(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の実施形態につき図面を参照して説明する。下記説明において示す各種寸法等は一例である。
【0026】
〔歯科用インプラント1〕
図1は、本発明の実施形態に係る歯科用インプラント1を示す図である。
図2は、歯科用インプラント1を示す縦断面図である。
【0027】
歯科用インプラント(インプラント)1は、歯槽骨(骨)Hに固定されるフィクスチャー10と、フィクスチャー10に嵌合するアバットメント30と、を備える。アバットメント30には、インプラントクラウン6が装着される。
インプラントクラウン6よりも根端側は、歯茎Sに覆われる。
【0028】
歯科用インプラント1の長手方向(中心軸Cに沿う方向)をZ方向または縦と言う。
Z方向のうち、インプラントクラウン6側を−Z方向または先端側と言う。−Z方向の端部を先端(第一端)と言う。Z方向のうち、フィクスチャー10側を+Z方向または根端側と言う。+Z方向の端部を根端(第二端)と言う。−Z方向から見たときを上面図、+Z方向から見たときを下面図と言う。
Z方向に直行する方向を半径方向と言う。中心軸C周りの方向を周方向と言う。
【0029】
〔フィクスチャー10〕
図3は、フィクスチャー本体11を示す図であって、(a)斜視図、(b)正面図、(c)上面図、(d)下面図、(e)IIIe-IIIe断面図である。
図4は、蓋体21を示す図であって、(a)斜視図、(b)正面図、(c)上面図、(d)IVd-IVd断面図である。
【0030】
フィクスチャー10は、外周面に雄ネジ12が形成された軸形部材であり、+Z方向に掘り込まれた不貫通の中心穴13を有する。フィクスチャー10は、外径が最大約4.0mm、全長が約10.0mmである。
フィクスチャー10は、フィクスチャー本体11と蓋体21を備える。
【0031】
フィクスチャー本体11は、円筒形部材であり、ジルコニア等のセラミックス材料により形成される。フィクスチャー本体11は、外径が最大約4.0mm、全長が約9.0mmである。
フィクスチャー本体11の外周面には、雄ネジ12が形成される。
【0032】
フィクスチャー本体11の先端面11aと根端面11bには、中心穴13が開口する。中心穴13は、フィクスチャー本体11をZ方向に沿って貫く貫通孔である。中心穴13は、内径が最小約2.1mmである。
中心穴13は、中央部の内径が小さく、根端側と先端側に向かうにしたがって内径が徐々に拡大(拡径)する。中心穴13には、根端側から先端側に向かって、第一テーパー穴部14、第二テーパー穴部15が連続して形成される。
【0033】
第一テーパー穴部14は、根端面11bから−Z方向に向かうにしたがって内径が徐々に縮小(縮径)する。
第一テーパー穴部14のテーパー角は、約6°である。テーパー角は、0.1°から10°が好ましい。第一テーパー穴部14の長さ(深さ)は、約4.0mmである。第一テーパー穴部14の長さは、フィクスチャー本体11の全長の20%以上(約1.8mm)、50%以下(約4.5mm)が好ましい。
【0034】
第二テーパー穴部15は、先端面11aから+Z方向に向かうにしたがって内径が徐々に縮小(縮径)する。
第二テーパー穴部15のテーパー角は、約6°である。テーパー角は、0.1°から10°が好ましい。第二テーパー穴部15の長さ(深さ)は、約5.0mmである。第二テーパー穴部15の長さは、フィクスチャー本体11の全長の40%以上(約3.6mm)、70%以下(約6.3mm)が好ましい。
第二テーパー穴部15を第一テーパー穴部14よりも長くするのは、第二テーパー穴部15に大きな荷重(咬合圧)が掛かるからである。
【0035】
第一テーパー穴部14の先端側には、六角穴部(被係止部)17が形成される。六角穴部17は、第一テーパー穴部14の内周面から半径方向の内側(中心軸Cに近づく方向)に突出する6つの係止爪18からなる。この6つの係止爪18により、六角形の穴部が形成される。
この六角穴部17(係止爪18)には、蓋体21が係止する。
【0036】
蓋体21は、フィクスチャー本体11の根端面11bに装着される傘形部材であり、ジルコニア等のセラミックス材料により形成される。蓋体21は、全長が約4.9mmである。
蓋体21は、傘部22と第一軸部24を有する。
【0037】
傘部22は、円錐台形の部位である。傘部22は、根端面11bに密着して、フィクスチャー本体11の根端側に露出する。
傘部22は、外径が最大約3.2mm、全長が約1.0mmである。
【0038】
第一軸部24は、円柱形の部位であり、傘部22から−Z方向に延出する。第一軸部24は、第一テーパー軸部25と六角軸部27からなる。
【0039】
第一テーパー軸部25は、第一軸部24の全長に亘る部位であり、‐Z方向に向かうにしたがって外径が徐々に縮小(縮径)する。
第一テーパー軸部25は、フィクスチャー本体11の中心穴13に挿入されて、中心穴13の根端側開口(第一テーパー穴部14)を閉塞する。
第一テーパー軸部25は、外径が最大約2.4mmである。第一テーパー軸部25のテーパー角は、約6°である。テーパー角は、0.1°から10°が好ましい。第一テーパー軸部25の長さは、約3.9mmである。第一テーパー軸部25の長さは、フィクスチャー本体11の全長の20%以上(約1.8mm)、50%以下(約4.5mm)が好ましい。
第一テーパー軸部25は、長さと角度が第一テーパー穴部14と同一であり、第一テーパー穴部14に密着(テーパー嵌合)する。
【0040】
六角軸部(係止部)27は、第一テーパー軸部25の先端側に形成される。六角軸部27は、第一テーパー軸部25の外周面から半径方向の内側(中心軸Cに近づく方向)に窪む6つの係止溝28からなる。この6つの係止溝28により、六角形の軸部が形成される。
六角軸部27に対して、六角穴部17が嵌め入れられる。六角穴部17と六角軸部27は、係止爪18と係止溝28を当接させることにより、フィクスチャー本体11に対する蓋体21の周方向の回転を防止する回転防止機構となる。
【0041】
蓋体21(第一テーパー軸部25)の先端面21aには、雌ネジ26が設けられる。雌ネジ26は、先端面21aから+Z方向に掘り込まれる。雌ネジ26のサイズは、例えばM1.4P0.5である。
【0042】
フィクスチャー10は、フィクスチャー本体11の第一テーパー穴部14に蓋体21の第一テーパー軸部25を挿入し、六角穴部17に六角軸部27を嵌め入れることにより、組み立てられる。
第一テーパー穴部14と第一テーパー軸部25が密着(テーパー嵌合)するので、フィクスチャー本体11と蓋体21は強固に連結される。また、係止爪18と係止溝28が当接するので、フィクスチャー本体11に対して蓋体21が周方向に回転しない。
第一テーパー穴部14が第一テーパー軸部25によりほぼ完全に閉塞される。これにより、蓋体21の先端面21aが中心穴13の底面になり、中心穴13が第二テーパー穴部15のみになる。したがって、中心穴13が不貫通穴になる。
【0043】
〔アバットメント30〕
図5は、アバットメント30を示す図であって、(a)斜視図、(b)正面図、(c)下面図、(d)Vd-Vd断面図である。
【0044】
アバットメント30は、軸形部材であり、ジルコニア等のセラミックス材料により形成される。アバットメント30は、根端側がフィクスチャー10の中心穴13に嵌め込まれ、先端側がフィクスチャー10の先端側に露出して、インプラントクラウン6が装着される。
アバットメント30は、本体部31と第二テーパー軸部35を有する。
【0045】
本体部31は、略円錐台形の部位であり、フィクスチャー10から露出する。本体部31には、接着剤やセメント等を用いてインプラントクラウン6が固定される。
【0046】
第二テーパー軸部(第二軸部)35は、円柱形の部位であり、本体部31から+Z方向に延出する。第二テーパー軸部35は、Z方向に向かうにしたがって外径が徐々に縮小(縮径)する。
第二テーパー軸部35は、フィクスチャー本体11の中心穴13に挿入されて、先端側開口(第二テーパー穴部15)を閉塞する。
第二テーパー軸部35は、外径が最大約2.4mmである。第二テーパー軸部35のテーパー角は、約6°である。テーパー角は、0.1°から10°が好ましい。第二テーパー軸部35の長さは、約5.0mmである。第二テーパー軸部35の長さは、フィクスチャー本体11の全長の40%以上(約3.6mm)、70%以下(約6.3mm)が好ましい。
第二テーパー軸部35は、長さと角度が第二テーパー穴部15と同一であり、第二テーパー穴部15に密着(テーパー嵌合)する。
【0047】
アバットメント30(第二テーパー軸部35)の根端面30bには、雌ネジ36が設けられる。雌ネジ36は、根端面30bから‐Z方向に掘り込まれる。雌ネジ36のサイズは、例えばM1.4P0.5である。
この根端面30bは、中心穴13の底面(先端面21a)に近接するように配置される。
【0048】
〔連結ネジ40〕
図6は、連結ネジ40を示す図であって、(a)斜視図、(b)正面図、(c)上面図、(d)下面図、(e)VIe-VIe断面図である。
連結ネジ(弾性部材)40は、フィクスチャー10とアバットメント30の間に配置される略円柱形部材である。連結ネジ40は、いわゆるネジ軸であり、略全長に亘って雄ネジ42が形成される。
【0049】
連結ネジ40は、フィクスチャー10とアバットメント30に連結する。連結ネジ40は、蓋体21の雌ネジ26とアバットメント30の雌ネジ36にそれぞれ螺合する。蓋体21とアバットメント30が連結ネジ40を介して連結される。
【0050】
連結ネジ40は、フィクスチャー本体11等よりも弾性率が高い材料により形成される。連結ネジ40は、エンジニアリングプラスチックからなる。連結ネジ40は、例えば熱可塑性樹脂からなる。特に、連結ネジ40には、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK:Poly Ether Ether Ketone)が好適である。ポリエーテルエーテルケトンは、耐疲労性、耐磨耗性、耐薬品性、耐放射線性、加工性、寸法安定性が高い。
【0051】
連結ネジ40は、雌ネジ26と雌ネジ36にそれぞれ螺合することにより、弾性変形する(伸びる)。連結ネジ40は、雌ネジ26と雌ネジ36にそれぞれ螺合した状態で、常に弾性変形の復元力(軸力)を発生する。
連結ネジ40は、この軸力により、蓋体21とアバットメント30を引き寄せる。連結ネジ40は、蓋体21とアバットメント30をフィクスチャー本体11に向けて引き付ける。これにより、第一テーパー軸部25が第一テーパー穴部14に押し付けられ、第二テーパー軸部35が第二テーパー穴部15に押し付けられる。
【0052】
連結ネジ40は、雌ネジ26と雌ネジ36にそれぞれ螺合した状態で軸力を発生する。これにより、雄ネジ42は、雌ネジ26と雌ネジ36に常に密着して、ねじの緩みが殆ど発生しない。
【0053】
連結ネジ40のが、先端には六角穴43が、根端には六角頭44がそれぞれ形成される。
六角穴43は、連結ネジ40をアバットメント30に取り付ける(組立)ときに用いられる。連結ネジ40を雌ネジ36に取り付ける際に、六角穴43に六角レンチ(不図示)を挿入して、連結ネジ40に回転力を付与する。
六角頭44は、連結ネジ40をフィクスチャー10から取り外す(分解)ときに用いられる。連結ネジ40を雌ネジ26から取り外す際に、六角穴43に六角穴付レンチ(不図示)を挿入して、連結ネジ40に回転力を付与する。
【0054】
〔歯科用インプラント1の製造方法〕
歯科用インプラント1の各部材は、ジルコニア(酸化ジルコニウム)を主成分とする生体適合性セラミックスにより形成(成形)される。
フィクスチャー10(フィクスチャー本体11、蓋体21)の製造工程は、成形工程、焼結工程を有する。さらに、各種加工工程、洗浄工程、組立工程、γ線殺菌工程、加熱工程を有する。
アバットメント30の製造工程は、フィクスチャー10の製造工程と同一であるため、説明を省略する。
【0055】
成形工程では、ジルコニア粉末を含むペレットを射出成形して、ジルコニア成形体(セラミックス成形体)を得る。つまり、フィクスチャー本体11、蓋体21の成形体を得る。
次に、焼結工程では、このジルコニア成形体に対して予備焼結処理と本焼結処理を施す。例えば1500℃以上の温度で焼結する。これにより、ジルコニア焼結体(セラミックス焼結体)を得る。つまり、フィクスチャー本体11、蓋体21の焼結体を得る。
【0056】
その後に、各種加工工程、洗浄工程を行う。
各種加工工程では、フィクスチャー本体11、蓋体21の焼結体に対して、粗面化処理等が施される。粗面化処理は、例えばレーザ非熱加工である。
【0057】
次に、組立工程では、フィクスチャー本体11の根端側に蓋体21を装着する。中心穴13の第一テーパー穴部14に第一テーパー軸部25を挿入し、六角穴部17に六角軸部27を嵌め入れる。
次に、マウント部材(不図示)を中心穴13の第二テーパー穴部15に挿入して、蓋体21の雌ネジ26に螺合する。
マウント部材は、アバットメント30の代わりに第二テーパー穴部15を閉塞する(
図7参照)。マウント部材は、軸部、雄ネジ、グリップを有する部材であり、例えば熱可塑性樹脂からなる。軸部は、第二テーパー軸部35と略同一形状を有する。雄ネジは、連結ネジ40と略同一形状を有し、軸部から根端側に突出する。グリップは、軸部から先端側に突出する。
作業者は、グリップを専用治具を用いて把持することにより、フィクスチャー10への異物付着を回避できる。
マウント部材をフィクスチャー10に連結することにより、第一テーパー穴部14と第一テーパー軸部25が密着した状態を維持できる。
【0058】
最後に、γ線殺菌工程、加熱工程を行う。
γ線殺菌工程を経ると、フィクスチャー本体11等は濃茶色化してしまう。このため、加熱工程において、100℃〜300℃の温度で再加熱して、フィクスチャー本体11等を色戻し(白色化)する。
【0059】
このようにして、フィクスチャー10が製造される。
なお、アバットメント30の組立工程においては、連結ネジ40を雌ネジ36に螺合する。
【0060】
〔歯科用インプラント治療の二回法〕
図7は、カバー部材90を連結したフィクスチャー10を示す縦断面図である。
患者への歯科用インプラント1の装着は、以下の手順に従って行われる。
【0061】
(一回目の手術)
最初に、フィクスチャー10を患者の歯槽骨Hに埋入する。マウント部材を把持して、フィクスチャー10を歯槽骨Hに形成した穴に挿入する。雄ネジ12を歯槽骨Hに形成した穴に螺合することにより、フィクスチャー10が歯槽骨Hに固定される。
次に、マウント部材を取り外して、カバー部材90をフィクスチャー10に装着する。カバー部材90を中心穴13に挿入して蓋体21に螺合する。
カバー部材90は、フィクスチャー10が歯槽骨Hに骨結合する間に、アバットメント30に代わって第二テーパー穴部15を閉塞する。カバー部材90は、軸部91、雄ネジ92、フランジ93を有する部材であり、例えば熱可塑性樹脂からなる。軸部91は、第二テーパー軸部35と略同一形状を有する。雄ネジ92は、連結ネジ40と略同一形状を有し、軸部91から根端側に突出する。フランジ93は、軸部91の先端に設けられて、フィクスチャー本体11の先端面11aに密着する。カバー部材90の先端面90aには、六角穴94が設けられる。
作業者は、六角穴94に六角レンチ(不図示)を挿入して、カバー部材90に回転力を付与する。
カバー部材90をフィクスチャー10に連結することにより、第一テーパー穴部14と第一テーパー軸部25が密着した状態を維持できる。
【0062】
最後に、歯茎Sを縫い合わせる。その後に、歯槽骨Hとフィクスチャー10を例えば3〜6ヶ月程度かけて骨密着させる。
【0063】
(二回目の手術)
最初に、歯茎Sを切開して、患者の歯槽骨Hに埋入したフィクスチャー10からカバー部材90を取り外す。
次に、フィクスチャー10にアバットメント30を連結する。アバットメント30の第二テーパー軸部35をフィクスチャー10の中心穴13(第二テーパー穴部15)に挿入する。さらに、アバットメント30の根端に連結した連結ネジ40を蓋体21の雌ネジ26に螺合する。これにより、第二テーパー穴部15と第二テーパー軸部35が密着する。
アバットメント30の根端面30bは、中心穴13の底面(先端面21a)に対して僅かな隙間を隔てて近接する。したがって、歯科用インプラント1は、殆ど隙間のない集積体(集成体)となる。
【0064】
最後に、歯茎Sを縫い合わせる。そして、アバットメント30の本体部31にインプラントクラウン6を装着する。本体部31とインプラントクラウン6の間に接着剤やセメント等を配置する。これにより、アバットメント30とインプラントクラウン6が強固に連結される。
その後に、歯茎Sとアバットメント30を例えば2週間程度かけて癒着させる。
【0065】
〔歯科用インプラント1の作用〕
フィクスチャー10は、中心穴13が全長にわたって貫通するフィクスチャー本体11と、中心穴13の根端側開口を閉塞する蓋体21と、を備える。中心穴13は、フィクスチャー本体11を貫通するため、容易に形成でき、欠陥が生じづらい。中心穴13の根端側開口(第一テーパー穴部14)は、蓋体21によりが閉塞されるため、患者への埋入に支障はない。
したがって、フィクスチャー10を容易に小形化でき、亀裂等の欠陥のある不良品を確実に低減できる。フィクスチャー10は、フィクスチャー本体11と蓋体21を集積(集成)しているため、機械的強度が高くなる。
【0066】
蓋体21は、中心穴13に嵌合する第一軸部24を有する。このため、中心穴13の根端側開口(第一テーパー穴部14)を確実に閉塞できる。
【0067】
中心穴13は、根端側から先端側に向かって縮径する第一テーパー穴部14を有し、第一軸部24は、根端側から先端側に向かって縮径する第一テーパー軸部25を有する。このため、第一テーパー穴部14と第一テーパー軸部25が密着(テーパー嵌合)する。したがって、フィクスチャー本体11と蓋体21の連結が強固になる。
【0068】
第一テーパー穴部14と第一テーパー軸部25は、テーパー角が0.1°から10°に形成される。第一テーパー軸部25と第一テーパー穴部14は、フィクスチャー本体11の全長の20%以上、50%以下の長さを有する。このため、第一テーパー穴部14と第一テーパー軸部25が確実に密着して、フィクスチャー本体11と蓋体21が強固に連結される。
【0069】
フィクスチャー本体11は、回転防止機構を備える。中心穴13の内面に形成された六角穴部17を備え、蓋体21は、第一軸部24に形成された六角軸部27を備える。このため、六角穴部17に六角軸部27が嵌まり込み、係止爪18と係止溝28が当接するので、フィクスチャー本体11に対する蓋体21の周方向の回転が抑止される。
【0070】
従来のセラミックス製のフィクスチャーは、単一の部材であり、機械的強度が成形工程における原料(セラミックス粉末)の流動方向に依存する。
ジルコニア等のセラミックスは多結晶体であるため、紛末射出成形すると、各結晶が流れ方向に配向する。これにより、フィクスチャー等の成形体は、機械的強度の異方性を有する。具体的には、金型内において粉末が流れる方向の機械的強度が高くなり、その直角方向の機械的強度が低くなる。
したがって、従来のセラミックス製のフィクスチャーは、機械的強度の異方性により、特定の方向の機械的強度が弱い。
【0071】
これに対して、フィクスチャー10は、フィクスチャー本体11と蓋体21を組み合わせた集積体(集成体)である。
従来と同様に、フィクスチャー本体11と蓋体21は、セラミックス粉末を射出成形してそれぞれ形成されるため、機械的強度の異方性を有する。
もっとも、フィクスチャー本体11と蓋体21は、別々に成形されるので、成形工程における原料の流動方向が異なる。つまり、フィクスチャー本体11と蓋体21は、機械的強度の異方性の方向が異なる。
フィクスチャー10は、フィクスチャー本体11と蓋体21を集積(集成)したので、機械的強度の方向性が分散する。言い換えれば、フィクスチャー10は、フィクスチャー本体11と蓋体21の異方性が打ち消されて、等方性に近づく。
よって、フィクスチャー10は、従来のフィクスチャーに比べて機械的強度が高い。また、フィクスチャー10を量産したときに、機械的強度のばらつきが少ない。フィクスチャー10の機械的強度を均一化(安定化)できる。
【0072】
歯科用インプラント1は、フィクスチャー10と、中心穴13(第二テーパー穴部15)に嵌合する第二テーパー軸部35を有するアバットメント30と、を備える。これにより、歯科用インプラント1は、中心穴13が第一テーパー軸部25と第二テーパー軸部35でほぼ完全に埋まって、機械的強度が向上する。
【0073】
中心穴13は、先端側から根端側に向かって縮径する第二テーパー穴部15を有し、第二テーパー軸部35は、先端側から根端側に向かって縮径する。このため、第二テーパー穴部15と第二テーパー軸部35が密着(テーパー嵌合)する。したがって、フィクスチャー本体11とアバットメント30の連結が強固になる。
【0074】
第二テーパー穴部15と第二テーパー軸部35は、テーパー角が0.1°から10°に形成される。第二テーパー穴部15と第二テーパー軸部35は、フィクスチャー本体11の全長の40%以上、70%以下の長さを有する。このため、第二テーパー穴部15と第二テーパー軸部35が確実に密着して、フィクスチャー本体11とアバットメント30が強固に連結される。
【0075】
アバットメント30の根端面30bは、中心穴13の底面(先端面21a)に近接する。このため、歯科用インプラント1は、内部に隙間が殆どなく、機械的強度が向上する。
【0076】
アバットメント30は、セラミックス粉末を射出成形してそれぞれ形成される。アバットメント30は、フィクスチャー本体11や蓋体21とは別に成形される。このため、アバットメント30は、フィクスチャー本体11等とは成形工程における原料の流動方向が異なる。つまり、アバットメント30は、フィクスチャー本体11、蓋体21とは、機械的強度の異方性の方向が異なる。
歯科用インプラント1は、フィクスチャー本体11、蓋体21およびアバットメント30を集積(集成)したので、機械的強度の方向性が分散する。言い換えれば、歯科用インプラント1は、フィクスチャー本体11、蓋体21、アバットメント30の異方性がそれぞれ打ち消されて、等方性に近づく。
よって、歯科用インプラント1は、従来の歯科用インプラントに比べて機械的強度が高い。また、歯科用インプラント1を量産したときに、機械的強度のばらつきが少ない。歯科用インプラント1の機械的強度を均一化(安定化)できる。
【0077】
歯科用インプラント1は、蓋体21とアバットメント30の間に配置されて、蓋体21とアバットメント30に連結する連結ネジ40を備える。連結ネジ40は、両端に雄ネジ42が形成され、雌ネジ26,36に螺合する。
連結ネジ40は、蓋体21とアバットメント30に連結して伸びる。連結ネジ40の復元力(軸力)により、第一テーパー軸部25が第一テーパー穴部14に押し付けられ、第二テーパー軸部35が第二テーパー穴部15に押し付けられる。
蓋体21とアバットメント30が中心軸Cに沿って対向配置され、さらにフィクスチャー本体11に対して押し付けられてテーパー嵌合する。このため、フィクスチャー本体11、蓋体21、アバットメント30が強固に連結される。
【0078】
連結ネジ40の雄ネジ42は、雌ネジ26と雌ネジ36に密着する。連結ネジ40は、雌ネジ26,36の間に常に大きな摩擦力を発生させるので、緩みが殆ど発生しない。
したがって、フィクスチャー本体11、蓋体21およびアバットメント30を密着させた堅固な連結状態が長期間に亘って維持される。
【0079】
連結ネジ40は、熱可塑性樹脂からなる。特に、ポリエーテルエーテルケトン樹脂からなる。連結ネジ40は、フィクスチャー10やアバットメント30とは異なる材料であるため、音(振動)の伝達特性が異なる。このため、不快な噛み合い音を軽減することができる。
したがって、歯科用インプラント1は、噛み合いによる振動を低減して、不快な噛み合い音の発生を抑制(軽減)できる。
【0080】
このように、中心穴13の形成が容易で、亀裂等の欠陥が発生しづらいフィクスチャー10を実現できる。特に、セラミックス製のフィクスチャー10において、中心穴13における欠陥の発生を防止できる。したがって、フィクスチャー10および歯科用インプラント1を確実に小形化できる。
フィクスチャー10および歯科用インプラント1は、複数の部材を組み合わせた集積体(集成体)であるため、確実に高強度化できる。特に、セラミックス製のフィクスチャー10および歯科用インプラント1は、各部材の機械的強度の異方性が緩和(方向性を分散)されて、高強度化する。
【0081】
歯科用インプラント1は、フィクスチャー10とアバットメント30を連結ネジ40により連結したので、堅固な連結状態を長期間に亘って維持できる。
歯科用インプラント1は、連結ネジ40が噛み合いによる振動を低減して、不快な噛み合い音の発生を抑制(軽減)できる。
【0082】
この発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、この発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述した実施形態に種々の変更を加えたものを含む。すなわち、実施形態で挙げた具体的な形状や構成等は一例にすぎず、適宜変更が可能である。
【0083】
例えば、上述した実施形態においては、歯科用インプラントを一例に説明したが、人工股関節であってもよい。本発明に係るフィクスチャー及びインプラントは、人工股関節のフィクスチャー及びインプラントに用いることができる。
【0084】
フィクスチャー10(フィクスチャー本体11、蓋体21)、アバットメント30、インプラントクラウン6等の部材は、アルミナ(酸化アルミニウム)や酸化イットリウム、酸化ハフニウム、酸化シリコーン、酸化マグネシウム、酸化セリウム等の生体適合性セラミックス材料で形成してもよい。
これらの部材は、ジルコニアと金属や合金とを組み合わせたものであってもよい。金属や合金とは、銅、チタン、チタン合金等である。
これらの部材は、ジルコニアと、カーボンや樹脂やガラス等とを組み合わせたものであってもよい。
これらの部材は、チタンやチタン合金等の金属材料で形成してもよい。
【0085】
第二テーパー穴部15と第一テーパー穴部14は、テーパー形状に限らず、ストレート形状(円筒形状)の穴であってもよい。
第一テーパー軸部25と第二テーパー軸部35は、テーパー形状に限らず、ストレート形状(円柱形状)の軸であってもよい。
【0086】
歯科用インプラント1は、前歯(上前歯)用のインプラントに限らず、奥歯用のインプラントであってもよい。
【0087】
インプラント(歯科用インプラント、人工股関節インプラント)は、人間に限らず、犬や猫等のペット、牛や馬等の家畜に適用される場合であってもよい。
【0088】
第一テーパー穴部14と第一テーパー軸部25の間に接着剤やセメント等を配置してもよい。これにより、フィクスチャー本体11と蓋体21がさらに強固に連結される。
第二テーパー穴部15と第二テーパー軸部35の間に接着剤やセメント等を配置(塗布)してもよい。これにより、フィクスチャー本体11とアバットメント30がさらに強固に連結される。
【0089】
第一テーパー穴部14と第一テーパー軸部25、第二テーパー穴部15と第二テーパー軸部35は、それぞれ同一の長さに限らない。
第一テーパー穴部14と第二テーパー穴部15が連続して形成される場合に限らない。第一テーパー穴部14と第二テーパー穴部15の間に、非テーパー穴部を設けてもよい。
【0090】
回転防止機構は、六角穴部17と六角軸部27に限らない。六角形以外の形状であってもよい。回転防止機構は、フィクスチャー本体11の根端と蓋体21の傘部22に設けてもよい。
【0091】
六角穴部17は、第一テーパー穴部14の一部に形成される(一体的に形成される)場合に限らない。六角軸部27は、第一テーパー軸部25の一部に形成される場合に限らない。六角穴部17と第一テーパー軸部25、六角軸部27と第一テーパー穴部14は、それぞれ分離して形成されてもよい。
【0092】
連結ネジ40は、全長に亘って雄ネジ42が形成される場合に限らない。両端に雄ネジ42が形成されいればよい。
連結ネジ40は、ネジ軸(雄ネジ)に限らず、ナット(雌ネジ)であってもよい。つまり、蓋体21の先端とアバットメントの根端にそれぞれ雄ネジを形成し、この雄ネジにナット形の連結ネジを螺合してもよい。