【実施例】
【0011】
以下本発明の一実施例による化粧クリームについて説明する。
ケルセチンの配糖体を含む繭としては、桑葉を食するカイコガの繭であり、例えば、黄緑繭黄色強蛍光系統(CG−LYS)や黄繭黄色強蛍光系統(CY−LYS)を用いることができる。この2種は、発明者である高濱昌利が継代保存している。
本発明において、最も適した繭は、黄色繭の中で、桑葉中に含まれるフラボノール類が蚕体内で合成されてセリシンに移行させる機能を持ち、代謝の産物として黄色蛍光物質を作れる品種であり、黄色蛍光を発するケルセチンの配糖体を含んでいる品種である。
また、人工飼料中の桑含有率を変化させることで、繭からの水溶性抽出物の紫外線吸収スペクトルが変化することから、桑葉を食するカイコガの繭が最も適している。
【0012】
本実施例では、熱水処理によって繭から水溶性抽出物を抽出した。
100%エタノール抽出液では、黄緑繭黄色強蛍光系統(CG−LYS)又は黄繭黄色強蛍光系統(CY−LYS)のどちらの繭を用いても、黄色蛍光物質を確認できなかった。
【0013】
熱水処理による抽出
実験例1
繭0.5gに対して精製水30mlを加え、オートクレーブにて100℃で20分間抽出を行い、濾過によって繭層部分を取り除いて、水溶性抽出物を含む抽出液を得た。
実験例2
繭0.5gに対して精製水30mlを加え、オートクレーブにて120℃で20分間抽出を行い、濾過によって繭層部分を取り除いて、水溶性抽出物を含む抽出液を得た。
実験例3
繭0.5gに対して精製水30mlを加え、オートクレーブにて120℃で60分間抽出を行い、濾過によって繭層部分を取り除いて、水溶性抽出物を含む抽出液を得た。
実験例1から実験例3では、いずれも十分な蛍光発色を確認できた。
【0014】
実験例4
繭15gに対して精製水375gを加え、オートクレーブにて121℃で20分間抽出を行い、濾過によって繭層部分を取り除いて、水溶性抽出物を含む抽出液を得た。この抽出液に対して、更に121℃で20分間殺菌処理を行った。
なお、抽出液は350gであり、取り除いた繭層部分の乾燥重量は12gであった。従って、水溶性抽出物は、抽出液に対して、質量パーセントで0.85%含まれている。
実験例5
繭60gに対して精製水2000gを加え、オートクレーブにて121℃で30分間抽出を行い、濾過によって繭層部分を取り除いて、水溶性抽出物を含む抽出液を得た。この抽出液に対して、更に121℃で20分間殺菌処理を行った。
なお、抽出液は1800gであり、取り除いた繭層部分の乾燥重量は47.5gであった。従って、水溶性抽出物は、抽出液に対して、質量パーセントで0.69%含まれている。
実験例6
繭59.5gに対して精製水2000gを加え、オートクレーブにて121℃で15分間抽出を行い、濾過によって繭層部分を取り除いて、水溶性抽出物を含む抽出液を得た。この抽出液に対して、更に121℃で20分間殺菌処理を行った。
なお、抽出液は1850gであり、取り除いた繭層部分の乾燥重量は47.6gであった。従って、水溶性抽出物は、抽出液に対して、質量パーセントで0.64%含まれている。
実験例4から実験例6では、抽出液には、水溶性抽出物が質量パーセントで0.64%〜0.85%含まれていたが、用いる繭や抽出条件によっては1.0%程度まで含まれることから、熱水処理によって、抽出液には、質量パーセントで0.6〜1.0%の水溶性抽出物が含まれる。
【0015】
比較例1
繭60gに対して精製水2000gを加え、オートクレーブにて121℃で80分間抽出を行い、濾過によって繭層部分を取り除いて、水溶性抽出物を含む抽出液を得た。この抽出液に対して、更に121℃で20分間殺菌処理を行った。
【0016】
実験例4、実施例5、及び実験例6では、いずれも十分な蛍光発色を確認でき、適度な粘性を得られた。これに対して、比較例1では、僅かに褐色を帯びた色に変色し、適度な粘性を得ることができなかった。
このことから、殺菌処理を含む熱水処理時間は100分未満とすることが好ましい。また、水溶性抽出物の濃度を高めるために、加熱処理によって水分を蒸発させて濃縮することは好ましくない。
【0017】
化粧クリームへの配合(紫外線吸収剤の影響)
実験例7
紫外線吸収剤として酸化チタンを配合した乳化クリームに、実験例6で得た抽出液を乳化クリームに対して重量比で25%配合した。
蛍光発色は確認できなかった。
実験例8
紫外線吸収剤として微量のフェルラ酸を配合した乳化クリームに、実験例6で得た抽出液を乳化クリームに対して重量比で25%配合した。
フェルラ酸を配合していない乳化クリームに対して、フェルラ酸を配合した乳化クリームでは蛍光発色が弱まったことが確認できた。
実験例7及び実験例8から、紫外線吸収剤が配合されると蛍光発色に影響していることから、ケルセチンの配糖体の機能の一部を阻害していると考えられる。
【0018】
化粧クリームへの配合(pHの影響)
実験例9
実験例6で得た抽出液が重量比で25%になるように精製水で希釈し、水酸化ナトリウム溶液を加えて、pH8、pH8.5、pH9以上の3本を調製した。なお、それぞれに対しては、加える水酸化ナトリウム溶液は1ml未満とした。水酸化ナトリウム溶液を加えないpH7.5を比較対象とした。
目視による判別では、水酸化ナトリウムを加えないものとの比較を行った。
【0019】
図1に、紫外線照射による蛍光発色を示す。同図(a)はpH7.5とpH8との対比、同図(b)はpH7.5とpH8.5との対比、同図(c)はpH7.5とpH9.5との対比を示している。
分光計による計測結果を
図2に示す。同図(a)はpH7.5、同図(b)はpH8、同図(c)はpH8.5、同図(d)はpH9.5の計測結果である。
図1及び
図2からも分かるように、pH8.5における蛍光発色が弱くなり、pH9.5では明らかに蛍光発色が低下していることがわかる。
以上のように、pH8.5以上、特にpH9を超えると、蛍光発色に影響していることから、ケルセチンの配糖体の機能の一部を阻害していると考えられる。
【0020】
化粧クリームへの配合(重量比)
実験例10
実験例6で得た抽出液を、重量比で5%、10%、15%、20%、25%、30%、40%、それぞれカルボマーによるジェルクリームに配合して、蛍光発色を観察した。
暗室にて紫外線を照射して、クリームに蛍光発色が見られるかを確認した。目視による比較を容易にするために、実験例6で得た抽出液を配合していないクリームを左側に置いている。
図3(a)は5%配合、同図(b)は10%配合、同図(c)は15%配合、同図(d)は20%配合、同図(e)は25%配合、同図(f)は30%配合、同図(g)は40%配合である。
同図(h)に、目視による比較結果を示している。同図(h)において、◎は発色強、○は発色、△は発色弱、×は発色無を示している。
実験例10に示すように、5%〜10%は発色が認められるが発色は弱く、15%〜20%では十分に視認できる発色となり、発色25%を超えると発色強であることが分かる。
【0021】
実験例11
実験例6で得た抽出液を、重量比で5%、10%、15%、20%、25%、30%、40%、それぞれカルボマーによるジェルクリームに配合して、使用感を確認した。
石けんにて手洗いを行い、クリーム0.5gを両手に塗布し、被験者20人に対して使用感のアンケートを行った。ここでの使用感は、クリームを塗布した際の触感で評価を得て、とても良いを10点、良いを8点、あまり良くないを4点、悪いを0点として平均点で評価した。
評価の結果を
図4に示している。
5%〜25%では8点以上の評価となっているが、40%では5.6点となっている。40%で低評価の理由は、水っぽいことにあった。
本発明では、水溶性抽出物を含む抽出液を配合するため、クリームの水分量が多くなりすぎ、触感を悪くしている。
【0022】
実験例12
実験例6で得た抽出液を、重量比で、5%、10%、15%、20%、25%、30%、40%、それぞれカルボマーによるジェルクリームに配合し、これらのクリームを切り餅に塗布して12時間経過後を観察した。本実験では、切り餅のひび割れが無いものが保湿効果があると判断している。
目視による比較を容易にするために、クリームを塗布していない切り餅を左側に置いている。
図5(a)は配合無、同図(b)は5%配合、同図(c)は10%配合、同図(d)は15%配合、同図(e)は20%配合、同図(f)は25%配合、同図(g)は30%配合、同図(h)は40%配合のクリームを塗布したものである。
同図(i)に、目視による比較結果を示している。同図(i)において、○は切り餅のひび割れがほとんどない、△は切り餅のひび割れが少ない、×はクリームを塗布しない切り餅と変わりがないことを示している。
実験例12に示すように、15%〜40%で保湿効果が認められ、特に20%〜25%では十分に保湿効果が認められる。また、特に30%以上では、切り餅の内部の水分を吸収してしまうと考えられる。
【0023】
実験例13
実験例6で得た抽出液を、重量比で、5%、10%、15%、20%、25%、30%、40%、それぞれカルボマーによるジェルクリームに配合し、これらのクリームを梅に塗布して12時間経過後を観察した。本実験では、梅の表面のしわの発生が少ないものが保湿効果があると判断している。
目視による比較を容易にするために、クリームを塗布していない12時間経過後の梅を比較対象として右側に置いている。
図6(a)はクリームを塗布していない初期の状態の梅、同図(b)は配合無、同図(c)は5%配合、同図(d)は10%配合、同図(e)は15%配合、同図(f)は20%配合、同図(g)は25%配合、同図(h)は30%配合、同図(i)は40%配合のクリームを塗布したものである。
同図(j)に、目視による比較結果を示している。同図(j)において、○はクリームを塗布しない12時間経過後の梅と比較してしわが少ないもの、◎はその中でも更にしわが少ないことを示している。
実験例13に示すように、20%〜40%で特に保湿効果が認められる。本実験では、無配合のクリームでは効果が高いにもかかわらす、5%〜15%塗布で効果が低下していることから、所定量以上の重量で配合しなければ、水分量の増加による影響が考えられる。
【0024】
実験例14
実験例6で得た抽出液を、重量比で、5%、10%、15%、20%、25%、30%、40%、それぞれカルボマーによるジェルクリームに配合し、これらのクリームを人工皮膚に塗布して3時間経過後に紫外線を照射して蛍光発色を観察した。
図7に、目視による結果を示している。同図において、○は十分な蛍光発色を確認できたもの、△は蛍光発色を確認できたもの、×は蛍光発色を確認できなかったことを示している。
実験例14に示すように、15%〜40%で蛍光発色を確認できたが、20%〜40%がよりよいことが分かる。
【0025】
実験例10から実験例14では、重量比で64.0%の水分と5.3%のグリセリンを含む化粧クリームに、水溶性抽出物が質量パーセントで0.64%含まれる抽出液を用いている。
従って、重量比で5%の抽出液を配合した場合には、化粧クリームに対して重量比で0.032%の水溶性抽出物が含まれる。また、重量比で40%の抽出液を配合した場合には、化粧クリームに対して重量比で0.256%の水溶性抽出物が含まれる。
なお、実験例11及び実験例12から、化粧クリームの水分量は、重量比で75.5%以下、更には72.7%以下が好ましい。
【0026】
本発明による水溶性抽出物は、実験例1から実験例6、及び比較例1に示すように、熱水処理によって抽出するため、質量パーセントで0.6%〜1.0%含まれる。
従って、化粧クリームの水分量を75.5%以下とするためには、水溶性抽出物が1.0%含まれる抽出液を用いた場合であっても、水溶性抽出物は、重量比で0.75%以下となる。また、化粧クリームの水分量を72.7%以下とするためには、水溶性抽出物が1.0%含まれる抽出液を用いた場合であっても、水溶性抽出物は、重量比で0.72%以下となる。
【0027】
実験例15
実験例6で得た抽出液を腕に塗布して時間経過に伴う蛍光発色を確認した。
図8に時間経過に伴う蛍光発色の変化を示している。本実験では、2人の被験者で実験を行った。
図8に示すように、塗布後5時間を経過しても十分に蛍光発色しており、水洗い後においても皮膚に蛍光物質が残存していることが分かる。
【0028】
実験例16
実験例6で得た抽出液を、カルボマーによるジェルクリーム、キサンタンガムによるジェルクリーム、及び乳化クリームに対して重量比で25%配合して蛍光発色を確認した。
図9(a)はカルボマーによるジェルクリームに配合、同図(b)はキサンタンガムによるジェルクリームに配合、同図(c)は乳化クリームに配合したものである。
いずれのクリームも十分に蛍光発色していることが分かる。
【0029】
本発明の化粧クリームによれば、熱水処理によって、桑葉を食するカイコガの繭から黄色蛍光を発するケルセチンの配糖体を含む水溶性抽出物を抽出し、水溶性抽出物を含む抽出液を配合した化粧クリームであり、抽出液には、水溶性抽出物が質量パーセントで0.6%〜1.0%含まれ、配合する抽出液を重量比で5%〜40%としたことで、セリシンとともに黄色蛍光を発するケルセチンの配糖体を有効に利用でき、保湿性に優れ、強い抗酸化力を期待できる。
【0030】
なお、実験例10から実験例14では、重量比で64.0%の水分を含む化粧クリームに水溶性抽出物が含まれる抽出液を配合しているが、あらかじめ配合する溶液として水溶性抽出物が含まれる抽出液を用いることもできる。ただし、熱水処理による抽出液は、質量パーセントで1.0%以下の水溶性抽出物しか含まれないため、化粧クリームに用いる全ての溶液として抽出液を用いた場合であっても、化粧クリームの水分量に対して水溶性抽出物は1.0%以下となる。