(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
[基本構成]
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、本発明の基本的な実施形態である燃料ガス貯蔵装置10の構成を示す図である。この燃料ガス貯蔵装置10は、内燃機関100で消費される燃料ガスを貯蔵するとともに必要に応じて内燃機関100に燃料ガスを供給する装置である。貯蔵される燃料ガスは、内燃機関100の燃料として消費されるガスであれば、その種類は、限定されない。したがって、燃料ガスは、メタンガスやプロパンガス、天然ガス等の炭化水素ガスでもよいし、水素ガス等でもよい。本実施形態では、燃料ガスとしてメタンガスを用いる。
【0018】
燃料ガス貯蔵装置10は、この燃料ガスを貯蔵するためのメインタンクTanmおよびサブタンクTansと、これらタンクTanm,Tansと内燃機関100とを互いに接続する複数の配管と、これら複数の配管上に配された複数のバルブと、サブタンクTansの温度を調温する調温機構16と制御部12と、を備えている。
【0019】
メインタンクTanmは、燃料ガスを貯蔵するためのタンクである。このメインタンクTanmの容量は、燃料ガスの必要な貯蔵量に応じて決定されればよい。このメインタンクTanmの内部には、吸着材14が充填されている。
【0020】
吸着材14は、燃料ガスを吸着保持する部材である。吸着材14としては、例えば、活性炭や金属有機構造体、あるいは、これらの混合物からなるものを利用できる。金属有機構造体としては、例えば、[Cu
3(BTC)
2]nの組成を有する金属有機構造体が提案されている。また、燃料ガスとして水素ガスを用いる場合には、吸着材14としてカーボンナノチューブ等のファインカーボンを用いてもよい。こうした吸着材14は、メインタンクTanmの内部に充填され、燃料ガスを吸着保持する。
【0021】
サブタンクTansは、メインタンクTanmから燃料ガスを取り出し、内燃機関100に放出するタンクである。このサブタンクTansの容量は、メインタンクTanmよりも大幅に小さくなっている。このサブタンクTansの容量は、後述する調温機構16の性能や一度に放出したいガス量等に応じて決定されればよいが、例えば、メインタンクTanmが100LのときサブタンクTansは、5L程度にすることができる。
【0022】
このサブタンクTansの内部にも吸着材14が充填されている。サブタンクTans内の吸着材14は、メインタンクTanm内の吸着材14と、同一構成でもよいし、異なる構成であってもよい。ただし、サブタンクTansは、後述するように、加熱および冷却される。この加熱および冷却を効率的に行うために、サブタンクTans内の吸着材14には、熱伝導に優れた粒子、例えば、高熱伝導金属からなる金属粒子やカーボンナノチューブ等が含有されていることが望ましい。
【0023】
サブタンクTansの近傍または内部には、このサブタンクTansを加熱および冷却する調温機構16が設けられている。この調温機構16は、サブタンクTansの内部を、予め規定された放出温度TH以上に加熱でき、また、予め規定された吸着温度TL以下に冷却できるのであれば、その構成は限定されない。したがって、調温機構16としては、例えば、ペルチェ素子やヒートポンプを利用した機構や、冷却冷媒を利用した冷却機構と電熱線等を利用した加熱機構とを組み合わせた機構等を用いることができる。また、後に詳説するように、調温機構16として、メインタンクTanmから放出される燃料ガスの膨張に伴う吸熱作用、および、内燃機関100の排熱を利用した機構を用いてもよい。
【0024】
放出温度THは、サブタンクTansから燃料ガスを放出するために、サブタンクTansを加熱するときの目標温度である。本実施形態では、放出温度THを363K(約90℃)としている。しかし、放出温度THは、サブタンクTansの容量や、燃料ガスおよび吸着材14の特性に応じて、適宜変更されてもよい。また、放出温度THは、一定である必要は無く、残存ガス量や周辺温度等に応じて、変更される可変値でもよい。吸着温度TLは、メインタンクTanmの燃料ガスをサブタンクTansに吸着するために、サブタンクTansを冷却するときの目標温度である。本実施形態では、吸着温度TLを213K(約−60℃)としている。しかし、吸着温度TLも、放出温度THと同様に、サブタンクTansの容量や、燃料ガスおよび吸着材14の特性に応じて、適宜変更されてもよい。また、吸着温度TLも、一定である必要は無く、残存ガス量や周辺温度等に応じて、変更される可変値としてもよい。
【0025】
メインタンクTanmおよびサブタンクTansは、配管を介して内燃機関100に接続されている。具体的には、メインタンクTanmは、メイン配管Lmを介して内燃機関100の吸気管102に接続されている。メインタンクTanmから放出された燃料ガスは、このメイン配管Lmを通って吸気管102に供給される。また、メインタンクTanmとサブタンクTansは、吸着用配管Lsinを介して、サブタンクTansとメイン配管Lmは、放出用配管Lsoutを介して、それぞれ接続されている。後に詳説するように、メインタンクTanmに残存した燃料ガスは、吸着用配管Lsinを通ってサブタンクTansに送られ、サブタンクTansから放出された燃料ガスは、放出用配管Lsoutおよびメイン配管Lmを通って吸気管102に供給される。
【0026】
配管上には、いくつかのバルブが配されている。バルブV0は、メイン配管Lm上に配された電磁弁で、開閉することで、メインタンクTanmと内燃機関100とを連通または遮断する。バルブVtは、吸着用配管Lsin上に配された電磁弁で、開閉することでメインタンクTanmとサブタンクTansとを連通または遮断する。バルブVeは、放出用配管Lsout上に配される電磁弁で、開閉することでサブタンクTansとメイン配管Lmとを連通または遮断する。バルブVaは、メイン配管Lmと放出用配管Lsoutとの交点に配される三方弁で、吸気管102の連通先を、メインタンクTanmまたはサブタンクTansに切り替える。なお、このバルブVaは、省略されてもよい。つまり、サブタンクTansは、内燃機関100およびメインタンクTanmに、連通/遮断の切替可能に接続されていると言える。
【0027】
制御部12は、燃料ガス貯蔵装置10全体の駆動を制御するもので、例えば、演算処理を実行するCPUと、各種パラメータや駆動プログラムを記憶するメモリと、を有する。また制御部12は、例えば、車両に搭載されたECU(Electronic Control Unit)であってもよい。こうした制御部12には、図示しない各種センサでの検出値が入力される。センサとしては、例えば、メインタンクTanmおよびサブタンクTans内の温度を検知する温度センサや、メインタンクTanmおよびサブタンクTans内の圧力を検知する圧力センサ等がある。制御部12は、これらセンサで検知された温度および圧力値に基づいて、複数のバルブや、調温機構16の駆動を制御し、燃料ガスを内燃機関100に供給する。
【0028】
次に、この燃料ガス貯蔵装置10で内燃機関100に燃料ガスを供給する際の動作原理について説明する。既述した通り、本実施形態では、メインタンクTanm内に吸着材14を充填し、この吸着材14に燃料ガスを吸着保持させている。吸着材14での燃料ガスの吸着量は、温度が一定であれば、圧力に依存する。
図2は、常温TS(≒298K)における吸着材14の重量当たりの飽和ガス吸着量と圧力との関係を示すグラフである。
図2に示す通り、通常、吸着材14は、圧力が低くなるほど吸着保持できるガス量も低下する。したがって、メインタンクTanm内の圧力が十分に低くなれば、吸着材14で保持できるガス量も低くなり、吸着材14から離脱した燃料ガスを内燃機関100に供給できる。
【0029】
ここで、通常、初期状態において、メインタンクTanmの圧力は、吸気管102の圧力よりも十分に高い。このメインタンクTanmを吸気管102に連通すると、メインタンクTanmの圧力が低下していき、吸着材14に吸着保持されていた燃料ガスが脱離していく。燃料ガスが脱離して気化することで、メインタンクTanmの圧力が一時的に増加するが、一度気化した燃料ガスは、圧力増加に伴い吸着材14に再度吸着されるより先に、内燃機関100に送られ消費される。その結果、内燃機関100の駆動に伴い、メインタンクTanmの圧力は徐々に低下していき、燃料ガスの貯蔵量も低下していく。
【0030】
ただし、メインタンクTanmに調圧機構やサブタンクTans等を設けない限り、メインタンクTanmの圧力は、吸気管102の圧力下限値Pminを下回ることはない。吸気管102の圧力下限値Pminは、内燃機関100の仕様によって異なるが、本実施形態では、0.5Mpaとなっている。したがって、調圧機構やサブタンクTans等を有さない構成の場合、メインタンクTanmの圧力は、0.5Mpa未満にはなり難く、メインタンクTanmの残存ガス量を一定以下にすることは難しかった。かかる問題を避けるために、メインタンクTanmに可動壁を有した調圧機構を設けることも一部で提案されている。しかし、こうした調圧機構を設けた場合、メインタンクTanmの初期圧力を高くすることが難しく、結果として、メインタンクTanmの初期段階でのガス吸着量を増やすことが難しいという問題がある。また、調圧機構からのガス漏れの恐れもあった。
【0031】
また、別の技術として、吸着材14にガスを吸着させる際にメインタンクTanmを15℃以下に冷却し、その後、メインタンクTanmの温度を上昇させてガスの一部を脱着させて、メインタンクTanm内の圧力を上昇させる技術も提案されている。しかし、こうした技術では、メインタンクTanm全体を冷却しなければならず、その冷却に大量のエネルギーを必要とする。
【0032】
本実施形態では、こうした問題を解決するために、サブタンクTansを設け、サブタンクTansを調温している。これについて
図3を参照して説明する。
図3は、吸着材14の重量当たりの飽和ガス吸着量の温度による違いを示すグラフである。実線は、常温(TS=298K)のときの吸着量を、破線は、高温(TH=363K)のときの吸着量を、一点鎖線は、低温(TL=218K)のときの吸着量を示している。
【0033】
図3に示す通り、燃料ガスの吸着量は、圧力が同じであれば、温度が高いほど少なく、温度が低いほど多くなる。こうした吸着材14の特性を利用すれば、圧力を0.5Mpa(圧力下限値Pmin)未満に下げなくても、燃料ガスを効率的に取り出すことができる。
【0034】
具体的に説明すると、本実施形態では、メインタンクTanmから内燃機関100への放出が困難、すなわち、メインタンクTanmの圧力0.5Mpa以下となれば、サブタンクTansを冷却するととともに当該冷却されたサブタンクTansをメインタンクTanmに連通させる。冷却することにより、サブタンクTans内の吸着材14の吸着能力は、大幅に向上する。結果として、メインタンクTanm内の常温の吸着材14と、サブタンクTans内の低温の吸着材14との間には、吸着能力の差が生じており、この吸着能力の差に応じた量の燃料ガスが、メインタンクTanmからサブタンクTansへ移動することになる。また、本実施形態では、サブタンクTansの吸着材14に燃料ガスが吸着できれば、今度は、サブタンクTansを加熱して、サブタンクTansと内燃機関100とを連通させる。加熱することでサブタンクTans内の吸着材14のガス吸着能力は大幅に低下し、吸着材14から脱落した燃料ガスが、内燃機関100に放出されることになる。そして、こうしたサブタンクTansの冷却および加熱を繰り返すことで、従来、メインタンクTanmから取り出せなかった燃料ガスも取り出すことができる。また、サブタンクTansは、上述したように、メインタンクTanmに比べて容量が小さいため、その冷却および加熱に用いるエネルギー量も小さく抑えることができる。結果として、燃料ガスを効率的に取り出すことができる。
【0035】
次に、この燃料ガス貯蔵装置10の制御の流れについて
図4A、
図4Bを参照して説明する。
図4A、
図4Bは、燃料ガス貯蔵装置10から内燃機関100に燃料ガスを供給する際の制御の流れを示すフローチャートである。燃料ガスを供給する際、制御部12は、まず、バルブVt,Veを閉鎖して、サブタンクTansをメインタンクTanmおよび内燃機関100から遮断する(S10)。続いて、バルブV0を開放して、メインタンクTanmを内燃機関100に連通させる(S12)。これにより、メインタンクTanmから内燃機関100への燃料ガスの放出が開始される。なお、以下では、このメインタンクTanmからの内燃機関100への燃料ガスの放出を、単に「自然放出」と呼ぶ。内燃機関100は、自然放出により放出された燃料ガスを消費し、駆動する。この内燃機関100の駆動に伴い、メインタンクTanm内の燃料ガス量は、徐々に低下していく。
【0036】
この自然放出は、メインタンクTanmの圧力が、圧力下限値Pmin以下になるまで継続されるが、制御部12は、自然放出の終了に先だって、サブタンクTansからの放出の準備を行う。具体的には、自然放出の実行期間中、制御部12は、メインタンクTanmが現在の圧力Pmainで吸着可能なガス量Nmain(TS,Pmain)が、予め規定された基準ガス量Nd未満になったか否かを監視している(S14)。ここで、基準ガス量Ndは、圧力下限値Pmin(例えば0.5MPa)かつ常温でのメインタンクTanmでの吸着可能ガス量Nmain(TS,Pmin)と、圧力下限値Pminかつ吸着温度TLでのサブタンクTansの吸着可能ガス量Nsub(TL,Pmin)と、若干の余裕ガス量αと、を加算した値である。すなわち、Nd=Nmain(TS,Pmin)+Nsub(TL,Pmin)+αmolである。
【0037】
制御部12は、Nmain(Ts,P)<Ndを満たすと判断すれば、サブタンクTansからのガス放出の準備を開始する。すなわち、制御部12は、まず、バルブV1を開放して、サブタンクTansとメインタンクTanmとを連通させるととともに、調温機構16を駆動してサブタンクTansを冷却する(S16)。この冷却は、サブタンクTansの温度Tsubが吸着温度TLに達するまで行われる。そして、サブタンクTansが十分に冷却されることで、メインタンクTanmに残存している燃料ガスが、サブタンクTansに移動し、吸着される。以下では、このサブタンクTans内の吸着材14にメインタンクTanm内の燃料ガスを吸着させる処理を「吸着処理」と呼ぶ。
【0038】
次に、制御部12は、この吸着処理の実行期間中、メインタンクTanmの圧力Pmainが、圧力下限値Pminに若干の余裕量βを付加した値(Pmin+β)以下になるか否かを監視する(S18)。ここで、余裕量βは、一度、吸着温度TLまで冷却したサブタンクTansを、放出温度THまで昇温する期間中に、内燃機関100で消費される燃料ガス量程度の値である。
【0039】
Pmain≦(Pmin+β)となれば、制御部12は、バルブVtを閉鎖するとともに、調温機構16を駆動してサブタンクTansを放出温度THまで加熱する(S20)。バルブVtを閉鎖することで、メインタンクTanmとサブタンクTansとが遮断され、サブタンクTansでの吸着処理が終了となる。また、バルブVtが閉鎖されることで、サブタンクTansは、メインタンクTanmおよび内燃機関100の両者から遮断された閉鎖状態となる。この閉鎖状態でサブタンクTansを加熱することにより、吸着材14の温度が高くなり、吸着材14に一度吸着された燃料ガスが放出されやすい状態となる。以下では、このサブタンクTansを閉鎖状態で加熱する処理を「放出準備処理」と呼ぶ。
【0040】
制御部12は、この放出処理準備の実行期間中、メインタンクTanmの圧力Pmainが、規定の圧力下限値Pmin以下となるか否かを監視する(S22)。監視の結果、メインタンクTanmの圧力Pmainが圧力下限値Pmin以下となれば、制御部12は、自然放出の継続は困難と判断し、サブタンクTansからの放出処理に移行する。具体的には、バルブV0を閉鎖して、メインタンクTanmを内燃機関100から遮断するとともに、バルブVeを開放して、サブタンクTansを内燃機関100に連通する(S24)。このとき、サブタンクTans内は、高温に加熱されているため、吸着材14の吸着能力は低く、多くの燃料ガスは、吸着材14から脱落している。この脱落している燃料ガスが、放出され、内燃機関100に供給される。以下では、このサブタンクTansと内燃機期間とを連通した状態でサブタンクTansを加熱して燃料ガスを放出する処理を「放出処理」と呼ぶ。
【0041】
この放出処理の実行期間中、制御部12は、サブタンクTansの圧力Psubが圧力下限値Pmin以下になるか否かを監視する(S26)。そして、Psub≦Pminとなれば、サブタンクTansからの放出の継続は困難と判断し、放出処理を終了する。この場合、制御部12は、バルブVeを閉鎖して、サブタンクTansと内燃機関100とを遮断する。また、制御部12は、バルブVtを開放してサブタンクTansとメインタンクTanmとを連通した状態でサブタンクTansを冷却する(S28)。つまり、サブタンクTansでの燃料ガスの吸着処理を開始する。
【0042】
この吸着処理の実行期間中、制御部12は、吸着処理が完了したか否かを監視する(S30)。具体的には、制御部12は、サブタンクTansの温度Tsubが吸着温度TL以下(Tans≦TL)、かつ、サブタンクTansの圧力PsubがメインタンクTanmの圧力Pmainと等しい(Psub=Pmain)、という吸着完了条件を満たすか否かを監視する。そして、吸着処理が完了したと判断した場合(S30でYes)、制御部12は、バルブVtを閉鎖して、サブタンクTansをメインタンクTanmおよび内燃機関100から遮断するととともに、サブタンクTansを加熱する(S32)。すなわち、放出準備を実行する。この放出準備は、サブタンクTansの温度Tsubが、放出温度THに達するまで行う(S34)。
【0043】
Tsub≧TH、すなわち、放出準備処理完了となれば、続いて、制御部12は、サブタンクTansの圧力Psubが、圧力下限値Pminを超えるか否かを確認する(S36)。そして、放出準備完了時においてPsub>Pminであれば(S36でNo)、制御部12は、バルブVeを開放して、放出処理を実行する(S38)。そして、放出処理を、Psub≦Pminになるまで実行すれば、ステップS28へと戻る。そして、以降は、放出準備完了時においてPsub≦Pminという条件を満たすまで、ステップS28からステップS40を繰り返す。一方、放出準備処理完了時における圧力Psubが、圧力下限値Pmin以下の場合(S36でNo)、制御部12は、メインタンクTanm内の残存ガス量は、十分に少ないと判断する。この場合には、燃料ガスの供給処理を完全に終了する。
【0044】
以上の説明から明らかな通り、本実施形態によれば、調圧機構等を設けたり、メインタンクTanm全体を調温したりしなくても、メインタンクTanmからより多量の燃料ガスを取り出すことができる。結果として、従来よりも効率的に燃料ガスを取り出すことができる。
【0045】
[第二実施形態]
次に、第二実施形態について
図5〜
図7を参照して説明する。
図5は、第二実施形態である燃料ガス貯蔵装置10の構成を示す図である。また、
図6A、
図6Bは、この燃料ガス貯蔵装置10での燃料ガス供給処理の流れを示すフローチャートである。さらに、
図7は、この燃料ガス貯蔵装置10での燃料ガス供給処理のタイミングを説明する図である。
【0046】
図1に示した基本的な実施形態では、サブタンクが一つしかなかった。そのため、基本的な実施形態では、ガス吸着のためにサブタンクTansを冷却している間は、燃料ガスを内燃機関100に供給できないという問題があった。
【0047】
そこで、本実施形態では、二つのサブタンク、すなわち、第一サブタンクTans1と第二サブタンクTans2を設けている。なお、以下の説明では、第一と第二を区別しないときは単に「サブタンクTans」という。また、他部材も同様である。二つのサブタンクTansは、調温機構16により、それぞれ独立して加熱および冷却される。また、各サブタンクTansは、それぞれ、独立した配管Lsin,Lsoutを介してメインタンクTanm、および、メイン配管Lmに接続されており、各配管Lsin,Lsout上には、それぞれ独立して開閉可能なバルブVt,Veが設けられている。つまり、各サブタンクTansは、独立して(他のサブタンクTansに連動することなく)、調温可能であり、また、メインタンクTanmおよび内燃機関100との連通/遮断状態も独立して切替可能となっている。
【0048】
かかる燃料ガス貯蔵装置10において、制御部12は、燃料ガスを放出するサブタンクTansと、燃料ガスを吸着するサブタンクTansと、を順次切り替える。より具体的に説明すると、制御部12は、各サブタンクTansに対して、放出温度THまで加熱した状態で内燃機関100と連通する放出処理と、吸着温度TLまで冷却した状態でメインタンクTanmと連通する吸着処理と、内燃機関100およびメインタンクTanmから遮断した状態で放出温度THまで加熱する放出準備処理と、を繰り返し行う。制御部12は、一方のサブタンクTansに対して放出処理を実行している期間中、他方のサブタンクTansに対して吸着処理と放出準備処理とを行う。制御部12は、一方のサブタンクTansの放出処理が完了する(サブタンクTansの圧力が圧力下限値Pmin以下になる)前に、他方のサブタンクTansの放出準備処理を完了させる。
【0049】
次に、この燃料ガス貯蔵装置10でのガス供給処理の流れについて、
図6A、
図6Bを参照して説明する。
図6Aに示すステップS110〜ステップS126は、第一実施形態のステップS10〜ステップS26とほぼ同じである。すなわち、制御部12は、内燃機関100に燃料ガスを供給する際には、まず、バルブVt1,Vt2,Ve1,Ve2を閉鎖して、サブタンクTans1,Tans2をメインタンクTanmおよび内燃機関100から遮断する(S110)。その状態で、バルブV0を開放し、メインタンクTanmから内燃機関100に燃料タンクを放出する自然放出を開始する(S112)。自然放出の過程で、制御部12は、Nmain(TS,Pmain)<Ndの条件を満たすか否かを監視する。ここで、Nmain(TS,Pmain)は、既述した通り、メインタンクTanmが常温かつ現在の圧力であるとした場合のメインタンクTanmの吸着可能ガス量(分子量)である。また、基準ガス量Ndは、圧力下限値Pmin(例えば0.5MPa)かつ常温でのメインタンクTanmでの吸着可能ガス量Nmain(TS,Pmin)と、圧力下限値Pminかつ吸着温度TLでのサブタンクTansの吸着可能ガス量Nsub1(TL,Pmin)+Nsub2(TL,Pmin)と、若干の余裕ガス量αと、を加算した値である。すなわち、Nd=Nmain(TS,Pmin)+Nsub1(TL,Pmin)+Nsub2(TL,Pmin)+αmolである。
【0050】
制御部12は、Nmain(TS,Pmain)<Ndを満たすと判断すれば、第一、第二サブタンクTans1,Tans2に対して吸着処理を実行する(S116)。すなわち、バルブVt1,Vt2を開放して、サブタンクTans1,Tans2をメインタンクTanmに連通し、その状態で第一、第二サブタンクTans1,Tans2を冷却する。その後、メインタンクTanmの圧力Pmainが、圧力下限値Pminに若干の余裕量βを付加した値(Pmin+β)以下になれば(S118でYes)、吸着処理を中断し、放出準備処理を開始する(S120)。すなわち、バルブVt1,Vt2を閉鎖して、第一、第二サブタンクTans1,Tans2をメインタンクTanmおよび内燃機関100から遮断した状態で加熱する。
【0051】
そして、メインタンクTanmの圧力Pmainが、圧力下限値Pmin以下になれば(S122でYes)、制御部12は、バルブV0を閉鎖して自然放出を終了するとともに、バルブVe1を開放して、第一サブタンクTans1からのガス放出を行う(S124)。このガス放出は、第一サブタンクTans1の圧力Psub1が圧力下限値Pmin以下になるまで(S126でYesとなるまで)行う。
【0052】
Psub1≦Pminとなれば、制御部12は、次に、第二サブタンクTans2からガス放出するとともに、第一サブタンクTans1でガス吸着を行う(S128)。すなわち、制御部12は、バルブVe2を開放して、第二サブタンクTans2と内燃機関100とを連通させる。また、制御部12は、バルブVe1を閉鎖するとともにバルブVt1を開放して、第一サブタンクTans1とメインタンクTanmとを連通するとともに第一サブタンクTans1を冷却する。
【0053】
この第一サブタンクTans1の冷却処理は、第一サブタンクTans1での吸着が完了、または、第二サブタンクTans2からの放出完了間近となる(S130でYes)まで行う。ここで、制御部12は、第一サブタンクTans1の温度が吸着温度TL以下、かつ、第一サブタンクTans1の圧力Psub1がメインタンクTanmの圧力Pmainと同じなる場合(Tsub1≦TLかつPsub1=Pmainの場合)に、第一サブタンクTans1の吸着が完了と判断する。また、制御部12は、第二サブタンクTans2の圧力Psub2が、圧力下限値Pminに若干の余裕量βを付加した値以下になる場合(Psub2≦(Pmin+β)の場合)に、第二サブタンクTans2からの放出完了間近と判断する。そして、制御部12は、(Tsub1≦TLかつPsub1=Pmain)または(Psub2≦(Pmin+β))のいずれかが成立する場合には、第一サブタンクTans1に対する吸着処理を中止し、ステップS132に進む。
【0054】
ステップS132では、制御部12は、第一サブタンクTans1に対して放出準備処理を実行する。すなわち、バルブVt1を閉鎖して、第一サブタンクTans1をメインタンクTanmおよび内燃機関100から遮断した状態で、第一サブタンクTans1を加熱する。そして、第二サブタンクTans2からの放出が完了、すなわち、Psub2≦Pminとなれば(S134でYesとなれば)、今度は、第一サブタンクTans1から内燃機関100に燃料ガスを放出するとともに第二サブタンクTans2でメインタンクTanm内の残存ガスを吸着する(S138)。ただし、ステップS138に移行する前に、制御部12は、放出準備完了時における第一サブタンクTans1の圧力Psub1が圧力下限値Pminを超えるか否かを確認する(S136)。放出準備完了時、すなわち、第一サブタンクTans1を閉鎖した状態で十分に加熱しても、圧力Psub1が圧力下限値Pminを超えない場合には、メインタンクTanm内の残存ガス量は、十分に少ないと判断する。この場合には、燃料ガスの供給処理を完全に終了する。
【0055】
一方、ステップS136でPsub1>Pminとなれば、制御部12は、第一サブタンクTans1から内燃機関100に燃料ガスを放出するとともに第二サブタンクTans2でメインタンクTanm内の残存ガスを吸着する(S138)。その後、制御部12は、第一サブタンクTans1からのガス放出が完了間近(Psub1<(Pmin+β))または第二サブタンクTans2でのガス吸着が完了(Tsub2≦TLかつPsub2=Pmain)するか否かを監視する(S140)。ステップS140でYesとなれば、制御部12は、第二サブタンクTans2に対して放出準備処理を実行する。すなわち、バルブVt2を閉鎖して、第二サブタンクTans2をメインタンクTanmおよび内燃機関100から遮断した状態で第二サブタンクTans2を加熱する。そして、Psub1≦PminかつPsub2>Pminとなれば、ステップS128に戻り、第二サブタンクTans2からガス放出、第一サブタンクTans1でガス吸着を行う。以降、放出準備完了時におけるサブタンクTansの圧力Psubが、圧力下限値Pmin以下とならない限り、ステップS128〜S146を繰り返す。
【0056】
次に、第一、第二サブタンクTans1,Tans2からのガス供給処理におけるタイミング切替を
図7を参照して説明する。
図7において、白抜き矢印は、吸着処理の、グレーハッチングの矢印は、放出準備処理の、クロスハッチングの矢印は、放出処理の実行期間を示している。
【0057】
図7に示す通り、また、これまで説明した通り、本実施形態では、時刻t0において、準備開始条件(Nmain(TS,P)<Nd)を充足すれば、第一、第二サブタンクTans1,Tans2での吸着処理を開始する。その後、時刻t1においてメインタンクTanmでの放出完了間近、すなわち、Pmain≦(Pmin+β)となれば、第一、第二サブタンクTan1,Tans2での放出準備処理を開始する。そして、時刻t2において、メインタンクTanmでの放出が完了、すなわち、Pmain≦Pminとなれば、まず、第一サブタンクTans1から燃料ガスを放出する。このとき、第二サブタンクTans2は、メインタンクTanmおよび内燃機関100から遮断された状態のまま放出温度THに保たれている。
【0058】
その後、時刻t3において、第一サブタンクTans1での放出処理が完了(Psub1≦Pmin)となれば、第二サブタンクTans2での放出処理を開始するとともに、第一サブタンクTans1での吸着処理を開始する。第二サブタンクTans2での放出処理中である時刻t4において、第一サブタンクTans1での吸着処理が完了、すなわち、Tsub1≦TLかつPsub1=Pmainとなれば、第一サブタンクTans1での放出準備処理を開始する。そして、時刻t5において、第二サブタンクTans2での放出処理が完了すれば、第一サブタンクTans1での放出処理を開始するとともに、第二サブタンクTans2での吸着処理を開始する。
【0059】
ここで、内燃機関100での燃料ガスの消費速度が一時的に速くなり、時刻t6において、第一サブタンクTans1の放出完了間近になったとする。この場合には、第二サブタンクTans2の吸着処理が完了していなくても、第二サブタンクTans2での吸着処理を中止し、放出準備処理を開始する。そして、時刻t7において、第一サブタンクTans1の放出処理が完了となれば、第二サブタンクTans2での放出処理を開始するとともに、第一サブタンクTans1での吸着処理を開始する。以降、同様の手順を繰り返す。
【0060】
以上の説明、および、
図7から明らかな通り、本実施形態によれば、サブタンクTansを二つ設けており、一方のサブタンクTansからのガス放出が終了すれば、即座に、他方のサブタンクTansからのガス放出を開始する。その結果、燃料ガスが間断無く放出され、内燃機関100を連続して駆動し続けることができる。また、第一実施形態と同様に、本実施形態でも、調温しているのは、比較的容量の小さいサブタンクTansであるため、調温に要するエネルギー量を小さく抑えることができ、結果として、燃料ガスを効率的に取り出すことができる。
【0061】
[第三実施形態]
次に、第三実施形態について
図8〜
図9Bを参照して説明する。
図8は、第三実施形態である燃料ガス貯蔵装置10の構成を示す図である。また、
図9A、
図9Bは、この燃料ガス貯蔵装置10での燃料ガス供給処理の流れを示すフローチャートである。
【0062】
図8に示す通り、本実施形態の燃料ガス貯蔵装置10は、三つのサブタンク、すなわち、第一、第二、第三サブタンクTans1,Tans2,Tans3を有している点で、第二実施形態と相違している。三つのサブタンクTansは、互いに独立して調温可能であり、また、メインタンクTanmおよび内燃機関100との連通/遮断状態も独立して切替可能となっている。
【0063】
かかる燃料ガス貯蔵装置10において、制御部12は、燃料ガスを放出するサブタンクTansと、燃料ガスを吸着するサブタンクTansと、を順次切り替える。より具体的に説明すると、制御部12は、第一サブタンクTans1からの燃料ガスの放出が完了すれば、第二サブタンクTans2からガスを放出させ、第二サブタンクTans2からの燃料ガスの放出が完了すれば、第三サブタンクTans3からガスを放出させ、第三サブタンクTans3からの燃料ガスの放出が完了すれば、第一サブタンクTans1からガスを放出させる。また、各サブタンクTansは、ガスの放出処理が完了すれば、吸着処理、および、放出準備処理を行う。
【0064】
次に、この燃料ガス貯蔵装置10でのガス供給処理の流れについて、
図9A、
図9Bを参照して説明する。
図9Aに示すステップS210〜ステップS226は、第二実施形態のステップS110〜ステップS126とほぼ同じであるため、
図9Aの説明は省略する。なお、ステップS214における基準ガス量Ndは、Nd=Nmain(TS,Pmain)+Nsub1(TL,Pmin)+Nsub2(TL,Pmin)+Nsub3(TL,Pmin)+αmolである。
【0065】
第二実施形態と同様に、メインタンクTanmからの自然放出が終了(S222でYes)すれば、第一サブタンクTans1での放出処理を開始する(S224)。この放出処理は、第一サブタンクTans1の圧力Psub1が、圧力下限値Pmin以下となるまで続けられる。
【0066】
そして、第一サブタンクTans1の圧力Psub1が圧力下限値Pmin以下となれば、
図9Bに示すように、ステップS230a〜S244a、ステップS230b〜S244b、ステップS230c〜S244cを並行して行う。
【0067】
すなわち、制御部12は、サブタンクTansまたはメインタンクTanmからのガス放出が完了したか否かを監視する(S230a,S230b,S230c)そして、一つのサブタンクTansまたはメインタンクTanmからのガス放出が完了したと判断した場合には、後続のサブタンクTansの内燃機関100側のバルブVeを開放して、後続のサブタンクTansからガス放出を開始する(S232a,S232b,S232c)。そして、後続のサブタンクTansからのガス放出が完了(S234a,S234b,S234cでYes)となれば、後続サブタンクTansでの吸着処理を開始する(S236a,S236b,S236c)。すなわち、後続のサブタンクTansの内燃機関100側のバルブVeを閉鎖するとともに、メインタンクTanm側のバルブVtを開放した状態で後続のサブタンクTansを冷却する。
【0068】
そして、後続のサブタンクTansの吸着処理が終了すれば(S238a,S238b,S238c)、後続のサブタンクTansに対して放出準備処理を開始する(S240a,S240b,S240c)。そして、後続のサブタンクTansが放熱温度に達すれば(S242a,S242b,S242c)、後続のサブタンクTansの圧力Psubを確認する(S244a,S244b,S244c)。確認の結果、後続のサブタンクTansの圧力Psubが、圧力下限値Pmin以下の場合には、全ての処理を終了する。一方、Psub>Pminである場合には、ステップS238a,S238b,S238cに戻り、以降、同様の処理を繰り返す。
【0069】
このように、サブタンクTansを三つ設けた場合でも、第二実施形態と同様に、ガス放出するサブタンクTansを順次、切り替えるため、燃料ガスが間断無く放出され、内燃機関100を連続して駆動し続けることができる。特に、サブタンクTansを三つ以上設けた場合、サブタンクTansが二つだけの場合に比して、燃料ガスの消費速度の急増にも対応でき、内燃機関100をより確実に連続駆動できる。また、第一、第二実施形態と同様に、本実施形態でも、調温しているのは、比較的容量の小さいサブタンクTansであるため、調温に要するエネルギー量を小さく抑えることができ、結果として、燃料ガスを効率的に取り出すことができる。
【0070】
[第四実施形態]
次に、第四実施形態について
図10〜
図12を参照して説明する。
図10は、第四実施形態である燃料ガス貯蔵装置10の構成を示す図である。また、
図11は、この燃料ガス貯蔵装置10での燃料ガス供給処理の流れを示すフローチャートである。また、
図12は、この燃料ガス貯蔵装置10での燃料ガス供給処理のタイミングを説明する図である。
【0071】
図10に示す通り、本実施形態の燃料ガス貯蔵装置10は、二対のタンク対、すなわち、第一タンク対20aと第二タンク対20bとを有している。各タンク対20は、それぞれ、二つのサブタンクTansを有している。つまり、本実施形態では、合計で四つのサブタンクTansを有していることになる。
【0072】
一対のサブタンクTansの間には、調温機構16として機能するペルチェ素子PE1,PE2が配されている。ペルチェ素子PE1,PE2は、一方の面が吸熱面、他方の面が発熱面として機能し、印加電流の極性を反転させると吸熱面と発熱面とが反転する。かかるペルチェ素子を一対のサブタンクTansの間に配することで、一対のサブタンクTansの一方を加熱している間、他方のサブタンクTansは、冷却される。また、印加電流の極性を反転させると、それまで加熱されていたサブタンクTansが冷却され、冷却されていたサブタンクTansが加熱される。
【0073】
また、タンク対20とメインタンクTanmおよび内燃機関100との間には、バルブVe,Vtの他に、さらに、三方弁も設けられている。メインタンクTanm側の三方弁Vb1,Vb2は、メインタンクTanmの連通先が常に冷却中のサブタンクTansになるように、また、内燃機関100側の三方弁Vc1,Vc2は、内燃機関100の連通先が常に加熱中のサブタンクTansになるように、その開放方向が切り替わる。
【0074】
制御部12は、一つのサブタンクTansからのガス放出が完了すれば、当該サブタンクTansが属するタンク対20のペルチェ素子PEの冷熱を切り替える。また、当該サブタンクTansに対応する内燃機関100側バルブVeを閉鎖し、他のタンク対20に対応する内燃機関100側バルブVeを開放し、他のタンク対20からガス放出させる。
【0075】
制御部12の処理の流れについて
図11を参照してより具体的に説明する。制御部12は、最初に、バルブVt1,Vt2,Ve1,Ve2を閉鎖した状態で、バルブV0を開放し、メインタンクTanmからの自然放出を行う(S310,S312)。そして、メインタンクTanmの吸着可能ガス量N(TS,Pmain)が、基準ガス量Nd未満となれば(S314でYes)、バルブVt1,Vt2を開放して各タンク対20とメインタンクTanmとを連通するとともに、第一、第二ペルチェ素子PE1,PE2を駆動して、サブタンクTansの加熱および冷却を開始する(S316)。これにより、ペルチェ素子PE1,PE2により冷却されているサブタンクTansには、メインタンクTanmの残存ガスが吸着される。
【0076】
次に、自然放出が完了間近、すなわち、Pmain≦(Pmin+β)となれば(S318でYesとなれば)、第一、第二ペルチェ素子PE1,PE2の冷熱を切り替える。これにより、それまで、それまで加熱されていたサブタンクTansが冷却され、当該サブタンクTansにも、メインタンクTanmの残存ガスが吸着される。つまり、四つのサブタンクTans全てに、メインタンクTanmの残存ガスが吸着される。また、既に、残存ガスを吸着したサブタンクTansは、加熱され、ガス放出が可能な状態となる。
【0077】
Pmain≦Pminとなれば(S322でYes)、制御部12は、バルブV0を閉鎖して自然放出処理を中止するとともに、バルブVe1を開放する(S324)。これにより、第一タンク対20aに属するサブタンクTans1、Tans2のうち加熱されているサブタンクTans(以下「加熱側サブタンクTans」という)から燃料ガスが放出される。この放出処理は、加熱側サブタンクTansの圧力Psub1(TH)が圧力下限値Pmin以下となるまで(S326でYes)継続される。
【0078】
加熱側サブタンクTansの圧力Psub1(TH)が十分に下がれば、次に、制御部12は、第二タンク対20bの加熱側サブタンクTansの圧力Psub2(TH)が、圧力下限値Pminを超えるか否かを確認する(S328)。確認の結果、Psub2(TH)≦Pminとなれば、燃料ガスの供給処理を終了する。
【0079】
一方、Psub2(TH)>Pminならば、制御部12は、バルブVe1を閉鎖、バルブVe2を開放するとともに、第一ペルチェ素子PE1の冷熱を切り替える(S330)。これにより、第二タンク対20bの加熱側サブタンクTansから燃料ガスが放出される。また、第一ペルチェ素子PE1の冷熱を切り替えることで、第一タンク対20aのうち、燃料ガスが放出され、ほぼ空になったサブタンクTansが、冷却され、新たに、メインタンクTanmから残存ガスを吸着する。
【0080】
第二タンク対20bの加熱側サブタンクTansからの放出は、当該加熱側サブタンクTansの圧力Psub2(TH)が圧力下限値Pmin以下となる(S332でYes)まで継続する。そして、Psub2(TH)≦Pminとなれば、制御部12は、第一タンク対20aの加熱側サブタンクTansの圧力Psub1(TH)を確認する(S334)。確認の結果、Psub1(TH)≦Pminとなれば、燃料ガスの供給処理を終了する。
【0081】
一方、Psub1(TH)>Pminならば、制御部12は、バルブVe2を閉鎖、バルブVe1を開放するとともに、第二ペルチェ素子PE2の冷熱を切り替える(S336)。これにより、第一タンク対20aの加熱側サブタンクTansから燃料ガスが放出される。また、第二ペルチェ素子PE2の冷熱を切り替えることで、第二タンク対20bのうち、燃料ガスが放出され、ほぼ空になったサブタンクTansが、冷却され、新たに、メインタンクTanmから残存ガスを吸着する。その後は、ステップS324に戻り、ステップS324〜S336を繰り返す。
【0082】
次に、この燃料ガス供給装置での各種処理の切り替えタイミングを
図12を参照して説明する。
図12において、白抜き矢印は、吸着処理の、グレーハッチングの矢印は、放出準備処理の、クロスハッチングの矢印は、放出処理の実行期間を示している。別の言い方をすればハッチングの矢印は、加熱されている期間を、白抜きの矢印は、冷却されている期間を示している。また、
図12では、メインタンクTanm側のバルブVt1、Vt2の開閉タイミングは記載されていないが、これらバルブVt1,Vt2は、常時、開放状態となっている。
【0083】
図12に示す通り、また、これまで説明した通り、本実施形態では、時刻t0において、準備開始条件(Nmain(TS,Pmain)<Nd)を充足すれば、第一、第二ペルチェ素子PE1,PE2に正の極性の電流が印加され、サブタンクTansの加熱または冷却が開始される。図示例では、Tans1、Tans3が冷却され、Tans2、Tans4が加熱される。その結果、メインタンクTanmの残存ガスが、サブタンクTans1、Tans3に吸着される。
【0084】
その後、時刻t1において、自然放出の完了間近となれば、第一、第二ペルチェ素子PE1,PE2の冷熱が切り替えられる。その結果、メインタンクTanmの残存ガスが、サブタンクTans2,Tans4に吸着される。また、サブタンクTans1,Tans3は、加熱され、放出可能な状態になる。
【0085】
時刻t2において、自然放出が完了すれば、第一タンク対20aに対応するバルブVe1が開放され、第一タンク対20aの加熱側サブタンクTans1から燃料ガスが放出される。時刻t3において、サブタンクTans1からのガス放出が完了すれば、バルブVe1を閉鎖してバルブVe2を開放するとともに、第一ペルチェ素子PE2の冷熱を切り替える。これにより、第二タンク対20bの加熱側サブタンク3から燃料ガスが放出される。また、第一タンク対20aにおいて、加熱側サブタンクと冷却側サブタンクが反転する。そして、燃料ガスを放出し、空になったサブタンクTans1が冷却され、メインタンクTanmの残存ガスが当該サブタンクTans1に吸着される。
【0086】
時刻t4において、サブタンクTans3からのガス放出が完了すれば、バルブVe2を閉鎖してバルブVe1を開放するとともに、第二ペルチェ素子PE2の冷熱を切り替える。これにより、第一タンク対20aの加熱側サブタンクTans2から燃料ガスが放出される。また、第二タンク対20bにおいて、加熱側サブタンクと冷却側サブタンクが反転する。そして、燃料ガスを放出し、空になったサブタンクTans3が冷却され、メインタンクTanmの残存ガスが当該サブタンクTans3に吸着される。以降、同様のタイミングで、バルブVe1,Ve2の開閉、および、第一、第二ペルチェ素子PE1,PE2の冷熱切替を行う。
【0087】
ここで、
図12から明らかな通り、本実施形態でも、燃料ガスを放出するサブタンク、燃料ガスを吸着するサブタンクを順次切り替えている。その結果、本実施形態でも燃料ガスが間断なく放出され、内燃機関100を連続して駆動し続けることができる。また、第一、第二、第三実施形態と同様に、本実施形態でも、調温しているのは、比較的容量の小さいサブタンクTansであるため、調温に要するエネルギー量を小さく抑えることができ、結果として、燃料ガスを効率的に取り出すことができる。
【0088】
[第五実施形態]
次に、第五実施形態について
図13を参照して説明する。
図13は、第五実施形態である燃料ガス貯蔵装置10の構成を示す図である。本実施形態では、サブタンクTansを冷却するために、蓄熱材24による蓄熱作用および燃料ガス(高圧ガス)の膨張に伴う吸熱作用を利用し、サブタンクTansを加熱するために内燃機関100の排熱を利用する。すなわち、本実施形態の燃料ガス貯蔵装置10は、調温機構16として、ヒートポンプやペルチェ素子等を利用した加熱/冷却機構に替えて、または、加えて、蓄熱材24の蓄熱作用および高圧ガスの膨張に伴う吸熱作用を利用した冷却機構と、排熱を利用した加熱機構と、を備えている。
【0089】
冷却機構は、サブタンクTansに密着配置された蓄熱材24と、メイン配管Lmから分岐して再びメイン配管Lmに接続するバイパスLb配管と、を備えている。本実施形態では、蓄熱材24を二つ設けており、第一蓄熱材24aは、メイン配管Lmに密着しており、第二蓄熱材24bは、バイパス配管Lbに密着している。また、各蓄熱材24は、サブタンクTansに近接配置されており、両者の間には可動式の断熱材26が設けられている。この可動式断熱材26は、サブタンクTansを冷却しないときには、サブタンクTansと蓄熱材24との間に介在し、サブタンクTansを冷却するときには、両者の間から離れ、蓄熱材24とサブタンクTansとの間での熱交換を許容する。
【0090】
メイン配管Lmのうち第一蓄熱材24より僅かに上流側位置には、バルブVd1が配され、バイパス配管Lbのうち第二蓄熱材24より僅かに上流側位置には、バルブVd2が設けられている。さらに、バイパス配管Lbの終端とメイン配管Lmとの交点には、三方弁Vd3が設けられている。
【0091】
メインタンクTanmから燃料ガスを放出すると、加圧されていた燃料ガスが急激に膨張する。このガスの膨張に伴い吸熱作用が発生する。本実施形態では、この吸熱作用により生じた冷熱を蓄熱材24に吸収し、吸収した冷熱を必要に応じてサブタンクTansに出力している。より具体的に説明すると、第一蓄熱材24に冷熱を吸収させる際には、バルブVd1を開放、バルブVd2を閉鎖し、さらに、三方弁Vd3をバイパス配管Vbと吸気管102との連通を遮断する方向に切り替えておく。この状態で、メインタンクTanmから燃料ガスを放出し、これにより生じた冷熱を第一蓄熱材24に吸収する。第二蓄熱材24に冷熱を吸収させる際には、バルブVd2を開放、バルブVd1を閉鎖し、さらに、三方弁Vd3をバイパス配管Lbと吸気管102が連通する方向に切り替えておく。これにより、メインタンクTanmから放出された燃料ガスは、バイパス配管Lbを介して吸気管102に供給される。そして、このガス放出の過程で生じた冷熱が第二蓄熱材24に吸収される。冷熱を吸収して冷却された蓄熱材24は、必要に応じて、サブタンクTansとの間で熱交換を行い、サブタンクTansを冷却する。
【0092】
加熱機構は、内燃機関100の排気管に接続された加熱配管Lhを有している。加熱配管Lhの一部は、サブタンクTansに密着している。また、
図13に示す通り、本実施形態では、加熱配管Lhの一部が蓄熱材24に近接している。この近接箇所には、両者の熱交換を阻害する不動の断熱材28が配されている。加熱配管Vh上には、バルブVh1,Vh2が設けられており、このバルブVh1,Vh2を開放することで、排気ガス(および排熱)が、加熱配管Lhに流れ、サブタンクTansが加熱される。
【0093】
このように、燃料ガスの膨張に伴う吸熱作用および内燃機関100からの排熱を利用することで、サブタンクTansの冷却および加熱に要するエネルギー量を低減できる。そして、結果として、より効率的に燃料ガスを供給できる。なお、
図13の例では、サブタンクTansを一つだけ設けた場合を例示したが、サブタンクTansの個数は、より多数でもよい。
【0094】
[シミュレーション結果]
次に、サブタンクTansを用いた燃料ガス供給装置の効果について、シミュレーション結果を参照して説明する。
図14は、シミュレーションに用いた燃料ガス供給装置10の構成を示す図である。この燃料ガス供給装置10は、ペルチェ素子PEを挟んで配置された第一、第二サブタンクTans1,Tans2を有する。また、メインタンクTanmは、容量が100L、温度が198Kで一定である。サブタンクTansの容量は、25L、5L、2.5Lのいずれかとする。ペルチェ素子PEは、第一、第二サブタンクTans1,Tans2のうち、一方のサブタンクTansを213Kに冷却し、他方のサブタンクTansを363Kに加熱する。
【0095】
メインタンクTanmの内部には、メタンガスを吸着する吸着材14(金属有機構造体、HKUST−1)が充填されており、その充填率は0.8である。シミュレーションでは、メタンガスの圧力と吸着量の関係は、次の式1、式2に示すLangmuir吸着等温式で表した。
【数1】
【数2】
【0096】
ここで、n
satは、重量あたりの飽和メタン吸着量(mmol/g)であり、Eは吸着熱パラメータ(kJ/mol)である。また、シミュレーションでは、各パラメータの値として、次の表1に示す値を用いた。
【表1】
【0097】
シミュレーションは、メインタンクTanmが0.5MPaとなった状態から開始した。サブタンクTansの一方を213Kまで冷却し、バルブVtを開放して平衡に達するまで待った。この時、バルブ開放前のメインタンクTanm内のメタンガスの物質量をn
i−1main,gas、吸着メタンガスの物質量をn
i−1main,ad、サブタンクTans内のメタンガスの物質量をn
i−1sub,gas、吸着メタンの物質量をn
i−1sub,ad、バルブ開放後平衡に達した時のメインタンクTanm内のメタンガスの物質量をn
imain,gas、吸着メタンの物質量をn
imain,ad、サブタンクTans内のメタンガスの物質量をn
isub,gas、吸着メタンの物質量をn
isub,ad、とすると、式3の物質量保存の関係が成立する。なお、n
gasはアメリカ国立標準技術研究所(NIST)のデータベースREFPROPから、n
adは式1、式2から求めた。
【数3】
【0098】
次に、ペルチェ素子PEの冷熱を切り替え、一方のサブタンクTansを冷却するとともに他方のサブタンクTansは加熱する。そして、加熱側のサブタンクTansから内燃機関100に燃料ガスを放出する。このとき、内燃機関100に投入できるメタンガスの物質量は次の式4で与えられる。
【数4】
【0099】
ただし、P
mainは加熱前の平衡圧力、ngas(T,P)は、温度T、圧力PにおけるサブタンクTans内のメタンガスの物質量、nad(T,P)は、温度T、圧力PにおけるサブタンクTans内の吸着メタンの物質量である。その他、計算に用いたパラメータは、表1に示す。
【0100】
上記のサブタンクTansでの吸着および放出を交互に繰り返した時のメインタンクTanm内圧力の変化を
図15に示す。サブタンクTansの容量が、12.5Lおよび2.5Lいずれであったとしても、メインタンクTanmの圧力は、約0.01MPaで収束し、メインタンクTanmの圧力を吸気管102の下限圧力値Pminよりも大幅に低くできることが分かる。
【0101】
次に、メタン残留率を
図16に示す。ここで、メタン残留率とは、初期状態のメタン物質量に対する、メインタンクTanmとサブタンクTansに残留しているメタン物質量の割合である。このメタン残留率は、(n
imain+n
isub)/n
0main)の式で求まる。
図16に示す通り、サブタンクTans容量が大きいとサブタンクTansにメタンガスが多く残留するため、取り出し可能量が低くなることがわかった。また、加熱する領域も多くなるためエネルギー効率も悪い。ただし、サブタンクTans容量を小さくすると1サイクルで取り出せるメタン量が少なく、加熱および冷却の切り替えを頻繁に行わなければならない。
【0102】
次に、サブタンクTansに充填する吸着材14のLangmuir吸着モデルのパラメータの影響を調べた。
図17に、吸着熱E(kJ/mol)とメタン残留量との関係を示す。
図17に示す通り、吸着熱Eが大きすぎても小さすぎても効率よく取り出せないことがわかる。
【0103】
次に、重量あたりの飽和メタン吸着量n
sat(mmol/g)とメタン残留量との関係を
図18に示す。
図18に示す通り、重量あたりの飽和メタン吸着量n
satが大きいほど一度に多くのメタンを取り出せるが、限界メタン残留量も多くなることがわかった。
【0104】
[第六実施形態]
次に、第六実施形態について説明する。第六実施形態では、メインタンクTanmの吸着材14の初期化にサブタンクTansを利用している。すなわち、通常、メインタンクTanmの残存ガス量が低下すれば、ガススタンド等にある外部のガス供給源からメインタンクTanmに燃料ガスを再充填する。このとき、燃料ガスが、天然ガスのように複数種類のガスが混合した混合ガスの場合、再充填に先だって、メインタンクTanmの残存ガスを取り出しておく必要がある。これは、次の理由による。
【0105】
一般に、吸着材14に対する吸着・離脱の特性は、ガスの種類ごとに異なる。そのため、複数種類のガスが混合した混合ガスをメインタンクTanmの吸着材14に吸着させた後、メインタンクTanmから混合ガスを自然放出すると、吸着熱の小さいガスが優先的に放出されてしまう。そして、結果として、メインタンクTanmに残存するガスは、当初充填された混合ガスと比べて、吸着熱の大きいガスの比率が高くなっている。この状態で、外部のガス供給源からメインタンクTanmに混合ガスを供給すると、当該メインタンクTanm内のガスの組成は、当初のガス組成と変化することになる。そして、結果として、メインタンクTanmから放出されるガスの組成が、「ガス放出・ガス再充填」のサイクルを繰り返す過程で徐々に変化することになる。この場合、放出されるガスの組成変化に合わせて内燃機関100への燃料噴射量を制御しなければ、内燃機関100の燃焼が安定しなくなる。
【0106】
しかし、サブタンクTansを有さない、メインタンクTanmのみを有する構成の場合、メインタンクTanmへのガス再充填に先だって、当該メインタンクTanmから残存ガスを取り出す方法がなかった。そのため、従来の構成では、新規に充填された混合ガスと、残存していたガスとが、メインタンクTanm内で混合してしまい、ガスの組成が変化することを防止できなかった。結果として、メインタンクTanmのみを有する構成の場合、ガスの組成変化に応じて、内燃機関100への燃料噴射量を変更しなければならず、制御が煩雑となっていた。
【0107】
本実施形態では、こうした問題を避けるために、メインタンクTanmに混合ガスを再充填する前に、サブタンクTansを利用して、メインタンクTanmの残存ガスを取り出す。これについて、
図19を参照して説明する。
図19は、本実施形態における混合ガスの放出吸着処理の流れを示すタイミングチャートである。このタイミングチャートは、
図1に示す構成、すなわち、メインタンクTanmおよびサブタンクTansがともに一つずつある構成の装置での処理を想定している。ただし、必要に応じて、サブタンクTansの個数は、適宜変更されてもよい。
【0108】
図19に示すように、まず、外部のガス供給源からメインタンクTanmに混合ガスが充填される(時刻t0〜t1)。充填された混合ガスは、メインタンクTanm内の吸着材14に吸着保持される。その後、必要に応じて、メインタンクTanmから内燃機関100に混合ガスが自然放出される(時刻t1〜t3)。このメインタンクTanmからの自然放出と並行して、サブタンクTansの冷却を開始しておく(時刻t2〜)。その後、時刻t3において、ユーザによる混合ガスの再充填動作(例えば、ガススタンドにあるガス供給ノズルを、車両のガス充填口に挿し込む等)が検知されれば、制御部は、冷却されたサブタンクTansとメインタンクTanmとを連通し、メインタンクTanm内に残存したガスを、サブタンクTansへと吸着させる(時刻t3〜t4)。その結果、メインタンクTanm内の吸着材14は、ガスが殆ど残存していない状態(以下「初期化状態」という)となる。
【0109】
メインタンクTanmの吸着材14が初期化されれば、外部のガス供給源からメインタンクTanmへのガス供給を許容し、メインタンクTanmへのガス再充填を行う(時刻t4〜t5)。この再充填は、メインタンクTanm内の残存ガスが殆ど無い状態で開始されるため、メインタンクTanmに貯蔵される混合ガスの組成は、ガス供給源から供給される混合ガスの組成とほぼ同じとなる。また、この再充填と並行して、サブタンクTansの加熱を行い、サブタンクTansからのガスの放出準備を行う。
【0110】
外部のガス供給源からのガスの再充填が完了すれば、再度、メインタンクTanmから内燃機関100への自然放出を開始する(時刻t5〜t7)。このメインタンクTanmからの自然放出と並行して、サブタンクTansからの放出を実行する(時刻t5〜t6)。このようにメインタンクTanmからの放出と、サブタンクTansからの放出を並行して行うのは、内燃機関100に供給されるガスの組成変動を防止するためである。
【0111】
すなわち、後に説明するように、メインタンクTanmから放出されるガス組成比と、サブタンクTansから放出されるガス組成比は、大きく異なる。そのため、メインタンクTanmからの放出とサブタンクTansから放出を、シリアルに実行すると、サブタンクTansからのガス放出期間と、メインタンクTanmからのガス放出期間とで、内燃機関100への燃料噴射量を切り替えなければならず、制御が煩雑化する。そこで、本実施形態では、サブタンクTansおよびメインタンクTanmから同時にガスを放出させ、両タンクからの放出ガスを混合させて、常に同じ組成のガスが内燃機関100に供給されるようにしている。
【0112】
ただし、サブタンクTansのほうが容量が小さいため、サブタンクTansのほうがメインタンクTanmよりも先に、空になる。時刻t6においてサブタンクTansが空になれば、サブタンクTansの冷却を開始し、いつでも、メインタンクTanmの残存ガスの吸着が行えるようにする。そして、時刻t7において、ユーザによる混合ガスの再充填動作が検知されれば、再度、同様の処理、すなわち、サブタンクTansによる残存ガスの取り出し、メインタンクTanmへのガスの再充填等の処理等を繰り返す。
【0113】
以上の通り、本実施形態では、メインタンクTanmに混合ガスを再充填する前に、メインタンクTanmの残存ガスをサブタンクTansを利用して取り出す。その結果、メインタンクTanmに貯蔵される混合ガスの組成変化を防止できる。結果として、内燃機関100への燃料噴射制御を簡易化できる。
【0114】
次に、本実施形態のシミュレーション結果について説明する。シミュレーションでは、
図1に示したような燃料ガス貯蔵装置10のモデルを用いて計算した。シミュレーションでは、混合ガスを、モル分率メタン95%,プロパン5%のモデルガスとしている。このモデルガスの吸着等温式を、式5、式6に示す。また、計算に用いたパラメータを表2に示す。なお、式中、iは、CH
4またはC
3H
8である。
【数5】
【数6】
【表2】
【0115】
図20は、メインタンクTanmからのメタンおよびプロパンの放出量、
図21は、サブタンクTansから放出されるガス中のメタンおよびプロパンの放出量のシミュレーション結果を示すグラフである。また、
図22は、サブタンクTansを有さず、メインタンクTanmのみを有する燃料ガス貯蔵装置におけるメタンおよびプロパンの放出量のシミュレーション結果を示すグラフである。なお、
図20〜
図22における、1サイクルとは、メインタンクTanmが20Mpaになるまで、メインタンクTanmに混合ガスを充填した後、メインタンクTanmが0.5MpaになるまでメインタンクTanmからガスを自然放出するまでの処理を指す。
【0116】
図22から明らかな通り、メインタンクTanmのみを有する燃料ガス貯蔵装置の場合は、混合ガスの充填および放出というサイクルを繰り返すにつれ、メタンの放出量が急減に減少する一方で、プロパンの放出量は、僅かに増加していく。その結果、サイクルを繰り返すにつれ、放出ガスの組成が変化していき、内燃機関100の燃焼が安定しない。一方、本実施形態によれば、
図20に示す通り、メタンおよびプロパンの放出量が一定値で安定しているため、放出ガスの組成を一定に保つことができる。その結果、内燃機関100の燃焼を安定させることができる。なお、
図20と
図21との比較から明らかな通り、メインタンクTanmから放出されるガスと、サブタンクTansから放出されるガスは、その組成比が大きく異なる。したがって、上述した通り、メインタンクTanmからの放出ガスに、サブタンクTansからの放出ガスを少しずつ混合することで、内燃機関100に供給されるガスの組成の急変を防止している。
【0117】
なお、
図21から明らかな通り、サブタンクTansから放出されるガスの組成は、初期段階(1〜7サイクル目程度)では、大きく変動する。こうしたサブタンクTansから放出されるガス組成の変動を防止するために、サブタンクTansの吸着材14に予め、吸着熱の大きなガスの比率を高めた調整用ガスを吸着させておいてもよい。かかる調整用ガスを吸着材14に吸着させておくことで、1サイクル目から、サブタンクTansから吸着熱の大きなガスの放出量が増えるため、ガスの組成変動をより低減できる。
【0118】
なお、これまで説明した構成は、いずれも一例であり、メインタンクの他に、調温可能なサブタンクを有するのであれば、その他の構成は、適宜、変更されてもよい。例えば、これまでの説明では、燃料ガスとしてメタンガスまたは天然ガスを用いた場合を例示したが、他の燃料ガス、例えば、水素ガスを用いてもよい。また、サブタンクは、メインタンクよりも容量が小さく、調温できるのであれば、その構成や個数は自由に変更されてよい。いずれにしても、大容量のメインタンクの他に、小容量で調温可能なサブタンクを1以上設けることで、少ないエネルギー量で、より多量の燃料ガスをメインタンクから取り出すことができる。