特許第6383893号(P6383893)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6383893抗アカントアメーバコンタクトレンズ用溶剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6383893
(24)【登録日】2018年8月10日
(45)【発行日】2018年8月29日
(54)【発明の名称】抗アカントアメーバコンタクトレンズ用溶剤
(51)【国際特許分類】
   A61L 12/14 20060101AFI20180820BHJP
   A01N 43/36 20060101ALN20180820BHJP
   A01P 1/00 20060101ALN20180820BHJP
   G02C 13/00 20060101ALN20180820BHJP
   A61L 101/02 20060101ALN20180820BHJP
   A61L 101/48 20060101ALN20180820BHJP
【FI】
   A61L12/14 106
   !A01N43/36 Z
   !A01P1/00
   !G02C13/00
   A61L101:02
   A61L101:48
【請求項の数】6
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2018-500186(P2018-500186)
(86)(22)【出願日】2017年2月16日
(86)【国際出願番号】JP2017005636
(87)【国際公開番号】WO2017142005
(87)【国際公開日】20170824
【審査請求日】2018年2月21日
(31)【優先権主張番号】特願2016-27865(P2016-27865)
(32)【優先日】2016年2月17日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000131245
【氏名又は名称】株式会社シード
(74)【代理人】
【識別番号】100149032
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 敏明
(72)【発明者】
【氏名】大竹 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】柳川 芳徳
(72)【発明者】
【氏名】縄瀬 寛之
【審査官】 中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−249087(JP,A)
【文献】 特開2014−218461(JP,A)
【文献】 特表平09−506518(JP,A)
【文献】 米国特許第04443429(US,A)
【文献】 特表2006−509532(JP,A)
【文献】 特開2013−234176(JP,A)
【文献】 特許第3894945(JP,B2)
【文献】 特表2006−501301(JP,A)
【文献】 MERQUAT(ポリクオタニウム−7) ヘアケア全般に使用できるカチオン性ポリマー,株式会社マツモト交商,2007年10月 1日
【文献】 化粧品原材料データベース Merquat TM 280 Polymer,株式会社マツモト交商
【文献】 PAS 製品紹介 スペシャリティケミカルス事業部,ニットーボーメディカル株式会社,2011年
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L2/00−2/28、
A61L11/00−12/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均分子量が150,000〜1,600,000であり、かつ、下記一般式(I)
【化1】
(I)
[式中、nはポリマーの平均分子量が上記において規定される範囲になるように設定される整数を示す。]
で示されるジアリルジメチルアンモニウムクロライド単位を分子内に有するカチオン性ポリマーと、
添加したアルカリ金属の塩である無機塩及び/又はアルカリ土類金属の塩である無機塩と、
ホウ酸緩衝剤と、
エデト酸、エデト酸ナトリウム、エデト酸二ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸、ニトリロ三酢酸、トリヒドロキシメチルアミノメタン、クエン酸及び酒石酸からなる群から選ばれるキレート剤と
を含有し、かつ、pHが6.4〜8.4である、抗アカントアメーバコンタクトレンズ用溶剤(ただし、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド二酸化硫黄共重合体又はジアリルジメチルアンモニウムクロリド二酸化硫黄導入型共重合体を含有する溶剤は除く)。
【請求項2】
前記カチオン性ポリマーは、平均分子量が150,000〜1,200,000であり、かつ、前記ジアリルジメチルアンモニウムクロライド単位のみを重合単位として分子内に有するカチオン性ポリマー、又は、平均分子量が150,000〜1,200,000であり、かつ、前記ジアリルジメチルアンモニウムクロライド単位とアクリルアミド単位及び/又はアクリル酸単位とを重合単位として分子内に有するカチオン性ポリマーである、請求項1に記載の抗アカントアメーバコンタクトレンズ用溶剤。
【請求項3】
前記カチオン性ポリマーは、平均分子量が200,000〜500,000であるカチオン性ポリマーである、請求項1に記載の抗アカントアメーバコンタクトレンズ用溶剤。
【請求項4】
前記カチオン性ポリマーは、ポリクオタニウム−6又はポリクオタニウム−7である、請求項1に記載の抗アカントアメーバコンタクトレンズ用溶剤。
【請求項5】
前記無機塩が、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩及びマグネシウム塩からなる群から選ばれる無機塩である、請求項1に記載の抗アカントアメーバコンタクトレンズ用溶剤。
【請求項6】
前記抗アカントアメーバコンタクトレンズ用溶剤は、有機窒素系消毒剤を含有しない抗アカントアメーバコンタクトレンズ用溶剤である、請求項1に記載の抗アカントアメーバコンタクトレンズ用溶剤。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、2016年2月17日出願の日本特願2016−27865号の優先権を主張し、その全記載は、ここに開示として援用される。
【技術分野】
【0002】
本発明はコンタクトレンズをケアするためなどに用いられるコンタクトレンズ用溶剤に関する。
【背景技術】
【0003】
コンタクトレンズを眼に装用した際、涙液や眼脂などに由来するタンパク質や脂質の汚れがコンタクトレンズ表面に付着する。これらの汚れを放置したまま装用を続けた場合、コンタクトレンズの装用感や視力矯正力の低下が引き起こされるばかりか、コンタクトレンズは細菌が繁殖する温床となることから、被用者は眼疾病に罹患する危険性がある。
【0004】
眼疾病のひとつとして、アカントアメーバ(Acanthamoeba)属微生物(以下、単にアカントアメーバとよぶ。)が角膜に感染しておこるアカントアメーバ角膜炎がある。アカントアメーバ角膜炎は、眼に強い痛みを伴うだけではなく、重症化すると角膜に穴が開き失明するおそれがある疾患であり、近年症例数が増加している。
【0005】
アカントアメーバ角膜炎は、多くの場合、アカントアメーバに汚染されたコンタクトレンズを装用することにより発症する。例えば、コンタクトレンズを保存する際に水道水等で洗浄することにより、水道水等からもたらされたアカントアメーバにコンタクトレンズが汚染する。このアカントアメーバに汚染されたコンタクトレンズを装用することによりアカントアメーバ角膜炎は発症する。
【0006】
アカントアメーバ角膜炎の治療は、一般的に、角膜掻爬及び抗真菌薬の投与により行われる。しかし、アカントアメーバ角膜炎は早期発見が困難なうえに、炎症が再発し治療期間が延びることや角膜に傷跡が残ることなどの患者への負担が大きい難治性の感染症である。そこで、アカントアメーバによる汚染を防ぐ薬剤について、これまで種々の検討が行われてきた。
【0007】
例えば、下記特許文献1(該文献の全記載はここに開示として援用される)には、有効量のポリリジンを含むコンタクトレンズ用抗アカントアメーバ消毒・保存剤が開示されている。下記特許文献2(該文献の全記載はここに開示として援用される)には、有効成分として糖タンパク質であるラクトフェリン又はその酵素分解物のペプチドであるラクトフェリシンを含む抗アカントアメーバ用組成物が開示されている。下記特許文献3(該文献の全記載はここに開示として援用される)には、キャンディン系薬剤のカスポファンギンとビグアニド系化合物を有効成分とする抗原虫組成物が開示されている。
【0008】
また、近年では、一液にてコンタクトレンズの洗浄、すすぎ、消毒及び保存を行えるマルチパーパスソリューション(MPS)が多種市販されている。このようなMPSは、処理が簡便であることから広く普及している。MPSに配合される消毒成分として、有機窒素系消毒剤が一般的である。例えば、下記特許文献4(該文献の全記載はここに開示として援用される)には、MPSに応用可能なものとして、有機窒素系消毒剤とジアリルジアルキルアンモニウム含有重合体(分子量1,000〜150,000)との2成分を有効成分とする、アカントアメーバ角膜炎の予防剤及び治療剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−143277号公報
【特許文献2】特開2011−246458号公報
【特許文献3】特開2013−234176号公報
【特許文献4】特開2014−218461号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、特許文献1〜4に記載の薬剤や組成物にはそれぞれ問題点がある。特許文献1に記載の抗アカントアメーバ消毒・保存剤は、有効成分であるポリリジンにより、高含水性かつイオン性の含水ソフトコンタクトレンズ(グループIV)には適用できず、適用可能なコンタクトレンズが限られており、汎用性が乏しいという問題がある。
【0011】
特許文献2に記載の抗アカントアメーバ用組成物は、有効成分である糖タンパク質又はその分解物であるペプチドにより、眼組織へのタンパク質やペプチドの沈着が生じ、視覚障害や眼障害を生じ得るという問題がある。
【0012】
特許文献3に記載の抗原虫組成物は、有効成分として配合するカスポファンギンにより、真菌の細胞壁の主要構成成分である、1、3−βグルカン合成酵素の活性を阻害することで、抗真菌活性を発揮するものであるところ、カスポファンギンによりアナフラキシー、肝機能障害、眼掻痒症などの副作用が生じ得るという問題がある。
【0013】
特許文献3に記載の抗原虫組成物と同様の問題が特許文献4に記載のアカントアメーバ角膜炎の予防剤及び治療剤にもある。すなわち、特許文献4に記載のアカントアメーバ角膜炎の予防剤及び治療剤は、有効成分の一種として有機窒素系消毒剤を含有するところ、有機窒素系消毒剤の種類や含有量によってはアナフラキシー、肝機能障害、眼掻痒症などの副作用が生じ得るという問題がある。
【0014】
この様に、アカントアメーバ感染予防用として開示される特許文献1〜4に記載の薬剤や組成物は、それらの有効成分によって、アカントアメーバに対する殺菌作用(抗アカントアメーバ作用)を示すとしても、眼組織への安全性及び適用対象のコンタクトレンズの汎用性に対して課題を有するものである。
【0015】
そこで本発明の目的は、抗アカントアメーバ作用を有しながらも、眼組織への影響が小さく安全性があり、かつ、広範囲のコンタクトレンズに適用可能であるという汎用性があるコンタクトレンズ用溶剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
MPSなどのコンタクトレンズ用溶剤に配合する消毒成分として低分子量のもの及び高分子量のものが考えられる。例えば、低分子量の消毒成分を配合してなるMPSを用いてコンタクトレンズを洗浄及び消毒する操作を行う場合、低分子量の消毒成分のコンタクトレンズ表面への吸着やコンタクトレンズ内部への取り込みが起こりやすい。そこで、低分子量の消毒成分が吸着又は取り込まれたコンタクトレンズを装用した装用者は、消毒成分が眼組織と接触することとなり、眼障害が発生することが懸念される。
【0017】
それに対して、使用する消毒成分として高分子量の消毒成分を使用する場合、眼組織に対する安全性は保たれる一方で、消毒効果は低減する傾向にある。そのため、高分子量の消毒成分を配合してなるコンタクトレンズ用溶剤は、通常の細菌や真菌よりも殺菌することが困難であるアカントアメーバに対して、消毒効果を示すには至らない傾向にある。
【0018】
本発明者らは、このような技術常識を勘案しつつ、上記の課題を解決すべく、眼組織への悪影響が小さく、かつ、アカントアメーバに対して消毒効果を示す成分について鋭意研究を重ね、所定の範囲の構造及び平均分子量を有するカチオン性ポリマーを無機塩とともに用いたところ、アカントアメーバに対して優れた消毒効果を有することを見出した。この知見をもとに、本発明者らは、該カチオン性ポリマー及び無機塩を含有する抗アカントアメーバコンタクトレンズ用溶剤を創作することに成功した。このような抗アカントアメーバコンタクトレンズ用溶剤は、抗アカントアメーバ作用を示しながらも、眼組織への安全性及びコンタクトレンズに対する汎用性があるものである。本発明は、これらの知見及び成功例に基づき完成された発明である。
【0019】
したがって、本発明の一態様によれば、平均分子量が150,000〜1,600,000であり、かつ、下記一般式(I)
【化1】
(I)
[式中、nはポリマーの平均分子量が上記において規定される範囲になるように設定される整数を示す。]
で示されるジアリルジメチルアンモニウムクロライド単位を分子内に有するカチオン性ポリマーと、
無機塩と
を含有する、抗アカントアメーバコンタクトレンズ用溶剤が提供される。
【0020】
好ましくは、本発明の一態様の抗アカントアメーバコンタクトレンズ用溶剤において、前記カチオン性ポリマーは、平均分子量が150,000〜1,200,000であり、かつ、前記ジアリルジメチルアンモニウムクロライド単位のみを重合単位として分子内に有するカチオン性ポリマー、又は、平均分子量が150,000〜1,200,000であり、かつ、前記ジアリルジメチルアンモニウムクロライド単位とアクリルアミド単位及び/又はアクリル酸単位とを重合単位として分子内に有するカチオン性ポリマーである。
好ましくは、本発明の一態様の抗アカントアメーバコンタクトレンズ用溶剤において、前記カチオン性ポリマーは、平均分子量が200,000〜500,000であるカチオン性ポリマーである。
好ましくは、本発明の一態様の抗アカントアメーバコンタクトレンズ用溶剤において、前記カチオン性ポリマーは、ポリクオタニウム−6又はポリクオタニウム−7である。
好ましくは、本発明の抗アカントアメーバコンタクトレンズ用溶剤において、前記無機塩が、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩及びマグネシウム塩からなる群から選ばれる無機塩である。
好ましくは、本発明の一態様の抗アカントアメーバコンタクトレンズ用溶剤において、前記抗アカントアメーバコンタクトレンズ用溶剤は、有機窒素系消毒剤を含有しない抗アカントアメーバコンタクトレンズ用溶剤である。
好ましくは、本発明の一態様の抗アカントアメーバコンタクトレンズ用溶剤は、エデト酸、エデト酸ナトリウム、エデト酸二ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸、ニトリロ三酢酸、トリヒドロキシメチルアミノメタン、クエン酸及び酒石酸からなる群から選ばれるキレート剤をさらに含有する。
【発明の効果】
【0021】
本発明の一態様の抗アカントアメーバコンタクトレンズ用溶剤は、特定の範囲の構造及び平均分子量を有するカチオン性ポリマーを用いることにより、MPSなどのコンタクトレンズ用ケア溶剤に通常配合される有機窒素系消毒剤の配合の有無に関係なく、眼組織に対する高い安全性を示し、かつ、広範囲のコンタクトレンズに適用可能であるという汎用性に優れながらも、アカントアメーバに対して優れた消毒効果を奏することができる。
【0022】
本発明の一態様の抗アカントアメーバコンタクトレンズ用溶剤をコンタクトレンズの洗浄や保存に用いることにより、コンタクトレンズ装用者がアカントアメーバに起因する角膜炎に罹患する危険性を低減又は回避することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の一態様に係る抗アカントアメーバコンタクトレンズ用溶剤の詳細について説明するが、本発明の技術的範囲は本項目の事項によってのみに限定されるものではなく、本発明はその目的を達成する限りにおいて種々の態様をとり得る。
抗アカントアメーバコンタクトレンズ用溶剤は、特定の構造及び平均分子量を有するカチオン性ポリマーと無機塩とを含有することに特徴を有する。抗アカントアメーバコンタクトレンズ用溶剤は、アカントアメーバの少なくともいずれか1種に対して死滅又は増殖阻害を起こさせる作用(抗アカントアメーバ作用)を有する。本明細書において、微生物に対して死滅、除去又は増殖阻害を起こさせることを消毒や殺菌とよぶ場合がある。
【0024】
抗アカントアメーバコンタクトレンズ用溶剤の抗アカントアメーバ作用の程度は、アカントアメーバの少なくともいずれか1種に対して死滅又は増殖阻害が確認できる程度であれば特に限定されないが、例えば、アカントアメーバ・カステラニー(Acanthamoeba castellanii)ATCC50514株に対して、後述する実施例に記載のアカントアメーバ消毒効果の評価方法1に基づいて死細胞率が20%以上、好ましくは40%以上、より好ましくは60%以上、さらに好ましくは80%以上になる程度であり、又は後述する実施例に記載のアカントアメーバ消毒効果の評価方法2に基づいてアカントアメーバの消毒時間経過後の対数差が0.8以上、好ましくは0.9以上、より好ましくは1.0以上、さらに好ましくは2.0以上になる程度である。
【0025】
抗アカントアメーバコンタクトレンズ用溶剤の安全性は、コンタクトレンズ装用者の眼組織に著しい変化(掻痒感の惹起や視力の悪化など)を起こさせない程度であれば特に限定されないが、例えば、後述する実施例に記載の方法により安全性を評価した場合に、濃度を2.5v/v%に調整したときの相対コロニー形成率が75%以上、好ましくは濃度を5v/v%に調整したときの相対コロニー形成率が75%以上、より好ましくは濃度を10v/v%に調整したときの相対コロニー形成率が75%以上になる程度である。
【0026】
抗アカントアメーバコンタクトレンズ用溶剤の形状安定性は、適用したコンタクトレンズに著しい形状の変化を起こさせない程度であれば特に限定されないが、例えば、後述する実施例に記載の方法により形状安定性を評価した場合に、直径の変化量が±1.0mm以内、好ましくは±0.5mm以内、より好ましくは±0.2mm以内になる程度である。
【0027】
カチオン性ポリマーの好ましい態様は、平均分子量の範囲が150,000〜1,600,000であり、及び構造として少なくとも下記一般式(I)
【化1】
(I)
[式中、nはポリマーの平均分子量が上記において規定される範囲になるように設定される整数を示す。]
で示されるジアリルジメチルアンモニウムクロライド単位を分子内に有するカチオン性ポリマーである。
【0028】
カチオン性ポリマーの平均分子量は、抗アカントアメーバコンタクトレンズ用溶剤が抗アカントアメーバ効果を有し、かつ、眼組織への安全性を有することを考慮した場合、例えば、150,000〜1,200,000が好ましく、180,000〜1,200,000がより好ましく、200,000〜500,000がさらに好ましい。
【0029】
カチオン性ポリマーの好ましい態様の具体例としては、一般式(I)で示されるジアリルジメチルアンモニウムクロライド単位のみを重合単位として分子内に有するカチオン性ポリマー;一般式(I)で示されるジアリルジメチルアンモニウムクロライド単位及びアクリルアミド単位を重合単位として分子内に有するカチオン性ポリマー;一般式(I)で示されるジアリルジメチルアンモニウムクロライド単位及びアクリル酸単位を重合単位として分子内に有するカチオン性ポリマー;一般式(I)で示されるジアリルジメチルアンモニウムクロライド単位、アクリルアミド単位及びアクリル酸単位を重合単位として分子内に有するカチオン性ポリマーなどが挙げられる。カチオン性ポリマーの各重合単位は置換又は非置換であり得る。また、カチオン性ポリマーの末端部位の構造は特に限定されない。ただし、カチオン性ポリマーの各重合単位の重合度の総和は上記分子量になるように決定される。
【0030】
カチオン性ポリマーの具体例としては、上記した分子量であるポリクオタニウム−6、ポリクオタニウム−7、ポリクオタニウム−22、ポリクオタニウム−39などが挙げられるが、これらに限定されない。カチオン性ポリマーの好ましい具体例は、ポリクオタニウム−6及びポリクオタニウム−7であり、より好ましくはポリクオタニウム−6である。抗アカントアメーバコンタクトレンズ用溶剤は、上記したカチオン性ポリマーのいずれか1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0031】
カチオン性ポリマーの取得方法は特に限定されないが、例えば、カチオン性ポリマーがポリクオタニウム−6である場合は、ジアリルジメチルアンモニウムクロライドの水溶性モノマーを原材料として使用し、過酸化物等のラジカル重合開始剤や光により環化重合することにより、線状のホモポリマーとして得る方法などが挙げられる。
【0032】
カチオン性ポリマーは市販されているものであってもよい。例えば、ポリクオタニウム−6は、一般式(C16N・Cl)xで表され(式中、xは重合度である整数を表わす)、Lubrizol社からMERQUAT100(分子量:150,000)、東邦化学工業株式会社からMEポリマーH−40W(分子量:240,000)、センカ株式会社からコスモ―トVG(分子量:200,000)、センカ株式会社からユニセンスFPA1001L(分子量:200,000)、センカ株式会社からユニセンスFPA1002L(分子量:500,000)、センカ株式会社からユニセンスFPA7000E(分子量:1,200,000)、ニットーボーメディカル社からPAS−H−10L(分子量:200,000)などとして市販されている(ポリマー名称はそれぞれ登録商標又は商品名を示す)。ポリクオタニウム−6として、医薬品医薬部外品原料規格2006(外原規)に収載されているポリ塩化ジメチルメチレンピぺリジニウム液を使用してもよい。
【0033】
ポリクオタニウム−7は、一般式(C16N・Cl)x−(CNO)で表され(式中、xは重合度である整数を表わす)、Lubrizol社からMERQUAT2200(分子量:1,600,000)、Lubrizol社からMERQUAT740(分子量:120,000)、Lubrizol社からMERQUAT CG600(分子量:1,200,000)、東邦化学工業株式会社からMEポリマー09W(分子量:450,000)、センカ株式会社からコスモ―ト VHK(分子量:1,600,000)、センカ株式会社からコスモ―ト VH(分子量:1,600,000)、センカ株式会社からコスモ―ト VHL(分子量:200,000)、ニットーボーメディカル社からPAS−J−81(分子量:180,000)などとして市販されている(ポリマー名称はそれぞれ登録商標又は商品名を示す)。ポリクオタニウム−7として、外原規に収載されている塩化ジメチルジアリルアンモニウム・アクリルアミド共重合体液を使用してもよい。
【0034】
カチオン性ポリマーの含有量は、抗アカントアメーバコンタクトレンズ用溶剤が抗アカントアメーバ作用を示す量であれば特に限定されないが、例えば、カチオン性ポリマーが消毒効果に影響を及ぼすことを鑑みれば、好ましくは1.0×10−5〜10.0w/v%であり、より好ましくは5.0×10−5〜1.0w/v%であり、さらに好ましくは1.0×10−4〜0.01w/v%であり、なおさらに好ましくは5.0×10−4〜0.005w/v%である。カチオン性ポリマーの含有量が1.0×10−5w/v%未満の場合、細菌類や真菌類に対しては消毒効果が発揮されるものの、アカントアメーバに対する消毒効果は十分とはいえない傾向にある。
【0035】
抗アカントアメーバコンタクトレンズ用溶剤は、カチオン性ポリマーとともに無機塩を含有する。無機塩の種類は特に限定されないが、例えば、アルカリ金属の塩、アルカリ土類金属の塩などが挙げられ、好ましくはナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩及びマグネシウム塩であり、より好ましくは塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、炭酸マグネシウム、塩化マグネシウム及び硫酸マグネシウムである。無機塩は、いずれか1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いられ得る。
【0036】
無機塩の含有量は特に限定されないが、例えば、0.01〜10w/v%であり、好ましくは0.1〜5w/v%であり、より好ましくは0.5〜2w/v%であり、さらに好ましくは0.5〜1.5w/v%である。無機塩の含有量は、抗アカントアメーバコンタクトレンズ用溶剤をコンタクトレンズ装用者へ適用した場合の眼組織への刺激性や浸透圧を考慮して、適宜設定すればよい。
【0037】
カチオン性ポリマーと無機塩との含有量の比(カチオン性ポリマー:無機塩)は、抗アカントアメーバコンタクトレンズ用溶剤が抗アカントアメーバ作用を示すような含有量の比であれば特に限定されないが、例えば、1:1〜100,000であり、好ましくは1:10〜50,000であり、より好ましくは1:10〜10,000であり、さらに好ましくは1:20〜10,000であり、なおさらに好ましくは1:50〜10,000である。抗アカントアメーバコンタクトレンズ用溶剤を抗アカントアメーバ作用が好ましく増強されたものとするためには、カチオン性ポリマーの含有量を5.0×10−5〜0.1w/v%、好ましくは1.0×10−4〜0.05w/v%、より好ましくは2.5×10−4〜0.01w/v%とし、カチオン性ポリマーと無機塩との含有量の比(カチオン性ポリマー:無機塩)を1:50〜10,000とすることが好ましい。
【0038】
抗アカントアメーバコンタクトレンズ用溶剤は、本発明の目的を損なわない限り、カチオン性ポリマー及び無機塩に加えて、通常コンタクトレンズ用ケア用剤に含有し得るその他の添加剤をさらに含有することができる。その他の添加剤は特に限定されないが、例えば、消毒剤、界面活性剤、緩衝剤、キレート剤、増粘剤、湿潤剤、等張化剤、タンパク質分解酵素や脂質分解酵素などの酵素が挙げられる。ただし、消毒剤については眼組織への影響が見られるものやアレルギー源となり得るものがあることから、抗アカントアメーバコンタクトレンズ用溶剤は、コンタクトレンズ装用者の眼組織の状態やアレルギー体質などによって、カチオン性ポリマー及び無機塩を含有し、さらに消毒剤を含有する抗アカントアメーバコンタクトレンズ用溶剤と、カチオン性ポリマー及び無機塩を含有し、かつ、消毒剤を含有しない抗アカントアメーバコンタクトレンズ用溶剤とに大別できる。
【0039】
消毒剤は特に限定されないが、例えば、ポリヘキサメチレンビグアニド(PHMB)、ポリアミノプロピルビグアニド、アレキシジン、グルコン酸クロルヘキジン(GCH)などのビグアニド系消毒剤;塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化ポリドロニウムなどの第四級アンモニウム塩系消毒剤;ポピドンヨードなどのヨード系消毒剤;過酸化水素消毒剤などが挙げられ、好ましくは有機窒素系消毒剤であり、より好ましくはPHMBである。
【0040】
消毒剤は市販されているものを用いてもよいし、公知の方法により製造したものを用いてもよい。消毒剤の含有量は特に限定されないが、抗アカントアメーバコンタクトレンズ用溶剤はカチオン性ポリマー及び無機塩を含有して抗アカントアメーバ作用を示すことから、通常コンタクトレンズ用ケア用剤に用いられている量よりも低減した量とすることができ、さらに眼刺激等の安全性を考慮すると2.0w/v%以下が好ましい。
【0041】
抗アカントアメーバコンタクトレンズ用溶剤は、コンタクトレンズに付着した脂肪等の汚れを除去するために、界面活性剤をさらに添加することが好ましい。界面活性剤は、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤及び両性イオン界面活性剤の中から、コンタクトレンズに影響がなく、眼に対する安全性が確認されている界面活性剤を適宜選定すればよく、特に限定されないが、例えば、優れた洗浄効果が期待できることから、好ましくは非イオン性界面活性剤である。
【0042】
具体的な非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックポリマー、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシアルキルエステル、ポリオキシエチレンスルビタンアルキルエステルなどが挙げられるが、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックポリマーが好ましい。
【0043】
ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックポリマーの具体例としては、株式会社ADEKAからアデカプルロニックF−88(ポリオキシエチレン[200]ポリオキシプロピレン[40]グリコール)、BASF社からプルロニックF68(ポリオキシエチレン[160]ポリオキシプロピレン[30]グリコール)、BASF社からプルロニックF127(ポリオキシエチレン[196]ポリオキシプロピレン[67]グリコール)などとして市販されている(ポリマー名称はそれぞれ登録商標又は商品名を示す)。界面活性剤の含有量は特に限定されないが、例えば、通常コンタクトレンズ用ケア用剤として一般的である0.01〜5.0w/v%程度であり、好ましくは0.03〜1.0w/v%である。
【0044】
抗アカントアメーバコンタクトレンズ用溶剤は、抗アカントアメーバ作用を示すものであれば、pH、浸透圧その他の物性は特に限定されない。抗アカントアメーバコンタクトレンズ用溶剤について、眼に対する刺激性を考慮すれば、pHは6.4〜8.4であることが好ましく、6.8〜7.8であることがより好ましい。このようなpHの範囲となるようにするためには、緩衝剤を添加することが好ましい。
【0045】
緩衝剤としては通常コンタクトレンズ用ケア用剤として用いられているものを使用すればよく、特に限定されないが、例えば、リン酸緩衝剤、ホウ酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、グリシン緩衝剤、トリス(トリスヒドロキシアミノメタン)緩衝剤などが挙げられる。抗アカントアメーバコンタクトレンズ用溶剤においては、アカントアメーバの消毒効果を考慮し(例えば、特開平6−321715号公報;日本コンタクトレンズ学会誌、50巻4号、pp.234−237を参照、該文献の全記載はここに開示として援用される)、さらにリン酸緩衝剤やクエン酸緩衝剤よりも抗アカントアメーバ作用が増強することから、ホウ酸緩衝剤が好ましく用いられる。緩衝剤の含有量が低すぎる場合、目的の緩衝効果が得られず、かつ、高すぎる場合は目に対する刺激や低温下での析出が懸念されることから、緩衝剤の含有量は、例えば、0.01〜5.0w/v%であり、好ましくは0.05〜1.0w/v%である。
【0046】
キレート剤としては、通常コンタクトレンズ用ケア用剤として用いられているものを使用すればよく、特に限定されないが、例えば、エデト酸、エデト酸ナトリウム、エデト酸二ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸、ニトリロ三酢酸、トリヒドロキシメチルアミノメタン、クエン酸及び酒石酸などの多価カルボン酸及びその塩などが挙げられる。キレート剤の含有量は通常コンタクトレンズ用ケア用剤として含有する量であれば特に限定されないが、例えば、0.001〜2.0w/v%であり、好ましくは0.01〜1.0w/v%である。
【0047】
増粘剤としては、通常コンタクトレンズ用ケア用剤として用いられているものを使用すればよく、特に限定されないが、例えば、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシセルロースナトリウム、ポリビニルアルコールなどが挙げられる。
【0048】
等張化剤としては、通常コンタクトレンズ用ケア用剤として用いられているものを使用すればよく、特に限定されないが、例えば、グリセリン、プロピレングリコール、プロパンジオール、マンニトール、ソルビトール、ショ糖などが挙げられる。
【0049】
湿潤剤としては、通常コンタクトレンズ用ケア用剤として用いられているものを使用すればよく、特に限定されないが、例えば、ヒアルロン酸、コラーゲン、アミノ酸及びその塩、ピロリドンカルボン酸塩、ポリビニルアルコール、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン重合体、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン/ブチルメタクリレート共重合体などのMPCポリマー及びその誘導体などが挙げられる。
【0050】
添加剤を添加することによって得られる抗アカントアメーバコンタクトレンズ用溶剤の最終的な浸透圧は、生理的に等しい範囲である200〜400mmol/kgであることが好ましく、220〜380mmol/kgであることがより好ましい。
【0051】
抗アカントアメーバコンタクトレンズ用溶剤は、当業者により知られる眼科領域に用いられる溶剤の製造方法に従って、特に限定されることなく製造できる。例えば、精製水に、カチオン性ポリマー及び無機塩、任意に緩衝剤、界面活性剤その他の添加剤を同時に、又はこれらを各々前後して添加することにより製造できる。抗アカントアメーバコンタクトレンズ用溶剤は、液体状組成物として、通常コンタクトレンズ用ケア用剤に用いられる素材の容器に充填して、任意に加熱滅菌などした後、消費者に供され得る。
【0052】
抗アカントアメーバコンタクトレンズ用溶剤の使用態様は、コンタクトレンズに対して抗アカントアメーバ作用を示す態様であれば特に限定されず、例えば、コンタクトレンズ装用者に対して直接眼に点眼する点眼剤としての態様、間接的にコンタクトレンズ装用者の眼組織又は感染部位に曝露させる態様、コンタクトレンズの消毒に用いるためにコンタクトレンズの洗浄や保存のための溶剤の態様で用いることができる。抗アカントアメーバコンタクトレンズ用溶剤の好ましい使用態様は、コンタクトレンズ、好ましくはソフトコンタクトレンズを洗浄及び/又は保存するための抗アカントアメーバコンタクトレンズ用ケア用剤である。
【0053】
以下、本発明を実施例によってさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではなく、本発明の課題を解決し得る限り、本発明は種々の態様をとることができる。
【実施例】
【0054】
[被験試料の調製]
表1及び表2に示す処方(表中の成分含有量の単位はw/v%である)に従って、実施例1〜18及び比較例1〜15の被験試料を調製した。すなわち、表1及び表2に記載した各配合成分(ポリクオタニウム6及びポリクオタニウム7は純分換算で秤量)を精製水100mLに量り込み、室温にて各成分が均一になるよう十分に撹拌した。得られた均一溶液を孔径0.2μmのセルロースアセテートにて濾過滅菌し、抗アカントアメーバコンタクトレンズ用溶液として各被験試料を調製した。なお、非イオン性界面活性剤としてはプルロニック ポロクサマー407(BASF社製)を用いた。MPS(1)及びMPS(2)は、それぞれコンタクトレンズ用消毒剤である市販製品1(有効成分PQ−1:0.001w/v%)及び市販製品2(有効成分PHMB:0.00011w/v%)である。
【0055】
[アカントアメーバ消毒効果の評価方法1]
試験菌株として、アカントアメーバ(Acanthamoeba castellanii ATCC50514)を用いた。
【0056】
液体培地(ATCC712培地)上で25℃にて培養したアカントアメーバを回収し、遠心分離した後、リンゲル1/4溶液を加え懸濁し、アカントアメーバ濃度10〜10(cfu/mL)に調整し、これをアカントアメーバ試験液とした。
【0057】
実施例1〜5及び比較例1〜4の各被験試料10mLにアカントアメーバ試験液0.1mLを接種した後、25℃で4時間インキュベートして消毒処理することにより評価液を調製した。
【0058】
インキュベート後、各評価液に0.4w/v%Trypan Blue Solutionを混釈し、血球計算板を用いて光学顕微鏡で全細胞数、生細胞数及び死細胞数を計測した。計測した数値をもとに、全細胞数に占める死細胞数の割合から死細胞率を算出した。死細胞率に基づいて、以下に示すとおりに評価した。結果を表1に示す。
○:死細胞率:60%以上
△:死細胞率:20%以上、かつ、60%未満
×:死細胞率:20%未満
【0059】
[アカントアメーバ消毒効果の評価方法2]
試験菌株として、アカントアメーバ(Acanthamoeba castellanii ATCC50514)を用いた。
【0060】
液体培地(ATCC712培地)上で25℃にて培養したアカントアメーバを回収し遠心分離後、リンゲル1/4溶液を加え懸濁し、アカントアメーバ濃度10〜10(cfu/mL)に調整し、これをアカントアメーバ試験液とした。
【0061】
実施例6〜18、比較例5〜15及びMPS(1)〜(2)の各被験試料10mLにアカントアメーバ試験液0.1mLを接種した後、25℃で4時間インキュベートして消毒処理することにより評価液を調製した。
【0062】
インキュベート後、各評価液1mLを取り出し、これに不活化剤(10%ポリソルベート1/4リンゲル溶液)9mLを添加した後、さらに液体培地(ATCC712培地)にて4.6倍希釈系列を連続的に調製した。10〜10(cfu/mL)付近のものである適切な希釈倍率の5濃度点の評価液を調製した。
【0063】
48ウェルカルチャプレートのウェルに、各濃度点の評価液0.2mLを3ウェルに分注した。分注したカルチャープレートを7日間培養した後、下記の参考文献(該文献の全記載はここに開示として援用される)に記載の定量法(MTT法)にて各評価液におけるアカントアメーバの消毒時間経過後の対数差(生細胞数の減少量)を求めた。
【0064】
対数差が1.0以上あると認められた評価液について、消毒効果を有する被験試料であると評価した。各被験試料間の消毒能を比較する際には、生細胞数の減少量の差が0.5以上あると認められた評価液について、消毒効果に有意差がある被験試料であると評価した。評価結果を表2に示す。
【0065】
参考文献:The MTT Assay:A Quantitative Method to Evaluate the Inactivation of Acanthamoeba: J.Antibact.Antifung.Agents Vol.42, No.10,pp527−532(2014)
【0066】
[細菌消毒効果の評価方法]
コンタクトレンズ装用者の中で最も多いコンタクトレンズに起因する角膜感染症の原因として、緑膿菌が挙げられる。そこで、本消毒効果試験の試験菌株として、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa ATCC9027)を用いた。
【0067】
寒天培地の斜面培地上で35℃、18時間培養した緑膿菌に、ダルベッコリン酸緩衝液を加えて懸濁した後に回収した液を菌源液とした。さらに、菌源液をダルベッコリン酸緩衝液で希釈し、濃度を10〜10cfu/mLに調整して、菌試験液とした。寒天培地は、ソイビーンカゼイン寒天培地を用いた。
【0068】
実施例6〜18、比較例5〜15及びMPS(1)〜(2)の各被験試料10mLに菌試験液0.1mLを接種した後、25℃で4時間インキュベートして消毒処理することにより評価液を調製した。インキュベート後、各評価液1mLを不活化剤含有培地(Neutralizing Broth)9mLに添加した後(10倍希釈)、さらにダルベッコリン酸緩衝液にて10倍希釈系列を連続的に調製し、適当な希釈倍率の3濃度点の評価液1mLをディスポディッシュに分注し、次いで寒天培地を注ぎ混釈し、35℃、48時間でインキュベートすることにより得られたコロニー数により生菌数を求めた。
【0069】
試験菌液の菌数である初発菌数は、ダルベッコリン酸緩衝液で10倍希釈系列を連続的に調製し、前述と同様に寒天培地平板法により求めた。
【0070】
得られた初発菌数と試験菌液を接種した各評価液の生菌数(対数値)から、各被験試料における消毒処理後の対数差(生菌数の減少量)を次式により求めた。
[生菌数の減少量]=初発菌数−試験液における生菌数
【0071】
上記式により求めた生菌数の減少量(対数差)を消毒効果とした。消毒効果の判定は、通常、ISOスタンドアローン試験の一次基準に従って、4時間の消毒時間における生菌数の減少量が細菌で3.0以上ある被験試料について、消毒効果を有するとした。また、各被験試料間の消毒能を比較する際には、被験試料における生菌数の差が0.5以上あった場合、消毒効果に有意差があるものとした。
【0072】
[安全性]
37℃のCOインキュベーターで前培養したチャイニーズハムスター肺由来細胞V79細胞をトリプシン処理した後に、牛胎児血清含有イーグル最少必須培地に懸濁して細胞懸濁液を得た。
【0073】
カルチャープレートのウェルに、表3に示す実施例、比較例、MPS(1)及びMPS(2)の被験試料を試料濃度(v/v%)が20%、10%、5%及び2.5%となるように調製して分注し、さらに細胞数が100個となるように細胞懸濁液を加え、37℃のCOインキュベーター中で7日間培養した。比較対照として、細胞を培地で同条件にて培養したものを用意した。
【0074】
各試料の各濃度点における相対コロニー形成率を次式より求めた:
[相対コロニー形成率](%)=(各濃度点におけるコロニー数/比較対照のコロニー数)×100
【0075】
相対コロニー形成率(%)をそのまま眼組織への安全性とし、同一濃度における相対コロニー形成率の比較により、各試料の安全性を以下のとおりに評価した。評価結果を表3に示す。
○:相対コロニー形成率75%以上
△:相対コロニー形成率50%以上、かつ、75%未満
×:相対コロニー形成率50%未満
【0076】
[コンタクトレンズ形状安定性]
試験レンズとして、SEED2weekFineUV(グループI)及びSEED2weekPure(グループIV)(ともにシード社製)を用いた。
【0077】
ブリスターパックよりコンタクトレンズを取出し表面の水分を除去した後、各レンズをレンズケースに入れ実施例1〜4、比較例1〜3及び市販MPS(1)〜(2)を各々3.5mL分注して、2週間静置した。その後、顕微鏡を用いてコンタクトレンズの直径を測定した。形状安定性の評価は、コンタクトレンズ承認基準に従い、30回擦り洗い前後の直径の変化量が、製品に表示された数値に対し±0.2mm以内であった場合を合格とした。評価結果を表1に示す。
【0078】
【表1】
【0079】
【表2】
【0080】
【表3】
【0081】
表1及び表2中の「PQ」はポリクオタニウム類を示し、詳しくは下記に示すとおりのものである。
・PQ−6(分子量8500):PAS−H−1L(ニットーボーメディカル社)
・PQ−6(分子量150,000):MERQUAT100(Lubrizol社)
・PQ−6(分子量240,000):MEポリマーH−40W(東邦化学工業)
・PQ−6(分子量500,000):ユニセンスFPA1002L(センカ株式会社)
・PQ−6(分子量1,200,000):ユニセンスFPA700E(センカ株式会社)
・PQ−7(分子量10,000):PAS−J−81−L(ニットーボーメディカル社)
・PQ−7(分子量180,000):PAS−J−81(ニットーボーメディカル社)
【0082】
[試験結果]
表1及び表2が示すとおり、ポリクオタニウム−6及びポリクオタニウム−7からなる群より選ばれる少なくとも1種のカチオン性ポリマーについて、分子量が150,000〜1,200,000であるものは、アカントアメーバに対する消毒効果を有し、かつ、コンタクトレンズへの形状安定性が優れたものであることが確認された。また、表3が示すとおり、ポリクオタニウム−6及びポリクオタニウム−7からなる群より選ばれる少なくとも1種のカチオン性ポリマーについて、分子量が150,000〜240,000であるものは、眼組織への安全性が優れたものであることが確認された。この点、一般的に安全性は、低分子化合物よりも高分子化合物の方が高く、かつ、低分子化合物はコンタクトレンズへ取り込まれ、レンズ装用時に眼内で放出される可能性があることから、分子量が150,000〜240,000の範囲であるポリクオタニウム−6及びポリクオタニウム−7は眼組織への安全性が優れたものであることが示唆される。また、浸透圧を220付近になるように調製した被験試料についても、抗アカントアメーバ作用を示すこと(評価方法2に基づいて対数差が1.0以上あること)を確認した。浸透圧を375付近に調整しても、浸透圧が高ければアカントアメーバを消毒する作用が強くなる傾向にあることから、抗アカントアメーバ作用が見られることが示唆される。
【0083】
したがって、本発明の一態様の抗アカントアメーバコンタクトレンズ用溶剤は、アカントアメーバに優れた消毒効果を発揮しつつ、市販製品と同等以上の高い安全性を有すると共にコンタクトレンズ汎用性を兼ね備えたコンタクトレンズ用溶剤となし得るものである。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明の一態様の抗アカントアメーバコンタクトレンズ用溶剤は、眼組織に対して安全性が高く、コンタクトレンズの適用範囲が広く、かつ、アカントアメーバに対する消毒効果が優れていることから、MPSなどのコンタクトレンズ用ケア用剤として利用することにより、装用者がアカントアメーバに起因する角膜炎に罹患する危険性を低減又は回避することができ、コンタクトレンズ装用者の健康と福祉に貢献できるものである。