(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記結合工程後の前記導電性基板と結合された前記焼結体を、アルカリ金属水酸化物を含む電解液中に浸漬する結合後浸漬工程を更に含む請求項5に記載の電解用電極の製造方法。
陽極と、該陽極を収容する陽極室と、陰極と、該陰極を収容する陰極室と、前記陽極室および前記陰極室を区画する隔膜と、を有する電解槽であって、前記陰極及び前記陽極の少なくとも一方が請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の電解用電極であることを特徴とする電解槽。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施形態及び参考実施形態を、図面を参照して以下で説明する。但し、以下の説明及び図面は一例であり、本発明はこれらに限定して解釈されない。各実施形態及び参考実施形態で説明されている効果を奏することができれば、各種の設計変更等の変形が加えられた実施の態様も本発明の範囲内に包含される。
【0022】
図1は、アルカリ金属水溶液電解装置で用いられる電解セルの一例を説明する正面概略図である。「アルカリ金属水溶液電解」とは、アルカリ金属イオンを含む水溶液を電解液として用いる電解の総称である。例えば、食塩電解などのアルカリ金属塩化物を含む電解液の電解(塩化アルカリ電解)、アルカリ水電解、アルカリ金属硫酸塩を含む電解液の電解(硫酸アルカリ電解)などが挙げられる。
【0023】
電解セル10の外観(正面図)は、下記の実施形態及び参考実施形態で共通する。電解セル10は、矩形の枠体であるガスケット14を備える。ガスケット14の開口部分に電極(陽極または陰極)12が位置する。
図1には示されていないが、電解セル10には、電解セル10内部に電解液を供給する供給ノズルと、電解セル10内部の電解液を外部に排出する排出ノズルとが取り付けられる。
複数の電解セル10が電解槽内に収容されるに当たり、隣り合う電解セルの陰極と陽極とが対向するように配置され、電解セル間に隔膜が配置される。
【0024】
[第1実施形態]
本発明の第1実施形態を複極式の食塩電解装置を用いて説明する。
図2は、食塩電解装置に適用される電解セルであって、
図1のA−A’断面図(水平断面図)である。
第1実施形態における電解セル100では、枠体により電解セル100の内部に陽極室110及び陰極室120が画定される。
図2の電解セル100では、枠体は枠状のフレーム102と、フレーム102の内部を区画する隔壁104とにより構成され、フレーム102及び隔壁104により電解セル100の内部に陽極室110及び陰極室120が形成される。フレーム102は外側に突出するガスケット座面102Aを有する。ガスケット座面102Aとガスケット106とが締結手段(不図示)により結合される。
【0025】
陽極室110のフレーム102の開口部分に陽極114が設置される。隔壁104に複数の支持部材(リブ)108が取り付けられ、支持部材108により陽極114が支持される。陽極114は、導電性基板の表面に触媒層が形成された金属電極である。陽極114の導電性基板はチタン製であり、エキスパンドメッシュ、パンチングメタル、金網など、複数の貫通孔を有する部材である。陽極114の触媒には、ルテニウム、白金、イリジウム、チタン等の公知の金属及びこれらの酸化物が用いられる。陽極室110内部にバッファ板116が設置される。バッファ板116は、陽極室内部の液循環を促進し、陽極室内で電解液を均一な濃度分布とする役割を果たす。
【0026】
陰極室120内に陰極構造体122が設置される。陰極構造体122は、陰極130と、陰極集電体128と、弾性体126とを備える。
図2に示すように、陰極130がフレーム102の開口部分に配置される。陰極集電体128は、陰極130と対向配置され、陰極130よりも隔壁104側に配置される。弾性体126は、陰極130と陰極集電体128との間に配置される。陰極130と弾性体126とが接触し、弾性体126と陰極集電体128とが接触する。これにより、弾性体126を介して陰極130と陰極集電体128とが電気的に接続される。
陰極室120内においても、隔壁104に複数の支持部材108が取り付けられ、支持部材108により陰極集電体128が支持される。これにより、陰極130が陰極集電体128及び弾性体126を介して支持部材108により支持されることになる。隔壁が無い構造の電解槽の場合は、枠体(フレーム)等に支持部材が取り付けられていても良い。
図2では陰極構造体を備える構造が示されているが、陰極集電体や弾性体が無い場合には、陰極が支持部材によって直接支持されていても良い。なお、支持部材108は、陰極集電体128や弾性体126と一体化されていてもよいし、陰極と一体化されていても良い。
【0027】
陰極集電体128は、ニッケル、ニッケル合金などからなる部材である。陰極集電体128の形状は特に限定されず、メッシュ状であってもよいし、板状であってもよい。
【0028】
弾性体126は、陰極130に給電するとともに、複数の電解セル100が配列されたときに陰極130を隔膜に押し付けて隣接する電解セル100の陽極114との距離を近づける役割を果たす。陽極114と陰極との距離が小さくなることにより、複数の電解セル100を配列したときに全体にかかる電圧を小さくし、消費電力を低下させることができる。弾性体126として、金属の細線からなる織布や不織布、網などの非剛性部材、平板バネ状体、渦巻きバネ状体、コイル状クッションなどを用いることができる。弾性体126は、ニッケル、ニッケル合金、銀などの固有抵抗が小さく、アルカリに対して耐食性に優れる金属材料などで作製される。
【0029】
本実施形態における陰極130は、導電性基板132と逆電流吸収体134とで構成される。導電性基板132の端部は陰極室120内部側に屈曲されている。
【0030】
導電性基板132の表面には触媒層が形成されている。触媒層は白金、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、パラジウム、銀等の貴金属及びこれらの酸化物を含む。触媒層は、上記貴金属元素の他、ニッケル、セリウム、ランタン、プラセオジム、ロジウム、パラジウム等の元素を含む合金または酸化物であってもよい。具体的に、触媒層はRu−La−Pt系、Ru−Ce系、Pt−Ni系、Ru−Pr系、Pt−Ru−Pr系、Pt−Pd−Pr系、Pt−Rh−Pd−Pr系、Pt−Ce系などである。導電性基板132の基材はニッケルあるいはニッケル合金製であり、エキスパンドメッシュ、パンチングメタル、金網など、複数の貫通孔を有する部材である。
【0031】
逆電流吸収体134は、導電性基板132に直接接触するように結合される。1つの導電性基板132に対し複数個の逆電流吸収体134が設置されていてもよい。電解槽の要求仕様に応じて逆電流吸収体134の設置数が決められる。
【0032】
逆電流吸収体134が配置される位置は限定されない。
図2の例では、逆電流吸収体134は導電性基板132の端部に配置されている。
図2の例では、導電性基板132の端部領域が屈曲され、ガスケット106に面する屈曲部分に逆電流吸収体134が設置される。
図3は本実施形態の別例の電解セル140を示しており、導電性基板132の中央部など、端部以外の領域に逆電流吸収体134が配置されている。この場合、逆電流吸収体134は陰極130と弾性体126との間で挟持されていてもよい。逆電流吸収体134の大きさや設置数にもよるが、導電性基板132の端部、すなわち、導電性基板132の縁に近い領域に逆電流吸収体134が配置されていた方が、電解液の流通を阻害し電解状況に影響を与える可能性が低くなるので好ましい。
【0033】
逆電流吸収体134は導電性基板132に結合され、一体化される。本実施形態において、逆電流吸収体134は導電性基板132から取外し可能に結合されている。逆電流吸収体134は、導電性基板132と電気的にも接続する。
逆電流吸収体134は、溶接により導電性基板132に接合されていてもよい。この場合、スポット溶接などにより、部分的に接合されていることが好ましい。金属製ワイヤなどの線材により導電性基板132に固定されていてもよい。逆電流吸収体134を導電性基板132と弾性体126との間に挟持することにより、逆電流吸収体134を導電性基板132に結合してもよい。導電性基板132の縁部を湾曲させて、湾曲部分に逆電流吸収体134を巻き込むことにより、逆電流吸収体134を導電性基板132に結合させても良い。
あるいは、逆電流吸収体134が平織メッシュなどの金網で被覆されたものを、上記の方法により導電性基板132に結合してもよい。この場合、導電性基板132と逆電流吸収体134との間で十分な電気的接続が保たれる。
【0034】
逆電流吸収体134は、陰極の触媒層よりも卑な金属であるニッケルを含む焼結体からなる。すなわち、本実施形態の逆電流吸収体134は焼結体のみで構成されており、特許文献1及び特許文献2のように逆電流吸収性能を有する層を支持するための基材は必要としない。
【0035】
逆電流は、電解停止時において電解時の電流とは逆向きに流れる電流である。逆電流が流れると、陰極では、酸化還元電位が卑である順に種々の酸化反応が進行しながら電位が上昇する。陰極触媒材料の酸化反応の平衡電位は、ニッケルの酸化反応の平衡電位よりも貴である。例えば、ルテニウムが触媒材料に用いられる場合、逆電流発生により以下の順で酸化反応が進行する。
H
ad(電極表面に吸着した原子状水素)+OH
−→H
2O+e
− …(1)
Ni+2OH
−→Ni(OH)
2+2e
− …(2)
Ru+4OH
−→RuO
2+2H
2O+4e
− …(3)
RuO
2+4OH
−→RuO
42−+2H
2O+2e
− …(4)
1つの酸化反応が進行する間は、電位は一定に維持される。従い、電解により発生した吸着水素の酸化反応(1)、逆電流吸収体中のニッケルの酸化反応(2)が終了した後、ルテニウムの酸化反応(3)を経て触媒(ルテニウム)溶出反応(4)が起こる。本明細書では、反応(1),(2)が終了するまでの間の電気容量を放電容量と定義する。
【0036】
上記から明らかなように、電極表面に吸着した原子状水素及びニッケル量が多いほど、多くの逆電流が反応(1),(2)で消費される。この状態を「逆電流が吸収される」と言う。
逆電流吸収体134はバルク状(塊状)である。支持体上に薄膜状の逆電流吸収層を形成した特許文献1及び特許文献2の逆電流吸収体と比較して、逆電流吸収体134は、同じ大きさとした場合に逆電流吸収に寄与する成分(主としてNi)の含有量が極めて大きい。従って、本実施形態の逆電流吸収体134は高い逆電流吸収性能を有する。特に、ルテニウムは安価である一方で、アルカリ中で陽分極されると非常に溶けやすい性質を持つ。このため、逆電流に弱い材料と言える。本実施形態の逆電流吸収体134は、ルテニウムを触媒に用いる場合でも陰極劣化を十分に抑制することができると言える。
【0037】
逆電流吸収体134の形状は特に限定されない。逆電流吸収体134は、角柱状、平板状、ロッド状等であってもよく、導電性基板132と合体させるためや製造上の仕様のために溝等が形成されていてもよい。但し、逆電流吸収体134を薄い平板形状とした場合には、設置面積が増大する。このため、設置できる逆電流吸収体の数が限定され電解槽全体での逆電流吸収性能が低くなるし、逆電流吸収体により電解液の流通が阻害されるという問題が発生する。また、薄い平板状の逆電流吸収体では強度上の問題もある。同じ平面投影面積ならば、逆電流吸収体が厚くなるほどニッケル含有量が増大するので放電容量が大きくなる。しかしながら逆電流吸収体が厚い場合には、内部まで電解液が浸透することができず、内部のNiは逆電流吸収性能に寄与しない。また、逆電流吸収体が厚い場合には、陰極室内での設置スペースが大きくなってしまう。このように、逆電流吸収体134の厚さには上限が存在する。逆電流吸収体134の厚さの最適値は、電解槽の大きさ、逆電流吸収体の大きさ及び形状等により異なる。上記事情を考慮して、逆電流吸収体134の厚さが決定される。
【0038】
逆電流吸収体134(ニッケルを含む焼結体)の原料粉末は、金属ニッケル粒子、ラネー型ニッケル合金粒子、及び、これらの混合物である。ここでの「ラネー型ニッケル合金」とは、アルカリに可溶な金属元素(Al、Si、Sn、Zn)とニッケルとを含む。本実施形態で用いられるラネー型ニッケル合金には、Ni−Al、Ni−Siなどの二元系合金の他、Ru、Co、Ti、Mn、Cu、Fe、Moなどの、ニッケル及びアルカリ可溶金属元素以外の金属元素を1つ以上添加した多元系合金も用いることができる。
上記原料粉末に対し、添加物としてトリステアリン酸アルミニウムなどのステアリン酸アルミニウムを添加してもよい。
【0039】
金属ニッケル粒子の大きさは、逆電流吸収体134の性能(放電容量)に影響を与える因子の1つである。金属ニッケル粒子の大きさは、FSSS(Fisher sub−sieve sizer フィッシャー空気透過装置)による平均粒径0.13μm以上50μm以下が好ましく、次に0.2μm以上10μm以下であることがより好ましく、さらには2μm以上5μm以下であることが最も好ましい。金属ニッケル粒子が小さい場合、焼結体の比表面積が増える、放電容量が増大するので有利である。しかし、粒子が小さすぎると焼結体が過剰に緻密となり、電解液が内部まで浸透しにくくなる。このため、放電反応に寄与する部分が減り、放電容量が小さくなる。一方、金属ニッケル粒子が上記粒径範囲より大きくなっても、比表面積が減少するため、放電容量が減少する。
【0040】
また、逆電流吸収体134中のニッケルの含有量は、45〜90質量%であることが好ましい。この範囲であれば、浸漬工程後でも逆電流吸収体134は形状を保つことができるうえ、1.5mF/g(10F/m
2)を超える高い放電容量を得ることができる。このニッケル含有量は、耐久性の観点から53〜90質量%がさらに好ましい。さらに逆電流吸収性能を考慮すると53〜87.5質量%が好ましく、53〜77.5質量%が最も好ましい。
【0041】
また、逆電流吸収体134の密度は、2.00〜6.51g/cm
3であることが好ましい。この範囲であれば、浸漬工程後でも逆電流吸収体134は形状を保つことができるうえ、1.5mF/g(10F/m
2)を超える高い放電容量を得ることができる。この密度は、耐久性の観点から2.30〜6.51g/cm
3がさらに好ましい。さらに逆電流吸収性能を考慮すると、2.30〜5.95g/cm
3が好ましく、2.30〜5.10g/cm
3が最も好ましい。
【0042】
本実施形態において、ラネー型ニッケル合金粒子及び金属ニッケル粒子の形状は特に限定されず、球形、回転楕円体形、多角面体、不規則形状など種々の形状の粒子を使用できる。
【0043】
逆電流吸収体134は、以下の工程により形成される。
上記原料粉末を、仕様に応じて所定の形状の形状に成型する。成型圧力は焼結体の気孔率や焼結性に影響するパラメータであるため、成型圧力によっては焼結体の外観(クラック発生の有無)や放電容量等に影響を与える。特に、原料粉末が金属ニッケル粒子のみ、または、金属ニッケル粒子の割合が大きい混合物である場合は、成型圧力によっては焼結時にクラックが発生する。また、原料粉末がラネー型ニッケル合金粒子である場合も、成型圧力によっては焼結時にクラックが発生する。原料粉末を成型した後、成型体を焼結する(焼結体形成工程)。成形方法としては、プレス成型や冷間等方圧プレス法、金属粉末射出成型法、押出成型法などの公知の方法が採用できる。
【0044】
本実施形態では上記の形成工程に代えて、ホットプレス法、熱間等方圧プレス法、放電プラズマ焼結法などにより、焼結しながら成型体を形成する公知の方法も採用できる。
【0045】
焼結条件(焼結温度、焼結時間など)は焼結性、焼結体の外観等に応じて適宜設定される。
【0046】
得られた焼結体を、上記した手段により導電性基板132に結合させる(結合工程)。本実施形態では、焼結後にアルカリ溶液中に浸漬した焼結体を導電性基板132に結合してもよい(後述の製造工程A)し、焼結後の焼結体をそのまま導電性基板132に結合してもよい(後述の製造工程B)。
【0047】
(製造工程A)
製造工程Aでは、焼結後の焼結体を、アルカリ金属水酸化物(NaOH、KOHなど)を含む水溶液中に浸漬させる(結合前浸漬工程)。この結合前浸漬工程により、焼結体表面近傍のアルカリ可溶成分(アルカリに可溶な金属元素)を溶出させる。逆電流吸収体の大きさ、アルカリ可溶成分の溶出速度、所要時間等に応じて、浸漬条件が適宜設定される。例えば、浸漬条件は、浸漬温度:25(室温)〜100℃、アルカリ(NaOH)濃度:1〜40wt%、浸漬時間:1〜24時間である。
【0048】
結合前浸漬工程を行った焼結体を、逆電流吸収体134として陰極130の導電性基板132に結合する。結合する方法は先述の通りである。
【0049】
この陰極130が陰極集電体128及び弾性体126と組み合わされ、陰極構造体122が形成される。この陰極構造体122が電解セル100に組み込まれ、電解セル100が電解槽に収容される。
【0050】
本実施形態の逆電流吸収体はバルク(塊)状であるので、溶出工程を経た後でも逆電流吸収体内部にアルカリ可溶成分が残留する。この逆電流吸収体を電解セルに組み込み電解を行った場合、長時間の運転中にアルカリ可溶成分が電解液中に溶出する。製造工程Aでは予め逆電流吸収体表面のアルカリ可溶成分を除去してから電解槽に組み込んでいるため、製品に混入する不純物量を低減させることができる。本製造工程は、高品質の製品(水酸化ナトリウム)が要求される場合や、原料粉末中のラネー型ニッケル合金粒子量が多い場合に有効である。
【0051】
(製造工程B)
製造工程Bでは、製造工程Aで説明した結合前浸漬工程を行わずに、焼結体を導電性基板132に結合する。結合方法は先述の通りである。焼結体を取り付けた導電性基板132が陰極集電体128及び弾性体126と組み合わされ、陰極構造体122が形成される。この陰極構造体122が電解セル100に組み込まれ、電解槽内に収容される。
【0052】
隣接する2つの電解セルのうち一方の電解セルの陽極室110と他方の電解セルの陰極室120とが対向配置される。隣接する2つの電解セルの間に、隔膜(例えば陽イオン交換膜)が配置される。すなわち、隣接する2つの電解セルの陽極室110及び陰極室120は、隔膜により隔離される。
【0053】
食塩電解装置の場合、陰極室120内に電解液として水酸化ナトリウム水溶液が供給され、陽極室110内に塩化ナトリウムを含む電解液が供給される。陰極130及び陽極114がそれぞれ電解液に浸漬された後、電解が開始される。
【0054】
電解槽内で焼結体(逆電流吸収体134)はアルカリ金属水酸化物を含む電解液に浸漬される(結合後浸漬工程)。焼結体(逆電流吸収体134)中のアルカリ可溶成分(すなわち、ラネー型ニッケル合金中のアルカリ可溶金属)は、電解液である水酸化ナトリウム水溶液(アルカリ金属水酸化物を含む電解液)に溶出する。この溶出反応により水素が発生する。溶出部分は空隙となる。電解が継続されている間も、アルカリ可溶金属が焼結体から電解液に溶出する。
【0055】
アルカリ可溶成分の溶出反応で水素が発生する。この水素が焼結体表面に吸着し、反応式(1)に示される反応が起こることによって、焼結直後の焼結体自体も逆電流吸収性能を有することになる。更に、アルカリ性の電解液への浸漬で空隙が生成することによって逆電流吸収体134の内部にも電解液が浸透することができ、逆電流吸収性能(放電容量)が増大する。
焼結体からのアルカリ可溶成分の溶出量は浸漬直後が最も多く、時間経過とともに漸減する。食塩電解では陰極室で生成する水酸化ナトリウムは製品として回収されるため、溶出したアルカリ可溶成分は製品中の不純物となる。製造工程Bは、逆電流吸収体134が金属ニッケル粒子のみから作製される場合や、純度が低い製品でも許容される場合に適用可能である。
【0056】
上記実施形態は複極式の食塩電解装置を用いて説明を行ったが、単極式の食塩電解装置でも同様の効果を得ることができる。また、本実施形態の構成は、硫酸アルカリ電解装置にも適用可能である。
【0057】
[第2実施形態]
本発明の第2実施形態をアルカリ水電解装置を用いて説明する。
図4は、アルカリ水電解装置に適用される電解セルであって、
図1のA−A’断面図(水平断面図)である。
第1実施形態と同様に、枠体により電解セル200の内部に陽極室210及び陰極室220が画定される。
図4の電解セル200は、枠体である枠状のフレーム202及び隔壁204により内部が陽極室210及び陰極室220に区画される。フレーム202とガスケット206とが締結手段(不図示)により結合される。
【0058】
第2実施形態は、陽極側と陰極側の電極構造が略同一である。すなわち、陰極室220内に、陰極230と、陰極集電体228と、陰極側の弾性体226とを備える陰極構造体222が設置される。陽極室210内に、陽極214と、陽極集電体218と、陽極側の弾性体216とを備える陽極構造体212が設置される。陽極側及び陰極側ともに、隔壁204に複数の支持部材(リブ)208が取り付けられ、陽極構造体212及び陰極構造体222が支持部材208により支持される。これにより、陰極230が陰極集電体228及び弾性体226を介して支持部材208により支持されることになる。また、陽極214が陽極集電体218及び弾性体216を介して支持部材208により支持されることになる。隔壁が無い構造の電解槽の場合は、枠体(フレーム)等に支持部材が取り付けられていても良い。
図4では陰極構造体及び陽極構造体を備える構造が示されているが、陰極集電体、陽極集電体、及び弾性体が無い場合には、陰極及び陽極が支持部材によって直接支持されていても良い。なお、支持部材は、陰極集電体、陽極集電体、弾性体と一体化されていてもよいし、陰極及び陽極のそれぞれと一体化されていても良い。陽極214及び陰極230はそれぞれ、フレーム202の開口部分に配置される。
【0059】
陽極214は、導電性基板の表面に触媒層が形成された金属電極である。陽極214の導電性基板はニッケル製またはニッケル合金製であり、エキスパンドメッシュ、パンチングメタル、金網など、複数の貫通孔を有する部材である。陽極214の触媒には、白金、イリジウムなどの貴金属及びこれらの酸化物、ラネー型ニッケル合金、多孔質ニッケル、ニッケル−コバルト系酸化物(ニッケル及びコバルトの複合酸化物、及び、これにマンガンや希土類元素がドープされた複合酸化物)など公知の触媒が使用できる。
陽極集電体218及び陽極側の弾性体216には、第1実施形態で説明した陰極集電体及び弾性体と同じ材料を適用することができる。支持部材208は陽極集電体218や弾性体216と一体化されていてもよい。
【0060】
陰極構造体222(陰極230、陰極集電体228、弾性体226)は第1実施形態と同じである。第2実施形態においても、支持部材208は陰極集電体228や弾性体226と一体化されていてもよい。
【0061】
第2実施形態では、陽極側及び陰極側の少なくとも一方に、第1実施形態で説明した逆電流吸収体234が設置される。逆電流吸収体234は、陽極214及び陰極230の導電性基板232に結合される。逆電流吸収体234は導電性基板から取外し可能なように結合されている。結合により、逆電流吸収体234と各電極(陽極214及び陰極230)とは電気的に接続する。逆電流吸収体234は、第1実施形態と同様に、導電性基板の端部に結合されていてもよいし、基板中央部など端部以外の領域に結合されていてもよい。結合は、ワイヤによる固定、溶接、導電性基板と弾性体216,226とによる挟持など、第1実施形態と同じ手段により行われる。また、逆電流吸収体234は平織メッシュ等の金網で被覆されてから導電性基板に結合されてもよい。
【0062】
逆電流吸収体234の製造方法は、第1実施形態と同じである。アルカリ水電解装置では、陽極室210及び陰極室220の両方に、アルカリ性の電解液(アルカリ金属水酸化物を含む電解水)が供給されて電解が行われる。従って、製造工程Bの場合、逆電流吸収体234は、陽極室210内及び陰極室220内いずれにおいても、電解液に浸漬されてアルカリ可溶成分の溶出が起こる。
また、陽極室210内及び陰極室220内いずれにおいても、電解中に逆電流吸収体234からのアルカリ可溶成分の溶出が発生する。
【0063】
逆電流発生時には、陰極側では反応(1),(2)のとおり逆電流吸収体234に逆電流が吸収され、陰極触媒の溶出が抑制される。
【0064】
一方、陽極側では、以下の順で電解により発生した酸素の還元反応(5)、及び、電解により逆電流吸収体中に生成した過酸化ニッケル、オキシ水酸化ニッケルの還元反応(6)、(7)により逆電流が吸収される。
O
2+2H
2O+4e
−→4OH
− …(5)
NiO
2+H
2O+e
−→NiOOH+OH
− ・・・ (6)
NiOOH+H
2O+e
−→Ni(OH)
2+OH
− …(7)
本実施形態の逆電流吸収体234であれば、反応(6),(7)により多くの逆電流を消費することができる。反応(5),(6),(7)が起こっている間は、逆電流吸収体234と同電位にある陽極214は陰分極されない。通常の電解で安定な触媒材料であっても、一度大きく陰分極されることにより、再度電解を行った時に陽分極により触媒が溶出したり、導電性を失ったりする。従い、アルカリ水電解装置の陽極室210内に本実施形態の逆電流吸収体234を収容することにより、逆電流による陽極劣化を防止することが可能である。
本明細書では、反応(5),(6),(7)が終了するまでの間の電気容量を、陽極側での放電容量とする。
【0065】
なお、複極式のアルカリ水電解装置を用いて本発明の第2実施形態を説明したが、単極式のアルカリ水電解装置においても同様の作用効果を得ることができる。
【0066】
[第1参考実施形態]
本発明の第1参考実施形態を、複極式の食塩電解装置を用いて説明する。なお、本参考実施形態の効果は、単極式食塩電解装置や硫酸アルカリ電解装置においても得ることができる。
図5は、第1参考実施形態の食塩電解装置に適用される電解セルであって、
図1におけるA−A’断面図(水平断面図)である。
【0067】
第1参考実施形態は、逆電流吸収体の設置位置以外は第1実施形態と同じ構成である。従い、陽極室310に配置される陽極314及びバッファ板316は第1実施形態と同じである。
第1参考実施形態における電解セル300は、陰極室320内において、陰極集電体328に第1実施形態で説明した逆電流吸収体334が結合される。逆電流吸収体334は、焼結後にアルカリ金属水酸化物を含む溶液に浸漬されて、表面近傍のアルカリ可溶成分が除去された物であってもよい。あるいは、焼結後の焼結体そのままが逆電流吸収体334として陰極集電体328に結合されてもよい。
【0068】
逆電流吸収体334は、陰極集電体328の陰極330側の表面に設置されていてもよいし、隔壁304側の表面(陰極330と反対側の表面)に設置されていてもよい。逆電流吸収体334は陰極集電体328から取外し可能なように結合されている。陰極集電体328への逆電流吸収体334の結合方法は、第1実施形態と同様に、ワイヤによる固定や、溶接を採用することができる。陰極集電体328の陰極側表面に逆電流吸収体334が配置される場合は、逆電流吸収体334を陰極集電体328と弾性体326とで挟んで固定することもできる。なお、逆電流吸収体334は平織メッシュ等の金網で被覆されてから陰極集電体328に結合されてもよい。
【0069】
第1実施形態で説明したように、陰極330の導電性基板332、弾性体326、陰極集電体328、フレーム302、及び、支持体308は導電性を有する金属材料で作製される。このため、陰極330と逆電流吸収体334とは電気的に接続する。
【0070】
電解槽の運転が停止し逆電流が発生した場合、反応(1),(2)が進行する。陰極330は逆電流吸収体334と同電位に維持されるため、反応(1),(2)が起こっている間は陰極330での酸化反応(反応(3),(4))は進行せず、陰極触媒が保護される。
【0071】
[第2参考実施形態]
本発明の第2参考実施形態はアルカリ水電解装置である。
図6は、第2参考実施形態に適用される電解セルであって、
図1におけるA−A’断面図(水平断面図)を示している。
図6では、複極式のアルカリ水電解槽に適用される場合を例に挙げているが、本参考実施形態は単極式電解槽に適用される場合であってもよい。
【0072】
第2参考実施形態は、逆電流吸収体の設置位置以外は第2実施形態と同じ構成である。
第2参考実施形態における電解セル400では、陽極集電体418及び陰極集電体428の少なくとも一方に、第1実施形態で説明した逆電流吸収体434が結合される。逆電流吸収体434は予めアルカリ金属水酸化物を含む溶液に浸漬された物でもよいし(製造工程A)、焼結後に処理されていないものであってもよい(製造工程B)。
【0073】
図6に示されるように逆電流吸収体434は、電極(陽極414または陰極430)側の表面及び隔壁404側の表面のいずれに配置されてもよい。逆電流吸収体434は陽極集電体418及び陰極集電体428から取外し可能なように結合されている。陽極集電体418及び陰極集電体428への結合方法は、ワイヤによる固定や、溶接などを採用することができる。電極側の表面に逆電流吸収体434が配置される場合は、逆電流吸収体434は、陽極集電体418及び弾性体416、あるいは、陰極集電体428及び弾性体426で挟持されて固定されてもよい。なお、逆電流吸収体434は平織メッシュ等の金網で被覆されてから陽極集電体418及び陰極集電体428に結合されてもよい。
【0074】
陰極430の導電性基板432、弾性体426、陰極集電体428、フレーム402及び支持部材408は導電性を有する金属材料で作製される。このため、陰極室420内で陰極430と逆電流吸収体434とは電気的に接続する。
また、陽極414、弾性体416、及び、陽極集電体418は導電性を有する金属材料で作製される。このため、陽極室410内で陽極414と逆電流吸収体434とは電気的に接続する。
【0075】
上述のように、逆電流吸収体434は陽極414または陰極430と電気的に接続する。従って、電解槽の運転が停止し逆電流が発生した場合、陰極側では反応(1),(2)が進行する。陰極430は逆電流吸収体434と同電位に維持されるため、反応(1),(2)が進行している間は、陰極430での酸化反応は進行せず、触媒が保護される。また、陽極側では反応(5),(6),(7)が進行し、陽極414は逆電流吸収体434と同電位に維持されるため、この電位よりも陰分極されない。このため、再度電解を行った時に触媒の溶出や導電性低下による陽極劣化を防止することが可能である。
【0076】
[第3参考実施形態]
本発明の第3参考実施形態は食塩電解装置である。
図7は、第3参考実施形態に適用される電解セルであって、
図1におけるA−A’断面図(水平断面図)を示している。
図8は、第3参考実施形態に適用される電解セルであって、
図1におけるB−B’断面図(鉛直断面図)である。
図7及び
図8では、複極式食塩電解槽に適用される場合を例に挙げているが、本参考実施形態は単極式電解槽や硫酸アルカリ電解装置に適用される場合であってもよい。
【0077】
第3参考実施形態は、逆電流吸収体の設置位置以外は第1実施形態と同じ構成である。従って、陽極室510に配置される陽極514及びバッファ板516は第1実施形態と同じである。
第3参考実施形態における電解セル500では、陰極室520において、電解セル構造部材に第1実施形態で説明した逆電流吸収体534が結合されている。逆電流吸収体534は予めアルカリ金属水酸化物を含む溶液に浸漬されたものでもよいし(製造工程A)、焼結後に処理されていないものであってもよい(製造工程B)。
【0078】
第3参考実施形態において、電解セル構造部材とは、陰極構造体(陰極530、陰極集電体528、弾性体526)及び陽極514以外の電解セルを構成する部材を指し、具体的に、フレーム502、隔壁504、支持部材(リブ)508、ガスケット506、バッファ板516である。但し、支持部材508が陰極集電体528及び弾性体526と一体化されている場合は、このような一体構造も電解セル構造部材に含まれる。
従って、第3参考実施形態では、隔壁504の陰極室520側の表面、フレーム502の陰極室内の側壁502A、フレーム502の陰極室520の底面502B(
図8参照)、支持部材508に、逆電流吸収体534が取外し可能なように取り付けられる。陰極集電体及び弾性体と一体化されている支持部材508の場合、逆電流吸収体534を陰極530との接触面側で弾性体の機能を阻害しない位置に設置することもできる。例えば、支持部材508に陰極530と接触する弾性体としてバネ状構造やコイル状構造が形成され、弾性体が形成されていない場所に逆電流吸収体534を取り付けることもできる。
【0079】
逆電流吸収体534は溶接により上記電解セル構造部材に結合されることが好ましいが、固定することができればワイヤなどの金属製の固定手段により取り付けられてもよい。なお、逆電流吸収体534は平織メッシュ等の金網で被覆されてから電解セル構造部材に結合されてもよい。
【0080】
逆電流吸収体534と陰極530とは、隔壁504、フレーム502、支持部材508、陰極集電体528、及び弾性体526を介して電気的に接続する。
電解槽の運転が停止し逆電流が発生した場合、陰極530は逆電流吸収体534と同電位に維持される。このため、逆電流吸収体534において反応(1),(2)の酸化反応が進行している間は、陰極530での酸化反応は発生せず、触媒が保護される。
【0081】
[第4参考実施形態]
本発明の第4参考実施形態はアルカリ水電解装置である。
図9は、第4参考実施形態に適用される電解セルであって、
図1におけるA−A’断面図(水平断面図)を示している。
図9では、複極式のアルカリ水電解槽に適用される場合を例に挙げているが、本参考実施形態は単極式電解槽に適用される場合であってもよい。
【0082】
第4参考実施形態は、逆電流吸収体の設置位置以外は第2実施形態と同じ構成である。第4参考実施形態における電解セル600では、陽極室610内及び陰極室620内の電解セル構造部材に第1実施形態で説明した逆電流吸収体634が結合されている。第4参考実施形態において、電解セル構造部材とは、陰極構造体(陰極630、陰極集電体628、弾性体626)及び陽極構造体(陽極614、陽極集電体618、弾性体616)以外の電解セルを構成する部材を指し、具体的に、フレーム602、隔壁604、支持部材(リブ)608、ガスケット606である。従って、逆電流吸収体634は隔壁604、フレーム602の内壁面、フレーム602の底面(
図9では図示されず)、支持部材608に取り付けられる。逆電流吸収体634は陽極室610及び陰極室620の一方に設置されていてもよいし、両方に設置されていてもよい。
但し、本実施形態においても、支持部材608が陰極集電体及び弾性体と一体化されている構造や、支持部材608が陽極集電体及び弾性体と一体化されている構造、このような一体構造も電解セル構造部材に含まれる。このような一体構造の場合、第3参考実施形態のように陰極630または陽極614との接触面側に逆電流吸収体634を設置することができる。
【0083】
逆電流吸収体634は溶接により上記電解セル構造部材に結合されることが好ましいが、ワイヤなどの金属製の固定手段により取り付けられてもよい。なお、逆電流吸収体634は平織メッシュ等の金網で被覆されてから電解セル構造部材に結合されてもよい。
【0084】
逆電流吸収体634は、隔壁604、フレーム602、支持部材608、陰極集電体628、陽極集電体618、及び弾性体616,626を介して、それぞれ陰極630及び陽極614と電気的に接続する。
電解槽の運転が停止し逆電流が発生した場合、陰極側では反応(1),(2)が進行する。陰極630は逆電流吸収体634と同電位に維持されるため、酸化反応が進行している間は、陰極630での酸化反応は発生せず、陰極630に形成された触媒が保護される。また、陽極側では反応(5),(6),(7)が進行し、陽極614は逆電流吸収体634と同電位に維持されるため、この電位よりも陰分極されない。このため、再度電解を行った時に触媒の溶出や導電性低下による陽極劣化を防止することが可能である。
【実施例】
【0085】
(実施例1)
金属ニッケル粒子(平均粒径4.5μm)とラネーニッケル(Ni−Al)粒子(Ni:Al=50:50(質量比)、平均粒径45μm)とを50:50(質量比)の割合で混合した原料粉末0.5gを、以下の条件で成型した。
成型体の大きさ:直径10mm×厚み1.4mm
成型圧力:740MPa
成型体を700℃にて2時間焼結した。得られた焼結体を、90℃の30wt%NaOH水溶液中に2時間浸漬し、焼結体中のアルカリ可溶成分(Al)の溶出を行った。
【0086】
逆電流吸収体として上記焼結体を面積4cm
2の活性陰極にNi線で固定した。活性陰極としては、表面にRuを含む触媒層を形成したニッケル製平織メッシュを用いた。焼結体は、陰極の略中央部分において弾性体側の表面に取り付けた。
陰極集電体(無垢のニッケル製エキスパンドメタル)上に弾性体(ニッケル製コイルクッション)及び上記陰極を配置して、陰極構造体を作製した。この陰極構造体を用い、以下の条件で電解を行った。
対極:Ni製エキスパンドメッシュ
電解液:30wt%−NaOH水溶液、温度90℃
電解時の電流密度:10kA/m
2
電解時間:1時間
電解終了後、400A/m
2の逆電流を印加した。陰極の電位が0V(vs.Hg/HgO)に到達するまでに要した電気量から実施例1の放電容量を算出した。放電容量は実験条件に左右されるが、ここでは上記電解液条件で1時間10kA/m
2で電解後、400A/m
2の逆電流を印加したときの値となる。
【0087】
(参考例1)
陰極集電体(無垢のニッケル製エキスパンドメタル)上に逆電流吸収体として実施例1と同様の方法で作製した焼結体を配置した。焼結体上に平織メッシュ(ニッケル製)を載置し、更に弾性体(ニッケル製コイルクッション)及び面積4cm
2の活性陰極(ニッケル製平織メッシュの表面に、Ruを含む触媒層を形成)を配置して、陰極構造体を作製した。この陰極構造体を用い、実施例1と同じ条件で電解を行った。
電解終了後、400A/m
2の逆電流を印加した。陰極の電位が0V(vs.Hg/HgO)に到達するまでに要した電気量から参考例1の放電容量を算出した。
【0088】
(比較例1)
基材(ニッケル製エキスパンドメタル)上にラネーニッケル分散めっきを施し、約300μmの薄膜状の逆電流吸収層を設けた逆電流吸収体を作製した。
比較例1の逆電流吸収体を陰極集電体とし、参考例1と同じ弾性体及び陰極と組み合わせて陰極構造体を作製した。この陰極構造体に対して実施例1と同じ条件で電解及び逆電流の印加を行い、比較例1の放電容量を算出した。
【0089】
(比較例2)
参考例1に記載した陰極、弾性体、集電体を組み合わせ、陰極構造体を作製した。比較例2の陰極構造体を用いて、参考例1と同じ条件で電解及び逆電流の印加を行い、比較例2の放電容量を算出した。
【0090】
実施例1の放電容量は13.99mF/g(95.53F/m
2)であった。参考例1の放電容量は14.18mF/g(96.88F/m
2)であった。これに対し、比較例1の放電容量は3.31F/m
2、比較例2の放電容量は0.07F/m
2であった。このように、焼結体からなる逆電流吸収体を設置した場合(実施例1、参考例1)は、放電容量が格段に向上することが明らかである。
【0091】
(実施例2)
実施例1と同じ陰極構造体を用い、電流密度10kA/m
2で12時間の電解を行った。その後、5時間逆電流を流すサイクルを100回繰り返した。逆電流は、1回あたり積算電気量が逆電流吸収体に対して3.66mF/g(25F/m
2)となるように印加した。
【0092】
(比較例3)
比較例2と同じ陰極構造体を用い、実施例2と同じ条件で電解及び逆電流印加を行った。
【0093】
図10は、逆電流印加サイクル中の活性陰極の水素過電圧の変化を表すグラフである。同図において、横軸はサイクル数、縦軸は電流密度が6kA/m
2である時の水素過電圧である。
実施例2では、100回のサイクル中でルテニウムの溶出は確認されなかった。100サイクル終了後も水素過電圧の上昇は10〜20mV程度であり、ほとんど劣化がなかったと言える範囲であった。
これに対し比較例3は、毎サイクルでルテニウムの溶出が確認された。15サイクル終了後に活性陰極の水素過電圧は初期値と比べて約150mV上昇した。比較例3は15サイクルで実験を終了した。
以上のように、本発明の逆電流吸収体を設置することにより、長期間逆電流に曝された後でも陰極性能が維持されることが分かった。
【0094】
(実施例3)
粒径の異なる金属ニッケル粒子とラネーニッケル粒子(実施例1と同じ)とを、50:50(質量比)の割合で混合した原料粉末0.5gを用いて、以下の条件で焼結体を作製し、アルカリ可溶成分の溶出を行った。
成型体の大きさ:直径10mm×厚み1.4〜1.5mm
成型圧力:740MPa
焼結温度:700℃
焼結時間:2時間
浸漬液:30wt%NaOH水溶液、90℃
浸漬時間:7時間
実施例1と同様に、得られた焼結体を逆電流吸収体として活性陰極(実施例1と同じ)に結合し、陰極構造体を作製した。実施例1と同じ条件で電解及び逆電流の印加を行い、各実施例の放電容量を算出した。結果を表1に示す。
【0095】
【表1】
【0096】
結果として、平均粒径0.13〜50μm(試料1〜7)の全範囲で1.5mF/g以上(10F/m
2以上)の高い放電容量が得られた。金属ニッケル粒子の平均粒径0.2〜10μm(試料2〜6)で2.96mF/g((20F/m
2)を超える高い放電容量が得られた。また、金属ニッケル粒子の平均粒径0.4〜4μm、特には平均粒径2.5〜4μmの範囲で、更に高い放電容量が得られた。
【0097】
(実施例4)
ラネー型ニッケル合金粒子として、Ni−Al−Ru−Snラネー合金粒子(平均粒径45μm)を準備した。合金粒子の組成は、Ni:Al:Ru:Sn=35.6:49.4:1:14(質量比)であった。このラネー型ニッケル合金と実施例1の金属ニッケル粒子とを50:50(質量比)の割合で混合して原料粉末を得た。
【0098】
(実施例5)
ラネー型ニッケル合金粒子として、Ni−Al−Ti−Ru−Coラネー合金粒子(平均粒径45μm)を準備した。合金粒子の組成は、Ni:Al:Ti:Ru:Co=50.2:45.8:2:1:1(質量比)であった。このラネー型ニッケル合金と実施例1の金属ニッケル粒子とを50:50(質量比)の割合で混合して原料粉末を得た。
【0099】
実施例4及び実施例5の原料粉末0.5gを、それぞれ以下の条件で成型した。
成型体の大きさ;直径10mm×厚み1.4mm
成型圧力:740MPa
成型体を700℃にて2時間焼結した。得られた焼結体を、90℃の30wt%NaOH水溶液中に7時間浸漬し、焼結体中のアルカリ可溶成分(Al)の溶出を行った。
【0100】
実施例1と同様に、上記焼結体を逆電流吸収体として活性陰極(実施例1と同じ)に結合し、陰極構造体を作製した。実施例1と同じ条件で電解及び逆電流の印加を行い、放電容量を算出した。
【0101】
実施例4の放電容量は10.84mF/g(73.66F/m
2)であった。実施例5の放電容量は3.60mF/g(24.44F/m
2)であった。本実験により、多元系のラネー型ニッケル合金を用いた場合でも、高い放電容量が得られることが示された。
【0102】
(実施例6)
金属ニッケル粒子(平均粒径4μm)とラネーニッケル(Ni−Al)粒子(Ni:Al=50:50または40:60(質量比)、平均粒径45μm)とを混合するにあたり、その混合比率を変化させた原料粉末0.5gを用いることで、ニッケル含有比率や密度を変化させた焼結体試料9〜22を作製した。成型及び、アルカリ可溶成分の溶出は、以下の条件で行った。
成型体の大きさ:直径10mm×厚み0.9〜2.1mm
成型圧力:740MPa
焼結温度:700℃
焼結時間:2時間
浸漬液:30wt%NaOH水溶液、90℃
浸漬時間:24時間
実施例1と同様に、得られた焼結体を逆電流吸収体として活性陰極(実施例1と同じ)に結合し、陰極構造体を作製した。実施例1と同じ条件で電解及び逆電流の印加を行い、各実施例の放電容量を算出した。結果を表2に示す。なお、表2中の「ニッケル含有率」は、浸漬工程前の金属ニッケル粒子とニッケルアルミニウム合金中のニッケルの合計から求めた値である。
【0103】
【表2】
【0104】
金属ニッケル粒子が入っていない、あるいは入っているもののニッケル含有量の低い試料9および10では、浸漬工程中に試料から発生する水素ガスにより試料自体が形体を保てず崩壊した。次いでニッケル含有量の低い試料11および12では、浸漬工程中に、溶液中に脱落する表層粒子がみられるものの、試料の形状は保たれる。
【0105】
表2の放電容量−焼結体密度の関係を
図11に示す。浸漬工程前の場合、ニッケル含有率100%の時の、(7.58g/cm
3,0.06mF/g)から右下がりのなだらかな曲線関係(図中の実線)を有する。また、浸漬工程後の場合も、ニッケル含有率100%の時の、(7.58g/cm
3,0.06mF/g)から右下がり、かつ、浸漬工程前の曲線よりも下に位置するなだらかな曲線関係(図中の破線)を有する。
【0106】
(実施例7)
金属ニッケル粒子(平均粒径50μm)とラネーニッケル(Ni−Al)粒子(Ni:Al=40:60(質量比)、平均粒径45μm)とを混合し、実施例3中の試料7から、その混合比率を変化させた原料粉末0.5gを用いることで、ニッケル含有比率や密度の異なる焼結体試料23を作製した。成型及び、アルカリ可溶成分の溶出は、以下の条件で行った。
成型体の大きさ:直径10mm×厚み1.9mm
成型圧力:740MPa
焼結温度:700℃
焼結時間:2時間
浸漬液:30wt%NaOH水溶液、90℃
浸漬時間:24時間
実施例1と同様に、得られた焼結体を逆電流吸収体として活性陰極(実施例1と同じ)に結合し、陰極構造体を作製した。実施例1と同じ条件で電解及び逆電流の印加を行い、各実施例の放電容量を算出した。結果を表3に示す。
【0107】
【表3】
【0108】
表3の放電容量‐焼結体密度の関係を
図11に加えたものを
図12として示す。金属ニッケル粒子の平均粒径が50μmのときも、平均粒径が4μmのときと同様の放電容量−焼結体密度の関係を有する。すなわち、浸漬工程前の場合、ニッケル含有率100%の時の、(7.58g/cm
3,0.06mF/g)から右下がりのなだらかな曲線関係(図中の実線)を有し、また、浸漬工程後の場合も、ニッケル含有率100%の時の、(7.58g/cm
3,0.06mF/g)から右下がり、かつ、浸漬工程前の曲線よりも下に位置するなだらかな曲線関係(図中の破線)を有する。実施例6および7の結果より、この放電容量−焼結体密度の関係は、金属ニッケル粒子の粒径を変えた場合でも当てはまることが分かる。
【0109】
さらに、実施例3中の試料1〜7について、浸漬工程前後の焼結体密度の測定結果を加えたものを表4に示す。また、表4の放電容量−焼結体密度の関係を
図12に加えたものを
図13として示す。
【0110】
【表4】
【0111】
ニッケルの平均粒径を変化させることで、放電容量−焼結体密度の相関関係は
図13中に色付けした範囲内に示すように変化し、それぞれの粒径で、
図11および12に示す相関関係を満足する。ここで、
図13より、放電容量−焼結体密度の相関関係が最も右になるのは、ニッケルの平均粒径が4μmのときであることが分かる。さらに、これと、前記、放電容量−焼結体密度の相関が右下がりのなだらかな曲線関係にあることとを合わせて考えると、同一の逆電気吸収量を示す焼結体密度は、ニッケルの平均粒子径が4μmのときに最大であることが分かる。
【0112】
本発明の効果を得るためには、焼結体が、1.5mF/g(10F/m
2)以上の放電容量を有することが必要である。この条件を満足し得る、ニッケルの平均粒子径が4μmの焼結体の密度の上限値は6.51g/cm
3である。
【0113】
以上、実施例6および7より以下のことが分かる。逆電流吸収体中のニッケルの含有量は、45〜90質量%であることが好ましい。この範囲であれば、浸漬工程後でも逆電流吸収体は形状を保つことができるうえ、1.5mF/g(10F/m
2)を超える高い放電容量を得ることができる。このニッケル含有量は、耐久性の観点から53〜90質量%がさらに好ましい。更に、逆電流吸収性能を考慮するとニッケル含有量は53〜87.5質量%が好ましく、53〜77.5質量%が最も好ましい。
【0114】
また、逆電流吸収体の密度は、2.00〜6.51g/cm
3であることが好ましい。この範囲であれば、浸漬工程後でも逆電流吸収体は形状を保つことができるうえ、1.5mF/g(10F/m
2)を超える高い放電容量を得ることができる。この密度は、耐久性の観点から2.30〜6.51g/cm
3がさらに好ましい。更に逆電流吸収性能を考慮すると、密度は2.30〜5.95g/cm
3が好ましく、2.30〜5.10g/cm
3が最も好ましい。