【課題を解決するための手段】
【0004】
開示された抽出装置が、上述の欠点および需要の少なくとも1つに対処する。この抽出装置は、基質から目標分子を吸着する抽出相で被覆された基材を含む。抽出相は、基質から目標分子を吸着するポリマ、または基質から目標分子を吸着するような寸法に設計された細孔を有するポリマおよび固相マイクロ抽出(SPME)粒子を含むことができる。固相マイクロ抽出(SPME)は、ポリマまたは固体粒子のいずれかを用いて行うことができる。
【0005】
好ましくは、基材は、メッシュ基材を通って流体が流れることを可能にするのに十分な開口構造を有するメッシュ基材である。例示の装置は、被覆メッシュ基材に安定性を与えるために、メッシュ基材に接続された固体基材を含む。
【0006】
抽出装置は、透過型(TM)基材として、質量分析計の熱型または溶媒型脱離源に連結することができる。熱型または溶媒型脱離源は、電子励起状態の加熱ガスを使用して、SPME装置の表面上に吸着された分子を脱離させることができる。
【0007】
本開示に係る抽出装置と共に使用することができる1つの熱型脱離源は、リアルタイム直接分析(DART)である。DARTは、例えば窒素、ネオンまたはヘリウムなどの気体に電位を印加し、グロー放電を生成することによって、(準安定種と呼ばれる)イオン化気体、電子および励起状態の原子または分子を含むプラズマを生成する。電位を印加することによって、荷電粒子が除去され、準安定種が残される。準安定種は、加熱され、抽出装置の表面に吸着された分子を脱離させるために使用される。
【0008】
本開示に係るSPME装置と共に使用することができる別の熱型または溶媒型脱離源は、例えば、プラズマアシスト脱離/イオン化(PADI)、誘電バリア放電イオン化(DBDIまたはDCBI)、脱離大気圧化学イオン化(DAPCI)、脱離ソニックスプレーイオン化(DeSSI)、脱離大気圧光イオン化(DAPPI)、流動大気圧アフターグロー(FAPA)、脱離エレクトロスプレーイオン化(DESI)、大気圧レーザ脱離イオン化、コロナ放電、誘導結合プラズマ(ICP)、またはグロー放電を用いて、分子をイオン化する装置を含む。
【0009】
また、本開示は、一般的に、試料中に存在する目標分析物を抽出または濃縮し、続いて質量分析のためにイオンを生成するシステムおよび方法に関する。本開示は、試料の量または複雑さに依存せず、基質から目標化学物質を収集および濃縮し、質量分析計に移送することができるシステムを提供する。抽出相がポリマおよび固相マイクロ抽出(SPME)粒子を含む場合、本明細書に開示されたシステムは、固相マイクロ抽出−透過型(SPME−TM)システムとして呼ばれてもよい。このシステムは、変更されることなく、熱または溶媒に基づく脱離技術を用いてSPME装置の表面上に吸着された分子を脱離させるための透過型基材として、使用されることができる。熱または溶媒に基づく脱離技術は、例えば、プラズマ源または非プラズマ源を使用して、分子を脱離させることができる。
【0010】
「目標分析物」および「目標化合物」という表現は、同義であると理解すべきである。いくつかの例において、目標化合物は、「目標化学物質」または「目標分子」であってもよい。目標分子は、小分子であってもよい。小分子は、疎水性または親水性であってもよく、好ましくは10000原子量単位未満の分子量を有する。分子は、例えば、薬物であってもよく、バイオマーカであってもよい。バイオマーカは、異常な量で存在する場合、疾患の存在を示す生理学物質である。
【0011】
特定の態様において、本開示は、固相被覆基材を用いて、イオンを生成するためのシステムおよび方法を提供する。このシステムまたは方法は、目標分析物の少なくとも一部を抽出すると共に、例えば洗浄工程においてタンパク質、炭水化物、塩および界面活性剤などの基質成分を除去することによって、実質的に質量分析計の汚染および/または損傷を防止する。
【0012】
特定の態様において、本明細書に開示された装置および方法は、メッシュ基材を備える。このメッシュ基材の撚り糸は、ポリマ、好ましくは生体適合性ポリマ、および基質から目標分子を吸着するような寸法に設計された細孔を有する固相マイクロ抽出(SPME)粒子を含む抽出膜で被覆される。SPME粒子は、ポリマによって被覆されているが、基質中に存在する目標分析物の少なくとも一部を吸着することができる。ポリマは、SPME粒子を懸濁させるもの、またはSPME粒子をメッシュ基材に付着させるもの、またはその両方として見なすことができる。
【0013】
本開示によれば、メッシュ基材は、基材を通って流体が流れることを可能にする基材である。メッシュ基材は、例えばグリッド状に配置されており、複数の接続されたまたは含浸されたワイヤ、フィラメントまたはストリングを含むことができる。メッシュ基材が複数の接続されたまたは含浸されたワイヤ、フィラメントまたはストリングを含む場合、ワイヤ、フィラメントまたはストリングは、ミクロメートルからミリメートル範囲の直径を有することができる。好ましくは、ワイヤ、フィラメントまたはストリングの直径は、50μm〜0.5mmである。より好ましくは、その直径は、約94μmである。1平方インチ当たりのワイヤ、フィラメントまたはストリングの数は、20×20〜80×80本である。好ましい実施例において、1平方インチ当たりのワイヤ、フィラメントまたはストリングの数は、74×74本である。メッシュ基材は、約20%〜約70%の開口面積有する。より大きな開口面積率を有するメッシュ基材は、メッシュを通って流れる流体に殆ど干渉せず、よって、メッシュの脱離結果に変化が少ないため、好ましい。好ましいメッシュ基材は、約50%〜約60%の開口面積を有する。
【0014】
メッシュ基材、例えば、ワイヤ、フィラメントまたはストリングから構成されるメッシュ基材は、金属、合金またはポリマ基材を含むことができる。熱を伝導するメッシュ基材は、伝導熱により吸着された分析物の脱離が増加するため、好ましい。好ましい例において、メッシュ基材は、ステンレス鋼、ニチノール、ニッケル、チタン、アルミニウム、黄銅、鉄、ブロンズ、またはポリブチレンテレフタレートである。メッシュ基材は、3D印刷に使用できる材料から形成することもできる。メッシュ基材は、3D印刷される場合、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)、ポリカーボネート−ISO(PC−ISO)、ポリカーボネート(PC)、ポリカーボネート−アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(PC−ABS)、ポリエーテルイミド(例えば、ULTEM(商標))、またはポリフェニルスルホン(PPSF)などの3D印刷に適した材料を用いて、印刷される。組織内の挿入または高速撹拌を含む方法に被覆メッシュ基材を使用する場合、形状記憶特性を有する金属(例えば、ニチノール)を使用することは、特に有益である。このような方法に形状記憶特性を有する金属を使用することによって、基材は、例えば平坦な形状を維持することができる。他の例において、ポリマ基材は、スチレン、プロピレン、カーボネート、エチレン、アクリロニトリル、ブタジエン、塩化ビニル、フッ化ビニル、エチレンテレフタレート、テレフタレート、ジメチルテレフタレート、ビス−β−テレフタレート、ナフタレンジカルボン酸、4−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシナフタレン−2−カルボン酸、モノエチレングリコール(1,2−エタンジオール)、シクロヘキシレン−ジメタノール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、ポリエステル、シクロヘキサンジメタノール、テレフタル酸、イソフタル酸、メチルアミン、エチルアミン、エタノールアミン、ジメチルアミン、ヘキサメチルアミンジアミン(ヘキサン−1,6−ジアミン)、ペンタメチレンジアミン、メチルエタノールアミン、トリメチルアミン、アジリジン、ピペリジン、N−メチルピペリジン、無水ホルムアルデヒド、フェノール、ビスフェノールA、シクロヘキサノン、トリオキサン、ジオキソラン、エチレンオキシド、塩化アジポイル、アジピン、アジピン酸(ヘキサン二酸)、セバシン酸、グリコール酸、ラクチド、カプロラクトン、アミノカプロン酸からなる群から選択される1種以上の試薬から合成される材料、およびこれらの試薬を重合して合成される2種以上の材料の混合物からなる群から選択される材料を含むことができる。
【0015】
基質から目標分子を吸着するような寸法に設計された細孔を有する固相マイクロ抽出(SPME)粒子は、例えば、C−18/シリカ、RP−アミド/シリカ、またはHS−F5/シリカであってもよい。当業者であれば理解するように、C−18/シリカ粒子が、疎水性相またはオクタデシルを含む疎水性結合相を用いて誘導体化されたシリカ粒子を含む。RP−アミド/シリカ粒子の場合、結合相は、パルミトアミド−プロピルを含む。HS−F5−シリカ粒子の場合、結合相は、ペンタフルオロフェニル−プロピルを含む。当業者であれば理解するように、抽出される化合物の性質に応じて、他の粒子、特に固相抽出または親和性クロマトグラフィ(例えば、液体クロマトグラフィ)で現在使用されている任意の抽出粒子と共に、適切な被膜を形成することができる。これは、親和性クロマトグラフィが、粒子の違いによって、さまざまな化合物を分離していることと同様である。例えば、他の粒子は、正相シリカ、C1/シリカ、C4/シリカ、C6/シリカ、C8/シリカ、C30/シリカ、フェニル/シリカ、シアノ/シリカ、ジオール/シリカ、イオン液体/シリカ、分子認識ポリマ粒子、親水性−親油性−バランス(HLB)粒子、カルボキシン1006、またはジビニルベンゼンなどの粒子を含むことができる。当業者であれば理解するように、フェニル/シリカ粒子は、化学的に結合したフェニル基を有するシリカ粒子を含む。粒子の混合物も、被膜に使用されることができる。粒子は、無機(例えば、シリカ)、有機(例えば、カルボキシまたはジビニルベンゼン)、または無機/有機ハイブリッド(例えば、シリカおよび有機ポリマ)であってもよい。
【0016】
粒子は、約0.2〜約100μmの粒径を有してもよい。好ましくは、粒子は、約0.2〜約60μmの粒径を有する。より好ましくは、粒子は、約0.2〜約30μmの粒径を有する。さらに好ましくは、粒子は、約0.2〜約5μmの粒径を有してもよい。粒子は、球状であってもよい。細孔の孔径は、約10〜約200Åであってもよい。好ましくは、細孔の孔径は、約100〜約180Åであってもよい。表面積は、約200m
2/g〜約800m
2/gであってもよい。好ましくは、表面積は、約200m
2/g〜約300m
2/gであってもよい。
【0017】
生体適合性ポリマは、例えば、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリエチレングリコール、ポリピロール、セルロース誘導体、ポリスルホン、またはポリアミドを含むことができる。さらに、当業者であれば理解するように、接着剤または支持体として、他の生体適合性ポリマを使用することができる。
【0018】
特定の例において、被膜は、さまざまな抽出粒子(例えば、C−18/シリカ、HLB、RP−アミド/シリカ、またはHS−F5/シリカ)をポリアクリロニトリル(PAN)、ポリエチレングリコール、ポリピロール、セルロース誘導体、ポリスルホン、またはポリアミドの溶液に懸濁させることによって得られた懸濁液を用いて、メッシュを被覆することによって作製される。
【0019】
好ましくは、本開示に係る被覆メッシュ基材は、メッシュ基材に亘って均質な被膜を形成する方法を用いて製造される。本開示に係る被覆メッシュ基材は、バッチ被覆工程によって製造されてもよい。バッチ被覆工程において、生体適合性被覆剤は、好ましくは、PANまたはポリエチレングリコール(PEG)である。例示的な工程において、抽出粒子は、C−18、RP−アミド、HS−F5シリカ粒子、または上記に列挙された任意の他の粒子であってもよい。粒子の混合物を使用することができる。生体適合性被覆剤としてPANを使用し、粒子としてシリカ粒子を使用する場合、PAN/シリカの比は、0.05〜0.25(w/w)であってもよい。好ましくは、PAN/シリカの比は、0.10〜0.18(w/w)である。この比は、シリカの正味重量を基準とし、シリカ粒子に付加された相に応じて調整される。生体適合性被覆剤は、溶媒に溶解されてもよい。PAN/溶媒溶液中のPANは、0.5%〜2%(w/w)であってもよい。好ましくは、PAN/溶媒溶液中のPANは、約0.8%〜約1.2%(w/w)である。より好ましくは、PAN/溶媒溶液のPAN/溶媒の濃度は、約1%(w/w)である。溶媒は、当業者に公知のPANを溶解する任意の溶媒、例えば、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド、NaSCN、Ca(CNS)
2、エチレンカーボネート、またはそれらの混合物であってもよい。より好ましくは、溶媒は、DMFである。被覆剤を適用する前に、メッシュ基材の表面をエッチングしてもよい。エッチングされた表面上に被覆剤を適用する場合、被覆粒子が表面により付着することができる。金属メッシュ基材などのメッシュ基材の場合、硝酸、フッ化水素酸、硫酸または塩酸を用いて、エッチングすることができる。好ましくは、塩酸を用いて、メッシュ基材をエッチングする。エッチング工程に使用された塩酸は、約18%〜約37%(v/v)であってもよい。好ましくは、37%(v/v)の塩酸を用いて、エッチング工程を行う。メッシュ基材のエッチング時間は、約2分〜約8分にしてもよい。好ましくは、エッチング時間は、約5分である。
【0020】
固体基材は、一層の被膜または二層以上の被膜で被覆されてもよい。好ましくは、被膜を適用した後、メッシュの開口に蓄積されている余分な被覆溶液の大半を除去するために、被覆基材に不活性気体の気流を流す。余分な被覆溶液を除去するために、高純度の気体、例えば窒素、アルゴンまたはヘリウムなどを使用することができる。好ましくは、高純度の窒素を用いて、余分な被覆溶液を除去する。余分な被覆溶液を除去するために使用される気体の流速は、約0.5L/分〜約3L/分であってもよい。好ましくは、気体の流速は、約0.5L/分〜約1.5L/分である。メッシュ開口から余分な被覆溶液を除去することにより、メッシュ基材全体の被膜の均一性が改善され、脱離およびイオン化工程中のイオン透過の信頼性が向上される。
【0021】
メッシュ基材から余分な被覆溶液を除去した後、被覆メッシュ基材が高温のヒータを通過することによって、少なくとも一部の溶媒を除去することができる。高温は、約120℃〜約300℃であってもよい。好ましくは、高温は、約120℃〜約150℃である。当業者であれば容易に理解するように、PANは、溶媒に溶解されると、完全に重合するため、完全にまたは少なくとも実質的に完全に溶媒を蒸発することによって、メッシュ基体を適切に被覆することができる。したがって、当業者に知られている任意の溶媒を除去する手段を用いて、被覆基材を乾燥することができる。
【0022】
本明細書に記載の装置および方法は、SPME装置である場合、流体などの試料中に存在する分析物の分離および濃縮を同時に実行する。さらに、目標分析物に合わせて被膜を調整することができるため、イオン抑制または増強をもたらす望ましくない人工物質を減少することができる。
【0023】
被覆メッシュ基材は、DART用の透過型基材として使用される場合、DARTノズルとMS注入口との間に配置される。この位置では、被覆メッシュ基材上に吸着された分析物の大部分は、メッシュ基材を通って流れる準安定気体流によって脱離およびイオン化される。イオン化された分析物は、質量分析計に移送される。好ましくは、被覆メッシュ基材とDARTノズルとMS注入口とがすべて0°の角度で互いに同軸になるように、被覆メッシュ基材を設置する。準安定気体流は、メッシュを貫流することによって、被覆粒子の表面上に吸着された化合物の大部分を脱離およびイオン化する。イオン化された分析物は、大気圧界面(API)に輸送され、タンデム質量分析法によって分析される。特定の例において、DARTを用いて分析物を脱離する場合、1つの実験から次の実験の持ち越し汚染は、5%未満にすることができる。
【0024】
いくつかの態様において、本明細書に開示された装置および方法は、試料の採取、試料の調製および分析物の分離または濃縮をリアルタイム直接分析(DART)に必要な分析物の正確な位置決めと共に行う。被覆メッシュ基材上に吸着された分析物の脱離は、DARTノズルを用いて、被覆メッシュ基材の表面を走査することによって行うことができる。被覆メッシュ基材の表面を走査することによって、質量分析計は、被覆メッシュ基材の表面全体に亘って分析物の分布変化を測定することができる。このことは、ソースノズルのサイズがメッシュ基材のサイズよりも著しく小さい場合、例えばソースノズルの直径がミクロメートルである場合に、可能である。
【0025】
本明細書に開示された装置および方法は、質量分析に必要な試料の浄化を犠牲にすることなく、複雑な基質、例えば生物流体または食品基質中の化学物質を迅速に分析することができる。本開示の装置および方法は、水性塩溶液、食品基質、血漿および尿を迅速に分析することができる。
【0026】
本明細書に開示された装置および方法は、装置を試料に浸漬することによって、または液体試料を被覆メッシュ基材上にスポットすることによって、目標分析物の分離または濃縮を行うことができる。生物流体(例えば、血液または溶解した細胞)を含む液滴を例えば被覆固体メッシュ基材上にスポットすることができる。メッシュ基材の被膜と試料との間の相互作用によって、目標分析物は、試料から被覆メッシュに移される。試料が流体である場合、メッシュ開口を通って試料が流れることによって、試料とメッシュ基材を被覆しているSPME粒子およびポリマとの間の相互作用を高めることができる。被覆メッシュと試料との間の相互作用時間は、数秒から数時間であってもよい。本開示に係る被覆メッシュ基材は、高速で試料を撹拌(例えば、渦動撹拌)することによって、試料から目標分析物の抽出および濃縮を行うことができる。撹拌速度の増加は、抽出および濃縮の速度を増加させることができる。抽出または濃縮は、小型容器に封入された試料に対して行うことができる。容器の容積は、例えば、数マイクロリットルから数リットルであってもよい。被膜の表面に付着し得る人工物質(例えば、繊維、タンパク質、細胞、粒子状物質、洗剤、塩)を除去するために、既に抽出または濃縮された分析物を脱離させないように装置を1回以上洗浄することができる。被膜から分析物を脱離させない溶媒を用いて、被覆メッシュ基材を洗浄することができる。特定の例において、溶媒は、液体クロマトグラフィ/質量分析(LC/MS)等級水のような水であってもよい。人工物質を実質的に除去するのに十分な回数で、被覆メッシュ基材を洗浄することができる。分析物を脱離させない溶媒を使用すれば、被覆基材を複数回洗浄しても、抽出された分析物は、被膜から実質的に損失することがない。
【0027】
抽出および/またはイオン化の間、質量分析装置間の変動および/または試料間の変動を考慮するために、内部標準物は、被覆層に添加されてもよく、または抽出または濃縮工程の前に試料に添加されてもよい。目標分析物を抽出する前に、予め内部標準物を被覆層に添加することができる。代替的には、分析物を抽出する前に、内部標準物を被覆層および試料の両方に添加してもよい。
【0028】
本開示の装置および方法を用いて、試料から目標分析物の抽出または濃縮を行うことができる。試料は、生物流体または生物組織であってもよい。生物流体は、全血、血漿、血清、脳脊髄液、腹水、唾液または尿であってもよい。流体または組織が異なっても、これらからの分析物の抽出または濃縮は、試料の特性(容積、複雑さおよび粘度)に依存しない。
【0029】
本開示に係る好ましい装置は、上述したような被覆メッシュ基材と、被覆メッシュ基材用の固体支持体とを含む。固体支持体は、抽出および濃縮中、被覆メッシュ基材が分析物を脱離するときまたは被覆メッシュ基材を撹拌するときに、例えばメッシュを通るように熱い準安定気体または加熱気体を流すことによって被覆メッシュ基材が分析物を脱離するときに、被覆メッシュ基材に安定性を与える。固体支持体は、メッシュ基材が変形または損傷される可能性を低減することができる。いくつかの例において、以下により詳細に記載されるように、安定性は、メッシュブレード構造によって与えられる。
【0030】
イオン化された分子を質量分析計に移送するために、固体支持体を保持し且つ被覆メッシュ基材をセラミックイオン移送管の前に位置付けるためのホルダを設けることができる。ホルダによって、実験の間に被覆メッシュ基材を迅速且つ容易に交換することができる。好ましくは、ホルダは、化学的に不活性な材料、例えばテフロン(登録商標)、ポリ(メチルメタクリレート)または3D印刷材料を用いて、作製される。ホルダは、各次元で高精度に位置を調整する特殊の2D変換ステージに設置されてもよい。ホルダを用いて、装置の異なる部分を移送管の前に配置することによって、被覆メッシュ基材の表面上の分析物の分布を容易に特徴付けることができる。例えば、メッシュ基材に沿った分析物の分布勾配の特徴付けを容易にするように、メッシュ基材の全体に亘って、被覆メッシュ基材上に吸着された分析物の脱離を行うことができる。1つのホルダに、それぞれの固体支持体に支持された被覆メッシュ基材を最大12個入れることができるため、試料の採取および/または試料の調製を迅速且つ並行に行うことができる。ホルダを使用することによって、SPME−TM装置を簡単且つ迅速に交換することができる。8個のホルダを配置すれば、1回のマルチウェルプレート形式の操作で、最大96個の試料を同時に自動分析することができる。
【0031】
被膜の厚さは、可能な限り薄くすべきであるが、少なくとも1層の粒子層を含むのに十分な厚さにしなければならない。好ましい例において、被膜は、1層または2層の粒子層を含む。特に好ましい例において、被膜は、単層の粒子のみを含む。いくつかの例において、被膜は、約0.2μm〜約100μmである。いくつかの例において、被膜は、約1.9μm〜約20μmである。より薄い被膜およびより少ない粒子層を含む被膜は、分析物のより効率的な移動(より迅速な抽出または濃縮)をもたらすと共に、脱離流体を適用する場合により効果的な脱離/イオン化をもたらす。粒径1.9μmまたは5μmのオクタデシルシラン粒子またはHLB粒子を使用することができる。
【0032】
洗浄工程の後に、被覆メッシュ基材を再使用することができる。被膜がオクタデシルシラン粒子から形成された場合、洗浄工程は、イソプロパノール、アセトニトリルおよびメタノールの混合物中に、プローブを激しく回転させるステップを含んでもよい。被膜の化学性質および目標の分析物に対する親和性に応じて、洗浄工程を変更することができる。試料と試料の間の試料濃度に非常に大きなばらつきがあった場合(例えば、低い場合に、pptレベル、高い場合に、ppbレベルまたはppmレベルまで)、偽陽性を減らすために、被覆メッシュ基材は、1回に限って使用される。