(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
c)工程後に、前記貯留容器の溶液入口ポートより希釈液を貯留容器に注入して貯留容器内の細胞濃縮液を希釈した後、b)工程およびc)工程をさらに繰り返す請求項1に記載の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、中空糸分離膜を用いた細胞濃縮液の製造における上記課題を解決することであり、細胞の損失および汚染の懸念が低く、細胞へのダメージが低く、しかも細胞濃縮液を精度よく製造する方法を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、前記のような細胞濃縮液を効率よく製造することができる細胞懸濁液処理システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、中空糸分離膜が充填された細胞懸濁液処理器とともに、細胞を貯留する容器、この貯留容器内または貯留容器と細胞懸濁液処理器とを連通する管内の液量を検知する機器、および貯留容器と細胞懸濁液処理器との間で細胞懸濁液を循環させながら濃縮を行えるように接続する回路を備えた細胞懸濁液処理システムを用い、前記貯留容器内または前記貯留容器と細胞懸濁液処理器とを連通する管内の液量を検知して、前記循環による濃縮を制御することにより、細胞の汚染の懸念が低く、細胞へのダメージが低く、細胞損失の懸念が小さく、その上、細胞濃縮液を効率よく製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明が提供するのは以下の通りである。
(1)溶液入口ポート、循環出口ポートおよび循環入口ポートを有する、細胞懸濁液の貯留容器と、
細胞懸濁液導入口、細胞懸濁液導出口および濾液用出口を有する容器内に中空糸分離膜が充填された、細胞懸濁液から液体を濾して濃縮を行うための細胞懸濁液処理器と、
前記貯留容器の循環入口ポートおよび前記細胞懸濁液処理器の細胞懸濁液導入口を連通する導入用連通管ならびに前記細胞懸濁液処理器の細胞懸濁液導出口および前記貯留容器の循環出口ポートを連通する導出用連通管とからなり、貯留容器および細胞懸濁液処理器の間で細胞懸濁液を循環させながら濃縮を行うための循環回路と、
濃縮された細胞濃縮液の回収容器と、
前記貯留容器内、前記細胞懸濁液処理器内および前記循環回路内の細胞濃縮液を前記回収容器に送液するための回収路と、
前記貯留容器の溶液入口ポートに溶液を注入するための注入路と、
前記貯留容器内または循環回路の導入用連通管内の細胞濃縮液の液量を検知するための検知手段と
を備えた細胞懸濁液処理システムを用いる細胞濃縮液の製造方法であって、
a)前記溶液入口ポートより細胞懸濁液を貯留容器に供給して貯留する工程と、
b)貯留容器内の細胞懸濁液を、循環回路の導入用連通管を経て細胞懸濁液処理器へ通液し、次いで循環回路の導出用連通管を経て貯留容器へと循環させて細胞懸濁液を濃縮する工程と、
c)貯留容器内または循環回路の導入用連通管内の細胞濃縮液の液量を検知することにより、前記b)工程を停止させる工程と、
d)前記貯留容器内、前記細胞懸濁液処理器内および循環回路内の細胞濃縮液を回収路を経て回収容器に送液して回収する工程と
を含む細胞濃縮液の製造方法。
(2)c)工程後に、前記貯留容器の溶液入口ポートより希釈液を貯留容器に注入して貯留容器内の細胞濃縮液を希釈した後、b)工程およびc)工程をさらに繰り返す前記細胞濃縮液の製造方法。
(3)a)工程前に、溶液入口ポートよりプライミング液を注入し、プライミングを行う前記細胞濃縮液の製造方法。
(4)a)工程とb)工程を並行して実施する前記細胞濃縮液の製造方法。
(5)循環回路内の液量を検知する検知手段が、前記循環回路の導入用連通管に備えられている気泡センサーである前記細胞濃縮液の製造方法。
(6)貯留容器内の液量を検知する検知手段が、貯留容器に平行な、貯留容器下部と連通する回路上に1つ以上備えている気泡センサーである前記細胞濃縮液の製造方法。
(7)前記貯留容器下部と連通する回路にチャンバーを備えている前記細胞濃縮液の製造方法。
(8)前記注入路に気泡センサーが備えられている前記細胞濃縮液の記載の製造方法。
(9)溶液入口ポート、循環出口ポートおよび循環入口ポートを有する、細胞懸濁液の貯留容器と、
細胞懸濁液導入口、細胞懸濁液導出口および濾液用出口を有する容器内に中空糸分離膜が充填されてなり、細胞懸濁液から液体を濾して濃縮を行うための細胞懸濁液処理器と、
前記貯留容器の循環入口ポートおよび前記細胞懸濁液処理器の細胞懸濁液導入口を連通する導入用連通管ならびに前記細胞懸濁液処理器の細胞懸濁液導出口および前記貯留容器の循環出口ポートを連通する導出用連通管とからなり、貯留容器および細胞懸濁液処理器の間で細胞懸濁液を循環させながら濃縮を行うための循環回路と、
濃縮された細胞濃縮液を回収する回収容器と、
前記貯留容器内、前記細胞懸濁液処理器内および前記循環回路内の細胞濃縮液を前記回収容器に送液するための回収路と、
前記貯留容器の溶液入口ポートに溶液を注入するための注入路と、
前記貯留容器内または循環回路の導入用連通管内の細胞濃縮液の液量を検知するための検知手段と
前記検知手段で細胞濃縮液が所定の液量にまで濃縮されたことを検知して、前記貯留容器から細胞懸濁液処理器への細胞濃縮液の送液を停止させる制御手段と
を備えた細胞懸濁液処理システム。
(10)循環回路内の液量を検知する検知手段が、前記循環回路の導入用連通管に備えられている気泡センサーである前記細胞懸濁液処理システム。
(11)貯留容器内の液量を検知する検知手段が、貯留容器に平行な、貯留容器下部と連通する回路上に備えている気泡センサーである前記細胞懸濁液処理システム。
(12)前記貯留容器下部と連通する回路にチャンバーを備えている前記細胞懸濁液処理システム。
(13)前記注入路に気泡センサーが備えられている前記細胞懸濁液処理システム。
(14)前記溶液入口ポート、循環出口ポートおよび循環入口ポートが、全て貯留容器の下部に備えられている前記細胞懸濁液処理システム。
(15)貯留容器上部付近に通気口を備え、貯留容器内が大気開放系になっている前記細胞懸濁液処理システム。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、中空糸分離膜が充填された細胞懸濁液処理器とともに、細胞を貯留する容器、前記貯留容器と前記細胞懸濁液処理器とを接続する回路、および前記貯留容器内または貯留容器と細胞懸濁液処理器とを連通する管内の液量を検知する機器を備えた細胞懸濁液処理システムを用い、前記検知手段で細胞濃縮液が所定の液量にまで濃縮されたことを検知して、前記貯留容器から細胞懸濁液処理器への細胞濃縮液の送液を停止させることにより、細胞へのダメージが低く、細胞損失および汚染の懸念が小さい細胞濃縮液を無菌的な閉鎖系で精度よく製造できる。そのために、濃縮された細胞は細胞治療用に提供可能になる。さらに、前記細胞懸濁液処理システムに予め処理条件をプログラムして細胞濃縮液製造の自動化を行った場合でも細胞濃縮液を効率よく生産することができる。
【0013】
また、細胞濃縮液の製造方法において、細胞濃縮の終了後に、希釈液を貯留容器に注入して貯留容器内の細胞濃縮液を希釈した後、b)濃縮工程およびc)濃縮停止工程をさらに繰り返すことで、細胞濃縮液中の不要な成分を除去して、より純度の高い細胞濃縮液を得ることができる。
【0014】
また、細胞濃縮液の製造方法において、a)貯留工程前に、溶液入口ポートよりプライミング液を注入し、プライミングを行うことで、細胞濃縮を作業性よく行うことができる。
【0015】
また、細胞濃縮液の製造方法において、a)貯留工程とb)濃縮工程を並行して実施することで、処理時間を短くすることができる。
【0016】
また、前記細胞懸濁液処理システムの循環回路内の液量を検知する検知手段が、前記循環回路の導入用連通管に備えられている気泡センサーであることで、貯留容器内の液量を検知する場合に比べて、細胞懸濁液をより濃縮することができるため、濃縮された懸濁液量を少なくでき、懸濁液中の不要成分の量を低下することができる。
【0017】
また、前記貯留容器内の液量を検知する検知手段が、貯留容器に平行な、貯留容器下部と連通する回路上に1つ以上備えている気泡センサーであることで、貯留容器の液面を検知する場合のように検知する範囲が大きな気泡センサーを必要とするのに比べて、回路内の液面を検知する範囲が狭くてよくコンパクトな気泡センサーで対応することができる。
また、前記貯留容器下部と連通する回路にチャンバーを備えていることで、回路に誤って気泡が浸入しても気泡センサーで検知される不具合の発生を低減することができる。
【0018】
また、前記注入路に気泡センサーが備えられていることで、対象とする細胞懸濁液の処理量が予めわからなくても、細胞懸濁液がなくなって注入路に入ってきた気泡を前記気泡センサーが検知するため、処理毎にポンプの駆動時間を設定することなく対象の液体全量を処理することができる。
【0019】
また、前記溶液入口ポート、循環出口ポートおよび循環入口ポートが、全て貯留容器の下部に備えられていることで、溶液入口ポートを通じて前記貯留容器に供給される細胞懸濁液や希釈のための溶液が貯留容器や循環回路内を循環する液体と効率よく混合・撹拌されて、効率的に濃縮および希釈を行うことができる
【0020】
また、貯留容器上部付近に1つ以上の通気口を備え、貯留容器内が大気開放系になっていることで貯留容器内の液体を排出するため容器を減圧する際に、貯留容器がつぶれることを予防することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の細胞濃縮液の製造方法は、
溶液入口ポート、循環出口ポートおよび循環入口ポートを有する、細胞懸濁液の貯留容器と、
細胞懸濁液導入口、細胞懸濁液導出口および濾液用出口を有する容器内に中空糸分離膜が充填された、細胞懸濁液から液体を濾して濃縮を行うための細胞懸濁液処理器と、
前記貯留容器の循環入口ポートおよび前記細胞懸濁液処理器の細胞懸濁液導入口を連通する導入用連通管ならびに前記細胞懸濁液処理器の細胞懸濁液導出口および前記貯留容器の循環出口ポートを連通する導出用連通管とからなり、貯留容器および細胞懸濁液処理器の間で細胞懸濁液を循環させながら濃縮を行うための循環回路と、
濃縮された細胞濃縮液の回収容器と、
前記貯留容器内、前記細胞懸濁液処理器内および前記循環回路内の細胞濃縮液を前記回収容器に送液するための回収路と、
前記貯留容器の溶液入口ポートに溶液を注入するための注入路と、
前記貯留容器内または循環回路の導入用連通管内の細胞濃縮液の液量を検知するための検知手段と
を備えた細胞懸濁液処理システムを用いる。
【0023】
まず、細胞懸濁液処理システムについて説明する。
【0024】
(貯留容器)
細胞懸濁液処理システムで用いる貯留容器は、処理するための細胞懸濁液を貯留し、後述のように細胞懸濁液処理器に細胞懸濁液を通液して得られる細胞濃縮液を循環して貯留する容器である。貯留容器は、溶液入口ポート、循環出口ポートおよび循環入口ポートを有する。
溶液入口ポートとは、細胞懸濁液を貯留容器内に供給するためのポートをいう。循環入口ポートとは、貯留容器から細胞懸濁液処理器に通液するためのポートをいい、循環出口ポートとは、細胞懸濁液処理器で濃縮された細胞濃縮液を貯留容器に通液するためのポートをいう。
これらのポートは、貯留容器の下部に設置されていることが好ましい。下部にこれらポート全てを設置することにより、溶液入口ポートを通じて供給される細胞懸濁液や希釈のための溶液が貯留容器や循環回路内を循環する液体と効率よく撹拌されることによって、効率的に濃縮および希釈を行うことができる。
なお、溶液入口ポート、循環出口ポート、循環入口ポートの数としては、それぞれ1つあればよいが、必要に応じて複数に増やしてもよい。例えば、前記溶液入口ポートは、細胞懸濁液だけでなく、希釈液やプライミング液用のポートとしても使用できるが、細胞懸濁液用のポートのほかに、希釈液やプライミング液用の入口ポートを設けてもよい。
また、前記の3種類のポートとは別の目的のポートを設けてもよい。例えば、細胞濃縮液を回収容器に通液するための回収用ポートが挙げられる。貯留容器の回収用ポートと回収容器とを直接接続することで、貯留容器内の細胞濃縮液を速やかに回収することが可能になる。
【0025】
前記貯留容器の材質については、細胞懸濁液または細胞濃縮液中の細胞に影響を与えないものであればよいが、取扱性がよいという観点から、可撓性のプラスチックが好ましい。
また、貯留容器の内面はナシジ加工されていることが、貯留容器内から懸濁液を排出する際の残液を少なくてできる点などから利点がある。
貯留容器の容積は、特に制限なく用いることができる。ただし、大きすぎると希釈に用いる希釈液量が多く必要になることから、1000mL以下であることが好ましい。
【0026】
また、貯留容器の形状、各ポートの構造、材質などについては処理する細胞懸濁液の種類、容積により適宜決定すればよく、特に限定はない。
【0027】
また、貯留容器の上部には、通気口を備えていてもよい。この通気口を備えることで貯留容器内の気体と大気との交換が可能な大気開放系となり、例えば、貯留容器内の液体を排出する際に、貯留容器内が減圧して貯留容器がつぶれることを予防する利点がある。この通気口には、エアフィルタを設けてもよく、外部から貯留容器内に不要な成分が混入することを防ぐことができる。
【0028】
(細胞懸濁液処理器)
細胞懸濁液処理器は、細胞懸濁液から液体を濾して濃縮を行うための装置であり、前記貯留容器から細胞懸濁液を通液できるように接続されている。
細胞懸濁液処理器は、細胞懸濁液導入口、細胞懸濁液導出口および濾液用出口を有する容器内に中空糸分離膜が充填されている。
【0029】
前記細胞懸濁液導入口は、前記貯留容器から細胞懸濁液処理器内に細胞懸濁液を導入するための入口であり、貯留容器の循環入口ポートと接続されている。
前記細胞懸濁液導出口は、濃縮処理された細胞懸濁液(細胞濃縮液)を取り出すための出口である。本発明では、この細胞懸濁液導出口を前記貯留容器の循環出口ポートと接続することで、貯留容器と細胞懸濁液処理器との間で細胞懸濁液を循環させて濃縮を行うことができる。
前記濾液用出口は、細胞懸濁液から濾された液体を取り出すための出口である。
【0030】
細胞懸濁液処理器に用いられている中空糸分離膜は、中空糸を数十から数千本程度束ねたものを筒状の容器内に充填していることが好ましい。本発明において、中空糸分離膜の配置は、直線状になっていても、撓んでいても、らせん状になっていてもよく、細胞懸濁液入口と細胞懸濁液出口の間に中空糸分離膜の両端が保持されていれば特に形状は限定されない。
【0031】
細胞懸濁液処理器に用いられている中空糸分離膜は、材料の安全性、安定性などの点から合成高分子材料を用いることができる。この中でも、ポリスルホン系、ポリオレフィン系またはセルロース系の高分子材料を好ましく用いることができる。また、中空糸分離膜の孔径は、細胞が外側に漏れ出てこなければよく、また、不要な成分を効率的に濾過できるためになるべく大きな孔径であるほうが好ましい。具体的には、平均孔径が0.01μm以上から1.0μm以下のものが好適に用いることができる。また、中空糸の内径は、400μm以上から1000μm以下であるものが好適に用いられる。
【0032】
前記細胞懸濁液導入口から供給された細胞懸濁液が中空糸分離膜の内側を通過すると、中空糸分離膜の外側に液体が濾過され、細胞濃縮液が作製される。
【0033】
細胞懸濁液処理器の構造としては、例えば、筒状容器に中空糸分離膜が充填され、中空糸端部が接着剤などで筒状容器端部と密着されており、端部で開口した中空糸膜に細胞懸濁液が流入および流出できるように、筒状容器の端部に細胞懸濁液導入口や細胞懸濁液導出口となるヘッダー部分が備え付けられていることが挙げられる。前記筒状容器には、濾液用出口が一つ以上備え付けられておればよく、中空糸の内側より濾過された濾液が濾液用出口より排出される構造となっている。細胞懸濁液処理器は中空糸分離膜が密閉された容器の中に充填された構造である必要があるが、細胞懸濁液導入口および細胞懸濁液導出口が濾液用出口から中空糸分離膜を構成する壁材により隔てられている構造を備えていれば、各種構造をとることが可能である。例えば、血液透析などに用いられる透析器を類似の構造として例示することができる。
【0034】
細胞懸濁液処理器の濾液用出口には、中空糸分離膜によりろ別された濾液が流れ出るための回路が設置されている。濾液用の回路と廃液容器は連結する方が、濾液が外部に漏洩する懸念が低減でき好ましい。
【0035】
前記濾液用出口から取り出した濾液は、廃液容器などに通液して回収することができる。廃液容器は、廃液の漏洩がない容器であれば特に制限なく用いることができる。
【0036】
細胞懸濁液処理器の濾液用出口と廃液容器の間には、濾液を送液するためのポンプが設置されてもよいし、設置されていなくてもよい。例えば、前記濾液用出口と廃液容器とをつなぐ経路にポンプを備えることで、一定流量で濾過液を排出できることから、処理時間を一定にすることができ、細胞懸濁液処理器における濾過効率を制御することが可能になる。すなわち、ポンプを駆動させることで細胞懸濁液処理器からの濾液の排出が促進されることになり、結果として、細胞懸濁液処理器における濃縮処理を促進することができる。
また、所定の濃度まで濃縮された細胞濃縮液を回収容器に通液して回収する際には、前記ポンプを停止しておくことで、速やかな回収が可能になる。
【0037】
また、回収された濾液は、そのまま廃棄してもよいし、殺菌処理などの再処理を施すことで、細胞培養液の希釈液として再利用してもよい。
【0038】
また、細胞懸濁液処理器には、前記細胞懸濁液導入口、細胞懸濁液導出口および濾液用出口のほかに、細胞懸濁液処理器内の細胞濃縮液を回収容器に送液するための細胞濃縮液回収口を設けてもよい。この細胞濃縮液回収口は回収容器に接続すればよい。
【0039】
(循環回路)
循環回路は、前記貯留容器の循環入口ポートおよび前記細胞懸濁液処理器の細胞懸濁液導入口を連通する導入用連通管と、前記細胞懸濁液処理器の細胞懸濁液導出口および前記貯留容器の循環出口ポートを連通する導出用連通管とからなる回路である。
本発明では、この循環回路を通じて、貯留容器および細胞懸濁液処理器の間で細胞懸濁液を循環させながら濃縮を行うことで細胞濃縮液を作製することができる。
循環回路を構成する管としては、一般的なプラスチック製のチューブを好適に用いることができる。塩化ビニールが安全性や耐久性の面から好適に用いることができる。
【0040】
なお、前記循環回路には、細胞懸濁液または細胞濃縮液の循環の制御を行いやすくする観点から、ポンプが設置されていることが好ましい。ポンプの数については特に限定はないが、制御しやすい観点から、1つあればよい。ポンプの位置については、導入用連通管または導出用連通管のいずれかに設置していればよいが、導入用連通管に設置していれば細胞懸濁液処理器の細胞懸濁液導入口に圧力の高い溶液を導入でき、効率的に液体を分離することができ好ましい。
【0041】
本発明では、前記循環回路上のいずれかに分岐部を設けていてもよい。この分岐部に配管で回収容器に連結するように構成しておくことで、この分岐部から回収容器までの経路を最終的な回収路として、貯留容器内、細胞懸濁液処理器内および循環回路内にある細胞濃縮液を回収容器に速やかに回収することができる。分岐部は、好ましくは、循環出口ポートになるべく近い位置に設置したほうが、回収する工程で分岐部より出口ポートまでの循環回路内に残存する残液量を少なくできるので好ましい。
【0042】
(回収容器)
回収容器は、所定の濃度にまで濃縮された細胞濃縮液を回収するための容器である。
回収容器は、可撓性のプラスチック容器であればよい。また、その内面にナシジ加工が施されていれば、細胞濃縮液を回収した後の残液を少なくできる利点がある。また、回収容器は針やシリンジなどが接続できる接続口を具備していてもよい。このような構成とすることで、回収容器に回収された細胞濃縮液を他の容器に移し替える場合などに好適に用いることができる。回収容器の形状としては、特に限定はない。例えば、容量が大きくなると回収された細胞が接触する容器の内面積が大きくなり、付着した細胞が容器内に残り細胞の損失につながることがあることから、容器内側の容量は小さくなる形状が好ましい。
【0043】
(回収路)
回収路は、前記貯留容器内、前記細胞懸濁液処理器内および前記循環回路内の細胞濃縮液を前記回収容器に送液するための路である。回収路を構成する管としては、一般的なプラスチック製のチューブを用いることができ、中でも、塩化ビニール製のチューブを安全性や耐久性の面から好適に用いることができる。
【0044】
前記回収路としては、次の3つの態様が挙げられる。
1)前記循環回路上に分岐部を設けた場合には、この分岐部と回収容器とを連結する経路が回収路となる。
2)前記貯留容器の回収ポートと回収容器とを接続した場合には、この接続した経路が回収路となる。
3)細胞懸濁液処理器の細胞濃縮液回収口と回収容器とを接続した場合には、この接続した経路が回収路となる。
回収路については、上記いずれかの態様であればよいが、2つ以上を併用することも可能である。
【0045】
(注入路)
注入路は、前記貯留容器の溶液入口ポートに溶液を注入するための経路である。注入路を構成する管としては、一般的なプラスチック製のチューブを用いることができ、中でも、塩化ビニール製のチューブを安全性や耐久性の面から好適に用いることができる。
【0046】
なお、本発明でいう溶液としては、細胞懸濁液に加えて、細胞懸濁液を濃縮して得られる細胞濃縮液を再度希釈するための希釈液や濃縮処理前に細胞懸濁液処理システム全体をプライミングするためのプライミング液が含まれる。
本発明に用いる希釈液には生理食塩水、輸液、蒸留水、緩衝液、培地、血漿や無機塩、糖類、血清、蛋白質を含む液体等が挙げられ、特に安全性の観点から生理食塩水や輸液を好適に用いることができる。また、プライミング液にも生理食塩水、輸液、蒸留水、緩衝液、培地、血漿や無機塩、糖類、血清、蛋白質を含む液体等が挙げられ、特に安全性の観点から生理食塩水や輸液を好適に用いることができる。本発明において希釈液およびプライミング液には同一の溶液を使用してもよいし、異なる溶液を使用してもよい。異なる溶液を使用する場合は、貯留容器の溶液入口ポートに繋がる回路上にある分岐部分より分離し、各接続部に連結する回路を設置することができる。
【0047】
また、前記貯留容器の溶液入口ポートと接続している注入路の他方の端部は、細胞培養バッグ用、希釈液バッグ用またはプライミング液バッグ用の接続部となっている。
【0048】
細胞培養バッグ接続部には、細胞培養に用いられるバッグに接続できる形状であれば瓶針、オスルアー、メスルアー、ロック接続等を特に制限なく用いることができる。
【0049】
希釈液バッグ接続部またはプライミング液バッグ接続部には、希釈液またはプライミング液が貯留されたバッグに接続できる形状であれば瓶針、オスルアー、メスルアー、ロック接続等を特に制限なく用いることができる。
【0050】
また、前記注入路には、液体を送液するためのポンプが設置されることが好ましい。ポンプにより、安定して貯留容器に液体を送液することができる。また、ポンプを設置する位置は、細胞培養バッグ接続部、希釈液バッグ接続部およびプライミング液バッグ接続部に連結する回路の合流箇所と溶液入口ポートとを連結する回路上にあることが、送液に必要なポンプの数を少なくすることができる点から好ましい。
【0051】
(検知手段)
検知手段は、前記貯留容器内または循環回路の導入用連通管内の細胞濃縮液の液量を検知するための手段である。
【0052】
前記貯留容器内の液量を検知する手段としては、貯留容器内の貯留液の液面を直接検知する気泡センサーを用いることが挙げられる。
また、他の実施形態としては、例えば、貯留容器に対して上下方向に平行になるようにチューブを設置し、下方で貯留容器とチューブが連通した回路とし、チューブ内の液面が貯留容器内の液面と等しくなるように調整し、このチューブに気泡センサーを設置してもよい。この手段であれば、貯留容器内の液面として、チューブ内の液面を気泡センサーで検知することができる。
また、貯留容器と平行に設置された前記チューブの下方にチャンバーを設置してもよい。特にチューブより内径が大きなチャンバーを設置することにより、平行に設置されたチューブに誤って気泡が浸入して検知される不具合の発生を低減することが期待される。
【0053】
前記導入用連通管内の細胞濃縮液の液量を検知する手段としては、貯留容器の循環入口ポートに連通する導入用連通管に気泡センサーを備えることが挙げられる。この形態であれば、前記貯留容器内の液量を検知する手段に比べて細胞懸濁液をより濃縮することができるため、濃縮された懸濁液(細胞濃縮液)の量を少なくでき、懸濁液中の不要成分の量を低下することができるといった利点がある。
また、前記導入用連通管に設置する気泡センサーの位置としては、特に限定はないが、貯留容器に近接している位置に設置することで、貯留容器と気泡センサーとをつなぐ回路の長さを短くすることができる。
【0054】
また、本発明の細胞懸濁液処理システムでは、貯留容器の溶液入口ポートに繋がる注入路に、気泡センサーを設置してもよい。この気泡センサーにより気泡が検知された場合に貯留容器への細胞懸濁液、希釈液、プライミング液などの溶液の貯留を停止することができる。例えば、対象とする細胞懸濁液の処理量がわからなくても、前記気泡センサーを注入路に設置することで、処理毎にポンプの駆動時間を設定することなく対象の液体全量を処理することができる利点がある。また、ポンプの駆動時間から一定量の溶液を加える工程にすることもできる。例えば、細胞懸濁液の一部のみを処理する必要がある場合は、ポンプの駆動時間を設定することで処理を行うことができる。この気泡センサーは注入路のどこでも設置できるが、貯留容器になるべく近い位置に設置するほうが、注入路内への残液量を低減する点で有利である。
【0055】
また、前記貯留容器の上部に別の気泡センサーを設けてもよい。この気泡センサーを設置することで、貯留容器内の上部付近の溶液の有無を判別することができる。即ち、貯留容器の容量を超える液体が供給された場合に、前記センサーが検知して、警報として使用者に知らせることができる。
【0056】
本発明の細胞懸濁液処理システムに用いるポンプや気泡センサーは一般的に用いられているものを使用することができる。また、回路の所望の位置にクランプを設けて流路の切り替えを行うこともできる。これらのポンプ、気泡センサーおよびクランプとしては、特に限定はなく、例えば、透析装置などに用いられているものを用いてもよい。
【0057】
細胞懸濁液処理システムでは、前記検知手段で細胞濃縮液が所定の液量にまで濃縮されたことを検知して、前記貯留容器から細胞懸濁液処理器への細胞濃縮液の送液を停止させる制御手段により、濃縮を終了させる。
本発明のように細胞懸濁液処理器を用いて細胞懸濁液の濃縮を行う場合、細胞懸濁液処理器へ空気が入ると濃縮能力が低下するだけでなく、細胞を回収する際に細胞懸濁液処理器内に細胞が付着するなどして、細胞のロスが大幅に増加する問題がある。濃縮工程の終了時点を判断する手段としては、細胞懸濁液処理器への送液量や細胞懸濁液処理器から廃棄される廃液量を予め決定する方法が考えられる。しかしながら、実際に細胞懸濁液処理システムの回路や経路に設置したポンプの送液量などを調整しても、細胞懸濁液の濃度、細胞の大きさ、細胞の種類などにより細胞懸濁液処理器での濃縮の程度が一定とならず、また細胞懸濁液処理器内に空気が入るまで濃縮をしてしまうこともあるため、濃縮を行っている間は細胞懸濁液処理器の状態を監視している必要があり、自動化は困難な状況であった。
これに対して、本発明では、前記検知手段を用いて細胞懸濁液の濃縮工程の終了を判断していることで、細胞懸濁液の状態等に関わらず、細胞懸濁液処理器内に空気が入ることもなく、充分に濃縮された細胞濃縮液を精度よく得ることが可能になる。
【0058】
以下、細胞懸濁液処理システムの例を図に基づいて例示する。
【0059】
図1に、本発明で用いる細胞懸濁液処理システムAの一実施形態であり、循環回路の導入用連通管内の細胞濃縮液の液量を検知するための検知手段を有するシステムの回路図を示す。
【0060】
図1の細胞懸濁液処理システムAは、先端が分岐した注入路27を有している。分岐したそれぞれの端部は細胞培養バッグ接続部1および希釈液バッグ接続部2となっている。細胞培養バッグ接続部1および希釈液バッグ接続部2より貯留容器3側の注入路27にはそれぞれクランプ22、21が設けられており、クランプ22、21を開閉することで細胞培養バッグ接続部1または希釈液バッグ接続部2から貯留容器3へ供給する溶液の切り替えを行うことができる。
また、分岐部分よりの貯留容器3側の注入路27にはポンプ12が設けられており、その駆動速度を調整することで前記溶液の貯留容器3への供給量を調整できる。
前記ポンプ12より貯留容器3側の注入路27には気泡センサー10が設置されている。供給している溶液がなくなって注入路27に入ってきた空気を気泡センサー10が検知すれば、ポンプ12を止めることで前記溶液の貯留容器3への供給を最適なタイミングで停止することができる。また、前記ポンプ12と気泡センサー10とを電気的に接続しておくことで、自動的に溶液の供給を調整することができる。
注入路27の他方端は貯留容器3の下部にある溶液入口ポート15に接続されている。
【0061】
貯留容器3の下部には、前記溶液入口ポート15に加えて、循環出口ポート16、循環入口ポート17が配置されており、貯留容器3の上部には貯留容器3の内部が大気圧となるようにエアフィルタ8が備えられている。また、貯留容器3からエアフィルタ8までの経路には、貯留容器3の容積以上の溶液が供給されたことを検知できるように気泡センサー9が設置されている。この気泡センサー9は前記ポンプ12と電気的に接続しておくことで、自動的に溶液の供給を停止することが可能になる。
【0062】
前記循環入口ポート17は、導入用連通管28を介して、細胞懸濁液処理器6上部の細胞懸濁液導入口18と接続している。導入用連通管28には気泡センサー11が設置され、この気泡センサー11より細胞懸濁液処理器6側にポンプ13が設置されている。ポンプ13を駆動することで、貯留容器3内の溶液を細胞懸濁液処理器6へ供給することができる。そして、貯留容器3から細胞懸濁液処理器6へ供給している溶液がなくなった場合、導入用連通管28に入ってきた空気を気泡センサー11が検知すれば、ポンプ13を止めることで細胞懸濁液処理器6内へ空気を入れることなく溶液の供給を最適なタイミングで停止することができる。また、前記ポンプ13と気泡センサー11とを電気的に接続しておくことで、自動的に溶液の供給を調整することが可能になる。
【0063】
前記細胞懸濁液処理器6内には中空糸分離膜が充填されている(図示せず)。前記細胞懸濁液導入口18から供給された細胞懸濁液は、前記中空糸分離膜を通過する際に液体が分離される。分離された液体は、細胞懸濁液処理器6の上部側面に設けられた濾液用出口20から排出されるようになっている。
前記濾液用出口20は廃液容器4と配管を介して接続しており、この配管には濾液の排出と前記中空糸分離膜での濃縮を促進するためのポンプ14が設けられている。
【0064】
細胞懸濁液処理器6下部にある細胞懸濁液導出口19は導出用連通管29を介して前記循環出口ポート16と接続している。また、導出用連通管29にはクランプ23が設けられており、クランプ23を開閉することで細胞懸濁液処理器6で濃縮された細胞濃縮液の貯留容器3への循環を調整することができる。
【0065】
また、前記導入用連通管28と導出用連通管29とは貯留容器3および細胞懸濁液処理器6との間で細胞懸濁液や細胞濃縮液を循環させる循環回路30となる。
【0066】
前記クランプ23よりも細胞懸濁液処理器6側の導出用連通管29には分岐部が設けられており、この分岐部と回収容器5とが回収路31を介して接続されている。回収路31にはクランプ24が設けられている。このクランプ24は前記のように循環回路30を用いた循環・濃縮を行っている間は閉じておく。そして、細胞濃縮液を回収する場合に、クランプ24を開くことで回収容器5へ細胞濃縮液を供給することができる。
【0067】
また、
図2に、本発明で用いる細胞懸濁液処理システムA’の別の実施形態であり、貯留容器内の細胞濃縮液の液量を検知するための検知手段を有するシステムの回路図を示す。
【0068】
図2に示す細胞懸濁液処理システムA’では、注入路27が細胞培養バッグ接続部1、希釈液バッグ接続部2に加えてプライミング液バッグ接続部26を有している。プライミング液バッグ接続部26は、希釈液バッグ接続部2より貯留容器3側の注入路27に設けた分岐部の他方端になっている。プライミング液バッグ接続部26と前記分岐部との間にはクランプ25が設けられており、このクランプ25を開閉することでプライミング液の貯留容器3への供給を調整することができる。
【0069】
また、注入路27に設けた気泡センサー10より貯留容器3側には、別の分岐部が設けられており、この分岐部と貯留容器3の上部とを連通させる回路32を設けることで、溶液を貯留容器3内に満たした場合、注入路27を通じて貯留容器3内の液面と回路32内の溶液の液面とが平行になる。そして、回路32の所望の高さに気泡センサー9aを設置することで、貯留容器3に直接気泡センサーを設けた場合には検知する範囲が大きな気泡センサーを必要とするのに比べて、回路32内の液面を検知する範囲が狭くてよくコンパクトな気泡センサーでも貯留容器3内の溶液の液面を検知することができる。
また、本発明では、濃縮を行う際、導入用連通管28に設置したポンプ13により前記貯留容器3と細胞懸濁液処理器6との間で細胞懸濁液等を循環させるが、回路32が導入用連通管28に連結されていると、ポンプ13の脈動の影響により回路32上の気泡センサー9aでも正確な液面の測定が難しくなる傾向がある。
これに対して、上記のように導入用連通管28とは別の経路である注入路27に回路32を接続することで、回路32の液面を貯留容器3内の液体の液面として正確に測定することが可能になるという利点もある。
回路32を構成するチューブについては、細い口径のものを用いることで、液面の揺れを抑えることができるが、口径については特に限定はない。
【0070】
また、前記回路32には、前記気泡センサー9aよりも高い位置でチャンバー7を設けてもよい。このチャンバー7を設けることで回路32単独の場合よりも液面の揺れが抑えられる利点がある。
【0071】
前記回路32には、貯留容器3の上部よりも高い位置に分岐部を設け、この分岐部より高い位置に
図1と同様にエアフィルタ8を設ければよい。また、分岐部とエアフィルタ8との間には別の気泡センサー9bを設けてもよい。このような構成とすることで貯留容器3の容積を超える細胞懸濁液を供給した場合でも気泡センサー9bが作動してポンプ12を停止することで、エアフィルタ8から細胞懸濁液が漏れることを抑えることができる。気泡センサー9bはポンプ12と電気的に接続することで自動的な処理を行うことができる。
【0072】
図2に示す細胞懸濁液処理システムA’の他の構成は
図1と同じであるため説明は省略する。
【0073】
また、回収路31としては、
図3に示す細胞懸濁液処理システムA’’のような態様でもよい。
すなわち、貯留容器3に回収ポート33を設け、この回収ポート33と回収容器5とを接続した回収路31’としてもよい。この経路にはクランプ34を設ければよい。
また、細胞懸濁液処理器6に細胞濃縮液回収口35を設け、この細胞濃縮液回収口35と回収容器5とを接続して回収路33’’としてもよい。この経路にもクランプ36を設ければよい。
【0074】
(細胞濃縮液の製造方法)
本発明の細胞濃縮液の製造方法は、前記のような構成を有する細胞懸濁液処理システムを用い、
a)前記溶液入口ポートより細胞懸濁液を貯留容器に供給して貯留する工程と、
b)貯留容器内の細胞懸濁液を、循環回路の導入用連通管を経て細胞懸濁液処理器へ通液し、次いで循環回路の導出用連通管を経て貯留容器へと循環させて細胞懸濁液を濃縮する工程と、
c)貯留容器内または循環回路の導入用連通管内の細胞濃縮液の液量を検知することにより、前記b)工程を停止させる工程と、
d)前記貯留容器内、前記細胞懸濁液処理器内および循環回路内の細胞濃縮液を回収路を経て回収容器に送液して回収する工程と
を含むことを特徴とする方法である。
【0075】
図1に示す細胞懸濁液処理システムを用いて細胞濃縮液を製造する具体例を以下に説明する。なお、製造前には各クランプは予め閉じていることとする。
【0076】
a)工程(貯留工程)
まず、細胞培養バッグ接続部1を細胞培養バッグに、希釈液バッグ接続部2を希釈液バッグにそれぞれ接続する。次にクランプ22を開け、クランプ21が閉じていることを確認し、細胞培養バッグ接続部1よりポンプ12を駆動して所定の流速で、細胞懸濁液を貯留容器3に貯留する。貯留する液量は、貯留容器の容量を超えなければ特に制限なく貯留することができる。また、流速としては、50mL/分〜300mL/分の範囲が好ましい。
【0077】
b)工程(濃縮工程)
次に、クランプ23を開け、ポンプ13を用いて貯留容器3と細胞懸濁液処理器6との間に循環回路30を通して細胞懸濁液を循環させながら、細胞懸濁液より培地等の液体成分を中空糸膜を用いて濾過し、濃縮する。この時に循環させる方向は、貯留容器3の循環入口ポート17から細胞懸濁液処理器6の細胞懸濁液導入口18に流れる方向とする。細胞懸濁液を濃縮する方法は、中空糸分離膜の内側を細胞懸濁液が流れる際に内側を流れる液体の圧力を利用した濾過でも、ポンプ14を用いた濾過でもどちらを用いてもよい。
【0078】
前記貯留工程と濃縮工程は、細胞培養バッグ接続部1に連結した細胞懸濁液バッグ内の液量が所定量になるまで繰り返し行ってもよいし、貯留工程と濃縮工程を同時に並行して行ってもよい。また、細胞懸濁液バッグ内の細胞懸濁液を、ポンプ12の駆動時間などを利用して一定量まで処理してもよいし、細胞懸濁液が全量送液された後に注入路27に流れ込む気泡を気泡センサー10を用いて検知することでポンプ12による送液を制御してもよい。
【0079】
c)工程(濃縮停止工程)
導入用連通管28に設けた気泡センサー11で気泡を検知するまで細胞懸濁液の濃縮を行った後、ポンプ13、14を停止して濃縮を停止する。
図1に示す細胞懸濁液処理システムAでは、前記のように、貯留容器3内に細胞濃縮液が貯留しなくなるまでの精度がよい濃縮を実施できる。
【0080】
d)工程(回収工程)
次いで、クランプ23を閉じ、クランプ24を開け、ポンプ13を駆動させることで、前記貯留容器3内、前記細胞懸濁液処理器6内および循環回路30内にある充分に濃縮された細胞懸濁液を、回収路31を経て回収容器5に回収することができる。
【0081】
また、本発明では、前記a)工程前に、プライミングを行ってもよい。この場合、クランプ21を開け、クランプ22を閉じて、希釈液バッグ接続部2より、プライミング液として生理食塩水を貯留容器3に貯留する。ポンプ12を駆動して所定の流速で貯留容器3に貯留する。貯留する液量は、循環回路30および細胞懸濁液処理器6が生理食塩水で浸る液量が貯留されていればよく特に限定はない。流速は、50mL/分〜300mL/分の範囲が好ましい。
【0082】
次に、クランプ23を開け、クランプ24を閉じていることを確認し、貯留容器3と細胞懸濁液処理器6が連結された循環回路30の導入用連通管28に設置したポンプ13および、濾過用出口20に繋がる経路上に設置したポンプ14を駆動して、循環回路30内および細胞懸濁液処理器6内のプライミングを行う。ポンプ13により所定の流速で循環回路30内をプライミング液で満たした後、ポンプ14を駆動して中空糸分離膜の外側にプライミング液を濾過し、細胞懸濁液処理器内6をプライミング液で満たす。この時、循環方向は正方向、逆方向のどちらでも特に制限なく循環することができる。ポンプ14は、ポンプ13の流速より低ければ特に制限なく設定することができる。なお、ポンプ14の流速がポンプ13の流速より高い場合、循環回路30内に液体が満たされていない状態となる懸念があり好ましくない。ポンプ13の流速は、50mL/分〜500mL/分の範囲で調整することが好ましい。
【0083】
前記のようなプライミングを予め行うことで、細胞濃縮を作業性よく行うことが可能になる。
【0084】
また、本発明では、前記c)工程で細胞懸濁液の濃縮を停止した後、クランプ21を開け、クランプ22を閉じ、ポンプ12により貯留容器3内に希釈液を送液することで、貯留容器3内の細胞懸濁液を希釈してもよい(希釈工程)。この希釈工程で細胞懸濁液内の不要な成分を希釈した後、再びb)工程で濃縮を行い、次いでc)工程で濃縮を停止することにより、細胞懸濁液内の不要な成分が中空糸膜により濾過、除去されて、不要な成分がさらに除去された細胞濃縮液を製造することができる。なお、この希釈工程は必要に応じて2回以上繰り返してもよい。
また、c)工程後の導入用連通管28では気泡センサー11の位置まで気泡が入りこんでいるため、ポンプ13を逆方向に駆動させて細胞濃縮液の液面が貯留容器3下部の循環入口ポート17付近または貯留容器3内にまで戻しておくことで、再度b)工程を行う場合でも気泡が細胞懸濁液処理器6に入らないようにできる。
【0085】
また、前記プライミングと希釈とを行う場合でプライミング液と希釈液とが相違する場合には、プライミング液の入ったバッグと希釈液の入ったバッグとを差し替えればよい。
【0086】
また、前記a)工程の貯留工程とb)工程の濃縮工程は並行して実施してもよい。このようにa)工程とb)工程とを並行して実施することで、処理時間を短くすることが可能になるという利点がある。
【0087】
また、
図2に示す細胞濃縮処理システムA’を用いた場合の細胞濃縮液を製造する具体例を以下に記載する。
a)工程の貯留工程は、
図1に示す細胞濃縮処理システムAを用いた場合と同様に処理できる。ただし、
図2に示す細胞濃縮処理システムA’で、a)工程前にプライミングを行う場合には、まず、プライミング液バッグ接続部26にプライミング液バッグを接続してクランプ21、25を開けて、プラミング液を貯留容器3に貯留すればよい。その後、希釈液バッグ接続部2に希釈液バッグを装着すればよい。
【0088】
b)工程の濃縮工程を続けて、濃縮が十分進み貯留容器3内にある細胞濃縮液の量を回路32に設けた気泡センサー9aで検知することで、ポンプ13、14を停止して濃縮を停止する(c)工程)。
この後、細胞懸濁液をさらに貯留容器3に追加してもよいし、前記のように、希釈液による希釈工程を行ってもよい。この場合、再びb)工程、c)工程を行えばよい。
【0089】
次いで、
図1に示す細胞濃縮処理システムAを用いた場合と同様にd)工程の回収工程を行う。
【0090】
以上のように、細胞懸濁液処理システムを用いることで、細胞の損失および汚染の懸念が低く、細胞へのダメージが低く、しかも細胞濃縮液を精度よく製造することが可能となる。
【0091】
本発明により濃縮処理できる細胞としては、例えば人工多能性幹細胞(iPS細胞)、胚性幹細胞(ES細胞)、間葉系幹細胞、脂肪由来間葉系細胞、脂肪由来間質幹細胞、多能性成体幹細胞、骨髄ストローマ細胞、造血幹細胞等の多分化能を有する生体幹細胞、T細胞、B細胞、キラーT細胞(細胞障害性T細胞)、NK細胞、NKT細胞、制御性T細胞などのリンパ球系の細胞、マクロファージ、単球、樹状細胞、顆粒球、赤血球、血小板など、神経細胞、筋細胞、線維芽細胞、肝細胞、心筋細胞などの体細胞または、遺伝子の導入や分化などの処理を行った細胞が例示される。なかでも顆粒球、T細胞、B細胞、キラーT細胞(細胞障害性T細胞)、NK細胞、NKT細胞、制御性T細胞、マクロファージ、樹状細胞等の免疫細胞に対して好適に用いることができる。また、癌細胞、白血病細胞など各種の疾患に関連する細胞も例示される。
また、本発明で用いる細胞懸濁液としては、前記細胞を含む懸濁液であれば特に限定されないが、例えば、脂肪、皮膚、血管、角膜、口腔、腎臓、肝臓、膵臓、心臓、神経、筋肉、前立腺、腸、羊膜、胎盤、臍帯などの生体組織を酵素処理や破砕処理や抽出処理や分解処理や超音波処理などをした後の懸濁液、血液や骨髄液を密度勾配遠心処理やろ過処理や酵素処理や分解処理や超音波処理などの前処理をして調製された細胞懸濁液等が例示される。または、上記に例示した細胞を生体外で培養液、例えば、DMEM、α−MEM、MEM、IMEM、RPMI−1640や、サイトカイン、抗体やペプチドなどの刺激因子などを用いて培養した後の細胞懸濁液が例示される。
【実施例】
【0092】
以下、実施例を用いて本発明を説明する。
【0093】
(実施例1)
図1に示す細胞懸濁液処理システムAを用いて細胞懸濁液の濃縮処理を行った。
なお、クランプ21、22、23、24はいずれも閉じた状態であった。
また、使用した細胞懸濁液は、jurkat細胞を10%FBSの入ったRPMI−1640培地で培養したものを用いた。
【0094】
細胞懸濁液が入ったバッグを細胞培養バッグ接続部1に接続し、生理食塩水バッグを希釈液バッグ接続部2に接続した。クランプ21を開け、クランプ22が閉じていることを確認し、ポンプ12を300mL/分の流速になるよう設定し60秒間駆動させて、生理食塩水を貯留容器3に貯留した。
【0095】
次に、クランプ23を開け、クランプ24が閉じていることを確認し、ポンプ13を450mL/分、ポンプ14を150mL/分に設定して駆動させ、循環回路30内および細胞懸濁液処理器6内のプライミングを行った。この時、ポンプ13の駆動方向は、細胞懸濁液処理器6内をプライミング液が上から下に流れる方向とした。気泡センサー11が気泡を検知したらポンプ13およびポンプ14を停止した。
なお、気泡が細胞懸濁液処理器6に入らないようにするため、ポンプ13を逆方向に駆動させて生理食塩水の液面を貯留容器3下部の循環入口ポート17付近に戻しておいた。
【0096】
次にクランプ22を開け、クランプ21を閉じ、細胞培養バッグ接続部1よりポンプ12を300mL/分の流速になるよう設定し60秒間駆動させて、細胞胞懸濁液を貯留容器3に貯留した(a)工程)。
【0097】
次に、ポンプ12を200mL/分、ポンプ13を450mL/分、ポンプ14を200mL/分になるようにそれぞれの流速を設定し、循環回路30内を細胞懸濁液で循環させながら、濃縮した。循環回路30内の通液方向は、貯留容器3の循環入口ポート17から細胞懸濁液処理器6の細胞懸濁液導入口18に流れる方向とした(b)工程)。
【0098】
気泡センサー10が気泡を検知した後ポンプ12を停止した。引き続き、ポンプ13およびポンプ14を駆動させて、貯留容器3内の細胞懸濁液を濃縮し、気泡センサー11が気泡を検知した後ポンプ13およびポンプ14を停止した(c)工程)。
なお、気泡が細胞懸濁液処理器6に入らないようにするため、ポンプ13を逆方向に駆動させて細胞懸濁液の液面を貯留容器3下部の循環入口ポート17付近に戻しておいた。
【0099】
次に、クランプ21を開け、クランプ22を閉じて、ポンプ12を200mL/分、ポンプ13を450mL/分で120秒間それぞれ駆動し、貯留容器3内に生理食塩水を追加し、貯留容器3内で細胞懸濁液を希釈した。続いて、ポンプ13を450mL/分、ポンプ14を200mL/分になるようにそれぞれの流速を設定し、細胞懸濁液の濾過・濃縮を再び行った。なお、気泡センサー11が気泡を検知した後、ポンプ13およびポンプ14を停止した。
【0100】
最後に、クランプ24を開け、クランプ23を閉じ、細胞懸濁液が貯留容器3の循環入口ポート17から細胞懸濁液処理器6の細胞懸濁液導入口18に流れる方向となるようにポンプ13を100mL/分の流速で60秒間駆動させ、貯留容器3内、細胞懸濁液処理器6内および循環回路30内にある細胞懸濁液を回収路31から回収容器5に回収した(d)工程)。
回収された細胞懸濁液は、細胞懸濁液中の不要な成分が目的の濃度まで低減された細胞濃縮液であり、プライミング、濃縮(b)、および濃縮停止(c)工程において、前記細胞懸濁液処理器6内への空気の侵入がなかったことから、細胞の損失も少なく精度のよい濃縮ができていた。
処理後の細胞生存率を処理前の細胞生存率で除した細胞生存比率は99%以上であり、細胞のダメージは見られなかった。なお、細胞生存率は公知の手法で測定した。
【0101】
(比較例1および2)
図4に概略を記載した細胞懸濁液処理システムBを用いて実施した細胞懸濁液の処理に関して説明する。
図4に示す細胞懸濁液処理システムBは、循環回路30の導入用連通管28に気泡センサー11を設置していない以外は、
図1に示す細胞懸濁液処理システムAと同じ構成を有する。
また、比較例1と比較例2とでは、実施例1と同じ条件で作製された細胞懸濁液を用いたが、細胞培養バッグは異なるものを使用した。
【0102】
細胞懸濁液が入ったバッグを細胞培養バッグ接続部1に接続し、生理食塩水バッグを希釈液バッグ接続部2に接続した。クランプ21を開け、クランプ22を閉じて、ポンプ12を300mL/分の流速になるよう設定し、60秒間駆動させて生理食塩水を貯留容器3に貯留した。
【0103】
次に、クランプ23を開け、クランプ24を閉じていることを確認し、ポンプ13を450mL/分、ポンプ14を150mL/分の流速に設定し、循環回路30内および細胞懸濁液処理器6内のプライミングを行った。この時、ポンプ13の駆動方向は、細胞懸濁液処理器6内をプライミング液が上から下に流れる方向とした。ポンプ13、14を100秒間駆動させた後、ポンプ13、14を停止した。
【0104】
次にクランプ22を開け、クランプ21を閉じ、細胞培養バッグ接続部1よりポンプ12を300mL/分の流速になるよう設定し、60秒間駆動させて細胞懸濁液を貯留容器3に貯留した(a)工程)。
【0105】
次に、ポンプ12を200mL/分、ポンプ13を450mL/分、ポンプ14を200mL/分となるように流速を設定して駆動させ、貯留容器3と細胞懸濁液処理器6との間を、循環回路30を通して細胞懸濁液で循環させながら、濃縮した。循環回路30内の通液方向は、貯留容器3の循環入口ポート17から細胞懸濁液処理器6の細胞懸濁液導入口18に流れる方向とした(b)工程)。
【0106】
気泡センサー10が気泡を検知した後ポンプ12を停止した。引き続き、ポンプ13およびポンプ14を駆動させて、貯留容器3内の細胞懸濁液を濃縮し、ポンプ14を70秒間駆動させた後、ポンプ13およびポンプ14を停止した(c)工程)。なお、ポンプ14の70秒間という駆動時間は、ポンプ12、13、14の流速を考慮して、理想的な濃縮が行えると予想していた時間であった。
【0107】
次に、クランプ21を開け、クランプ22を閉じて、ポンプ12を200mL/分、ポンプ13を450mL/分となるように流速を調整し、120秒間駆動させ、貯留容器3内に生理食塩水を追加し、貯留容器3内の細胞懸濁液を希釈した。続いて、ポンプ13を450mL/分、ポンプ14を200mL/分となるように流速を設定し、細胞懸濁液の濾過を行った。ポンプ12を120秒間駆動させた後、停止した。
【0108】
最後に、クランプ24を開け、クランプ23を閉じ、ポンプ13を100mL/分で、細胞懸濁液が貯留容器3の循環入口ポート17から細胞懸濁液処理器6の細胞懸濁液導入口18に流れる方向に60秒間駆動させ、細胞懸濁液処理器6内および循環回路30内にある細胞懸濁液を回収路31から回収容器5に回収した(d)工程)。
【0109】
この結果、比較例1では、b)工程である濃縮工程において、ポンプ13およびポンプ14を停止した際に、原因は不明であるが、ポンプ14により処理時間内に濾過された量が設定した流量より大きくなったため、循環回路30内に液が十分に満たされていない状態となり、回収された細胞懸濁液中の細胞を損失する結果となった。
【0110】
また、同様な処理方法で行った比較例2では、原因は不明であるが、比較例1とは反対にポンプ14により濾過される液体量が少なかったため、生理食塩水で希釈する工程に移る前の貯留容器3内の液量が多くなり、細胞濃縮液内の不要成分の量を目的の濃度まで低下させることができなかった。