特許第6383835号(P6383835)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6383835
(24)【登録日】2018年8月10日
(45)【発行日】2018年8月29日
(54)【発明の名称】セルロース粉末
(51)【国際特許分類】
   C08B 15/00 20060101AFI20180820BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20180820BHJP
   A61K 31/166 20060101ALI20180820BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20180820BHJP
【FI】
   C08B15/00
   A61K9/20
   A61K31/166
   A61K47/38
【請求項の数】9
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2017-90401(P2017-90401)
(22)【出願日】2017年4月28日
(62)【分割の表示】特願2014-518741(P2014-518741)の分割
【原出願日】2013年5月30日
(65)【公開番号】特開2017-165972(P2017-165972A)
(43)【公開日】2017年9月21日
【審査請求日】2017年4月28日
(31)【優先権主張番号】特願2012-124016(P2012-124016)
(32)【優先日】2012年5月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大生 和博
(72)【発明者】
【氏名】垣澤 真幸
(72)【発明者】
【氏名】山下 満男
【審査官】 吉海 周
(56)【参考文献】
【文献】 特許第6210981(JP,B2)
【文献】 特開2010−018670(JP,A)
【文献】 特開2005−232260(JP,A)
【文献】 特開平08−104650(JP,A)
【文献】 特公昭56−002047(JP,B1)
【文献】 特公昭40−026274(JP,B1)
【文献】 国際公開第2013/180249(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/180248(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/002253(WO,A1)
【文献】 国際公開第2009/157564(WO,A1)
【文献】 国際公開第2006/115198(WO,A1)
【文献】 国際公開第2002/002643(WO,A1)
【文献】 国際公開第2004/106416(WO,A1)
【文献】 粉末セルロース KCフロック,日本製紙ケミカル株式会社 営業本部,2006年
【文献】 粉末セルロース KCフロック,日本製紙ケミカル株式会社 営業本部,2010年
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B 1/00− 37/18
C08J 3/00− 3/28
C08L 1/00−101/14
A61K 9/00− 9/72
A61K 47/00− 47/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均重合度が100〜300、重量平均粒子径が30μmより大きく、250μm以下、見掛け比容積が2.0cm3/g以上〜4.0cm3/g未満、及び1%NaOH水溶液抽出時の全有機炭素量(%)−純水抽出時の全有機炭素量(%)で定義される残留不純物由来の有機炭素量が0.002〜0.060%であるセルロース粉末。
【請求項2】
粒子内細孔容積が0.1cm/g以上、0.265cm/g未満である請求項1に記載のセルロース粉末。
【請求項3】
セルロース粉末50g中に含まれる黒色の目視異物が0〜20個である請求項1に記載のセルロース粉末。
【請求項4】
請求項1又は3に記載のセルロース粉末を含む成形体。
【請求項5】
成形体が1つ以上の活性成分を含む錠剤である請求項4に記載の成形体。
【請求項6】
活性成分としてエテンザミド、添加剤として噴霧乾燥乳糖、アルファー化デンプン、植物性ステアリン酸マグネシウム、及び請求項1〜3のいずれか一項に記載のセルロース粉末を含む成形体であって、該成形体中の該セルロース粉末の配合量が5〜90重量%であり、かつ硬度が50〜100N、引張強度が0.1〜5.5MPa、摩損度が0〜0.5%、アセトン中での錠剤直径膨潤率が0〜3.3%である成形体。
【請求項7】
セルロース粉末を5〜90重量%含む請求項に記載の成形体。
【請求項8】
成形体をアセトン洗浄、エタノール洗浄、純水洗浄、エタノール洗浄を経て抽出される成形体残渣の残留不純物由来の全有機炭素量が0.002〜0.060%である請求項又はに記載の成形体。
【請求項9】
成形体をアセトン洗浄、エタノール洗浄、純水洗浄、エタノール洗浄を経て抽出されるセルロース粉末中の残留不純物由来の全有機炭素量が0.002〜0.060%である請求項又はに記載の成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬、食品、工業用途において使用されるセルロース粉末に関する。より詳細には、医薬用途において、乾燥時の焦げが抑制され、黒色異物が少なく、その結果錠剤の不良率低減に寄与でき、さらには末端にアミノ基を有する薬物との着色性が大きく改善された圧縮成形用賦形剤に適するセルロース粉末及びそれからなる成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
錠剤等の製剤化においては、健康への悪影響を防止する目的で、徹底した衛生管理が行われている。錠剤に用いられる原材料は、製造工程で篩過し、錠剤中へ異物の混入自体を防ぐ方法や、最終製品の外観検査により異物が認められた錠剤を取り除くことが行われている。しかし、天然原料由来の黒点・斑点が原因で消費者クレームとなることがあり、錠剤用の原材料へは、天然原料由来の異物についても厳しく管理することが求められる。
圧縮成形用賦形剤として用いられるセルロース粉末としては以下のものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公昭40−26274号公報
【特許文献2】特公昭56−2047号公報
【特許文献3】国際公開第2006/115198号パンフレット
【特許文献4】特開昭57−212231号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
セルロース粉末中の異物は天然原料由来の不純物や、セルロース自体が変色したもの等がある。セルロース自体が変色する原因として、乾燥時の焦げが考えられるが、乾燥時の焦げを低減する方法については知られていなかった。
本発明は、乾燥時の焦げが抑制され、黒色異物が少なく、その結果錠剤の不良率低減に寄与でき、さらには末端にアミノ基を有する薬物との着色性が大きく改善された圧縮成形用賦形剤に適するセルロース粉末を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上述した現状に鑑み鋭意検討した結果、セルロース粉末を製造する際、特定の製造条件にすることで、乾燥時の焦げを抑制され、黒色異物が少なく、その結果錠剤の不良率低減に寄与でき、さらには末端にアミノ基を有する薬物との着色性を低減することができることを見出し、本発明を達成したものである。即ち本発明は、下記の通りである。
(1)平均重合度が100〜300、重量平均粒子径が30μmより大きく、250μm以下、見掛け比容積が2.0cm3/g以上〜4.0cm3/g未満、及び1%NaOH水溶液抽出時の全有機炭素量(%)−純水抽出時の全有機炭素量(%)で定義される残留不純物由来の有機炭素量が0.002〜0.060%であるセルロース粉末、
(2)粒子内細孔容積が0.1cm/g以上、0.265cm/g未満である(1)のセルロース粉末、
(3)セルロース粉末50g中に含まれる黒色の目視異物が0〜20個である(1)のセルロース粉末、
(4)(1)又は(3)のセルロース粉末を含む成形体、
(5)成形体が1つ以上の活性成分を含む錠剤である(4)の成形体、
(6)天然セルロース質物質を塩酸濃度0.05〜0.15%、加水分解温度125〜150℃、及び加水分解時間110分を超え、150分以下の条件で、又は塩酸濃度0.15%を超え〜0.4%、加水分解温度125〜150℃、及び加水分解時間50〜150分の条件で加水分解し、次いで得られた分散液を入口温度150〜300℃で噴霧乾燥することにより、平均重合度100−300、重量平均粒子径30μmより大きく、250μm以下、見掛け比容積2.0cm3/g以上〜4.0cm3/g未満、及び1%NaOH水溶液抽出時の全有機炭素量(%)−純水抽出時の全有機炭素量(%)で定義される残留不純物由来の有機炭素量が0.002〜0.060%のセルロース粉末を得る、該セルロース粉末の製造方法、
(7)1つ以上の活性成分と、糖類、糖アルコール類、デンプン類、崩壊剤から選ばれる1つ以上の添加剤と、セルロース粉末とを含む成形体であって、硬度が50〜100N、引張強度が0.1〜5.5MPa、摩損度が0〜0.5%、アセトン中での成形体直径膨潤率が0〜3.3%である成形体、
(8)セルロース粉末を5〜90重量%含む(7)の成形体、
(9)成形体をアセトン洗浄、エタノール洗浄、純水洗浄、エタノール洗浄を経て抽出される成形体残渣の残留不純物由来の全有機炭素量が0.002〜0.060%である(7)又は(8)の成形体。
(10)成形体をアセトン洗浄、エタノール洗浄、純水洗浄、エタノール洗浄を経て抽出されるセルロース粉末中の残留不純物由来の全有機炭素量が0.002〜0.060%である(7)又は(8)の成形体。
【発明の効果】
【0006】
本発明のセルロース粉末は、乾燥時の焦げが抑制され、黒色異物が少なく、その結果錠剤の不良率低減に寄与でき、さらには末端にアミノ基を有する薬物との着色性を低減する効果を有する。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下本発明について詳細に説明する。
本発明のセルロース粉末は、その平均重合度が100−300であり、好ましくは150−300、さらに好ましくは180−250である。平均重合度が100以上とすることで成形性が向上するので好ましく、また300以下とすることで繊維性が発現することなく粉体の流動性及び崩壊性も優れるので好ましい。平均重合度が100−300の場合は成形性、崩壊性、流動性のバランスが特に優れるので好ましい。
【0008】
本発明のセルロース粉末は重量平均粒径が30μmより大きく、250μm以下である必要がある。30μm超えとすることで、付着凝集性が増すことなくハンドリングが向上し、さらに流動性も優れ、また250μm以下とすることで活性成分との分離偏析が起こることもなく,製剤の含量均一性を悪化させる恐れもないので好ましい。好ましくは、30μmより大きく、180μm以下である。
【0009】
本発明のセルロース粉末は、見掛け比容積が2.0cm3/g以上、4.0cm3/g未満である必要がある。見掛け比容積が2.0cm3/g以上であると成形性が向上し、4.0cm3/g未満であると崩壊性、流動性が向上するので好ましい。また繊維性が現れることなく弾性回復しにくいため、成形性に優れる傾向にある。好ましくは2.2−3.8cm3/g、特に好ましくは2.2−2.9cm3/gである。
【0010】
本発明のセルロース粉末は、タッピング見掛け密度が0.30−0.60g/cm3であることが好ましい。さらに好ましくは0.35−0.58g/cm3、特に好ましくは0.4−0.55g/cm3である。タッピング見掛け密度が0.60g/cm以下だと成形性が向上するため好ましい。
【0011】
本発明のセルロース粉末は含量均一性の観点より、粉体の流動性の指標となる安息角が36°以上44°未満であることが好ましい。さらに好ましくは36°〜42°である。
【0012】
本発明のセルロース粉末は実質的に粒子内細孔容積を持たないことが好ましく、WO2006/115198の多孔質セルロース凝集体とは異なるものである。該公報の測定法に準じて測定した本発明のセルロース粉末の粒子内細孔容積の値は、0.1cm/g以上、0.265cm/g未満であることが好ましい。実質的に粒子内細孔を持たなくさせることで、薬物との接触面積が減少し、末端にアミノ基を有する薬物との着色がしにくくなるため好ましい。
【0013】
本発明のセルロース粉末は、セルロース原料に残留する不純物に由来する有機炭素量が0.002%−0.060%である必要がある。0.060%以下とすることで乾燥時にセルロース粒子が焦げにくくなり好ましい。0.002%以上とすることで末端にアミノ基を有する薬物との反応による着色が低減するため好ましい。
【0014】
本発明でいう残留不純物由来の有機炭素量とは、セルロース粉末(5g)中から純水(80mL)により抽出される全有機炭素(TOC)量と、セルロース粉末(5g)中から1%水酸化ナトリウム水溶液(80mL)により抽出されるTOC量との差で定義する。1%水酸化ナトリウム水溶液で抽出されるTOC量は、セルロース粉末中に含まれるアルカリ可溶性成分と純水可溶性成分の量を反映する。このTOC量から、純水で抽出されるTOC量、すなわち純水溶性成分を差し引くと、セルロース粉末中のアルカリ可溶性成分が求められ、これがすなわち、残留不純物由来の有機炭素量と相関する。
【0015】
本発明のセルロース粉末は、本発明で定義する残留不純物由来の有機炭素量が特定範囲であることから、乾燥時の熱で焦げる成分及び、末端にアミノ基を有する薬物と反応する成分の両方が低減しているため、乾燥時に焦げにくく、その結果末端にアミノ基を有する薬物との反応性を低減できる。残留不純物由来の有機炭素量は、セルロース粉末中のごく微量な成分ではあるが、驚くべきことに、この量が多いほど、乾燥時に焦げやすいことを見出した。
また同時に、残留不純物由来の有機炭素量が少ないものは、末端にアミノ基を有する薬物と反応して着色しやすくなることも見出した。これはおそらく、残留不純物由来の有機炭量が少ないものは、加水分解時に抽出される成分が多いということを意味するが、この抽出成分が微量ではあるが洗浄後も個々のセルロース粉末粒子の表面に残存しており、加熱によりこの抽出成分が変色し薬物との反応性を高めるためと思われる。残留不純物由来の有機炭素量を本発明の範囲内とすると、常用されている噴霧乾燥温度150〜300℃におけるセルロース粒子の焦げやすさが大幅に低減し、焦げ異物の発生を抑制できる。
以上より、残留不純物由来の有機炭素量を本発明で規定する範囲内とすると、乾燥時の焦げを抑制できかつ、末端にアミノ基を有する薬物との着色性を劇的に改善できることを見出した。末端にアミノ基を有する薬物との着色性は、黒色異物数が多いほど高くなったが、これは乾燥により焦げたものも末端にアミノ基を有する薬物との反応に関与しているものと思われる。
【0016】
本発明のセルロース粉末は、天然セルロース質物質を、従来よりも高い温度で加水分解することにより得られる。すなわち、塩酸濃度0.05〜0.15%、反応温度125−150℃、所定の反応温度に到達後、110分を超え−150分間以下で加水分解するか、又は塩酸濃度0.15%を超え〜0.4%、反応温度125−150℃、所定の反応温度に到達後、50分−150分間以下で加水分解することにより、加水分解時にセルロース粒子中から熱水で抽出される残留不純物由来の有機炭素量と相関するセルロース粒子内部の不純物を増大させることができ、その後の洗浄で抽出された該不純物が除去されるため、乾燥後にセルロース粒子内に残留する不純物由来の有機炭素量を低減することが可能となる。
【0017】
加水分解温度について、詳細に検討した結果、驚くべきことに、塩酸濃度0.05〜0.15%の場合は加水分解温度125℃以上かつ加水分解時間が110分を超えるか、または、塩酸濃度0.15超え〜0.4%の場合は加水分解温度125℃以上かつ加水分解時間が50〜150分であると、乾燥後にセルロース粒子内に残留する残留不純物由来の有機炭素量が劇的に減少し、本発明で規定する特定範囲の残留不純物由来の有機炭素量となることを見出した。これはセルロース粒子内部の残留不純物由来の有機炭素量と相関する不純物が、125℃以上においては、本願で規定する範囲内において塩酸濃度が高いほど、又は反応時間が長いほど、抽出されやすくなるためと思われる。すなわち、125℃以上においては、塩酸濃度が高いほど、又は反応時間が長いほど、乾燥後にセルロース粒子内に残留する残留不純物由来の有機炭素量が低減していくため、これらを調整することで残留不純物由来の有機炭素量を本願で規定する特定範囲内とすることができる。
【0018】
上記の加水分解条件下で、攪拌処理を施すことにより、加水分解後のセルロース分散液の体積平均粒子径を70−150μmとすることが好ましい。該セルロース分散液を脱水後、純水で数回洗浄し、アルカリで中和した後、再び脱水することにより、固形分20−50重量%のセルロースケークとすることが好ましい。
【0019】
本発明のセルロース粉末は、上記セルロースケークを純水で固形分10−25重量%のセルローススラリーとし、攪拌処理等により、乾燥前のセルロース分散液の体積平均粒子径を40μm以上、50μm未満とした後、噴霧乾燥することが好ましい。乾燥前のセルロース分散液の体積平均粒子径が40μm以上だと、乾燥後のセルロース粉末の流動性が向上し、50μm未満だと繊維性が発現しにくく、流動性が向上する。
【0020】
噴霧乾燥温度は常用される入口温度150〜300℃が使用できる。入口温度が高いとセルロース粒子が焦げやすくなる方向であるが、本発明のセルロース粉末はこの温度範囲においても、従来のセルロース粉末より焦げにくいという特性を有する。
【0021】
反応中或いはその後工程における攪拌は、セルロース繊維を短くする作用があり、攪拌力を強くすると粒子の体積平均粒子径を小さくでき、攪拌力を弱くすると体積平均粒子径を大きくできる。所望の体積平均粒子径となるよう、適宜、攪拌力を制御することで、セルロース粒子の体積平均粒子径を本発明の範囲内とすることが可能である。
【0022】
攪拌力の大きさは、攪拌槽の大きさ、形状、攪拌翼の大きさ、形状、回転数、邪魔板数等を変更することで制御可能である。
【0023】
反応後、洗浄、pH調整した乾燥前のセルロース分散液のIC(電気伝導度)は200μS/cm以下であることが好ましい。200μS/cm以下であれば、粒子の水中での分散性が向上し、崩壊性も良好となる。好ましくは150μS/cm以下、さらに好ましくは100μS/cm以下である。セルロース分散液を調製する際には水の他、本件発明の効果を損なわない範囲であれば、有機溶媒を少量含む水であってもよい。
【0024】
本発明でいう天然セルロース質物質とは、木材、竹、コットン、ラミー等、セルロースを含有する天然物由来の植物性繊維質物質であり、セルロースI型の結晶構造を有しているものであることが好ましい。製造収率の観点からはこれらを精製したパルプであることが特に好ましく、α−セルロース含量が85%以上であることが望ましい。
【0025】
本発明のセルロース粉末は、吸水能が1.8−3.0cm/gであることが好ましい。1.8cm/g以上だと成形性も向上するため好ましく、3.0cm/g以下だと繊維性が発現しにくく、流動性、崩壊性が良好となるため好ましい。
【0026】
本発明のセルロース粉末は、セルロース粉末50g中に含まれる黒色の目視異物が0〜20個であることが好ましい。異物数が少ないほど、末端にアミノ基を有する薬物との反応性を低減するので好ましい。
【0027】
本発明でいう成形体とは、本発明のセルロース粉末を含み、混合、攪拌、造粒、打錠、整粒、乾燥等の公知の方法を適宜選択して加工した成形物をいう。成形体の例としては、医薬品に用いる場合、錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、エキス剤、丸剤、カプセル剤、トローチ剤、パップ剤の固形製剤等が挙げられる。医薬品に限らず、菓子、健康食品、食感改良剤、食物繊維強化剤等の食品、固形ファンデーション、浴用剤、動物薬、診断薬、農薬、肥料、セラミックス触媒等に利用されるものも本発明に含まれる。
【0028】
本発明でいう成形体は、本発明のセルロース粉末を含有していればよくその量は特に限定しないが、好ましくは成形体重量に対して1−99.9重量%である。1重量%以上では成形体の磨損や破壊を防止でき、十分な物性を付与できる。好ましくは、3重量%以上、好ましくは5重量%以上である。99.9重量%以下であれば、活性成分の十分な効能が得られる。
【0029】
さらに、本発明でいう成形体は、本発明のセルロース粉末の他に、必要に応じて活性成分、崩壊剤、結合剤、流動化剤、滑沢剤、矯味剤、香料、着色料、甘味剤、界面活性剤等の他の添加剤を含有することも自由である。
【0030】
崩壊剤としては、クロスカルメロースナトリウム、カルメロース、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース類、カルボキシメチルスターチナトリウム、ヒドロキシプロピルスターチ、コメデンプン、コムギデンプン、トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、部分アルファー化デンプン等のデンプン類、クロスポビドン等が挙げられる。
【0031】
結合剤としては、白糖、ブドウ糖、乳糖、果糖などの糖類、マンニトール、キシリトール、マルチトール、エリスリトール、ソルビトール等の糖アルコール類、ゼラチン、プルラン、カラギーナン、ローカストビーンガム、寒天、コンニャクマンナン、キサンタンガム、タマリンドガム、ペクチン、アルギン酸ナトリウム、アラビアガム等の水溶性多糖類、結晶セルロース、粉末セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース等のセルロース類、アルファー化デンプン、デンプン糊等のデンプン類、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、ポリビニルアルコール等の合成高分子類等、リン酸水素カルシウム、炭酸カルシウム、合成ヒドロタルサイト、ケイ酸アルミン酸マグネシウム等の無機類等が挙げられる。
【0032】
流動化剤としては含水二酸化ケイ素、軽質無水ケイ酸等が挙げられる。滑沢剤としては、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸、ショ糖脂肪酸エステル、タルク等が挙げられる。矯味剤としてはグルタミン酸、フマル酸、コハク酸、クエン酸、クエン酸ナトリウム、酒石酸、リンゴ酸、アスコルビン酸、塩化ナトリウム、l−メントールなどが挙げられる。
【0033】
香料としてはオレンジ、バニラ、ストロベリー、ヨーグルト、メントール、ウイキョウ油、ケイヒ油、トウヒ油、ハッカ油等の油類、緑茶末等が挙げられる。着色剤としては食用赤色3号、食用黄色5号、食用青色1号等の食用色素、銅クロロフィリンナトリウム、酸化チタン、リボフラビンなどが挙げられる。甘味剤としてはアスパルテーム、サッカリン、グリチルリチン酸二カリウム、ステビア、マルトース、マルチトール、水飴、アマチャ末等が挙げられる。界面活性剤としては、リン脂質、グリセリン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油等が挙げられる。
【0034】
また本発明でいう活性成分とは、医薬品薬効成分、農薬成分、肥料成分、飼料成分、食品成分、化粧品成分、色素、香料、金属、セラミックス、触媒、界面活性剤等をいい、粉体状、結晶状、油状、溶液状などいずれの形状でもよい。また溶出制御、苦味低減等の目的でコーティングを施したものであってもよい。本発明のセルロース粉末は特に、不快な臭気を有する活性成分に対して有効である。
【0035】
例えば医薬品薬効成分としては、例えば、アスピリン、アスピリンアルミニウム、アセトアミノフェン、エテンザミド、サザピリン、サリチルアミド、ラクチルフェネチジン、塩酸イソチベンジル、塩酸ジフェニルピラリン、塩酸ジフェンヒドラミン、塩酸ジフェテロール、塩酸トリプロリジン、塩酸トリペレナミン、塩酸トンジルアミン、塩酸フェネタジン、塩酸メトジラジン、サリチル酸ジフェンヒドラミン、ジフェニルジスルホン酸カルビノキサミン、酒石酸アリメマジン、タンニン酸ジフェンヒドラミン、テオクル酸ジフェニルピラリン、ナパジシル酸メブヒドロリン、プロメタジンメチレン二サリチル酸塩、マレイン酸カルビノキサミン、dl−マレイン酸クロルフェニラミン、d−マレイン酸クロルフェニラミン、リン酸ジフェテロール、塩酸アロクラミド、塩酸クロペラスチン、クエン酸ペントキシベリン(クエン酸カルベタペンタン)、クエン酸チペピジン、ジブナートナトリウム、臭化水素酸デキストロメトルファン、デキストロメトルファン・フェノールフタリン酸、ヒベンズ酸チペピジン、フェンジゾ酸クロペラスチン、リン酸コデイン、リン酸ジヒドロコデイン、塩酸ノスカピン、ノスカピン、dl−塩酸メチルエフェドリン、dl−メチルエフェドリンサッカリン塩、グアヤコールスルホン酸カリウム、グアイフェネシン、安息香酸ナトリウムカフェイン、カフェイン、無水カフェイン、ビタミンB1及びその誘導体並びにそれらの塩類、ビタミンB2及びその誘導体並びにそれらの塩類、ビタミンC及びその誘導体並びにそれらの塩類、ヘスペリジン及びその誘導体並びにそれらの塩類、ビタミンB6及びその誘導体並びにそれらの塩類、ニコチン酸アミド、パントテン酸カルシウム、アミノ酢酸、ケイ酸マグネシウム、合成ケイ酸アルミニウム、合成ヒドロタルサイト、酸化マグネシウム、ジヒドロキシアルミニウム・アミノ酢酸塩(アルミニウムグリシネート)、水酸化アルミニウムゲル(乾燥水酸化アルミニウムゲルとして)、乾燥水酸化アルミニウムゲル、水酸化アルミニウム・炭酸マグネシウム混合乾燥ゲル、水酸化アルミニウム・炭酸水素ナトリウムの共沈生成物、水酸化アルミニウム・炭酸カルシウム・炭酸マグネシウムの共沈生成物、水酸化マグネシウム・硫酸アルミニウムカリウムの共沈生成物、炭酸マグネシウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、塩酸ラニチジン、シメチジン、ファモチジン、ナプロキセン、ジクロフェナックナトリウム、ピロキシカム、アズレン、インドメタシン、ケトプロフェン、イブプロフェン、塩酸ジフェニドール、塩酸ジフェニルピラリン、塩酸ジフェンヒドラミン、塩酸プロメタジン、塩酸メクリジン、ジメンヒドリナート、タンニン酸ジフェンヒドラミン、タンニン酸フェネタジン、テオクル酸ジフェニルピラリン、フマル酸ジフェンヒドラミン、プロメタジンメチレンジサリチル酸塩、臭化水素酸スポコラミン、塩酸オキシフェンサイクリミン、塩酸ジサイクロミン、塩酸メチキセン、臭化メチルアトロピン、臭化メチルアニソトロピン、臭化メチルスポコラミン、臭化メチル−1−ヒヨスチアミン、臭化メチルベナクチジウム、ベラドンナエキス、ヨウ化イソプロパミド、ヨウ化ジフェニルピペリジノメチルジオキソラン、塩酸パパベリン、アミノ安息香酸、シュウ酸セシウム、ピペリジルアセチルアミノ安息香酸エチル、アミノフィリン、ジプロフィリン、テオフィリン、炭酸水素ナトリウム、フルスルチアミン、硝酸イソソルバイド、エフェドリン、セファレキシン、アンピシリン、スルフィキサゾール、スクラルファート、アリルイソプロピルアセチル尿素、ブロムワレリル尿素等、マオウ、ナンテンジツ、オウヒ、オンジ、カンゾウ、キキョウ、シャゼンシ、シャゼンソウ、セネガ、バイモ、ウイキョウ、オウバク、オウレン、ガジュツ、カミツレ、ケイヒ、ゲンチアナ、ゴオウ、獣胆(ユウタンを含む)、シャジン、ショウキョウ、ソウジュツ、チョウジ、チンピ、ビャクジュツ、地竜、チクセツニンジン、ニンジン、カノコソウ、ボタンピ、サンショウ及びこれらのエキス等、インスリン、バゾプレッシン、インターフェロン、ウロキナーゼ、セラチオペプチターゼ、ソマトスタチン等の「日本薬局方」、「局外基」、「USP」、「NF」、「EP」に記載の医薬品薬効成分等を挙げることができ、上記から選ばれる1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0036】
本発明の成形体に含まれる活性成分の量は成形体重量に対して好ましくは0.01〜99重量%である。活性成分が0.01重量%以上であれば、十分な薬効が期待できる。また99重量%以下であれば、賦形剤量が十分で、成形体の磨損や破壊などを防止でき、満足する物性を成形体に付与できる。
【0037】
本発明でいう錠剤とは、本発明のセルロース粉末と、必要に応じて他の添加剤を含んだものであって、直接打錠法、顆粒圧縮法、後末法のいずれかで得られうる成形体をいい、その中でも直接打錠により得られた錠剤が特に好ましい。
【0038】
本発明の成形体、好ましくは錠剤のうち、1つ以上の活性成分と、糖類、糖アルコール類、デンプン類、崩壊剤から選ばれる1つ以上の添加剤を含む場合、本発明のセルロース粉末を配合すると、硬度が50〜100N、引張強度が0.1〜5.5MPa、摩損度が0〜0.5%、アセトン中での成形体、好ましくは錠剤の直径膨潤率が0〜3.3%の成形体、好ましくは錠剤が得られる。成形体、好ましくは錠剤中のセルロース粉末の配合量としては、5〜90重量%が好ましい。5〜90重量%の範囲であると上記物性のバランスが取れるため好ましい。
【0039】
本願のセルロース粉末を成形体、好ましくは錠剤に配合すると、上記の硬度、引張強度、摩損度であり、かつアセトン中での成形体、好ましくは錠剤の直径膨潤率が0〜3.3%の成形体、好ましくは錠剤となりうる。好ましくは、2.0を超え〜3.3%である。アセトン中での成形体、好ましくは錠剤の直径膨潤率が0〜3.3%の範囲であると硬度、引張強度、摩損度のバランスが取れるため好ましい。
【0040】
アセトン中での成形体、好ましくは錠剤の直径膨潤率は、成形体、好ましくは錠剤をアセトン(25℃)に60秒浸漬する前後での、成形体(錠剤)直径(mm)の変化率で定義され、次式により算出する。

成形体(錠剤)直径膨潤率(%)=[(アセトン浸漬後の成形体(錠剤)直径−アセトン浸漬前の成形体(錠剤)直径)/アセトン浸漬前の成形体(錠剤)直径]×100
【0041】
アセトン中での成形体、好ましくは錠剤の直径膨潤率が0〜3.3%であれば、速やかな崩壊性、溶出性を成形体、好ましくは錠剤に付与できる。日本薬局方規定の崩壊時間が20分以下、好ましくは10分以下、さらに好ましくは1分以下、特に好ましくは30秒以下である。また、成形体、好ましくは錠剤をアセトン洗浄、エタノール洗浄、純水洗浄、エタノール洗浄を経て抽出される成形体残渣の残留不純物由来の全有機炭素量又はセルロース粉末中の残留不純物由来の全有機炭素量は、0.002〜0.060%であることが好ましい。0.002〜0.060%の範囲であると異物、薬物との反応性、崩壊性の点から好ましい。
【0042】
成形体(好ましくは錠剤)残渣の残留不純物由来の全有機炭素量は、成形体残渣中から純水(80mL)により抽出される、成形体残渣に対する全有機炭素(TOC)量と、成形体残渣中から1%水酸化ナトリウム水溶液(80mL)により抽出される、成形体残渣に対するTOC量との差(%)で定義する。成形体残渣がセルロース粉末である場合には、成形体残渣は純水で十分に洗浄されているため、成形体残渣の純水抽出時の全有機炭素量(%)はゼロに近くなり、成形体残渣の残留不純物由来の全有機炭素量は、1%NaOH水溶液抽出時の全有機炭素量(%)にほぼ等しくなる。純水抽出時の全有機炭素量(%)が検出される場合は、純水洗浄による不純物の除去が不十分であるか、乾燥による残留アセトン及びエタノールの除去が不十分であることが考えられるため、抽出する純水量を1.3〜2倍の範囲で増やすか、乾燥温度を100〜120℃、乾燥時間を3〜5hrの範囲で調整する。成形体をアセトン洗浄、エタノール洗浄、純水洗浄、エタノール洗浄を経て抽出される成形体残渣の残留不純物由来の全有機炭素量は、次の手順で確認が可能である。
(i)成形体120gを500mlビーカーに入れ、アセトン300gを加え、成形体片が認められなくなるまでスターラーで攪拌した後、吸引ろ過(ブフナー漏斗、定量分析用ろ紙、5C、直径110mmを使用)する。成形体片を認める場合には、10分間、超音波処理をした後に30分間攪拌する。成形体片が認められなくなるまで繰り返す。
(ii)ろ紙上の残渣にエタノール100mLを加え、残渣をスパチュラで良くかき混ぜ、吸引ろ過する(この操作を3回繰り返す)。(i)、(ii)の操作により、水難溶性成分を除去する。
(iii)純水1000mL中に(ii)の残渣を入れ、10分間スターラーで攪拌した後、吸引ろ過する。
(iv)(iii)の残渣を、純水600ml中に入れ、10分間スターラーで攪拌した後、吸引ろ過する。
(v)純水1000mL中に(iv)の残渣を入れ、スターラーで攪拌しながら、80〜100℃で30分間加熱する。20〜30℃に冷却した後、α−アミラーゼを5μg/L加え、37℃で30分間攪拌した後、吸引ろ過する。
(vi)(v)の残渣にエタノール150mLを加え、残渣をスパチュラで良くかき混ぜ、吸引ろ過する(この操作を3回繰り返す)。(iii)〜(vi)の操作により、水溶性成分とデンプン類を除去する。水溶性成分には糖類、糖アルコール類が含まれ、公知の方法で定量できる。
(vii)ろ紙上の残渣を濾紙から掻き落とし、シャーレに入れ、室温(20〜30℃)でエタノール臭がなくなるまで乾燥後、100℃で3時間乾燥し測定用試料とする。
(viii)乾燥残渣約2gを測定用セルに入れ、近赤外分光法にて吸収スペクトルを測定する(装置名:InfraAlyzer500、メーカー名:BRAN+LUBBE)。1692nmにNIR吸収スペクトルの2次微分値のピークを検出する場合は、下式により、成形体残渣中のセルロース粉末含有率(C;%)を計算する。
・C(%)=NIR2次微分スペクトル強度の値×316583+95.588
1692nmにNIR吸収スペクトルの2次微分値のピークがある場合は、セルロース粉末以外にクロスポビドンの残渣が含まれている。乾燥残渣中のセルロース粉末の含有率を特定するため、上記の式を用いる。(i)の成形体の代わりに、セルロース粉末/クロスポビドン=100/0、50/50、0/100の3つの組成粉末を調製し、(i)〜(vii)の操作を経て乾燥残渣を得、InfraAlyzer500(メーカー名:BRAN+LUBBE)を用いてNIR2次微分スペクトル強度を測定し、3点の検量線から上記式の係数を求めることができる。
1692nmにNIR吸収スペクトルの2次微分値のピークを検出しない場合は、乾燥残渣から純水(80mL)により抽出される、乾燥残渣に対する全有機炭素(TOC)量が0.0%である場合には、乾燥残渣はセルロース粉末のみからなる。0.0%を超えるときは、デンプン、クロスポビドン以外の崩壊剤を含有している場合があるため、それらを除去するため、乾燥残渣を純水50mLで分散し、目開き10μmの篩を通し、セルロース粉末以外の粒子を除去した後、ろ液を蒸発乾固して(ix)の乾燥残渣とする。それでもなお、残渣の純水抽出時の全有機炭素量(%)が0.0%を超える場合は、純水50mLで分散(必要に応じて超音波処理、ホモジナイザー処理をしても良い)し、2000Gで遠心分離した上澄みを蒸発乾固して(ix)の乾燥残渣とする。
(ix)<(viii)で1692nmにNIR吸収スペクトルの2次微分値のピークを検出する場合>
乾燥残渣(A;g、4〜4.5gが目安)を秤量し、80mlの1%NaOH水溶液中に入れ、スターラーで5分間攪拌後、吸引ろ過する。ろ液を採取し体積(X;mL)を測定する。ろ液は塩酸で酸性(pH2−3)とし、全有機炭素計(島津製作所製、TOC−VCSH、TC−IC法を使用)で全有機炭素量(TOC1%NaOH;mg/L)を測定する。残渣は純水で十分に洗浄されていることから、純水抽出時の全有機炭素量(%)はゼロと見なせるため、残渣に含まれるセルロース粉末中の残留不純物由来の有機炭素量は1%NaOH水溶液抽出時の全有機炭素量(%)に等しくなる。以下に従い算出する。
・成形体から抽出した残渣中のセルロース粉末残渣量(B;g)=A×C/100
・セルロース粉末残渣中の全有機炭素量(Y;mg)=(TOC1%NaOH/1000)×X−0.4/100×(A−B)×1000
上記の係数0.4は、(i)の成形体をクロスポビドンの粉末2.5gとし、(vii)までの処理を経て得た乾燥残渣を用い、80mlの1%NaOH水溶液で抽出した時の全有機炭素量(%)である。
・成形体をアセトン洗浄、エタノール洗浄、純水洗浄、エタノール洗浄を経て抽出される成形体残渣の残留不純物由来の全有機炭素量(%)
=Y/(1000×B)×100=Y/(10×B)
<(viii)で1692nmにNIR吸収スペクトルの2次微分値のピークを検出しない場合>
乾燥残渣(純水で抽出する場合はAH2O;g、1%NaOH水溶液で抽出する場合はA1%NaOH;g)を秤量し、純水又は1%NaOH水溶液80mLを加えて、ビーカー中で5分間攪拌(スターラー使用)後、吸引ろ過(定量分析用ろ紙、5C、直径110mmを使用)により乾燥残渣を除去しろ液を得る。ろ液全量の体積を測定(純水を用いた場合の全量をVH2O、1%NaOH水溶液を用いた場合の全量をV1%NaOH;mL)後、塩酸で酸性(pH2−3)とし、全有機炭素計(島津製作所製、TOC−VCSH、TC−IC法を使用)で全有機炭素量(TOC;mg/L)を測定した。純水を用いた場合のTOCをTOCH2O、1%NaOH水溶液を用いた場合のTOCをTOC1%NaOHとする。成形体残渣の残留不純物由来の有機炭素量は下式により算出する。
・成形体残渣の残留不純物由来の全有機炭素量(%)=1%NaOH水溶液抽出時の全有機炭素量(%)−純水抽出時の全有機炭素量(%)
・1%NaOH水溶液抽出時の全有機炭素量(%):
=[(TOC1%NaOH(mg/L)/1000)×V1%NaOH(mL)]/A1%NaOH×1000(mg)×100
・純水抽出時の全有機炭素量(%):
=[(TOCH2O(mg/L)/1000)×VH2O(mL)]/AH2O×1000(mg)×100
【0043】
また本発明のセルロース粉末は、糖衣錠においては糖衣の補強剤、押出造粒における押出性改善剤、破砕造粒、流動層造粒、高速攪拌造粒、転動流動造粒等における造粒助剤等の目的で湿式造粒においても使用することができ、顆粒剤や打錠用の顆粒を調製することが可能である。打錠用顆粒の調製には乾式造粒法を用いてもよい。さらにこのように公知の方法で得られた打錠用顆粒に本発明のセルロース粉末を添加して圧縮成型する方法(後末法)で錠剤化することも可能である。本発明のセルロース粉末は吸水性が高く、水溶解度の高い医薬品活性成分を造粒する場合にも造粒速度を遅くできるために粗大粒子の発生を低減して造粒収率を高めることに寄与する。また本発明のセルロース粉末は粒子密度が低いため造粒物が嵩高く、圧縮成形性の高い打錠用顆粒を得ることにも寄与する。またブロッキング防止、流動性改善等の目的で散剤に配合したり、充填性改善の目的等でカプセル剤に配合することも可能である。
【実施例】
【0044】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、これらは本発明の範囲を制限しない。なお、実施例、比較例における各物性の測定方法は以下の通りである。
1)平均重合度(−)
第15改正日本薬局方、結晶セルロースの確認試験(3)に記載された銅エチレンジアミン溶液粘度法により測定した値。
2)乾燥減量(%)
粉末1gを105℃、3時間乾燥し、重量減少量を重量百分率で表した。
3)セルロース分散液中のセルロース粒子の体積平均粒子径(μm)
加水分解後のセルロース分散液又は、乾燥前のセルロース分散液の粒子径は以下の手順で求めた。セルロース分散液を鏡検台上に滴下し、スライドガラスを載せて乾燥させた後、マイクロスコープを用いて光学顕微鏡像を撮影した。光学顕微鏡増は画像解析処理し((株)インタークエスト製、装置:Hyper700,ソフトウエア:Imagehyper)、粒子に外接する長方形のうち面積が最小となる長方形の長辺を求め、累積個数50%粒子径を平均粒子径とした。少なくとも100個以上の粒子について画像解析処理した。
4)セルロース粉末の重量平均粒子径(μm)
粉体試料の重量平均粒径はロータップ式篩振盪機(平工作所製シーブシェーカーA型)、JIS標準篩(Z8801−1987)を用いて、試料10gを10分間篩分することにより粒度分布を測定し、累積重量50%粒径として表した。
5)見掛け比容積(cm3 /g)
100cm3 のガラス製メスシリンダーに、粉体試料を定量フィーダーなどを用い、2−3分かけて粗充填し、粉体層上面を筆のような軟らかい刷毛で水平にならしその容積を読みとりこれを粉体試料の重量で除して求めた。粉体の重量は容積が70−100cm3程度になるように適宜決定した。
6)見掛けタッピング密度(g/cm3
市販粉体物性測定機(ホソカワミクロン製、パウダーテスターPT−R型)を用い、100cm3カップに粉体を充填し、180回タッピングした後、カップの体積を、カップに充填されて残る粉体層の重量で除して求めた。
7)残留不純物由来の有機炭素量(%)
セルロース粉末(W;mg、5000mgを目安)に純水又は1%NaOH水溶液80mLを加えて、ビーカー中で5分間攪拌(スターラー使用)後、吸引ろ過(定量分析用ろ紙、5C、直径110mmを使用)によりセルロース粉末を除去しろ液を得た。ろ液全量の体積を測定(水を用いた場合の全量をVH2O、1%NaOH水溶液を用いた場合の全量をV1%NaOH;mL)後、塩酸で酸性(pH2−3)とし、全有機炭素計(島津製作所製、TOC−VCSH、TC−IC法を使用)で全有機炭素量(TOC;mg/L)を測定した。純水を用いた場合のTOCをTOCH2O、1%NaOH水溶液を用いた場合のTOCをTOC1%NaOHとする。残留不純物由来の有機炭素量は下式により算出した。
・残留不純物由来の有機炭素量(%)=1%NaOH水溶液抽出時の全有機炭素量(%)−純水抽出時の全有機炭素量(%)
・1%NaOH水溶液抽出時の全有機炭素量(%):
=[(TOC1%NaOH(mg/L)/1000)×V1%NaOH(mL)]/W(mg)×100
・純水抽出時の全有機炭素量(%):
=[(TOCH2O(mg/L)/1000)×VH2O(mL)]/W(mg)×100
8)吸水能(cm/g)
セルロース粉末2g(乾燥物換算)に純水を滴下し、必要に応じて、セルロース粉末が滴下した水となじむようにヘラ等で練りながら、表面に水が染み出る点を終点として滴下した純水量(V)を求めた。吸水能は下式により算出した。3回測定値の平均値を用いた。
吸水能(cm/g)=V/2
9)安息角(゜)
杉原式安息角測定器(スリットサイズ奥行10×幅50×高さ140mm、幅50mmの位置に分度器を設置)を使用し、セルロース粉末を定量フィーダーにて3g/分の速度でスリットに投下した際の動的自流動性を測定した。装置底部とセルロース粉末の形成層との角度が安息角である。
10)異物量(個/50g)
本発明のセルロース粉末50gを5分間、ハンドで篩過し、75μm篩に残留する全量を、青色の画用紙上に薄く広げ、ルーペを用い目視にて15分間黒色異物数をカウントした。
11)セルロース粉末と末端にアミノ基を有する薬物との反応性
セルロース粉末とアミノフィリンの等量混合物を60℃・密栓瓶(50cm3)中に30日保存した。保存後の上記等量混合物について、分光式色彩計(SE−2000、日本電色工業製)によりL、a、bの値を求め以下の式により算出した。白色度の低下が少ないほど反応性が低いと考えられる。
白色度=100−[(100−L)+(a+b)]0.5
L:明るさ a:彩度(緑〜赤) b:彩度(青〜黄)
12)粒子内細孔容積 (cm/g)
島津製作所(株)製、オートポア9520型(商品名)を用い、水銀ポロシメトリーにより細孔分布を求めた。測定に用いた各試料粉体は、室温で15時間減圧乾燥したものを使用した。初期圧20kPaの測定により、得られた細孔分布から、細孔径0.1〜15μmの範囲の合計容積を粒子内細孔容積とした。
13)硬度[N]
円柱状成形体或いは錠剤をシュロインゲル硬度計(フロイント産業(株)製、6D型)を用いて、円柱状成形体或いは錠剤の直径方向に荷重を加え、破壊したときの荷重を測定した。試料5個の数平均で示した。セルロース粉末100%の円柱状成形体は以下のようにして作製した。試料0.5gを、臼(菊水製作所製、材質SUK2,3を使用)に入れ、直径1.13cm(底面積が1cm2)の平面杵(菊水製作所製、材質SUK2,3を使用)で10MPaで圧縮し、その応力を10秒間保持し円柱状成形体を作製した(圧縮機はアイコーエンジニアリング製、PCM−1Aを使用し、圧縮速度は10cm/min程度とした)。実用的な硬度は直径8mmの錠剤の場合は、50N以上、直径9mm以上の錠剤の場合は、70N以上である。
14)引張強度[MPa]
錠剤の硬度:H[N]、錠剤の直径(カプレット錠などは最大径を用いる):D[mm]、錠剤の厚み:T[mm]を求め、下式で算出した。
引張強度[MPa]=2×H÷(3.14×D×T)
15)錠剤の摩損度[%]
錠剤20個の重量(Wa)を測定し、これを錠剤摩損度試験器(PTFR−A、PHARMA TEST製)に入れ、25rpm、4分間回転した後、錠剤に付着している微粉を取り除き、再度重量を測定し(Wb)、(7)式より計算した。
摩損度 = 100×(Wa−Wb)/Wa
実用上の使用に耐える錠剤とするには摩損度が0.5%以下である必要がある。
【0045】
(実施例1)
市販KPパルプ(重合度840、レベルオフ重合度145)2kgを細断し、0.05%塩酸水溶液30L中に入れ、低速型攪拌機(池袋琺瑯工業(株)製、30LGL反応器、翼径約30cm)で攪拌(攪拌速度234rpm)しながら、145℃で115分加水分解した。得られた酸不溶解残渣はヌッチェを使用して濾過し、ろ過残渣をさらに70Lの純水で4回洗浄し、アンモニア水で中和後、90Lのポリバケツに入れ純水を加え、スリーワンモーター(HEIDON製、タイプBLh1200、8M/M、翼径約10cm)で攪拌(攪拌速度500rpm)しながら濃度19%のセルロース分散液とした(pH;7.5、IC;54μS/cm)。
【0046】
これを噴霧乾燥(液供給速度6L/hr、入口温度180〜220℃、出口温度50〜70℃)してセルロース粉末A(乾燥減量3.5%)を得た。セルロース粉末Aの物性を表1に示す。
【0047】
(実施例2)
市販KPパルプ(重合度840、レベルオフ重合度145)2kgを細断し、0.10%塩酸水溶液30L中に入れ、低速型攪拌機(池袋琺瑯工業(株)製、30LGL反応器、翼径約30cm)で攪拌(攪拌速度234rpm)しながら、135℃で120分加水分解した。得られた酸不溶解残渣はヌッチェを使用して濾過し、ろ過残渣をさらに70Lの純水で4回洗浄し、アンモニア水で中和後、90Lのポリバケツに入れ純水を加え、スリーワンモーター(HEIDON製、タイプBLh1200、8M/M、翼径約10cm)で攪拌(攪拌速度500rpm)しながら濃度20%のセルロース分散液とした(pH;7.1、IC;45μS/cm)。
【0048】
これを噴霧乾燥(液供給速度6L/hr、入口温度180〜220℃、出口温度50〜70℃)してセルロース粉末B(乾燥減量3.0%)を得た。セルロース粉末Bの物性を表1に示す。
【0049】
(実施例3)
市販KPパルプ(重合度840、レベルオフ重合度145)2kgを細断し、0.39%塩酸水溶液30L中に入れ、低速型攪拌機(池袋琺瑯工業(株)製、30LGL反応器、翼径約30cm)で攪拌(攪拌速度234rpm)しながら、128℃で145分加水分解した。得られた酸不溶解残渣はヌッチェを使用して濾過し、ろ過残渣をさらに70Lの純水で4回洗浄し、アンモニア水で中和後、90Lのポリバケツに入れ純水を加え、スリーワンモーター(HEIDON製、タイプBLh1200、8M/M、翼径約10cm)で攪拌(攪拌速度500rpm)しながら濃度18%のセルロース分散液とした(pH;7.5、IC;40μS/cm)。
【0050】
これを噴霧乾燥(液供給速度6L/hr、入口温度180〜220℃、出口温度50〜70℃)してセルロース粉末C(乾燥減量3.3%)を得た。セルロース粉末Cの物性を表1に示す。
(実施例4)
市販KPパルプ(重合度840、レベルオフ重合度145)2kgを細断し、0.39%塩酸水溶液30L中に入れ、低速型攪拌機(池袋琺瑯工業(株)製、30LGL反応器、翼径約30cm)で攪拌(攪拌速度234rpm)しながら、126℃で55分加水分解した。得られた酸不溶解残渣はヌッチェを使用して濾過し、ろ過残渣をさらに70Lの純水で4回洗浄し、アンモニア水で中和後、90Lのポリバケツに入れ純水を加え、スリーワンモーター(HEIDON製、タイプBLh1200、8M/M、翼径約10cm)で攪拌(攪拌速度500rpm)しながら濃度19%のセルロース分散液とした(pH;7.8、IC;35μS/cm)。
【0051】
これを噴霧乾燥(液供給速度6L/hr、入口温度180〜220℃、出口温度50〜70℃)してセルロース粉末D(乾燥減量3.5%)を得た。セルロース粉末Dの物性を表1に示す。
【0052】
実施例1〜4のセルロース粉末は、残留不純物由来の有機炭素量が特定範囲のため、異物数が劇的に減少した。また、アミノフィリン等量混合物の60℃密栓30日保存後の白色度が95%以上であり、比較例より高い値を示した。
【0053】
(比較例1)
市販SPパルプ(重合度1030、レベルオフ重合度は220)2kgを細断し、0.14N(0.49%)塩酸水溶液30L、121℃、1時間の条件で加水分解した。得られた酸不溶解残渣はヌッチェを使用して濾過し、ろ過残渣をさらに70Lの純水で4回洗浄し、アンモニア水で中和後、90Lのポリバケツに入れ、スリーワンモーターで攪拌しながら濃度17%のセルロース分散液を得た(pH;6.4、IC;64μS/cm)。
これを噴霧乾燥(液供給速度6L/hr、入口温度180〜220℃、出口温度70℃)後、325メッシュ篩で粗大粒子を除きセルロース粉末E(乾燥減量4.1%、特公昭40−26274号公報の実施例1に相当)を得た。セルロース粉末Eの物性を表1に示す。
【0054】
(比較例2)
市販KPパルプ(重合度840、レベルオフ重合度145)を0.7%塩酸水溶液中で、125℃、150分間加水分解した後、加水分解残渣を中和、洗浄、濾過して湿ケークとし、ニーダー中で十分磨砕した後、容積比で1倍のエタノールを加え、圧搾濾過した後風乾した。乾燥粉末はハンマーミルで粉砕し40メッシュ篩で粗大粒子を除きセルロース粉末F(乾燥重量3.0%、特昭56−2047号公報の実施例1に相当)を得た。セルロース粉末Fの物性を表1に示す。
【0055】
(比較例3)
塩酸濃度を0.49%とした以外は、実施例2と同様に操作し、セルロース粉末Gを得た。セルロース粉末Gの物性を表1に示す。
【0056】
(比較例4)
加水分解時間を160分とした以外は、実施例2と同様に操作し、セルロース粉末Hを得た。セルロース粉末Hの物性を表1に示す。
【0057】
(比較例5)
加水分解時間を100分とした以外は、実施例2と同様に操作し、セルロース粉末Iを得た。セルロース粉末Iの物性を表1に示す。
【0058】
(比較例6)
加水分解温度を90℃とした以外は、実施例2と同様に操作し、セルロース粉末Jを得た。セルロース粉末Jの物性を表1に示す。
【0059】
(比較例7)
加水分解温度を160℃とした以外は、実施例2と同様に操作し、セルロース粉末Kを得た。セルロース粉末Kの物性を表1に示す。
【表1】

(実施例5)
エテンザミド:250g、セルロース粉末B:500g、噴霧乾燥乳糖:220g(スーパータブ、DMV製)、アルファー化デンプン「Swelstar」PD−1(旭化成ケミカルズ製):30gを3分間ポリ袋中で混合し、植物性ステアリン酸マグネシウム(太平化学産業):10gを加え、さらにポリ袋中にて30秒混合した。ロータリー打錠機(「クリーンプレス・コレクト12HUK」(商品名)菊水製作所製)で打錠し、打錠圧12kNで重量200mg、直径8mm、12Rの錠剤をオープンフィーダー、ターンテーブル回転数54rpmにて作製した。得られた錠剤の物性を表2に示す。
(実施例6)
セルロース粉末Bをセルロース粉末Cとする以外は、実施例5と同様に操作した。得られた錠剤の物性を表2に示す。
(比較例8〜9)
セルロース粉末Bをセルロース粉末F又はGとする以外は、実施例5と同様に操作した。得られた錠剤の物性を表2に示す。
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明のセルロース粉末は、乾燥時の焦げが抑制され、黒色異物が少なく、その結果錠剤の不良率低減に寄与でき、さらには末端にアミノ基を有する薬物との着色性を低減することができる。