特許第6384305号(P6384305)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6384305コート層を有する樹脂材およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6384305
(24)【登録日】2018年8月17日
(45)【発行日】2018年9月5日
(54)【発明の名称】コート層を有する樹脂材およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 9/00 20060101AFI20180827BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20180827BHJP
   B05D 3/06 20060101ALI20180827BHJP
【FI】
   B32B9/00 A
   B05D7/24 301T
   B05D7/24 302A
   B05D3/06 102Z
【請求項の数】4
【全頁数】43
(21)【出願番号】特願2014-250810(P2014-250810)
(22)【出願日】2014年12月11日
(65)【公開番号】特開2016-112702(P2016-112702A)
(43)【公開日】2016年6月23日
【審査請求日】2017年3月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】特許業務法人 共立
(72)【発明者】
【氏名】三岡 哲也
(72)【発明者】
【氏名】村松 久司
【審査官】 増田 亮子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−169709(JP,A)
【文献】 特開2005−096312(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/151169(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/20−43/00
B05D 1/00−7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂製の基材上に有機金属化合物含有樹脂層が設けられた複合材を得る準備工程と、
前記有機金属化合物含有樹脂層に波長200nm以下の短波長紫外光を照射して、前記有機金属化合物含有樹脂層の表面に改質面を形成する改質工程と、
前記改質面上に金属酸化物からなるコート層を設けるコート層形成工程と、を備え
前記準備工程は、
樹脂製の基材上に、有機金属化合物またはその前駆体を含み紫外線硬化型の有機金属化合物含有樹脂組成物からなる前駆層を形成する工程と、
前記前駆層に波長200nmを超える中波長紫外光を照射して、前記基材上に前記有機金属化合物含有樹脂層が設けられた前記複合材を得る工程と、を備える、コート層を有する樹脂材の製造方法。
【請求項2】
前記有機金属化合物含有樹脂層は、有機ケイ素化合物、金属アルコキシド、およびこれらの誘導体から選ばれる少なくとも一種を含む、請求項1に記載のコート層を有する樹脂材の製造方法。
【請求項3】
樹脂製の基材上に有機金属化合物含有樹脂層が設けられた複合材を得る準備工程と、
前記有機金属化合物含有樹脂層に波長200nm以下の短波長紫外光を照射して、前記有機金属化合物含有樹脂層の表面に改質面を形成する改質工程と、
前記改質面上に金属酸化物からなるコート層を設けるコート層形成工程と、を備え、
前記有機金属化合物含有樹脂層は、以下の〔1〕〜〔6〕の何れかを含有する有機金属化合物含有樹脂組成物を原料とする、コート層を有する樹脂材の製造方法。
〔1〕:下記(1−A)成分、(1−B)成分および(1−C)成分の合計100質量部に対して、前記(1−A)成分を20〜80質量部、前記(1−B)成分を10〜70質量部、前記(1−C)成分を1〜35質量部含む組成物、
〔2〕:下記(1−A)成分、(2−B)成分および(1−C)成分の合計100質量部に対して、(1−A)成分を20〜80質量部、(2−B)成分を5〜50質量部、(1−C)成分を1〜35質量部含む組成物、
〔3〕:下記(3−A)成分および(3−B)成分の合計100質量部に対して、(3−A)成分を95〜65質量部、(3−B)成分を5〜35質量部含む組成物、
〔4〕:下記(1−A)成分、(1−B)成分および(3−B)成分の合計100質量部に対して、前記(1−A)成分を20〜80質量部、前記(1−B)成分を10〜70質量部、前記(3−B)成分を1〜35質量部含む組成物、
〔5〕:下記(1−A)成分、(2−B)成分および(3−B)成分の合計100質量部に対して、(1−A)成分を20〜80質量部、(2−B)成分を5〜50質量部、(3−B)成分を1〜35質量部含む組成物、
〔6〕:下記(3−A)成分および(1−C)成分の合計100質量部に対して、(3−A)成分を95〜65質量部、(1−C)成分を5〜35質量部含む組成物、
(1−A)成分:
下記一般式(1)で表されるイソシアヌル環含有ウレタン(メタ)アクリレート化合物
【化1】
・・・・・・(1)
(一般式(1)において、R、RおよびRはそれぞれ独立して炭素数2〜10の2価の有機基を表し、R、RおよびRはそれぞれ独立して水素原子またはメチル基を表す)
(1−B)成分:
下記一般式(2)で表されるウレタン結合を有しないイソシアヌル環含有トリ(メタ)アクリレート化合物
【化2】
・・・・・・(2)
(一般式(2)において、R、RおよびRはそれぞれ独立して炭素数2〜10の2価の有機基を表し、R10、R11およびR12はそれぞれ独立して水素原子またはメチル基を表し、n、nおよびnは、それぞれ独立して1〜3の数を表し、n+n+n=3〜9である)
(1−C)成分:
下記一般式(3)で表されるシラン化合物(1−c1)とコロイダルシリカ(1−c2)とを、(1−c1)と(1−c2)の質量比を9:1〜1:9で反応させた反応生成物の不揮発性成分であって、(1−c1)で(1−c2)を化学修飾したものを含む
【化3】
・・・・・・(3)
(一般式(3)において、R13は水素原子または1価の有機基を表し、R14は炭素数1〜6の二価の飽和炭化水素基を表し、zは0.1≦z≦3を満たす)
(2−B)成分:
下記一般式(2−0)で表されるジ(メタ)アクリレート化合物
CH=CR21CO−(OR23−A−(R24O)−COCR22=CH
・・・・・・(2−0)
(一般式(2−0)において、R21およびR22はそれぞれ独立して水素またはメチル基を表し、R23およびR24はそれぞれ独立して炭素数2〜10の2価の炭化水素基を表し、mおよびnはそれぞれ独立して0以上の数であり、Aは下記一般式(2−1)で表される)
【化4】
・・・・・・(2−1)
(一般式(2−1)において、R25およびR26はそれぞれ独立して水素、炭素数1〜6のアルキル基またはフェニル基を表し、Bは、CR2728、SO、C=CX、下記一般式(2−2)を表し、R27およびR28はそれぞれ独立して水素、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のX置換アルキル基、フェニル基であり、また、R27およびR28は互いに結合している炭素とともにアルキル置換され得る飽和炭化水素環を形成でき、Xはハロゲンを意味する)
【化5】
・・・・・・(2−2)
(一般式(2−2)において、R29、R30、R31およびR32はそれぞれ独立して水素または炭素数1〜6のアルキル基を表す)
(3−A)成分:
下記(3−a1)成分および(3−a2)成分から構成されるイソシアヌル環含有(メタ)アクリレート混合物。(3−a1)成分は下記一般式(3−1)で表される水酸基含有ジ(メタ)アクリレート化合物と、分子内に2個以上のイソシアネート基を有するイソシアネート化合物と、の付加反応で得られ、(3−a2)成分は下記一般式(3−2)で表されるトリ(メタ)アクリレート化合物である
【化6】
・・・・・・(3−1)
(一般式(3−1)において、R31、R32およびR33はそれぞれ独立して炭素数2〜10の2価の有機基を表し、R34およびR35はそれぞれ独立して水素原子またはメチル基を表し、n31、n32およびn33はそれぞれ独立して1〜3の数を表し、n31+n32+n33=3〜9である)
【化7】
・・・・・・(3−2)
(一般式(3−2)において、R36、R37およびR38はそれぞれ独立して炭素数2〜10の2価の有機基を表し、R39、R310およびR311はそれぞれ独立して水素原子またはメチル基を表し、n34、n35およびn36は、それぞれ独立して1〜3の数を表し、n34+n35+n36=3〜9である)
(3−B)成分:
互いに構造の異なる下記のケイ素化合物(3−b1)およびケイ素化合物(3−b2)を加水分解共重縮合させて得られる有機ケイ素化合物であり、ケイ素化合物(3−b1)は下記一般式(3−3)で表され、ケイ素化合物(3−b2)は下記一般式(3−4)で表される
【化8】
・・・・・・(3−3)
(一般式(3−3)において、R312は炭素数1〜6のアルキル基、炭素数7〜10のアラルキル基または炭素数6〜10のアリール基を有する有機基であり、R313は炭素数1〜6の2価の飽和炭化水素基であり、R314は水素原子またはメチル基であり、n37は0または1であり、Xはそれぞれ独立して加水分解性基を表す)
SiY・・・(3−4)
(一般式(3−4)において、Yはそれぞれ独立してシロキサン結合生成基である)。
【請求項4】
樹脂製の基材と、
前記基材上に設けられ、波長200nm以下の短波長紫外光が照射されることで得られた改質面を表面に有する有機金属化合物含有樹脂層と、
金属酸化物からなり前記改質面上に設けられているコート層と、を有し、
前記有機金属化合物含有樹脂層は、以下の〔1〕〜〔6〕の何れかを含有する有機金属化合物含有樹脂組成物を硬化させてなる、樹脂材。
〔1〕:下記(1−A)成分、(1−B)成分および(1−C)成分の合計100質量部に対して、前記(1−A)成分を20〜80質量部、前記(1−B)成分を10〜70質量部、前記(1−C)成分を1〜35質量部含む組成物、
〔2〕:下記(1−A)成分、(2−B)成分および(1−C)成分の合計100質量部に対して、(1−A)成分を20〜80質量部、(2−B)成分を5〜50質量部、(1−C)成分を1〜35質量部含む組成物、
〔3〕:下記(3−A)成分および(3−B)成分の合計100質量部に対して、(3−A)成分を95〜65質量部、(3−B)成分を5〜35質量部含む組成物、
〔4〕:下記(1−A)成分、(1−B)成分および(3−B)成分の合計100質量部に対して、前記(1−A)成分を20〜80質量部、前記(1−B)成分を10〜70質量部、前記(3−B)成分を1〜35質量部含む組成物、
〔5〕:下記(1−A)成分、(2−B)成分および(3−B)成分の合計100質量部に対して、(1−A)成分を20〜80質量部、(2−B)成分を5〜50質量部、(3−B)成分を1〜35質量部含む組成物、
〔6〕:下記(3−A)成分および(1−C)成分の合計100質量部に対して、(3−A)成分を95〜65質量部、(1−C)成分を5〜35質量部含む組成物、
(1−A)成分:
下記一般式(1)で表されるイソシアヌル環含有ウレタン(メタ)アクリレート化合物
【化9】
・・・・・・(1)
(一般式(1)において、R、RおよびRはそれぞれ独立して炭素数2〜10の2価の有機基を表し、R、RおよびRはそれぞれ独立して水素原子またはメチル基を表す)
(1−B)成分:
下記一般式(2)で表されるウレタン結合を有しないイソシアヌル環含有トリ(メタ)アクリレート化合物
【化10】
・・・・・・(2)
(一般式(2)において、R、RおよびRはそれぞれ独立して炭素数2〜10の2価の有機基を表し、R10、R11およびR12はそれぞれ独立して水素原子またはメチル基を表し、n、nおよびnは、それぞれ独立して1〜3の数を表し、n+n+n=3〜9である)
(1−C)成分:
下記一般式(3)で表されるシラン化合物(1−c1)とコロイダルシリカ(1−c2)とを、(1−c1)と(1−c2)の質量比を9:1〜1:9で反応させた反応生成物の不揮発性成分であって、(1−c1)で(1−c2)を化学修飾したものを含む
【化11】
・・・・・・(3)
(一般式(3)において、R13は水素原子または1価の有機基を表し、R14は炭素数1〜6の二価の飽和炭化水素基を表し、zは0.1≦z≦3を満たす)
(2−B)成分:
下記一般式(2−0)で表されるジ(メタ)アクリレート化合物
CH=CR21CO−(OR23−A−(R24O)−COCR22=CH
・・・・・・(2−0)
(一般式(2−0)において、R21およびR22はそれぞれ独立して水素またはメチル基を表し、R23およびR24はそれぞれ独立して炭素数2〜10の2価の炭化水素基を表し、mおよびnはそれぞれ独立して0以上の数であり、Aは下記一般式(2−1)で表される)
【化12】
・・・・・・(2−1)
(一般式(2−1)において、R25およびR26はそれぞれ独立して水素、炭素数1〜6のアルキル基またはフェニル基を表し、Bは、CR2728、SO、C=CX、下記一般式(2−2)を表し、R27およびR28はそれぞれ独立して水素、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のX置換アルキル基、フェニル基であり、また、R27およびR28は互いに結合している炭素とともにアルキル置換され得る飽和炭化水素環を形成でき、Xはハロゲンを意味する)
【化13】
・・・・・・(2−2)
(一般式(2−2)において、R29、R30、R31およびR32はそれぞれ独立して水素または炭素数1〜6のアルキル基を表す)
(3−A)成分:
下記(3−a1)成分および(3−a2)成分から構成されるイソシアヌル環含有(メタ)アクリレート混合物。(3−a1)成分は下記一般式(3−1)で表される水酸基含有ジ(メタ)アクリレート化合物と、分子内に2個以上のイソシアネート基を有するイソシアネート化合物と、の付加反応で得られ、(3−a2)成分は下記一般式(3−2)で表されるトリ(メタ)アクリレート化合物である
【化14】
・・・・・・(3−1)
(一般式(3−1)において、R31、R32およびR33はそれぞれ独立して炭素数2〜10の2価の有機基を表し、R34およびR35はそれぞれ独立して水素原子またはメチル基を表し、n31、n32およびn33はそれぞれ独立して1〜3の数を表し、n31+n32+n33=3〜9である)
【化15】
・・・・・・(3−2)
(一般式(3−2)において、R36、R37およびR38はそれぞれ独立して炭素数2〜10の2価の有機基を表し、R39、R310およびR311はそれぞれ独立して水素原子またはメチル基を表し、n34、n35およびn36は、それぞれ独立して1〜3の数を表し、n34+n35+n36=3〜9である)
(3−B)成分:
互いに構造の異なる下記のケイ素化合物(3−b1)およびケイ素化合物(3−b2)を加水分解共重縮合させて得られる有機ケイ素化合物であり、ケイ素化合物(3−b1)は下記一般式(3−3)で表され、ケイ素化合物(3−b2)は下記一般式(3−4)で表される
【化16】
・・・・・・(3−3)
(一般式(3−3)において、R312は炭素数1〜6のアルキル基、炭素数7〜10のアラルキル基または炭素数6〜10のアリール基を有する有機基であり、R313は炭素数1〜6の2価の飽和炭化水素基であり、R314は水素原子またはメチル基であり、n37は0または1であり、Xはそれぞれ独立して加水分解性基を表す)
SiY・・・(3−4)
(一般式(3−4)において、Yはそれぞれ独立してシロキサン結合生成基である)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂製の基材と金属酸化物からなるコート層とを有する、コート層を有する樹脂材、および、当該樹脂材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂材は一般的な無機ガラス材や金属材に比べて軽量であり、加工性や強度にも優れている。このため近年では、樹脂材の用途は多岐にわたり広がっている。
ところで、各種の用途に応じた樹脂材の各種特性を向上させるべく、樹脂製の基材の表面に金属製のコート層を設けてなる樹脂材が提案されている。例えば、特許文献1には、樹脂製の基材の表面にアルミニウム蒸着膜からなるコート層を設けた樹脂材が紹介されている。特許文献1には樹脂材の用途として自動車のウインドウガラス等が挙げられ、コート層により、可視光や赤外光の透過抑制、車外からの視認性抑制、断熱性向上、意匠性向上等、各種特性が向上する旨が説明されている。
【0003】
しかし樹脂製の基材と金属製のコート層とを有する従来の樹脂材においては、基材とコート層との密着性を充分に向上させるのは困難であった。
【0004】
例えば、基材およびコート層の両方に対する親和性に優れるプライマー層を基材とコート層との間に介在させれば、コート層と基材とがプライマー層を介して強固に接合する可能性がある。特許文献1においては、ポリカーボネート製の基材上にアクリル樹脂またはポリウレタン樹脂製のアンダーコート層を形成し、このアンダーコート層上に金属蒸着膜からなるコート層を形成している。しかし、一般に、このようなアンダーコート層では基材およびコート層に対する密着性が充分ではない。
【0005】
プライマー層は、基材を構成する樹脂と、コート層を構成する金属と、の両方に対して優れた親和性を有するのが良いと考えられる。例えば特許文献2には、金属部材上にポリオレフィンを含む樹脂部材を接合させるためのプライマー層として、ポリオレフィン等の樹脂成分を含むものを用いている。しかし、このような樹脂プライマーだけでは金属部材に対する親和性が充分でないために、特許文献2においては金属部材の表面に細かな凹凸を形成し、当該凹凸に樹脂プライマーを入り込ませて、アンカー効果により金属部材とプライマー層との密着性を確保している。つまり、特許文献2においては、金属部材とプライマー層とを機械的に一体化することで、金属部材−プライマー層−樹脂部材の密着性を補完している。
【0006】
このような技術は、厚肉の部材には適用できても、薄肉の部材には適用し難い。つまり、プライマー層の表面に凹凸を設け、その凹凸面上に金属製のコート層を形成する場合には、コート層の表面にも凹凸が浮かび上がり、意匠性に優れる樹脂部材が得られるとは言い難い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2013−226718号公報
【特許文献2】国際公開第2013/175693号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記した事情に鑑みてなされたものであり、基材上にコート層を密着性高く形成し得る新たな技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の発明者等は、鋭意研究の結果、樹脂製の基材と金属製のコート層との両方に優れた親和性を示すプライマー層として、金属に親和性を示す金属成分と、樹脂に親和性を示す有機成分との両方を含むものを用いることに想到した。そして、プライマー層のなかで、特に、コート層との界面に金属成分を多く配することで、プライマー層とコート層との密着性をさらに高め得ることに想到した。さらに、コート層を構成する金属として、金属単体ではなく金属酸化物を用いることで、プライマー層とコート層との密着性をさらに高め得ることに想到した。
【0010】
つまり、上記課題を解決する本発明のコート層を有する樹脂材の製造方法は、
樹脂製の基材上に有機金属化合物含有樹脂層が設けられた複合材を得る準備工程と、
前記有機金属化合物含有樹脂層に波長200nm以下の短波長紫外光を照射して、前記有機金属化合物含有樹脂層の表面に改質面を形成する改質工程と、
前記改質面上に金属酸化物からなるコート層を設けるコート層形成工程と、を備える。
【0011】
また、上記課題を解決する本発明のコート層を有する樹脂材は、
樹脂製の基材と、
前記基材上に設けられ、波長200nm以下の短波長紫外光が照射されることで得られた改質面を表面に有する有機金属化合物含有樹脂層と、
金属酸化物からなり前記改質面上に設けられているコート層と、を有する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、基材とコート層との密着性を向上させ得る。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、必要に応じて、本発明のコート層を有する樹脂材を単に「本発明の樹脂材」または「樹脂材」と略する場合がある。また、本発明のコート層を有する樹脂材の製造方法を単に「本発明の製造方法」と略する場合がある。
【0014】
本発明の樹脂材は、樹脂製の基材と、基材上に設けられている有機金属化合物含有樹脂層と、有機金属化合物含有樹脂層上に設けられているコート層と、を有する。コート層は金属酸化物からなり、有機金属化合物含有樹脂層のなかでコート層が設けられる表面は、波長200nm以下の短波長紫外光により改質された改質面である。改質面はコート層に接触する面である。
【0015】
上述したように、樹脂製の基材と金属製のコート層とを有する従来の樹脂材においては、基材とコート層との密着性を充分に向上させるのは困難であった。
【0016】
これに対して、本発明においてプライマー層として機能する有機金属化合物含有樹脂層は、その表面に、波長200nm以下の短波長紫外光照射により改質された改質面を有するものである。以下、必要に応じて、波長200nm以下の短波長紫外光を、単に、「短波長紫外光」と略する。
【0017】
有機金属化合物含有樹脂層の改質面は、短波長紫外光の照射を受けたものである。短波長紫外光は、有機鎖を切断して除去し得ることが知られている。例えば、特許文献2には、樹脂基板上にシリコーンポリマーからなるハードコート層を形成し、当該ハードコート層の表面に短波長紫外光を照射することで、露光部分を改質する技術が紹介されている。
【0018】
特許文献2の図2には、ハードコート層において改質されていない部分、ハードコート層において短波長紫外光により改質された部分、および熱酸化法により形成されたSiO、をFT−IR分析したスペクトル図が開示されている。以下、必要に応じて、「ハードコート層において改質されていない部分」を「非改質部」と呼び、「ハードコート層において短波長紫外光により改質された部分」、を「改質部」と呼ぶ。
当該スペクトル図によると、非改質部においては、有機鎖に由来するピーク、具体的には、Si−CHの変角振動を示す1270cm−1のピーク、CHの伸縮振動を示す2971cm−1のピーク、および、Si−C伸縮振動を示す765cm−1のピークが観察される。これに対して、改質部においては1270cm−1、2971cm−1、および、765cm−1の吸収が弱くなっている。つまりこのスペクトル図は、短波長紫外光を照射することにより、ハードコート層の被照射部から有機鎖が失われたことを明らかにしている。
【0019】
なお、当該スペクトル図によると、非改質部および改質部の両方に、Si−Oの伸縮振動を示す1200〜1000−1cmのピークが認められる。当該1200〜1000−1mのピークは、熱酸化法により形成されたSiOにおいても認められていることから、当該ピークがSi−Oの伸縮振動を示すピークであることが裏付けられている。また、改質部の吸収スペクトルは熱酸化法により形成されたSiOと略同じであることから、改質部においては有機鎖が失われ無機成分が残存することが裏付けられる。さらに当該スペクトル図から、有機鎖と金属とを有する有機金属化合物含有樹脂層、つまり、シリコーンポリマーからなるハードコート層に短波長紫外光を作用させることで、有機金属化合物含有樹脂層のなかで当該短波長紫外光が作用し改質された部分は、有機鎖を失って、金属元素または金属化合物が大部分を占めるようになるといえる。
【0020】
ところで、本発明の樹脂材における有機金属化合物含有樹脂層は、樹脂のマトリックス中に有機金属化合物が分散および/または結合されてなる。
有機金属化合物は有機鎖を有する金属化合物であり、短波長紫外光の照射を受けた部分は、有機鎖を失い、金属元素または金属化合物が大部分を占めるように改質される。このため、短波長紫外光の照射を受けた有機金属化合物含有樹脂層においては、短波長紫外光により改質された部分、つまり改質面の金属元素または金属化合物の含有率が高くなり、金属製のコート層に対する親和性が向上すると考えられる。
また、有機金属化合物含有樹脂層のなかで短波長紫外光の照射を受けていない部分、つまり、樹脂製の基材に接している部分は、有機鎖を失わないため、樹脂製の基材に対する親和性に優れる。
このように、プライマー層としての有機金属化合物含有樹脂層を、短波長紫外光による改質を受けていない部分と、短波長紫外光による改質を受けた改質面と、の実質的な二層構造にすることで、樹脂製の基材と金属製のコート層との両方に対する優れた密着性という、相反する二つの性質を有機金属化合物含有樹脂層に付与することができる。
【0021】
本発明の樹脂材においては、コート層を、金属単体ではなく金属酸化物で構成している。金属酸化物は、改質面に存在する金属元素または金属化合物とイオン結合、配位結合、共有結合等により結合したり、OH基により水素結合したりできるため、密着性の向上に寄与し得る。
【0022】
以下、本発明の樹脂材および本発明の製造方法を詳説する。なお、特に断らない限り、本明細書に記載された数値範囲「x〜y」は、下限xおよび上限yをその範囲に含む。そして、これらの上限値および下限値、ならびに実施形態中に列記した数値も含めてそれらを任意に組み合わせることで数値範囲を構成し得る。さらに数値範囲内から任意に選択した数値を上限、下限の数値とすることができる。
【0023】
<樹脂材の製造方法>
本発明の樹脂材の製造方法は、準備工程、改質工程およびコート層形成工程を有する。
【0024】
(準備工程)
準備工程は、樹脂製の基材上に有機金属化合物含有樹脂層が設けられた複合材を得る工程である。
【0025】
基材は樹脂製であれば良く、その形状や材料は特に問わない。例えば、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、エポキシ樹脂およびポリウレタン等を挙げることができる。特に、ポリカーボネートは十分な透明性と耐衝撃性を有するため、本発明の樹脂材を例えば窓ガラス等の車両用部材に適用する場合に好適である。
【0026】
有機金属化合物含有樹脂層は、有機金属化合物含有樹脂組成物を原料として得られた層である。有機金属化合物含有樹脂組成物は、有機金属化合物またはその前駆体を必須とし、必要に応じて樹脂成分を含む。以下、必要に応じて、「有機金属化合物含有樹脂層」を「プライマー層」と略し、「有機金属化合物含有樹脂組成物」を「プライマー組成物」と略する。
準備工程は樹脂製の基材上にプライマー組成物からなる前駆層を形成する工程と、当該前駆層に波長200nmを超える中波長紫外光を照射して、基材上にプライマー層が設けられた複合材を得る工程と、を含み得る。
【0027】
プライマー層とプライマー組成物とは、同じ有機金属化合物を含んでも良いが、そうでなくても良い。例えばプライマー層は、プライマー組成物に含まれる有機金属化合物前駆体が重合等により変化してなる有機金属化合物を含んでも良い。
有機金属化合物は、有機鎖と金属元素とを含む化合物であれば良く、モノマーであっても良いしポリマーであっても良い。好ましくは、プライマー組成物中においてはモノマー状の有機金属化合物前駆体であり、プライマー層中においてはポリマー状の有機金属化合物であるのが良い。この場合、有機金属化合物のみでプライマー層を構成することも可能である。
或いは、有機金属化合物以外の樹脂成分をバインダとして配合し、有機金属化合物はプライマー層において当該バインダ中に分散していても良い。
有機金属化合物およびその前駆体において、有機鎖の炭素数や金属元素の種類は特に限定されず、用途やコート層に用いる金属の種類、基材との親和性等に応じて適宜選択すれば良い。有機金属化合物以外のバインダを用いる場合、当該バインダの種類もまた同様に適宜選択すれば良い。プライマー組成物は、如何なる形態で硬化するものであっても良いが、後述する改質工程前に、プライマー組成物の硬化工程つまり前処理工程をおこなうのが好ましい。前処理工程については後述する。
【0028】
具体例を挙げると、有機金属化合物としては、シリコーンやシルセスキオキサン、ケイ素アルコキシド等の有機ケイ素化合物や、金属アルコキシドが例示される。金属アルコキシドに含有される金属元素としては、Ti、Mg、Ge、B、Li、Na、Fe、Ga、P、Sb、Sn、Ta、V、Zr等が例示される。有機ケイ素化合物としては、以下のものを用いるのが特に好ましい。
【0029】
以下に説明する有機ケイ素化合物は、厚さ方向に金属元素濃度の勾配のあるプライマー層を形成し得るものである。この現象について説明すると、プライマー組成物を樹脂製の基材上に塗布した際に、組成物中の有機部分は基材表面側に集まり、無機部分はその逆側に集まる。このような基材上のプライマー組成物を硬化させてプライマー層とする。このようなプライマー層の上面に短波長紫外光を照射すれば、照射を受けた面つまり改質面において有機部分が減少することで金属元素の濃度がさらに高まり、プライマー層とコート層との密着性がさらに高まると考えられる。また、基材とプライマー層との密着性もまた十分に確保されると考えられる。これらの事項は特開2002−275284号公報に開示されている。
以下、このように金属濃度勾配のあるプライマー層を構成し得る各種の有機系ケイ素について詳説する。なお、以下、必要に応じて、アクリロイル基またはメタクリロイル基を(メタ)アクリロイル基と表し、また、アクリレートまたはメタクリレートを(メタ)アクリレートと表す。
【0030】
(有機ケイ素化合物1)
有機ケイ素化合物1は、以下の(1−A)成分、(1−B)成分および(1−C)成分の合計100質量部に対して、該(1−A)成分を20〜80質量部、該(1−B)成分を10〜70質量部、該(1−C)成分を1〜35質量部含む組成物を硬化させたものである。以下、(1−A)、(1−B)および(1−C)を当該質量比で含むプライマー組成物を、必要に応じて「第1組成物」と呼ぶ。
まず、(1−A)成分について説明する。(1−A)成分は、下記一般式(1)で表されるイソシアヌル環含有ウレタン(メタ)アクリレート化合物である。
【0031】
【化1】
【0032】
一般式(1)において、R、RおよびRはそれぞれ独立して炭素数2〜10の2価の有機基を表す。炭素数2〜10の2価の有機基としては、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基およびテトラメチレン基等の炭素数2〜4のアルキレン基が好ましい。また、一般式(1)の化合物には、ε−カプロラクトン変性した化合物も含まれ、この場合、炭素数2〜10の2価の有機基は−COCHCHCHCHCH−又は−OCOCHCHCHCHCH−を含む。R、RおよびRがすべてテトラメチレン基であるものは、耐摩耗性と耐候性に特に優れたプライマー層が得られるため、特に好ましい。
一般式(1)において、R、RおよびRはそれぞれ独立して水素原子またはメチル基を表す。ここで、R、RおよびRが全て水素原子である化合物は、硬化性に優れる点で特に好ましい。
【0033】
(1−A)成分は、ヘキサメチレンジイソシアネートのヌレート型三量体と、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートまたはそのカプロラクトン変性物との付加反応により合成される。この付加反応は無触媒でも可能であるが、反応を効率的に進めるために、ジブチルスズジラウレート等の錫系触媒や、トリエチルアミン等のアミン系触媒等の触媒を用いるのがよい。
有機ケイ素化合物1における(1−A)成分の含有割合は、(1−A)成分、(1−B)成分、および(1−C)成分の合計100質量部に対して、20〜80質量部であり、より好ましくは30〜70質量部である。(1−A)成分の含有割合を20〜80質量部とすることで、耐摩耗性と耐候性に優れたプライマー層が得られる。
【0034】
次に、(1−B)成分について説明する。(1−B)成分は、下記一般式(2)で表されるウレタン結合を有しないイソシアヌル環含有トリ(メタ)アクリレート化合物である。
【0035】
【化2】
(一般式(2)において、R、RおよびRはそれぞれ独立して炭素数2〜10の2価の有機基を表し、R10、R11およびR12はそれぞれ独立して水素原子またはメチル基を表し、n、nおよびnは、それぞれ独立して1〜3の数を表し、n+n+n=3〜9である。)
【0036】
一般式(2)において、R、RおよびRはそれぞれ独立して炭素数2〜10の2価の有機基を表す。炭素数2〜10の2価の有機基としては、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基およびテトラメチレン基等の炭素数2〜4のアルキレン基が好ましい。また、一般式(2)には、ε−カプロラクトン変性した化合物も含まれ、この場合、炭素数2〜10の2価の有機基は−COCHCHCHCHCH−または−OCOCHCHCHCHCH−を含む。R、RおよびRが全てエチレン基であるものは、耐摩耗性と耐候性に特に優れたプライマー層が得られるため、特に好ましい。
【0037】
一般式(2)において、R10、R11およびR12はそれぞれ独立して水素原子またはメチル基を表す。ここで、R10、R11およびR12が全て水素原子である化合物は、硬化性に優れる点で特に好ましい。
一般式(2)において、n、nおよびnは、それぞれ独立して1〜3の数を表す。ただし、n+n+n=3〜9である。n、nおよびnとしては、1が好ましく、n+n+nとしては3が好ましい。
(1−B)成分は、好ましくはイソシアヌル酸のアルキレンオキサイド付加物と(メタ)アクリル酸を反応させて製造される。n1+n2+n3は、(1−B)成分1分子当たりのアルキレンオキサイドの平均付加モル数を表す。
【0038】
第1組成物における(1−B)成分の含有割合は、(1−A)成分、(1−B)成分、および(1−C)成分の合計100質量部に対して、10〜70質量部であり、より好ましくは20〜60質量部である。(1−B)成分の含有割合を10部以上とすることで樹脂製の基材とプライマー層との初期密着性を良好にすることができ、10〜70質量部とすることで、耐摩耗性と耐候性に優れたプライマー層が得られる。
【0039】
なお、第1組成物中の(1−B)成分の含有割合に応じて、プライマー層に含まれるSiの厚さ方向の分布が変化する。Siは第1組成物における金属元素である。プライマー層に含まれるSiは、主に後述の(1−C)成分に由来する。具体的には、同じ割合の(1−C)成分を含むプライマー層であれば、(1−B)成分の含有割合が多いほど、プライマー層表面で検出されるSiが増加する。
【0040】
プライマー層中のSi濃度は、プライマー層を表層から10nmごとにエッチングし、エッチングにより得られた新生面、つまり、エッチング面をXPS測定することで確認できる。これは、金属元素がSiである場合に限らず、他の金属元素を含むプライマー層についても同様に金属元素濃度を測定可能である。
【0041】
次に、(1−C)成分について説明する。(1−C)成分は、下記一般式(3)で表されるシラン化合物(1−c1)とコロイダルシリカ(1−c2)とを、(1−c1)と(1−c2)の質量比を9:1〜1:9で反応させた反応生成物の不揮発性成分であって、(1−c1)で(1−c2)を化学修飾したものを含む。
【0042】
【化3】
【0043】
なお、(1−C)成分の合成は、通常、溶媒中で行われるが、(1―C)成分は反応で使用した水および有機溶媒を除いた成分を意味する。また、(1−C)成分は、アルコキシシランが加水分解して生成するアルコールや、シラノールの縮合で生成する水を除いた成分である。すなわち、(1−C)成分は反応生成物中の不揮発性成分を意味する。
【0044】
一般式(3)において、R13は水素原子または1価の有機基を表す。R13の一価の有機基としては、具体的には、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシを有する炭素数1〜6のアルキル基、その他のC、H、O原子からなる炭素数1〜6の有機基が挙げられる。
反応性の点では、R13は水素原子または炭素数1〜6の酸素原子を有してもよい一価の有機基が好ましく、水素原子または炭素数1〜6のアルキル基がより好ましい。
【0045】
一般式(3)において、R14は、炭素数1〜6の二価の飽和炭化水素基を表す。R14は直鎖状でも、分岐を有していてもよい。直鎖状飽和炭化水素基としては、エチレン基、1,3−プロピレン基(トリメチレン基)、1,4−ブチレン基(テトラメチレン基)、1,5−ペンタンジイル基(ペンタメチレン基)、1,6−ヘキサンジイル基(ヘキサメチレン基)を例示できる。分岐状アルキレン基としては、1,2−プロピレン基、1,2−ブチレン基、1,3−ブチレン基、2,3−ブチレン基、1,3−ペンタンジイル基、2,4−ペンタンジイル基、2,5−ヘキサンジイル基、2−メチル−1,3−プロピレン基、2−エチル−1,3−プロピレン基、3−メチル−1,5−ペンタンジイル基を例示できる。
【0046】
14としては、炭素数3〜6の直鎖状二価の飽和炭化水素基が特に好ましい。R14としては、プライマー層が耐摩耗性や耐候性に優れたものとなる点で、炭素数1〜6の二価の飽和炭化水素基が好ましく、さらには炭素数3〜6の直鎖状の二価の飽和炭化水素基がより好ましい。
【0047】
一般式(3)において、zは0.1≦z≦3を満たす。zは、Si原子1モル当りの残存アルコキシ基の平均モル数を表す。(1−c1)は、zが3のときアルコキシシランモノマーを示し、zが3未満のときアルコキシシラン縮合物あるいはアルコキシシラン縮合物とアルコキシシランモノマーとの混合物を示す。なお、zの値は、(1−c1)のH−NMRスペクトルを測定し、水素原子の積分比から求めることができる。
zを0.1以上にすることで、コロイダルシリカが有効に表面修飾され、プライマー層が耐擦傷性に優れたものとなる。また、反応性の観点から、zは0.4≦z≦3を満たすのが好ましく、さらには0.8≦z≦3を満たすのがより好ましい。
(1−c1)が縮合物である場合、R13は、それぞれ異なる2種以上の化学構造であってよい。
なお、一般式(3)の3,4,5,6−テトラヒドロフタルイミド基は、紫外線を吸収すると、3,4,5,6−テトラヒドロフタルイミド基同士が反応し、二量化する場合がある。
一般式(3)の化合物の好ましい製造方法については、特許第5146790号の記載を参照されたい。
【0048】
(1−c2)はコロイダルシリカであり、種々のものが使用できるが、球状粒子が均一分散したものが好ましく、たとえばアルコール系溶媒に均一分散したものがより好ましい。
【0049】
(1−c2)の平均一次粒子径としては、1〜100nmが好ましく、5〜60nmであることがより好ましく、特に好ましくは5〜30nmである。(1−c2)の平均一次粒子径を1nm以上とすることで、耐摩耗性に優れるものすることができ、100nmより以下とすることで、コロイド溶液の分散安定性に優れるものとすることができる。なお、本発明において平均一次粒子径とは、BET法による比表面積から算出された値を意味する。また、(1−c2)の比表面積は、30〜3,000m2/gの範囲である。
【0050】
(1−C)成分の合成方法は、水を含む有機溶媒の存在下に、(1−c1)と(1−c2)とを、所定の質量比で仕込んだ後、加熱して反応させる方法が好ましい。加熱温度および時間は、触媒の有無等により異なるため一概に規定することはできないが、40〜140℃望ましくは60〜120℃で0.5〜20時間が望ましい。
(1−C)成分には、(1−c1)で表面修飾されたシリカ微粒子だけでなく、シリカ微粒子を含まない(1−c1)の加水分解縮合物や(1−c1)を製造する際の副生物が含まれていてもよく、それらを含めて(1−C)成分は定義される。
(1−C)成分を合成する際の(1−c1)と(1−c2)の仕込み質量比は1:9〜9:1であるが、より好ましくは2:8〜7:3、さらに好ましくは2:8〜6:4である。(1−c1)と(1−c2)の質量比を1:9〜9:1とすることで、プライマー層の耐摩耗性と耐候性を両立させることができる。
【0051】
(1−C)成分を合成する際の反応系に仕込む水の量は、アルコキシ基1モルに対し、0.3〜10モルであることが好ましく0.5〜5モルであることがさらに好ましい。水の仕込み量をアルコキシ基1モルに対して0.3〜10モルとすることで、シリカ微粒子をゲル化させることなく、シリカ微粒子の表面を効率よく表面修飾することができる。
【0052】
有機溶媒としては、水を均一に溶解するものが好ましく、より好ましくは沸点100℃〜200℃のアルコール系溶媒であり、さらに好ましくはエーテル結合を有する沸点100℃〜200℃のアルコール系溶媒である。好ましい有機溶媒の具体例としては、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテルおよびエチレングリコールモノブチルエーテル等が挙げられる。
【0053】
なお、(1−C)成分は、無触媒で製造することができるが、酸触媒やアルカリ触媒を加えてもよい。
【0054】
(1−c1)と(1−c2)の反応終了後、反応後の液に含まれる水を除去するとよい。反応後の液を加熱したり減圧したりして、水、さらには有機溶媒を留去するとよい。このとき、反応後の液に水よりも高沸点の有機溶媒を加えることが好ましい。
第1組成物における(1−C)成分の含有割合は、(1−A)成分、(1−B)成分、および(1−C)成分の合計100質量部に対して1〜35質量部であり、より好ましくは1〜30質量部、さらに好ましくは3〜25質量部、特に好ましくは5〜20質量部である。(1−C)成分の含有割合を1〜35質量部とすることで、プライマー層における有機鎖量と金属元素量とのバランスが良くなり、樹脂製の基材と金属酸化物製のコート層との両方に対する密着性に優れるプライマー層が得られる。
(1−C)成分の割合が1質量部以上であれば、プライマー層の金属元素量が多くなり、プライマー層表面の金属元素含有率が大きくなる。しかし、(1−C)成分が過多では、基材側の有機鎖量が少なくなり、基材とプライマー層との密着性が低下する場合がある。また、プライマー層が収縮しやすくなったり、プライマー層の有機部分の分解が速くなったりするため、プライマー層の耐候性が低下する場合もある。
【0055】
(1−A)成分、(1−B)成分および(1−C)成分を含む第1組成物を硬化させることで、プライマー層を形成できる。第1組成物の硬化時には、(1−A)成分、(1−B)成分等が重合反応を起こし高分子化する。第1組成物には、ラジカル重合開始剤、有機溶剤、重合禁止剤、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系光安定剤、酸化防止剤、不飽和化合物、有機ポリマー等の添加物を配合しても良い。
【0056】
ラジカル重合開始剤を用いることで、第1組成物を速やかに硬化させることができる。ラジカル重合開始剤としては、公知の光ラジカル重合開始剤及び熱ラジカル重合開始剤を採用すれば良い。ラジカル重合開始剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。第1組成物におけるラジカル重合開始剤の好ましい含有割合は、(A)成分、(B)成分、および(C)成分の合計100質量部に対して、0.1〜10質量部であり、より好ましくは0.5〜5質量部、特に好ましくは1〜3質量部である。
【0057】
光ラジカル重合開始剤の具体例としては、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシル−フェニル−ケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン、1−〔4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル〕−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、2−メチル−1−〔4−(メチルチオ)フェニル〕−2−モルフォリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタン−1−オン、ジエトキシアセトフェノン、オリゴ{2−ヒドロキシ−2−メチル−1−〔4−(1−メチルビニル)フェニル〕プロパノン}および2−ヒドロキシ−1−{4−〔4−(2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオニル)ベンジル〕フェニル}−2−メチル−プロパン−1−オン等のアセトフェノン系化合物;ベンゾフェノン、4−フェニルベンゾフェノン、2,4,6−トリメチルベンゾフェノンおよび4−ベンゾイル−4’−メチル−ジフェニルスルファイド等のベンゾフェノン系化合物;メチルベンゾイルフォルメート、オキシフェニル酢酸の2−(2−オキソ−2−フェニルアセトキシエトキシ)エチルエステルおよびオキシフェニル酢酸の2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチルエステル等のα−ケトエステル系化合物;2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキサイド等のフォスフィンオキサイド系化合物;ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテルおよびベンゾインイソブチルエーテル等のベンゾイン系化合物;チタノセン系化合物;1−〔4−(4−ベンゾイルフェニルスルファニル)フェニル〕−2−メチル−2−(4−メチルフェニルスルフィニル)プロパン−1−オン等のアセトフェノン/ベンゾフェノンハイブリッド系光開始剤;2−(O−ベンゾイルオキシム)−1−〔4−(フェニルチオ)〕−1,2−オクタンジオン等のオキシムエステル系光重合開始剤;並びにカンファーキノンが例示できる。
【0058】
熱ラジカル重合開始剤としては、有機過酸化物およびアゾ系化合物等が挙げられる。
有機過酸化物の具体例としては、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)2−メチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2−ビス(4,4−ジ−ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロドデカン、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシマレイン酸、t−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシラウレート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(m−トルオイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキシルモノカーボネート、t−ヘキシルパーオキシベンゾエート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシアセテート、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン、t−ブチルパーオキシベンゾエート、n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレレート、ジ−t−ブチルパーオキシイソフタレート、α、α‘−ビス(t−ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、p−メンタンハイドロパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、t−ブチルトリメチルシリルパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t−ヘキシルハイドロパーオキサイドおよびt−ブチルハイドロパーオキサイドを例示できる。
【0059】
アゾ系化合物の具体例としては、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2−(カルバモイルアゾ)イソブチロニトリル、2−フェニルアゾ−4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル、アゾジ−t−オクタンおよびアゾジ−t−ブタンを例示できる。
【0060】
以上列挙したラジカル重合開始剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。また、有機過酸化物は、還元剤と組み合わせることによりレドックス触媒とすることも可能である。
【0061】
有機溶剤を用いることで、第1組成物を均一に基材に塗布することができる。また、有機溶剤を含有する第1組成物を用いた場合には、プライマー層形成時に有機溶剤が離脱するのに併せて、(1−C)成分がプライマー組成物中を移動し(migration)、プライマー層の表面付近に集合し易くなる。有機溶剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0062】
有機溶剤の具体例としては、エタノールおよびイソプロパノール等のアルコール;エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル等のアルキレングリコールモノエーテル;トルエンおよびキシレン等の芳香族化合物;プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル;アセトン、メチルエチルケトンおよびメチルイソブチルケトン等のケトン;ジブチルエーテル等のエーテル;ジアセトンアルコール;並びにN−メチルピロリドン等が挙げられる。これらのうち、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のアルキレングリコールモノエーテルは、各種成分の分散性または溶解性に優れるだけでなく、第1組成物が塗布される基材がポリカーボネート樹脂製である場合に、ポリカーボネート樹脂を溶かさないため、特に好ましい。
【0063】
さらに、有機溶剤として、アルコールやアルキレングリコールモノエーテル等のポリカーボネート樹脂を溶かさない有機溶剤と、エステルやケトン等のポリカーボネート樹脂を溶かす有機溶剤を混合して用いると、塗工時にはポリカーボネート樹脂製基材は溶かさず、その後の加熱工程では基材表面をミクロンオーダーで溶解してプライマー層と基材との密着性を高める手法を適用できる。また、種々の沸点の有機溶剤を併用することで、プライマー層表面の平滑性を高める手法を適用できる。
【0064】
第1組成物における有機溶剤の含有割合は、(1−A)成分、(1−B)成分、および(1−C)成分の合計100質量部に対して、10〜1000質量部が好ましい。有機溶剤の配合量が少なすぎると第1組成物が均一に塗布し難く、多すぎると十分な厚さのプライマー層が得られにくい。したがって、有機溶剤は、塗工方法に応じて適宜選択すればよいが、敢えて規定するのであれば、生産性の観点から、好ましくは50〜500質量部、さらに好ましくは50〜300質量部である。
【0065】
第1組成物には、保存安定性を良好にする目的で、重合禁止剤を添加することが好ましい。重合禁止剤の具体例としては、ハイドロキノン、tert−ブチルハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、2,4,6−トリ−tert−ブチルフェノール、ベンゾキノン、フェノチアジン、N−ニトロソフェニルヒドロキシルアミン、N−ニトロソフェニルヒドロキシルアミンのアンモニウム塩、N−ニトロソフェニルヒドロキシルアミンのアルミニウム塩、ジブチルジチオカルバミン酸銅、塩化銅、硫酸銅を例示できる。
【0066】
第1組成物における重合禁止剤の添加量は、(1−A)成分、(1−B)成分、および(1−C)成分の合計100質量部に対して10〜10,000ppmとする事が好ましく、より好ましくは100〜3000ppmである。
【0067】
第1組成物には、本発明の樹脂材の紫外線による劣化を抑制する目的で、紫外線吸収剤を添加するのが好ましい。また、第1組成物に紫外線吸収剤を添加すれば、後述する改質工程における短波長紫外光の基材等への影響を抑制することもできる。紫外線吸収剤としては、公知のものを採用すれば良い。紫外線吸収剤は、単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。第1組成物における紫外線吸収剤の含有割合は、(1−A)成分、(1−B)成分、および(1−C)成分の合計100質量部に対して、1〜12質量部が好ましく、より好ましくは3〜12質量部である。
【0068】
紫外線吸収剤の含有割合を1〜12質量部とすることで、プライマー層の耐摩耗性と耐候性とを両立させることができる。紫外線吸収剤の量が過小であると、短波長紫外光により基材の一部が分解するおそれがある。紫外線吸収剤の量が過大であれば、プライマー層の耐摩耗性が低下する傾向にある。
【0069】
第1組成物にヒンダードアミン系光安定剤を添加することによっても、上述した樹脂材の耐候性の向上と、改質工程における短波長紫外光の悪影響低減とを実現可能である。ヒンダードアミン系光安定剤としては、公知のものを採用すれば良い。ヒンダードアミン系光安定剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。ヒンダードアミン系光安定剤の含有割合としては、(1−A)成分、(1−B)成分、および(1−C)成分の合計100質量部に対して0.05〜1.5質量部が好ましく、0.1〜1.5質量部がより好ましい。
【0070】
ヒンダードアミン系光安定剤の具体例としては、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル)セバケート、メチル(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル)セバケート、2,4−ビス[N−ブチル−N−(1−シクロヘキシロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)アミノ]−6−(2−ヒドロキシエチルアミン)−1,3,5−トリアジン、デカン二酸ビス(2,2,6,6−テトラメチル−1−(オクチロキシ)−4−ピペリジニル)エステルを例示できる。これらのうち、ヒンダードアミンの塩基性が低いものが組成物の安定性の点で好ましく、具体的には、アミノエーテル基を有する所謂NOR型のものがより好ましい。
【0071】
紫外線吸収剤の具体例としては、2−[4−[(2−ヒドロキシ−3−ドデシロキシプロピル)オキシ]−2−ヒドロキシフェニル]−4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン、2−[4−[(2−ヒドロキシ−3−トリデシロキシプロピル)オキシ]−2−ヒドロキシフェニル]−4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−01,3,5−トリアジン、2−[4−[(2−ヒドロキシ−3−(2−エチルヘキシロキシ)プロピル)オキシ]−2−ヒドロキシフェニル]−4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ビス(2−ヒドロキシ−4−ブチロキシフェニル)−6−(2,4−ビス−ブチロキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2−(2−ヒドロキシ−4−[1−オクチロキシカルボニルエトキシ]フェニル)−4,6−ビス(4−フェニルフェニル)−1,3,5−トリアジン等のトリアジン系紫外線吸収剤;2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェノール、2−(2−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2−ヒドロキシ−5−(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤;2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン系紫外線吸収剤、エチル−2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリレート、オクチル−2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリレート等のシアノアクリレート系紫外線吸収剤、酸化チタン微粒子、酸化亜鉛微粒子、酸化錫微粒子等の紫外線を吸収する無機微粒子を例示できる。プライマー層の耐候性と耐摩耗性を好適に両立させ得る点で、(メタ)アクリロイル基を有するベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤が特に好ましい。
【0072】
第1組成物には、プライマー層の耐熱性や耐候性を良好にする目的で、各種の酸化防止剤を配合してもよい。酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系酸化防止剤等の一次酸化防止剤や、イオウ系およびリン系の二次酸化防止剤が挙げられる。酸化防止剤の好ましい配合量は、(1−A)成分、(1−B)成分、および(1−C)成分の合計100質量部に対して0〜5質量部であり、より好ましくは0〜3質量部である。
【0073】
一次酸化防止剤の具体例としては、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3−(5−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−m−トリル)プロピオネート]、1,3,5−トリス[(4−tert−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−キシリル)メチル]−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオンを例示できる。
【0074】
二次酸化防止剤の具体例としては、ジドデシル3,3’−チオジプロピオネート、4,6−ビス(オクチルチオメチル)−o−クレゾール、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)フォスファイトを例示できる。
【0075】
第1組成物には、(1−A)成分および(1−B)成分以外にも、1分子中に1個以上のラジカル重合性不飽和基を有する不飽和化合物を配合してもよい。不飽和化合物の配合割合としては、耐摩耗性および耐候性が悪化するのを防ぐ観点から、(1−A)成分、(1−B)成分、および(1−C)成分の合計100質量部に対して、20質量部以下とすることが好ましい。
【0076】
不飽和化合物としては、1分子中に1個のラジカル重合性不飽和基を有する化合物(以下、「単官能不飽和化合物」という)と、1分子中に2個以上のラジカル重合性不飽和基を有する化合物(以下、「多官能不飽和化合物」という)がある。
【0077】
単官能不飽和化合物は、樹脂製の基材とプライマー層との密着性を高めるために配合することができる。単官能不飽和化合物におけるラジカル重合性不飽和基としては、(メタ)アクリロイル基が好ましい。
【0078】
単官能不飽和化合物の具体例としては、(メタ)アクリル酸、アクリル酸のマイケル付加型のダイマー、ω−カルボキシ−ポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレート、フタル酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、フェノールのアルキレンオキサイド付加物の(メタ)アクリレート、アルキルフェノールのアルキレンオキサイド付加物の(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、tert−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、パラクミルフェノールのアルキレンオキサイド付加物の(メタ)アクリレート、オルトフェニルフェノール(メタ)アクリレート、オルトフェニルフェノールのアルキレンオキサイド付加物の(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、トリシクロデカンメチロール(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、N−(2−(メタ)アクリロキシエチル)ヘキサヒドロフタルイミド、N−(2−(メタ)アクリロキシエチル)テトラヒドロフタルイミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、アクリロイルモルフォリン、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタムを例示できる。
【0079】
多官能不飽和化合物は、樹脂製の基材とプライマー層との密着性およびプライマー層の耐摩耗性を高める目的で配合することができる。多官能不飽和化合物におけるラジカル重合性不飽和基の数は、耐摩耗性を低下させないためには1分子中に3個以上であることが好ましく、4〜20個であることがより好ましい。多官能不飽和化合物としては、1分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物が好ましく、具体例としては、以下の化合物が挙げられる。
【0080】
ビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物のジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールFアルキレンオキサイド付加物のジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールZアルキレンオキサイド付加物のジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールSアルキレンオキサイド付加物のジ(メタ)アクリレート、チオビスフェノールアルキレンオキサイド付加物のジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールFのジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールZのジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールSのジ(メタ)アクリレート、チオビスフェノールのジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメチロールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、グリセリンアルキレンオキサイド付加物のジ(メタ)アクリレート、ダイマー酸ジオールジ(メタ)アクリレート、シクロヘキサンジメチロールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンアルキレンオキサイド付加物のトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールのトリ又はテトラアクリレート、ペンタエリスリトールアルキレンオキサイド付加物のトリ又はテトラアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ又はペンタアクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、末端に(メタ)アクリロイル基を有するシリコーン樹脂等が挙げられる。
【0081】
ポリエステル(メタ)アクリレートとしては、ポリエステルポリオールと(メタ)アクリル酸との脱水縮合物が挙げられる。ポリエステルポリオールとしては、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、シクロヘキサンジメチロール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、およびトリメチロールプロパン等の低分子量ポリオール、並びにこれらのアルキレンオキシド付加物等のポリオールと、アジピン酸、コハク酸、フタル酸、ヘキサヒドロフタル酸およびテレフタル酸等の二塩基酸またはその無水物等の酸成分とからの反応物等が挙げられる。また、各種デンドリマー型ポリオールと(メタ)アクリル酸との脱水縮合物が挙げられる。
【0082】
エポキシ(メタ)アクリレートとしては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂の(メタ)アクリル酸付加物、水素添加ビスフェノールA型エポキシ樹脂の(メタ)アクリル酸付加物、フェノールまたはクレゾールノボラック型エポキシ樹脂の(メタ)アクリル酸付加物、ビフェニル型エポキシ樹脂の(メタ)アクリル酸付加物、ポリテトラメチレングリコール等のポリエーテルのジグリシジルエーテルの(メタ)アクリル酸付加物、ポリブタジエンのジグリシジルエーテルの(メタ)アクリル酸付加物、ポリブタジエン内部エポキシ化物の(メタ)アクリル酸付加物、エポキシ基を有するシリコーン樹脂の(メタ)アクリル酸付加物、リモネンジオキサイドの(メタ)アクリル酸付加物、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレートの(メタ)アクリル酸付加物等が挙げられる。
【0083】
ウレタン(メタ)アクリレートとしては、有機ポリイソシアネートとヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートを付加反応させた化合物や、有機ポリイソシアネートとポリオールとヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートを付加反応させた化合物が挙げられる。有機ポリイソシアネートとしては、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、およびイソホロンジイソシアネート等が挙げられる。ヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートとしては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートや、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート等のヒドロキシル基含有多官能(メタ)アクリレート等が挙げられる。ポリオールとしては、低分子量ポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール等が挙げられる。低分子量ポリオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメチロール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、およびグリセリン等が挙げられる。ポリエーテルポリオールとしては、ポリプロピレングリコールやポリテトラメチレングリコール等が挙げられる。ポリエステルポリオールとしては、これら低分子量ポリオールおよび/またはポリエーテルポリオールと、アジピン酸、コハク酸、フタル酸、ヘキサヒドロフタル酸およびテレフタル酸等の二塩基酸またはその無水物等の酸成分との反応物が挙げられる。
以上列挙した不飽和化合物は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0084】
第1組成物には、透明性を維持しながら硬化時の反りを低減させる目的等で、有機ポリマーを配合することもできる。好適なポリマーとしては、(メタ)アクリル系ポリマーが挙げられ、好適な構成モノマーとしては、メチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸、グリシジル(メタ)アクリレート、N−(2−(メタ)アクリロキシエチル)テトラヒドロフタルイミド等が挙げられる。(メタ)アクリル酸を共重合したポリマーの場合、グリシジル(メタ)アクリレートを付加させて(メタ)アクリロイル基をポリマー鎖に導入してもよい。
【0085】
第1組成物には、塗布時のレベリング性を高める目的等のために各種の表面改質剤を添加してもよい。表面改質剤としては、表面調整剤、レベリング剤、スベリ性付与剤、防汚性付与剤等の名称で市販されている、表面物性を改質する各種添加剤を使用することができる。それらのうち、シリコーン系表面改質剤およびフッ素系表面改質剤が好適である。
【0086】
具体例としては、シリコーン鎖とポリアルキレンオキサイド鎖を有するシリコーン系ポリマーおよびオリゴマー、シリコーン鎖とポリエステル鎖を有するシリコーン系ポリマーおよびオリゴマー、パーフルオロアルキル基とポリアルキレンオキサイド鎖を有するフッ素系ポリマーおよびオリゴマー、パーフルオロアルキルエーテル鎖とポリアルキレンオキサイド鎖を有するフッ素系ポリマーおよびオリゴマーが挙げられる。上記のシリコーン系ポリマーおよびオリゴマー、フッ素系ポリマーおよびオリゴマーは、化学構造中に炭素−炭素二重結合を含有していてもよい。
表面改質剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。滑り性の持続力を高めるなどの目的で、分子中に(メタ)アクリロイル基を含有するものを使用してもよい。
表面改質剤の好ましい配合量は、(1−A)成分および(1−B)成分の合計100質量部に対して0.01〜2質量部であり、0.03〜1質量部がより好ましく、0.05〜0.5質量部が特に好ましい。表面改質剤の配合量を0.01〜2質量部とすることで、プライマー層の表面平滑性を高めることができる。
【0087】
具体的な表面改質剤として、EBECRYL350(ダイセル・オルネクス株式会社)、EBECRYL1360(ダイセル・オルネクス株式会社)、BYK−315(ビックケミー・ジャパン株式会社)、BYK−349(ビックケミー・ジャパン株式会社)、BYK−371(ビックケミー・ジャパン株式会社)、BYK−375(ビックケミー・ジャパン株式会社)、BYK−378(ビックケミー・ジャパン株式会社)、BYK−UV3500(ビックケミー・ジャパン株式会社)、BYK−UV3570(ビックケミー・ジャパン株式会社)、X−22−164(信越化学工業株式会社)、X−22−164AS(信越化学工業株式会社)、X−22−164A(信越化学工業株式会社)、X−22−164B(信越化学工業株式会社)、X−22−164C(信越化学工業株式会社)、X−22−164E(信越化学工業株式会社)、X−22−174DX(信越化学工業株式会社)、X−22−2426(信越化学工業株式会社)、X−22−2475(信越化学工業株式会社)、AC−SQ TA−100(東亞合成株式会社)、AC−SQ SI−20(東亞合成株式会社)、MAC−SQ TM−100(東亞合成株式会社)、MAC−SQ SI−20(東亞合成株式会社)、MAC−SQ HDM(東亞合成株式会社)、メガファックRS−75(DIC株式会社)、メガファックRS−76−E(DIC株式会社)、メガファックRS−72−K(DIC株式会社)、メガファックRS−76−NS(DIC株式会社)、メガファックRS−90(DIC株式会社)、オプツールDAC−HP(ダイキン工業株式会社)、ZX−058−A(株式会社T&K TOKA)、ZX−201(株式会社T&K TOKA)、ZX−202(株式会社T&K TOKA)、ZX−212(株式会社T&K TOKA)、ZX−214−A(株式会社T&K TOKA)、8019additive(東レ・ダウコーニング株式会社)を挙げることができる。
【0088】
プライマー層の形成方法を、プライマー組成物として第1組成物を用いた例で説明する。
先ず、基材上に第1組成物を塗布してプライマー層の前駆層を形成する。次いで前駆層を硬化させ、必要に応じて乾燥させて、プライマー層を形成する。
【0089】
第1組成物は、一般的な方法で基材上に塗布可能である。例えば、スプレー法、スピンコート法、ディップコート法、バーコート法、フローコート法などが好ましく、基材の形状などに応じて選択すると良い。このとき、基材の表面が有機溶媒を含む第1組成物に長時間さらされないようにすると、有機溶剤による基材の劣化が抑制される。塗布形成された前駆層の厚さは、第1組成物に含まれる固形分の割合にもよるが、必要とするプライマー層の厚さに応じて適宜選択すれば良い。例えば前駆層の厚さを6〜100μmとすると良い。なお、プライマー層の厚さが不十分であれば、得られたプライマー層上に、さらに前駆層を形成し硬化させてプライマー層の厚さを増せば良い。
【0090】
硬化させる前の前駆層を乾燥させても良い。前駆層を乾燥させることで、有機溶剤や水等の揮発性成分を前駆層から除去できる。乾燥方法は特に問わず、自然乾燥、加熱乾燥、真空乾燥など定法を用いれば良い。乾燥温度は基材の耐熱性に応じて適宜選択すればよく、例えば基材を構成する樹脂の軟化点以下とすればよい。具体的には、基材がポリカーボネート製の場合、乾燥温度は50〜120℃の範囲とするのが好ましい。
【0091】
前駆層の硬化について説明する。
第1組成物のうち少なくとも(1−A)成分及び(1−B)成分には重合可能な末端オレフィンが存在するため、前駆層に熱等のエネルギを与えることで重合反応が進行し、前駆層を構成する第1組成物が硬化する。第1組成物が光ラジカル重合開始剤又は熱ラジカル重合開始剤を含む場合には、それぞれの重合開始剤が作用する条件下に前駆層を供すればよい。第1組成物が光ラジカル重合開始剤を含む場合は、前駆層に紫外線等の光を照射すれば良い。好ましい製造方法としては、前駆層を乾燥後、高温下で光を照射する方法が挙げられる。ここで、高温下とは、基材の性能が維持される温度以下であればよい。例えば基材がポリカーボネート製の場合、50〜120℃の範囲が好ましく、60〜110℃の範囲がより好ましく、70〜100℃の範囲がさらに好ましく、80〜100℃の範囲が特に好ましい。紫外線を照射する際の温度条件を50〜120℃の範囲に維持することで、プライマー層の耐摩耗性を高めることができる。
【0092】
光としては、紫外線および可視光線が挙げられ、紫外線が特に好ましい。紫外線照射装置としては、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、UV無電極ランプ、LED等が挙げられるがこれに限定されない。UV無電極ランプの場合、直流電源電流による新しいタイプのものも好適に使用することができる。照射エネルギは、活性エネルギ線の種類や配合組成に応じて適宜設定すべきものであるが、一例として高圧水銀ランプを使用する場合を挙げると、UV−A領域の照射エネルギで100〜10,000mJ/cm2が好ましく、1,000〜6,000mJ/cm2がより好ましい。
【0093】
このときの光の波長は特に限定しないが、200nmを超える波長であることが好ましい。200nm以下の波長の光、つまり、短波長紫外光は、前駆層の表面側部分、より具体的には表面から数nm程度の非常に浅い領域には到達するが、前駆層の奥側部分にまでは到達し難い。したがって、短波長紫外光を前駆層に照射すると、前駆層の表面から有機鎖が失われるとともに前駆層の表層のみが硬化し、その他の部分は硬化しないまま残る。すると、前駆層の表面のみが収縮して、皺やクラック等が発生する等、表面形状の不具合が生じる。このため、第1組成物、つまり、前駆層の材料たる有機金属化合物含有樹脂組成物が紫外線硬化型である場合には、予め200nmを超える中波長紫外光で前駆層を硬化する前処理工程をおこなうのが好ましい。これは、第1組成物に限らず、他のプライマー組成物に関しても同様である。
【0094】
第1組成物が熱ラジカル重合開始剤を含む場合には、前駆層を乾燥した後さらに加熱するとよい。加熱温度としては、基材の性能を維持できる温度以下であれば特に限定されるものではないが、80〜200℃が好ましい。加熱時間としては、10分以上120分以下が好ましい。生産性の観点からであれば、60分以下さらには30分以下とするとよい。
【0095】
なお、前駆層の硬化は、大気中で行ってもよいし、真空中、不活性ガス雰囲気中で行ってもよい。プライマー層の性能上、真空中または不活性ガス雰囲気中が好ましいが、生産性の面から大気中で行ってもよい。なお、本明細書において乾燥および加熱の温度は、前駆層またはプライマー層の表面温度であって、乾燥または加熱の雰囲気温度にほぼ等しい。
【0096】
(有機ケイ素化合物2)
有機ケイ素化合2は、上記した有機ケイ素化合物1と同じ(1−A)成分および(1−C)成分を有し、(1−B)成分にかえて(2−B)成分を有する。有機ケイ素化合物2は、(1−A)成分、(2−B)成分および(1−C)成分の合計100質量部に対して、(1−A)成分を20〜80質量部、(2−B)成分を5〜50質量部、(1−C)成分を1〜35質量部含む第2組成物を硬化させたものである。第2組成物は、プライマー組成物の一態様である。以下、有機ケイ素化合物1との相違点である(2−B)成分について詳説する。
【0097】
(2−B)成分は、下記一般式(2−0)で表されるジ(メタ)アクリレート化合物である。
CH=CR21CO−(OR23−A−(R24O)−COCR22=CH
・・・・・・(2−0)
一般式(2−0)において、R21およびR22はそれぞれ独立して水素またはメチル基を表す。そして、R23およびR24はそれぞれ独立して炭素数2〜10の2価の炭化水素基を表す。炭素数2〜10の2価の炭化水素基としては、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基およびテトラメチレン基等の炭素数2〜4のアルキレン基が好ましい。mおよびnはそれぞれ独立して0以上の数を表す。m+nは1〜100の範囲内が好ましく、2〜70の範囲内がより好ましく、3〜50の範囲内がさらに好ましく、10〜30の範囲内が特に好ましい。なお、mおよびnは、上記一般式(2−0)で表されるジ(メタ)アクリレート化合物1モルあたりの(OR23)および(R24O)の平均モル数を表す。
【0098】
は下記一般式(2−1)で表される。
【0099】
【化4】
【0100】
一般式(2−1)において、R25およびR26はそれぞれ独立して水素、炭素数1〜6のアルキル基またはフェニル基を表す。炭素数1〜6のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基を例示できる。R25およびR26は、ベンゼン環のOの置換位置からみて、ベンゼン環の2位に置換するのが好ましい。
【0101】
一般式(2−1)において、Bは、CR2728、SO、C=CX、下記一般式(2−2)を表す。
27およびR28はそれぞれ独立して水素、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のX置換アルキル基、フェニル基を表す。炭素数1〜6のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基を例示できる。Xはフッ素、塩素等のハロゲンを意味する。炭素数1〜6のX置換アルキル基としては、CHF、CHF、CF、CHCF、Cを例示できる。
また、R27およびR28は互いに結合している炭素とともにアルキル置換され得る飽和炭化水素環を形成できる。アルキル置換され得る飽和炭化水素環としては、シクロペンタン環、シクロヘキサン環、シクロヘプタン環、3,3−ジメチルシクロヘキサン環、3,5−ジメチルシクロヘキサン環、3,3,5−トリメチルシクロヘキサン環を例示できる。
C=CXとしては、C=CF、C=CCl、C=CBrを例示できる。
【0102】
一般式(2−2)は以下のとおりである。
【0103】
【化5】
【0104】
一般式(2−2)において、R29、R30、R31およびR32はそれぞれ独立して水素または炭素数1〜6のアルキル基を表す。炭素数1〜6のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基を例示できる。ベンゼン環に対するR2930C及びCR3132の置換位置は、互いにメタ位又はパラ位の位置であることが好ましい。
【0105】
具体的なAの化学構造を以下に列挙する。
【0106】
【化6】
【0107】
(2−B)成分は、(メタ)アクリレート部分に該当するCH=CR21−CO又はCO−CR22=CH誘導体と、アルキレングリコール部分に該当する(OR23又は(R24O)の誘導体と、A誘導体を、適宜反応させることで製造できる。また、(2−B)成分を得るには、市販されている(2−B)成分に該当する化合物を購入してもよい。
本発明の組成物における(2−B)成分の含有割合は、(1−A)成分、(2−B)成分および(1−C)成分の合計100質量部に対して5〜50質量部であり、好ましくは10〜45質量部、より好ましくは20〜40質量部、さらに好ましくは22〜38質量部、特に好ましくは25〜35質量部である。(2−B)成分の含有割合を5〜50質量部とすることで、基材に対する密着性に優れたプライマー層が得られる。(2−B)成分の含有割合が5質量部未満であると、基材に対するプライマー層の密着性が低下する場合がある。(2−B)成分の含有割合が50質量部を超えると、プライマー層の硬度が低下する場合がある。
【0108】
第2組成物は、第1組成物と同様に、(1−A)、(2−B)および(1−C)以外の添加剤を含んでも良い。添加剤については上記の通りである。また、第2組成物を用いてプライマー層を形成する方法は、上記した第1組成物を用いてプライマー層を形成する方法と同様におこなえば良い。
【0109】
第2組成物を用いる場合、基材としては下記一般式(4)で表される繰り返し単位を有するものを用いるのが好ましい。
−(A−CO)−
・・・・・・(4)
一般式(4)において、Aは下記一般式(4−1)で表される。
【0110】
【化7】
【0111】
一般式(4−1)において、R41およびR42はそれぞれ独立して水素、炭素数1〜6のアルキル基またはフェニル基を表す。炭素数1〜6のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基を例示できる。R41およびR42は、ベンゼン環のOの置換位置からみて、ベンゼン環の2位に置換するのが好ましい。
は、CR4344、SO、C=CX、下記一般式(4−2)を表す。R43およびR44はそれぞれ独立して水素、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のX置換アルキル基、フェニル基を表す。炭素数1〜6のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基を例示できる。Xはフッ素、塩素等のハロゲンを意味する。炭素数1〜6のX置換アルキル基としては、CHF、CHF、CF、CHCF、Cを例示できる。
また、R43およびR44は互いに結合している炭素とともにアルキル置換され得る飽和炭化水素環を形成できる。アルキル置換され得る飽和炭化水素環としては、シクロペンタン環、シクロヘキサン環、シクロヘプタン環、3,3−ジメチルシクロヘキサン環、3,5−ジメチルシクロヘキサン環、3,3,5−トリメチルシクロヘキサン環を例示できる。
C=CXとしては、C=CF、C=CCl、C=CBrを例示できる。
【0112】
一般式(4−2)は以下のとおりである。
【0113】
【化8】
【0114】
一般式(4−2)において、R45、R46、R47およびR48はそれぞれ独立して水素または炭素数1〜6のアルキル基を表す。炭素数1〜6のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基を例示できる。ベンゼン環に対するR4546C及びCR4748の置換位置は、互いにメタ位又はパラ位の位置であることが好ましい。
具体的なAの化学構造は、Aで列挙したのと同様である。
【0115】
上記一般式(4)で表される繰り返し単位を有する基材は、A誘導体とCO誘導体を、適宜反応させることで製造できる。例えば、A誘導体としてHAHを採用し、CO誘導体としてホスゲンを採用して、これらを反応させて製造すればよい。また、このような基材を得るには、市販されている上記一般式(4)で表される繰り返し単位を有する樹脂を購入しても良い。
【0116】
第2組成物に含まれる(2−B)成分の化学構造と、基材に含まれる一般式(4)で表される繰り返し単位の化学構造とが類似しているため、プライマー層と基材との間で親和性が増し、両者の密着性が向上すると考察される。この考察からすると、(2−B)成分の化学構造と、一般式(4)で表される繰り返し単位の化学構造とが、より類似しているプライマー層と基材との組み合わせが最も好ましいと考えられる。そうすると、プライマー層に含まれるAの化学構造と、基材に含まれるAの化学構造が同じである樹脂材が、基材とプライマー層との密着性には最も優れるといえる。
【0117】
(有機ケイ素化合物3)
有機ケイ素化合3は、下記の(3−A)成分および(3−B)成分を有する。有機ケイ素化合物3は、(3−A)成分および(3−B)成分の合計100質量部に対して、(3−A)成分を95〜65質量部、(3−B)成分を5〜35質量部含み、好ましくはさらにラジカル重合開始剤を0.1〜10質量部、有機溶剤を10〜1000質量部含む第3組成物を硬化させたものである。第3組成物もまたプライマー組成物の一態様である。
なお、(3−B)成分に関しては、上記した有機ケイ素化合物1および有機ケイ素化合物2の(1−C)成分と互換可能である。つまり、有機ケイ素化合物1および有機ケイ素化合物2の(1−C)成分は、(3−B)成分と置き換え得る。或いは、有機ケイ素化合物3の(3−B)成分は(1−C)成分と置き換え得る。
【0118】
(3−A)成分は、以下の(3−a1)成分および(3−a2)成分から構成されるイソシアヌル環含有(メタ)アクリレート混合物である。(3−a1)成分は下記一般式(3−1)で表される水酸基含有ジ(メタ)アクリレート化合物と、分子内に2個以上のイソシアネート基を有するイソシアネート化合物と、の付加反応で得られる。(3−a2)成分は、トリ(メタ)アクリレート化合物である。
以下、必要に応じて、一般式(3−1)で表される水酸基含有ジ(メタ)アクリレート化合物を「ジ(メタ)アクリレート(1)」という。また、分子内に2個以上のイソシアネート基を有するイソシアネート化合物を「ポリイソシアネート」という。
【0119】
【化9】
【0120】
ジ(メタ)アクリレート(1)を表す一般式(3−1)において、R31、R32およびR33はそれぞれ独立して炭素数2〜10の2価の有機基を表す。
炭素数2〜10の2価の有機基としては、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基およびテトラメチレン基等の炭素数2〜4のアルキレン基が好ましい。また、これらの基を有する一般式(3−1)の化合物にはε−カプロラクトン変性した化合物も含まれる。この場合、炭素数2〜10の2価の有機基は−COCHCHCHCHCH−を含む。
これらのうち、R31、R32およびR33が全てエチレン基であれば、プライマー層が耐摩耗性と耐候性に優れたものとなるため、特に好ましい。
また、一般式(3−1)において、R34およびR35はそれぞれ独立して水素原子またはメチル基を表し、R34およびR35の両方が水素原子であれば、第3組成物が硬化性に優れるものとなる点で特に好ましい。
【0121】
31、n32およびn33は、それぞれ独立して1〜3の数を表す。ただし、n31+n32+n33=3〜9である。n31、n32およびn33は、各々1であることが好ましい。つまりn31+n32+n33は3であることが好ましい。
ジ(メタ)アクリレート(1)は、好ましくはイソシアヌル酸のアルキレンオキサイド付加物と(メタ)アクリル酸との反応で製造できる。n31+n32+n33は、ジ(メタ)アクリレート(1)1分子当たりのアルキレンオキサイドの平均付加モル数を表す。
【0122】
ポリイソシアネートとしては、種々の化合物が使用可能である。
ポリイソシアネートは、プライマー層の耐候性の観点から、芳香環を含まないのが好ましい。好ましいポリイソシアネートの例としては、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネートおよびこれらのヌレート型三量体等が挙げられる。
【0123】
(3−a1)成分は、前記ジ(メタ)アクリレート(1)とポリイソシアネートとの付加反応により合成される。この付加反応は無触媒でも可能であるが、反応を効率的に進めるために、ジブチルスズジラウレート等の錫系触媒や、トリエチルアミン等のアミン系触媒等を添加してもよい。
【0124】
(3−a2)成分は、下記一般式(3−2)で表される。
【0125】
【化10】
【0126】
(3−a2)成分を表す一般式(3−2)において、R36、R37およびR38はそれぞれ独立して炭素数2〜10の2価の有機基を表す。
このうち炭素数2〜10の2価の有機基は、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基およびテトラメチレン基等の炭素数2〜4のアルキレン基であるのが好ましい。また、(3−a2)成分には、これらの基を有する一般式(2)の化合物をε−カプロラクトン変性した化合物も含まれる。この場合、炭素数2〜10の2価の有機基は−COCHCHCHCHCH−を含む。
36、R37およびR38がすべてエチレン基であれば、プライマー層が耐摩耗性と耐候性に優れたものとなるため、特に好ましい。
一般式(3−2)において、R39、R310およびR311はそれぞれ独立して水素原子またはメチル基を表し、このうち、これら全てが水素原子である場合には第3組成物が硬化性に優れるものとなる点で特に好ましい。
【0127】
34、n35およびn36は、それぞれ独立して1〜3の数を表す。ただし、n34+n35+n36=3〜9である。n34、n35およびn36は各々1であるのが好ましく、n34+n35+n36は3であるのが好ましい。
(3−a2)成分は、好ましくはイソシアヌル酸のアルキレンオキサイド付加物と(メタ)アクリル酸との反応により製造できる。n34+n35+n36は、(3−a2)成分1分子当たりのアルキレンオキサイドの平均付加モル数を表す。
【0128】
(3−A)成分は、(3−a1)成分と(3−a2)成分の混合物である。
(3−a1)成分と(3−a2)成分の割合は目的に応じて適宜設定すればよいが、(3−a1):(3−a2)=1:9〜7:3の質量比であるのが好ましく、より好ましくは(3−a1):(3−a2)=2:8〜5:5、さらには、2:8〜4:6の質量比であるのが好ましい。
(3−a1)と(3−a2)の質量比をこの範囲とすることで、耐摩耗性と耐候性に優れたプライマー層が得られる。
【0129】
第3組成物における(3−A)成分の含有割合は、(3−A)成分および(3−B)成分の合計100質量部に対して、95〜65質量部であり、より好ましくは90〜70質量部である。
(3−A)成分の含有割合を95〜65質量部とすることで、耐摩耗性と耐候性に優れたプライマー層が得られる。
【0130】
(3−B)成分は、互いに構造の異なるケイ素化合物(3−b1)およびケイ素化合物(3−b2)を加水分解共重縮合させて得られる有機ケイ素化合物である。
【0131】
ケイ素化合物(3−b1)は、下記一般式(3−3)で表される。
【0132】
【化11】
【0133】
一般式(3−3)において、R312は炭素数1〜6のアルキル基、炭素数7〜10のアラルキル基または炭素数6〜10のアリール基を有する有機基である。これらのなかでも、炭素数1〜6のアルキル基が好ましく、プライマー層の耐摩耗性を向上させるためにはメチル基がより好ましい。なお、n37は0または1である。プライマー層の耐摩耗性を鑑みると、n37は0であるのが好ましい。
313は炭素数1〜6の2価の飽和炭化水素基であり、アルキレン基が好ましい。アルキレン基としては、トリメチレン基がより好ましい。R313がトリメチレン基であれば、プライマー層の耐摩耗性が向上するだけでなく、原料コストを低減可能である。R314は水素原子またはメチル基である。
【0134】
は加水分解性基である。n37は0または1であるため、Xは3または2個存在する。各Xは同一であっても異なっていてもよい。加水分解性基としては、加水分解性を有する基であれば良く、種々の基が選択可能である。具体的には、水素原子、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基およびアリールアルコキシ基が挙げられる。これらのなかでもアルコキシ基が好ましく、炭素数1〜6のアルコキシ基がより好ましい。アルコキシ基の具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基およびヘキシルオキシ基等が挙げられる。
【0135】
一般式(3−3)において、n37が0でありかつXがアルコキシ基であるのが好ましい。このような化合物の具体例としては、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリエトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランおよび3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルエチルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0136】
ケイ素化合物(3−b2)は、下記一般式(3−4)で表される。
【0137】
SiY ・・・(3−4)
一般式(3−4)において、Yはシロキサン結合生成基である。ケイ素化合物(3−b2)1分子中のシロキサン結合生成基は、同一であっても異なっていてもよい。
シロキサン結合生成基としては、アルコキシ基が好ましい。アルコキシ基の好ましい例としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、iso−プロポキシ基、n−ブトキシ基およびsec−ブトキシ基等の炭素数1〜4のアルコキシ基が挙げられる。
化合物(3−b2)の好ましい具体例は、テトラ−n−プロポキシシラン、トリメトキシ−n−プロポキシシラン、ジメトキシジ−n−プロポキシシラン、メトキシトリ−n−プロポキシシラン等のn−プロポキシ基を有するアルコキシシラン化合物である。
n−プロポキシ基含有アルコキシシラン化合物は、1種の化合物でも、n−プロポキシ基を有し、他のアルコキシ基を有する化合物の混合物でもよい。
n−プロポキシ基含有アルコキシシラン化合物の混合物は、複数種の成分を混合して使用することもできるが、アルコール交換によって製造したものをそのまま使用することもできる。例えば、上記一般式(3−4)で表されるケイ素化合物(3−b2)であり、且つn−プロポキシ基を有さない化合物を、1−プロパノール中でアルコール交換反応させることにより得ることができる。また、この反応により得られた反応生成物をそのまま用いることもできる。なお、「一般式(3−4)で表されるケイ素化合物(3−b2)であり、且つn−プロポキシ基を有さない化合物」としては、テトラメトキシシランが例示される。
【0138】
(3−B)成分は、上記ケイ素化合物(3−b1)と上記ケイ素化合物(3−b2)とをアルカリ性条件下にて加水分解共重縮合させることで製造できる。以下、この加水分解共重縮合を行う工程を第1工程とする。
上記した加水分解共重縮合反応の際のケイ素化合物(3−b1)とケイ素化合物(3−b2)との割合は、ケイ素化合物(3−b1)1モルに対してケイ素化合物(3−b2)を0.3〜1.8モル、好ましくは0.8〜1.8モル、さらに好ましくは1〜1.8モルであるのが良い。この範囲で反応させることで、加水分解共重縮合が良好に進行し、反応中および反応後に(3−B)成分がゲル化し難い上、(3−B)成分を効率よく製造できる利点がある。ゲル化することなく製造された(3−B)成分は、第3組成物に用いた場合の(3−A)成分に対する分散性に優れるため、(3−B)成分の濃度が設計通りに勾配したプライマー層を得ることが可能である。
【0139】
上記第1工程はアルカリ性条件下での反応であるのが好ましく、反応液のpHは7を超える値であるとよい。反応液のpHは好ましくは8以上であり、更に好ましくはpHが9以上である。pHの上限値は特に限定しないが、強いていえばpH13である。反応系のpHを上記の範囲にすることにより、保存安定性に優れた(3−B)成分を高い収率で得ることができる。
なお、酸性条件下(pH7未満)で加水分解共重縮合させて得られる有機ケイ素化合物は、保存安定性に劣り、また、反応条件等によっては保存中にゲル化することもある。さらに、中性条件下(pH7付近)では、加水分解共重縮合反応が進行し難く、有機ケイ素化合物を収率よく得るのが困難である。このため当該反応はアルカリ性条件下で行うのが好ましい。
【0140】
第1工程における化合物(3−b1)および化合物(3−b2)の縮合率は、92%以上であるのが好ましく、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上である。加水分解性基を含むシロキサン結合生成基は、実質的に全てが縮合されていることが最も好ましいが、縮合率の上限は、通常、99.9%である。
【0141】
第1工程において、反応系、(3−B)成分を含む反応液、中和液、有機系液および有機溶液の少なくとも1つに対して、(メタ)アクリロイル基の重合を禁止する重合禁止剤を添加することもできる。
酸性条件下での製造方法等、有機ケイ素化合物を製造する方法も知られているが、原料化合物の化合物(3−b1)と化合物(3−b2)の両者を均一に反応させることは難しく、ゲルが生じ易いものであった。このため、トリメチルアルコキシシランやヘキサメチルジシロキサン等の、シロキサン結合生成基を1つのみ有するケイ素化合物(以下、「Mモノマー」という)を末端封止剤として作用させることでゲル化を回避する方法が知られている。しかしながら、所定量以上のMモノマーを併用することで、ゲル化は回避できても、得られる有機ケイ素化合物の無機的性質は低下する傾向にある。
これに対して、前述のようなアルカリ条件下での反応であれば、ゲル化を抑制しつつ、化合物(3−b1)と化合物(3−b2)を共重縮合させることができる。その上、無機的性質が維持されることで、第3組成物により得られるプライマー層の耐摩耗性を低下させることがないという効果を奏する。
【0142】
(3−B)成分は、前記第1工程を必須として製造されるものであるが、必要に応じてさらに以下の工程を含むことができる。
(第2工程)第1工程で得られた反応液を、酸により中和する工程。
(第3工程)第2工程で得られた中和液から揮発性成分を除去する工程。
(第4工程)第3工程で得られた濃縮物と、洗浄用有機溶剤とを、混合および接触させて、少なくとも有機ケイ素化合物(3−B)を洗浄用有機溶剤に溶解する工程。
(第5工程)第4工程で得られた有機系液を水により洗浄した後、有機ケイ素化合物(3−B)を含む有機溶液を得る工程。
(第6工程)第5工程で得られた有機溶液から揮発性成分を除去する工程。
(3−B)成分の製造方法は、少なくとも第1工程、第2工程および第5工程を含むことが好ましい。
【0143】
本発明の組成物における(3−B)成分の含有割合は、(3−A)成分および(3−B)成分の合計100質量部に対して、5〜35質量部であり、より好ましくは10〜30質量部である。
(3−B)成分の含有割合を5〜35質量部とすることで、耐摩耗性と耐候性に優れたプライマー層が得られる組成物とすることができる。(3−B)成分の割合が5質量部以上であれば、プライマー層の耐摩耗性が向上する。しかし、(3−B)成分が過多では、プライマー層が収縮しやすくなったり、プライマー層の有機部分の分解が速くなったりして耐候性が低下する。
【0144】
上記(3−A)成分および(3−B)成分は、ラジカル重合により硬化する。したがって、第3組成物は、ラジカル重合開始剤を含むのが良い。特に、光ラジカル重合開始剤を含む第3組成物は、光照射により硬化する光硬化型コーティング剤組成物として使用できる。また、熱ラジカル重合開始剤を含む第3組成物は、加熱により硬化する熱硬化型コーティング剤組成物として使用できる。
光ラジカル重合開始剤は、低エネルギかつ短時間で硬化し得るなどの優れた硬化性を発揮する。この点において、ラジカル重合開始剤は光ラジカル重合開始剤であるのが好ましい。光ラジカル重合開始剤および熱ラジカル重合開始剤としては第1組成物の項で挙げたものを単独でまたは複数種類組み合わせて適宜使用できる。
【0145】
第3組成物におけるラジカル重合開始剤の含有割合は、(3−A)成分および(3−B)成分の合計を100質量部としたときに、0.1〜10質量部であるのが良く、より好ましくは0.5〜7質量部、特に好ましくは1〜5質量部である。
ラジカル重合開始剤の含有割合を0.1〜10質量部とすることで、第3組成物が硬化性に優れるものとなり、耐摩耗性および耐候性に優れたプライマー層が得られる。
【0146】
上記した各種のプライマー組成物を単独でまたは複数種類組み合わせて用い、上記した方法により基材上に前駆層を形成し、硬化させることで、基材とプライマー層とを有する複合材が得られる。この複合材を以下の改質工程に供する。
【0147】
(改質工程)
改質工程は、複合材におけるプライマー層に波長200nm以下の短波長紫外光を照射することでプライマー層を改質し、プライマー層の表面に改質面を形成する工程である。
改質工程において使用できる短波長紫外光の光源は、当該短波長紫外光を照射可能であれば良く特に限定しない。例えば、エキシマレーザ、エキシマランプおよび低圧水銀ランプ等が挙げられる。
エキシマレーザとしては、希ガスエキシマレーザおよび希ガスハロゲンエキシマレーザ等が知られている。エキシマレーザとしては、Fを用いたもの(中心波長157nm)、Xeを用いたもの(中心波長172nm)、Krを用いたもの(中心波長146nm)、Arを用いたもの(中心波長126nm)、XeFを用いたもの(中心波長351nm)、XeClを用いたもの(中心波長308nm)、KrFを用いたもの(中心波長248nm)、KrClを用いたもの(中心波長222nm)、ArFを用いたもの(中心波長193nm)等が知られている。
エキシマランプとしては、希ガスエキシマランプおよび希ガスハロゲンエキシマランプ等が知られている。エキシマランプとしては、Xeを用いたもの(中心波長172nm)、Arを用いたもの(中心波長126nm)、Krを用いたもの(中心波長146nm)、ArBrを用いたもの(中心波長165nm)、ArFを用いたもの(中心波長193nm)、KrClを用いたもの(中心波長222nm)、XeIを用いたもの(中心波長253nm)、XeClを用いたもの(中心波長308nm)、XeBrを用いたもの(中心波長283nm)、KrBrを用いたもの(中心波長207nm)等が知られている。
【0148】
改質工程においては、上記した各種の光源を単独で或いは複数種組み合わせて用いれば良い。また低波長紫外光のその波長については200nm以下であれば良く、既述したプライマー組成物の種類に応じて適宜設定すれば良い。
好ましくは、低波長紫外光の波長は145nm〜200nmの範囲であるのが良く、より好ましい範囲は150nm〜180nmである。特に好ましくは、Fガスを用いた中心波長157nmのエキシマレーザ、Krガスを用いた中心波長146nmのエキシマランプ、Xeガスを用いた中心波長172nmのエキシマランプ、の少なくとも一種を用いるのが良い。
【0149】
低波長紫外光の照射時間、照射強度、照射時の温度等は、プライマー層の組成や厚さ、コート層の組成等に応じて適宜決定すれば良い。
【0150】
(コート層形成工程)
上記の改質工程で短波長紫外光の照射を受けたプライマー層の表面は、短波長紫外光により改質されて改質面を構成する。当該改質面は、短波長紫外光の影響で、他の部分に比べて有機鎖の含有率が少なく金属元素の含有率が多くなっている。コート層形成工程では、このような改質面上に金属酸化物からなるコート層を設ける。
コート層を構成する金属元素は特に限定せず、樹脂材の用途に応じて適宜選択できる。また、コート層を構成する金属元素は、プライマー層の特に改質面を構成する金属元素に応じて親和性に優れるものを選択するのが好ましく、同種の金属元素であるのが好ましい。本発明でいう金属元素とは、非典型元素以外にも、半金属等の金属の物性を示す元素を含む概念である。コート層を構成する金属酸化物としては、例えば、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化インジウムスズ等が挙げられる。
コート層は当該金属元素の酸化物で構成されれば良く、コート層の形成方法は特に限定しない。例えば、PVD法、CVD法、スパッタリング法に代表される乾式法でプライマー層上に形成しても良い。或いは、金属酸化物を溶剤または分散媒に溶解または分散させた金属酸化物組成物をプライマー層上に塗布する等、湿式法で形成しても良い。
以下、本発明の樹脂材について詳説する。
【0151】
<樹脂材>
(基材)
本発明の樹脂材は、基材と、基材上に設けられている有機金属化合物含有樹脂層と、有機金属化合物含有樹脂層の改質面上に設けられているコート層と、を有する。基材については既述したとおりのものである。
【0152】
(有機金属化合物含有樹脂層)
プライマー層つまり有機金属化合物含有樹脂層は、上記した製造方法に基づいて得られたものであり、上記した各種の有機金属化合物に由来する有機鎖および金属元素を有する。その他含み得る添加物等についても製造方法の欄に既述したとおりである。
プライマー層の厚さや形状は特に限定せず、樹脂材の用途に応じて適宜設定し得る。本発明の樹脂材においては、プライマー層の表面に凹凸を設けたり、プライマー層の一部をコート層の一部と混在させたりしなくてもプライマー層とコート層との充分な密着性が得られるため、プライマー層は薄い層であっても良い。このようなプライマー層の厚さは、例えば、プライマー層の強度を考慮すると5μm以上、より好ましくは10μm以上あれば良い。プライマー層の厚さの上限値は特にないが、実用性を考慮した上限値をあえて設定すると、1000mm以下であるのが良い。また、例えばプライマー層が紫外線硬化型であれば、紫外光の透過を考慮して、プライマー層の厚さは100mm以下であるのが好ましく、50mm以下であるのがより好ましい。
プライマー層は、基材に背向する表面、つまり、基材と逆側の表面に改質面を有する。上述したように、本発明の製造方法においては、短波長紫外光の照射によりプライマー層の厚さ方向の一部が改質されて、金属濃度の高い改質層を構成する。当該改質層の表面が改質面である。したがって改質面の大部分は金属元素で占められると考えられる。このような改質面は金属酸化物製のコート層に当接する。したがって、改質面とコート層との界面においては、分子間力、イオン結合、配位結合、共有結合、水素結合等によりプライマー層とコート層とが密着すると考えられる。
【0153】
(コート層)
コート層については既述したとおり金属酸化物の層であれば良く、PVD法、CVD法、スパッタリング法に代表される乾式法で形成されたものであっても良いし、溶剤または分散媒に溶解または分散させた金属酸化物を塗布する等の湿式法で形成されたものであっても良い。コート層は金属酸化物のみからなるのが好ましいが、残留した溶媒や添加剤等の副成分を含んでいても良い。コート層とプライマー層との密着性を考慮すると、副成分の含有量はコート層の全体を100質量%としたときに10質量%以下であるのが好ましく、5質量%以下であるのがより好ましく、1質量%以下であるのがさらに好ましい。
コート層の厚さは、プライマー層と同様に、厚くても良いし薄くても良い。コート層の強度を考慮すると、コート層の厚さは50nm以上、好ましくは1μm以上、特に好ましくは3μm以上あるのが良い。コート層の厚さの上限値もまた特にないが、実用性を考慮した上限値をあえて設定すると、100μm以下であるのが良い。
【0154】
本発明の樹脂材は、基材、プライマー層、および、コート層を有するものであれば良く、この三層のみで形成されても良いが、他の構成要素を含んでも良い。例えば、基材にフランジやブラケット等の取付要素を一体化しても良いし、コート層の上層にトップコート層等をさらに設けても良い。
また、プライマー層は基材の表面全体に設けても良いし、一部にのみ設けても良い。コート層は、プライマー層の改質面全体に設けても良いし、改質面の一部にのみ設けても良い。改質面の一部にのみコート層を設ける場合、コート層以外の層を改質面の他の部分に設けても良い。
【0155】
以下に、実施例および比較例等を示し、本発明をより具体的に説明する。なお、本発明は、これらの実施例によって限定されるものではない。以下において「部」とは質量部を意味し、「%」とは質量%を意味する。
【0156】
(1−A)成分の調製(HDI3−HBA)
攪拌装置および空気の吹き込み管を備えた3Lセパラブルフラスコに、ヘキサメチレンジイソシアネートのヌレート型三量体を主成分とするイソシアネート化合物〔旭化成ケミカルズ(株)製デュラネートTPA−100。NCO含有量23%。〕1369.5g(NCO7.5モル)、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール1.22g、ジブチルスズジラウレート0.73gを仕込み、液温を50〜70℃で攪拌しながら、4−ヒドロキシブチルアクリレート1080g(7.5モル)を滴下した。
滴下終了後、80℃で4時間攪拌し、IR分析にて、反応液からイソシアネート基のものが消失していることを確認して反応を終了し、(1−A)成分に該当するイソシアヌル環含有ウレタン(メタ)アクリレート化合物を得た。以下、この反応生成物を「HDI3−HBA」と呼ぶ。
HDI3−HBAは、前記一般式(1)において、R、RおよびRが全てテトラメチレン基で、R、RおよびRが全て水素原子である化合物に該当する。
【0157】
(1−C)成分の調製(THPI−シリカ)
撹拌器を備えた3Lセパラブルフラスコに、トルエン1119g、3,4,5,6−テトラヒドロフタル酸無水物456g(3.0mol)を仕込み、室温で撹拌しながら窒素下で、3−アミノプロピルトリエトキシシラン663g(3.0mol)を滴下した。滴下終了後、エタノールが留出するまで昇温し、次いで反応液を85〜110℃の範囲に保ちながら4時間反応させた。
反応終了後、フラスコを80℃のオイルバスで加熱しながらトルエンやエタノール等の低沸点成分を減圧留去し、一般式(3)のシラン化合物であり(1−c1)に該当する化合物を得た。以下、この反応生成物を「THPI−アルコキシシラン」と呼ぶ。得られたTHPI−アルコキシシランの構造は、H−NMRスペクトルより、前記一般式(3)において、R13がエチル基、R14が1,3−プロピレン基(トリメチレン基)、zが1.2の化合物であることを確認した。
撹拌器を備えた3Lセパラブルフラスコに、プロピレングリコールモノメチルエーテル(以下、PGMという)960g、水23.6g、およびイソプロピルアルコール分散コロイダルシリカ(日産化学工業(株)製IPA−ST、平均粒子径10〜15nm(BET法による比表面積から算出した値)、固形分30%、イソプロピルアルコール70%含有。)800gを仕込み、撹拌均一化後、THPI−アルコキシシラン189gを仕込んで室温で攪拌し、コロイド分散液とした。このとき、(1−c1)と(1−c2)の質量比は44:56であった。
このコロイド分散液を窒素下で80℃に加熱して4時間反応させた後、不揮発性成分が35%となるまでIPAや水等を留去して濃縮した。次いで、PGM640gを加え、反応系中に残存する少量の水等をPGM等と共に留去して不揮発性成分35%の反応生成物を得た。以後、ここで得られた反応生成物のうち、溶剤等を除いた不揮発性成分〔(1−C)成分〕を「THPI−シリカ」と呼ぶ。
【0158】
(3−B)成分の調製(Mac−TQ)
攪拌機および温度計を備えた反応器に、アルコール交換反応用の1−プロパノール150gとテトラメトキシシラン(以下、「TMOS」という)36.53g(0.24モル)とを仕込んだ後、これらを撹拌しながら、25質量%水酸化テトラメチルアンモニウムメタノール溶液4.37g(メタノール0.1モル、水酸化テトラメチルアンモニウム12ミリモル)を徐々に加えて、温度25℃、pH9で6時間反応させた。その後、内温を60℃にして攪拌しながら更に1時間反応させた。ここで、反応液をガスクロマトグラフ分析(TCD検出器)したところ、TMOSのメトキシ基がn−プロポキシ基に置換された化合物(1置換体から4置換体)および未反応のTMOSが検出された。TMOSは痕跡量しか検出されなかった。これらのうちのn−プロポキシ基含有化合物の割合は、合計でほぼ100%であった。ガスクロマトグラムにおける生成物のピーク面積に基づいて、1−プロパノールの置換数(n−プロポキシ基含有化合物1分子あたりのn−プロポキシ基の数の平均)を求めたところ、2.7であった。
次に、上記反応液に、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン59.62g(0.24モル)を加え、さらに水30.2gを加えた。そして、25%水酸化テトラメチルアンモニウムメタノール溶液7.88g(メタノール0.18モル、水酸化テトラメチルアンモニウム21.6ミリモル)を加えて、撹拌しながら、温度25℃、pH9で24時間反応させた。その後、10質量%硝酸水溶液22.2g(35.3ミリモル)加えて中和した。次いで、この中和液を、ジイソプロピルエーテル120gおよび水180gの混合液の中に加えて抽出を行った。このジイソプロピルエーテル層を水洗することで塩類や過剰の酸を除去し、その後、重合禁止剤としてN−ニトロソフェニルヒドロキシルアミシアルミニウム塩〔商品名「Q−1301」、和光純薬工業(株)製。以下、「Q−1301」という〕を11.5mg加えた。得られたジイソプロピルエーテル溶液から、減圧下で有機溶剤を留去し、無色透明な固体の有機ケイ素化合物(3−B1)を得た。その収量は57.72gであった。
【0159】
有機ケイ素化合物(3−B1)をH−NMR分析し、得られた有機ケイ素化合物(3−B1)は、化合物(3−b1)および化合物(3−b2)が化学量論的に反応して得られた共重縮合物であることを確認した。有機ケイ素化合物(3−B1)のH−NMRチャートから算出したアルコキシ基(ケイ素原子に結合したn−プロポキシ基)の含有割合は、仕込み原料に含まれていたアルコキシ基の全体に対して2.5%に相当する量であった。また、Mnは9,600であった。
以下、この反応生成物を「Mac−TQ」と呼ぶ。
【0160】
(複合材1)
(1−A)成分としてHDI3−HBAを60部、(1−B)成分としてのM−315(東亞合成株式会社、商品名アロニックスM−315)を30質量部、(1−C)成分としてのTHPI−シリカを10質量部、光ラジカル重合開始剤としてのIrg−819(BASF株式会社、商品名イルガキュア819)を2質量部、紫外線吸収剤としてのRUVA−93(大塚化学株式会社)を5質量部、有機溶剤としてプロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM)を110質量部、ヒンダードアミン系光安定剤としてのT−123(BASF株式会社、商品名チヌビン123)を0.5質量部、表面改質材としての8019additive(東レ・ダウコーニング株式会社)を0.1質量部を混合し、撹拌してプライマー組成物1とした。
【0161】
なお、M−315はトリス(アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレートでああり、一般式(2)において、R、RおよびRがエチレン基であり、R10、R11およびR12が水素原子であり、n、nおよびnが1で、n+n+n=3である化合物に該当する。
Irg−819はビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイドである。RUVA−93は2−[2−ヒドロキシ−5−(2−メタクリロイルオキシエチル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾールである。T−123はデカン二酸ビス(2,2,6,6−テトラメチル−1−(オクチロキシ)−4−ピペリジニル)エステルである。
参考までに、RUVA−93及びT−123の化学構造を以下に示す。
【0162】
【化12】
【0163】
【化13】
【0164】
(準備工程1:前駆層形成工程)
基材として10cm四方のポリカーボネート製の板を用いた。プライマー組成物1を、当該基材の表面に乾燥後の前駆層の厚さが15〜35μm程度となるようにバーコータで塗布し、前駆層を形成した。
(準備工程2:前処理工程)
次いで、この前駆層を100℃の熱風乾燥機で10分間乾燥した後、すぐに中波長紫外光を照射して前駆層を紫外光硬化させた。このときの前駆層の表面温度は90℃であった。
以上の工程で、基材上にプライマー層が設けられた複合材1を得た。プライマー層の厚さは14μmであった。
中波長紫外光の光源としては、アイグラフィックス(株)製の高圧水銀ランプを使用した。この光源を用い、EIT社製のUV POWER PUCKのUV−A領域(つまり320〜390nm、中心波長360nm)で、ピーク照度150mW/cm、照射エネルギ2000mJ/cmとなるようランプ出力、ランプ高さ、およびコンベア速度を調整し、プライマー層に照射した。照射エネルギの積算値は2000mJ/cmであった。
【0165】
(複合材2)
複合材2は、プライマー組成物の組成以外は複合材1と同じである。具体的には(1−C)成分10質量部にかえて(3−B)成分としてのMac−TQを10質量部用いたこと以外は複合材1と同様にして複合材2を得た。
【0166】
(複合材3)
複合材3は、プライマー組成物の組成以外は複合材1と同じである。具体的には(1−C)成分10質量部にかえて(3−B)成分としてのシロキサン結合含有アクリロイル系化合物を10質量部用いたこと以外は複合材1と同様にして、複合材3を得た。なお、ここで用いたシロキサン結合含有アクリロイル系化合物は、ナガセケムテックス株式会社製のSK−401Mであった。
【0167】
(実施例1)
上記の準備工程で得られた複合材2を以下の改質工程に供した。
【0168】
(改質工程)
複合材2におけるプライマー層の表面に短波長紫外光を照射した。光源としては中心波長172nmのエキシマレーザを用い、ピーク照度59.2W/cm、1パスあたりの照射エネルギが120mJ/cmとなるようにライン速度を調整し、17パス照射した。照射エネルギの積算値は2040mJ/cmであった。なお、実施例1で用いたエキシマレーザは、希ガスとしてXeガスを用いたエキシマレーザである。
以上の工程により、表面に改質面を有するプライマー層が基材上に設けられてなる実施例1の複合材が得られた。
【0169】
改質工程で得られた複合材を100℃で10分間加熱した。
加熱後すぐに、熱いままの当該複合材をコート層形成工程に供した。なお、コート層形成工程前の複合材を予め加熱しておくことで、複合材を膨張させることができる。膨張した状態の複合材上にコート層を形成すれば、複合材の収縮に伴ってコート層に圧縮応力を加えることができる。コート層は金属酸化物製であり樹脂製の基材に比べて伸縮し難い。したがって、基材が大きく膨張すると、基材に追従できないコート層が基材から剥離したりコート層にクラックが生じたりする場合がある。しかし、上記した方法でコート層を形成しておけば、基材とコート層とからなる樹脂材が高温に曝される等して基材が膨張した場合にも、圧縮応力が蓄積されているコート層は膨張方向に変形し易い。つまり、この工程によってコート層の剥離やクラックを抑制できる。当該工程の加熱温度は常温以上であれば良く、基材の軟化温度よりも低い温度であるのが好ましい。
【0170】
(コート層形成工程)
加熱後の複合材を、熱いまま真空室に入れて、複合材に設けられているプライマー層の表面、つまり改質面にプラズマCVD法により酸化ケイ素の層を形成した。CVD法は定法に基づいておこなった。
以上の工程で、基材と、プライマー層と、コート層とを有する実施例1の樹脂材が得られた。
【0171】
(実施例2)
実施例2では、複合材2にかえて複合材3を用いた事以外は実施例1と同様にして、複合材にコート層を形成した。つまり、実施例2の樹脂材は、複合材2にかえて複合材3を用いたこと以外は実施例1と同じものである。
【0172】
(比較例1)
比較例1の樹脂材は複合材2にかえて複合材1を用い、改質工程を施さない複合材1をそのままコート層形成工程に供したこと以外は実施例1と同じものである。つまり、比較例1の樹脂材は改質面を持たない。
【0173】
(比較例2)
比較例1の樹脂材は、改質工程を施さない複合材2をそのままコート層形成工程に供したこと以外は実施例1と同じものである。つまり、比較例2の樹脂材もまた改質面を持たない。
【0174】
(比較例3)
比較例3の樹脂材は複合材2にかえて複合材3を用い、改質工程を施さない複合材3をそのままコート層形成工程に供したこと以外は実施例1と同じものである。つまり、比較例3の樹脂材もまた改質面を持たない。
【0175】
(評価試験)
複合材1〜3につき、以下の外観試験および透明性試験をおこなった。また、実施例1、実施例2および比較例1〜比較例3の樹脂材につき、以下の初期密着性試験および熱耐久密着性試験をおこなった。各試験の結果を各樹脂材に用いたプライマー組成物の組成ならびに配合量とともに表1に示す。
【0176】
【表1】
【0177】
外観試験:コート層形成前の複合材1〜3につき、目視で性状を観察し、外観が良好であるか否かを評価した。外観が良好であるもの、つまり白濁の認められないものをAと評価し、外観に不良のあるもの、つまり白濁の認められたものをBと評価した。
【0178】
透明性試験:コート層形成前の複合材1〜3に対し、JIS K7136に準じて、濁度計NDH−2000(日本電色工業製)にてヘイズH(%)を測定した。Hの値が小さいほど、透明性良好と評価した。
【0179】
初期密着性試験:実施例1、実施例2および比較例1〜比較例3の樹脂材につき、コート層にカッターナイフで縦横各11本の2mm間隔の切り込みを入れて100マスの碁盤目を形成した。各碁盤目にセロハンテープ(ニチバン株式会社)を貼り付け、JIS K5600に準じてセロハンテープを剥離した。セロハンテープ剥離後の残存膜の割合(つまり残存したマス目の数、単位:%)で密着性を評価した。
【0180】
熱耐久密着性試験:初期密着性試験に供したものとは別の実施例1、実施例2および比較例1〜比較例3の樹脂材を水中にて100℃で4時間煮沸した後、初期密着性試験と同様に、コート層に碁盤目を形成し、JIS K5600に準じて碁盤目試験をおこなった。そして、セロハンテープ剥離後の残存膜の割合で密着性を評価した。
【0181】
表1に示すように、複合材1〜3は何れも外観および透明性に優れており、例えば、車両用のウインドウガラス等、優れた透明性を要求される用途に好ましく使用可能である。
【0182】
実施例1、実施例2および比較例1〜比較例3の樹脂材は、何れも初期状態の密着性に優れていた。これは、複合材1〜3は何れも金属元素の含有量が厚さ方向に勾配するプライマー層を有するためだと考えられる。つまり、各プライマー層の表面には金属元素が多く存在するため、プライマー層はコート層に対する密着性に比較的優れている。このため、熱耐久密着性試験のように過酷な条件で使用しないのであれば、改質工程を施さなくても、プライマー層とコート層とが密着した樹脂材が得られるといえる。
【0183】
一方、熱耐久密着性試験の結果によると、実施例1および実施例2の樹脂材はプライマー層とコート層との密着性に優れているといえるが、比較例1〜比較例3の樹脂材はプライマー層とコート層との密着性に劣るといえる。この結果から、プライマー層に改質工程を施すことで、プライマー層とコート層との密着性を過酷な耐久試験にも耐え得る程度にまで向上させ得ることが分かる。つまり、本発明の製造方法によると、プライマー層とコート層との密着性に優れた樹脂材を製造できる。また、本発明の樹脂材は、プライマー層に対するコート層との密着性に優れたものである。
【産業上の利用可能性】
【0184】
本発明の樹脂材の用途は特に限定しないが、例えば、車両用部材に好ましく適用できる。具体的には、車両用の内装部材、外板、樹脂ウィンドウ等が挙げられる。
車両用部材としては、自動車、産業車両、パーソナルビークル、自走可能な車体、鉄道などの内外装部材、外板および樹脂ウィンドウ等が挙げられる。
外装部材としては、ドアモール、ドアミラーのフレーム枠、ホイールキャップ、スポイラー、バンパー、ウィンカーレンズ、ピラーガーニッシュ、リアフィニッシャー、ヘッドランプカバー等が挙げられる。
内装部材としては、インストルメントパネル、コンソールボックス、メーターカバー、ドアロックペゼル、ステアリングホイール、パワーウィンドウスイッチベース、センタークラスター、ダッシュボード、ボンネット等が挙げられる。
外板としては、フロントフェンダー、ドアパネル、ルーフパネル、フードパネル、トランクリッド、バックドアパネル等が挙げられる。
樹脂ウィンドウとしては、サンルーフ、フロントガラス、サイドガラス、リアガラス、リアクウォーターガラス、リアドアクウォーターガラス等が挙げられる。
車両用部材は樹脂製のものがよい。樹脂としては、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、エポキシ樹脂およびポリウレタン等を挙げることができる。特に、ポリカーボネートは十分な透明性と耐衝撃性を有するため、窓ガラス等の車両用部材の樹脂として好適である。
【0185】
(その他)本発明は上記し且つ図面に示した実施形態のみに限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施できる。