(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
フランジ部を有する内輪と、この内輪の径方向外側の外輪と、これら内輪と外輪との間に設けられている転動体と、この転動体が存在する軸受内部に異物が浸入するのを防ぐシール装置と、を備え、
前記シール装置は、前記外輪に取り付けられる芯金、及びこの芯金に固定されたシール部材を備え、
前記芯金は、前記外輪の端部内周に嵌合する円筒部、当該円筒部よりも径方向外側へ延び前記外輪の端面に当接する外側円環部、及び当該円筒部よりも径方向内側へ延びている内側円環部を有し、
前記シール部材は、前記外側円環部の前記フランジ部側及び前記円筒部の内周側を被覆すると共に前記フランジ部の側面との間に空間が形成される被覆部、前記内側円環部から前記フランジ部へ向かって延び当該フランジ部の内側シール面に摺接する内側リップ部、及び前記外側円環部から前記フランジ部へ向かって延び当該フランジ部の外側シール面との間に微小隙間を形成する外側リップ部を有し、
前記被覆部は、前記空間に水が滞留するのを抑制すべく当該空間を拡大させるための異形部を有し、
前記外側シール面は、径方向外側に向かうにしたがって前記外輪の端面から軸方向に徐々に離れる形状である凹曲状の面に含まれる面であり、前記内側シール面は、軸受中心線に直交する直交面を含み、前記フランジ部の側面において、前記凹曲状の面と前記直交面との間であって、当該直交面を径方向外側へ延長した位置に変曲部が形成されており、
前記被覆部は、前記外側円環部の前記フランジ部側を被覆する円環状の外側被覆部と、前記円筒部の内周側を被覆する円筒状の内周被覆部と、これら外側被覆部と内周被覆部との間の中間被覆部と、を有し、
前記異形部は、前記フランジ部側に向かって凸となる円弧形状を表面に有する前記中間被覆部からなり、
前記円弧形状の前記外側被覆部側における始点は、前記変曲部と径方向について同じ位置にある、又は、前記変曲部よりも径方向外側に位置していることによって、前記始点から径方向外側にある前記外側被覆部と、前記変曲部から径方向外側にある前記凹曲状の面と、が軸方向で対向しており、前記始点から径方向内側にある前記凸となる円弧形状の表面と、前記変曲部から径方向内側にある前記直交面と、が軸方向で対向していることを特徴とする車輪用軸受装置。
前記シール部材は、前記外側円環部の径方向外側の端部から前記フランジ部と反対方向に向かって延び、前記外輪の端部の外周面に接触している第2の外側リップ部を、更に有し、
前記第2の外側リップ部の内周側に凹周溝が形成されている請求項1に記載の車輪用軸受装置。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両には、タイヤホイールやブレーキディスクを取り付けるための車輪用軸受装置が用いられている。この車輪用軸受装置は、フランジ部を有する内輪、この内輪の径方向外側に設けられ車体側に固定される外輪、これら内輪と外輪との間に設けられている転動体、及びこの転動体が存在する軸受内部に異物が浸入するのを防ぐためのシール装置を備えている(例えば、特許文献1参照)。このシール装置はリップ部を有しており、このリップ部は、前記フランジ部の側面の一部(シール面)に摺接する。
このような車輪用軸受装置は、前記異物として雨水の他に特に寒冷地では融雪剤を含む泥水が付着することのある環境で使用されることから、軸受内部の例えば軌道面において錆を生じさせないように、前記シール装置は信頼性及び耐久性の高いものである必要がある。
【0003】
特許文献1に記載のシール装置の場合、外輪の端部と内輪のフランジ部との間には隙間が形成されており、この隙間において水(雨水や泥水)が表面張力により保持され滞留することがある。なお、この隙間における水の滞留は、車両が停止し内輪の回転が止まっている状態で、車輪用軸受装置の底部において生じやすい。
このように水が滞留するとフランジ部に錆が発生し、この錆がやがて前記シール面へと進行する。この場合、車輪と共に内輪が回転すると、このシール面に摺接するリップ部が著しく摩耗し、このリップ部のシール機能が低下し漏水が生じる。この結果、転動体(例えばころや玉)の軌道面にまで水が浸入して軌道面に錆が生じ、内輪が回転すると異音や振動等の不具合が発生してしまう。
【0004】
そこで、
図4に示すように、フランジ部95の一部(シール面93)に摺接する第1のリップ部91の他に、第2のリップ部92を備えているシール装置(デフレクタシール)90が知られている。第2のリップ部92は、フランジ部95との間に微小な隙間dを形成して、ラビリンスシールを構成し、水の浸入を抑制している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、
図4に示すように、第1のリップ部91が摺接する内側シール面93と、第2のリップ部92との間に隙間dを形成する外側シール面94との間には、変曲部(エッジ)96が形成されており、しかも、この変曲部96は、シール装置90の一部97と近接した状態にある。さらに、このシール装置90の一部97と内側シール面93の一部とが平行となって対向する領域が長くなっている。この場合、仮に第2のリップ部92から僅かでも水が浸入すると、この浸入した水が、シール装置90の前記一部97と変曲部96との間で表面張力によって保持され滞留し、変曲部96及びその近傍の領域で錆が発生しやすくなる。
【0007】
この錆が発生する領域は、内側シール面93に近いことから、特許文献1の場合と同様に、この錆がやがて内側シール面93に進行し、内輪が回転すると、このシール面93に摺接する第1のリップ部91は著しく摩耗する。すると、このリップ部91の機能が低下し漏水が生じ、この結果、車輪用軸受装置の転動体(例えばころや玉)の軌道面にまで水が浸入して軌道面に錆が生じ、内輪が回転すると異音や振動等の不具合が発生し、車輪用軸受装置の寿命を低下させてしまうおそれがある。
【0008】
そこで、本発明は、寿命低下を抑えることができるシール装置を備えている車輪用軸受装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明の車輪用軸受装置は、フランジ部を有する内輪と、この内輪の径方向外側の外輪と、これら内輪と外輪との間に設けられている転動体と、この転動体が存在する軸受内部に異物が浸入するのを防ぐシール装置と、を備え、前記シール装置は、前記外輪に取り付けられる芯金、及びこの芯金に固定されたシール部材を備え、前記芯金は、前記外輪の端部内周に嵌合する円筒部、当該円筒部よりも径方向外側へ延び前記外輪の端面に当接する外側円環部、及び当該円筒部よりも径方向内側へ延びている内側円環部を有し、前記シール部材は、前記外側円環部の前記フランジ部側及び前記円筒部の内周側を被覆すると共に前記フランジ部の側面との間に空間が形成される被覆部、前記内側円環部から前記フランジ部へ向かって延び当該フランジ部の内側シール面に摺接する内側リップ部、及び前記外側円環部から前記フランジ部へ向かって延び当該フランジ部の外側シール面との間に微小隙間を形成する外側リップ部を有し、前記被覆部は、前記空間に水が滞留するのを抑制すべく当該空間を拡大させるための異形部を有していることを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、シール部材の被覆部が有している異形部によって、フランジ部の側面との間に形成される空間を拡大させ、外側リップ部とフランジ部(外側シール面)との間から水が浸入したとしても、この空間に例えば表面張力によって水が滞留するのを抑制する。このため、前記空間における水の滞留によるフランジ部の錆の発生を防ぎ、内側シール面においても錆が生じるのを防止することができる。したがって、内側シール面に摺接する内側リップ部の損傷を防いでシール装置の寿命を高めることができ、この結果、車輪用軸受装置の寿命低下を抑えることができる。
【0011】
(2)また、前記(1)の車輪用軸受装置において、前記フランジ部の側面において、軸受中心線に直交する面を含む前記内側シール面を径方向外側へ延長した位置に変曲部が形成されており、前記被覆部は、前記外側円環部の前記フランジ部側を被覆する円環状の外側被覆部と、前記円筒部の内周側を被覆する円筒状の内周被覆部と、これら外側被覆部と内周被覆部との間の中間被覆部とを有し、前記異形部は、前記フランジ部側に向かって凸となる円弧形状を表面に有する前記中間被覆部からなり、前記円弧形状の前記外側被覆部側における始点は、前記変曲部と径方向について同じ位置にある、又は、前記変曲部よりも径方向外側に位置している構成とすることができる。
この場合、中間被覆部の表面において、円弧形状の外側被覆部側における始点は、変曲部と径方向について同じ位置にある、又は、変曲部よりも径方向外側に位置していることから、フランジ部と被覆部との間に形成される空間を、この変曲部を含む範囲で、径方向内側に向かって拡大させる構成となる。また、この円弧形状からなる表面は、軸受中心線に直交する内側シール面と平行にならないことから、特に前記変曲部及びその近傍において、例えば表面張力によって水が滞留するのを抑制することができる。
【0012】
(3)または、前記(1)の車輪用軸受装置において、前記フランジ部の側面において、軸受中心線に直交する面を含む前記内側シール面を径方向外側へ延長した位置に変曲部が形成されており、前記被覆部は、前記外側円環部の前記フランジ部側を被覆する円環状の外側被覆部と、前記円筒部の内周側を被覆する円筒状の内周被覆部と、これら外側被覆部と内周被覆部との間の中間被覆部とを有し、前記異形部は、径方向内側に向かうにしたがって前記フランジ部の側面から離れる方向に傾斜する斜面を表面に有する前記中間被覆部からなる構成とすることができる。
この場合、中間被覆部は、径方向内側に向かうにしたがって前記フランジ部から離れる方向に傾斜する斜面を表面に有することで、フランジ部の側面と被覆部との間に形成される空間を径方向内側に向かって拡大させる構成となる。
【0013】
(4)また、前記シール部材は、前記外側円環部の径方向外側の端部から前記フランジ部と反対方向に向かって延び、前記外輪の端部の外周面に接触している第2の外側リップ部を、更に有し、前記第2の外側リップ部の内周側に凹周溝が形成されているのが好ましい。
この場合、外輪端部の外周面と第2の外側リップ部との間に水が浸入して例えば錆が発生してこの外周面が膨らんだり異物が堆積したりしても、これら錆や異物が第2の外側リップ部を圧迫するのを凹周溝によって抑制することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の車輪用軸受装置によれば、シール装置の外側リップ部とフランジ部(外側シール面)との間から水が浸入したとしても、フランジ部の側面と被覆部との間に形成される空間に例えば表面張力によって水が滞留するのを抑制する。このため、前記空間における水の滞留によるフランジ部の錆の発生を防ぎ、内側シール面においても錆が生じるのを防止することができる。したがって、内側シール面に摺接する内側リップ部の損傷を防いでシール装置の寿命を高めることができ、この結果、車輪用軸受装置の寿命低下を抑えることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、車輪用軸受装置1の実施の一形態を示す縦断面図である。この車輪用軸受装置1は、自動車等の車体に設けられている懸架装置5に取り付けられ、この懸架装置5に対して図外のタイヤホイールやブレーキディスクを回転自在に支持するものである。この車輪用軸受装置1は、外輪11、内輪12、これら外輪11と内輪12との間に設けられている複数のころ13(転動体)、及びこれら複数のころ13を保持する保持器14を備えている。なお、本実施形態では、転動体を円錐ころ13としており、この車輪用軸受装置1は複列の円錐ころ軸受を含む構成としている。
【0017】
外輪11は、内輪12の径方向外側に設けられている筒状の部材であり、懸架装置5に固定されることで固定輪となる。外輪11の内周面には外輪軌道11a,11bが形成されており、外輪11の外周には懸架装置5に固定される取り付けフランジ部11cが形成されている。
内輪12は、径方向外側に延びるフランジ部15を有している軸状の部材(本実施形態では、中空軸状の部材)であり、外輪11と同心に配置される。内輪12の一部である内輪本体16が外輪11の内周側に位置し、内輪12は外輪11に対して回転する回転輪となる。内輪12の外周面には、前記外輪軌道11a,11bに対向する内輪軌道12a,12bが形成されている。
外輪軌道11a,11bと内輪軌道12a,12bとの間にはそれぞれ複数のころ13が転動自在に配置されている。複数のころ13は、保持器14によって周方向に所定間隔を保つようにして保持されている。
【0018】
内輪12の軸方向の一端部側(
図1では右側)には、図外のタイヤホイールやブレーキディスクを取り付けるためのフランジ部15が形成されている。このフランジ部15と外輪11の軸方向端部18との間には、軸方向の隙間dが形成されている。この隙間dは、径方向外側(径外方向)に開口している。
【0019】
また、内輪12は、内輪本体16とリング部材17とを組み合わせて構成されている。内輪本体16は、第一の内輪軌道12aが外周面に形成されている。そして、内輪本体16の軸方向の一端部側において、フランジ部15がこの内輪本体16と一体となって設けられている。そして軸方向の他端部側には内輪軌道12aよりも小径に形成された小径部16aが形成されている。
リング部材17は、円環状の部材であり、その外周面に第二の内輪軌道12bが形成されている。このリング部材17は、小径部16aに外嵌するようにして設けられ、内輪本体16の他端部に形成されたかしめ部16bによってリング部材17を固定し、リング部材17と内輪本体16とを一体としている。
【0020】
外輪11と内輪12との間には、環状空間が形成されており、この環状空間に複数のころ13が設けられている。また、この環状空間の軸方向両側には、シール装置20,30が設けられており、これらシール装置20,30は、環状空間内のころ13が存在している軸受内部に異物が浸入するのを防止する。なお、前記異物としては、雨水の他に、特に寒冷地では融雪剤を含む泥水がある。そして、特に、外輪11と内輪12のフランジ部15との間に形成されている隙間dに取り付けられているシール装置20は、車両外側に位置しており、タイヤホイールに近いため、雨水や泥水等の水が付着しやすい。したがって、軸受内部の例えば軌道(11a,11b,12a,12b)において錆を生じさせないように、特にシール装置20は信頼性及び耐久性の高いものである必要がある。
【0021】
図2はシール装置20及びその周囲を示す縦断面図である。フランジ部15の側面15aは、フランジ部15の基部において、後述するリップ部52,53により異物の浸入を阻止するためのシール面34,35を有している。
径方向内側にある内側シール面34は、内輪本体16の外周面16cから円弧面38を介して連続しており、この内側シール面34は、軸受中心線C(
図1参照)に直交する円環状の面を少なくとも一部に含む形状である。
径方向外側にある外側シール面35は、径方向外側に向かうにしたがって外輪11の端面19から軸方向に徐々に離れる形状である凹曲状の面39に含まれる面であり、この外側シール面35は、この凹曲状の面39の一部(径方向外側の縁部)からなる。そして、これら内側シール面34と凹曲状の面39との間には、変曲部36が形成されている。変曲部36は、外輪11側へ突出しかつ尖っているエッジ部である。つまり、内側シール面34を径方向外側へ延長した位置(端部)に変曲部36が形成されている。この変曲部36は、内側シール面34に摺接する内側リップ部52と近い位置に存在している。
【0022】
〔シール装置20(その1)〕
図2において、シール装置(デフレクタシール)20は、外輪11に取り付けられている円環状の芯金21と、この芯金21に固定されている円環状のシール部材22とを備えている。
芯金21は、鋼板等をプレス加工することによって所定断面形状とされており、円筒部41、外側円環部42、及び内側円環部43を有している。円筒部41は、円筒形状であり、外輪11の端部18の内周に嵌合して取り付けられている。外側円環部42は、円環形状であり、円筒部41よりも径方向外側へ延び外輪11の軸方向の端面19に当接する部分である。本実施形態では、外側円環部42は円筒部41の一端部と連続しており径方向外側へ延びて形成されている。円筒部41と外側円環部42とは円弧状に曲げられた部分44を介して連続している。内側円環部43は、円環形状であり、円筒部41よりも径方向内側へ延びている。本実施形態では、内側円環部43は円筒部41の他端部と連続し径方向内側へ延びて形成されており、特に、湾曲部43aを途中に含んで径方向内側へ延びて形成されている。
【0023】
シール部材22は、ニトリルゴム等の弾性体を円環状に形成したものであり、芯金21に加硫接着等によって固定されている。シール部材22は、被覆部51、内側リップ部52、及び外側リップ部(第1外側リップ部)53を有している。更に、シール部材22は、ラジアルリップ部57,58、及び第2外側リップ部59も有している。シール部材22の各部は一体となって形成されている。
【0024】
被覆部51は、円環形状であり、芯金21が有する外側円環部42のフランジ部15側、前記円弧状に曲げられた部分44の内周側、及び円筒部41の内周側を被覆している部分である。そして、被覆部51の表面と、フランジ部15の側面15aとの間には、環状となる空間Aが形成されている。
被覆部51は、円環状の外側被覆部54と、円筒状の内周被覆部55と、中間被覆部56とを有している。外側被覆部54は、外側円環部42のフランジ部15側を被覆する部分であり、内周被覆部55は、円筒部41の内周側を被覆する部分である。そして、中間被覆部56は、これら外側被覆部54と内周被覆部55との間に設けられている部分であり、芯金21が有している前記円弧状に曲げられた部分44を覆っている。なお、外側被覆部54は、外側円環部42の外輪11側の一部も覆っており、この覆っている部分が外輪11の端面19に接触している。
【0025】
内側リップ部52は、内側円環部43からフランジ部15へ向かって延び、このフランジ部15の内側シール面34に接触した状態にある。このため、内輪12が回転すると、内側リップ部52は内側シール面34に摺接する。この内側リップ部52により、異物が軸受内部へ浸入するのを防止される。なお、内側リップ部52の一部は円弧面38の一部に接触(摺接)してもよい。
【0026】
一方のラジアルリップ部57は、内側円環部43の径方向内側の端部から内輪12側へ向かって延び、内輪本体16の外周面16cとフランジ部15の側面15aとの間の境界付近(前記円弧面38)に接触(摺接)する。他方のラジアルリップ部58は、内側円環部43の径方向内側の端部から内輪12側へ向かって延び、内輪本体16の外周面16cに接触(摺接)する。これらラジアルリップ部57,58により、異物(水)が軸受内部へ浸入するのをより一層確実に防止される。
【0027】
第1外側リップ部53は、外側円環部42の径方向外側の端部からフランジ部15へ向かって延び、このフランジ部15の外側シール面35との間に微小隙間eを形成する。この微小隙間eによってラビリンスシールが構成され、異物(水)の浸入を防ぐ。
第2外側リップ部59は、外側円環部42の径方向外側の端部からフランジ部15と反対方向に向かって延び、外輪11の端部18の外周面に接触している。この第2外側リップ部59により、外輪11の端部18と芯金21(外側円環部42)との間へ異物(水)が浸入するのを防ぐことができる。
【0028】
そして、被覆部51は、当該被覆部51の表面とフランジ部15の側面15aとの間の前記空間Aに表面張力によって水(水を含む異物)が滞留するのを抑制するために、この空間Aを拡大させるための異形部Kを有している。
図2に示す実施形態では、この異形部Kは、フランジ部15側に向かって凸となる円弧形状を表面56aに有する前記中間被覆部56からなる。この中間被覆部56の前記表面56aの外側被覆部54側における円弧形状の始点P1は、前記変曲部36よりも径方向外側に位置している。なお、前記円弧形状の始点P1は、前記変曲部36と径方向について同じ位置にあってもよい。
【0029】
このように中間被覆部56の外側被覆部54側における円弧形状の始点P1が、変曲部36よりも径方向外側に位置している(又は、変曲部36と径方向について同じ位置にある)ことから、この被覆部51とフランジ部15との間に形成される空間Aを、この変曲部36を含む範囲で、径方向内側に向かって拡大させる構成となる。
すなわち、本実施形態では、被覆部51が有している中間被覆部56が、前記異形部Kとなっており、この中間被覆部56(異形部K)によって当該空間Aを拡大させている。
【0030】
このため、特に内輪12の回転が停止している状態で、外側リップ53とフランジ部15(外側シール面35)との間から水が浸入したとしても、空間Aを拡大させていることにより、この空間Aに表面張力によって水が滞留するのを抑制することができる。特に、中間被覆部56の円弧形状からなる表面56aは、軸受中心線C(
図1参照)に直交する内側シール面34と平行になって対面しないことから、前記変曲部36及びその近傍において、表面張力によって水が滞留するのを効果的に抑制することができる。
以上より、前記空間Aにおける水の滞留によるフランジ部15の錆の発生を防ぐことができ、このような錆が従来のように内側シール面34に進行することもなく、内側シール面34おいて錆が生じない。したがって、この内側シール面34に摺接する内側リップ52の損傷が防がれシール装置20の寿命を高めることができ、この結果、車輪用軸受装置1の寿命低下を抑えることができる。
【0031】
〔シール装置20(その2)〕
図3は、他の形態のシール装置20及びその周囲を示す縦断面図である。
図3に示すシール装置20と、
図2に示すシール装置20との異なる点は、前記異形部K及び芯金21の一部であり、その他については同じである。
【0032】
図3に示すシール装置20も、外輪11に取り付けられている円環状の芯金21と、この芯金21に固定されている円環状のシール部材22とを備えている。
芯金21は、鋼板等をプレス加工することによって所定断面形状とされており、円筒部41、外側円環部42、及び内側円環部43を有している。更に、この芯金21は、
図2に示すシール装置20の芯金21が有する前記円弧状に曲げられた部分44の代わりに、テーパ部46を更に有している。テーパ部46は、軸方向に沿って直径が拡大する(直線的に変化する)テーパ円筒状の部分である。
【0033】
円筒部41は、円筒形状であり、外輪11の端部18の内周に嵌合して取り付けられている。外側円環部42は、円環形状であり、円筒部41よりも径方向外側へ延び外輪11の軸方向の端面19に当接する部分である。この外側円環部42は、円筒部41の一端部側からテーパ部46を介して連続しており、径方向外側へ延びて形成されている。つまり、円筒部41と外側円環部42とはテーパ部46を介して連続している。内側円環部43は、円環形状であり、円筒部41よりも径方向内側へ延びている。本実施形態では、内側円環部43は円筒部41の他端部と連続し径方向内側へ延びて形成されており、特に、湾曲部43aを途中に含んで径方向内側へ延びて形成されている。
【0034】
シール部材22は、ニトリルゴム等の弾性体を円環状に形成したものであり、芯金21に加硫接着等によって固定されている。シール部材22は、被覆部51、内側リップ部52、及び外側リップ部(第1外側リップ部)53を有している。更に、シール部材22は、ラジアルリップ部57,58、及び第2外側リップ部59も有している。シール部材22の各部は一体となって形成されている。
【0035】
被覆部51は、円環形状であり、外側円環部42のフランジ部15側、テーパ部46の内周側、及び円筒部41の内周側を被覆している部分である。そして、被覆部51の表面と、フランジ部15の側面15aとの間には、環状となる空間Aが形成されている。
被覆部51は、円環状の外側被覆部54と、円筒状の内周被覆部55と、中間被覆部56とを有している。外側被覆部54は、外側円環部42のフランジ部15側を被覆する部分であり、内周被覆部55は、円筒部41の内周側を被覆する部分である。そして、中間被覆部56は、これら外側被覆部54と内周被覆部55との間に設けられている部分であり、芯金21の前記テーパ部46を覆っている。なお、外側被覆部54は、外側円環部42の外輪11側の一部も覆っており、この覆っている部分は外輪11の端面19に接触している。
【0036】
内側リップ部52は、内側円環部43からフランジ部15へ向かって延び、このフランジ部15の内側シール面34に接触した状態にある。このため、内輪12が回転すると、内側リップ部52は内側シール面34に摺接する。この内側リップ部52により、異物が軸受内部へ浸入するのを防止される。なお、内側リップ部52の一部は円弧面38の一部に接触(摺接)してもよい。
【0037】
一方のラジアルリップ部57は、内側円環部43の径方向内側の端部から内輪12側へ向かって延び、内輪本体16の外周面16cとフランジ部15の側面15aとの間の境界付近(前記円弧面38)に接触(摺接)する。他方のラジアルリップ部58は、内側円環部43の径方向内側の端部から内輪12側へ向かって延び、内輪本体16の外周面16cに接触(摺接)する。これらラジアルリップ部57,58により、異物(水)が軸受内部へ浸入するのをより一層確実に防止される。
【0038】
第1外側リップ部53は、外側円環部42の径方向外側の端部からフランジ部15へ向かって延び、このフランジ部15の外側シール面35との間に微小隙間eを形成する。この微小隙間eによってラビリンスシールが構成され、異物(水)の浸入を防ぐ。
第2外側リップ部59は、外側円環部42の径方向外側の端部からフランジ部15と反対方向に向かって延び、外輪11の端部18の外周面に接触している。この第2外側リップ部59により、外輪11の端部18と芯金21(外側円環部42)との間へ異物(水)が浸入するのを防ぐことができる。
【0039】
そして、被覆部51は、当該被覆部51の表面とフランジ部15の側面15aとの間の前記空間Aに表面張力によって水(水を含む異物)が滞留するのを抑制するために、この空間Aを拡大させるための異形部Kを有している。
図3に示す実施形態では、この異形部Kは、径方向内側に向かうにしたがってフランジ部15の側面15aから離れる方向に傾斜する斜面56a−1を表面に有する前記中間被覆部56からなる。なお、中間被覆部56のこの表面は、前記斜面56a−1の他に、フランジ部15の側面15a(内側シール面34)と平行になって対面する円環面56a−2も有している。
【0040】
このように中間被覆部56は、径方向内側に向かうにしたがってフランジ部15から離れる方向に傾斜する斜面56a−1を表面に有することで、この表面において、斜面56a−1に連続する前記円環面56a−2と、フランジ部15の側面15a(内側シール面34)との軸方向の間隔を、従来(
図4参照)よりも広くすることができる。つまり、これら斜面56a−1及び円環面56a−2によれば、フランジ部15の側面15aと被覆部51との間に形成される空間Aを径方向内側に向かって拡大させる構成となる。
すなわち、本実施形態では、径方向内側に向かうにしたがってフランジ部15の側面15aから離れる方向に傾斜する斜面56a−1を表面に有する中間被覆部56が、前記異形部Kとなっており、この中間被覆部56(異形部K)によって当該空間Aを拡大させている。
【0041】
このため、特に内輪12の回転が停止している状態で、外側リップ53とフランジ部15(外側シール面35)との間から水が浸入したとしても、空間Aを拡大させていることにより、この空間Aに表面張力によって水が滞留するのを抑制することができる。なお、中間被覆部56の円環面56a−2と内側シール面34との間の軸方向の間隔は、第1外側リップ部53と外側シール面35との間の微小隙間eの軸方向の間隔よりも大きい。例えば、円環面56a−2と内側シール面34との軸方向の間隔は、最小で1.5ミリ〜2ミリ程度となり、この程度の間隔を有していれば、表面張力によって水が保持され滞留するのを抑制することができる。
以上より、前記空間Aにおける水の滞留によるフランジ部15の錆の発生を防ぐことができ、このような錆が従来のように内側シール面34に進行することもなく、内側シール面34おいて錆が生じない。したがって、この内側シール面34に摺接する内側リップ52の損傷が防がれシール装置20の寿命を高めることができ、この結果、車輪用軸受装置1の寿命低下を抑えることができる。
【0042】
〔その他について〕
また、
図2に示すシール装置20、及び
図3に示すシール装置20それぞれの場合において、第2外側リップ部59の基部の内周側には凹周溝25形成されている。この凹周溝25により、第2外側リップ部59と、外側被覆部54の外輪11側を覆っている部分と、外輪11の端部18とによって囲まれた環状の空間(密閉された空間)が形成される。
【0043】
この凹周溝25は次の機能を有する。
図2及び
図3に示す実施形態それぞれにおいて、フランジ部15に固定されている図外の車輪側や車体側から飛散した泥水が、外輪11の外周面に沿って導かれ、シール部材22(第2外側リップ部59)側へ接近してくることがある。
この泥水は、外輪11の外周面と第2外側リップ部59との間から浸入して、外輪11の端面19、外輪11の内周面を経由し、軸受内部へと到達する経路が考えられる。つまり、最外周側のゴム部である第2外側リップ部59と外輪11の外周面との間が泥水の入り口となり、前記のような経路が成立することで、第1外側リップ部53等が存在していても、前記入り口や、前記経路の途中や、軸受内部において錆が発生してしまう原因となる。
ここで、
図4に示す従来例のように、第2外側リップ部98の内周側に(本実施形態のような)凹周溝が形成されておらず、第2外側リップ部98の内周面が外輪99の端部の外周面に完全に密着して隙間がない場合、浸入した水によって外輪99の端部の外周面に錆が発生し錆が進行してその厚さが増すと、この外周面が径方向外側へ膨張し、また、錆の発生により前記入り口から異物が浸入しやすくなって浸入した異物が堆積すると、この外周面側が径方向外側へ膨張し、第2外側リップ部98が径方向外側へ圧迫される。このような場合、第2外側リップ部98が径方向外側に折れ曲がってしまい、場合によってはこのリップ部98が破損してしまう。
しかし、本実施形態(
図2、
図3)では、第2外側リップ部59の内周側に径方向外側へ凹んだ凹周溝25が形成されていることで、この凹周溝25に錆や異物が収容することができる。つまり、凹周溝25は、錆や異物による前記膨張を吸収することができる。このように凹周溝25と外輪11の外周面との間に形成される空間に、錆や異物が堆積して膨張しても、凹周溝25が形成されていることで、第2外側リップ部59が径方向外側へ圧迫される(押される)のを防ぐことができ、このリップ部59の異常な変形を防ぐことができる。
なお、凹周溝25は、径方向外側に凹んだ形状であると共にフランジ部15側(軸方向)にも凹んだ形状であってもよい。また、本実施形態では、外輪11の外周面端部に面取りが形成されており、この面取りにより凹周溝25によって形成される前記空間を拡大することができる。
【0044】
また、
図2に示すシール装置20、及び
図3に示すシール装置20それぞれの場合において、内側リップ部52は外輪11の端部18よりも径方向内側に位置し、外側リップ部53は外輪11の端部18よりも径方向外側に位置しており、これらリップ部52,53は径方向に離れて位置している。このため、内側シール面34と外側シール面35とに関しても径方向に離れて位置する。したがって、内輪12の回転が停止している状態で、仮に外側リップ部53と外側シール面35との間において水が保持され滞留し、この水により外側シール面35に錆が発生したとしても、この外側シール面35と内側シール面34とは径方向に離れて位置していることで、この錆が内側シール面34にまで到達しにくい。
更に、第1外側リップ部53の先端面は、外側シール面35に対して全面で対向せず、この先端面の一部でのみ外側シール面35と対向している。このように対向面積を小さくすることで、これらの間に水が滞留することがあっても可能な限り少量とすることが可能となる。
【0045】
また、本発明の車輪用軸受装置1は、図示する形態に限らず本発明の範囲内において他の形態のものであってもよい。例えば、前記実施形態(
図1)では、車輪用軸受装置1の転動体を円錐ころ13としているが、転動体は円筒ころであってもよく、また、玉であってもよい。