特許第6384004号(P6384004)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 北川工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6384004-熱伝導シート 図000004
  • 特許6384004-熱伝導シート 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6384004
(24)【登録日】2018年8月17日
(45)【発行日】2018年9月5日
(54)【発明の名称】熱伝導シート
(51)【国際特許分類】
   C08L 33/08 20060101AFI20180827BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20180827BHJP
   C08K 3/34 20060101ALI20180827BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20180827BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20180827BHJP
【FI】
   C08L33/08
   C08K3/013
   C08K3/34
   C08K3/22
   C08J5/18
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-270939(P2013-270939)
(22)【出願日】2013年12月27日
(65)【公開番号】特開2015-124332(P2015-124332A)
(43)【公開日】2015年7月6日
【審査請求日】2016年10月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000242231
【氏名又は名称】北川工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】特許業務法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】塩野 涼介
(72)【発明者】
【氏名】川口 康弘
【審査官】 尾立 信広
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−205498(JP,A)
【文献】 特開2010−053331(JP,A)
【文献】 特開2015−120775(JP,A)
【文献】 特開2011−132367(JP,A)
【文献】 特開2011−127053(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/100174(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0299550(US,A1)
【文献】 特開2011−111498(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 33/00− 33/26
C08K 3/00− 3/40
H01B 3/00− 3/14
C08J 5/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル酸エステルを含むモノマーを重合させてなるポリマーと、全体の質量に対して89.52〜90.52質量%の熱伝導性フィラーと、全体の質量に対して1.70質量%以下のタルクと、を含む熱伝導シート。
【請求項2】
全体の質量に対する前記タルクの含有量が1.65質量%以下である請求項1に記載の熱伝導シート。
【請求項3】
表面における、Si原子の割合が0.60質量%以上である請求項1または請求項2に記載の熱伝導シート。
【請求項4】
前記熱伝導性フィラーは、ソフトフェライトを含む請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の熱伝導シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導シートに関する。
【背景技術】
【0002】
CD−ROMや電子部品などから発生する熱をヒートシンクに伝熱するための熱伝導シートとしては、たとえば、アクリル酸エステルを含むモノマーを重合してなるアクリル系ポリマーに炭化ケイ素と水酸化マグネシウムを含有させたものなどが知られている(特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−211141号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
熱伝導シートにおいては、熱伝導性に優れ、硬度が低いという特性が求められる。熱伝導シートにおいて、熱伝導性を高めるには熱伝導フィラーの含有量を多くすることが考えられるが、フィラー含有量を多くするとシートの硬度が高くなって、もろくなり、取扱い難くなるという問題がある。
【0005】
また、熱伝導シートに含まれるアクリル系ポリマーは粘着性を有しているため、多くの場合、剥離紙を備えている。そのため、熱伝導シートには剥離紙を容易に剥離可能であるとともに、剥離紙を剥離する際にシートがちぎれないような引張力も求められる。
【0006】
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、シートの硬度を維持しつつ、剥離張力が小さく引張力の大きい熱伝導シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、アクリル酸エステルを含むモノマーを重合させてなるポリマーと、熱伝導性フィラーとを含む熱伝導シートにおいて、熱伝導性フィラーを全体の質量に対して89.52〜90.52質量%とするとともに、全体の質量に対して1.70質量%以下のタルクを含ませると、シートの硬度を維持しつつ、剥離張力が小さく引張力の大きい熱伝導シートを得ることができるという知見を得た。本発明はかかる新規な知見に基づくものである。
【0008】
すなわち本発明は、アクリル酸エステルを含むモノマーを重合させてなるポリマーと、全体の質量に対して89.52〜90.52質量%の熱伝導性フィラーと、全体の質量に対して1.70質量%以下のタルクと、を含む熱伝導シートである。
本発明によれば、全体の質量に対して89.52〜90.52質量%の熱伝導性フィラーと、全体の質量に対して1.70質量%以下のタルクを含むから、シートの硬度を維持しつつ剥離張力が小さく引張力の大きい熱伝導シートを提供することができる。
【0009】
本発明は以下の構成であるのが好ましい。
タルクの含有量が1.65質量%以下であることが好ましい。このような構成によれば、成形性に優れた熱伝導シートを提供することができる。
【0010】
表面における、Si原子の割合が0.60質量%以上であると、剥離張力を小さくすることができる。これは、シートの表面において、タルクの割合が増えてアクリル樹脂の割合が減るからと推測される。
【0011】
熱伝導性フィラーが、ソフトフェライトを含んでいると、電磁波を吸収する機能を付与することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、シートの硬度を維持しつつ、剥離張力が小さく引張力の大きい熱伝導シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】引張力評価試験のイメージ図
図2】EDS元素分析による相関グラフ
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、アクリル酸エステルを含むモノマーを重合させてなるポリマーと、全体の質量に対して89.52〜90.52質量%の熱伝導性フィラーと、全体の質量に対して1.70質量%以下のタルクと、を含む熱伝導シートである。
【0015】
アクリル酸エステルを含むモノマーを重合させてなるポリマー(「アクリル系ポリマー」ともいう)としては種々のものを使用することができ、例えば、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、i−プロピル(メタ)アクリレート、n―ブチル(メタ)アクリレート、i―ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、n−アミル(メタ)アクリレート、i−アミル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、i−オクチル(メタ)アクリレート、i−ミリスチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、i―ノニル(メタ)アクリレート、i―デシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、i―ステアリル(メタ)アクリレート等のアクリル系モノマーを重合または共重合したものを使用することができる。なお、上記(共)重合する際に使用するアクリル酸エステルは、単独で用いる他、2種類以上を併用してもよい。
【0016】
熱伝導性フィラーとしては、酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、炭化ケイ素、マグネシア、酸化亜鉛や、磁性金属(ソフトフェライト、センダスト、パーマロイ)等があげられる。熱伝導性フィラーは、単独で用いるほか2種類以上を併用してもよい。
【0017】
熱だけではなく、電磁波に関する対策を必要とする箇所・用途において、熱伝導性を有するとともに、電磁波吸収作用を有するという観点から、熱伝導性フィラーとしてソフトフェライトを含むものを用いるのが好ましい。
【0018】
さて、本発明の熱伝導シートは、全体の質量に対して1.70質量%以下のタルクを含む。タルクの含有量が熱伝導シート全体の質量に対して1.70質量%以下であると、シートの硬度を維持しつつ、剥離張力が小さく引張力の大きい熱伝導シートを得ることができる。タルクの含有量がシート全体の質量に対して1.70質量%を超えると、粘度が高くなり真空脱泡が困難となって成形性が低下するおそれがある。
【0019】
なお、タルクの含有量は、1.65質量%以下であることが好ましい。このような構成によれば、成形性に優れた熱伝導シートが得られる。

【0020】
タルクは、MgSi10(OH)で表わすことができる。熱伝導シートの表面におけるSi原子の割合が0.60質量%以上であると、表面において、タルクの割合が増えてアクリル樹脂の割合が減るので、剥離張力が小さくなる。
【0021】
熱伝導シートの厚み寸法は0.5mm以上2.0mm以下であると、成形性が良好で、熱伝導性に優れるという点で好ましい。
【0022】
熱伝導シートは、たとえばシリコン処理加工をしたPETフィルムなどの剥離紙を備える。具体的には、ニッパ(株)製のSR(S)、リンテック製GS、東山フィルム製HY−TS04等の軽剥離タイプのものなどがあげられる。
【0023】
熱伝導シートは、アクリル系ポリマーと、熱伝導性フィラーと、タルクと、を混合してフィラーを分散させた後、真空脱泡して気泡を取り除き、コーターを用いてシート成形を行うことにより得られる。
【0024】
<実施例>
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
(熱伝導シートの作製)
表1に示す配合で各種材料を混練し、真空脱泡して気泡を取り除いた後、コータにて成形することによりシート状の試料を作成した。表1におけるアクリル系ポリマーとしては、(株)日本触媒製のアクリルポリマーを、水酸化マグネシウムとしては、神島化学工業(株)製の平均粒径1μmの商品名「マグシリーズS」を、水酸化アルミニウムとしては、日本軽金属(株)製の高白色タイプ(平均粒径8μm)を、フェライトとしてはNi−Zn系のBSN−714[ソフトフェライト、戸田工業(株)製、粒径5.1μm]を、タルクとしては富士タルク工業(株)製の微粒子タルク(メディアン径11μm)を用いた。シート状の試料は一方の面に剥離紙[ニッパ(株)製のSR(S)]を備える。
【0025】
得られた各試料のアスカーC硬度、および剥離紙の剥離張力(N/20mm)を3回測定してその平均値を表1に示した。表1には以下の評価基準により評価した成形性の評価結果も記載した。
〇:成形性がよい
△:粘度が高く真空脱泡しにくかった
×:流動性がないため成形が困難
【0026】
(引張力の算出)
表1に示す配合で各種材料を混練し、真空脱泡して気泡を取り除いた後、リング状の試験片Sを作製した。試験片の内径は18mm、外径は24mm、厚みは1.5mmである。試験片Sを図1に示すように、2つの治具1A,1Bに取り付けて上側の治具1Aを矢印の方向(上方向)に引っ張ったときに、かかる力を測定して引張力を以下の式(1)により算出し、表1に示した。
引張力(MPa)=測定値F(N)/2/3mm(幅寸法)/1.5mm(厚み)(1)
上記式(1)は、Ts=Fm/2Wt[Ts(MPa):引張強さ又は引張力、Fm(N):最大の力、W(mm):リング状試験片の幅、t(mm):リング状試験片の厚さ]に基づくものである
【0027】
【表1】
【0028】
(表面分析)
比較例1(タルク含有量0質量%)、実施例1(タルク含有量0.69質量%)、実施例4(タルク含有量1.65質量%)の各シートおよび紛体状のタルク(比較例3)についてSEM−EDS[日本電子(株)製:JSM−5610LV)による元素分析を行った(測定条件:倍率500倍、加速電圧15kV、スポットサイズ48、真空度30Pa)。
【0029】
比較例1、実施例1、実施例4および比較例3については表面の分析を行い、比較例1および実施例4については断面についても分析を行い、測定した各元素の割合(質量%)を表2に示した。
表2中の「想定Si割合」とは、以下の式(2)により算出した数値であって、タルクが試料中に均等に分散されているときのSi原子の割合(質量%)である。
想定Si割合(質量%)=タルクの含有割合×30.71 (2)
「タルクの含有割合」とは、試料全体を1としたときの割合であり、試料中のタルク量が100質量%のものではタルクの含有割合は1である。
また、比較例1と実施例1と実施例4の表面の分析結果とともに想定Si割合(想定されるSi割合)をグラフに示した(図2を参照)。
【0030】
【表2】
【0031】
(結果と考察)
表1に示す結果より、実施例1〜5(タルクの含有量が全体の質量の1.70質量%以下)のシートでは、アスカーC硬度が44〜47、引張力は0.28mPa以上、剥離張力は0.32N/20mm以下であった。一方、比較例2(タルクの含有量が1.80質量%)のシートでは、引張力および剥離張力は好ましいが、アスカー硬度が51と高かった。
【0032】
この結果から、タルクの含有量を全体の質量の1.70質量%以下とすると、シートの硬度を維持しつつ、剥離張力が小さく引張力の大きい熱伝導シートを提供することができるということがわかった。
【0033】
また、実施例1〜5のうち、タルクの含有量が1.65質量%以下の実施例1〜実施例4のシートでは、成形性に優れているということがわかった。
【0034】
表2及び図2に示す結果より、実施例1および4のシートの表面では、Si原子が想定される割合よりも多く存在することが確認された。つまり、実施例1および4のシートの表面ではタルクが多く存在しているということがわかった。これにより、シートの剥離張力が小さくなっているのではないかと推測される。
【0035】
表2に示すように、実施例1および実施例4のシートでは表面のSi原子の量が0.6質量%以上であり、これらのシートは表1に示すように剥離張力が小さく引張力が大きい。これにより、本発明においては、表面における、タルクに起因するSi原子の割合が0.60質量%以上であると好ましいということがわかった。
【符号の説明】
【0036】
1A…(上側の)治具
1B…(下側の)治具
S…試験片
図1
図2