【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、本発明者等は、上述のような観点から、耐摩耗性と耐欠損性を両立し得るチップソー用のTiCN基サーメットを提供すべく、鋭意研究を行った結果、TiCN基サーメットの成分組成範囲を適正に調整すると共に、その焼結組織を均一な微細組織とした場合に、該チップソー用TiCN基サーメットは、長期間の切断加工において欠損を発生することもなく、すぐれた耐摩耗性を発揮し、その結果、チップソーの長寿命化を図り得ることを見出したのである。
【0009】
この発明は、上記の知見に基づいてなされたものであって、
「(1) 硬質相と結合相とからなるチップソー用TiCN基サーメットにおいて、
(a)上記硬質相成分は、47〜60質量%のTiCNと、15〜30質量%のWCと、5〜13質量%のNbCからなり、
(b)上記結合相成分は、5〜18質量%のCoからなり、
(c)上記チップソー用TiCN基サーメットは、硬質相を構成する結晶粒の平均粒径が0.5〜1.0μmの微細結晶粒からなる均一微細組織を有することを特徴とするチップソー用TiCN基サーメット。
(2)上記結合相成分として、10質量%以下のNiをさらに含有することを特徴とする前記(1)に記載のチップソー用TiCN基サーメット。
(3) 上記硬質相成分として、7質量%以下のMo
2Cをさらに含有することを特徴とする前記(1)、(2)に記載のチップソー用TiCN基サーメット。
(4) 上記微細結晶粒からなる均一微細組織は、硬質相を構成する結晶粒が0.085
μm以下である正規分布を示すことを特徴とするチップソー用TiCN基サーメット。」
に特徴を有するものである。
なお、この発明のチップソー用TiCN基サーメットにおいては、硬質相を形成する成分元素であるW、Nbは、サーメット中でWとC、NbとCがそれぞれ1:1の原子比で炭化物を形成しているものとして、WC量およびNbC量の炭化物換算値で定めた。
また、Mo
2Cについても同様に、サーメット中に含有されるMoが、サーメット中でMo:Cが2:1の原子比でMo
2Cという炭化物を形成しているものとして、炭化物換算値でMo
2C量を定めた。
【0010】
この発明のチップソー用TiCN基サーメットの成分組成および焼結組織について以下に説明する。
【0011】
まず、この発明のチップソー用TiCN基サーメットは、硬質相成分として、所定量のTiCNと共に、WCおよびNbCを必須成分として含有し、結合相成分として、所定量のCoおよびNi、あるいは、さらに所定量のMo
2Cを含有する。
【0012】
TiCN:
この発明のチップソー用TiCN基サーメットにおける主要成分であるTiCNは、焼結時に硬質相を形成して、サーメットの硬さを向上させ、もって、耐摩耗性向上に寄与するとともに耐溶着性を向上させる作用があるが、その含有割合が47質量%未満では、所望の硬さ(HRA:90以上)を確保することができず、一方、その含有割合が60質量%を超えると、サーメットの強度が急激に低下し、金属管・棒等の切断加工に供した場合、欠損が発生し易くなり、その結果、使用寿命が短命となる。
したがって、この発明では、TiCNの含有割合を47〜60質量%と定めた。
【0013】
WC:
チップソー用TiCN基サーメット中に含有されるWCは、靭性を高めると共に熱伝導率を向上させ、耐欠損性を高める作用を有するが、その含有割合が15質量%未満ではその効果が少なく、一方、その含有割合が30質量%を超えると、結合相中のW成分の含有割合が高くなりすぎて、結合相自体の高温強度が急激に低下し、これが原因で欠損が発生し易くなることから、この発明では、WCの含有割合を15〜30質量%と定めた。
【0014】
NbC:
チップソー用TiCN基サーメット中のNbCは、WCと同様に、焼結時に結合相形成成分であるCoおよびNi成分中に固溶し、冷却時に析出して硬質相を形成し、また、硬質相としてTiと固溶体を形成し、TiCN基サーメットの高温での耐摩耗性を向上させる作用を有するが、その含有割合が5質量%未満では高温耐摩耗性向上効果が十分ではなく、一方、その含有割合が13質量%を超えると硬質相中の含有割合が高くなりすぎ、硬質相の硬さ低下の原因となることから、その含有割合は5〜13質量%と定めた。
【0015】
Mo
2C:
Mo
2Cは、チップソー用TiCN基サーメット中の硬質相成分として必要に応じ含有させることができ、これによって、硬質相を形成するとともに、その一部は結合相中へ固溶して固溶強化作用を示し、さらに、組織の一層の微細化が図られ、靭性、耐欠損性が向上する。
しかし、その含有割合が7質量%を超える場合には、高温での耐摩耗性の低下を招くため、Mo
2Cの含有割合は7質量%以下とすることが必要である。
【0016】
Co:
チップソー用TiCN基サーメット中のCoは、焼結性を向上させ、結合相を形成し、強度を向上させる作用があるが、その含有割合が5質量%未満では、焼結性が不十分となり、一方、その含有割合が18質量%を超えると、耐摩耗性が低下傾向を示すようになることから、Coの含有割合は、5〜18質量%と定めた。
【0017】
Ni:
チップソー用TiCN基サーメット中のNiは、焼結時にCoとともに結合相を形成して、結合相の耐熱性を向上させ、もって耐摩耗性向上に寄与するが、その含有割合が10質量%を超えると結合相の高温強度が低下し、欠損が発生し易くなることから、Niの含有割合は、10質量%以下と定めた。
【0018】
チップソー用TiCN基サーメットの作製:
この発明のチップソー用TiCN基サーメットは、例えば、以下の方法で作製することができる。
まず、所定粒径の粉末を所定の配合組成となるように配合して原料粉末を作成し、
(イ)これを、室温から1380〜1420℃まで10Pa以下の真空雰囲気中にて1〜10℃/分の速度で昇温し、
(ロ)該温度範囲(1380〜1420℃)にて、130Paの窒素雰囲気中で20〜40分保持し、
(ハ)ついで、該温度範囲(1380〜1420℃)から所定の焼結温度(1460〜1540℃)までを、1.5〜2.5℃/分の速度で昇温し、
(ニ)該焼結温度(1460〜1540℃)にて、130Paの窒素雰囲気中で80〜120分保持し、
(ホ)ついで、上記焼結温度(1460〜1540℃)から750℃へと、10Pa以下の真空雰囲気中にて2〜3℃/分の冷却速度で冷却し、
(ヘ)750℃から室温までを10Pa以下の真空雰囲気中にて炉冷する。
上記(イ)〜(ヘ)の工程によって、本発明のチップソー用TiCN基サーメットを作製することができる。
このようにして作製した本発明のチップソー用TiCN基サーメットは、硬質相を構成する結晶粒の平均粒径が0.5〜1.0μmの微細結晶粒からなり、しかも、硬質相を構成する結晶粒の粒径分布は、中央値が0.7〜0.95μm、標準偏差が0.085
μm以下である正規分布を示す。さらに、このような均一かつ微細組織を有する本発明のチップソー用TiCN基サーメットは、熱伝導率が高い(17W/m・K以上)ことから、高熱を発生する高能率切断加工において、長期間にわたってすぐれた耐欠損性を発揮する。
なお、従来の焼結条件(前記本発明の焼結条件において、工程(ロ),(ホ)を除いた焼結条件にほぼ相当する。)により得られるチップソー用TiCN基サーメットの硬質相を構成する結晶粒の平均粒径は1μmを超えるものであり、或いは、平均粒径が1μm以下であっても、粒径の正規分布における中央値が大きく(例えば、0.95
μm超)、標準偏差の値も大きく(例えば、0.1
μm超)、本発明のチップソー用TiCN基サーメットのような均一かつ微細組織は得られない。
さらに、本発明のチップソー用TiCN基サーメットは、各成分の組成を特定範囲に限定するとともに、上記の焼結条件で作製することによって、高硬度(HRA90.0以上)を示すことから、耐摩耗性にもすぐれている。
【0019】
焼結組織:
この発明のチップソー用TiCN基サーメットは、その作製に際し、前記のような特定の条件で焼結することによって、サーメットの組織を、硬質相を構成する結晶粒の平均粒径が0.5〜1.0μm(好ましくは、0.7〜0.94μm)の微細結晶粒からなり、かつ、結晶粒の粒径分布は、中央値が0.7〜0.95μm(好ましくは、0.73〜0.93μm)、標準偏差が0.085
μm以下(好ましくは、0.062〜0.082
μm)である正規分布を示すような均一かつ微細な組織とすることができる。
そして、サーメットに形成された上記均一微細組織が、切断加工時の亀裂の発生・進展を抑制し、さらに、サーメット自体の熱伝導性が優れていることから、この発明のチップソー用TiCN基サーメットの耐欠損性の向上が図られる。
【0020】
ここで、「均一微細組織」とは、サーメットの任意の断面を走査型電子顕微鏡(倍率4000倍)で観察し、硬質相および結合相の数量をカウントし、リニアインターセプト法(Liner Intercept)の計算式より算出した平均粒径が、0.5〜1.0μmであるような焼結体組織をいう。
なお、平均粒径の測定は、より具体的には、以下のように行うことができる。
即ち、サーメットの任意の断面についての走査型電子顕微鏡(倍率4000倍)像を求め、該画像の測定範囲20μmについて、硬質相および結合相の個数をカウントし、硬質相の個数をNcc(個),結合相の個数をNbc(個)とした場合に、
Liner Intercept 計算式:
Lwc=L/((Ncc+1)+(Nbc/2))、 [但し、L=20(μm)]
dwc=4/π×Lwc
を用いて、硬質相の粒径dwc(μm)を求める。
ついで、上記測定を合計10ラインで行い、これらから得た値を平均して、平均粒径を算出することができる。
【0021】
また、本発明の硬質相を構成する結晶粒の粒径分布についても、前記リニアインターセプト法(Liner Intercept)で使用した値から、粒径分布の中央値、標準偏差を算出することができる。
【0022】
この発明では、チップソー用TiCN基サーメットの成分および組成範囲を前記の如く定めると共に、均一微細組織を形成することによって、チップソー用TiCN基サーメットの耐欠損性の向上を図ることができるとともに、すぐれた耐摩耗性を維持することができ、その結果、チップソーの長寿命化を図ることができる。