特許第6384487号(P6384487)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6384487硬質界面相を有する繊維強化ポリマー複合材料
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  • 特許6384487-硬質界面相を有する繊維強化ポリマー複合材料 図000007
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6384487
(24)【登録日】2018年8月17日
(45)【発行日】2018年9月5日
(54)【発明の名称】硬質界面相を有する繊維強化ポリマー複合材料
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/04 20060101AFI20180827BHJP
   C08J 5/24 20060101ALI20180827BHJP
   C08K 3/00 20180101ALI20180827BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20180827BHJP
【FI】
   C08J5/04CEZ
   C08J5/24CER
   C08K3/00
   C08L101/00
【請求項の数】16
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2015-550156(P2015-550156)
(86)(22)【出願日】2013年12月23日
(65)【公表番号】特表2016-503102(P2016-503102A)
(43)【公表日】2016年2月1日
(86)【国際出願番号】IB2013002998
(87)【国際公開番号】WO2014102603
(87)【国際公開日】20140703
【審査請求日】2016年11月29日
(31)【優先権主張番号】61/746,213
(32)【優先日】2012年12月27日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】61/901,909
(32)【優先日】2013年11月8日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】フィリックス・エヌ・グエン
(72)【発明者】
【氏名】ケンイチ・ヨシオカ
(72)【発明者】
【氏名】スウィーゼン・サン・タン
(72)【発明者】
【氏名】アルフレッド・ピー・ハロ
【審査官】 相田 元
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/116261(WO,A1)
【文献】 特開2012−149237(JP,A)
【文献】 特開平08−157620(JP,A)
【文献】 特表平11−505567(JP,A)
【文献】 特開平06−123067(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/04− 5/10,5/24
B29B 11/16、15/08−15/14
C08K 3/00
C08L 101/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化繊維と接着性組成物とを含む繊維強化ポリマー組成物であって、接着性組成物が、少なくとも熱硬化性樹脂と、硬化剤と、ガラス転移温度(Tg)が−50℃以上の少なくとも1種の成分を有する界面材料とを含み、界面材料の表面が、強化繊維と相溶性である少なくとも1種の官能基を含み、強化繊維が強化繊維と接着性組成物の間の界面領域に界面材料を集中させるのに好適であり、界面領域が接着層と硬質層とを含み、接着層のほうが硬質層よりも強化繊維に近い側にあり、接着相の組成が硬質層の組成とは異なり、硬質層が少なくとも界面材料を含み、界面材料の成分の曲げ弾性率が、接着性組成物の曲げ弾性率に対する比が0.1以上となるような曲げ弾性率である繊維強化ポリマー組成物。
【請求項2】
接着性組成物を硬化させると強化繊維と層間せん断強度が13ksi以上の良好な接合を形成する、請求項1に記載の繊維強化ポリマー組成物。
【請求項3】
界面材料の官能基が酸素含有基、窒素含有基、アミド基または硫黄含有基の少なくとも1つを含む、請求項2に記載の繊維強化ポリマー組成物。
【請求項4】
界面材料の成分が0℃以上のTgを有する、請求項3に記載の繊維強化ポリマー組成物。
【請求項5】
前記比が0.5以上である、請求項に記載の繊維強化ポリマー組成物。
【請求項6】
前記比が1以上である、請求項に記載の繊維強化ポリマー組成物。
【請求項7】
接着性組成物が移動剤をさらに含む、請求項に記載の繊維強化ポリマー組成物。
【請求項8】
接着性組成物が促進剤、熱可塑性樹脂、強化剤、層間強化剤の少なくとも1種またはこれらの組合せをさらに含む、請求項に記載の繊維強化ポリマー組成物。
【請求項9】
請求項1に記載の繊維強化ポリマー組成物を含むプリプレグ。
【請求項10】
請求項1に記載の繊維強化ポリマー組成物を硬化させることを含む、複合品の製造方法。
【請求項11】
界面材料が酸化物、炭素質材料、ケイ素系材料、金属の少なくとも1種またはこれらの組合せを含む、請求項1に記載の繊維強化ポリマー組成物。
【請求項12】
強化繊維と接着性組成物とを含む繊維強化ポリマー組成物であって、接着性組成物が、少なくとも熱硬化性樹脂と、硬化剤と、ガラス転移温度(Tg)が−50℃以上の少なくとも1種の成分を有する界面材料とを含み、界面材料の表面が、強化繊維と相溶性である少なくとも1種の官能基を含み、強化繊維が強化繊維と接着性組成物の間の界面領域に界面材料を集中させるのに好適であり、界面領域が接着層と硬質層とを含み、接着層のほうが硬質層よりも強化繊維に近い側にあり、接着相の組成が硬質層の組成とは異なり、硬質層が少なくとも界面材料を含み、かつ、界面材料がシリカである、繊維強化ポリマー組成物。
【請求項13】
シリカがエポキシ基で官能化されたシリカである請求項12に記載の繊維強化ポリマー組成物。
【請求項14】
接着性組成物が移動剤をさらに含む、請求項1,12および13のいずれかに記載の繊維強化ポリマー組成物。
【請求項15】
請求項12に記載の繊維強化ポリマー組成物を含むプリプレグ。
【請求項16】
請求項12に記載の繊維強化ポリマー組成物を硬化させることを含む、複合品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、強化繊維と接着性組成物とを含む革新的な繊維強化ポリマー組成物であって、接着性組成物が、少なくとも熱硬化性樹脂と、硬化剤と、ガラス転移温度が−50℃以上であり接着性組成物の弾性率に対する弾性率比が0.1以上である少なくとも1種の成分を有する界面材料とを含み、硬化させると、強化繊維と接着性組成物の間の界面領域に界面材料が含まれて接着性組成物が強化繊維と良好な接合を形成するため、少なくとも優れた界面せん断強度と有孔圧縮強度が可能となる繊維強化ポリマー組成物を提供する。
【背景技術】
【0002】
樹脂マトリックスによって強化繊維同士を接合させて繊維強化ポリマー複合材料を作製する場合、繊維の表面に官能基が存在することが非常に重要である。加えて、その接合は環境条件および/または不利な条件にさらされても持続しなければならない。接合強度、すなわち、硬化樹脂と接触している繊維から(硬化)樹脂を分離するのに必要とされる界面面積単位当たりの力とは、接着性の尺度である。最大接着力は、繊維と樹脂の間の接着破壊ではなく、樹脂と繊維の一方または両方の粘着破壊が主に観察される際に得られる。
【0003】
強力な接合を形成するためには、まず初期繊維の表面に酸素官能基を有利に導入する。次に、接着促進剤の一方の端部が繊維の表面の酸素官能基と共有結合可能であり、その一方で接着促進剤のもう一方の端部が、樹脂中の官能基との化学的相互作用を促進可能であるか、またはその化学的相互作用に参加可能であるように接着促進剤を選択すればよい。接着促進剤は、基本的に硬化の際に繊維とバルク樹脂とを結びつける橋の役割を果たす。多くの場合、プラズマ処理、紫外線処理、コロナ放電処理または湿式電気化学処理等の表面処理を用いて繊維の表面に酸素官能基を導入する。
【0004】
結局のところ、強力な接合を実現するためには、繊維と樹脂の間の界面に空隙が存在することはあり得ない、すなわち、硬化によってそれらの間に十分な分子接触ができなければならない。多くの場合、この界面は体積領域、すなわち「界面相」と考えられる。この界面相は、サイジング処理された繊維の表面の化学組成、繊維とバルク樹脂の間の化学的相互作用、および硬化の際の他の化学成分の界面への移動に応じて、繊維の表面から数ナノメートル〜数マイクロメートルの範囲で延在し得る。したがって界面相は極めて独特な組成を有し、その性質は繊維の表面やバルク樹脂のものとは大きく異なっている。さらに、繊維と樹脂の間の弾性率不整合により界面相に高い応力集中が存在するため、組成物に亀裂が発生しやすくなることが多い。このような高い応力集中は、繊維によって誘発される樹脂の化学的脆化、および熱膨張係数の違いによる局所的残留応力によって増大することもあり、その結果、負荷が加えられると複合材料の突発破壊が起きるおそれがある。
【0005】
一般に、接着性が不十分であると繊維/マトリックス界面に沿って亀裂エネルギーを散逸させることが可能であるが、接着剤から界面相を経由して繊維へ向かう応力伝達能力が大きく犠牲となる。一方、接着性が強力であると、多くの場合界面マトリックスの脆化が助長され、これらの領域で亀裂が発生して樹脂リッチ領域にまで広がってしまう。さらに、繊維の切れ口の亀裂エネルギーを繊維/マトリックス界面に沿って軽減できないため、隣接繊維を実質的に破断させることによってその中に迂回させる。これらの理由により、現在の最新式の繊維複合材料系は最適な接着度を実現できるように設計されている。
【0006】
いくつかの場合、特に炭素繊維を含む場合においては、引張強度等の接着関連特性と圧縮強度や有孔圧縮(OHC)強度等の圧縮特性とのバランスがあるので、弱から中の接着度が望ましい。通常は、樹脂弾性率が高いほど圧縮強度は高くなる。しかしながら、4〜5GPaのある一定の樹脂(曲げ)弾性率に達すると、これらの強度は横ばい状態となりそれ以上上昇することはない。これは、座屈による繊維の早期破壊を防止するのに好適ではない軟弱な界面相が原因と考えられる。一方、高い樹脂弾性率は、ポリマーが脆化する原因となるため、引張関連特性の低下や破壊靭性の低下につながり得る。
【0007】
近年複合材料は、金属合金よりも高いその比強度や剛性のため、ボーイング787、エアバス380、350機等、民間航空機に有効に利用されている。より具体的には、炭素繊維複合材料によって、金属合金では実現できなかった、薄くて、しかも高アスペクト比の翼が設計可能となり、抵抗低減により空気力学的効率がよくなる。このような設計には、複合材料の捩じり剛性や曲げ剛性が高くなくてはならないと考えられる。そのため、圧縮強度、引張関連強度および破壊靭性における上記の障壁を克服する必要がある。
【0008】
国際公開第2012116261(A1)号(Nguyenら、東レ(株)、2012年)では、界面材料が樹脂に組み込まれる自己組織化プロセスや、強化繊維の界面化学を利用して繊維近辺に界面材料を集中させることによって界面相を形成する試みがなされた。このプロセスは強固なものであることが示されており、強化界面相を形成することによって、ゴム状界面材料を利用して複合材料の引張強度と破壊靭性とを同時に改善することができた。しかしながら、この軟質界面相が形成されたために、圧縮荷重下において繊維の座屈を効果的に防止できなかったと考えられる。さらに、かかる軟質界面相は破壊靭性が高い一方、直接測定はできなかったが弾性率は低い場合もあるため、特に繊維が高弾性率炭素繊維の場合においては、ポリマーが強化繊維に荷重を伝達する能力が低下する場合がある。したがって、破壊靭性を大きく損なうことなく、良好な接着性、ひいては高接着性関連特性を付与すると同時に圧縮特性を改善することができる硬質界面相を形成する必要がある。
【発明の概要】
【0009】
本発明の一実施形態は、強化繊維と接着性組成物とを含む繊維強化ポリマー組成物であって、接着性組成物が、少なくとも熱硬化性樹脂と、硬化剤と、ガラス転移温度(Tg)が−50℃以上の少なくとも1種の成分を有する界面材料とを含み、界面材料の表面が、強化繊維と相溶性である少なくとも1種の官能基を含み、強化繊維が強化繊維と接着性組成物の間の界面領域に界面材料を集中させるのに好適であり、界面領域が接着層と硬質層とを含み、接着層のほうが硬質層よりも強化繊維に近い側にあり、接着相の組成が硬質層の組成とは異なり、硬質層が少なくとも界面材料を含む繊維強化ポリマー組成物に関する。本発明の一実施形態においては、接着性組成物を硬化させると強化繊維と良好な接合を形成する。界面材料の官能基は、酸素含有基、窒素含有基(アミン基、アミド基等)または硫黄含有基の少なくとも1つを含んでもよい。界面材料の成分は、接着性組成物の弾性率に対する比が0.1以上となるような弾性率を有し得る。接着性組成物は、移動剤、促進剤、熱可塑性樹脂、強化剤、層間強化剤の少なくとも1種をさらに含んでもよい。
【0011】
他の実施形態は、繊維強化ポリマー組成物の製造方法に関する。
【0012】
他の実施形態は、上記繊維強化ポリマー組成物のいずれか1つを含むプリプレグに関する。
【0013】
他の実施形態は、上記繊維強化ポリマー組成物のいずれか1つを硬化させることを含む、複合品の製造方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】炭素繊維(1)を含む多層界面相の模式図を示す。接着層(2)は、少なくともサイズ剤と繊維の表面の官能基とを含む。硬質層(3)は、少なくとも硬質界面材料を含む。外層(4)は、バルク樹脂組成物(5)とほぼ同様の組成からなる。硬質界面相は、少なくとも接着層(2)と硬質層(3)とを含む。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一実施形態は、強化繊維と接着性組成物とを含む繊維強化ポリマー組成物であって、接着性組成物が、少なくとも熱硬化性樹脂と、硬化剤と、ガラス転移温度(Tg)が−50℃以上の少なくとも1種の成分を有する界面材料とを含み、界面材料の表面が、強化繊維と相溶性である少なくとも1種の官能基を含み、強化繊維が強化繊維と接着性組成物の間の界面領域(以下、「界面相」という)に界面材料を集中させるのに好適であり、界面領域が接着層と硬質層とを含み、接着層のほうが硬質層よりも強化繊維に近い側にあり、接着相の組成が硬質層の組成とは異なり、硬質層が少なくとも界面材料を含む繊維強化ポリマー組成物に関する。
【0016】
本実施形態においては、強化繊維と接着性組成物の間の界面領域に界面材料を集中させるのに好適であれば、いずれの強化繊維を用いてもよい。かかる強化繊維は、本発明の種々の実施形態において、30℃における非極性表面エネルギーが30mJ/m以上、40mJ/m以上、さらには50mJ/m以上であり、および/または30℃における極性表面エネルギーが2mJ/m以上、5mJ/m以上、さらには10mJ/m以上である。高い表面エネルギーが必要であるのは、接着性組成物と強化繊維との濡れ性を向上させるため、また強化繊維近辺に界面材料を集中させやすくするためである。この条件は良好な接合を促進させるためにも必要である。
【0017】
非極性および極性表面エネルギーは、プローブ液の蒸気とその飽和蒸気圧を利用してインバースガスクロマトグラフィー(IGC)法により測定することができる。IGCは、Sun and Bergの刊行物(Advances in Colloid and Interface Science 105 (2003) 151−175 and Journal of Chromatography A, 969 (2002) 59−72)に従って行うことができる。その概要を以下の段落に示す。
【0018】
公知の液体プローブの蒸気を、表面エネルギー未知の固形物を充填した管に入れ、表面と相互作用させる。気体が管を通過する時間と気体の保持容量により、吸着の自由エネルギーを測定することができる。したがって、非極性表面エネルギーは一連のアルカンプローブから求めることができ、一方、極性表面エネルギーは2種類の酸塩基プローブにより概算することができる。
【0019】
強化繊維の選択について特に限定や制限はなく、強化繊維と接着性組成物の間の界面領域に界面材料を集中させるのに好適であればよい。例としては、炭素繊維、アラミド繊維等の有機繊維、炭化ケイ素繊維、金属繊維(アルミナ繊維等)、ボロン繊維、炭化タングステン繊維、ガラス繊維、天然/生物繊維等が挙げられる。特に炭素繊維を用いると、強度および剛性が極めて高く、かつ軽量である硬化繊維強化ポリマー組成物が得られる。全炭素繊維の中では、強度2000MPa以上、伸度0.5%以上、弾性率200GPa以上のものを用いることが好ましい。
【0020】
使用する複数の強化繊維の形態および配置は特に限定されず、一方向長繊維、ランダム配向短繊維、シングルトウ、細トウ、織物、マット、編物および組紐等の当技術分野において公知の強化繊維の形態および空間配置のいずれを使用してもよい。本明細書で用いる「長繊維」という用語は、10mm以上にわたってほぼ連続した単繊維、またはこの単繊維からなる繊維束を指す。本明細書で用いる「短繊維」という用語は、10mm未満の長さにカットされた繊維からなる繊維束を指す。特に、高い比強度および高い比弾性率が必要とされる最終用途においては、強化繊維束が一方向に整列した形態が最も好適である。取り扱い易さの点からは、布地様(織物)の形態も本発明に好適である。
【0021】
強化繊維が炭素繊維の場合、界面材料を集中させるのに好適な炭素繊維を選択するために上記のような表面エネルギーを用いる代わりに、Rich et al. in “Round Robin Assessment of the Single Fiber Fragmentation Test” in Proceeding of the American Society for Composites: 17th Technical conference (2002)、paper 158による単繊維フラグメンテーション試験(SFFT)で測定した際の界面せん断強度(IFSS)値が、10MPa以上、20MPa以上、25MPa以上、さらには30MPa以上となる必要がある。SFFTの簡単な説明を以下の段落に記載する。
【0022】
犬用の骨の形状の硬化樹脂の中心に炭素単繊維が埋められた単繊維複合試験片に圧力を加え、破断はさせずに、規定繊維長から砕片が生じなくなるまで続ける。繊維強度、繊維径、および規定繊維長を砕片数で除した臨界砕片長からIFSSを求める。
【0023】
上記のような高いIFSSを得るために、通常は、当技術分野で利用されている方法(プラズマ処理、紫外線処理、プラズマ支援マイクロ波処理および/または湿式化学−電気酸化等)により炭素繊維を酸化処理または表面処理して、酸素/炭素(O/C)濃度比を高める。O/C濃度比は、X線光電子分光法(XPS)により測定することができる。O/C濃度比としては、0.05以上、0.1以上、さらには0.15以上が望ましい。酸化処理した炭素繊維に対しては、シランカップリング剤、シラン網状体、接着性組成物に対して相溶性および/または化学反応性であるポリマー組成物等の、有機材料や有機/無機材料のサイズ剤を塗布して接合強度を高める。例えば、接着性樹脂組成物がエポキシ樹脂を含む場合、サイズ剤はエポキシ基、アミン基、アミド基、カルボキシル基、カルボニル基、ヒドロキシル基、および他の好適な酸素含有基または窒素含有基等の官能基を有し得る。炭素繊維表面のO/C濃度比とサイズ剤とは、接着性組成物の炭素繊維に対する接着性を増強するように一括して選択する。選択可能なサイズ剤および望ましいO/C濃度比について制限はなく、界面相形成に必要な炭素繊維の表面エネルギーの要件が満たされ、および/またはサイジングによって良好な接合が促進されるものであればよい。
【0024】
本明細書中における接着性組成物と強化繊維との良好な接着とは、接着性組成物の1つまたは複数の成分が、強化繊維の表面に存在する官能基と化学的に反応して架橋を形成する、「良好な接合」を指す。良好な接合は、一実施形態においては、破壊後の硬化繊維強化ポリマー組成物の破壊モードを走査型電子顕微鏡(SEM)で検査することにより記録可能である。接着破壊とは、強化繊維と硬化接着性組成物の界面における破壊を指し、接着性組成物はほとんど表面になく繊維の表面が露出する。一方、粘着破壊とは、硬化接着性組成物内に起こる破壊を指し、繊維の表面の大部分は接着性組成物で覆われている。なお、繊維内においても粘着破壊は起こり得るが、本発明においてはそれについては指していない。硬化接着性組成物による繊維表面被覆率は、約50%以上、または約70%以上となり得る。混合モード破壊とは、接着破壊と粘着破壊が組み合わされたものを指す。接着破壊は弱い接着で、粘着破壊は強い接着であるが、混合モード破壊になると、弱い接着と強い接着の間のいずれかの程度の接着となり、硬化接着性組成物による繊維表面被覆率は通常は約20%以上となる。本明細書中において、混合モード破壊および粘着破壊は硬化接着性組成物と繊維表面との良好な接合を指すが、接着破壊は接合不良を意味する。炭素繊維と硬化接着性組成物とが良好な接合を示すためには、15MPa以上のIFSS値が必要となる。あるいは、硬化繊維強化ポリマー組成物の繊維−マトリックス間接着力の測定は、ASTM D−2344に記載されている層間せん断強度(ILSS)により行うことができる。良好な接合とは、IFSSが20MPa以上、25MPa以上、30MPa以上、さらには35MPaであり、および/またはILSSの値が13以上、14ksi以上、15ksi以上、16ksi以上、さらには17ksi以上であることを指す。理想的には、破壊モードの観察とIFSS値の両方を用いて良好な接合の確認を行う。しかし通常は、破壊モードの観察とIFSS値のどちらかが得られない場合には、強化繊維や接着性組成物によっても異なるが、ILSS値が13〜14ksiの場合は混合モード破壊を示し、ILSS値が16ksi超の場合は粘着破壊を示し、ILSS値が14〜15ksiの場合は混合モードまたは粘着破壊のいずれかを示す。
【0025】
本明細書中において、接着性組成物中の熱硬化性樹脂は、硬化剤または架橋剤化合物を用いて外部供給エネルギー源(熱、光、マイクロ波等の電磁波、紫外線、電子ビーム、その他好適な方法等)により硬化させると、必要とされる樹脂弾性率を有する三次元架橋網目構造を形成することができるいずれかの樹脂と定義される。熱硬化性樹脂は、限定するものではないが、エポキシ樹脂、エポキシノボラック樹脂、エステル樹脂、ビニルエステル樹脂、シアン酸エステル樹脂、マレイミド樹脂、ビスマレイミドトリアジン樹脂、フェノール樹脂、ノボラック樹脂、レゾルシノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フタル酸ジアリル樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、ポリウレタンおよびこれらの混合物より選択することができ、界面相の形成に寄与し、必要とされる樹脂弾性率および良好な接合が上記の条件を満たすものであればよい。
【0026】
上記熱硬化性樹脂の強度、歪力、弾性率および耐環境影響性の優れたバランスの観点から、エポキシ樹脂、例えば、単官能性、二官能性およびそれ以上(すなわち多官能性)のエポキシ樹脂、ならびにそれらの混合物を用いてもよい。優れたガラス転移温度(Tg)、弾性率およびさらに強力な強化繊維との接着性が得られるため、多官能性エポキシ樹脂を選択することが好ましい。これらのエポキシ樹脂は、アミン(例えば、ジアミンと少なくとも1つのアミン基および少なくとも1つのヒドロキシル基を含有する化合物とを用いて調製されるエポキシ樹脂:テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、トリグリシジル−p−アミノフェノール、トリグリシジル−m−アミノフェノール、トリグリシジルアミノクレゾール、テトラグリシジルキシリレンジアミンおよびこれらの異性体等)、フェノール(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールR型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂およびレゾルシノール型エポキシ樹脂等)、ナフタレン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ビフェニル骨格を有するエポキシ樹脂、イソシアネート変性エポキシ樹脂および炭素−炭素二重結合を有する化合物(脂環式エポキシ樹脂等)等の前駆物質から調製される。なお、エポキシ樹脂は上記例に限定されるものではない。これらのエポキシ樹脂をハロゲン化したハロゲン化エポキシ樹脂を用いてもよい。さらに、これらのエポキシ樹脂の2種以上の混合物、およびグリシジルアニリン、グリシジルトルイジン、グリシジルアミン(特に芳香族グリシジルアミン)等のエポキシ基を1個有する化合物(すなわちモノエポキシ化合物)を熱硬化性樹脂マトリックスの配合に使用してもよい。
【0027】
ビスフェノールA型エポキシ樹脂の市販品としては、jER(登録商標)”825、“jER(登録商標)”828、“jER(登録商標)”834、“jER(登録商標)”1001、“jER(登録商標)”1002、“jER(登録商標)”1003、“jER(登録商標)”1003F、“jER(登録商標)”1004、“jER(登録商標)”1004AF、“jER(登録商標)”1005F、“jER(登録商標)”1006FS、“jER(登録商標)”1007、“jER(登録商標)”1009、“jER(登録商標)”1010(以上、三菱化学(株)製)等が挙げられる。臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂の市販品としては、jER(登録商標)”505、“jER(登録商標)”5050、“jER(登録商標)”5051、“jER(登録商標)”5054、“jER(登録商標)”5057(以上、三菱化学(株)製)等が挙げられる。水素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂の市販品としては、ST5080、ST4000D、ST4100D、ST5100(以上、新日鐵化学(株)製)等が挙げられる。
【0028】
ビスフェノールF型エポキシ樹脂の市販品としては、“jER(登録商標)”806、“jER(登録商標)”807、“jER(登録商標)”4002P、“jER(登録商標)”4004P、“jER(登録商標)”4007P、“jER(登録商標)”4009P、“jER(登録商標)”4010P(以上、三菱化学(株)製)、“エポトート(登録商標)”YDF2001、“エポトート(登録商標)”YDF2004(以上、新日鐵化学(株)製)等が挙げられる。テトラメチルビスフェノールF型エポキシ樹脂の市販品としては、YSLV−80XY(新日鐵化学(株)製)等がある。
【0029】
ビスフェノールS型エポキシ樹脂としては、“エピクロン(登録商標)”EXA−154(DIC(株)製)等がある。
【0030】
テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン樹脂の市販品としては、“スミエポキシ(登録商標)”ELM434(住友化学(株)製)、YH434L(新日鐵化学(株)製)、“jER(登録商標)”604(三菱化学(株)製)、“アラルダイト(登録商標)”MY720、MY721(以上、ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ社製)等が挙げられる。トリグリシジルアミノフェノール樹脂やトリグリシジルアミノクレゾール樹脂の市販品としては、“スミエポキシ(登録商標)”ELM100(住友化学(株)製)、“アラルダイト(登録商標)”MY0500、MY0510、MY0600(以上、ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ社製)、“jER(登録商標)”630(三菱化学(株)製)等が挙げられる。テトラグリシジルキシリレンジアミンおよびその水素添加物の市販品としては、TETRAD−X、TETRAD−C(以上、三菱ガス化学(株)製)等が挙げられる。
【0031】
フェノールノボラック型エポキシ樹脂の市販品としては“jER(登録商標)”152、“jER(登録商標)”154(以上、三菱化学(株)製)、“エピクロン(登録商標)”N−740、N−770、N−775(以上、DIC(株)製)等が挙げられる。
【0032】
クレゾールノボラック型エポキシ樹脂の市販品としては、“エピクロン(登録商標)”N−660、N−665、N−670、N−673、N−695(以上、DIC(株)製)、EOCN−1020、EOCN−102S、EOCN−104S(以上、日本化薬(株)製)等が挙げられる。
【0033】
レゾルシノール型エポキシ樹脂の市販品としては、“デナコール(登録商標)”EX−201(ナガセケムテックス(株)製)等がある。
【0034】
ナフタレン型エポキシ樹脂の市販品としては、HP−4032、HP4032D、HP−4700、HP−4710、HP−4770、EXA−4701、EXA−4750、EXA−7240(以上、DIC(株)製)等が挙げられる。
【0035】
ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂の市販品としては、“エピクロン(登録商標)”HP7200、HP7200L、HP7200H、HP7200HH(以上、DIC(株)製)、“Tactix(登録商標)”558(ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ社製)、XD−1000−1L、XD−1000−2L(以上、日本化薬(株)製)等が挙げられる。
【0036】
ビフェニル骨格を有するエポキシ樹脂の市販品としては、“jER(登録商標)”YX4000H、YX4000、YL6616(以上、三菱化学(株)製)、NC−3000(日本化薬(株)製)等が挙げられる。
【0037】
イソシアネート変性エポキシ樹脂の市販品としては、オキサゾリドン環を有する、AER4152(旭化成エポキシ(株)製)およびACR1348((株)ADEKA製)等が挙げられる。
【0038】
熱硬化性樹脂は、必要とされる樹脂弾性率の観点から、四官能性エポキシ樹脂(具体的には、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタンエポキシ樹脂)と二官能性グリシジルアミン(具体的には、グリシジルアニリンやグリシジルトルイジン等の二官能性グリシジル芳香族アミン)とを両方含んでもよい。二官能性ビスフェノールAまたはF/エピクロロヒドリンエポキシ樹脂等の別の二官能性エポキシ樹脂を用いると、硬化接着性組成物の曲げたわみを大きくすることができる。二官能性エポキシ樹脂の平均エポキシ当量(EEW)は、例えば177〜1500である。例えば、熱硬化性樹脂は、四官能性エポキシ樹脂を50〜70重量%、二官能性ビスフェノールAまたはF/エピクロロヒドリンエポキシ樹脂を10〜30重量パーセント、二官能性グリシジル芳香族アミンを10〜30重量パーセント含んでもよい。
【0039】
また接着性組成物は、硬化剤または架橋剤化合物も含む。硬化剤としての化合物の選択について特に限定や制限はなく、熱硬化性樹脂と反応する少なくとも1個の活性基を有し、総合的に、必要とされる樹脂弾性率が得られ、および/または接着を増進させるものであればよい。
【0040】
上記エポキシ樹脂について、好適な硬化剤としては、例えば、ポリアミド、ジシアンジアミド(DICY)、アミドアミン(アミノベンズアミド、アミノベンズアニリド、アミノベンゼンスルホンアミド等の芳香族アミドアミン等)、芳香族ジアミン(ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン(DDS)等)、アミノベンゾエート(トリメチレングリコールジ−p−アミノベンゾエート、ネオペンチルグリコールジ−p−アミノベンゾエート等)、脂肪族アミン(トリエチレンテトラミン、イソホロンジアミン等)、脂環式アミン(イソホロンジアミン等)、イミダゾール誘導体、テトラメチルグアニジン等のグアニジン、カルボン酸無水物(メチルヘキサヒドロフタル酸無水物等)、カルボン酸ヒドラジド(アジピン酸ヒドラジド等)、フェノールノボラック樹脂およびクレゾールノボラック樹脂、カルボン酸アミド、ポリフェノール化合物、ポリスルフィドおよびメルカプタン、ならびにルイス酸/塩基(三フッ化ホウ素エチルアミン、トリス−(ジエチルアミノメチル)フェノール等)等が挙げられる。硬化繊維強化エポキシ組成物の目的とする特性に従って、好適な硬化剤または好適な硬化剤の組合せを上記リストより選択する。例えばジシアンジアミドを使用した場合、一般的には良好な高温特性、良好な耐薬品性、および引張強度と剥離強度の良好な組合せを有する製品が得られる。一方、芳香族ジアミンの場合、通常は高耐熱性、高耐薬品性および高弾性が得られる。アミノベンゾエートの場合、一般的には優れた引張伸度が得られるが、芳香族ジアミンに比べて耐熱性が劣ることが多い。酸無水物の場合、一般的には、低粘度で加工性に優れ、さらには硬化後の耐熱性が高い樹脂マトリックスが得られる。フェノールノボラック樹脂およびクレゾールノボラック樹脂の場合、耐加水分解性に優れたエーテル結合が形成されるため、耐湿性が得られる。なお、上記硬化剤の2種以上の混合物を用いてもよい。例えば、硬化剤としてDICYとともにDDSを用いることにより、強化繊維と接着性組成物との接着がより強固なものとなり、特に、得られる繊維強化複合材料の耐熱性、圧縮強度等の機械的性質、および耐環境性を著しく高めることができる。別の例としては、DDSを芳香族アミドアミン(3−アミノベンズアミド等)と組み合わせると、熱的性質、機械的性質および耐環境性がバランスよく達成できる。
【0041】
本発明の接着性組成物は、「硬質材料」からなる少なくとも1種の成分を有する界面材料を含有することが必要である。本明細書で用いる「硬質材料」とは、ガラス転移温度(Tg)がゴム系材料よりも高い、具体的には、Tgが−50℃以上である材料を指す。界面材料は、Tgが−50℃より低い少なくとも1種の別の成分をさらに含んでもよい(例えば界面材料は、Tgが−50℃以上の第1の成分とTgが−50℃より低い第2の成分を含んでもよい)。一実施形態においては、界面材料全体でTgが−50℃以上である。こうした界面材料は、本明細書中において「硬質界面材料」または単に「界面材料」という。かかる硬質界面材料は、主に引張強度(張力、有孔張力、モードI破壊靭性等)を高めることができるが圧縮特性を低下させる可能性のある軟質界面材料とは異なり、他の特性を損なうことなく主に圧縮特性(圧縮性や有孔圧縮性(OHC)等)を高めることが必要である。界面材料の成分は、他の実施形態においては、Tgが0℃以上、25℃以上、さらには50℃以上であってもよい。さらに、上記成分、界面材料はいずれも、接着性組成物の弾性率に対する比が0.1以上、0.5以上、さらには1以上となるような弾性率を全体として有してもよい。上記成分のTgおよび/または比率が高いほど、全体として界面材料はより硬いものとなり得る。界面材料が硬いほど、圧縮特性の向上をより大きいものとすることができる。
【0042】
硬質界面材料としての化合物の選択について特に限定や制限はなく、強化繊維近辺に移動することができ、好ましくは、バルク接着性組成物中に存在する物質よりも強化繊維上の物質に対して相溶性が高いその界面化学によってその場に留まるものであればよい。その後硬質界面材料は界面相の一部となる。ここで相溶性とは、化学的に同等な分子、化学的に類似した分子、同様の原子/構造からなる化学組成の分子、または互いに会合し場合によっては化学的に相互作用し合う分子を指す。相溶性とは、ある成分の別の成分に対する溶解性および/またはある成分の別の成分との反応性を意味する。「相溶でない/非相溶性である」または「適合しない」とは、移動剤がないと硬化後の接着性組成物中において均一に分布してしまう界面材料が、移動剤が接着性組成物中にある特定の量(濃度)で存在することによって、ある程度不均一に分布する現象を指す。界面材料は、硬化後の接着性組成物に対して不溶性であるかまたは部分可溶性であり、最長寸法が繊維の直径より小さくてもよく、例えば5μm未満、1μm未満、500nm未満、さらには250nm未満であってもよい。寸法が短いほど、界面材料は複数の繊維からなる繊維床中に流入しやすくなるが、一方で寸法が長いと、材料の大部分が繊維床の外側に集中するというフィルター効果が発生し得る。界面材料は、接着性組成物中において例えば50phr(熱硬化性樹脂100重量部当たり50重量部)以下、または約1〜約30phrの量で存在してもよい。弾性率や電気的/熱的性質等の接着性樹脂組成物の特定の性質を向上させる必要がある場合は、界面材料の量は多いほうが望ましい。好適な界面材料としては、限定するものではないが、金属または遷移金属(ニッケル、銅、銀、亜鉛、金、白金、コバルト、スズ、チタン、鉄、クロム、アルミニウム等)、金属合金(アルミニウム合金、マグネシウム合金、リチウムアルミニウム合金等)、炭素質材料(カーボンナノチューブ、カーボンブラック、カーボンナノファイバー、グラファイト、グラフェン、グラフェンオキシド、グラファイトナノプレートレット、ダイヤモンド等)、酸化物(酸化インジウムスズ、シリカ、アルミナ、酸化亜鉛、チタニア等)、ケイ素系材料(セラミック、炭化ケイ素、POSS等)、ポリマー、被覆材料、適用可能であれば上記材料の繊維形(ニッケルナノストランド、アルミナナノファイバー、ハロイサイト、シリカナノファイバー等)、これらの混合物等が挙げられる。
【0043】
界面材料は、少なくともコア材料とシェル材料とからなるコアシェル材料であってもよい。コア材料、シェル材料はいずれも、互いに化学的に異なり、かつ得られる界面材料のTg要件および/または弾性率要件を満たすものであれば、ポリマー材料(線状ポリマー、分岐ポリマー、超分岐ポリマー、デンドリマー、コポリマー、ブロックコポリマー等)または無機材料(金属、酸化物、炭素質材料、ケイ素系材料等)から選択することができる。例えば、コアがシリカでシェルがポリマーであってもよいし、コアがポリマー粒子(コアシェル粒子、軟質コア/硬質シェル粒子、硬質コア/軟質シェル粒子等)でシェルが金属であってもよいし、コアが中空で内側シェルがシリカ、外側シェルが金属であってもよい。かかるコア材料およびシェル材料は、繊維強化ポリマー組成物中における界面相の複合機能や多機能性に対応できるように個別に調整することができる。ここで、繊維強化ポリマー組成物に多機能性を持たせるとは、その耐荷重能に、電気的機能、熱的機能、熱電機能、センサー機能、状態監視機能等の少なくとも1つの非耐荷重機能を加えることを指す。かかる界面材料は、本明細書においては多機能界面材料といい、コア、シェルの一方または両方が上記材料以外のものを含み得る。本明細書における多機能界面相は、多機能界面材料または目的の複合機能を有する界面材料の組合せからなり、濃度勾配を有する別々の層の形で存在する。
【0044】
界面材料は、界面材料を繊維近辺に集中させることができるような強化繊維の界面化学と相溶性である官能基を有してもよい。官能基は、窒素含有基(アミン基等)、酸素含有基(ヒドロキシル基、メタクリル基、カルボキシル基等)、硫黄含有官能基(チオ基等)、アミド基(有機アミド、スルホンアミド、ホスホルアミド等)またはビニル基の1種または複数であってもよい。例えば強化繊維がエポキシ基を有するか、その表面が特異的にエポキシ樹脂と相溶性である場合、界面材料の表面は少なくともエポキシ基、ヒドロキシル基またはカルボキシル基を有してもよい。別の実施形態においては、強化繊維の表面が第1の官能基を含有し、界面材料の表面が第2の官能基を含有し、第1および第2の官能基は互いに反応することができる。さらに別の実施形態においては、界面材料はエポキシ基で官能化されたシリカ(特にナノシリカ)であってもよい。
【0045】
いくつかの場合、特に炭素繊維を含む場合においては、弱から中の接着度が望ましく、特に航空機の翼等の用途においてz方向または厚さ方向の電気伝導率(以下、「電気伝導率」または単に「導電率」という)が高いレベルで必要な場合はそうである。これらの場合については、繊維間接触によって厚さ方向の導電路が形成され、炭素繊維の体積が大きいほど高い導電率が得られる。しかしながら、繊維を通る導電路は接着性が向上すると有意に封止されてしまう。すなわち、マトリックス材料の絶縁層によって繊維間接触が抑えられるため、導電率はポリマーマトリックスの電気伝導率に依存している。したがって、接着性が強いと複合材料の導電率が著しく低下することになる。電気路を回復するためには、繊維との強力な接着性を変えることなく導電性材料を樹脂マトリックスに含有させればよい。樹脂の導電率を大幅に上昇させることは可能であるが、繊維(通常、複合材料の30体積%以上を占める)が依然として半絶縁体として機能するため、複合材料には上昇分のほんの一部しか伝達することができない。そのような場合には、繊維強化ポリマー組成物中において導電性材料または導電性材料の混合物と非導電性材料とを含む少なくとも1種の硬質界面材料を含む導電性界面相が必要となる。本明細書で用いる「導電性」とは、材料の電気伝導性を指す。場合によっては、材料の熱伝導性を指すこともあるし、電気伝導性と熱伝導性の両方(熱電気的性質、すなわち温度差から電位を発生させたり電位差から熱を発生させたりする能力)をまとめて指すこともある。本明細書中において電気伝導性材料とは、電気伝導率が熱硬化性樹脂よりも高く10−13S/m以上、10−10S/m以上、さらには10−5S/m以上である材料を指し、一方非導電性材料とは電気伝導率が10−13S/m未満の材料である。
【0046】
硬化繊維強化ポリマー組成物の界面相は、接着性組成物中に最適な移動剤が存在するとより強固に形成される。ここで、移動剤とは、接着性組成物を硬化させた際に、接着性組成物中の1つまたは複数の成分が繊維と接着性組成物の間の界面領域により集中するように誘発するいずれかの物質である。この現象は、界面材料が繊維近辺に移動する過程であり、以下、粒子移動または界面材料移動と呼ぶ。このとき、界面材料は移動剤よりも強化繊維に対して相溶性が高いと言える。場合によっては、界面材料は静電力によって強化繊維に引き寄せられていると言える。
【0047】
繊維から遠く離れた場所よりも繊維近辺に集中して見られるか、または繊維の表面と硬化接着性組成物の間のある一定の距離にある界面領域や界面相に存在するいずれかの材料が、本発明の接着性組成物における界面材料となる。なお、接着性組成物を硬化させた際に、ある界面材料が原因で別の界面材料が繊維から遠く離れた場所よりも繊維近辺により集中する場合、その界面材料は別の界面材料に対して移動剤の役割を果たしているといえる。
【0048】
移動剤は、ポリマー、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂またはこれらの組合せを含んでいてもよい。本発明の一実施形態においては、移動剤は、熱可塑性ポリマー、または複数の熱可塑性ポリマーの組合せである。熱可塑性ポリマー添加剤は、通常は、加工用に熱硬化性樹脂の粘度を調整するため、および/またはその靭性を高めるために選択するが、一方で、接着性組成物中の界面材料の分布にもある程度影響し得る。熱可塑性ポリマー添加剤を加える場合、最大50phrまで、加工の容易さを考慮すると最大35phrまでのいずれかの量で使用することができる。適量は、その移動推進能力と、接着性組成物の粘度によって制限される界面材料の可動性とに基づき決定する。なお、接着性組成物の粘度が十分低い場合は、繊維の表面やその近辺への粒子移動を促進するのに、接着性組成物中において界面材料が均一に分布することが必ずしも必要とは限らない。接着性組成物の粘度がある程度高くなると、接着性組成物中において界面材料が均一に分布することが繊維の表面やその近辺への粒子移動の改善に役立つこともある。
【0049】
移動剤としては、限定するものではないが、ポリビニルホルマール、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリエステル、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、フェニルトリメチルインダン構造を有するポリイミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアラミド、ポリエーテルニトリル、ポリベンゾイミダゾール、これらの誘導体および混合物等の熱可塑性材料を用いることができる。
【0050】
移動剤としては、樹脂の高耐熱性や高弾性率を損なわない芳香族の熱可塑性ポリマー添加剤を用いることができる。選択した熱可塑性ポリマー添加剤は、大部分が樹脂に溶解して均質な混合物を形成することができる。熱可塑性ポリマー添加剤は、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、これらの誘導体、類似または同様のポリマー、およびこれらの混合物からなる群より選択される芳香族骨格を有する化合物であってもよい。その優れた移動推進能力から、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミドおよびこれらの混合物が好ましい。好適なポリエーテルスルホンは、例えば約10,000〜約75,000の数平均分子量を有し得る。
【0051】
接着性組成物中に移動剤と界面材料の両方が存在する場合、移動剤と界面材料とは、約0.1:約30、または約0.1:約20の重量比で存在してもよい。この範囲は、粒子移動およびそれに続く界面相形成に必要なように最適なものにすることができる。
【0052】
本発明において、強化繊維と接着性組成物の間の界面領域は、少なくとも界面材料を含むことによって、この領域への応力集中の軽減に必要な強化界面相を形成する。強化界面相の組成は、現在の最新式の分析機器には限界があるため定量的に記録できない場合もあるが、各繊維強化ポリマー組成物が目的とする特性を実現するために極めて独特なものであり、繊維表面の官能基(すなわち界面化学)、サイズ剤、界面材料、および強化繊維近辺に移動することができるバルク樹脂中の1種または複数の他の成分からなると推測される。特に炭素繊維については、表面官能基は、炭素繊維の弾性率、その表面特性および用いる表面処理の種類によって異なり得る。
【0053】
硬化繊維強化ポリマー組成物に圧縮荷重がかかる場合、繊維の早期座屈破壊を遅らせるためには、強化界面相を介した強化繊維と硬化接着性組成物との良好な接着と、界面相の硬度との両方が必要である。本発明における界面相は、表面に少なくとも官能基を含む強化繊維に近い側の接着層と、少なくとも硬質界面材料を含むバルク接着性組成物に近い側の硬質層とを含む。この接着層が、強化繊維と硬化接着性組成物との良好な接着に関わっている。強化界面相を形成するためには、接着性組成物の成分の少なくとも1種と反応し得る少なくとも1種の官能基を有する強化繊維を有し、強化繊維の界面化学と界面材料の界面化学とを相溶性にすることが必要である。接着層の形成は界面材料の有無に関わらず起こり得るが、硬質層の形成は移動剤によってよりいっそう推進され得る。接着層の厚さは100nm以下であってもよい。厚い接着層よりも薄い接着層のほうが、硬質層内、または硬質層とバルク接着性組成物の間、さらにはバルク接着性組成物内において破壊を起こさせるのにより効果的であり、繊維強化ポリマー組成物はより高い負荷に耐えることが可能となる。界面材料は、接着性組成物の硬化の際に硬質層内の本来の位置に集中して濃度勾配を形成する、すなわち、界面材料は接着層のほうに近い場合により集中する。
【0054】
接着性組成物は、必要に応じて促進剤を含んでもよい。促進剤としての化合物の選択について特に限定や制限はなく、樹脂と硬化剤の反応を促進することができ、本発明の効果を損なわないものであればよい。例としては、尿素化合物、スルホン酸エステル化合物、三フッ化ホウ素ピペリジン、p−t−ブチルカテコール、スルホン酸エステル化合物、第三級アミンまたはその塩、イミダゾールまたはその塩、リン系硬化促進剤、金属カルボン酸塩、およびルイス酸/ブレンステッド酸またはその塩が挙げられる。好適な尿素化合物としては、N,N−ジメチル−N’−(3,4−ジクロロフェニル)尿素、トルエンビス(ジメチル尿素)、4,4’−メチレンビス(フェニルジメチル尿素)、3−フェニル−1,1−ジメチル尿素等が挙げられる。かかる尿素化合物の市販品としては、DCMU99(保土谷化学工業(株)製)、オミキュア(登録商標)24、52、94(以上、CVCスペシャルティ・ケミカルズ社製)等が挙げられる。イミダゾール化合物またはその誘導体の市販品としては、2MZ、2PZ、2E4MZ(以上、四国化成工業(株)製)等が挙げられる。ルイス酸触媒としては、三フッ化ホウ素ピペリジン錯体、三フッ化ホウ素モノエチルアミン錯体、三フッ化ホウ素トリエタノールアミン錯体、三塩化ホウ素オクチルアミン錯体等の、三ハロゲン化ホウ素と塩基の錯体が挙げられる。スルホン酸エステル化合物としては、p−トルエンスルホン酸メチル、p−トルエンスルホン酸エチル、p−トルエンスルホン酸イソプロピル等が挙げられる。
【0055】
接着性組成物には、靭性、強度、物理的/熱的特性等の硬化繊維強化ポリマー組成物の機械的性質をさらに向上させるために、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で強化剤、層間強化剤またはこれらの組合せ等のさらなる添加剤を含有させてもよい。
【0056】
1種または複数のポリマー強化剤および/または無機強化剤を用いてもよい。強化剤は、硬化繊維強化ポリマー組成物中に粒子の形態で均一に分布していてもよい。粒子は、直径5ミクロン(μm)未満、さらには直径1μm未満であってもよい。粒子の最短寸法は300nm未満であってもよい。強化剤で繊維床中の熱硬化性樹脂を強化する必要がある場合、粒子の大部分の最長寸法は1μm以下であってもよい。最長寸法が1μmを超えると、粒子が複数の強化繊維の外側に集中するというフィルター効果が生じる場合がある。かかる強化剤としては、限定するものではないが、エラストマー、分岐ポリマー、超分岐ポリマー、デンドリマー、ゴム状ポリマー、ゴム状コポリマー、ブロックコポリマー、コアシェル粒子、酸化物、および表面改質や機能付与が施された、または施されていない、クレー、多面体オリゴマーシルセスキオキサン(POSS)、炭素質材料(カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、フラーレン等)、セラミック、炭化ケイ素等の無機材料等が挙げられる。ブロックコポリマーとしては、米国特許第6894113号(Courtら、アトフィナ社、2005年)に組成が記載されているコポリマー、および「Nanostrength(登録商標)」SBM(ポリスチレン−ポリブタジエン−ポリメタクリレート)、AMA(ポリメタクリレート−ポリブチルアクリレート−ポリメタクリレート)(ともにアルケマ社製)等が挙げられる。他の好適なブロックコポリマーとしては、ダウ・ケミカル社による、Fortegra(登録商標)および米国特許第7820760(B2)号に記載の両親媒性ブロックコポリマー等が挙げられる。公知のコアシェル粒子としては、米国特許出願公開第20100280151(A1)号(Nguyenら、東レ(株)、2010年)に組成が記載されている、不飽和炭素−炭素結合を有する重合性モノマーから重合されたコアポリマーにシェルとしてアミン分岐ポリマーがグラフトされたコアシェル(デンドリマー)粒子;(株)カネカによる、欧州特許出願公開第1632533(A1)号および欧州特許出願公開第2123711(A1)号に組成が記載されているコアシェルゴム粒子;粒子/エポキシ樹脂ブレンドであって、粒子が、ブタジエン、スチレン、他の不飽和炭素−炭素結合モノマーまたはこれらの組合せ等の重合性モノマーから重合されたポリマーコアと、エポキシ樹脂と相溶性であるポリマーシェル(典型的には、ポリメチルメタクリレート、ポリグリシジルメタクリレート、ポリアクリロニトリルまたは同等のポリマー)とを有する「カネエースMX」製品群等が挙げられる。また、カルボキシル化ポリスチレン/ポリジビニルベンゼンの「JSR SX」シリーズ(JSR(株)製)、ブタジエン・アルキルメタクリレート・スチレンコポリマーである「クレハパラロイド」EXL−2655(呉羽化学工業(株)製)、アクリレート・メタクリレートコポリマーである「スタフィロイド」AC−3355およびTR−2122(ともに武田薬品工業(株)製)、ならびにブチルアクリレート・メチルメタクリレートコポリマーである「PARALOID」EXL−2611およびEXL−3387(ともにローム・アンド・ハース社製)も、本発明のブロックコポリマーとして好適である。好適な酸化物粒子としては、ナノレジン社(nanoresins AG)製Nanopox(登録商標)等が挙げられるが、これは機能化ナノシリカ粒子とエポキシ樹脂とのマスターブレンドである。
【0057】
層間強化剤は、1種または複数の熱可塑性樹脂、1種または複数のエラストマー、1種または複数のエラストマーと1種または複数の熱可塑性樹脂との組合せ、エラストマーとガラス等の無機材料との組合せ、または複数のナノファイバーやマイクロファイバーであってもよい。層間強化剤は、粒子または所望の厚さのシート(フィルム、マット、織物、不織布等)の形態であってもよく、繊維強化ポリマー組成物中の2つの複数の強化繊維間に集中していることが好ましい。場合によっては、繊維強化ポリマー組成物の製造の容易さから、シートの形態が好ましい。層間強化剤が粒子状の場合、層間強化剤の平均粒径は、硬化後に層間に留まって靭性の向上を最大限にするために、100μm以下、または10〜50μmであってもよい。粒子は、複数の強化繊維の外側に局在すると考えられる。通常かかる粒子は、(複合組成物中に含まれる全樹脂量を基準として)最大約30重量%、または最大約15重量%の量で使用される。好適な熱可塑性材料としては、ポリアミド等が挙げられる。ポリアミド粒子としては、東レ(株)製SP−500、アルケマ社製「オルガゾール(登録商標)」、EMSグリボリー(EMS−Grivory)社製グリルアミド(登録商標)TR−55、ナイロン−6、ナイロン−12、ナイロン6/12、ナイロン6/6、エボニック社製トロガミド(登録商標)CX等が知られている。強化剤が繊維状の場合、接着性組成物を含浸させた複数の強化繊維からなるマットのいずれの表面に付着させてもよい。層間強化剤は、接着性組成物と反応する上記で定義した硬化性官能基をさらに含んでもよい。層間強化剤は、樹脂リッチな中間層の導入により失われた硬化繊維強化ポリマー組成物のz方向の電気伝導率および/または熱伝導率を取り戻すために、導電性材料であってもよいし、導電性材料や導電性材料と非導電性材料の混合物によって被覆されていてもよい。
【0058】
本発明の別の実施形態は、強化繊維と接着性組成物とを含む繊維強化ポリマー組成物であって、接着性組成物が、少なくとも熱硬化性樹脂と、硬化剤と、硬質界面材料とを含み、硬化させた際の繊維強化ポリマー組成物が、強化繊維と接着性組成物の間に硬質界面材料を含む界面領域を有し、かつ、1240Mpa(180ksi)以上の圧縮強度(CS)、300MPa(43.5ksi)以上の有孔圧縮強度(OHC)を有する繊維強化ポリマー組成物に関する。
【0059】
本実施形態においては、強化繊維が必須である。強化繊維の選択について特に限定や制限はなく、本発明の効果を損なわないものであればよい。好適な強化繊維としては、炭素繊維、アラミド繊維等の有機繊維、炭化ケイ素繊維、金属繊維(アルミナ繊維等)、ボロン繊維、炭化タングステン繊維、ガラス繊維および天然/生物繊維等が挙げられる。繊維強化ポリマー組成物における界面相の形成や良好な接合の促進に寄与する好適な強化繊維の選択については、すでに述べたとおりである。
【0060】
また接着性組成物は、熱硬化性樹脂、硬化剤、硬質界面材料、また必要に応じて移動剤、促進剤、熱可塑性樹脂、強化剤、層間強化剤またはこれらの組合せを含むことも必要である。これらの成分の選択について特に限定や制限はなく、本発明の効果を損なわないものであればよい。これらの成分の例については、すでに説明したとおりである。
【0061】
一実施形態においては、接着性組成物を硬化させると、2.8GPa以上、3.5GPa以上、4.0GPa以上、4.5GPa以上、さらには5.0GPa以上の樹脂曲げ弾性率(以下、「樹脂弾性率」。ASTM D−790に記載の3点曲げ法に従って室温、乾燥状態で測定)を有し得る。なお、樹脂弾性率が高いほど、通常は曲げたわみは低下する。樹脂弾性率が高いほど、硬化繊維強化ポリマー組成物は圧縮強度、有孔圧縮強度および0°曲げ強度に優れ、樹脂弾性率が高いほど各強度は高くなりやすいが、引張強度および/または90°曲げ強度は場合によってはある程度犠牲となることもある。しかしながら、硬化接着性組成物の曲げたわみが2mm、3mm以上、さらには4mm以上あれば、硬化繊維強化ポリマー組成物は各強度を維持または高めることができる。しかしながら、良好な接合と少なくとも界面材料を含む界面相(以下、「強化界面相」)とを組み合わせれば、各強度をさらに高めることができる。(1)硬質界面材料を含む強化界面相、(2)良好な接合、(3)高い樹脂弾性率を組み合わせることによる相乗効果によって、少なくとも硬化繊維強化ポリマー組成物の引張強度、圧縮強度、破壊靭性および層間せん断強度からなる総合性能が優れたものとなる。これは個々の要素や2要素のみの組合せでは得られない。
【0062】
別の実施形態においては、エポキシ樹脂を含む接着性樹脂組成物において高い樹脂弾性率を実現するためには、1モノマー当たりエポキシ基を3個以上有するエポキシ樹脂が好適である。エポキシ樹脂と硬化剤の一方または両方が少なくとも1つのアミド基を含有することによって、高い樹脂弾性率と強化繊維に対する優れた接着性の両方が得られる。アミド基が硬化エポキシネットワークに導入されると、水素結合形成によって樹脂弾性率が高まり、歪力が大きく損なわれることもない。アミド基または前述の特性を有する他の基を含むこのような熱硬化剤、硬化剤または添加剤(1種または複数)は、本明細書中においてエポキシ強化剤またはエポキシ増強剤と呼ぶ。この時、3.5GPa超の樹脂弾性率と約3mm以上の曲げたわみを観察することができる。この機構は、繊維強化ポリマー組成物の圧縮性と破壊靭性特性の両方を改善するのに重要である。かかる化合物が有するベンゼン環の数が多いほど、通常は樹脂弾性率は高くなる。さらに、別の実施形態においては、熱硬化性樹脂または硬化剤のいずれかの異性体を用いてもよい。本発明において異性体とは、原子および基の数が同一であり、1つまたは複数の基の位置が異なる化合物を指す。例えば、アミノベンズアミドのアミド基とアミン基は、ベンゼン環において互いにオルト(1、2)位、メタ(1、3)位またはパラ(1、4)位に位置して、それぞれ2−アミノベンズアミド、3−アミノベンズアミド、4−アミノベンズアミドを形成することができる。互いにオルト位またはメタ位の位置に基があると、互いにパラ位に基がある時に比べて樹脂弾性率が高くなる傾向がある。別の実施形態においては、硬化剤は少なくとも1つのアミド基および芳香族基を含んでもよく、アミド基は、有機アミド基、スルホンアミド基、ホスホルアミド基またはこれらの組合せより選択される。アミド基によって、接着性組成物の強化繊維との接着性が向上するだけでなく、水素結合形成により樹脂弾性率が高まり歪力が損なわれることもない。硬化剤は、窒素含有基(アミン基等)、ヒドロキシル基、カルボン酸基、無水物基等の1つまたは複数の硬化性官能基をさらに含む。特にアミン基は、架橋密度が高くなりやすいため樹脂弾性率が高くなる。本明細書中においては、少なくとも1つのアミド基およびアミン基を有する硬化剤は、「アミドアミン」硬化剤と呼ぶ。少なくとも1つの芳香族基、アミド基およびアミン基を含む化学構造を有する硬化剤は、「芳香族アミドアミン」と呼ぶ。一般的には、芳香族アミドアミンが有するベンゼン環の数が増えると樹脂弾性率が高くなる傾向がある。
【0063】
さらなる硬化性官能基および/またはアミド基は、芳香環上で置換されていてもよい。例えば芳香族アミドアミンは、本発明における硬化剤として用いるのに好適である。上述の硬化剤としては、限定するものではないが、ベンズアミド、ベンズアニリド、ベンゼンスルホンアミド(ベース化合物だけでなく、置換誘導体、例えば、アミド基の窒素原子および/またはベンゼン環がアルキル基、アリール基、アラルキル基、非ヒドロカルビル基等の1つまたは複数の置換基で置換された化合物も含む);アントラニルアミド(o−アミノベンズアミド、2−アミノベンズアミド)、3−アミノベンズアミド、4−アミノベンズアミド等の化合物を含む、アミノベンズアミドおよびその誘導体または異性体;2−アミノテレフタルアミド、N,N’−ビス(4−アミノフェニル)テレフタルアミド等の、アミノテレフタルアミドおよびその誘導体または異性体;2,3−ジアミノベンズアニリド、3,3−ジアミノベンズアニリド、3,4−ジアミノベンズアニリド、4,4−ジアミノベンズアニリド等の、ジアミノベンズアニリドおよびその誘導体または異性体;2−アミノベンゼンスルホンアミド、3−アミノベンゼンスルホンアミド、4−アミノベンゼンスルホンアミド(スルファニルアミド)、4−(2−アミノエチル)ベンゼンスルホンアミド、N−(フェニルスルホニル)ベンゼンスルホンアミド等の、アミノベンゼンスルホンアミドおよびその誘導体または異性体;ならびにp−トルエンスルホニルヒドラジド等のスルホニルヒドラジドが挙げられる。芳香族アミドアミン硬化剤の中では、アミノベンズアミド、アミノテレフタルアミド、ジアミノベンズアニリドおよびアミノベンゼンスルホンアミドが、優れた樹脂弾性率が得られ、加工が容易であることから好適である。
【0064】
必要とされる樹脂弾性率を実現する別の方法としては、必要とされる熱硬化性樹脂として上記エポキシ樹脂とベンゾオキサジン樹脂を組み合わせて用いることがある。この場合、ベンゾオキサジン樹脂が硬化剤の働きをするため、別途硬化剤を加える必要はない。ただし、上記で定義した促進剤を用いて硬化プロセスを加速させてもよい。好適なベンゾオキサジン樹脂としては、限定するものではないが、フェノールフタレイン系、チオジフェニル系、ビスフェノールA系、ビスフェノールF系および/またはジシクロペンタジエン系ベンゾオキサジン等の、多官能n−フェニルベンゾオキサジン樹脂が挙げられる。エポキシ樹脂または官能性の異なるエポキシ樹脂の混合物をベンゾオキサジン樹脂または異なる種類のベンゾオキサジン樹脂の混合物とともに用いる場合、エポキシ樹脂とベンゾオキサジン樹脂の重量比は0.01〜100である。さらなる別の方法としては、高弾性添加剤を接着性組成物に含有させることがある。高弾性添加剤としては、限定するものではないが、酸化物(シリカ等)、クレー、多面体オリゴマーシルセスキオキサン(POSS)、炭素質材料(実質的に整列したカーボンナノチューブ、実質的に整列していないカーボンナノチューブ、カーボンナノプレートレット、カーボンナノファイバー等)、繊維状材料(ニッケルナノストランド、ハロイサイト等)、セラミック、炭化ケイ素、ダイヤモンドおよびこれらの混合物等が挙げられる。
【0065】
上記に加え、強化繊維と接着性組成物の間の界面領域は、少なくとも界面材料を含むことによって、この領域への応力集中を軽減し硬化強化ポリマー組成物の総合性能を大幅に向上させるために必要な強化界面相を形成するが、かかる強化界面相がなければ大幅な向上は実現できない。強化界面相を形成するためには、界面材料の界面化学に相溶性である界面化学をもたらす強化繊維を有する必要があり、場合によっては、強化繊維近辺への界面材料の移動をさらに促進させるために移動剤が必要なこともある。界面材料は、繊維強化ポリマー組成物の硬化の際に、界面領域内において濃度勾配を形成するように界面領域内の本来の位置に集中する、すなわち、界面材料は遠く離れた場所よりも強化繊維の近くに集中する。得られた強化界面相を有する硬化繊維強化ポリマーは基本的に、1240MPa(180ksi)以上、1380MPa(200ksi)以上、さらには1520MPa(220ksi)以上の圧縮強度、300MPa(43.5ksi)以上、310MPa(45ksi)以上、さらには330MPa(48ksi)以上の有孔圧縮強度、さらに変換率70%〜100%の引張強度、および90MPa(13ksi)以上、さらには104MPa(15ksi)以上の層間せん断強度を有し得る。
【0066】
本発明の多機能繊維強化ポリマー組成物の一実施形態は、少なくともエポキシ樹脂を含む熱硬化性樹脂、硬化剤、多機能界面材料、移動剤およびこれらの相対量を上記から選択することによって接着性組成物を調製して、硬化させた際に2.8GPa以上、3.2GPa以上、4GPa以上、さらには5GPa以上の樹脂弾性率と約2mm以上の高い曲げたわみとを有する接着性組成物を得ること、ならびに、90MPa(13ksi)以上、さらには104MPa(15ksi)以上の層間せん断強度(ILSS)、変換率70%〜100%の高い引張強度、1240MPa(180ksi)以上、1380Mpa(200ksi)以上、さらには1520MPa(220ksi)以上の圧縮強度、300MPa(43.5ksi)以上、310MPa(45ksi)以上、さらには330MPa(48ksi)以上の有孔圧縮強度、および/または1S/m以上、さらには2S/m以上の少なくともz方向の電気伝導率とともに、(多機能界面材料を少なくとも含む界面相を有する硬化繊維強化ポリマー組成物中の強化繊維と組み合わせて)高接着性を実現することに関する。
【0067】
上記繊維強化ポリマー組成物に関する全ての実施形態において、硬化剤(1種または複数)は、全熱硬化性樹脂100重量部当たり最大約75重量部(75phr)の量で使用する。また硬化剤は、樹脂弾性率とガラス転移温度の一方または両方を上げるために、熱硬化性樹脂当量と硬化剤当量の化学量論比よりも高い量または低い量で使用してもよい。この場合、硬化剤の当量は反応部位や活性水素原子の数によって異なり、その分子量を活性水素原子の数で割って算出する。例えば、2−アミノベンズアミド(分子量:136)のアミン当量は、二官能性の場合は68、三官能性の場合は45.3、四官能性の場合は34、五官能性の場合は27.2となる。
【0068】
繊維強化ポリマー組成物の製造方法の選択について特に限定や制限はなく、本発明の効果を損なわないものであればよい。
【0069】
一実施形態においては、例えば、強化繊維と接着性組成物とを組み合わせることを含む繊維強化ポリマー組成物の製造方法であって、接着性組成物が少なくとも熱硬化性樹脂と、硬化剤と、硬質界面材料とを含み、強化繊維が、硬化の際に硬質界面材料を強化繊維と接着性組成物の間の界面領域内の本来の位置に集中させるのに好適であり、界面領域が界面材料を含む方法、が提供される。
【0070】
別の実施形態においては、少なくともエポキシ樹脂、強化繊維の界面化学と相溶性である少なくとも1種の官能基(エポキシ基等)を表面に有するナノシリカを含む界面材料、上記で定義した硬化剤、ならびにポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミドおよびこれらの組合せからなる群より選択される移動剤からなる接着性組成物を炭素繊維に含浸させることを含む方法であって、エポキシ樹脂の硬化の際に、界面材料が界面領域内において濃度勾配を形成するように界面領域内の本来の位置に集中し、炭素繊維から遠く離れた場所よりも炭素繊維近辺のほうが界面材料の濃度が高い方法によって、繊維強化ポリマー組成物を調製してもよい。
【0071】
別の実施形態は、低粘度の樹脂による樹脂注入法を用いた繊維強化ポリマー組成物中に強化界面相を形成する方法に関する。このとき、積層された繊維織物および/または繊維マットの外側に移動剤が集中して所望の再成形品が形成される。再成形品内に、少なくとも熱硬化性樹脂、硬化剤および界面材料を含む接着性組成物を加圧浸入させ、浸入過程の間、移動剤の一部を接着性組成物と部分的に混合させて再成形品に浸透させる。接着性組成物中に移動剤の一部を有することにより、繊維強化ポリマー組成物の硬化の際に強化界面相を形成することができる。移動剤の残りは2枚の織物シートまたはマットの間の中間層に集中し、繊維強化ポリマー組成物の耐衝撃性および耐損傷性を向上させることができる。移動剤としては、平均粒径50μm未満の熱可塑性粒子を用いることができる。かかる熱可塑性材料としては、限定するものではないが、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、これらの誘導体、類似のポリマーおよびこれらの混合物等が挙げられる。
【0072】
本発明の繊維強化ポリマー組成物は、例えば熱硬化性であってもよいし、常温硬化性であってもよい。別の実施形態においては、上記繊維強化ポリマー組成物は、最終硬化温度まで一段硬化で硬化させてもよいし、繊維強化ポリマー組成物を一定の休止温度で一定の休止時間休止(保持)させて繊維強化ポリマー組成物中の界面材料を強化繊維の表面に移動させ、徐々に温度を上げてゆき最終硬化温度にて所望の時間硬化させる多段硬化で硬化させてもよい。休止温度は、接着性組成物が低粘度を有する温度範囲内であってもよい。休止時間は約5分以上であってもよい。接着性樹脂組成物の最終硬化温度は、温度上昇の際、接着性樹脂組成物の硬化度が20%以上に到達した後に設定してもよい。昇温速度は、0.5℃/分以上、5℃/分以上、20℃/分以上、さらには50℃/分以上であってもよい。最終硬化温度は、約220℃以下または約180℃以下であってもよい。繊維強化ポリマー組成物は、硬化度が80%以上に到達するまで最終硬化温度で保持してもよい。硬化中、強化ポリマー組成物に真空および/または外圧を加えてもよい。その方法としては、オートクレーブ、真空バッグ、加圧プレス(すなわち、物品の硬化させる側の面を加熱したツールの表面に接触させながら、もう一方の面を熱媒を有する、または有しない加圧空気下に置く)または同様の方法等が挙げられる。なお、熱以外のエネルギー源、例えば電子ビーム、導電法、電子レンジ、プラズマ支援電子レンジまたはこれらの組合せを用いた他の硬化法を適用することもできる。さらに、収縮包装、ブラダーブローイング、プラテンまたはテーブルローリング等の他の外圧法を使用することもできる。
【0073】
繊維強化ポリマー複合材料について、本発明の一実施形態は、繊維と樹脂マトリックスとを組み合わせて硬化性繊維強化ポリマー組成物(「プリプレグ」と呼ぶこともある)を製造した後、硬化させて複合品を得る製造方法に関する。メチルエチルケトンまたはメタノール等の溶媒に溶解させた樹脂マトリックスの浴に繊維を浸漬し、浴から引き上げて溶媒を除去する湿式法を使用することができる。
【0074】
別の好適な方法としては、エポキシ樹脂組成物を加熱して粘度を下げ、強化繊維に直接塗布して樹脂含浸プリプレグを得るホットメルト法、または別の方法としては、エポキシ樹脂組成物を離型紙に塗布して薄膜を得る方法がある。この膜は、熱圧により強化繊維シートの両面に固結させる。
【0075】
プリプレグから複合品を得るためには、例えば、ツール表面またはマンドレルに1層または複数層を巻き付ける。この工程は、テープラッピングと呼ばれることが多い。層の積層には熱および圧力が必要である。ツールは折りたたみ式であるか、または硬化後に取り外される。オートクレーブや、真空ラインを備えたオーブン内での真空バッグ等の硬化法を用いてもよい。一段硬化サイクル、または各段階を一定の時間一定の温度で行う多段硬化サイクルを用いて、約220℃、さらには180℃以下の硬化温度に到達させてもよいが、導電加熱、マイクロ波加熱、電子ビーム加熱、その他同様の方法等、他の好適な方法を用いてもよい。オートクレーブ法においては、圧力を加えて層を圧縮させるが、真空バッグ法では、部品をオーブンで硬化させる際にはバッグに導入した真空圧に頼る。オートクレーブ法は、高品質な複合部品に用いることができる。他の実施形態においては、0.5℃/分以上、1℃/分以上、5℃/分以上、さらには10℃/分以上の好適な加熱速度、ならびに真空圧および/または外部手段による圧密圧力が得られるいずれの方法を用いてもよい。
【0076】
プリプレグを作製せずに、所望の部品の形状となるようにツールまたはマンドレルに追従させた強化繊維に接着性組成物を直接塗布して、熱で硬化させてもよい。その方法としては、限定するものではないが、フィラメントワインディング、引抜成形、樹脂射出成形および樹脂トランスファー成形/樹脂注入、真空アシスト樹脂トランスファー成形等が挙げられる。
【0077】
樹脂トランスファー成形法とは、強化繊維基材に液状熱硬化性樹脂組成物を直接含浸させて硬化させる方法である。この方法は、プリプレグ等の中間生産物を伴わないため、成形コストを削減できる可能性が高く、宇宙船、航空機、鉄道車両、自動車、船舶等の構造材料の製造に好ましく用いられる。
【0078】
フィラメントワインディング法とは、一本から数十本の強化繊維ロービングを一方向に引き揃え、所定の角度から張力をかけて回転金属芯(マンドレル)に捲回させながら、熱硬化性樹脂組成物を含浸させる方法である。ロービングの捲回体が所定の厚さに達した後、硬化させ、その後金属芯を取り外す。
【0079】
引抜法とは、強化繊維を引張機で連続的に引っ張りながら、液状熱硬化性樹脂組成物を充填した含浸タンクに連続的に通過させて熱硬化性樹脂組成物を含浸させた後、スクイーズダイおよび加熱ダイを通して成形、硬化させる方法である。この方法は、繊維強化複合材料が連続的に成形できるという利点があるため、釣竿、竿、パイプ、シート、アンテナ、建築物等用の繊維強化プラスチック(FRP)の製造に用いられる。
【0080】
本発明による複合品は、スポーツ用途、一般産業用途および航空宇宙用途に好ましく用いられる。これらの材料が好ましく用いられる具体的なスポーツ用途としては、ゴルフシャフト、釣竿、テニス/バドミントンラケット、ホッケー用スティック、スキーのストック等が挙げられる。これらの材料が好ましく用いられる具体的な一般産業用途としては、自動車、自転車、船舶、鉄道車両等の乗り物用構造材料、ドライブシャフト、板ばね、風車の羽根、圧力容器、フライホイール、製紙用ローラー、屋根材料、ケーブル、修理/補強材等が挙げられる。
【0081】
本発明の管状複合品は、ゴルフシャフト、釣竿等に好ましく用いられる。
強化界面相の観察
【0082】
目視検査については、高倍率光学顕微鏡または走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、界面材料の破壊モードおよび位置/分布を記録することができた。界面材料は、接合構造の破壊後、接着性組成物とともに繊維の表面に見られた。この場合、接着性組成物の混合モード破壊または粘着破壊が考えられる。良好な粒子移動とは、粒子の繊維表面の被覆率(以下、「粒子被覆率」)が約50%以上であることを指し、無粒子移動とは、被覆率約5%未満を指し、若干の粒子移動とは、被覆率約5〜50%を指す。繊維強化ポリマー複合材料の機械的性質を広範囲に同時に改善するためには50%以上の粒子被覆率が必要であるが、ある特定の目的とする特性を改善する場合、10%以上、さらには20%以上の粒子被覆率が好適な場合もある。
【0083】
厚さ方向における界面材料の存在を観察して位置を特定する方法として、いくつかの方法が当業者に知られている。例えば、複合構造体を繊維方向に対して90°、45°に切断する。切断面を、機械的に、またはアルゴン等のイオンビームにより研磨し、高倍率光学顕微鏡または電子顕微鏡で観察する。SEMを用いてもよい。なお、SEMで界面相が観察できない場合、使用可能な他の最新機器を用いて、TEM、化学分析(X線光電子分光法(XPS)、飛行時間型二次イオン質量分析(ToF−SIMS)、赤外(IR)分光法、ラマン分光法、その他類似または同様の方法)または機械的性質(ナノインデンテーション法、原子間力顕微鏡法(AFM)等)等の別の電子走査法、または同様の方法により、界面相の存在とその厚さを記録してもよい。
【0084】
界面材料が集中した界面領域や界面相は、観察および記録が可能である。一般的に界面相は、繊維の表面から、周囲の樹脂リッチ領域における界面材料の濃度と比べても界面材料が集中していないある一定の距離離れた場所までを測定する。2本の繊維間にある硬化接着性組成物の量にもよるが、界面相は最大100マイクロメートルまで延在可能であり、1種または異なる複数の界面材料の層を1つまたは複数含む。界面相の厚さは最大約1繊維径までであってもよく、1種または異なる複数の界面材料の層を1つまたは複数含む。厚さは繊維径の最大約1/2であってもよい。
【実施例】
【0085】
次に、下記成分を用いた以下の実施例により、本発明の特定の実施形態を詳細に説明する。
【0086】
【表A-1】
【0087】
【表A-2】
【0088】
シリカ−X材料(エポキシ官能化ナノシリカ)は、下記表1の配合に従って、ファイバー・オプティック・センター(Fiber Optic Center)社より購入したオングストロームスフェアー(AngstromSphere)シリカ粉末(100nm)をエポキシ樹脂の混合物に加えることにより作製した。グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GPS)はゲレスト(Gelest)社より購入した。シリカ粉末をGPSの3重量%メタノール/脱イオン水(95/5重量%)溶液に入れて90分間攪拌した。遠心分離により固形分を取り除き、未使用のメタノール中に再分散させた。この操作を2回繰り返し、官能化シリカのメタノール最終分散液を得た。この分散液をエポキシ混合物と混合し、真空加熱下でメタノールを除去した。
【0089】
T800S繊維と同様のPAN前駆物質を用いて同様の紡糸法でMX繊維を作製した。ただし、より高い弾性率を得るために、最大で3000℃の最高炭化温度を適用した。表面処理およびサイズ剤塗布には同様の方法を用いた。このMX繊維は酸素炭素比が約0.1であった。
【0090】
比較例1〜2、実施例1〜6
比較例1〜2および実施例1〜4は、軟質界面相および界面相なしの場合と比較した、硬質界面相が繊維複合材料系の機械的性質に及ぼす影響を示している。T700G−31繊維を用いた。
【0091】
樹脂組成物の各成分を適量、100℃で予熱したミキサーに投入した。投入後、混合物を撹拌しながら160℃に昇温し、1時間維持した。その後、混合物を65℃に冷却し、硬化剤を投入した。最終樹脂混合物を1時間撹拌した後で吐出し、一部を冷凍庫に保存した。
【0092】
高温の混合物の一部を、1500rpmで回転するプラネタリーミキサーで合計20分間脱気し、0.25厚のテフロン(登録商標)インサート付きの金型に注入した。昇温速度1.7℃/分で樹脂を180℃に加熱し、2時間休止させて硬化を完了させ、最後に室温に冷却した。曲げ試験のためのASTM D−790に従って、樹脂プレートを試験用に作製した。
【0093】
プリプレグを作製するため、まず高温の樹脂を、ナイフコーターを用いて離型紙にキャストし薄膜状にした。この膜を、熱および圧密圧力により両側の繊維床に固結させた。炭素繊維の単位面積重量が約190g/m、樹脂含有量が約35重量%のUDプリプレグが得られた。このプリプレグを切断し、ASTM規格に従った各種機械試験用およびz方向の電気伝導性試験用に、表2に示した順番でハンドレイアップ成形を行った。昇温速度1.7℃/分、圧力0.59MPaの条件で、180℃で2時間、オートクレーブ内でパネルを硬化させた。
【0094】
表からわかるように、エポキシ樹脂系とT700G−31繊維の間に強力な接着性が存在したので、ILSSは全ての系において15ksi以上であった。ただし、比較例2のようにCSR材料で軟質界面相を調製した場合は、界面相のない比較例1のOHC強度(約41ksi)と比べても、OHC強度が約40ksiに低下した。しかしながら、実施例1〜2の界面相にシリカを導入した場合はOHCが最大約47ksiまで上昇し、シリカの使用量が多いほどOHCが高いという結果となった。なお、実施例2では実施例1よりもシリカ使用量が多くこの系の樹脂弾性率がさらに高くなったが、界面相の機能には影響はなかった。実施例3ではPES2移動剤に代えてPEI移動剤を使用したが、各系の間でそれほど大きな性能の差は見られなかった。最後に、実施例2に層間強化剤PAを導入して実施例4とした場合は、モードII破壊靭性GIICの大幅な上昇が見られた。
【0095】
実施例5〜6は、高い樹脂弾性率がOHCに与える影響を示している。上記実施例よりも弾性率が高い樹脂は、シリカの量は同じままで、4,4−DDS硬化剤に代えて3,3−DDS(実施例5)およびAAA(実施例6)を用いることにより作製した。驚くべきことに、樹脂弾性率が高くなるにつれてOHCはさらに上昇し、他の特性を損なうこともなかった(実際、他の特性が向上する場合もあった)。
【0096】
比較例3〜6、実施例7〜11
樹脂、プリプレグの機械試験を、上記例と同様の手順で行った。これらの系では、OHCの向上には樹脂弾性率よりも硬質界面相が有利であることがわかる。T800G−31繊維を用いた。
【0097】
比較例3〜6から、樹脂弾性率が高くなるにつれてOHCが高まることがわかった。しかしながら、樹脂弾性率が約4GPaに到達した後は、OHCは約47ksiで横ばい状態となった。樹脂弾性率をさらに上げてもOHCが高くなることはなかった。しかしながら、実施例7〜11において硬質界面相を導入すると、OHCは最大で54ksiまでさらに上昇した。この有意な上昇は、高い樹脂弾性率のみでは越えることのできなかったOHCの壁を克服するためには硬質界面相が重要であるということを示している。
【0098】
実施例12
樹脂、プリプレグの機械試験を、上記例と同様の手順で行った。高弾性率炭素繊維であるMX−30を用いた。表からわかるように、界面相の調製に成功した際には、OHCとILSSの両方において、弾性率の低い炭素繊維複合材料系と同等またはそれ以上のものが得られた。
【0099】
上記説明は、当業者が本発明を実施できるように提示されたものであり、特定の用途およびその要件に関連して提供されたものである。当業者には、好ましい実施形態に対する種々の改変がただちに明らかであり、本明細書において定義した一般原理は、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、他の実施形態および用途に適用することができる。すなわち本発明は、示された実施形態に限定されることを意図したものではなく、本明細書に開示された原理および特徴に一致する最も広い範囲が与えられるべきである。
【0100】
本出願には、いくつかの数値範囲限定が開示されている。本発明は開示されている数値範囲の全域で実施可能であるため、開示されている数値範囲には、厳密な範囲限定が本明細書中に一語一語そのまま記載されている訳ではないが、その開示されている数値範囲内のあらゆる範囲が元来含まれている。最後に、本出願中において参照された特許および刊行物の全開示は、あらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれるものとする。
【0101】
【表1】
【0102】
【表2】
【0103】
変換係数
変換率とは、繊維強化ポリマー複合材料において繊維の強度が有効利用されている程度を示す尺度である。繊維の実測ストランド強度と繊維強化ポリマー複合材料中の繊維体積破壊(V)とで実測引張強度(TS)を正規化し、下記式より算出した。なお、Vは酸分解法により求めることができる。
【0104】
【数1】
図1