(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
セラミックス基板の一方の面に積層された回路層と、他方の面に積層された金属層とを備えたパワーモジュール用基板であって、前記回路層は、前記セラミックス基板の一方の面に接合された第一アルミニウム層と、該第一アルミニウム層に固相拡散接合された第一銅層とを有し、前記金属層は、前記第一アルミニウム層と同一材料により形成され前記セラミックス基板の他方の面に接合された第二アルミニウム層と、前記第一銅層と同一材料により形成されて前記第二アルミニウム層に固相拡散接合された第二銅層とを有し、前記第一アルミニウム層と前記第一銅層との間、及び前記第二アルミニウム層と前記第二銅層との間には、アルミニウムと銅との金属間化合物層が形成されており、前記第一銅層の厚みt1が1.7mm以上5mm以下とされ、前記第一銅層の厚みt1と前記第二銅層の厚みt2の合計が7mm以下とされ、前記第一銅層の厚みt1と前記第二銅層の厚みt2との比率t2/t1が0.8を超えて1.2以下の範囲に設定されていることを特徴とするパワーモジュール用基板。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、回路層を銅で形成することにより、アルミニウムを用いる場合と比べて半導体素子で発生する熱を速やかに放熱することができる。半導体素子の発熱分を放熱し易くするためには回路層の厚みを厚くすることが有効であるが、回路層の厚みをあまり厚くしすぎると、セラミックス基板との熱膨張差により熱伸縮による反りが大きくなり、半導体素子との接合を阻害して実装上の問題が生じることや、セラミックス基板に割れが発生することが懸念される。
【0006】
一方、金属層に用いられるアルミニウムは、はんだ付け性が悪いため、アルミニウムで構成された金属層とヒートシンクとをはんだ接合する際には、表面にNiめっきを形成する必要があり、生産性が低下することが問題である。また、アルミニウムは変形抵抗が比較的低いため、パワーモジュールに冷熱サイクルが負荷された際に、金属層が変形することによって、はんだにクラックが生じ、接合信頼性が低下したり、熱抵抗が上昇したりすることが問題となっている。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、冷熱サイクル負荷時において、接合信頼性の低下や熱抵抗の上昇が生じることを抑制し、かつセラミックス基板に割れが生じることを防止できるパワーモジュール用基板及びヒートシンク付パワーモジュール用基
板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
冷熱サイクル負荷時に生じる反りを低減するには、セラミックス基板を境に両側に接合される回路層及び金属層を、材質や厚み等を同一に設けて対称構造とすることが考えられる。ところが、最近では、パワーモジュールの小型化・薄肉化が進められるとともに、その使用環境が厳しく、半導体素子からの発熱量が大きくなっているため、パワーサイクルの条件が厳しくなっている。半導体素子の発熱分を放熱し易くするためには回路層の厚みを厚くすることが有効であるのに対し、パワーモジュール全体の小型化を考慮した場合には、金属層の厚みは薄くすることが望ましい。
そこで、本発明のパワーモジュール用基板は、以下の解決手段とした。
【0009】
本発明は、セラミックス基板の一方の面に積層された回路層と、他方の面に積層された金属層とを備えたパワーモジュール用基板であって、前記回路層は、前記セラミックス基板の一方の面に接合された第一アルミニウム層と、該第一アルミニウム層に固相拡散接合された第一銅層とを有し、前記金属層は、前記第一アルミニウム層と同一材料により形成され前記セラミックス基板の他方の面に接合された第二アルミニウム層と、前記第一銅層と同一材料により形成されて前記第二アルミニウム層に固相拡散接合された第二銅層とを有し、
前記第一アルミニウム層と前記第一銅層との間、及び前記第二アルミニウム層と前記第二銅層との間には、アルミニウムと銅との金属間化合物層が形成されており、前記第一銅層の厚みt1が1.7mm以上5mm以下とされ、前記第一銅層の厚みt1と前記第二銅層の厚みt2の合計が7mm以下とされ、前記第一銅層の厚みt1と前記第二銅層の厚みt2との比率t2/t1が
0.8を超えて1.2以下の範
囲に設定されていることを特徴とする。
この場合、前記金属間化合物層の厚みが1μm以上80μm以下であるとよい。
【0010】
このように構成されるパワーモジュール用基板は、回路層が、セラミックス基板の一方の面に接合される第一アルミニウム層と、この第一アルミニウム層に接合される第一銅層とにより形成され、この第一銅層の上に半導体素子が搭載されているので、半導体素子から発生する熱を第一銅層で面方向に拡げて効率的に放散することができる。また、比較的変形抵抗の小さい第一アルミニウム層がセラミックス基板と接合されているので、冷熱サイクルが負荷された場合にセラミックス基板と回路層との熱膨張係数の差に起因して発生する熱応力を第一アルミニウム層が吸収し、セラミックス基板に割れが発生することを抑制できる。さらに、この第一アルミニウム層に接合された比較的変形抵抗の大きい第一銅層によって、パワーサイクルが負荷された場合の回路層の変形を抑制することができるので、回路層と半導体素子とを接合するはんだにクラックが生じることを抑制できる。
【0011】
また、第一アルミニウム層と第一銅層とが、固相拡散接合によって接合されているので、冷熱サイクルが負荷された場合に、第一アルミニウム層と第一銅層との間に剥離が生じることが抑制され、回路層の熱伝導性及び導電性を良好に維持することができる。
この場合、第一銅層の厚みt1は1.7mm以上5mm以下とされるが、厚みt1が1.7mm未満では、半導体素子からの熱を面方向に拡げにくくなるので、パワーサイクル負荷時の熱抵抗を十分に低減することができずに、パワーサイクルに対する信頼性を確保することが難しくなる。また、厚みt1が5mmを超える範囲では、放熱性能に大きな差が生じなくなることから、パワーモジュール全体の小型化の観点から、厚みt1は5mm以下とされる。
さらに、第一銅層の厚みt1と第二銅層の厚みt2の合計が7mm以下とされているが、これらの合計が7mmを超える場合、冷熱サイクルが負荷された際に、セラミックス基板に過剰な熱応力が掛かり、セラミックス基板に割れが生じるおそれがある。
【0012】
一方、金属層は、セラミックス基板の他方の面に接合される第二アルミニウム層と、この第二アルミニウム層に接合される第二銅層とにより形成されているので、金属層にNiめっきを形成することなく金属層とヒートシンクとを良好に接合できる。また、パワーモジュール用基板とヒートシンクとを、はんだによって接合した場合に、比較的変形抵抗が高い第二銅層とヒートシンクとを接合することになるので、冷熱サイクルが負荷された際に、金属層の変形によって生じるはんだ内のクラックを抑制し、接合信頼性の低下や熱抵抗の上昇を抑えることができる。さらに、比較的変形抵抗が小さい第二アルミニウム層が第二銅層に接合されているので、冷熱サイクルが負荷されてもセラミックス基板と第二銅層との間に生じる熱応力を第二アルミニウム層で吸収してセラミックス基板に割れが生じることを抑制できる。
また、第二アルミニウム層と第二銅層とが固相拡散接合によって接合されているので、冷熱サイクルが負荷された場合に、第二アルミニウム層と第二銅層との間に剥離が生じることが抑制され、金属層の熱伝導性を良好に維持することができる。
【0013】
また、第一銅層の厚みt1と第二銅層の厚みt2の比率t2/t1は0を超えて1.2以下の範囲のうち0.6以上0.8以下を除く範囲とされるが、これは、比率t2/t1が0.6以上0.8以下の範囲では、第一銅層の厚みt1と第二銅層の厚みt2とは比較的厚みが近くなるのでパワーモジュール用基板全体の反りは小さくなるが、第二銅層の厚みt2が第一銅層の厚みに近づいて厚く設けられることとなるので、第二銅層の剛性が高くなり、これにより冷熱サイクル時に第一銅層による反りと第二銅層による反りとが相反する方向に負荷されることとなり、パワーモジュール用基板全体に生じる反り量が小さいにも関わらず、セラミックス基板に加わる負荷が大きくなってセラミックス基板に割れが生じるおそれがあるからである。
一方、比率t2/t1が0.6未満では、第一銅層の厚みt1と比べて第二銅層の厚みt2が小さいので、第一銅層と第二銅層との熱伸縮差によって冷熱サイクル時に生じるパワーモジュール用基板の反りは大きくなるが、第二銅層の剛性が低いので、第二銅層が第一銅層に追従してセラミックス基板に割れが生じることを回避できる。
また、比率t2/t1が0.8を超える範囲では、第一銅層の厚みt1と第二銅層の厚みt2とがほぼ同じ厚みになるので、冷熱サイクル時における第一銅層に生じる反りと第二銅層に生じる反りとのバランスが保たれた状態となり、パワーモジュール用基板に生じる反りを低減でき、セラミックス基板の割れを抑制することができる。
【0014】
本発明のヒートシンク付パワーモジュール用基板は、上述のパワーモジュール用基板と、ヒートシンクとを有し、前記第二銅層と前記ヒートシンクとが接合されていることを特徴とする。
パワーモジュール用基板の第二銅層がヒートシンクに接合されるので、金属層にNiめっきを形成することなく金属層とヒートシンクとをはんだによって接合することができる。また、比較的変形抵抗が高い第二銅層とヒートシンクとを接合することになるので、冷熱サイクル負荷時において、はんだにクラックが発生することを抑制し、接合信頼性の低下や熱抵抗の上昇を抑えることができる。
【0015】
本発明の
ヒートシンク付パワーモジュール用基板を用いて、その回路層上に接合された半導体素
子を備えるヒートシンク付パワーモジュールにおいては、冷熱サイクルが負荷されても、金属層とヒートシンクを接合するはんだにクラックが生じることを抑制し、接合信頼性の低下や熱抵抗の上昇を抑えることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、冷熱サイクル負荷時において、接合信頼性の低下や熱抵抗の上昇が生じることを抑制し、かつセラミックス基板に割れが生じることを防止できる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1に示すヒートシンク付パワーモジュール100は、ヒートシンク付パワーモジュール用基板20と、このヒートシンク付パワーモジュール用基板20に接合された半導体素子30とを備えている。また、ヒートシンク付パワーモジュール用基板20は、パワーモジュール用基板10と、このパワーモジュール用基板10に接合されたヒートシンク40とを備えている。
【0019】
パワーモジュール用基板10は、セラミックス基板11と、そのセラミックス基板11の一方の面11fに積層された回路層12と、セラミックス基板11の他方の面11bに積層された金属層13とを有している。
セラミックス基板11は、回路層12と金属層13との間の電気的接続を防止するものであって、AlN,Si
3N
4,Al
2O
3等で構成されている。また、セラミックス基板11の厚みは0.2mm〜1.5mmの範囲内に設定されており、本実施形態では0.635mmに設定されている。
【0020】
回路層12は、セラミックス基板11の一方の面11fに接合された第一アルミニウム層12Aと、この第一アルミニウム層12Aの一方側(
図1において上側)に積層された第一銅層12Bとを有している。
第一アルミニウム層12Aは、純アルミニウム又はアルミニウム合金からなる板がセラミックス基板11の一方の面11fに接合されることにより形成されており、本実施形態においては、第一アルミニウム層12Aは、純度が99.99%以上のアルミニウム(いわゆる4Nアルミニウム)の圧延板からなるアルミニウム板をセラミックス基板11に接合されることにより形成されている。
また、第一銅層12Bは、第一アルミニウム層12Aの一方側(
図1において上側)に純銅や銅合金からなる板が接合されることにより形成されており、本実施形態においては、第一銅層12Bは、無酸素銅の圧延板からなる銅板が第一アルミニウム層12Aに固相拡散接合されることにより形成されている。
【0021】
金属層13は、セラミックス基板11の他方の面11bに接合された第二アルミニウム層13Aと、この第二アルミニウム層13Aの他方側(
図1において下側)に積層された第二銅層13Bとを有している。
第二アルミニウム層13Aは、アルミニウム板がセラミックス基板11の他方の面11bに接合されることにより形成されており、回路層12の第一アルミニウム層12Aと同一材料により形成される。本実施形態においては、上述したように第一アルミニウム層12Aは、純度が99.99%以上のアルミニウム(いわゆる4Nアルミニウム)の圧延板からなるアルミニウム板がセラミックス基板11に接合されることにより形成されており、第二アルミニウム層13Aも、第一アルミニウム層12Aと同一の純度が99.99%以上のアルミニウム(いわゆる4Nアルミニウム)の圧延板からなるアルミニウム板がセラミックス基板11に接合されることにより形成されている。
また、第二銅層13Bは、第二アルミニウム層13Aの他方側(
図1において下側)に接合されることにより形成されており、回路層12の第一銅層12Bと同一材料により形成される。したがって、本実施形態においては、第二銅層13Bは、第一銅層12Bと同じ無酸素銅の圧延板からなる銅板が第二アルミニウム層13Aに固相拡散接合されることにより形成されている。
【0022】
そして、このように構成されるパワーモジュール用基板10の回路層12の第一銅層12Bの厚みt1は、1.7mm以上5mm以下とされる。また、第一銅層12Bの厚みt1と第二銅層13Bの厚みt2の合計が7mm以下とされるとともに、第一銅層12Bの厚みt1と第二銅層13Bの厚みt2との比率t2/t1が0を超えて1.2以下の範囲のうち0.6以上0.8以下を除く範囲に設定されている。
また、本実施形態において、回路層12及び金属層13の平面サイズは、一辺が30mm以上150mm以下とされる矩形状のセラミックス基板11の平面サイズよりも小さく設けられている。
【0023】
なお、これら回路層12と金属層13とを構成する、第一アルミニウム層12Aと第一銅層12B、及び第二アルミニウム層13Aと第二銅層13Bは、前述したように固相拡散接合により接合されており、これらの界面には、
図2に示すように、金属間化合物層14がそれぞれ形成されている。金属間化合物層14は、第一アルミニウム層12A又は第二アルミニウム層13AのAl原子と、第一銅層12B又は第二銅層13BのCu原子とが相互拡散することにより形成されるものである。例えば第一アルミニウム層12Aと第一銅層12Bとの界面に形成された金属間化合物層14について説明すると、第一アルミニウム層12Aから第一銅層12Bに向かうにしたがい、漸次Al原子の濃度が低くなり、かつCu原子の濃度が高くなる濃度勾配を有している。
【0024】
このように、金属間化合物層14は、CuとAlとからなる金属間化合物により構成されており、本実施形態では、複数の金属間化合物が接合界面に沿って積層した構造とされ、金属間化合物層14の厚みは、1μm以上80μm以下の範囲内、好ましくは5μm以上80μm以下の範囲内に設定されている。なお、本実施形態では、
図2に示すように、3種の金属間化合物が積層された構造とされており、第一アルミニウム層12A(第二アルミニウム層13A)側から第一銅層12B(第二銅層13B)側に向けて順に、第一アルミニウム層12A(第二アルミニウム層13A)と第一銅層12B(第二銅層13B)との接合界面に沿って、θ相16、η
2相17が積層し、さらにζ
2相18A,δ相18B及びγ
2相18Cのうち少なくとも一相が積層した構造とされている(
図7)。
【0025】
また、金属間化合物層14と第一銅層12B(第二銅層13B)との接合界面に沿って、酸化物19が、ζ
2相18A、δ相18B、又はγ
2相18Cの内部に層状に分散している。なお、本実施形態においては、この酸化物19は、アルミナ(Al
2O
3)等のアルミニウム酸化物とされる。また、酸化物19は、分断された状態で分散している場合もある。
【0026】
ヒートシンク40は、パワーモジュール用基板10側の熱を放散するためのものであり、本実施形態では、ヒートシンク40が、パワーモジュール用基板10が接合される放熱板41と冷却媒体(例えば、冷却水)を流通するための流路42aが設けられた冷却部42とからなり、これら放熱板41と冷却部42とはグリース(図示略)を介してネジ43によって固定されている。ヒートシンク40は、熱伝導性が良好な材質で構成されることが望ましく、本実施形態においては、放熱板41は無酸素銅により形成され、冷却部42はアルミニウム合金により形成されている。
【0027】
そして、ヒートシンク40の放熱板41と金属層13の第二銅層13Bとが、はんだ層45によって接合されており、はんだ層45は、例えばSn‐Sb系、Sn‐Ag系、Sn‐Cu系、Sn‐In系、もしくはSn‐Ag‐Cu系のはんだ材(いわゆる鉛フリーはんだ材)とされる。
なお、半導体素子30は、半導体を備えた電子部品であり、必要とされる機能に応じて種々の半導体素子が選択される。そして、半導体素子30は、はんだ層31を介して回路層12の第一銅層12Bに接合される。なお、はんだ層31は、例えばSn‐Ag系、Sn‐Cu系、Sn‐In系、もしくはSn‐Ag‐Cu系等のはんだ材(いわゆる鉛フリーはんだ材)とされる。
【0028】
次に、このように構成されるパワーモジュール用基板10、ヒートシンク付パワーモジュール用基板20、及びヒートシンク付パワーモジュール100の製造方法について
図3から
図5を用いて説明する。
まず、
図3に示すように、セラミックス基板11の両面(本発明でいう、一方の面11fと他方の面11b)に、Al‐Si系のろう材(図示略)を介してアルミニウム板12a,13aを積層する。そして、加圧・加熱後に冷却することにより、セラミックス基板11とアルミニウム板12a,13aとを接合し、セラミックス基板11に第一アルミニウム層12A及び第二アルミニウム層13Aを接合する(アルミニウム層形成工程S11)。なお、このろう付け温度は、610℃〜650℃に設定される。
【0029】
次に、第一アルミニウム層12Aの一方側(上側)に銅板12bを配置し、第二アルミニウム層13Aの他方側(下側)に銅板13bを配置する。そして、これらの積層体をその積層方向に加圧した状態で真空加熱炉50に装入して、加熱処理を行う。本実施形態においては、第一アルミニウム層12A及び銅板12b、第二アルミニウム層13A及び銅板13b、の接触面に負荷される荷重は、0.29MPa以上3.43MPa以下とされ、加熱温度を400℃以上548℃未満とし、5分以上240分以下保持して固相拡散接合を行う。これにより、第一アルミニウム層12Aに銅板12bを接合して第一銅層12Bを形成すると同時に、第二アルミニウム層13Aに銅板13bを接合して第二銅層13Bを形成する(銅層形成工程S12)ことにより、回路層12と金属層13が形成され、本実施形態に係るパワーモジュール用基板10が得られる。
なお、本実施形態においては、第一アルミニウム層12Aと銅板12b、第二アルミニウム層13Aと銅板13bの、それぞれの接合面は、予め傷が除去されて平滑にされた後に、固相拡散接合される。また、固相拡散接合における真空加熱の好ましい加熱温度は、AlとCuの共晶温度−5℃以上、共晶温度未満の範囲とされている。
【0030】
次に、
図4に示すように、パワーモジュール用基板10の他方側(下側)に、ヒートシンク40を接合する(ヒートシンク接合工程S13)。このヒートシンク接合工程S13においては、パワーモジュール用基板10の他方側に放熱板41をはんだ付けした後に、グリースを介して冷却部42を配設することにより、ヒートシンク40をパワーモジュール用基板10に接合する。こうして、ヒートシンク付パワーモジュール用基板20が得られる。
【0031】
最後に、ヒートシンク付パワーモジュール用基板20の回路層12の一方の面(
図4において上面)に、はんだによって半導体素子30を接合する(半導体素子接合工程S14)ことにより、本実施形態に係るヒートシンク付パワーモジュール100が得られる。
【0032】
以上のような構成とされる本実施形態のパワーモジュール用基板10、ヒートシンク付パワーモジュール用基板20、及びヒートシンク付パワーモジュール100によれば、回路層12が、セラミックス基板11の一方の面11fに接合される第一アルミニウム層12Aと、この第一アルミニウム層12Aに接合される第一銅層12Bとにより形成され、この第一銅層12Bの上に半導体素子30が搭載されているので、半導体素子30から発生する熱を第一銅層12Bで面方向に拡げて効率的に放散することができる。
【0033】
また、比較的変形抵抗の小さい第一アルミニウム層12Aがセラミックス基板11と接合されているので、冷熱サイクルが負荷された場合にセラミックス基板11と回路層12との熱膨張係数の差に起因して発生する熱応力を第一アルミニウム層12Aが吸収し、セラミックス基板11に割れが発生することを抑制できる。さらに、この第一アルミニウム層12Aに接合された比較的変形抵抗の大きい第一銅層12Bによって、パワーサイクルが負荷された場合の回路層12の変形を抑制することができるので、回路層12と半導体素子30とを接合するはんだにクラックが生じることを抑制できる。
【0034】
また、第一アルミニウム層12Aと第一銅層12Bとが、固相拡散接合によって接合されているので、冷熱サイクルが負荷された場合に、第一アルミニウム層12Aと第一銅層12Bとの間に剥離が生じることが抑制され、回路層12の熱伝導性及び導電性を良好に維持することができる。
【0035】
さらに、第一銅層12Bの厚みt1は1.7mm以上5mm以下とされるが、厚みt1が1.7mm未満では、半導体素子30からの熱を面方向に拡げにくくなるので、パワーサイクル負荷時の熱抵抗を十分に低減することができずに、パワーサイクルに対する信頼性を確保することが難しくなるためである。また、厚みt1が5mmを超える範囲では、放熱性能に大きな差が生じなくなることから、パワーモジュール全体の小型化の観点から、厚みt1は5mm以下とされる。
さらに、第一銅層12Bの厚みt1と第二銅層13Bの厚みt2の合計が7mm以下とされるが、これらの合計が7mmを超える場合、冷熱サイクルが負荷された際に、セラミックス基板に過剰な熱応力が掛かり、セラミックス基板に割れが生じるおそれがある。
【0036】
一方、金属層13は、セラミックス基板11の他方の面11bに接合される第二アルミニウム層13Aと、この第二アルミニウム層13Aに接合される第二銅層13Bとにより形成されているので、金属層13にNiめっきを形成することなく金属層13とヒートシンク40とを良好に接合できる。また、パワーモジュール用基板10とヒートシンク40とを、はんだによって接合した場合に、比較的変形抵抗が高い第二銅層13Bとヒートシンク40とを接合することになるので、冷熱サイクルが負荷された際に、金属層の変形によって生じるはんだ内のクラックを抑制し、接合信頼性の低下や熱抵抗の上昇を抑えることができる。さらに、比較的変形抵抗が小さい第二アルミニウム層13Aが第二銅層13Bに接合されているので、冷熱サイクルが負荷されてもセラミックス基板11と第二銅層13Bとの間に生じる熱応力を第二アルミニウム層13Aで吸収してセラミックス基板11に割れが生じることを抑制できる。
【0037】
また、第二アルミニウム層13Aと第二銅層13Bとが固相拡散接合によって接合されているので、冷熱サイクルが負荷された場合に、第二アルミニウム層13Aと第二銅層13Bとの間に剥離が生じることが抑制され、金属層13の熱伝導性を良好に維持することができる。
【0038】
また、第一銅層12Bの厚みt1と第二銅層13Bの厚みt2の比率t2/t1は0を超えて1.2以下の範囲のうち0.6以上0.8以下を除く範囲とされるが、これは、比率t2/t1が0.6以上0.8以下の範囲では、第一銅層12Bの厚みt1と第二銅層13Bの厚みt2とは比較的厚みが近くなるのでパワーモジュール用基板10全体の反りは小さくなるが、第二銅層13Bの厚みt2が第一銅層12Bの厚みに近づいて厚く設けられることに関係する。すなわち、第二銅層13Bが厚く設けられることにより剛性が高くなり、これにより冷熱サイクル時に第一銅層12Bによる反りと第二銅層13Bによる反りとが相反する方向に負荷されることとなる。その結果、パワーモジュール用基板10全体に生じる反り量が小さいにも関わらず、セラミックス基板11に加わる負荷が大きくなってセラミックス基板11に割れが生じるおそれがあるためである。
【0039】
一方、比率t2/t1が0.6未満では、第一銅層12Bの厚みt1と比べて第二銅層13Bの厚みt2が小さいので、第一銅層12Bと第二銅層13Bとの熱伸縮差によって冷熱サイクル時に生じるパワーモジュール用基板10の反りは大きくなるが、第二銅層13Bの剛性が低いので、第二銅層13Bが第一銅層12Bに追従してセラミックス基板11に割れが生じることを回避できる。
また、比率t2/t1が0.8を超える範囲では、第一銅層12Bの厚みt1と第二銅層13Bの厚みt2とがほぼ同じ厚みになるので、冷熱サイクル時における第一銅層12Bに生じる反りと第二銅層13Bに生じる反りとのバランスが保たれた状態となり、パワーモジュール用基板10に生じる反りを低減でき、セラミックス基板11の割れを抑制することができる。
【0040】
なお、本発明は、上記実施形態の構成のものに限定されるものではなく、細部構成においては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上記実施形態では、ヒートシンク40が無酸素銅で構成されている場合について説明したが、タフピッチ銅等の純銅や銅合金で構成することもできる。また、アルミニウムやアルミニウム合金で構成することもでき、この場合には、ヒートシンクにNiめっきを施した後に、パワーモジュール用基板とヒートシンクとをはんだによって接合することで良好に接合することができる。さらに、ヒートシンク40の放熱板41と冷却部42との接合方法はネジで固定する場合に限定されるものではなく、例えば固相拡散接合により接合することもできる。また、ヒートシンク40は、放熱板41を用いることなく構成することもでき、パワーモジュール用基板10と冷却部42とを直接接合する構成とすることもできるし、ヒートシンク40にはヒートパイプ熱等を放散させる種々の構成をとることができる。
【0041】
また、上記実施形態においては、第一アルミニウム層12Aと第一銅層12B、第二アルミニウム層13Aと第二銅層13Bを、同時に固相拡散接合する場合について説明したが、これらを別々に固相拡散接合する構成としても良い。
また第一アルミニウム層12Aと第二アルミニウム層13Aは、純度99.99%の純アルミニウムに限定されることはなく、純度99%のアルミニウム(いわゆる2Nアルミニウム)やアルミニウム合金等であっても良い。
【実施例】
【0042】
次に、本発明の効果を確認するために行った確認実験について説明する。
(本発明例1〜12、比較例1〜4)
前述したパワーモジュールの製造工程において、本発明例1〜12、比較例1〜4となるパワーモジュールの試料を複数製造した。
各パワーモジュール用基板としては、40mm×40mm、厚み0.635mmで表1に記載の材料からなるセラミックス基板に、回路層及び金属層を積層したものを用いた。回路層の第一アルミニウム層と金属層の第二アルミニウム層は、それぞれ37mm×37mm、厚み0.6mmで表1に記載のアルミニウム板をセラミックス基板にAl‐Si系ろう材により接合して形成した。また、回路層の第一銅層と金属層の第二銅層は、それぞれ37mm×37mm、表1に記載の銅板を第一アルミニウム層及び第二アルミニウム層と固相拡散接合することにより形成して、各試料のパワーモジュール用基板を製造した。なお、固相拡散接合は、真空加熱炉内の圧力を1.0×10
−6Pa以上1.0×10
−3Pa以下として行った。
そして、得られたパワーモジュール用基板に対して、冷熱サイクル試験を実施し、冷熱サイクル試験後のパワーモジュール用基板に対し、セラミックス基板の割れの評価を行った。
【0043】
冷熱サイクル試験は、冷熱衝撃試験機エスペック社製TSB‐51を使用し、ヒートシンク付パワーモジュールに対して、液相(フロリナート)で、−40℃×5分←→125℃×5分の3000サイクル実施した。
【0044】
(セラミックス基板の割れの評価)
超音波探傷装置を用いて評価し、セラミックス基板に割れが確認されなかったものを良「○」とし、割れが生じているものを否「×」と評価した。
評価結果を表1に示す。
【0045】
【表1】
【0046】
(本発明例13〜16)
上述のパワーモジュール用基板とヒートシンクをSn‐Sbはんだによって接合し、表2に示す本発明例13〜16のヒートシンク付パワーモジュール用基板を作製した。
本発明例13は、本発明例5で得られたパワーモジュール用基板を用いて作製し、本発明例14は本発明例7で、本発明例15は本発明例10で、本発明例16は本発明例12で得られたパワーモジュール用基板をそれぞれ用いて作製した。また、本発明例13及び本発明例16は、Niめっきを施したAl合金(A6063)からなるヒートシンクを用い、本発明例14及び本発明例15は無酸素銅からなるヒートシンクを用いて作製した。
そして、得られたヒートシンク付パワーモジュール用基板に対し、冷熱サイクル試験前後の第二銅層とはんだ層界面の接合率及び冷熱サイクル試験後のセラミックス割れについて評価した。
【0047】
冷熱サイクル試験前後の第二銅層とはんだ層界面の接合率について超音波探傷装置を用いて評価した。また、接合率は以下の式から算出した。
接合率(%) = {(初期接合面積)−(剥離面積)}/(初期接合面積)
ここで、初期接合面積とは、接合前における接合すべき面積、すなわち本実施例では第二銅層の面積とした。超音波探傷像において、はんだ層のクラックは接合部内の白色部で示されることから、この白色部の面積を剥離面積とした。
冷熱サイクル試験及びセラミックス基板の割れの評価は、本発明例1〜12と同様に行った。
【0048】
【表2】
【0049】
表1からわかるように、第一銅層の厚みt1が1.7mm以上5mm以下とされ、比率t2/t1が0を超えて1.2以下の範囲のうち0.6以上0.8以下を除く範囲に設定され、第一銅層の厚みt1と第二銅層の厚みt2の合計が7mm以下とされた本発明例1〜12においては、冷熱サイクル試験後のセラミックス基板に割れが生じることがない、パワーモジュール用基板を得ることができた。
さらに、表2からわかるように、ヒートシンクがはんだ付けされたヒートシンク付パワーモジュール用基板においては、冷熱サイクル試験後のセラミックス基板に割れが生じることがなく、接合率が良好なヒートシンク付パワーモジュール用基板が得られることがわかった。
【0050】
一方、比率t2/t1が0.6以上0.8以下とされる比較例1〜2や、第一銅層の厚みt1と第二銅層の厚みt2の合計が7mmを超えた比較例3や、比率t2/t1が1.2を超えた比較例4においては、
図6の超音波画像にみられるように、冷熱サイクル試験後のセラミックス基板に割れが発生する結果となった。
図6の超音波画像からわかるように、比較例1〜4では、放射状の筋が確認されており、セラミックス基板の厚み方向にクラックが生じていた。また、放射状の筋に加えて局所的に白く点在する領域が見られ、セラミックス基板の水平方向にもクラックが生じていることがわかった。