(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6383788
(24)【登録日】2018年8月10日
(45)【発行日】2018年8月29日
(54)【発明の名称】自動組立装置およびその制御方法
(51)【国際特許分類】
B23P 19/02 20060101AFI20180820BHJP
B25J 13/08 20060101ALI20180820BHJP
【FI】
B23P19/02 P
B25J13/08 Z
【請求項の数】14
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-523011(P2016-523011)
(86)(22)【出願日】2014年5月27日
(86)【国際出願番号】JP2014063978
(87)【国際公開番号】WO2015181891
(87)【国際公開日】20151203
【審査請求日】2017年5月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105795
【弁理士】
【氏名又は名称】名塚 聡
(72)【発明者】
【氏名】倉 岡 修 平
(72)【発明者】
【氏名】水 本 裕 之
【審査官】
八板 直人
(56)【参考文献】
【文献】
特開平07−241733(JP,A)
【文献】
特開平10−076492(JP,A)
【文献】
特開昭64−067998(JP,A)
【文献】
特開2012−139776(JP,A)
【文献】
特開昭62−113941(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23P 19/02−19/033
B25J 13/08
B25J 15/08
B25J 17/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の部材と他方の部材を自動的に嵌合するための自動組立装置であって、
ベース部と、
前記一方の部材および前記他方の部材の嵌合方向に沿って前記ベース部を直動駆動するための直動駆動手段と、
前記嵌合方向に延びる中心軸線周りに前記ベース部を回転駆動するための回転駆動手段と、
前記ベース部に対して前記嵌合方向に沿って移動可能に設けられた可動部と、
前記一方の部材を解放可能に保持するために前記可動部に設けられた部材保持手段と、
前記ベース部と前記可動部との間に弾発力を付与するための弾発手段と、
前記ベース部と前記可動部との間の距離の変化に関する距離変化情報を取得するための、複数の位置を検出可能なセンサ手段と、
前記距離変化情報に基づいて前記一方の部材と前記他方の部材の嵌合状態を判定するための嵌合状態判定手段と、を備え、
前記嵌合状態判定手段は、前記距離変化情報に基づいて、前記他方の部材に対する前記一方の部材の予備嵌合が成功したか否かを判定する機能と、前記他方の部材に対する前記一方の部材の嵌合が完了したか否かを判定する機能と、を有する、自動組立装置。
【請求項2】
前記直動駆動手段および前記回転駆動手段は、ロボットアームによって構成されており、
前記ベース部は、前記ロボットアームに装着されている、請求項1記載の自動組立装置。
【請求項3】
前記嵌合状態判定手段は、前記ロボットアームを制御するためのロボットコントローラによって構成されている、請求項2記載の自動組立装置。
【請求項4】
前記部材保持手段は、前記ロボットアームを制御するためのロボットコントローラによって制御されるように構成されている、請求項2または3に記載の自動組立装置。
【請求項5】
前記弾発手段は、エアシリンダを有する、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の自動組立装置。
【請求項6】
前記センサ手段は、前記ベース部と前記可動部との間の距離を計測するための測距計を有する、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の自動組立装置。
【請求項7】
前記一方の部材は、前記嵌合方向に直交する方向における断面が楕円形であり、
前記他方の部材は、前記一方の部材が挿入される受入凹部を有する、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の自動組立装置。
【請求項8】
前記受入凹部は、可撓性材料によって形成されている、請求項7記載の自動組立装置。
【請求項9】
前記受入凹部は、前記嵌合方向に直交する方向における断面が円形であり、前記一方の部材を前記受入凹部に挿入した際に前記他方の部材が必要な長軸方向に弾性変形する、請求項8記載の自動組立装置。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか一項に記載の自動組立装置の制御方法であって、
前記一方の部材を前記部材保持手段で保持した状態で、前記一方の部材を前記他方の部材の直上のアプローチ位置に配置する部材配置工程と、
前記ベース部を所定の予備嵌合動作距離だけ前記他方の部材に向けて移動させる予備嵌合動作工程と、
前記距離変化情報に基づいて、前記他方の部材に対する前記一方の部材の予備嵌合が成功したか否かを判定する予備嵌合成否判定工程と、
前記予備嵌合が成功したと判定された場合、前記一方の部材を前記他方の部材の中に完全に嵌合する完全嵌合工程と、
前記予備嵌合が失敗したと判定された場合、前記一方の部材を前記アプローチ位置まで退避させる部材退避工程と、を備えた自動組立装置の制御方法。
【請求項11】
前記部材退避工程と同時またはその後に、前記一方の部材を前記中心軸線周りに所定の角度だけ回転させる部材回転工程をさらに有する、請求項10記載の自動組立装置の制御方法。
【請求項12】
前記部材退避工程および前記部材回転工程の後に前記予備嵌合動作工程を実施するという動作を繰り返し、この繰り返し動作の回数が所定数を超えたら嵌合動作を終了する、請求項11記載の自動組立装置の制御方法。
【請求項13】
前記完全嵌合工程において、前記一方の部材を前記中心軸線周りに回転させる、請求項10乃至12のいずれか一項に記載の自動組立装置の制御方法。
【請求項14】
前記一方の部材は、前記嵌合方向に直交する方向における断面が楕円形であり、
前記他方の部材は、前記一方の部材が挿入される受入凹部を有し、
前記受入凹部は、可撓性材料によって形成されている、請求項10乃至13のいずれか一項に記載の自動組立装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一方の部材を他方の部材に自動的に嵌合するための自動組立装置およびその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、挿入部材を受入部材の凹部や孔の中に自動的に嵌合する自動組立装置が知られている。従来の自動組立装置は、嵌合方向に直交する方向の断面が円形である挿入部材を、同じく円形断面を有する受入部材の凹部や孔の中に嵌合するものである。
【0003】
従来の自動組立装置が取り扱う挿入部材および受入部材は、嵌合方向に直交する方向の断面が円形であるので、嵌合時において、嵌合方向に延びる中心軸線周りの、挿入部材と受入部材との相対的な角度位置を合わせておく必要がない。
【0004】
上記の通り従来の自動組立装置は、嵌合方向に直交する方向の断面が円形である挿入部材および受入部材を対象とするものであり、挿入部材および受入部材の少なくとも一方が非円形断面を有する場合には取り扱うことができなかった。
【0005】
断面非円形の挿入部材の一例としては、波動歯車装置のフレクスプラインの中に挿入されるウェーブ・ジェネレータが挙げられる(特許文献1)。ウェーブ・ジェネレータは、楕円状カムの外周に、薄肉のボールベアリングを嵌めた構造である。フレクスプラインは、薄肉カップ状の金属弾性部材で構成されており、外周に歯が形成されている。
【0006】
なお、嵌合方向に直交する方向におけるフレクスプラインの断面形状は、ウェーブ・ジェネレータが嵌合される前の状態においては円形であり、ウェーブ・ジェネレータが嵌合されることにより、ウェーブ・ジェネレータの楕円断面形状に沿ってフレクスプラインの断面が楕円状に弾性変形する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭62−113941号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の通り波動歯車装置においては、挿入部材であるウェーブ・ジェネレータが、その嵌合方向に直交する方向の断面が円形ではなく楕円形である。一方、受入部材であるフレクスプラインは、薄肉カップ状の金属弾性部材で断面円形状に構成されている。
【0009】
しかも、フレクスプラインの周囲にはサーキュラ・スプラインが配置されており、フレクスプラインの外周面に形成された外歯の数と、サーキュラ・スプラインの内周面に形成された内歯の数とが一致していない。例えば、サーキュラ・スプラインの歯数の方が、フレクスプラインの歯数よりも2枚多い。
【0010】
このため、フレクスプラインの複数の外歯とサーキュラ・スプラインの複数の内歯との対向状態は、周方向において一様では無く、互いに噛み合い可能な部分と、互いに噛み合い不可能な部分が混在している。従って、断面楕円形状のウェーブ・ジェネレータを断面円形状のフレクスプラインに嵌合した場合、嵌合によって外側に膨出する部分のフレクスプラインの外歯がサーキュラ・スプラインの内歯と噛み合うときと噛み合わないときとが生じ得る。
【0011】
その結果、波動歯車装置のウェーブ・ジェネレータをフレクスプラインに嵌合する作業は複雑となり、作業者による手作業で行なわれている。すなわち、作業者は、ウェーブ・ジェネレータが装着されたモータを把持し、嵌合方向に延びる軸線周りにウェーブ・ジェネレータとフレクスプラインを互いに相対的に回転させながら、フレクスプラインの外歯とサーキュラ・スプラインの内歯とが噛み合う位置を感触で探し出す。
【0012】
フレクスプラインの外歯とサーキュラ・スプラインの内歯とが噛み合う位置を感触で探し出したら、作業者は、そこから少し押す力を加え、ウェーブ・ジェネレータを正逆方向に回転させながら、ウェーブ・ジェネレータをフレクスプラインの中に押し込んでいく。
【0013】
このとき、フレクスプラインの外歯とサーキュラ・スプラインの内歯とが噛み合っていない位置で無理矢理にウェーブ・ジェネレータをフレクスプラインの中に押し込もうとしたり、押込み力を加え過ぎたりすると、波動歯車装置が正常に作動しなくなる可能性もある。
【0014】
上記の通り、ウェーブ・ジェネレータとフレクスプラインとを互いに嵌合する作業は、作業員による手作業であり、しかも、力加減や位相合わせなどにおいて個人の技能も必要となるため、作業負担が大きいという問題があった。
【0015】
また、波動歯車装置のウェーブ・ジェネレータおよびフレクスプラインに限らず、挿入部材および受入部材の少なくとも一方において、嵌合方向に直交する方向の断面が非円形である場合には、嵌合動作の自動化は困難であった。例えば、断面楕円状の挿入部材を断面楕円状の受入部材に嵌合するためには、嵌合前に両部材の位相を合わせておく必要がある。
【0016】
本発明は、上述した従来技術の問題点に鑑みてなされたものであって、互いに嵌合される一方の部材および他方の部材のうちの少なくとも一つにおいて、嵌合方向に直交する方向における断面が非円形である場合でも、互いに支障なく嵌合することができる自動組立装置およびその制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様は、一方の部材と他方の部材を自動的に嵌合するための自動組立装置であって、ベース部と、前記一方の部材および前記他方の部材の嵌合方向に沿って前記ベース部を直動駆動するための直動駆動手段と、前記嵌合方向に延びる中心軸線周りに前記ベース部を回転駆動するための回転駆動手段と、前記ベース部に対して前記嵌合方向に沿って移動可能に設けられた可動部と、前記一方の部材を解放可能に保持するために前記可動部に設けられた部材保持手段と、前記ベース部と前記可動部との間に弾発力を付与するための弾発手段と、前記ベース部と前記可動部との間の距離の変化に関する距離変化情報を取得するためのセンサ手段と、前記距離変化情報に基づいて前記一方の部材と前記他方の部材の嵌合状態を判定するための嵌合状態判定手段と、を備えたことを特徴とする。
【0018】
本発明の第2の態様は、第1の態様において、前記直動駆動手段および前記回転駆動手段は、ロボットアームによって構成されており、前記ベース部は、前記ロボットアームに装着されている、ことを特徴とする。
【0019】
本発明の第3の態様は、第2の態様において、前記嵌合状態判定手段は、前記ロボットアームを制御するためのロボットコントローラによって構成されている、ことを特徴とする。
【0020】
本発明の第4の態様は、第2または第3の態様において、前記部材保持手段は、前記ロボットアームを制御するためのロボットコントローラによって制御されるように構成されている、ことを特徴とする。
【0021】
本発明の第5の態様は、第1乃至第4のいずれかの態様において、前記弾発手段は、エアシリンダを有する、ことを特徴とする。
【0022】
本発明の第6の態様は、第1乃至第5のいずれかの態様において、前記センサ手段は、前記ベース部と前記可動部との間の距離を計測するための測距計を有する、ことを特徴とする。
【0023】
本発明の第7の態様は、第1乃至第6のいずれかの態様において、前記一方の部材は、前記嵌合方向に直交する方向における断面が楕円形であり、前記他方の部材は、前記一方の部材が挿入される受入凹部を有する、ことを特徴とする。
【0024】
本発明の第8の態様は、第7の態様において、前記受入凹部は、可撓性材料によって形成されている、ことを特徴とする。
【0025】
本発明の第9の態様は、第8の態様において、前記受入凹部は、前記嵌合方向に直交する方向における断面が円形であり、前記一方の部材を前記受入凹部に挿入した際に前記他方の部材が必要な長軸方向に弾性変形する、ことを特徴とする。
【0026】
上記課題を解決するために、本発明の第10の態様は、第1乃至第9のいずれかの態様による自動組立装置の制御方法であって、前記一方の部材を前記部材保持手段で保持した状態で、前記一方の部材を前記他方の部材の直上のアプローチ位置に配置する部材配置工程と、前記ベース部を所定の予備嵌合動作距離だけ前記他方の部材に向けて移動させる予備嵌合動作工程と、前記距離変化情報に基づいて、前記他方の部材に対する前記一方の部材の予備嵌合が成功したか否かを判定する予備嵌合成否判定工程と、前記予備嵌合が成功したと判定された場合、前記一方の部材を前記他方の部材の中に完全に嵌合する完全嵌合工程と、前記予備嵌合が失敗したと判定された場合、前記一方の部材を前記アプローチ位置まで退避させる部材退避工程と、を備えたことを特徴とする。
【0027】
本発明の第11の態様は、第10の態様において、前記部材退避工程と同時またはその後に、前記一方の部材を前記中心軸線周りに所定の角度だけ回転させる部材回転工程をさらに有する、ことを特徴とする。
【0028】
本発明の第12の態様は、第11の態様において、前記部材退避工程および前記部材回転工程の後に前記予備嵌合動作工程を実施するという動作を繰り返し、この繰り返し動作の回数が所定数を超えたら嵌合動作を終了する、ことを特徴とする。
【0029】
本発明の第13の態様は、第10乃至第12のいずれかの態様において、前記完全嵌合工程において、前記一方の部材を前記中心軸線周りに回転させる、ことを特徴とする。
【0030】
本発明の第14の態様は、第10乃至第13のいずれかの態様において、前記一方の部材は、前記嵌合方向に直交する方向における断面が楕円形であり、前記他方の部材は、前記一方の部材が挿入される受入凹部を有し、前記受入凹部は、可撓性材料によって形成されている、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、互いに嵌合される一方の部材および他方の部材のうちの少なくとも一つにおいて、嵌合方向に直交する方向における断面が非円形である場合でも、互いに支障なく嵌合することができる自動組立装置およびその制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】本発明の一実施形態による自動組立装置の概略構成を示した正面図。
【
図2】(a)は、作業台の上に受入部材と共に載置された挿入部材を、
図1に示した自動組立装置のエンドエフェクタで把持した状態を示した図、(b)は、受入部材の位相を示した図。
【
図3】(a)は、
図1に示した自動組立装置のエンドエフェクタで把持した挿入部材を、受入部材の直上のアプローチ位置に配置した状態を示した図、(b)は、挿入部材の位相を示した図、(c)は、受入部材の位相を示した図。
【
図4】(a)は、
図1に示した自動組立装置のエンドエフェクタで把持した挿入部材の、受入部材への予備嵌合が失敗した状態を示した図、(b)は、挿入部材の位相を示した図、(c)は、受入部材の位相を示した図。
【
図5】(a)は、
図1に示した自動組立装置のエンドエフェクタで把持した挿入部材の、受入部材への予備嵌合が成功した状態を示した図、(b)は、挿入部材の位相を示した図、(c)は、受入部材の位相を示した図。
【
図6】(a)は、
図1に示した自動組立装置のエンドエフェクタで把持した挿入部材を回転させながら受入部材の中に押し込んでいく状態を示した図、(b)は、挿入部材の位相を示した図、(c)は、受入部材の位相を示した図。
【
図7】(a)は、
図1に示した自動組立装置のエンドエフェクタで把持した挿入部材の、受入部材への嵌合が完了した状態を示した図、(b)は、挿入部材の位相を示した図、(c)は、受入部材の位相を示した図。
【
図8】
図1に示した自動組立装置の制御方法としての嵌合動作を示したフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の一実施形態による自動組立装置およびその制御方法について、図面を参照して説明する。
【0034】
本実施形態による自動組立装置は、挿入部材(一方の部材)と受入部材(他方の部材)を自動的に嵌合するための装置である。なお、以下では、波動歯車装置のウェーブ・ジェネレータ(挿入部材)とフレクスプライン(受入部材)を嵌合する場合を例として説明する。
【0035】
図1に示したように、本実施形態による自動組立装置1は、多関節ロボットのロボットコントローラ2と、ロボットコントローラ2によって制御される多関節ロボットのロボットアーム3と、ロボットコントローラ3の先端に装着されたエンドエフェクタ4と、を備える。
【0036】
エンドエフェクタ4は、ロボットアーム3の先端の回転軸5に固定されたベース部6を有する。ロボットアーム3は、ベース部6を嵌合方向に沿って直動駆動するためのベース部駆動手段を構成する。ロボットアーム3の先端の回転軸5は、嵌合方向に延びる中心軸線A0周りにベース部6を回転駆動するための回転駆動手段を構成する。
【0037】
ベース部6の下方には、可動部7が離間して設けられている。可動部7は、ベース部6に上端が固定された複数(本例では3本)のガイド部材8でその直動動作が案内される。これにより可動部7は、ベース部6に対して嵌合方向(中心軸線A0の方向)に沿って移動可能となっている。ガイド部材8の下端にはストッパ部材9が設けられており、ストッパ部材9によって、ベース部6から離間する方向への可動部7の移動が規制されている。
【0038】
ベース部6と可動部7との間にはエアシリンダ(弾発手段)10が設けられており、エアシリンダ10のシリンダ本体10Aの後端がベース部6に固定され、ピストン10Bの先端が可動部7を押圧している。このエアシリンダ10によって、ベース部6と可動部7との間に弾発力が付与されている。
【0039】
可動部7の下面には、挿入部材を解放可能に保持するための部材保持手段11が設けられている。部材保持手段11は、中心軸線A0に関して半径方向に移動可能な複数(本例では3つ)の可動把持爪12を有し、複数の可動把持爪12で挿入部材を挟持するように構成されている。可動把持爪12による挿入部材の保持動作は、ロボットコントローラ2によって制御される。
【0040】
ベース部6には、ベース部6と可動部7との間の距離の変化に関する距離変化情報を取得するためのセンサ手段13としての測距計14が設けられている。測距計14は、例えば光センサによって構成されており、ベース部6と可動部7との間の距離を計測することができる。
【0041】
測距計14の出力信号(距離変化情報)は、ロボットコントローラ2に伝送される。ロボットコントローラ2は、取得した距離変化情報に基づいて、挿入部材と受入部材との嵌合状態を判定するための嵌合状態判定手段として機能する。
【0042】
次に、本実施形態による自動組立装置1を制御して、挿入部材であるウェーブ・ジェネレータと、受入部材であるフレクスプラインを嵌合する方法について、
図2乃至
図8を参照して説明する。
【0043】
なお、上述したように、嵌合方向に直交する方向におけるフレクスプライン(受入部材)の断面形状は、ウェーブ・ジェネレータ(挿入部材)が嵌合される前の状態においては円形であり、ウェーブ・ジェネレータが嵌合されることにより、ウェーブ・ジェネレータの楕円断面形状に沿ってフレクスプラインの断面が楕円状に弾性変形する。
【0044】
また、フレクスプラインの外歯とサーキュラ・スプラインの内歯とは、それらの歯数の相違に起因して、互いに噛み合い可能な部分と互いに噛み合い不可能な部分とが存在する。
【0045】
図2乃至
図7(c)においては、フレクスプラインの外歯とサーキュラ・スプラインの内歯とが噛み合い可能な部分と噛み合い不可能な部分とを明示するために、受入部材の形状を楕円形状で示している。すなわち、楕円の長軸に対応する部分が噛み合い可能な部分に対応し、それ以外の部分が噛み合い不可能な部分に対応する。つまり、弾性変形可能な円形であるフレクスプラインがウェーブ・ジェネレータの挿入により
図2乃至
図7(c)に示す楕円の長軸に合致した場合に噛み合い可能となる。
【0046】
本実施形態による自動組立装置1を用いてウェーブ・ジェネレータをフレクスプラインの中に嵌合する際には、まず、自動組立装置1による嵌合動作を開始し(
図8の工程S1)、ロボットコントローラ2によってロボットアーム3および部材保持手段11を制御して、
図2に示した作業台15の上に載置されている挿入部材(一方の部材)16を可動把持爪12で保持する。より詳細に言えば、挿入部材16であるウェーブ・ジェネレータが装着されたモータを可動把持爪12で保持する。載置台15の上には、挿入部材16と嵌合される受入部材17も載置されている。受入部材17は、可撓性金属材料で形成されたフレクスプラインであり、フレクスプラインの周囲にはサーキュラ・スプラインが配置されている。
【0047】
可動把持爪12で挿入部材16を保持した状態でロボットアーム3を駆動して、
図3(a)に示したように、挿入部材16を受入部材17の直上のアプローチ位置に移動させる(挿入部材配置工程:
図8の工程S2)。このときのベース部6と可動部7との距離は、最大距離L0である。
【0048】
図3(a)に示した状態で、ロボットアーム3先端の回転軸5を回転駆動して、中心軸線A0周りにベース部6と共に挿入部材16を所定角度だけ回転させる(挿入部材回転工程:
図8の工程S3)。このときの所定角度は、挿入部材16と受入部材17の形状に応じて任意に決定することが可能であり、本例では10°程度とする。
【0049】
次に、ロボットアーム3を駆動して、ベース部6を所定の予備嵌合動作距離L2(
図4(a)、
図5(a))だけ嵌合方向(中心軸線A0の方向)に沿って受入部材17に向けて移動させる(予備嵌合動作工程:
図8の工程S4)。
【0050】
予備嵌合動作工程S4において、
図4(b)、(c)に示したように挿入部材16の位相と受入部材17の位相とが一致していない場合には、挿入部材16の下面が受入部材17の上端に押し付けられる。これにより、受入部材17から挿入部材16に対して反力が作用し、この反力によって、
図4(a)に示したように、エアシリンダ10の弾発力に抗して可動部7がベース部6の方向に押し上げられる。
【0051】
このため、測距計14によって計測されるベース部6と可動部7との距離が、
図4(a)に示したようにL0−ΔL1となる。ロボットコントローラ2は、ベース部6と可動部7との距離がL0からL0−ΔL1に変化したことを検出して、挿入部材16と受入部材17との予備嵌合が失敗したと判定する(予備嵌合成否判定工程:
図8の工程S5)。
【0052】
予備嵌合成否判定工程S5において予備嵌合が失敗したと判定された場合には、予備嵌合動作回数が所定数以下であるか否かを判定し(
図8の工程S6)、所定数を超えている場合には嵌合動作を終了する(
図8の工程S7)。
【0053】
一方、予備嵌合動作回数が所定数以下である場合は、挿入部材配置工程S2に戻り、ロボットアーム3を駆動して挿入部材16をアプローチ位置まで退避させる(挿入部材退避工程:
図8の工程S2=挿入部材配置工程)。
【0054】
挿入部材退避工程S2の後に、再び、挿入部材回転工程S3、予備嵌合動作工程S4、および予備嵌合成否判定工程S5を実施する。なお、挿入部材回転工程S3は、挿入部材退避工程S2と同時に実施しても良い。
【0055】
予備嵌合動作工程S4において、
図5(b)、(c)に示したように挿入部材16の位相と受入部材17の位相とがほぼ一致している場合には、
図5(a)に示したように挿入部材16が受入部材17の受入凹部の中に僅かに嵌合される(予備嵌合位置)。この状態においては、受入部材17から挿入部材16に対して作用する反力はゼロ若しくは十分に小さいので、エアシリンダ10の弾発力に抗して可動部7がベース部6の方向に移動することがないか、或いは移動するとしても僅かな距離となる。
【0056】
すなわち、測距計14によって計測されるベース部6と可動部7との距離は、最大距離L0から変化しないか、或いは最大距離L0よりも僅かに小さい距離となる。そこで、ロボットコントローラ2は、ベース部6を所定の予備嵌合動作距離L2だけ降下させた時点で、ベース部6と可動部7との距離が最大距離L0から変化がないこと、或いは僅かに変化することを検知して、挿入部材16と受入部材17との予備嵌合がほぼ成功したものと判定する(予備嵌合成否判定工程:
図8の工程S5)。
【0057】
図6(b)、(c)に示したように挿入部材16の位相と受入部材17の位相とがほぼ一致した予備嵌合状態で、
図6(a)に示したように、ロボットアーム3を駆動して、ベース部6を所定の押圧動作距離L4だけ受入部材17に向けて移動させる(押圧動作工程:
図8の工程S8)。
【0058】
このとき、受入部材17から挿入部材16に作用する反力がゼロで無い場合、エアシリンダ10の弾発力に抗して可動部7がベース部6側に僅かに押し込まれ、
図6(a)に示したようにベース部6と可動部7との距離がL0−ΔL3となる。
【0059】
この状態で、
図6(b)に矢印で示したように、ロボットアーム3先端の駆動軸5を回転駆動して、ベース部6と共に挿入部材16の内側回転部(断面楕円状である)を正逆方向に回転させる(
図8の工程S9)。より具体的には、挿入部材16であるウェーブ・ジェネレータの内側部分がベアリングを介して回転可能に構成されており、この内側回転部をベーブ部6と共に回転させる。この回転動作は、フレクスプラインの外歯とサーキュラ・スプラインの内歯との噛み合い状態をより完全な状態とし、エアシリンダ10の弾発力による挿入部材16の嵌合動作を促進する。すなわち、上述した予備嵌合状態においては、フレクスプラインの外歯とサーキュラ・スプラインの内歯とは、必ずしも完全な噛み合い状態とはなっていない場合がある。そこで、ウェーブ・ジェネレータの内側回転部(断面楕円状)を正逆方向に回転させることにより、フレクスプラインの膨出部分を周方向に移動させて、フレクスプラインの外歯とサーキュラ・スプラインの内歯との噛み合い状態を完全なものとする。
【0060】
図7(b)、(c)に示したように挿入部材16の位相と受入部材17の位相とが一致した状態で、エアシリンダ10の弾発力によって挿入部材16が所定の高さ(深さ)まで嵌合されると、
図7(a)に示したように、測距計14によって計測されるベース部6と可動部7との距離がL0−L5(L3>L5)となる。ロボットコントローラ2は、ベース部6と可動部7との距離がL0−L5になったことを検知して(
図8の工程S10)、嵌合動作を終了する(
図8の工程S11)。
【0061】
一方、ベース部6と可動部7との距離がL0−L5に達していない場合には、工程S9に戻って、挿入部材16を受入部材17と共に再び正逆方向に回転させる。この動作を、工程S10において嵌合完了と判定されるまで繰り返す。
【0062】
なお、上述した工程S8および工程S9は、本発明による自動組立装置の制御方法における完全嵌合工程を構成する。
【0063】
以上述べたように、本実施形態による自動組立装置1およびその制御方法によれば、挿入部材16と受入部材17との予備嵌合の成否を判定し、失敗の場合には、挿入部材16を退避させ、所定量だけ回転させた後、再び予備嵌合動作を実施するようにしたので、嵌合方向に直交する方向における断面が非円形の挿入部材16および受入部材17においても、これらの部材を支障なく嵌め合わせることができる。
【0064】
また、予備嵌合位置から完全嵌合位置までの完全嵌合動作を、エアシリンダ10の弾発力を利用して実施するようにしたので、完全嵌合動作の際に挿入部材16および受入部材17に無理な力がかかることを防止することができる。
【0065】
本実施形態による自動組立装置1およびその制御方法は、波動歯車装置のウェーブ・ジェネレータ(挿入部材)とフレクスプライン(受入部材)との嵌め合わせのような繊細な操作が必要な場合でも、支障なく好適に使用することができる。但し、本発明による自動組立装置およびその制御方法は、波動歯車装置の組み立て以外にも広く適用できるものである。
【0066】
なお、上述した実施形態においては、多関節ロボットを用いた自動組立装置について説明したが、本発明による自動組立装置は、必ずしも多関節ロボットを必須とするものではなく、多関節ロボットに代えて、例えば、ストロークを制御可能な直動駆動機構と、回転量を制御可能な回転駆動機構とを組み合わせた装置を用いることもできる。
【0067】
また、上述した実施形態においては、挿入部材16を移動させて受入部材17の中に嵌合する構成について説明したが、本発明による自動組立装置およびその制御方法においては、部材保持手段によって、受入凹部を有する受入部材のほうを保持し、挿入部材に向けて受入部材を移動させ、受入部材を挿入部材に被せるようにして両部材を嵌合しても良い。
【0068】
また、上記実施形態においては、一方の部材が楕円形であり、これを円形であり弾性変形可能な他方の部材に挿入した場合、他方の部材を必要な長軸方向に弾性変形させ、これらを自動的に嵌合する、という場合について説明したが、本発明による自動組立装置およびその制御方法は、このような場合に限定されるものではない。例えば、他方の部材も楕円形であり、一方及び他方の長軸を合致させるような場合にも、本発明による自動組立装置およびその制御方法を使用することができる。
【符号の説明】
【0069】
1 自動組立装置
2 ロボットコントローラ
3 ロボットアーム
4 エンドエフェクタ
5 回転軸
6 ベース部
7 可動部
8 ガイド部材
9 ストッパ部材
10 エアシリンダ(弾発手段)
10A エアシリンダのシリンダ本体
11 部材保持手段
12 可動把持爪
13 センサ手段
14 測距計
15 作業台
16 挿入部材(一方の部材)
17 受入部材(他方の部材)
A0 中心軸線