特許第6384280号(P6384280)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6384280
(24)【登録日】2018年8月17日
(45)【発行日】2018年9月5日
(54)【発明の名称】フィルム形成装置
(51)【国際特許分類】
   B29C 41/28 20060101AFI20180827BHJP
   B29C 47/14 20060101ALI20180827BHJP
   B29C 41/36 20060101ALI20180827BHJP
   B29C 41/44 20060101ALI20180827BHJP
   B29L 7/00 20060101ALN20180827BHJP
【FI】
   B29C41/28
   B29C47/14
   B29C41/36
   B29C41/44
   B29L7:00
【請求項の数】4
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-233513(P2014-233513)
(22)【出願日】2014年11月18日
(65)【公開番号】特開2016-97504(P2016-97504A)
(43)【公開日】2016年5月30日
【審査請求日】2017年9月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高 明天
(72)【発明者】
【氏名】尾藤 慎也
(72)【発明者】
【氏名】檜垣 章夫
(72)【発明者】
【氏名】小松 信之
【審査官】 ▲高▼橋 理絵
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2008/129726(WO,A1)
【文献】 特開2002−086474(JP,A)
【文献】 特開2002−292658(JP,A)
【文献】 特開2009−029024(JP,A)
【文献】 特開平10−146842(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/056664(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 41/00−41/52
B29C 47/00−47/96
B29C 33/00−33/76
B29C 39/00−39/44
B29C 43/00−43/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製エンドレスベルト上にポリマー溶液を塗布され、当該塗布されたポリマー溶液からフィルムが形成され、及び当該形成されたフィルムが前記金属製エンドレスベルトから剥離されるフィルム形成装置であって、
前記金属製エンドレスベルトの表面に、コーティング層が設けられることで、前記金属製エンドレスベルトの表面張力は、30N/m以下とされ、
前記コーティング層における膜厚の最大値と平均値との差は、1μm以下であるフィルム形成装置。
【請求項2】
金属製エンドレスベルト上にポリマー溶液を塗布され、当該塗布されたポリマー溶液からフィルムが形成され、及び当該形成されたフィルムが前記金属製エンドレスベルトから剥離されるフィルム形成装置であって、
前記金属製エンドレスベルトの表面に、コーティング層が設けられることで、前記金属製エンドレスベルトの表面張力は、30N/m以下とされ、
前記コーティング層の表面の平均粗さは、0.1μm以下であるフィルム形成装置。
【請求項3】
前記ポリマー溶液を水平方向に吐出することで、前記ポリマー溶液を前記金属製エンドレスベルト上に塗布するスロットダイをさらに備える請求項1又は2に記載のフィルム形成装置。
【請求項4】
前記金属製エンドレスベルト上に塗布された前記ポリマー溶液を乾燥させる乾燥装置をさらに備え、
前記乾燥装置による乾燥で、前記ポリマー溶液は凝固して前記フィルムとなり、当該フィルムが前記金属製エンドレスベルトから剥離される請求項1乃至のいずれかに記載のフィルム形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属製エンドレスベルトを用いて、薄膜フィルムを形成するフィルム形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、平滑性に優れたフィルムを形成するために、金属製の鏡面エンドレスベルトが使用されている。例えば、特許文献1には、ステンレス製の鏡面エンドレスベルト上に樹脂溶液を塗布して、当該樹脂溶液が凝固したフィルムを鏡面エンドレスベルトから剥離することで、厚さが50μmのフィルムを得る技術が開示されている。
【0003】
また近年では、位相差フィルムやコンデンサフィルム等として使用する樹脂フィルムを薄くすることが求められている。これを背景として、金属製エンドレスベルトに塗布する材料を選定することで、金属製エンドレスベルト上で薄膜フィルムを形成する技術や、フィルム形成に使用可能な樹脂製エンドレスベルトの離型性・非粘着性を高める技術が提案されている。
【0004】
例えば、特許文献2には、タンタル等からなる金属製エンドレスベルトの上に、芳香族ポリアミド樹脂またはポリイミド樹脂を塗布して凝固させることで、厚さが6μm以下の薄膜フィルムを形成する技術が開示されている。
【0005】
また、特許文献3には、非粘着性に優れる樹脂製エンドレスベルトを製造する技術が開示されている。特許文献3の樹脂性エンドレスベルトは、複層シートを用いて製造されるものであり、複層シートは、フッ素樹脂と耐熱性繊維織布からなる複合材層と、非粘着性に優れるポリイミド樹脂からなる表面層とから構成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−231140号公報
【特許文献2】特開平09−220726号公報
【特許文献3】特開2011−68133号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載されるような従来の金属製鏡面エンドレスベルトでは、フィルムとベルト基材との密着性が高いことから、鏡面エンドレスベルトから樹脂フィルムを円滑に剥離させることができなかった。このため、弾性率が700kg/mm以下の樹脂では、厚さが40μm以下、特に厚さ20μm以下のフィルムを製造することができなかった。
【0008】
また、特許文献3に開示される樹脂製エンドレスベルトは、抗張力の小さな樹脂から製造されるため、金属製エンドレスベルトに比べて、張力が付与された際に切断しやすい。また、この問題を回避すべく、樹脂製エンドレスベルトを厚くする場合には、当該エンドレスベルトの曲げ半径を大きくする必要がある。このため、装置の大型化を招き、設備コストが増大する。また、樹脂製エンドレスベルトを用いてフィルムを形成する場合には、樹脂製エンドレスベルトに生じている段差から、フィルムが平滑なものとならず、フィルムの品質面に問題が生じることがあった。
【0009】
また、特許文献2では、金属製エンドレスベルトから薄膜フィルムを剥離するために、薄膜フィルムは、700kg/mm以上の弾性率を有してなければならない。このため、特許文献2では、金属製エンドレスベルト上に塗布する樹脂が、芳香族ポリアミド樹脂やポリイミド樹脂に限定されている。したがって、特許文献2では、薄膜であり、且つ、弾性率の低いフィルムを得ることはできない。
【0010】
本発明は、金属製エンドレスベルト上にポリマー溶液を塗布され、当該塗布されたポリマー溶液からフィルムが形成され、及び当該形成されたフィルムが前記金属製エンドレスベルトから剥離されるフィルム形成装置であって、厚さが40μm以下、特には厚さが20μm以下であり、引っ張り弾性率が600kg/mm以下、特には300kg/mmである薄膜フィルムを得ることの可能なフィルム形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意検討の結果、一般に濡れ性の指標とされる金属製エンドレスベルトの表面張力が、フィルムの離型性を示す指標になることの知見を得たことで、金属製エンドレスベルトの表面張力を低く抑えれば、従来の金属製エンドレスベルトからの剥離が困難であった弾性率が低く膜厚が薄いフィルムであっても形成できることを見いだし、前記課題を解決可能な本発明に至った。
【0012】
本発明は、次の態様を含む。
[項1]
金属製エンドレスベルト上にポリマー溶液を塗布され、当該塗布されたポリマー溶液からフィルムが形成され、及び当該形成されたフィルムが前記金属製エンドレスベルトから剥離されるフィルム形成装置であって、
前記金属製エンドレスベルトの表面張力は、30N/m以下であるフィルム形成装置。
[項2]
前記金属製エンドレスベルトの表面に、コーティング層が設けられることで、前記金属製エンドレスベルトの表面張力は、30N/m以下とされる項1に記載のフィルム形成装置。
[項3]
前記金属製エンドレスベルトの表面には、2層の前記コーティング層が設けられ、
前記2層のコーティング層は、下層が接着層からなり、上層が前記離型層からなり、
前記接着層は、前記金属製エンドレスベルトの表面に、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリフェニレンサルファイド、或いは、ポリエーテルエーテルケトンが塗布されることで形成され、
前記離型層は、前記接着層の表面に、フッ素樹脂ディスパージョンが塗布されることで形成される項2に記載のフィルム形成装置。
[項4]
前記金属製エンドレスベルトの表面には、離型層としての1層の前記コーティング層が設けられ、
前記1層のコーティング層は、前記金属製エンドレスベルトの表面に、シリコーン樹脂、フッ素ポリエーテル樹脂、フッ素アルキル樹脂、フッ素樹脂含有ポリアミド樹脂、或いはフッ素樹脂含有ポリアミドイミド樹脂が塗布されたものである項2に記載のフィルム形成装置。
[項5]
前記コーティング層における膜厚の最大値と平均値との差は、1μm以下であることを特徴とする項2乃至4のいずれかに記載のフィルム形成装置。
[項6]
前記コーティング層の表面の平均粗さは、0.1μm以下であることを特徴とする項2乃至5のいずれかに記載のフィルム形成装置。
[項7]
前記ポリマー溶液を水平方向に吐出することで、前記ポリマー溶液を前記金属製エンドレスベルト上に塗布するスロットダイをさらに備える項1乃至6のいずれかに記載のフィルム形成装置。
[項8]
前記スロットダイと前記金属製エンドレスベルトとの間の間隔は、1mm以下であり、
前記スロットダイが前記ポリマー溶液を吐出する圧力は、100kPa以下であり、
前記金属製エンドレスベルトは、0.5m/min以上の周速で回転する項7に記載のフィルム形成装置。
[項9]
前記ポリマー溶液は、含フッ素ポリマー及び溶媒を含有する溶液である項8に記載のフィルム形成装置。
[項10]
前記金属製エンドレスベルト上に塗布された前記ポリマー溶液を乾燥させる乾燥装置をさらに備え、
前記乾燥装置による乾燥で、前記ポリマー溶液は凝固して前記フィルムとなり、当該フィルムが前記金属製エンドレスベルトから剥離される項1乃至9のいずれかに記載のフィルム形成装置。
[項11]
フィルム形成に使用される金属製エンドレスベルトのコーティング方法であって、
前記金属エンドレスベルトの表面に、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリフェニレンサルファイド、或いはポリエーテルエーテルケトンを塗布することで、接着層をコーティングする工程と、
前記接着層を研磨する工程と、
前記接着層の表面に、フッ素樹脂ディスパージョンを塗布することで、30N/m以下の表面張力を有する離型層をコーティングする工程と、
前記接着層と前記離型層とからなる2層のコーティング層を研磨することで、当該コーティング層における膜厚の最大値と平均値との差を1μm以下とする工程と、
前記コーティング層の表面を研磨して、前記コーティング層の表面の平均粗さを0.1μm以下とする工程とを有する金属製エンドレスベルトのコーティング方法。
[項12]
フィルム形成に使用される金属製エンドレスベルトのコーティング方法であって、
前記金属エンドレスベルトの表面に、シリコーン樹脂、フッ素ポリエーテル樹脂、フッ素アルキル樹脂、フッ素樹脂含有ポリアミド樹脂、或いはフッ素樹脂含有ポリアミドイミド樹脂を塗布することで、表面張力が30N/m以下の離型層となる1層のコーティング層を設ける工程と、
前記1層のコーティング層を研磨することで、当該コーティング層における膜厚の最大値と平均値との差を1μm以下とする工程と、
前記コーティング層の表面を研磨して、前記コーティング層の表面の平均粗さを0.1μm以下とする工程とを有する金属製エンドレスベルトのコーティング方法。
[項13]
項11又は12の方法でコーティングされた前記金属製エンドレスベルトを用いて得られるフィルムであって、
前記金属製エンドレスベルト上に塗布されたポリマー溶液の凝固によるフィルム形成、及び当該形成されたフィルムの前記金属製エンドレスベルトから剥離によって得られたものであり、
フッ素化ビニリデンを含有し、且つ、
膜厚が30μm以下であるフィルム。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、金属製エンドレスベルトの表面張力が30N/m以下とされるので、金属製エンドレスベルトの離型性が高められる。したがって、金属製エンドレスベルト上で、引っ張り弾性率が600kg/mmさらには300kg/mm以下と低く、厚さが40μm以下さらには20μm以下の薄膜のフィルムを形成する場合でも、当該フィルムを金属製エンドレスベルトから円滑に剥離することができる。これにより、上記のように引っ張り弾性率が低く薄膜のフィルムを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態に係るフィルム形成装置を示す概略側面図である。
図2】本発明の実施形態に係るフィルム形成装置が備える金属製エンドレスベルトの一部を示す断面図である。
図3図2に示す金属製エンドレスベルトのコーティング方法の工程を示すフローである。
図4図3の処理が実行される際の金属製エンドレスベルトの状態を示す概略側面図である。
図5】本発明の変形例に係る金属製エンドレスベルトの一部を示す断面図である。
図6図5に示す金属製エンドレスベルトのコーティング方法の工程を示すフローである。
図7図6の処理が実行される際の金属製エンドレスベルトの状態を示す概略側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照して説明する。図1は、本発明の実施形態に係るフィルム形成装置1を示す概略側面図である。図2は、本発明の実施形態に係るフィルム形成装置1が備える金属製エンドレスベルト2の一部を示す断面図である。
【0016】
本実施形態のフィルム形成装置1は、特にはフィルムコンデンサや、圧電フィルムや、セラミックコンデンサ用のグリーンシートや、光学フィルム(AR(反射防止)フィルム、偏向フィルム、遮光フィルム)等を成形するために使用される。フィルム形成装置1には金属製エンドレスベルト2が設けられており、この金属製エンドレスベルト2の上に、フィルムの材料であるポリマー溶液Aが塗布される。ポリマー溶液Aはポリマーと溶媒とを含有するものである。当該ポリマーはフィルムを形成するポリマーである。ポリマー溶液Aに含有されるこのようなポリマーとしては、例えば、フッ素化ビニリデン、フッ素化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン共重合体、及びテトラフルオロエチレン/ビニルエーテル共重合体等の含フッ素ポリマーや、芳香族ポリアミドや、ポリミイドや、ポリフェニレンサルファイド(Poly Phenylene Sulfide、PPS)や、ポリカーボネートが例示される。金属製エンドレスベルト2の上に塗布されたポリマー溶液Aは、乾燥されて凝固し、その結果、自己支持性のあるフィルムFが形成される。そして、当該形成されたフィルムFが金属製エンドレスベルト2から剥離されることで、フィルムFが得られる。本明細書中、ポリマー溶液は、フィルムを形成するポリマーを含有する溶液を意味する。本明細書中、ポリマー溶液は、樹脂溶液であることができる。当該樹脂溶液は、樹脂溶液が通常含有し得る添加剤を含有していてもよい。当該添加剤としては、例えば、界面活性剤、帯電防止剤、老化防止剤、UV吸収剤、ブロッキング防止剤、光拡散材などが例示される。当該ポリマー溶液が含有する溶媒は、当該ポリマーを完全に又は実質的に完全に溶解できるものであればよく、ポリマーの種類に応じて、技術常識により、適宜選択すればよい。例えば、ポリマーがフッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン共重合体である場合、NMP(Nメチルピロリドン)、DMF(ジメチルホルムアミド)のようなアミド系溶媒、MEK(メチルエチルケトン)、MIBK(メチルイソブチルケトン)、シクロヘキサノンのようなケトン系溶媒、PEGMEA(ポリエチレングリゴールメチルアセテート)、酢酸エチル、酢酸ブチル、γブチロラクトンのようなエステル系溶媒、炭酸ジエチル、炭酸ジメチルのようなカーボネート系溶媒、トルエン、キシレンのような芳香族系溶媒、イソプロピルアルコール、エタノールのようなアルコール系溶媒、テトラヒドロフラン、ジブチルエーテルのようなエーテル系溶媒、並びにそれらの2種以上の混合溶媒が例示される。
【0017】
以下、フィルム形成装置1が備える構成について詳細に説明する。なお以下では、金属製エンドレスベルト2を、エンドレスベルト2と適宜略す。
【0018】
図1に示すように、フィルム形成装置1は、上述のエンドレスベルト2と、スロットダイ3と、駆動ローラ4と、従動ローラ5と、乾燥装置6と、抜き取りローラ7と、変更ローラ8とを備える。
【0019】
エンドレスベルト2は、ステンレスや鉄から形成される。駆動ローラ4と従動ローラ5とは前後方向に離間して配置され、その間にエンドレスベルト2が張設される。エンドレスベルト2の張力は、駆動ローラ4と従動ローラ5との少なくとも一方によって制御される。エンドレスベルト2は、駆動ローラ4の回転により所定の速度で回転し、この回転によってポリマー溶液Aが搬送される。
【0020】
スロットダイ3は、駆動ローラ4の近傍におけるエンドレスベルト2の側方位置に配置される。スロットダイ3は、ポリマー溶液Aを水平方向に吐出することで、ポリマー溶液Aをエンドレスベルト2上に塗布するものであり、吐出圧力を調整可能である。
【0021】
乾燥装置6は、エンドレスベルト2の回転で駆動ローラ4と従動ローラ5との間の所定位置に搬送されたポリマー溶液Aを、乾燥する。乾燥装置6は、それぞれ1m〜2m程度の延長を有する乾燥炉が複数台つながった構造を有する。上記複数台の乾燥炉のうち、少なくとも1つの炉は最高温度350℃以上の乾燥炉であり、その他の炉は最高温度200℃以下の乾燥炉である。この乾燥装置6による乾燥で、ポリマー溶液Aに含有される溶剤の所定量が除去されて、ポリマー溶液Aは凝固してフィルムFとなる。
【0022】
抜き取りローラ7は、従動ローラ5の近傍におけるエンドレスベルト2の下方位置に配置される。この抜き取りローラ7は、エンドレスベルト2の表面と摺接する。エンドレスベルト2の回転で、抜き取りローラ7と相対する位置に搬送されたフィルムFは、抜き取りローラ7に沿って剥離される。変更ローラ8は、抜き取りローラ7の近傍に配置される。抜き取りローラ7に剥離されたフィルムFは、変更ローラ8を経て、次の工程に引取られる。なお、抜き取りローラ7や変更ローラ8の位置は、図1に示す位置に限定されず、フィルムFを剥離可能な任意の位置に設定され得る。
【0023】
上記のフィルム形成装置1では、厚さが40μ以下さらには20μm以下のフィルムFをエンドレスベルト2上で形成するために、スロットダイ3とエンドレスベルト2との間の間隔が1mm以下とされ、スロットダイ3の吐出圧力が100kPa以下とされ、エンドレスベルト2の回転速度(周速)が0.5m/min以上とされる。
【0024】
また、エンドレスベルト2上で形成されるフィルムFの引っ張り弾性率は、ポリマー溶液Aの種類に応じて異なる。エンドレスベルト2上に塗布するポリマー溶液Aが適宜選択されることで、引っ張り弾性率が600kg/mm以下のフィルムFや、引っ張り弾性率が600kg/mm以上のフィルムFを形成できる。例えば、ポリマー溶液Aが、フッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン/ビニルエーテル共重合体等の含フッ素ポリマーと溶媒を含有する溶液である場合には、引っ張り弾性率が200kg/mm以下であるが、厚さが40μm以下、さらには10μm以下の薄膜のフィルムFを形成できる。
【0025】
本実施形態では、引っ張り弾性率が600kg/mm以下であり、厚さが40μm以下の薄膜フィルムFをエンドレスベルト2から円滑に剥離すること等を目的として、エンドレスベルト2の表面に、樹脂からなる離型層を含有するコーティング層が設けられて、エンドレスベルト2の表面張力が、30N/m以下、好ましくは20N/m以上30N/m以下とされる。上記の離型層が形成されず、エンドレスベルト2の表面張力が30N/mよりも大きければ、引っ張り弾性率が600kg/mm以下であり、厚さが40μm以下の薄膜フィルムFを、エンドレスベルト2から剥離することが困難となる。
【0026】
上記の樹脂からなる離型層をエンドレスベルト2上に形成する方法としては大きく分けて、以下の(1),(2)の2種類がある。
(1)1層コーティングで離型層を形成する方法
(2)2層以上のコーティングで離型層を形成する方法
【0027】
離型層には耐久性が求められるが、この耐久性の観点から、(2)の2層以上のコーティングで離型層を形成する方法が好ましい。本実施形態では、(2)の方法で、離型層が形成される。以下、図2図4を参照して、本実施形態の離型層や、当該離型層を形成する方法について説明する。なお(1)の方法で離型層を形成する例については後述する。
【0028】
本実施形態では、図2に示すように、エンドレスベルト2の表面に2層のコーティング層10が設けられる。当該2層のコーティング層10は、上層が離型層12からなり、下層が接着層11からなる。
【0029】
接着層11は、エンドレスベルト2の表面に、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリイミド、エポキシ樹脂、ポリフェニレンサルファイド(Poly Phenylene Sulfide、PPS)、或いはポリエーテルエーテルケトン(polyetheretherketone、PEEK)が塗布されることで形成される。この接着層11は、金属との密着性が高いものである。使用時における離形層12の変形を防ぐために、接着層11は、軟化温度またはガラス点移転温度が、少なくとも100℃以上、好ましくは150℃以上、さらに好ましくは200℃以上のものとされる。
【0030】
離型層12は、接着層11の表面にコーティングされるものであり、30N/m以下の表面張力を有する。離型層12は、任意の方法で形成され得るが、以下の(A),(B),(C)のいずれかの方法で形成されることが好ましい。
(A)離型剤としてのフッ素樹脂ディスパージョンを接着層11の表面に塗布することで、離型層12を形成する。
(B)離型剤としてのシリコーン樹脂を接着層11の表面に塗布することで、離型層12を形成する。
(C)離型剤としてのフッ素樹脂フィルム或いはシリコーン樹脂フィルムを接着層11の表面に接着させることで、離型層12を形成する。
【0031】
上記の(A),(B),(C)の方法で離型層12を形成する場合には、エンドレスベルト2の表面張力を30N/m以下にできるので、エンドレスベルト2の離型性を高めて、抜き取りローラ7でフィルムFを円滑に剥離することができる。また、金属との密着性が高い接着層11が離型層12の下方に形成されることで、離型層12は、金属製のエンドレスベルト2から剥がれにくく、耐摩耗性や耐久性に優れたものとなる。
【0032】
なお(A)の方法では、フッ素樹脂ディスパージョンとして、ポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoroethylene PTFE)、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体(fluorinated ethylene propylene FEP)、テトラフルオロエチレン/エチレン共重合体(ethylene tetrafluoroethylene ETFE)のいずれかを含有するディスパージョンを使用することが好ましく、とりわけ、テトラフルオロエチレン/エチレン共重合体(ETFE)ないしはテトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)を含有するディスパージョンを使用することが好ましい。
【0033】
また、(B)の方法では、離形層12となるシリコーン樹脂を塗布することで、エンドレスベルト2の表面張力を下げることができる。また、(B)の方法では、離形層12を接着層11から剥がれにくくするため、接着層11と離形層12とを化学結合させることが好ましい。この観点から、接着層11をポリアミド、ポリアミドイミド、或いはポリイミドから形成する場合には、離型層12を、アミン官能基を含有するシリコーン樹脂から形成することが好ましく、接着層11をエポキシ樹脂から形成する場合には、離型層12を、エポキシ官能基を含有するシリコーン樹脂から形成することが好ましい。なお上述の場合には、離型層12を形成するシリコーン樹脂は、単体であってもよいし、接着層11の成分と混合したものであってもよい。さらに上述の場合には、接着層11が完全に硬化しないときに接着層11の表面に離型層12を形成し、この後、接着層11を硬化させて接着層11と離型層12との間に化学結合を生じさせるようにしてもよい。
【0034】
(C)の方法では、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoroethylene PTFE)シート、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体(fluorinated ethylene propylene FEP)フィルム、テトラフルオロエチレン/エチレン共重合体(ethylene tetrafluoroethylene ETFE)フィルムなどのフッ素フィルムや、シリコーン樹脂フィルムを、接着層11の表面に接着させることで、離形層12が形成される。この場合、フッ素フィルムやシリコーン樹脂フィルムを加熱及び加圧することで、フッ素フィルムやシリコーン樹脂フィルムを接着層11の表面に接着させることが好ましい。
【0035】
上記の接着層11と離型層12からなる2層のコーティング層10は、研磨剤による研磨によって、膜厚の最大値と平均値との差が1μm以下とされる。また、より目の細かい研磨剤による研磨によって、コーティング層10の表面の平均粗さ(Ra)は、0.1μm以下とされる。この平均粗さ(Ra)を0.1μm以下とする方法として、コーティング層10の表面をロールでプレスする方法(以下、ロールプレス)を適用することが好ましい。このロールプレスは、室温下或いは加熱下で実行可能である。なお、コーティング層10の表面を平滑にするためには、加熱下でロールプレスを行うことが好ましい。また、平均粗さ(Ra)の小さな板、シート、或いはフィルムを、ロールと離形層12との間に設置して、ロールプレスを行なってもよく、或いは、ロールを直接コーティング層10(離型層12)に接触させて、ロールプレスを行ってもよい。なお、ロールを直接コーティング層10(離型層12)に接触させる場合には、ロールの表面の粗さが、コーティング層10の表面(離型層の表面)に転写されやすい。このため、ロールの表面の平均粗さ(Ra)を可能な限り小さくすることがよく、好ましくは、ロールの表面の平均粗さ(Ra)は、1μm以下とされる。
【0036】
図3は、図2に示すエンドレスベルト2のコーティング方法の工程を示すフローである。図4は、図3の処理が実行される際のエンドレスベルト2の状態を示す概略側面図である。以下、図3及び図4を参照して、エンドレスベルト2にコーティング層10を形成する方法について説明する。
【0037】
まず、図4(a)に示すように、エンドレスベルト2の表面に、接着層11を、1μm以上100μm以下の厚さでコーティングする(図3のステップS1、図4(a))。図4(a)の例では、接着層11をエンドレスベルト2の全周にコーティングした結果、コーティング始端11aとコーティング終端11bとが重なっている。
【0038】
ついで、研磨剤で接着層11を研磨する(図3のステップS2、図4(b))。図4(a)に示すように、コーティング始端11aとコーティング終端11bとの重なりで段差が生じていた場合には、この段差を研磨する。
【0039】
ついで、図4(c)に示すように、接着層11の表面に、30N/m以下の表面張力を有する離型層12を、1μm以上50μm以下の厚さで、コーティングする(図3のステップS3、図4(c))。このコーティングは、例えば、接着層11の表面に、フッ素樹脂のディスパージョンを塗布して焼成することで行なわれる。このステップS3によって、接着層11と離型層12からなる2層のコーティング層10が形成される。
【0040】
ついで、研磨剤でコーティング層10を研磨することで、コーティング層10の膜厚の最大値と平均値との差を1μm以下とする(図3のステップS4、図4(d))。図4(c)に示すように、離型層12のコーティング始端12aとコーティング終端12bとの重なりで段差が生じていた場合には、この段差を研磨する。
【0041】
ついで、より目の細かい研磨剤で、コーティング層10の表面(離型層12の表面)を研磨して、コーティング層10の表面の平均粗さ(Ra)を0.1μm以下とする(図3のステップS5)。以上で、エンドレスベルト2へのコーティングが完了する。
【0042】
なお、図2図4では、接着層11や離型層12を1層ずつ形成することで、コーティング層10の層数が2層となる例を示したが、接着層11或いは離型層12を複数層形成することで、コーティング層10の層数が2層よりも多くされてもよい。
【0043】
本実施形態によれば、エンドレスベルト2の表面に、離型層12を含有するコーティング層10が設けられて、エンドレスベルト2の表面張力が30N/m以下とされるので、エンドレスベルト2の離型性が高められる。したがって、エンドレスベルト2上で、引っ張り弾性率が600kg/mmさらには300kg/mm以下と低く、厚さが40μm以下さらには20μm以下の薄膜のフィルムFを形成する場合でも、当該フィルムFをエンドレスベルト2から円滑に剥離することができる。これにより、上記のように引っ張り弾性率が低く薄膜のフィルムFを得ることができる。
【0044】
また、スロットダイ3とエンドレスベルト2との間の間隔が1mm以下とされ、スロットダイ3の吐出圧力が100kPa以下とされ、エンドレスベルト2の回転速度(周速)が0.5m/min以上とされることで、厚さが40μm以下、更には20μm以下のフィルムFを形成することができる。さらに、ポリマー溶液Aが、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデンーヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレンービニルエーテル共重合体等の含フッ素ポリマーと溶媒とを含有する溶液であることで、厚さが10μm以下であり、且つ、引っ張り弾性率が300kg/mm以下である薄膜フィルムFを形成することができる。
【0045】
また、コーティング層10の膜厚の最大値と平均値との差が1μm以下であることで、段差の小さなフィルムFを形成できる。また、コーティング層10の表面の平均粗さ(Ra)が0.1μm以下であることで、表面平均粗さ(Ra)が0.1μm以下と小さく、平滑性に優れたフィルムFを形成できる。
【0046】
本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。
【0047】
例えば、上記実施形態では、フィルム剥離前に乾燥を行なってポリマー溶液Aを凝固させる乾式法の例を示したが、湿式法によってポリマー溶液Aを凝固させてもよい。この場合には、エンドレスベルト2上のポリマー溶液Aが凝固液に導かれることで、ポリマー溶液Aが凝固してフィルムFとなり、当該フィルムFが剥離される。この湿式法によれば、溶媒がリッチな状態でフィルムFが剥離されるので、フィルムFをより円滑に剥離できる利点がある。なお湿式法では、剥離後のフィルムFを熱処理装置で乾燥させる必要があり、この際に、フィルムFが変形しないよう、フィルムFに加える熱を微調整する必要がある。一方、乾式法によれば、フィルム剥離時に既にフィルムFは乾燥されているので、湿式法のように剥離後の乾燥手間を要しない。そのため特に乾式法が好ましい。
【0048】
また、上記実施形態では、スロットダイ3が水平方向にポリマー溶液Aを吐出する例を示したが、エンドレスベルト2の上方にスロットダイを配置して、スロットダイが鉛直下方に吐出したポリマー溶液Aを、エンドレスベルト2上に落下させてもよい。また、CEDダイを用いて、エンドレスベルト2の下方からポリマー溶液Aを吐出する方式でも好ましい。
【0049】
なお、上記実施形態のように、水平方向にポリマー溶液Aを吐出するスロットダイ3を使用することで、フィルムFの膜厚精度を高めることができる。つまり、スロットダイが鉛直下方にポリマー溶液Aを吐出する場合には、ポリマー溶液Aの自重により、エンドレスベルト2に向かうポリマー溶液Aの速度(鉛直方向の速度)が加速される。したがって、エンドレスベルト2へのポリマー溶液Aの塗布量を調整するために、ポリマー溶液Aの自重を考慮して、スロットダイの吐出圧力を制御する必要がある。これに対して、上記実施形態のように、スロットダイ3がポリマー溶液Aを水平方向に吐出する場合には、ポリマー溶液Aの自重によって、エンドレスベルト2に向かうポリマー溶液Aの速度(水平方向の速度)が加速されない。このため、スロットダイ3の吐出圧力を制御することで、ポリマー溶液Aの塗布量を、容易且つ確実に調整できる。したがって、フィルムFの膜厚精度を高めることができる。
【0050】
また、上記の(1)に示したように、1層コーティングで離型層が形成されてもよい。以下、(1)の方法で、離型層を形成する例について図面を参照して説明する。
【0051】
図5は、本発明の変形例に係る金属製エンドレスベルトの一部を示す断面図である。図5に示す変形例では、エンドレスベルト2の表面に、1層コーティングで、30N/m以下の表面張力を有する離型層20が形成されている。この離型層20のコーティングによって、エンドレスベルト2の離型性が高められて、抜き取りローラ7(図1)でのフィルムFの剥離が円滑となる。
【0052】
離型層20は、シリコーン樹脂、フッ素ポリエーテル樹脂、フッ素アルキル樹脂、フッ素樹脂含有ポリアミド樹脂、或いはフッ素樹脂含有ポリアミドイミド樹脂など、1コート離型剤として市販されているものを、エンドレスベルト2の表面に塗布することで形成される。なお、離型層20には金属に対する密着性が求められるが、この密着性の観点から、末端官能基含有シリコーン樹脂、末端官能基含有フッ素ポリエーテル樹脂、末端官能基含有フッ素アルキル樹脂、フッ素樹脂含有ポリアミド樹脂、フッ素樹脂含有ポリアミドイミド樹脂を用いて、離型層20を形成することが好ましい。また、金属との密着性のよいエポキシ樹脂、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミドと、末端に当該樹脂と化学結合できる官能基をもったシリコーン樹脂とのブレンドを塗布してもよい。
【0053】
上記の離型層20となる1層のコーティングは、研磨剤による研磨によって、膜厚の最大値と平均値との差が1μm以下とされる。また、より目の細かい研磨剤による研磨によって、コーティング(離型層20)の表面の平均粗さ(Ra)は、0.1μm以下とされる。また、離形層、接着層のレベリング(段差修正)性をよくして塗布することにより、研磨をしなくても膜厚調整ができる場合は研磨をしなくてもよい。
【0054】
図6は、図5に示すエンドレスベルト2のコーティング方法の工程を示すフローである。図7は、図6の処理が実行される際のエンドレスベルト2の状態を示す概略側面図である。以下、図6及び図7を参照して、図5に示すエンドレスベルト2のコーティング方法について説明する。
【0055】
まず、エンドレスベルト2の表面に、1層コーティングで、表面張力が30N/m以下の離型層20を形成する(図6のステップS1、図7(a))。
【0056】
ついで、コーティング層(離型層20)を研磨剤で研磨することで、コーティング層(離型層20)の膜厚の最大値と平均値との差を1μm以下とする(図6のステップS2、図7(b))。図7(a)に示すように、離型層20のコーティング始端20aとコーティング終端20bとの重なりで段差が生じていた場合には、この段差を研磨する。
【0057】
ついで、より目の細かい研磨剤で、コーティング層(離型層20)の表面を研磨して、コーティング層の表面の平均粗さ(Ra)を0.1μm以下とする(図6のステップS3)。以上で、エンドレスベルト2へのコーティングが完了する。
【0058】
上記の変形例においても、エンドレスベルト2の表面に、表面張力が30N/m以下の離型層20が形成されるので、エンドレスベルト2の離型性が高められる。これにより、エンドレスベルト2上で、引っ張り弾性率が600kg/mmさらには300kg/mm以下と低く、厚さが40μm以下、更には20μm以下の薄膜のフィルムFを形成する場合でも、当該フィルムFをエンドレスベルト2から円滑に剥離することができる。このため、上記のように引っ張り弾性率が低く薄膜のフィルムFを得ることができる。
【0059】
また、本発明では、エンドレスベルト2の表面にポリイミド樹脂層を塗工し、当該ポリイミド樹脂層の上にフッ素系フィルムが溶着されてもよい。このようにしても、エンドレスベルト2の表面張力を、30N/m以下にすることができる。
【0060】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。但し、本発明は実施例に限定されない。
【0061】
実施例1
本発明の実施例1として、本発明のフィルム形成装置1を用いて、フィルムFを成形した。このフィルム形成装置1は、図3のフローに従って、エンドレスベルト2の表面に、2層のコーティング層10を形成したものである。ステップS1では、ステンレス製のエンドレスベルト2に、接着層11をコーティングした。ステップS2では、接着層11のコーティング継ぎ目等を研磨した。ステップS3では、接着層11の表面に、FEPディスパージョンを塗布して、350℃の加熱で30分間焼成することで離型層12を形成して、エンドレスベルトの表面張力を21N/mとした。ステップS4では、離型層12のコーティング継ぎ目等を研磨することで、接着層11と離型層12からなるコーティング層10の膜厚の最大値と平均値との差を1μm以下とした。ステップS5では、コーティング層10の表面を研磨することで、コーティング層10の表面の平均粗さ(Ra)を0.1μm以下とした。
【0062】
そして、スロットダイ3からフッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン共重合体溶液(溶媒: PEGMEA/MEK=5/95(重量比))をエンドレスベルト2上に塗布して、当該ポリマー溶液を乾燥装置6で乾燥させることで、厚さが40μm、20μm、10μm、4μm、2μm、1μmのフィルムFを成形した。これらのフィルムFは、いずれも、引っ張り弾性率が300kg/mm以下であり、エンドレスベルト2から円滑に剥離することができた。また、この剥離時にフィルムFに伸びは生じなかった。
【0063】
実施例2
本発明の実施例2として、表面張力が25N/mであるエンドレスベルトを用いて、フィルムFを成形した。実施例2で用いたエンドレスベルトは、接着層11の表面にETFEディスパージョンを塗布することで離型層を形成したものである。このエンドレスベルトを用いて、実施例1と同様にして、フッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン共重合体溶液(溶媒: NMP/MEK=1/9(重量比))をエンドレスベルト上に塗布し、及び乾燥する手法(以下、この手法を「実施例1と同様の成形手法」と適宜記す)により、厚さが40μm、20μm、10μm、4μm、2μm、1μmであるフィルムFを成形した。これらのフィルムFは、いずれも、引っ張り弾性率が300kg/mm以下であり、エンドレスベルト2から円滑に剥離することができた。
【0064】
実施例3
本発明の実施例3として、表面張力が21N/mであるエンドレスベルトを用いて、フィルムFを成形した。実施例3で用いたエンドレスベルトは、接着層となるポリイミド前駆体溶液(溶媒: NMP/MEK=3/7(重量比))を塗布して、150℃の加熱で乾燥した後、離型層となるアミン変性シリコーンを塗布して、250℃で30分間加熱して閉環させたものである。また、ポリイミド前駆体溶液やアミン変性シリコーンの塗布後にレベリングを行なっており、その結果、接着層や離型層には段差が生じなかった。このエンドレスベルトを用いて、実施例1と同様の成形手法により、厚さが40μm、20μm、10μm、4μm、2μm、1μmのフィルムFを成形した。これらのフィルムFは、いずれも、引っ張り弾性率が300kg/mm以下であり、エンドレスベルト2から円滑に剥離することができた。
【0065】
実施例4
本発明の実施例4として、表面張力が28N/mであるエンドレスベルトを用いて、フィルムFを成形した。実施例4で用いたエンドレスベルトは、ポリイミド前駆体とアミン変性シリコーン樹脂を混合した溶液(溶媒: 酢酸ブチル/MEK=3/7(重量比) メラニン架橋微粒子0.1wt%含有)を塗布して、150℃の加熱で乾燥させた後、250℃で30分間加熱して閉環させたものである。このエンドレスベルトを用いて、実施例1と同様の成形手法により、厚さが、40μm、20μm、10μm、4μm、2μm、1μmのフィルムFを成形した。これらのフィルムFは、いずれも、引っ張り弾性率が300kg/mm以下であり、エンドレスベルト2から円滑に剥離することができた。
【0066】
実施例5
本発明の実施例5として、表面張力が27N/mであるエンドレスベルトを用いて、フィルムFを成形した。実施例5で用いたエンドレスベルトは、エポキシ樹脂前駆体とエポキシ変性シリコーン樹脂を混合した溶液(溶媒: γブチロラクトン/THF=1/9(重量比) ポリエチレングリゴール0.2wt%含有)を塗布した後、当該溶液を、150℃で60分間加熱することで、乾燥及び硬化させたものである。このエンドレスベルトを用いて、実施例1と同様の成形手法により、厚さが40μm、20μm、10μm、4μm、2μm、1μmのフィルムFを成形した。これらのフィルムFは、いずれも、引っ張り弾性率が300kg/mm以下であり、エンドレスベルト2から円滑に剥離することができた。
【0067】
実施例6
本発明の実施例6として、表面張力が27N/mであるエンドレスベルトを用いて、フィルムFを成形した。実施例6で用いたエンドレスベルトは、エポキシ樹脂前駆体を塗布して、150℃で3分間の加熱で乾燥させた後、エポキシ樹脂前駆体とエポキシ変性シリコーン樹脂を混合した溶液(溶媒: PEGMEA/THF=1/9(重量比))を塗布して、150℃で60分間加熱することで、乾燥及び硬化させたものである。このエンドレスベルトを用いて、実施例1と同様の成形手法により、厚さが40μm、20μm、10μm、4μm、2μm、1μmのフィルムFを成形した。これらのフィルムFは、いずれも、引っ張り弾性率が300kg/mm以下であり、エンドレスベルト2から円滑に剥離することができた。
【0068】
実施例7
本発明の実施例7として、表面張力が25N/mであるエンドレスベルトを用いて、フィルムFを成形した。実施例7で用いたエンドレスベルトは、実施例1と同様の方法で接着層を形成した後、厚さが25μmであるETFEフィルムを300℃のロールプレスで貼り合わせ、さらにこの後、フィルムの貼り合わせで生じた段差を研磨することで段差高さを0.1μm以下とし、表面の平均粗さ(Ra)を0.08μmとした。このエンドレスベルトを用いて、実施例1と同様の成形手法により、厚さが40μm、20μm、10μm、4μm、2μm、1μmのフィルムFを成形した。これらのフィルムFは、いずれも、引っ張り弾性率が300kg/mm以下であり、エンドレスベルト2から円滑に剥離することができた。
【0069】
実施例8
本発明の実施例8として、表面張力が25N/mであるエンドレスベルトを用いて、フィルムFを成形した。実施例8で用いたエンドレスベルトは、実施例2と同様の方法で接着層/離形層を形成した後、310℃でロールプレスすることで、表面の平均粗さ(Ra)を0.03μmとしたものである。このエンドレスベルトを用いて、実施例1と同様の成形手法により、厚さが40μm、20μm、10μm、4μm、2μm、1μmのフィルムFを成形した。これらのフィルムFは、いずれも、引っ張り弾性率が300kg/mm以下であり、エンドレスベルト2から円滑に剥離することができた。
【0070】
実施例9
本発明の実施例9として、表面張力が25N/mであるエンドレスベルトを用いて、フィルムFを成形した。実施例9で用いたエンドレスベルトは、実施例2と同様の方法で接着層/離形層を形成した後、
表面の平均粗さ(Ra)が0.1μmのポリイミドフィルムを離形層とプレスロールの間に挟んで、310℃でロールプレスすることで、ベルト表面の平均粗さ(Ra)を、0.04μmとしたものである。このエンドレスベルトを用いて、実施例1と同様の成形手法により、厚さが40μm、20μm、10μm、4μm、2μm、1μmのフィルムFを成形した。これらのフィルムFは、いずれも、引っ張り弾性率が300kg/mm以下であり、エンドレスベルト2から円滑に剥離することができた。
【0071】
比較例1
比較例1として、コーティングのないエンドレスベルトを用いて、引っ張り弾性率が300kg/mm以下であり、厚さが40μm以下のフィルムを成形した。この比較例1では、エンドレスベルトにコーティングを形成しないこと以外は、実施例1と同一の条件でフィルムを成形している。比較例1では、エンドレスベルトからフィルムを剥離することができなかった。
【0072】
比較例2
比較例2として、ステップS2,S4,S5の研磨を行なっていないエンドレスベルトを用いて、フィルムFを成形した。比較例2では、上記の研磨を行なわないこと以外は、実施例1と同様の方法で接着層や離形層を形成したものである。この比較例2では、フィルムFを形成する際に大きな厚薄差がみられ、均一な膜厚のフィルムFが形成できなかった。
【0073】
比較例3
比較例3として、表面の平均粗さ(Ra)が1.8μmであるエンドレスベルトを用いて、フィルムFを成形した。比較例3で使用したエンドレスベルトは、実施例1と同様にステップS1〜ステップS4が行われることで接着層や離型層が形成されているものの、ステップS5の研磨が行なわれていないことで、表面の平均粗さ(Ra)が1.8μmとなったものである。このエンドレスベルトを用いて、厚さが40μm、20μm、10μm以下のフィルムFを成形した。厚さが40μm、20μmのフィルムは、穴等が無い綺麗な状態で形成されて、エンドレスベルトから剥離することができた。しかしながら、厚さが10μm以下のフィルムは、塗布時に溶液のはじきが多数あったことで、乾燥後に多数穴が生じた。
【0074】
比較例4
比較例4として、表面の平均粗さ(Ra)が0.8μmであるエンドレスベルトを用いて、フィルムを成形した。比較例4で使用したエンドレスベルトは、実施例1と同様にステップS1〜S4が行われることで接着層や離型層が形成されているものの、ステップS5の研磨が行なわれていないことで、表面の平均粗さ(Ra)が0.8μmとなったものである。このエンドレスベルトを用いて、厚さが40μm、20μm、10μm、4μmのフィルムFを成形した。厚さが40μm、20μm、10μmのフィルムは、穴等が無い綺麗な状態で形成されて、エンドレスベルトから剥離することができた。しかしながら、厚さが4μmのフィルムは、塗布時に溶液のはじきが多数あったことで、乾燥後に多数穴が生じたものであった。
【0075】
比較例5
比較例5として、表面張力が38N/mであるエンドレスベルトを用いて、フィルムFを成形した。比較例5で使用したエンドレスベルトは、実施例3と同様に、接着層11となるポリイミド前駆体溶液(溶媒: NMP)を塗布して乾燥したものであるが、この後、実施例3とは異なり、離型層となるアミン変性シリコーンを塗布せずに、250℃で30分間加熱し閉環させた。そして、このエンドレスベルトを用いて、実施例1と同様の成形手法で、厚さが40μm、20μm、10μm、4μm、2μm、1μmのフィルムFを成形した。厚さが20μm以下のフィルムFは、エンドレスベルトから剥離できなかった。厚さが40μmのフィルムFは、エンドレスベルトから剥離できたが、剥離時にフィルムとベルト基材との密着によりフィルムに延びが生じた。
【0076】
比較例6
比較例6として、表面張力が33N/mであるエンドレスベルトを用いて、フィルムFを成形した。比較例6で使用したエンドレスベルトは、実施例4と同様に、ポリイミド前駆体とアミン変性シリコーン樹脂を混合した溶液(溶媒: NMP)を塗布して、150℃の加熱で乾燥させたものであるが、実施例4と比べて、溶液に含まれるアミン変性シリコーン樹脂の比率が低いものである。そして、このエンドレスベルトを用いて、実施例1と同様の成形手法で、厚さが40μm、20μm、10μm、4μm、2μm、1μmのフィルムFを成形した。厚さが40μmのフィルムFはエンドレスベルトから剥離できた。しかしながら、厚さが20μmのフィルムFは、剥離時に伸びが生じ、厚さが10μm以下のフィルムFは、エンドレスベルトから剥離できなかった。
【0077】
上述のように、エンドレスベルトの表面張力が30N/m以下である実施例1〜6では、引っ張り弾性率が300kg/mm以下であり、厚さが40μm〜1μmのフィルムFを円滑に剥離できた。また、剥離時にフィルムFに伸びは生じなかった。これに対し、エンドレスベルトにコーティングを形成しない比較例1では、エンドレスベルトからフィルムを剥離できなかった。また、エンドレスベルトの表面張力が30N/mよりも大きな比較例5,6では、厚さが20μm以下や10μmのフィルムFをエンドレスベルトから剥離できず、また、厚さが40μmや20μmのフィルムFでは、剥離時に伸びが生じた。以上によれば、エンドレスベルトの表面張力を30N/m以下とすることで、引っ張り弾性率が300kg/mm以下であり、厚さが40μm以下の薄膜フィルムを、伸びが生じることなく、エンドレスベルトから円滑に剥離できることが確認された。
【0078】
また、ステップS2,S4,S5の研磨を行なっていない比較例2では、均一な膜厚のフィルムFが形成できなかった。さらに、ステップS5の研磨を行なっていないため、エンドレスベルトの表面の平均粗さ(Ra)が0.1μmよりも大きな比較例3,4では、厚さが10μm以下や4μmのフィルムに穴が生じた。一方、ステップS2,S4,S5の研磨により、コーティング層10の表面の平均粗さ(Ra)を0.1μm以下とした実施例1では、膜厚が均一であり、穴のないフィルムFを得ることができた。以上のことから、コーティング層10の表面の平均粗さ(Ra)を0.1μm以下とすることで、品質に優れるフィルムFが得られることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明は、フィルムコンデンサや、圧電フィルムや、セラミックコンデンサ用グリーンシートを形成するために適用できる。
【符号の説明】
【0080】
1 フィルム形成装置
2 金属製エンドレスベルト
3 スロットダイ
6 乾燥装置
10 コーティング層
11 接着層
12、20 離型層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7