特許第6384685号(P6384685)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6384685組換えタンパク質の発現増進のための遺伝子断片を含むベクター及びその用途
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6384685
(24)【登録日】2018年8月17日
(45)【発行日】2018年9月5日
(54)【発明の名称】組換えタンパク質の発現増進のための遺伝子断片を含むベクター及びその用途
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/63 20060101AFI20180827BHJP
   C12N 5/16 20060101ALI20180827BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20180827BHJP
【FI】
   C12N15/63 ZZNA
   C12N5/16
   C12P21/02 C
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-574044(P2016-574044)
(86)(22)【出願日】2015年6月16日
(65)【公表番号】特表2017-518069(P2017-518069A)
(43)【公表日】2017年7月6日
(86)【国際出願番号】KR2015006098
(87)【国際公開番号】WO2015194834
(87)【国際公開日】20151223
【審査請求日】2017年2月14日
(31)【優先権主張番号】10-2014-0073443
(32)【優先日】2014年6月17日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】505448855
【氏名又は名称】コリア リサーチ インスティテュート オブ バイオサイエンス アンド バイオテクノロジー
【氏名又は名称原語表記】KOREA RESEARCH INSTITUTE OF BIOSCIENCE AND BIOTECHNOLOGY
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅一
(74)【代理人】
【識別番号】100148596
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 和弘
(72)【発明者】
【氏名】リー, ウン ギョ
(72)【発明者】
【氏名】リー, ホン‐ウォン
(72)【発明者】
【氏名】カン,シン ヨン
(72)【発明者】
【氏名】キム, ヨン‐グ
(72)【発明者】
【氏名】ジョン, ジュン キ
(72)【発明者】
【氏名】アン,ジョンオー
(72)【発明者】
【氏名】カン, スン ヒー
(72)【発明者】
【氏名】キム, チョン ソク
(72)【発明者】
【氏名】リー, ヒョク ウォン
(72)【発明者】
【氏名】リー, ジン ギョム
【審査官】 松田 芳子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2000−503205(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/023787(WO,A1)
【文献】 特開2011−152124(JP,A)
【文献】 Appl. Microbiol. Biotechnol.(2012), Vol.93, p917-930
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00
C12N 1/00〜 7/08
C12P 1/00〜41/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1、配列番号2、配列番号3及び配列番号4からなる群より選択されるいずれか一つの塩基配列からなる遺伝子断片がプロモーターの上流及び目的遺伝子の下流のうち少なくとも一つの位置に挿入された、動物細胞内目的遺伝子の発現増加用組換えベクター。
【請求項2】
前記組換えベクターのプロモーターは、ウイルス由来または哺乳類由来のプロモーターであることを特徴とする請求項1に記載の目的遺伝子の発現増加用組換えベクター。
【請求項3】
前記配列番号1、配列番号2、配列番号3及び配列番号4からなる群より選択されるいずれか一つの塩基配列からなる遺伝子断片は、下記方法で選抜することを特徴とする請求項1に記載の目的遺伝子の発現増加用組換えベクター:
1)CHO−K1遺伝子断片を獲得してベクターライブラリを構成するステップ;
2)前記ベクターライブラリをCHO−K1細胞株に形質導入して選択培地で培養した後、蛍光タンパク質発現率が遺伝子断片を挿入しないベクターを導入した対照群より高い細胞等を分類するステップ;
3)ステップ2)で分類した細胞等を単一クローンで培養して導入された遺伝子断片を捜すステップ;及び
4)捜し出した前記遺伝子断片の配列を分析するステップ。
【請求項4】
請求項1に記載の組換えベクターによって形質転換された動物細胞。
【請求項5】
1)請求項1に記載の発現増加用組換えベクターを製作するステップ;
2)前記発現増加用組換えベクターを動物細胞に形質転換するステップ;及び
3)前記形質転換された動物細胞を培養して生産されたタンパク質を獲得するステップを含む目的タンパク質を生産する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動物細胞における組換えタンパク質の発現増進のためのCHO(Chinese Hamster Ovary)細胞由来の新規遺伝子断片及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
高生産性を有する動物細胞株の製作は、当該生産目的タンパク質の産業的利用価値と連結され、このための過程には長時間と高費用が必要となる。高生産性動物細胞株を製作するために優先して考慮する点は、生産しようとする組換えタンパク質を効率よく発現するためのベクターの製作である。ベクターの構造を如何に製作するのかにより、追ってさらに高い価値を持つ生産細胞株の獲得に多くの影響を及ぼし得る。動物細胞内に挿入された外来遺伝子の発現は、染色質上に挿入されることによって安定化されるところ、挿入される位置によって発現率が変わり、細胞の生長や代謝にも影響を及ぼし得る。染色質に挿入された外来遺伝子は、時間の経過に伴い消滅する場合もあるので、遺伝子の発現が減少することを最小化し、発現率が最大に増進された細胞株の選別のために多くの研究が進められてきて、ベクター構造の変形はこれに至大なる大きな影響を及ぼすものと知られている。
【0003】
外部から伝達した遺伝子を細胞内に維持させながら増進された効果をみることができるようにする方法中の一つが、シス調節性因子(cis−regulatory element)を利用することである。シス調節性因子を含むベクターを利用して目的タンパク質をコーディングする遺伝子を細胞に導入する場合、染色質挿入位置に係わりなく目的タンパク質の発現を維持させることができ、発現増進の役割も担うことができる。マトリクス付着部位(matrix attachment regions、MARs)、汎用オープニングエレメント(universal opening elements、UCOEs)、位置調節部位(locus control regions、LCRs)、インシュレータ(insulator)エレメント、安定化−反抑制子エレメント(stabilizing and anti−repressor elements、STARs)などがその代表的な例であり、各遺伝子因子を利用したベクターシステムの構築と応用は、非常に主な分野として扱われてきた(Nature biotechnology、Vol.29、593−597、2011)。
【0004】
治療用タンパク質の生産細胞株として広く利用されているCHO(Chinese hamster ovary)細胞遺伝子由来のシス調節性因子はEASE(Expression augmenting sequence element)のみ知られており、これ以外は全て人間やマウス由来の遺伝子から多様な方法を介して発見してきた。EASEの発見は、腫瘍壊死因子レセプター(Tumor Necrosis Factor Receptor)を多量発現する生産細胞株に挿入されたベクターの遺伝的位置を見付けることにより発見された(AE Morris et al.,Animal cell technology、1997)。既存に発見されていたシス調節性因子は、殆どバイオ医薬品生産会社で産業的、商業的に利用しているため、既存と違う方式でCHO細胞遺伝子由来の新しいシス調節性因子を選別し、これを含んだ組換えベクターを保有することは、バイオシミラーなどの多様なバイオ医薬品の開発過程に有効なものと見込まれる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとすする課題】
【0005】
本発明の目的は、配列番号1、配列番号2、配列番号3及び配列番号4からなる群より選択されるいずれか一つの塩基配列からなる遺伝子断片が挿入された目的遺伝子の発現増加用組換えベクターを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するため、本発明は、配列番号1、配列番号2、配列番号3及び配列番号4からなる群より選択されるいずれか一つの塩基配列からなる遺伝子断片が挿入された目的遺伝子の発現増加用組換えベクターを提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明に基づき、CHO−K1細胞株に組換えタンパク質の発現増進のためのCHO(Chinese Hamster Ovary)細胞由来の新規遺伝子断片を含んだベクターを形質転換すれば、目的タンパク質の発現能が増進されるので、これは治療用抗体などの生物医薬品の生産に有効に利用することができるはずである。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】プロモーターの前に動物細胞の遺伝子断片を挿入して目的遺伝子の発現を増進させる本発明の概略的模式図である。
図2】EGFP/pcDNAZeo(a)とEGFP/pcDNAZeo−E77(b)ベクターの模式図である。
図3a】E77が蛍光度の増進された細胞株の形成に寄与することを検証したグラフである:図3aは細胞群間の差異を比べたものであり、図3bはGFP発現上位50個の単一細胞株の間の蛍光度を比べたものである。
図3b】E77が蛍光度の増進された細胞株の形成に寄与することを検証したグラフである:図3aは細胞群間の差異を比べたものであり、図3bはGFP発現上位50個の単一細胞株の間の蛍光度を比べたものである。
図4a図4aは、pGIZベクターCMVプロモーターの5’部分にE77(配列番号1)、E77逆順を含んだベクターとE77を3’部分に含んだベクター、5’と3’全てにE77を含んだベクターの一部を示す模式図と、これらベクターによる蛍光度発現の差異を比べたグラフである。
図4b図4bは、E77(配列番号1)、E77−t1(配列番号2)、E77−t2(配列番号3)及びEx77(配列番号4)を含んだベクターの一部を示す模式図と、これらベクターによる蛍光度発現の差異を比べたグラフである。
図4c図4c〜図4fのヒストグラムは、各ベクターによって形成された細胞群の蛍光発現度を対照群と比べて示したグラフである。
図4d図4c〜図4fのヒストグラムは、各ベクターによって形成された細胞群の蛍光発現度を対照群と比べて示したグラフである。
図4e図4c〜図4fのヒストグラムは、各ベクターによって形成された細胞群の蛍光発現度を対照群と比べて示したグラフである。
図4f図4c〜図4fのヒストグラムは、各ベクターによって形成された細胞群の蛍光発現度を対照群と比べて示したグラフである。
図5a図5aは、対照群及びE77とEx77を含んだ抗体発現ベクターを導入した細胞群に対する単位細胞当りの抗体生産量を分析したグラフである。
図5b図5bは、図5aグラフに対する詳細な資料である。
図5c図5c〜図5eの点グラフ(dot plot)は、各細胞群の抗体生産量を蛍光分析した結果である。
図5d図5c〜図5eの点グラフ(dot plot)は、各細胞群の抗体生産量を蛍光分析した結果である。
図5e図5c〜図5eの点グラフ(dot plot)は、各細胞群の抗体生産量を蛍光分析した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳しく説明する。
【0010】
本発明は、配列番号1、配列番号2、配列番号3及び配列番号4からなる群より選択されるいずれか一つの塩基配列からなる遺伝子断片が挿入された目的遺伝子の発現増加用組換えベクターを提供する。
【0011】
本発明において、『ベクター』とは、好適な宿主内でDNAを発現させることができる好適な調節配列に作動可能に連結されている外部DNA配列を含むDNA作製物をいう。本発明のベクターは、典型的に発現のためのベクターとして構築され得る。好ましくは、本発明のベクターは、組換えペプチドまたはタンパク質を発現させるためのベクターである。さらに、本発明のベクターは、原核細胞または真核細胞を宿主細胞にして構築され得る。本発明の組換え発現ベクターは、例えば、バクテリオファージベクター、コスミドベクター、YAC(Yeast Artificial Chromosome)ベクターなどであってよい。本発明の目的上、プラスミドベクターを利用することが好ましい。かかる目的に用いられ得る典型的なプラスミドベクターは、(a)宿主細胞当りに数百個のプラスミドベクターを含むよう、複製が効率よく行われるようにする複製開始点、(b)プラスミドベクターに形質転換された宿主細胞が選抜され得るようにする抗生剤耐性遺伝子、及び(c)外来DNA断片が挿入可能な制限酵素切断部位を含む構造を有している。適した制限酵素切断部位が存在しないとしても、通常の方法に係る合成オリゴヌクレオチドアダプター(oligonucleotide adaptor)またはリンカー(linker)を用いれば、ベクターと外来DNAを容易にリゲーション(ligation)することができる。本発明に利用されるベクターは、当業界に公知の多様な方法を介して構築されてよく、これに対する具体的な方法はSambrook et al.Molecular Cloning.A Laboratory Manual.Cold Spring Harbor Laboratory Press(2001)に開示されており、この文献は本明細書に参照として挿入される。
【0012】
前記遺伝子断片は、前記目的遺伝子の前または前記目的遺伝子の後または前記目的遺伝子の前と後に同時に挿入するのが好ましいが、これに限定しない。
【0013】
本発明の具体的な実施形態では、配列番号1、配列番号2、配列番号3及び配列番号4からなる群より選択されるいずれか一つの塩基配列からなる遺伝子断片を、目的遺伝子の前または前記目的遺伝子の後または前記目的遺伝子の前と後に同時に挿入した。
【0014】
前記ポリヌクレオチドは、CHO(Chinese Hamster Ovary)−K1細胞由来であるのが好ましいが、これに限定しない。
【0015】
前記組換えベクターのプロモーターは、ウイルス由来または哺乳類由来のプロモーターであるのが好ましく、具体的にサイトメガロウイルス(CMV)プロモーターであるのがより好ましいが、これに限定しない。
【0016】
前記ベクターは、目的遺伝子、内部リボゾーム進入点(IRES、Internal ribosome entry site)及び選別遺伝子を含むのが好ましく、前記選別遺伝子はゼオシン耐性遺伝子(ZeoR)であるのがより好ましいが、これに限定しない。
【0017】
前記配列番号1、配列番号2、配列番号3及び配列番号4からなる群より選択されるいずれか一つの塩基配列からなる遺伝子断片は、下記方法で選抜されたものであるが、これに限定しない:
1)CHO−K1細胞株由来の遺伝子断片を獲得してベクターライブラリを構成するステップ;
2)前記ベクターライブラリをCHO−K1細胞株に形質導入して選択培地で培養した後、蛍光タンパク質発現率が遺伝子断片を挿入しないベクターを導入した対照群より高く表れた細胞等を分類するステップ;
3)前記ステップ2)で分類した細胞等を単一クローンで培養して導入された遺伝子断片を捜すステップ;及び
4)前記捜し出した遺伝子断片の配列を分析するステップ。
【0018】
併せて、本発明は、前記組換えベクターを利用して目的遺伝子を生産する方法を提供し、具体的に
1)目的遺伝子の発現増加用組換えベクターを製作するステップ;
2)前記目的遺伝子の発現増加用組換えベクターを動物細胞に形質転換するステップ;及び
3)前記形質転換された動物細胞を培養して生産されたタンパク質を獲得するステップを含む目的遺伝子を生産する方法を提供する。
[発明を実施するための形態]
【0019】
以下、実施形態は専ら本発明をより具体的に説明するためのものであって、本発明の要旨に基づき、本発明の範囲がこれら実施形態によって制限されないというのは、本発明の属する技術分野で通常の知識を有する者において自明であるといえる。
【0020】
実施例1:CHO細胞遺伝子断片を挿入したベクターライブラリの製作
本発明の目的を達成するため、緑色蛍光タンパク質発現ベクターを構築し、これにCHO−K1細胞株(ATCC(登録商標) CCL−61(商標))の遺伝子断片を挿入してライブラリを獲得する方式を進めた。先ず、CHO−K1細胞株のゲノムをDNeasy blood & tissue kit(Qiagen)を利用してCHO−K1細胞から獲得した。抽出したゲノムDNAは、制限酵素Sau3AI(NEB)の処理濃度と温度、時間を異にして多様な条件で処理して断片に作った。DNA 1μg当たり2ユニットから2倍ずつ10回まで希釈したSau3AI制限酵素を反応させ、37℃、25℃、16℃及び4℃それぞれの温度で時間別に反応させ、反応が終了したDNAはアガロースゲルに電気泳動した。電気泳動を実施したアガロースゲルからgel extraction kit(Qiagen)を利用して大きさ別にDNAを抽出し、これをベクターに挿入する遺伝子断片として利用した。
【0021】
緑色蛍光タンパク質発現ベクターは、動物細胞発現ベクターpcDNA3.1/Zeo(Invitrogen)を基本ベクターにして、マルチクローニングサイト(multicloning site)のNheI、XbaI制限酵素の位置にeGFPを挿入して構築した。Sau3AIを処理した遺伝子断片の挿入のため、CMVプロモーターが始まる地点にBamHI制限酵素配列を生成し、これをGFP/pcDNAZeoと名付けた。このように構築したベクターにBamHI制限酵素とCIAPを処理し、前記準備した遺伝子断片を接合させて大腸菌DH5αに導入した。ベクターを導入した大腸菌を、アンピシリンを含んだ固形培地プレートに塗抹して37℃で一晩培養した。プレートに育ったコロニーの数を確認し、挿入していた遺伝子断片の大きさに従ってプレート等を分類し、コロニーをLB培地フラスコに集めた。一つのフラスコに集めたコロニーを3時間ほど培養した後、DNA plasmid midi kit(Qiagen)を利用してベクターを獲得した。獲得したそれぞれの試料をDNA poolと名付け、これをベクターライブラリとして利用した。
【0022】
実施例2:形質導入及び細胞分類
前記実施例1で製作されたベクターライブラリをCHO−K1細胞株に形質導入し、選択培地での培養を介して緑色蛍光タンパク質を多様に発現する細胞群を獲得し、蛍光−活性化細胞分類器(FACS)を介して対照群より高い蛍光値を有する細胞等を分類した。
【0023】
具体的に、CHO−K1細胞株は、FBS(fetal bovine serum、Gibco)を10%含んだRPMI1640(Gibco)培地で培養し、形質導入はLipofectamine 2000(Invitrogen)を利用して製造社の指針に従い行った。形質導入の48時間後、トリプシン処理して細胞を分離し、ゼオシン(zeocin、Invitrogen)が含まれている選択培地に10%v/vになるように移して2週間培養した。遺伝子断片を挿入しないGFP/pcDNAZeoベクターを導入した細胞も同様の過程を介して細胞群を生成し、これは蛍光−活性化細胞分類器(FACSAria、BD)を利用して高発現群の細胞等を分類する時に対照群として利用した(図1)。
【0024】
その結果、対照群に比べて蛍光タンパク質発現が高い細胞等の割合が0.1〜0.2%ほどになることを確認し、これらを分離して細胞を獲得した。
【0025】
実施例3:単一細胞株の形成及び遺伝子断片の分析
前記実施例2で分類した細胞等を単一細胞株に培養し、各細胞内に導入されたベクターが有する遺伝子断片を確認する作業を行った。
【0026】
具体的に、分類した細胞等は、単一細胞株に獲得するため96 well plateに1 cell/wellに分株した後、大凡2〜3週培養してマイクロプレートリーダー(microplate reader)(Bioteck)でGFP蛍光度を測定した。これを介して高い蛍光度を見せる単一細胞株等を100個ほど選別し、T25フラスコに培養し、飽和状態に至るまで細胞培養を行った。以後、各細胞をフラスコから分離し、流細胞分析器を利用してGFP Mean値を得、これを介して各細胞株の発現を比べた。高い発現量を有する細胞株等が如何なる遺伝子断片が挿入されたベクターを含んでいるのかを確認するため、各細胞等からゲノムDNAを抽出してこれを鋳型にし、下記表1のプライマーを利用してPCRを行った。プライマーは、ベクターのCMVプロモーター前のBamHI制限酵素を基準に前後配列を取って製作した。挿入された遺伝子配列を確認するため、cae−seq−Fプライマー(配列番号8)とcae−sea−Rプライマー(配列番号9)を利用し、95℃で1分、60℃で1分、そして72℃で4分の条件で合計30回のPCR反応を行って増幅した。PCR増幅が十分行われていないクローン等の遺伝子に対しては、CMVプロモーターの中間部分に該当するcae−CM−Rプライマー(配列番号7)をリバース(reverse)プライマーとして利用し、このとき、約300bpのPCR産物が出るものらは、遺伝子断片が挿入されずにセルフリゲーション(self−ligation)で生成されたベクターを有するクローンに分類した。
【0027】
【表1】
【0028】
その結果、高い蛍光度値を有する配列の大部分が、約3kbの大きさを有する遺伝子断片を含んでいることを確認した。これらPCR産物の配列分析の結果、類似の配列を有することが確認可能であって、最も高い蛍光値を有する細胞株77番の遺伝子に対し、gDNA−Fプライマー(配列番号5)とgDNA−Rプライマー(配列番号6)を利用してPCRを行い、実施例1で構築していたGFP/pcDNAZeoベクターのBamHI部位にIn−fusion HD cloning kit(clontech)を利用してPCR生成物を挿入した後、全体配列を分析した。E77配列を配列番号1と名付け、全体配列分析の結果をNCBIとCHOgenomeウェブサイトのブラスト(Blast)に入力して分析した。分析の結果、E77は、2895bpの大きさを有するDNAであって、CHO−K1遺伝子のうち二つの断片が繋がっていることを確認した。前方の配列は、AFTD01141246の4170−5698bpの配列と95%相同性を有することを確認し、この配列をE77−t1(配列番号2)と名付けた。後方の配列は、AFTD01082471の13582−15021bpの配列と99%相同性を有することを確認し、この配列をE77−t2(配列番号3)と名付けた。
【0029】
実施例4:緑色蛍光タンパク質を利用したE77の効果の分析
前記実施例3で獲得したE77(配列番号1)の効果を検証するため、遺伝子断片を挿入していない対照群ベクターGFP/pcDNAZeo(図2a)とE77を挿入したベクターGFP/pcDNAZeo−E77(図2b)とを利用し、CHO−K1細胞株に形質導入を行って緑色蛍光タンパク質の発現を確認した。
【0030】
具体的に、これら各ベクターを形質導入し、48時間後、ゼオシン選択培地に1x10cells/ml濃度の細胞を各フラスコに入れ、2〜3週ほど培養することにより安定した細胞株(stable cell pool)を形成した。さらに、形質導入の48時間後、96 well plateに限界希釈(limited dilution)方式を利用して細胞を50cells/wellで入れ、細胞群毎に100個ほどの単一クローンを獲得して各細胞に対する蛍光値を確認した。
【0031】
その結果、全体細胞を安定した細胞群に形成した時にGFP発現する細胞の割合が、対照群の場合に27.3%である反面、E77を含んだベクター導入細胞群の場合に42%の発現率を確認することができた(図3a)。同一個数のプレートから獲得した単一細胞株の個数は、対照群の場合に84個、E77の場合に114個であり、このうちGFPが発現される細胞株の数はそれぞれ50、80個で、全体数を基準に59.5%、70%の割合のGFP発現細胞株を有することになることを確認した。このように選別された単一細胞株のうち蛍光値が20000より高い細胞株の個数が、対照群の場合に4個、E77の場合に13個で差があることを観察した。GFPの蛍光値が高い細胞株50個を比べたことで、全体的なGFPの発現量に差があることを確認した(図3b)。これに基づき、E77をCMVプロモーターの前方に挿入する場合、目的タンパク質であるGFPの発現量が増進された細胞等を、対照群に比べてさらに多く確保できることを確認した。
【0032】
実施例5:ベクターにおける方向と位置によるE77効果の分析
シス調節性因子のうち一部の因子は、ベクターに挿入される方向や目的遺伝子との位置的関係に従ってその効果が増加することもあり得ると知られている。これに基づき、E77の場合、ベクターに入る方向性と位置による影響性があるのかに対して確認した。細胞群を形成し、細胞群が表す蛍光度を比べる時、選択マーカーがCMVプロモーターと別のプロモーターによって発現される 場合、GFPを発現しない細胞等が多く発生するので、これによる誤差を減少させるため、選択マーカーであるゼオシン耐性遺伝子(ZeoR)を発現しようとする緑色蛍光タンパク質と一つの転写単位に発現できるよう、IRESを利用してGFP−IRES−ZeoRの形態に発現されるようにベクターを構成した。IRESはpIRES vector(clontech)から獲得し、GFP、IRES、ZeoRそれぞれの遺伝子のPCRを行った後、IRESとZeoR PCR産物を鋳型にして第二のPCRを行い、IRES−ZeoR PCR産物とGFP PCR産物を鋳型にして第三のPCRを行うことによりGFP−IRES−ZeoR遺伝子を獲得した。pcDNA3.1/Zeo ベクターにPvuII制限酵素を処理し自己接合してゼオシン耐性遺伝子が除去されたベクターを構成し、このマルチクローニングサイトにGFP−IRES−ZeoR遺伝子を挿入してベクターを構成した。このベクターはpGIZと名付けた。このような構成を有するベクターにE77(配列番号1)をCMVプロモーターの5’部位に挿入し、これを逆順に入れた77E挿入ベクターも構成した。さらに、GFP−IRES−ZeoR遺伝子の3’部分にE77を入れたベクターと、5’、3’両方の部位に入れたベクターとを構成した(図4a)。このような構成を有するベクターを形質導入した細胞は、選択培地培養を介して安定した細胞群を形成し、流細胞分析器(Guava、Millipore)を用いて各細胞群の蛍光度を比べた。5’部分にE77を逆順に入れたベクターの場合、対照群に比べて増加する効果がないことを見せるので、E77が方向性を有していることを観察した。3’部分にE77を挿入したベクターの場合、5’部分に挿入したベクターとほぼ同様に50%の発現率の増加を見せ、E77を前後に挿入したベクターの場合、30%程度の発現率の増加を見せた。
【0033】
実施例6:変形された形態のE77効果の分析
前記実施例3で言及したところのように、E77は、二つの遺伝子断片からなっている。これに伴い、それぞれの断片だけが存在する時、その効果がE77と同様に表れ得るのか否かと、前方の遺伝子断片が属した遺伝子部分を前後に拡張した配列も効果があるのかを分析した。
【0034】
具体的に、E77(配列番号1)を構成する遺伝子断片の前部をE77−t1(配列番号2)、後部をE77−t2(配列番号3)と名付け、E77−t1断片が属した遺伝子を拡張した配列をEx77(配列番号4)と名付けた。Ex77は、www.chogenome.orgのCHOゲノムデータベースのうち、CHO−K1[ATCC]_genbank_contigヌクレオチドデータベースの相同性検索を介して得られたAFTD01141246遺伝子の2639−7786bpに該当する部分である。AFTD01141246遺伝子は、NW_003615552遺伝子(CHO−K1[ATCC]_refseq_scaffoldデータベースの相同性分析)の一部分に属する遺伝子断片(contig)として未だその役割が糾明されていない状態なので、当該ベクターに挿入した遺伝子断片は、次の通りに獲得した。E77が含まれているベクターを鋳型にし、プライマーE77−F(配列番号10)、E77−t1−R(配列番号11)を利用してPCRを行って獲得した遺伝子断片をE77−t1(配列番号2)と名付け、プライマーE77−t2−F(配列番号12)、E77−R(配列番号13)を利用してPCRを行って獲得した遺伝子断片をE77−t2(配列番号3)と名付けた。Ex77(配列番号4)は、CHO−K1ゲノムDNAを鋳型にしてPCRを行い、プライマーEx77−F(配列番号14)、Ex77−R(配列番号15)を利用した。PCRを介して獲得した遺伝子断片は、pGIZベクターのCMVプロモーターが始まるBamHI位置にIn−fusion HD cloning kitを利用して挿入した。PCRとIn−fusionのために利用したプライマーは、下記表2の通りである。
【0035】
遺伝子断片を挿入したpGIZベクターに形質導入した細胞は、選択培地培養を介して安定した細胞群を形成し、流細胞分析器(Guava、Millipore)を用いて各細胞群の蛍光度を比べた。
【0036】
【表2】
【0037】
その結果、各細胞群の蛍光値を比べた結果、対照群に比べて30〜50%ほどの細胞等が高い発現量を有していることを確認した(図4b)。さらに、遺伝子断片E77−t1(配列番号2)及びE77−t2(配列番号3)の効果がE77(配列番号1)に比べては多少低いものの、対照群よりは高い値を見せていることを確認し、Ex77(配列番号4)はE77(配列番号1)よりさらに高い値を有していることを見せた。この結果を介し、E77(配列番号1)の一部配列と一部配列が属した遺伝子配列も、目的タンパク質の発現増進に影響を及ぼし得ることを確認した(図4c、図4d、図4e及び図4f)。
【0038】
実施例7:E77を利用したベクターの抗体生産量の分析
蛍光タンパク質以外のタンパク質発現率にE77(配列番号1)とEx77(配列番号4)が影響を及ぼし得るのかを確認するため、E77(配列番号1)とEx77(配列番号4)が挿入された抗体生産ベクターを構築し、動物細胞に導入して抗体の生産量を測定した。
【0039】
具体的に、抗体生産ベクターは、一つの転写単位として発現させるため、CMVプロモーターを始めとして抗体の重鎖と軽鎖がIRES(Internal Ribosome Entry Site)で連結され発現されるようにし、前記実験と同様にE77とEx77をそれぞれCMVプロモーターの前のBamHI位置に挿入した。ゼオシン耐性遺伝子が別のプロモーターによって発現されるので、内部対照群を構築するため、ゼオシン遺伝子にIRES−GFPを連結して緑色蛍光タンパク質が共に発現されるようにした。このように構築されたベクターをCHO−K1細胞株(ATCC(登録商標) CCL−61(商標))に形質導入して選択培地で安定的細胞群を形成した後、蛍光物質であるPEが結合された抗体で染色を行い、流細胞分離器を利用して上位5%の発現率を見せる細胞等を分類した。分類された細胞等の抗体生産量を測定するため、1x10cells/mlの濃度でプレートに培養し、4日が経過した後、培養液を収去して細胞の数を測定した。培養液は、遠心分離後、上澄液を20℃に保管し、追って酵素結合免疫分析(enzyme−linked immunosorbent assay)を介して抗体の量を測定した。酵素結合免疫分析はIgG ELISA kit(Bethyl lab)を利用して行い、製造社の指針に従って行った。定量的な分析とともに細胞に対する抗体蛍光染色を再度行い、流細胞分析器を介して定性的な分析も進めた。
【0040】
4日間培養した後に確認した結果、E77(配列番号1)を挿入したベクターが導入された細胞群が、対照群に比べて3倍ほど増加した抗体生産量と、5倍ほど増加した単位細胞当りの生産量とを見せ、Ex77(配列番号4)を挿入したベクターが導入された細胞群は、対照群に比べて3倍ほど増加した単位細胞当りの生産量を確認した(図5a及び図5b)。流細胞分析器を介し、対照群は5.16%の細胞が抗体を発現していることを確認した。これに比べ、E77(配列番号1)導入細胞群の場合に46.8%、Ex77(配列番号4)導入細胞群の場合に34.9%の細胞が抗体を発現しているので、安定的に形成された細胞群で抗体発現率が大幅に増加したことを確認した(図5c、図5d及び図5e)。
図1
図2a
図2b
図3a
図3b
図4a
図4b
図4c
図4d
図4e
図4f
図5a
図5b
図5c
図5d
図5e
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]