特許第6383992号(P6383992)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6383992
(24)【登録日】2018年8月17日
(45)【発行日】2018年9月5日
(54)【発明の名称】化粧素材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/60 20060101AFI20180827BHJP
   A61K 8/98 20060101ALI20180827BHJP
   A61K 8/81 20060101ALI20180827BHJP
   A61K 8/73 20060101ALI20180827BHJP
   A61K 8/06 20060101ALI20180827BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20180827BHJP
【FI】
   A61K8/60
   A61K8/98
   A61K8/81
   A61K8/73
   A61K8/06
   A61Q19/00
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-113003(P2013-113003)
(22)【出願日】2013年5月29日
(65)【公開番号】特開2014-231495(P2014-231495A)
(43)【公開日】2014年12月11日
【審査請求日】2016年5月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】517168071
【氏名又は名称】T&T株式会社
(72)【発明者】
【氏名】高濱 昌利
(72)【発明者】
【氏名】森田 明弥
【審査官】 池田 周士郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−026739(JP,A)
【文献】 特開2004−018648(JP,A)
【文献】 特開2005−120336(JP,A)
【文献】 特表2007−524675(JP,A)
【文献】 特開2012−183063(JP,A)
【文献】 原三郎、一田(高濱)昌利、平山珠美,繭糸の機能性に関する研究,地域共同研究センター年報,2008年
【文献】 平山 力、他,LC−MSによる地域型蚕品種の繭層フラボノイドの解析,蚕糸・昆虫バイオテック,2009年,Vol.78, No.1,pp.57-63
【文献】 山崎昌良、栗岡 聡,いろどり繭層におけるフラボノールの分布,日本シルク学会誌,2010年,Vol.18,pp.27-31
【文献】 KURIOKA Akira, YAMAZAKI Masayoshi,Purification and Identification of Flavonoids from the Yellow Green Cocoon Shell(Sasamayu) of the Silkworm, Bombyx mori,Biosci. Biotechnol. Biochem.,2002年,Vol.66, No.6,pp.1396-1399
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00− 8/99
A61Q 1/00−90/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱水処理によって、桑葉を食するカイコガの繭から黄色蛍光を発するケルセチンの配糖体を含む水溶性抽出物を抽出し、前記水溶性抽出物を含む抽出液を配合した化粧素材の製造方法であって、
前記抽出液を配合後の製造工程を、pH7.5以上でpH8.5以下の条件で行い、
前記化粧素材に対して前記水溶性抽出物を重量比で0.032%〜0.750%含まれ、
紫外線吸収剤を配合しない
ことを特徴とする化粧素材の製造方法。
【請求項2】
前記化粧素材を、カルボマーによるジェルクリームとしたことを特徴とする請求項1に記載の化粧素材の製造方法。
【請求項3】
前記化粧素材を、キサンタンガムによるジェルクリームとしたことを特徴とする請求項1に記載の化粧素材の製造方法。
【請求項4】
前記化粧素材を、乳化クリームとしたことを特徴とする請求項1に記載の化粧素材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、桑葉を食するカイコガの繭から抽出される水溶性抽出物を用いた化粧素材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
繭は、絹糸として長年利用されてきたが、繭から抽出されるセリシンには、保湿作用、紫外線吸収能、抗酸化力、メラニン合成に関与するチロシナーゼの阻害活性、細胞増殖促進能があることが近年において知られてきている。また、セリシンは生体適合性に優れており、それらの特性を生かして、化粧品や医薬品、食品への応用が試みられ、すでにセリシン配合の基礎化粧品、入浴剤、石鹸などが販売されている。
特許文献1では、セリシンと、D−グルコースなどの糖類とを必須成分として含む化粧料を提案している。
また、繭の種類によって、抽出される水溶性抽出物に紫外線遮蔽機能があることが知られている。
特許文献2では、農家などが飼育する家蚕のうちの緑色繭には、フィブロインを取り除いた成分に、紫外線を遮蔽する機能を有しており、この紫外線を遮蔽する機能を化粧品として用いることを提案している。
また、紫外線を遮蔽する機能は、紫外線を可視光線に光変換する蛍光色の発色であることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−64148号公報
【特許文献2】特開2005−120336号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、黄繭に含まれる蛍光物質の一つがフラボノールの一種であるケルセチンの配糖体であることが同定されている。
ケルセチンは、強い抗酸化力が報告されており、抗アレルギー作用、抗ウイルス作用、抗がん作用、動脈硬化抑制作用などの研究が進んでいる物質である。
本発明者は、複数の蛍光系統の繭について機能性を研究した結果、黄緑繭黄色強蛍光系統(CG−LYS)や黄繭黄色強蛍光系統(CY−LYS)の繭では、黄色蛍光を発するケルセチンの配糖体が多く含まれることを見出した。
黄色蛍光を発するケルセチンの配糖体を多く含む系統では、100℃、20分の熱水抽出液、及び120℃、20分の熱水抽出液を用いたDPPHラジカル消去活性測定において、濃度1.0(mg/ml)における阻害率が50%を超え、他の系統の2倍以上の阻害率であった。
また、同様の熱水抽出液を用いたSOD様活性測定においても、黄色蛍光を発するケルセチンの配糖体を多く含む系統では、濃度1.0(mg/ml)における阻害率が、他の系統の2倍以上であった。
また、同様の熱水抽出液を用いたTBARS測定においても、黄色蛍光を発するケルセチンの配糖体を多く含む系統では、濃度2.0(mg/ml)における阻害率が、80%以上であり、他の系統の2倍以上であった。
更に、同様の熱水抽出液を用いた360nm(UV−A)の紫外線遮蔽率においても、黄色蛍光を発するケルセチンの配糖体を多く含む系統では、他の系統の2倍以上の遮蔽率であった。
これらの研究から、黄色蛍光を発するケルセチンの配糖体を化粧素材に用いることが有効であることを見出した。
しかし、その機能性を損なわずに黄色蛍光を発するケルセチンの配糖体を抽出し、化粧素材として使用感に優れた配合が必要であるが、事前実験によれば、溶媒、抽出温度、抽出時間などによって、抽出濃度だけでなく、抽出されるケルセチンの配糖体の機能の一部が阻害されることが分かった。
特許文献1では、セリシンの化粧料への利用を開示するが、黄色蛍光を発するケルセチンの配糖体を含む水溶性抽出物を化粧料に利用するものではない。
特許文献2では、蛍光物質の化粧品への利用を開示するが、蛍光物質の抽出や配合について実現可能な方法を開示してはない。
例えば、特許文献2では、紫外線照射に対する透過試験を行うにあたって、蛍光物質の分離については、従来から行われているセリシンの分離方法と同様に、例えば熱水、アルカリ剤の水溶液、界面活性剤及び酵素などを用いて行えるとしているが、分離方法によっては蛍光物質の性質を失ってしまう。
【0005】
本発明は、桑葉を食するカイコガの繭から抽出される黄色蛍光を発するケルセチンの配糖体を含む水溶性抽出物を用いることで、保湿性に優れ、強い抗酸化力が期待できる化粧素材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の本発明の化粧素材の製造方法は、熱水処理によって、桑葉を食するカイコガの繭から黄色蛍光を発するケルセチンの配糖体を含む水溶性抽出物を抽出し、前記水溶性抽出物を含む抽出液を配合した化粧素材の製造方法であって、前記抽出液を配合後の製造工程を、pH7.5以上でpH8.5以下の条件で行い、前記化粧素材に対して前記水溶性抽出物を重量比で0.032%〜0.750%含まれ、紫外線吸収剤を配合しないことを特徴とする。
請求項2記載の本発明は、請求項1に記載の化粧素材の製造方法において、前記化粧素材を、カルボマーによるジェルクリームとしたことを特徴とする。
請求項3記載の本発明は、請求項1に記載の化粧素材の製造方法において、前記化粧素材を、キサンタンガムによるジェルクリームとしたことを特徴とする。
請求項4記載の本発明は、請求項1に記載の化粧素材の製造方法において、前記化粧素材を、乳化クリームとしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、セリシンとともに黄色蛍光を発するケルセチンの配糖体を有効に利用でき、保湿性に優れ、強い抗酸化力を期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施例による化粧クリームとしてpHの異なる抽出液を配合して、紫外線照射による蛍光発色を比較した写真
図2】同化粧クリームの分光計による計測結果を示す特性図
図3】同化粧クリームとして抽出液をカルボマーによるジェルクリームに配合して、蛍光発色を撮影した写真及び評価結果を示す図
図4】同化粧クリームを塗布した際の使用感評価の結果を示す図
図5】同化粧クリームとして抽出液をカルボマーによるジェルクリームに配合し、切り餅に塗布して保湿効果を撮影した写真及び評価結果を示す図
図6】同化粧クリームとして抽出液をカルボマーによるジェルクリームに配合し、梅に塗布して保湿効果を撮影した写真及び評価結果を示す図
図7】同化粧クリームとして抽出液をカルボマーによるジェルクリームに配合し、人工皮膚に塗布した場合の保湿効果の評価結果を示す図
図8】同化粧クリームとして抽出液を腕に塗布して時間経過に伴う蛍光発色を撮影した写真
図9】同化粧クリームとして抽出液を、カルボマーによるジェルクリーム、キサンタンガムによるジェルクリーム、及び乳化クリームに配合して蛍光発色を撮影した写真
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の第1の実施の形態による化粧素材の製造方法は、熱水処理によって、桑葉を食するカイコガの繭から黄色蛍光を発するケルセチンの配糖体を含む水溶性抽出物を抽出し、水溶性抽出物を含む抽出液を配合した化粧素材の製造方法であって、抽出液を配合後の製造工程を、pH7.5以上でpH8.5以下の条件で行い、化粧素材に対して水溶性抽出物を重量比で0.03%〜0.4%含まれ、紫外線吸収剤を配合しないものである。本実施の形態によれば、セリシンとともに黄色蛍光を発するケルセチンの配糖体を有効に利用でき、保湿性に優れ、強い抗酸化力を期待できる。また、ケルセチンの配糖体の機能を阻害することなく有効に利用できる。
【0010】
本発明の第2から第4の実施の形態は、第1の実施の形態による化粧素材の製造方法において、化粧素材を、カルボマーによるジェルクリーム、キサンタンガムによるジェルクリーム、又は乳化クリームとしたものである。本実施の形態による化粧素材の製造方法は、カルボマーによるジェルクリーム、キサンタンガムによるジェルクリーム、又は乳化クリームとすることができる。
【実施例】
【0011】
以下本発明の一実施例による化粧クリームについて説明する。
ケルセチンの配糖体を含む繭としては、桑葉を食するカイコガの繭であり、例えば、黄緑繭黄色強蛍光系統(CG−LYS)や黄繭黄色強蛍光系統(CY−LYS)を用いることができる。この2種は、発明者である高濱昌利が継代保存している。
本発明において、最も適した繭は、黄色繭の中で、桑葉中に含まれるフラボノール類が蚕体内で合成されてセリシンに移行させる機能を持ち、代謝の産物として黄色蛍光物質を作れる品種であり、黄色蛍光を発するケルセチンの配糖体を含んでいる品種である。
また、人工飼料中の桑含有率を変化させることで、繭からの水溶性抽出物の紫外線吸収スペクトルが変化することから、桑葉を食するカイコガの繭が最も適している。
【0012】
本実施例では、熱水処理によって繭から水溶性抽出物を抽出した。
100%エタノール抽出液では、黄緑繭黄色強蛍光系統(CG−LYS)又は黄繭黄色強蛍光系統(CY−LYS)のどちらの繭を用いても、黄色蛍光物質を確認できなかった。
【0013】
熱水処理による抽出
実験例1
繭0.5gに対して精製水30mlを加え、オートクレーブにて100℃で20分間抽出を行い、濾過によって繭層部分を取り除いて、水溶性抽出物を含む抽出液を得た。
実験例2
繭0.5gに対して精製水30mlを加え、オートクレーブにて120℃で20分間抽出を行い、濾過によって繭層部分を取り除いて、水溶性抽出物を含む抽出液を得た。
実験例3
繭0.5gに対して精製水30mlを加え、オートクレーブにて120℃で60分間抽出を行い、濾過によって繭層部分を取り除いて、水溶性抽出物を含む抽出液を得た。
実験例1から実験例3では、いずれも十分な蛍光発色を確認できた。
【0014】
実験例4
繭15gに対して精製水375gを加え、オートクレーブにて121℃で20分間抽出を行い、濾過によって繭層部分を取り除いて、水溶性抽出物を含む抽出液を得た。この抽出液に対して、更に121℃で20分間殺菌処理を行った。
なお、抽出液は350gであり、取り除いた繭層部分の乾燥重量は12gであった。従って、水溶性抽出物は、抽出液に対して、質量パーセントで0.85%含まれている。
実験例5
繭60gに対して精製水2000gを加え、オートクレーブにて121℃で30分間抽出を行い、濾過によって繭層部分を取り除いて、水溶性抽出物を含む抽出液を得た。この抽出液に対して、更に121℃で20分間殺菌処理を行った。
なお、抽出液は1800gであり、取り除いた繭層部分の乾燥重量は47.5gであった。従って、水溶性抽出物は、抽出液に対して、質量パーセントで0.69%含まれている。
実験例6
繭59.5gに対して精製水2000gを加え、オートクレーブにて121℃で15分間抽出を行い、濾過によって繭層部分を取り除いて、水溶性抽出物を含む抽出液を得た。この抽出液に対して、更に121℃で20分間殺菌処理を行った。
なお、抽出液は1850gであり、取り除いた繭層部分の乾燥重量は47.6gであった。従って、水溶性抽出物は、抽出液に対して、質量パーセントで0.64%含まれている。
実験例4から実験例6では、抽出液には、水溶性抽出物が質量パーセントで0.64%〜0.85%含まれていたが、用いる繭や抽出条件によっては1.0%程度まで含まれることから、熱水処理によって、抽出液には、質量パーセントで0.6〜1.0%の水溶性抽出物が含まれる。
【0015】
比較例1
繭60gに対して精製水2000gを加え、オートクレーブにて121℃で80分間抽出を行い、濾過によって繭層部分を取り除いて、水溶性抽出物を含む抽出液を得た。この抽出液に対して、更に121℃で20分間殺菌処理を行った。
【0016】
実験例4、実施例5、及び実験例6では、いずれも十分な蛍光発色を確認でき、適度な粘性を得られた。これに対して、比較例1では、僅かに褐色を帯びた色に変色し、適度な粘性を得ることができなかった。
このことから、殺菌処理を含む熱水処理時間は100分未満とすることが好ましい。また、水溶性抽出物の濃度を高めるために、加熱処理によって水分を蒸発させて濃縮することは好ましくない。
【0017】
化粧クリームへの配合(紫外線吸収剤の影響)
実験例7
紫外線吸収剤として酸化チタンを配合した乳化クリームに、実験例6で得た抽出液を乳化クリームに対して重量比で25%配合した。
蛍光発色は確認できなかった。
実験例8
紫外線吸収剤として微量のフェルラ酸を配合した乳化クリームに、実験例6で得た抽出液を乳化クリームに対して重量比で25%配合した。
フェルラ酸を配合していない乳化クリームに対して、フェルラ酸を配合した乳化クリームでは蛍光発色が弱まったことが確認できた。
実験例7及び実験例8から、紫外線吸収剤が配合されると蛍光発色に影響していることから、ケルセチンの配糖体の機能の一部を阻害していると考えられる。
【0018】
化粧クリームへの配合(pHの影響)
実験例9
実験例6で得た抽出液が重量比で25%になるように精製水で希釈し、水酸化ナトリウム溶液を加えて、pH8、pH8.5、pH9以上の3本を調製した。なお、それぞれに対しては、加える水酸化ナトリウム溶液は1ml未満とした。水酸化ナトリウム溶液を加えないpH7.5を比較対象とした。
目視による判別では、水酸化ナトリウムを加えないものとの比較を行った。
【0019】
図1に、紫外線照射による蛍光発色を示す。同図(a)はpH7.5とpH8との対比、同図(b)はpH7.5とpH8.5との対比、同図(c)はpH7.5とpH9.5との対比を示している。
分光計による計測結果を図2に示す。同図(a)はpH7.5、同図(b)はpH8、同図(c)はpH8.5、同図(d)はpH9.5の計測結果である。
図1及び図2からも分かるように、pH8.5における蛍光発色が弱くなり、pH9.5では明らかに蛍光発色が低下していることがわかる。
以上のように、pH8.5以上、特にpH9を超えると、蛍光発色に影響していることから、ケルセチンの配糖体の機能の一部を阻害していると考えられる。
【0020】
化粧クリームへの配合(重量比)
実験例10
実験例6で得た抽出液を、重量比で5%、10%、15%、20%、25%、30%、40%、それぞれカルボマーによるジェルクリームに配合して、蛍光発色を観察した。
暗室にて紫外線を照射して、クリームに蛍光発色が見られるかを確認した。目視による比較を容易にするために、実験例6で得た抽出液を配合していないクリームを左側に置いている。
図3(a)は5%配合、同図(b)は10%配合、同図(c)は15%配合、同図(d)は20%配合、同図(e)は25%配合、同図(f)は30%配合、同図(g)は40%配合である。
同図(h)に、目視による比較結果を示している。同図(h)において、◎は発色強、○は発色、△は発色弱、×は発色無を示している。
実験例10に示すように、5%〜10%は発色が認められるが発色は弱く、15%〜20%では十分に視認できる発色となり、発色25%を超えると発色強であることが分かる。
【0021】
実験例11
実験例6で得た抽出液を、重量比で5%、10%、15%、20%、25%、30%、40%、それぞれカルボマーによるジェルクリームに配合して、使用感を確認した。
石けんにて手洗いを行い、クリーム0.5gを両手に塗布し、被験者20人に対して使用感のアンケートを行った。ここでの使用感は、クリームを塗布した際の触感で評価を得て、とても良いを10点、良いを8点、あまり良くないを4点、悪いを0点として平均点で評価した。
評価の結果を図4に示している。
5%〜25%では8点以上の評価となっているが、40%では5.6点となっている。40%で低評価の理由は、水っぽいことにあった。
本発明では、水溶性抽出物を含む抽出液を配合するため、クリームの水分量が多くなりすぎ、触感を悪くしている。
【0022】
実験例12
実験例6で得た抽出液を、重量比で、5%、10%、15%、20%、25%、30%、40%、それぞれカルボマーによるジェルクリームに配合し、これらのクリームを切り餅に塗布して12時間経過後を観察した。本実験では、切り餅のひび割れが無いものが保湿効果があると判断している。
目視による比較を容易にするために、クリームを塗布していない切り餅を左側に置いている。
図5(a)は配合無、同図(b)は5%配合、同図(c)は10%配合、同図(d)は15%配合、同図(e)は20%配合、同図(f)は25%配合、同図(g)は30%配合、同図(h)は40%配合のクリームを塗布したものである。
同図(i)に、目視による比較結果を示している。同図(i)において、○は切り餅のひび割れがほとんどない、△は切り餅のひび割れが少ない、×はクリームを塗布しない切り餅と変わりがないことを示している。
実験例12に示すように、15%〜40%で保湿効果が認められ、特に20%〜25%では十分に保湿効果が認められる。また、特に30%以上では、切り餅の内部の水分を吸収してしまうと考えられる。
【0023】
実験例13
実験例6で得た抽出液を、重量比で、5%、10%、15%、20%、25%、30%、40%、それぞれカルボマーによるジェルクリームに配合し、これらのクリームを梅に塗布して12時間経過後を観察した。本実験では、梅の表面のしわの発生が少ないものが保湿効果があると判断している。
目視による比較を容易にするために、クリームを塗布していない12時間経過後の梅を比較対象として右側に置いている。
図6(a)はクリームを塗布していない初期の状態の梅、同図(b)は配合無、同図(c)は5%配合、同図(d)は10%配合、同図(e)は15%配合、同図(f)は20%配合、同図(g)は25%配合、同図(h)は30%配合、同図(i)は40%配合のクリームを塗布したものである。
同図(j)に、目視による比較結果を示している。同図(j)において、○はクリームを塗布しない12時間経過後の梅と比較してしわが少ないもの、◎はその中でも更にしわが少ないことを示している。
実験例13に示すように、20%〜40%で特に保湿効果が認められる。本実験では、無配合のクリームでは効果が高いにもかかわらす、5%〜15%塗布で効果が低下していることから、所定量以上の重量で配合しなければ、水分量の増加による影響が考えられる。
【0024】
実験例14
実験例6で得た抽出液を、重量比で、5%、10%、15%、20%、25%、30%、40%、それぞれカルボマーによるジェルクリームに配合し、これらのクリームを人工皮膚に塗布して3時間経過後に紫外線を照射して蛍光発色を観察した。
図7に、目視による結果を示している。同図において、○は十分な蛍光発色を確認できたもの、△は蛍光発色を確認できたもの、×は蛍光発色を確認できなかったことを示している。
実験例14に示すように、15%〜40%で蛍光発色を確認できたが、20%〜40%がよりよいことが分かる。
【0025】
実験例10から実験例14では、重量比で64.0%の水分と5.3%のグリセリンを含む化粧クリームに、水溶性抽出物が質量パーセントで0.64%含まれる抽出液を用いている。
従って、重量比で5%の抽出液を配合した場合には、化粧クリームに対して重量比で0.032%の水溶性抽出物が含まれる。また、重量比で40%の抽出液を配合した場合には、化粧クリームに対して重量比で0.256%の水溶性抽出物が含まれる。
なお、実験例11及び実験例12から、化粧クリームの水分量は、重量比で75.5%以下、更には72.7%以下が好ましい。
【0026】
本発明による水溶性抽出物は、実験例1から実験例6、及び比較例1に示すように、熱水処理によって抽出するため、質量パーセントで0.6%〜1.0%含まれる。
従って、化粧クリームの水分量を75.5%以下とするためには、水溶性抽出物が1.0%含まれる抽出液を用いた場合であっても、水溶性抽出物は、重量比で0.75%以下となる。また、化粧クリームの水分量を72.7%以下とするためには、水溶性抽出物が1.0%含まれる抽出液を用いた場合であっても、水溶性抽出物は、重量比で0.72%以下となる。
【0027】
実験例15
実験例6で得た抽出液を腕に塗布して時間経過に伴う蛍光発色を確認した。
図8に時間経過に伴う蛍光発色の変化を示している。本実験では、2人の被験者で実験を行った。
図8に示すように、塗布後5時間を経過しても十分に蛍光発色しており、水洗い後においても皮膚に蛍光物質が残存していることが分かる。
【0028】
実験例16
実験例6で得た抽出液を、カルボマーによるジェルクリーム、キサンタンガムによるジェルクリーム、及び乳化クリームに対して重量比で25%配合して蛍光発色を確認した。
図9(a)はカルボマーによるジェルクリームに配合、同図(b)はキサンタンガムによるジェルクリームに配合、同図(c)は乳化クリームに配合したものである。
いずれのクリームも十分に蛍光発色していることが分かる。
【0029】
本発明の化粧クリームによれば、熱水処理によって、桑葉を食するカイコガの繭から黄色蛍光を発するケルセチンの配糖体を含む水溶性抽出物を抽出し、水溶性抽出物を含む抽出液を配合した化粧クリームであり、抽出液には、水溶性抽出物が質量パーセントで0.6%〜1.0%含まれ、配合する抽出液を重量比で5%〜40%としたことで、セリシンとともに黄色蛍光を発するケルセチンの配糖体を有効に利用でき、保湿性に優れ、強い抗酸化力を期待できる。
【0030】
なお、実験例10から実験例14では、重量比で64.0%の水分を含む化粧クリームに水溶性抽出物が含まれる抽出液を配合しているが、あらかじめ配合する溶液として水溶性抽出物が含まれる抽出液を用いることもできる。ただし、熱水処理による抽出液は、質量パーセントで1.0%以下の水溶性抽出物しか含まれないため、化粧クリームに用いる全ての溶液として抽出液を用いた場合であっても、化粧クリームの水分量に対して水溶性抽出物は1.0%以下となる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は、蛍光発色性を有することから、化粧クリームの残存を確認するインジケータとしての利用や、メイクアップ用の化粧素材としても利用できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9