(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6384248
(24)【登録日】2018年8月17日
(45)【発行日】2018年9月5日
(54)【発明の名称】安定化リチウム複合粉末、およびそれを用いた負極およびリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
B22F 1/00 20060101AFI20180827BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20180827BHJP
B22F 1/02 20060101ALI20180827BHJP
【FI】
B22F1/00 R
H01M4/13
B22F1/02 D
B22F1/00 J
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-204701(P2014-204701)
(22)【出願日】2014年10月3日
(65)【公開番号】特開2016-74933(P2016-74933A)
(43)【公開日】2016年5月12日
【審査請求日】2017年7月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(72)【発明者】
【氏名】土屋 匡広
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 智彦
(72)【発明者】
【氏名】山本 裕司
(72)【発明者】
【氏名】佐野 篤史
【審査官】
菅原 愛
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2013/183524(WO,A1)
【文献】
特開2013−125697(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F1/00−9/30
C22C1/04−1/05
C22C33/02
H01M4/00−4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム粒子の表面に被膜を有する安定化リチウム粒子と、イオン液体が構成可能なアニオンとのリチウム塩を有する粒子との複合粉末であることを特徴とする安定化リチウム複合粉末。
【請求項2】
前記リチウム塩の含有量は、前記安定化リチウム複合粉末全体に対して0.5重量%以上5重量%以下であることを特徴とする請求項1に記載の安定化リチウム複合粉末。
【請求項3】
前記リチウム塩は、臭素アニオン(Br−)、四フッ化ホウ素アニオン(BF4−)、六フッ化リンアニオン(PF6−)、ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオン(FSI−)、ビス(パーフルオロエチルスルホニル)イミドアニオン(C2F5SO2)2N−、トリフルオロスルホニルアニオン(CF3SO3−)、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオン(N(SO2CF3)2−、TFSI−)、トリス(パーフルオロアルキル)トリフルオロホスフェートアニオン、エチルスルファートアニオンの群から選ばれる少なくとも1種のアニオンとのリチウム塩であることを特徴とする請求項1または2に記載の安定化リチウム複合粉末。
【請求項4】
前記リチウム塩は、フッ素を含有していることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の安定化リチウム複合粉末。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安定化リチウム複合粉末、およびそれを用いた負極およびリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
正極にコバルト酸リチウムに代表されるリチウム含有遷移金属酸化物、負極にリチウムをドープ・脱ドープ可能な炭素材料を用いたリチウムイオン二次電池を代表とする電気化学デバイスは、高エネルギー密度を有するという特徴から携帯電話に代表される携帯電子機器の電源として重要なものであり、これら携帯電子機器の急速な普及に伴いその需要は高まる一方である。
【0003】
また、ハイブリッド自動車など、環境対応を意識した自動車が数多く開発されているが、搭載される電源の一つとして、高エネルギー密度を有するリチウムイオン二次電池が大きく注目されている。
【0004】
リチウムイオン二次電池の容量は主に電極の活物質に依存する。負極活物質には、一般に黒鉛が利用されているが、上記の要求に対応するためにはより高容量な負極活物質を用いることが必要である。そのため、黒鉛の理論容量(372mAh/g)に比べてはるかに大きな理論容量(4210mAh/g)をもつ金属シリコン(Si)が注目されている。
【0005】
このようなリチウムイオン二次電池の性能向上化手段の一つとして、リチウムオン蓄電デバイスの主に負極に対して予めリチウムイオンをドープすることによりリチウムイオン蓄電デバイス内の電極の不可逆容量を抑制するプレドープ技術が知られている。
【0006】
例えば、集電体に貫通孔のある孔開き箔を使用した垂直プレドープ法が特許文献1に記載されている。垂直プレドープ法では、正極、負極の他に、正極や負極にリチウムイオンを供給するための第3極を用いる。
【0007】
この垂直プレドープ法は、通常のリチウムイオン蓄電デバイスよりも製造工程が複雑になり時間とコストが必要となる。
【0008】
また、正極合材層や負極合材層全体にリチウム箔を用いて導入する手法も存在するが、リチウムは柔らかいため均等に貼り付けるのが非常に困難である。また、この作業そのもののハンドリング性が低いことから、量産時の生産性に影響が出る可能性がある。
【0009】
これらを解決する手段として、リチウム粉末を利用し、その粉末を溶液塗布してプレドープを行う方法が提案されている(特許文献2参照)。
【0010】
このようなリチウム粉末を利用したプレドープ方法は、リチウム粉末の安定性の悪さから、安定化処理したものも開発されている。リチウム粉末の安定化処理方法としては、金属リチウム粉末の表面に安定性の高い物質、例えば、NBR(ニトリルブタジエンゴム)、SBR(スチレンブタジエンゴム)等の有機ゴム、EVA(エチレンビニルアルコール共重合樹脂)、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)、PEO(ポリエーテル)等の有機樹脂や、金属化合物等の無機化合物で金属リチウム粒子を被覆した安定化リチウム粒子を使用する方法が挙げられる。
【0011】
これらの安定化リチウム粒子を用いることで、大気中やトルエン、キシレン等の溶媒中でも安定化し、また露点がマイナス40℃程度のドライルームにおいてもリチウムの変質を防止できる。またプレドープ時に、リチウムと負極活物質との間の過度な反応が抑制されるため、この反応により生じる発熱量を低減できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特許第4126157号
【特許文献2】特開2008−98151号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、被覆部として有機系高分子を使用した場合、電池中において電解液にさらされることで、被覆部が溶出し電池性能の低下を招く恐れがある。特に高温環境下や高電位下では、溶出や反応性が増すことでその影響が顕著になる。一方、リチウム炭酸塩や酸化リチウム等の無機化合物等でリチウム金属を被覆したものは、その保護層の性質から、均一な塗布には工夫が必要である。塗布方法によっては上記リチウム粉末の負極へのドープムラが起こりやすく、安定した十分な電池特性が十分に得られていないことがある。上記課題に鑑み、本発明では優れた電池性能を維持しつつ、負極へのドープムラを改善することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、電池特性とドープムラを改善した電極を作製させるべく鋭意検討を重ねた結果、リチウム粒子の表面に被膜を有する安定化リチウム粒子と、イオン液体が構成可能なアニオンとのリチウム塩との複合粉末を用いることにより達成できることを見出した。本発明を用いることにより、面内のプレドープムラが改善し高い電池特性を得ることができることを見出した。
【0015】
前記イオン液体が構成可能なアニオンとのリチウム塩は、高いイオン導電性を有する。そのリチウム塩が、安定化リチウム粒子と混合されることにより、電極面に一度に大量の安定化リチウム粒子が塗布されても、リチウム塩のイオン導電性の拡散促進効果により速やかに電極へのリチウムのドープが生じ、ドープ効率が非常に高い。またドープ時のリチウム金属の失活を防ぎ、面内のドープムラが改善し高い電池特性を得ることが同時に可能となる。
【0016】
前記リチウム塩は安定化リチウム複合粉末の全体の重量に対して0.5重量%以上5重量%以下であることが好ましい。かかる複合粉末により作製された負極を用いることで、面内のドープムラが改善し高い電池特性を得ることができる。
【0017】
また、イオン液体が構成可能なアニオンの種類としては、マイナス35〜プラス100℃の範囲に融点をもち、イオン導電性を有し、一般に不揮発であるイオン液体が構成可能であるアニオンであればその種類は問わないが、、臭素アニオン(Br
−)、四フッ化ホウ素アニオン(BF
4−)、六フッ化リンアニオン(PF
6−)、ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオン(FSI
−)、ビス(パーフルオロエチルスルホニル)イミドアニオン(C
2F
5SO
2)
2N
−、トリフルオロスルホニルアニオン(CF
3SO
3−)、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオン(N(SO
2CF
3)
2−、TFSI
−)、トリス(パーフルオロアルキル)トリフルオロホスフェートアニオン、エチルスルファートアニオンの群から選ばれる少なくとも1種のアニオンとのリチウム塩であることが好ましい。
【0018】
さらに前記リチウム塩は、フッ素を含有していることが好ましい。
【0019】
上記安定化リチウム複合粉末を用いリチウムのドーピングが施された負極であれば、面内のドープムラが改善し高い電池特性を得ることができる。
【0020】
また、上記安定化リチウム複合粉末を用いリチウムのドーピングが施された負極と、正極と、電解質と、を有するリチウムイオン二次電池においては、十分なドーピング効果により優れた電池特性を持った電池を提供できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の安定化リチウム複合粉末、それを用いた負極およびリチウムイオン二次電池によれば、負極へのドープムラを改善できると共に、それを用いた負極及びリチウムイオン二次電池によれば高い電池特性を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本実施形態の安定化リチウム複合粉末の模式断面図である。
【
図2】本実施形態のリチウムイオン二次電池の模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明について本発明の好適な実施形態について説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0024】
(安定化リチウム複合粉末)
安定化リチウム複合粉末は
図1に示す粒子により構成される。この粉末は、安定化リチウム粒子1とイオン液体が構成可能なアニオンとのリチウム塩2から構成され、
図1に示すような2次粒子を構成している。
また、複合させる安定化リチウム粒子も平均粒径が1〜200μmであることが好ましい。
なお、測定方法としては、不活性ガスまたは炭化水素油中等の不活性雰囲気下での光学顕微鏡、電子顕微鏡、粒度分布計等により安定した測定が可能である。
【0025】
イオン液体が構成可能なアニオンの種類としては、マイナス35〜プラス100℃の範囲に融点をもち、イオン導電性を有し、一般に不揮発であるイオン液体が構成可能であるアニオンであればその種類は問わないが、臭素アニオン(Br
−)、四フッ化ホウ素アニオン(BF
4−)、六フッ化リンアニオン(PF
6−)、ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオン(FSI
−)、ビス(パーフルオロエチルスルホニル)イミドアニオン(C
2F
5SO
2)
2N
−、トリフルオロスルホニルアニオン(CF
3SO
3−)、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオン(N(SO
2CF
3)
2−、TFSI
−)、トリス(パーフルオロアルキル)トリフルオロホスフェートアニオン、エチルスルファートアニオンが挙げられ、特にビス(パーフルオロエチルスルホニル)イミドアニオン(C
2F
5SO
2)
2N
−、トリフルオロスルホニルアニオン(CF
3SO
3−)、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオン(N(SO
2CF
3)
2−、TFSI
−)、トリス(パーフルオロアルキル)トリフルオロホスフェートアニオン、エチルスルファートアニオンのような有機系アニオンが好ましい。このようなアニオンからなるリチウム塩は耐熱安定性や水分安定性が高いものも多く、電池効率およびプレドープの安定性上好ましい。
この安定化リチウム複合粉末によれば、取り扱い性に優れ、露点マイナス40℃程度のドライルームで取り扱うことが可能である。
【0026】
前記安定化リチウム複合粉末中の安定化リチウム粒子の安定化層は、リチウム粉末が被覆されている量があれば問題はないが、安定化リチウム複合粉末全体の重量に対し0.5重量%以上10重量%以下であることが好ましい。より好ましくは、1.0重量%以上8.5重量%以下、より好ましくは1.0重量%以上5.0重量%以下である。この範囲において、負極作製時に過度の発熱による負極の損失を減らせ、負極面内のドープムラが改善し、高い電池特性を得ることができる電極の作製が可能となる。
【0027】
前記安定化リチウム複合粉末中のリチウム粉末の安定化層は、単一成分でなくてもよい。またリチウム粒子上に積層されていても、点在していても良い。
【0028】
本実施形態の複合粉末を作製する際の安定化リチウム粒子の安定化層は電池の使用に支障のない安定化層であればよく、有機物、無機物、固体、液体であることは特に限定されない。
【0029】
前記安定化リチウム複合粉末中の安定化リチウム粒子の安定化層は電池特性に影響が出ない範囲であれば、層厚に制限はない。また、層の厚みが一定である必要もなく、形状も様々な状態で使用可能である。
【0030】
なお、リチウム粒子の表面に被膜を有する安定化リチウム粒子と、イオン液体が構成可能なアニオンとのリチウム塩との複合粉末の組成に関しては固体LiNMRでの定量や、X線光電子分光分析やX線回折等を利用して粉末に存在する化合物の同定や定量化することが可能である。
【0031】
さらに上記複合粉末を用い負極にリチウムドーピングを施した負極であれば、面内のプレドープムラが改善することが可能となる。さらにこの電極は、優れた電池特性を生じる電極を提供することが可能となる。
【0032】
(リチウム粒子の表面に被膜を有する安定化リチウム粒子と、イオン液体が構成可能なアニオンとのリチウム塩との複合粉末の製造方法)
本実施形態の安定化リチウム粒子は、リチウム金属を炭化水素油中でその融点以上の温度まで加熱し、溶融リチウムを高速撹拌することでなるリチウム分散液に安定化層を形成するための、たとえば高純度炭酸ガスのような各種反応化剤と反応させて安定化リチウム粒子が作製される。これをさらに市販、合成品等のイオン液体が構成可能なアニオンとのリチウム塩を加えて、乾式または湿式の混合器において十分に均一混合化させることで、リチウム粒子の表面に被膜を有する安定化リチウム粒子と、イオン液体が構成可能なアニオンとのリチウム塩との複合粉末を製造することができる。
【0033】
本発明の複合粉末中の安定化リチウム粒子を作製するために必要な炭化水素油は、多様な炭化水素油を使用することができる。本明細書中で使用される炭化水素油とは、主に炭化水素混合物からなる種々の油性液体を含み、鉱油、即ち油と認識される粘度制限を有する鉱物起源の液体産物を含み、従って、石油、ケツ岩油、パラフィン油等を含むが、これらに限定はされない。典型的な炭化水素油は、例えば、三光化学工業社製の流動パラフィン、Sタイプ、工業用タイプ、MORESCO社の商品名:モレスコホワイトP−40、P−55、P−60、P−70、P−80、P−100、P−120、P−150、P−200、P−260、P−350Pや、カネダ社製のハイコールMシリーズ(ハイコールM−52、ハイコールM−72、ハイコールM−172、ハイコールM−352、Kシリーズ(ハイコールK−140N、ハイコールK−160、ハイコールK−230、ハイコールK−290、ハイコールK−350、およびハイコールE−7 のような炭化水素油である。これらに限らずリチウム又はナトリウム金属の融点以上で沸騰する精製炭化水素溶媒であれば使用できる。
【0034】
上記炭化水素油は、リチウムインゴットを1重量部としたとき、溶融後の均一分散性の観点から1〜50重量部であることが好ましく、2〜30重量部であることがより好ましい。
【0035】
本発明の複合粉末中の安定化リチウム粒子を作製するために必要な温度は、リチウム金属が溶融する温度以上であることが好ましい。具体的には、190℃〜250℃、好ましくは195℃〜240℃、より好ましくは200℃〜220℃である。低すぎるとリチウムが固体化しリチウムの粉末の製造が困難となり、温度が高すぎると炭化水素油の種類によっては気化が起こり、製造上扱いにくくなるためである。
【0036】
本発明の複合粉末中の安定化リチウム粒子を作製するために必要な撹拌能力は、その容器サイズや処理量にもよるが、所望の粒径が得られる撹拌方法であれば、撹拌装置を限定する必要はなく、様々な撹拌、分散機での微粒子化が可能である。
【0037】
図2に本実施形態のリチウムイオン二次電池の模式断面図を示す。上記の通り作製した安定化リチウム粒子を負極集電体22に形成した負極活物質層24上に塗布することでリチウムを負極にドーピングできる。
【0038】
このようにしてドーピングした負極20と、正極10と、電解質を含浸させたセパレータ18とを
図2のように作製することでリチウムイオン二次電池100を作製することができる。
ここで、正極10は、正極集電体12上に正極活物質層14を形成することで作製することができる。
なお、図面中60と62は、それぞれ正極と負極の引出し電極を示す。
【実施例】
【0039】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0040】
[実施例1]
市販されているリチウム金属10gを乾燥アルゴンの雰囲気下中、室温で、ステンレススチール製フラスコ反応器に装入した。反応器をオイルバスにより熱制御が可能になるように設置した。反応器内に市販されている流動パラフィンハイコールK−290(カネダ社製)50gを添加した。次に、ホットスターラーを用いて反応器を約200℃まで加熱し、攪拌機を用いて目視において金属が溶融したのを確認した。次いで、攪拌機を用いて激しく撹拌することでリチウム金属が微粒子化し、その状態で高純度の炭酸ガスを100ml/minの流速で約2分間添加した。加熱を止め混合物が約45℃に冷却するまで撹拌を続けた。次いで、分散液をビーカーに移した。更に、そのリチウム分散液をヘキサンで3度濾過洗浄し、炭化水素油媒体を除去した。ろ物をオーブンで乾燥させ、微量の溶媒を除去し、生じた自由流動性の粉末を貯蔵瓶に移して安定化リチウム粒子全体に対し1.0重量%炭酸リチウムの安定化層を有する安定化リチウム粒子を作製した。この安定化リチウム粒子にリチウム塩を有する粒子種として市販されているビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウムを安定化リチウムの重量に対して0.5重量%添加し、ペイントシェーカーを用いて充分に混合させて、安定化リチウム複合粉末を得た。
【0041】
<負極の作製>
負極活物質(酸化シリコン)50質量部、導電助剤としてアセチレンブラック1質量部、バインダとしてポリアミドイミド10質量部、及び溶剤としてN−メチルピロリドン39質量部を混合し、活物質層形成用のスラリーを調製した。このスラリーを、集電体として厚さ14μmの銅箔の一面に塗布した後、上記複合粉末を安定化リチウム粒子を加えた負極活物質の塗布量が2.0mg/cm
2となるようにジエチルカルボナート(DEC)の1質量部安定化リチウム分散液を塗布し、100℃で乾燥することで負極活物質層を形成した。その後、ローラープレスにより集電体上に形成した負極活物質層を加圧成形し、真空中、350℃で3時間熱処理することで、活物質層の厚さが22μmである負極を得た。
【0042】
<評価用リチウムイオン二次電池の作製>
上記で作製した負極と、正極として銅箔にリチウム金属箔を貼り付けた対極とを、それらの間にポリエチレン微多孔膜からなるセパレータを挟んでアルミラミネートパックに入れ、このアルミラミネートパックに、電解液として1MのLiPF
6溶液(溶媒:EC/DEC=3/7(体積比))を注入した後、真空シールし、評価用のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0043】
<初期充放電効率の測定>
実施例及び比較例で作製した評価用リチウムイオン二次電池について、室温において二次電池充放電試験装置(北斗電工株式会社製)を用い、電圧範囲を0.005Vから2.5Vまでとし、1C=1600mA/hとして0.05Cでの電流値で充放電を行った。これにより、初期充電容量、初期放電容量及び初期効率を求めた。なお、初期効率(%)は、初期充電容量に対する初期放電容量の割合(100×初期放電容量/初期充電容量)である。この初期効率が高いほど、不可逆容量が低減されており、優れたドーピング効率が得られていることを意味する。表1に記載された初期放電効率比は、比較例2の初期放電効率を100%としたときの実施例1の結果となり、比較例1,2に比べて良好な結果であることが判明した。
【0044】
[実施例2]
実施例1のビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウムを安定化リチウム粒子の重量に対して1.0重量%添加した以外は同様の方法を用いて実施例2に記載される初期放電効率比を求め、比較例に比べて良好であることがわかった。
【0045】
[実施例3]
実施例1のビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウムを安定化リチウム粒子の重量に対して3.0重量%添加した以外は同様の方法を用いて実施例3に記載される初期放電効率比を求め、比較例に比べて良好であることがわかった。
【0046】
[実施例4]
実施例1のビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウムを安定化リチウム粒子の重量に対して5.0重量%添加した以外は同様の方法を用いて実施例4に記載される初期放電効率比を求め、比較例に比べて良好であることがわかった。
【0047】
[実施例5]
実施例3のビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウムに変えて文献記載の方法で合成した(Canadian Journal of Chemistry,1994,vol.72,9p.1933-1960)リチウムジメチルホスフェートをリチウム塩として用いた以外は実施例3と同様の方法で初期放電効率比を求め、比較例に比べて良好であることがわかった。
【0048】
[実施例6]
実施例3のビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウムに変えて表1の実施例6に記載するリチウム塩として用いた以外は実施例3と同様の方法で初期放電効率比を求め、比較例に比べて良好であることがわかった。
【0049】
[実施例7]
実施例3のビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウムに変えて表1の実施例7に記載するリチウム塩として用いた以外は実施例3と同様の方法で初期放電効率比を求め、比較例に比べて良好であることがわかった。
【0050】
[実施例8]
実施例3のビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウムに変えて表1の実施例8に記載するリチウム塩として用いた以外は実施例3と同様の方法で初期放電効率比を求め、比較例に比べて良好であることがわかった。
【0051】
[実施例9]
実施例3のビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウムに変えて表1の実施例9に記載するリチウム塩として用いた以外は実施例3と同様の方法で初期放電効率比を求め、比較例に比べて良好であることがわかった。
【0052】
[実施例10]
実施例3のビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウムに変えて表1の実施例10に記載するリチウム塩として用いた以外は実施例3と同様の方法で初期放電効率比を求め、比較例に比べて良好であることがわかった。
【0053】
[実施例11]
実施例3のビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウムに変えて表1の実施例11に記載するリチウム塩として用いた以外は実施例3と同様の方法で初期放電効率比を求め、比較例に比べて良好であることがわかった。
【0054】
[実施例12]
実施例3のビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウムに変えて表1の実施例12に記載するリチウム塩として用いた以外は実施例3と同様の方法で初期放電効率比を求め、比較例に比べて良好であることがわかった。
【0055】
[比較例1]
複合粉末を用いずに安定化リチウム粒子のみを用いた以外は実施例3と同様の方法で、表1に記載した初期放電効率比を求め、実施例に比べて劣る結果が得られた。これは被膜がプレドープ時に障壁となりリチウムの負極との反応を妨げられたことで、放電容量の低下や面内のプレドープのバラつきが起こったためと考えられる。
【0056】
[比較例2]
複合粉末を用いずにビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウムのみを用いた以外は実施例3と同様の方法で、表1に記載した初期放電効率比を求めた結果、実施例に比べて劣る結果が得られた。安定化リチウム粒子がないことでプレドープが行われないために初期放電容量が低い結果となり、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウムのみでは効果がないことが判明した。
【表1】
【符号の説明】
【0057】
1…安定化リチウム粒子、2…リチウム塩、10…正極、12…正極集電体、14…正極活物質層、18…セパレータ、20…負極、22…負極集電体、24…負極活物質層、30…積層体、50…外装体、62…正極リード、60…負極リード、100…リチウムイオン二次電池