特許第6384210号(P6384210)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6384210
(24)【登録日】2018年8月17日
(45)【発行日】2018年9月5日
(54)【発明の名称】半導体装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/822 20060101AFI20180827BHJP
   H01L 27/04 20060101ALI20180827BHJP
   H01L 21/82 20060101ALI20180827BHJP
   H01L 21/3205 20060101ALI20180827BHJP
   H01L 21/768 20060101ALI20180827BHJP
   H01L 23/522 20060101ALI20180827BHJP
【FI】
   H01L27/04 D
   H01L27/04 G
   H01L21/82 L
   H01L21/88 Z
【請求項の数】6
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2014-178040(P2014-178040)
(22)【出願日】2014年9月2日
(65)【公開番号】特開2016-51875(P2016-51875A)
(43)【公開日】2016年4月11日
【審査請求日】2017年8月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】514315159
【氏名又は名称】株式会社ソシオネクスト
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】近藤 英史
【審査官】 宇多川 勉
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−284690(JP,A)
【文献】 特開2013−258266(JP,A)
【文献】 特開2007−287908(JP,A)
【文献】 特開2007−088151(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/822
H01L 21/3205
H01L 21/768
H01L 21/82
H01L 23/522
H01L 27/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の領域及び第2の領域を有する半導体基板と、
前記半導体基板に設けられたウェルと、前記ウェル上に設けられた半導体素子とを、有する複数の回路と、
前記半導体基板上に設けられ、外周部の複数箇所に電源電圧が供給され、前記複数の回路の各々に前記電源電圧を供給するメッシュ状の第1の配線と、
前記半導体基板上に設けられ、中央部に基板電圧が供給されるメッシュ状の第2の配線と、
前記半導体基板上に設けられ、前記第2の配線が設けられた層とは異なる層に設けられ、前記基板電圧を前記ウェルに供給するメッシュ状の第3の配線と、
前記第3の配線の外周部のみに設けられ、前記第3の配線と前記第2の配線とを接続する複数のビアと、
を含む半導体装置。
【請求項2】
前記複数のビアは、前記第1の領域に対応する部分では第1の密度で設けられ、前記第2の領域に対応する部分では前記第1の密度よりも高い第2の密度で設けられる
請求項に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記第3の配線は、前記第1の領域に対応する部分における配線幅が、前記第2の領域に対応する部分における配線幅よりも小さい
請求項または請求項に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記基板電圧を生成する電圧生成部を更に含む、
請求項1から請求項のいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項5】
前記メッシュ状の第2の配線は、第1の方向に延在する複数の第4の配線と、前記第4の配線とは異なる層に設けられ、前記第1の方向とは異なる第2の方向に延在する複数の第5の配線と、を有する
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項6】
前記メッシュ状の第3の配線は、第3の方向に延在する複数の第6の配線と、前記第6の配線とは異なる層に設けられ、前記第3の方向とは異なる第4の方向に延在する複数の第7の配線と、を有する
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示の技術は、半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体基板にバイアス電圧(以下、バックバイアス電圧と称する)を印加することで、トランジスタの閾値電圧を制御する技術が知られている。トランジスタの閾値電圧を高い側にシフトさせることにより、リーク電流を抑制して消費電力の低減を図ることが可能となる。
【0003】
複数のMOSトランジスタのバックゲート領域をバイアスするバックゲートバイアス回路と、バックゲート領域の小区画間を接続する配線であって互いに独立して配置される複数の金属配線とを備えた半導体装置が知られている。この半導体装置において、複数の金属配線は、複数のMOSトランジスタに給電される電源電圧の電圧降下が互いに異なる領域にそれぞれ配置されている。複数の金属配線のうちバックゲートバイアス回路の配置位置に最も近い金属配線は、バックゲートバイアス回路に接続されている。
【0004】
また、基板に基板バイアスを供給するためのコンタクトを有する基板バイアス電源線を、基板バイアス発生回路の周囲に近接して設けた半導体記憶装置が知られている。
【0005】
また、内部電源電圧を、半導体チップの外側と内側の双方から供給する回路構成を有する半導体集積回路装置が知られている。この半導体集積回路装置において、外側からの内部電源電圧の供給は内部電源パッドを介して行われ、内側からの内部電源電圧の供給はレギュレータを介して行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013−258266号公報
【特許文献2】特開昭63−153852号公報
【特許文献3】特開2006−351633号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
バックバイアス電圧は、例えば、半導体装置の内部に形成されたチャージポンプ等の電圧生成回路によって生成され、この電圧生成回路から配線(以下、バックバイアス配線と称する)を通じて半導体基板の各所に供給される。バックバイアス電圧の印加に伴って半導体基板にリーク電流が流れるので、バックバイアス配線上において電圧ドロップが生じる。すなわち、半導体基板に供給されるバックバイアス電圧は、バックバイアス配線と電圧生成回路との接続点からの距離が大きくなる程小さくなる。半導体素子の閾値電圧は、通常、バックバイアス電圧の絶対値が大きい程高くなり、これに伴って、半導体素子の遅延時間は大きくなる。従って、バックバイアス配線と電圧生成回路との接続点からの距離が相対的に小さい位置に配置された半導体素子の遅延時間は、バックバイアス配線と電圧生成回路との接続点からの距離が相対的に大きい位置に配置された半導体素子の遅延時間よりも大きい。このように、バックバイアス電圧を、バックバイアス配線を介して半導体基板の各所に供給する場合には、バックバイアス電圧のドロップに起因して半導体基板の各所に配置された半導体素子の遅延時間にばらつきが生じる。
【0008】
一方、半導体素子を含む回路を駆動するための電源電圧は、例えば、半導体装置の外周部に形成された端子(パッド)を介して半導体チップの外部から供給される。電源電圧は、配線(以下、電源配線と称する)を通じて半導体装置の各所に配置された回路に供給される。バックバイアス配線と同様、電源配線上においても電圧ドロップが生じる。すなわち、電源電圧は、半導体装置の中央部に向けて徐々に小さくなる。半導体素子の遅延時間は、通常、電源電圧が小さい程大きくなるので、半導体装置の中央部に配置された半導体素子の遅延時間は、半導体装置の外周部に配置された半導体素子の遅延時間よりも大きい。このように、電源電圧を、電源配線を介して半導体装置の各所に配置された回路に供給する場合には、電源電圧のドロップに起因して上記回路を形成する半導体素子の遅延時間にばらつきが生じる。
【0009】
バックバイアス電圧の分布と電源電圧の分布との間に関連性がない場合には、電源電圧のドロップに起因する遅延時間のばらつきと、バックバイアス電圧のドロップに起因する遅延時間のばらつきとが加算され、遅延時間のばらつきが更に大きくなるおそれがある。
【0010】
開示の技術は、半導体素子の閾値電圧を制御する基板電圧を半導体基板の各所に供給するための配線を有する半導体装置において、半導体素子の遅延時間のばらつきを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
開示の技術に係る半導体装置は、第1の領域及び第2の領域を有する半導体基板と、前記半導体基板に設けられたウェルと、前記ウェル上に設けられた半導体素子とを、有する複数の回路と、を含む。半導体装置は、前記半導体基板上に設けられ、外周部の複数箇所に電源電圧が供給され、前記複数の回路の各々に前記電源電圧を供給するメッシュ状の第1の配線を含む。半導体装置は、前記半導体基板上に設けられ、中央部に基板電圧が供給されるメッシュ状の第2の配線と、前記半導体基板上に設けられ、前記第2の配線が設けられた層とは異なる層に設けられ、前記基板電圧を前記ウェルに供給するメッシュ状の第3の配線と、を含む。半導体装置は、前記第3の配線の外周部のみに設けられ、前記第3の配線と前記第2の配線とを接続する複数のビアを含む。
【発明の効果】
【0012】
開示の技術は、一つの側面として、半導体素子の閾値電圧を制御する基板電圧を半導体基板の各所に供給するための配線を有する半導体装置において、半導体素子の遅延時間のばらつきを抑制することができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】開示の技術の実施形態に係る半導体装置のフロアプランの一例を示す図である。
図2】開示の技術の実施形態に係る半導体装置の配線構成を示す図である。
図3】開示の技術の実施形態に係るCMOS回路の構成を示す図である。
図4】開示の技術の実施形態に係るバックバイアス配線の構成を示す斜視図である。
図5】開示の技術の実施形態に係る上層メッシュ配線と下層メッシュ配線との接続形態を示す図である。
図6】開示の技術の実施形態に係る半導体装置の部分的な構成を示す断面図である。
図7】開示の技術の実施形態に係る半導体装置における、電源電圧の大きさの分布を模式的に示した図である。
図8】電源電圧と半導体素子の遅延時間との関係を示す図である。
図9】開示の技術の実施形態に係る半導体装置における、バックバイアス電圧の大きさの分布を模式的に示した図である。
図10】開示の技術の実施形態に係るバックバイアス配線によってもたらされるバックバイアス電圧の大きさの分布を、シミュレーションによって求めた結果を示す図である。
図11】バックバイアス電圧と半導体素子の遅延時間との関係を示す図である。
図12】比較例に係る半導体装置の配線構成を示す図である。
図13A】比較例に係る半導体装置における、電源電圧の大きさの分布を模式的に示した図である。
図13B】比較例に係る半導体装置における、バックバイアス電圧の大きさの分布を模式的に示した図である。
図14】シミュレーションの対象とされた論理回路の構成を示す図である。
図15】比較例に係るバックバイアス配線の構成を示す図である。
図16】比較例に係るバックバイアス配線によってもたらされるバックバイアス電圧の大きさの分布を、シミュレーションによって求めた結果を示す図である。
図17A】電源電圧の分布に偏りが生じた状態を示す図である。
図17B】バックバイアス電圧の分布を電源電圧の分布の偏りに対応させた状態を示す図である。
図18】開示の技術の第2の実施形態に係るバックバイアス配線の構成を示す図である。
図19】開示の技術の実施形態に係る、バックバイアス電圧の分布傾向を、電源電圧の分布傾向に対応させる場合の半導体装置の設計手順を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、開示の技術の実施形態の一例を、図面を参照しつつ説明する。なお、各図面において同一または等価な構成要素および部分には同一の参照符号を付与している。
【0015】
[第1の実施形態]
図1は、開示の技術の実施形態に係る半導体装置10のフロアプランの一例を示す図である。半導体装置10は、一例として、半導体基板上に集積回路が形成された矩形形状の半導体チップとして構成されている。半導体装置10は、その外縁を画定する4つの辺に沿って設けられた入出力回路(I/O回路)11を有する。また、半導体装置10は、入出力回路(I/O回路)11の内側に、一例として、チャージポンプ12、ロジックセル13、SRAM(Static Random Access Memory)14およびアナログマクロ15などの複数の回路を有する。
【0016】
図2は、半導体装置10の配線構成を示す図である。半導体装置10は、図2において実線で示される電源配線20および図2において破線で示されるバックバイアス配線30を有する。電源配線20およびバックバイアス配線30は、それぞれ、互いに異なる方向に伸長する複数の配線が互いに交差するように配置されたメッシュ状(網目状)の形態を有し、I/O回路11の内側領域の略全体を覆っている。電源配線20とバックバイアス配線30は、互いに異なる配線層に設けられており、互いに電気的に分離されている。
【0017】
電源電圧Vは、半導体装置10の外周部に設けられた入出力回路(I/O回路)11から出力され、電源配線20の外周部の複数の箇所に印加される。電源電圧Vは、電源配線20を通じて半導体装置10の内部の上記の各回路12〜15(図1参照)に供給される。
【0018】
チャージポンプ12は、半導体装置10の内部の半導体素子の各々の閾値電圧を制御するためのバックバイアス電圧Vを生成する電圧生成回路である。チャージポンプ12によって生成されたバックバイアス電圧Vは、バックバイアス配線30の中央部に印加され、バックバイアス配線30を通じて半導体基板に供給される。
【0019】
なお、電源配線20は、高電圧側電源配線(図3に示す高電圧側電源端子VDDに接続される配線)と、低電圧側電源配線(図3に示す低電圧側電源端子VSSに接続される配線)の2系統の配線を含むが、図面の煩雑さを回避するために、図2においては、これらをまとめて図示している。また、バックバイアス配線30には、P−MOSトランジスタのウェル(図3に示すバックゲート端子VPW)に接続される配線およびN−MOSトランジスタのウェル(図3に示すバックゲート端子VNW)に接続される配線の2系統の配線を含むが、図面の煩雑さを回避するために、図2においては、これらをまとめて図示している。
【0020】
図3は、半導体装置10に含まれる回路の一例であるCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)回路100の構成を示す図である。CMOS回路100は、例えば、図1に示すロジックセル13内に形成され得る。CMOS回路100は、直列接続されたP−MOSトランジスタ110およびN−MOSトランジスタ120を含む。P−MOSトランジスタ110のソースは高電圧側電源端子VDDに接続され、ドレインは、N−MOSトランジスタ120のドレインおよびCMOS回路100の出力端子YBに接続されている。N−MOSトランジスタ120のソースは低電圧側電源端子VSS端子に接続されている。P−MOSトランジスタ110およびN−MOSトランジスタ120のゲートは、CMOS回路100の入力端子Aに接続されている。P−MOSトランジスタ110のバックゲート(Nウェル領域)は、バックゲート端子VPWに接続され、N−MOSトランジスタ120のバックゲート(Pウェル領域)は、バックゲート端子VNWに接続されている。
【0021】
CMOS回路100を駆動するための電源電圧Vは、各系統の電源配線20を介して高電圧側電源端子VDDおよび低電圧側電源端子VSSに供給される。チャージポンプ12(図2参照)から出力されるバックバイアス電圧Vは、各系統のバックバイアス配線30を介してバックゲート端子VPWおよびVNWに供給される。P−MOSトランジスタ110の閾値電圧は、バックゲート端子VPWに供給される正極性のバックバイアス電圧Vによって制御され、N−MOSトランジスタ120の閾値電圧は、バックゲート端子VNWに供給される負極性のバックバイアス電圧Vによって制御される。
以下の説明では、正極性と負極性のバックバイアス電圧Vの両方を含めて説明するため、特に正極性・負極性の区別が無い限り、バックバイアス電圧Vの電圧値に関して記述した部分はバックバイアス電圧Vの絶対値について記述しているものとする。すなわち負極性のバックバイアス電圧Vの場合、バックバイアス電圧Vに電圧ドロップが生ずるとは負極性のバックバイアス電圧Vが浅くなることを意味する。
【0022】
図4は、開示の技術の実施形態に係るバックバイアス配線30の構成を示す斜視図である。バックバイアス配線30は、上層メッシュ配線31と、上層メッシュ配線31よりも下層の配線層に設けられた下層メッシュ配線34とを含んでいる。なお、図4において、上層メッシュ配線31と下層メッシュ配線34とを接続するビア39(図5参照)は、図面の煩雑さを回避するために、図示を省略している。
【0023】
上層メッシュ配線31は、一方向に伸長する複数の配線32と、配線32と交差する方向に伸長する複数の配線33と、を有する。配線32と配線33は、異なる配線層に設けられており、配線32と配線33の各交差部に設けられたビア37によって互いに接続されている。図4に示すように、上層メッシュ配線31は、複数の配線32および配線33によってメッシュ状(網目状)の配線網を形成している。なお、配線32と配線33とを同一の配線層において一体的に形成してもよい。この場合、ビア37は不要となる。
【0024】
同様に、下層メッシュ配線34は、一方向に伸長する複数の配線35と、配線35と交差する方向に伸長する複数の配線36と、を有する。配線35と配線36は、異なる配線層に設けられており、配線35と配線36の各交差部に設けられたビア38によって互いに接続されている。図4に示すように、下層メッシュ配線34は、複数の配線35および配線36によってメッシュ状(網目状)の配線網を形成している。なお、配線35と配線36とを同一の配線層において一体的に形成してもよい。この場合、ビア38は不要となる。
【0025】
図5は、上層メッシュ配線31と下層メッシュ配線34との接続形態を示す図である。上層メッシュ配線31および下層メッシュ配線34は、半導体基板上において略同じ範囲に延在しており、これらは互いに重なる位置に設けられている。上層メッシュ配線31と下層メッシュ配線34は、これらの間に設けられた複数のビア39によって互いに接続されている。複数のビア39の各々は、一端が上層メッシュ配線31の外周部に接続され、他端が下層メッシュ配線34の外周部に接続されている。すなわち、上層メッシュ配線31の外周部が、複数のビア39を介して、下層メッシュ配線34の外周部に接続されている。本実施形態において、複数のビア39は、上層メッシュ配線31および下層メッシュ配線34の外周部に沿って等間隔に配置されている。
【0026】
チャージポンプ12によって生成されたバックバイアス電圧Vは、上層メッシュ配線31の中央部Cに印加されることが望ましい。上層メッシュ配線31の中央部Cに印加されたバックバイアス電圧Vは、上層メッシュ配線31の外周部に向けて伝達され、更に複数のビア39を介して下層メッシュ配線34の外周部に伝達される。下層メッシュ配線34の外周部に供給されたバックバイアス電圧Vは、下層メッシュ配線34の内周部に向けて伝達される。半導体装置10を構成する半導体基板は、下層メッシュ配線34からバックバイアス電圧Vの供給を受ける。
【0027】
図6は、半導体装置10の部分的な構成を示す断面図である。図6では、一例として、図3に示されたCMOS回路100に対応する構成部分が示されている。
【0028】
CMOS回路100を構成するP−MOSトランジスタ110は、P型の半導体基板130の表面に形成されたN−ウェル領域111内に形成されている。N−ウェル領域111の表面には、P−MOSトランジスタ110のソースおよびドレインをそれぞれ構成するP型領域112および113が形成されている。P型領域112は高電圧側電源端子VDDに接続され、P型領域113はCMOS回路100の出力端子YBに接続されている。P型領域112と113との間のチャネル領域の上には、ゲート電極114が設けられている。ゲート電極114は、CMOS回路100の入力端子Aに接続されている。N−ウェル領域111の表面には、N−ウェル領域111とビア41との電気的接続を良好にするためのN型領域115が形成されている。N型領域115とP型領域112とは、これらの間に設けられたSTI(Shallow Trench Isolation)領域116によって絶縁分離されている。
【0029】
一方、CMOS回路100を構成するN−MOSトランジスタ120は、半導体基板130の表面に形成されたP−ウェル領域121内に形成されている。P−ウェル領域121の表面には、N−MOSトランジスタ120のドレインおよびソースをそれぞれ構成するN型領域122および123が形成されている。N型領域122はCMOS回路100の出力端子YBに接続され、N型領域123は低電圧側電源端子VSSに接続されている。N型領域122と123との間のチャネル領域の上には、ゲート電極124が設けられている。ゲート電極124は、CMOS回路100の入力端子Aに接続されている。P−ウェル領域121の表面には、P−ウェル領域121とビア41との電気的接続を良好にするためのP型領域125が形成されている。P型領域125とN型領域123とは、これらの間に設けられたSTI領域126によって絶縁分離されている。また、P−MOSトランジスタ110とN−MOSトランジスタ120は、これらの間に設けられたSTI領域131によって絶縁分離されている。
【0030】
半導体装置10は、複数の配線層M1〜M5を有する。バックバイアス配線30を構成する配線のうち、上層メッシュ配線31は、配線層M5およびM4に形成され、下層メッシュ配線34は、配線層M3およびM2に形成されている。より具体的には、上層メッシュ配線31を構成する配線のうち、配線32が配線層M5に形成され、配線33が配線層M4に形成されている。配線32および配線33はビア37を介して互いに接続されている。また、下層メッシュ配線34を構成する配線のうち、配線35が配線層M3に形成され、配線36が配線層M2に形成されている。配線35および配線36はビア38を介して互いに接続されている。上層メッシュ配線31と下層メッシュ配線34は、ビア39を介して互いに接続されている。
【0031】
N−ウェル領域111にバックバイアス電圧Vを供給するための第1の系統のバックバイアス配線30(30N)は、ビア42、配線40およびビア41を介して、N型領域115に接続されている。同様に、P−ウェル領域121にバックバイアス電圧Vを供給するための第2の系統のバックバイアス配線30(30P)は、ビア42、配線40およびビア41を介して、P型領域125に接続されている。なお、図6において、図面の煩雑さを回避するために、電源配線20の図示を省略している。電源配線20は、配線層M1〜M5以外の配線層に形成されていてもよい。
【0032】
図7は、半導体装置10における、電源電圧Vの大きさの分布を模式的に示した図である。電源配線20には、半導体装置10の外縁を画定する各辺に沿って設けられた入出力回路(I/O回路)11を介して電源電圧Vが供給される。すなわち、電源電圧Vは、電源配線20の外周部の複数の箇所から電源配線20に供給される。電源配線20の外周部に供給された電源電圧Vは、電源配線20の内周部に向けて伝達される。半導体装置10を構成する各回路においては、電源電圧Vの印加に伴うリーク電流が流れるので、電源配線20上において電圧ドロップが生じる。電源電圧Vのドロップは、電源配線20の外周部からの距離が大きくなる程大きくなる。半導体装置10における電源電圧Vの分布は、図7においてグレースケールで示されている。グレースケールの濃度が低い領域R1は、電圧ドロップが相対的に小さい領域、すなわち、電源電圧Vの大きさが半導体装置10内で相対的に大きい領域に対応する。グレースケールの濃度が高い領域R3は、電圧ドロップが相対的に大きい領域、すなわち、電源電圧Vの大きさが半導体装置10内で相対的に小さい領域に対応する。グレースケールの濃度が中程度の領域R2は、電圧ドロップが中程度の領域、すなわち、電源電圧Vの大きさが半導体装置10内で中程度の領域に対応する。図7に示すように、電源配線20上における電圧ドロップに起因して、電源電圧Vは、電源配線20の外周部において相対的に高くなり、電源配線20の中央部に向けて徐々に小さくなる。半導体装置10を構成する各回路による消費電力が半導体基板上において略均等である場合には、電源電圧Vの分布は図7に示すような同心状となる。例えば電源電圧Vは、領域R1の地点Q1では0.806Vとなり、領域R3の地点Q2では0.77Vとなる。
【0033】
図8は、電源電圧Vと、半導体装置10の各回路を構成する半導体素子の遅延時間との関係を示す図である。半導体素子の遅延時間は、電源電圧Vが小さくなる程大きくなる傾向を示す。すなわち、電圧ドロップによって電源電圧Vが低下すると遅延時間は増大する。従って、電源電圧要因のみを考慮した場合には、電源電圧Vが相対的に大きい領域R1(図7参照)における半導体素子の遅延時間は相対的に小さく、電源電圧Vが相対的に小さい領域R3(図7参照)における半導体素子の遅延時間は相対的に大きい。すなわち、電源電圧要因のみを考慮した場合には、半導体素子の遅延時間は、電源配線20の外周部に対応する部分から電源配線20の中央部に対応する部分に向けて大きくなる。
【0034】
図9は、半導体装置10における、バックバイアス電圧Vの大きさの分布を模式的に示した図である。なお、図9において、上層メッシュ配線31と下層メッシュ配線34とをまとめてバックバイアス配線30として図示している。半導体装置10においては、バックバイアス電圧Vの印加に伴って半導体基板にリーク電流が流れるので、バックバイアス配線30上において電圧ドロップが生じる。バックバイアス電圧Vのドロップは、下層メッシュ配線34の外周部からの距離が大きくなる程大きくなる。半導体装置10におけるバックバイアス電圧Vの分布は、図9においてグレースケールで示されている。グレースケールの濃度が低い領域R4は、電圧ドロップが相対的に小さい領域、すなわち、バックバイアス電圧Vの大きさが半導体装置10内で相対的に大きい領域に対応する。グレースケールの濃度が高い領域R6は、電圧ドロップが相対的に大きい領域、すなわち、バックバイアス電圧Vの大きさが半導体装置10内で相対的に小さい領域に対応する。グレースケールの濃度が中程度の領域R5は、電圧ドロップが中程度の領域、すなわち、バックバイアス電圧Vの大きさが半導体装置10内で中程度の領域に対応する。図9に示すように、バックバイアス配線30上における電圧ドロップに起因して、バックバイアス電圧Vは、半導体装置10内でバックバイアス配線30の外周部において相対的に高くなり、バックバイアス配線30の中央部に向けて徐々に小さくなる。チャージポンプ12から出力されるバックバイアス電圧Vを、上層メッシュ配線31の中央部に印加することで、バックバイアス電圧Vの分布を図9に示すような同心状とすることができる。例えばチャージポンプ12から出力される負極性のバックバイアス電圧が−0.2Vである場合に、領域R4内の地点Q1においてバックバイアス電圧Vは−0.198Vであり、領域R6内の地点Q2においてバックバイアス電圧Vは−0.18Vである。
【0035】
図10は、開示の技術の実施形態に係るバックバイアス配線30によってもたらされるバックバイアス電圧Vの大きさの分布を、シミュレーションによって求めた結果を示す図である。図10において、X軸およびY軸は、半導体基板の主面上における位置を示し、Z軸は、バックバイアス電圧Vの大きさを示す。図10に示すように、開示の技術の実施形態に係るバックバイアス配線30の構成によれば、バックバイアス電圧Vは、半導体基板の中央部(すなわち、バックバイアス配線30の中央部)に向けて徐々に小さくなることが、シミュレーションによって検証された。
【0036】
図11は、バックバイアス電圧Vと、半導体装置10の各回路を構成する半導体素子の遅延時間との関係を示す図である。半導体素子の遅延時間は、バックバイアス電圧Vが小さくなる程小さくなる傾向を示す。すなわち、電圧ドロップによってバックバイアス電圧Vが低下すると遅延時間は減少する。従って、バックバイアス電圧要因のみを考慮した場合には、バックバイアス電圧Vが相対的に大きい領域R4(図9参照)における半導体素子の遅延時間は相対的に大きく、バックバイアス電圧Vが相対的に小さい領域R6(図9参照)における半導体素子の遅延時間は相対的に小さい。すなわち、バックバイアス電圧要因のみを考慮した場合には、半導体素子の遅延時間は、バックバイアス配線30の外周部に対応する部分から中央部に対応する部分に向けて小さくなる。
【0037】
図7図9とを比較して明らかなように、電源電圧Vおよびバックバイアス電圧Vは、共に半導体装置10の外周部から中央部に向けて電圧が徐々に小さくなるような分布傾向を有する。このように両者の電圧分布傾向を一致させることで、電源電圧要因で遅延時間が相対的に小さくなる領域R1と、バックバイアス電圧要因で遅延時間が相対的に大きくなる領域R4と、を一致させることができる。また、電源電圧要因で遅延時間が相対的に大きくなる領域R3と、バックバイアス電圧要因で遅延時間が相対的に小さくなる領域R6と、を一致させることができる。従って、電源電圧Vのドロップに起因する遅延時間のばらつきは、バックバイアス電圧Vのドロップに起因する遅延時間のばらつきによって打ち消される。結果として、電源電圧Vおよびバックバイアス電圧Vの双方の要因を加味した遅延時間のばらつきが抑制される。
【0038】
図12は、比較例に係る半導体装置10Xの配線構成を示す図である。なお、図12において、開示の技術の実施形態に係る半導体装置10と同一または対応する構成要素には同一参照符号を付与し、重複する説明は省略する。比較例に係る半導体装置10Xは、バックバイアス配線30Xが多層構造を有しない単純なメッシュ状の配線として構成されている。すなわち、バックバイアス配線30Xは、上層メッシュ配線と下層メッシュ配線との組み合わせによって構成されるものではなく、これらのうちのいずれか一方のみと同様の構成を有する。また、比較例に係る半導体装置10Xにおいて、チャージポンプ12から出力されるバックバイアス電圧Vは、バックバイアス配線30Xの中央部ではなく、外周部の一点(図12に示す例ではバックバイアス配線30の右端)に印加されている。なお、比較例に係る半導体装置10Xにおいて、電源配線20の構成は、開示の技術の実施形態に係る半導体装置10と同様である。電源電圧Vは、比較例に係る半導体装置10Xの外縁に沿って設けられた入出力回路(I/O回路)11から出力され、電源配線20の外周部の複数の箇所に印加される。
【0039】
図13Aは、比較例に係る半導体装置10Xにおける、電源電圧Vの大きさの分布を模式的に示した図である。電源電圧Vの分布は、図13Aにおいてグレースケールで示されている。グレースケールの濃度が低い領域R1は、電圧ドロップが相対的に小さい領域、すなわち、電源電圧Vの大きさが相対的に大きい領域に対応する。グレースケールの濃度が高い領域R3は、電圧ドロップが相対的に大きい領域、すなわち、電源電圧Vの大きさが相対的に小さい領域に対応する。グレースケールの濃度が中程度の領域R2は、電圧ドロップが中程度の領域、すなわち、電源電圧Vの大きさが中程度の領域に対応する。図13Aに示すように、比較例に係る半導体装置10Xにおいても、開示の技術の実施形態に係る半導体装置10と同様、電源電圧Vは、電源配線20の外周部において相対的に高くなり、電源配線20の中央部に向けて徐々に小さくなる。例えば電源電圧Vは、領域R1の地点Q1では0.806Vとなり、領域R3の地点Q2では0.77Vとなる。
【0040】
図13Bは、比較例に係る半導体装置10Xにおける、バックバイアス電圧Vの大きさの分布を模式的に示した図である。バックバイアス電圧Vの分布は、図13Bにおいてグレースケールで示されている。グレースケールの濃度が低い領域R4は、電圧ドロップが相対的に小さい領域、すなわち、バックバイアス電圧Vの大きさが相対的に大きい領域に対応する。グレースケールの濃度が高い領域R6は、電圧ドロップが相対的に大きい領域、すなわち、バックバイアス電圧Vの大きさが相対的に小さい領域に対応する。グレースケールの濃度が中程度の領域R5は、電圧ドロップが中程度の領域、すなわち、バックバイアス電圧Vの大きさが中程度の領域に対応する。単純なメッシュ構造を有する比較例に係るバックバイアス配線30Xによれば、バックバイアス電圧Vのドロップは、バックバイアス電圧Vの印加点からの距離が大きくなる程大きくなる。すなわち、図13Bに示すように、チャージポンプ12から出力されるバックバイアス電圧Vをバックバイアス配線30Xの右端に印加した場合には、バックバイアス電圧Vはバックバイアス配線30Xの右端から左端に向けて徐々に小さくなる。例えば負極性のバックバイアス電圧Vは、領域R4の地点Q2では−0.198Vとなり、領域R6の地点Q1では−0.18Vとなる。
【0041】
図13A図13Bとを比較して明らかなように、比較例に係る半導体装置10Xによれば、電源電圧Vの分布傾向とバックバイアス電圧Vの分布傾向は不一致となる。すなわち、電源電圧要因で遅延時間が相対的に小さくなる領域R1は、バックバイアス電圧要因で遅延時間が相対的に大きくなる領域R4と一致していない。また、電源電圧要因で遅延時間が相対的に大きくなる領域R3は、バックバイアス電圧要因で遅延時間が相対的に小さくなる領域R6と一致していない。従って、比較例に係る半導体装置10Xによれば、電源電圧Vのドロップに起因する遅延時間のばらつきを、バックバイアス電圧Vのドロップに起因する遅延時間のばらつきによって打ち消す効果を得ることはできない。
【0042】
また、比較例に係る半導体装置10Xによれば、例えば、部位Q1のように、電源電圧要因で遅延時間が相対的に小さくなる領域R1と、バックバイアス電圧要因で遅延時間が相対的に小さくなる領域R6とが重なる部位が生じ得る。また、部位Q2のように、電源電圧要因で遅延時間が相対的に大きくなる領域R3と、バックバイアス電圧要因で遅延時間が相対的に大きくなる領域R4とが重なる部位が生じ得る。このように、比較例に係る半導体装置10Xによれば、電源電圧要因による遅延時間のばらつきと、バックバイアス電圧要因による遅延時間のばらつきとが加算され、遅延時間のばらつきが更に拡大する結果となる。
【0043】
比較例に係る半導体装置10Xにおいて、図13Aおよび図13Bに示す部位Q1およびQ2における遅延時間を、シミュレーションにより推定した。以下にその結果について説明する。
【0044】
図14は、シミュレーションの対象とされた論理回路200の構成を示す図である。論理回路200は、直列接続された複数の論理ゲート201〜204を含んで構成されている。部位Q1および部位Q2における電源電圧Vおよびバックバイアス電圧Vを、論理回路200に供給した場合における遅延時間をシミュレーションによって推定した。
【0045】
シミュレーションの条件として、電源配線20の外周部に印加する電源電圧Vの大きさを0.81Vとした。バックバイアス配線30Xの右端部に印加するバックバイアス電圧Vの大きさを−0.2Vとした。部位Q1における電源電圧Vのドロップは4mVと推定される。すなわち、部位Q1における電源電圧Vの大きさは、0.806Vと推定される(図13A参照)。部位Q1におけるバックバイアス電圧Vのドロップは20mVと推定される。すなわち、部位Q1におけるバックバイアス電圧Vの大きさは、−0.18Vと推定される(図13B参照)。
【0046】
部位Q2における電源電圧Vのドロップは40mVと推定される。すなわち、部位Q2における電源電圧Vの大きさは、0.77Vと推定される(図13A参照)。部位Q2におけるバックバイアス電圧Vのドロップは2mVと推定される。すなわち、部位Q2におけるバックバイアス電圧Vの大きさは、−0.198Vと推定される(図13B参照)。
【0047】
シミュレーションの結果、部位Q1(V=0.806V、V=−0.18V)における論理回路200の遅延時間は、1685ピコ秒と推定された。また、部位Q2(V=0.77V、V=−0.198V)における論理回路200の遅延時間は、1911ピコ秒と推定された。以上より、比較例に係る半導体装置10Xにおいて、論理回路200の遅延時間のばらつき幅(最大値−最小値)は226ピコ秒と推定された。
【0048】
開示の技術の実施形態に係る半導体装置10についても、図7および図9に示す部位Q1およびQ2における遅延時間を、上記と同様のシミュレーションにより取得した。以下にその結果について説明する。なお、図7および図9に示す部位Q1およびQ2の位置は、それぞれ、図13Aおよび図13Bに示す部位Q1およびQ2の位置に対応している。シミュレーションの対象回路は、上記した比較例の場合と同様、図14に示す論理回路200を使用した。
【0049】
シミュレーションの条件として、上記の比較例の場合と同様、電源配線20の外周部に印加する電源電圧Vの大きさを0.81Vとした。バックバイアス配線30の中央部に印加するバックバイアス電圧Vの大きさを−0.2Vとした。部位Q1における電源電圧Vのドロップは4mVと推定される。すなわち、部位Q1における電源電圧Vの大きさは、0.806Vと推定される(図7参照)。部位Q1におけるバックバイアス電圧Vのドロップは2mVと推定される。すなわち、部位Q1におけるバックバイアス電圧Vの大きさは、−0.198Vと推定される(図9参照)。
【0050】
部位Q2における電源電圧Vのドロップは40mVと推定される。すなわち、部位Q2における電源電圧Vの大きさは、0.77Vと推定される(図7参照)。部位Q2におけるバックバイアス電圧Vのドロップは20mVと推定される。すなわち、部位Q2におけるバックバイアス電圧Vの大きさは、−0.18Vと推定される。
【0051】
シミュレーションの結果、部位Q1(V=0.806V、V=−0.198V)における論理回路200の遅延時間は、1743ピコ秒と推定された。また、部位Q2(V=0.77V、V=−0.18V)における論理回路200の遅延時間は、1854ピコ秒と推定された。以上より、開示の技術の実施形態に係る半導体装置10において、論理回路200の遅延時間のばらつき幅(最大値−最小値)は、111ピコ秒と推定された。
【0052】
すなわち、開示の技術の実施形態に係る半導体装置10によれば、比較例に係る半導体装置10Xにおける遅延時間のばらつき幅(226ピコ秒)に対して115ピコ秒の圧縮効果を得ることができる。換言すれば、開示の技術の実施形態に係る半導体装置10によれば、比較例に係る半導体装置10Xにおける遅延時間のばらつき幅を略半減できる。
【0053】
図15は、第2の比較例に係るバックバイアス配線30Yの構成を示す図である。第2の比較例に係るバックバイアス配線30Yは、開示の技術の実施形態に係るバックバイアス配線30と同様、上層メッシュ配線31および下層メッシュ配線34を有する。第2の比較例に係るバックバイアス配線30Yは、上層メッシュ配線31と下層メッシュ配線34とを接続するビア39が、これらの配線の外周部のみならず内周部の全域に設けられている点が、開示の技術の実施形態に係るバックバイアス配線30と異なる。チャージポンプ12から出力されるバックバイアス電圧Vは、上層メッシュ配線31の中央部Cに印加される。
【0054】
図16は、第2の比較例に係るバックバイアス配線30Yによってもたらされるバックバイアス電圧Vの大きさの分布を、シミュレーションによって求めた結果を示す図である。図16において、X軸およびY軸は、半導体基板の主面上における位置を示し、Z軸は、バックバイアス電圧Vの大きさを示す。図16に示すように、第2の比較例に係るバックバイアス配線30Yの構成によれば、バックバイアス電圧Vは半導体基板の中央部において、急峻なピークを有するものの全体的にはフラットな分布となった。すなわち、上層メッシュ配線31と下層メッシュ配線34との接続を、これらの配線の略全域に亘って行った場合には、バックバイアス電圧Vの分布傾向は、電源電圧Vの分布傾向と一致しない。従って、第2の比較例に係るバックバイアス配線30Yの構成によれば、電源電圧Vのドロップに起因する遅延時間のばらつきを、バックバイアス電圧Vのドロップに起因する遅延時間のばらつきによって打ち消す効果を得ることができない。
【0055】
一方、開示の技術の実施形態に係るバックバイアス配線30において、上層メッシュ配線31と下層メッシュ配線34との接続は、これらの配線の外周部においてのみ行われている。これにより、図10に示すように、バックバイアス電圧Vが半導体基板の中央部に向けて徐々に小さくなるようなバックバイアス電圧Vの分布を形成することが可能となる。これにより、バックバイアス電圧Vの分布傾向を電源電圧Vの分布傾向と一致させることができ、電源電圧Vのドロップに起因する遅延時間のばらつきを、バックバイアス電圧Vのドロップに起因する遅延時間のばらつきによって打ち消すことが可能となる。
【0056】
以上の説明から明らかなように、開示の技術の実施形態に係る半導体装置10において、バックバイアス配線30は、互いに異なる配線層に設けられた上層メッシュ配線31および下層メッシュ配線34を含む。上層メッシュ配線31と下層メッシュ配線34とは、これらの外周部に接続された複数のビア39によって互いに接続されている。チャージポンプ12から出力されるバックバイアス電圧Vは、上層メッシュ配線31の中央部に印加され、ビア39を介して下層メッシュ配線34に伝達される。バックバイアス配線30をこのように構成することで、バックバイアス電圧Vの分布傾向を、電源電圧Vの分布傾向に略一致させることができる。これにより、電源電圧Vのドロップに起因する遅延時間のばらつきを、バックバイアス電圧Vのドロップに起因する遅延時間のばらつきによって相殺すことができる。結果として、電源電圧Vおよびバックバイアス電圧Vの双方の要因を加味した遅延時間のばらつきを抑制することが可能となる。
【0057】
[第2の実施形態]
図17Aは、電源電圧Vの分布に偏りが生じた状態を示す図である。図17Aには、電源配線20の中心点から左上方向にずれた位置に電源電圧Vが相対的に小さい領域が存在している場合が例示されている。このような電源電圧Vの分布の偏りは、電源電圧Vが供給される各回路による消費電力が、半導体基板上において不均一である場合に起こり得る。すなわち、消費電力が相対的に大きい領域では、電源電圧Vのドロップが大きくなり、当該領域における電源電圧Vは相対的に小さくなり、電源電圧Vの分布に偏りが生じる。
【0058】
このように電源電圧Vの分布に偏りが生じた場合でも、図17Bに示すように、バックバイアス電圧Vの分布傾向を、電源電圧Vの分布傾向に合わせることにより、第1の実施形態の場合と同様、遅延時間のばらつきを抑制することができる。
【0059】
図18は、開示の技術の第2の実施形態に係るバックバイアス配線30Aの構成を示す図である。図18に示すバックバイアス配線30Aは、一例として、図17Bに示すような偏りを生じたバックバイアス電圧Vの分布を形成するための構成を有する。バックバイアス配線30Aは、上層メッシュ配線31および下層メッシュ配線34を有し、上層メッシュ配線31と下層メッシュ配線34は、これらの外周部に接続された複数のビア39によって互いに接続されている。チャージポンプ12から出力されるバックバイアス電圧VAは、上層メッシュ配線31の中央部Cに印加される。
【0060】
バックバイアス配線30Aにおいて、電源電圧Vが供給される回路による消費電力が相対的に大きい領域Pに対応する部分におけるビア39が間引かれている。このように、消費電力が相対的に大きい領域Pに対応する部分におけるビアの形成密度を、他の部分におけるビアの形成密度よりも小さくすることで、領域Pにおけるバックバイアス電圧Vのドロップを大きくすることができる。すなわち、図17Bに示すような偏りを生じたバックバイアス電圧Vの分布を形成することができる。
【0061】
また、図18に示すように、バックバイアス配線30Aにおいて、消費電力が相対的に大きい領域Pに対応する部分における下層メッシュ配線34の配線幅を、消費電力が相対的に小さい領域に対応する部分における配線幅よりも小さくしてもよい。このように、配線幅を部分的に小さくすることによっても、領域Pにおけるバックバイアス電圧Vのドロップを大きくすることができ、図17Bに示すような偏りを生じたバックバイアス電圧Vの分布を形成することができる。このように、消費電力が相対的に大きい領域に対応する部分におけるバックバイアス電圧Vのドロップが相対的に大きくなるようにバックバイアス配線30を構成することで、バックバイアス電圧Vの分布傾向を電源電圧Vの分布傾向に合わせることができる。上記したビア39の形成密度を調整する施策と、下層メッシュ配線34の配線幅を調整する施策は、単独に実施してもよいし、両者を併せて実施してもよい。
【0062】
第2の実施形態に係るバックバイアス配線30Aの構成によれば、バックバイアス電圧Vの分布に偏りを付加することができるので、電源電圧Vの分布の偏りに対応させることができる。従って、電源電圧Vの分布に偏りが生じた場合でも、電源電圧Vのドロップに起因する遅延時間のばらつきを、バックバイアス電圧Vのドロップに起因する遅延時間のばらつきによって相殺することができ、遅延時間のばらつきを抑制することができる。
【0063】
図19は、バックバイアス電圧Vの分布傾向を、電源電圧Vの分布傾向に一致させる場合の半導体装置10の設計手順を示す工程図である。
【0064】
ステップS1において、フロアプランを実施する。すなわち、半導体装置10を構成する各回路ブロックのおおよその配置を決定する。ステップS2において、電源配線20の設計を行う。すなわち、ステップS10において配置された各回路ブロックに対して電源電圧Vの供給を行うための配線設計を行う。ステップS3において、ロジックセルの仮配置配線を行う。これにより、電源電圧Vのドロップの状態が概ね決まり、電源電圧Vの分布が概ね決まる。ステップS4において、電源電圧Vのドロップ解析を行う。ここでは、例えばシミュレーションなどを用いて、電源電圧Vのドロップが相対的に大きい領域および相対的に小さい領域を求め、電源電圧Vの分布を明らかにする。ステップS5において、バックバイアス配線30の設計を行う。ここでは、電源電圧Vのドロップ解析によって明らかとなった電源電圧Vの分布傾向と、バックバイアス電圧Vの分布傾向が一致するように、バックバイアス配線30の設計を行う。具体的には、電源電圧Vの分布に偏りが生じている場合には、電源電圧Vが相対的に小さい領域に対応する部分において、ビア39の形成密度を相対的に小さくする、配線幅を相対的に小さくするなどの措置を行う。ステップS6において、ロジックセルの配置配線を行う。以上の手順に従って各処理を行うことで、バックバイアス電圧Vの分布傾向が、電源電圧Vの分布傾向に一致した半導体装置10の設計を行うことができる。
【0065】
なお、上記した各実施形態では、バックバイアス電圧Vを半導体装置10の内部に設けられたチャージポンプ12によって生成する場合を例示したが、バックバイアス電圧Vを半導体装置10の外部から供給してもよい。この場合においても、バックバイアス電圧Vを上層メッシュ配線31の中央部に印加するように構成することで、バックバイアス電圧Vの分布を図9に示すような同心状にすることができる。
【0066】
電源配線20は、開示の技術における第1の配線に対応する。上層メッシュ配線31は、開示の技術における第2の配線に対応する。下層メッシュ配線34は、開示の技術における第3の配線に対応する。半導体基板130、N−ウェル領域111およびP−ウェル領域121は、開示の技術における半導体基板に対応する。ロジックセル13、SRAM14およびアナログマクロ15は、開示の技術における回路に対応する。電源電圧Vは、開示の技術における電源電圧に対応する。バックバイアス電圧Vは、開示の技術における基板電圧に対応する。チャージポンプ12は、開示の技術における電圧生成部に対応する。
【0067】
以上の第1および第2の実施形態に関し、更に以下の付記を開示する。
【0068】
(付記1)
半導体基板に設けられ、前記半導体基板に供給される基板電圧によって閾値電圧が制御される半導体素子を各々が含む複数の回路と、
外周部の複数箇所に供給される電源電圧を、前記複数の回路の各々に供給するメッシュ状の第1の配線と、
配線層に設けられ、前記基板電圧の供給を受けるメッシュ状の第2の配線と、
前記第2の配線が設けられた配線層とは異なる配線層に設けられ、外周部が前記第2の配線の外周部に接続され、前記基板電圧を前記半導体基板に供給するメッシュ状の第3の配線と、
を含む半導体装置。
【0069】
(付記2)
前記基板電圧は、前記第2の配線の中央部に供給されている
付記1に記載の半導体装置。
【0070】
(付記3)
前記第2の配線および前記第3の配線は、前記回路による消費電力が前記半導体装置内で相対的に大きい第1の領域に対応する部分における前記基板電圧の絶対値のドロップが、前記回路による消費電力が前記第1の領域より小さい第2の領域に対応する部分における前記基板電圧の絶対値のドロップよりも大きくなるように構成されている
付記1または付記2に記載の半導体装置。
【0071】
(付記4)
前記第2の配線および前記第3の配線は、それぞれの外周部において複数のビアを介して互いに接続され、
前記第1の領域に対応する部分における前記ビアの形成密度が、前記第2の領域に対応する部分における前記ビアの形成密度よりも小さい
付記3に記載の半導体装置。
【0072】
(付記5)
前記第3の配線は、前記第1の領域に対応する部分における配線幅が、前記第2の領域に対応する部分における配線幅よりも小さい
付記3または付記4に記載の半導体装置。
【0073】
(付記6)
前記基板電圧を生成する電圧生成部を更に含む、
付記1から付記5のいずれか1つに記載の半導体装置。
【0074】
(付記7)
前記第2の配線および前記第3の配線は、それぞれの外周部において複数のビアを介して互いに接続されている
付記1または付記2に記載の半導体装置。
【0075】
(付記8)
前記複数のビアは、等間隔に配置されている
付記7に記載の半導体装置。
【符号の説明】
【0076】
10 半導体装置
11 入出力回路(I/O回路)
12 チャージポンプ
20 電源配線
30 バックバイアス配線
31 上層メッシュ配線
32 下層メッシュ配線
39 ビア
100 CMOS回路
110 P−MOSトランジスタ
120 N−MOSトランジスタ
111 N−ウェル領域
121 P−ウェル領域
130 半導体基板
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13A
図13B
図14
図15
図16
図17A
図17B
図18
図19