(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明する。
図1は、本発明の実施形態による車載用レーダ装置100の構成例を示す図である。
本実施形態による車載用レーダ装置100は、送受信部110と、帯域制限フィルタ120と、アナログ/デジタル変換器(A/D)130と、周波数解析部140と、目標検出処理部150(速度特定部)とを備えている。
【0013】
送受信部110は、送信信号STXの周波数を変化させて送信波(CW変調波)を送信し、上記送信波の反射波を受信して得られる受信信号SRXと上記送信信号STXとからビート信号SBTを発生させるものである。送受信部110は、多周波CW信号生成部111、送信アンテナ112、受信アンテナ113、混合器114を備えている。
【0014】
ここで、多周波CW信号生成部111は、CW(連続波)信号の周波数を段階的に変化させて送信信号STXを生成するものである。送信信号STXは送信アンテナ112に供給される。送信アンテナ112は、送信信号STXを送信波として空間に放射するものである。送信アンテナ112は、例えば指向性を有するアンテナであり、送信波の放射方向を車両の進行方向に向けて設置されている。受信アンテナ113は、送信アンテナ112から放射された送信波の反射波を受信するものである。混合器114は、多周波CW信号生成部111により生成された送信信号STXと、受信アンテナ113により受信された受信信号SRXとを混合してビート信号SBTを生成するものである。
【0015】
帯域制限フィルタ120は、ビート信号SBT以外の信号成分を抑圧して、混合器114の出力信号からビート信号SBTを取り出すものである。アナログ/デジタル変換器130は、帯域制限フィルタ120を通過したアナログ量のビート信号SBTをサンプリングして、デジタル量のビート信号を表すサンプルデータDSを生成するものである。周波数解析部140は、ビート信号SBTの信号系列に対応するサンプルデータDSのデータ系列に対して所定の周波数解析処理を実施することにより、速度成分Vと距離成分Rとを含む2次元スペクトラムSPCを生成するものである。
【0016】
目標検出処理部150は、2次元スペクトラムSPCから目標(図示なし)を検出するための目標検出処理(例えば、測速度処理、測距離処理)を実施するものである。目標検出処理部150は、目標検出処理の結果として、目標までの距離RTと目標の速度VT(対地速度)を含む目標検出データTRVを出力する。また、目標検出処理部150は、自車(車載用レーダ装置100が取り付けられた車両)の速度を特定する速度特定部として機能する。速度特定部としての目標検出処理部150は、上述の2次元スペクトラムSPCを速度成分Vに関して複数のブロックに分割し、これら複数のブロックのそれぞれに対してCFAR(Constant False Alarm Rate)処理を実施することにより得られる検出閾値DTに基づいて自車の速度を特定する。本実施形態では、速度特定部としての目標検出処理部150は、上記複数のブロックのそれぞれを、更に、2次元スペクトラムSPCの距離成分Rに関して複数のセルに分割し、複数のセルのそれぞれに対してCFAR処理を実施することにより、セル毎に検出閾値DTを取得する。目標検出処理150は、CFAR処理により得られる検出閾値DTを用いて自車の速度を表す自車速度データDVSを取得するが、その詳細については後述する。
【0017】
次に、本実施形態による車載用レーダ装置100の動作を説明する。
概略的には、車載用レーダ装置100は、送信信号STXと受信信号SRXとに基づいて得られるビート信号SBTから2次元スペクトラムを生成し、この2次元スペクトラムに対して目標検出処理を実施することにより、目標までの距離RTと目標の速度VT(対地速度)を表す目標検出データTRVを生成する。加えて、車載用レーダ装置100は、上記目標検出処理の過程で自車速度取得処理を並行して実施することにより自車速度データDVSを生成する。この自車速度データDVSは、例えば、2次元スペクトラムSPCから得られる速度成分V(相対速度)から、目標の速度VT(対地速度)を算出するために用いられる。
【0018】
本実施形態において、目標検出処理および自車速度取得処理は2次元スペクトラムSPCが生成されていることを前提としているため、目標検出処理および自車速度取得処理を具体的に説明する前に、2次元スペクトラムSPCを生成するまでの動作を説明する。
送受信部110の多周波CW信号生成部111は、次に説明するように、時間の経過とともに周波数を段階的に変化させることにより、CW変調信号である送信信号STXを生成する。
【0019】
図2は、本発明の実施形態による車載用レーダ装置100の動作を説明するための図であり、送信信号STXを説明するための図である。
図2に示すように、多周波CW信号生成部111は、送信信号STXの送信周波数FTXを第1周期Tst毎に一定値だけ変化(上昇または下降)させることにより、送信周波数FTXが段階的に変化する送信信号STXを生成する。
図2の例では、送信周波数FTXを変化させる各段階を表す変数n(n=0,1,2,…N−2,N−1)(Nは任意の整数)が第1周期Tst毎に1だけ増加し、変数nが増加するたびに送信周波数FTXが一定値だけ上昇している。これにより、送信信号STXの送信周波数FTXとして、所定の第1周期Tst毎に送信周波数FTX(0),FTX(1),…,FTX(N−2),FTX(N−1)が順次得られる。なお、上述の例に限らず、変数nが増加するたびに送信周波数FTXを一定値だけ下降させてもよい。
【0020】
続いて、多周波CW信号生成部111は、上述の第1周期Tst毎に周波数が段階的に変化する送信信号STXを、第1周期TstのN倍以上の所定の第2周期Tsw毎に繰り返して出力する。
図2の例では、送信信号STXの繰り返し段階を表す変数m(0,1,…,M−1)(Mは任意の整数)が第2周期Tsw毎に「1」だけ増加し、変数mが増加するたびに、送信周波数FTXとして、送信周波数FTX(0),FTX(1),…,FTX(N−2),FTX(N−1)が繰り返し得られている。送受信部110は、
図2に示す送信周波数FTXを有する送信信号STXから形成される送信波を送信アンテナ112から送信する。
【0021】
続いて、送受信部110は、送信アンテナ112から送信された送信波が目標に照射された際に発生する反射波を受信ナンテナ113で受信する。この反射波には、路面等からのクラッタ成分が含まれている。送受信部110の混合器114は、受信アンテナ113で反射波を受信して得られた受信信号SRXと、多周波CW信号生成部111により生成された送信信号STXとから、ビート信号SBTを発生させる。ビート信号SBTは、送信信号STXと受信信号SRXの位相差を表す信号である。ビート信号SBTは帯域制限フィルタ120を通り、アナログ/デジタル変換器130によりサンプリングされてデジタル量に変換される。これにより、ビート信号SBTのデジタル量を表すサンプルデータDSが得られる。
【0022】
続いて、周波数解析部140は、上述のサンプルデータDSから2次元スペクトラムSPCを生成する。具体的には、周波数解析部140は、
図2に示す変数nと変数mの2つの変数によって特定される各段階で取得されたビート信号SBTのサンプルデータDSから2次元マトリックスデータ(以下、「2次元データ」と称す。)を生成する。この2次元データに対応する2次元平面において、変数nに対応する次元を表す軸方向には、変数nの値に対応するように各サンプルデータDSが配列され、変数mに対応する他の次元を表す軸方向には、変数mの値に対応するように各サンプルデータDSが配列される。ただし、このようなサンプルデータDSの2次元データは概念的なものであり、実際には、例えば変数m,nにより特定されるメモリのアドレス空間に各サンプルデータDSを割り付けることにより2次元データを作成する。
【0023】
このような2次元データには、
図2に示す第1周期Tst毎に発生されるビート信号SBTからなる第1信号系列と、第2周期Tsw毎に発生されるビート信号SBTからなる第2信号系列とを含む2次元信号系列のサンプルデータDSが含まれる。ここで、第1信号系列は、
図2において、変数mにより示される各繰り返し周期の期間(例えば、
図2の時刻t(0)から時刻t(1)までの期間)において、変数nにより特定される各段階の送信周波数FTX(0),FTX(1),…,FTX(N−1)のそれぞれに対応したビート信号の集合である。例えば、変数mの値が「0」である場合の繰り返し周期の期間(
図2の時刻t(0)から時刻t(1)までの期間)には、変数nによって特定される段階に対応したN個のビート信号が存在し、これらビート信号の集合が1つの第1信号系列を形成する。
図2の例では、変数mにより示される繰り返し周期の個数Mに対応して、合計M個の第1信号系列が存在する。
【0024】
また、第2信号系列は、
図2において、変数nにより特定される段階に対応したビート信号の集合であって、変数mにより示されるM個の繰り返し周期の各期間で得られるM個のビート信号の集合である。例えば、変数nの値が「0」である場合の段階に着目すれば、変数mによって特定されるM個の繰り返し周期に対応したM個のビート信号が存在し、このM個のビート信号の集合が1つの第2信号系列を形成する。
図2の例では、段階の個数Nに対応して、合計N個の第2信号系列が存在する。
【0025】
周波数解析部140は、上述の第1信号系列および第2信号系列を含む2次元信号系列のサンプルデータDSに対し、次に説明するように、所定の周波数解析処理として2次元FFT(Fast Fourier Transform)を実施することにより、2次元スペクトラムSPCを生成する。
図3は、本発明の実施形態による車載用レーダ装置100の動作を説明するための図であり、
図3(A)は、周波数解析処理の第1段階の処理を説明するための図であり、
図3(B)は、周波数解析処理の第2段階の処理を説明するための図である。
【0026】
周波数解析部140は、周波数解析処理の第1段階の処理として、上述の2次元信号系列に含まれる第1信号系列および第2信号系列のうち、第1信号系列に関するFFT(Fast Fourier Transform)を先に実施する。即ち、上述の2次元信号系列に対し、変数mの方向にFFTを実行する。これにより、
図3(A)に示すように、変数nのそれぞれについて、速度成分Vに対応したドップラー周波数fbのスペクトラムが得られる。
【0027】
続いて、周波数解析部140は、周波数解析処理の第2段階の処理として、上述の第1信号系列に関するFFTの処理結果に対し、第2信号系列に関するFFTを実施する。即ち、
図3(A)に示されるドップラー周波数fbのスペクトラムの信号系列に対し、変数nの方向にFFTを実行する。これにより、
図3(B)に示すように、ドップラー周波数fbのそれぞれについて、距離成分Rに対応した周波数frのスペクトラムが得られる。
【0028】
上述の周波数解析処理(2次元FFT)の結果、周波数解析部140は、自車の速度成分Vに対応したドップラー周波数fbと、目標までの距離成分Rに対応した周波数frとを含む2次元スペクトラムSPCを得る。周波数解析部140は、2次元スペクトラムSPCの各周波数成分(fb,fr)に対応した信号レベル(振幅)を示す値をメモリ(図示なし)に格納する。本実施形態では、2次元スペクトラムSPCを格納するメモリは周波数解析部140に備えられているものとするが、この例に限定されず、このようなメモリは周波数解析部140の外部に備えられてもよい。以上により、2次元スペクトラムSPCが生成される。
【0029】
次に、上述の2次元スペクトラムSPCに対する目標検出処理および自車速度取得処理について説明する。
図4は、本発明の実施形態による車載用レーダ装置100の動作例の流れを示す図であり、
図4(A)は、目標検出処理の流れを示し、
図4(B)は、自車速度取得処理の流れを示す。
まず、
図4(A)のフローに沿って、目標検出データTRVを生成するための目標検出処理に着目して車載用レーダ装置100の動作の流れを説明する。
【0030】
目標検出処理部150は、次に説明するように、周波数解析部140により生成された上述の2次元スペクトラムSPCを複数のブロックに分割する(ステップS1)。
図5は、本発明の実施形態による車載用レーダ装置100の動作を説明するための図であり、2次元スペクトラムSPCの分割手法の一例を説明するための図である。ここで、
図5(A)は、分割対象の2次元スペクトラムSPCを模式的に表し、
図5(B)は、複数のブロックB(0),B(1),…,B(17)に分割された2次元スペクトラムSPCを表し、
図5(C)は、複数のセルC(0,0),C(1,0),C(2,0),…,C(17,2)に分割された2次元スペクトラムSPCを表している。
図5(A)〜(C)において、横軸は速度成分Vに対応する周波数を表し、縦軸は距離成分Rに対応する周波数を表している。
【0031】
目標検出処理部150は、第1分割段階として、
図5(A)に示す2次元スペクトラムSPCを、
図5(B)に示すように、速度成分Vに関して複数のブロックB(0),B(1),…,B(17)に分割する。
図5(B)の例では、説明の簡略化のため、18個のブロックB(0),B(1),…,B(17)に分割しているが、ブロックの個数はこの例に限定されず、任意である。
【0032】
図6は、本発明の実施形態による車載用レーダ装置100の動作を説明するための図であり、2次元スペクトラムSPCのブロック分割の詳細を説明するための図である。
図6では、
図5に示す18個のブロックB(0)〜B(17)のうち、8個のブロックB(0)〜B(7)を代表的に示している。
本実施形態では、目標検出処理部150は、所定の速度ビンBIN(0),BIN(1),…,BIN(17)に対応させて2次元スペクトラムSPCを複数のブロックB(0),B(1),…,B(17)に分割する。
図6の例では、速度ビンBIN(0)は、0−4km/hの速度区間を表し、ブロックB(0)に対応している。また、速度ビンBIN(1)は、5−9km/hの速度区間を表し、ブロックB(1)に対応している。以下同様にして、速度ビンBIN(7)は、35−39km/hの速度区間を表し、ブロックB(7)に対応している。なお、
図6の速度ビンの定義は一例に過ぎず、必要とする精度に応じて、各速度ビンに対応する速度区間を適切に定めればよい。
【0033】
説明を
図5に戻す。目標検出処理部150は、第2分割段階として、
図5(B)に示す複数のブロックB(0),B(1),…,B(17)のそれぞれを距離成分Rに関して分割することにより、
図5(C)に示すように、2次元スペクトラムSPCを複数のセルC(0,0),C(1,0),C(2,0),…,C(17,2)に分割する(ステップS2)。
図5(C)の例では、2次元スペクトラムSPCは、合計54(=18×3)個のセルに分割されている。本実施形態では、路面クラッタによる信号成分から自車の速度(対地速度)を取得するために、各セルの形状が2次元スペクトラムSPCにおける路面でのクラッタによる信号成分の分布に対応した形状となるように、各セルの個数とサイズが設定されている。なお、セルの個数およびサイズは、この例に限定されず、任意である。
【0034】
続いて、目標検出処理部150は、複数のセルC(0,0),C(1,0),C(2,0),…,C(17,2)のそれぞれに対してCFAR(Constant False Alarm Rate)処理を実施することにより、各セルの検出閾値DTを順次取得する(ステップS3)。この検出閾値DTを取得する過程で、目標検出処理部150は、検出閾値DTを利用して、自車の速度(対地速度)を示す自車速度データDVSを取得するための自車速度取得処理(
図4(B)のステップS31,S32)を実施するが、その詳細は後述する。
【0035】
続いて、目標検出処理部150は、各セルについて、信号レベルが検出閾値DTを上回るサンプルを検出する(ステップS4)。続いて、目標検出処理部150は、2次元スペクトラムSPCの各信号レベルを示す全サンプルのうち、各セルにおいて検出閾値DTを上回るサンプルを対象として局所ピークを示すサンプルを検出する(ステップS5)。ここで、局所ピークを示すサンプルとは、信号レベルが極大値を示すサンプルを指す。そして、目標検出処理部150は、局所ピークを示すサンプルを、目標の信号成分を表すサンプルとして登録し(ステップS6)、このサンプルに対応する2次元スペクトラムSPC上の速度成分Vと距離成分Rを特定する。上述の局所ピークを示すサンプルから特定された速度成分Vと距離成分Rのうち、速度成分Vは目標と自車との間の相対速度を示し、距離成分Rは、目標と自車との間の距離を示す。目標検出処理部150は、目標と自車との間の相対速度を表す速度成分Vから、後述の自車速度取得処理によって取得した自車の速度(対地速度)を差し引くことにより目標の速度VT(対地速度)を算出し、この目標の速度VTと目標までの距離RTを目標検出データTRVとして出力する。以上により、目標検出処理が実施され、目標検出データTRVが得られる。
【0036】
次に、
図4(B)のフローに沿って、自車の速度(対地速度)を表す自車速度データDVSを生成するための自車速度取得処理に着目して車載用レーダ装置100の動作の流れを説明する。
目標検出処理部150は、上述した目標検出処理のステップS3において各セルの検出閾値DTを順次取得する過程で速度特定部として機能し、自車速度データDVSを取得するための自車速度取得処理を実施する。この自車速度取得処理において、目標検出処理部150は、
図5(C)に示す複数のセルC(0,0),C(1,0),C(2,0),…,C(17,2)のそれぞれに対してCFAR処理を実施することにより得られる検出閾値DTの最大値DTMを取得する(ステップS31)。
【0037】
具体的には、目標検出処理部150は、各セルの検出閾値DTを順次取得する過程で、今回のCFAR処理の対象となっているセルの検出閾値DTと、前回のCFAR処理の対象となっていたセルの検出閾値DTとを比較し、今回の検出閾値DTの方が前回の検出閾値DTよりも大きい場合、今回のセルの検出閾値DTを、検出閾値DTの最大値の候補値DTCとする(ステップS311)。目標検出処理部150は、複数のセルC(0,0),C(1,0),C(2,0),…,C(17,2)のそれぞれに対してCFAR処理が実施されて新たに検出閾値DTが取得される都度、同様の比較処理を繰り返し、検出閾値DTの最大値の候補値DTCを更新する。そして、目標検出処理部150は、最後に残った候補値DTCを検出閾値DTの最大値DTMとして取得する(ステップS312)。
【0038】
続いて、目標検出処理部150は、複数のセルC(0,0),C(1,0),C(2,0),…,C(17,2)のうち、検出閾値DTの最大値DTMが取得されたセルに対応する速度ビン(
図6参照)によって示される2次元スペクトラムSPC上の速度成分Vを自車の速度(対地速度)として特定し(ステップS32)、その速度成分Vから自車速度データDVSを生成して出力する。ここで、路面でのクラッタによる信号成分は自車の速度(対地速度)と等しい周波数成分に集中する傾向がある。前述したように、分割された2次元スペクトラムSPCの各セルの形状(
図5(C)参照)は、路面でのクラッタによる信号成分の分布(
図7(A)参照)に対応した形状に設定されているので、検出閾値DTの最大値DTMが取得されたセルには、路面でのクラッタによる信号成分が多く含まれている。このため、検出閾値DTの最大値DTMが取得されたセルに対応する2次元スペクトラムSPC上の速度成分Vを自車の速度として特定することができる。なお、路面でのクラッタによる信号成分の分布(
図7(A)参照)に対応したセルの形状は、路面でのクラッタによる信号成分を検出することができることを限度に、任意に設定することができる。
【0039】
自車速度データDVSによって示される自車の速度(対地速度)は、前述の目標検出処理において、目標検出データTRVに含まれる目標の速度VT(対地速度)を算出する際に用いられる。具体的には、目標検出処理部150は、前述の目標検出処理において局所ピークを示すサンプルの速度成分Vによって示される目標の速度(相対速度)から、自車速度取得処理において検出閾値DTの最大値DTMが取得されたセルに対応する速度成分V(自車速度データDVS)によって示される自車の速度(対地速度)を差し引くことにより、目標の速度VT(対地速度)を算出する。目標検出処理部150は、自車の速度(対地速度)を自車速度データDVSとして出力すると共に、目標の速度VT(対地速度)と目標までの距離RTとを目標検出データTRVとして出力する。これら自車速度データDVSおよび目標検出データTRVは、目標に関する情報として自車の運転者等に提示される等、その利用方法は任意である。
【0040】
図7は、本発明の実施形態による車載用レーダ装置100の実験結果として得られた2次元スペクトラムの一例を説明するための図である。ここで、
図7(A)は、実験結果として得られた2次元スペクトラムを模式的に示し、
図7(B)は、実験において設定された条件を示す。
図7(B)に示すように、車両用レーダ装置100は、一定の速度V1(対地速度)で走行する車両(自車)に搭載されている。この実験では、自車の速度V1は約4km/hに設定されている。この車両の前方から目標TGが対地速度V2で移動しながら接近している。車両用レーダ装置100が搭載された車両の走行経路と目標TGの走行経路との間の間隔は約1mに設定されている。
【0041】
図7(A)に例示するように、実験結果として得られた2次元スペクトラムには、目標TGからの反射波と路面でのクラッタ成分を含む信号成分(斜線領域)が含まれている。ただし、実験では、2次元スペクトラムを分割する際の基準となる速度ビンは、上述の
図6に示すものとは異なり、1km/h単位で設定されている。
図7(A)の例では、目標TGからの反射波と路面でのクラッタ成分を含む信号成分(斜線領域)は、概ね10km/h以下の速度ビンの領域に集中している。この場合、例えば、前述の
図6に例示する0−4km/hに対応する速度ビンBIN(0)により示されるブロックB(0)に属するセルの検出値DTと、5−9km/hに対応する速度ビンBIN(1)により示されるブロックB(1)に属するセルの検出閾値DTが上昇する傾向を示す。目標検出処理部150は、最大値を示す検出閾値DTに対応するセルが属するブロックの速度ビンから速度成分Vを自車速度として特定する。
【0042】
図8は、本発明の実施形態による車載用レーダ装置100の実験結果として得られた自車速度の一例を示す図である。
図8において、横軸は時間を表し、縦軸は、実験結果として得られた自車速度を表している。
図8から理解されるように、車両の走行開始とともに自車速度が徐々に上昇し、定速走行状態では、実験結果として得られた自車速度は、設定速度である約4km/h付近で安定している。この実験により、本実施形態による車両用レーダ装置100により取得される自車速度の有効性が確認された。
【0043】
<変形例>
上述した実施形態では、2次元スペクトラムSPCを複数のブロックB(0),B(1),…,B(17)に分割した後、さらに複数のブロックを複数のセルC(0,0),C(1,0),C(2,0),…,C(17,2)に分割したが、複数のブロックB(0),B(1),…,B(17)をCFAR処理の対象として検出閾値DTを取得してもよい。この場合、ノイズ環境が異なる遠方と近傍の各信号レベルに対して同一の検出閾値DTが適用されるため、目標の検出精度が低下する場合が起こり得るが、路面からのクラッタ成分が2次元スペクトラムSPCの速度成分に対応したブロックに集中する環境では、このクラッタ成分が出現するブロックに対応した速度成分から自車速度を把握することができる。従って、2次元スペクトラムSPCを速度成分Vに関して複数のブロックに分割し、これら複数のブロックに対してCFAR処理を実施して得られた検出閾値DTから自車速度を推定することも可能である。
【0044】
また、上述の実施形態では、車載用レーダ装置100は、目標検出処理部150の目標検出処理により目標検出データTRVを取得し、自車速度取得処理により自車速度データDVSを取得するものとして説明したが、自車速度データDVSのみを取得するものとして車両用レーダ装置100を構成してもよい。
【0045】
また、
図5(B)に示す例では、2次元スペクトラムSPCを複数のブロックB(0),B(1),…,B(7)に分割する際に、2次元スペクトラムSPCを均等に分割しているが、2次元スペクトラムSPCを不均等に分割してもよい。
また、
図5(C)に示す例では、複数のブロックB(0),B(1),…,B(17)を複数のセルC(0,0),C(1,0),C(2,0),…,C(17,2)に分割する際に、各ブロックを均等に分割しているが、この例に限定されず、例えば自車(車載用レーダ装置100)からの距離に応じて、複数のブロックのそれぞれを不均等に分割してもよい。
【0046】
上述した本実施形態によれば、複数のセルC(0,0),C(1,0),C(2,0),…,C(17,2)のうち、クラッタ成分が集中するセルの検出閾値DTが他のセルの検出閾値DTよりも有意に高くなる傾向を示すため、目標検出処理部150(速度特定部)は、クラッタが集中するブロックに対応する2次元スペクトラムSPC上の速度成分Vから自車速度を特定することができる。従って、車両側と通信することなく、自車速度を取得することが可能になる。このため、車両側から車載用レーダ装置100に自車速度に関する情報を送信する必要がなく、また、車両用レーダ装置100においても車両側から自車速度に関する情報を取得する必要がなく、双方の通信負荷を軽減させることができる。
また、上述した本実施形態によれば、目標検出に必要なCFAR処理を実行する過程で得られる閾値を利用するので、計算量の増加を抑制しつつ、自車の速度を特定するための処理を完遂することができる。
【0047】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内で様々な変形や応用が可能である。