(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
Cr、Fe、Mn、Co及びNiからなる群より選ばれた少なくとも1種の遷移金属元素、Na、P及びOを含む無機粉末からなるナトリウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法であって、
(a)Cr、Fe、Mn、Co及びNiからなる群より選ばれた少なくとも1種の遷移金属元素、Na、P及びOを含む原料を溶融し、非晶質体を得る非晶質体形成工程、
(b)前記非晶質体を熱処理し、結晶体を得る結晶体形成工程、
(c)前記結晶体を粉砕し、BET比表面積が3〜50m2/gである結晶体粉末を得る粉砕工程、及び
(d)前記結晶体粉末を熱処理し、一般式NaxMyP2O7(MはCr、Fe、Mn、Co及びNiからなる群より選ばれた少なくとも1種の遷移金属元素で、xは1.20≦x≦2.10で、yは0.95≦y≦1.60である)からなる結晶を析出させる焼成工程、
とを含むことを特徴とするナトリウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のナトリウムイオン二次電池用正極活物質は、Cr、Fe、Mn、Co及びNiからなる群より選ばれた少なくとも1種の遷移金属元素、Na、P及びOを含む無機粉末であり、BET比表面積が3〜50m
2/gであることを特徴とする。
【0013】
Naは、電池の充放電の際に正極活物質と負極活物質との間を移動するナトリウムイオンの供給源となる。Cr、Fe、Mn、Co及びNiからなる群より選ばれた少なくとも1種の遷移金属元素は、電池の充放電の際にそれら遷移金属元素イオンの価数が変化することにより、ナトリウムイオンが正極活物質から脱離したり、正極活物質に吸蔵したりする駆動力として作用する。P及びOはPO
4四面体ユニットを形成して正極活物質の結晶構造を安定化させる効果を有する。
【0014】
BET比表面積は、3〜50m
2/gであり、5〜40m
2/gであることが好ましく、6〜30m
2/gであることがより好ましい。BET比表面積が小さすぎると、ナトリウムイオンが吸蔵・脱離しにくくなるとともに、内部抵抗が大きくなる傾向がある。結果として、急速放電時に放電容量が低下してしまう。一方、正極活物質のBET比表面積が大きすぎると、ペースト化するために多量の分散媒が必要となり、結果として、電極密度が低下して電極の単位体積あたりの放電容量が低下する傾向がある。また、電解質中に無機粉末の金属成分が溶出し、電池の寿命が短くなる等の問題がある。なお、BET比表面積は、吸着質として窒素を使用したBET一点法により測定した。
【0015】
正極活物質の平均粒子径は0.1〜4μmであることが好ましく、0.2〜2μmであることがより好ましく、0.3〜1μmであることがさらに好ましく、0.4〜0.8μmであることが特に好ましい。正極活物質の平均粒子径が小さすぎると、正極活物質粒子同士の凝集力が強くなり、ペースト化した際に分散しにくくなる。その結果、電池の内部抵抗が高くなり放電電圧が低下しやすくなる。また、電極密度が低下して電池の単位体積あたりの放電容量が低下する傾向がある。一方、正極活物質の平均粒子径が大きすぎると、正極活物質のBET比表面積が小さくなりやすく、ナトリウムイオンが拡散しにくくなるとともに、内部抵抗が大きくなる傾向がある。また、電極の表面平滑性に劣る傾向がある。
【0016】
なお、本発明において、平均粒子径はD50(体積基準の平均粒子径)を意味し、レーザー回折散乱法により測定された値をさすものとする。
【0017】
本発明のナトリウムイオン二次電池用正極活物質は、一般式Na
xM
yP
2O
7(MはCr、Fe、Mn、Co及びNiからなる群より選ばれた少なくとも1種の遷移金属元素で、xは1.20≦x≦2.10で、yは0.95≦y≦1.60である)からなる結晶を含有することが好ましい。上記構成にすることにより、ナトリウムイオン二次電池用正極活物質としては、高い理論容量(約97mAh/g)、高い放電電圧(約3V)及び良好なサイクル特性を有するナトリウムイオン二次電池用正極活物質を得ることが可能となる。特に、一般式Na
xM
yP
2O
7からなる結晶が、一般式Na
x(Fe
1−zM´
z)
yP
2O
7(M´はCr、Mn、Co及びNiからなる群より選ばれた少なくとも1種の遷移金属元素で、xは1.20≦x≦2.10で、yは0.95≦y≦1.60、zは0≦y<1である)からなる結晶であることが、サイクル特性がさらに良好となるため、好ましい。
【0018】
本発明のナトリウムイオン二次電池用正極活物質は、非晶質相を含むことが好ましい。非晶質相を含むことにより、正極活物質のナトリウムイオン伝導性が向上するため、高速充放電特性が向上しやすくなる。
【0019】
さらに、本発明のナトリウムイオン二次電池用正極活物質は、結晶化ガラスからなることが好ましい。結晶化ガラスであれば、Na
xM
yP
2O
7結晶と非晶質相との両方を容易に複合化できるので、正極活物質の放電容量と高速充放電特性の両方が向上する傾向がある。
【0020】
正極活物質におけるNa
xM
yP
2O
7結晶の結晶化度は70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが特に好ましい。Na
xM
yP
2O
7結晶の結晶化度が低すぎると、放電容量が低下する傾向がある。なお、上限については特に限定されないが、現実的には99質量%以下である。
【0021】
Na
xM
yP
2O
7結晶の結晶化度は、CuKα線を用いた粉末X線回折測定によって得られる2θ値で10〜60°の回折線プロファイルにおいて、結晶性回折線と非晶質ハローにピーク分離することで求められる。具体的には、回折線プロファイルからバックグラウンドを差し引いて得られた全散乱曲線から、10〜45°におけるブロードな回折線(非晶質ハロー)をピーク分離して求めた積分強度をIa、10〜60°において検出されるNa
xM
yP
2O
7結晶由来の結晶性回折線をピーク分離して求めた積分強度の総和をIc、その他の結晶性回折線から求めた積分強度の総和をIoとした場合、結晶の含有量Xcは次式から求められる。
Xc=[Ic/(Ic+Ia+Io)]×100(%)
【0022】
Na
xM
yP
2O
7結晶の結晶子サイズが小さいほど、正極活物質粒子の平均粒子径を小さくすることが可能となり、電気伝導性を向上させることができる。具体的には、Na
xM
yP
2O
7結晶の結晶子サイズは100nm以下であることが好ましく、80nm以下であることが特に好ましい。下限については特に限定されないが、現実的には1nm以上、さらには10nm以上である。結晶子サイズは、粉末X線回折の解析結果からシェラーの式に従って求められる。
【0023】
本発明のナトリウムイオン二次電池用正極活物質は、モル%で、Na
2O 25〜55%、Cr
2O
3+Fe
2O
3+MnO
2+CoO+NiO 10〜30%、P
2O
5 25〜55%を含有することが好ましい。組成を上記のように限定した理由を以下に説明する。
【0024】
Na
2Oは、Na
xM
yP
2O
7結晶の主成分である。Na
2Oの含有量は25〜55%であることが好ましく、30〜50%であることがより好ましい。Na
2Oの含有量が少なすぎる、あるいは、多すぎると、Na
xM
yP
2O
7結晶が析出しにくくなる。
【0025】
Cr
2O
3、Fe
2O
3、MnO
2、CoO及びNiOからなる群より選ばれた少なくとも1種も、Na
xM
yP
2O
7結晶の主成分である。Cr
2O
3、Fe
2O
3、MnO
2、CoO及びNiOからなる群より選ばれた少なくとも1種の含有量は10〜30%であることが好ましく、15〜25%であることがより好ましい。Cr
2O
3、Fe
2O
3、MnO
2、CoO及びNiOからなる群より選ばれた少なくとも1種の含有量が少なすぎるとNa
xM
yP
2O
7結晶が析出しにくくなる。一方、Cr
2O
3、Fe
2O
3、MnO
2、CoO及びNiOからなる群より選ばれた少なくとも1種の含有量が多すぎるとNa
xM
yP
2O
7結晶が析出しにくくなるとともに、望まないCr
2O
3、Fe
2O
3、MnO
2、CoO、NiO等の結晶が析出しやすくなる。特に、サイクル特性や急速充放電特性を向上させるためには、Cr
2O
3、Fe
2O
3、MnO
2、CoO及びNiOからなる群より選ばれた少なくとも1種は、Fe
2O
3であることが好ましい。
【0026】
P
2O
5もNa
xM
yP
2O
7結晶の主成分である。P
2O
5の含有量は25〜55%であることが好ましく、30〜50%であることがより好ましい。P
2O
5の含有量が少なすぎる、あるいは、多すぎると、Na
xM
yP
2O
7結晶が析出しにくくなる。 また、本発明のナトリウムイオン二次電池用正極活物質は、Nb
2O
5、MgO、Al
2O
3、TiO
2、ZrO
2またはSc
2O
3を含有していてもよい。これらの成分を含有することにより、これらの成分がNa
xM
yP
2O
7結晶に取り込まれ、より電子伝導度の高いNa
xM
yP
2O
7結晶を生成しやすくなるため、高速充放電特性が向上しやすい。上記成分の含有量の合計は、0〜25%であることが好ましく、0.2〜10%であることが特に好ましい。上記成分の含有量が多すぎると、異種結晶が生じ、Na
xM
yP
2O
7結晶の結晶化度が低下しやすくなるため、放電容量が低下しやすくなる。
【0027】
また、上記成分以外に、例えばSiO
2、B
2O
3、GeO
2、Ga
2O
3、Sb
2O
3またはBi
2O
3を含有していてもよい。これらの成分をさらに含有することにより、ガラス形成能が向上し、均質な非晶質体が得られやすくなる。上記成分の含有量の合計は、0〜25%であることが好ましく、0.2〜10%であることが特に好ましい。上記成分の含有量が多すぎると、Na
xM
yP
2O
7結晶の結晶化度が低下しやすくなる。
【0028】
さらに、本発明のナトリウムイオン二次電池用正極活物質は、粒子状であり、粒子表面が導電性炭素で被覆されていることが好ましい。粒子表面が導電性炭素で被覆されていることにより、電子伝導度性が高くなり、高速充放電特性が向上しやすくなる。
【0029】
炭素の含有量は、質量%で、0.01〜10%であることが好ましく、0.03〜7%であることがより好ましく、0.05〜5%であることがさらに好ましく、0.07〜4質量%であることが特に好ましい。炭素の含有量が少なすぎると、カーボン含有層による被覆が不十分となり、電子の伝導性に劣る傾向がある。一方、炭素の含有量が多すぎると、相対的に正極活物質粒子の含有量が小さくなるため、放電容量が小さくなる傾向がある。
【0030】
本発明のナトリウムイオン二次電池用正極活物質は、ラマン分光法における1550〜1650cm
−1のピーク強度Gに対する1300〜1400cm
−1のピーク強度Dの比(D/G)が1以下、特に0.8以下であり、かつ、ピーク強度Gに対する800〜1100cm
−1のピーク強度Fの比(F/G)が0.5以下、特に0.1以下であることが好ましい。これらのピーク強度比が上記範囲を満たすことにより、正極活物質の電子伝導性が高くなる傾向がある。
【0031】
本発明のナトリウムイオン二次電池用正極活物質は、タップ密度が0.3g/ml以上、特に0.5g/ml以上であることが好ましい。タップ密度が小さすぎると、電極密度が小さくなり電池の単位体積あたりの放電容量が低下する傾向がある。上限は概ね真比重に相当する値になるが、粉末の粒塊化を考慮すると、現実的には5g/ml以下、特に4g/ml以下である。なお、本発明においてタップ密度は、タッピングストローク:10mm、タッピング回数:250回、タッピング速度:2回/1秒のタッピング条件により測定された値をいう。
【0032】
本発明の正極活物質は、水系溶媒、非水系溶媒、イオン液体等の電解液を用いたナトリウムイオン二次電池に使用可能である。また、固体電解質を用いた全固体ナトリウムイオン二次電池にも使用可能である。 本発明のナトリウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法は、Cr、Fe、Mn、Co及びNiからなる群より選ばれた少なくとも1種の遷移金属元素、Na、P及びOを含む無機粉末からなるナトリウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法であって、(a)Cr、Fe、Mn、Co及びNiからなる群より選ばれた少なくとも1種の遷移金属元素、Na、P及びOを含む原料を溶融し、非晶質体を得る非晶質体形成工程、(b)前記非晶質体を熱処理し、結晶体を得る結晶体形成工程、(c)前記結晶体を粉砕し、BET比表面積が3〜50m
2/gである結晶体粉末を得る粉砕工程、及び(d)前記結晶体粉末を熱処理し、一般式Na
xM
yP
2O
7からなる結晶を析出させる焼成工程、とを含むことを特徴とする。上記の製造方法とすることにより、焼成工程における粉末同士の融着を防止して、急速充放電特性に優れたナトリウムイオン二次電池用正極活物質を得ることが可能となる。
【0033】
Cr、Fe、Mn、Co及びNiからなる群より選ばれた少なくとも1種の遷移金属元素、Na、P及びOを含む原料を溶融し、非晶質体を得る非晶質体形成工程において、溶融温度は原料粉末が均質に溶融されるよう適宜調整すればよい。具体的には、800℃以上が好ましく、900℃以上であることがより好ましい。上限は特に限定されないが、高すぎるとエネルギーロス、ナトリウムの蒸発につながるため、1500℃以下であることが好ましく、1400℃以下であることがより好ましい。
【0034】
非晶質体を成形する方法としては特に限定されない。例えば、非晶質体を一対の冷却ロール間に流し込み、急冷しながらフィルム状に成形してもよいし、あるいは、非晶質体を鋳型に流し出し、インゴット状に成形しても構わない。
【0035】
得られた非晶質体を熱処理し、結晶体を得る結晶体形成工程において、熱処理は、例えば温度の制御が可能な電気炉中で行われる。結晶体形成工程を行わない場合、後述の焼成工程において、結晶体粉末同士が融着するため、得られる正極活物質のBET比表面積が低下してしまう。そのため、BET比表面積が3m
2/g以上の正極活物質粉末を作製するのが困難となり、得られる正極活物質の電池特性が低下する。
【0036】
結晶体形成工程の熱処理温度は、ガラス転移温度以上であることが好ましく、結晶化温度以上であることがより好ましい。具体的には、350℃以上であることが好ましく、400℃以上であることがより好ましい。熱処理温度が低すぎると、後述する焼成工程において、Na
xM
yP
2O
7結晶の析出が不十分となる可能性がある。
【0037】
熱処理時間は、非晶質体の結晶化が十分に進行するよう適宜調整される。具体的には、20〜300分間であることが好ましく、30〜240分間であることがより好ましい。
【0038】
得られた結晶体は、結晶が高い割合で析出しておればよく、非晶質相を含む結晶化ガラスであってもよい。
【0039】
得られた結晶体を粉砕し、BET比表面積が3〜50m
2/gである結晶体粉末を得る粉砕工程において、粉砕方法は特に限定されず、ボールミルやビーズミル等の一般的な粉砕装置を用いることできる。
【0040】
結晶体粉末のBET比表面積は、3〜50m
2/gであり、5〜40m
2/gであることが好ましく、6〜30m
2/gであることがより好ましい。結晶体粉末のBET比表面積が小さすぎると、後述する焼成工程を経て正極活物質とした時に、正極活物質のBET比表面積が小さくなるため、ナトリウムイオンが拡散しにくくなるとともに、内部抵抗が大きくなる傾向がある。結果として、急速放電時に、放電容量が低下してしまう。一方、結晶体粉末のBET比表面積が大きすぎると、後述する工程を経て正極活物質とした時に、ペースト化するために多量の分散媒が必要となり、結果として、電極密度が低下して電極の単位体積あたりの放電容量が低下する傾向がある。また、電解質中に無機粉末の金属成分が溶出し、電池の寿命が短くなる等の問題がある。
【0041】
得られた結晶体粉末を熱処理し、一般式Na
xM
yP
2O
7からなる結晶を析出させる焼成工程においては、MがFeを含む場合、焼成により、結晶体粉末中の鉄を還元して、Na
xM
yP
2O
7結晶を析出させる。アルゴンや窒素などの不活性雰囲気中で焼成を行う場合、結晶体粉末の表面にあらかじめ有機化合物を被覆させた後に、焼成を行うことが好ましい。被覆させた有機化合物が還元剤となり、結晶体粉末中の鉄を還元する。水素などの還元性ガスを含む雰囲気中で焼成を行い、結晶体粉末の鉄を還元してもよい。還元性ガスは窒素などの不活性ガス中に含まれていてもよく、その際の還元性ガスの含有量は4.0 vol%以上であることが好ましい。
【0042】
焼成温度は、350℃以上であることが好ましく、400℃以上であることがより好ましい。焼成温度が低すぎると、結晶の析出が不十分になり放電容量が低下するおそれがある。一方、焼成温度の上限は800℃であることが好ましく、750℃であることがより好ましい。焼成温度が高すぎると、異種結晶が析出しやすくなり、放電容量が低下するおそれがある。
【0043】
焼成時間は、結晶の析出が十分に進行するよう適宜調整される。具体的には、20〜300分間であることが好ましく、30〜240分間であることがより好ましい。
【実施例】
【0044】
以下、実施例に基づいて、本発明を詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例に何ら限定されない。以下の実施例は単なる例示である。
【0045】
(実施例1)
(a)非晶質体形成工程
メタリン酸ソーダ(NaPO
3)、酸化第二鉄(Fe
2O
3)を原料とし、モル%で、Na
2O 40%、Fe
2O
3 20%、P
2O
5 40%の組成となるように原料粉末を調合し、1200℃にて45分間、大気雰囲気中にて溶融を行った。その後、カーボンの治具に流し込み、インゴット成形により非晶質体を得た。
【0046】
(b)結晶体形成工程
得られた非晶質体を、大気雰囲気中にて620℃、3時間熱処理し、結晶体を得た。
【0047】
(c)粉砕工程
得られた結晶体に対して、φ20mmのZrO
2玉石を使用したボールミル粉砕を10時間、次にφ5mmのZrO
2玉石、φ3mmのZrO
2玉石、φ1mmのZrO
2玉石を混合して使用したエタノール中でのボールミル粉砕を80時間行い、BET比表面積が14.7m
2/gの結晶体粉末を得た。
【0048】
(d)焼成工程
結晶体粉末100質量部に対して、カーボン源として非イオン性界面活性剤であるポリエチレンオキシドノニルフェニルエーテル(HLB値:13.3、質量平均分子量:660)を27.8質量部(炭素換算15質量部に相当)及び純水を60質量部十分に混合した後、100℃で約1時間乾燥させた。その後、窒素雰囲気下で620℃、30分間焼成を行い、正極活物質を得た。
【0049】
得られた正極活物質について粉末X線回折パターンを確認したところ、Na
2FeP
2O
7結晶由来の回折線が確認された。得られた正極活物質のBET比表面積は、14.3m
2/gであった。また、正極活物質の表面には導電性炭素が被覆されており、炭素の含有量は1.8%であった。
【0050】
(実施例2)
粉砕工程において、エタノール中でのボールミル粉砕を70時間行い、BET比表面積が13.5m
2/gの結晶体粉末を得たこと以外は、実施例1と実質的に同様にして正極活物質を作製した。得られた正極活物質について粉末X線回折パターンを確認したところ、Na
2FeP
2O
7結晶由来の回折線が確認された。得られた正極活物質のBET比表面積は、13.1m
2/gであった。また、正極活物質の表面には導電性炭素が被覆されていた。
【0051】
(実施例3)
粉砕工程において、エタノール中でのボールミル粉砕を40時間行い、BET比表面積が7.5m
2/gの結晶体粉末を得たこと以外は、実施例1と実質的に同様にして正極活物質を作製した。得られた正極活物質について粉末X線回折パターンを確認したところ、Na
2FeP
2O
7結晶由来の回折線が確認された。得られた正極活物質のBET比表面積は、6.8m
2/gであった。また、正極活物質の表面には導電性炭素が被覆されていた。
【0052】
(比較例1) メタリン酸ソーダ(NaPO
3)、酸化第二鉄(Fe
2O
3)を原料とし、モル%で、Na
2O 40%、Fe
2O
3 20%、P
2O
5 40%の組成となるように原料粉末を調合し、1200℃にて45分間、大気雰囲気中にて溶融を行った。その後、カーボンの治具に流し込み、インゴット成形により非晶質体を得た。
【0053】
得られた非晶質体に対して、φ20mmのZrO
2玉石を使用したボールミル粉砕を10時間、次にφ5mmのZrO
2玉石、φ3mmのZrO
2玉石、φ1mmのZrO
2玉石を混合して使用したエタノール中でのボールミル粉砕を80時間行い、BET比表面積が10.3m
2/gの非晶質体粉末を得た。
【0054】
非晶質体粉末100質量部に対して、カーボン源として非イオン性界面活性剤であるポリエチレンオキシドノニルフェニルエーテル(HLB値:13.3、質量平均分子量:660)を27.8質量部(炭素換算15質量部に相当)及び純水を60質量部十分に混合した後、100℃で約1時間乾燥させた。その後、窒素雰囲気下で620℃、30分間焼成を行い、正極活物質を得た。得られた正極活物質について粉末X線回折パターンを確認したところ、Na
2FeP
2O
7結晶由来の回折線が確認された。得られた正極活物質のBET比表面積は、2.8m
2/gであった。また、正極活物質の表面には導電性炭素が被覆されていた。
【0055】
(比較例2)
エタノール中でのボールミル粉砕を40時間行い、BET比表面積が6.3m
2/gの非晶質体粉末を得たこと以外は、比較例1と実質的に同様にして正極活物質を作製した。得られた正極活物質について粉末X線回折パターンを確認したところ、Na
2FeP
2O
7結晶由来の回折線が確認された。得られた正極活物質のBET比表面積は、2.6m
2/gであった。また、正極活物質の表面には導電性炭素が被覆されていた。
【0056】
(ナトリウムイオン二次電池の作製) 実施例1〜3及び比較例1,2の正極活物質に対し、バインダーとしてのフッ化ポリビニリデン、導電性物質としての導電性カーボンブラックを、正極活物質:バインダー:導電性物質=90:5:5(質量比)となるように秤量し、これらをN−メチルピロリドンに分散した後、自転・公転ミキサーで十分に撹拌してスラリー化した。次に、隙間75μmのドクターブレードを用いて、正極集電体である厚さ20μmのアルミ箔上に、得られたスラリーをコートし、乾燥機にて70℃で乾燥後、一対の回転ローラー間に通し、1t/cm
2でプレスすることにより電極シートを得た。電極シートを電極打ち抜き機で直径11mmに打ち抜き、160℃で6時間乾燥させ、円形の作用極を得た。
【0057】
次に、得られた作用極を、コインセルの下蓋の上に、アルミ箔面を下に向けて載置し、その上に200℃8時間乾燥させたガラスフィルター、60℃で8時間減圧乾燥した直径16mmのポリプロピレン多孔質膜(ヘキストセラニーズ社製 セルガード#2400)からなるセパレータ、及び、対極である金属ナトリウムを積層し、試験電池を作製した。電解液としては、1M NaPF
6溶液/EC:DEC=1:1(EC=エチレンカーボネート DEC=ジエチルカーボネート)を用いた。なお試験電池の組み立ては露点温度−70℃以下の環境で行った。
【0058】
(充放電試験)
充放電試験は次のように行った。30℃で開回路電圧(OCV)から4.2VまでCC(定電流)充電(正極活物質からのナトリウムイオン放出)を行い、正極活物質の単位質量中に充電された電気量(充電容量)を求めた。次に、4.2Vから2VまでCC放電(正極活物質へのナトリウムイオン吸蔵)させ、正極活物質の単位質量中に放電された電気量(放電容量)を求めた。以降は、2V〜4.2Vで繰り返しCC充放電させて充放電容量を求めた。なお、Cレートは0.1〜20Cまで変化させ、充電とその直後の放電のCレートは同一とした。結果を表1及び2に示す。なお、表1及び2における放電容量は、0.1Cレートにおける1サイクル目の放電容量を示し、放電容量維持率は、0.1Cレートにおける放電容量に対する、10Cレートにおける放電容量の割合を示す。
【0059】
【表1】
【0060】
【表2】
【0061】
表1に示すように、実施例1〜3の正極活物質は、BET比表面積が6.8〜14.3m
2/gであり、放電容量は83mAh/g以上と高く、放電容量維持率も54%以上と高かった。一方、表2に示すように、比較例1の正極活物質は、BET比表面積が2.8m
2/gであり、放電容量は82mAh/gであったものの、放電容量維持率が13%と低く、比較例2の正極活物質は、BET比表面積が2.6m
2/gであり、放電容量は57mAh/gで、放電容量維持率が2%と低かった。