特許第6383910号(P6383910)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6383910
(24)【登録日】2018年8月17日
(45)【発行日】2018年9月5日
(54)【発明の名称】プラズマCVD装置及び膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 16/517 20060101AFI20180827BHJP
   C23C 16/27 20060101ALI20180827BHJP
【FI】
   C23C16/517
   C23C16/27
【請求項の数】12
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-258206(P2012-258206)
(22)【出願日】2012年11月27日
(65)【公開番号】特開2014-105350(P2014-105350A)
(43)【公開日】2014年6月9日
【審査請求日】2015年11月2日
【審判番号】不服2017-8771(P2017-8771/J1)
【審判請求日】2017年6月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】509164164
【氏名又は名称】地方独立行政法人山口県産業技術センター
(73)【特許権者】
【識別番号】595152438
【氏名又は名称】アドバンストマテリアルテクノロジーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110858
【弁理士】
【氏名又は名称】柳瀬 睦肇
(72)【発明者】
【氏名】井手 幸夫
(72)【発明者】
【氏名】福田 匠
(72)【発明者】
【氏名】本多 祐二
【合議体】
【審判長】 豊永 茂弘
【審判官】 宮澤 尚之
【審判官】 山崎 直也
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−069622(JP,A)
【文献】 特開2010−024476(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C16/00-16/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
5kHz以上500kHz以下の高周波出力のみを、0.02ms以上20ms以下の周期で10%以上90%以下のDUTY比のパルス状に基材に供給することによって原料ガスのプラズマを発生させることにより、前記基材に膜を成膜するものであり、
前記原料ガスは環式炭化水素を有し、
前記膜は導電性を有するDLC膜であり、
前記基材に前記DLC膜を成膜する際の温度が100℃以上450℃以下であり、
前記DUTY比は、1周期の間で前記基材に高周波出力が印加される期間の比率であることを特徴とする膜の製造方法。
【請求項2】
5kHz以上500kHz以下の高周波出力のみを、0.02ms以上20ms以下の周期で10%以上90%以下のDUTY比のパルス状に基材に供給することによって原料ガスのプラズマを発生させることにより、前記基材に膜を成膜するものであり、
前記原料ガスは鎖式炭化水素及び環式炭化水素の少なくとも一方を有し、
前記膜は導電性を有するDLC膜であり、
前記基材に前記DLC膜を成膜する際の温度が100℃以上300℃以下であり、
前記DUTY比は、1周期の間で前記基材に高周波出力が印加される期間の比率であることを特徴とする膜の製造方法。
【請求項3】
請求項において、
前記鎖式炭化水素がメタン、エタン、アセチレン、プロパン及びブタンの群から選択された一つ又は複数の炭化水素であることを特徴とする膜の製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2において、
前記環式炭化水素がベンゼン及びトルエンの少なくとも一方の炭化水素であることを特徴とする膜の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項において、
前記高周波出力の周波数が50kHz以上300kHz以下であることを特徴とする膜の製造方法。
【請求項6】
250kHz以上500kHz以下の高周波出力のみによって原料ガスのプラズマを発生させることにより、基材に導電性を有するDLC膜を100℃以上300℃以下の温度で成膜するものであり、
前記原料ガスは鎖式炭化水素を有することを特徴とする膜の製造方法。
【請求項7】
請求項において、
前記鎖式炭化水素がメタン、エタン、アセチレン、プロパン及びブタンの群から選択された一つ又は複数の炭化水素であることを特徴とする膜の製造方法。
【請求項8】
250kHz以上500kHz以下の高周波出力のみによって原料ガスのプラズマを発生させることにより、基材に導電性を有するDLC膜を200℃以上450℃以下の温度で成膜するものであり、
前記原料ガスは環式炭化水素を有することを特徴とする膜の製造方法。
【請求項9】
請求項において、
前記環式炭化水素がベンゼン及びトルエンの少なくとも一方の炭化水素であることを特徴とする膜の製造方法。
【請求項10】
請求項乃至のいずれか一項において、
前記DLC膜の体積抵抗率が0.001Ω・cm以上50Ω・cm以下であることを特徴とする膜の製造方法。
【請求項11】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載された膜の製造方法を実施するためのプラズマCVD装置であって、
チャンバーと、
前記チャンバー内に配置され、前記基材を保持する基材ホルダーと、
前記チャンバーに繋げられ、前記チャンバー内に前記原料ガスを導入するガス導入経路と、
前記チャンバー内に前記高周波出力を、前記パルス状に供給する出力供給機構と、
前記基材ホルダーに保持された前記基材の温度を調整する温度調整機構と、
を具備することを特徴とするプラズマCVD装置。
【請求項12】
請求項6乃至9のいずれか一項に記載された膜の製造方法を実施するためのプラズマCVD装置であって、
チャンバーと、
前記チャンバー内に配置され、前記基材を保持する基材ホルダーと、
前記基材ホルダーに保持された前記基材の温度を調整する温度調整機構と、
前記チャンバーに繋げられ、前記チャンバー内に前記原料ガスを導入するガス導入経路と、
前記チャンバー内に前記高周波出力を供給する高周波電源と、
を具備することを特徴とするプラズマCVD装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマCVD装置及び膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜は高い硬度、耐摩耗性、低摩擦係数といった優れた特性を有しているため、多くの分野で使用されるようになった。
【0003】
しかしながら、DLC膜は、通常、導電性がない絶縁体であり、電気的には高絶縁性の皮膜であるため、絶縁膜としての利用に限られており、その応用分野は限られているのが現状である。DLC膜に機械的、化学的特性に加え導電性の機能を付加して電気伝導度を自由に設定することができれば、機械、電気分野での様々な応用分野は格段に拡がることが期待され、例えば電極に用いることも可能となる。特に、炭素を主な構成元素とするDLC膜は環境負荷の少ない材料なので金、銅などの導電性材料の代替となる可能性もある。
【0004】
通常、絶縁性のDLC膜に導電性を持たせるためには、窒素やホウ素、チタンといった第2元素を添加する方法、成膜後にアニール処理を行う方法等の対策がとられている(例えば特許文献1〜4参照)。
【0005】
しかしながら、上記の方法では、複数の原料が必要なことや後処理が必要になるため、高硬度、耐摩耗性、低摩擦係数等のDLC膜の本来の諸特性が変化してしまう、量産性に劣る等の多くの問題が生じる。
【0006】
一方、本発明者らは、これまでに高硬度のDLC膜を高速かつ低コストで製造できるプラズマCVD法を新たに開発し、大面積かつ立体複雑形状物へのDLC膜の成膜を安価なシステムやランニングコストで達成できることを特許文献5にて明らかにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−189997号公報
【特許文献2】特許4704453号公報
【特許文献3】特許4134315号公報
【特許文献4】特開2002−025346号公報
【特許文献5】特開2008−038217号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の一態様は、導電性を有するDLC膜の製造方法を提供することを課題の一つとする。
また、本発明の一態様は、高周波出力の周波数を低くしてもプラズマの保持を容易にすることを課題の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、絶縁体に近いDLC膜の利用範囲を拡大する目的で、高周波電源を用いたプラズマCVD法により導電性を有したDLC膜を製造する方法である。
【0010】
また、本発明の一態様では、従来、導電性のDLC膜を製造するためには複数の原料や後処理が必要であったのに対して、1回の処理で導電性DLC膜の成膜が可能になるとともに、その導電性の強弱の調整も可能である。
【0011】
また、本発明の一態様は、添加元素やアニール処理等の後処理によらない、低周波によるプラズマCVD法を用いて成膜された導電性DLC膜である。
【0012】
また、本発明の一態様は、周波数の低い高周波電源によって基板に低周波をパルス状に印加することにより、周波数が低くても容易にプラズマを保持できるプラズマCVD法である。このプラズマCVD法によって高い導電性を有するDLC膜を製造することが可能となる。別言すれば、基板に印加される電圧の周波数が低いほどDLC膜の導電性は高くなるが、周波数が低くなるとプラズマを保持することが困難となる。そこで、低周波電源によって基板に低周波をパルス状に印加することで、周波数が低くてもプラズマを連続的に保持することができる。
【0013】
さらに、本発明の種々の態様について以下に説明する。
[1]チャンバーと、
前記チャンバー内に配置され、基材を保持する基材ホルダーと、
前記チャンバーに繋げられ、前記チャンバー内に原料ガスを導入するガス導入経路と、
前記チャンバー内に5kHz以上500kHz以下の高周波出力を、0.02ms以上20ms以下の周期で10%以上90%以下のDUTY比のパルス状に供給する出力供給機構と、
を具備し、
前記DUTY比は、1周期の間で前記基材ホルダーに高周波出力が印加される期間の比率であり、
前記出力供給機構から供給された前記高周波出力により前記チャンバー内にプラズマを発生させて前記基材に膜を成膜することを特徴とするプラズマCVD装置。
【0014】
[2]上記[1]において、
前記高周波出力の周波数が50kHz以上300kHz以下であることを特徴とするプラズマCVD装置。
【0015】
[3]上記[1]または[2]において、
前記基材ホルダーに保持された前記基材の温度を調整する温度調整機構を有し、
前記原料ガスは鎖式炭化水素及び環式炭化水素の少なくとも一方を有し、
前記膜は導電性を有するDLC膜であり、
前記基材に前記DLC膜を成膜する際の温度が100℃以上であることを特徴とするプラズマCVD装置。
【0016】
[4]上記[3]において、
前記鎖式炭化水素がメタン、エタン、アセチレン、プロパン及びブタンの群から選択された一つ又は複数の炭化水素であり、
前記環式炭化水素がベンゼン及びトルエンの少なくとも一方の炭化水素であることを特徴とするプラズマCVD装置。
【0017】
[5]チャンバーと、
前記チャンバー内に配置され、基材を保持する基材ホルダーと、
前記基材ホルダーに保持された前記基材の温度を調整する温度調整機構と、
前記チャンバーに繋げられ、前記チャンバー内に鎖式炭化水素を導入するガス導入経路と、
前記チャンバー内に5kHz以上500kHz以下の高周波出力を供給する高周波電源と、
を具備し、
前記高周波電源から供給された高周波出力により前記チャンバー内にプラズマを発生させて前記基材に導電性を有するDLC膜を100℃以上の温度で成膜することを特徴とするプラズマCVD装置。
【0018】
[6]上記[5]において、
前記鎖式炭化水素がメタン、エタン、アセチレン、プロパン及びブタンの群から選択された一つ又は複数の炭化水素であることを特徴とするプラズマCVD装置。
【0019】
[7]チャンバーと、
前記チャンバー内に配置され、基材を保持する基材ホルダーと、
前記基材ホルダーに保持された前記基材の温度を調整する温度調整機構と、
前記チャンバーに繋げられ、前記チャンバー内に環式炭化水素を導入するガス導入経路と、
前記チャンバー内に5kHz以上500kHz以下の高周波出力を供給する高周波電源と、
を具備し、
前記高周波電源から供給された高周波出力により前記チャンバー内にプラズマを発生させて前記基材に導電性を有するDLC膜を200℃以上の温度で成膜することを特徴とするプラズマCVD装置。
【0020】
[8]上記[7]において、
前記環式炭化水素がベンゼン及びトルエンの少なくとも一方の炭化水素であることを特徴とするプラズマCVD装置。
【0021】
[8−1]上記[1]乃至[8]のいずれか一において、
前記チャンバー内を0.6Pa以下(好ましくは0.015〜0.526Pa、より好ましくは0.037〜0.301Pa、さらに好ましくは0.150Pa)の圧力とする真空排気機構を有することを特徴とするプラズマCVD装置。
【0022】
[9]5kHz以上500kHz以下の高周波出力を、0.02ms以上20ms以下の周期で10%以上90%以下のDUTY比のパルス状に基材に供給することによって原料ガスのプラズマを発生させることにより、前記基材に膜を成膜するものであり、
前記DUTY比は、1周期の間で前記基材に高周波出力が印加される期間の比率であることを特徴とする膜の製造方法。
【0023】
[10]上記[9]において、
前記高周波出力の周波数が50kHz以上300kHz以下であることを特徴とする膜の製造方法。
【0024】
[11]上記[9]または[10]において、
前記原料ガスは鎖式炭化水素及び環式炭化水素の少なくとも一方を有し、
前記膜は導電性を有するDLC膜であり、
前記基材に前記DLC膜を成膜する際の温度が100℃以上であることを特徴とする膜の製造方法。
【0025】
[12]上記[11]において、
前記鎖式炭化水素がメタン、エタン、アセチレン、プロパン及びブタンの群から選択された一つ又は複数の炭化水素であり、
前記環式炭化水素がベンゼン及びトルエンの少なくとも一方の炭化水素であることを特徴とする膜の製造方法。
【0026】
[13]5kHz以上500kHz以下の高周波出力によって原料ガスのプラズマを発生させることにより、基材に導電性を有するDLC膜を100℃以上の温度で成膜するものであり、
前記原料ガスは鎖式炭化水素を有することを特徴とする膜の製造方法。
【0027】
[14]上記[13]において、
前記鎖式炭化水素がメタン、エタン、アセチレン、プロパン及びブタンの群から選択された一つ又は複数の炭化水素であることを特徴とする膜の製造方法。
【0028】
[15]5kHz以上500kHz以下の高周波出力によって原料ガスのプラズマを発生させることにより、基材に導電性を有するDLC膜を200℃以上の温度で成膜するものであり、
前記原料ガスは環式炭化水素を有することを特徴とする膜の製造方法。
【0029】
[16]上記[15]において、
前記環式炭化水素がベンゼン及びトルエンの少なくとも一方の炭化水素であることを特徴とする膜の製造方法。
【0030】
[17]上記[11]乃至[16]のいずれか一項において、
前記DLC膜の体積抵抗率が0.001Ω・cm以上50Ω・cm以下であることを特徴とする膜の製造方法。
【0031】
[18]上記[11]乃至[17]において、
前記基材に膜を成膜した後に、当該膜に300℃以上(好ましくは450℃以上)の熱処理を施すことを特徴とする膜の製造方法。
なお、この熱処理は、真空雰囲気で行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0032】
本発明の一態様を適用することで、導電性を有するDLC膜の製造方法を提供することができる。
また、本発明の一態様を適用することで、高周波出力の周波数を低くしてもプラズマの保持を容易にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】(A)は本発明の一態様に係るプラズマCVD装置を概略的に示す構成図であり、(B)は50%のDUTY比の場合を説明する図である。
図2】実施例1による150℃で成膜したDLC膜の体積抵抗率と電源周波数とガス種の関係を示す図である。
図3】実施例2によるDLC膜の体積抵抗率と成膜時の基材温度と電源周波数の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下では、本発明の実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は以下の説明に限定されず、本発明の趣旨およびその範囲から逸脱することなくその形態および詳細を様々に変更し得ることは、当業者であれば容易に理解される。従って、本発明は以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0035】
[実施の形態1]
図1(A)は、本発明の一態様に係るプラズマCVD装置を概略的に示す構成図である。
【0036】
このプラズマCVD装置は処理チャンバー1を有しており、この処理チャンバー1内には基材2を保持する基材ホルダー3が配置されている。この基材ホルダー3はRF電極としても作用し、基材ホルダー3には出力供給機構4が接続されている。この出力供給機構4は、5kHz以上500kHz以下の高周波出力を、0.02ms以上20ms以下の周期で10%以上90%以下のDUTY比のパルス状に基材ホルダー3に供給するようになっている。
【0037】
DUTY比は、1周期の間で基材ホルダー3に高周波出力が印加される期間の比率である。例えば、10%のDUTY比の場合は、1周期の10%の期間が基材ホルダー3に高周波出力が印加される期間(高周波出力オンの期間)となり、1周期の90%の期間が基材ホルダー3に高周波出力が印加されない期間(高周波出力オフの期間)となる。詳細には、例えば1msの周期で10%のDUTY比の場合は、1ms(1周期)の10%の0.1msの期間が高周波出力オンの期間となり、1ms(1周期)の90%の0.9msの期間が高周波出力オフの期間となる。
【0038】
また、例えば図1(B)は、50%のDUTY比の場合を示しており、1周期の50%の期間が高周波出力オンの期間となり、1周期の残りの50%の期間が高周波出力オフの期間となる。
【0039】
プラズマCVD装置は、出力供給機構4によって、5kHz以上500kHz以下の高周波出力を上記のパルス状に基材ホルダー3を介して基材2に供給して、基材2の上方に原料ガスのプラズマを発生させるようになっている。
【0040】
なお、本実施の形態では、出力供給機構4によって基材ホルダー3に高周波出力をパルス状に供給する際の当該高周波出力を5kHz以上500kHz以下としているが、当該高周波出力を50kHz以上300kHz以下とすることが好ましく、より好ましくは250kHz未満であり、さらに好ましくは100kHz以下である。当該高周波出力の周波数が低いほど、基材2にチャージが溜まってしまうため、放電が起こりにくく、プラズマが発生しにくくなるが、パルス状に供給することでプラズマが確実に発生するようになる。
【0041】
また、本実施の形態では、出力供給機構4によって基材ホルダー3に高周波出力をパルス状に供給する際の当該パルス状を、0.02ms以上20ms以下の周期で10%以上90%以下のDUTY比としているが、当該パルス状を0.2ms以上10ms以下の周期で10%以上90%以下のDUTY比とすることが好ましい。DUTY比を10%以上とする理由は、10%未満とするとプラズマが発生しにくく、またプラズマが発生しても消滅しやすいからである。DUTY比を90%以下とする理由は、90%超とすると基材2にチャージが溜まってしまい除去されにくいため、プラズマが消滅しやすいからである。別言すれば、パルス状に高周波出力を供給することで、高周波出力がオフ状態の時に溜まったチャージが基材2から除去され、プラズマを確実に発生させることができる。
【0042】
また、基材ホルダー3の周囲には基材2の温度を調整する温度調整機構としての一例であるヒーター5が配置されており、このヒーター5によって基材2が加熱されるようになっている。なお、基材2は、種々の材質及び種々の形状のものを用いることが可能である。
【0043】
処理チャンバー1にはヘキサメチルジシラザン又はヘキサメチルジシロキサン(以下、これらを総称してHMDSともいう)、炭化水素などの原料ガスおよびアルゴンを導入するガス導入口10が設けられている。このガス導入口10には、処理チャンバー1内にこれらのガスを導入するガス導入経路(図示せず)が繋げられている。ガス導入経路はガス配管(図示せず)を有している。このガス配管には、ガス流量を計測する流量計(図示せず)及びガス流量を制御するガスフローコントローラー(図示せず)が設けられている。流量計により適量のアルゴンガス、HMDS、炭化水素系ガスがガス導入口より処理チャンバー1内に供給されるようになっている。
【0044】
なお、炭化水素系ガスは、鎖式炭化水素及び環式炭化水素の少なくとも一方の炭化水素を有するとよい。鎖式炭化水素は、例えばメタン、エタン、アセチレン、プロパン及びブタンの群から選択された一つ又は複数の炭化水素であるとよく、環式炭化水素は、例えばベンゼン及びトルエンの少なくとも一方の炭化水素であるとよい。
【0045】
また、処理チャンバー1には、その内部を真空排気する真空排気機構である真空ポンプ13が接続されている。
【0046】
上記プラズマCVD装置における5〜500kHzの高周波電源は、直流電源と高周波電源の長所を兼ね備えており、5〜500kHzという工業的にも取り扱いやすい周波数を用いているという利点がある。また、5〜500kHzの高周波電源の場合、従来の13.56MHzの高周波電源に比べて基材へのバイアス効果を高めるという利点がある。
【0047】
次に、図1のプラズマCVD装置を用いて基材2の表面にDLC膜を成膜する方法について説明する。
【0048】
まず、例えばSUS304からなる基材2を基材ホルダー3上に装着する。次いで、基材2をヒーターによって150℃に加熱し、真空ポンプ13によって処理チャンバー1内を0.6Pa以下まで排気し、その後、処理チャンバー1内にアルゴンガスを導入する。次いで、50Wの出力で出力供給機構4を用いて基材ホルダー3に250kHzの高周波電流を連続的に供給することにより、基材2の近傍にアルゴンプラズマを形成し、基材2の表面清浄化のため1分間イオンボンバードする。これにより、基材2の表面が強力なイオンの作用によりイオンエッチングされ、基材2の表面の酸化物層が除去される。
【0049】
この後、ヒーター5によって基材2の温度を100℃以上に維持し、真空ポンプ13によって処理チャンバー1内の圧力を0.6Pa以下に維持する。次いで、300Wの出力で出力供給機構4を用いて基材ホルダー3に5kHz以上500kHz以下(好ましくは50kHz以上300kHz以下、より好ましくは250kHz未満、さらに好ましくは100kHz以下)の高周波出力を、0.02ms以上20ms以下の周期(好ましくは0.2ms以上10ms以下の周期)で10%以上90%以下のDUTY比のパルス状に基材ホルダー3に供給しながら、HMDSを5ccmの流量で処理チャンバー1内に導入して3分間中間層を基材2の表面上に形成した後、炭化水素系ガスとして鎖式炭化水素ガス及び環式炭化水素ガスの少なくとも一方の炭化水素ガスを5ccmの流量で処理チャンバー1内に導入して60分間DLC膜を中間層上に形成する。
【0050】
上述したように5kHz以上500kHz以下の高周波出力をパルス状に供給したプラズマCVD法によりDLC膜を成膜すると、従来の周波数13.56MHzの高周波電源を用いたプラズマCVD法により成膜したDLC膜に比べて導電性の高いDLC膜(例えば体積抵抗率が0.001Ω・cm以上50Ω・cm以下であるDLC膜)を得ることができる。
【0051】
また、上記のDLC膜の製造方法では、高周波出力の周波数が低いほど、成膜時の基材2へのバイアスが強くなるため、DLC膜の抵抗率が下がると考えられる。また、成膜時の基材2の温度は、高いほどDLC膜の抵抗率が下がると考えられるため、300℃以上が好ましく、より好ましくは450℃以上である。
【0052】
また、上記の製造方法によって製造されたDLC膜に300℃以上(好ましくは450℃以上)の熱処理を施してもよい。これにより、DLC膜の抵抗率をより下げることができる。なお、ここでの熱処理は、真空雰囲気で行うのがより好ましい。
【0053】
[実施の形態2]
本実施の形態についての説明では、実施の形態1と同一部分の説明を省略し、異なる部分について説明する。
【0054】
実施の形態1の出力供給機構4は、高周波出力をパルス状に基材2に供給しているが、本実施の形態の出力供給機構は、パルス状ではなく連続的に高周波出力を基材2に供給し、高周波出力の周波数は実施の形態1と同様のものを用いる。
【0055】
本実施の形態に係るDLC膜の製造方法は、5kHz以上500kHz以下の高周波出力によって鎖式炭化水素ガスのプラズマを発生させることにより、基材に導電性を有するDLC膜を100℃以上の温度で成膜するものであるとよい。
【0056】
また、本実施の形態に係るDLC膜の製造方法は、5kHz以上500kHz以下の高周波出力によって環式炭化水素ガスのプラズマを発生させることにより、基材に導電性を有するDLC膜を200℃以上の温度で成膜するものであるとよい。
【0057】
本実施の形態においても実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
【実施例1】
【0058】
[電源周波数とガス種の関係]
本実施例の導電性DLC膜は、図1に示すプラズマCVD装置を用いて成膜した。出力供給機構4によって基材2へ供給される高周波出力は13.56MHz、250kHzまたは100kHzを用い、基材2の温度は150℃とした。原料ガスは、流量計によりアルゴンガス、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)および炭化水素系ガス(メタン、アセチレン、トルエン)をガス導入口10より供給した。
【0059】
被コーティング材(基材2)として4インチのシリコンウエハーを処理チャンバー1内の基材ホルダー3に装着した。処理チャンバー1内をメカニカルブースターポンプおよび油回転ポンプを用いて0.6Pa以下まで排気した後、アルゴンガスを導入して出力供給機構4の高周波電源を用い出力50Wでアルゴンプラズマを形成し、被コーティング材の表面を1分間イオンエッチングした。その後、HMDS5ccmを導入して3分間中間層を形成した後、トルエンを5ccm導入して60分間DLC膜の成膜を行った。また、トルエンに代えてメタン、アセチレンについても同様に処理してDLC膜の成膜を行った。
【0060】
基材2の温度150℃で得られたDLC膜の体積抵抗率を、高精度抵抗率計を用いて測定した結果を表1及び図2に示す。図2は、表1に示す結果を棒グラフで示した図である。
【0061】
【表1】
【0062】
プラズマCVD装置で一般に用いられている工業用高周波電源の周波数13.56MHzでは、いずれのガス種でも絶縁体であることがわかる。一方、メタンおよびアセチレンでは、低い周波数の250kHzおよび100kHzでは体積抵抗率が小さくなっていることがわかる。しかしながら、トルエンではいずれの周波数でも絶縁体である。このことより、150℃ではメタン、アセチレン等の鎖式炭化水素であれば250kHzおよび100kHzの低周波電源を用いれば導電性を有するDLC膜が作製できることが確認された。
【0063】
なお、この場合、100kHzについては、連続で低周波を基板に印加するとプラズマが不安定になり成膜することができなかった。この現象は100kHzでのみ観察され、13.56MHzおよび250kHzについては認められない。
【0064】
そこで、表1に示す100kHzでの成膜については、実施の形態1で説明したように、パルス状の高周波出力を基材に印加した結果であり、これによりプラズマが安定しDLC膜の成膜が可能となった。詳細には、表1に示す100kHzでの成膜は、100kHzの高周波出力を、2.0msの周期で50%のDUTY比のパルス状に基材ホルダー3に供給したものである。また、表1に示す13.56MHz及び250kHzでの成膜は、パルス状ではなく連続的に高周波出力を基材ホルダー3に供給したものである。
【実施例2】
【0065】
[基板温度と電源周波数の影響]
本実施例の導電性DLC膜は、図1に示すプラズマCVD装置を用いて成膜し、成膜条件は実施例1と同様にした。
【0066】
詳細には、出力供給機構4によって基材2へ供給される高周波出力は13.56MHz、250kHzまたは100kHzを用い、基材2の温度は150℃、300℃、450℃とした。原料ガスは、流量計によりアルゴンガス、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)および炭化水素系ガス(アセチレン、トルエン)をガス導入口10より供給した。
【0067】
被コーティング材(基材2)として4インチのシリコンウエハーを処理チャンバー1内の基材ホルダー3に装着した。処理チャンバー1内をメカニカルブースターポンプおよび油回転ポンプを用いて0.6Paまで排気した後、アルゴンガスを導入して出力供給機構4の高周波電源を用い出力50Wでアルゴンプラズマを形成し、被コーティング材の表面を1分間イオンエッチングした。その後、HMDS5ccmを導入して3分間中間層を形成した後、トルエンを5ccm導入して60分間DLC膜の成膜を行った。また、トルエンに代えてアセチレンについても同様に処理してDLC膜の成膜を行った。
【0068】
表2に示す100kHzでの成膜は、100kHzの高周波出力を、2.0msの周期で50%のDUTY比のパルス状に基材ホルダー3に供給したものである。また、表2に示す13.56MHz及び250kHzでの成膜は、パルス状ではなく連続的に高周波出力を基材ホルダー3に供給したものである。
【0069】
上記のようにして得られたDLC膜の体積抵抗率を、高精度抵抗率計を用いて測定した結果を表2及び図3に示す。図3は、表2に示す結果をグラフに示した図である。
【0070】
【表2】
【0071】
表2及び図3より、トルエンでは250kHzおよび100kHzが300℃以上であれば導電性が認められるが、13.56MHzでは450℃にしないと導電性は認められない。また、100kHzの方が250kHzよりも低い抵抗率になっていることがわかる。このことより、低い周波数で成膜するほど抵抗率の低いDLC膜になることがわかる。トルエンとアセチレンとを比較すると、100kHzではアセチレンの方が低い導電率を示す傾向があることがわかる。
【符号の説明】
【0072】
1…処理チャンバー
2…基材
3…基材ホルダー
4…出力供給機構
5…ヒーター
10…ガス導入口
13…真空ポンプ
図1
図2
図3