特許第6383768号(P6383768)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6383768
(24)【登録日】2018年8月10日
(45)【発行日】2018年8月29日
(54)【発明の名称】はんだ組成物および電子基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 35/363 20060101AFI20180820BHJP
   B23K 35/26 20060101ALN20180820BHJP
   C22C 13/00 20060101ALN20180820BHJP
【FI】
   B23K35/363 C
   B23K35/363 E
   !B23K35/26 310A
   !C22C13/00
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-172553(P2016-172553)
(22)【出願日】2016年9月5日
(65)【公開番号】特開2017-64784(P2017-64784A)
(43)【公開日】2017年4月6日
【審査請求日】2016年10月13日
(31)【優先権主張番号】特願2015-194590(P2015-194590)
(32)【優先日】2015年9月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390005223
【氏名又は名称】株式会社タムラ製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】特許業務法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉澤 慎二
(72)【発明者】
【氏名】奥村 聡史
【審査官】 川口 由紀子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−170294(JP,A)
【文献】 特表2009−542019(JP,A)
【文献】 特開2014−188578(JP,A)
【文献】 特開2014−161890(JP,A)
【文献】 特開2013−169557(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/118074(WO,A1)
【文献】 特開平03−210993(JP,A)
【文献】 特開2004−025305(JP,A)
【文献】 特開2012−245529(JP,A)
【文献】 特開2003−010997(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 35/00−35/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ロジン系樹脂、(B)活性剤および(C)溶剤を含有するフラックス組成物と、(D)はんだ粉末とを含有し、
前記(B)活性剤が、(B1)オルト位またはプロス位に水酸基またはアシル基を有する芳香族カルボン酸を含有し、
前記(B1)成分が、2−ヒドロキシ安息香酸、2−ヒドロキシ−6−メチル安息香酸、2,4−ジヒドロキシ安息香酸、2,4−ジヒドロキシ−6−メチル安息香酸、1−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、1,4−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸、2−ベンゾイル安息香酸、2−(4’−メチルベンゾイル)安息香酸、2−アセチル安息香酸、1−ベンゾイル−2−ナフトエ酸、および3−ベンゾイル−2−ナフトエ酸からなる群から選択される少なくとも1種であり、
前記(B1)成分の配合量が、前記フラックス組成物100質量%に対して、0.1質量%以上10質量%以下であり、
前記(B)成分の合計配合量が、前記フラックス組成物100質量%に対して、1質量%以上30質量%以下である
ことを特徴とするはんだ組成物。
【請求項2】
請求項1に記載のはんだ組成物において、
前記(B)活性剤が、(B2)重合脂肪酸および(B3)脂肪族ジカルボン酸をさらに含有し、
前記(B3)成分の配合量が、前記フラックス組成物100質量%に対して、0.1質量%以上10質量%以下である
ことを特徴とするはんだ組成物。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のはんだ組成物において、
当該はんだ組成物の接合対象の少なくともいずれかが、洋白である
ことを特徴とするはんだ組成物。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のはんだ組成物において、
前記(D)成分が、Sn−Ag−Cu系のはんだ合金からなるはんだ粉末である
ことを特徴とするはんだ組成物。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のはんだ組成物において、
前記(B1)成分が、3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸である
ことを特徴とするはんだ組成物。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載のはんだ組成物を用いて、電子部品を電子基板に実装することを特徴とする電子基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、はんだ組成物および電子基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
はんだ組成物は、はんだ粉末にフラックス組成物(ロジン系樹脂、活性剤および溶剤などを含む組成物)を混練してペースト状にした混合物である。このはんだ組成物においては、はんだ溶融性やはんだが濡れ広がりやすいという性質(はんだ濡れ広がり)などのはんだ付け性が要求されている。そして、これらの要求に対応するために、フラックス組成物中の活性剤などの検討がされている(例えば、特許文献1)。
一方で、スマートフォンなどのモバイル端末は、小型化および多機能化が進んでいる。これらに使用される電子部品も微細化しており、このような電子部品の微小面積のランドを少量のはんだ組成物で接合させる必要がある。また、スマートフォンのシールドケースには、洋白などの金属が使用されており、これらの金属をはんだ組成物で接合させることも求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−169557号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、フラックス組成物中の活性剤として、洋白へのはんだ付け性に特に有効な活性剤は見つかっていない。また、電子部品の微小面積のランドを少量のはんだ組成物で接合させるために、例えば、脂肪族カルボン酸などの活性剤を増量するなどの対応が必要となる。しかし、このような場合、リフロー後の残さ中に活性剤が残存し、金属腐食やマイグレーションの発生といった信頼性の低下を招くおそれがある。さらに、脂肪族カルボン酸を増量した場合には、洋白などの金属に対するぬれ性が著しく低下してしまう。このように、微小面積における溶融性と、洋白へのはんだ付け性という両立は困難であった。
【0005】
そこで、本発明は、微小面積における溶融性に優れ、かつ、洋白へのはんだ付け性に優れるはんだ組成物、並びにそれを用いた電子基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決すべく、本発明は、以下のようなはんだ組成物および電子基板の製造方法を提供するものである。
本発明のはんだ組成物は、(A)ロジン系樹脂、(B)活性剤および(C)溶剤を含有するフラックス組成物と、(D)はんだ粉末とを含有し、前記(B)活性剤が、(B1)オルト位またはプロス位に水酸基またはアシル基を有する芳香族カルボン酸を含有し、前記(B1)成分が、2−ヒドロキシ安息香酸、2−ヒドロキシ−6−メチル安息香酸、2,4−ジヒドロキシ安息香酸、2,4−ジヒドロキシ−6−メチル安息香酸、1−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、1,4−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸、2−ベンゾイル安息香酸、2−(4’−メチルベンゾイル)安息香酸、2−アセチル安息香酸、1−ベンゾイル−2−ナフトエ酸、および3−ベンゾイル−2−ナフトエ酸からなる群から選択される少なくとも1種であり、前記(B1)成分の配合量が、前記フラックス組成物100質量%に対して、0.1質量%以上10質量%以下であり、前記(B)成分の合計配合量が、前記フラックス組成物100質量%に対して、1質量%以上30質量%以下であることを特徴とするものである。
【0007】
本発明のはんだ組成物においては、前記(B)活性剤が、(B2)重合脂肪酸および(B3)脂肪族ジカルボン酸をさらに含有し、前記(B3)成分の配合量が、前記フラックス組成物100質量%に対して、0.1質量%以上10質量%以下であることが好ましい。
本発明のはんだ組成物は、当該はんだ組成物の接合対象の少なくともいずれかが、洋白であってもよい。
本発明のはんだ組成物においては、前記(D)成分が、Sn−Ag−Cu系のはんだ合金からなるはんだ粉末であることが好ましい。
本発明のはんだ組成物においては、前記(B1)成分が、3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸であることが好ましい。
本発明の電子基板の製造方法は、前記はんだ組成物を用いて、電子部品を電子基板に実装することを特徴とする方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、微小面積における溶融性に優れ、かつ、洋白へのはんだ付け性に優れるはんだ組成物、並びに、このはんだ組成物を用いた電子基板の製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のはんだ組成物は、以下説明するフラックス組成物と、以下説明する(D)はんだ粉末とを含有するものである。
【0010】
[フラックス組成物]
まず、本発明に用いるフラックス組成物について説明する。本発明に用いるフラックス組成物は、はんだ組成物におけるはんだ粉末以外の成分であり、(A)ロジン系樹脂、(B)活性剤、および(C)溶剤を含有するものである。
【0011】
[(A)成分]
本発明に用いる(A)ロジン系樹脂としては、ロジン類およびロジン系変性樹脂が挙げられる。ロジン類としては、ガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジン、不均化ロジン、重合ロジン、水素添加ロジンおよびこれらの誘導体などが挙げられる。ロジン系変性樹脂としては、ディールス・アルダー反応の反応成分となり得る前記ロジン類の不飽和有機酸変性樹脂((メタ)アクリル酸などの脂肪族の不飽和一塩基酸、フマル酸、マレイン酸などのα,β−不飽和カルボン酸などの脂肪族不飽和二塩基酸、桂皮酸などの芳香族環を有する不飽和カルボン酸などの変性樹脂)およびアビエチン酸の変性樹脂、並びに、これらの変性物を主成分とするものなどが挙げられる。これらのロジン系樹脂は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0012】
前記(A)成分の配合量は、フラックス組成物100質量%に対して、30質量%以上70質量%以下であることが好ましく、35質量%以上60質量%以下であることがより好ましい。(A)成分の配合量が前記下限未満では、はんだ付ランドの銅箔面の酸化を防止してその表面に溶融はんだを濡れやすくする、いわゆるはんだ付性が低下し、はんだボールが生じやすくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、フラックス残さ量が多くなる傾向にある。
【0013】
[(B)成分]
本発明に用いる(B)活性剤は、以下説明する(B1)オルト位またはプロス位に水酸基またはアシル基を有する芳香族カルボン酸を含有することが必要である。
本発明に用いる(B1)成分としては、(B1a)オルト位に水酸基を有する安息香酸類、(B1b)オルト位またはプロス位に水酸基を有するナフトエ酸類、(B1c)オルト位にアシル基を有する安息香酸類、および(B1d)オルト位またはプロス位にアシル基を有するナフトエ酸類などが挙げられる。これらの中でも、微小面積における溶融性の観点から、(B1b)オルト位またはプロス位に水酸基を有するナフトエ酸類が好ましい。
【0014】
本発明に用いる(B1a)オルト位に水酸基を有する安息香酸類としては、2−ヒドロキシ安息香酸、2−ヒドロキシ−6−メチル安息香酸、2,4−ジヒドロキシ安息香酸、および2,4−ジヒドロキシ−6−メチル安息香酸などが挙げられる。
本発明に用いる(B1b)オルト位またはプロス位に水酸基を有するナフトエ酸類としては、1−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、および1,4−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸などが挙げられる。これらの中でも、微小面積における溶融性の観点から、3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸が好ましい。
【0015】
本発明に用いる(B1c)オルト位にアシル基を有する安息香酸類としては、2−ベンゾイル安息香酸、2−(4’−メチルベンゾイル)安息香酸、および2−アセチル安息香酸などが挙げられる。
本発明に用いる(B1d)オルト位またはプロス位にアシル基を有するナフトエ酸類としては、1−ベンゾイル−2−ナフトエ酸、および3−ベンゾイル−2−ナフトエ酸などが挙げられる。
【0016】
これらの(B1)成分は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
前記(B1)成分の配合量は、前記フラックス組成物100質量%に対して、0.1質量%以上10質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上8質量%以下であることがより好ましく、1質量%以上5質量%以下であることが特に好ましい。配合量が前記下限未満では、微小面積における溶融性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、金属腐食やマイグレーションの発生など信頼性が低下する傾向にある。
【0017】
前記(B)成分においては、以下説明する(B2)重合脂肪酸および(B3)脂肪族ジカルボン酸を含有することが好ましい。
本発明に用いる(B2)重合脂肪酸としては、不飽和脂肪酸の重合によって生成される脂肪酸が挙げられる。この(B2)成分により、はんだ粉末の再酸化を防止できる傾向があるために、他の活性剤の作用を相乗的に高めることができる。
この不飽和脂肪酸の炭素数は、特に限定されないが、8以上22以下であることが好ましく、12以上18以下であることがより好ましく、18であることが特に好ましい。また、この重合脂肪酸としては、特に限定されないが、二塩基酸または三塩基酸を主成分とするものが好ましい。具体的には、ダイマー酸(炭素数36)、トリマー酸(炭素数54)などが挙げられる。
前記(B2)成分の配合量は、前記フラックス組成物100質量%に対して、0.1質量%以上12質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上10質量%以下であることがより好ましい。配合量が前記下限未満では、はんだ付け性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、金属腐食やマイグレーションの発生など信頼性が低下する傾向にある。
【0018】
本発明に用いる(B3)脂肪族ジカルボン酸は、アルキレン基を有する二塩基酸である。この脂肪族ジカルボン酸の炭素数は、特に限定されないが、3以上22以下であることが好ましく、5以上20以下であることがより好ましい。この脂肪族ジカルボン酸としては、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、およびエイコサン二酸などが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
前記(B3)成分の配合量は、前記フラックス組成物100質量%に対して、0.1質量%以上10質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上8質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以上6質量%以下であることが特に好ましい。配合量が前記下限未満では、はんだ付け性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、洋白へのはんだ付け性が低下するとともに、金属腐食やマイグレーションの発生など信頼性が低下する傾向にある。
【0019】
前記(B)成分においては、前記(B1)成分〜前記(B3)成分以外のその他の有機酸(以下(B4)成分という)をさらに含有してもよい。
(B4)成分としては、(B1)成分以外のモノカルボン酸、その他の有機酸が挙げられる。
モノカルボン酸としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、ブチリック酸、バレリック酸、カプロン酸、エナント酸、カプリン酸、ラウリル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、ツベルクロステアリン酸、アラキジン酸、ベヘニン酸、およびリグノセリン酸などが挙げられる。
その他の有機酸としては、グリコール酸、レブリン酸、乳酸、アクリル酸、アニス酸、クエン酸、およびピコリン酸などが挙げられる。
これらの(B4)成分は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
前記(B4)成分の配合量は、前記フラックス組成物100質量%に対して、0.1質量%以上8質量%以下であることが好ましく、0.2質量%以上5質量%以下であることがより好ましい。
【0020】
前記(B)成分においては、(B5)非解離性のハロゲン化化合物からなる非解離型活性剤をさらに含有してもよい。この(B5)成分は、前記(B1)成分〜前記(B4)成分の活性作用にほとんど影響を与えずに、(B5)成分としての活性作用を付与できる。
【0021】
前記(B5)成分としては、ハロゲン原子が共有結合により結合した非塩系の有機化合物が挙げられる。このハロゲン化化合物としては、塩素化物、臭素化物、フッ化物のように塩素、臭素、フッ素の各単独元素の共有結合による化合物でもよいが、塩素、臭素およびフッ素の任意の2つまたは全部のそれぞれの共有結合を有する化合物でもよい。これらの化合物は、水性溶媒に対する溶解性を向上させるために、例えばハロゲン化アルコールやハロゲン化カルボキシル化合物のように水酸基やカルボキシル基などの極性基を有することが好ましい。ハロゲン化アルコールとしては、例えば2,3−ジブロモプロパノール、2,3−ジブロモブタンジオール、トランス−2,3−ジブロモ−2−ブテン−1,4−ジオール、1,4−ジブロモ−2−ブタノール、トリブロモネオペンチルアルコールなどの臭素化アルコール、1,3−ジクロロ−2−プロパノール、1,4−ジクロロ−2−ブタノールなどの塩素化アルコール、3−フルオロカテコールなどのフッ素化アルコール、その他これらに類する化合物が挙げられる。ハロゲン化カルボキシル化合物としては、2−ヨード安息香酸、3−ヨード安息香酸、2−ヨードプロピオン酸、5−ヨードサリチル酸、5−ヨードアントラニル酸などのヨウ化カルボキシル化合物、2−クロロ安息香酸、3−クロロプロピオン酸などの塩化カルボキシル化合物、2,3−ジブロモプロピオン酸、2,3−ジブロモコハク酸、2−ブロモ安息香酸などの臭素化カルボキシル化合物、その他これらに類する化合物が挙げられる。これらの活性剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0022】
前記(B5)成分の配合量としては、フラックス組成物100質量%に対して、0.1質量%以上10質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上5質量%以下であることがより好ましく、1質量%以上3質量%以下であることが特に好ましい。(B5)成分の配合量が前記下限未満では、はんだ濡れ広がりが低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、フラックス組成物の絶縁性が低下する傾向にある。
【0023】
前記(B)成分の合計配合量としては、フラックス組成物100質量%に対して、1質量%以上30質量%以下であることが好ましく、5質量%以上20質量%以下であることがより好ましく、8質量%以上18質量%以下であることが特に好ましい。(B)成分の配合量が前記下限未満では、はんだボールが生じやすくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、フラックス組成物の絶縁性が低下する傾向にある。
【0024】
[(C)成分]
本発明に用いる(C)溶剤としては、公知の溶剤を適宜用いることができる。このような溶剤としては、沸点170℃以上の水溶性溶剤を用いることが好ましい。
このような溶剤としては、例えば、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、ヘキシレングリコール、ヘキシルジグリコール、1,5−ペンタンジオール、メチルカルビトール、ブチルカルビトール、2−エチルヘキシルジグリコール(EHDG)、オクタンジオール、フェニルグリコール、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテルが挙げられる。これらの溶剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0025】
前記(C)成分の配合量は、フラックス組成物100質量%に対して、20質量%以上50質量%以下であることが好ましく、25質量%以上50質量%以下であることがより好ましい。溶剤の配合量が前記範囲内であれば、得られるはんだ組成物の粘度を適正な範囲に適宜調整できる。
【0026】
[他の成分]
本発明のフラックス組成物においては、印刷性などの観点から、さらにチクソ剤を含有していてもよい。ここで用いるチクソ剤としては、硬化ひまし油、アミド類、カオリン、コロイダルシリカ、有機ベントナイト、ガラスフリットなどが挙げられる。これらのチクソ剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0027】
前記チクソ剤を用いる場合、その配合量は、フラックス組成物100質量%に対して、1質量%以上15質量%以下であることが好ましく、2質量%以上10質量%以下であることがより好ましい。配合量が前記下限未満では、チクソ性が得られず、ダレが生じやすくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、チクソ性が高すぎて、印刷不良となりやすい傾向にある。
【0028】
本発明に用いるフラックス組成物には、前記(A)成分、前記(B)成分、前記(C)成分およびチクソ剤の他に、必要に応じて、その他の添加剤、更には、その他の樹脂を加えることができる。その他の添加剤としては、消泡剤、酸化防止剤、改質剤、つや消し剤、発泡剤などが挙げられる。その他の樹脂としては、アクリル系樹脂などが挙げられる。
【0029】
[はんだ組成物]
次に、本発明のはんだ組成物について説明する。本発明のはんだ組成物は、前記本発明のフラックス組成物と、以下説明する(D)はんだ粉末とを含有するものである。
前記フラックス組成物の配合量は、はんだ組成物100質量%に対して、5質量%以上35質量%以下であることが好ましく、7質量%以上15質量%以下であることがより好ましく、8質量%以上12質量%以下であることが特に好ましい。フラックス組成物の配合量が5質量%未満の場合(はんだ粉末の配合量が95質量%を超える場合)には、バインダーとしてのフラックス組成物が足りないため、フラックス組成物とはんだ粉末とを混合しにくくなる傾向にあり、他方、フラックス組成物の配合量が35質量%を超える場合(はんだ粉末の配合量が65質量%未満の場合)には、得られるはんだ組成物を用いた場合に、十分なはんだ接合を形成できにくくなる傾向にある。
【0030】
[(D)成分]
本発明に用いる(D)はんだ粉末は、鉛フリーはんだ粉末のみからなることが好ましいが、有鉛のはんだ粉末であってもよい。このはんだ粉末におけるはんだ合金としては、スズ(Sn)を主成分とする合金が好ましい。また、この合金の第二元素としては、銀(Ag)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ビスマス(Bi)、インジウム(In)およびアンチモン(Sb)などが挙げられる。さらに、この合金には、必要に応じて他の元素(第三元素以降)を添加してもよい。他の元素としては、銅、銀、ビスマス、インジウム、アンチモン、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、鉄(Fe)、およびアルミニウム(Al)などが挙げられる。
ここで、鉛フリーはんだ粉末とは、鉛を添加しないはんだ金属または合金の粉末のことをいう。ただし、鉛フリーはんだ粉末中に、不可避的不純物として鉛が存在することは許容されるが、この場合に、鉛の量は、100質量ppm以下であることが好ましい。
【0031】
鉛フリーのはんだ粉末としては、具体的には、Sn−Ag、Sn−Ag−Cu、Sn−Cu、Sn−Ag−Bi、Sn−Bi、Sn−Ag−Cu−Bi、Sn−Sb、Sn−Zn−Bi、Sn−Zn、Sn−Zn−Al、Sn−Ag−Bi−In、Sn−Ag−Cu−Bi−In−Sb、In−Agなどが挙げられる。これらの中でも、はんだ接合の強度の観点から、Sn−Ag−Cu系のはんだ合金が好ましく用いられている。そして、Sn−Ag−Cu系のはんだの融点は、通常200℃以上250℃以下である。なお、Sn−Ag−Cu系のはんだの中でも、銀含有量が低い系のはんだの融点は、210℃以上250℃以下である。
【0032】
前記(D)成分の平均粒子径は、通常1μm以上40μm以下であるが、はんだ付けパッドのピッチが狭い電子基板にも対応するという観点から、1μm以上25μm以下であることがより好ましく、2μm以上20μm以下であることがさらにより好ましく、3μm以上15μm以下であることが特に好ましい。なお、平均粒子径は、動的光散乱式の粒子径測定装置により測定できる。
【0033】
[はんだ組成物の製造方法]
本発明のはんだ組成物は、上記説明したフラックス組成物と上記説明した(D)はんだ粉末とを上記所定の割合で配合し、撹拌混合することで製造できる。
【0034】
[電子基板]
次に、本発明の電子基板について説明する。本発明の電子基板は、以上説明したはんだ組成物を用いて電子部品を電子基板(プリント配線基板など)に実装したことを特徴とするものである。
ここで用いる塗布装置としては、スクリーン印刷機、メタルマスク印刷機、ディスペンサー、ジェットディスペンサーなどが挙げられる。
また、前記塗布装置にて塗布したはんだ組成物上に電子部品を配置し、リフロー炉により所定条件にて加熱して、前記電子部品をプリント配線基板に実装するリフロー工程により、電子部品を電子基板に実装できる。
【0035】
リフロー工程においては、前記はんだ組成物上に前記電子部品を配置し、リフロー炉により所定条件にて加熱する。このリフロー工程により、電子部品およびプリント配線基板の間に十分なはんだ接合を行うことができる。その結果、前記電子部品を前記プリント配線基板に実装することができる。
リフロー条件は、はんだの融点に応じて適宜設定すればよい。例えば、Sn−Ag−Cu系のはんだ合金を用いる場合には、プリヒートを温度150〜200℃で60〜120秒行い、ピーク温度を230〜270℃に設定すればよい。
【0036】
また、本発明のはんだ組成物および電子基板は、前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良などは本発明に含まれるものである。
例えば、前記電子基板では、リフロー工程により、プリント配線基板と電子部品とを接着しているが、これに限定されない。例えば、リフロー工程に代えて、レーザー光を用いてはんだ組成物を加熱する工程(レーザー加熱工程)により、プリント配線基板と電子部品とを接着してもよい。この場合、レーザー光源としては、特に限定されず、金属の吸収帯に合わせた波長に応じて適宜採用できる。レーザー光源としては、例えば、固体レーザー(ルビー、ガラス、YAGなど)、半導体レーザー(GaAs、InGaAsPなど)、液体レーザー(色素など)、気体レーザー(He−Ne、Ar、CO、エキシマーなど)が挙げられる。
【実施例】
【0037】
次に、本発明を実施例および比較例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。なお、実施例および比較例にて用いた材料を以下に示す。
((A)成分)
ロジン系樹脂:水添酸変性ロジン、商品名「パインクリスタルKE−604」、荒川化学工業社製
((B1)成分)
活性剤A:3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸(下記構造式(S1)参照)、東京化成工業社製
活性剤B:1−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸(下記構造式(S2)参照)、東京化成工業社製
活性剤C:2,4−ジヒドロキシ安息香酸(下記構造式(S3)参照)、東京化成工業社製
活性剤D:2−(4’−メチルベンゾイル)安息香酸(下記構造式(S4)参照)、東京化成工業社製
((B2)成分)
活性剤E:ダイマー酸、商品名「UNIDYME14」、アリゾナケミカル社製
((B3)成分)
活性剤F:スベリン酸、シグマアルドリッチ社製
活性剤G:グルタル酸、井上香料製造所社製
((B4)成分)
活性剤H:3−ヒドロキシ−2−メチル安息香酸(下記構造式(S5)参照)、東京化成工業社製
活性剤I:6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸(下記構造式(S6)参照)、東京化成工業社製
((B5)成分)
活性剤J:ジブロモブテンジオール
((C)成分)
溶剤A:ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル
溶剤B:ジエチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル
((D)成分)
はんだ粉末:粒子径10〜30μm(平均粒子径20μm)、はんだ融点220℃、はんだ組成Sn/Ag3.0/Cu0.5
(他の成分)
チクソ剤:商品名「ヒマコウ」、KFトレーディング社製
酸化防止剤:商品名「イルガノックス245」、BASF社製
【0038】
【化1】
【0039】
【化2】
【0040】
[実施例1]
ロジン系樹脂45質量部、溶剤A21.2質量部、溶剤B8質量部、活性剤E9質量部、活性剤F5.5質量部、活性剤G0.5質量部、活性剤J1.3質量部、活性剤A3質量部、チクソ剤7.5質量部および酸化防止剤2質量部を容器に投入し、プラネタリーミキサーを用いて混合してフラックス組成物を得た。
その後、得られたフラックス組成物11.9質量%、溶剤A0.4質量%およびはんだ
粉末87.7質量%(合計で100質量%)を容器に投入し、プラネタリーミキサーにて混合することではんだ組成物を調製した。
【0041】
[実施例2〜5]
表1に示す組成に従い各材料を配合した以外は実施例1と同様にして、はんだ組成物を得た。
[比較例1〜4]
表1に示す組成に従い各材料を配合した以外は実施例1と同様にして、はんだ組成物を得た。
【0042】
<はんだ組成物の評価>
はんだ組成物の評価(微小ランド溶融性、ディウェッティング(洋白)、銅板腐食)を以下のような方法で行った。得られた結果を表1に示す。
(1)微小ランド溶融性
大きさの異なるランド(ランド直径:0.1mm〜0.7mm)を有する、厚みが1.6mmの基板上に、対応するパターンを有するマスク(厚み:0.1mm)を用い、はんだ組成物を印刷した。その後、プリヒート温度を190〜200℃で80秒間、220℃以上の保持時間を30秒間、ピーク温度を245℃とする条件でリフローを行い、試験基板を作製した。試験基板を顕微鏡にて観察して、最小溶融ランドの直径(単位:mmφ)を測定した。直径が小さいほど、溶融性が優れる。
(2)ディウェッティング(洋白)
JIS Z 3284−1994の付属書10に記載の方法に準拠して、はんだのぬれ性(ディウェッティング)の試験を行う。すなわち、金属板(洋白、大きさ:30mm×30mm、厚み:0.3mm)を準備し、研磨剤で研磨した。この金属板に、直径6.5mmφの円形のパターン孔を有する厚み0.2mmのメタルマスクを使用し、はんだ組成物を印刷して試験片を得た。この試験片を270℃に設定されたはんだバス上にて加熱し、はんだが溶融してから5秒後に取り出した。試験片を顕微鏡にて観察し、下記の基準に従って、ディウエッティング(洋白)を評価した。
区分1:はんだ組成物から溶融したはんだが、試験板をぬらし、はんだ組成物を塗布した面積以上に広がった状態である。
区分2:はんだ組成物を塗布した部分はすべて、はんだでぬれた状態である。
区分3:はんだ組成物を塗布した部分の大半は、はんだでぬれた状態(ディウェッティングも含まれる。)である。
区分4:試験板は、はんだがぬれた様子はなく、溶融したはんだは一つまたは複数のはんだボールとなった状態(ノンウェッティング)である。
(3)銅板腐食
JIS Z 3284−1994の付属書4に記載の方法に準拠して、銅板腐食の試験を行う。すなわち、2枚の銅板(大きさ:50mm×50mm、厚み:0.5mm)を準備し、研磨剤で研磨し、超音波洗浄をした。そして、銅板の両端5mmの部分でコの字型に曲げたものをふた(銅板A)とし、両端6mmの部分をコの字型に曲げたものを銅板Bとした。銅板Bに、直径6.5mmφの円形のパターン孔を有する厚み0.2mmのメタルマスクを使用し、はんだ組成物を印刷した。この銅板Bにふた(銅板A)を被せて試験片とする。試験片を温度270℃に調節されたホットプレートに載せ、はんだ溶融後5秒間保持した。かかる試験片を温度40℃、相対湿度90%に設定した恒温恒湿槽内に投入し、96時間放置して、試験後の試験片を得た。試験後の試験片を観察して、以下のようにして、腐食の有無を判定した。
評価方法(a):ふた(銅板A)またはフラックス残さおよび銅間のそれぞれの境界(残さの表面や割れ目)に付いている異物、並びに青緑の変色の有無を評価する。ただし、はんだ付加熱時に生じた初期の変色は除く。
評価方法(b)フラックス残さ中の白い、または変色した分離した斑点の有無を評価する。
腐食の判定は、空試験片と比較して上記評価方法(a)および(b)に示すような変色の有無で行う。
【0043】
【表1】
【0044】
表1に示す結果からも明らかなように、(B1)成分を含有する本発明のはんだ組成物(実施例1〜5)を用いた場合には、微小ランド溶融性、ディウェッティング(洋白)および銅箔腐食の全てが良好であることが確認された。従って、本発明のはんだ組成物は、微小面積における溶融性に優れ、かつ、洋白へのはんだ付け性に優れることが確認された。
これに対し、(B1)成分を含有しないはんだ組成物(比較例1〜4)を用いた場合には、微小ランド溶融性が不十分であり、また、ディウェッティング(洋白)や銅箔腐食が不十分となる場合があることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明のはんだ組成物は、電子機器のプリント配線基板などの電子基板に電子部品を実装するための技術として好適に用いることができる。