【実施例】
【0034】
次に、本発明に係る窒化物熱電変換材料及びその製造方法並びに熱電変換素子について、上記実施形態に基づいて作製した実施例により評価した結果を、
図2から
図4を参照して具体的に説明する。
【0035】
まず、反応性スパッタ法にて、表1に示すように、Wスパッタリングターゲットで、無アルカリガラス基板上に、様々な組成比で形成された本発明の窒化物熱電変換材料を厚さ400〜600nmで成膜した。膜厚は、Veeco社製表面形状測定装置:Dektak 150で測定した。
一部のサンプルは、ポリイミドフィルム基板上へも成膜した。
なお、表1において、本発明の実施例のW
1−yN
yを簡易的にWNと記載している。
【0036】
なお、比較としてBi
2Te
3のプリンテッド薄膜(比較例1)、W薄膜(比較例2)及びTiN薄膜(比較例3)をそれぞれ作製し、これら比較例についても同様に作製して評価を行った。
比較例1のBi
2Te
3のプリンテッド薄膜は以下のようにして用意した。Bi
2Te
3微粉末をエチレングリコールと分散剤とに混合し、Bi
2Te
3ペーストを得た。ディスペンサーにより、液晶ポリマー(LCP)基板上に、1ミクロン程度の膜厚をもつBi
2Te
3を配線化し、乾燥後、N
2雰囲気中で、200℃により熱処理した。このサンプルは、フィルムとの密着もとれており、評価後、SEMにてクラックがないことを確認した。
比較例2のW薄膜、および、比較例3のTiN薄膜については、それぞれWターゲット、Tiターゲットを用いて反応性スパッタ法にて成膜した。
【0037】
また、成膜工程のスパッタ条件は、到達真空度:5×10
−6Pa、スパッタガス圧:0.67Pa、ターゲット投入電力(出力):300Wで、Arガス+窒素ガスの混合ガス雰囲気下において、窒素ガス分圧を0〜100%と変えて作製した。
さらに、成膜した上記窒化物熱電変換材料の薄膜上に、一対のAg電極をメタルマスク法によりパターン形成して本発明の実施例及び比較例を作製した。
【0038】
【表1】
【0039】
<組成分析>
反応性スパッタ法にて得られた窒化物熱電変換材料について、X線光電子分光法(XPS)にて組成分析を行った。
【0040】
なお、上記X線光電子分光法(XPS)は、X線源をAlKα(350W)とし、パスエネルギー:46.95eV、測定間隔:0.1eV、試料面に対する光電子取り出し角:45deg、分析エリアを約800μmφの条件下で定量分析を実施した。このXPSでは、Arスパッタにより、最表面から深さ20nm、60nm、100nmのスパッタ面において、定量分析を実施した。なお、N/(W+N)の定量精度は2%である。深さ20nm、60nm、100nmのスパッタ面におけるN/(W+N)比について、定量精度の範囲内で同じN/(W+N)組成比であることを確認している。
また、窒化物膜中に含まれる酸素についても調べた結果、酸素比O/(W+N+O)が、0<O/(W+N+O)<0.04となり、酸素が不可避不純物として含まれていることがわかる。
しかしながら、熱電特性(ゼーベック係数、電気伝導率)と酸素量とに相関がないことから、酸素は熱電特性に積極的寄与しておらず、本熱電特性は金属窒化物系が主体であると考えられる。
【0041】
<薄膜X線回折(結晶相の同定)>
反応性スパッタ法にて得られた窒化物熱電変換材料を、視斜角入射X線回折(Grazing Incidence X-ray Diffraction)により、結晶相を同定した。この薄膜X線回折は、微小角X線回折実験であり、管球をCuとし、入射角を1度とすると共に2θ=10〜130度の範囲で測定した。一部のサンプルについては、入射角を0度とし、2θ=10〜100度の範囲で測定した。無アルカリガラス基板を用いた場合、20度以下において、ガラスのハローピークが大きくなったので、薄膜X線回折用として、熱酸化膜付きSi基板(SiO
2付きSi基板)を用意し、同じスパッタ条件にて成膜し、上記条件にて測定した。
【0042】
その結果、本発明の実施例は、いずれも結晶構造がβ−W
2N型(空間群Pm−3m)であり、[111]結晶配向性に優れた材料であった。
XRDプロファイルの一例として、実施例2について
図2の(a)に示すと共に、実施例4について
図2の(b)に示す。実施例4(窒素ガス分圧80%)の方が、実施例2(窒素ガス分圧60%)よりも、[111]結晶配向性に優れていることがわかる。
なお、窒素ガス分圧50%未満のサンプルについては、結晶性が十分でなく、β−W
2N型結晶構造をもつWNと同定することができなかった。
なお、グラフ中(*)は装置由来および熱酸化膜付きSi基板由来のピークであり、サンプル本体のピーク、もしくは、不純物相のピークではないことを確認している。入射角を0度として、対称測定を実施し、そのピークが消失していることを確認し、装置由来および熱酸化膜付きSi基板由来のピークであることを確認した。
無アルカリガラス基板上の実施例においても、不純物相は検出されず、β−W
2N型であり、 [111]結晶配向性に優れた材料であった。
【0043】
<性能評価>
次に、本発明の実施例及び比較例について、ゼーベック係数S、電気伝導率σ及びpower factor(パワー因子:S
2σ)について評価した。なお、ゼーベック係数及び電気伝導率は、室温で測定した。
ゼーベック係数は、市販のペルチェ素子を2個用い、2個のペルチェ素子間で温度差がつくように、一方のペルチェ素子を冷却、他方のペルチェ素子を加熱するように配線し、2〜10℃の温度差をつけて測定した。0.15mmΦのシース熱電対(坂口電熱 T350155 シース材:Pt、シース内充填物:MgO粉末)を使って測定し、シースを電極として熱起電力を測定すると共に、熱電対を使って温度差を測定した。得られた熱起電力と温度差との関係を最小二乗法による直線近似することで、ゼーベック係数を評価した。また、電気伝導率は、Van der Pauw法で測定した。
【0044】
次に、ゼーベック係数より、p型半導体材料なのか、n型半導体材料なのかについて判定した。その結果、本発明の実施例は、全てn型の熱電特性を有していた(N
2ガス分率(ガス比)であるN
2/(N
2+Ar)が、0.5〜0.8の範囲で作製)。
また、電気伝導率を調べた結果、全ての実施例で100S/cm以上の高い電気伝導率を有していた。特に、実施例1〜4のサンプルについては、1000S/cm以上のきわめて高い電気伝導率を有していた。
これらの結果、本発明の実施例は、いずれも比較的大きなゼーベック係数の絶対値であると共に、良好な電気伝導率を有していた。
【0045】
<結晶形態の評価>
次に、窒化物熱電変換材料の断面における結晶形態を示す一例として、実施例2の断面SEM写真を、
図3に示す。
これらの実施例のサンプルは、へき開破断したものを用いている。また、45°の角度で傾斜観察した写真である。
【0046】
これらの写真からわかるように、本発明の実施例は緻密な柱状結晶で形成されている。すなわち、基板面に垂直な方向に柱状の結晶が成長している様子が観測されている。なお、柱状結晶の破断は、へき開破断した際に生じたものである。
なお、写真中の柱状結晶の粒径(結晶径)は、いずれも100nm以下であった。
【0047】
また、ここでの粒径は、基板面内における柱状結晶の直径であり、長さは、基板面に垂直な方向の柱状結晶の長さ(膜厚)である。
柱状結晶のアスペクト比を(長さ)÷(粒径)として定義すると、本実施例は5以上の大きいアスペクト比をもっている。柱状結晶の粒径が小さいことにより、膜が緻密となっていると考えられる。
【0048】
<耐熱性>
本発明の実施例について、ゼーベック係数の温度依存性について評価した。その結果を、
図4に示す。
この結果、本発明の実施例は、100℃の耐熱性を有していることが分かる。ゼーベック係数については、温度上昇ともに、ゼーベック係数の絶対値が増加する傾向がみられた。
また、100℃耐熱性試験後、視斜角入射X線回折を実施したが、酸化物不純物相は検出されなかった。したがって、本熱電特性は金属窒化物系が主体であると考えられる。
【0049】
なお、本発明の技術範囲は上記実施形態及び実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。