(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6383890
(24)【登録日】2018年8月10日
(45)【発行日】2018年8月29日
(54)【発明の名称】レーシング用のデータ分析装置及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G01D 21/02 20060101AFI20180820BHJP
G06Q 10/06 20120101ALI20180820BHJP
【FI】
G01D21/02
G06Q10/06 300
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2018-74780(P2018-74780)
(22)【出願日】2018年4月9日
【審査請求日】2018年4月9日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】503194934
【氏名又は名称】アビームコンサルティング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100139066
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】竹井 昭人
(72)【発明者】
【氏名】田口 林太郎
【審査官】
深田 高義
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2016/111809(WO,A1)
【文献】
特開2015−177848(JP,A)
【文献】
特開2000−213967(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01D 21/02
G06Q 10/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーシング車両に搭載、またはレーシングドライバに装着された複数のセンサから取得される各センシングデータを分析し、分析結果を出力するデータ分析装置であって、
前記各センシングデータを受信する受信部と、
前記各センシングデータに設定された閾値を記憶する記憶部と、
前記各センシングデータと閾値とを比較することで、受信した前記各センシングデータの中から、前記レーシング車両の制御に必要なセンシングデータを選択する選択部と、
選択したセンシングデータを分析することで、前記レーシング車両のセッティングに関わる参考情報を生成する生成部と、
生成した参考情報を出力する出力部とを具備し、
前記センシングデータは、前記レーシング車両の速度に関するデータであり、前記閾値は、レースの際に考慮すべきか否かを判断するための閾値速度であり、
前記参考情報は、タイヤの摩耗具合を示すもの、またはレーシング車両の重心位置のリアルタイムな変化を示すものであり、
前記選択部は、受信した前記各センシングデータのうち、前記閾値速度を上回っているものを、前記レーシング車両の制御に必要なセンシングデータとして選択し、
前記出力部は、生成した前記参考情報に示されるタイヤの摩耗具合を、タイヤの色変化によって表示装置に表示するか、または生成した前記参考情報に示されるレーシング車両の重心位置のリアルタイムな変化を前記表示装置に表示する、レーシング用のデータ分析装置。
【請求項2】
前記受信部は、
無線を介して前記各センシングデータを受信する、請求項1に記載のレーシング用のデータ分析装置。
【請求項3】
記憶部を備え、レーシング車両に搭載、またはレーシングドライバに装着された複数のセンサから取得される各センシングデータを分析し、分析結果を出力するコンピュータを、
前記各センシングデータを受信する受信部と、
前記各センシングデータと、前記記憶部に記憶されている前記各センシングデータに設定された閾値とを比較することで、受信した前記各センシングデータの中から、前記レーシング車両の制御に必要なセンシングデータを選択する選択部と、
選択したセンシングデータを分析することで、前記レーシング車両のセッティングに関わる参考情報を生成する生成部と、
生成した制御情報を出力する出力部として機能させ、
前記センシングデータは、前記レーシング車両の速度に関するデータであり、前記閾値は、レースの際に考慮すべきか否かを判断するための閾値速度であり、
前記参考情報は、タイヤの摩耗具合を示すもの、またはレーシング車両の重心位置のリアルタイムな変化を示すものであり、
前記選択部は、受信した前記各センシングデータのうち、前記閾値速度を上回っているものを、前記レーシング車両の制御に必要なセンシングデータとして選択し、
前記出力部は、生成した前記参考情報に示されるタイヤの摩耗具合を、タイヤの色変化によって表示装置に表示するか、または生成した前記参考情報に示されるレーシング車両の重心位置のリアルタイムな変化を前記表示装置に表示するためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーシング用のデータ分析装置及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
フォーミュラ1(F1)をはじめ、世界中でモータスポーツが脚光を浴びている(例えば、特許文献1参照)。コンマ数秒単位でしのぎを削るモータスポーツの世界においては、車両内外に設置されたセンサにより、車両内外のあらゆる機能のデータ(以下、「センシングデータ」ともいう。)を収集し、収集したセンシングデータを分析することで、最適な車両セッティングを行うことが要求される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2003−514293号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、センシングデータの中には、レーシング車両の制御に不要なノイズデータ(例えば、異常値データなど)も含まれ得るが、このようなノイズデータの判別等は、長年の経験を有する専門的なピットクルーに委ねられることが多い。このため、ノイズデータの判別等には人手を介した分析が必要となり、多種多様なセンシングデータの中から、レーシング車両の制御に必要なセンシングデータを迅速かつ的確に選択するのは難しい、という問題があった。
【0005】
本発明は、以上説明した事情を鑑みてなされたものであり、レーシング車両の制御に必要なセンシングデータを迅速かつ的確に選択することが可能なデータ分析技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係るデータ分析装置は、レーシング車両に搭載、またはレーシングドライバに装着された複数のセンサから取得される各センシングデータを分析し、分析結果を出力するデータ分析装置であって、各センシングデータを受信する受信部と、各センシングデータに設定された閾値を記憶する記憶部と、各センシングデータと閾値とを比較することで、受信した各センシングデータの中から、レーシング車両の制御に必要なセンシングデータを選択する選択部と、選択したセンシングデータを分析することで、レーシング車両のセッティングに関わる制御データを生成する生成部と、生成した制御データを出力する出力部とを具備することを要旨とする。なお、「車両」とは、自動車やオートバイといった車輪を具備する乗り物だけでなく、モーターボート、飛行機など、モータやエンジンなどの原動機を使用して稼働する乗り物すべてを含む概念であることに留意されたい。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、レーシング車両の制御に必要なセンシングデータを迅速かつ的確に選択することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】データ分析・活用システムの構成を例示する図である。
【
図3】レーシング車両における左右のタイヤにかかる荷重の差をあらあわす図である。
【
図4】スリップアングルをサーキット1周分の比較ヒストグラムとして表した図である。
【
図5】舵角とヨーレートとの関係を表した図である。
【
図6】データ分析装置の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。なお、各図において、同一の符号を付したものは同一又は同様の構成を有する。
【0010】
A.本実施形態
(1)構成
図1を参照し、実施形態に係るカーレース等に利用されるデータ分析・活用システム100の構成について説明する。なお、本実施形態に係るデータ分析・活用システム100は、自動車を用いて行われる競技・スポーツに適用した場合を想定するが、自動車のみならず、オートバイやモーターボート、飛行機など、モータやエンジンなどの原動機を使用して稼働する乗り物すべてに適用可能である。
【0011】
データ分析・活用システム100は、レーシング車両等に設置される通信端末1と、レーシングチームの前線基地ともなる施設(いわゆるピット)等に配置されるデータ分析装置2とを含む。通信端末1は、レーシング車両の内外に設置された複数のセンサによって収集されるセンシングデータを、所定のタイミングでデータ分析装置2に送信する機能を有する。一方、データ分析装置2は、通信端末1から送信されるセンシングデータを分析することで、レーシング車両のセッティングに関わる制御データを生成し、制御データを可視化等する機能を有する。
【0012】
ここで、通信端末1とデータ分析装置2との間は、ネットワークを介して相互通信可能となっている。ネットワークは、有線であっても無線であってもよく、有線と無線とを組み合わせてもよい。例えば、通信端末1とデータ分析装置2との間が有線によって接続されている場合には、通信端末1に蓄積されたセンシングデータを、有線によってデータ分析装置2に一括送信してもよい。通信端末1とデータ分析装置2とが有線接続されていない場合には、所定周期で、通信端末1に蓄積されたセンシングデータを、無線を介してデータ分析装置2に送信してもよい。
【0013】
図1に示す通信端末1は、例えばハードディスクなどの記憶装置、各種通信インタフェースなどを備えており、レーシング車両の内外に設置された複数のセンサによって収集されるセンシングデータを、データ分析装置2に送信する役割を担っている。
【0014】
各センサによって収集されるセンシングデータとしては、例えばスリップアングル、ブレーキ圧、車両速度、舵角、アクセルペダル開度をあらわすデータが挙げられる。もっとも、これらに限定する趣旨ではなく、レーシング車両に関してセンシング可能なあらゆるデータを対象とすることができる。なお、本実施形態では、レーシング車両に関わる様々な情報をセンシングデータとして収集する場合を想定するが、これに加えて(あるいは代えて)、レーシングドライバの生体情報(例えば、体温、心電波形や心拍数、各部位の筋電波形など)をセンシングデータとして収集してもよい。レーシングドライバの生体情報を収集する場合には、通信端末1として、ウェアラブル端末や生体情報を計測できる機能性素材を装着したレーシングスーツなどを利用すればよい。
【0015】
データ分析装置2は、例えば汎用のパーソナルコンピュータ等の情報処理装置によって構成され、通信端末1から送信されるセンシングデータを分析することで、レーシング車両のセッティングに関わる制御データを生成し、制御データを可視化する役割を担っている。データ分析装置2は、物理的な構成として、例えば、CPU及びメモリを含む制御ユニット、記憶装置、通信装置等を備えて構成される。データ分析装置2は、記憶装置に記憶されている各種ソフトウェアと制御ユニット等のハードウェア資源とが協働することによって、以下に示す受信部21、記憶部22、選択部23、生成部24、出力部25の各機能を実現する。
【0016】
受信部21は、レーシング車両の内外に設置された複数のセンサによって生成されたセンシングデータを、通信端末1からネットワークを介して受信する。
【0017】
記憶部22は、通信端末1から受信した各センシングデータを記憶する第1データベース(DB)22aと、各センシングデータの閾値をあらわす閾値情報を記憶する第2データベース(DB)22bとを備えている。
【0018】
図2は、第2DB22bの登録内容を例示した図である。
第2DB22bには、センシングデータごとに、設定されている閾値情報が登録されている。
図2の例では、「車両速度」、「アクセル開度」などのセンシングデータに対し、「第1コーナーでの車両速度が○×km/h未満」、「直線コースでのアクセル開度が×△%未満」などの閾値情報が、第2DB22bに対応づけて登録されている。なお、本実施形態では、閾値情報として、レースの際に考慮すべきか否かを判断するための閾値速度や閾値アクセル開度を想定するが、これに限る趣旨ではなく、例えばレーシング車両の動きを3軸に分解したローリング(ロール)、ピッチング(ピッチ)、ヨーイング(ヨー)の大きさなどを閾値情報としてもよい。なお、「ローリング」とは、レーシング車両の重心を中心に前後に貫く軸(X軸)まわりに発生する回転モーメントをいい、「ピッチング」とは、レーシング車両の重心を中心に左右方向に貫く軸(Y軸)まわりに発生する回転モーメントをいい、「ヨーイング」とは、レーシング車両の重心を中心に上下に貫く軸(Z軸)まわりに発生する回転モーメントをいう。
【0019】
選択部23は、各センシングデータと閾値情報とを比較することで、受信した各センシングデータの中から、レーシング車両の制御に必要なセンシングデータのみを選択(別言すれば、レーシング車両の制御に不要なノイズデータを除去)する。選択部23は、通信端末1から受信したセンシングデータの中に、閾値情報を下回っているものがあるか否かを判断する。選択部23は、例えば「車両速度」のセンシングデータの中に、「第1コーナーでの車両速度が○×km/h未満」のデータが含まれていると判断すると、当該センシングデータを含む周回データ(すなわち、コース1周分のセンシングデータ)は、運転中に何らかのトラブルがあったか、またはドライバーがタイムを狙わずに流し気味に走行していた可能性があることから、これらのセンシングデータはノイズデータとして除去し、残りのセンシングデータを、レーシング車両の制御に必要なセンシングデータとして選択する。
【0020】
生成部24は、選択したセンシングデータを分析することで、レーシング車両のセッティングに関わる制御データを生成する。一例を挙げて説明すると、生成部24は、センシングデータを分析することで、レーシング車両の重心位置のリアルタイムな変化をあらわす制御データを生成する、あるいは、リアウイングの角度とレーシング車両の加速性能との相関をあらわす制御データを生成する、さらには、ダンパーのセッティングとレーシング車両の走行性能の相関をあらわす制御データを生成するなどが考えられる。もっとも、いかなる制御データを生成するかは、データ分析装置2の利用者(チーム監督など)が適宜設定すればよい。
【0021】
出力部25は、生成部24が生成した制御データを可視化(いわゆる、ビジュアライゼーション)し、液晶パネルなどの表示装置に表示する。ここで、「可視化」とは、人間が直接視認できない現象・事象・関係性を、画像・グラフなどを利用して視認できるものにすることを意味し、例えばタイヤの摩耗具合などを、タイヤの色変化によって表示装置に表示する、あるいは
図3〜
図5に示すようなグラフを表示装置に表示することが考えられる。
【0022】
図3は、レーシング車両における左右のタイヤにかかる荷重の差をあらあわすグラフであり、縦軸に後輪側の左右のタイヤにかかる荷重の差、横軸に前輪側の左右のタイヤにかかる荷重の差をとり、サーキット1周分の比較分布として表したものである(黒線は近似曲線を表す)。また、
図4は、スリップアングルをサーキット1周分の比較ヒストグラムとして表したものである。さらに、
図5は、舵角とヨーレートとの関係を表したものであり、縦軸にヨーレート、横軸に舵角をとり、サーキット1周分の比較分布として表したものである。このように、可視化した制御データを表示装置に表示することで、データ分析装置2の利用者は、レーシング車両の状態をリアルタイムに把握することができるとともに、現状の車両状態に応じたセッティングやコース攻略等の見直しを行うことが可能となる。
【0023】
(2)動作
以下、
図6に示すフローチャートを参照しながら、データ分析装置2の動作について説明する。
【0024】
ステップS1において、データ分析装置2の受信部21は、レーシング車両の内外に設置された複数のセンサによって生成されたセンシングデータを、通信端末1からネットワークを介して受信する。
【0025】
ステップS2において、選択部23は、受信した各センシングデータと、記憶部に記憶されている閾値情報とを比較し、受信した各センシングデータの中から、閾値情報を下回るセンシングデータを除去することで、レーシング車両の制御に必要なセンシングデータを選択する。
【0026】
ステップS3において、生成部24は、選択したセンシングデータを分析することで、レーシング車両のセッティングに関わる制御データを生成する。
【0027】
ステップS4において、出力部25は、生成部24が生成した制御データを可視化(ビジュアライゼーション)し、
図3〜
図5に示すようなグラフを表示装置に表示した後、処理を終了する。
【0028】
チーム監督等の利用者は、データ分析装置2に表示される可視化された制御データを確認することで、レーシング車両の状態をリアルタイムに把握することができるとともに、現状の車両状態に応じたセッティングやコース攻略等の見直しを行うことが可能となる。
【0029】
B.その他
本発明は、上述した本実施形態及び変形例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、他の様々な形で実施することができる。例えば、上述した各処理ステップは処理内容に矛盾を生じない範囲で任意に順番を変更し、または並列に実行することができる。
【0030】
また、本明細書において、「ユニット」や「部」とは、単に物理的構成を意味するものではなく、その「ユニット」や「部」が実行する処理をソフトウェアによって実現する場合も含む。また、1つの「ユニット」や「部」が実行する処理を2つ以上の物理的構成や装置により実現されても、2つ以上の「ユニット」や「部」が実行する処理を1つの物理的手段や装置により実現されてもよい。
【0031】
また、本明細書において説明した各処理を実施するプログラムは、記録媒体に記憶させてもよい。この記録媒体を用いれば、データ分析装置2を構成するコンピュータに、上記プログラムをインストールすることができる。ここで、上記プログラムを記憶した記録媒体は、非一過性の記録媒体であっても良い。非一過性の記録媒体は特に限定されないが、例えば、CD−ROM等の記録媒体であっても良い。
【符号の説明】
【0032】
100…データ分析・活用システム、1…通信端末、2…データ分析装置、21…受信部、22…記憶部、22a…第1DB、22b…第2DB、23…選択部、24…生成部、25…出力部。
【要約】
【課題】レーシング車両の制御に必要なセンシングデータを迅速かつ的確に選択することが可能なデータ分析技術を提供する。
【解決手段】受信部21は、レーシング車両に関わるセンシングデータを、通信端末1から受信する。選択部23は、受信した各センシングデータと、記憶部に記憶されている閾値情報とを比較し、受信した各センシングデータの中から、閾値情報を下回るセンシングデータを除去することで、レーシング車両の制御に必要なセンシングデータを選択する。生成部24は、選択したセンシングデータを分析することで、レーシング車両のセッティングに関わる制御データを生成し、出力部25は、制御データを可視化する。
【選択図】
図1