特許第6383779号(P6383779)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6383779Fe含有モレキュラーシーブを基材とした水素化異性化触媒
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  • 特許6383779-Fe含有モレキュラーシーブを基材とした水素化異性化触媒 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6383779
(24)【登録日】2018年8月10日
(45)【発行日】2018年8月29日
(54)【発明の名称】Fe含有モレキュラーシーブを基材とした水素化異性化触媒
(51)【国際特許分類】
   C10G 45/64 20060101AFI20180820BHJP
   B01J 29/76 20060101ALI20180820BHJP
   C10G 3/00 20060101ALI20180820BHJP
【FI】
   C10G45/64
   B01J29/76 M
   C10G3/00 Z
【請求項の数】15
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-500946(P2016-500946)
(86)(22)【出願日】2014年3月10日
(65)【公表番号】特表2016-519692(P2016-519692A)
(43)【公表日】2016年7月7日
(86)【国際出願番号】US2014022348
(87)【国際公開番号】WO2014164406
(87)【国際公開日】20141009
【審査請求日】2017年3月10日
(31)【優先権主張番号】61/778,989
(32)【優先日】2013年3月13日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】505470786
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】ペトロヴィッチ,イワン
(72)【発明者】
【氏名】モイニ,アーマッド
(72)【発明者】
【氏名】ヘドリック,スコット
(72)【発明者】
【氏名】クラウス,マーティン
【審査官】 森 健一
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2012/0065449(US,A1)
【文献】 特表2011−526640(JP,A)
【文献】 特表昭61−502119(JP,A)
【文献】 特開平07−308581(JP,A)
【文献】 特開2001−287911(JP,A)
【文献】 特開昭60−260414(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10G 1/00−99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パラフィン系炭化水素の供給流の水素化異性化方法であって、前記方法は、
前記炭化水素の供給流を水素、及び結晶骨格を有する結晶性金属ケイ酸塩モレキュラーシーブを含む触媒と接触させる工程を含み
前記結晶骨格は、アルミニウム部位に配置されたアルミニウムを含み、および前記アルミニウム部位は鉄で少なくとも部分的に同形的に置換されており、及び更に
前記炭化水素の供給流に対して分岐炭化水素が増加している生成物を産出する工程と、
を含み、及び
前記金属ケイ酸塩モレキュラーシーブはZSM−12、ZSM−22、ZSM−23、ZSM−48、ZSM−57、又はMCM−22であり、及び
前記触媒は更に、白金族金属を0.01〜10wt%含み、及び
前記金属ケイ酸塩モレキュラーシーブはモル骨格式、
[X1−a:(y)YO
(式中、Xは鉄、Xはアルミニウム、aは少なくとも0.90、Yはシリコン、及びyは20〜300である)を有する、ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記モレキュラーシーブは3〜10オングストロームの細孔径を有する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記白金族金属は白金である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記パラフィン系炭化水素の供給流はnC8+炭化水素を含む、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記パラフィン系炭化水素の供給流は植物及び/または動物由来の非石油供給原料の脱酸素化から得られる、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記非石油供給原料はグリセリド及び遊離脂肪酸を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記非石油供給原料はパーム油を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
合成されたままの形態における前記モレキュラーシーブは無水ベースで以下の式、
(0.05〜1.0)MO:(0〜75)R:Z:(y)YO
(式中、Mはアルカリ金属カチオン、Rは特異的有機指向剤並びにZはX及びXの混合物である)を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記生成物は0〜−65℃の範囲の曇点を有する、請求項1記載の方法。
【請求項10】
前記生成物は−10〜−50℃の範囲の曇点を有するディーゼル燃料である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記生成物は−25〜−65℃の範囲の曇点を有するバイオジェット燃料である、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記触媒は前記接触させることの間、不活性化剤と接触しない、請求項1記載の方法。
【請求項13】
前記触媒は更に卑金属促進剤を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記卑金属促進剤はニッケルである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記白金族金属の大部分は前記モレキュラーシーブ上に含まれ、及び前記触媒はマトリックス材料と混合される、請求項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、再生可能な供給原料から燃料または燃料ブレンド成分を製造する方法に関する。本発明は、特に、再生可能資源から分岐した飽和炭化水素の製造方法に関し、及びとりわけ、ディーゼルまたはジェット燃料に適した炭化水素の製造方法に関する。本発明は、水素及び変性ゼオライト結晶性材料下において、脱酸素化再生可能資源からのノルマルパラフィンを含むパラフィンの異性化をもたらす方法に関する。
【背景技術】
【0002】
分岐鎖異性体の平衡混合物へのn−ヘキサン等のパラフィンの異性化は、実質的にパラフィン系炭化水素のオクタン価を増加させることが従来知られている。パラフィンの異性化を扱う従来技術の方法は、三塩化アンチモンに溶解した塩化アルミニウムを含有する触媒を用いた液相プロセスを含み、そしてそれは反応の間に形成されたHClと共に腐食性である。水素及び白金含有触媒の存在下で製油所のナフサ及び天然ガソリンからペンタン及びヘキサン留分を異性化するのに使用される、Penexプロセスと呼ばれる別の方法は、HClも生成する有機塩素化合物を原料へ連続して添加する必要がある。もう一つの方法は、水素及び水素モルデナイト上に高分散させた白金を含む触媒の存在下で150〜350psiの圧力及び温度400〜550°Fにおいて、50ppmの供給での最大水位でペンタン/ヘキサン供給物の反応を含む。高酸性触媒の使用またはそのような触媒の使用に起因する副産物による広範囲の腐食の影響のために、それにより高価な合金設備を必要とするので上記のプロセスの稼働はコストがかかる。その上、仕込み原料中の不純物として通常存在する水分及び高分子量の炭化水素は、触媒の劣化の原因となり及びそれらの頻繁な交換を必要とする。700〜800°Fのより高い温度で実施されている別の方法は、水素の存在下でシリカ−アルミナベース上の白金等の触媒を使用する。オクタン価の所望の改善を得るためにはパラフィン原料の一部の実質的なリサイクルが必要であるように、異性体の平衡混合物には高い温度が必要とされる。
【0003】
U.S.4,374,296には、多孔質ゼオライトと組み合わせた少量の第VIII族金属を有する酸活性が増強された特定の高シリカ質の多孔質ゼオライト結晶質材料の存在下において、水素化異性化することにより通常のパラフィン系炭化水素またはシクロパラフィンを改良する方法が開示されている。更に、そこに記載された発明は、耐腐食合金機器または触媒材料の頻繁な交換なしに高いオクタン価を有する分枝鎖異性体の混合物を生成するように、水素及び上記の触媒の存在下においてノルマルパラフィンまたはシクロパラフィンの長期間の連続水素化異性化を含む。更に、その発明は、水素並びに、酸活性が増強された及びシリカ/アルミナのモル比及び拘束係数が規定された多孔質結晶性ゼオライトを含み、特定の反応条件下でアルミナ担体上に担持された少量の白金を有する特定の触媒の存在下において、n−ペンタン、n−ヘキサンまたはそれらの混合物等の軽質パラフィン系炭化水素の水素化異性化に関する。
【0004】
ディーゼル燃料の需要が世界的に増加するにつれて、ディーゼル燃料を製造するための石油原油以外の資源に関心が高まっている。そのような非石油資源の1つは再生可能資源と呼ばれているものである。これらの再生可能資源としては、コーン油、パーム油、菜種油、キャノーラ油、大豆油、及び藻類油などの植物油、食用に適さない獣脂などの動物脂肪、魚油並びに黄色の及び茶色のグリース並びに下水汚泥などの様々な廃棄物流れを含むが、これらに限定されない。これらの供給源の共通の特徴は、これらはトリグリセリド及び遊離脂肪酸(FFA)で構成されていることである。これらの化合物の両方は、約8個〜約24個の炭素原子を有するn−パラフィン鎖を含む。トリグリセリドまたはFFA中のn−パラフィン鎖はまた、モノ、ジまたはポリ不飽和であることができる。再生可能資源からのグリセリドの一部は、トリグリセリドの代わりに、またはトリグリセリドに加えてモノグリセリドまたはジグリセリドでもよい。
【0005】
油からの炭化水素の製造を開示している当該技術分野の報告がある。例えば、米国特許第4,300,009号は、結晶性アルミノケイ酸塩ゼオライトを使用してコーン油のような植物油をガソリンのような炭化水素及びパラキシレンのような化学物質に変換することを開示している。米国特許第4,992,605号は、キャノーラ油またはヒマワリ油などの植物油を水素化処理することにより、ディーゼル沸点範囲の炭化水素生成物の製造を開示している。最後に、U.S.2004/0230085A1は、水素化脱酸素に続いて異性化によって、生物学的起源の炭化水素成分を処理する方法を開示している。不要な酸素は、一般的に脱酸素反応によって脂肪酸またはそのエステルから除去される。ディーゼル燃料製品として適切な炭化水素を生成するように、生物学的物質をベースとする油及び脂肪であるバイオ油及び脂肪の脱酸素化は、水素化分解のような触媒水素化処理により実施されることができるだけでなく、更に制御された水素化処理条件を利用することができる。
【0006】
現在、水素化異性化触媒は、一般的に酸機能及び貴金属(PM)機能を有する二官能触媒、を含む。酸性度は、通常、モレキュラーシーブ成分(ゼオライト、シリコアルミノリン酸塩、等)によって提供され、PM機能は非常に多くの場合、触媒上に堆積した白金により提供される。現在入手可能な触媒で使用されるモレキュラーシーブは、酸性度を制御するように、特定の量のアルミニウムまたはシリカを有する。tert−ブチルアミン(TBA)のような分子を用いる触媒不活性化工程は酸性度を制御するために使用され、その結果プロセスの収率を改善するように、これらの触媒は非常に良好な活性を示すが、比較的高いクラッキングも被る。
【発明の概要】
【0007】
本発明によれば、大幅な改善は、結晶骨格中に鉄を含有する結晶性金属ケイ酸塩モレキュラーシーブを含む触媒の存在下で水素と混合されたパラフィン系炭化水素を異性化する方法で実現されることが見出された。用いた鉄(Fe)ゼオライトケイ酸塩材料は、一般的に直径が3〜10オングストロームの中間細孔径を有する。
【0008】
他の態様はバイオ燃料を製造する方法を提供し、方法は、バイオ系原料由来のパラフィンの原料を提供することと、本発明の水素化異性化触媒と脱酸素化バイオ系原料を接触させることと、バイオ燃料を得ることと、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】図は、Pt/ZSM−23触媒及びPt/Fe−ZSM−23触媒を用いた生成物の曇点に対するクラッキング%を比較するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、水素化/脱酸素工程及び異性化工程を含む、植物油/脂肪及び動物油/脂肪のような再生可能資源から炭化水素を製造する改良された方法に関する。特に、本発明は、高い燃料歩留まりでバイオ系原料をn−パラフィンへ変換、並びに異性化を用いてその得られたn−パラフィンをディーゼル及びジェット燃料領域の分岐したアルカンへ変換することに関する。一般に、本発明は、水素及び変性ゼオライト触媒の存在下で行われるn−パラフィンを分枝状のアルカンに変換する前述の異性化工程に特に関係する。再生可能資源から未処理の供給原料を水素化処理すること及び/または脱酸素化することは当該技術分野でよく知られており、本発明の一部ではない。
【0011】
述べたように、本発明は、植物または動物由来の再生可能な供給原料などの非石油供給原料からディーゼルまたはジェット燃料として有益な炭化水素流の製造方法に関する。用語、再生可能な供給原料は、石油原油から得られるもの以外の供給原料を含むことを意味する。供給原料のこの種類を記述するために使用されている別の用語は、バイオ再生可能油脂である。本発明において使用することができる再生可能な供給原料は、グリセリド及び遊離脂肪酸(FFA)を含むもののいずれかを含む。グリセリドのほとんどはトリグリセリドになるが、モノグリセリド及びジグリセリドが存在することができ、同様に処理されることができる。これらの再生可能な供給原料の例としては、キャノーラ油、コーン油、大豆脂肪、セイヨウアブラナ油、大豆油、菜種油、トール油、ヒマワリ油、麻実油、オリーブ油、アマニ油、ココナッツ油、ひまし油、ピーナッツ油、パーム油、カラシ油、綿実油、ヤトロファ油、カメリナ油、クランベ油(cranbe oil)、獣脂、黄色及び茶色グリース、ラード、鯨油、ミルク中の脂肪、魚油、藻類油、クランベ油(cranbe oil)、下水汚泥等を含むが、これらに限定されない。一般的な植物性または動物性脂肪のグリセリド及びFFAは、16及び18個の炭素原子を有する高濃度の脂肪酸を含む多くのの油脂を有し、約8〜約24個の炭素原子を有する脂肪族炭化水素鎖をその構造中に含む。再生可能な供給原料の混合物または同時供給及び石油由来の炭化水素はまた、供給原料として使用することができる。上記に挙げられた供給原料と組み合わせて、特に同時供給成分として使用されることができる他の供給原料成分は、使用済みモーター油及び工業用潤滑剤、中古のパラフィンワックス、石炭のガス化由来の液体、バイオマス、フィッシャー・トロプシュ技術などの下流の液化工程を伴う天然ガス、ポリプロピレン、高密度ポリエチレン、及び低密度ポリエチレンなどの廃プラスチックの熱または化学による解重合に由来する液体、並びに石油化学及び化学工程からの副生成物として生成された他の合成油を含む。上記供給原料の混合物も同時供給成分として用いられることができる。同時供給成分を使用することの1つの利点は、石油ベースのプロセスまたは他のプロセスからの廃棄物であると考えられてきたものから、現在のプロセスに有益な同時供給成分への変換である。また、本発明の鉄修飾ゼオライトでn−アルカンの水素化異性化に関する本発明の方法は、石油系原料にも適用可能であることを理解すべきである。
【0012】
再生可能な未処理の供給原料は、脱酸素化を提供するだけでなく汚染物質を除去するように、1つ以上の反応器内の1つ以上の触媒床を含む第1の水素化処理反応ゾーンに流される。水素化及び水素化処理触媒は、高表面積担体上に分散されたニッケルまたはニッケル/モリブデンのような当該技術分野で十分に公知の任意のものである。他の水素化触媒は、高表面積担体上に分散された1つ以上の貴金属触媒成分を含む。貴金属の非限定的な例としては、ガンマアルミナまたは活性炭上に分散されたPt及び/またはPdを含む。
【0013】
上に列挙された触媒も未処理の供給原料の脱炭酸、脱カルボニル及び/または水素化脱酸素の触媒作用をすることができ、酸素を除去する。脱炭酸、脱カルボニル及び水素化脱酸素は、本明細書において一括して脱酸素化反応と呼ばれる。
【0014】
本発明は、上述のように未処理の再生可能資源から得られるようなnC8+炭化水素供給流の水素化異性化においてFe含有モレキュラーシーブを含む触媒を利用する。nC8+炭化水素供給流は、約200〜約500℃の温度、及び約400〜約2000psigの圧力を含む水素化異性化条件下で、以下に記載されるような特定の触媒と接触させられる。
【0015】
一般に、本発明の方法で使用するのに適した供給流は、約230〜約570℃、好ましくは約370〜約540℃、及び更に好ましくは約400〜約500℃の範囲で沸騰するnC8+炭化水素供給流である。形成された生成物は、0℃〜−65℃の曇点を有するディーゼルまたはジェット燃料である。一般に、ディーゼル製品は−10℃〜−50℃の曇点を有し、一方ジェット燃料は−25℃〜−65℃の曇点を有する。
【0016】
本発明の方法に用いられる修飾鉄含有触媒は、以下のモル関係を伴う骨格組成を有する結晶性金属ケイ酸塩モレキュラーシーブを含み、
[X1−a:(y)YO
式中、Xは鉄であり、Xはアルミニウム、aは少なくとも0.5、Yはシリコン、及びyは約20〜約300、通常約35〜約200である。好ましくは、aは少なくとも0.6、より好ましくは少なくとも0.75、及び最も好ましくは0.90より大きい。合成された形では、結晶材料は無水ベースで及びYOのyモル当りの酸化物のモル換算で、以下の式を有し、
(0.05〜1.0)MO:(0〜75)R:Z:(y)YO
式中、上述のようにMはアルカリ金属カチオン、Rは特定の有機指向剤であり、ZはXとXとの混合物である。また、Yは、上に記載されている。M及びR成分は、結晶化の間にそれらの存在の結果として材料に関連付けられ、以下により具体的に説明される結晶化後の方法によって簡単に除去される。
【0017】
本発明において有用な金属ケイ酸塩モレキュラーシーブは、好ましくは結晶骨格中に鉄を含むゼオライトである。その製造方法は特許化され当業者に公知である。有用なモレキュラーシーブの例としては、ZSM−5、ZSM−12、ZSM−22、ZSM−23、ZSM−35、ZSM−48、ZSM−57、ゼオライトベータ、MCM−22及びフォージャサイトのようなゼオライトを含む。モルデナイト及びフェリエライトなどの金属ケイ酸塩も有用である。
【0018】
ゼオライトZSM−23及び他のゼオライトは、アルカリ金属酸化物、好ましくは酸化ナトリウムの供給源、窒素含有カチオン、好ましくはピロリジン、アルミニウムの酸化物、及びシリコンの酸化物の供給源、並びに水を含む溶液から適切に調製され、前述の特許で知られており記載されているような酸化物のモル比換算の適切な組成物を有する。この発明によれば、鉄がゼオライトの四面体配位の骨格位置に組み込まれるように、酸化アルミニウムの少なくとも一部は鉄の酸化物で置換される。
【0019】
合成ゼオライトの合成のための組成物は、適切な酸化物を供給することができる材料を利用して調製されることができる。このような組成物は、アルミン酸塩、アルミナ、フェリエライト、酸化第二鉄または酸化第一鉄、ケイ酸塩、シリカヒドロゾル、シリカゲル、ケイ酸及び水酸化物を含む。これは、ゼオライトを調製するための反応混合物中で利用される各酸化物成分は、1つ以上の必須の反応物質によって供給されることができ、それらは任意の順序で一緒に混合されることができることが理解されるであろう。例えば、任意の酸化物は、水溶液、水酸化ナトリウムによって、または適切なケイ酸塩の水溶液によって供給されることができ、ピロリジン由来のカチオンはピロリジンによって供給される、またはそれらの塩のいずれかであることができる。所望のゼオライトを提供する当該技術分野で公知の他の有機窒素含有テンプレートを使用することができる。反応混合物は、バッチ式にまたは連続的にのいずれかで調製されることができる。ゼオライト組成物の結晶サイズ及び結晶化時間は、使用される反応混合物の性質に応じて変化する。
【0020】
従って、本発明は同形的に置換された(Alの代わりにFe)モレキュラーシーブ、即ち水素化異性化触媒において四面体配位の骨格位置に一般的なアルミニウム(Al)の代わりに鉄(Fe)、の使用に関する。骨格への鉄の置換はモレキュラーシーブの酸特性の変更を可能にし、その結果、現在入手可能な触媒と比較した場合に優れた特性を有する触媒を提供する。本発明の触媒の性能の優位性は、増加した収率(低いクラッキング)及びより好ましい生成物分布(より多くのジ分岐生成物)を含む。更に、本発明の触媒は、酸性度を制御するための不活性化処理を必要としない、そしてそれは水素化異性化工程を簡素化する。商業的使用の例としては、例えば前述のように、加工植物油、動物性脂肪及びバイオマスのような様々な供給原料から高度なバイオディーゼル及びバイオジェット燃料生産の新興分野を含む。
【0021】
本発明の触媒は、触媒材料及びマトリックス成分を含む。触媒材料は、好ましくは、予め添加された白金族金属を有するモレキュラーシーブから構成されている。触媒材料及びマトリックス成分は一緒に処理され、水素化異性化触媒を形成する。「予め添加された」への言及は、マトリックス成分の非存在下で、及びゼオライトの仮焼及び/または触媒体の形成前にモレキュラーシーブが含浸されるまたはさもなければ他の白金族金属と結合されることを意味する。マトリックス成分と混合し触媒体を形成する前に白金などの白金族金属を予め添加することは、非常に効果的な水素化異性化触媒をもたらし、ディーゼル燃料のための優れた収率になることが見出された。マトリックス上に配置されることが望まれるならば、白金族金属もまたマトリックス上に配置されることができる。
【0022】
触媒は、予め添加された白金族金属の量とマトリックスベースの白金族金属の量との合計である全白金族金属の量を含むことができる。1つ以上の実施形態では、白金族金属はモレキュラーシーブ上に濃縮される。つまり、水素化異性化触媒中に存在する白金族金属の大部分は、その全体がモレキュラーシーブと結合している。一実施形態では、白金族金属の100重量%がモレキュラーシーブと結合している。1つ以上の実施形態では、全白金族金属の51〜99重量パーセントはモレキュラーシーブ上に配置され、全白金族金属の1〜49重量パーセントはマトリックス上に配置されている。他の実施形態は、白金族金属の99重量%、95重量%、90重量%、85重量%、80重量%、75重量%、70重量%、65重量%、60重量%、55重量%、または51重量%でさえモレキュラーシーブと結合することを示している。
【0023】
別の実施形態では、触媒は更に、卑金属のような触媒活性を向上させることができる促進剤を含む。代表的な卑金属は、ニッケル、銅、鉄、及びスズを含む。卑金属は、触媒(モレキュラーシーブ)の0.1〜20.0重量%(または0.1〜10重量%、または0.1〜3重量%)の範囲の量で存在することができる。
【0024】
1つ以上の実施形態では、予め添加された白金族金属は、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、またはそれらの組合せを含む。詳細な実施形態は、予め添加された白金族金属は、触媒(モレキュラーシーブ)の0.01〜10、好ましくは0.5〜2.0重量%、及びより好ましくは0.1〜約1.0重量%の範囲の量で存在する白金を含むことを規定する。
【0025】
マトリックス、またはバインダー成分は、予め添加されたモレキュラーシーブと結合するものであり、触媒材料を形成する。マトリックス成分は、シリカ、アルミナ、またはそれらの組合せを含むことができる。詳細な実施形態では、マトリックス成分は、シリカゾル、ヒドロキシル化アルミナ、仮焼アルミナ、アルミノりん酸塩、シリカ、及びそれらの組合せからなる群から選択される材料を基材としている。ヒドロキシル化アルミナは、ベーマイト、疑ベーマイトまたはゼラチン状ベーマイト、ダイアスポア、ノルドストランダイト、バイヤライト、ギブサイト、表面にヒドロキシル基を有するアルミナ、及びその混合物からなる群から選択されることができる。仮焼されたアルミナは、ガンマ、デルタ、シータ、カッパ、及びローアルミナからなる群から選択されることができる。
【0026】
1つ以上の実施態様において、予め添加されたモレキュラーシーブは、水素化異性化触媒の20〜90重量%の範囲の量で存在し、マトリックス成分は、水素化異性化触媒の80〜10重量パーセントの範囲の量で存在する。
【0027】
別の態様では、水素化異性化触媒は:モレキュラーシーブを合成する工程;モレキュラーシーブを純化する工程;マトリックス成分の非存在下でモレキュラーシーブを白金族金属と結合させ、触媒体の形成前に予め添加されたモレキュラーシーブを形成する工程、予め添加したモレキュラーシーブとマトリックス成分とを混合して混合物を形成する工程、混合物を処理して触媒体を形成する工程;触媒体を乾燥及び仮焼して水素化異性化触媒を形成する工程;により製造されるバイオ燃料へバイオ系原料を処理するためのモレキュラーシーブ及びマトリックス成分を含む。
【0028】
モレキュラーシーブを白金族金属と結合する工程は、当該技術分野で公知の方法によって達成されることができる。例えば、白金族金属は含浸によりモレキュラーシーブに結合することができる。「含浸」への言及は、材料が貴金属含有溶液に浸漬されることを意味する。いくつかの実施形態では、白金族金属の含浸は初期湿潤によって達成される。他の実施形態では、含浸は白金族金属のイオンがモレキュラーシーブのカチオンと交換するイオン交換によって達成される。更に他の実施形態では、モレキュラーシーブは、初期湿潤及びイオン交換の両方によって処理される。白金コロイド溶液は、モレキュラーシーブに含浸されることもできる。触媒体の形成前に、マトリックス成分の非存在下でモレキュラーシーブを白金族金属で含浸させることにより、金属がモレキュラーシーブとマトリックス成分の混合物上ではなく、モレキュラーシーブ上に濃縮されることができる。しかし、いくつかの実施形態では、マトリックス成分と共にそれに結合される白金族金属も提供することが望ましい場合もある。マトリックス成分とのこの結合は製造プロセスの間に所望のように行われることができる。例えば、予め添加されたモレキュラーシーブと混合される前などに、マトリックス成分は事前に含浸させることができる。別の方法は、触媒体が仮焼された後に白金族金属を触媒体全体(予め添加されたモレキュラーシーブ及びマトリックス成分の両方)と結合させることである。
【0029】
予め添加されたモレキュラーシーブとマトリックス成分とを混合した後、この混合物を処理して触媒体を形成する。混合物を処理する好ましい方法は、成形開口部を通してそれを押出し、押出された触媒体をまたは押出物を形成することである。他の触媒体は、球または任意の他の使い易い形態に成形されることができる。
【0030】
押出物は、50〜250℃の範囲の温度で乾燥させることができる。押出物は、350〜700℃の範囲、好ましくは400〜550℃の範囲の温度で仮焼されることができる。
【実施例】
【0031】
実施例1
この実施例では、Fe−ZSM−23の形成を説明する。
【0032】
次の化学薬品がFe−ZSM−23の形成に用いられた。
【0033】
1.NaOHペレット
2.Ludox AS−40(シリカ)
3.鉄(III)硝酸塩九水和物−Fe(NO・9H
4.99%ピロリジン
5.96%硫酸
6.脱イオン水−DIW
【0034】
得られたゲルは、6.5%の固形分含量を有する組成物を有し、及びゲルの調製に使用された材料の比は次式で表すことができる:
Fe:77SiO:15.4NaO:35ピロリジン:15HSO:3441H
【0035】
手順
溶液1:600ccのクリーンなテフロンライナーの中に7.9gのNaOHペレットを加えた。次に306.4gの脱イオン(DI)水をNaOHペレットへ導入し、NaOHペレットが完全に溶解するまで混合した。この溶液に、73.7gのLudox AS−40を5分間かけて混合しながら加えた。溶液は乳化状になり、色は白色になった。
【0036】
溶液2:同時に、鉄(III)硝酸九水和物5.2gを脱イオン水43.6g中に攪拌しながら溶解して溶液2を調製した。溶液は、鮮やかな明るいオレンジ色に変わった。鉄(III)硝酸九水和物を完全に溶解した後、99%のピロリジン15.8gを秤量し、鉄(III)硝酸/DIW溶液に攪拌しながら加えた。
【0037】
次に、溶液2をNaOH/Ludox AS−40/DIWを含有する溶液1に15分間かけて加えた。上記の乳白色のゲル溶液は淡い茶色がかったさび色に変わりそして濃くなったが、液体のままであった。pHは〜13.8であった。
【0038】
pH調整はプラスチックピペットを用いて96%のHSO 7.8gをゆっくり滴下することによって行われた。
【0039】
この工程の完了後、ゲルを更に30分間混合した。ゲルは希薄になり、及びpHを測定した。ゲルのpHは〜13.0であった。ゲルはオートクレーブに充填された。オートクレーブが適切にきっちりと閉められ、窒素ガスを用いて圧力漏れを確認した。漏れがないことを確認した後、窒素ガスを放出した。
【0040】
上記の混合物の結晶化は以下のように行われた。温度は8時間で170℃まで上昇し、170℃で50時間保持された。攪拌速度は500rpmであった。合成が完了した後、混合物を室温まで冷却し、内容物を移動させるためにオートクレーブを開けた。
【0041】
生成物をブフナー漏斗及びフラスコのセットアップを使用して濾過することにより回収した。濾過ケーキを乾燥オーブンに入れ、85℃で一晩乾燥させた。
【0042】
実施例2
実施例1の手順に従って調製されたZSM−23ゼオライト試料は以下のように試験された。表2は、1つはSi/Fe〜40及びもう1つはSi/Fe〜35を有する2つのFe−ZSM−23試料、並びにAl−ZSM−23管理試料のアンモニアTPD(昇温脱離)の結果を示す。アンモニアTPDは、酸点の数(脱離したアンモニアの体積)、及びその点の相対的な強さ(より高い脱離温度〜より強い酸点)についての情報を提供する。表1に示される結果は、Fe−ZSM−23のピークIの脱離温度がAl−ZSM−23とほぼ同じであるが、Fe−ZSM−23のピークIIの脱離温度はAl−ZSM−23と比較して約60〜80℃減少していることを示す。これは、Fe−ZSM−23の酸点は比較的より弱いことを意味する。
【0043】
【表1】
【0044】
実施例3
Si/Fe比が〜40のFe−ZSM−23ゼオライトの試料は実施例1の手順に従って調製された。乾燥後、ゼオライト粉末を乳鉢と乳棒を用いて解砕し、初期湿潤法を用いて白金金属含有溶液と結合させ、モレキュラーシーブ上に0.7wt%のPt添加を行った。そして、この組成物を110℃で乾燥した。試験用に形成された触媒を準備するために、Pt添加したFe−ZSM−23モレキュラーシーブの60重量部(水と有機物を除く)は、アルミナバインンダーの40重量部(水を除く)と混ぜ合わされ、水と硝酸を加えて乳鉢と乳棒を用いて押出しの良好な一貫性が達成できるまで十分に混合された。そして得られた混合物を実験室の手動押出しプレスを用いて1/16インチの開口部をから押出した。押出物を110℃で乾燥させ、約1/4インチ片に分割し、540℃の空気流中で仮焼した。最終触媒の全白金添加は0.42wt%であった。
【0045】
代表的な試験条件下で、30ccの触媒押出物(1/16”)は、長さ約61.75インチのステンレス鋼の固定床反応器に装填された。触媒床自体の長さは約12.75インチであり、不活性Denstone(商標)アルミナ顆粒は支持体及び予熱媒体の両方として使用された。反応器は3ゾーンのThermcraft(商標)電気炉によって加熱され、床を通る軸方向の温度プロファイルを監視するための5つの熱電対を収容する保護管を備えていた。液体供給原料は主にC15−C18n−アルカンから構成されていた。
【0046】
実験の間、反応器流出物の液体試料は、指定された時間/反応温度で加圧された試料ボンベを介して収集され、生成物分布のみならず曇点(CP)が分析された。液体混合物が最初に固化し始める曇点、または温度をPAC MPP5GS曇点分析計を用いて測定した。曇点は、流出物において異性化された及びクラッキングされた化学種の量、つまり触媒活性に関係することができ、即ち、曇点が低いほど異性化及び/またはクラッキングの程度が高く、並びに触媒活性が高い。生成物の分布は、水素炎イオン化検出器(FID)及びHP−5キャピラリーカラム(30m×0.32mm×0.25μm)を備えたAgilent 7890 GCを使用してガスクロマトグラフィー(GC)によって測定された。生成物の分布は、一般的に次のように分類された:(1)%クラッキング(全ての炭化水素≦C10)、(2)%異性化(全てのイソアルカン≧C11)、及び(3)ディーゼル収率(全炭化水素≧C11)。
【0047】
各実験を開始する前に、触媒は水素流中で370℃で一晩還元された。次に、反応器は〜235℃に冷却され、その後、tert−ブチルアミン(TBA)で実質的に不活性化された。この不活性化の目的は、他の方法で反応に使用されるであろう酸点を一時的にブロックすることによって初期のクラッキング活性を弱めることである。この手順は、TBA−添加原料(110ppm、N−ベース)を触媒上235℃、580psig、3.5hr−1のLHSVで2時間、そして1hr−1のLHSVで更に24時間流すことを含んだ。水素は、H対原料体積比(std.cc/min H:cc/min原料)が313であるように目標流量で不活性化の際にも使用された。これは、それぞれ最初の2時間及び最後の24時間の間の469.5sccm及び156.5sccmのHの流れに相当する。特に断りのない限り、TBAの前処理は、全ての実験で利用された。
【0048】
不活性化手順の最後に反応器は圧力(580psig)下で空運転され、同時にTBA−添加原料はTBAなしの新しい原料に切り替えられた。そして、反応器は260℃に加熱され、TBAなしの原料は水素と共にそれぞれ1hr−1LHSV及び156.5sccmで反応器へ再導入された。最後に、反応温度を2〜3週間かけてゆっくりと260℃から320℃(または場合によってはそれ以上)へ上昇させた。温度が上昇するにつれて、TBAは脱離し、順に活性の増大をもたらした酸点を解放した。活性のこの増加は等温条件下で数日間しばしば観察されることができた。従って、特定の温度に保持された時間の長さは変化し、活性の変化に依存した。活性の変化率がほぼゼロまで低下すると、温度は上昇し活性の変化率が再び結果的に減少するまでその新しい値で保持された。低活性において(CP>0℃)、温度は一般に5〜10℃単位で上昇した。より高い活性では、温度は一般的に3〜5℃単位で上昇した。曇点が−35℃>CP>−40℃の範囲の値に達した時に実験を停止した。
【0049】
図では、鉄含有触媒を用いる反応温度がZSM−23アルミノケイ酸塩を用いる温度での実験より30℃高かったにもかかわらず、Fe−ZSM−23触媒では選択性(即ち、%クラッキング)は−30℃の曇点に改善した。もう一つの利点は、TBAとの不活性化工程はFe−ZSM−23を用いた実験には必要ではなかったということである。
【0050】
表2は、ZSM−23アルミノケイ酸塩及び鉄含有ZSM−23を使用して実験を行う間のC11+生成物のジ分岐ピーク面積を比較する。
【0051】
【表2】
図1