(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6384726
(24)【登録日】2018年8月17日
(45)【発行日】2018年9月5日
(54)【発明の名称】振動低減装置
(51)【国際特許分類】
F16F 15/023 20060101AFI20180827BHJP
F16F 9/48 20060101ALI20180827BHJP
E04H 9/02 20060101ALI20180827BHJP
【FI】
F16F15/023 A
F16F9/48
E04H9/02 351
【請求項の数】1
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-180176(P2014-180176)
(22)【出願日】2014年9月4日
(65)【公開番号】特開2016-53404(P2016-53404A)
(43)【公開日】2016年4月14日
【審査請求日】2017年5月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(74)【代理人】
【識別番号】100146835
【弁理士】
【氏名又は名称】佐伯 義文
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(72)【発明者】
【氏名】磯田 和彦
【審査官】
杉山 豊博
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−210004(JP,A)
【文献】
特開2004−204458(JP,A)
【文献】
特開2004−052920(JP,A)
【文献】
特開2006−097880(JP,A)
【文献】
実開昭63−086447(JP,U)
【文献】
特開2009−097243(JP,A)
【文献】
特開2012−122228(JP,A)
【文献】
特開2015−203452(JP,A)
【文献】
奥田浩文,山中昌之,免震構造用変位依存型オイルダンパーに関する研究,日本建築学会大会学術講演梗概集,B-2,構造2,振動,原子力プラント,日本,一般社団法人日本建築学会,2004年 7月31日,B-2,構造2,振動,原子力プラント,401-402
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/023
E04H 9/02
F16F 9/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対振動する二部材の間の相対振動を低減させるための振動低減装置であって、
一端を一方の部材に接続して配設されるシリンダーと、前記シリンダーの内部を第1隔室と第2隔室に区画するピストンと、前記ピストンに一端を接続して前記シリンダーの軸線方向外側に延設され、他端を他方の部材に接続して配設されるピストンロッドとを備えるとともに、
オリフィスと圧力制御弁を有し、それぞれ前記第1隔室と前記第2隔室を連通可能に前記シリンダーに接続して配設された第1連絡管及び第2連絡管と、前記第1隔室と前記第2隔室と前記第1連絡管と前記第2連絡管に充填した作動流体とを備えて構成され、
前記第1連絡管の一方の端部と前記シリンダーとを連結する一方の連結孔の位置は、前記ピストンが初期位置にある状態で、該ピストンによって閉塞される位置に設定され、他方の連結孔の位置は、前記シリンダーの一端側端部近傍に設けられ、
前記第2連結管の一方の端部と前記シリンダーとを連結する一方の連結孔の位置は、前記ピストンが初期位置にある状態で、該ピストンによって閉塞される位置に設定され、他方の連結孔の位置は、前記シリンダーの他端側端部近傍に設けられ、
前記ピストンが初期位置に配された状態を基準として、振動低減装置を圧縮する正方向の力が作用し、且つ正方向に前記ピストンが変位する場合に、前記第1連絡管を通じて前記作動流体を前記第1隔室と前記第2隔室の間で流通させ、
前記ピストンが初期位置に配された状態を基準として、振動低減装置を引っ張る負方向の力が作用し、且つ負方向に前記ピストンが変位する場合に、前記第2連絡管を通じて前記作動流体を前記第1隔室と前記第2隔室の間で流通させるように構成されていることを特徴とする振動低減装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば建物に作用した振動エネルギーを吸収して変位を抑える振動低減装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば中高層建物が巨大地震を受けると、建物の最弱層に損傷が生じて耐力が低下し始め、この層に地震エネルギー(振動エネルギー)が集中して層崩壊が生じ、他の層は健全性が確保されているにもかかわらず、層崩壊モードによって建物が崩壊に至るという現象が発生する。また、崩壊に至らない場合においても、最弱層の被害が甚大となり、補修による復旧が困難になる。
【0003】
これに対し、従来から、例えばオフィスビルなどの中・高層建物は、建物本体と基礎の間など、上部構造体と下部構造体の間の免震層に積層ゴムなどの免震装置を介設し、地震時に、上部構造体の固有周期を例えば地震動の卓越周期帯域から長周期側にずらし、応答加速度を小さくして揺れを抑えるように構築されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、建物の柱と梁で囲まれた架構面内などに種々の制振装置(制振ダンパー、エネルギー吸収機構)を設置することにより地震時や強風時の建物の応答を低減させる対策が多用されている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
そして、このような免震装置や制振装置(振動低減装置)としてオイルダンパーが多用されている。オイルダンパーAは、
図7に示すように、例えば、シリンダー1の内部にピストン2を設け、シリンダー1の内部を一方の室(第1隔室)3と他方の室(第2隔室)4に区画し、ピストンロッド5がその一端5aをピストン2に接続しシリンダー1と同軸上に設けられるとともにシリンダー1の軸線O1方向一方の端部(他端1b)から外部に延設されている。また、このようなオイルダンパーAは、シリンダー1の一方の室3と他方の室4にそれぞれ作動油Sが充填され、ピストンロッド5の他端5bと、シリンダー1の他方の端部(一端1a)に設けられたクレビス6などを、適宜建物の架構に直接的に、又はブレース等を介して間接的に接続して設置される。
【0006】
また、オイルダンパーAは、粘性減衰を付与する最も一般的な振動低減装置であり、通常、装置両端の相対速度に比例した反力が生じ、相対速度が過大になった際には、
図8に示すように、装置内部に具備されたリリーフ弁7によって反力を頭打ちにする機能を有している。
【0007】
ここで、オイルダンパーAを建物などの構造体に設置する場合、構造体の剛性とオイルダンパーAとを組合せた状態における荷重−変位の関係は
図9のように示される。この
図9の通り、第1象限及び第3象限では、オイルダンパーAのみの荷重(反力)が構造体のみの荷重(反力)と同じ向きにあり、これらオイルダンパーAと構造体の反力が組み合わされて増大してしまう。なお、この特徴はオイルダンパーAとバネ(取付部剛性)が直列配置された所謂マクスウェルモデルについても同様である。
【0008】
一方、オイルダンパー本体に外付けバルブ、リンク機構を取り付け、外付けバルブ、リンク機構によって、オイルダンパーの荷重−変位関係の第1象限及び第3象限におけるダンパー反力を小さくするようにしたオイルダンパーが実用化されている(例えば、非特許文献1参照)。そして、このように構成したオイルダンパーを、例えば多層構造の構造体の複数層に組み込むと、構造体に生じる応力がほとんど増大しないようにすることが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009−97243号公報
【特許文献2】特開2012−122228号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】木村雄一、青野英志、細澤治:「変位依存型オイルダンパーによる既存超高層建物の制振補強(その3)」、一般社団法人日本建築学会、日本建築学会学術講演梗概集、2009年8月、p.523−524
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記のオイルダンパー本体に外付けバルブ、リンク機構を取り付けてなるオイルダンパーにおいては、非特許文献1に示されている通り、その特性を得るためにダンパー外部に変位検知器や複雑な油圧回路を構築する必要があり、コストが増大し、これが一要因となって広く普及するには至っていない。
【0012】
上記事情に鑑み、本発明は、簡易な構成で、荷重−変位関係の第1象限及び第3象限におけるダンパー反力を小さくすることを可能にした振動低減装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達するために、この発明は以下の手段を提供している。
【0014】
本発明の振動低減装置は、相対振動する二部材の間の相対振動を低減させるための振動低減装置であって、一端を一方の部材に接続して配設されるシリンダーと、前記シリンダーの内部を第1隔室と第2隔室に区画するピストンと、前記ピストンに一端を接続して前記シリンダーの軸線方向外側に延設され、他端を他方の部材に接続して配設されるピストンロッドとを備えるとともに、オリフィスと圧力制御弁を有し、それぞれ前記第1隔室と前記第2隔室を連通可能に前記シリンダーに接続して配設された第1連絡管及び第2連絡管と、前記第1隔室と前記第2隔室と前記第1連絡管と前記第2連絡管に充填した作動流体とを備えて構成され、
前記第1連絡管の一方の端部と前記シリンダーとを連結する一方の連結孔の位置は、前記ピストンが初期位置にある状態で、該ピストンによって閉塞される位置に設定され、他方の連結孔の位置は、前記シリンダーの一端側端部近傍に設けられ、前記第2連結管の一方の端部と前記シリンダーとを連結する一方の連結孔の位置は、前記ピストンが初期位置にある状態で、該ピストンによって閉塞される位置に設定され、他方の連結孔の位置は、前記シリンダーの他端側端部近傍に設けられ、前記ピストンが初期位置に配された状態を基準として、振動低減装置を圧縮する正方向の力が作用し、且つ正方向に前記ピストンが変位する場合に、前記第1連絡管を通じて前記作動流体を前記第1隔室と前記第2隔室の間で流通させ、前記ピストンが初期位置に配された状態を基準として、振動低減装置を引っ張る負方向の力が作用し、且つ負方向に前記ピストンが変位する場合に、前記第2連絡管を通じて前記作動流体を前記第1隔室と前記第2隔室の間で流通させるように構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の振動低減装置においては、従来のオイルダンパーに、オリフィスと圧力制御弁をそれぞれ備えた第1連絡管と第2連絡管を設け、第1連絡管とオリフィスと圧力制御弁からなる第1バイパス回路、第2連絡管とオリフィスと圧力制御弁からなる第2バイパス回路の2つのバイパス回路を付加する。
【0016】
そして、ピストンが例えばシリンダーの中央の初期位置に配された状態を基準とし、振動低減装置を圧縮する正方向の力が作用し、且つ正方向にピストンが変位する場合には、第1連絡管を通じて作動流体を第1隔室と第2隔室の間で流通(第1隔室から第1連絡管を通じて第2隔室に流通)させることができる。また、基準状態から振動低減装置を引っ張る負方向の力が作用し、且つ負方向にピストンが変位する場合には、第2連絡管を通じて作動流体を第1隔室と第2隔室の間で流通(第2隔室から第2連絡管を通じて第1隔室に流通)させることができる。
【0017】
これにより、振動低減装置を圧縮する正方向の力が作用し、且つ正方向にピストンが変位する第1象限と、振動低減装置を引っ張る負方向の力が作用し、且つ負方向にピストンが変位する第3象限における振動低減装置の反力(ダンパー反力)を低減させることができる。すなわち、バイパス回路を付加するだけで、ダンパーの変位の減衰特性を好適に変化させることができ、シンプルな構成で、安価な信頼性が高い振動低減装置を実現することが可能になる。
【0018】
また、バイパス回路に圧力制御弁を付加することにより、変位が同じでも速度の向きに応じた特性を付与でき、確実に振動低減装置の荷重−変位関係における第1象限と第2象限、第3象限と第4象限のそれぞれの減衰特性を変化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施形態に係る振動低減装置を示す図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る振動低減装置の荷重−変位の関係を示す図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る振動低減装置において、第1象限での作動油の流れの状態を示す図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る振動低減装置において、第2象限での作動油の流れの状態を示す図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係る振動低減装置の変更例を示す図である。但し、この図では、第2連絡管とオリフィス、圧力制御弁からなる第2バイパス回路が省略されている。
【
図6】
図5の振動低減装置の荷重−変位の関係を示す図である。
【
図8】
図7の振動低減装置の荷重−変位の関係を示す図である。
【
図9】
図7の振動低減装置のみの場合、構造体のみの場合、振動低減装置と構造体を組合せた場合の各荷重−変位の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、
図1から
図4を参照し、本発明の一実施形態に係る振動低減装置について説明する。
【0021】
本実施形態の振動低減装置Bは、
図1に示すように、一端1aをクレビス6等を介して一方の部材に接続して配設されるシリンダー1と、シリンダー1の内部を第1隔室3と第2隔室4に区画するピストン2と、ピストン2に一端5aを接続してシリンダー1の軸線O1方向外側に延設され、他端5bを他方の部材に接続して配設されるピストンロッド5とを備えて構成されている。
【0022】
さらに、振動低減装置Bは、オリフィス10と圧力制御弁11を有し、それぞれ第1隔室3と第2隔室4を連通可能にシリンダー1に接続して配設された第1連絡管(第1バイパス管)12及び第2連絡管(第2バイパス管)13を備えて構成されている。そして、第1連絡管12とオリフィス10と圧力制御弁11とによって第1バイパス回路14が形成され、第2連絡管13とオリフィス10と圧力制御弁11とによって第2バイパス回路15が形成されている。
【0023】
また、第1隔室3と第2隔室4と第1連絡管12と第2連絡管13に作動油(作動流体)Sが充填されている。そして、第1連絡管12と第2連絡管13にそれぞれオリフィス10と直列配置して設けられた圧力制御弁11は、作動油Sの流れを一方向(
図1における矢印P1、P2)に限定するためのものである。
【0024】
また、本実施形態において、第1バイパス回路14は、第1連絡管12の一端の位置、すなわち第1連絡管12の一端とシリンダー1を連結する一方の連結孔(連結部)の位置が、ピストン2が初期位置(
図1に示す変位ゼロの位置)にある状態で、このピストン2によって閉塞される位置に設定されている。さらに、第1連絡管12の他端の位置、すなわち他方の連結孔(連結部)の位置が、シリンダー1の一端1a側に設けられ、ほぼ常時、第1隔室3に開口して連通するように設定されている。
【0025】
第2バイパス回路15は、第2連絡管13の一端の位置、すなわち第2連絡管13の一端とシリンダー1を連結する一方の連結孔(連結部)の位置が、ピストン2が初期位置にある状態で、このピストン2によって閉塞される位置に設定されている。さらに、第2連絡管13の他端の位置、すなわち他方の連結孔(連結部)の位置が、シリンダー1の他端1b側に設けられ、ほぼ常時、第2隔室4に開口して連通するように設定されている。
【0026】
また、本実施形態の振動低減装置Bは、ピストン2に第1隔室3と第2隔室4を連通させる連通路16を設け、且つこの連通路16にリリーフ弁7を設けて構成されている。このリリーフ弁7は、振動低減装置Bの軸力(ダンパー軸力)を所定の荷重で頭打ちさせるためのものである。さらに、ピストン2を変位ゼロの初期位置に復帰させるため、ピストン2には第1隔室3と第2隔室4を連通させるようにオリフィス17が設けられている。
【0027】
そして、上記構成からなる本実施形態の振動低減装置Bにおいては、地震が発生して二部材が相対変位するとともに、ピストン2が初期位置に配された状態を基準として、振動低減装置Bを圧縮する正方向の力Fが作用し、且つ正方向にピストン2が変位する場合に、
図3に示すように、第1連絡管12を通じて作動油Sが第1隔室3から第2隔室4に流通する。このとき、第2連絡管13には圧力制御弁11によって作動油Sが流通しない。また、基準状態から振動低減装置Bを引っ張る負方向の力Fが作用し、且つ負方向にピストン2が変位する場合には、
図4に示すように、第2連絡管13を通じて作動油Sが第2隔室4から第1隔室3に流通し、第1連絡管12には圧力制御弁11によって作動油Sが流通しない。
【0028】
すなわち、本実施形態の振動低減装置Bにおいては、振動低減装置Bに荷重が作用した際に、ダンパー変位が第1象限にある場合、作動油Sがピストン2のオリフィス17を流通するとともに、第1連絡管12のオリフィス10を通過して第1バイパス回路14を流通する。また、ダンパー変位が第3象限にある場合、作動油Sがピストン2のオリフィス17を流通するとともに、第2連絡管13のオリフィス10を通過して第2バイパス回路15を流通する。
【0029】
これにより、本実施形態の振動低減装置Bにおいては、
図2に示すように、第1象限と第3象限で、反力が大幅に低下し、従来のオイルダンパーと比較して減衰係数が大幅に小さくなる。
【0030】
一方、変位が第2象限もしくは第4象限にある場合には、作動油Sがピストン2のオリフィス17を流通するが、圧力制御弁11が閉じ、第1バイパス回路14、第2バイパス回路15を流通しないため、オリフィス17だけが作用し、従来のオイルダンパーと同じ減衰係数Cをもつ速度比例型の振動低減装置Bとなる。
なお、
図2に示すように、速度が大きい場合には、ピストン2にあるリリーフ弁7が作動し、過大な反力が生じないようになっている。
【0031】
したがって、本実施形態の振動低減装置Bにおいては、従来のオイルダンパーAに、オリフィス10と圧力制御弁11をそれぞれ備えた第1連絡管12と第2連絡管13を設け、第1連絡管12とオリフィス10と圧力制御弁11からなる第1バイパス回路14、第2連絡管13とオリフィス10と圧力制御弁11からなる第2バイパス回路15の2つのバイパス回路を付加する。
【0032】
そして、ピストン2が例えばシリンダー1の中央の初期位置に配された状態を基準とし、振動低減装置Bを圧縮する正方向の力Fが作用し、且つ正方向にピストン2が変位する場合には、第1連絡管12を通じて作動油Sを第1隔室3と第2隔室4の間で流通(第1隔室3から第1連絡管12を通じて第2隔室4に流通)させることができる。
【0033】
また、基準状態から振動低減装置Bを引っ張る負方向の力Fが作用し、且つ負方向にピストン2が変位する場合には、第2連絡管13を通じて作動油Sを第1隔室3と第2隔室4の間で流通(第2隔室4から第2連絡管13を通じて第1隔室3に流通)させることができる。
【0034】
これにより、振動低減装置Bを圧縮する正方向の力Fが作用し、且つ正方向にピストン2が変位する第1象限と、振動低減装置Bを引っ張る負方向の力Fが作用し、且つ負方向にピストン2が変位する第3象限における振動低減装置Bの反力(ダンパー反力)を低減させることができる。すなわち、バイパス回路14、15を付加するだけで、振動低減装置(ダンパー)Bの変位の減衰特性を好適に変化させることができ、シンプルな構成で、安価な信頼性が高い振動低減装置Bを実現することが可能になる。
【0035】
また、バイパス回路14、15に圧力制御弁11を付加することにより、変位が同じでも速度の向きに応じた特性を付与でき、確実に振動低減装置Bの荷重−変位関係における第1象限と第2象限、第3象限と第4象限のそれぞれの減衰特性を変化させることができる。
【0036】
また、本実施形態の振動低減装置Bにおいては、非特許文献1の変位依存型のオイルダンパーのような変位検知器と複雑な油圧回路を構築する必要がなく、圧力制御弁11とオリフィス10を備えたバイパス管12、13をシリンダー1に接続して構成できるため、コンパクトにすることができる。
【0037】
また、静的な剛性をもたないので、地震後にはダンパー軸力や残留変形をゼロにすることができる。
【0038】
さらに、現場施工については、一般的なオイルダンパーAと同様に両端にクレビス6などを設けて構造体に接続するだけでよく、容易に取り付けることが可能である。
【0039】
以上、本発明に係る振動低減装置の一実施形態について説明したが、本発明は上記の一実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0040】
例えば、本実施形態では、第1象限で効く第1バイパス回路14の第1連絡管12、第3象限で効く第2バイパス回路15の第2連絡管13がそれぞれ1つの管材で構成されているものとしたが、
図5に示すように、第1連絡管12(や第2連絡管13)をシリンダー1への連結部の位置が異なる分岐管を付加して構成してもよい。この場合には、
図6に示すように、変位ゼロで減衰特性を変化するだけでなく、別の変位位置でも減衰特性を変化させることができる。すなわち、減衰特性の多段変化性能を付加することができる。
【0041】
ここで、具体的な一例としては、各バイパス回路14(15)が、制御弁11の圧力をほぼゼロとした2つの分岐バイパス回路を備えるようにし、一方の分岐バイパス回路14a(15a)では変位ゼロでピストン2と同じ大きさのオリフィス10が作動し、他方の分岐バイパス回路14b(15b)では例えばストロークの1/2の変位でオリフィス10より穴径が十分大きいオリフィス10が作動するように構成する。そして、このように構成すれば、変位に応じて種々の減衰特性を付与できるので、吸収エネルギーをあまり低下させずに構造体に生じる最大応力(変位最大時の組み合わせ応力)を低減することが可能になる。
【0042】
また、本発明に係る作動流体は、作動油に限定しなくてもよく、あらゆる液体、気体を用いることができる。
【符号の説明】
【0043】
1 シリンダー
1a 一端
1b 他端
2 ピストン
3 第1隔室
4 第2隔室
5 ピストンロッド
5a 一端
5b 他端
6 クレビス
7 リリーフ弁
10 オリフィス
11 圧力制御弁
12 第1連絡管
13 第2連絡管
14 第1バイパス回路
14a 一方の分岐バイパス回路
14b 他方の分岐バイパス回路
15 第2バイパス回路
15a 一方の分岐バイパス回路
15b 他方の分岐バイパス回路
16 連通路
17 オリフィス
A 従来のオイルダンパー(振動低減装置)
B 振動低減装置
O1 軸線