わせについて、ペプチド/β−1,3−グルカン複合体を得ることができる。
【0032】
(2)β−1,3−グルカンと抗原性ペプチドとの共有結合を生成させる反応として、アルキンとアジド誘導体との付加環化反応、マレイミド基とチオール基との反応(マイケル付加反応)のいずれかを用いることにより、水を含む極性溶媒中でも迅速かつ高効率に反応を進行させることができる。したがって、短時間に高収率でペプチド/β−1,3−グルカン複合体が得られ、単離精製に要する手間も軽減することが可能になる。したがって、本発明のペプチド/β−1,3−グルカン複合体は、生産性に優れており、低コストで製造することができる。
【0033】
(3)本発明のペプチド/β−1,3−グルカン複合体を用いることにより、抗原性ペプチドを単独で使用した場合に比べ、抗原性ペプチドに特異的な免疫応答の誘導をより効果的に行うことができる。
【0034】
(4)本発明のペプチド/β−1,3−グルカン複合体を、免疫賦活活性を有する部分塩基配列を有するポリヌクレオチド又はポリヌクレオチド誘導体と組み合わせて用いるか、免疫賦活活性を有する部分塩基配列を有するポリヌクレオチド又はポリヌクレオチド誘導体を更に含み、ポリヌクレオチド又はポリヌクレオチド誘導体が、β−1,3−グルカンと水素結合を介して結合し、ポリヌクレオチド又はポリヌクレオチド誘導体の分子鎖1本とβ−1,3−グルカンの分子鎖2本とからなる三重螺旋構造を有する複合体を形成しているペプチド/β−1,3−グルカン複合体を用いることにより、より効果的に免疫応答の誘導を行うことができる。
【0035】
(5)本発明のペプチド/β−1,3−グルカン複合体を含む医薬組成物は、抗原性ペプチドを単独で用いた場合よりも、広範な抗原性ペプチドについて、特異的な免疫応答をより効果的に誘導できる。そのため、ワクチンや免疫賦活剤としての応用が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】実施例1における、dA40(S)(alkyne)とOVA(N3)の化学構造である。
図2】実施例1における、抗原性ペプチド/ポリヌクレオチドコンジュゲート体作製の結果を示すHPLCクロマトグラムである。
図3】実施例2における、抗原性ペプチド−dA40(S)とSPGの複合化の結果を示すゲル電気泳動写真である。
図4】実施例3における、各サンプルで免疫誘導したマウスの脾臓細胞を抗原性ペプチドで刺激することで産生された、抗原性ペプチド特異的IFN−γの産生量を定量した結果を示すグラフである。
図5】実施例4における、各サンプルで免疫誘導したマウスの脾臓細胞を抗原性ペプチドで刺激し増殖した、抗原性ペプチド特異的細胞傷害性T細胞の割合を示すグラフである。
図6】実施例5における、ペプチド/CpG/SPG三元複合体の作製の結果を示すゲル電気泳動写真である。
図7】実施例6における、各サンプルで免疫誘導したマウスの脾臓細胞を抗原性ペプチドで刺激することで産生された、抗原性ペプチド特異的IFN−γの産生量を定量した結果を示すグラフである。
図8】実施例7における、各サンプルで免疫誘導したマウスの脾臓細胞を抗原性ペプチドで刺激し増殖した、抗原性ペプチド特異的細胞傷害性T細胞の割合を示すグラフである。
図9】実施例8における、各サンプルで免疫誘導したマウスの脾臓細胞を抗原性ペプチドで刺激することで産生された、抗原性ペプチド特異的IFN−γの産生量を定量した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
本発明の第1の実施の形態に係るペプチド/β−1,3−グルカン複合体は、β−1,3−グルカン骨格を有する多糖(β−1,3−グルカン)と、抗原性を有するペプチド(抗原性ペプチド)が、ポリヌクレオチド又はポリヌクレオチド誘導体と共有結合を介して結合したペプチド/ポリヌクレオチドコンジュゲートとを含んでいる。ペプチド/ポリヌクレオチドコンジュゲートのポリヌクレオチド又はポリヌクレオチド誘導体は、β−1,3−グルカンと、水素結合を介して結合し、ポリヌクレオチド又はポリヌクレオチド誘導体の分子鎖1本と前記β−1,3−グルカンの分子鎖2本とからなる三重螺旋構造を有する複合体を形成している。
【0038】
(1)β−1,3−グルカン
β−1,3−グルカンは、ポリヌクレオチド又はポリヌクレオチド誘導体の分子鎖1本とβ−1,3−グルカンの分子鎖2本とからなる三重螺旋構造を有する複合体を形成することができるものであれば、任意の種類、分子量のものを特に制限なく用いることができる。β−1,3−グルカン骨格を有する多糖は、poly(C)等の核酸と近似するヘリックスパラメータを有しており(例えば、高橋、小畠、鈴木、Prog. Polym. Phys. Jpn.27巻、767ページ、及び「Conformation of Carbohydrates」、Sharwood academic publisher、1998年を参照)、核酸塩基と水素結合可能な水酸基を有しているため、核酸と相互作用し、三重らせん構造を有する安定な複合体を形成することが知られている。β−1,3−グルカンの具体例としては、シゾフィラン、カードラン、レンチナン、パキマン(pachyman)、グリホラン、スクレログルカン等が挙げられる。これらは、主鎖がβ−結合(β−D−結合)により結合したグルカンで、側鎖の頻度が異なる天然の多糖である。これらのβ−1,3−グルカンは、化学修飾等の処理を行うことなくそのまま用いてもよいが、通常の過ヨウ素酸化法を用いてその側鎖を適当に間引くことにより、その溶解性を制御することもできる。
【0039】
β−1,3−グルカンの分子量は、ペプチド/ヌクレオチドコンジュゲートに含まれるポリヌクレオチド又はポリヌクレオチド誘導体の塩基配列及び塩基長等に応じて適宜調節される。しかし、分子量が小さいと、いわゆるクラスター効果(高分子系の協同現象)が発現し難くなり好ましくない。通常は、核酸と複合体を形成しうるβ−1,3−グルカンの重量平均分子量(分子鎖1本あたり)としては、核酸塩基の種類や高次構造によって異なるが、好ましくは2000以上、さらに好ましくは4000以上、より好ましくは6000以上である。また、ポリヌクレオチド上の核酸塩基と水素結合を形成する水酸基の数は、通常は、5個以上、好ましくは、8個以上、さらに好ましくは、10個以上必要である。
なお、β−1,3−グルカンの重量平均分子量は、光散乱法、沈降速度法(超遠心法)等の任意の公知の方法を用いて決定することができる。
【0040】
β−1,3−グルカンは、一般に菌類や真性細菌によって産生されるため、これらの微生物を培養後、菌体をホモゲナイズし、細胞溶出分や不溶性残渣等の不純物から超遠心法等の方法により単離することにより得ることができる。一般に、このようにして得られるβ−1,3−グルカンは高分子量(重量平均分子量が数十万程度)で三重らせん構造を取る。必要に応じて低分子化して用いてもよい。低分子化は、β−1,3−グルカンの種類や所望の分子量に応じて、酵素分解、酸加水分解等から適宜適当な方法及び条件を選択して行う。例えば、シゾフィランの場合には、80%DMSO−硫酸による加水分解等により、種々の分子量を有する一本鎖シゾフィランを得ることができる。
【0041】
(2)ペプチド/ポリヌクレオチドコンジュゲート
ペプチド/ポリヌクレオチドコンジュゲートは、抗原性ペプチドと、ポリヌクレオチド又はポリヌクレオチド誘導体とが、共有結合を介して結合した複合体である。抗原性ペプチドに結合させたポリヌクレオチド又はポリヌクレオチド誘導体は、上述のとおり、β−1,3−グルカンとの間で三重螺旋構造を有する複合体を形成させることにより、抗原性ペプチドとβ−1,3−グルカンとを結合させる役割を果たす。
【0042】
「抗原性を有するペプチド」としては、抗原性を有するもの、すなわち、生体の免疫系において異物であると認識され、特異的な抗体産生を引き起こす(免疫応答を誘導する)ものであれば、任意のアミノ酸配列及びアミノ酸残基数を有するものを、特に制限なく用いることができる。本実施の形態に係るペプチド/β−1,3−グルカン複合体の製造に用いられる抗原性ペプチドとしては、食物アレルギー等のアレルギーの原因となるタンパク質、細菌、ウィルス等の病原体、腫瘍細胞等を起源とするタンパク質のうち、エピトープとして作用しうる部分アミノ酸配列を有するものが挙げられる。抗原性ペプチドを構成するアミノ酸残基数は、エピトープとして作用しうる限りにおいて特に制限されないが、多くの場合、5〜30の範囲内であり、大部分は、8〜17程度の範囲内にある。
【0043】
抗原性ペプチドは、起源となるタンパク質の酵素分解、ペプチド合成等の任意の公知の方法を用いて得ることができる。また、抗原性ペプチドのアミノ酸配列は、ペプチドアレイを用いたエピトープ解析等の任意の公知の方法を用いて決定することができる。
【0044】
抗原性ペプチドに結合させるポリヌクレオチド又はポリヌクレオチド誘導体は、上述のとおり、β−1,3−グルカンとの間で三重螺旋構造を有する複合体を形成できる限りにおいて、任意の塩基配列及び塩基数を有するポリヌクレオチド又はその誘導体を特に制限なく用いることができる。ポリヌクレオチドの具体例としては、β−1,3−グルカンと結合能が高いポリリボアデニル酸(polyA)、ポリリボシチジル酸(polyC)、ポリデオキシリボアデニル酸(poly(dA))、ポリデオキシリボチミジル酸(poly(dT))が挙げられる。ポリヌクレオチドの塩基数は、上述のとおり、β−1,3−グルカンとの間で三重螺旋構造を有する複合体を形成できる限りにおいて特に制限されないが、複合体形成能を向上させるために、ポリヌクレオチドは、β−1,3−グルカンと結合能が高いポリリボアデニル酸(polyA)、ポリリボシチジル酸(polyC)、ポリデオキシリボアデニル酸(poly(dA))、ポリデオキシリボチミジル酸(poly(dT))のいずれかの繰り返し配列を有していることが好ましい。好ましい繰り返し配列を構成する塩基及びヌクレオチドの種類並びに塩基数は、リボヌクレオチド部分の長さ、用いられるβ−1,3−グルカンの種類および分子量等に応じて適宜決定される。例えば、β−1,3−グルカンとしてシゾフィランが用いられる場合には、ポリデオキシヌクレオチド部分が、繰り返し配列としてpoly(dA)配列を有していることが好ましい。繰り返し配列の長さは、塩基数が少ないと、β−1,3−グルカンとの水素結合による三重螺旋構造の形成が困難であるため、塩基数は、10以上である必要があり、20〜80であることが好ましく、30〜80であることが更に好ましい。
【0045】
ポリヌクレオチドは、生体内でヌクレアーゼによる分解を受けやすいので、生体内での安定性を向上させるために、ポリヌクレオチドの代わりにポリヌクレオチド誘導体を用いてもよい。ポリヌクレオチド誘導体の例としては、リボヌクレオチドの2’位のヒドロキシル基の全部又は一部がフッ素又はメトキシ基で置換されているもの、ポリリボヌクレオチド(RNA)又はポリデオキシリボヌクレオチド(DNA)のホスホジエステル基の全部又は一部がホスホロチオエート基で置換されているもの等が挙げられる。ポリリボヌクレオチド又はポリデオキシリボヌクレオチドのホスホジエステル基の一部がホスホロチオエート基で置換されている場合、ホスホジエステル結合の50%以上がホスホロチオエート基で置換されていることが好ましい。ホスホロチオエート基で置換されるホスホジエステル基の位置は特に制限されず、連続した複数のホスホジエステル基が置換されていてもよく、或いはホスホロチオエート基が互いに隣り合わないように置換されていてもよい。
【0046】
ポリヌクレオチド又はポリヌクレオチド誘導体は、抗原性ペプチドのN末端、C末端、或いは側鎖のいずれに結合していてもよい。両者は、適当な反応性官能基同士の反応により直接結合していてもよく、適当なスペーサーを介して結合していてもよい。反応性官能基としては、抗原性ペプチド及びポリヌクレオチド又はポリヌクレオチド誘導体に存在する官能基をそのまま、或いは化学修飾により活性化したものを用いてもよいが、適当な反応性官能基を導入してもよい。また、ポリヌクレオチド又はポリヌクレオチド誘導体は、5’末端側が抗原性ペプチドと結合していてもよく、3’末端側が結合していてもよい。
【0047】
好ましいペプチド/ポリヌクレオチドコンジュゲートの一例は、下記の式(A)に示すように、ペプチドのC末端側に、ホスホロチオエート化ポリデオキシアデニル酸(polyAのホスホジエステル基がホスホロチオエート基に置換されたポリヌクレオチド誘導体)の5’末端側が結合した構造を有している。
[抗原性ペプチド]−X−(dA(S)) (A)
【0048】
なお、式(A)において、dA(S)は、ホスホロチオエート化デオキシアデニル酸を表し、xは、例えば20以上80以下の整数である。Xは、スペーサー又は反応性官能基同士の反応により形成された官能基を表す。スペーサーの一例としては、アルキル基、ポリエチレングリコール(PEG)等が挙げられる。反応性官能基の組み合わせの例としては、例えば、バイオチップ表面への生体分子の固定に用いられる反応性官能基同士の組み合わせが挙げられ、より具体的には、下記に示すものが挙げられる。
【0049】
(a)アルキンとアジド化合物
アルキンとアジド化合物(アジ化物)は、下記に示すような付加環化反応(フイスゲン反応)により、1,2,3−トリアゾール環を形成する。両者は、生体分子を含む多くの有機化合物に導入可能な安定な官能基であり、水を含む溶媒中でも迅速かつほぼ定量的に反応し、殆ど副反応を伴わず、余分な廃棄物を生成しないため、いわゆる「クリックケミストリー」の中心的な反応として、生化学の分野で広く用いられている。アルキン誘導体及びアジド基は、任意の公知の方法を用いて、抗原性ペプチド又はポリヌクレオチド若しくはポリヌクレオチド誘導体に導入することができる。アルキン誘導体としては、プロパルギルアルコール、プロパルギルアミン等の反応性官能基を有するものが容易に入手でき、これらをカルボキシル基やヒドロキシル基等の反応性官能基と直接反応させ、或いはカルボニルジイミダゾール等と共に反応させ、生成するアミド結合、エステル結合、ウレタン結合等を介してアルキン誘導体を導入することができる。アジド基についても、任意の公知の方法を用いて、抗原性ペプチド又はポリヌクレオチド若しくはポリヌクレオチド誘導体に導入することができる。なお、フイスゲン反応は銅触媒の存在下で行われるが、抗原性ペプチド及びリン酸ジエステル基がホスホロチオエート基等の含硫黄官能基で置換されたポリヌクレオチド誘導体には、銅イオンに配位する硫黄原子が存在するため、銅の触媒活性が低下するおそれがある。反応率を向上させるために過剰量の銅を添加することが好ましい。
【0050】
【化1】
【0051】
(b)マレイミド又はビニルスルホンとチオール基
電子求引性のカルボニル基又はスルホン基に隣接する二重結合を有するマレイミド又はビニルスルホンは、中性付近のpHで、下記に示すように、チオール基との付加反応(マイケル付加反応)により、安定なチオエーテル誘導体を生成する。適当なスペーサーを有するマレイミド及びビニルスルホン誘導体が市販されているため、抗原性ペプチド又はポリヌクレオチド若しくはポリヌクレオチド誘導体にこれらの官能基を導入することは容易である。抗原性ペプチドにチオール基を導入する場合、システインを含む抗原性ペプチドの場合には、システイン残基側鎖のチオール基を利用できる。ただし、システインは、存在比が低いアミノ酸であるため、抗原性ペプチドのC末端側にシステインを導入したものを用いる。チオール基を含むポリヌクレオチド又はポリヌクレオチド誘導体としては、これらの5’末端のヒドロキシル基をチオール基に変換したチオール化ポリヌクレオチドが用いられる。
【0052】
【化2】
【0053】
(c)システイン側鎖のチオール基とチオール化ポリヌクレオチドのチオール基
上述のとおり、C末端側にシステインを導入した抗原性ペプチドのシステイン残基側鎖のチオール基と、チオール化ポリヌクレオチドのチオール基とを反応させ、ジスルフィド基を形成させる。ジスルフィド結合は、還元剤の存在下で切断されるため、上両者に比べ、安定性の点で劣る。
【0054】
(3)ペプチド/β−1,3−グルカン複合体の製造
シゾフィラン等のβ−1,3−グルカンは、通常、水中で三重らせん構造を呈している。したがって、ポリヌクレオチド又はポリヌクレオチド誘導体と複合体を形成するためには、DMSOのような溶媒に溶解して分子間水素結合及び疎水性相互作用による会合状態を解いて一本鎖にする。これにポリヌクレオチドを含有する水溶液(又はアルコール等の極性溶媒の溶液)を添加してゆくと、溶媒の極性の増大に伴い、疎水性相互作用によりポリヌクレオチドとβ−1,3−グルカンとが会合し、ポリヌクレオチドの分子鎖を取り込みながら分子内及び分子間でポリヌクレオチドと多糖との会合体が形成される。その結果、1分子のポリヌクレオチド又はポリヌクレオチド誘導体と2分子のβ−1,3−グルカン分子とからなる三重螺旋構造を有する複合体が形成される。複合体の形成は、例えば、CD(円偏光二色性)スペクトルを測定することにより、コンホメーション変化を調べることによって確認することができる。
【0055】
本発明の第2の実施の形態に係るペプチド/β−1,3−グルカン複合体は、β−1,3−グルカン骨格を有する多糖と、アルキンとアジド誘導体との付加環化反応、マレイミド基又はビニルスルホン基とチオール基との反応のいずれかにより生成した共有結合を介して、前β−1,3−グルカン骨格を有する多糖の主鎖又は側鎖上のグルコース残基に結合した抗原性を有するペプチドとを含んでいる。
【0056】
本実施の形態に係るペプチド/β−1,3−グルカン複合体の製造に用いられる抗原性ペプチド、β−1,3−グルカンについては、本発明の第1の実施の形態に係るペプチド/β−1,3−グルカン複合体の製造に用いられるものと同様であるため、詳しい説明を省略する。β−1,3−グルカンと抗原性ペプチドは、アルキンとアジド誘導体との付加環化反応、マレイミド基又はビニルスルホン基とチオール基との反応のいずれかにより生成した共有結合を介して結合している。抗原性ペプチドは、β−1,3−グルカン分子の主鎖及び側鎖のグルコース残基のどちらに結合していてもよいが、立体障害を考慮すると、側鎖のグルコース残基上に結合していることが好ましい。また、抗原性ペプチドは、N末端側及びC末端側のどちらで結合していてもよく、或いは側鎖で結合していてもよいが、抗原提示細胞との接触時の立体障害を考慮すると、N末端側又はC末端側でβ−1,3−グルカンに結合していることが好ましい。β−1,3−グルカン及び抗原性ペプチドへのアルキン誘導体及びアジド基の導入については、本発明の第1の実施の形態に係るペプチド/β−1,3−グルカン複合体の製造におけるペプチド/ヌクレオチドコンジュゲートの場合と同様に、任意の公知の方法を用いて行うことができる。
【0057】
本発明の第3の実施の形態に係るペプチド/β−1,3−グルカン複合体は、上述の本発明の第1又は第2の実施の形態に係るペプチド/β−1,3−グルカン複合体において、免疫賦活活性を有する部分塩基配列を有するポリヌクレオチド又はポリヌクレオチド誘導体を更に含み、ポリヌクレオチド又はポリヌクレオチド誘導体が、β−1,3−グルカンと、水素結合を介して結合し、ポリヌクレオチド又はポリヌクレオチド誘導体の分子鎖1本とβ−1,3−グルカンの分子鎖2本とからなる三重螺旋構造を有する複合体(抗原性ペプチド、β−1,3−グルカン、ポリヌクレオチド又はポリヌクレオチド誘導体を含む三元複合体)を形成している。
【0058】
本実施の形態に係るペプチド/β−1,3−グルカン複合体の製造に用いられる抗原性ペプチド、β−1,3−グルカン、ポリヌクレオチド又はポリヌクレオチド誘導体中の、β−1,3−グルカンと水素結合を介して結合する部分については、本発明の第1、第2の実施の形態に係るペプチド/β−1,3−グルカン複合体の製造に用いられるものと同様であるため、詳しい説明を省略する。
【0059】
ポリヌクレオチド又はポリヌクレオチド誘導体中の、免疫賦活活性を有する部分塩基配列の具体例としては、TLR9による認識を介して、自然免疫と獲得免疫の「橋渡し」をすることで免疫を活性化する、バクテリアやウィルスに由来する非メチル化CpG DNA、TLR3による認識を介して、自然免疫と獲得免疫の「橋渡し」をすることで免疫を活性化するウィルス由来の2本鎖RNA、RIG−I様受容体(RLR)による認識を介して免疫を活性化するウィルスゲノムRNAや人工RNA等が挙げられる。
【0060】
上述した免疫賦活活性を有する部分塩基配列を有するRNA又はDNAと、β−1,3−グルカンと水素結合を介して結合する部分塩基配列を有するポリヌクレオチド又はポリヌクレオチド誘導体とのハイブリッドは、任意の公知の方法を用いて入手又は合成できる。なお、ポリヌクレオチド又はポリヌクレオチド誘導体が、DNAの3’末端側にRNAの5’末端側が結合したキメラ核酸である場合、RNAとDNAの間のホスホジエステル結合が、特に分解を受けやすくなるため、DNAと結合したRNAの5’末端側ヌクレオチドにおける2’位のヒドロキシル基をメトキシ基又はフルオロ基で置換し、かつ/又はDNAと結合した最初のリボヌクレオチドの3’位と、それに隣接するRNAの5’位との間のホスホジエステル基をホスホロチオエート基で置換する等の誘導体化を行い、加水分解に対する耐性を向上させておくことが好ましい。
【0061】
本実施の形態に係るペプチド/β−1,3−グルカン複合体は、下記のいずれかの方法により製造される。
(1)上述のβ−1,3−グルカン、ペプチド/ヌクレオチドコンジュゲート及びポリヌクレオチド又はポリヌクレオチド誘導体を、本発明の第1の実施の形態に係るペプチド/β−1,3−グルカン複合体の製造法と同様の方法を用いて複合化させる。
(2)本発明の第2の実施の形態に係るペプチド/β−1,3−グルカン複合体とポリヌクレオチド又はポリヌクレオチド誘導体を、本発明の第1の実施の形態に係るペプチド/β−1,3−グルカン複合体の製造法と同様の方法を用いて複合化させる。
【0062】
本発明の第4の実施の形態に係る医薬組成物(以下、「医薬組成物」と略称する。)は、免疫賦活活性を有する部分塩基配列を有するポリヌクレオチド又はポリヌクレオチド誘導体と、β−1,3−グルカン骨格とが、水素結合を介して結合することにより形成され、ポリヌクレオチド又はポリヌクレオチド誘導体の分子鎖1本と前記β−1,3−グルカン骨格を有する多糖の分子鎖2本とからなる三重螺旋構造を有するポリヌクレオチド/β−1,3−グルカン複合体と、本発明の第1又は第2の実施の形態に係るペプチド/β−1,3−グルカン複合体、或いは本発明の第3の実施の形態に係るペプチド/β−1,3−グルカン複合体を含んでいる。
【0063】
ポリヌクレオチド/β−1,3−グルカン複合体は、ペプチド/ヌクレオチドコンジュゲートの代わりにヌクレオチド又はポリヌクレオチド誘導体を用いる以外は、本発明の第1の実施の形態に係るペプチド/β−1,3−グルカン複合体と同様の方法を用いて製造される。
【0064】
医薬組成物の製造には、有効成分としてのペプチド/β−1,3−グルカン複合体及びポリヌクレオチド/β−1,3−グルカン複合体に加え、任意の公知の成分(医薬用途に許容される任意の担体、賦形剤及び添加物)及び製剤方法を用いることができる。例えば、医薬組成物は、錠剤、座剤、カプセル剤、シロップ剤、ナノゲル等のマイクロカプセル剤、滅菌液剤、懸濁液剤等の注射剤、エアゾール剤、スプレー剤等の形態を取ることができる。
【0065】
医薬組成物は、ヒトまたは温血動物(マウス、ラット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ニワトリ、ネコ、イヌ、サル等)に対し、経口及び非経口経路のいずれによっても投与可能である。非経口投与経路としては、皮下、皮内及び筋中注射、腹腔内投与、点滴、鼻粘膜や咽頭部への噴霧等が挙げられる。
【0066】
活性成分であるペプチド/β−1,3−グルカン複合体及びポリヌクレオチド/β−1,3−グルカン複合体の用量は、活性、治療対象となる疾患、投与対象となる動物の種類、体重、性別、年齢、疾患の重篤度、投与方法等に応じて異なる。体重60kgの成人を例に取ると、経口投与の場合、1日当たりの用量は通常約0.1〜約100mg、好ましくは約1.0〜約50mg、より好ましくは約1.0〜約20mgであり、非経口投与の場合、1日当たりの用量は通常約0.01〜約30mg、好ましくは約0.1〜約20mg、より好ましくは約0.1〜約10mgである。他の動物に投与する場合には、上記用量を単位体重当たりの用量に換算後、投与対象となる動物の体重を乗じて得られた用量を用いる。
【0067】
医薬組成物は、免疫を活性化することによる細菌、ウィルス等の病原体の感染に起因する感染症、ガン等の腫瘍の治療及び予防のためのワクチン等として用いることができる。
【実施例】
【0068】
次に、本発明の作用効果を確認するために行った実施例について説明する。
【0069】
実施例1:抗原性ペプチド/ポリヌクレオチドコンジュゲートの作製
本実施例において、デオキシアデニン40量体中のリン酸ジエステル結合が全てホスホロチオエート結合に置換された構造を有するポリヌクレオチド誘導体(以下、「dA40(S)」という。)の5’側にアルキンを導入したポリヌクレオチド誘導体(以下、「dA40(S)(alkyne)」という。)(株式会社 ジーンデザイン社より購入)とオボアルブミン(OVA)由来の抗原性ペプチド(アミノ酸配列:SIINFEKL(配列番号1))のC末端にアジド基を導入した抗原性ペプチド(以下、「OVA(N3)」)(株式会社 ジーンデザイン社より購入)との抗原性ペプチド/ポリヌクレオチドコンジュゲート体(以下、「OVAペプチド−dA40(S)」)の作製について検討を行った。化学構造を図1にそれぞれ示す。
【0070】
OVA(N3)(最終濃度:10μM〜800μM、溶媒:水+DMSO)、dA40(S)(alkyne)(最終濃度:10μM、溶媒:水)、硫酸銅(II)五水和物(最終濃度:1.5mM、溶媒:水)、アスコルビン酸ナトリウム(最終濃度:3.0mM、溶媒:水)、(トリス(1−ベンジル−1H−1,2,3−トリアゾール−4−イル)メチル)アミン(最終濃度:0.6mM、溶媒:DMSO)となるように混合し、室温で1時間、銅触媒を用いたクリックケミストリーを行った。反応後、キレート剤であるpH7.4のエチレンジアミン四酢酸(EDTA)溶液(最終濃度:20mM以上)でサンプル溶液を希釈した後、HPLC測定を行った。dA40(S)とHPLCカラムの相互作用が強力で溶出されにくいため、EDTAを添加することでその相互作用を弱め、溶出されやすいようにした。
【0071】
HPLC測定では、カラムとしてInertsil ODS−3(ジーエルサイエンス社)、溶離液として0.1Mトリエチルアミン−酢酸(TEAA)バッファー(pH7.0)とアセトニトリル、検出器としてダイオードアレイを用い、260nmでのdA40(S)(alkyne)のUV吸収変化を追跡した。結果を図2に示す。dA40(S)(alkyne)のピークがペプチドを加えることで、17分付近から20分付近へペプチド量依存的にシフトしていることが確認された。逆相カラムを用いた測定において、溶出時間が遅くなることは分子がより疎水的になったことを示唆する。この結果から、OVAペプチド−dA40(S)が生成したことがわかった。
【0072】
実施例2:抗原性ペプチド/ポリヌクレオチドコンジュゲートとβ−1,3−グルカン骨格を有する多糖の複合化
本実施例において、β−1,3−グルカン骨格を有する多糖として用いたシゾフィラン(SPG)は、特開2010−174107号公報の実施例に記載の方法を用いて得た。これを所定の方法にて、精製した。GPCにより分子量を算出したところ、1本鎖状態では15万で、3本鎖では45万であった。このSPGと、実施例1で調製したOVAペプチド−dA40(S)との複合化について検討を行った。
【0073】
上述したとおり、SPG等のβ−1,3−グルカンは、アルカリ水溶液中では1本鎖に解離しているが、リン酸緩衝液を添加することにより、β−1,3−グルカンを含む溶液が中和されると、β−1,3−グルカン3分子が水素結合を介して会合し、三重螺旋構造が再生される。このとき、混合物中にdA40(S)等のポリヌクレオチド又はポリヌクレオチド誘導体が存在すると、ポリヌクレオチド又はポリヌクレオチド誘導体1分子とβ−1,3−グルカン2分子とが、水素結合及び疎水性相互作用を介して会合し、三重螺旋構造を有する複合体が生成することは、本発明者により見出された。本実施例では、ポリヌクレオチド又はポリヌクレオチド誘導体の一例であるdA40(S)に抗原性ペプチドが結合した抗原性ペプチド−DA40(S)とSPGとの組み合わせにおいても、同様に三重螺旋構造を有する複合体が生成するかについて検証を行った。
【0074】
0.25N NaOH溶液にSPGを溶解し(15mg/mL)、完全に1本鎖に解離させるために2日以上放置したものを用いた。OVAペプチド−dA40(S)の10%ジメチルスルホキシド(DMSO)水溶液(10体積%のDMSOを含む水を溶媒とする溶液。以下同じ。)と、リン酸緩衝液(330mM NaHPO、pH4.5)を混合後、上述のSPG溶液を添加し、撹拌した。なお、SPGとOVAペプチド−dA40(S)の混合比はモル比で3:1であり、SPG溶液とリン酸緩衝液の体積比は1:1となるよう、各溶液の濃度を調整した。4℃で一晩静置させた後、撹拌後の反応混合物のアクリルアミドゲル電気泳動を行った。比較のため、抗原性ペプチド−dA40(S)についてもアクリルアミド電気泳動を行った。
【0075】
電気泳動後、アクリルアミドゲルをSYBR Goldで染色し、蛍光画像を撮影した結果を図3に示す。撹拌後の反応混合物のレーン(レーン2:complex(peptide/SPG))では、レーン1(peptide−dA40S)において観測されるOVAペプチド−dA40(S)のバンドが消失していることが確認された。この結果から、OVAペプチド−dA40(S)がSPGと複合化し、より高分子量の複合体(OVAペプチド−dA40(S)/SPG複合体)が生成したことがわかった。
【0076】
実施例3:マウス脾細胞における、抗原性ペプチドによる抗原特異的免疫応答に抗原性ペプチドとSPGとの複合化が及ぼす影響の評価
(1)オボアルブミン(OVA)由来のアミノ酸配列(配列番号1)を有する抗原性ペプチド(OVAペプチド)(5μg)、(2)OVAペプチド(5μg)及びCpG DNA(塩基配列:ATCGACTCTCGAGCGTTCTC(配列番号2))(30μg)、(3)OVAペプチド−dA40(S)/SPG複合体(実施例1参照、5μg)、(4)OVAペプチド−dA40(S)/SPG複合体(実施例1で調製、5μg)及びCpG DNA(30μg)、(5)OVAペプチド−dA40(S)/SPG複合体(5μg)及びフロイトの不完全アジュバント(IFA)(30μg)のいずれかを、マウス(C57BL/6マウス、雄性、7週齢)皮内に投与(1回)した。投与から1週間後に、マウスより脾細胞を採取後、96ウェルに播種し(1.0×10 cells/ウェル)、OVAペプチドで刺激(10μg/mL)し、抗原特異的なインターフェロン−γ(IFN−γ)が誘導されるかについて検討した。
【0077】
OVAペプチドによる脾細胞への刺激24時間後に、酵素結合免疫測定(ELISA)を用いて、培地中のIFN−γ量を定量した。結果を図4に示す。OVAペプチドのみ投与した場合、OVAペプチド及びCpG DNAを同時投与した場合、OVAペプチド−dA40(S)/SPG複合体のみを投与した場合については、OVAペプチドに特異的なインターフェロン応答は見られなかった。OVAペプチド−dA40(S)/SPG複合体を市販のアジュバントであるフロイトの不完全アジュバント(IFA)と同時投与した場合においても、その応答は非常に小さいものであった。しかし、OVAペプチド−dA40(S)/SPG複合体をCpG DNAと同時に投与した場合、顕著な免疫応答(IFN−γの産生量の増大)が誘起できることが確認された。OVAペプチドのみを投与した場合には、体内から速やかに排除されてしまうのに対し、OVAペプチド−dA40(S)をSPGと複合化させることにより、抗原提示細胞への取り込みが促進され、そこに、TLR9に対するCpG DNAの刺激が加わることにより、抗原特異的T細胞の割合が増加したためと考えられる。
【0078】
実施例4:抗原性ペプチド特異的細胞傷害性T細胞の誘導能に抗原性ペプチドとSPGとの複合化が及ぼす影響の評価
実施例3において、(1)OVAペプチド、(2)OVAペプチド及びCpG DNA、(3)OVAペプチド−dA40(S)/SPG複合体、(4)OVAペプチド−dA40(S)/SPG複合体及びCpG DNAのいずれかを皮内投与したマウスより採取し、OVAペプチド−dA40(S)/SPG複合体で刺激したマウス脾細胞を6日間培養し、抗体染色後、フローサイトメーターを用いて、OVAペプチドに特異的な細胞傷害性(CD8陽性)T細胞の割合を評価した。
【0079】
脾細胞中のOVAペプチドに特異的なCD8陽性T細胞の割合を図5に示す。OVAペプチドのみ投与した場合(peptide)、OVAペプチド及びCpG DNAを同時投与した場合(peptide+CpG)、OVAペプチド−dA40(S)/SPG複合体のみを投与した場合(peptide/SPG)のいずれについても、OVAペプチドに特異的なCD8陽性T細胞の割合は少ないが、OVAペプチド−dA40(S)/SPG複合体をCpG DNAと同時に投与した場合(peptide/SPG+CpG)には、OVAペプチドに特異的なCD8陽性T細胞の割合が有意に増加していることが確認された。
【0080】
実施例5:抗原性ペプチド、免疫賦活活性を有する部分塩基配列を有するポリヌクレオチド誘導体及びβ−1,3−グルカン骨格を有する多糖の複合化
SPGと、OVAペプチド−dA40(S)、CpG DNA−dA40(S)との同時複合化について検討を行った。
【0081】
0.25N NaOH溶液にSPGを溶解し(15mg/mL)、完全に1本鎖に解離させるために2日以上放置したものを用いた。CpG DNA−dA40(S)(CpG DNAの3’−末端側にdA40(S)が結合した構造を有するポリヌクレオチド誘導体)の水溶液と、OVAペプチド−dA40(S)の10%DMSO水溶液と、リン酸緩衝液(330mM NaHPO,pH4.5)を混合し、上述のSPG溶液を添加し、撹拌した。なお、SPGとOVAペプチド−dA40(S)の混合比、SPGとCpG DNA−dA40(S)の混合比は、共にモル比で3:1であり、SPG溶液とリン酸緩衝液の体積比は1:1となるよう、各溶液の濃度を調整した。
【0082】
電気泳動後、アクリルアミドゲルをSYBR Goldで染色し、蛍光画像を撮影した結果を図6に示す。撹拌後の反応混合物のレーン(レーン3:complex(peptide/CpG/SPG))では、レーン1において観測されるOVAペプチド−dA40(S)のバンド及びレーン2において観測されるCpG DNA−dA40(S)のバンドが共に消失していることが確認された。この結果から、抗原性ペプチド−dA40(S)及びCpG DNA−dA40(S)の両者がSPGと複合化し、より高分子量の複合体(OVAペプチド−dA40(S)/CpG DNA−dA40(S)/SPG三元複合体)が生成したことがわかった。本実施例では、三元複合体1分子当たり、最大7本のdA40(S)の分子鎖が含まれるよう、SPG、OVAペプチド−dA40(S)及びCpG DNA−dA40(S)のモル比を調節している。また、OVAペプチド−dA40(S)及びCpG DNA−dA40(S)のモル比は1:1であり、両者の間にSPGとの複合体形成能に差はないと考えられることから、三元複合体が生成していると考えられる。
【0083】
OVAペプチド以外の抗原性ペプチドとして、下記のアミノ酸配列を有する抗原性ペプチド/ヌクレオチドコンジュゲートについて、上述の方法により三元複合体を調製した。
【0084】
【表1】
【0085】
実施例6:抗原性ペプチド/CpG/SPG三元複合体によるペプチド特異的免疫応答の評価
(1)実施例2で調製したOVAペプチド−dA40(S)/SPG複合体(5μg)、(2)OVAペプチド−dA40(S)/SPG複合体(5μg)及びCpG DNA(30μg)、(3)OVAペプチド−dA40(S)/SPG複合体(5μg)及びCpG DNA−dA40(S)/SPG複合体(OVAペプチド−dA40(S)の10%DMSO水溶液を用いない以外は、実施例5と同様の方法により調製:30μg)、(4)実施例5で調製したOVAペプチド−dA40(S)/CpG DNA−dA40(S)/SPG三元複合体(5μg)のいずれかを、マウス(C57BL/6マウス、雄性、7週齢)皮内に投与(1回)した。投与から1週間後に、マウスより脾細胞を採取後、96ウェルに播種し(1.0×10 cells/ウェル)、OVAペプチドで刺激(10μg/mL)し、抗原特異的なインターフェロン−γ(IFN−γ)が誘導されるかについて検討した。
【0086】
OVAペプチドによる脾細胞への刺激24時間後に、酵素結合免疫測定(ELISA)を用いて、培地中のIFN−γ量を定量した。結果を図7に示す。実施例3に示したように、OVAペプチド−dA40(S)/SPG複合体のみではOVAペプチドに特異的なインターフェロン応答が誘導できないが、OVAペプチド−dA40(S)/SPG複合体及びCpG DNAを同時に投与すると、強いインターフェロン応答が誘導された。さらに、OVAペプチド−dA40(S)/CpG DNA−dA40(S)/SPG三元複合体の投与によっても、OVAペプチド−dA40(S)/SPG複合体及びCpG DNAを同時に投与した場合と同程度のインターフェロン誘導が確認された。興味深いことには、OVAペプチド−dA40(S)/SPG複合体及びCpG DNA−dA40(S)/SPG複合体を同時に投与した場合に、強いインターフェロン応答が誘導されることが確認された。これらの結果より、OVAペプチド−dA40(S)/CpG DNA−dA40(S)/SPG三元複合体の投与によっても、抗原提示細胞へのOVAペプチドの取り込み及びCpG DNAによるTLR9を介した細胞刺激のそれぞれの効果が発揮できていることがわかる。
【0087】
実施例7:抗原性ペプチド/CpG/SPG三元複合体によるペプチド特異的細胞傷害性T細胞の誘導能の評価
実施例6において、(1)OVAペプチド、(2)OVAペプチド及びCpG DNA、(3)OVAペプチド及びCpG DNA−dA40(S)/SPG複合体、(4)実施例5で調製したOVAペプチド−dA40(S)/CpG DNA−dA40(S)/SPG三元複合体のいずれかを皮内投与したマウスより採取し、OVAペプチド−dA40(S)/SPG複合体で刺激したマウス脾細胞を6日間培養し、抗体染色後、フローサイトメーターを用いて、OVAペプチドに特異的な細胞傷害性(CD8陽性)T細胞の割合を評価した。
【0088】
CD8陽性T細胞中のうち、OVAペプチドに特異的なCD8陽性T細胞の割合を図8に示す。OVAペプチドのみ投与した場合(peptide)、OVAペプチド及びCpG DNAを同時投与した場合(peptide+CpG)と比較して、OVAペプチド−dA40(S)/SPG複合体及びCpG DNA−dA40(S)/SPG複合体を投与した場合(peptide+CpG/SPG)、或いはOVAペプチド−dA40(S)/CpG DNA−dA40(S)/SPG三元複合体を投与した場合(peptide/CpG/SPG)に、OVAペプチドに特異的なCD8陽性T細胞の割合を増大させることができた。
【0089】
実施例8:メラノーマ細胞特異的抗原タンパク質由来ペプチドに対する免疫応答(抗原性ペプチド/CpG/SPG三元複合体によるペプチド特異的免疫応答の評価)
(1)マウスメラノーマ細胞特異的抗原タンパク由来のアミノ酸配列(EGSRNQDWL(配列番号3))を有する抗原性ペプチド(gp100)を用いて実施例1、2に従い同様に調製したgp100ペプチド−dA40(S)/SPG複合体(5μg)及びCpG DNA−dA40(S)/SPG複合体(30μg)、(2)実施例5に従い同様に調製したgp100ペプチド−dA40(S)/CpG DNA−dA40(S)/SPG三元複合体(5μg)のいずれかを、マウス(C57BL/6マウス、雄性、7週齢)皮内に投与(1回)した。投与から1週間後に、マウスより脾細胞を採取後、96ウェルに播種し(1.0×10 cells/ウェル)、gp100ペプチドで刺激(10μg/mL)し、抗原特異的なインターフェロン−γ(IFN−γ)が誘導されるかについて検討した。
【0090】
gp100ペプチドによる脾細胞への刺激24時間後に、酵素結合免疫測定(ELISA)を用いて、培地中のIFN−γ量を定量した。結果を図9に示す。実施例3に示したように、gp100ペプチド−dA40(S)/SPG複合体のみではgp100ペプチドに特異的なインターフェロン応答が誘導できなかった(data not shown)。しかし、gp100ペプチド−dA40(S)/SPG複合体及びCpG DNA−dA40(S)/SPG複合体を同時に投与すると、強いインターフェロン応答が誘導された。さらに、gp100ペプチド−dA40(S)/CpG DNA−dA40(S)/SPG三元複合体の投与によっても、同様にインターフェロン誘導が確認された。これらの結果より、OVAペプチド以外の抗原性ペプチドを含む抗原性ペプチド/CpG/SPG三元複合体をマウスに投与することによっても、ペプチド特異的な免疫応答が誘導されたことがわかる。
【0091】
実施例9:異なる抗原性ペプチドでの免疫応答
OVAペプチド以外の抗原性ペプチドを用いて、実施例5に記載の方法により、抗原性ペプチド−dA40(S)/CpG DNA−dA40(S)/SPG三元複合体を調製し、実施例6に記載の手順により、ペプチド特異的免疫応答の評価を行った。用いた抗原性ペプチドのアミノ酸配列及び実験結果(抗原性ペプチドに特異的なIFN−γの誘導の有無)を、下記の表2に示す。なお、No.2に示したアミノ酸配列(配列番号28)は、OVAペプチド(No.1)のランダム配列である。表2中の、No.1、3、4では、マウスより採取後、ウェルに播種した脾細胞の刺激に、三元複合体に含まれる抗原性ペプチドを用いたが、No.2については、アミノ酸組成は同一であるがアミノ酸配列の異なるOVAペプチドを用いた。また、表2のIFN応答の列中、「+」は、IFN−γの産生が観測されたことを示し、「−」は、IFN−γの誘導が観測されなかったことを示す。マウスに投与した三元複合体に用いた抗原性ペプチドと同一のアミノ酸配列を有するペプチドで脾細胞を刺激した場合(No.1、3、4、5)には、抗原性ペプチド特異的なIFN応答が観察されたのに対し、異なるアミノ酸配列を有するペプチドで脾細胞を刺激した場合(No.2)には、全くIFN産生が観測されなかった。これらの結果より、マウスに投与した三元複合体により、ペプチド特異的な免疫応答が誘導されたことがわかる。
【0092】
【表2】
【0093】
実施例10:SPGの主鎖又は側鎖上のグルコース残基への抗原性ペプチドの導入によるペプチド/β−1,3−グルカン複合体の調製(1)
アルキンとアジド化合物の「クリック反応」(フイスゲン反応)を利用したSPGの主鎖又は側鎖上のグルコース残基への抗原性ペプチドの導入を検討した。反応スキームを以下に示す。カルボニルジイミダゾール(CDI)とプロパルギルアミン(PA)をSPGのグルコース残基の6−位に存在する第1級アルコールと反応させ、生成するカルバメート結合を介して、SPGの主鎖又は側鎖グルコース残基上に位置選択的にアルキンを導入した(SPG−PA)。SPGに導入されたアルキン残基数のグルコース残基数に対する比が10〜20%であったことから、主鎖のグルコース残基周りの立体障害により、大部分が側鎖のグルコース残基上に導入されていると考えられる。このようにして得られたSPG誘導体を、胴触媒の存在下、C末端がアジド基で修飾された抗原性ペプチド(peptide(N3):ジーンデザイン(株)より購入。本実施例では、アジド修飾OVAペプチドを使用した。)と反応させ、クリック反応により、ペプチド/β−1,3−グルカン複合体を調製した。
【0094】
【化3】
【0095】
実施例11:SPGの主鎖又は側鎖上のグルコース残基への抗原性ペプチドの共有結合を介した導入によるペプチド/β−1,3−グルカン複合体の調製(2)
α,β−不飽和ケトンとチオールのマイケル付加反応を利用したSPGの主鎖又は側鎖上のグルコース残基への抗原性ペプチドの導入を検討した。反応スキームを以下に示す。N,N−ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)の存在下、SPGの側鎖のグルコース残基の6−位に存在する第一級アルコールに対し、カルボニルジイミダゾール(CDI)と2−アミノエチルメタクリレート(AEMA)を反応させ、生成するカルバメート結合を介して、メタクリロイル基を導入した(SPG−AEMA)。その後、C末端にシステインを導入した抗原性ペプチド(peptide(−SH):ジーンデザイン(株)より購入。)を、トリス(2−カルボカイシエチル)ホスフィン塩酸塩(TCEP)の存在下、SPG−AEMAと反応させ、ペプチド/β−1,3−グルカン複合体を調製した。
【0096】
【化4】
【0097】
実施例12:共有結合を介して、β−1,3−グルカン骨格を有する多糖の側鎖上のグルコース残基に抗原性ペプチドが結合した、抗原性ペプチド/CpG/SPG三元複合体による抗原性ペプチド特異的免疫応答の評価
実施例10、11で調製したペプチド/β−1,3−グルカン複合体を、実施例2、5に記載の方法と同様の方法を用いて、CpG DNA−dA40(S)と複合化させ、抗原性ペプチド/CpG/SPG三元複合体を調製した。これを、C57BL/6マウス(雄性、7週齢)の皮内に1回投与(CpG DNA30μg相当量)した。投与から1週間後に、マウスより脾細胞を採取後、96ウェルに播種し(1.0×10 cells/ウェル)、OVAペプチドで刺激(10μg/mL)し、抗原特異的なインターフェロン−γ(IFN−γ)が誘導されるかについて検討した。用いた抗原性ペプチドのアミノ酸配列及び実験結果(抗原性ペプチドに特異的なIFN−γの誘導の有無)を、下記の表3に示す。なお、実施例9と同様、No.2に示したアミノ酸配列(配列番号28)は、OVAペプチド(No.1)のランダム配列である。表3中の、No.1、3、4では、マウスより採取後、ウェルに播種した脾細胞の刺激に、三元複合体に含まれる抗原性ペプチドを用いたが、No.2については、アミノ酸組成は同一であるがアミノ酸配列の異なるOVAペプチドを用いた。また、表3のIFN応答の列中、「+」は、IFN−γの産生が観測されたことを示し、「−」は、IFN−γの誘導が観測されなかったことを示す。実施例9の結果と同様、マウスに投与した三元複合体に用いた抗原性ペプチドと同一のアミノ酸配列を有するペプチドで脾細胞を刺激した場合(No.1、3、4)には、抗原性ペプチド特異的なIFN応答が観察されたのに対し、異なるアミノ酸配列を有するペプチドで脾細胞を刺激した場合(No.2)には、全くIFN産生が観測されなかった。これらの結果より、マウスに投与した三元複合体により、ペプチド特異的な免疫応答が誘導されたことがわかる。
【0098】
【表3】
【0099】
なお、本発明は、本発明の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施形態及び変形が可能とされるものである。また、上述した実施形態は、本発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。つまり、本発明の範囲は、実施形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。そして、特許請求の範囲内及びそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、本発明の範囲内とみなされる。
【0100】
本出願は、2014年2月6日に出願された日本国特許出願2014−21333号に基づくものであり、その明細書、特許請求の範囲、図面および要約書を含むものである。上記日本国特許出願における開示は、その全体が本明細書中に参照として含まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]