(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記粘性止水層(72)に接する側の前記剥離性基材(71)の面には前記粘性止水層(72)の面に転写されるべき模様が形成されている、請求項1又は2に記載の止水性ファスナーテープの製造方法。
前記止水層(72)に接する側の前記剥離性被覆材(73)の面には前記止水層(72)の露出面に転写されるべき模様が形成されている、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の止水性ファスナーテープの製造方法。
前記ファスナーテープ基布(210)から突出した前記粘性止水層(72)の突出部分を除去する工程を更に含む、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の止水性ファスナーテープの製造方法。
ファスナーテープ基布(210)と、前記ファスナーテープ基布(210)上に形成された止水層(72)を備え、前記止水層(72)が単一の組成物から成る単層であり、少なくとも硬化剤により硬化されたポリウレタンを含む、止水性ファスナーテープと、
前記止水層(72)を介して前記ファスナーテープ基布(210)上に積層された剥離性被覆材(73)を備える、積層体。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
止水性ファスナーテープの基布上に形成される止水層の更なる薄層化が望まれる。特許文献1は、2層構造の止水層を活用し、一方の層に粘着性を持たせ、他方の層に止水性を持たせている。しかしながら、2層構造に由来し、止水層の合計厚が増加してしまう傾向にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る止水性ファスナーテープの製造方法は、
剥離性基材(71)上に粘性止水層(72)を形成する工程と、
前記剥離性基材(71)の前記粘性止水層(72)をファスナーテープ基布(210)に粘着させ、前記ファスナーテープ基布(210)に粘着した前記粘性止水層(72)から前記剥離性基材(71)を剥離する工程と、
前記ファスナーテープ基布(210)上の前記粘性止水層(72)の硬化を促進して粘性が低下した止水層(72)を形成する工程と、
前記粘性止水層(72)の硬化を促進する工程の後、前記ファスナーテープ基布(210)上の前記粘性が低下した止水層(72)の露出面を剥離性被覆材(73)により被覆する工程を含む。
【0008】
幾つかの実施形態においては、前記ファスナーテープ基布(210)上に前記止水層(72)及び前記剥離性被覆材(73)がこの順番で積層された積層体(84)をリールに巻き取る工程を更に含む。
【0009】
幾つかの実施形態においては、前記粘性止水層(72)に接する側の前記剥離性基材(71)の面には前記粘性止水層(72)の面に転写されるべき模様が形成されている。
【0010】
幾つかの実施形態においては、前記止水層(72)に接する側の前記剥離性被覆材(73)の面には前記止水層(72)の露出面に転写されるべき模様が形成されている。
【0011】
幾つかの実施形態においては、前記粘性止水層(72)が、少なくともポリウレタン、分散剤、及び硬化剤を含む。
【0012】
幾つかの実施形態においては、前記止水層(72)が、少なくとも硬化剤により硬化されたポリウレタンを含む。
【0013】
幾つかの実施形態においては、前記粘性止水層(72)の硬化を促進する工程が、前記粘性止水層(72)が設けられた前記ファスナーテープ基布(210)をヒーター装置に供給することを含む。
【0014】
幾つかの実施形態においては、前記ファスナーテープ基布(210)から突出した前記粘性止水層(72)の突出部分を除去する工程を更に含む。
【0015】
本発明の別態様に係る止水性ファスナーテープは、ファスナーテープ基布(210)と、
前記ファスナーテープ基布(210)上に形成された止水層(72)を備え、
前記止水層(72)が単一の組成物から成る単層であり、少なくとも硬化剤により硬化されたポリウレタンを含む。
【0016】
幾つかの実施形態においては、前記止水層(72)の厚みの上限が180μm又は170μm又は160μm又は150μm又は140μm又は130μm又は120μm又は110μmである。
【0017】
幾つかの実施形態においては、前記止水層(72)の厚みの上限が100μm又は90μm又は80μm又は70μm又は60μm又は50μmである。
【0018】
幾つかの実施形態においては、前記止水層(72)が前記ファスナーテープ基布(210)の反対側にある表面を有し、前記止水層(72)の表面には転写模様が形成されている。
【0019】
本発明の更なる態様に係るファスナーストリンガーは、
先行の段落に記載の止水性ファスナーテープと、
前記止水性ファスナーテープに対して取り付けられたファスナーエレメントを備えるファスナーストリンガーであって、
前記ファスナーテープ基布(210)が、前記止水層(72)が形成された第1面と、この第1面の反対側にある第2面を有し、前記ファスナーエレメントが前記第2面上に配される。
【0020】
本発明の更なる態様に係るスライドファスナーは、先行の段落に記載のファスナーストリンガーに各々が等しい左右一対のファスナーストリンガーと、
前記ファスナーストリンガーを開閉するためのファスナースライダーを備える。
【0021】
本発明の更なる態様に係る積層体は、先行の段落に記載の止水性ファスナーテープと、
前記止水層(72)を介して前記ファスナーテープ基布(210)上に積層された剥離性被覆材(73)を備える。
【発明の効果】
【0022】
本発明の一態様によれば、止水性ファスナーテープの基布上に形成される止水層の更なる薄層化に貢献することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照しつつ、本発明の非限定の例示の実施の形態について説明する。開示の1以上の実施形態及び実施形態に包含される各特徴は、個々に独立したものではない。当業者は、過剰説明を要せず、各実施形態及び/又は各特徴を組み合わせることができ、また、この組み合わせによる相乗効果も理解可能である。実施形態間の重複説明は、原則的に省略する。参照図面は、発明の記述を主たる目的とするものであり、作図の便宜のために簡略化されている場合がある。
【0025】
図1を参照して非限定の例示の実施形態について説明する。
図1は、止水性ファスナーテープの製造工程を示すフローチャートである。
図1の参照から理解されるように、開示の本実施形態に係る止水性ファスナーテープの製造工程は、
剥離性基材上に粘性止水層を形成する第1工程と、
剥離性基材上の粘性止水層をファスナーテープ基布に粘着させ、ファスナーテープ基布に粘着した粘性止水層から剥離性基材を剥離する第2工程と、
ファスナーテープ基布上の粘性止水層の硬化を促進して粘性が低下した止水層を形成する第3工程と、
粘性止水層の硬化を促進する工程の後、ファスナーテープ基布上の粘性が低下した止水層の露出面を剥離性被覆材により被覆する第4工程を含む。
【0026】
一般的には止水層を十分に硬化させるのに相対的に長い時間を要する。従って、単層の粘性止水層をファスナーテープ基布に粘着してその粘性止水層の硬化を促進しただけではファスナーテープ基布を保管する際に粘性止水層の粘性が悪く影響するおそれがある。例えば、やや硬化された粘性止水層がファスナーテープ基布をリールに巻いて保管する場合、露出面となるべき粘性止水層の一面上にファスナーテープ基布が接触して両者が固着してしまうおそれがある。上述の製造方法によれば、止水層の薄層化を図りつつ、このような問題が生じることを回避することができる。更に、剥離性基材や剥離性被覆材の使用により止水層の露出面の面状態が高度に制御可能である。単層の止水層を形成するためにファスナーテープ基布を止水層材料でコーティングする場合には到底得られない効果である。
【0027】
以下、詳細に説明する。第1工程においては、剥離性基材上に粘性止水層を形成する。第1工程で用いられる剥離性基材は、一般的に入手可能な離型紙又は離型フィルムである。離型紙は、紙材の一面又は両面上に離型層が形成されたものである。離型フィルムは、フィルム材の一面又は両面上に離型層が形成されたものである。一実施形態においては、リールに巻かれた長尺な剥離性基材が用いられ、リールの回動により剥離性基材の送り出しが可能である。幾つかの実施形態においては無端状の剥離性基材が用いられる。
【0028】
第1工程で用いられる粘性止水層は、剥離性基材上において層状を保つことができる。一実施形態においては、リールから送られる長尺な剥離性基材上に粘性止水層となるべき粘性材料が供給され、これにより剥離性基材上に粘性止水層が形成される。他の実施形態においては、リールから送られる長尺な剥離性基材上に粘性止水層となるべき粘性材料が供給され、その過程又はこの工程の後、剥離性基材上の粘性材料の硬化が促進され、これにより粘性止水層が形成される。
【0029】
非限定の一実施形態においては、粘性材料及び粘性止水層が、少なくともポリウレタン、分散剤、及び硬化剤を含む。幾つかの実施形態においては、ポリウレタンが主原料であり、分散剤及び硬化剤は添加剤である。ポリウレタンは、例えば、水性ポリウレタンである。硬化剤は、例えば、イソシアネート化合物である。分散剤は、例えば、水である。水性ポリウレタンと分散剤の水の組み合わせによりエコフレンドリーな製造工程が実現される。幾つかの実施形態においては、粘性材料は、硬化剤によるポリウレタンの架橋反応がほとんど進行していないものである。粘性止水層は、硬化剤によるポリウレタンの架橋反応がやや進行したものである。架橋反応の反応速度は、周囲温度が高温になるほど大きくなる。高い製造効率の確保の観点から硬化の促進、換言すれば、架橋反応の促進のため、ヒーターが用いられる。ヒーターは、温度制御可能な汎用品で足りる。
【0030】
幾つかの実施形態においては、水性ポリウレタンが微粒子状であり、例えばポリウレタンエマルジョンや、ポリウレタンディスパージョンの形態で提供される。ここで、「水性」とは分散媒として水が使用可能であることを意味する。しかしながら、分散剤は、必ずしも水に限定されるべきではない。
【0031】
主原料として使用する水性ポリウレタンは、当業者にとって知られた任意のものが使用可能である。例えば、ポリエーテル系ポリウレタン、ポリエステル系ポリウレタン、ポリカーボネート系ポリウレタン、及びポリカプロラクトン系ポリウレタンから成る群から選択される1以上のポリウレタンが使用可能である。幾つかの実施形態においては、1以上の親水基を有するポリウレタンが使用される。幾つかの実施形態においては、耐加水分解性、耐熱性、耐油性及び耐磨耗性の観点から、親水性基を有するポリカーボネート系ポリウレタンが好適に使用される。親水基としては、カチオン性の親水基、アニオン性の親水基、非イオン性の親水基、又はこれらの任意の組み合わせの親水基が使用可能である。カチオン性基としては、例えば、アミノ基が挙げられる。アニオン性の親水性基としては、例えば、カルボキシル基、ホスホン酸基、スルホン酸基が挙げられる。非イオン性の親水性基としては、例えば、ポリアルキレンオキシド基(例えば、ポリエチレンオキシド基)、ヒドロキシル基が挙げられる。親水性基の中でも、環境負荷の低減の理由によりカルボキシル基が好ましい。カルボキシル基等のアニオン性の親水性基は、ポリウレタンの親水性を高める観点から、トリエチルアミン、アンモニア、2−アミノ−2メチルプロパノール等の塩基で中和しておくことが望ましい。
【0032】
硬化剤として使用するイソシアネート化合物は、脂肪族イソシアネート、脂環族イソシアネート、芳香族イソシアネート、又はこれらの任意の組み合わせを含むことができる。イソシアネートは、例えば、ダイマー、トリマー、イソシアネート誘導体、イソシアネートプレポリマー、ブロックイソシアネートから選択することができる。芳香族イソシアネートは黄変する傾向にある。他方、脂肪族イソシアネート、脂環族イソシアネート、又はこれらの任意の組み合わせは、耐変色性に優れており、またポットライフが長い。従って、粘性材料の型への適当な流し込み時間が確保できる。脂肪族イソシアネートとしては、例えば、エチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイ ソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサンジイソシアネート、リジンジイソシア ネート、2,6−ジイソシアナトメチルカプロエート、イソホロンジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシル メタンジイソシアネート、ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、シクロへキシレンジイソシアネート、メチルシクロへキシレンジイソシアネートが挙げられる。
【0033】
幾つかの実施形態においては、イソシアネート化合物が準水系溶剤に溶解したものが用いられる。準水系溶剤とは水に可溶な有機溶剤を指す。準水系溶剤は、例えば、グリコールエーテル系(ジエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングロコールモノメチルエーテル、メトキジメチルブタノールなど)、アルコール系(エタノール、イソプロパノールなど)、テンペル系(d−リモネン)、ピロリドン系(Nメチルー2ピロリドン)を含む。炭化水素が疎水性の性質を有し、水酸基とエーテル基が親水性を有しているグリコールエーテル系は、主原料として使用する水性ポリウレタンに含まれる水との相溶性が良い。イソシアネート化合物の均一分散を確保する観点から、グリコールエーテル系が用いられる場合がある。
【0034】
幾つかの実施形態においては、粘性材料には無機顔料が添加される。これにより止水層を所望の色に着色することができる。
【0035】
第2工程においては、剥離性基材上の粘性止水層をファスナーテープ基布に粘着させ、ファスナーテープ基布に粘着した粘性止水層から剥離性基材を剥離する。第1工程に関して上述の通り、粘性止水層は、剥離性基材上において層状に維持されている。剥離性基材上に粘性止水層が形成された第1積層体とファスナーテープ基布を貼り合わせることにより、剥離性基材上の粘性止水層がファスナーテープ基布の一面に粘着される。より詳細には、第1積層体の粘着止水層の露出面とファスナーテープ基布の一面が貼り合わされる。幾つかの実施形態においては、一対のロール間に第1積層体とファスナーテープ基布が送られ、一対のロール間において第1積層体の粘性止水層がファスナーテープ基布に圧着される。この時、剥離性基材上に粘性止水層を介してファスナーテープ基布が積層された第2積層体が形成される。
【0036】
第2工程においては、ファスナーテープ基布に粘着した粘性止水層から剥離性基材が剥離される。粘性止水層と剥離性基材間の剥離強度は剥離性基材の離型層のために小さい。この剥離強度に比べて、ファスナーテープ基布と粘性止水層間の剥離強度は大きい。この剥離強度の相違に基づいて剥離性基材を簡単に剥離して回収することができる。第2工程において第2積層体から剥離性基材が除去され、ファスナーテープ基布上に粘性止水層が積層された第3積層体が形成される。幾つかの実施形態においては、回収した剥離性基材が再利用され、端的には、第1工程に供給される。
【0037】
幾つかの実施形態においては、第2工程において、剥離性基材上の粘性止水層をファスナーテープ基布に粘着させるステップと、ファスナーテープ基布に粘着した粘性止水層から剥離性基材を剥離するステップが完全又は実質的に同時に行われる。幾つかの実施形態においては、剥離性基材上の粘性止水層をファスナーテープ基布に粘着させるステップの後、ファスナーテープ基布に粘着した粘性止水層から剥離性基材を剥離するステップが行われる。
【0038】
ファスナーテープ基布は、経糸と緯糸が織られた織物、若しくは糸が編まれた編み物であり、可撓性があるシートである。ファスナーテープ基布を構成する糸は、例えば、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維等が挙げられる。これらの合成繊維を織成又は編成することによりファスナーテープ基布が製造される。
【0039】
第3工程においては、ファスナーテープ基布上の粘性止水層の硬化を促進して粘性が低下した止水層が形成される。第2工程において上述のように剥離性基材が除去されている。幾つかの実施形態においては、ファスナーテープ基布上の粘性止水層の露出面が、昇温された又は相対的に高温の雰囲気に晒され、粘性止水層の硬化が促進される。幾つかの実施形態においては、粘性止水層内のイソシアネート化合物によるポリウレタンの架橋反応が進行し、また粘性止水層内の水分が揮発される。
【0040】
第4工程においては、ファスナーテープ基布上の粘性が低下した止水層の露出面が剥離性被覆材により被覆される。第3工程においては、粘性止水層の硬化が進行し、粘性が低下した止水層が形成される。しかしながら、止水層を十分に硬化させるためには長い時間を要することが多い。幾つかの実施形態においては、粘性が低下した止水層も依然としてある程度の粘性を有する。この点に鑑みて、本実施形態においては、第4工程においてファスナーテープ基布上の止水層の露出面を剥離性被覆材で被覆し、これにより、止水層に残存し得る粘着性の問題が回避される。第4工程においては、ファスナーテープ基布上の粘性が低下した止水層の露出面上に剥離性被覆材が積層され、ファスナーテープ基布上に止水層を介して剥離性被覆材が積層された第4積層体が形成される。
【0041】
ファスナーテープ基布上の止水層の十分な硬化が確保された後、剥離性被覆材が剥離され、これにより、ファスナーテープ基布上に止水層が積層された第5積層体が得られる。第3積層体と第5積層体の違いは、ファスナーテープ基布上の止水層の硬さである。第5積層体を止水性ファスナーテープと呼ぶ場合がある。
【0042】
止水性ファスナーテープは、ファスナーテープ基布と、ファスナーテープ基布上に形成された止水層を備える。止水層は、単一の組成物から成る単層であり、少なくとも硬化剤により硬化されたポリウレタンを含む。
【0043】
ファスナーテープ基布上の止水層が単層である。従って、止水性ファスナーテープの厚みを従来よりも有効に低減することができる。幾つかの実施形態においては、止水性ファスナーテープの厚みの低減により、止水性ファスナーテープの柔軟性が高められる。幾つかの実施形態においては、止水性ファスナーテープの厚みの低減により、スライドファスナーとして用いられる時のファスナースライダーの摺動抵抗の低減が図られる。幾つかの実施形態においては、止水性ファスナーテープの厚みの低減により、ファスナースライダーの上翼板のフランジ部と止水層の接触が低減され、摩擦による止水層の摩耗が低減される。幾つかの実施形態においては、止水性ファスナーテープの厚みの低減により、スライドファスナーとして用いられる時のスライドファスナーの合計重量が低減される。
【0044】
止水性ファスナーテープの止水層の厚みの上限は、例えば、180μm又は170μm又は160μm又は150μm又は140μm又は130μm又は120μm又は110μmである。若しくは、止水層の厚みの上限が100μm又は90μm又は80μm又は70μm又は60μm又は50μmである。止水性ファスナーテープの止水層の厚みの下限は、例えば、35μm又は40μm又は45μm又は50μmである。当業者は、第1工程における粘性止水層の厚み及び組成に応じて止水性ファスナーテープの止水層の厚みが変動することを理解するだろう。
【0045】
幾つかの実施形態においては、第1乃至第4工程において処理されるファスナーテープ基布にはファスナーエレメントが予め設けられている。例えば、ファスナーテープ基布が一対の主面を有し、一方の主面にコイルエレメントが縫い付けられ、他方の主面にはコイルエレメントが縫い付けられていない。第1乃至第4工程を経てファスナーテープ基布の他方の主面に止水層及び剥離性被覆材がこの順で積層される。
【0046】
幾つかの実施形態においては、第1乃至第4工程において処理されるファスナーテープ基布にはファスナーエレメントが予め設けられておらず、止水性ファスナーテープの製造後、止水性ファスナーテープに対してファスナーエレメントが設けられる。例えば、インサート成形により止水性ファスナーテープの側縁部に樹脂エレメントが設けられる。
【0047】
以下、
図2乃至
図8を参照しながら例示の実施形態の詳細について説明する。
図2は、本発明の実施形態に係る止水性ファスナーテープの製造工程を示す模式図である。
図3は、本発明の実施形態に係る止水性ファスナーテープの製造工程を示すフローチャートである。
図4は、本発明の実施形態に係る止水性ファスナーテープの製造工程において現れる積層体の積層構造を示す模式図である。
図5は、本発明の実施形態に係る止水性ファスナーテープの製造工程において現れる積層体の一面を示す模式図である。
図6は、本発明の実施形態に係る止水性ファスナーテープの製造工程において用いられる剥離性基材及び剥離性被覆材の概略的な斜視図である。
図7は、本発明の実施形態に係る止水性スライドファスナーの概略的な平面図である。
図8は、本発明の実施形態に係る止水性スライドファスナーの概略的な断面模式図であり、
図7のVIII−VIIIに沿う概略的な断面構成を示す。
【0048】
図2から理解されるように、繰り出しリール若しくは第1リール11と巻き取りリール又は第2リール12に無端状に剥離性基材71が巻かれる。一例においては、繰り出しリール11と巻き取りリール12の一方のリールがモーターから伝達される回転力に応じて回転し、他方のリールが剥離性基材71を介して伝達する力に応じて受動回転する。繰り出しリール11から送られる剥離性基材71は、粘性材料供給部91と、第1ヒーター92を通過する。粘性材料供給部91は、剥離性基材71上に粘性材料を供給する。粘性材料供給部91は、例えば、剥離性基材71上に配される枠体を有し、枠体内に粘性材料を供給する。この枠体の底を閉じる態様で剥離性基材71が送られる。真っさらな剥離性基材71の特定領域が枠体を通過し、これにより、剥離性基材71の特定領域上には粘性材料が層状に形成される。できるだけ一定の層厚を確保するための任意の公知の手法が採用される。
【0049】
粘性材料の適切な層厚を確保するため、粘性材料の組成が調整される。幾つかの実施形態においては、上述に例示したポリウレタン、水、イソシアネート化合物に加えて、増粘剤が添加される。この増粘剤としては、公知の任意の水溶性増粘剤が使用可能である。例えば、多糖類やゼラチン等の天然高分子、ポリオキシエチレンや架橋ポリ(メタ)アクリル酸等の合成高分子、モンモリナイトやシリカ等の無機鉱物が例示される。
【0050】
幾つかの実施形態においては、粘性材料には、シリコーン化合物が添加され、これにより、止水性ファスナーテープの止水層の耐摩耗性が高められる。幾つかの実施形態においては、シリコーン化合物は、止水性ファスナーテープの止水層中(固形分換算)で2質量%以上を占め、又は4質量%以上を占める。シリコーン化合物の含有量が多くなりすぎると却って止水性ファスナーテープの止水層が脆くなる場合がある。従って、シリコーン化合物は止水性ファスナーテープの止水層中で25質量%以下を占めるのが好ましく、15質量%以下を占めるのがより好ましい。シリコーン化合物の少なくとも一部は止水性ファスナーテープの止水層を構成するポリウレタンと共重合した形態で存在する。
【0051】
剥離性基材71上に形成された粘性材料の層が第1ヒーター92を通過し、この過程で粘性材料中のポリウレタンの硬化が促進され、粘性止水層72が形成される。幾つかの実施形態においては、適切な組成や流動性を有する粘性材料が用いられ、第1ヒーター92が省略される。この場合、粘性材料供給部91を通過した後、剥離性基材71上に粘性止水層72が形成される。第1ヒーター92の温度は、例えば、60℃〜120℃である。剥離性基材71の送り速度は、例えば、0.5m/分〜3.0m/分である。第1ヒーター92の通過所要時間は、例えば、1分〜5分である。
【0052】
剥離性基材71上に粘性止水層72が積層された第1積層体81の積層構造が
図4(a)に示され、第1積層体81の積層構造の主面の部分的な平面図が
図5(a)に示される。なお、
図4に示される各層は、実際の厚みを反映するものではなく、以降の説明においても同様である。
【0053】
剥離性基材71上に粘性止水層72が積層された第1積層体81は、第1圧着処理部93へ供給される。ファスナーテープ基布210も図示のロール搬送機構により第1圧着処理部93へ供給される。第1圧着処理部93は、一対のロール21を有し、この一対のロール21の間において第1積層体81とファスナーテープ基布210が圧着される。第1積層体81の粘性止水層72がファスナーテープ基布210の一面に粘着する。剥離性基材71上に粘性止水層72を介してファスナーテープ基布210が積層された第2積層体82が形成される。
【0054】
第2積層体82の積層構造が
図4(b)に示され、第2積層体82の積層構造の主面の部分的な平面図が
図5(b)に示される。
【0055】
図5(b)の参照から理解されるように、ファスナーテープ基布210を含むファスナーチェーンが第1圧着処理部93へ供給される。このような態様においても、ファスナーテープ基布210が第1圧着処理部93へ供給されることには変わりが無い。左右のファスナーストリンガーに個別に止水層を形成するよりは、ファスナーチェーンに対して止水層を一括して形成するほうが高い生産効率を確保することができる。更に、ファスナーチェーンに対して止水層を形成する場合、左右のファスナーストリンガーを閉じる時に左右の止水層の対向端部同士が好適に突き合わされ、良好な止水性が確保される。なお、ファスナーチェーンに止水層を形成した後、止水層は、左右のファスナーエレメント列の噛合い線に沿って切断される。
【0056】
図5(a)及び
図5(b)の比較若しくは
図5(b)自体から理解されるように、送り方向に直交する剥離性基材71の横幅は、送り方向に直交するファスナーチェーンの横幅よりも大きい。これにより、ファスナーチェーンの一面に対して漏れなく粘性止水層72を粘着させることができる。
【0057】
図2に示すように、剥離性基材71上に粘性止水層72を介してファスナーテープ基布210が積層された第2積層体82は、剥離性基材巻き取り部94へ供給される。図示例の剥離性基材巻き取り部93は、剥離性基材71を巻き取るための巻き取りリール12を有し、巻き取りリール12の回転により剥離性基材71が巻き取られる。これにより、ファスナーテープ基布210上に粘性止水層72が積層された第3積層体83が形成される。換言すれば、ファスナーテープ基布210上に単層の粘性止水層72が残留し、剥離性基材71からファスナーテープ基布210への粘性止水層72の移行が完了する。一例においては、繰り出しリール11と巻き取りリール12に無端状の剥離性基材71が巻かれ、各リールの回転速度が等しい。
【0058】
ファスナーテープ基布210上に粘性止水層72が積層された第3積層体83の積層構造が
図4(c)に示される。
【0059】
図2に示すように、第3積層体83は、第2ヒーター95に送られる。第2ヒーター95内を通過することにより粘性止水層72の硬化が促進され、その粘性が低下し、ファスナーテープ基布210上には粘性が低下した止水層72が形成される。第2ヒーター95の前後の止水層72の相違は、主にポリウレタンの硬化の程度の違い、止水層72内の水分の揮発の程度の違い、止水層72自体の質量/重量の違いが例示される。
【0060】
ファスナーテープ基布210上の粘性止水層72の露出面が、第2ヒーター95内の昇温された又は相対的に高温の雰囲気に晒され、粘性止水層の硬化が促進される。例えば、粘性止水層内のイソシアネート化合物によるポリウレタンの架橋反応が進行し、また粘性止水層内の水分が揮発される。
【0061】
第2ヒーター95の温度は、例えば、60℃〜120℃である。送り速度は、例えば、0.5m/分〜3.0m/分である。第2ヒーター95の通過所要時間は、例えば、1分〜5分である。
【0062】
第2ヒーター95を通過した第3積層体83は切除装置96に供給される。切除装置96は、送り方向に直交する幅方向においてファスナーチェーン及びファスナーテープ基布210から外側に突出する止水層72の突出部分を除去する。これにより、
図5(b)の時には存在していたファスナーチェーンから幅方向外側に突出する止水層72の突出部分が除去され、
図5(b)に示すような止水層72の不要部分が除去されたファスナーチェーンが得られる。
【0063】
切除装置96を通過した第3積層体83は、第2圧着処理部97へ供給される。第2圧着処理部97は、第3積層体83と剥離性被覆材73を貼り合わせ、第3積層体83の止水層72の露出面を剥離性被覆材73により被覆する。ファスナーテープ基布210上の粘性が低下した止水層72の露出面上に剥離性被覆材73が積層され、ファスナーテープ基布210上に止水層72を介して剥離性被覆材73が積層された第4積層体84が形成される。
【0064】
ファスナーテープ基布210上に止水層72を介して剥離性被覆材73が積層された第4積層体84の積層構造が
図4(d)に示され、第4積層体84の積層構造の主面の部分的な平面図が
図5(d)に示される。
図5(d)に示すように送り方向に直交する幅方向における剥離性被覆材73の横幅は、ファスナーチェーンの横幅及びファスナーテープ基布210の横幅よりも大きい。止水層72の粘着の問題がより高い確実性において解消される。
【0065】
図2に示す例では、第2圧着処理部97が、一対のロール22を有し、一対のロール22の間に第3積層体83と剥離性被覆材73が供給され、その間で圧着され、第4積層体84が形成される。第3積層体83の止水層72が剥離性被覆材73により保護される。幾つかの実施形態においては、第3積層体83の止水層72が剥離性被覆材73に粘着する。幾つかの実施形態においては、第2ヒーター95を通過した後も止水層72には粘着性が残存する。止水層72の露出面を剥離性被覆材73で被覆することにより、その粘着性の問題が解消される。なお、剥離性被覆材73は、剥離性基材71と同一若しくは異なるものである。剥離性被覆材73は、複数のロールを含む搬送機構により一対のロール22の間へ供給される。
【0066】
第2圧着処理部97を通過した第3積層体83は、巻き取り部98へ供給される。巻き取り部98は、ファスナーテープ基布210上に止水層72を介して剥離性被覆材73が積層された第4積層体84を巻き取るためのリール13を有する。長尺な第4積層体84がリール13に巻き取られ、第4積層体84の保管が簡単になる。更に、リール13を不図示のヒーターに供給すれば、第4積層体84の止水層72の硬化が更に促進される。
【0067】
図2においては図示されていないが、止水層72の硬化が十分に進行した後、剥離性被覆材73が剥離され、ファスナーテープ基布210上に十分に硬化した止水層72が積層された第5積層体が得られる。
【0068】
図3は、上述した工程の概略的なフローチャートであり、粘性材料供給部91、第1ヒーター92、第1圧着処理部93、剥離性基材巻き取り部94、第2ヒーター95、切除装置96、第2圧着処理部97、及び巻き取り部98の各動作を概略的に示している。
【0069】
上述の製造方法によれば、止水層の薄層化を図りつつ、止水層の粘性に由来する問題が生じることを回避することができる。更に、剥離性基材や剥離性被覆材の使用により止水層の露出面の面状態が高度に制御可能である。単層の止水層を形成するためにファスナーテープ基布を止水層材料でコーティングする場合には到底得られない効果である。薄層の止水層により、例えば、i)止水性ファスナーテープの柔軟性が高められ、ii)スライドファスナーとして用いられる時のファスナースライダーの摺動抵抗の低減が図られ、iii)ファスナースライダーの上翼板のフランジ部と止水層の接触が低減され、摩擦による止水層の摩耗が低減され、iv)スライドファスナーとして用いられる時のスライドファスナーの合計重量が低減される。
【0070】
図6に示すように、剥離性基材71及び剥離性被覆材73の一方又は両方の主面には凸部のパターン又は凹部のパターン若しくは凸部パターンと凹部パターンの組み合わせが形成される。凸部及び凹部の具体的な正面視形状は任意であり、例えば、円形、三角形、四角形、五角形、線状、S字状、星状などであり、幾つかの実施形態においては文字や絵柄を表わす。剥離性基材71又は剥離性被覆材73の主面が非平坦面であるとも説明できる。このような場合、剥離性基材71の主面に形成された模様を粘性止水層72に転写することができる。同様にして、剥離性被覆材73の主面に形成された模様を粘性が低下した止水層72に転写することができる。
【0071】
転写模様を有する止水層72が形成され、実施形態によっては、実に繊細な外観を呈する。剥離性基材又は剥離性被覆材を用いる場合、他の成膜方法と比較して高度に表面状態が制御された止水層72の露出面が達成されるものと当業者に理解される。
【0072】
剥離性基材及び剥離性被覆材の両方の主面が平坦面であれば、最終的に得られる止水層72の露出面が高い光沢性を得ることができる。この点についても、剥離性基材や剥離性被覆材を何ら用いない成膜方法では達成しがたい効果である。
【0073】
幾つかの実施形態においては、粘性止水層72に接する側の剥離性基材71の面には粘性止水層72の面に転写されるべき模様が形成される。幾つかの実施形態においては、代替的又は追加的に、止水層72に接する側の剥離性被覆材73の面には止水層72の露出面に転写されるべき模様が形成される。
【0074】
粘性止水層72が硬化する時、粘性止水層72内の分散剤の気化、粘性止水層72内のポリウレタンとイソシアネート化合物の架橋反応が生じ、この架橋反応が進行するに応じて架橋ポリウレタンが層内に形成される。架橋反応が完全又は十分に進行した後、止水層72内には架橋ポリウレタンと増粘剤の固形分が主に含まれる。
【0075】
図7及び
図8を参照して上述したファスナーテープやファスナーチェーンを用いて製造されたスライドファスナーの一例について説明する。
図7に示すように、スライドファスナー290は、左右一対のファスナーストリンガー280と、左右一対のファスナーストリンガー280を開閉するための一つのファスナースライダー270を有する。ファスナーストリンガー280は、ファスナーテープ220の対向側縁部にファスナーエレメント240が設けられたものである。ファスナースライダー270の前進により左右のファスナーストリンガー280の各ファスナーエレメント240が噛合い、左右のファスナーストリンガー280が閉じられる。ファスナースライダー270の後進により左右のファスナーストリンガー280の各ファスナーエレメント240の噛合が解除され、左右のファスナーストリンガー280が開けられる。
【0076】
ファスナーテープ220は、ファスナーテープ基布210の上面に単層の止水層72が積層されたものである。図示例においては、ファスナーテープ基布210の下面にはコイルエレメントが縫い付けられている。ファスナーテープ基布210の上面にはコイルエレメントが設けられていなく、上述のように粘性止水層72に対してファスナーテープ基布210の一面を好適に貼り合わせることができる。
【0077】
ファスナースライダー270は、上翼板271と下翼板272が連結柱を介して連結した金属又は樹脂部品である。ファスナースライダー270の前進又は後進の過程で上翼板271の左右側縁部に設けられたフランジ部273が止水層72の露出面に接触する。本実施形態においては、止水層72の厚みを低減することが可能である。従って、幾つかの実施形態においては、止水層72の摩耗が低減される。
【0078】
図9に示す別の製造工程においては、上述の実施形態とは異なり、第1積層体81に対するファスナーテープ基布210の貼り合わせ及び圧着と、第2積層体82からの剥離性基材71の剥離がほぼ同時に行われている。このような場合においても上述の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0079】
図9に示すように、粘性材料供給部91、第1ヒーター92、第1圧着処理部93、剥離性基材巻き取り部94、第2ヒーター95、第2圧着処理部97、及び巻き取り部98が設けられる。第1圧着処理部93の一対のロールから送り出される剥離性基材71が巻き取りリール12により回収されている。
図9に示す場合、上述の実施形態とは異なり、切除装置96が除かれている。このような態様も想定される。リール14にはファスナーチェーンが巻かれ、ロール21へ供給される。リール15には剥離性被覆材73が巻かれ、ロール22へ供給される。
【0080】
図10に示す別の製造工程においては、
図9に示す実施形態とは異なり、第1ヒーター92と第2ヒーター95が共有されている。第3積層体83と一緒に剥離性被覆材73がリール13により巻き取られ、剥離性被覆材73が止水層72を被覆して第4積層体84が形成されるタイミングと、第4積層体84がリール13に巻かれるタイミングが完全又は実質的に同一である。このような実資形態において
図2及び
図9に示した実施例と同様の効果を得ることができる。
【0081】
上述の教示を踏まえると、当業者をすれば、各実施形態に対して様々な変更を加えることができる。請求の範囲に盛り込まれた符号は、参考のためであり、請求の範囲を限定解釈する目的で参照されるべきものではない。