(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
[用語の定義]
シロキサン化合物の構造単位を、以下のような略号によって記載することがある(以下、これらの構造単位をそれぞれ「M単位」「D単位」等ということがある)。
M:−Si(CH
3)
3O
1/2
M
H:−SiH(CH
3)
2O
1/2
M
Vi:−Si(CH=CH
2)(CH
3)
2O
1/2
D:Si(CH
3)
2O
2/2
D
H:SiH(CH
3)O
2/2
T:Si(CH
3)O
3/2
Q:SiO
4/2(四官能性)
【0010】
本明細書において、基の具体例は以下のとおりである。
1価の炭化水素基としては、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基及びアルケニル基が挙げられる。脂肪族不飽和結合を有しない1価の炭化水素基としては、アルケニル基以外の前記1価の炭化水素基が挙げられる。
アルケニル基としては、ビニル基、アリル基、3−ブテニル基及び5−ヘキセニル基等が挙げられる。
アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、ヘキサデシル基及びオクタデシル基等が挙げられる。
シクロアルキル基としては、シクロペンチル基及びシクロヘキシル基等が挙げられる。
アリール基としては、フェニル基、ナフチル基、トリル基及びキシリル基等が挙げられる。
アルケニル基、アルキル基、シクロアルキル基及びアリール基は、塩素、フッ素、臭素等のハロゲンで置換されていてもよい。
【0011】
本明細書において、「(A)熱伝導性充填剤」を「(A)」ともいう。「(E)白金触媒」等についても同様である。
【0012】
[熱伝導性ポリシロキサン組成物]
熱伝導性ポリシロキサン組成物(以下、単に「組成物」ともいう。)は、(A)熱伝導性充填剤と、(B)アルコキシシリル基及び直鎖状シロキサン構造を有するシロキサン化合物と、(C)1分子中に2個以上のケイ素原子に結合したアルケニル基を有するポリオルガノシロキサンと、(D1)一般式(4)で示される直鎖状ポリオルガノハイドロジェンシロキサンと、(D2)一般式(5)で示される単位を1分子中に少なくとも3個有するポリオルガノハイドロジェンシロキサンと、(E)白金触媒とを含む。
組成物の硬化物はタック性に優れるため、組成物の硬化物が基材から剥がれることは極めて抑えられるのと同時に、リペアの際に組成物の硬化物の貼り直しを行うことが容易になる。
【0013】
[(A)熱伝導性充填剤]
(A)熱伝導性充填剤としては、一般的に公知の無機充填剤が例示され、アルミナ、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、シリカ粉、炭化ケイ素、金属粉体、ダイヤモンド、水酸化アルミニウム、カーボンが挙げられる。特に好ましいものはアルミナ、酸化亜鉛、窒化アルミニウム又は炭化ケイ素である。これらの無機充填剤としては、熱伝導性充填剤として利用可能なグレードのものであれば特に制限されず、市販のものを利用することができる。また、無機充填剤としては、異なる化学種である複数種類のものを組み合わせて用いることもできる。
【0014】
熱伝導性充填剤は、利用可能なグレードのものであれば平均粒子径の大きさに特に制限はないが、平均粒子径が300μm以下のものを用いることが好ましい。平均粒子径がこの範囲にあるものの中でも、平均粒子径が大きいものを配合すると、充填率を上げることができず、一方、平均粒子径が小さいものでは、粘度が大きくなる傾向があるが、熱伝導性充填材の平均粒子径を適宜選択し、配合することで、目的に適った粘度の組成物を得ることができる。
【0015】
熱伝導性充填剤には、粒子径が相対的に大きな充填剤と、粒子径が相対的に小さな充填剤とを併用することも好ましい。複数種類の粒子径を有する充填剤を併用することによって、相対的に粒子径の大きい充填剤の間隙に相対的に粒子径の小さい充填剤が入り込み、より高充填が可能になる。複数種類の異なる粒径を有する充填剤を用いる場合には、それらの配合割合は任意とすることができる。
【0016】
熱伝導性充填剤に用いられる無機粒子の形状は、特に制限されない。例えば球状、丸み状、不定形の粒子のいずれも用いることができ、更にこれらのうち少なくとも2種類を併用することもできる。無機粒子の形状が丸み状、不定形である場合の平均粒子径は、当業者に公知の方法によって定義される。平均粒子径は、例えば、レーザー光回折法等による粒度分布測定装置を用いて、重量平均値(又はメジアン径)等として求めることができる。
【0017】
[(B)アルコキシシリル基及び直鎖状シロキサン構造を有するシロキサン化合物]
組成物は、(A)の表面処理剤として、アルコキシシリル基及び直鎖状シロキサン構造を有するシロキサン化合物を含む。(B)の分子構造に特に制限されず、直鎖状、分岐状又は環状であるが、環状が好ましい。このような好ましい(B)としては、一般式(1):
【化5】
(式中、R
1、R
2、R
3、X、a、b、cは、先に定義した通りである。)で示される、シロキサン化合物が挙げられる。一般式(1)で示されるシロキサン化合物において、R
1を含む単位、R
2を含む単位、SiR
32Oで表される単位が上記一般式(1)で示されるとおりに配列している必要はなく、例えばR
1を含む単位とR
2を含む単位との間にSiR
32Oで表される単位が存在していてもよい。
【0018】
一般式(1)で示されるシロキサン化合物は、加水分解性基を環状構造中に多く導入することができ、更にそれが位置的に集中しているため、熱伝導性充填剤の処理効率が高くなり、より高充填化を可能にすると考えられる。加えて、一般式(1)で示されるシロキサン化合物自体の耐熱性が高いため、組成物に高い耐熱性を与えることができる。
【0019】
一般式(1)において、R
1は、炭素数1〜4のアルコキシシリル基を含有する加水分解性の官能基であり、より具体的には以下の構造を有する基が例示される。R
1は、ケイ素で直接Xと結合していてもよいが、エステル結合等の連結基により結合していてもよい。R
1としてより具体的には以下の構造を有する基が例示される。
【化6】
なかでも、R
1は、熱伝導性充填剤の処理効率がより向上する傾向にある点から、アルコキシシリル基を2つ以上、特に3つ有する構造の基であることが好ましい。また、原料を得ることが容易である点から、R
1は、メトキシシリル基を含有することが好ましい。
【0020】
R
2は、炭素数6〜18の1価の炭化水素基又は一般式(2):
【化7】
(式中、R
4、Y及びdは、先に定義したとおりである)で示される直鎖状オルガノシロキシ基である。
【0021】
R
2が炭素数6〜18の1価の炭化水素基である場合、炭素数6〜18のアルキル基が好ましく、炭素数6〜14のアルキル基が特に好ましい。R
2は、アルキル基中の最も長い炭素鎖部分の炭素数が6以上であることが好ましく、この場合、合計の炭素数が上記範囲内であれば、分岐構造を有していてもよい。炭素数をこの範囲とすることで、流動性に対する効果を高め、高配合を可能にする。また、取り扱い性に優れ、均一に分散させることが容易になる。
【0022】
R
2が一般式(2)で示される直鎖状オルガノシロキシ基である場合、dは2〜500の整数、好ましくは4〜400の整数、より好ましくは10〜200の整数、さらに好ましくは10〜100の整数であり、特に好ましくは10〜50の整数である。この範囲とすることで、流動性に対する効果を高め、高配合を可能とし、一般式(1)で示されるシロキサン化合物の粘度を抑えることができる。R
4は、独立して、炭素数1〜12の1価の炭化水素基であり、炭素数1〜12のアルキル基及び炭素数6〜12のアリール基が好ましい。合成が容易であることから、R
4はメチル基であることが特に好ましい。Yは、メチル基、ビニル基及びR
1からなる群より選択される基である。合成が容易であることから、Yはメチル基又はビニル基であることが好ましい。熱伝導性充填剤とベースポリマーを仲介して親和性を高め、組成物の粘度を下げる等取扱い性に優れるものが得られる傾向があるため、R
2は一般式(2)で示される直鎖状オルガノシロキシ基であることが好ましい。
【0023】
Xは、一般式(1)で示されるシロキサンの環状シロキサン部分と、R
1及びR
2とを結合する連結基である。Xは、炭素数2〜10の2価の炭化水素基であり、−CH
2CH
2−、−CH
2CH
2CH
2−、−CH
2CH
2CH
2CH
2CH
2CH
2−、−CH
2CH(CH
3)−、−CH
2CH(CH
3)CH
2−等の炭素数2〜10のアルキレン基が好ましい。合成が容易となる点から、Xは−CH
2CH
2−又は−CH
2CH(CH
3)−であることが特に好ましい。
【0024】
R
3は、独立して、炭素数1〜6の1価の炭化水素基又は水素原子である。炭素数1〜6の1価の炭化水素基としては、炭素数1〜6のアルキル基が好ましい。合成が容易であることから、R
3はメチル基又は水素原子であることが特に好ましい。
【0025】
aは1以上の整数であり、好ましくは1である。bは1以上の整数であり、1又は2であることが好ましい。cは0以上の整数、好ましくは0〜2である。また、a+b+cの和は、4以上の整数であるが、合成が容易であることから4であることが好ましい。
【0026】
よって、一般式(1)で示されるシロキサン化合物としては、下記の構造式で示される化合物が好ましい。
【化8】
【0029】
[(C)1分子中に2個以上のケイ素原子に結合したアルケニル基を有するポリオルガノシロキサン]
(C)1分子中に2個以上のケイ素原子に結合したアルケニル基を有するポリオルガノシロキサンは、ベースポリマーである。ケイ素原子に結合したアルケニル基が2個未満であると、得られた組成物が十分に硬化し難くなる。なお、(C)は、ケイ素原子に結合した水素原子、及びアルコキシシリル基を有さないものとする。即ち、(C)は、(B)及び(D2)ではないものとする。
【0030】
アルケニル基としては、炭素数2〜6のアルケニル基が挙げられ、調製が容易な点から、ビニル基が好ましい。アルケニル基は、分子鎖の末端、途中のいずれに結合していてもよいが、柔軟性により優れた硬化物が得られる観点から、分子鎖の両末端に結合していることが好ましい。アルケニル基以外のケイ素原子に結合した基としては、脂肪族不飽和結合を有しない炭素数1〜12の1価の炭化水素基が挙げられる。脂肪族不飽和結合を有しない炭素数1〜12の炭化水素基としては、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基、炭素数3〜12のシクロアルキル基が好ましく、メチル基又はフェニル基が特に好ましい。(C)は、直鎖状又は分岐状であり、直鎖状が好ましい。
【0031】
よって、(C)としては、一般式(3):
【化11】
(式中、R
5、R
6及びeは、先に定義したとおりである)で示される直鎖状ポリオルガノシロキサンがより好ましい。
【0032】
一般式(3)において、R
6は、R
4と同義である。入手又は調製が容易な点から、R
5がビニル基であり、R
6がメチル基であることが好ましい。よって、(C)としては、両末端がジメチルビニルシロキサン単位で閉塞され、中間単位がジメチルシロキサン単位からなるポリメチルビニルシロキサンが特に好ましい。
【0033】
(C)の粘度は、組成物としての作業性(粘度及び押し出し性)に優れ、柔軟性により優れた硬化物が得られる観点から、23℃において0.01〜50Pa・sであり、0.02〜20Pa・sであることが好ましく、0.05〜10Pa・sであることが特に好ましい。これらの粘度範囲になるように、(C)の重量平均分子量を調整することが好ましい。粘度は、B型回転粘度計を用いて、23℃の条件で測定した値である。ローターNoは、No.1〜No.4が挙げられ、回転数は、12、30及び60rpmが挙げられる。ローターの種類及び回転数は、測定対象の粘度に応じて適宜選択できる。
【0034】
[(D1)直鎖状ポリオルガノハイドロジェンシロキサン]
(D1)直鎖状ポリオルガノハイドロジェンシロキサンは、一般式(4):
【化12】
(式中、R
7、R
8及びfは、先に定義したとおりである)で示される。(D1)及び(D2)が有するケイ素原子に結合した水素原子が、(C)中のアルケニル基とのヒドロシリル反応を行う架橋剤として寄与する。
【0035】
一般式(4)において、fの数は1〜200の範囲、好ましくは5〜100の範囲、より好ましくは10〜50の範囲である。この範囲とすることで、流動性に対する効果を高め、高配合を可能とし、シロキサン化合物自体の粘度を抑えることができ、さらに形状安定性が向上し、柔軟性により優れた硬化物を与える。R
8は、脂肪族不飽和結合を有しない炭素数1〜12の1価の炭化水素基であり、炭素数1〜12のアルキル基及び炭素数6〜12のアリール基が好ましい。合成が容易であることから、R
8はメチル基であることが特に好ましい。
【0036】
[(D2)一般式(5)で表される単位を1分子中に少なくとも3個有するポリオルガノハイドロジェンシロキサン]
(D2)は、一般式(5):
R
9gR
10hSiO
({4−(g+h)}/2) (5)
(式中、R
9、R
10、g及びhは、先に定義したとおりである)で表される単位を1分子中に少なくとも3個有する。なお、(D2)は、アルコキシシリル基、及びケイ素原子に結合したアルケニル基を有さないものとする。即ち、(D2)は、(B)及び(C)ではないものとする。
【0037】
(D2)の分子構造に特に制限はなく、直鎖状、環状又は分岐状である。一般式(5)において、gは0〜2の整数であり、好ましくは1又は2である。hは1又は2の整数であり、好ましくは1である。また、g+hの和は、1〜3の整数であるが、合成が容易であることから3であることが好ましい。R
9は、R
8と同義である。入手又は調製が容易な点から、R
9は、メチルであることが好ましい。(D2)中の一般式(5)で表される単位以外のシロキサン単位において、ケイ素原子に結合した有機基は、独立して、R
9と同様であり、合成が容易となる点から、メチル基であることが好ましい。入手又は合成が容易な点から、(D2)は、R
112HSiO
1/2単位(式中、R
11は、先に定義したとおりである)及びSiO
4/2単位からなり、一分子中に、ケイ素原子に結合した水素原子を3個以上有する、ポリオルガノハイドロジェンシロキサンが好ましい。(D2)のケイ素に結合した水素原子の含有量は、特に限定されないが、0.1〜1.2重量%であるのが好ましく、0.5〜1.1重量%であるのが特に好ましい。(D2)のケイ素に結合した水素原子の含有量が、0.1重量%以上であると、(D2)の含有量がより少ない場合でも、熱伝導性をより高めることができ、1.2重量%以下である場合、架橋密度が高くなりすぎず、これにより柔軟性により優れた硬化物が得られる。(D2)の分子量は、特に限定されないが、330〜50,000が好ましく、500〜10,000が特に好ましい。(D2)の分子量が、330以上であると、架橋密度が高くなりすぎず、これにより柔軟性により優れた硬化物が得られ、50,000以下であると、組成物の作業性に優れる。本明細書において、分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィーにより測定したポリスチレン換算の数平均分子量である。好ましい(D2)において、前記したケイ素に結合した水素原子の含有量及び分子量となるように、R
112HSiO
1/2単位及びSiO
4/2単位の比率を適宜調整することができる。
【0038】
[(E)白金触媒]
(E)白金触媒は、(C)の不飽和基と(D)のケイ素に結合した水素原子とを反応させ、硬化物を得るための硬化用触媒である。この白金触媒としては、塩化白金酸、白金オレフィン錯体、白金ビニルシロキサン錯体、白金リン錯体、白金アルコール錯体、白金黒等が例示される。また、より長いポットライフを得るために、(F)反応抑制剤の添加により、触媒の活性を抑制することができる。公知の白金触媒用の反応抑制剤として、2−メチル−3−ブチン−2−オール、1−エチニル−2−シクロヘキサノール等のアセチレンアルコール、マレイン酸ジアリルが挙げられる。
【0039】
[組成]
組成物中の各成分の含有量は以下のとおりである。
(A)の含有量は、(B)、(C)、(D1)及び(D2)の合計100質量部に対し、10〜5,000質量部であることが好ましく、50〜4,000質量部であることがより好ましく、100〜3,000質量部であることが特に好ましい。このような範囲とすることで、熱伝導性がより高まる。
【0040】
(B)の含有量は、(A)100質量部に対して0.01〜20質量部であることが好ましく、0.1〜15質量部であることが特に好ましい。(B)の量をこの範囲とすることで、熱伝導性充填剤の充填性を高めつつ、熱伝導性をより高くすることができる。
また、(B)の含有量は、(C)、(D1)及び(D2)100質量部に対して、0.01質量部以上であることが好ましく、0.1〜500質量部であることが特に好ましい。(B)の量が、(C)、(D1)及び(D2)100質量部に対して0.01質量部以上であると、熱伝導性充填材の表面処理効果が十分に発揮し、(A)がより高配合できる。(B)の量が、(C)、(D1)及び(D2)100質量部に対して500質量部以下であると、硬化後の機械的物性及び/又は耐熱性が良好になる。
【0041】
(C)の含有量は、組成物に要求される熱伝導率に応じて適宜設定できるが、(A)100質量部に対して、1〜30質量部であることが好ましく、3〜20質量部であることがより好ましい。
【0042】
(E)の含有量は、(C)のアルケニル基含有ポリオルガノシロキサンに対し、白金元素として0.1〜1,000ppmとなる量が好ましい。このような範囲であると、硬化性及び硬化速度が十分である。
【0043】
(C)、(D1)及び(D2)の含有量は、組成物に要求される熱伝導率に応じて適宜設定できるが、(C)のアルケニル基の個数Vi
Cに対する、(D1)のケイ素原子に結合した水素原子の個数H
D1と(D2)のケイ素原子に結合した水素原子の個数H
D2との和である個数(H
D1+H
D2)の比((H
D1+H
D2)/Vi
C)が1.50未満であるような量が好ましい。(H
D1+H
D2)/Vi
Cが1.50未満であると、硬化物の伸びがより高くなり、また、タック性がより優れる。(H
D1+H
D2)/Vi
Cは、1.20以下であるのが好ましく、1.10以下であるのがより好ましく、0.90以下であるのが更に好ましく、0.80以下であるのが特に好ましい。(H
D1+H
D2)/Vi
Cは、特に限定されないが、0.60以上であることが好ましく、0.70以上であることがより好ましく、0.80以上であることが特に好ましい。
【0044】
(D1)のケイ素原子に結合する水素原子の個数H
D1と(D2)のケイ素原子に結合する水素原子の個数H
D2との比(H
D1:H
D2)は、特に限定されないが、9.9:0.1〜1:9であることが好ましく、9:1〜5:5であることがより好ましい。このような範囲であると、組成物の硬化物の伸びがより高くなり、タック性により優れる。
【0045】
(H
D1+H
D2)/Vi
Cが0.85以下であり、H
D1:H
D2が、9:1〜8:2であることが特に好ましい。このような範囲であると、組成物の硬化物の伸びが特に高くなり、タック性に特に優れる。
【0046】
組成物を調製する方法としては、(B)と、(C)、(D1)及び(D2)と、(A)とを、混練機器を使用しそのまま調製してもよく、あるいは(B)と(A)とを先に混合し表面処理を施した後、(C)、(D1)及び(D2)へ分散し調製してもよい。また、必要に応じ、加熱、減圧又はその他公知の方法による処理を実施してもよい。また、(C)を先に配合した混合物を調製しておき、硬化させる直前に(D1)、(D2)及び(E)の混合物を添加することもできる。(F)は、(E)と同じ段階で添加することが好ましい。
【0047】
組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、当業者に公知の顔料、難燃剤、接着付与剤、耐熱付与剤、希釈剤、有機溶剤等を適宜配合することができる。組成物の硬化物は高い伸びを有するため、接着付与剤を任意成分として添加した場合に、基材の変形(例えば、曲げ)に対して、優れた追従性を有する。
【0048】
組成物は、室温又は熱を加えることにより硬化することができる。熱硬化の条件は当業者に公知であるが、熱による硬化反応に用いることができる機器としては、例えば、恒温槽等の当業者に公知の装置が挙げられる。加熱条件は、組成物が適用される部材の耐熱温度に合わせて適宜調整することができ、硬化時間を決めることができる。例えば、室温(23℃)超120℃以下の熱を、1分〜5時間の範囲で加えることができる。加熱温度は、操作性の観点から、40〜120℃であることが好ましく、50〜110℃であることがより好ましく、60〜100℃であることが特に好ましい。加熱時間は、硬化工程の簡便さの観点から、5分〜72時間であることが好ましく、5分〜3時間であることがより好ましく、10分〜2時間であることが特に好ましい。また、室温で硬化させる場合、硬化時間は、72時間以下であることが好ましく、24時間以下が特に好ましい。
【0049】
組成物を硬化させることによって得られるシリコーンゴムは、電子機器、集積回路素子等の電子部品の放熱部材として使用できる。
【実施例】
【0050】
以下に本発明の実施例を示すが、これらの実施例によって限定されるものではない。以下の実施例及び比較例において、部はすべて質量部を示す。
【0051】
[実施例1〜15、比較例1〜3]
実施例及び比較例にて用いた材料は、以下のとおりである。
<(A)熱伝導性充填剤>
AS−40:平均粒子径12μmの丸み状アルミナ(昭和電工株式会社製)
AL43KT:平均粒子径4.6μmの多角状アルミナ(昭和電工株式会社製)
AL160SG−4:平均粒子径0.55μmの易焼結性アルミナ(昭和電工株式会社製)
シラザン処理シリカ:平均粒径200μmの煙霧質シリカ(AEROSIL 200:日本アエロジル株式会社製)をヘキサメチルジシラザンで処理したシリカ
【0052】
<(B)アルコキシシリル基及び直鎖状シロキサン構造を有するシロキサン化合物>
(B1)重合度70のポリシロキサン鎖を有する環状シロキサン化合物(化合物1):
【化13】
5,000mLフラスコ中、トルエン440gとSi−H結合を3つ有する環状シロキサン1,992gの溶液に、白金触媒の存在下、3−(メタクリロイルオキシ)プロピルトリメトキシシラン1,100gを添加した。120℃で3時間反応を行った。得られた反応液から溶媒を除去し、次いで蒸留を行い、無色液体を得た。
得られた液体77gに直鎖状ビニルポリシロキサン(MD
70M
Viで表されるポリシロキサン:モメンティブ製)1,650gを添加した。さらに白金触媒を加え、120℃で5時間反応を行い、粘度0.20Pa・s無色油状物として目的のシロキサンを得た。
FT IR測定により、2,150cm
−1付近のSi−H基由来の吸収ピークの消滅と、2,850cm
−1付近にメトキシ基由来の吸収ピークを確認した。
1H NMR測定(500MHz、CDCl
3中)では、3.56ppmにメトキシ基由来のシグナルが観測され、0.04ppm付近のケイ素に隣接したメチル基由来のシグナルとの積分比から、D単位数がおよそ70である直鎖状ポリシロキサン構造が1分子あたり2つ導入されていることを確認した。GPC測定の結果では、単分散のピーク(分散度1.15)が確認され、測定された平均分子量は構造式とのよい一致を示した。
【0053】
(B2)重合度30のポリシロキサン鎖を有する環状シロキサン化合物(化合物2):
【化14】
5,000mLフラスコ中、トルエン440gとSi−H結合を2つ有する環状シロキサン1,992gの溶液に、白金触媒の存在下、ビニルトリメトキシシラン1,100gを添加した。120℃で3時間反応を行った。得られた反応液から溶媒を除去し、次いで蒸留を行い、無色液体を得た。得られた液体77gに直鎖状ビニルポリシロキサン(MD
30M
Viで表されるポリシロキサン:モメンティブ製)450gを添加した。さらに白金触媒を加え、120℃で5時間反応を行い、無色油状物として目的のシロキサンを得た。
FT IR測定により、2,850cm
-1付近にメトキシ基由来の吸収ピークを確認した。
1H NMR測定(500MHz、CDCl
3中)では、3.56ppmにメトキシ基由来のシグナルが観測され、0.04ppm付近のケイ素に隣接したメチル基由来のシグナルとの積分比から、D単位数がおよそ30である直鎖状ポリシロキサン構造が1分子あたり1つ導入されていることを確認した。GPC測定の結果では、単分散のピーク(分散度1.15)が確認され、測定された平均分子量は構造式とのよい一致を示した。
【0054】
<(C)1分子中に2個以上のケイ素原子に結合したアルケニル基を有するポリオルガノシロキサン>
(C1)M
ViD
nM
Vi 0.5Pa・s:α,ω−ジビニルポリジメチルシロキサン;粘度0.5Pa・s
(C2)M
ViD
nM
Vi 0.1Pa・s:α,ω−ジビニルポリジメチルシロキサン;粘度0.1Pa・s
(C3)M
ViD
nM
Vi 1.0Pa・s:α,ω−ジビニルポリジメチルシロキサン;粘度1.0Pa・s
<(D1)ポリオルガノハイドロジェンシロキサン>
M
HD
20M
H 0.02Pa・s:粘度0.02Pa・s
<(D2)ポリオルガノハイドロジェンシロキサン>
M
HmQ 0.02Pa・s:平均組成式M
HmQで示されるポリメチルハイドロジェンシロキサン(M
H単位及びQ単位からなり、一分子中に、ケイ素原子に結合した水素原子を3個以上有する、ポリメチルハイドロジェンシロキサン)(ケイ素に結合した水素原子の含有量1.0重量%、ポリスチレン換算数平均分子量800):粘度0.02Pa・s
<その他の(D)>
MD
20D
H20M
<(E)白金触媒>
Pt−M
ViM
Vi:白金の1,2−ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体
<(F)反応抑制剤>
サーフィノール61(日信化学工業株式会社製)
【0055】
[熱伝導性ポリシロキサン組成物の調製]
表1〜表3に示される配合量(質量部)で、(A)、(B)及び(C)をプラネタリーミキサーにて所定の方法により混練して、混合物を得た。その後、(D1)、(D2)、(E)及び(F)を加え、プラネタリーミキサーにて所定の方法によりそれぞれ混練し、組成物を得た。なお、比較例1では(D2)を加えず、比較例2では(D1)を加えず、比較例3では(D2)の代わりにその他の(D)を加えた。
【0056】
[特性]
組成物及び組成物の硬化物について、以下の特性を測定した。
(1)粘度
組成物の粘度は、JIS K6249に準拠して、B型回転粘度計(ビスメトロン VDH)(芝浦システム株式会社製)を使用して、No.7ローターを使用し、10rpm、1分間で、23℃における条件で測定した。
(2)硬さ
組成物を6mm厚の金型に充填し、70℃で30分間、加熱硬化させた。組成物の硬化物の硬さ(TypeE硬度)は、JIS K6249に準拠して測定した。
(3)伸び
組成物を2mm厚の金型に充填し、70℃で30分間加熱硬化させた。得られた厚さ2mmの熱伝導性シリコーンゴムシートを用いて、組成物Bの硬化物の伸びを、JIS K6249に準拠して測定した。
(4)熱伝導率
組成物の熱伝導率は、熱伝導率計(TPS1500、京都電子工業株式会社製)を用いて、内径30mm深さ6mmのテフロン(登録商標)コートしたアルミニウム製の金型の容器に、組成物を充填し、70℃で30分間加熱硬化させて、2個作成したサンプルで熱伝導率計のセンサーを挟み、組成物の硬化物の熱伝導率(単位:W/(m・K))を測定した。
(5)プローブタック試験
60mmx30mm深さ6mmのテフロン(登録商標)コートしたアルミニウム製の金型の容器に、組成物を充填し、70℃で30分加熱硬化させた、組成物Bの硬化物のタック性は、JIS Z0237に準拠して測定した。
【0057】
結果を表1〜表3に示す。表における白金触媒の量は、白金元素換算量である。
【0058】
【表1】
【0059】
【表2】
【0060】
【表3】
【0061】
実施例の組成物の硬化物は、いずれも、伸びが高いことから柔軟性に優れ、かつ、タック性に優れていた。
実施例1、3、7及び8の比較、並びに、実施例6及び2の比較により、H
D1及びH
D2の合計に対するH
D1の値が大きくなると、伸びがより高くなり、タック性により優れていた。
実施例2〜5の比較、実施例6及び7の比較、実施例10〜12の比較、及び、実施例13〜15の比較により、(H
D1+H
D2)/Vi
Cが小さくなると、伸びがより高くなった。
実施例2〜5の比較において、(H
D1+H
D2)/Vi
Cが0.85以下である実施例2及び3は、タック性に特に優れていた。
実施例9及び11の比較により、(C)の粘度が増加すると、伸びがより高くなり、タック性により優れた。
一方、比較例1は、(D2)を含まない組成物であるため、組成物は硬化しなかった。比較例2は、(D1)を含まない組成物であるため、組成物の硬化物の伸びが極めて不十分であり、かつ、タック性に劣っていた。比較例3は、(D2)に代えて、中間単位にケイ素に結合した水素原子を有する架橋剤が用いられているが、組成物の硬化物の伸びが不十分であり、かつ、タック性に劣っていた。