(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記板厚中央部におけるSi含有量が0.50%以下であり、前記板厚中央部におけるMn含有量が0.20%以上、1.50%未満であることを特徴とする、請求項1に記載のホットスタンプ成形体。
前記板厚中央部におけるSi含有量が0.50%以下であり、前記板厚中央部におけるMn含有量が1.50%以上、3.00%未満であることを特徴とする、請求項1に記載のホットスタンプ成形体。
前記板厚中央部におけるSi含有量が0.50%超、3.00%未満であり、前記板厚中央部におけるMn含有量が0.20%以上、1.50%未満であり、前記板厚中央部が、面積分率で、1.0%以上、5.0%未満の残留オーステナイトを含むことを特徴とする、請求項1に記載のホットスタンプ成形体。
前記板厚中央部におけるSi含有量が0.50%超、3.00%未満であり、前記板厚中央部におけるMn含有量が1.50%以上、3.00%未満であり、前記板厚中央部が、面積分率で、1.0%以上、5.0%未満の残留オーステナイトを含むことを特徴とする、請求項1に記載のホットスタンプ成形体。
前記板厚中央部が、更に、質量%で、Nb:0.010%以上、0.150%以下、Ti:0.010%以上、0.150%以下、Mo:0.005%以上、1.000%以下、及びB:0.0005%以上、0.0100%以下の1種又は2種以上を含有することを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載のホットスタンプ成形体。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明のホットスタンプ成形体とその製造方法について説明する。
【0019】
まず、本発明のホットスタンプ成形体を構成する板厚中央部の成分組成の限定理由について説明する。以下、成分組成に係る%は質量%を意味する。
【0020】
「C:0.20%以上、0.70%未満」
Cは、板厚中央部において500Hv以上、800Hv以下の硬さを得るために重要な元素である。0.20%未満では、板厚中央部において500Hv以上を確保することが困難であるので、Cは0.20%以上とする。好ましくは0.30%以上である。一方、0.70%以上では、板厚中央部の硬さが800Hvを超えて、曲げ性が低下するので、Cは0.70%未満とする。好ましくは0.50%以下である。
【0021】
「Si:3.00%未満」
Siは、固溶強化で強度の向上に寄与する元素であるため、強度向上の観点からは0.50%を上限として添加してもよい。一方、0.50%を超えて添加しても強度向上の効果は飽和するため0.50%を上限とする。好ましくは0.30%以下である。Siはまた、表層の組織制御により発現した耐水素脆化特性及び曲げ性を損なうことなく、延性を高める効果を持つ元素でもある。特に、自動車の衝突時に曲げ変形が生じた場合、ハット部材が座屈することで変形が局在化し、部材としての耐荷重が低下する。すなわち部材と最大荷重は部材強度だけでなく、座屈の起こりやすさにも影響を受ける。部材状態において鋼板の延性が高いと変形領域が局在化しにくくなる。すなわち座屈しにくい。したがってホットスタンプ部材においても延性が重要であるが、一般にマルテンサイトの延性は低い。このような観点からは、Siを0.50%を超えて添加することにより、残留オーステナイトを面積分率で1.0%以上確保することができ、延性を向上させるため、Siは0.50%超添加することが好ましい。より好ましくは1.00%以上である。一方、3.00%以上添加すると、残留オーステナイトが面積分率で5.0%以上となり、曲げ性の劣化を招くため、上限を3.00%未満とする。好ましくは2.00%未満である。
【0022】
「Mn:0.20%以上、3.00%未満」
Mnは、固溶強化で強度の向上に寄与する元素である。強度向上の観点からは0.20%未満では効果が得られないため、0.20%以上添加する。好ましくは0.70%以上である。一方、1.50%以上添加しても強度向上の効果は飽和するため、1.50%未満を上限とする。Mnはまた、表層の組織制御により発現した耐水素脆化特性及び曲げ性を損なうことなく、焼入れ性を高める効果を持つ元素でもある。ホットスタンプ成形体においては、金型との接触の仕方が必ずしも一様ではなく、例えばハット部材の縦壁部などでは冷却速度が低下しやすい。このため鋼板には局所的に硬さが低い領域が形成することがある。局所的な軟化部は衝突時に変形が集中し、割れ発生の要因となるため、焼入れ性を高めて成形体における硬さのばらつきを小さくすること、すなわち安定的な強度を確保することは、耐衝突特性を確保する上で重要である。このような観点からは、Mnを1.50%以上添加することにより、焼入れ性を高めて安定的に高い強度を得ることができるため、Mnは1.50%以上添加することが好ましい。より好ましくは1.70%以上である。一方、3.00%以上添加しても強度安定性の効果は飽和するため、その上限は3.00%未満とする。好ましくは、2.00%未満である。
【0023】
「P:0.10%以下」
Pは、粒界に偏析し、粒界の強度を阻害する元素である。0.10%を超えると、粒界の強度が著しく低下し、耐水素脆化特性や曲げ性が低下するので、Pは0.10%以下とする。好ましくは0.05%以下である。下限は、特に限定しないが、0.0001%未満に低減すると、脱Pコストが大幅に上昇し、経済的に不利になるので、実用鋼板上、0.0001%が実質的な下限である。
【0024】
「S:0.10%以下」
Sは、介在物を形成する元素である。0.10%を超えると、介在物が生成し耐水素脆化特性や曲げ性が低下するので、Sは0.10%以下とする。好ましくは0.005%以下である。下限は、特に限定しないが、0.0015%未満に低減すると、脱Sコストが大幅に上昇し、経済的に不利になるので、実用鋼板上、0.0015%が実質的な下限である。
【0025】
「sol.Al:0.0002%以上、3.0000%以下」
Alは、溶鋼を脱酸して鋼を健全化する作用をなす元素である。0.0002%未満では、脱酸が十分でないので、sol.Alは0.0002%以上とする。好ましくは0.0010%以上である。一方、3.0000%を超えて添加してもその効果は飽和するので、3.0000%以下とする。
【0026】
「N:0.01%以下」
Nは、不純物元素であり、窒化物を形成して曲げ性を阻害する元素である。0.01%を超えると、粗大な窒化物が生成して曲げ性が著しく低下するので、Nは0.01%以下とする。好ましくは0.0075%以下である。下限は、特に限定しないが、0.0001%未満に低減すると、脱Nコストが大幅に上昇し、経済的に不利になるので、実用鋼板上、0.0001%が実質的な下限である。
【0027】
「Ni:0.01%以上、3.00%以下」
Niは、固溶強化で強度の向上に寄与する元素であるため、必要に応じて添加しても良い。0.01%未満では効果が得られないので、0.01%以上添加する。好ましくは0.50%以上である。一方、3.00%を超えて添加してもその効果は飽和するので、3.00%以下とする。好ましくは2.50%以下である。
【0028】
「Nb:0.010%以上、0.150%以下」
Nbは、固溶強化で強度の向上に寄与する元素であるため、必要に応じて添加しても良い。0.010%未満では効果が得られないので、0.010%以上添加する。好ましくは0.035%以上である。一方、0.150%を超えて添加してもその効果は飽和するので、0.150%以下とする。好ましくは0.120%以下である。
【0029】
「Ti:0.010%以上、0.150%以下」
Tiは、固溶強化で強度の向上に寄与する元素であるため、必要に応じて添加しても良い。0.010%未満では効果が得られないので、0.010%以上とする。好ましくは0.020%である。一方、0.150%を超えて添加してもその効果は飽和するので、0.150%以下とする。好ましくは0.120%以下である。
【0030】
「Mo:0.005%以上、1.000%以下」
Moは、固溶強化で強度の向上に寄与する元素であるため、必要に応じて添加しても良い。0.005%未満では効果が得られないので、0.005%以上とする。好ましくは0.010%以上である。一方、1.000%を超えて添加してもその効果は飽和するため、1.000%以下とする。好ましくは0.800%以下である。
【0031】
「B:0.0005%以上、0.0100%以下」
Bは、粒界に偏析し粒界の強度を向上させる元素であるため、必要に応じて添加しても良い。0.0005%未満では添加効果が十分に得られないので、0.0005%以上添加する。好ましくは0.0010%以上である。一方、0.0100%を超えて添加してもその効果は飽和するため、0.0100%以下とする。好ましくは0.0075%以下である。
【0032】
板厚中央部の成分組成の残部は、Fe及び不可避的不純物である。不可避的不純物は、鋼原料から及び/又は製鋼過程で不可避的に混入し、本発明のホットスタンプ成形体の特性を阻害しない範囲で許容される元素である。
【0033】
次に、本発明のホットスタンプ成形体を構成する表層の成分組成について説明する。
【0034】
表層の成分については、C含有量、Si含有量、及びMn含有量のうちいずれか1つ又は2つ以上が、板厚中央部の対応する元素含有量の0.6倍以下であることが好ましく、その場合の各々の成分の好適な範囲については以下のとおりである。
【0035】
「C:0.05%以上、0.42%未満」
Cは、強度を高めるために添加される。0.05%未満では効果が得られないので、0.05%以上添加する。部材としての耐荷重を高めて衝撃特性を向上させる観点では、好ましくは0.10%以上である。一方、表層の硬さを板厚中央部の硬さより低くするため、板厚中央部より少なくすることが好ましい。このための表層の好ましいCの含有量は0.42%未満であり、好ましくは0.35%以下である。
【0036】
「Si:2.00%未満」
Siは、固溶強化で強度の向上に寄与する元素であるため、強度を高めるために添加される。表層の硬さを板厚中央部の硬さより低くするため、板厚中央部より少なくすることが好ましい。このための表層の好ましいSiの含有量は2.00%未満、好ましくは1.50%以下、より好ましくは0.30%以下であり、さらにより好ましくは0.20%以下である。
【0037】
「Mn:0.01%以上、1.80%未満」
Mnは、固溶強化で強度の向上に寄与する元素であるため、強度を高めるために添加される。表層の硬さを板厚中央部の硬さより低くするため、板厚中央部より少なくすることが好ましい。このための表層の好ましいMnの含有量は1.80%未満、好ましくは1.40%以下、より好ましくは0.90%未満であり、さらにより好ましくは0.70%以下である。
【0038】
表層の他の成分については特に限定されない。一般的には、表層は、C、Si及びMn以外に、任意選択で、下記の成分のうち1種又は2種以上を含んでもよい。
【0039】
「P:0.10%以下」
Pは、粒界に偏析し、粒界の強度を阻害する元素である。0.10%を超えると、粒界の強度が著しく低下し、耐水素脆化特性や曲げ性が低下するので、Pは0.10%以下とする。好ましくは0.05%以下である。下限は、特に限定しないが、0.0001%未満に低減すると、脱Pコストが大幅に上昇し、経済的に不利になるので、実用鋼板上、0.0001%が実質的な下限である。
【0040】
「S:0.10%以下」
Sは、介在物を形成する元素である。0.10%を超えると、介在物が生成し耐水素脆化特性や曲げ性が低下するので、Sは0.10%以下とする。好ましくは0.005%以下である。下限は、特に限定しないが、0.0015%未満に低減すると、脱Sコストが大幅に上昇し、経済的に不利になるので、実用鋼板上、0.0015%が実質的な下限である。
【0041】
「sol.Al:0.0002%以上、3.0000%以下」
Alは、溶鋼を脱酸して鋼を健全化する作用をなす元素である。0.0002%未満では、脱酸が十分でないので、sol.Alは0.0002%以上とする。好ましくは0.0010%以上である。一方、3.0000%を超えて添加してもその効果は飽和するので、3.0000%以下とする。
【0042】
「N:0.01%以下」
Nは、不純物元素であり、窒化物を形成して曲げ性を阻害する元素である。0.01%を超えると、粗大な窒化物が生成して曲げ性が著しく低下するので、Nは0.01%以下とする。好ましくは0.0075%以下である。下限は、特に限定しないが、0.0001%未満に低減すると、脱Nコストが大幅に上昇し、経済的に不利になるので、実用鋼板上、0.0001%が実質的な下限である。
【0043】
「Ni:0.01%以上、3.00%以下」
Niは、固溶強化で強度の向上に寄与する元素であるため、必要に応じて添加しても良い。0.01%未満では効果が得られないので、0.01%以上添加する。好ましくは0.50%以上である。一方、3.00%を超えて添加してもその効果は飽和するので、3.00%以下とする。好ましくは2.50%以下である。
【0044】
「Nb:0.010%以上、0.150%以下」
Nbは、固溶強化で強度の向上に寄与する元素であるため、必要に応じて添加しても良い。0.010%未満では効果が得られないので、0.010%以上添加する。好ましくは0.035%以上である。一方、0.150%を超えて添加してもその効果は飽和するので、0.150%以下とする。好ましくは0.120%以下である。
【0045】
「Ti:0.010%以上、0.150%以下」
Tiは、固溶強化で強度の向上に寄与する元素であるため、必要に応じて添加しても良い。0.010%未満では効果が得られないので、0.010%以上とする。好ましくは0.020%である。一方、0.150%を超えて添加してもその効果は飽和するので、0.150%以下とする。好ましくは0.120%以下である。
【0046】
「Mo:0.005%以上、1.000%以下」
Moは、固溶強化で強度の向上に寄与する元素であるため、必要に応じて添加しても良い。0.005%未満では効果が得られないので、0.005%以上とする。好ましくは0.010%以上である。一方、1.000%を超えて添加してもその効果は飽和するため、1.000%以下とする。好ましくは0.800%以下である。
【0047】
「B:0.0005%以上、0.0100%以下」
Bは、粒界に偏析し粒界の強度を向上させる元素であるため、必要に応じて添加しても良い。0.0005%未満では添加効果が十分に得られないので、0.0005%以上添加する。好ましくは0.0010%以上である。一方、0.0100%を超えて添加してもその効果は飽和するため、0.0100%以下とする。好ましくは0.0075%以下である。
【0048】
表層の成分組成の残部は、Fe及び不可避的不純物である。不可避的不純物は、鋼原料から及び/又は製鋼過程で不可避的に混入し、本発明のホットスタンプ成形体の特性を阻害しない範囲で許容される元素である。
【0049】
次に、本発明のホットスタンプ成形体のミクロ組織について説明する。
【0050】
「板厚中央部の硬さが500Hv以上、800Hv以下」
板厚中央部の硬さは500Hv以上であると、ホットスタンプ成形体の引張強さとして1500MPa以上を確保することができる。好ましくは、600Hv以上である。一方、板厚中央部の硬さが800Hvを超えると、表層や中間層との硬さの差が大きくなりすぎ、曲げ性の劣化を招くため、800Hvを上限とする。好ましくは720Hv以下である。
【0051】
「板厚中央部が、面積分率で、1.0%以上、5.0%未満の残留オーステナイトを含む」
板厚中央部におけるSi含有量を0.50%超、3.00%未満に制御して、当該板厚中央部が金属組織として残留オーステナイトを面積分率で1.0%以上、5.0%未満含むようにすることにより、得られるホットスタンプ成形体の延性を向上させることができる。好ましくは2.0%以上である。一方、残留オーステナイトの面積分率が5.0%以上になると、曲げ性の劣化を招くため、上限を5.0%未満とする。好ましくは4.5%未満である。
【0052】
本発明において、残留オーステナイトの面積分率は以下の方法で測定される。ホットスタンプ成形後の部材から、試料を採取し、圧延面法線方向から板厚の1/4深さまで面削し、X線回折測定に供する。MoのKα線を用いたX線回折法により得られる像から、次式を用いて残留オーステナイトの面積分率Vγが決定される。
Vγ=(2/3){100/(0.7×α(211)/γ(220)+1)}+(1/3){100/(0.78×α(211)/γ(311)+1)}
ここで、α(211)はフェライトの(211)面における反射面強度、γ(220)はオーステナイトの(220)面における反射面強度、γ(311)はオーステナイトの(311)面における反射面強度である。
【0053】
「表層における板厚方向の硬さの変化ΔH
1が10Hv以上、200Hv未満であり、中間層における板厚方向の硬さの変化ΔH
2が50Hv以上、200Hv未満である」
本発明において、表層とは、ホットスタンプ成形体の両面又は片面から当該ホットスタンプ成形体の板厚の8%までの領域を言うものであり、すなわち各表層はホットスタンプ成形体の板厚の8%の厚さを有する。同様に、本発明において、中間層とは、ホットスタンプ成形体の両面又は片面から当該ホットスタンプ成形体の板厚の20%までの領域のうち上記の表層を除く部分を言うものであり、すなわち各中間層はホットスタンプ成形体の板厚の12%の厚さを有する。なお、本発明において、板厚中央部とは、ホットスタンプ成形体から上記の表層及び中間層を除いた部分を言うものであり、すなわち板厚中央部は、当該板厚中央部の両側に表層及び中間層が配置されたホットスタンプ成形体の場合には、当該ホットスタンプ成形体の板厚の60%の厚さを有し、当該板厚中央部の片側のみに表層及び中間層が配置されたホットスタンプ成形体の場合には、当該ホットスタンプ成形体の板厚の80%の厚さを有する。ここで、ΔH
1は表層における板厚方向の硬さの変化を示し、ΔH
2は中間層における板厚方向の硬さの変化を示す。本発明者らが鋭意検討した結果、曲げ性等の効果の観点から、この領域の硬さ変化(ΔH
1、ΔH
2)が重要であり、ΔH
1が10Hv以上、200Hv未満である場合に、良好な曲げ性及び耐水素脆性が得られることが分かった。このような良好な曲げ性を有することで、衝突時の曲げ変形等による応力を緩和して割れや亀裂を抑制することができるので、ホットスタンプ成形体において優れた耐衝突特性を達成することが可能である。一方、ΔH
1が10Hv未満であると、このような曲げ変形時の応力を緩和する効果が得られず、表層から亀裂が進展しやすくなるため、下限を10Hvとする。好ましくは20Hv以上、より好ましくは30Hv以上である。また、ΔH
1が200Hv未満となる場合に、曲げ変形時の応力集中を緩和する効果が高められて、良好な曲げ性が得られたため、上限を200Hv未満とする。好ましくは150Hv未満、より好ましくは100Hv未満又は95Hv以下、最も好ましくは90Hv以下である。
【0054】
同様に、ΔH
2が50Hv以上、200Hv未満である場合に、良好な曲げ性が得られことが分かった。ΔH
2が200Hv以上では、中間層における硬さの勾配が急激となり、曲げ変形時の応力集中を緩和することが難しくなり、曲げ性が劣化するため、200Hv未満を上限とする。好ましくは190Hv以下、より好ましくは180Hv以下である。また、下限は、好ましくは60Hv以上、より好ましくは70Hv以上である。
【0055】
板厚中央部の硬さの測定方法は以下の通りである。ホットスタンプ成形体の板面に垂直な断面を採取し、測定面の試料調製を行い、硬さ試験に供する。測定面の調製方法は、JIS Z 2244に準じて実施すれば良く、例えば、#600から#1500の炭化珪素ペーパーを使用して測定面を研磨した後、粒度1μmから6μmのダイヤモンドパウダーをアルコール等の希釈液や純水に分散させた液体を使用して鏡面に仕上げれば良い。硬さ試験は、JIS Z 2244に記載の方法で実施すれば良く、マイクロビッカース硬さ試験機を用いて、ホットスタンプ成形体の板厚の1/2位置に、荷重1kgfで、圧痕の3倍以上の間隔で10点測定し、その平均値を板厚中央部の硬さとする。
【0056】
次に、表層及び中間層の硬さの測定方法ついて説明する。ホットスタンプ成形体の板面に垂直な断面を採取して測定面の試料調製を行い、硬さ試験に供する。測定面の調製は、ホットスタンプ成形体の表面近傍の硬さを正確に測定するために、極力凹凸が小さく、表面近傍にだれが生じないように実施する。例えば、日本電子製のクロスセクションポリッシャを用いて、アルゴンイオンビームにより測定面をスパッタリングする。この際、測定面に筋状の凹凸が発生することを抑制する目的で、日本電子製の試料回転ホルダを用いて、360度方向から測定面にアルゴンイオンビームを照射しても良い。
【0057】
板厚中央部の両側に表層及び中間層が配置されたホットスタンプ成形体の場合は、測定面を調製した試料に対し、マイクロビッカース硬さ試験機を用いて、2回の測定を実施する。1回目は、ホットスタンプ成形体の第1の表面から当該ホットスタンプ成形体の板厚の20%までの領域を、板面と直角な方向(板厚方向)に、荷重1kgfで、圧痕の3倍以上の間隔で測定する。この際、ホットスタンプ成形体の板厚に依存して測定点の合計が異なるが、後述のΔH
1及びΔH
2を算出するためには、少なくとも2点以上の測定を行えば良い。ホットスタンプ成形体の最も表面側における測定位置は、板面(めっき層が存在する場合は、めっき層の直下又はめっき層と母材との間の合金層の直下)から20μm以内までの領域で行うこととする。2回目の測定は、1回目と反対側のホットスタンプ成形体の表面から実施する。すなわち、ホットスタンプ成形体の第2の表面から板厚の20%までの領域を、板面と垂直な方向(板厚方向)に、荷重1kgfで、圧痕の3倍以上の間隔で測定する。ホットスタンプ成形体の最も表面側における測定位置は、板面(めっき層が存在する場合は、めっき層の直下又はめっき層と母材との間の合金層の直下)から20μm以内までの領域で行うこととする。
【0058】
板厚中央部の片側のみに表層及び中間層が配置されたホットスタンプ成形体の場合は、測定面を調製した試料に対し、マイクロビッカース硬さ試験機を用いて、ホットスタンプ成形体の表層から当該ホットスタンプ成形体の板厚の20%までの領域を、板面と直角な方向(板厚方向)に、荷重1kgfで、圧痕の3倍以上の間隔で測定する。この際、ホットスタンプ成形体の板厚に依存して測定点の合計が異なるが、後述のΔH
1及びΔH
2を算出するためには、少なくとも2点以上の測定を行えば良い。ホットスタンプ成形体の最も表面側における測定位置は、板面(めっき層が存在する場合は、めっき層の直下又はめっき層と母材との間の合金層の直下)から20μm以内までの領域で行うこととする。
【0059】
次に、板厚中央部の両側に表層及び中間層が配置されたホットスタンプ成形体の場合のΔH
1の算出方法について説明する。まず、ホットスタンプ成形体の第1の表面から板厚8%までの領域に含まれる全ての測定点から、式(1)により第1の表面側表層の硬さの勾配Δaを算出する。ここで、a
iは、i番目の測定点における第1の表面からの距離(μm)、c
iはa
iにおけるビッカース硬さ(Hv)、nは第1の表面から板厚8%までの領域に含まれる全ての測定点の合計である。次に、ホットスタンプ成形体の第2の表面から板厚8%までの領域に含まれる全ての測定点を用いて式(2)により、第2の表面側表層の硬さの勾配Δbを算出する。ここで、b
iは、i番目の測定点における第2の表面からの距離(μm)、d
iはb
iにおけるビッカース硬さ(Hv)、mは第2の表面から板厚8%までの領域に含まれる全ての測定点の合計である。Δa及びΔbを算出した後、式(3−1)を用いて、表層における板厚方向の硬さの変化ΔH
1を算出する。ここで、tはホットスタンプ成形体の板厚(μm)である。
【0060】
一方、板厚中央部の片側のみに表層及び中間層が配置されたホットスタンプ成形体の場合は、式(3−2)を用いて、表層における板厚方向の硬さの変化ΔH
1を算出する。
【0061】
次に、板厚中央部の両側に表層及び中間層が配置されたホットスタンプ成形体の場合のΔH
2の算出方法について説明する。まず、ホットスタンプ成形体の第1の表面側における板厚8%の位置から、板厚20%までの領域に含まれる全ての測定点から、式(4)により第1の表面側中間層の硬さの勾配ΔAを算出する。ここで、A
iは、i番目の測定点における第1の表面からの距離(μm)、C
iはA
iにおけるビッカース硬さ(Hv)、Nは第1の表面側における板厚8%の位置から、板厚20%までの領域に含まれる全ての測定点の合計である。次に、ホットスタンプ成形体の第2の表面側における板厚8%の位置から、板厚20%までの領域に含まれる全ての測定点から、式(5)により第2の表面側中間層の硬さの勾配ΔBを算出する。ここで、B
iは、i番目の測定点における第2の表面からの距離(μm)、D
iはB
iにおけるビッカース硬さ(Hv)、Mは第2の表面側における板厚の8%から20%までの領域に含まれる全ての測定点の合計である。ΔA及びΔBを算出した後、式(6−1)を用いて、中間層における板厚方向の硬さの変化ΔH
2を算出する。
【0062】
一方、板厚中央部の片側のみに表層及び中間層が配置されたホットスタンプ成形体の場合は、式(6−2)を用いて、表層における板厚方向の硬さの変化ΔH
2を算出する。
【0063】
【数1】
ここで、
ΔH
1:表層における板厚方向の硬さの変化(Hv)
Δa:第1の表面側表層の硬さの勾配(Hv/μm)
a
i:i番目の測定点における第1の表面からの距離(μm)
c
i:a
iにおけるビッカース硬さ(Hv)
n:第1の表面側表層に含まれる全ての測定点の合計
Δb:第2の表面側表層の硬さの勾配(Hv/μm)
b
i:i番目の測定点における第2の表面からの距離(μm)
d
i:b
iにおけるビッカース硬さ(Hv)
m:第2の表面側表層に含まれる全ての測定点の合計
ΔH
2:中間層における板厚方向の硬さの変化(Hv)
ΔA:第1の表面側中間層の硬さの勾配(Hv/μm)
A
i:i番目の測定点における第1の表面からの距離(μm)
C
i:A
iにおけるビッカース硬さ(Hv)
N:第1の表面側中間層に含まれる全ての測定点の合計
ΔB:第2の表面側中間層の硬さの勾配(Hv/μm)
B
i:i番目の測定点における第2の表面からの距離(μm)
D
i:B
iにおけるビッカース硬さ(Hv)
M:第2の表面側中間層に含まれる全ての測定点の合計
t:板厚(μm)
である。
【0064】
ホットスタンプ成形体の各表層の表面に、耐食性の向上等を目的として、めっき層を形成してもよい。めっき層は、電気めっき層及び溶融めっき層のいずれでもよい。電気めっき層は、例えば、電気亜鉛めっき層、電気Zn−Ni合金めっき層等を含む。
【0065】
溶融めっき層は、例えば、溶融亜鉛めっき層、合金化溶融亜鉛めっき層、溶融アルミニウムめっき層、溶融Zn−Al合金めっき層、溶融Zn−Al−Mg合金めっき層、溶融Zn−Al−Mg−Si合金めっき層等を含む。めっき層の付着量は、特に制限されず一般的な付着量でよい。
【0066】
次に、本発明のホットスタンプ成形体を得るための製法の形態を説明する。以下の説明は、本発明のホットスタンプ成形体を得るための製法の単なる例示を意図するものであって、本発明のホットスタンプ成形体を以下に説明するような2つの鋼板を積層した複層鋼板から得られるものに限定することを意図するものではない。例えば、単層鋼板を脱炭処理してその表層部分を軟化することにより表層と板厚中央部からなる高強度鋼板を得、それを複層鋼板の場合と同様に熱処理等することによって製造することも可能である。
【0067】
上記の板厚中央部の成分を満足する母材鋼板を溶製し両面又は片面を研削して表面酸化物を除去した後、その両面又は片面に、表層用鋼板をアーク溶接で接着する。なお、C含有量、Si含有量、及びMn含有量のうちいずれか1つ又は2つ以上が母材鋼板の対応する元素含有量の0.6倍以下である表層用鋼板を積層することが好ましい。理由は必ずしも明らかではないが、優れた曲げ性を示すホットスタンプ成形体を調査した結果、表層用鋼板のC含有量、Si含有量、及びMn含有量のうちいずれか1つ又は2つ以上が母材鋼板の対応する元素含有量の0.6倍以下であった。
【0068】
上記の積層体(複層鋼板)に熱間圧延、冷間圧延、ホットスタンプ、連続溶融めっきなどを施すことで、本発明による高強度鋼板、より具体的にはホットスタンプ成形体を得ることができる。
【0069】
例えば、熱延鋼板を得る場合、上記の方法で作製した複層鋼板を、1100℃以上、1350℃以下の温度で20分以上60分未満保持することが好ましい。このような熱処理を施すことで、ホットプレス後の表層における板厚方向の硬さの変化ΔH
1を10Hv以上、200Hv未満、特には100Hv未満に制御することができる。また、上記の熱処理により、母材鋼板と表層用鋼板の間で元素を拡散させて両者の間に中間層を形成させ、さらにはホットプレス後の当該中間層における板厚方向の硬さの変化ΔH
2を50Hv以上、200Hv未満に制御することができる。対照的に、加熱温度が1100℃未満では、ホットプレス後の表層における板厚方向の硬さの変化ΔH
1が200Hvを超え、ホットプレス後の中間層における板厚方向の硬さの変化ΔH
2が10Hv未満となる。この場合には、ホットスタンプ成形体表面からの水素の侵入が助長され、耐水素脆化特性の劣化を招き、さらに良好な曲げ性が得られないため、下限を1100℃とする。一方、加熱温度が1350℃を超えると、ΔH
1が10Hv未満となり、さらに、ΔH
2が200Hvを超えてしまい、良好な曲げ性を得ることができないため、上限を1350℃とする。加熱保持は20分以上60分未満行うことが好ましい。本発明者らが鋭意検討した結果、保持時間が20分以上60分未満である場合に、良好な耐水素脆性と曲げ性を得ることができ、その際に得られたミクロ組織は、ΔH
2が50Hv以上、200Hv未満となることが分かった。そのため、保持時間は20分以上60分未満とする。
【0070】
また、本発明における中間層の形成をより促進させるためには、複層鋼板の上記熱処理後の熱間圧延が、粗圧延及び仕上げ圧延を含み、当該粗圧延が粗圧延温度が1100℃以上、1パスあたりの板厚減少率が5%以上50%未満、及びパス間時間が3秒以上の条件下で2回以上行われることが好ましい。
【0071】
具体的には、本発明における中間層の形成をより促進させるためには、合金元素、特にC原子の濃度が緩やかに分布するように制御する必要がある。C濃度の分布はC原子の拡散によって得られ、C原子の拡散頻度は高温ほど増加する。したがって、C濃度を制御するためには、熱延加熱から粗圧延における制御が重要となる。熱延加熱では、C原子の拡散を促すために、加熱温度を高温化する必要があり、好ましくは1100℃以上1350℃以下、より好ましくは1150℃超1350℃以下である。熱延加熱では、
図1に示す(i)及び(ii)の変化が生じる。(i)は板厚中央部から表層へのC原子の拡散であり、(ii)は表層から外部へと脱離するCの脱炭反応である。この(i)と(ii)のC原子の拡散と脱離反応の兼ね合いによりC濃度に分布が生じる。1100℃未満では、(i)の反応が不足するため、好ましいC濃度分布が得られない。一方、1350℃超では、(ii)の反応が過度に生じるため、同様に好ましい濃度分布が得られない。
【0072】
熱延加熱温度の調節により好ましいC濃度分布に制御した上で、さらに最適なC濃度分布を得るためには、粗圧延でのパス制御が極めて重要となる。粗圧延は、粗圧延温度が1100℃以上、1パスあたりの板厚減少率が5%以上50%未満、及びパス間時間が3秒以上の条件下で2回以上行われる。これは、粗圧延で導入される歪により、
図1中の(i)のC原子の拡散を促すためである。仮に、熱延加熱でC濃度を好ましい状態に制御したスラブを常法で粗圧延及び仕上げ圧延すると、C原子が表層内で十分に拡散できないまま板厚が減少することになる。したがって、200mmを超える厚みをもつスラブから、厚さ数mmの熱延鋼板を常法の熱延にて製造すると、表層でC濃度が急激に変化する鋼板となり、緩やかな硬さ変化が得られなくなる。これを解決するために見出された方法が上記の粗圧延のパス制御である。C原子の拡散は、温度だけでなく歪(転位密度)の影響を大きく受ける。特に、格子拡散に比べて、転位拡散では10倍以上に拡散頻度が高まるため、転位密度を残しつつ、圧延により板厚を薄くする工夫が必要となる。
図2の曲線1は粗圧延の1パスあたりの板厚減少率が小さい場合の、圧延パス後の転位密度変化を示しており、長時間にわたって歪が残存していることがわかる。このように長時間にわたって歪を表層に残存させることで、表層内のC原子の拡散が十分に起こり、最適なC濃度分布を得ることが可能となる。一方、曲線2は板厚減少率が大きな場合の転位密度の変化であり、圧延により導入される歪量が高まると、回復が促進されやすくなり、転位密度が急激に低下する。このため、最適なC濃度分布を得るためには、曲線2のような転位密度の変化を生じさせないことが必要である。このような観点から、1パスあたりの板厚減少率の上限が50%未満となる。なお、表層でのC原子の拡散を促すために、ある量の転位密度と保持時間の確保が必要となるため、板厚減少率の下限が5%となり、パス間時間として3秒以上の確保が必要となる。
【0073】
仕上げ圧延は、通常の条件で実施する仕上げ圧延でよい。例えば、仕上げ温度も810℃以上の温度域で実施すれば良く、その後に続く冷却条件も特に規定する必要はなく、750℃以下の温度域で巻き取りを実施する。また、熱延鋼板の軟質化を目的とした再加熱処理を実施しても構わない。
【0074】
ホットスタンプ時の加熱、成型、冷却工程も、通常の条件で実施すればよい。例えば、熱間圧延工程で巻き取った熱延鋼板を巻き戻した熱延鋼板、又は、巻き取った熱延鋼板を巻き戻して冷間圧延を施した冷延鋼板、若しくは冷延鋼板にめっきを施して、0.1℃/s以上、200℃/s以下の加熱速度で、810℃以上、1000℃以下の温度まで加熱し、この温度に保持した鋼板を、所要の形状に通常のホットスタンプで成形する。保持時間は、成形態様に応じて設定すればよいので、特に限定しないが、30秒以上、600秒以下であれば良いホットスタンプ後の成形体を室温まで冷却する。冷却速度も通常の条件に設定すれば良く、例えば、加熱温度から400℃までの温度域における平均冷却速度が50℃/s以上であればよい。板厚中央部におけるSi含有量が0.50%超、3.00%未満であり、板厚中央部におけるMn含有量が0.20%以上、1.50%未満である鋼鈑、及び、板厚中央部におけるSi含有量が0.50%超、3.00%未満であり、板厚中央部におけるMn含有量が1.50%以上、3.00%未満である鋼鈑の場合は、残留オーステナイトの生成量を増加させて延性を向上させることを目的として、加熱保持後の冷却において、200℃以上、400℃以下の温度域における平均冷却速度を50℃/s未満に制御することが好ましい。また、強度の調整等を目的として、室温まで冷却した成形体に150℃〜600℃の範囲で焼戻し処理を施してもよい。
【0075】
冷間圧延は、通常の圧下率、例えば、30〜90%で行う冷間圧延でよい。熱延鋼板及び冷延鋼板には、熱間圧延及び冷間圧延されたままのもの以外にも、熱延鋼板又は冷延鋼板に通常の条件で再結晶焼鈍を施した鋼板や、通常の条件で調質圧延を施した鋼板も含まれる。めっきの条件は、特に限定されず、通常の条件でよい。熱延鋼板、冷延鋼板、又は冷延鋼板に再結晶焼鈍及び/又は調質圧延を施した鋼板に、必要に応じ、通常のめっき条件でめっきを施す。
【実施例】
【0076】
次に、本発明の実施例について説明するが、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
【0077】
本実施例では、ホットスタンプ後の鋼板の硬さを、先述の方法により測定し、板厚中央部の硬さ、表層における板厚方向の硬さの変化ΔH
1、中間層における板厚方向の硬さの変化ΔH
2を算出した。
【0078】
また、ホットスタンプ後の鋼板の引張試験を行った。引張試験は、JIS Z 2201に記載の5号試験片を作製し、JIS Z 2241に記載の試験方法に従って実施した。
【0079】
ホットスタンプ成形体の耐水素脆化特性は、成形体より切り出した試験片を用いて評価した。一般にホットスタンプ成形体はスポット溶接等の接合手法を用いてその他部品を接合され、部品形状精度によってはホットスタンプ成形体にねじりが加わり応力が付加される。応力は部品の位置によって異なり、これを正確に算出することは難しいが、降伏応力で遅れ破壊しなければ実用上問題無いと考えられている。そこで、成形体より、板厚1.2mm×幅6mm×長さ68mmの試験片を切り出し、四点曲げ試験にて降伏応力相当の歪を付与した後、pH3の塩酸に100h浸漬し、割れの発生有無で耐水素脆化特性を評価した。破断無しの場合を合格(○)、破断が有りの場合を不合格(×)とした。
【0080】
ホットスタンプ成形体の耐衝突特性は、ドイツ自動車工業会で規定されたVDA基準(VDA238−100)に基づいて以下の測定条件でホットスタンプ成形体の曲げ性を評価することにより行った。本発明では曲げ試験で得られる最大荷重時の変位をVDA基準で角度に変換し、最大曲げ角度を求めた。
試験片寸法:60mm(圧延方向)×60mm(圧延と垂直方向)、又は、30mm(圧延方向)×60mm(圧延と垂直方向)
曲げ稜線:圧延と直角な方向
試験方法:ロール支持、ポンチ押し込み
ロール径:φ30mm
ポンチ形状:先端R=0.4mm
ロール間距離:2.0×板厚(mm)+0.5mm
押し込み速度:20mm/min
試験機:SIMAZU AUTOGRAPH 20kN
【0081】
[実施例A]
表1に示す化学組成を持つ母材鋼板の表面を研削して表面酸化物を除去した後、その両面又は片面に表2に示す化学組成を有する表層用鋼板をアーク溶接で積層した。なお、アーク溶接後の表層用鋼板と母材鋼板の合計の板厚は200mm〜300mmとし、表層用鋼板の厚さは、母材鋼板の厚さの1/3程度(片側の場合は1/4程度)とする。製造No.1〜36及び38〜40は両面に表層用鋼板を溶接した鋼であり、製造No.37は片面のみに表層用鋼板を溶接した鋼である。この積層鋼板を表3に示す熱間圧延及び/又は冷間圧延を施し、得られた鋼板に、表3に示す熱処理を施して、ホットスタンプを行い、成形体を製造した。表4に、ホットスタンプ後の鋼板(ホットスタンプ成形体)のミクロ組織と機械的特性を示す。なお、ホットスタンプ後の鋼板から採取したサンプルの板厚1/2の位置、及び表面から20μmの位置(表層内の位置)を分析した成分組成は、それぞれ表1及び2に示す母材鋼板及び表層用鋼板の成分組成と同等であった。
【0082】
【表1-1】
【0083】
【表1-2】
【0084】
【表2-1】
【0085】
【表2-2】
【0086】
【表3-1】
【0087】
【表3-2】
【0088】
【表4-1】
【0089】
【表4-2】
【0090】
引張強さが1500MPa以上であり、最大曲げ角度(°)が70(°)以上であり、かつ耐水素脆化特性が合格となった場合を、耐衝突特性と耐水素脆化特性に優れたホットスタンプ成形体として評価した(表4中の実施例)。一方、上記3つの性能のうち、何れか一つでも満足しない場合は、比較例とした。
【0091】
[実施例B(Mn:1.50%以上、3.00%未満)]
表5に示す化学組成を持つ母材鋼板の表面を研削して表面酸化物を除去した後、その両面又は片面に表6に示す化学組成を有する表層用鋼板をアーク溶接で積層した。なお、アーク溶接後の表層用鋼板と母材鋼板の合計の板厚は200mm〜300mmとし、表層用鋼板の厚さは、母材鋼板の厚さの1/3程度(片側の場合は1/4程度)とする。製造No.101〜135及び137〜139は両面に表層用鋼板を溶接した鋼であり、製造No.136は片面のみに表層用鋼板を溶接した鋼である。この積層鋼板を表7に示す熱間圧延及び/又は冷間圧延を施し、得られた鋼板に、表7に示す熱処理を施して、ホットスタンプを行い、成形体を製造した。表8に、ホットスタンプ後の鋼板(ホットスタンプ成形体)のミクロ組織と機械的特性を示す。なお、ホットスタンプ後の鋼板から採取したサンプルの板厚1/2の位置、及び表面から20μmの位置(表層内の位置)を分析した成分組成は、それぞれ表5及び6に示す母材鋼板及び表層用鋼板の成分組成と同等であった。
【0092】
【表5-1】
【0093】
【表5-2】
【0094】
【表6-1】
【0095】
【表6-2】
【0096】
【表7-1】
【0097】
【表7-2】
【0098】
【表8-1】
【0099】
【表8-2】
【0100】
局所的な軟化部は衝突時に変形が集中し、割れ発生の要因となるため、成形体における硬さのばらつきが小さいこと、すなわち安定的な強度を確保することは、耐衝突特性を確保する上で重要である。そこで、本実施例では、ホットスタンプ成形体の耐衝突特性を硬さばらつきの観点からも評価した。長尺状のホットスタンプ成形体の長手方向に垂直な断面を、当該長手方向における任意の位置で採取し、縦壁を含む全断面領域の板厚中心位置の硬さを測定した。測定にはビッカース試験機を用い、測定荷重は1kgf、測定間隔は1mmとした。全測定点の平均値から100Hvを下回る測定点が無い場合を硬さばらつきが小さい、すなわち強度安定性に優れ、結果として耐衝突特性に優れるとして合格(○)とし、100Hvを下回る測定点がある場合を不合格(×)とした。より具体的には、全測定点の硬さ平均値(表8中の平均断面硬度)と全測定点のうち最小硬さの値との差が100Hv以下の場合を合格とし、100Hv超の場合を不合格とした。
【0101】
実施例Aの場合と同様に、引張強さが1500MPa以上であり、最大曲げ角度(°)が70(°)以上であり、かつ耐水素脆化特性が合格となった場合を、耐衝突特性と耐水素脆化特性に優れたホットスタンプ成形体として評価した(表8中の実施例)。さらに平均断面硬度−最少硬さが100Hv以下である場合を、曲げ性に加えて強度安定性の観点でも耐衝突特性が改善されたホットスタンプ成形体として評価した(表8中の実施例111以外の実施例)。一方、「引張強さ」、「最大曲げ角度」及び「耐水素脆化特性」の要件のうち、何れか一つでも満足しない場合は、比較例とした。
【0102】
[実施例C(Si:0.50%超、3.00%未満)]
表9に示す化学組成を持つ母材鋼板の表面を研削して表面酸化物を除去した後、その両面又は片面に表10に示す化学組成を有する表層用鋼板をアーク溶接で積層した。なお、アーク溶接後の表層用鋼板と母材鋼板の合計の板厚は200mm〜300mmとし、表層用鋼板の厚さは、母材鋼板の厚さの1/3程度(片側の場合は1/4程度)とする。製造No.201〜236及び238〜240は両面に表層用鋼板を溶接した鋼であり、製造No.237は片面のみに表層用鋼板を溶接した鋼である。この積層鋼板を表11に示す熱間圧延及び/又は冷間圧延を施し、得られた鋼板に、表11に示す熱処理を施して、ホットスタンプを行い、成形体を製造した。表12に、ホットスタンプ後の鋼板(ホットスタンプ成形体)のミクロ組織と機械的特性を示す。なお、ホットスタンプ後の鋼板から採取したサンプルの板厚1/2の位置、及び表面から20μmの位置(表層内の位置)を分析した成分組成は、それぞれ表9及び10に示す母材鋼板及び表層用鋼板の成分組成と同等であった。
【0103】
【表9-1】
【0104】
【表9-2】
【0105】
【表10-1】
【0106】
【表10-2】
【0107】
【表11-1】
【0108】
【表11-2】
【0109】
【表12-1】
【0110】
【表12-2】
【0111】
本実施例では、ホットスタンプ成形体の耐衝突特性を延性の観点からも評価した。具体的には、ホットスタンプ後の鋼板の引張試験により当該鋼板の均一伸びを求めて耐衝突特性を評価した。引張試験は、JIS Z 2201に記載の5号試験片を作製し、JIS Z 2241に記載の試験方法に従って実施し、最大引張荷重が得られた伸びを均一伸びとした。
【0112】
実施例Aの場合と同様に、引張強さが1500MPa以上であり、最大曲げ角度(°)が70(°)以上であり、かつ耐水素脆化特性が合格となった場合を、耐衝突特性と耐水素脆化特性に優れたホットスタンプ成形体として評価した(表12中の実施例)。さらに均一伸びが5%以上である場合を、曲げ性に加えて延性の観点でも耐衝突特性が改善されたホットスタンプ成形体として評価した(表12中の実施例210及び211以外の実施例)。一方、「引張強さ」、「最大曲げ角度」及び「耐水素脆化特性」の要件のうち、何れか一つでも満足しない場合は、比較例とした。
【0113】
[実施例D(Mn:1.50%以上、3.00%未満、及びSi:0.50%超、3.00%未満)]
表13に示す化学組成を持つ母材鋼板の表面を研削して表面酸化物を除去した後、その両面又は片面に表14に示す化学組成を有する表層用鋼板をアーク溶接で積層した。なお、アーク溶接後の表層用鋼板と母材鋼板の合計の板厚は200mm〜300mmとし、表層用鋼板の厚さは、母材鋼板の厚さの1/3程度(片側の場合は1/4程度)とする。製造No.301〜339及び341〜343は両面に表層用鋼板を溶接した鋼であり、製造No.340は片面のみに表層用鋼板を溶接した鋼である。この積層鋼板を表15に示す熱間圧延及び/又は冷間圧延を施し、得られた鋼板に、表15に示す熱処理を施して、ホットスタンプを行い、成形体を製造した。表16に、ホットスタンプ後の鋼板(ホットスタンプ成形体)のミクロ組織と機械的特性を示す。なお、ホットスタンプ後の鋼板から採取したサンプルの板厚1/2の位置、及び表面から20μmの位置(表層内の位置)を分析した成分組成は、それぞれ表13及び14に示す母材鋼板及び表層用鋼板の成分組成と同等であった。
【0114】
【表13-1】
【0115】
【表13-2】
【0116】
【表14-1】
【0117】
【表14-2】
【0118】
【表15-1】
【0119】
【表15-2】
【0120】
【表16-1】
【0121】
【表16-2】
【0122】
本実施例では、実施例Bの場合と同様に、ホットスタンプ成形体の耐衝突特性を硬さばらつきの観点からも評価した。長尺状のホットスタンプ成形体の長手方向に垂直な断面を、当該長手方向における任意の位置で採取し、縦壁を含む全断面領域の板厚中心位置の硬さを測定した。測定にはビッカース試験機を用い、測定荷重は1kgf、測定間隔は1mmとした。全測定点の平均値から100Hvを下回る測定点が無い場合を硬さばらつきが小さい、すなわち強度安定性に優れ、結果として耐衝突特性に優れるとして合格(○)とし、100Hvを下回る測定点がある場合を不合格(×)とした。より具体的には、全測定点の硬さ平均値(表16中の平均断面硬度)と全測定点のうち最小硬さの値との差が100Hv以下の場合を合格とし、100Hv超の場合を不合格とした。
【0123】
さらに、本実施例では、実施例Cの場合と同様に、ホットスタンプ成形体の耐衝突特性を延性の観点からも評価した。具体的には、ホットスタンプ後の鋼板の引張試験により当該鋼板の均一伸びを求めて耐衝突特性を評価した。引張試験は、JIS Z 2201に記載の5号試験片を作製し、JIS Z 2241に記載の試験方法に従って実施し、最大引張荷重が得られた伸びを均一伸びとした。
【0124】
実施例Aの場合と同様に、引張強さが1500MPa以上であり、最大曲げ角度(°)が70(°)以上であり、かつ耐水素脆化特性が合格となった場合を、耐衝突特性と耐水素脆化特性に優れたホットスタンプ成形体として評価した(表16中の実施例)。さらに均一伸びが5%以上でありかつ平均断面硬度−最少硬さが100Hv以下である場合を、曲げ性に加えて延性及び強度安定性の観点でも耐衝突特性が改善されたホットスタンプ成形体として評価した(表16中の実施例310、311及び313〜315以外の実施例)。一方、「引張強さ」、「最大曲げ角度」及び「耐水素脆化特性」の要件のうち、何れか一つでも満足しない場合は、比較例とした。
板厚中央部と、板厚中央部の両側又は片側に配置された表層とを含み、板厚中央部と各表層との間でそれらに隣接して形成された中間層を更に含み、板厚中央部が所定の組成を有し、板厚中央部の硬さが500Hv以上、800Hv以下であり、表層における板厚方向の硬さの変化ΔH