(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記絶縁体パッチ材は、(1)前記リークバルブ粒子を覆う形態、あるいは、(2)前記リークバルブ粒子の前記上部電極層に向かう側の一部が露出する形態、のいずれかの形態を有する
ことを特徴とする請求項1に記載の薄膜キャパシタ。
前記絶縁体パッチ材が前記リークバルブ粒子を覆う形態である場合の、前記絶縁体パッチ材の最近接厚みが、絶縁体パッチ材と誘電体層とがリークバルブ粒子を介さずに対向している箇所における絶縁体パッチ材の最大厚みの1/5から1/10である
ことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の薄膜キャパシタ。
前記絶縁体パッチ材の前記薄膜キャパシタ面方向に係る大きさは、前記リークバルブ粒子の面積中心から前記絶縁体パッチ材の端部までの最小距離として、前記誘電体層の厚みの50倍から200倍の範囲にある
ことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の薄膜キャパシタ。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。ただし、本発明の技術的範囲は以下の実施形態に限定されない。また、各図面において同一又は同等の要素には同一の符号を付与し、重複する説明を省略する。
【0015】
図1は、本発明の第一の実施形態における薄膜キャパシタの斜視断面図である。薄膜キャパシタ1は、下部電極2、下部電極2上に形成された誘電体層3、さらにその上に形成された上部電極4(図示せず)により構成されている。誘電体層3の表面には絶縁体パッチ材6が形成されており、誘電体層3と絶縁体パッチ材6との間には、両者にくい込む様にリークバルブ粒子5が設けられている。
図2は、本発明の第一の実施形態に係る薄膜キャパシタ1の電着部分の光学顕微鏡による観察像である。誘電体層3の表面に絶縁体パッチ材6が略円形に形成されているのが確認できる。リークバルブ粒子5が、絶縁体パッチ材6の略中央を透過して確認できる。
図3は、本発明の第一の実施形態に係る薄膜キャパシタ1の電着部分の電子顕微鏡による断面観察像である。この断面観察は、焦点制御されたイオンビームによるエッチング加工を用いて断面形成をおこない、観察したものである。
図3の観察により、絶縁体パッチ材6は誘電体層3に比して非常に薄い厚みを有していること、リークバルブ粒子5が絶縁体パッチ材6および誘電体層3のほぼ中間に中央位置を置いていること、リークバルブ粒子5は絶縁体パッチ材6と誘電体層3との双方に食い込んでいること、という三つの構造的な特徴が確認できる。
【0016】
第一の実施形態における誘電体層3、リークバルブ粒子5および絶縁体パッチ材6の関係を、模式断面図を用いて詳細に説明する。
図4は、本発明の第一の実施形態に係る薄膜キャパシタを模式的に示した断面図である。第一の実施形態では、リークバルブ粒子5が誘電体層3と絶縁体パッチ材6との間に挟み込まれ、それぞれの層にくい込んでいる態様をとっている。第一の実施形態における薄膜キャパシタにおいて本発明の効果を発揮するため、誘電体層3、リークバルブ粒子5および絶縁体パッチ材6の位置関係は、具体的に以下のようになっている。
【0017】
(1)リークバルブ粒子5へ、誘電体層3にストレスによって蓄積された電荷を収束させる必要がある。そのため、リークバルブ粒子5は誘電体層3の厚みの2/3の深さまで埋没していることが好ましい。第一の実施形態における薄膜キャパシタ1では、誘電体層3の10点平均膜厚が
図4中のBであった場合、リークバルブ粒子5の下部電極2側の先端から下部電極2までの距離EはほぼB/3となる。なお、リークバルブ粒子5の電子伝導性が高い場合は、電荷の収束が期待できるため、必ずしも誘電体層3に埋没させる必要はない。
【0018】
(2)リークバルブ粒子5に収束された電荷の一部を、トンネル電流として上部電極4に放出する必要がある。そのため、リークバルブ粒子5の上部電極4側の先端から上部電極4までの距離Cは、リークバルブ粒子5の周辺の絶縁体パッチ材6の最大厚みより充分に薄いことが好ましい。第一の実施形態における薄膜キャパシタ1では、絶縁体パッチ材6の最大厚みを
図4中のDとした場合、CはDの1/10以下となっている。
【0019】
(3)リークバルブ粒子5に収束された電荷の一部を、誘電体層3と絶縁体パッチ材6との界面を流して消費させる必要がある。そのため、リークバルブ粒子5の中心から絶縁体パッチ材6の端部までの最小距離が誘電体層3の膜厚の50倍から200倍の範囲であることが好ましい。第一の実施形態における薄膜キャパシタ1は、
図4中のリークバルブ粒子5の中心から絶縁体パッチ材6の端部までの距離Aが、誘電体層3の厚みBの200倍となっている。
【0020】
図5は、本発明の第二の実施形態に係る薄膜キャパシタを模式的に示した断面図である。第二の実施形態では、第一の実施形態(
図4)の薄膜キャパシタ1と同様に、リークバルブ粒子5が誘電体層3と絶縁体パッチ材6との間に挟み込まれ、それぞれの層にくい込んでいる態様をとっている。第二の実施形態における薄膜キャパシタ1は、絶縁体パッチ材6がリークバルブ粒子5を完全に被覆しておらず、上部電極4側にリークバルブ粒子5の一部が露出している点で第一の実施形態の薄膜キャパシタと相違する。この場合、リークバルブ粒子5からの電荷は絶縁体パッチ材6を経由するトンネル電流でなく直接に上部電極4へ流れる。したがって、第二の実施形態では、第一の実施形態で説明した誘電体層3、リークバルブ粒子5および絶縁体パッチ材6の位置関係(1)から(3)のうち、(2)を満足する必要はない。
【0021】
第一および第二の実施形態における下部電極2の材料は、公知の導電性材料を適宜選択することができる。公知の導電性材料とは、たとえば、金属、金属酸化物、導電性有機材料などをいう。特に、下部電極2は低電気抵抗であることが望ましく、機械的強度が高いことが望ましいため、金属材料を用いることが好ましい。中でも、NiやCuは電気抵抗の低い比較的強靭な金属材料であるため好ましい。特に、高温負荷信頼性および耐湿負荷信頼性の見地から、少なくともNiを含んだ導電体であることが望ましい。ここでいうNiを含んだ導電体とは純Ni(Ni99.9%以上)のこと、もしくはNi系の合金のことをいう。Ni系の合金の場合、例えばPt、Pd、Ir、Ru、Rhなどの貴金属元素を含むことが望ましく、その含有量は50wt%以下が望ましい。このような含有率の範囲内であれば、純Niを使用した場合と同等な薄膜キャパシタ1の高温負荷信頼性および耐湿負荷信頼性が得られる。
【0022】
第一および第二の実施形態における下部電極2の形態は、金属を含む導電性の箔、金属を含む焼結体あるいは任意の基板上に形成された導電性薄膜など、各種の形態を選択することができる。下部電極2は、特に金属多結晶体よりなるNi金属箔であることが好ましい。金属箔にすることで、誘電体層との熱膨張係数の差を小さくすることが可能となり、薄膜キャパシタ1の容量の減少を抑制することが可能となる。導電性薄膜としては、例えば、Si基板やセラミック基板(図示せず)の上に、下部電極2としてスパッタリングや蒸着等によってNi電極層を形成して用いてもよい。このような形態の場合、基板は誘電体層3との熱膨張係数差が小さな材料を選択することが望ましい。基板には、例えばNi膜つきのSi基板、Ni膜つきのセラミック基板などを用いることができる。これにより、熱膨張係数差に起因する薄膜キャパシタ1の容量低下を抑制することができる。
【0023】
第一および第二の実施形態における下部電極2の形態は、さらに下部電極2と誘電体層3との間には異なる導電性材料を介在させたものであってもよい。あるいは、多層電極構造であってもよい。多層電極構造としては、誘電体層3と接する面側にNi電極層を配置した多層電極膜とすることができる。このような多層電極層は、例えばCu金属箔にNi電極層をスパッタリングや蒸着等によって形成し積み重ねた構造であってもよい。ただし、Ni電極層と誘電体層3とが接している場合は、薄膜キャパシタ1の高温負荷信頼性および耐湿負荷信頼性がさらに向上する。
【0024】
第一および第二の実施形態における誘電体層3の材料は、誘電率の大きなペロブスカイト型結晶構造の酸化物誘電体が好ましい。このような酸化物誘電体であれば適宜選択し第一および第二の実施形態に適用し本発明の効果を得ることができるが、鉛を含まないチタン酸バリウム系の誘電体は環境保全の見地から好ましい。チタン酸バリウム系の誘電体の場合、Baサイトの一部をCa、Srなどのアルカリ土類で置換したものを用いてもよい。またTiサイトの一部をZr、Sn、Hfなどの元素で置換したものを用いてもよい。さらに、この誘電体に希土類元素やMn、V、Nb、Taなどを添加してもよい。
【0025】
第一および第二の実施形態における誘電体層3の形成は、一般に誘電体薄膜形成で通常使用される方法、例えば錯体などの原料溶液の塗布と焼成、直接的な薄膜形成方法としてスパッタリング、蒸着、パルスレーザー成長(PLD)などの物理的気相成長(PVD)法、化学的気相成長(CVD)法などを適宜用いることができる。
【0026】
第一および第二の実施形態における誘電体層3の構造は、全体の厚みが1000nm以下である薄膜とすることが好ましい。ここでいう全体の厚みとはリークバルブ粒子5の食い込み深さを除く誘電体層3の厚みをいう。誘電体層3全体の厚みが1000nmを超える場合、単位面積あたりの容量値が減少してしまうおそれがある。また膜厚の下限は特にないが、薄くなるに従い絶縁抵抗値が小さくなる。そのため50nm以上は必要と考えられる。以上の絶縁抵抗値と容量の関係を考慮し、薄膜キャパシタ1の好ましい誘電体層3の膜厚の範囲は250nmから1000nmであると考えられる。なお、本実施形態における誘電体層3には、結晶のずれなどのさまざまな欠陥に起因し、確率論的に回避困難な帯電領域が存在している。この場合の欠陥はピンホールのような誘電体の貫通部分は除く。
【0027】
第一および第二の実施形態では、誘電体層3に一部が埋没するようにリークバルブ粒子5を設置し、さらに絶縁体パッチ材6を形成する。以下、第一および第二の実施形態におけるこれらの形成工程を
図6(a)から(d)にしたがって説明する。
図6(a)に示すように、下部電極2上に形成された誘電体層3の一部には誘電体の欠陥に起因した帯電領域7が形成される。一般に誘電体薄膜の欠陥としては、誘電体を貫通するピンホールや結晶格子欠陥などを総合的に認識されている。ただし、第一および第二の実施形態でいう欠陥にはピンホールは含まない。結晶の格子欠陥などのように目視的には欠陥ではないが電気特性としては帯電の原因となるものをいう。このような欠陥は、誘電体層3の成膜中に生じた結晶不整合によりおのずと生じる場合もあるが、成膜後の誘電体層3にレーザー等の電磁波を照射することによって形成してもよい。また。硬質なセラミック粉体などを衝突させて物理的に形成してもよい。
【0028】
図6(a)の状態にある誘電体層3の表面に、リークバルブ粒子5を設ける。
図6(b)に示すように、リークバルブ粒子5は帯電領域7に静電的に付着する。リークバルブ粒子5は、金属粒子、セラミック粒子あるいは有機物粒子を適宜選択することができる。これらの粒子は、導電性の材料を用いることができるが、必ずしも粒子そのものが導電性を有している必要はなく、表面電流として電荷の移動を確認しうる粒子であればよい。金属粒子として、例えば、Au、Ag、Pt、Fe、Ni、Cu、Cr、Mn、Zn、Ti、W、Zr、Al、Mgなどをはじめ、さまざまな材料を選択することができる。セラミック粒子として、例えば、Al
2O
3、SiO
2、ZrO、TiO
2などの酸化物や、Si
3N
4、TiN、BNなどの窒化物、SiCやB
4Cなどの炭化物をはじめ、さまざまな材料を選択することができる。また、誘電体層3と同じ誘電体材料の粒子を用いてもよい。ただし、誘電体材料を用いる場合は電荷収束を促進する観点から、より誘電率の高い材料粉である方が望ましい。有機物粒子として、例えば、ポリエチレン粒子、ポリプロピレン粒子、ポリイミド粒子、PEEK粒子、ポリカーボネート粒子、ポリブタジエン粒子をはじめ、さまざまな材料を選択することができる。
【0029】
リークバルブ粒子5の形状には特に制限はないが、その大きさは誘電体層3の厚みにより制限される。すなわち、リークバルブ粒子5の大きさは、上述した誘電体層3、リークバルブ粒子5および絶縁体パッチ材6の位置関係により決定される。第一および第二の実施形態では、誘電体層3の好ましい厚みの範囲から求められるリークバルブ粒子5の大きさ(粒径)として、粒子中の最大径が1.0から1.5μmの範囲にあることが好ましい。
【0030】
図6(b)に示すリークバルブ粒子5を誘電体層3の帯電領域7に付着させる方法は、誘電体層3の表面にリークバルブ粒子5を接触させればよい。例えば、適宜容器の中にリークバルブ粒子5と誘電体層3が形成された試料とを共存させて両者を接触させてもよい。この接触を、リークバルブ粒子5を気体中に噴霧流動させたガス流動でおこなってもよいし、純水や有機溶媒の中にリークバルブ粒子5を分散させた液槽中でおこなってもよい。また、誘電体層3の成膜プロセス中にリークバルブ粒子5を滞留させて誘電体層3に付着させてもよい。
図6(c)に示すように、第一および第二の実施形態では、リークバルブ粒子5の一部は誘電体層3の内部に埋没することが好ましい。リークバルブ粒子5の付着と誘電体層3の上部(3‘)の成膜プロセスとを分離してもよいが、誘電体層3の成膜プロセス中にリークバルブ粒子5を滞留させて誘電体層3に付着させる手法を用いた場合、誘電体層3の上部(3‘)の成膜プロセスを連続的におこなうことができ、工程の短縮につながる点で好ましい。誘電体層3における帯電領域7の位置を、レーザー照射などの手法で選択的に規定してやれば、リークバルブ粒子5の付着位置も選択的に規定することが可能である。このような一選択性を担保する場合、リークバルブ粒子5の付着プロセスと誘電体層3の上部(3‘)の成膜プロセスとを分離するか、誘電体層3の成膜プロセス内にレーザーなど電磁波の商社機構を導入することが好ましい。リークバルブ粒子5を付着させる前に、誘電体層3の表面に適当な表面処理あるいは物理洗浄等をおこなっておいてもよい。表面処理としては酸やアルカリによるエッチング、プラズマによるエッチングなどをおこなってもよい。物理洗浄としては超音波洗浄や研磨などをおこなってもよい。これらの処理により、誘電体層3とリークバルブ粒子5との界面状態が良好になるため長期的に電気特性が安定となる。なお、リークバルブ粒子5が金属などの高導電性(低電気抵抗)材料であった場合、必ずしも一部を誘電体層3の中に埋め込む必要はない。その場合、誘電体層3の上部(3‘)の成膜は省略できる。
【0031】
リークバルブ粒子5を誘電体層3に付着させた後、
図6(d)に示すように絶縁体パッチ材6を形成する。なお、
図6(d)は第一の実施形態に係る、絶縁体パッチ材6がリークバルブ粒子5を完全に被覆した態様を示している。第二の実施形態に係る、絶縁体パッチ材6からリークバルブ粒子5の上端が露出した態様は、絶縁体パッチ材6の厚みを調整することによって容易に実現できる。第一および第二の実施形態における絶縁体パッチ材6の材料は、高電気抵抗のセラミック材料や樹脂材料を適宜選択することができる。セラミック材料としては、例えばAl2O3、SiO2、TiO2、ZrOなど公知の高抵抗セラミック材料を用いることができる。誘電体層3との密着性を鑑み、上述した誘電体材料を選択して用いてもよい。樹脂材料としては、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、フッ素樹脂、ウレタン樹脂、アミド樹脂、フェノール樹脂、PEEK樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリイミド樹脂等の高抵抗樹脂材料を用いることができる。高抵抗樹脂材料の中でも、ポリイミド樹脂は機械的強度の面からも特に好ましい。絶縁体パッチ材6には、複数のセラミック材料を組み合わせて用いてもよいし、複数の樹脂材料を組み合わせて用いてもよい。あるいは、セラミック材料と樹脂材料とを組み合わせて用いてもよい。絶縁体パッチ材6は、特に樹脂材料により構成することが好ましい。絶縁体パッチ材6を樹脂材料とすることにより、絶縁体パッチ材6は柔軟な構造となる。この結果、完成した薄膜キャパシタ1を継続的に使用しても、誘電体層3と絶縁体パッチ材6との経時的な界面剥離が生じにくくなる。
【0032】
図1、
図2および
図6(d)に示すように、第一および第二の実施形態における絶縁体パッチ材6の構造は、リークバルブ粒子5を略中心においた、ほぼ円形のパッチ状構造となっている。より具体的には、絶縁体パッチ材6の真円度(円形形態を2つの同心円で挟んだ時の2つの円の半径の差)と、絶縁体パッチ材6の平均直径との比率が、真円度/平均直径<0.2であることが好ましい。これにより、絶縁体パッチ材6によるリークバルブ粒子5の保持が安定し、薄膜キャパシタ1の使用を通じてリークバルブ粒子5が脱離する可能性を低くすることができる。加えて、絶縁体パッチ材6の総面積を、誘電体層3の上部電極4に対向する面の面積に対し0.1%以上5%以下に抑えておくことで、薄膜キャパシタ1の容量低下を抑制できることも、実用上の観点から考慮しておくのが望ましい。このような絶縁体パッチ材6の形状は、以下のような手法で得ることができる。
【0033】
絶縁体パッチ材6をセラミック材料により構成する場合、公知の薄膜形成方法によって絶縁体パッチ材6を形成することができる。例えば、スパッタリング、蒸着、パルスレーザー成長(PLD)などの物理的気相成長(PVD)法、化学的気相成長(CVD)法などを適宜用いることができる。また、選択したセラミック材料の粉体をアルコールなど適当な有機溶媒に分散した塗料とし、塗布乾燥させてもよい。このような手法で絶縁体パッチ材6を形成する場合、レジストあるいはメタルなどのマスクにより、リークバルブ粒子5の部分のみにセラミック材料が堆積されるように被覆することが望ましい。
【0034】
絶縁体パッチ材6を樹脂材料により構成する場合、純水を溶媒とし、樹脂材料のモノマーを分散させて実施する電気泳動法により、誘電体層3の表面に樹脂材料を電着して形成することができる。
図7に、第一および第二の実施形態における電着装置の概略図を示す。例えば、特に好適な樹脂材料としてポリイミド樹脂を用いる場合を例にとると、ポリアミック酸塩等のポリイミド前駆体樹脂を含む溶液を電着液13とし、アノード9とカソード10との間に通電することにより、カソード10に設けられた電着用試料11に電着によりポリアミック酸の電着物を形成する。電着用試料11では、誘電体層3がアノード9に対向している(図示せず。)。この電着物を加熱脱水してポリイミド樹脂体とし、絶縁体パッチ材6を得る。
【0035】
ただし、本実施形態の電気泳動法は、従来知られている樹脂材料の電着形成とは異なる装置の構造であり、形成条件である。具体的には、(A)電気泳動法に用いるアノード電極9を、電極本体であるSUS系材料表面にAl
2O
3やSiO
2あるいはFeO等の酸化物からなる不動体被膜を形成した構造とすること、(B)電着溶液中の樹脂材料含有量を、0.1wt%以上1.0wt%以下の低濃度とする製造条件を用いること、である。
【0036】
上記の要件(A)と(B)とを組み合わせた電着泳動法によって、第一および第二の実施形態における絶縁体パッチ材6の形状が得られる原因は、セラミック材料における形成方法の場合に比して必ずしも明確ではない。本発明者らは、研究を通じて以下のようにメカニズムを推測している。
【0037】
要件(A)により、電着溶液中の樹脂材料モノマーからの電子引き抜き反応が抑制され、極性モノマーの割合が低下する。極性モノマーは誘電体層3の電界が集中しているリークバルブ粒子5に集まろうとする。他の非極性モノマーは、極性モノマーに引きずられるように誘電体層3の表面に移動するが、リークバルブ粒子5に吸引されるほどの電気的ポテンシャルを有するわけではないため、リークバルブ粒子5に到達する前に誘電体層3上に吸着される。非極性モノマーの運動エネルギーは、電着溶液中の集団としてある分布を持っている。そのため、絶縁体パッチ材6の形状は、非極性モノマーの運動エネルギー分布に応じた、面方向と厚み方向との広がりをもつ。この結果、本実施形態の絶縁体構造物5は、誘電体層3において、リークバルブ粒子5を略中心に配した略円形の形状を呈する。絶縁体パッチ材6の大きさや端部の形状は、電流の強弱によっても変化する。高電流では厚みやテーパー角度が大きくなり、低電流では厚みやテーパー角度が小さくなる傾向がある。この結果は、極性モノマーが欠陥6に吸引されるポテンシャルが増減することによって非極性モノマーが到達できる誘電体層3の面積も変化するためと考えられる。第一および第二の実施形態では、樹脂材料の電気泳動法として低い電流(1〜50mA/cm
2)で電着を実施している。第一の実施形態における絶縁体パッチ材6の形状は、第二の実施形態における絶縁体パッチ材6の形成よりも高い電流でおこなうことにより実現される。ただし、第一の実施形態も、第二の実施形態も、いずれの場合も電流が1〜50mA/cm
2の範囲を超えることはない。
【0038】
要件(B)により、電着溶液中の過剰なモノマー会合が抑制される。本実施形態における電気泳動法は、純水の溶媒中に樹脂材料のモノマーを分散させておこなう。この場合、モノマーの濃度が高ければ溶媒中でモノマー同士の会合が起こり、モノマーが集合体として誘電体層3の表面に運ばれる場合がある。集合体としてのモノマーには極性モノマーが含まれうるため、多くのモノマーがリークバルブ粒子5の付近に堆積する可能性がある。電着溶液中の樹脂材料含有量を、0.1wt%以上1.0wt%以下の低濃度とすることにより、溶媒中でのモノマーの会合確率が低下するため、モノマーが集合体でなく単体で誘電体層3の表面に移動する確率が高くなる。この結果、絶縁体パッチ材6の形状は、モノマーの運動エネルギー分布のみに応じた、面方向と厚み方向との広がりをもち、リークバルブ粒子5を略中心に配した略円形の形状を呈する。
【0039】
なお、上記のように電着溶液中の樹脂材料含有量を調整するほか、電着溶液中に適量の分散剤を添加してもよい。このような分散剤には、公知の界面活性剤を適宜用いることができる。特に、界面活性剤であるアルキルグルコシドやポリエチレングリコール、脂肪酸ナトリウムなどを用いることができる。あるいは、超音波撹拌によって樹脂材料のモノマーを分散させてもよい。
【0040】
第一および第二の実施形態の薄膜キャパシタ1では、絶縁体パッチ材6を形成した後に上部電極4を形成する。上部電極4の材料は、公知の導電性材料を適宜選択することができる。公知の導電性材料とは、たとえば、金属、金属酸化物、導電性有機材料などをいい、これらを適宜選択することができる。特に、上部電極4は低電気抵抗であること、機械的強度が高いことが好ましい。そのため、金属を用いることが好ましい。中でもNiやCuは電気抵抗の低い比較的強靭な金属材料であるため好ましい。上部電極4は、Ni電極層あるいはCu電極層の単層からなっていてもよいが、Ni電極層とCu電極層の二層構造であってもよい。上部電極4と誘電体層3あるいは絶縁体パッチ材6との間には、異なる導電性材料を介在させてもよい。上部電極4にNi電極層を含む場合は、信頼性の見地から、Ni電極層側が誘電体層3に接触していることが望ましい。上部電極4の全部または一部にNi電極層を用いる場合、下部電極2と同様に純NiもしくはNi系の合金を用いることができる。Ni系の合金である場合、例えばPt、Pd、Ir、Ru、Rhなどの貴金属元素を含むことが望ましく、その含有量は50wt%以下が望ましい。さらにその厚みは、0.1μm以上2.0μm以下が好ましい範囲である。
【0041】
本実施形態のNi電極層の上には、Cu電極層が形成されていてもよい。ここでいうCu電極層は純Cu(Cu99.9%以上)のこと、もしくはCu系の合金が好ましい。合金の場合、例えばPt、Pd、Ir、Ru、Rhなどの貴金属元素を含むことが望ましく、その含有量は75wt%以下が望ましい。CuはAuやAgと抵抗率が同等で、工業的に使用し易い特徴がある。そのため電子機器の配線に多く使用されている。またその抵抗率が比較的小さいため、薄膜キャパシタの電極層として使用する場合、等価直列抵抗(ESR)を減少させるといった効果がある。
【0042】
上部電極4の形成には、金属薄膜形成に通常使用される方法、例えば錯体などの原料溶液の塗布と焼成、直接的な薄膜形成方法としてスパッタリング、蒸着、パルスレーザー成長(PLD)などの物理的気相成長(PVD)法、化学的気相成長(CVD)法などを適宜用いることができる。
【0043】
以下、実施例および比較例を通じて、本発明についてさらに具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0044】
(実施例1)
100mm×100mmの大きさのNi金属箔上に誘電体層(BaTiO
3系誘電体)とリークバルブ粒子とを形成した。まず、誘電体層をスパッタリング法により280nmの厚みで成膜した。その後、リークバルブ粒子を付着させる前処理として、誘電体層の表面をスクラブ洗浄して異物を除去した。洗浄後の試料を、アルミナ(Al
2O
3)粉体を分散させた窒素ガス流動層中に封入し、誘電体層の表面にリークバルブ粒子としてアルミナ粉体を付着させた。アルミナ粉体は960±40nmに分粒して用いた。リークバルブ粒子を形成した試料の誘電体層表面に、ふたたびスパッタリング法により520nmの誘電体層を成膜した。したがってリークバルブ粒子の誘電体層への埋没量は2/3以下である65%となった。合計800nmとなった誘電体層を結晶化させるためアニールを行った。
【0045】
結晶化した誘電体層には、リークバルブ粒子の箇所に対して電気泳動法を用いて絶縁体パッチ材を形成した。誘電体層とリークバルブ粒子とを形成したNi金属箔を電着槽の電解液に浸漬する。電着槽のアノード電極は、SUS系材料にアルミナ不動体被膜を2μm形成した電極を用いた。電着槽の電解液は、純水にイミド系樹脂を1wt%添加した電解液を用いた。Ni箔を電着液に浸漬した状態で、電着の状況を目視観察しながら電流を10mA/cm
2一定とし、試料を目視観察しながら電圧を適宜制御して電着を実施した。得られた試料を200℃のオーブンでキュアさせて絶縁体パッチ材を形成した。ここまでの試料から複数の絶縁体パッチ材の部分を分取し、外観を光学顕微鏡で、断面を電子顕微鏡で、それぞれ観察した。絶縁体パッチ材の形状は、最大厚みが503nm、最近接厚みが約63nm(絶縁体パッチ材の最大厚みの約1/8倍)、絶縁体パッチ材の端部からリークバルブ粒子の端部までの最短距離は84μm(誘電体厚みの約105倍)であった。なお、絶縁体パッチ材の端部は18度のテーパー角度を有していた。その後、上部電極としてNiとCuとを、この順でそれぞれスパッタリング法により成膜した。
【0046】
上部電極層形成後、上部電極層のパターニングを行って5mm×5mmのキャパシタ素子部分を形成した。その後、Cu電極層の粒子成長のために340℃の真空中でアニールを行って薄膜キャパシタを得た。得られた薄膜キャパシタ100個について信頼性試験を行い、容量値と絶縁抵抗値との経時変化を評価した。
【0047】
信頼性試験は、温度85度/湿度85%に保持した大気圧密閉容器の中に封入した薄膜キャパシタ100個に対してAC5V(1kHz)の信号を継続して印加しつつ、200時間後/400時間後/600時間後の容量値と絶縁抵抗値とを測定して実施した。容量値は、大気圧密閉容器外においたAgilent社製LCRメーター4284Aを使用し、1kHz、1Vrmsにて測定を行った。絶縁抵抗値は、大気圧密閉容器外においたAgilent社製4339B高抵抗計を使用し、直流4Vの条件で測定を行った。経時変化の判定は、薄膜キャパシタの一般的なスペックのうち容量値2.5×10
−7F以上、絶縁抵抗値5×10
+8Ω以上を基準値とし、これを満足した薄膜キャパシタの個数から特性維持率を求めた。その結果、本実施例では600時間後において、90%(90/100pcs)の良品が得られた。
【0048】
(実施例2)
絶縁体パッチ材の端部から欠陥の端部までの最短距離が43.2μm(誘電体厚みの54倍)となるようにイミド系樹脂の添加量を2wt%として同時に電着時の電圧を調整した以外は実施例1と同様の製造方法および評価条件で、薄膜キャパシタ100個の作成と経時変化の評価とを行った。その結果、本実施例では600時間後において、88%(88/100pcs)の良品が得られた。
【0049】
(実施例3)
絶縁体パッチ材の端部から欠陥の端部までの最短距離が156μm(誘電体厚みの195倍)となるようにイミド系樹脂の添加量を0.50wt%に低下させて同時に電着時の電圧を調整した以外は実施例1と同様の製造方法および評価条件で、薄膜キャパシタ100個の作成と経時変化の評価とを行った。その結果、本実施例では600時間後において、92%(92/100pcs)の良品が得られた。
【0050】
(実施例4)
リークバルブ粒子として、960±50nmに分粒したポリエチレン粒子を用いた以外は実施例1と同様の製造方法および評価条件で、薄膜キャパシタ100個の作成と経時変化の評価とを行った。その結果、本実施例では600時間後において、90%(90/100pcs)の良品が得られた。
【0051】
(実施例5)
リークバルブ粒子として、960±15nmに分粒したチタン酸バリウム・ストロンチウム(BaSrTiO
3)粒子を用いた以外は実施例1と同様の製造方法および評価条件で、薄膜キャパシタ100個の作成と経時変化の評価とを行った。その結果、本実施例では600時間後において、93%(93/100pcs)の良品が得られた。
【0052】
(実施例6)
リークバルブ粒子として、960±10nmに分粒したNi金属粒子を用いた以外は実施例1と同様の製造方法および評価条件で、薄膜キャパシタ100個の作成と経時変化の評価とを行った。その結果、本実施例では600時間後において、60%(60/100pcs)の良品が得られた。
【0053】
(実施例7)
絶縁体パッチ材として、スパッタリング法を用いてアルミナ(Al
2O
3)膜を形成した以外は実施例1と同様の製造方法および評価条件で、薄膜キャパシタ100個の作成と経時変化の評価とを行った。なお、絶縁体パッチ材の形状を実施例1に合せるため、フォトリソグラフィによるマスクをリークバルブ粒子の周囲に設けてアルミナ膜の成膜を行った。その結果、本実施例では600時間後において、91%(91/100pcs)の良品が得られた。
【0054】
(実施例8)
絶縁体パッチ材として、プラズマCVD法(基板加熱なし)を用いてシリカ(SiO
2)膜を形成した以外は実施例1と同様の製造方法および評価条件で、薄膜キャパシタ100個の作成と経時変化の評価とを行った。なお、絶縁体パッチ材の形状を実施例1に合せるため、実施例7と同様にフォトリソグラフィによるマスクをリークバルブ粒子の周囲に設けて成膜を行った。その結果、本実施例では600時間後において、90%(90/100pcs)の良品が得られた。
【0055】
(実施例9)
絶縁体パッチ材の端部から欠陥の端部までの最短距離が34.4μm(誘電体厚みの43倍)となるようにイミド系樹脂の添加量を5wt%として同時に電着時の電圧を調整した以外は実施例1と同様の製造方法および評価条件で、薄膜キャパシタ100個の作成と経時変化の評価とを行った。その結果、本実施例では600時間後において、85%(85/100pcs)の良品が得られた。
【0056】
(実施例10)
絶縁体パッチ材の端部から欠陥の端部までの最短距離が164.8μm(誘電体厚みの206倍)となるようにイミド系樹脂の添加量を0.3wt%として同時に電着時の電圧を調整した以外は実施例1と同様の製造方法および評価条件で、薄膜キャパシタ100個の作成と経時変化の評価とを行った。その結果、本実施例では600時間後において、86%(86/100pcs)の良品が得られた。
【0057】
(実施例11)
絶縁体パッチ材の最近接厚みが約147nm(絶縁体パッチ材の最大厚みの約1/4)となるよう、絶縁体パッチ材形成時の電着電流値を20mA/cm
2として同時に電着時の電圧を調整した以外は実施例1と同様の製造方法および評価条件で、薄膜キャパシタ100個の作成と経時変化の評価とを行った。その結果、本実施例では600時間後において、81%(81/100pcs)の良品が得られた。
【0058】
(実施例12)
絶縁体パッチ材の最近接厚みが約44nm(絶縁体パッチ材の最大厚みの約1/11)となるよう、絶縁体パッチ材形成時の電着電流値を2mA/cm
2として同時に電着時の電圧を調整した以外は実施例1と同様の製造方法および評価条件で、薄膜キャパシタ100個の作成と経時変化の評価とを行った。その結果、本実施例では600時間後において、82%(82/100pcs)の良品が得られた。
【0059】
(実施例13)
リークバルブ粒子を、粒径が640nm±20nm(誘電体層の厚みの0.8倍)に分粒されたアルミナに変更した以外は実施例1と同様の製造方法および評価条件で、薄膜キャパシタ100個の作成と経時変化の評価とを行った。その結果、本実施例では600時間後まで、73%(73/100pcs)の良品が得られた。
【0060】
(実施例14)
リークバルブ粒子を、粒径が1360nm±80nm(誘電体層の厚みの1.7倍)に分粒されたアルミナに変更した以外は実施例1と同様の製造方法および評価条件で、薄膜キャパシタ100個の作成と経時変化の評価とを行った。その結果、本実施例では600時間後において、70%(70/100pcs)の良品が得られた。
【0061】
(実施例15)
最初の誘電体層の成膜厚みを160nmに留め、リークバルブ粒子付着後の誘電体層の成膜厚みを640nmとし、リークバルブ粒子の埋め込み深さを640nm(誘電体層の厚みの4/5にあたる80%)とした以外は実施例1と同様の製造方法および評価条件で、薄膜キャパシタ100個の作成と経時変化の評価とを行った。その結果、本実施例では600時間後において、65%(65/100pcs)の良品が得られた。
【0062】
(実施例16)
本実施例では、第二の実施形態に係る薄膜キャパシタの特性確認を行った。絶縁体パッチ材の電着条件のうち、印加電流を1.5mA/cm2として目視観察をしながら電圧を調整した以外は実施例1と同様の方法で製造方法および評価条件で、薄膜キャパシタ100個の作成と経時変化の評価とを行った。得られた薄膜キャパシタの断面観察を行った結果、リークバルブ粒子の上部電極側先端には絶縁体パッチ材が存在しない領域が形成され、リークバルブ粒子と上部電極とはこの領域で直接接していた。経時変化の評価では、本実施例では600時間後において、86%(86/100pcs)の良品が得られた。
【0063】
(比較例1)
リークバルブ粒子も絶縁体パッチ材も、いずれも適用を行わない以外は実施例1と同様の製造方法および評価条件で、薄膜キャパシタ100個の作成と経時変化の評価とを行った。その結果、本実施例では600時間後において、1%(1/100pcs)の良品が得られた。
【0064】
(比較例2)
リークバルブ粒子のみを適用した以外は実施例1と同様の製造方法および評価条件で、薄膜キャパシタ100個の作成と経時変化の評価とを行った。その結果、本実施例では600時間後において、29%(29/100pcs)の良品が得られた。
【0065】
(比較例3)
リークバルブ粒子のみを適用した以外は実施例1と同様の製造方法および評価条件で、薄膜キャパシタ100個の作成と経時変化の評価とを行った。その結果、本実施例では600時間後において、32%(32/100pcs)の良品が得られた。
【0066】
以上説明した実施例と比較例との結果を表1に示す。
【0068】
以上、実施例と比較例とを通じて示したとおり、本発明の技術的範囲に属する薄膜キャパシタは、その使用中の機械的ストレスによる絶縁破壊が抑制され、長期間にわたって特性を維持することができる。