【実施例】
【0018】
以下に実施例を示して本発明を説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0019】
試験例(1)
魚介類としてカタクチイワシを使用し、混合品の塩分濃度について検討を行った。
【0020】
カタクチイワシ10Kgと水2.4Kgを混合し、混合物の塩分濃度が5〜17w/w%なるように調整し、温度を45℃に管理し、該品温を保ちつつ2週間保持した後、圧搾、火入れ、濾過して清澄な魚醤を得た。各試験区について微生物の増殖の有無、魚醤の塩分、全窒素の測定結果を表1に示す。ここでいう圧搾率は混合品から得られた魚醤の量の割合を示しており、(魚醤量/熟成後の混合品量×100)で算出した。
【0021】
【表1】
【0022】
表1からわかるように、混合品の塩分が高くなるほど圧搾率が低くなり、収量が減少する。また、混合品の塩分が17w/w%を超えると得られる魚醤の塩分が20w/v%を超えてしまい、低塩化が図れていない。また、微生物の増殖については仕込み時の微生物数からの増殖・減少を示しており、++:10倍以上増殖した、+:10倍程度増殖した、±:微生物数に変動なし、−:減少したことを示す。混合品の塩分が5%だと微生物が増殖し腐敗がみられた。よって混合品の塩分が7〜15w/w%となる濃度が好ましく、さらには微生物の増殖が見られない9〜13w/w%が最も好ましい。
【0023】
試験例(2)
魚介類としてカタクチイワシを使用し、魚介類と水の比率について検討を行った。
【0024】
カタクチイワシと水の比率が10:0〜10:6となるように混合し、混合品の塩分は13w/w%に調整し、温度を50℃で管理し、品温を保ちつつ2週間保持した後、圧搾、火入れ、濾過して清澄な魚醤を得た。各魚醤について全窒素量、圧搾率、水を加えてない場合の収量を1としたときの増加率を示した。ここでいう圧搾率は諸味から得られた魚醤の量の割合を示しており、(魚醤量/熟成後の混合品量×100)で算出し、収量とはおなじ魚介類の量から得ることが出来る魚醤を窒素1.5w/v%に調整した際の出来高である。
【0025】
【表2】
【0026】
表2から分かるように水を1割加えるだけで圧搾率と窒素利用率がともに良くなり、最終収量が著しく増加した。また、水の割合が増えるにつれて、圧搾率、窒素利用率が良くなり、収量も増加した。しかしながら、水の割合が5割を超えると全窒素量が低下し、一般的に使用される濃口醤油よりも旨味が下回り、魚醤として十分な旨みを得ることができない。よって魚介類と水の比率は10:1から10:4の間、更に望ましくは十分な窒素を得られる10:1から10:3の間が望ましい。
【0027】
試験例(3)
魚介類としてカタクチイワシを使用し、熟成品温条件について検討を行った。
【0028】
カタクチイワシと水の比率が10:2となるように混合し、かつ、混合品の塩分が9w/w%となるように混合し、各温度帯で管理し、該品温を保ちつつ2週間保持した後、圧搾、火入れ、ろ過して清澄な魚醤を得た。各温度帯について微生物の増殖の有無、全窒素量、窒素利用率の結果を表3に示す。
【0029】
【表3】
【0030】
微生物の増殖については混合時の微生物数からの増殖・減少を示しており、++:10倍以上に増殖した、+:10倍程度増殖した、±:微生物数に変動なし、−:減少したことを示す。40℃に保持した場合は微生物が増殖し、腐敗した。温度が50℃のときに最も窒素利用率が高くなった。温度が高くなるにつれて、窒素利用率が低下する傾向が見られた。また、全窒素量に関しては45〜50℃では安定して高い窒素分が得られ、タンパク質が分解されていた。しかし、温度が55℃よりも高くなるにつれて、全窒素量が低下していく傾向だった。また、65℃では総窒素が著しく低下した。よって分解に適した温度は45〜60℃、更に望ましくは十分な窒素分を得ることができる45〜55℃が望ましい。
【0031】
試験例(4)
魚介類としてカタクチイワシを使用し、追加する魚介類の量について検討を行った。
【0032】
カタクチイワシと水の比率が10:3となるように混合し、かつ、混合品の塩分が9w/w%となるように調整し、温度を50℃で管理し、品温を保持した。前記混合した日を仕込み日とし、この仕込みを行ったときのカタクチイワシの重量を初期仕込み量とする。仕込み日から1日後に初期仕込み量のそれぞれ0.5倍量、1.0倍量、1.5倍量、2.0倍量の重量のカタクチイワシを混合品に加えた。また、混合品の塩分が薄まらないようにカタクチイワシの重量に対して10w/w%の食塩を加えて調整した。品温50℃を保ちつつ2週間保持した後、圧搾、火入れ、ろ過して清澄な魚醤を得た。追加したカタクチイワシの重量が異なる試験区から得られた魚醤について全窒素量、窒素利用率の結果を表4に示す。
【0033】
【表4】
【0034】
結果から分かるように魚を追加することで全窒素量が多くなり、旨味の強い魚醤を得られた。追加する魚の量は1.5倍までは加えるにつれて、全窒素量が多くなったが、2.5倍量追加すると、魚量を2.0倍量加えたときよりも低下した。これは魚醤中に存在する、窒素分が飽和に近くなり、分解度が低下したためと考えられる。このことにより、全窒素量を高めるために加える魚の量としては初期仕込み量の0.5から2.0倍量が望ましく、さらには効率的に全窒素量が得られる量としては0.5〜1.5倍量が望ましい。
【0035】
試験例(5)
魚介類としてカタクチイワシを使用し、魚介類を追加することが出来る仕込み後の経過日数について検討した。
【0036】
カタクチイワシと水の比率が10:3となるように混合し、かつ、混合品の塩分が9w/w%となるように混合し、温度を50℃で管理し、該品温を保持した。前記混合した日を仕込み日とし、この混合を行ったときのカタクチイワシの重量を初期仕込み量とする。追加する魚介類の量として初期仕込み量の1.5倍量を加え、魚介類追加日を仕込み日から1日〜10日経過後まで変動させた。魚介仕込み日を最終仕込み日とし、最終仕込み後、品温50℃を保ちつつ2週間保持した後、圧搾、火入れ、ろ過して清澄な魚醤を得た。最終仕込み日が異なる試験区から得られた魚醤について官能評価の結果を表5に示す。
【0037】
【表5】
【0038】
魚介類を追加する日を仕込み後の経過日数で変動させても、全窒素分、塩分などに差は生じなかった。官能評価としては、仕込み後、翌日に魚介類を追加した魚醤をコントロールとしたとき、◎:差がない、○:差を感じるがほぼ同等、△:差を感じるが本発明の品質は満たしている、×:魚本来の風味が足りないことを示す。魚介類の追加するタイミングとして、仕込み後の経過日数は、仕込み後5日に魚介類を加えてもコントロールとほぼ同等の品質だった。また、7日後に追加した場合は若干熟成が進むが、品質としては問題なく、10日後に追加した場合は、更に熟成が進み、魚の風味を弱く感じた。よって、魚介類を追加するタイミングとして仕込み後1〜7日以内まで、更に望ましくは官能評価で差のない1〜5日以内までが望ましい。
【0039】
試験例(6)
カタクチイワシ以外の魚種を利用しても同様の低塩分かつ高窒素の魚醤を得ることが可能か試験を行った。
【0040】
マイワシ、サバ、イサキ、とカツオのアラ部分(頭、内臓、中骨)及びサバのアラ部分(頭、内臓、中骨)をそれぞれ原料とし、原料と水の比率が10:3となるように混合し、かつ、混合品の塩分が9w/w%となるように混合し、温度を50℃で管理し、該品温を2週間保持した後、圧搾、火入れ、ろ過して清澄な魚醤を得た。また、各混合品には仕込み後翌日に魚介類と食塩を初期仕込み量の1.5倍量を追加した。異なる原料から得られた魚醤について塩分、全窒素量、窒素利用率の結果を表6に示す。
【0041】
【表6】
【0042】
表6の結果により、カタクチイワシ以外の魚種を用いても塩分が低く、十分な窒素分を得ることができた。
【0043】
試験例(7)
試験例(6)で得られた低塩分の魚醤、F−1、F−6と市販の魚醤3種類、および一般的な濃口醤油について分析値の比較及び官能評価を実施した。市販の魚醤のうち魚醤▲3▼については、醤油麹を使用した魚醤である。分析項目のうち、col.は醤油標準色で比色し測定しており、番号が大きいほど色目が薄く、番号が小さいほど濃くなることを示す。なお、官能評価者は識別能力を有し、訓練された10名にて行った。評価項目としては魚の風味、魚の生臭み、塩辛さ、醤油様の風味の4項目とし、それぞれの項目について5段階で評価し、強いものを5、弱いものを1とし、各々の評価点を平均したものを記した。
【0044】
【表7】
【0045】
表7から分かるように市販品の魚醤▲1▼、▲2▼と比較して塩分を低くすることが可能であり、官能面からも塩辛さを感じなかった。また、市販品の魚醤は魚の風味は強くとも、生臭さや刺激臭を伴っているが、本発明によって作られた実施例F−1、F−6では魚の風味が強くとも刺激臭や生臭みを感じる人は少なかった。一方、市販品の魚醤▲3▼は醤油麹を使用しており、魚の生臭みや塩辛さはないものの、魚の風味そのものが弱く醤油に近い風味だった。また、色目についても市販品の魚醤でも幅はあるが、濃口醤油と比べて薄い傾向にあったが、市販品の魚醤▲3▼は濃口醤油と同程度に濃い色目をしていた。
【0046】
また、ヒスタミンの含有量について、市販品の魚醤と比較して実施例F−1、F−6はヒスタミン含有量が1/10以下に抑えられていた。