(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6383920
(24)【登録日】2018年8月17日
(45)【発行日】2018年9月5日
(54)【発明の名称】パーキンソン病の判定基準とする方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/62 20060101AFI20180827BHJP
G01N 33/497 20060101ALI20180827BHJP
【FI】
G01N27/62 C
G01N27/62 V
G01N33/497 Z
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-206769(P2013-206769)
(22)【出願日】2013年9月11日
(65)【公開番号】特開2015-55620(P2015-55620A)
(43)【公開日】2015年3月23日
【審査請求日】2016年9月9日
【権利譲渡・実施許諾】特許権者において、実施許諾の用意がある。
(73)【特許権者】
【識別番号】504253980
【氏名又は名称】有限会社ピコデバイス
(72)【発明者】
【氏名】津田 孝雄
(72)【発明者】
【氏名】大野 欽司
(72)【発明者】
【氏名】平山 正昭
(72)【発明者】
【氏名】角田 誠
【審査官】
伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2010/005077(WO,A1)
【文献】
特開2000−287942(JP,A)
【文献】
特開2003−315340(JP,A)
【文献】
特開2006−234843(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/60−27/70
G01N 33/48−33/98
G01N 30/00−30/96
G01N 1/00−1/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パーキンソン病を早期診断するための方法であり、ヒトの皮膚表面の一部を覆い、覆われた部分の皮膚ガスのサンプリングを行い、捕集した皮膚ガスを分離分析し、皮膚ガス成分濃度を測定する工程を含み、測定して得られた皮膚ガスにおけるベンジルアルコール/安息香酸エステルの比が4以上であることをパーキンソン病の判定基準とする、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パーキンソン病を早期診断する
ための方法であり、皮膚ガスを用いて、クロマトグラフ装置を用いることにより、パーキンソン病の
判定基準とする、方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現状のパーキンソン病の診断は、脳MRIでもMIBG心筋シンチでも不可能で、特異的診断マーカーは未だ開発されていない。左右差のあるパーキンソン症状といった臨床徴候と、抗パーキンソン病薬に対する反応性による診断によるのみである。
上記に定義するパーキンソン病とは、黒質緻密層ドパミン神経細胞の変性を主病変とし、緩徐進行性に運動4徴候(安静時振戦、固縮、運動緩慢および無動、姿勢反射障害)を発現する特発性、進行性の疾患であり、通常孤発性で、家族発症例は約5%程度である。日本における有病率は人口10万人に対して110人程度、欧米白人の有病率はわが国の約1.5〜2.5倍と高いと言われている。
また、発症年齢は50歳代後半から60歳代にかけての年齢が最も多く、20歳代から80歳代まで幅広く見られ、早期診断の実現が期待されている。
従来、皮膚ガスの微量成分を定量するためには、皮膚ガスを採取して、濃縮して次いでガスクロマトグラフにより測定することが実施されている。
【0003】
これまでに皮膚ガスについては、採集については、指からの採取(特許文献1)、腕からの採取(特許文献2)、が実施されており、これらのサンプリングを用いて得た皮膚ガス成分の測定は、皮膚ガス濃度が薄いために、試料皮膚ガスを低温装置に導入し濃縮したのち、ガスクロマトグラフにより皮膚ガス成分を測定している。(非特許文献1)。
この方法により、皮膚ガス中のアセトンが糖尿病疾患においてコントロールの2倍の値をとることが分かり、非侵襲である皮膚ガス採集から疾病を見出すことが示された。(非特許文献1)。しかしながらこれまで皮膚ガスからのパーキンソン病に関する測定は実施されていない。
【0004】
これまでに汗の採集法については、本出願による指からの採集方法〈特許文献4および5〉が提案され、汗中のナトリウム/カリウム比が多汗症の治療の指標として有効であることが示された。(非特許文献2)。また汗中の塩素イオン濃度が慢性膵炎の指標として用いられることが示された。(非特許文献3)。しかしながらこれまで皮膚ガスからのパーキンソン病に関する測定は実施されていない。
【0005】
パーキンソン病の診断として、特表2004−517634号公報(特許文献3)が提案されているが、この提案は神経変性疾患である脊髄小脳性運動失調1(SCA−1)のショウジョウバエモデルに関する。特に、SCA−1治療のための、正常ヒトアタキシン−1又は伸長したポリグルタミン反復配列を持つ突然変異体ヒトアタキシン−1を発現する遺伝子組換えショウジョウバエに関するものであり、さらに、SCA−1を発症することへの素因の診断に関するものである。さらに、SCA−1及び他の神経変性疾患の治療薬をスクリーニングするために遺伝子組換えショウジョウバエを使用する方法に関し、SCA−1及び他の神経変性疾患の治療及び診断用途のため、ならびに治療薬をスクリーニングするための、アタキシン−1の過剰発現によって生じるSCA−1表現型の変更遺伝子の同定に関するもので、さらに、正常アタキシン−1の過剰発現を検出することを含む、SCA−1への素因の診断に関するものである。このことにより診断は可能となるが本発明の目的である非侵襲ではない。
【0006】
パーキンソン病の臨床的な有効なマーカーが現在見出されていないために、多くのパーキンソン病患者が50%の進行状態で初めて治療が開始される状態にあるので、
パーキンソン病の判定基準とする方法が開発されることは重要な課題である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許公開 2006−234843号公報
【特許文献2】特許公開 2006−234844号公報
【特許文献3】特表2004−517634号公報
【特許文献4】特許公開 2000−287942号公報
【特許文献5】特許公開 2003−315340号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Norio Yamane,Takao Tsuda,Kazutoshi Nose,Akiko Yamamoto,Hiroshi Ishiguro,Takaharu Kondo,Clinica Chimica Acta 365,325−329(2006).
【非特許文献2】Yuichiro Ohshima,Hirokazu Shimizu,Takeshi Yanagishita,Daisuke Watanabe,Yasuhiko Tamada,Junichi Sugenoya,Takao Tsuda,Yoshinari Matsumoto,Arch Dermatol Res 300,595−600(2002).
【非特許文献3】Naruse S,Ishiguro H,Suzuki Y,Fujiki K,Mizuno N,Takemura T,Yamamoto A,Yoshikawa T,Jin C,Suzuki R,Kitagawa M,Tsuda T,Kondo T,Hayakawa T,Pancreas,2004 Apr.28(3):e80−5.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
パーキンソン病
の判定、治療ツールとしての汗と皮膚ガスの測定によりパーキンソン病の早期
判定を可能としたものである。パーキンソン病
判定には、汗や皮膚ガスにパーキンソン病に特異的な物質が出ていないかを検討することであり、これにより疾患の
判定や進行度の
判定に供することが課題である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は皮膚ガスあるいは汗中のサンプル中に、パーキンソンと関連の有る化合物を複数みいだし、これらの化合物単独あるいはそれらの相対比あるいは複数の因子として取扱い、パーキンソン病を早期
判定するための
方法であり、ヒトの体の皮膚表面の一部を覆い、覆われた部分の皮膚ガスのサンプリングを行い、捕集した皮膚ガスを分離分析し、皮膚ガス成分濃度を
測定する工程を含み、測定して得られた皮膚ガスにおけるベンジルアルコール/安息香酸エステルの比が4以上であることをパーキンソン病の判定基準とする、方法を見出した。
この方法を用いてパーキンソン
病の早期発見のための測定方法を
発明し、パーキンソン病の判定基準とする、方法を提供するものである。
【0011】
パーキンソン病
を判定するために、ヒトの体の皮膚表面の一部を覆い、覆われた部分の皮膚ガスのサンプリングを行い、捕集した皮膚ガスを分離分析し、皮膚ガス成分濃度を
測定する工程を含み、測定して得られた皮膚ガスにおけるベンジルアルコール/安息香酸エステルの比が4以上であることをパーキンソン病の判定基準とする方法である。測定方法は、皮膚ガスを捕集し、これを低温濃縮装置により濃縮し、ガスクロマトグラフ/質量分析計を用いて測定を行い、皮膚ガス成分の濃度を得た。あらかじめ疾病マーカーを定め、それら濃度から作成した判定基準を用いてパーキンソン病の
判定基準とする方法の確立を行った。
また、皮膚ガス試料のガスクロマトグラフ/質量分析計による測定から得られたフラグメントデーターに、あらかじめパーキンソン病疾患から得られた統計処理を加えてパーキンソン病の指標を算出した。これにより早期発見を行った。
【0012】
パーキンソン病
の判定基準とする方法を確立するために、指の皮膚表面あるいは手の表面あるいは腕の皮膚表面あるいは腹部の皮膚表面あるいは腋の皮膚表面を覆い、その皮膚ガスのサンプリングを行い、捕集した皮膚ガスを低温濃縮後にガスクロマトグラフあるいはガスクロマトグラフ/質量分析計または液体クロマトグラフにより分離分析し、炭化水素類、芳香族類、エステル類、アルコール類、アルデヒド類、ケトン類、イオウ化合物類、テルペン類、カルボン酸類の皮膚ガス
成分濃度を計測し、あらかじめ測定された判定基準を用いてパーキンソン病の
判定基準とする方法あるいは疾病の進行度合いを算定した。
【0013】
パーキンソン病の疾病基準として、皮膚ガス中のベンジルアルコールがきわめて有効である。
図1に認められるように疾病群と健常人の差が明らかにできた。この方法をより明確にするために、ベンジルアルコール/安息香酸エステルの比を用いると、
図2に示すように健常人と疾病群の分け方が、良好な確率で達成できた。上記比率が2以上であることで判別できる。ここで安息香酸エステルとは、安息香酸ブチルエステルや安息香酸イソブチルエステルなどである。
【0014】
パーキンソン病疾患より得られる皮膚ガスマーカ物質としては、さらに次の物質が加えられる。ジクロロベンゼン、トリメチルベンゼン,リモネンである。これらの化合物濃度がパーキンソン病と依存するのでこれを判断基準とする。
【0015】
パーキンソン病を早期
判定するためのものであり、指の皮膚表面あるいは手の皮膚表面あるいは腕の皮膚表面あるいは腹部皮膚表面あるいは腋の皮膚表面を覆い、汗を採集するサンプリングを行い、捕集した汗を液体クロマトグラフあるいは液体クロマトグラフ/質量分析計により分離分析し、汗の揮発性成分中の芳香族エステル、芳香族アルコール、アルデヒド類、ケトン類、炭化水素類、アミノ酸類の成分濃度を計測してパーキンソン病の
判定基準とする方法あるいは疾病の進行度合いを算定した。
【0016】
皮膚ガス試料のガスクロマトグラフ/質量分析計による測定から得られたフラグメントデーターに、あらかじめパーキンソン病疾患から得られた統計処理を加えてパーキンソン指標を算出した。これにより早期発見を行った。パーキンソン疾病群を分けて、一つの群により統計処理(多変量解析法のうちのPLS 回帰 Partial Least Squares Regressionの使用)を実施し、得られた処理方法を用いて、もう一つの群に適用したところ良い相関係数0.9が得られた。この実施例により、パーキンソン病の重度を示す指標(UPDRS、パーキンソン病統一スケール)が個々の患者さんに得られた。
上記により得られた式は
Y=a
1x
1+a
2x
2+a
3x
3+−−−−−−−−−−+a
nx
n
でYはUPDRSであり、aは係数、xはフラグメントが示す質量ごとのカウント数を用いる。ここでカウント数とはその特定の質量を持ったフラグメントの強度を示す。
得られた式の係数を横軸に質量数(x)、縦軸に係数(a)の大きさで
図3に示した。
図3の縦軸には上記の一次式の係数a
n数であり、横軸にはフラグメント質量50〜200から選定した50個の質量を1〜50の数字として示してある。横軸に用いた65個のフラグメント質量は50−54,57,59−62,67−71,96−117,120−132,134−146,148−150である。
この得られた式を用いて上記方法を一般の被験者に適用した。すなわち一般の被験者の皮膚ガスを採集し、ガスクロマトグラフ/質量分析計による測定を実施しフラグメントデータ(質量数に対応した強度)を得て、次いで前記式を適用して、UPDRSを得る。
得られたUPDRSにより病気になっていないかを判定する。
【0017】
皮膚ガスのパーキンソン病マーカー物質と汗中のパーキンソン病マーカー物質の双方をも用いることにより、より確度の高い判定を得ることが出来る。すなわち皮膚ガスの測定結果や汗の測定結果や用いた質量分析計のフラグメントの統計処理結果を総合して、パーキンソン病の本発明の
判定基準とする方法により確度の高い方法となるものである。
【発明の効果】
【0018】
パーキンソン病の有用な
臨床的疾病判定基準とする方法はこれまで見出されていない。本発明は皮膚ガス及び汗からパーキンソン病の
疾病判定基準とする方法を見出した。また
疾病判定基準方法を見出す手法を発見した。本発明によりこれまでパーキンソン病の疾患は50%進行して医学的に見出される現状であったが、これが改善され早期発見が出来るようになる。すなわち本発明によりパーキンソン病の早期発見が可能になり、したがって早期に治療の開始ができるので、人々の健康維持に貢献できる。
【0019】
本発明は人の皮膚ガスあるいは汗をサンプリングして、次いで分離分析を実施して、
疾病物質の濃度を検知し、これを用いて被検者のパーキンソン病に罹病しているか否かを判定する。非常に非侵襲的な方法で、受け入れやすく、早期発見に寄与する。
【0020】
本発明は被験者の皮膚ガスをサンプリングして、分離手段に供し、用いた質量分析計により皮膚ガス中の化学成分のフラグメントのデータを得て、ついであらかじめパーキンソン疾患のUPDRSとの統計処理を実施して得た数式に代入して、新たに被検者のUPDRSが求められる。この方法により得られたUPDRSはパーキンソン病疾患の進行度を示しており、治療の参考に用いることが出来る。
【0021】
以上説明したように本発明は、ひと肌から放出される皮膚ガスを捕集して、分離手段を用いて皮膚ガス中に含まれる化学物質の濃度を定量し,化学物質の濃度及びそれらの相対比からパーキンソン病疾患と健常者との区分を見出すことが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】 パーキンソン患者と健常人の皮膚ガス中の化合物ベンジルアルコールの比較した結果の図である。
【
図2】 皮膚ガスについても皮膚ガス中の分子の比、すなわちパーキンソン病新規バイオマーカーを示す図である。縦軸はベンジルアルコールと安息香酸エステルの比の値を示す。
【
図3】 縦軸には皮膚ガスのフラグメントから得られたパーキンソンの重度を示す指標であり、横軸にはフラグメント質量50〜200から選定した65個の質量を1〜50の数字番号として示してある。
【発明を実施するための形態】
【0023】
発明を実施する一つの形態として、次の測定手順を用いて
パーキンソン判定基準の濃度を測定する。
測定手順は、まず人の皮膚表面を覆い、皮膚ガスを捕集する。例えば、手についてはポリテトラフロロエチレンのシートから袋を作り手にかぶせて皮膚ガスを捕集する。自動サンプリング装置(ピコデバイス製,GS−3型)を用いて手の皮膚より得られた皮膚ガスをサンプル保存バッグに保つ。次いでサンプル保存バッグ中の皮膚ガス25mlを低温濃縮装置(ピコデバイス製、NIT−P型)に吸引させ、15秒間濃縮してオンラインでガスクロマトグラフ/質量分析計に導きクロマトグラムが得られる。これを解析して、必要な情報を得る。例えば、ベンジルアルコール、安息香酸エステル、ノナナール、ノネナール、トルエン、ジクロロベンゼン、アセトアルデヒド、アルコール、リモネン、トリメチルベンゼン等のピークが得られ、保持時間、ピーク面積、質量スペクトルも同時に得られる。また全体の質量/電荷のフラグメントが得られる。これらは、それぞれパーキンソン病との疾患を求めるのに使える。すなわち疾病群との見分けを用いることが出来る。その典型例を
図1,
図2に示した。
【0024】
得られる皮膚ガス中の化学物質についてさらに詳しく例を挙げて説明する。炭化水素類としてはメタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、オクタン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン等があり、その異性体もある。芳香族化合物については、ベンゼン、トルエン、キシレン、スチレン、トリメチルベンゼン、クレゾール、パラジクロロベンゼンなどの化合物やその置換体等が認められる。エステル類については酢酸エステル、酢酸リナリルエステル、安息香酸エステル、フタル酸エステルなどが認められる。アルコールについてはメタノール、エタノール、イソプロパノール、ベンジルアルコール、2−エチルヘキサノール、リモネン、リナロール等が認められる。アルデヒド類についてはアセトアルデヒド、2−メチルブタナール、ヘキサナール、オクタナール、ノナナール、ノネナール等が認められ、ケトン類についてはアセトン、2−ブタノン、2,3−ジメチルブタノン等がある。イオウ化合物については硫化水素、二硫化炭素、メチルメルカプタン、アリルメチルスルフィッド、ジメチルジスルフィッド等がある。またテルペン類についてはメントール、α―ピネン、β―ピネン、カンファー等がある。カルビン酸類については、酢酸、イソ吉草酸、酪酸などがある。アミン類についてはアンモニア、トリメチルアミン、インドール、スカトールなどがある。ガス類については水素、一酸化酸素、二酸化酸素等が認められる。これらの化合物の濃度について検討した。
【0025】
ここで、パーキンソン病についての実験結果を説明すると、
図1乃至
図3により説明すると、
図1はパーキンソン患者と健常人の皮膚ガス中の化合物ベンジルアルコール(図中では化合物X1と表示)の比較であり、健常者と患者のグラフを比較するとベンジルアルコールのピークが患者に強く認められるが、健常者にはこれがあまり見られないかまたは低いことが分かる。すなわちベンジルアルコールのピークの高さから判定が出来る。ベンジルアルコールはパーキンソン病の新規疾病マーカーである。
【0026】
また、
図2は皮膚ガスのパーキンソン病の
新規疾病判定基準とする方法を示す。すなわちベンジルアルコールの比を健常人群とパーキンソン病疾病群について分けて示してある。健常者群とパーキンソン病患者群との差が明らかとなり、新規パーキンソン病疾病マーカーとしてベンジルアルコール/安息香酸エステルの相対比が有効であることを示している。この相対比が4.0の値以下の値を健常人群はとることが判明した。アルコール/安息香酸エステルの相対比4.0以下を健常群とすることが出来る。一部疾病群においても相対比4.0以下の値を取っているが、通常の
疾病判定基準とする方法において完全な類別が出来ない例は多く、その現象がこのマーカーでも認められるが、この現象は疾病マーカーとして用いられる範囲内のことで、提案のベンジルアルコール/安息香酸エステルの相対比が4以上であることが新たな疾病判定基準であることを否定するものではない。
【0027】
パーキンソン病疾患より得られる
皮膚ガス判定基準物質としては、さらに次の物質が加えられる。ジクロロベンゼン、トリメチルベンゼン,リモネンである。これらの化合物の濃度がパーキンソン病と依存するので、これらの化合物の存在量が多いとパーキンソン病の発症の可能性が増すと判定できた。
【0028】
測定の手順で質量分析計を用いることにより皮膚ガスあるいは汗中に含まれる化学物質のフラグメントデーターが得られ、これとパーキンソン病統一スケール(UPDRS)との統計解析より、被験者がパーキンソン病の可能性を判定することが出来た。
【0029】
皮膚ガス試料のガスクロマトグラフ/質量分析計による測定から得られたフラグメントデーターに、あらかじめパーキンソン病疾患から得られた統計処理を加えてパーキンソン指標を算出した。これにより早期発見を行った。
すなわち、パーキンソン疾病群を分けて、一つの群により統計処理(多変量解析法のうちのPLS 回帰 Partial Least Squares Regressionの使用)を行ない、得られた処理方法を用いて、もう一つの群に適用したところ良い相関係数0.9が得られた。得られた関係式により、パーキンソン病の重度を示す指標(UPDRS、パーキンソン病統一スケール)が個々の被験者について得られた。
上記に統計処理についてさらに詳しく説明する。得られた関係式は、
Y=a
1x
1+a
2x
2+a
3x
3+−−−−−−−−−−+a
nx
n
でYはUPDRSであり、aは係数、xはフラグメントが示す質量ごとのカウント数を用いる。ここでカウント数とはその特定の質量を持ったフラグメントの強度を示す。
この式の係数を横軸に質量ごとのカウント数(x)、縦軸に係数(a)の大きさで
図4に示した。
上記方法をある被験者に適用した。すなわち皮膚ガスを採集し、ガスクロマトグラフ/質量分析計による測定を実施しフラグメントデータ(質量数に対応した強度)を得て、次いでパーキンソン病疾患から得られた式を適用し、UPDRSを求めたところ、5以下の小さな値を示しほぼ健常人と判断された。
【0030】
以上
パーキンソン病疾病判定基準とする方法として皮膚ガス・汗中に存在する複数の化学物質を見出した。その運用には、その化学物質の量またはそれらの相対比が新たな
疾病判定基準物質用いることが出来るが、好ましくは複数の
判定基準物質の併用により、より正確にパーキンソン病の疾病判断をすることである。また、皮膚ガスについての実施例について説明したが、身体からの汗についても同様である。
【0031】
あらたな
パーキンソン病疾病判定基準とする方法を用いることにより、早期判断が正確に実施でき治療の早期開始による人々の健康への回復が期待できるようになると想定できる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、医療現場での利用が出来れば、パーキンソン病の疾病の早期発見が可能となり、早期治療の開始により人々の健康の回復が期待できる大きな効果が期待できるので、本発明を実施する検査機関の確立などの医療産業に効果をもたらす。また早期治療用の薬剤の開発が進み医薬産業への貢献が可能となる。さらに脳科学の進歩にも貢献できる。またパーキンソン病の早期診断のための皮膚ガス及び汗を用いたクロマトグラフ装置の使用をしていることより分析機器産業や医療産業に効果がある。