(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記複合コードの巻き始め端末が前記ビードコアのタイヤ軸方向最外側かつタイヤ径方向最内側の位置に配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
前記ビードコアの外周上に配置されたビードフィラーを有し、該ビードフィラーの高さがタイヤ断面高さの30%以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
前記複合コードを構成する前記側線はゴムとの接着性を有する被膜で被覆され、前記複合コードはゴムで被覆されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
前記ビード部のベース面にはタイヤ軸方向に対する傾斜角度が異なる2段階の傾斜角度が付与され、ビードヒール側の第1傾斜面の傾斜角度よりもビードトウ側の第2傾斜面の傾斜角度の方が大きいことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
請求項1〜7のいずれかに記載の空気入りタイヤを製造する方法であって、炭素繊維からなる芯線と該芯線の周囲に配置されたガラス繊維からなる複数本の側線とを含む破断伸びが2.5%以上5.0%以下の1本の複合コードをゴム被覆した状態でタイヤ周方向に沿って連続的に巻回し、該複合コードの周回部分がタイヤ軸方向に並ぶ複数の列とタイヤ径方向に重なる複数の層を構成する環状体を形成し、該環状体を加硫した後、該加硫済みの環状体がビードコアとして組み込まれたグリーンタイヤを成形し、該グリーンタイヤの加硫を行うことを特徴とする空気入りタイヤの製造方法。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤは、一般に、一対のビード部間に装架されたカーカス層を備えている。そして、ビード部には環状のビードコアが埋設されており、カーカス層はビードコアの廻りにタイヤ内側から外側へ巻き上げられて該ビードコアに係止されている。
【0003】
従来、空気入りタイヤのビードコアとして、1本又は複数本のスチールワイヤをタイヤ周方向に沿って連続的に巻回してなる環状体が使用されている(例えば、特許文献1〜3参照)。このようなビードコアは、空気入りタイヤのビード部をリムに対して強固に嵌合させると共に、内圧に基づく張力が掛かったカーカス層を保持するという重要な役割を担う部材である。
【0004】
近年、空気入りタイヤを軽量化するためにビードコアの質量を削減することが求められている。これに対して、ビードコアに炭素繊維やアラミド繊維等の金属以外の材料からなる線材を用いることが提案されている(例えば、特許文献4,5参照)。
【0005】
しかしながら、ビードコアに金属以外の材料からなる線材を用いた場合、例えば、空気入りタイヤをリム組みする際にビードコアを構成する線材が局所的に変形して座屈し、その座屈によりビードコアの強度が低下し、ビードコアの破断を引き起こすことが懸念される。そのため、ビードコアに金属以外の材料からなる線材を用いた空気入りタイヤは実用化されていないのが現状である。
【0006】
更に、ベルトやタイヤに使用されるゴム補強用コードを炭素繊維ストランドと該炭素繊維ストランドの周囲に配置されたガラス繊維ストランドとから構成することが提案されている(例えば、特許文献6,7参照)。しかしながら、これら文献は上記のようなゴム補強用コードをビードコアという特定の部材に適用することを示唆しておらず、しかも、ビードコアに適用するための具体的な要件を全く教えていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、ビードコアに金属以外の材料からなる複合コードを用いて軽量化を図りつつ、従来と同等以上の性能を発揮することを可能にした空気入りタイヤ及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための本発明の空気入りタイヤは、ビード部に埋設された環状のビードコアと、該ビードコアに係止されたカーカス層とを備えた空気入りタイヤにおいて、
前記ビードコアは、炭素繊維からなる芯線と該芯線の周囲に配置されたガラス繊維からなる複数本の側線とを含む破断伸びが2.5%以上5.0%以下の1本の複合コードから構成され、該複合コードがタイヤ周方向に沿って連続的に巻回されてその周回部分がタイヤ軸方向に並ぶ複数の列とタイヤ径方向に重なる複数の層を構成する環状体であることを特徴とするものである。
【0010】
また、上記目的を達成するための本発明の空気入りタイヤの製造方法は、上述した空気入りタイヤを製造する方法であって、炭素繊維からなる芯線と該芯線の周囲に配置されたガラス繊維からなる複数本の側線とを含む破断伸びが2.5%以上5.0%以下の1本の複合コードをゴム被覆した状態でタイヤ周方向に沿って連続的に巻回し、該複合コードの周回部分がタイヤ軸方向に並ぶ複数の列とタイヤ径方向に重なる複数の層を構成する環状体を形成し、該環状体を加硫した後、該加硫済みの環状体がビードコアとして組み込まれたグリーンタイヤを成形し、該グリーンタイヤの加硫を行うことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、ビードコアの構成材料として、炭素繊維からなる芯線と該芯線の周囲に配置されたガラス繊維からなる複数本の側線とを含む複合コードを使用することにより、高強力の炭素繊維の特長を活かしながら、炭素繊維の欠点である耐疲労性を改善し、ビードコアを軽量化することが可能になる。また、複合コードがタイヤ周方向に沿って連続的に巻回された環状体からなるビードコアは複合コードの端末部分において座屈し易いが、本発明では、1本の複合コードがタイヤ周方向に沿って連続的に巻回されてその周回部分がタイヤ軸方向に並ぶ複数の列とタイヤ径方向に重なる複数の層を形成する環状体を構成することにより、複合コードの端末部分を起点とする座屈を可及的に回避することができる。その結果、ビードコアに金属以外の材料からなる複合コードを用いて軽量化を図りつつ、従来と同等以上の性能を発揮することが可能になる。
【0012】
本発明において、複合コードの破断伸びは2.5%以上5.0%以下とし、より好ましくは3.0%以上5.0%以下とする。これにより、リムに対するビード部の嵌合性を良好に維持しながら、リム組み時におけるビードコアの損傷をより確実に回避することができる。
【0013】
複合コードの巻き始め端末はビードコアのタイヤ軸方向最外側かつタイヤ径方向最内側の位置に配置されていることが好ましい。これにより、複合コードの端末部分におけるビードコアの座屈を効果的に防止することができ、特にタイヤ内圧に対するビード破壊強度を高めることができる。
【0014】
複合コードのタイヤ径方向内側から2層目の周回数は1層目の周回数よりも多いことが好ましい。このように複合コードの配置を規定することにより、ビードコアの形状が安定し、その強度を高めることができる。
【0015】
また、本発明に係る空気入りタイヤは、ビードコアの外周上に配置されたビードフィラーを有し、該ビードフィラーの高さがタイヤ断面高さの30%以下であることが好ましい。上記複合コードからなるビードコアは、従来のスチール製ビードコアに比べて低荷重時の伸びが大きくなり、リムの締め付け力が同体積のスチール製ビードコアより低くなるため、これが空気入りタイヤの操縦安定性に悪影響を与える要因となる。このような悪影響を回避する手段として、ビードフィラーの高さを低くすることが有効である。このようにビードフィラーの高さを低くすることにより、タイヤのコーナリング時におけるサイドウォール部の変形がビードコアに与える影響を小さくし、操縦安定性を改善することができる。
【0016】
複合コードを構成する側線はゴムとの接着性を有する被膜で被覆され、複合コードはゴムで被覆されていることが好ましい。側線を被覆する被膜に基づいて複合コードのゴムに対する接着性を高めることにより、ビードコアの耐久性を改善することができる。
【0017】
ビード部のベース面にはタイヤ軸方向に対する傾斜角度が異なる2段階の傾斜角度が付与され、ビードヒール側の第1傾斜面の傾斜角度よりもビードトウ側の第2傾斜面の傾斜角度の方が大きいことが好ましい。複合コードの引張剛性はスチールワイヤよりも低いためリムに対するビード部の嵌合力が低くなる傾向がある。これに対して、ビード部のベース面に上記のような2段テーパーを付与することにより、リム組み性を良好に維持しながら、リムに対するビード部の嵌合力を高めることができる。
【0018】
上述した空気入りタイヤを製造する場合、炭素繊維からなる芯線と該芯線の周囲に配置されたガラス繊維からなる複数本の側線とを含む破断伸びが2.5%以上5.0%以下の1本の複合コードをゴム被覆した状態でタイヤ周方向に沿って連続的に巻回し、該複合コードの周回部分がタイヤ軸方向に並ぶ複数の列とタイヤ径方向に重なる複数の層を形成する環状体を構成した後、該環状体を単体で加硫すると良い。しかる後、加硫済みの環状体がビードコアとして組み込まれたグリーンタイヤを成形し、該グリーンタイヤの加硫を行うようにする。これにより、ビードコアを上記複合コードから構成するにあたって、ビードコアの真円度を高めることができ、延いては、空気入りタイヤのユニフォミティーを改善することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は本発明の実施形態からなる空気入りタイヤを示すものである。
【0021】
図1に示すように、本実施形態の空気入りタイヤは、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部1と、該トレッド部1の両側に配置された一対のサイドウォール部2,2と、これらサイドウォール部2のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部3,3とを備えている。
【0022】
一対のビード部3,3間にはカーカス層4が装架されている。このカーカス層4は、タイヤ径方向に延びる複数本の補強コードを含み、各ビード部3に配置されたビードコア5の廻りにタイヤ内側から外側へ折り返されている。ビードコア5の外周上には断面三角形状のゴム組成物からなるビードフィラー6が配置されている。
【0023】
一方、トレッド部1におけるカーカス層4の外周側には複数層のベルト層7が埋設されている。これらベルト層7はタイヤ周方向に対して傾斜する複数本の補強コードを含み、かつ層間で補強コードが互いに交差するように配置されている。ベルト層7において、補強コードのタイヤ周方向に対する傾斜角度は例えば10°〜40°の範囲に設定されている。ベルト層7を構成する補強コードとしては、スチールコードやアラミドコード等の高弾性なコードが好ましく使用される。ベルト層7の外周側には、高速耐久性の向上を目的として、補強コードをタイヤ周方向に対して例えば5°以下の角度で配列してなる少なくとも1層のベルト補強層8が配置されている。ベルト補強層8は少なくとも1本のバンドコードを引き揃えてゴム被覆してなるストリップ材をタイヤ周方向に連続的に巻回したジョイントレス構造とすることが望ましい。ベルト補強層8を構成するバンドコードとしては、ナイロンやポリエチレンテレフタレート(PET)やアラミド等の有機繊維コードが好ましく使用される。
【0024】
上述のようにビード部3に埋設された環状のビードコア5と、そのビードコア5に係止されたカーカス層4とを備えた空気入りタイヤにおいて、ビードコア5としては、
図2〜
図4に示すように、1本の複合コード10がタイヤ周方向に沿って連続的に巻回されてその周回部分10Aがタイヤ軸方向Twに沿って並ぶ複数の列とタイヤ径方向Trに重なる複数の層を構成する環状体が使用されている。
図2及び
図3において、複合コード10の巻き始め端末10eはビードコア5のタイヤ軸方向最外側かつタイヤ径方向最内側の位置(
図4参照)に配置され、複合コード10を構成する複数の周回部分10Aがタイヤ軸方向Tw又はタイヤ径方向Trに沿って順次配列されている。
図2のビードコア5は概ね六角形の断面形状をなし、
図3のビードコア5は概ね四角形の断面形状をなしている。
【0025】
複合コード10は、
図5に示すように、炭素繊維からなる少なくとも1本の芯線11と、該芯線11の周囲に配置されたガラス繊維からなる複数本の側線12とから構成されている。
【0026】
複合コード10の中心部に配置される炭素繊維の芯線11は、その特性によって、複合コード10に対して高い引張強度と優れた寸法安定性を付与する。耐屈曲疲労性が高い複合コード10を得るには、複合コード10及びそのインシュレーションゴムが屈曲した場合に、引張応力や圧縮応力を緩和する構造が必要となる。ガラス繊維の側線12は、炭素繊維の芯線11に比べて、弾性率が低く耐摩耗性が高い。このようなガラス繊維の側線12で炭素繊維の芯線11の周囲を取り巻くことによって、引張応力や圧縮応力を緩和できるため、耐屈曲疲労性が高い複合コード10が得られる。
【0027】
炭素繊維の芯線11としては、引張弾性率が155〜650GPaの範囲のものが好適に用いられる。そのような炭素繊維の芯線11の密度は、たとえば1.74〜1.97g/cm
3である。特に、直径が4μm〜8μmの炭素フィラメントを500〜25000本束ねて形成される30〜2000texの芯線11が好適に使用される。
【0028】
炭素繊維の芯線11の全断面積は、炭素繊維の芯線11の全断面積とガラス繊維の側線12の全断面積との合計の20〜80%の範囲であることが好ましい。複合コード10の中心側に配置された炭素繊維の芯線11は、高い引張強度と優れた寸法安定性とに寄与する。しかし、複合コード10内における炭素繊維の芯線11の割合が高過ぎると、静的強度は向上するが、屈曲性が低下する場合がある。そのため、炭素繊維の芯線11の全断面積は、炭素繊維の芯線11の全断面積とガラス繊維の側線12の全断面積との合計の80%以下、より好ましくは70%以下であると良い。一方、複合コード10内における炭素繊維の芯線11の割合が低過ぎると、炭素繊維の芯線11による効果を十分に得ることができない場合がある。そのため、炭素繊維の芯線11の全断面積は、炭素繊維の芯線11の全断面積とガラス繊維の側線12の全断面積との合計の20%以上、より好ましくは40%以上であると良い。
【0029】
炭素繊維の芯線11は、撚られていても良いし、撚られていなくても良い。炭素繊維の芯線11の撚り数は、5.0回/25mm以下、より好ましくは2.5回/25mm以下である。
【0030】
また、炭素繊維の芯線11の表面には、接着性を向上させるための処理や繊維がほつれるのを防止するための処理をしても良い。例えば、炭素繊維の芯線11の表面に、ゴムとの接着性を有する被膜11aを形成しても良い。そのような被膜11aは、例えば、レゾルシン及びホルマリンの初期縮合物とゴムラテックスとの混合物を主成分とする処理液(RFL処理液)を用いて形成することができる。レゾルシン及びホルマリンの初期縮合物には、公知のものを適用できる。例えば、レゾルシンとホルムアルデヒドをアルカリ性触媒の存在下で反応させて得られるレゾール型の縮合物や、レゾルシンとホルムアルデヒドを酸触媒の存在下で反応させて得られるノボラック型の縮合物を用いることができる。また、エポキシ化合物やイソシアネート化合物などを用いて、炭素繊維の芯線11の表面の接着性を向上させる処理を行っても良い。
【0031】
ガラス繊維の側線12としては、弾性率が60〜80GPaのものが好適に用いられる。そのようなガラス繊維の側線12の密度は例えば約2.5g/cm
3であり、引張強度は例えば250〜310cN/dtexである。ガラス繊維の側線12としては、直径が例えば7〜9μmであるガラスフィラメントを200〜2400本束ねて下撚りすることによって得られるストランドであって、太さが20〜480texの範囲であるものが好ましく用いられる。また、炭素繊維の芯線11の周囲に配置されるガラス繊維の側線12の本数は、特に限定されるものではないが、例えば、5本〜24本、好ましくは8本〜15本とすることが好ましい。
【0032】
ガラス繊維の側線12は複合コード10の外周側に配置されるため、複合コード10が埋め込まれるインシュレーションゴムとの接着性が重要である。ガラス繊維の側線12とインシュレーションゴムとの接着性は、接着性を向上させるための処理をガラス繊維の側線12に施したり、ガラス繊維の側線12に撚りを加えたりすることによって改善することができる。
【0033】
ガラス繊維の側線12の表面には、ゴムとの接着性を有する被膜12aを形成するのが良い。そのような被膜12aは、例えば、レゾルシン及びホルマリンの縮合物とゴムラテックスとの混合物を主成分とする処理液(RFL処理液)を用いて形成することができる。この場合、ガラス繊維の側線12の耐屈曲疲労性を向上でき、また、ガラス繊維の側線12とゴムとの接着性を改善することができる。また、ガラス繊維の側線12の表面に接着剤を塗布しても良い。例えば、エポキシ化合物やイソシアネート化合物などを使用して、ガラス繊維の側線12の表面の接着性を向上させる処理を行っても良い。
【0034】
ガラス繊維の側線12は、0.25〜5.0回/25mmの範囲の撚り数で下撚りされていても良い。撚り数をこの範囲とすることによって、耐屈曲疲労性を改善することができる。ガラス繊維の側線12に下撚りが施されている場合、複合コード10は、ガラス繊維の側線12の下撚り方向とは逆の方向に上撚りされることが望ましい。これにより、撚り戻りを減少させることができる。複合コード10を上撚りする場合、上撚り数は0.5〜10回/25mmの範囲であることが好ましい。
【0035】
複合コード10の表面には、カバーゴム層13が形成されていても良い。このカバーゴム層13は、複合コード10が埋め込まれるインシュレーションゴムに応じて選択することができる。なお、被膜11a,12a及びカバーゴム層13は省略することが可能である。
【0036】
更に、上記空気入りタイヤにおいては、複合コード10として、破断伸びが2.5%以上5.0%以下の範囲、より好ましくは、3.0%以上5.0%以下の範囲にあるものが使用されている。
【0037】
上述のように構成される空気入りタイヤでは、ビードコア5の構成材料として、炭素繊維からなる芯線11と該芯線11の周囲に配置されたガラス繊維からなる複数本の側線12とを含む特定の破断伸びを有する複合コード10を使用することにより、高強力の炭素繊維の特長を活かしながら、炭素繊維の欠点である耐疲労性を改善し、ビードコア5を軽量化することができる。また、ビードコア5として、1本の複合コード10がタイヤ周方向に沿って連続的に巻回されてその周回部分10Aがタイヤ軸方向Twに沿って並ぶ複数の列とタイヤ径方向Trに沿って重なる複数の層を形成する環状体を構成することにより、複合コード10の端末部分を起点とする座屈を可及的に回避することができる。その結果、ビードコア5に金属以外の材料からなる複合コード10を用いて軽量化を図りつつ、従来と同等以上の性能を発揮することが可能になる。
【0038】
上記空気入りタイヤにおいて、ビードコア5を構成する複合コード10の破断伸びは2.5%以上5.0%以下であることが必要である。これにより、リムに対するビード部3の嵌合性を良好に維持しながら、リム組み時におけるビードコア5の損傷をより確実に回避することができる。複合コード10の破断伸びが下限値よりも小さいとリム組み時にビードコア5が損傷し易くなり、逆に上限値よりも大きいとビードコア5の剛性が低下してリムに対するビード部3の嵌合力が低下し、リム外れを生じ易くなる。
【0039】
上記空気入りタイヤにおいて、複合コード10の巻き始め端末10eはビードコア5のタイヤ軸方向最外側かつタイヤ径方向最内側の位置に配置されているのが良い。通常、カーカス層4はビードコア5の廻りにタイヤ内側から外側へ巻き上げられているので、内圧による張力は主としてビードコア5のタイヤ軸方向最内側かつタイヤ径方向最内側の部位に掛かる。これに対して、複合コード10の巻き始め端末10eを上記位置に配置した場合、複合コード10の端末部分におけるビードコア5の座屈を効果的に防止することができ、特にタイヤ内圧に対するビード破壊強度を高めることができる。
【0040】
上記空気入りタイヤにおいて、複合コード10のタイヤ径方向内側から2層目の周回数は1層目の周回数よりも多くなっていて、その周回部分10Aのタイヤ軸方向Twの位置が層間で互いにずれているのが良い。特に、
図2に示すように、複合コード10の周回数が最内層からタイヤ径方向Trに向かって順次増加し、周回数が最大値になった層からタイヤ径方向Trに向かって順次減少し、その周回部分10Aのタイヤ軸方向Twの位置が層間で互いにずれている構造を採用することが好ましい。複合コード10の周回部分10Aを俵積みの要領で巻き重ねることにより、ビードコアの形状が安定し、その強度を高めることができる。
【0041】
図1に示すように、ビードコア5の外周上にビードフィラー6が配置された空気入りタイヤでは、ビードフィラー6の高さBHがタイヤ断面高さSHの30%以下であると良い。複合コード10からなるビードコア5は、従来のスチール製ビードコアに比べて低荷重時の伸びが大きくなり、リムの締め付け力が同体積のスチール製ビードコアより低くなるため、これが空気入りタイヤの操縦安定性に悪影響を与える要因となる。これに対して、ビードフィラー5の高さBHを低くすることにより、タイヤのコーナリング時におけるサイドウォール部2の変形がビードコア5に与える影響を小さくし、操縦安定性を改善することができる。ビードフィラー6の高さBHは、より好ましくは、タイヤ断面高さSHの5%以上25%以下とする。
【0042】
また、上述のように複合コード10を構成する側線12はゴムとの接着性を有する被膜12aで被覆され、複合コード10はゴム層13で被覆されているのが良い。特に、ビードコア5を作製する際には、複合コード10を未加硫ゴムで被覆しておくことが望ましい。このように側線12を被覆する被膜12aに基づいて複合コード10のゴムに対する接着性を高めることにより、ビードコア5の耐久性を改善することができる。
【0043】
更に、
図2及び
図3に示すように、ビード部3のベース面にはタイヤ軸方向に対する傾斜角度が異なる2段階の傾斜角度が付与され、ビードヒール側の第1傾斜面31の傾斜角度θ1よりもビードトウ側の第2傾斜面32の傾斜角度θ2の方が大きいことが好ましい。複合コード10の引張剛性はスチールワイヤよりも低いためリムに対するビード部3の嵌合力が低くなる傾向がある。これに対して、ビード部3のベース面に上記のような2段テーパーを付与した場合、ビードヒール側の第1傾斜面31の傾斜角度θ1が相対的に小さいためリム組み性を良好に維持することができる一方で、ビードトウ側の第2傾斜面32の傾斜角度θ2の相対的に大きいため嵌合時にビード部3のビードトウ側の部分が強く圧縮されてリムに対するビード部3の嵌合力を高めることができる。
【0044】
上述した空気入りタイヤを製造する場合、炭素繊維からなる芯線11と該芯線11の周囲に配置されたガラス繊維からなる複数本の側線12とを含む特定の破断伸びを有する1本の複合コード10をゴム被覆した状態でタイヤ周方向に沿って連続的に巻回し、該複合コード10の周回部分がタイヤ軸方向に並ぶ複数の列とタイヤ径方向に重なる複数の層を形成する環状体を構成した後、その環状体を単体で加硫すると良い。環状体の加硫は複合コード10の巻回装置上でそのまま行っても良く、或いは、巻回装置から取り外された環状体を他の加硫装置に搬送し、その加硫装置において環状体を円環状に張った状態で行っても良い。また、環状体の加硫はインシュレーションゴムを半加硫状態にするものであっても良い。
【0045】
しかる後、加硫済みの環状体がビードコア5として組み込まれたグリーンタイヤを成形し、そのグリーンタイヤの加硫を行うようにする。これにより、ビードコア5を複合コード10から構成するにあたって、ビードコア5の真円度を高めることができ、延いては、空気入りタイヤのユニフォミティーを改善することができる。なお、ビードコア5となる環状体の加硫をグリーンタイヤの加硫と同時に行うことも可能である。
【実施例】
【0046】
タイヤサイズ205/55R16で、ビード部に埋設された環状のビードコアと、該ビードコアに係止されたカーカス層とを備えた空気入りタイヤにおいて、ビードコアの構造だけを異ならせた従来例1、比較例1〜
4及び実施例1〜
5のタイヤを製作した。
【0047】
従来例1においては、ビードコアの線材としてスチールワイヤを使用した。比較例1においては、ビードコアの線材として炭素繊維コードを使用した。比較例2においては、ビードコアの線材としてガラス繊維コードを使用した。また、比較例
3,4及び実施例1〜
5においては、ビードコアの線材として炭素繊維からなる芯線と該芯線の周囲に配置されたガラス繊維からなる複数本の側線とを含む複合コードを使用した。そして、線材の直径、線材の破断伸び、ビード積層構造、線材の巻き始め端末位置、ビードフィラー高さ(タイヤ断面高さに対する比率)、ビード形状を表1のように設定した。
【0048】
ビード積層構造について、例えば、「6+6+6+6+5」は線材の周回部分がタイヤ径方向内側から外側に向かって6列、6列、6列、6列、5列の順番で積層されていることを意味する。また、ビード形状について、「A」はタイヤ軸方向に対する傾斜角度が10°であるシングルテーパーを意味し、「B」はビードヒール側の第1傾斜面の傾斜角度が8°でビードトウ側の第2傾斜面の傾斜角度が20℃である2段テーパーを意味する。
【0049】
これら従来例1、比較例1〜
4及び実施例1〜
5のタイヤについて、下記試験方法により、タイヤ質量、ビード破壊強度を評価し、その結果を表1に併せて示した。
【0050】
タイヤ質量:
各試験タイヤの質量を測定し、従来タイヤ1に対する増減量(g)を求めた。評価結果は、従来タイヤ1に対して軽量化された場合をマイナス値で示した。
【0051】
ビード破壊強度:
各試験タイヤを水圧試験装置に装着し、タイヤ内の圧力を増大させ、ビード部が破壊する際の最大圧力を求めた。評価結果は、従来例1を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほどビード破壊強度が高いことを意味する。
【0052】
【表1】
【0053】
この表1から判るように、実施例1〜
5のタイヤは、従来例1との対比において、ビード破壊強度を十分に維持しながら軽量化を図ることができた。一方、比較例1〜3のタイヤは、軽量化が可能であるもののビード破壊強度の低下が顕著であり、実用には耐えないものであった。特に、比較例1ではリム組み時のビードコアの座屈が生じ、比較例2,3ではビードコアの強度が不足するものであった。
【0054】
次に、表2に示すように、ビードフィラー高さを異ならせたこと以外は従来例1と同じ構造を有する従来例2のタイヤと、ビードフィラー高さ及び/又はビード形状を異ならせたこと以外は実施例
5と同じ構造を有する実施例
6〜8のタイヤを用意した。
【0055】
そして、従来例1,2及び実施例
5〜
8タイヤについて、上述の試験方法により、タイヤ質量、ビード破壊強度を評価すると共に、下記の試験方法により、操縦安定性、リム組み時の嵌合圧を評価し、その結果を表2に併せて示した。
【0056】
操縦安定性:
各試験タイヤをリムサイズ16×6.5Jのホイールに組み付けて試験車両に装着し、空気圧230kPaとし、アスファルト路面からなるテストコースにてドライバーによる官能評価を行った。その際、従来例1を3.0とする5点満点で操縦安定性を評価した。このような評価を5名のテストドライバーにより行い、その平均評価値を求めた。この評価値が大きいほど操縦安定性が優れていることを意味する。
【0057】
リム組み時の嵌合圧:
各試験タイヤをリムサイズ16×6.5Jのホイールに組み付ける際の嵌合時の空気圧(kPa)を測定した。この嵌合圧が小さいほどリム組み作業性が良いことを意味する。
【0058】
【表2】
【0059】
この表2から判るように、ビードフィラー高さを低くすることにより、操縦安定性の改善効果が得られた。また、2段テーパーを採用した場合、上述の効果を維持しながら、リム組み時の嵌合圧が低下し、リム組み作業性が改善されていた。
【0060】
次に、未加硫状態のビードコアが組み込まれたグリーンタイヤを加硫することで得られた実施例
9のタイヤと、事前に加硫されたビードコアが組み込まれたグリーンタイヤを加硫することで得られた実施例
10のタイヤを用意した。
【0061】
そして、従来例1及び実施例
9,10のタイヤについて、ラジアル・フォース・バリエーション(RFV)を測定し、その結果を表3に示した。RFVの評価結果は、測定値の逆数を用い、従来例1を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほどユニフォミティーが良好であることを意味する。
【0062】
【表3】
【0063】
この表3から判るように、グリーンタイヤの成形に先駆けてビードコア単体を事前に加硫した場合、ビードコアの真円度を高めることができ、延いては、空気入りタイヤのユニフォミティーを改善することができた。